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元禄女大名('60)

中田康子、勝新共演のミュージカル風時代劇

主演は(東宝)とキャストロールに出て来る中田康子さんの方で、中田さんはダンサー出身と言うことで歌も踊りも出来ることからの起用だったのだろうが、今ひとつ華がないような気がする。

失礼ながら、主役を張るほどの美貌とか魅力のようなものが希薄なように見えるのだ。

特にこの作品は時代劇と言うこともあり、得意な踊りを思うように披露できない設定であるのも不利だったように感じる。

この作品には、その中田さん演じる月姫の妹役として中村玉緒さんも出ているのだが、当時20そこそこくらいだったと思われる玉緒さんのキラキラした愛らしさを観てしまうと、勝新ならずとも、玉緒さんの方に目が奪われてしまう。

劇中での玉緒さんの恋人役は、ひ弱な二枚目役がぴったりの川崎敬三さんなのだが、何故か、劇中で玉緒さんが抱き合うのは勝新の方なのは、すでにこの当時、二人の仲は公認のものだったと言うことかも知れない。

玉緒さんが歌うシーンがあるのも見物。

勝新とのデュエットもあるので、吹き替えではなくご本人が歌っているのではないかと想像する。

中田さんも歌っているのだが、歌唱シーンも少なめ。

やはり大映作品と言うことがあり、どうしても、勝新にスポットが当たっている印象が強い。

勝新は楽しそうに、モテ男役を伸び伸び演じており、劇中3役をこなしている上に、按摩に扮するシーンまであるのが興味深い。

北林谷栄のおばあさん役も愉快。

全体としては、ミュージカルというには芝居の部分が多く、勝新がスクリーンに向かって話しかけたり、庭先での歌のシーンに上からマイクが垂れていたりと、楽屋落ちもあちこちにちりばめられており、オペレッタに近い作品と言った方が良いのかも知れない。

まだ、アクション俳優としての勝新と言うより、白塗りの二名目風の時代の作品だけに、観客には女性も多かったのではないかとも思うが、今の感覚からすると、劇中の勝新は、随分女性に失礼なセリフも言っているように見える。

ただ、二枚目が女性をからかう(?)と言うのは、当時としては、特に目くじらを立てるようなことではなかったのかも知れない。

男が女性をぶつ等と言った表現も、ここでは、恋のテクニック(じゃじゃ馬ならし?)として女性側も望んでいるかのように描かれている。

今だったら、絶対問題視されそうな表現にも見える。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、大映、松村正温+西村八郎脚本、安田公義監督作品。

これは徳川三百諸大名の内、ただ一つの女大名のお話です(…とナレーション)

所は奥州結城…

庭先に、参った!と言う声が響く。

今日は、蓮昌院(北林谷栄)の勧めで行われた月姫(中田康子)のお見合いの日だったが、月姫が、夫とすべき相手は文武共に自分より秀でた方でないと承知ないと言うので、毎回、こうして勝負してみるのだが、月姫があんまり強いので、誰も剣で敵うものがいなかった。

その試合振りを観ていた蓮昌院は、次の相手は音に聞く若殿らしいので巧くいきそうだ…と期待するが、二人目のお相手として登場した若殿も、あっさり額に月姫の木刀を当てられてしまい、あっけなく負けてしまう。

がっかりした蓮昌院は、ずっと書き続けている「見合い見込帖」をめくると、その日の見合い相手二名の名前に×印をつけて消す。

そこへ、おばあさま、本日の御見合い、つつがなく終わりました…、今日もお相手が見つからず仕方ありませんね…などと言いながら、たすき掛け姿の月姫が戻って来たので、今日で48人目、仕方ないではすまされねえど…と酷い送り訛で答えたので、おばあさま、その御国言葉は止めて頂けません?と月姫は眉をひそめる。

私も御国言葉は大嫌いなね!などと御国訛で答えた蓮昌院は、まだとっときの相手が残っているから今度こそ大丈夫と言うと、月姫は江戸の人?とちょっと目を輝かすが、隣の佐伯藩の次男坊と蓮昌院が言うと、露骨にがっかりする。

しかし蓮昌院は、結城家と言えば、関ヶ原の戦以来…と話し始める。

(回想)戦場で力尽きかけていた老齢の殿様に駆け寄った一人の侍(勝新太郎)が、そんなことでは天下は取れませんぞと言い、しばし某の背中で休息を…と言い、殿をおんぶすると、盆歌を歌いながら殿様を慰めたのだった。

