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夜の罠

若尾文子主演のサスペンススリラー。

若尾さんと言えば、何となく昔から「大人の女性」のイメージが強く、自分とは縁遠い存在に感じていたので、積極的に作品を観る事もなかったのだが、この作品はミステリ映画と言うことなので観てみる事にした。

原作も読んだ記憶がなく、この映画を観ただけの印象だと、かなり通俗なスリラー仕立てになっている。

自分の亭主に殺人の疑いがかけられ、その無実を暴こうと、若い妻が単身事件解明に動き出す…と言う設定そのものが良くあるパターンで嘘くさいのだが、それに加えて、会う男たちが全員不自然なほど怪し過ぎる。

異常な状況が続き、通俗サスペンスとしては面白いのだが、現実離れし過ぎているような気がしないでもない。

通常、この手のパターンのミステリだと、ヒロインを助けて一緒に捜査を手伝うイケメン男性が登場するはずなのだが、この映画の場合、終始、若尾さん1人が行動している。

その分、サスペンスとしての恐怖感は倍増している。

野卑な労務者が溢れ返っている山谷や、得体の知れない病院、怪し気なキャバレーなど、通常、若い女性が1人ではとても足を踏み入れないような場所にヒロインは果敢に潜入して行く。

それを、勇気があると観るか、無謀な行動と観るかで、この作品の印象も変わるのではないだろうか。

冒頭の、浮気を知った妻が、亭主と別れるのではなく、自分の元へ取り戻そうと決意する辺りからも、このヒロインの負けず嫌いの性格が見えて来る。

終始、強気の女性なのだ。

それを「愛のために」と解釈すると美談になるが、男の目から観ると、少々煙ったい存在のようにも感じる。

援助する男がいないので、ピンチのたびに、ヒロインは御都合主義的に救われて行く。

その辺が、男の目線で観ていると噓っぽく感じるのだが、女性版クリフハンガー(危機又危機の連続活劇)のようなものと割り切るべきなのかも知れない。

ヒロインが出会う男たちを演じているのはみんな個性派の人たちだが、特に、最初に会う松谷役の成瀬昌彦さんは強烈。

映画の「多羅尾伴内 十三の魔王」(1958)「月光仮面 幽霊党の逆襲」(1959)「遊星王子」(1959)、TVの「ウルトラセブン」(1968)「ひとりぼっちの地球人」の仁羽教授、「第四惑星の悪夢」のロボット長官など、子供向け作品でもお馴染みの人で、インテリ役から悪役まで何でも似合う超個性派である。

ところで、この作品、犯人の犯行動機を、特定の病気に起因するかのような描き方になっており、今では誤解を招きかねないとしてなかなか公に出来ない設定ではないかと思う。

後、つまらない事なのだが、キャバレーで若尾さんが捕まるシーン。

後ろ手にロープで縛られ…、同じようにロープの束で口元を縛られているのだが、あれでは猿ぐつわにならないのではないかな〜…と思って観ていたら、次のカットでは、手ぬぐいみたいなもので口元を縛ってあった。

その手ぬぐい、どこから出て来たの?と突っ込みたくなった。

編集ミスなのか?

それとも、やはり、主演女優の顔をロープの束で隠すのは様にならないので、縛っているシーンは「忘れた事」にしてしまったのか?

口元を縛っているシーンを撮り直せば良いようにも思うのだが、時間がなかったのかも知れない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映、コーネル・ウールリッチ原作、舟橋和郎脚本、富本壮吉監督作品。

女は戸川麻美(光実千代)と言うバーのホステス、2人派ホテルにも一緒に入りましたし、ご主人は女の部屋にも行った…と、スライド写真を見せながら説明する探偵(小原利之)の話を見終えた主婦真鍋藍子(若尾文子)は、信じられないような顔で調査料を払うと探偵事務所を後にする。

こんな事許さないわ!でもあんな女のために別れるなんて…、そんな事ってないわ!

