東京で同居ぐらしをしている吉永小百合さん、十朱幸代さん、笹森礼子さんの3人娘の青春と恋愛を描く石坂洋次郎原作もの。 一応、小百合さんのエピソードが一番長めで、次いで、笹森さんのエピソード、十朱さんのエピソードが一番短い。 ただし、個人的に一番印象深いのは、笹森さんのエピソード。 不幸な境遇から、急に売れっ子作家になった中年男とその女房との、奇妙な三角関係に悩む編集者の話で、リアルと言う感じでもないのだが、一番興味深い展開になっている。 売れっ子作家の悩みと言う部分で、石坂洋次郎自身の心理も少しは反映しているのかも知れないなどと想像する。 小百合さんと石坂洋次郎と言えば、「花と娘と白い道」(1961)「あいつと私」(1961)「若い人」(1962)「光る海」(1963)など毎年のように作られており、初期の作品では、まだ恋に恋する乙女と言った年代だったが、この作品では、大学生と言う設定と言うこともあり、相手役の高橋英樹さんと男女間の恋愛観などをまじめに語り合う結婚前の女性になっている。 2人が語り合う恋愛観は、酷くまじめで堅苦しい部分もあるのだが、それを和らげているのが、バイト先で知り合うことになるセクハラ親爺役の伊藤雄之助さんと、その賢夫人を演じている轟夕起子コンビのユーモラスな掛け合いだろう。(雄之助さんと轟さんの2人は「特別出演」とキャストロールで出る) 今観ると、こんな露骨なセクハラなど許されるはずもないのだが、当時は確かに、こういう無神経なことを言う親父と言うのはどこにでもいたものだ。 彼らの青春時代であった戦前と、戦後の男女の関係があまりに隔たっていることから来る悲劇でもあることを、俗物を巧みに演じている伊藤雄之助さんのセリフからうかがい知ることができる。 この時代の小百合さんは、劇中で、高橋英樹さんや伊藤雄之助さんが、飛び抜けた美人ではないけれど…などと冗談で言っているように、一番売れっ子時代だっただけに、観客としても馴染みがあり過ぎて、やや美人としてのインパクトを感じ難い時代なのではないかと思う。 かえって、3人娘の中では、唯一、社会人の役と言うこともあり、落ち着いた大人の女性としての魅力が出ている笹森さんなどの方がきれいに見えたりする。 石坂洋次郎ものとしては、ユーモアが少なく、やや全体的に生真面目な雰囲気が強い印象があるが、それなりに楽しめる作品にはなっている。 この当時の高橋英樹さんはバリバリのイケメンなのだが、小百合さんと並んで写ると、やはりかなり顔が大きく見える。 なお、いつものことだが、キネ旬データでのキャスト欄には、笹森さんが演じている役名は「河原たか子」とあるが、劇中では、どう聞いても「江原」と言っているようなので、あらすじでは「江原」に統一した。 |
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1963年、日活、石坂洋次郎原作、池田一朗脚色、西河克己脚色+監督作品。 私たちは北国生まれ。 学年は違うけど、同じ高校に通い、東京に出たいと話し合っていました。 そして、その夢が叶い、3人は東京で暮らすようになりました。 現在、桑田きみえ(十朱幸代)は洋裁学校に通い、江原たか子(笹森礼子)は雑誌の編集者、川路あや子(吉永小百合)は城東大学の学生 きみえの親戚のお寺の離れで同居しており、家賃は月5000円、日常の役割分担は当番制です(…と、あや子の声でナレーション) 早朝、近くの橋を通る豆腐屋のラッパに気づいたたか子は、川の字で3人寝ていた布団から飛び起きると、窓を開け、油揚げ1枚頂戴!と声をかける。 その油揚げでみそ汁の準備をしているたか子の音で目覚めたきみえは、もう8時よと言われ、渋々起きながら、今日のおかずは何?と聞く。 生卵とみそ汁よと聞くと、毎日生卵じゃ…、卵焼きにするとか、目玉焼きにするとか…ときみえは文句を言うが、生卵は精が付くわよ。あんたらのために一々そんな頃やってられないわよとたか子は言い返す。 きみえは、まだ寝ていたあや子に、9時になるわよ!