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幽霊小判

「怪奇ミステリ時代劇」とでも言うべき作品

ひょっとすると、戦時中の時代劇ミステリ「待って居た男」(1942)辺りが発想の原点かも知れないとも感じた。

捕物帳的な展開なので、本格謎解きミステリほど細部がきっちり考え抜かれている訳でもないが、大どんでん返しが楽しめる作品になっている。

ミステリ好きなら、途中の段階で、おやおやこれは、ひょっとすると…?と想像出来る程度の「観客を引っ掛けるトリック設定」なのだが、時代劇と言う時代設定や、あまり有名俳優が出ていないところを巧く利用している。

通常この手の謎解きの映像化で一番ネックとなるのは、有名なスターが出て来ると、大抵は、その人が重要な役なのだろうと薄々推測出来てしまう所なのだが、この作品のような作り方だと、そうした当て推量がし難くなる。

事件の中核となる庄吉を名乗る男が、善なのか悪なのかの見極めも最後まで付かないところが巧い。

では、ノンスター映画なのかと言うとそうでもなく、ちゃんと意外な所で市川雷蔵がゲスト的に登場しているサービスが用意されているのも憎い。

事件には全く関係がない役柄なので、有名スターでも気にならないようになっている。

スターと言うポジションではないが、当時人気があった漫才師、夢路いとし、喜味こいしの「いとこいコンビ」が「少し頭が弱い岡っ引きと子分」として狂言回しを勤めているのも重要。

弟のこいし師匠の方は、観客と同じ程度の目線で事件に立ち会うワトソン的な役なのだが、兄のいとし師匠の方は、何となく「あのねのおっさん」高勢実乗を連想するようなコントメイクで終始ボケ役に徹しており、恐怖シーンの緩和役を担っている。

劇中、「飛行機」とか「サイン」と言った現代用語を使っている所からも、コント的な要素も含んだ通俗時代劇なのだが、気軽に楽しめる大衆娯楽になっており、「時代劇ミステリ」としては、かなり出来が良い部類ではないかと思う。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、大映、松村正温脚本、井上昭監督作品。

左右に広い田圃が広がる中、女が男から必死に逃げていた。

それを上空から撮った映像。

キャスト、スタッフロール

茶店の前の縁台に座り、親分、宿屋の女中宜しおましたなと嬉しそうに話しかけていたのは、上方の岡っ引き六助(夢路いとし)の子分やん八(喜味こいし)だった。

何を言うとるんや、うちら、十手お縄を預かっとる身やど!と六助が叱りつける。

そなこと言うたかて、アベックは女の子に限りますよなどとやん七は懲りずに無駄話を続けようとする。

そこにやって来た女が、私、殺されます!実も知らぬ男が死んだ亭主と言うんです!と訴えて来たので、六助は驚く。

そこに駆けつけて来た男は、おふじ!本当に俺が分からないのか?と逃げて来た女に声をかける。

怪しんだ六助がその男の素性を聞くと、自分はこのおふじの亭主で、江戸の両国で廻漕問屋を営んでいる相模屋庄吉(丹羽又三郎)と名乗り、女房は気が触れておりますと言うではないか。

しかし、正吉が女房だと言うおふじ(三田登喜子)は、噓です!私はキチガイじゃありません!と六助に必死に訴える。

そこに、遅れて追って来たらしき茗荷屋の勘次(市川謹也)とお紋(大和七海路)が、ご新造様!とおふじに呼びかけて来るが、おふじは、この2人はこの男の片割れです!と庄吉を名乗る男を指差す。

この店では取り込みがあるでしょうし、女房もこの様ですので、この先に手前どもの店の寮がございますのでそちらに御案内しましょうと、庄吉と名乗った男は、六助とやん七に願い出る。

寮の座敷に通された六助とやん七だったが、まだやん七は、温泉宿の女中、良かったな…などとのんきに話し始めたので、六助は叱りつける。

そんな頼りなさそうな2人を前に、おふじは、自分と亭主の庄吉との出会いを語り始める。

それは、1年前の大漁祭りで賑わう日でした…とおふじは言う。

(回想)やぐらの周囲で、村中総出で踊っていた大漁祭りの晩

どこからともなく「抜け漁だ!」と声が聞こえ、側の砂浜に集まっていた地元の網元である源兵衛(清水元)の子分たちが、仲間割れした男を縛り付けると、見せしめのため、銛で突こうとしていた。

そこに、親分!こんなめでたい祭りの日に…と言いながら止めに入ったのが相模屋庄吉(鶴見丈二)だった。

しかし源兵衛は、仲間で抜け荷をしたのは許せねえ!金ですむことなら償えば良いかも知れねえが、網元としてのけじめがつかないと言い張る。

話ではらちがあかないと察した庄吉は、では、こういうことではどうでしょう?と言い出すと、近くに飾ってあったお供え用のカボチャを取り上げ、掴まっていた男の頭に乗せると、自分は銛を持ち、4〜5間離れた所に立つ。

ここからあの的を撃ち落としたら、勘弁して頂く訳には行きますまいか?と庄吉は源兵衛に問いかける。

あんたが?と驚いた源兵衛だったが、相手の気っ風に惚れ込んだのか、やってみなせぇ…と声をかける。

庄吉は着物の左袖を抜き、左手で銛を持つ。

庄吉の左胸には竜の彫り物があった。

次の瞬間、庄吉が銛を投ずると、見事にその銛は、掴まった男の頭の上のカボチャを貫く。

いや〜、大した腕だ!この源兵衛の跡継ぎに欲しいくれえだ…と感心した源兵衛は、すぐに子分に、放してやれと命じる。

ありがとうございます!と庄吉は頭を下げ、源兵衛も、さあ!みんな、景気良くやってくれ!と呼びかけたので、又踊りが始まる。

この一部始終を他の村人たちと一緒に面物していたおふじは、一目で庄吉に惚れ、嬉しそうに、又踊りの輪に加わるが、そんなおふじの手を引いて近くの砂浜まで連れ込んだのは、他ならぬ庄吉だった。

おふじさん、前からお前の名を知ってたんだ。私の漁へお出で。ごちそうしようと言ってくれたので、おふじは天にも昇るような気持ちになる。

寮に連れて来られたおふじは、庄吉から木箱を手渡される。

蓋を開けると美しい簪が入っていたので、おふじは感激する。

それをその場でおふじの髪につけてやった庄吉は、良く似合っている。お前さんのために、江戸で買っていたんだと打ち明ける庄吉。

こうして、貧しい漁師の娘の私が、庄吉さんと一緒になることができたんです…とおふじは語る。

連れて行かれた江戸の店はそれは立派な構えでした。

1年の間に、妹のお咲(美川純子)さんに行儀作法を教えられ、この年の2月の始めに祝言を挙げることになったのです。

その祝言が始まった早々、番頭久助(伊達三郎)が庄吉に声をかけ、部屋の外へ連れ出して行く。

久助から話を聞かされた庄吉は、5万両が駿河屋に着いてない?!と驚く。

持って行かせた銀蔵も駿河屋さんに着いてないんですと久助は言う。

相模屋の身代が立つか立たぬかと言う時だ、後は頼むぞ!と久助に言い残し、白装束の花嫁衣装を着て廊下に出て来たおふじに、すぐに帰って来ると声をかけ、庄吉は出かけて行く。