夫の浮気に愕然としたまま団地の一室に帰って来た藍子は、夫真鍋赫也(高橋昌也)と愛し合って来たこれまでを回想しながら、彼は、あの女に騙されているんだわ!今からだって取り戻せる!彼を失うなんて出来ない!決して!と心の中で叫んでいた。

その後、タクシーで、戸川麻美のアパートを訪れた愛子は、ブザーを鳴らしてみるが返事がない。

何気なくドアノブを握ると、鍵はかかっておらず、あっさり開いたので、ごめん下さいと呼びかけながら玄関先に入ってみる。

観ると、部屋の中はかなり合わされており、人がいる気配はなかった。

その時、玄関脇に置かれていた電話が鳴りだす。

驚いた愛子はしばし様子を観ていたが、何度も電話が鳴るので、思い切って受話器を取り耳に当ててみる。

すると、もしもし?麻美かい?と言う声が聞こえて来たので、慌てて電話を切ってしまう。

間違いなく、夫の声だったからだ。

その時、電話の側に置かれていた手帳のようなものに気づいたので、取り上げて中を確認すると、それは個人用の電話番号手帳で、中に「真鍋」と夫の名前と電話番号も書いてあった。

その後、何気なく、奥の寝室の方へも目をやった藍子は、そこで電気スタンドのコードで絞殺されている麻美の死体を発見する。

仰天した藍子はすぐに逃げようとするが、もし彼が関わり合いになったら…と思いつき、電話の横の電話番号手帳を取り上げると夢中で部屋を後にする。

タイトル

絞殺される麻美の様子のハイコントラスト映像をバックにキャスト、スタッフロール

団地の部屋に戻って心の動揺を抑えていると、12時5分過ぎだと言うことに気づき、夫の会社に電話を入れてみるが、係長さんは5分ほど前に出かけた。食事だと思うと、電話を受けた日東工機の女事務員(池上綾子)が言う。

戻ったら、うちに電話をするように伝えてくれと頼み一旦電話を切るが、心の中では、あなた!あそこへ行ってはいけないわ!と叫んでいた。

その後も夫からの連絡がないので、堪り兼ね、もう1度会社へ電話を入れるが、先ほどと同じ女事務員が、まだお帰りじゃないと言うだけ。

その直後、突然玄関から入って来た刑事と思しき男とたちが、真鍋赫也に殺人容疑で逮捕状が出たんですよ!中を捜査させてもらいますと言い、ずかずかと入り込んで来る。

うちの人じゃありません!お昼過ぎまで会社にいたんですから!12時5分に会社に電話したら、5分ほど前に出かけたと言ってましたと藍子は訴える。

私、あの女のアパートに行ったんです!11時半頃です。あの人死んでたんです!とまで告白した藍子だったが、刑事は冷たく、ご主人を留置する。犯行時刻は昨夜の6時~8時で、ご主人はその頃なら行ける。電気スタンドにご主人の指紋がついていたんだ!と言うではないか。

その後、警察署にで向いた藍子は、担当している野口警部補(上野山功一)に、もし主人が殺したのなら、女の所に電話をかける訳がありません。私が出ると、麻美かい?って言ってましたと藍子は説明するが、野口は信用しようとせず、奥さん、噓を言ったら偽証罪になるんですよと脅す。

殺人が行われたのが昨日なら、今日も来たのは変ですとも言ってみるが、我々の姿を観てご主人は逃げようとしたんです。無実の人間が何故逃げるんですか?と野口は逆に問いかけて来る。

拘置所に収容された夫に面会に行った藍子は、係官から面会時間は5分と言われる。

あなたを責めるつもりで来たけど、やっぱり言えないわと藍子が言うと、すまない、心配かけて…と真鍋は言う。

お身体は?と案ずると、大丈夫だと言うので、起訴状読んだわと伝えると、君にはあの女のことを謝らなければいけない。つい出来心だったんだ…、それが段々…、でも、あれは俺がやったんじゃない!起訴状は全部でたらめなんだ。電気スタンドに指紋がついているのは当然なんだ。何度も触った事があるから…。13日の晩、アパートへ行ったが、麻美はいなかった。留守だったんだ。それなのに、検事も刑事も俺がやったと思ってる。やったとしたら、翌日も行ったと思うか?