と声をかけ、それでも起きないので、布団を引っ張って起こそうとするが、その弾みで押し入れの襖が外れ、中の寝具があや子の上に傾れ落ちて来る。 卵掛けごはんを慌ただしく食べながら、たか子は、急いで!今日は高畠先生に会いに行くつもりなのと2人を急かすので、おじさんのように新聞を開いて読み始めたあや子は、推理小説の先生、好きなの?とからかい、推理作家の妻服毒自殺!三角関係のもつれか?などと新聞記事に気づいたような素振りを見せたので、さすがにたか子は、本当!?と驚くが、噓よ!やっぱり好きなんだ!とあや子はからかう。 城東大学にやって来たあや子は、級友の村田栄吉(高橋英樹)から、お早う!と声をかけられる。 あや子は、コートも着ないで震えながらやって来た村田に、どうしたのよ?コート!と聞くが、村田は答えない。 アルバイトが貼られた掲示板の所へ2人で行ってみると、都議会議員の応援演説要員を募集しており、日当が700円以上、女子学生歓迎と書かれていたので、あや子はやってみようかな?と呟く。 すると、僕も応募しよう!と言い出した村田は、君お金持っている?実は朝飯まだなんだ。トースト2枚と牛乳代!必ず返すから!と頼むので、そのくらいだったら良いわよとあや子が承知すると、ハムエッグも!等と言い出し、結局、1限目の英語の授業はさぼることになる。 食堂で、コーヒーを飲みながら、村田と付き合うことにしたあや子は、選挙応援、自信ないな…と言い出し、村田クンは学生運動やっているから得意なんでしょうけど…と打ち明ける。 すると、大丈夫!君はとびっきりの美人じゃないけど、それなりにミリキあるよなどと村田がお世辞を言って来たので、村田クン、歯がきれいねとあや子もお返しにお世辞を返す。 すると、村田は、女性に第一印象を良くするためには、褒めるより、少し悪く言う方が良いとアメリカの研究で行っているので、それを試してみたんだなどとぬけぬけと言い出したので、朝食代を出させるために利用されたと気づいたあや子は怒り出し、お金返して!と言いながら席を立上がって変える。 違うよ!この朝飯は?と戸惑いながら、慌てて後を追おうとした村田だったが、立ちふさがった店のマスター(榎木兵衛)から睨まれ、85円!と請求されたので、一瞬腕時計に目をやりながらも、いま何時ですか?とコックに聞き、その場をごまかす。 放課後、あや子と、アルバイトの依頼主である佐山先生(佐野浅夫)に申し込みに行った村田は、佐山先生の友人でベテランの樺山松雄と言う男が有能な弁士を探しているんだ。実績次第では日当1000円以上出すとも言っていると聞き、ますます乗り気になる。 それでも、今日の足代は向うで持ってくれるんですか?と村田が確認すると、僕が出すよと言いながら、佐山先生が、あや子と村田に100円玉一個ずつ取り出す。 一方、ホテルのロビーで、担当の推理作家高畠南風(下元勉)と出会ったたか子は、いきなり昼食を誘われる。 原稿は来週、熱海の方へ取りに来てくれないか?今日中にホテルを移るんだなどと高畠が言い出した時、いきなり高畠の妻の千代子(菅井きん)がやって来て、たか子にも笑顔で、江原さん、お久しぶり!声をかけて来る。 足袋と股引持って来た!などと、ホテル内のレストランで千代子が言うので、そんなもの、フロントに預けておけば良いんだ!と高畠はたか子の手前、叱りつけるが、あなたと会った後は、主人は機嫌が良いんですよなどと気まずい雰囲気の中で身を潜めていたたか子に明るく言葉をかけた千代子は、自分が邪魔だと分かっているのか、そのまま帰って行く。 そんな千代子に、健一に何でも欲しいもの勝手やるんじゃないぞ!と高畠は言葉をかけ、千代子ははいはいと笑顔で答える。 樺山松雄(伊藤雄之助)の選挙事務所にあや子と一緒にやって来た村田は、先生から日当1500円と聞いてきましたと噓を言う。 選挙運動員から、君は学生運動の闘士だそうだが、イデオロギー的に問題はないのかね?と聞かれると、アルバイトだと割り切っていますので問題ありません!と村田は答える。 そんな中、あや子の顔を見ていた樺山は、お面がその程度なら言いだろう。ところで、君たちは出来ているのかね?