(回想明け)その功により、2万石の大名に取り立てられ、おじいさんはわしを嫁にもらったんだ…と蓮昌院は語る。

さらに月姫は、そのおじいさんが歌っていたという盆歌も嫌いなので止めて欲しいのですと言い出したので、我が藩の盆歌は建国の歌であり、そなたの名前も、それにちなんでつけたのじゃと蓮昌院は説明する。

そこに家臣が駆けつけ、江戸表より火急の使者が来て、月姫様を御出立させよとの御老中様からのお達しですと言う。

月姫は江戸に行けるのが嬉しいらしく、即刻旅立つ!と答えるが、蓮昌院は呆れて、どう間違えて、こんな男みたいな女が生まれたんだろう?とぼやく。

江戸へ向かうことになった月姫は、輿の上で嬉しそうに歌い始める。

随行する家臣たちも一緒に歌い出す。(書き割りの風景と、人形の馬に乗った家来や奴が踊る姿が重なる)

急げ、急げ、江戸へ~♪江戸は恋の町~♪

結城藩江戸屋敷に到着した月姫が、老いた岡地三太夫(荒木忍)に、御老中が自分を呼び寄せた訳を聞くと、我が藩は、御神君家康公以来、姫ながら特別に家督相続を許されて来たが、このまま姫がお一人のままだと、いかに男勝りとは言え…、御神君の威信にもかかわることになると…と歯に物が挟まったような言い方をするので、月姫はどう言うことか問いただすと、それ!ややも生まれませぬので…と言ったので、背後に控えていた腰元たちが一斉に笑い出す。

恥をかいたと感じた月姫は怒り出し、三太夫!家臣どもへの躾がなってませんぞ!と叱りつける。

三太夫は、その辺は抜かりなくやっておりますろ答えるが、そこにヒョコリやって来て、お姉様!などと気軽に声をかけて来たのが、月姫の妹琴姫(中村玉緒)だったので、三太夫は焦る。

琴姫は、月姫が睨んで来たので、さすがに気安す過ぎたと感じたのか、その場に両手を付き、お姉上様には執着至極に存じます!とバカ丁寧に挨拶し直す。

さらに月姫は、当屋敷に御国訛を使うものはおりませぬか?と三太夫に確認し、盆歌を歌うものは?と聞くと、のど自慢の腰元がおりますし、家臣一同歌えますと三太夫が自慢するので、以後、当屋敷で盆歌を歌うことはなりません!といきなり言い渡すと、登城しますと立上がる。

江戸城では、廊下に並んだ茶坊主たちが、次々に登城してくる大名たちに頭を下げていた。

堀越近江守(島田竜三)は、名前が呼ばれて、自分の後からやって来た結城月姫という人物を始めて観たので、ちらちら気にする。

月姫と対面した老中志賀丹後守(嵐三右衛門)は、月姫殿、わがままもこれまでですぞ。養子縁組は後1ヶ月の期限とする。

それまでに決まらぬときは、我ら幕閣において決めると言うので、月姫はあっけにとられるが、反論しようとすると、上様のお言葉じゃ!違背は許さぬ!と言われては従うしかなかった。

月姫が帰った後、志賀丹後守におじ様、あの姫は?と聞いて来たのは甥に当たる堀越近江守だった。

奥州の大名じゃと答えた丹後守は、今日呼びだした用件を聞かれると、婿養子の件じゃ。御主はよけいなことはせぬようにと釘を刺す。

上屋敷に帰って来た月姫から話を聞いた琴姫は、御老中は上様のことを持ち出し過ぎるわ!と憤慨する。

その時、庭先から、盆歌を歌う男の声が聞こえて来たので、誰です?あれほど申し付けていたのに!と月姫が睨みつけると、名乗り出て来たのは、奴の源平(勝新太郎)と言う、無精髭の男だった。

三太夫が慌てて、この者は10日ほど前より国元から来たものですので…と弁解する。

何故盆歌など歌うのです!と月姫が叱ると、国の殿様の歌と言われ、子供の頃から聞かされて来たので、歌うなって言われても無理ってものでねえかと源平は不満そうに口答えする。