逃げたのは、関わりたくなかったんだ!と真鍋は訴えて来る。

それを聞いていた藍子は、とうとう帰って来た。私の元へ!もうどこにも行っちゃ嫌よ!と心の中で安堵する。

その時、係官が時間ですと声をかけて来たので、真鍋は、君、身体は大丈夫か?週刊誌なんかが押し寄せて来るだろうと案じて来たので、私なら大丈夫よ!と藍子は気丈にも答える。

その後、公判が開かれるまでおとなしくしてくれと言う弁護士に無理を言い、検察庁の丸山検事(丸山修)にも会いに行った藍子だったが、どんなに夫の無実を訴えても、露骨に迷惑がられ、君!連れて帰ってくれたまえ!と同行した弁護士に言い放つだけだった。

団地に戻って来た藍子は、周囲の主婦たちが、あそこのご主人、死刑よなどと噂している声が耳に入って来る。

何とかしなくちゃ!このままでは、彼が犯人にされてしまう!藍子は心の中で叫ぶ。

弁護士も当てにならないし…、私の力で真犯人を見つけることができるだろうか?でも彼がやったんじゃない!だって、あの電話が…とそこまで考えていた藍子は、そうだ!すっかり忘れていた!と麻美の部屋から持ち帰って来た電話番号手帳の事を思い出す。

そこには、数名の名前と電話番号が書かれてあり、彼女の男関係…、この中に犯人が!と藍子は考える。

松谷と言う名前は消してあったが、案外、そう言う男が犯行を犯さないとも限らない…と考えた藍子は、まず、その消されていた松谷と言う名前の番号に電話してみる。

しかし、電話に出た女性は、うちは松谷ではないと言う。

不思議に思った藍子が、松谷と言う方をご存じないですか?と聞くと、あの人かしら…と答えた女性は、2年ほど前、うちの部屋を貸していた人で、芝居の台本を書いていたわ。ある日、ラジオドラマに当選したと言っていた…、松谷敏郎さんと言ったかしらね…と、相手の女性は思い出す。

今どこにいるか分かりますか?と聞くと、そう言えば、山谷で見かけたって人がいましたよと下宿のおばさん(村田扶実子)は言う。

藍子は単身、山谷に向い、野卑な男たちが声をかけて来る中、交番で松谷敏郎なる人物を捜していると聞いてみるが、ここには250軒ものドヤがあり、1万3000人の労務者がいるんだと警官は呆れたように教えてくれる。

やむなく、一軒ずつ宿を探し始めた藍子だったが、事情を聞いた女将(橘喜久子)は、玉姫公園に朝行ってみたら?朝番と言って職を待っている立ちんぼがいるからそこで聞いてみたら?と言う。

言われた通り、翌朝、玉姫公園に出向き、松谷敏郎って言うラジオドラマを書いている人を知りませんか?と聞いて廻ると、ラジオ屋なら、涙橋の一杯飲み屋にいるんじゃないかと言うものがいた。

早速、その飲み屋に行き、ラジオって人いませんか?と店の者に聞くと、テーブルで飲んでいた男を教えられる。

その男こそ、変わり果てた松谷敏郎(成瀬昌彦)その人だった。

私、戸川麻美さんの友達なんですと話しかけると、戸川麻美は俺の女房なんだ。いまここにいた!などと言い、テーブルの隣の椅子を指したりする。

あんたもバーに勤めているのかい?と聞いて来たので、ええと、とっさに噓を言い、聞いたんですけど、ラジオドラマに当選したんですって?と問いかけると、相好を崩し、藍子を連れ自分のドヤに連れて行く。

ところが、入口にいたドヤの主人(伊達正)が、売春防止法を知らんのか!ベッドに女を連れ込んでは行けないと文句を言うので、この人は客だと松谷は反論するが、だったら個室を借りてもらいましょうと言うので、藍子が自ら個室代300円を払って、ドヤの奥にある個室に向かう。

個室に入った松谷は、酒を勧めて来たので、飲めませんのと藍子が断ると、バーの女のくせにか?と松谷は怪しむ。

それでも、昔はちょっとしたもんよ。麻美との恋愛を書いたドラマが当たって、いっぱしのドラマ作家だったんだと嬉しそうに松谷は話しだす。

今でも新聞読みますか?と聞くと、読まないと言うので、麻美が死んだの知ってます?と教えると、酷い殺され方だなどと言うので、どうして知ったの?と聞くと、どうしてだか分からないと松谷ははぐらかす。