まだ固めの盃も交わさぬまま…、それが見納めになろうとは…

(回想明け)それっきり、帰って来んと言うのだな…と話を聞き終えた六助が確認すると、3日目に、町奉行所より、品川に変死体が上がったと連絡が…とおふじがいうので、それが庄吉さんやったんか?と六助は驚き、はい…とおふじも無念そうに頷く。

(回想)庄吉の遺体を入れた棺桶は、お咲やおふじの目の前で、菩提寺である法勝寺の墓地に埋められ、住職の恵海和尚(荒木忍)が、では皆さん…、お別れを…と告げたので、おふじは自ら手酌で土を棺にかけると9、突然、髪に飾っていた簪を抜き、自らの胸を突き刺そうとしたので、驚いたお咲や近親者たちが、おふじの手を押さえて墓地から連れ去って行く。

夢のように儚い出来事でした。泣いても二度と庄吉さんはもう戻って来ないのです。

仏間で布団に横たわり、泣いていたおふじは、障子の外に人の気配を感じたので、誰や?と声をかける。

すると、障子を開けたのは全く身も知らぬ男で、何を驚いてるんだ?俺だよ、庄吉だよと言うではないか。

あなたは誰です!と問いかけても、俺だよ…と戸惑ったように庄吉と名乗る男は平然としているので、帰って下さい!人を呼びますよ!とおふじが怒ると、おふじ…、冗談じゃないよ…、一体どうしたんだ?と庄吉を名乗る男は言いながら近づこうとするので、違います!と言いながら、おふじは思わず手を叩いて人を呼ぶ。

すると、やって来たのはこれも見知らぬ女で、お客様が来ておられますと庄吉を名乗る男に知らせる。

今時分誰だ?と庄吉を名乗る男が聞くと、網元の源兵衛さんが碁を打つ約束をなさったそうで…と女が言うと、すっかり忘れていた!すぐに仕度をするからお通ししておくようにと庄吉を名乗る男は、その女お紋に命じる。

部屋の中で着替え始めた庄吉と名乗る男は、唖然としているおふじに、悪いが、ちょっとだけ付き合うから、お前は先に休んでいるんだよと優しく伝える。

そんな庄吉と名乗る男の隙を観て、部屋を抜け出たおふじは、離れで待っていた源兵衛に会うと、源兵衛さんのバカ!いたずらにしては酷過ぎるじゃないか!仏を弄ぶなんて!と憤慨する。

しかし、源兵衛は訳が分からない様子で、お紋がそこに酒を持って来ると、嬉しそうに盃を口に運びながら、旦那も物好きだよね。こんな夜更けに碁を打つなんてなどと答え、おふじ坊、どうしたんだい?と唖然と立ち尽くしていたおふじに声をかけて来る。

そこに着替え終わった庄吉を語る男がやって来て、おふじ!お客様の前にそんな姿ではしたない!と寝間着姿のおふじを注意すると、病気のせいか、ここ2〜3日、容態が思わしくないんですと源兵衛に説明する。

源兵衛さん!あんたまでが!とおふじは混乱して抗議するが、さ、おとなしく下がっていなさいと庄吉を名乗る男が言うので、仏間に戻り、庄吉さん!と言いながら、仏壇を開けると、そこには矢の刺さった位牌が転がっていたので、肝を潰したおふじはその場で気を失う。

そこに入って来た勘次とお紋は、倒れていたおふじを部屋の外へ運んで行く。

(回想明け)本当に悪い奴だんな〜と、おふじの話を聞き終えた六助は唸り、それけど見破る方法があります。庄吉さんは左利きでしたね?刺青を調べたらすぐに分かりますと太鼓判を押し、あの男を連れて来いとやん七に命じるが、私が呼びに行くんですか?…宿の女は…などとやん七が渋っていると、そこに当の庄吉を名乗る男がやって来る。

字、書きますか?ここに名前を書いてみいと言いながら六助が帳面を差し出すと、筆を左手で持った庄吉を名乗る男は、さらさらと相模屋庄吉と書いてみせる。

左手で書きよりますわ…とやん七が驚くと、左の腕を見せてみ?と六助が注文する。

すると、庄吉を名乗る男は黙って着物を脱ぎ、左手を全部出してみせる。

すると、左胸から肩にかけ、見事な竜の彫り物があるではないか!

それを観た六助は、ほな、これ…、庄吉でんがな…と言うしかなかった。

やん七も、親分!別嬪やのに、可哀想やな…とおふじの方を哀れみの目で観るようになる。

酒飲み、盗人、置き引きの言うこと聞いてたら長生きしますで…とぼやきながら、やん七と六助が帰ろうとしたので、お願い!行かないで!とおふじは必死に止めようとするが、2人は寮を出て行ってしまう。

しかし、六助は、おふじの言うことも筋が通っている。この辺の役人は何してるんやろ?と、さっきの茶店に戻りやん七と話し合う。

そんな2人の会話を聞いていたのか、奥で同僚と休んでいた役人風の男が出て来て、拙者は伊豆山代官所与力鳴海左平次(島田竜三)と名乗ると、庄吉が生きていたと言うのは真か?と聞いて来る。

庄吉とやらに、たった今会ってきましたと六助が畏まって教えると、それは妙だな?庄吉なら、2月の始め、品川の浜で死亡と南町奉行所で解決しておると首を傾げる。

たった今、会って来たのだな?と鳴海が確認すると、左利きで刺青もありましたと六助は報告する。

それを聞いた鳴海は、う〜ん…、奇怪な…、今度立ち会ってくれるか?と六助とやん七に頼む。

やがて、とある屋敷の庭に庄吉と名乗る男とおふじを呼び寄せた鳴海は、これなる男が夫ではないと言う確かな証拠があるのだな?とおふじに問いかける。

すると、おふじは、何かを思い出したように、銛を使えば、4〜5間離れていても獲物を捉えますと申し出る。

鳴海は、六助に盛りトマトを持って来いと命じ、六助が銛とカボチャを持って来ると、的になって頂けますか?これもお役目と思いますがね…と鳴海が頼む。

すると、六助は、やん七に的になれと命じる。

私は見物人で宜しおますとやん七は断ろうとするが、どうしても断れないと分かると、親分と言えば親も同然、子分といえば子も同然…、こんなカボチャと心中とは…とぼやきながら、カボチャを頭の上に乗せて立つ。

庄吉と名乗る男は一旦右手で銛を掴んだかに思えたが、すぐに左出に持ち代えると、素早く銛を投げ、見事にカボチャに命中させたので、観ていたおふじは混乱してしまう。

鳴海は、この上、まだそなたを患わすのは心苦しいが…、今のところ、男の見当がつかん。その内ぼろを出すだろうと鳴海はおふじを慰める。

するとおふじは突然、大阪の親分さんにお願いがございます。江戸のお咲さんを呼んで頂きたいと申し出たので、それは良い手段だな…と鳴海も感心する。

寮に戻っていた庄吉を名乗る男が、お紋相手に花札をしている所へやった来た勘次は、お咲を呼びますぜと伝える。

すると、庄吉を名乗る男は、絵に描いた通りだな…と呟く。

その夜、布団で寝ていたおふじは、部屋に近づいて来る足音に気づき、誰です?と誰何するが、答えがないので起き上がり、廊下を覗いて見るが誰もいない。

怪しんで、少し廊下を歩いて見るがやはり誰の姿も見つけられなかったので、又寝室に戻り、枕元の水差しから水を飲み、さて、蒲団に入ろうと掛け布団をめくると、髑髏と文字が書いた紙が入っていたので仰天する。