などといきなり無礼なことを聞いて来たので、あや子は驚き、怒って帰ろうとするが、そこに出て来た樺山の妻のふみ子(轟夕起子)が、あなた!お謝んなさい!相手は学生さんで、料理屋の女給さんじゃないんですから!と言いながら、亭主の腕をつねり上げる。 痛みに耐えかねた樺山は、わしらの若い頃は、男女が近づくと言うことは肉体関係がある以外にはなかったので…と言い訳をする。 帰りの電車の中、あや子は、嫌だな〜…、あんな人が都民の代表だなんて…と不快感を示し、私の家に行かない?ささやかなバイトが決まったお祝いしましょう?夕食の材料代は出してね。あなた、奥さんからさっき、電車賃もらったでしょう?二重取りはダメよ!出しなさい!と、とぼけようとした村田に命じる。 アパートで、「アルス アモレット」編み機でセーターを編んでいたきみえに、帰宅して来たあや子は、友達連れて来たと声をかける。 きみえが、庭先から材料を抱えやって来た村田を出迎えると、あや子は鍋を村田に手渡し、豆腐2丁、この鍋に入れもらって来てと命じ、ビール、1本だけなら買っても良いわと奥さん気取りで言う。 その後、3人はすき焼きを作って多いに食べる。 食後、あや子は村田に、村田クンって童貞なの?といきなり聞いて来る。 前から聞いてみたかったんだけど、2人きりの時にこんなこと聞いたら、悪い空気になるでしょう?とあや子は言い、村田は、そうだよと即答する。 きみえは、たか子の帰りが遅いことを気にしていた。 令子は、キャバレーで、高畠と踊っていた。 踊り終え、テーブルに戻ると、バンドのバイオリニストが独奏を始める。 それは、高畠が好きな曲で、昔、レコードが買いたくても買えなかった曲なんだとたか子に教える。 バイオリニストが演奏しながら高畠のテーブルにやって来たので、高畠はチップを相手のポケットにねじ込んでやる。 それを見ていたたか子は、今のは1万円札じゃありませんか?チップにしては多過ぎるのでは?と聞くと、僕はつらくみじめだった過去を取り戻したいんだ。君も好きなものを買って、僕の金を使ってくれないか?君が使ってくれれば、僕は働きがいがあるなどと熱く言い出したので、もう10時を過ぎましたとたか子が帰ろうとすると、もう一曲だけ…と、高畠はなおも踊りを誘う。 翌朝、あや子は、外から呼びかけて来る村田の声で目覚め、窓から外を見下ろすと、友人から借りたと言うスズキスポーツと言うバイクに乗った村田が来ていた。 電車賃がもったいないだろ!と村田は大声で呼びかけて来るが、うるさいわね、まだ他の二人は寝ているのよ!とあや子は恥ずかしそうに注意するが、たか子ときみえは起き出して来て、窓から顔を出し挨拶して来る。 村田は、眠っている所すみませんと詫び、きみえは、毎日だと嫌だわねと答え、たか子は、明日からあんたが電車通りまで行って、バイク待ちなさい!とあや子に命じる。 その後、あや子は村田のバイクの後ろに乗り出かけて行く。 その日、2人は、日本自由党公認樺山松雄の宣伝トラックの荷台に乗り、一日中応援演説をやる。 最初は村田が、慣れた口調でマイクを握っていたが、途中から代わったあや子も落ち着いた口調で巧いものだった。 それを同じ荷台で聞いていた樺山は、嬉しそうにあや子に近づくと、尻を触ったので、驚いたあや子は奥様に言い付けますから!と睨みつける。 途中、休憩時間中、焼き芋を食いながら、樺山は、俺には2人、二号もいるんだ。奥さん公認なんだと妙な自慢を始める。 羨ましいですねと村田が調子を合わせると、でも、犬買ったって楽じゃないよなどと樺山は言うので、女性の敵ねとあや子は睨みつける。 それでも、2号と別れれば、一度不幸にした相手を又不幸にすることになるので、ヒューマニズムの観点から言って仕方ないわ。アイム ヒューマンだわとあや子が妥協したので、ヒューマニズムか…と樺山も気に入り、結果、午後からは、「ヒューマニズムの男樺山」として宣伝することにする。 バイト終わり、又、村田のバイクに乗って変えるあや子は、疲れきり、村田の背中に抱きついて眠っていた。 それに気づいた村田は河原で一旦バイクを停め、時速50kmで眠られたんでは困るからなと、目覚めたあや子に告げる。 