ストッキングで絞め殺されたんですわと噓を言うと、違う!電気スタンドのコードだ!と言うので、6条の居間で殺されたんですわと又噓を言うと、寝室だ!と松谷は訂正して来る。

あそこに行ったんですか?と聞くと、俺はあそこに行きやしねえ。麻美が俺が来るのを嫌がるんだ。俺の身なりがみすぼらしいので嫌だったんだろう…と哀し気に松谷は言う。

新聞を読まない人がどうしてそんなに詳しく知ってるんですか?と問いつめると、お前、しつこいぞ!と松谷は睨んで来る。

私、麻美が殺された時あそこにいたの。犯人を観たの!とカマを賭けてみると、本当か?何故助けようとしなかった!と松谷が興奮して来たので、お風呂場で裸だったのよ。私、犯人の顔を良く観たわ。警察でもしゃべらなかったわ、関わり合いになりたくないから…と藍子が噓を重ねると、じゃあ、知っているのはお前だけか?と松谷は念を押して来る。

殺す!仇を討ってやる!言え!お前は知ってるんだろう!と言いながら、突然、興奮した松谷がつかみ掛かって来たので、驚いた藍子は個室を出て宿から逃げようとする。

しかし、入るときから場違いな藍子に目を付けていた宿の客たちが藍子を取り囲み逃がすまいと妨害する。

騒ぎを知ったドヤの主人が間に割って入り、藍子を逃がしてくれたので、藍子は、外にも大勢いる労務者たちの好奇の目を縫って逃げ出して行く。

団地に戻って来た藍子は、電話番号手帳の松谷の名前の横に小さく×印を書く。

続いて、森戸と書かれた番号に電話をしてみると、森戸医院ですと言う声が聞こえて来たので、そちらを知人から紹介されたので、診察を受けたいととっさに答えると、午前中だけですと看護婦らしき相手が言うので、場所を聞いて出かけてみる事にする。

表札に「森戸次郎」と書かれた一見病院とは思えない塀に囲まれた一軒家のような所だったが、恐る恐る入ってみると、看護婦らしき女性が顔を出して来たので、先ほどお電話した者ですが…と名乗ると、診察室に案内される。

出て来た森戸次郎(南原宏治)は、医者らしからぬ男で、何の専門なのかも分からない。

名前を聞かれたので、小島藍子と噓を言ってみる。

年齢も聞かれたので、26才、結婚はまだでございますと、これ又噓を並べる藍子。

私の事はどなたから?と聞いて来たので、亡くなった戸川麻美さんからですと答えてみると、お気の毒な目に遭いましたな…と、麻美の死を知っている様子。

先生とは特別な関係があるって言ってましたわ。私、麻美さんから全部聞いていますとカマをかけてみると、ではあなたは万事ご存知と言うことで、麻美同様、私と特別な関係になりたいと言うのですな?と森戸は藍子に確認し、ベッドに寝なさいと命じる。

おとなしく藍子が診察台の上に横になると、横に立った森戸は、いきなり藍子のタイトスカートをまくり上げようとしたので、何をなさるのです!と藍子は身を堅くして気色ばむ。

そんな藍子の様子を観ていた森戸は、どうも腑に落ちん…と呟くと、勝手に藍子のハンドバッグの中味を改めだす。

そして、あんたの家は?管理人の電話番号は?と聞いて来たので、正直に団地の名前を答え、本名の真鍋姓も打ち明ける。

森戸はその場から、藍子に聞いた団地の管理人に電話を入れ、真鍋さんの職業を聞くと、サラリーマンをしていましたが、今は刑務所ですと管理人は答える。

その管理人から名前を聞いた森戸は、藍子に管理人の名前は?と確認して来る。

横井さんですと藍子が答えると、ようやく森戸は納得したのか、旦那は何年食らったんだ?と聞いて来たので、まだ未決なんですと藍子は答える。

あんた、それで困ってここに来たのか?と森戸は聞き、じゃあ、あんたには麻美の代わりをやってもらおう。今度の土曜の夕方7時、もう1度ここへ来たまえ。看護婦は帰らせておくから、裏から来たまえと言う。