汝の夫の行方を知りたければ…と書かれてあった紙をおふじから見せられた鳴海は、これは金子を脅し取ろうとする企みだと思うと推理を聞かせると、再び、お白州に庄吉を名乗る男を呼びだすと、本物の庄吉は、柴の 寺に永眠している。これから確たる証拠を見せる!と言い渡す。

そこに六助とやん七がやって来て、江戸から連れて来たお咲が付いて来る。

庄吉と名乗る男の顔を見たお咲は、兄さん!と呼びかけて男にしがみつく。

同行した勘次とお紋、さらには、番頭久助までが、これは何があったと言うのです?と言いながら、庄吉と名乗る男に尋ねるので、今、つまらない嫌疑がかけられているんだ…と庄吉を名乗る男は説明する。

お咲は、おふじを睨み、兄さんに何の恨みがあるんです?と言葉を投げかけたので、私は呪い殺される…と呟き、おふじは失神してしまう。

倒れたおふじの身体を六助とやん七が運び出す。

しかし、江戸南町奉行所の調べに手違いがあるとも思えん…、江戸へ向い、墓を暴こうと思う。その方も同行せよと庄吉と名乗る男に命じたので、お咲は、それは何のため?と気色ばむが、庄吉と名乗る男の方は、致し方ございません。御供しましょうと答える。

翌朝、お咲を籠に乗せ、一行は江戸へ向かう。

鳴海左平次様とおっしゃる方が和尚さんに取り次いでもらいたいと参りましたと小坊主が言うので、法勝寺住職の恵海和尚が会うことにする。

恵海和尚に対面した鳴海は、お願いした墓を暴かせてもらう。仏の名を騙るしたたかな奴がいるので…と説明すると、相模屋さんの名を?と和尚は驚き、この方でござると連れて来た庄吉と名乗る男を紹介すると、この男は庄吉ではござらん!と恵海和尚は断定する。

しかし、お咲がそこにおり、兄はここにいますと言うのを聞くと、合点がいきませんと不思議がる。

庄吉と名乗る男は、和尚さん、生きて自分の仏を見るとは思いませんでしたが、手前の墓を見せて頂きましょうと頼む。

墓地にやって来て、自分の墓の前にやって来た庄吉を名乗る男は、確かに手前の墓だな…と納得する。

鳴海は六助に墓を暴くよう命じ、又、六助はその嫌な役目を子分のやん七にやらせる。

やん七はおっかなびっくり墓を掘り始めるが、その時カラスが泣いたので、カラス〜♪何故鳴くの〜♪と歌いながら掘り進め、何とか棺が出て来る。

六助、開けと鳴海が命じたので、お前、開けてみせいやと、又、やん七に命じると、怯えたやん七は、棺桶に片足を突っ込んでしまい、棺に喰われた!とわめきだす。

いら立った鳴海が、自ら蓋を開けてみると、中には白い布と紙切れがあるだけだった。

紙切れには「庄吉殺害の犯人は」とだけ書かれていたので、この紙片の半分が落ちてるかも知れん、探せ!と連れて来た部下たちに命じる。

これで、手前が相模屋庄吉と分かって頂きましたか?と庄吉と名乗る男が鳴海に確認する。

おふじは、訳が分からず卒倒しそうになるが、それを庄吉と名乗る男が連れて行こうとするので、どこへ連れて行くのだ?と鳴海が聞くと、手前の女房をどこへ連れて行こうとお指図を受けることでもございますまいと平然と答える。

部下たちは、どこにも紙片の半分はありませんと鳴海に報告する。

布団の中で目覚めたおふじは、自分が部屋の中で寝かせられていることに気づくと、障子を開けて見るが、そこには太い格子がハマっていた。

別の商事を開いても同じで、そこは完全に座敷牢になっていることに気づき、助けて〜と叫ぶが誰も答えない。

うろたえて部屋の中を走って移動しているとき、足下に置いてあった壺に足が当たり転がしてしまうが、その中から、庄吉にもらったあの簪が転がり出たので驚く。

気がつくと、庄吉と名乗る男が、格子の外に立っていたので、何故私をこんな目に?と聞くと、病気が直るまでここにいるんだと庄吉を名乗る男は言う。

庄吉さんがどこかに生きていると言うことをあなたは知っているでしょう?棺桶に紙切れを入れたのはあなたでしょう?あなた自身が犯人です!助けて〜!人殺し〜!とおふじは男に詰め寄る。

そんな相模屋に、見るからに怪し気な祈祷師2人が、噂を聞いたと言ってやって来る。

玄関先で勘次は追い返そうとするが、そこにやって来たお紋が、勘次さん、頼んでみたら?と勘次の着物の袖を意味あり気に引っ張りながら言うので、2人の祈祷師を座敷牢に案内する。

やがて、おふじを前に奇妙な祈祷を始めた2人だったが、案内して来たお紋が立ち去ると、2人はそれぞれ、カツラとヒゲを取ってみせる。

それを観たおふじは、親分さん!と驚く。

2人は六助とやん七だったのだ。

分かりましたか?役人たちが今、頑張っていますと励ますが、お紋がお茶を運んで来たので、慌ててカツラとヒゲをつける。

お紋は、そんな2人に、病が重いですからここに籠っても良いと主人が申しておりました。何分よろしくお願いいたしますと伝える。

その夜、カツラとヒゲを外して、屋敷内の一室で寝ていた六助は、やん七、仕事や。おふじさん、助けに行くんやと言って起き上がる。

これが巧くいったら、遠い江戸でも俺たちは有名になると六助が言うと、遠いことあらしまへんがな、飛行機に乗ったらあっという間でっせとやん七がぼけたので、アホ!飛行機みたいなものがあるか!と叱りつけ、2人はこっそり廊下に出て、おふじの部屋を探すことにする。

ところが、突然暗闇から現れたお紋が、もし!まだお勤めですか?と聞いて来たので、慌てた六助は、ちょっと用足しに…と行ってごまかそうとするが、お二人で?と突っ込まれたので、こいつが恐がりでして…とやん七を指してその場を逃れる。

寝室に戻って来たやん七は、そやからあかん言うたやろ!と文句を言うが、六助はめげず、もう一回行ったろ…と言うと、部屋を出て、暗い廊下を四つん這いに進み始める。

すると、今度は勘次がどちらへ?と話しかけて来たので、ちょっと用足しに…と答えると、春にしては冷え込む晩ですな…と勘次が皮肉を言う。

渋々部屋に戻って来た六助に、待っていたやん七が、親分、良い考えがあります!と言い、何事かを耳打ちする。

それを聞いた六助は、なかなかええ頭しとるなと感心する。

すると、やん七も、「能あるブタはへそを隠す」などと訳の分からない自慢をする。

翌日、座敷牢の中に集められた家人たちには全員番号札がつけられていた。

1番が庄吉と名乗る男、2番がお紋、3番が勘次、4番が六助、5番がやん七、6番がお咲、7番がおふじ

これから数のおまじないをしますと言い出したやん七は、まず6番の方、表に出て頂きますと指示し、お咲が牢の外へ出る。

次に1番の方、外へ出て、今の6番の方の手を引いて戻って帰って来ておくれやすと指示し、おふじが外に出て、廊下で待っていたお咲の手を引いて牢の中に戻って来る。

6から1を引くと5!では5番の方外へ出て頂きますと指示すると、勘次が外に出る。

2番の方が外へ出て今の5番の方を連れ帰って頂きますと指示すると、お紋が外に出て、勘次の手を引いて牢の中に戻って来る。

5ー2=3!では3の方外へ、4の方引きに出て頂きますと指示すると、六助親分が出て、次に5番のやん七が出て、どうだす?巧く牢を出られましたやろ?と言うので、あほ!おふじさん出てないやないか!と六助は怒る。