あや子は恥ずかしそうに、村田クンの体温って温かいわねと褒めると、君の鼓動が背中から伝わって来たぜと村田も答える。 ねえ、私の鼓動って早い?遅い?などとあや子が聞いて来たので、村田は答えず、そのまま又走り出すことにする。 アパートに帰宅したあや子は、もうくたくた!と言いながら、襖に逆立ちすると、一日中トラックの上に立っていたから、足に降り立ちを戻すのよときみえとたか子に言う。 たか子はそんなあや子に、お母さんから手紙が来てるわよと教える。 夕食用のコロッケを摘んだあや子は、手紙を読み、安夫、県立高入ったんだって!と弟のことを喜び、渡部先生、宇田川先生と結婚するんだって!と報告すると、それを聞いたきみえの表情が曇る。 それに気づいたたか子は、雪山のロマンスの相手だもんね…と同情する。 先に食事を終えたきみえは、炊事場に行き、1人、自分の茶碗を洗い始めるが、雪山に登った時の事を思い出していた。 (回想)渡部先生(山田吾一)引率のもと、山にスキーに来ていた高校時代のきみえは、途中、転び、左の足首をくじてしまう。 渡部先生は、男子生徒に、先に山を降りさせ救援を頼んで、自分はきみえと共に、近くの木こり小屋で一夜を明かすことにする。 小屋の中で2人きりになった渡部先生は、俺をしっかり抱きしめろ!俺の体温であっためるんだ!と声をかける。 きみえは、先生!助けて!私、東京で洋裁学校に行って、子供を作って育てて、良い奥さんになりたいの!死にたくない!と渡部の身体にしがみつくのだった。 (回想明け)我に返ったきみえは、山男、良く聞けよ〜♪と歌い始めたので、それを食卓で聞いたたか子は、何だ、大丈夫じゃない!と安堵するが、きみえがわざと明るく振る舞っていることには気づかなかった。 熱海のホテル フロントからの電話で、江原たか子が来た事を知った高畠は、それまでぼんやり窓から外を観ていたのだが、急に書斎に向うと、仕事を始める。 部屋にやって来たたか子に座るように声をかけた高畠だったが、たか子が呼び鈴の側に座ったことに気づくと、あなたは用心深いですねと言い出したので、偶然ですわとたか子は動揺する。 原稿はもう出来上がっているんだが、ラストの完全犯罪が気に入らないので、アイデアを君に考えて欲しいと高畠は言い出すと、勝手に部屋のカーテンを閉め、この方が雰囲気が出るだろう?などと言う。 そして話し始めた高畠の新しい小説の主人公は、山田欽吾と言い、あだ名はカラスと言う暗い男だと説明し始める。 父は山崩れに遭い死に、母は2号になったので、学校では廻りから悪く言われて来た。 学校を出ると、職に就いたが長続きせず、何度か転職した後、とあるダム工事の現場に就職した。 そこで、さよ子と言う急ザの女と出会い結婚したが、赤毛のさよ子は、親方と肉体関係があった女だった。 その後、ひょんなことから娯楽雑誌に応募した推理中編が当選し、一躍やまだは出版界の寵児となった。 先生と呼ばれるようになったが、灰色の過去は消えなかった。 さよ子の存在そのものが疎ましくなり、さよ子さえいなくなればと考えるようになった…と高畠は話していたが、急に頭痛を覚えたたか子は、暖房が効き過ぎているのか、気分が悪くなったので、ちょっと外の空気を吸って来ますと言って席を立つ。 翌日、村田のバイクに乗って選挙応援に向かう途中、後部座席のあや子は、この前、村田クンが童貞って行ってたのは嘘くさいわね、女の身体に触れたことあるでしょう?と急に質問する。 途中の河原の橋の下でバイクを停めて降りた村田は、女は知ってるよ。大学一年の真夏、田舎の土蔵で、半分裸で寝っころがって本を読んでいたんだ…と話し始める。 そこに、一度嫁に行って戻って来た従兄弟が枕元にやって来て、ぺちゃくちゃしゃべっているうちに何となくそうなったんだと村田が打ち明けると、嘘つき!いチャなことを聞いちゃった!と叫んだあや子はその場を逃げ出す。 村田は慌てて後を追いかける。 選挙事務所前で、栄養アンプル剤を飲んでいた樺山は、村田とあや子が遅刻して来たので叱りつける。 