翌日、夫の会社に給料を受け取りに行った藍子は、給与係(武江義雄)から、来月分からは差し上げられません。ご主人は休職扱いになりましたからと言われる。

夫との次の面会日、裁判が決まるまで休職扱いになり給料が受け取れなくなる。無罪になると元通りになると言うので、私、あなたをここから出してあげるわと藍子が伝えると、罪を犯してないのに、永久にここから出られないような気がするんだと真鍋は弱気を見せる。

藍子は、そんな真鍋に、私も頑張るから、あなたも頑張って!と勇気づける。

次の土曜の夕方7時、約束通り病院へ行った藍子だったが、何となくためらいながら塀の中に裏口から入ると、暗い裏庭から懐中電灯を照らし、森戸が待っていた。

ドアの外で何を考えていた?ああ言う事は変に思われるな…といきなり聞かれたので、まだ7時前だったので…と、とっさに噓を言うと、もうとっくに7時は過ぎている。こっちへ来たまえと森戸は呼び寄せ、裏庭にある建物の中に案内する。

そこは、汚れたタイル張りの手術室のようになっており、森戸は付いて来た藍子を振り返ると、怖いのか?震えとるな?先方には話をつけてある。このバッグが目印だ。中を開けてみたまえと白いバッグを渡して言う。

開けて観ると、中にはピースの箱が入っていた。

そのピースの中にブツが入っている。20万だ。開けてみろと言うので、ピースの箱を開いてみると、中に麻薬らしき白い粉がビリール袋に入れられ入っていた。

場所と合い言葉は暗記するんだ。場所は渋谷大和田町、太陽パチンコだと言う。

そのパチンコ屋に行ってみた藍子は、店の前で辺りを見回すと、電車の中でも観た男が近くに立っているのを見つけ、森戸が監視させているのだろうか?と疑う。

それでも藍子は、右奥の一番奥の台でパチンコをやれと言う森戸の指示を思い出しながら、店に入るとその通りにする。

隣に座った客がマッチを貸してくれと声をかけて来るから、後は相手の指図に従うんだと森戸は指示をしていた。

やがてその言葉通り、隣に座って来た客が煙草をくわえ、マッチを貸してくれませんか?と声をかけて来たので、ええと言いながら、藍子はバッグの中に入っていたマッチを貸す。

するとその男は、一番向うの列の57番で打っている奴が相手だ。ブツはこれで渡すんだと言いながら、パチンコを入れるプラスチック容器を示す。

指示通りに、57番で打っていた客の隣に座った藍子が、玉入れ容器にピースの箱を入れてそっと横に滑らせると、素早くそのピースを受け取った客は20万の札束を同じよう気に入れて戻して来る。

浴びえながらも藍子がそれをハンドバッグに入れようとしていた時、突然乱入して来た刑事らしき男が57番の男を捕まえようとする。

刑事にぶつかった藍子は、思わずハンドバッグを落とす。

客は逃げ出し、藍子も急いでハンドバッグを拾い夢中で逃げ出すが、途中でハンドバッグの中に入っていたはずの札束が入ってない事に気づく。

落としたと気づき、急いで店に戻って床を探しまわるが、もう札束は見つからなかった。

どうしよう…と呆然としながらも、取りあえず森戸の所へ戻り、2度目の時に刑事に見つかり。お金は逃げる時、落としてしまったんですと弁解するが、作り話じゃないだろうな?待ってろと言い、森戸はどこかに電話を入れる。

電話の相手は、え!パクられた?その女はサツの回し者か?と疑う。

その言葉を聞いた森戸は、分かった…、女は私の方が始末しましょうと返事をし電話を切ると、注射器に何やらアンプルの薬を吸い上げる。

そして、その注射器をさりげなく持ち、手術室へ戻って来た森戸は、あなたの報告は違うようだな。刑事はあんたと一緒に店に入ったそうだ。あんたが密告したんだ!とんだ食わせ物だな…と決めつける。

藍子は必死に、警察なんかに言ってません。信じて下さい!と懇願するが、迫って来た森戸の手に持った注射器に気づくと、殺されると察し、汚れた手術室から逃げ出そうとする。