しかし、月姫は、今度歌ったときは、即刻国へ帰します!と言いつけ、そのヒゲも目障りなのですぐ剃るのじゃ!と命じる。

そんな月姫の背後にいた琴姫は、源平に向かって首を横に振ってみせる。

翌朝、寝ていた琴姫は、太鼓の音が騒々しいので目覚めるが、目ぼけ眼で起き上がると、やって来た月姫が、そんなことで家臣への示しがつくと思いますか!と叱りつける。

一体、こんなに早くかた何を始めるつもりかしら?と言いながら、琴姫は又布団の中に戻る。

道場では、腰元たちが朝ご飯前なのに長刀の稽古をさせられていた。

月姫は、これから毎朝50回これをやりなさい!と命じたので、腰元たちは、先が思いやられる…とげんなりする。

その後、琴姫は隣の屋敷との堺の塀の前に来て、源平!あの方、すぐ来るって言ったの?と側で庭掃除をしていた源平に聞いていた。

その時、塀の上から顔を出した篠原主馬(川崎敬三)は、何か用ですか?と聞き、塀の下に開いている大きな穴から琴姫の前にやって来る。

お姉様が会いたいと言っているの。人物試験よ。しっかりしてねと琴姫が教えると、大丈夫だろうか?と気の弱そうな主馬はぼやく。

それでも、あなたとのことは何もかも打ち明けてしまったのと琴姫が言い、性根を据えてしっかりやらねばと、横にいた源平も励ます。

月姫の前にやって来た主馬は、座った位置が近過ぎる、男女七歳にして席を同じゅうせずと言います。離れなさい!といきなり叱られ、部屋の隅の方に自ら座布団を持って引き下がる。

あなたのことは琴姫より承りました。お家柄、ご趣味、ご親戚係累は申し分ありませんと月姫が言うので、喜んだ主馬は、お世辞のつもりで、私も月姫様のような美しい方をお姉様と呼べる日が来るのは思いませんでしたと答えるが、それを聞いた月姫は、恥知らず!とののしり、これから妹との夫となろうとするものが、私の容貌に気を取られるとは!お慎み遊ばせ!と叱りつけ、武芸のおたしなみは?と聞く。

多少は…と主馬が自信なげに答えると、琴姫の夫になる人が心もとのうございます!と月姫が言うので、これから稽古に励みます。1年くらい…2年…3年でいかがでしょうか?と主馬が申し出ると、廊下で源平と共に聞き耳を立てていた琴姫は、まあ3年も!と呆れる。

すると、横にいた源平が、モモクリ三年と言うから…と納得したように笑う。

主馬は、形勢不利なのを挽回しようと、結城家の人になりきるよう、建国の盆歌も習いましたと言うと、その場で歌い出すが、次の瞬間、主馬の身体は、庭先まで投げ飛ばされて来る。

その後、城でおじの志賀丹後守に会った堀越近江守が、礼の月姫の申し込みは?と聞くと、後半月しかないがまだじゃと言うので、拙者にいささか策がありますと近江守は伝える。

琴姫は、漫画で描いた月姫の顔に、ヒゲを書き加え、ストレス発散をしていた。

そこに慌ててやって来た三太夫が、月姫様の婿候補として手合わせを願い出て来た方がおられます!老中志賀丹後守の甥で堀越近江守様です!と言うので、これは何かあるわ!爺にお煎餅よと琴姫が言うので、三太夫ははて?と考え込むが、歯が立たない!と琴姫はからかう。

屈強の3人が付き添ってもはや道場へ参りました!と教えた三太夫は、すぐに篠原の所へ知らせに行きなさい!と言うこと姫に、それこそ火のない提灯です。お役に立ちませぬと逆襲をする。

琴姫と三太夫、そして隣から呼んで来た主馬が道場へ様子を観に行くと、近江守が月姫に、もし当方が勝てば、養子となさるのですな?と念を押していた。

御念には及びませぬと応じた月姫だったが、始めにこの3人と戦うのですか?聞くと、程よくおあしらい下さいと近江守は答える。

それを観ていた主馬が大丈夫でしょうか?と案ずると、横にいた琴姫は、大丈夫じゃない方が良いのよ!お姉様が勝ったら、いつまで経っても私たち結婚できないじゃないの!あなた、私と結婚したくないの?お姉様が負けるように祈りなさい!でもあの調子だと、私たち、当分一緒になれそうにもないわとぼやく。