村田が、天気が良かったので、河原で遊んでいたんですとごまかすと、通行人ばかりでキスも出来んかっただろう?などと又卑猥な話を樺山が口にしたので、その背後から出て来た妻のふみ子が、謝りなさい!と樺山を叱る。 選挙運動員が、今日が最後の山場だ!頑張って行こう!と発破をかけると、事務所前のトラックの荷台に上がった村田は、樺山氏は2号、3号どころか4号、5号も持っている!などとマイクでしゃべり出したので、樺山はむっとして止めさせようとするが、文子が、お終いまでしゃべらせるんです!みんな立ち止まって聞いてるじゃありませんか!と夫を制する。 しかし、一度関係を持つと、最後まで面倒を見ている!樺山氏をそうさせているのは奥様のふみ子さんなのであります!と村田は続ける。 私がこの応援を引き受けたbのは、ひげを生やして偉そうな樺山氏に会ったからではなく、賢夫人に会ったためです!このような立派な夫人を持つ樺山をよろしくお願いします!と村田が言うと、立ち止まって聞いていた聴衆から思わず笑顔と拍手が起きる。 横で聞いていたあや子も思わず笑顔になっていた。 ふみ子夫人を多いに愉快がり、私、賢夫人だってさ、これから大事に扱って下さいよと樺山に笑いかける。 あいつ、4号、5号などと噓を言いやがって!と樺山は面白くなさそうだったが、水増しした方が人気があるのよとふみ子から言われると、そう言うもんかな…と納得し、人を泥棒扱いして!と村田の方を見ながら憎まれ口を叩きながらも、満更でもない笑顔になる。 その後、張り切って宣伝トラックを走らせる樺山陣営だったが、電車の踏切前で停まった時、反対方向から来た社会革命党の廣瀬渡候補の運動員たちと、電車が通り過ぎる間、スピーチ合戦になる。 あげくの果てに、遮断機が上がって、踏切の中央で両陣営の宣伝トラックがすれ違う時、運動員同士がけんかになってしまう。 帰りのバイクで、村田が終始黙り込んでいるので、あや子が訳を聞くと、ライバル陣営の連中と殴り合いをしたのが不愉快だったんだ…と村田は打ち明ける。 男の力はあんなことに使うんじゃなく、ラグビーをやったり、平和な社会を作るために使ったり、恋人の背骨を折れるほど抱きしめるために使うんだと思うんだ…と、いつもの橋の下で休憩した時、村田は答える。 田舎の土蔵の中のようにね…と、まだ拘っていたあや子は嫌味を言い、どうして本当のことを言ったの?と聞く。 君には噓を言いたくなかったんだ。本当のことを言ったお陰で、気持ちが軽くなったよと村田が言うと、男と女が寝ることって楽しいものかしら?あの話を聞いて以来、あなたが全然別の人のように感じてしまうわ…とあや子は打ち明ける。 私を克服できる?といきなりあや子は村田ににらめっこをしようと挑発して来る。 村田は受けて立ち、互いに顔を近づけ合っていた時、おいおい!ここは幼稚園か?俺たちは資金が欲しい。遊興費って言うのかな?このスケを傷つけたくなければ、言う事聞きなと言いながら、橋桁の背後に隠れていたチンピラ2人が近づいて来る。 村田は、向こうに行こうとチンピラたちを橋桁の背後に誘う。 あや子は怯えて様子をうかがっていたが、やがて、村田に殴られた2人が、お見それしました、兄貴!堪忍してくれ!と詫びながら逃げ去って行く。 私、怖いわ!あの人たちを殴って嫌な気持ちだった?と戻って来た村谷あや子が聞くと、君を守らなければと思い、燃え上がっていたよと村田は答える。 今でも心臓が破れそうよ。ねえ、私を強く抱いて!とあや子は迫るが、一旦身体を近づけた村田は、止そう…、君をだくのは、君がガタガタ震えてない別の時にするよと言い、奴らが仲間を連れて来るといけないからとバイクに乗るように勧める。 あや子は一瞬、躊躇していたようだったが、すぐにそんな気持ちを振り払うと、何でもない。出発進行!と明るく答える。 アパートの下まで送って来た村田は、今夜はじっくり眠ると良いと言葉をかける。 しかし、その夜、あや子は、蒲団に入ってもなかなか寝付けず、じっと目を開けたまま横になっていた。 翌日、樺山の最後のお願いが功を奏したのか、樺山は無事、都議会議員に当選を果たす。 