しかし、扉には鍵がかけられており逃げられない。

追って来た森戸が注射器を突き立てようとするので、必死に身をかばう藍子だったが、そこに、扉をこじ開け、刑事たちが飛び込んで来て、森戸と藍子は一緒に捕まってしまう。

藍子も麻薬密売の一味と思われ、留置場に入れられる。

その後、藍子はタクシーで団地に帰ってくる。

野口警部補が身元引き受け人になってくれたのだった。

部屋に戻って来た藍子は、玄関先まで送ってくれた野口警部補に、麻美の電話番号手帳を渡す前に、残りの名前と電話番号を急いでメモし、素知らぬ顔で手帳の方を渡す。

それをざっと観た野口は、この4人に目を付けたって訳ですね…と事情を察し、でも、森戸次郎はシロですよ。彼は長年ムショに入っており、最近出て来たばかりで、13日の晩はムショに入っていた。この連中は我々が他の栓から全部当たったが、あなたの旦那以外は全部シロだった。今後はもう危険な真似はしない事。あんたがもうしないと言うから俺が引き取ったんだよと言い聞かせ、野口は帰って行く。

それでも懲りずに、藍子は、メモしていた馬場と言う名前の電話番号にかけてみる。

出て来た女性は、明和製薬と名乗り、馬場さんは?と聞くと、馬場部長ならおりますがと言って男の声に変わる。

藍子は、自分はお知り合いの友達なんですが、小島藍子と申しますと名乗る。

すると馬場は、あなたは僕を知っているんですな?と聞いて来たので、あの方から手紙は届いておりませんか?とカマをかけるといいえと言う。

どうしてもあなたとお会いしたいんですが…と申し出ると、内密なお話でしたら、今日の夕方6時、銀座の三光ビルの中に「マルセイユ」と言うレストランがありますから、そこでお会いしましょうと馬場は言う。

目印用に、菊の花を買って、胸につけていて下さいと馬場は指示して来る。

その指示通り、白い菊の花を胸に付け「マルセイユ」のテーブルに座っていると、ウエイターがやって来たメニューを見せる。

何気なくメニューを見ると、そこには「遠くから眺めても良し菊一輪」と、妙な俳句のような言葉を書いたメモが挟まっていたので、藍子が戸惑うと、ウエイターもそのメモに気がついたようで、存じません、全然と自分は関知していないと言う。

藍子は取りあえずブドウ酒を注文する。

ウエイターが下がった後、店の中を見回してみた藍子は、店の奥に1人だけ初老の男が座っていたのを怪しむ。

そこに、先ほどのウエイターがワイングラスを2個持って来て藍子のテーブルに置いたので、藍子が怪訝そうにしていると、これはお連れ様の分でして…と笑顔で答えたウエイターは、その場で上着を脱ぐと、君、ご苦労さんと奥に座っていた初老の男に声をかけ、服を交換する。

僕が馬場慎太郎ですと、スーツに着替えた馬場が藍子の前に座る。

奥に座っていた初老の男が本来のウエイターだったと気づいた藍子は、悪戯好きですのね、あなた…と馬場に微笑みかけると、テストの結果、私は合格?と聞いてみる。

もちろんですよ、最初に観た時から合格でした、何か食べましょうか?と馬場は笑顔で答えたので、その魅力に取り憑かれた藍子は、不思議な人だわてん、お茶目な所があるのに、ちゃんとした紳士でもある…と感心し、あなた、奥さんは/と聞くと、ありませんよ、そんなもの…と答えた馬場は、いつしか藍子と踊っていた。

馬場は藍子の素性を素人もせず、その方がスリルがありますなどと言うので、どうして御結婚なさらないの?と聞くと、もうすぐするんですと打ち明け、あなたはステキだなどと迫って来る。