最初の2人徳田(水原浩一)土川(光岡龍三郎)は難なく倒した月姫だったが、3人目の助っ人高梨玄蕃(千葉敏郎)は手強く、あろう事か月姫が負けてしまう。

その結果を観た近江守は、私がお相手するまでもありませんでしたね?とまるで自分が勝ったかのような得意顔で言うので、異存がある!と言う声が飛ぶ。

殿様の名代が勝っただけじゃないですか。名代なら名代同士がやらなくちゃ!と言いながら近づいて来たのは、頬かぶりをした源平だった。

源平は自ら道場の真ん中に進み出て玄蕃と戦い始める。

最初は、誰だか気づかなかった月姫は戸惑うが、源平が頬かぶりを脱ぎ、じゃあ、本気で一丁やるか!と正体を現すと、源平さん!しっかり!と琴姫も思わず応援する。

あっさり玄蕃を打ち負かした源平は、いきなりかかって来た近江守も跳ね返し、腕も腕なら性根も性根だ!とバカにする。

すっかり面目を失った近江守は、姫!いずれ改め!と言い残し立ち去って行く。

世の中には、お姫様より強い奴などいくらでもいる。生兵法は怪我の元ってね。女子は女子らしくなどと偉そうに源平は言うが、月姫の様子を観ていた琴姫は、お姉様、生まれて始めてがっかりしているわ!と驚く。

その夜、マンガで描いた月姫の似顔絵を手にした主馬と二人きりになった琴姫は、あんた、私と結婚したくないの!と何事かを命じていた。

庭先では、月姫が物悲しい恋の歌を歌っていた。

やがて、月姫は、男の声で自分の歌に割り込んで来たものがいることに気づく。

それは主馬だった。

実は、主馬は歌うポーズを取っていただけで、実際に歌っていたのは、背後に控えていた源平と琴姫だった。

源平は短冊に書いたカンペを琴姫に見せ、琴姫がマイクの前で歌い始める。

それに源平も加わる。

全ては月姫に恋のムードを教える演出だったが、いつしか、琴姫と源平は歌いながら互いに抱き合い、恋の歌に酔いしれた琴姫は、このまま死んでも良いなどと、源平の胸の中でうっとりし始める。

源平はあくびをすると、側にあった大きなヘチマをちぎり取り、私だと思って抱いて下さいと琴姫に手渡す。

そこに巧くいったよと言いながら戻って来た主馬は、琴姫が源平に抱きついていたので、思わず引き離す。

それでも琴姫はうっとりしたままで、私、このまま死んでも良いわ!などと夢見心地だったので、源平は、出演料もたうべと催促する。

翌日、菩提寺に参った月姫に随行した源平は、帰宅しようと駕篭に近づいて来た月姫に、駕篭の横に控えながらもウィンクをして来る。

帰宅した月姫は源平を呼び寄せ、そなたは菩提寺門前にてわらわに何をした!と尋ねる。

はて?何か致しましたでしょうか?と源平が恍けるので、このようなことをしたであろう!と月姫がウィンクをしてみせると、私が月姫様に?と源平は驚いたように聞き返す。

ことと次第によっては許さぬ!と月姫が睨みつけて来たので、あれは姫様にしたのではなく、後にいた腰元の弥生殿に…と源平が言うと、何と言う淫らな!と月姫は怒り出す。

そなたはいつも女子にああ言うことをするのか?弥生に限った訳ではあるまい!と月姫が追求すると、ほんの4〜5人と源平は答える。

何と言う恥知らず!そなたはあまたの女をたぶらかし!などと月姫が説教しようとしたので、男と女の色恋が汚らわしいというような、その心根が汚らわしい!恋ほど楽しいものはございませんと逆に源平が反論したので、では、そなたの恋とやらを言うてみよと月姫は聞く。

源平は、秘中の秘!と答えるが、手打ちに致すぞ!と月姫が脅すので、では、最初はお八重ちゃん…と、源平は恋の話を始める。

(月夜の川縁、柳の木の下で、お八重と出会って歌うシーン)