では次にかけ算で行きますと言い出したやん七は、何とか自分たち2人とおふじを牢の外に出すことができたので、座敷牢の鍵を外からかけて無事逃げ追うせることができる。

法勝寺まで逃げ出して来た六助たちから話を聞いた鳴海は、いささか合点の行かぬことがある。易々手引きしたのは何か訳があるはずだ。念のため、1人でも山内に忍び込んだら引っ捕らえろ!と配下の者たちに命じる。

おふじは六助とやん七に、これからも力になって下さいとすがりつく。

六助が鳴海に、旦那、死体はまだ?と聞くと、庄吉の死体さえ見つかれば言い逃れ出来まい。行方不明になっている五百両の行方も気になる…と鳴海は答える。

法勝寺の山門を見張っていた六助とやん七は、小坊主が水を桶に汲んで階段を登って来るのを観て、寺には井戸はないのか?と聞くと、2月の、あのおじさんが来た頃から使えなくなったと、近くにいた寺男を指して小坊主が言うので、井戸の中が臭いぞ…と六助は気づく。

その夜、やん七に綱の端を持たせ、六助が綱につかまって井戸の中に入ってみることにする。

やん七は、重いな〜、親分…などと、又愚痴を言いながら綱を引いていたが、その時、井戸の縁にどこからともなく小柄が数本投じられ刺さる。

肝を潰したやん七は、思わず持っていた綱を放し境内の方へ逃げるが、そこにも小柄が飛んで来たので、ああ〜、怖い!とやん七は叫ぶ。

後ろ向きに部屋の中に逃げ込んだやん七は、そこに安置してあった棺桶から、血まみれの手が出ていることに気づかず、後ろ向きにその手にぶつかったので、何だろう?と握って振り向き、手だと知ると、ヒエ〜!と叫んで暗い部屋の中を逃げ出し、柱に頭をぶつけて気絶してしまう。

そこにおふじがやって来て、棺桶を見つけたので、思わず、庄吉さん!と声をかけながら蓋を開けてみると、そこには血まみれの庄吉の身体が入っていた。

やっぱり庄吉さん!とおふじが確認すると、急に庄吉は目を開き、ムクリと棺桶の中で起き上がったので、怯えたおふじは逃げようとするが、いきなり部屋の灯が消えて真っ暗になってしまう。

異変に気づいた鳴海が駆けつけると、その部屋には気絶したやん七がいるだけだった。

一方、井戸の中に取り残されていた六助は、水かさがやけに少ないことに気づき、足下を探ると小判があったので、もしやと思い、足下の箱を持ち上げると、それは千両箱だった。

そのとき、六助ご苦労だった!と井戸の上から声をかけて来たのは、庄吉を名乗る男だった。

金の隠し場所が井戸の中と気づいたのは立派だ。今、助けてやる!そう庄吉と名乗る男は呼びかけて来るが、綱を引き上げようとしていた庄吉と名乗る男に、いきなり斬りつけて来たのは鳴海左平次だった。

悪あがきは止めろ!庄吉は生きていたぞ!と鳴海は言い、庄吉と名乗る男は井戸の中に落ちる。

そこに、配下の者が駆けつけて来て、山内くまなく探しましたが、庄吉は見つかりませんと鳴海に報告する。

井戸の底には六助と庄吉と名乗る男が、ことの推移を待ち構えていた。

井戸の近くに勘次が近づいて来たので、鳴海は、一人残らず取り押さえろ!と配下の者たちに命じる。

その時、どうだ?勝負は最後の最後まで分からぬものだろう?と鳴海に言ったのは、いつの間にか井戸から脱出していた庄吉を名乗る男だった。

鳴海は、逃がすな!と家来たちに命じる。

この騒ぎを知った恵海和尚は、おふじを連れて、別邸の方へと逃げ、難を避ける。

そんな和尚とおふじの前に立ちふさがった庄吉と名乗る男は、逃げ出す前に聞かせてやろうと言葉をかける。

祝言する前から準備は出来ていたんだ。可哀想なのは庄吉さんだ…と庄吉を名乗る男は続ける。

その時、御用だ!御用だ!と山内に入って来た捕手たちが、鳴海たち一味を取り囲む。

拙者は伊豆山代官所与力鳴海左平次だ!御主は町奉行の手先か?と鳴海が聞くと、いかにも…、南町奉行所与力速見源太郎!と庄吉を名乗っていた男は正体を明かす。

おふじ!御主は左平次と示し合わせ、5万両を奪った後、庄吉の命をも狙った!凶器はこの矢!伊豆山の寮で仏壇の中で、位牌に刺さったこの矢を観て気絶したのが動かぬ証拠!

その方が自白するのを待っていたんだと速見が言うと、みんな、この人が!と鳴海を指したので、鳴海は怒りに駆られてその場でおふじを斬り殺す。

左平次!神妙にいたせ!と速見は言い、鳴海一派と斬り合いが始まる。

そんな中、恵海和尚も掴まるが、和尚は、わしは知らんのだ!とわめく。

鐘突き堂の前に追い込まれた鳴海は、もはやこれまでと観念したのか、その場で自ら切腹して果てる。

そして鳴海は、先に死んでいたおふじの横に倒れ込む。

捕手が捕まえて来た寺男を観た速見は、手代の銀造(浜田雄史)だな?店の金を使い込み、相模屋の金を奪う計画に加担したであろう!と速見は迫る。

そこにやってきたお咲、網元の源兵衛、本物の庄吉が、速見様、ありがとうございました!と礼を言う。

速見は、お咲や源兵衛の芝居が巧かったと褒める。

さらに、茗荷屋の勘次には、悪役勤めご苦労だった。今夜はゆっくり女房をねぎらってくれと、お紋のことを言う。

翌日、旅支度の武士の姿になって江戸を西に向かう速見に同行することにしたやん七と六助が、速見の旦那…と何か聞きたそうにするので、庄吉が生きていたことだろう?と察した速見は、実は矢を射られた庄吉は、幸い額をかすっただけで無事だったのだ。