祝勝会に出席した村田は、樺山から感謝され、良かったら、私の秘書として手伝ってくれないか?と頼んで来る。 しかし村田は、進級が難しくなりますから…と断る。 樺山はあや子にも、あんたは魅力ある人だ。もっとあなたの胸とかお尻とか触ってみたかったとセクハラ発言をする。 その発言に眉をひそめながら近づいて来たふみ子夫人は、私、お二人がどう言う関係なのか知りませんけど、この方が幸せになるようにしてあげて下さいよと村田にあや子のことを頼む。 しかし村田は、今の女性は強いですよ。自分本位と言うか…、この人は躓いても、ぺしゃんこになるようなことはないでしょうと答えたので、横で聞いていたあや子は、どうかしらと言いながら部屋を出て行ったので、村田も慌てて後を追いかける。 その日、村田は、あや子のアパートに立ち寄るが、たか子やきみえは、村田とあや子に、このまま付き合っちゃいなさいよと焚き付ける。 その時、村田は、話をそらせるように、雨が降って来たことに気づき、借り物のバイクが濡れる!と慌てて、バイクを屋根のある場所に移動させに行く。 そんな村田に、今日は泊まって行きなさいよとたか子は勧める。 きみえは、付き合っちゃいなさいよと村田とのことを勧める。 村田は、身の危険を感じるな〜と冗談で返すが、あや子は、バカにしてるわ!と怒る。 それでも、自分たちが着替える間、廊下に待たせていた村田に、女物の寝間着を貸してくれる。 村田が赤い寝間着を着て部屋の中に来ると、3人娘は面白がって笑うので、僕は寝癖が悪いから、夜中に片足が君たちの布団にお邪魔するかも知れないけど、その時は遠慮なく放り出してくれと村田は宣言する。 しかし、夜中、3人娘の足下で寝ていた村田の顔を蹴って来たのは、川の字の中央で寝ていたあや子の足だった。 翌日、熱海のホテルに出向いたたか子は、高畠の息子の健一と帰る千代子と偶然出くわす。 何でも、あの人の邪魔になるので、自分らだけ別の日本旅館に移るのだと言う。 千代子はたか子に、今度の小説、評判どうです?と聞き、又、私が殺されたでしょう?私、小説の中で2〜3べん殺されてるんですよ。私たちの中には苦しい境遇が共通してるんです。あの人が小説を書くのには、貧乏人の気持ちが下地になっているんでしょうなどと明るく言うので、薄々事情を察しているたか子の気持ちは複雑になる。 そんなたか子に千代子は、秘書になってくれない?今の給料の2倍でも3倍でも出すわ。お父ちゃんがあなたを好きなこと知っているでしょう?あなたも、うちのお父ちゃん、好きなんでしょう?私もあなたが好きなんですよなどとあけすけにと聞いて来たので、奥様が率直におっしゃいますので、私も率直にお答えしますが、先生は好きです。でも、自分の過去にいつまでも拘っていらっしゃるのは嫌ですわとたか子は答える。 すると、千代子は急に真顔になり、残念ですわ。あなたがお父ちゃんを騙してお金を巻き上げるような人だと良かったんですけど…と答えると、あの人、小説が出て、私がそれを読んだなって思った時、私を抱くんですよ。罪滅ぼしのつもりなんでしょうねなどと教える。 その後、高畠の部屋に行ったたか子は、ベッドで死んだようにうつぶせで横たわっている高畠の姿を発見する。 机には原稿に自分が死なない限り、過去は死なないんだ。江原たか子は好きだけど、自分の死に水を取ってくれるのは千代子子の他にないのだ。昔はみじめだったけど、今の方がもっとみじめだ。今思えば、一番幸せだったのは、親方の女だった千代子子をだいた頃だ…、空しい…と遺書めいた文章が書かれていた。 しかし、ベッドの上の高畠は死んでいなかったので、たか子は、お休み中にお邪魔しました。お書きになっていた落書きは屑篭に棄てました。自分はビジネスとしてお付き合いして行きたいと思います。20日までに原稿をお願いしますと原稿用紙に書き、高畠が履いていた片方のスリッパをそっと脱がすと、自分は部屋を後にする。 一方、君代の通っていた洋裁学校に突然やって来たのは、高校時代の恩師渡部だった。 英語の講習甲斐があったので上京して来たが、明日帰るのだと言う。 きみえは喜び、アパートで一緒に食事をしましょうと誘う。 