と言ったような案配で…と源平が答えると、汚らわしい!と言った月姫だったが、次じゃ!と催促する。

次は紅葉だな…と思い出した源平は、もっぱら恋文でした…と話しだす。

(回想)長い恋文を読んでいた紅葉(加茂良子)は、源平さん!私も!と言いながら、手紙を胸にかき抱く。

(回想開け)ま、ざっとこんな所で…と源平が話し終えると、次!と月姫が急かす。

アヤメ殿だ…と思い出した源平は、春の夜…、月はおぼろに夢見るようにかかり…と呟きながら、回想する。

(回想)桜の木の下であやめ(藤原礼子)と歌い踊っていた源平だったが、何故か途中から、月姫がアヤメに取って代わり、源平と二人で踊り出す。

(回想明け)いつの間にか、現実の月姫と源平も回想の中のように踊っていた。

ふと我に返った源平は、どうも、話がこんがらがっちゃったな…と気を取り直し、メソメソするな!と怒鳴りつける。

(回想)女と風が吹く中踊っていた源平は、好きか嫌いかはっきりしろい!と言いながら、女の帯を解いて行く。

女は源平の荒々しさに負け、好き好き好き!と答える。

源平がそんな女の頬を叩くと、女は、もう1度叩いて!とねだる。

(回想明け)無礼者!と頬を押さえた月姫が叫んだので、あ、いけね!と現実でもビンタしてしまった事に付いた源平はその場を逃げ出すが、部屋の中に入った月姫の方は、叩かれた頬を擦りながら、満更でもないような微笑みを浮かべていた。

その後、老中志賀丹後守に再び呼びだされた月姫は、かねて申し付けていた日限まで後5日、未だ何の知らせもない。こんままではらちがあかないので、当方で協議した結果、堀越近江守を養子と決めたと言って来たので、月姫はとっさに、私には心に決めた養子がございます!それは、佐伯家の次男坊ですと切り返す。

上屋敷に戻って来た月姫は、いつものおばあさまの口癖がよぎって、つい口に出してしまった…と琴姫に打ち明けた月姫は、そなたは主馬殿と暮らすが良い。いつぞやの晩、誓った言葉を忘れぬよう…と言い渡す。

本当にお姉様、結婚するんですか!と琴姫が確認すると、さぞかしおばあさまが喜ぶでしょう…と気のない返事をした月姫は、明日、わらわは1人で国元へ帰る!と言い出したので、琴姫は驚く。

供はいらぬ!大名の娘として生まれたわらわの最後の思い出にしたいのじゃ…と月姫は1人旅を主張するのだった。

翌日、1人で町娘の姿に身をやつし、旅立った月姫だったが、途中で道に迷い、道の橋で笠を日よけ代わりに休息していた旅人に道を聞こうとする。

杖で、そのものの笠を突ついてみると、右は小金井、左は新田、行き先は結城でございましょう?と言いながら立上がった男は源平だったが、自分は相模屋喜平の身寄りで知らずの源平と名乗る。

どこへ行くのじゃ?と月姫が聞くと、旅は気まぐれ、宛のない道中でございます!などと源平は恍ける。

悪ふざけもいい加減におし!と月姫が怒り出すと、どこの小娘か知らねえが、ここは天下の大道だ、どこへ行こうとこっちの勝手だ!と源平は怒鳴り帰して来る。

その頃、江戸城中では、堀越近江守を呼び寄せた志賀丹後守が、その方がいらぬ小細工をしたばかりにとんだ恥をかいた!と、まんまと月姫に逃げられてしまったことを伝えていた。

それを聞いた近江守は、二度まで受けた屈辱、必ず晴らしてみせます!と答える。

その頃、関所を通り抜けようとした月姫が役人に止められ、道中手形は?と聞かれていた。

そのようなもの、持ったことがないと月姫が答えるので、役人は怒って捕まえようとする。

そこにやって来た源平が、良く捕まえて下さいました。私は両国の相模屋喜平の身寄りで源平と申します。これは女房のおかめで、共に奥州までじゃじゃ馬を買いに行く途中と説明し、自分の手形を見せる。

二人を通すことにした役人頭(木村玄)は、相当なじゃじゃ馬だな〜…と言いながら月姫を見送る。

関所を無事通り過ぎた月姫は、何故付いて来た!と源平を叱るが、琴姫様から預かって来ましたと源平から差し出された手紙には、お姉様が心配のあまり、源平を差し向けました。お姉様は源平がお気に入りなんでしょう?と書いてあったので、頭に来る。

それでも、あっしはこれで帰っても宜しいでしょうか?くれぐれもお気をつけてと言いながら、源平が帰ろうとしたので、源平!もう二度と御国訛を出さないと誓いますか?と問いかける。

御国訛を出さぬと誓うなら同行許して遣わすと言うので、それを聞いた源平は、その代わり1つお願いがあります。手前のことを呼び捨てにしねえで下さい。町人の娘が源平!源平!と言っていたら、徹人が怪しみますと申し出る。