翌日、お咲さんが南町奉行に申し出た時、裏があると睨んだ私は二つ棺桶を用意しておき、恵海和尚にも分からぬように、すり替えておいたのだと説明する。

寺で小柄を投げたのは?と聞かれた速見は、左平次だと教える。

すると、すっかり感心した六助が、記念に旦那のサインを…と捕物帳を差し出すと、受け取った速見は右手ですらすらと速見と書き始める。

右手でも書けますのんか?とやん七が驚くと、そうか…、左手で書く方が今回の幕切れにはふさわしいかな?と言い、筆を左手に持ち替えた速見は、源太郎と書き終える。

茶店の前まで来た時、店の前に停めていた駕篭かき(市川雷蔵)を観た六助は、良い男だな〜!良う似とる、わいに…と感心する。

駕篭から降りたのはお咲で、兄から長崎にお発ちになると聞いたもので、お見送りに…、お恨みしますと速見を睨みつける。

すぐに帰って来ますと笑った速見は、では元気で!とお咲に会釈し、歩き始める。

それに随行しかけた六助は、これを記念に…と言って、今速見からサインをもらった捕物帳の一枚をお咲に渡すと、裏も観ておくんなさいよと言い残し、速見を追いかけて行く。

「速水源太郎」と名前が書かれた紙の裏を見ると、そこには「恋の往復切符」と洒落たことが書いてあったので、お咲は、まぁ!と言って喜ぶ。

1960年、大映、松村正温脚本、井上昭監督作品。

左右に広い田圃が広がる中、女が男から必死に逃げていた。

それを上空から撮った映像。

キャスト、スタッフロール

茶店の前の縁台に座り、親分、宿屋の女中宜しおましたなと嬉しそうに話しかけていたのは、上方の岡っ引き六助(夢路いとし)の子分やん八(喜味こいし)だった。

何を言うとるんや、うちら、十手お縄を預かっとる身やど!と六助が叱りつける。

そなこと言うたかて、アベックは女の子に限りますよなどとやん七は懲りずに無駄話を続けようとする。

そこにやって来た女が、私、殺されます!実も知らぬ男が死んだ亭主と言うんです!と訴えて来たので、六助は驚く。

そこに駆けつけて来た男は、おふじ!本当に俺が分からないのか?と逃げて来た女に声をかける。

怪しんだ六助がその男の素性を聞くと、自分はこのおふじの亭主で、江戸の両国で廻漕問屋を営んでいる相模屋庄吉(丹羽又三郎)と名乗り、女房は気が触れておりますと言うではないか。

しかし、正吉が女房だと言うおふじ(三田登喜子)は、噓です!私はキチガイじゃありません!と六助に必死に訴える。

そこに、遅れて追って来たらしき茗荷屋の勘次(市川謹也)とお紋(大和七海路)が、ご新造様!とおふじに呼びかけて来るが、おふじは、この2人はこの男の片割れです!と庄吉を名乗る男を指差す。

この店では取り込みがあるでしょうし、女房もこの様ですので、この先に手前どもの店の寮がございますのでそちらに御案内しましょうと、庄吉と名乗った男は、六助とやん七に願い出る。

寮の座敷に通された六助とやん七だったが、まだやん七は、温泉宿の女中、良かったな…などとのんきに話し始めたので、六助は叱りつける。

そんな頼りなさそうな2人を前に、おふじは、自分と亭主の庄吉との出会いを語り始める。

それは、1年前の大漁祭りで賑わう日でした…とおふじは言う。

(回想)やぐらの周囲で、村中総出で踊っていた大漁祭りの晩

どこからともなく「抜け漁だ!」と声が聞こえ、側の砂浜に集まっていた地元の網元である源兵衛(清水元)の子分たちが、仲間割れした男を縛り付けると、見せしめのため、銛で突こうとしていた。

そこに、親分!こんなめでたい祭りの日に…と言いながら止めに入ったのが相模屋庄吉(鶴見丈二)だった。

しかし源兵衛は、仲間で抜け荷をしたのは許せねえ!金ですむことなら償えば良いかも知れねえが、網元としてのけじめがつかないと言い張る。

話ではらちがあかないと察した庄吉は、では、こういうことではどうでしょう?と言い出すと、近くに飾ってあったお供え用のカボチャを取り上げ、掴まっていた男の頭に乗せると、自分は銛を持ち、4〜5間離れた所に立つ。

ここからあの的を撃ち落としたら、勘弁して頂く訳には行きますまいか?と庄吉は源兵衛に問いかける。

あんたが?と驚いた源兵衛だったが、相手の気っ風に惚れ込んだのか、やってみなせぇ…と声をかける。

庄吉は着物の左袖を抜き、左手で銛を持つ。

庄吉の左胸には竜の彫り物があった。

次の瞬間、庄吉が銛を投ずると、見事にその銛は、掴まった男の頭の上のカボチャを貫く。

いや〜、大した腕だ!この源兵衛の跡継ぎに欲しいくれえだ…と感心した源兵衛は、すぐに子分に、放してやれと命じる。

ありがとうございます!と庄吉は頭を下げ、源兵衛も、さあ!みんな、景気良くやってくれ!と呼びかけたので、又踊りが始まる。

この一部始終を他の村人たちと一緒に面物していたおふじは、一目で庄吉に惚れ、嬉しそうに、又踊りの輪に加わるが、そんなおふじの手を引いて近くの砂浜まで連れ込んだのは、他ならぬ庄吉だった。

おふじさん、前からお前の名を知ってたんだ。私の漁へお出で。ごちそうしようと言ってくれたので、おふじは天にも昇るような気持ちになる。

寮に連れて来られたおふじは、庄吉から木箱を手渡される。

蓋を開けると美しい簪が入っていたので、おふじは感激する。

それをその場でおふじの髪につけてやった庄吉は、良く似合っている。お前さんのために、江戸で買っていたんだと打ち明ける庄吉。

こうして、貧しい漁師の娘の私が、庄吉さんと一緒になることができたんです…とおふじは語る。

連れて行かれた江戸の店はそれは立派な構えでした。

1年の間に、妹のお咲(美川純子)さんに行儀作法を教えられ、この年の2月の始めに祝言を挙げることになったのです。

その祝言が始まった早々、番頭久助(伊達三郎)が庄吉に声をかけ、部屋の外へ連れ出して行く。

久助から話を聞かされた庄吉は、5万両が駿河屋に着いてない?!と驚く。

持って行かせた銀蔵も駿河屋さんに着いてないんですと久助は言う。

相模屋の身代が立つか立たぬかと言う時だ、後は頼むぞ!と久助に言い残し、白装束の花嫁衣装を着て廊下に出て来たおふじに、すぐに帰って来ると声をかけ、庄吉は出かけて行く。

まだ固めの盃も交わさぬまま…、それが見納めになろうとは…

(回想明け)それっきり、帰って来んと言うのだな…と話を聞き終えた六助が確認すると、3日目に、町奉行所より、品川に変死体が上がったと連絡が…とおふじがいうので、それが庄吉さんやったんか?と六助は驚き、はい…とおふじも無念そうに頷く。

(回想)庄吉の遺体を入れた棺桶は、お咲やおふじの目の前で、菩提寺である法勝寺の墓地に埋められ、住職の恵海和尚(荒木忍)が、では皆さん…、お別れを…と告げたので、おふじは自ら手酌で土を棺にかけると9、突然、髪に飾っていた簪を抜き、自らの胸を突き刺そうとしたので、驚いたお咲や近親者たちが、おふじの手を押さえて墓地から連れ去って行く。