しかし、藍子は落ち着いて、私はあなたとは違うわ。あなたの女性関係を知っている方が安心出来るなどと言って誘導するが、馬場はなかなか乗って来ない。

それで、嫌いな女性は?と聞いてみると、最近縁を切ったバーのホステスの話をしだす。

夜だけの交際だったんですけど、僕の秘密を知って脅迫して来たんです。僕の結婚の事を知ったら、100万で黙ってやるなんて言うんです。実は結婚相手と言うのは社長の娘で、彼女と結婚すれば、いずれ僕は副社長の椅子に座れる。人生に二度とないチャンスです。もちろん僕には100満何手出来ない。殺してやりたいと思った。毒入りコーヒーでも飲ませてね。そしたら、僕より先に誰かに殺されたんです。つい先月…、新聞にも出てたでしょう?あの日、僕は大阪に出張してたんです。彼女が死んでくれてほっとしました…などと馬場は打ち明ける。

藍子は、この人の言う事、どこまで本当なのだろうか?と怪しむが、馬場は紳士的に、藍子を団地まで車で送り届けてくれる。

馬場は、誰か君を待っている人いるんですか?などと部屋まで付いて来ようとしたので、久しぶりにお酒を飲んで頭が痛いので…と藍子は言い訳し、車を降りようとすると、じゃあ、お別れのキスを!などと言って、馬場は強引に藍子の頬にキスをして来る。

さすがに、嫌!と身を固め、急いで車を降りた藍子だった。

その後、自宅に戻った藍子は、もう生活費が底をついて来たので、大阪の姉絹子(天池仁美)の所に電話をしてみる。

電話に出たのは、雑貨屋を営んでいる絹子の夫(夏木章)で、絹子はいま出かけていると言う。

実は絹子は夫の側にいたのだが、手を振って、関わり合いになるなと合図していた。

藍子が、少しお金を貸してもらえませんか?大阪へも行かねばならないので10万ばかり…と藍子が言い出すと、それだけの余裕ないわと義兄は断る。

仕方がないので、指から抜けなくなった結婚指輪を質屋に見せに行くが、7000円くらいにしかならないと質屋の主人(南方伸夫)は言う。

売りたくないんです…と言いながらも、背に腹は変えられず、その場で質屋の主人に抜いてもらう事にする。

その資金を元に、大阪に行った藍子は、馬場のアリバイが本当かどうか、馬場の会社の大阪支社に行って事件当日のことを確認してみる。

すると、支社社員(木島進介)は、先月の13日なら、馬場部長は会議で夕方6時まで支社におられたし、夜8時の飛行機で帰るのを空港まで見送ったと言う。

アリバイは完璧だった。

やがて、夫、真鍋赫也の公判が始まる。

検察官は真鍋に死刑を求刑する。

その後、藍子は残っている1人、林と言う人物に電話をかけてみる。

すると、電話に出た相手が、ここは店で、社長なら、今、踊子のテスト中ですと言うので、店の場所を聞き出し出かけてみるとことにする。

外に出ると、何と、馬場が車で待っており、ずっと電話を待ってたんですよ。お出かけですか?今夜又会ってくれませんか?5時にあの店でと誘って来たので、今日は用事がありますので…と断ろうとすると、じゃあ5時半に…と馬場は強引に決め、車で、林と言う男がいるキャバレー「ブランカ」まで送ってくれる。

中に入った藍子は、ダンサーのテストを見守っている男たちのどれが林と言う社長なのか探しあぐねていた。

やがて、ダンサー全員踊り終えたようだったが、社長は全員気に入らないようだった。

その時、背後で立って観ていた藍子に気づいた従業員が、もう一人残っていますと言いだしたので、藍子は慌てるが、仕度をして来てないので…とごまかそうとすると、良いから踊ってみろと言われてしまう。

それで、社長さんにお話があって来たんですと打ち明けると、振り返った林文吉(早川雄三)が、上で聞こうか…と言い、藍子を連れ2階の社長室へ向かう。

社長室に入った藍子を振り返った林は、まだ気がつかないのかね?と言うので、藍子が戸惑うと、一緒に入って来た男がかけていたサングラスを外してみせる。

その男は、森戸に命じられた麻薬の密売の時、パチンコ屋で隣に座り、マッチを貸してくれと言って来た男だった。

林こそ、森戸と麻薬の密売をやっていた黒幕だったのだ。

あんたのために、うちの子分とあのインチキ医者がパクられたんだ!と林は言い、その場で藍子は捕まり、子分たちに後ろ手に縛り上げられ、口も手ぬぐいで塞がれてしまう。

林はサングラスの男に、お前、やれるな?バンドが始まったらやれ。晴海に持って行って沈めるんだと命じ、部屋を出て行く。

サングラスの男は、浴室の浴槽に水を貯め始める。

やがて、気を失っていた藍子は気づき、店のネオン看板がかかった裏窓近くに自分が倒れている事に気づくと、側に落ちていたモップを使い、ネオン看板の後に置いてあった大きな段ボール箱をずらして、開いた窓から外の様子を覗きみる。