月姫は、ではもう一つ、道中で一切、勇気盆歌を歌ってはいけませんと言うので、じゃあ、姫様も歌わないことと付け加えた源平だったが、分の悪い取引だな〜とぼやく。

その上、道中の女たちに妙な目つきをすることなりませぬ!と月姫は条件を追加して来る。

ならばと、源平の方も、道中で武芸を奮わぬこと!以上3つの約束を破ったら、姫様も同じですよと偉そうに源平が指示したので、源平!と思わず叱りかけた月姫は、慌てて、さん!と付け加え、さっさと歩き出す。

しばしその場に残っていた源平は、スクリーンに向かって、ま、大目に観てやりましょうかと囁きかける。

空は青いよ〜♪と歌いながら旅を始めた源平の歌声に、通りかかった籠屋も、浮かれて廻り出す。

その夜は「上総屋」と言う旅籠に、夫婦を装い同じ部屋に泊まることにした月姫と源平だったが、食事を運んで来た女中お竹(滝のぼる)は、月姫が目の前に出されたお膳に全く手を付けようとしていないのを観て、あの人、おなかでも壊したの?と源平に聞く。

源平はすぐに立上がり、月姫の前に来ると、茶碗のごはんを手渡し、箸を持たせ、おかずを一品、ごはんの上に乗せ、良いですか?と言いながら、自分のお膳の前に戻って来る。

あの人いつもああなの?とお竹が不思議がるので、源平は何事かをお竹の耳元で囁きかける。

あの娘さんが?お可哀想にね〜…と言いながら、お竹は下がって行く。

月姫は、食前に出されていた海苔を掴み、不思議そうに食べていた。

源平が風呂に行っている間、布団を敷いていたお竹は、ひょうたんを不思議そうに触っていた月姫から、さっき連れはあなたに何を言っていたの?と聞かれたので、あんたが小さい時に熱で頭をやられたと言ってたと教えられると怒り出す。

風呂に入っていた源平は、ついつい上機嫌になり禁じられていた盆歌を歌っていたが、源平さん!と女の声が聞こえたので、さっきの女中さんかい?一緒に入りない!と源平が呼びかけると、良い歌ねというので、結城の盆歌って言うのさと答えると、お止め!約束一つ破ったわね!と入口で怒鳴って来たのは月姫だった。

後の約束2つ、他の女に色目を使わぬこと!御国言葉を使わぬこと!良いですね!と言い残し部屋に戻った月姫だったが、旅の開放感からなのか、つい1人でいることへの安心感から、盆歌を歌い始める。

気がつくと、障子が飽き、源平が立っており、こんなことだろうと思った。これで1対1!と源平は言う。

その頃、高梨玄蕃らが月姫を探し出そうと、宿場の旅籠を一軒ずつ改めていた。

是が非でも姫を連れ戻さねば、殿に申し訳が立たぬ!と高梨玄蕃は仲間たちに命じていた。

翌日、旅を続けていた月姫と源平の前に、下に〜下に〜と大名行列が近づいて来る。

通行人はみんな道の端に寄り、土下座を始めるが、月姫は町人娘の姿のまま立っているので、慌てて源平が土下座をさそうとする。

しかし、自分は大名であると思い込んでいる月姫は、卑屈になることを拒否し、近づいてくるのが佐伯藩の雪姫と聞くと、なおさら駕篭に近づこうとする。

そんな月姫に気づいたのか、駕篭が停まり、乗っていた雪姫(三田登喜子)が何ごとじゃ?と顔をのぞかせる。

従者が、キ○ガイとのことでございますと申し述べたので、お発ち〜!と出発することになるが、源平から押さえつけられ、放せ〜!と喚いていた月姫は、佐伯から養子をもらえば、雪姫は妾の妹ではないか!と叱りつけるが、バカでもスカタンでも、姫の姿していれば頭下げるの!と、源平の方も言い聞かす。

もう町人の姿はやめじゃ!と癇癪を起こした月姫は、今夜は本陣に泊まるのじゃ!と言い出し、さっさと歩き出す。

その場に残った源平は、女って始末に負えませんな。嫌になっちゃうとぼやく。

月姫が向かった本陣は、雪姫一行が泊まっており、結城月姫じゃと言いながら、町娘姿のまま入ろうとしたので、門番役の中間たちに止められる。

そこに、雪姫が出て来たので、雪姫殿か?わらわも共に本陣に泊まりますと月姫は気安く声をかけるが、そちは先ほどのキ○ガイ!絵安心ものととは言え、許しませぬぞ!と睨みつける。