夢のように儚い出来事でした。泣いても二度と庄吉さんはもう戻って来ないのです。

仏間で布団に横たわり、泣いていたおふじは、障子の外に人の気配を感じたので、誰や?と声をかける。

すると、障子を開けたのは全く身も知らぬ男で、何を驚いてるんだ?俺だよ、庄吉だよと言うではないか。

あなたは誰です!と問いかけても、俺だよ…と戸惑ったように庄吉と名乗る男は平然としているので、帰って下さい!人を呼びますよ!とおふじが怒ると、おふじ…、冗談じゃないよ…、一体どうしたんだ?と庄吉を名乗る男は言いながら近づこうとするので、違います!と言いながら、おふじは思わず手を叩いて人を呼ぶ。

すると、やって来たのはこれも見知らぬ女で、お客様が来ておられますと庄吉を名乗る男に知らせる。

今時分誰だ?と庄吉を名乗る男が聞くと、網元の源兵衛さんが碁を打つ約束をなさったそうで…と女が言うと、すっかり忘れていた!すぐに仕度をするからお通ししておくようにと庄吉を名乗る男は、その女お紋に命じる。

部屋の中で着替え始めた庄吉と名乗る男は、唖然としているおふじに、悪いが、ちょっとだけ付き合うから、お前は先に休んでいるんだよと優しく伝える。

そんな庄吉と名乗る男の隙を観て、部屋を抜け出たおふじは、離れで待っていた源兵衛に会うと、源兵衛さんのバカ!いたずらにしては酷過ぎるじゃないか!仏を弄ぶなんて!と憤慨する。

しかし、源兵衛は訳が分からない様子で、お紋がそこに酒を持って来ると、嬉しそうに盃を口に運びながら、旦那も物好きだよね。こんな夜更けに碁を打つなんてなどと答え、おふじ坊、どうしたんだい?と唖然と立ち尽くしていたおふじに声をかけて来る。

そこに着替え終わった庄吉を語る男がやって来て、おふじ!お客様の前にそんな姿ではしたない!と寝間着姿のおふじを注意すると、病気のせいか、ここ2〜3日、容態が思わしくないんですと源兵衛に説明する。

源兵衛さん!あんたまでが!とおふじは混乱して抗議するが、さ、おとなしく下がっていなさいと庄吉を名乗る男が言うので、仏間に戻り、庄吉さん!と言いながら、仏壇を開けると、そこには矢の刺さった位牌が転がっていたので、肝を潰したおふじはその場で気を失う。

そこに入って来た勘次とお紋は、倒れていたおふじを部屋の外へ運んで行く。

(回想明け)本当に悪い奴だんな〜と、おふじの話を聞き終えた六助は唸り、それけど見破る方法があります。庄吉さんは左利きでしたね?刺青を調べたらすぐに分かりますと太鼓判を押し、あの男を連れて来いとやん七に命じるが、私が呼びに行くんですか?…宿の女は…などとやん七が渋っていると、そこに当の庄吉を名乗る男がやって来る。

字、書きますか?ここに名前を書いてみいと言いながら六助が帳面を差し出すと、筆を左手で持った庄吉を名乗る男は、さらさらと相模屋庄吉と書いてみせる。

左手で書きよりますわ…とやん七が驚くと、左の腕を見せてみ?と六助が注文する。

すると、庄吉を名乗る男は黙って着物を脱ぎ、左手を全部出してみせる。

すると、左胸から肩にかけ、見事な竜の彫り物があるではないか!

それを観た六助は、ほな、これ…、庄吉でんがな…と言うしかなかった。

やん七も、親分!別嬪やのに、可哀想やな…とおふじの方を哀れみの目で観るようになる。

酒飲み、盗人、置き引きの言うこと聞いてたら長生きしますで…とぼやきながら、やん七と六助が帰ろうとしたので、お願い!行かないで!とおふじは必死に止めようとするが、2人は寮を出て行ってしまう。

しかし、六助は、おふじの言うことも筋が通っている。この辺の役人は何してるんやろ?と、さっきの茶店に戻りやん七と話し合う。

そんな2人の会話を聞いていたのか、奥で同僚と休んでいた役人風の男が出て来て、拙者は伊豆山代官所与力鳴海左平次(島田竜三)と名乗ると、庄吉が生きていたと言うのは真か?と聞いて来る。

庄吉とやらに、たった今会ってきましたと六助が畏まって教えると、それは妙だな?庄吉なら、2月の始め、品川の浜で死亡と南町奉行所で解決しておると首を傾げる。

たった今、会って来たのだな?と鳴海が確認すると、左利きで刺青もありましたと六助は報告する。

それを聞いた鳴海は、う〜ん…、奇怪な…、今度立ち会ってくれるか?と六助とやん七に頼む。

やがて、とある屋敷の庭に庄吉と名乗る男とおふじを呼び寄せた鳴海は、これなる男が夫ではないと言う確かな証拠があるのだな?とおふじに問いかける。

すると、おふじは、何かを思い出したように、銛を使えば、4〜5間離れていても獲物を捉えますと申し出る。

鳴海は、六助に盛りトマトを持って来いと命じ、六助が銛とカボチャを持って来ると、的になって頂けますか?これもお役目と思いますがね…と鳴海が頼む。

すると、六助は、やん七に的になれと命じる。

私は見物人で宜しおますとやん七は断ろうとするが、どうしても断れないと分かると、親分と言えば親も同然、子分といえば子も同然…、こんなカボチャと心中とは…とぼやきながら、カボチャを頭の上に乗せて立つ。

庄吉と名乗る男は一旦右手で銛を掴んだかに思えたが、すぐに左出に持ち代えると、素早く銛を投げ、見事にカボチャに命中させたので、観ていたおふじは混乱してしまう。

鳴海は、この上、まだそなたを患わすのは心苦しいが…、今のところ、男の見当がつかん。その内ぼろを出すだろうと鳴海はおふじを慰める。

するとおふじは突然、大阪の親分さんにお願いがございます。江戸のお咲さんを呼んで頂きたいと申し出たので、それは良い手段だな…と鳴海も感心する。

寮に戻っていた庄吉を名乗る男が、お紋相手に花札をしている所へやった来た勘次は、お咲を呼びますぜと伝える。

すると、庄吉を名乗る男は、絵に描いた通りだな…と呟く。

その夜、布団で寝ていたおふじは、部屋に近づいて来る足音に気づき、誰です?と誰何するが、答えがないので起き上がり、廊下を覗いて見るが誰もいない。

怪しんで、少し廊下を歩いて見るがやはり誰の姿も見つけられなかったので、又寝室に戻り、枕元の水差しから水を飲み、さて、蒲団に入ろうと掛け布団をめくると、髑髏と文字が書いた紙が入っていたので仰天する。

汝の夫の行方を知りたければ…と書かれてあった紙をおふじから見せられた鳴海は、これは金子を脅し取ろうとする企みだと思うと推理を聞かせると、再び、お白州に庄吉を名乗る男を呼びだすと、本物の庄吉は、柴の 寺に永眠している。これから確たる証拠を見せる!と言い渡す。

そこに六助とやん七がやって来て、江戸から連れて来たお咲が付いて来る。

庄吉と名乗る男の顔を見たお咲は、兄さん!と呼びかけて男にしがみつく。

同行した勘次とお紋、さらには、番頭久助までが、これは何があったと言うのです?と言いながら、庄吉と名乗る男に尋ねるので、今、つまらない嫌疑がかけられているんだ…と庄吉を名乗る男は説明する。