その時、店の中のバンドの演奏が始まる。

藍子が店のすぐ前を観ていると、先ほど約束して別れた馬場が車で迎えに来たのが見えた。

あの人、迎えに来てくれたんだわ!と感激した藍子は、後ろ手に縛られた手で落ちていたハンドバッグを拾い上げると、中から口紅を取り出し、それで、ハンドバックの表面に文字を書いて、窓から下にバッグを落とす。

一旦車を降りて店の入口を観ていた馬場は、藍子の姿がないので、諦めて車に戻りかけた所だったが、二階から落ちて来たバッグに通行人が驚いて集まって来たのに気づくと、急いで自分もその人だかりに近づき、バッグを確認すると、「私は殺される」と表面に書かれてあった。

しかし、藍子は、サングラスの男に捕まり浴室に連れて行かれると、頭を湯船に押し付けられる。

その時、パトカーのサイレンが近づいて来たので、サングラスの男は銃を取り出すと逃げ出そうとする。

しかし、下から店に乱入して来た刑事が拳銃を捨てろ!と叫んで来たので、発砲するが、すぐに弾切れになり、焦って弾倉を付け替えようとしていた所を、突撃して来た警官たちに逮捕されてしまう。

藍子は刑事に助けられ、店の外に連れて来られるが、そこで待っていたのは、警察に知らせた馬場だった。

馬場も参考人として警察に付いて行った後、藍子と2人で団地へ戻って来る。

後一歩遅れていたら、私、死んでいたわ…と藍子が言うと、何だってあんな所へ?と一緒に部屋まで付いて来た馬場が聞く。

主人を助けるため!私、主人がいるの。今、刑務所に入れられているの。麻美って人を殺したと思われて…。でも、うちの人がやったんじゃないの。裁判では死刑を求刑されているので、主人を助けないといけなかった…と、藍子は全てを打ち明ける。

じゃあ、僕の所にも…と呟いた馬場の表情が一変していた。

俺の病気を知ったんだな?!悪魔のような形相になった馬場が藍子の首を絞めて来る。

癲癇だったんだわ!この人!藍子は馬場の発作に気づく。

俺が殺したんだ!と馬場が言い出したので、あなた、違う!あの人が殺された時、大阪にいた!と必死に藍子は声を出すが、大阪で殺したんだ!運んだんだ!と馬場は言う。

その時、玄関に入って来たのは野口警部補だった。

この人が…麻美を…と、藍子は最後の力を振り絞り叫ぶ。

野口が部屋の中に入って来ると、慌てた馬場は、窓から外へ飛び降りる。

驚いた野口が窓から下を覗き込むと、馬場は地面に叩き付けられていた。

野口は急いで下に向かい、何ごとかと集まって来た住人に、誰か救急車を!まだ生きている!と馬場の様子を観ながら叫ぶ。

その後、部屋に戻って来た野口警部補は、来て良かった…、キャバレーの被害者が奥さんだと聞いて、又やったなと思って叱りに来たんだよ…と話しかけて来る。

大阪で殺して運んだって言ってました…。あの人、夜8時の飛行機で大阪から帰って来たんですと藍子が教えると、大型の旅行カバンに詰め込んだんだな…、だから死体があんなに歪んでいたのか…と野口は納得する。

でも、あの人は死んでしまった…と藍子が嘆くので、まだ死んじゃいません!捜査をやり直すことになるでしょう。あなたの執念が通り、ご主人は助かるかもしれませんよ!と野口警部補は言う。

誤認逮捕!捜査陣大黒星!の文字が新聞に踊る。

東京拘置所にやって来た藍子は、無罪になり、出て来た真鍋赫也(かくや)と再会し、黙って2人して門を出て行くのだった。


 

 

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