いつの間にか月姫の背後の入口の柱に寄りかかっていた源平は、雪姫の方にウィンクしてみせ、妄想狂って奴でして!と詫びを言うので、不憫な者じゃ。連れて帰れ!と雪姫は源平に命じる。

外に出た月姫は、そなた雪姫に何をした?約束を1つ破ったのじゃ!大名の娘に!無礼者!と、ウィンクのことを言う。

あの姫様があっしに気があったんじゃないですか?と源平は恍けると、私が辱めを受けているのが楽しいのか!と月姫は叱る。

偉そうに反っくり返って一丁前みたいに見せても、所詮は結城家の息女と言う狭い枠の中だけって分かったでしょう?と源平は言い聞かす。

ずけずけと言って来る源平に、月姫は、もうお前とは旅をしとうない!と怒り出す。

その頃、玄蕃たちは、街道筋を当たった結果、今夜はこの宿場町に泊まっているに違いないと当たりをつけていた。

向いの旅籠の前に来た玄蕃たちの姿を、宿の窓から見つけた源平は、いけねえ!と叫ぶ。

筑波屋にやって来た玄蕃の仲間たちは、宿の主人に、女が一人泊まっていないか聞いていた。

そんな所へ、1人の按摩がやって来たので、女中は誰か呼んだのかしら?と首を傾げるが、その按摩こそ、源平が変装した姿だった。

玄蕃の仲間徳田と土川は宿に上がり込み、女が1人でと待っていると言う部屋を一つずつ覗いて確認していた。

最初に覗き込んだ部屋には、既に布団に寝ていた女の浴衣が乱れ、生々しい素足が見えていたので、2人はすっかりのぼせ上がってしまう。

最後に、離れの部屋に近づこうとした徳田と土川だったが、廊下がうぐいす張りのようになっており、歩くと大きな音がした。

2人は障子に写った男女の影を観て凝視する。

影の正体は、箒に座布団を巻いて作った女のようなものを抱いた源平だった。

源平は女代わりの座布団を抱きながら、恋の言葉を囁く。

そして目の前にいた月姫に合図をすると、月姫は、源平が書いたセリフを書いた内輪を読み、会話をしている風に装うが、あまりにセリフの読み方が棒で、源平をハラハラさせる。

徳田と土川は、座布団を2枚、交互に前にしき直しながら、音がする廊下を離れの方に近づいていた。

分からねえのか!と源平がビンタする音を自分の手で出していたが、もう1度、もう1度叩いて!お前は本当に私を思ってくれるのかい?と、カンペ用の団扇に書いてないことを月姫が言い出したので、源平は不思議そうに団扇を確認し直す。

その時、障子に二本指が突き出し、徳田と土川が中を覗き込もうとするが、俺はおめえを誰にも渡しはしねえ。幸せにしてみせるぜ!と源平が何とかセリフを伸ばしていると、ちょうど、蚊取り線香を持った女中が近づいて来たので、それに気づいた徳田と土川は、気まずそうに、座布団を持って部屋から離れて行く。

女中も部屋の前まで来た時、中から、もっともっと強く抱いて!私を抱いておくれ!と月姫の色っぽい声が聞こえて来たので、入るのを遠慮し帰って行く。

それに気づいた源平は、もう良いですよ、もう誰もいやしませんと月姫に芝居を止めるように声をかける。

旅籠の入口で待っていた玄蕃に、戻って来た徳田と土川は、ここにはおりませぬと報告していたが、同じように戻って来た女中が番頭に、離れのお客さん、お1人じゃなったですか?と聞いているのを玄蕃は聞き逃さなかった。

部屋では、奴らが引き返して来るかもしれませんと源平がその部屋に留まる許可を得ようとしていたが、お前が出て行かないなら、私が出て行きます!と月姫は頑固に言い、自ら部屋を出て行こうとする。

その時、庭先を観た源平は、玄蕃の仲間たちが戻って来たことに気づき、畜生!勘づきやがった!と言うと、自ら庭に飛び出して行くが、それは自分を部屋からおびき出すための罠だったことに気づくと、計りやがったな!と悔しがる。