お咲は、おふじを睨み、兄さんに何の恨みがあるんです?と言葉を投げかけたので、私は呪い殺される…と呟き、おふじは失神してしまう。

倒れたおふじの身体を六助とやん七が運び出す。

しかし、江戸南町奉行所の調べに手違いがあるとも思えん…、江戸へ向い、墓を暴こうと思う。その方も同行せよと庄吉と名乗る男に命じたので、お咲は、それは何のため?と気色ばむが、庄吉と名乗る男の方は、致し方ございません。御供しましょうと答える。

翌朝、お咲を籠に乗せ、一行は江戸へ向かう。

鳴海左平次様とおっしゃる方が和尚さんに取り次いでもらいたいと参りましたと小坊主が言うので、法勝寺住職の恵海和尚が会うことにする。

恵海和尚に対面した鳴海は、お願いした墓を暴かせてもらう。仏の名を騙るしたたかな奴がいるので…と説明すると、相模屋さんの名を?と和尚は驚き、この方でござると連れて来た庄吉と名乗る男を紹介すると、この男は庄吉ではござらん!と恵海和尚は断定する。

しかし、お咲がそこにおり、兄はここにいますと言うのを聞くと、合点がいきませんと不思議がる。

庄吉と名乗る男は、和尚さん、生きて自分の仏を見るとは思いませんでしたが、手前の墓を見せて頂きましょうと頼む。

墓地にやって来て、自分の墓の前にやって来た庄吉を名乗る男は、確かに手前の墓だな…と納得する。

鳴海は六助に墓を暴くよう命じ、又、六助はその嫌な役目を子分のやん七にやらせる。

やん七はおっかなびっくり墓を掘り始めるが、その時カラスが泣いたので、カラス〜♪何故鳴くの〜♪と歌いながら掘り進め、何とか棺が出て来る。

六助、開けと鳴海が命じたので、お前、開けてみせいやと、又、やん七に命じると、怯えたやん七は、棺桶に片足を突っ込んでしまい、棺に喰われた!とわめきだす。

いら立った鳴海が、自ら蓋を開けてみると、中には白い布と紙切れがあるだけだった。

紙切れには「庄吉殺害の犯人は」とだけ書かれていたので、この紙片の半分が落ちてるかも知れん、探せ!と連れて来た部下たちに命じる。

これで、手前が相模屋庄吉と分かって頂きましたか?と庄吉と名乗る男が鳴海に確認する。

おふじは、訳が分からず卒倒しそうになるが、それを庄吉と名乗る男が連れて行こうとするので、どこへ連れて行くのだ?と鳴海が聞くと、手前の女房をどこへ連れて行こうとお指図を受けることでもございますまいと平然と答える。

部下たちは、どこにも紙片の半分はありませんと鳴海に報告する。

布団の中で目覚めたおふじは、自分が部屋の中で寝かせられていることに気づくと、障子を開けて見るが、そこには太い格子がハマっていた。

別の商事を開いても同じで、そこは完全に座敷牢になっていることに気づき、助けて〜と叫ぶが誰も答えない。

うろたえて部屋の中を走って移動しているとき、足下に置いてあった壺に足が当たり転がしてしまうが、その中から、庄吉にもらったあの簪が転がり出たので驚く。

気がつくと、庄吉と名乗る男が、格子の外に立っていたので、何故私をこんな目に?と聞くと、病気が直るまでここにいるんだと庄吉を名乗る男は言う。

庄吉さんがどこかに生きていると言うことをあなたは知っているでしょう?棺桶に紙切れを入れたのはあなたでしょう?あなた自身が犯人です!助けて〜!人殺し〜!とおふじは男に詰め寄る。

そんな相模屋に、見るからに怪し気な祈祷師2人が、噂を聞いたと言ってやって来る。

玄関先で勘次は追い返そうとするが、そこにやって来たお紋が、勘次さん、頼んでみたら?と勘次の着物の袖を意味あり気に引っ張りながら言うので、2人の祈祷師を座敷牢に案内する。

やがて、おふじを前に奇妙な祈祷を始めた2人だったが、案内して来たお紋が立ち去ると、2人はそれぞれ、カツラとヒゲを取ってみせる。

それを観たおふじは、親分さん!と驚く。

2人は六助とやん七だったのだ。

分かりましたか?役人たちが今、頑張っていますと励ますが、お紋がお茶を運んで来たので、慌ててカツラとヒゲをつける。

お紋は、そんな2人に、病が重いですからここに籠っても良いと主人が申しておりました。何分よろしくお願いいたしますと伝える。

その夜、カツラとヒゲを外して、屋敷内の一室で寝ていた六助は、やん七、仕事や。おふじさん、助けに行くんやと言って起き上がる。

これが巧くいったら、遠い江戸でも俺たちは有名になると六助が言うと、遠いことあらしまへんがな、飛行機に乗ったらあっという間でっせとやん七がぼけたので、アホ!飛行機みたいなものがあるか!と叱りつけ、2人はこっそり廊下に出て、おふじの部屋を探すことにする。

ところが、突然暗闇から現れたお紋が、もし!まだお勤めですか?と聞いて来たので、慌てた六助は、ちょっと用足しに…と行ってごまかそうとするが、お二人で?と突っ込まれたので、こいつが恐がりでして…とやん七を指してその場を逃れる。

寝室に戻って来たやん七は、そやからあかん言うたやろ!と文句を言うが、六助はめげず、もう一回行ったろ…と言うと、部屋を出て、暗い廊下を四つん這いに進み始める。

すると、今度は勘次がどちらへ?と話しかけて来たので、ちょっと用足しに…と答えると、春にしては冷え込む晩ですな…と勘次が皮肉を言う。

渋々部屋に戻って来た六助に、待っていたやん七が、親分、良い考えがあります!と言い、何事かを耳打ちする。

それを聞いた六助は、なかなかええ頭しとるなと感心する。

すると、やん七も、「能あるブタはへそを隠す」などと訳の分からない自慢をする。

翌日、座敷牢の中に集められた家人たちには全員番号札がつけられていた。

1番が庄吉と名乗る男、2番がお紋、3番が勘次、4番が六助、5番がやん七、6番がお咲、7番がおふじ

これから数のおまじないをしますと言い出したやん七は、まず6番の方、表に出て頂きますと指示し、お咲が牢の外へ出る。

次に1番の方、外へ出て、今の6番の方の手を引いて戻って帰って来ておくれやすと指示し、おふじが外に出て、廊下で待っていたお咲の手を引いて牢の中に戻って来る。

6から1を引くと5!では5番の方外へ出て頂きますと指示すると、勘次が外に出る。

2番の方が外へ出て今の5番の方を連れ帰って頂きますと指示すると、お紋が外に出て、勘次の手を引いて牢の中に戻って来る。

5ー2=3!では3の方外へ、4の方引きに出て頂きますと指示すると、六助親分が出て、次に5番のやん七が出て、どうだす?巧く牢を出られましたやろ?と言うので、あほ!おふじさん出てないやないか!と六助は怒る。