しかし、その晩、あや子とたか子の帰りは遅く、夕食はアパートで2人きりですます。 君は良いお嫁さんになるよと渡部先生が褒めると、良い主婦になるのは、女の人はみんな思っていますと恥ずかしそうにきみえは答える。 渡部先生は言い出し難そうに、実は近いうちに結婚する。相手は宇田川すみ子さんだと打ち明ける。 きみえは、そうなんですか!ちっとも知りませんでしたわ。おめでとうございますと噓で答える。 宇田川先生が渡部先生が好きなんだろうなってことは前前から感じていました。 廊下で会うと、視線をそらしたり、街で偶然会っても、途中で路地に入ってしまわれるんですもの…ときみえが打ち明けると、やっぱりそうだったのか、いつも、何かの拍子に君の話が出ると、彼女、話をそらすんだよ。気にしてるンぼかな〜…と渡部先生も答える。 宇田川先生は、どんな場合であっても、先生が他の女を抱くのが許せない、気性の激しい人なんだわ…ときみえは指摘する。 心に引っかかっていることがあるので、はっきり言っとかなければと思って来たんだ…と急に改まった渡部先生は、きこり小屋にいた時、救護のため以上の行為をしていた瞬間があるんだ…と言い出す。 (回想)もっとしかり抱きよって来い!と片足をくじいたきみえを、きこり小屋の中で抱いていた渡部先生は、突然、きみえにキスをしていた。 (回想明け)今頃、ふいにこんなことを言い出してすまないと思っている。結婚するので、あの時のことを曖昧にしないで、謝った方が良いと思ったんだが、君は覚えているかい?それともあの時は夢中だったのかい?と渡部が聞くと、覚えてるわ…、でも、今先生から聞くまで、思い違いと思っていたんです…。夢だと大切にしまっておきたかったんですと寂し気にきみえは答える。 すまん!自分の行為を全然なかったことにしよう、心の中にほのかに思い出した方が良いと思ったんだで、僕は会ったことを宇田川先生に全部しゃべってしまったんだ。 宇田川先生は。このままにしておけば、心の隅にいつまでもひっかかっているでしょうから、はっきりさせた方が良いと言われて来たんだと渡部先生は打ち明ける。 それを聞いたきみえは、宇田川先生は、独占したいんだわ。先生の両親も身体も何もかも…、式はいつですか?と冷めたように聞く。 夏休み中なんだと渡部が答えると、結婚式を挙げなくても、もうそう言う間柄なんでしょう?だって、そう言う間柄じゃないと言えないようなことを宇田川先生はさせているからです。私に会いに行かせたりして…と恨みがましい口調で言ったきみえは、私のおでこ、滑らかだって言われるんです。先生、そこにキスして頂戴とねだる。 渡部は言われるままに、きみえのおでこにキスをすると、本当のキスをしても良いのよときみえは言い出す。 渡部先生が、そのままきみえを押し倒そうとすると、きみえは、ディズニーの「101匹わんちゃん大行進」のダルメシアン人形を持って立上がり、又、これで、宇田川先生に言えないことができたわね…と冷ややかに言い放つ。 宇田川先生、あんまりいじわるするんですもの…、人間の夢をぶち壊し、独占しようとしてるんですわ…ときみえが言うと、君は僕を侮辱しているね…と冷めたような表情になり答える。 私、身体に男の印を刻み込もうかとも思ったんですけど、キスしたの、今日が始めてなのよ。もっと若いボーイフレンドとしたかったわ。先生なんかとキスして損したわ!ときみえは吐き捨てるように言うので、僕は世界一愚かな運命を背負わされたようだね…、分かったよ、さようなら…と言うと、上着を着て部屋を出て行く。 きみえは、ずっと握りしめていたダルメシアン人形を落とし、泣き出す。 ある雨の夜、思い思いの時間を過ごしていた3人娘だったが、急になっていたラジオのスイッチを消したあや子が、ねえ、私たち、個々の生活解散してみない?別々に暮らしてみたらどうかしら?と言い出す。 それを聞いたたか子ときみえも、ずっと3人でいると、女臭いことばかりになっちゃうかもね…と乗り気になる。 あんたたち、身近な男が出来たんでしょう?ときみえは寂し気に言いながらも、解散には賛成する。 やがて、互いに、結婚感を話し合う。 