玄蕃たちが月姫に襲いかかっていたからだった。

月姫は果敢に玄蕃たちに立ち向かっていた。

そんな月姫に、物干し台に登った源平が、武芸は使わないって約束でしょう?とからかうように声をかける。

身に降り掛かった火の粉を払っているだけじゃと月姫が答えたので、上から刀を落としてやる。

それを受け取った月姫は、余計な手出しは許しませぬぞ!と源平に言い渡すと、峰打ちで戦い始める。

上から見ていた源平は、それ右!左!後!と敵の位置を教え、玄蕃の方も刀を抜いたのを観ると、いよいよ面白くなって来た!と喜ぶ。

月姫は玄蕃の刀を落とすが、その玄蕃が拳銃を取り出したので、上から玄蕃に飛びかかった源平が銃を払い落とし、お前さんも悪い主人を持ったものだ。もう勝負はついたよと言い放つ。

玄蕃たちが去った後、何故助けた?と月姫が聞いて来たので、だって、相手は飛び道具じゃ…と源平は弁解しようとするが、共に約束を破り、2対2と言うことになってしまう。

後は、源平が御国訛を出すか、姫が源平を呼び捨てにするか、どっちが先に約束を破るかの勝負だった。

翌日、旅を始めた月姫たちの前に、姫様〜と呼びかけ近づいて来た一行があった。

結城藩から迎えに来た蓮昌院と腰元たちだった。

どうして私が来ると分かったのじゃ?と月姫が不思議がると、江戸から飛脚が来て、姫様が佐伯の次男坊を養子に決めたと知らせに来たのじゃと蓮昌院は教える。

良う無事で…と月姫の姿を観ていた蓮昌院だったが、その横に付き添っていた源平の姿を観ると、や!と驚く。

源平の姿に、若き日のおじいさんの姿が重なったからだった。

お懐かしや!と近づいて来た蓮昌院に、源平は慌てて、人違いです。あっしはまだ嫁御を持ったことがない!と言うと、蓮昌院は、他人のそら似とは言え、おじいさまに生き写し!と感心する。

そんなにオラに似てたか?と、つい、蓮昌院の御国言葉に釣られて、つい自分も御国言葉でしゃべってしまった源平は、月姫から呼ばれ、しまった!と慌てる。

最後の約束を破りましたね!と月姫が指摘すると、今姫様だって、呼び捨てにしたではないですか!と源平は言い返すが、先に言ったのはそなたの方じゃと言われると、負けを認めるしかなかった。

今日から暇を取らす。行きなさい!と月姫は命じ、源平も、そら、あっしのようなものが側に付いてない方が良いでしょう。ご夫婦仲良く!と挨拶して、すごすごと立ち去って行く。

その様子を見た蓮昌院じゃ、姫、一体どうしたって言うんです?と聞くが、何でもありませんと答えた月姫の顔は寂しそうだった。

事情を知らない蓮昌院は、遠ざかって行く源平に向かって、又、訪ねて来ぉ〜!と呼びかける。

駕篭に乗って城に戻る月姫は、いつしか泣きながら盆歌を歌っていた。

それから10日…

結城藩に、馬に乗った使者がやって来て、佐伯源三郎様と雪姫様、ご到着!と告げる。

門前に出て来て出迎える月姫や蓮昌院たち。

最初に到着した駕篭から降りて来た雪姫が、笑顔で会釈して来るが、月姫は以前に受けた仕打ちを思い出したのか無視する。

雪姫は、後の駕篭に近づくと、兄上、月姫様がお出迎えですと声をかける。

中から、まんず、まんずと言う声が聞こえて来るが、出て来た備前守を観た蓮昌院は、ありゃあ!おめえ様は!と驚く。

月姫もあっけにとられ、あっ!源…と言いかけるが、さよう、佐伯源三郎でござると会い去るして来たのは、すっかり見違えた源平だった。

思わず、城の中に逃げ込む月姫。

蓮昌院は、皆のもの!姫を!と声をかけ、腰元たちが一斉に月姫を追って走る。

月姫は、庭の大木の影に隠れていた。

すると、いつぞや、江戸の上屋敷で自分が歌っていた恋の歌が聞こえて来る。

僕の心に赤い灯が灯る〜♪

それは、源平こと佐伯源三郎が歌いながら近づいてくる声だった。

思わず、私の心も赤く燃え上がる〜♪と歌い出す月姫。

やがて、近くの木陰の中から近づく二人を見つけた腰元たちも歌い出していた。

月姫と源三郎は、キスをした後、肩を組んで庭を歩いて行く。


 

 

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