では次にかけ算で行きますと言い出したやん七は、何とか自分たち2人とおふじを牢の外に出すことができたので、座敷牢の鍵を外からかけて無事逃げ追うせることができる。

法勝寺まで逃げ出して来た六助たちから話を聞いた鳴海は、いささか合点の行かぬことがある。易々手引きしたのは何か訳があるはずだ。念のため、1人でも山内に忍び込んだら引っ捕らえろ!と配下の者たちに命じる。

おふじは六助とやん七に、これからも力になって下さいとすがりつく。

六助が鳴海に、旦那、死体はまだ?と聞くと、庄吉の死体さえ見つかれば言い逃れ出来まい。行方不明になっている五百両の行方も気になる…と鳴海は答える。

法勝寺の山門を見張っていた六助とやん七は、小坊主が水を桶に汲んで階段を登って来るのを観て、寺には井戸はないのか?と聞くと、2月の、あのおじさんが来た頃から使えなくなったと、近くにいた寺男を指して小坊主が言うので、井戸の中が臭いぞ…と六助は気づく。

その夜、やん七に綱の端を持たせ、六助が綱につかまって井戸の中に入ってみることにする。

やん七は、重いな〜、親分…などと、又愚痴を言いながら綱を引いていたが、その時、井戸の縁にどこからともなく小柄が数本投じられ刺さる。

肝を潰したやん七は、思わず持っていた綱を放し境内の方へ逃げるが、そこにも小柄が飛んで来たので、ああ〜、怖い!とやん七は叫ぶ。

後ろ向きに部屋の中に逃げ込んだやん七は、そこに安置してあった棺桶から、血まみれの手が出ていることに気づかず、後ろ向きにその手にぶつかったので、何だろう?と握って振り向き、手だと知ると、ヒエ〜!と叫んで暗い部屋の中を逃げ出し、柱に頭をぶつけて気絶してしまう。

そこにおふじがやって来て、棺桶を見つけたので、思わず、庄吉さん!と声をかけながら蓋を開けてみると、そこには血まみれの庄吉の身体が入っていた。

やっぱり庄吉さん!とおふじが確認すると、急に庄吉は目を開き、ムクリと棺桶の中で起き上がったので、怯えたおふじは逃げようとするが、いきなり部屋の灯が消えて真っ暗になってしまう。

異変に気づいた鳴海が駆けつけると、その部屋には気絶したやん七がいるだけだった。

一方、井戸の中に取り残されていた六助は、水かさがやけに少ないことに気づき、足下を探ると小判があったので、もしやと思い、足下の箱を持ち上げると、それは千両箱だった。

そのとき、六助ご苦労だった!と井戸の上から声をかけて来たのは、庄吉を名乗る男だった。

金の隠し場所が井戸の中と気づいたのは立派だ。今、助けてやる!そう庄吉と名乗る男は呼びかけて来るが、綱を引き上げようとしていた庄吉と名乗る男に、いきなり斬りつけて来たのは鳴海左平次だった。

悪あがきは止めろ!庄吉は生きていたぞ!と鳴海は言い、庄吉と名乗る男は井戸の中に落ちる。

そこに、配下の者が駆けつけて来て、山内くまなく探しましたが、庄吉は見つかりませんと鳴海に報告する。

井戸の底には六助と庄吉と名乗る男が、ことの推移を待ち構えていた。

井戸の近くに勘次が近づいて来たので、鳴海は、一人残らず取り押さえろ!と配下の者たちに命じる。

その時、どうだ?勝負は最後の最後まで分からぬものだろう?と鳴海に言ったのは、いつの間にか井戸から脱出していた庄吉を名乗る男だった。

鳴海は、逃がすな!と家来たちに命じる。

この騒ぎを知った恵海和尚は、おふじを連れて、別邸の方へと逃げ、難を避ける。

そんな和尚とおふじの前に立ちふさがった庄吉と名乗る男は、逃げ出す前に聞かせてやろうと言葉をかける。

祝言する前から準備は出来ていたんだ。可哀想なのは庄吉さんだ…と庄吉を名乗る男は続ける。

その時、御用だ!御用だ!と山内に入って来た捕手たちが、鳴海たち一味を取り囲む。

拙者は伊豆山代官所与力鳴海左平次だ!御主は町奉行の手先か?と鳴海が聞くと、いかにも…、南町奉行所与力速見源太郎!と庄吉を名乗っていた男は正体を明かす。

おふじ!御主は左平次と示し合わせ、5万両を奪った後、庄吉の命をも狙った!凶器はこの矢!伊豆山の寮で仏壇の中で、位牌に刺さったこの矢を観て気絶したのが動かぬ証拠!

その方が自白するのを待っていたんだと速見が言うと、みんな、この人が!と鳴海を指したので、鳴海は怒りに駆られてその場でおふじを斬り殺す。

左平次!神妙にいたせ!と速見は言い、鳴海一派と斬り合いが始まる。

そんな中、恵海和尚も掴まるが、和尚は、わしは知らんのだ!とわめく。

鐘突き堂の前に追い込まれた鳴海は、もはやこれまでと観念したのか、その場で自ら切腹して果てる。

そして鳴海は、先に死んでいたおふじの横に倒れ込む。

捕手が捕まえて来た寺男を観た速見は、手代の銀造(浜田雄史)だな?店の金を使い込み、相模屋の金を奪う計画に加担したであろう!と速見は迫る。

そこにやってきたお咲、網元の源兵衛、本物の庄吉が、速見様、ありがとうございました!と礼を言う。

速見は、お咲や源兵衛の芝居が巧かったと褒める。

さらに、茗荷屋の勘次には、悪役勤めご苦労だった。今夜はゆっくり女房をねぎらってくれと、お紋のことを言う。

翌日、旅支度の武士の姿になって江戸を西に向かう速見に同行することにしたやん七と六助が、速見の旦那…と何か聞きたそうにするので、庄吉が生きていたことだろう?と察した速見は、実は矢を射られた庄吉は、幸い額をかすっただけで無事だったのだ。

翌日、お咲さんが南町奉行に申し出た時、裏があると睨んだ私は二つ棺桶を用意しておき、恵海和尚にも分からぬように、すり替えておいたのだと説明する。

寺で小柄を投げたのは?と聞かれた速見は、左平次だと教える。

すると、すっかり感心した六助が、記念に旦那のサインを…と捕物帳を差し出すと、受け取った速見は右手ですらすらと速見と書き始める。

右手でも書けますのんか?とやん七が驚くと、そうか…、左手で書く方が今回の幕切れにはふさわしいかな?と言い、筆を左手に持ち替えた速見は、源太郎と書き終える。

茶店の前まで来た時、店の前に停めていた駕篭かき(市川雷蔵)を観た六助は、良い男だな〜!良う似とる、わいに…と感心する。

駕篭から降りたのはお咲で、兄から長崎にお発ちになると聞いたもので、お見送りに…、お恨みしますと速見を睨みつける。

すぐに帰って来ますと笑った速見は、では元気で!とお咲に会釈し、歩き始める。

それに随行しかけた六助は、これを記念に…と言って、今速見からサインをもらった捕物帳の一枚をお咲に渡すと、裏も観ておくんなさいよと言い残し、速見を追いかけて行く。

「速水源太郎」と名前が書かれた紙の裏を見ると、そこには「恋の往復切符」と洒落たことが書いてあったので、お咲は、まぁ!と言って喜ぶ。


 

 

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