きみえは、生活力がある人などと言い出したので、アラン・ドロンみたいな人が良いって言ってたじゃない!とあや子がからかう。 たか子は、中年の男性に魅力を感じるのよと言うので、そうすると、誰かを不幸にするんじゃない?ときみえが聞くと、だから、中年で独身でお金がたっぷりある人が良いのよ!などと、たか子は冗談めかして答える。 あや子は、結婚前提で付き合うのじゃない恋愛があっても良いと思うわと言う。 そうした意見を聞いていたきみえは、結婚に関しても私たちみんな違うのね…とため息をつく。 もっと早く、自分をさらけ出せば良かったのよ!とたか子は反省するように言う。 私、急に、古風なお見合い結婚しようかなって思うようになった!ときみえは言い出す。 私の旦那様になる人、今頃、何してるかしら?などとあや子が乙女チックな眼差しで言うと、向うはまだ、私たちの存在にも気づいてないんだから、責任ないわとたか子が混ぜっ返す。 その時、突然、村田がやって来たので、たか子ときみえは、あや子のお尻を叩いて迎えに出させたので、あや子は痛い!と悲鳴をあげる。 それを聞いた村田が訳を聞くと、何でもないの。ちょっと結婚相手に付いて熱を上げていただけよとごまかしたあや子は、部屋に招き入れる。 村田を迎えたきみえが、村田が持っていたふろしき包みを見て、お土産見せて!とねだって来ると、これは土産じゃないんです、教科書や下着ですと村田は言う。 親父が危篤なんだ。2時間ほど前に電報が来たと村田は真顔で言うので、じゃあ、こんな所に寄らずに駅に行った方が!ときみえたちは驚くが、君たちの顔を見に来たんだ。学校辞めるかも知れないから…と村田は言う。 親父のバス会社を経営しなくちゃ行けないかも知れないんだ。兄貴がいるんだけど、心臓悪くして、この2〜3年、静養中なんだ。親父はおそらくダメでしょう。ガンですから…と村田が言うので、たか子たちは慰めようもなかった。 何時の汽車かと聞くと、10時半の急行だと言うので、たか子たちは、あや子に駅まで送って行くように勧める。 あや子は、着替えるので外で待っててと村田に言うと、急いで着替えようとするが、水色のワンピースにしなさいよときみえが言い出す。 でも雨降ってるし…とあや子が迷うと、もう彼と会えないかも知れないんでしょう?彼の黒い眸、見つめて来なさい。私だったら、みんな彼にあげてしまうかもねなどときみえが熱っぽく言うので、あなた、この頃変よ?とあや子は戸惑う。 それでも、きみえの言うとおり、水色のワンピースを着て、きみえのコートを貸してもらったあや子は、白い傘を持って外に出て行く。 きっと帰ってらしてね!と窓からたか子が村田に呼びかけ、出かけて行った2人を見送るきみえは、ちょっとしたメロドラマね。良いな〜、私も一度で良いからヒロインになりたい!とぼやく。 恋愛と結びつかない結婚があっても良いなんて、どうしてそんな事言ったの?と相合い傘で駅に向かう途中、村田が聞くと、出来ないと思ったのよ…、私たち、同じ年だし…、あなたが出世するまで待っていられるかどうか…とあや子は答える。 現実と観念は違うからね…と応じた村田は、僕たちが結ばれると、子供が生まれる。そのまま結婚しないと、僕たちは一生劣等感を持つだろう。だから、一定の距離をおいた付き合いの方が良いと思うと答えると、お線香臭いのはあんたの方よ!とあや子は言い放つ。 父危篤の電報を読んだ時、君を不幸にしては行けないと思った。父は前にこんなことを言ってたんだ。貴様、女を不幸にするような男のクズにだけはなるな! 親父、きっと昔、女を不幸にして、気持ちにひっかかるものがあったのかも知れない…と村田が言うと、急に立ち止まったあや子は、ねえ、今ここで、私にキスしてくれない?と言い出す。 後悔しないかい?と村田が念を押すと、このまま別れた方が後悔が残ると思うの…とあや子が答えたので、白い嵩の影でそっとキスしてやる。 しばし抱き合っていた2人だったが、さあ、そろそろ行きましょう!とあや子は言い、ああ、良い気持ち!と満足げな笑顔になると、2人は白い傘の中で肩を寄せ合い、駅へと向かうのだった。 |