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夜の勲章('63)

小林旭主演の私立探偵もの

キネ旬データなどには、タイトルの横に公開年が記されているので、同名のリメイク作か何かがあるのかな?と思ったが、同タイトルで、内容が異なる別作品が1965年に日活で作られているので、そちらとの区別をするためだと分かった。

本作での小林明は、まだ細身でカッコ良いし、ライバル役で登場する内田良平も大きな目が印象的でカッコ良い。

行方不明になった姉の行方調査を依頼された坊ちゃん探偵が、いつしか麻薬を巡る殺人事件に巻き込まれる…と言う通俗サスペンスだが、単純なヤクザ関係のいざこざかと思いきや、事件は意外な方向に向かって行く。

男を虜にする魔性の女…と言うのが事件の鍵になるのだが、ミステリに良く登場しがちなこのキャラクターは、文章では書けても、なかなか現実の女優さんで再現するのは難しく、この作品でも女性の描写はぼろが出ないよう最小限に抑えてある。

秘書瑠理役の星ナオミを始め、小林旭主演映画にしては、ヒロイン役に当たる有名女優が出ていないのが気になる。

男優陣も、全体的に脇役タイプの地味な人ばかりそろえた印象で、小林旭ファンでない人が観たら、かなり地味な印象を受けるかも知れない。

温厚なイメージの大坂志郎が、すっかり零落して屈折した元刑事を演じているのは、ちょっと面白い。

全体的に大作と言った感じではないが、大島ロケや雪山のロケもちゃんと行っており、チープな感じはしない。

当時の東京の空撮が冒頭とラストに登場するのだが、ラストは、小田急ビルらしき建物が見えたので新宿駅界隈だと推測したが、まだ高層ビル群が出来る前なので判別は難しい。

出来は可もなく不可もなく…と言った印象で、典型的なプログラムピクチャーと言った所だろう。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、日活、藤原審爾原作、千野皓司+神原孝史脚色、松尾昭典監督作品。

東京の空撮

このマンモス都市には、1千万の人の歴史と物語がある…とナレーション

とあるビルの一室内で、拳銃を自在に操っていた阿久根純一(小林旭)は、いきなり入口のドアが開いたので、そちらに銃口を向ける。

そこに立っていたのは、花瓶に花を入れて持って来た秘書の山岡瑠理(星ナオミ)で、いくら暇だからって、そんなものを振り回すなんて!と文句言うと、俺のマスコットさと言い、弾倉の部分を外すと、メロディーが流れ、そこに詰まっていた煙草を取り出す。

オルゴール付き拳銃型シガレットケースだったのだ。

開店して5日も経ったのに、まだ何も仕事がないんですよと瑠理は文句を言う。

好条件の秘書と言う新聞広告に応募し、採用された瑠理は、その条件が満たされるかどうかと言う不満もあるようだった。

しかし、阿久根は、広告はオーバーに書くのがコツなのさと平然としている。

何しろ彼は、暇つぶしに探偵事務所を開いた阿久根ビルのオーナーの息子だったからだ。

その時、表の通りをパトカーが通るサイレン音が聞こえたので、ブラインドの隙間から下を覗いた阿久根は、1人の女性がビルに近づいて来るのを発見する。

お客様?と瑠理が聞くと、多分ね…、勘だけど…と阿久根は答える。

やがて、予想通り入口のドアをノックする音が聞こえ、女が1人入って来たので、阿久根は瑠理にウィンクしてみせる。

お願いしたいことがありまして…と言う始めての客をソファに誘った阿久根が、調査票を手に、ベスト姿のまま座った客の前に座ろうとすると、瑠理がちゃんと上着を着せてやる。

女性客は、異母姉の夏木伸子を探してもらいたいと申し出る。

年齢は25才で、渋谷の双葉マンションに住んでおり、父親は3つの時に母親は別れた。

自分は夏木瑛子(松本典子)と言い、伸子の母親の再婚相手との間に生まれた娘で、看護学校に行っている。

伸子は、新宿のクラブ「ゼロ」で働いていたホステスで、2月13日の夕方頃からいなくなってしまったのだと言う。

クラブ「ゼロ」の支配人篠村と姉は関係があったらしいと付け加えた瑛子は、この名刺が姉の部屋にあったと「大原天嶺」と言う名刺を差し出し、姉が最初に世話になった人らしいと言う。

何故、警察に行かないのです?と阿久根が聞くと、姉は水商売をやってまで私を学校に行かせてくれたこともあるし、警察だと何十人も行方不明者を扱っているようなので…と瑛子は言い、費用はおいくらくらいでしょうか?と聞く。

1日3000円で5日分、延びたときは延びたときに考えれば良いだろと阿久根はアバウトに答える。

阿久根ビルを出た阿久根は、オープンカーの新車に乗り込むと、一路、渋谷の双葉マンションに向かう。

応対に出て来た管理人のおばさんは、阿久根が探偵と知ると、本物の探偵と会うのは始めてだわ!と感激し、ピストルなんか持ってるの?等と聞いて来たので、持ってないと答えると、じゃあ、大勢に囲まれたらどうするの?などと好奇心丸出しで聞いて来る。

苦笑しながらも、伸子さんがいなくなったことが分からなかったんですか?と阿久根が聞くと、愚連隊みたいな連中が部屋に出入りしてたので近づけなかったわと言う。

彼女は軟禁されていたんですね?とおばさんに確認しながら、伸子の部屋に入ってみた阿久根は、室内が整理されている事に気づく。

妹さんが片付けて行ったのだと管理人のおばさんは言う。

伸子さんの様子はどうでした?と聞くと、普段はおとなしかったんですが、時々、部屋からうめき声とかヒャーッと言う叫び声が聞こえたり、壁をどんどん叩く音がしたと言うおばさんは、ここは女ばかりで、5時頃になると誰もいなくなるので、あれは病人じゃないの?って言ってたのよと付け加える。

その後、阿久根は知り合いの国吉刑事(井上昭文)のいる警視庁を訪ねる。

秘書の瑠理から先に連絡を受けていた国吉は、身元不明の死体なんて…、阿久根産業の坊ちゃんが探偵をやるとはね…と呆れながらも、2月13日以降だと、この2件だけだな…と遺体の写真を見せてくれる。

それを観た阿久根は、どうやら、まだ死んじゃいないようだな…と安心する。

その後、ステージで女性が踊るクラブ「ゼロ」に客として出向いた阿久根は、テーブルに付いたホステスたちから情報を集めていた。

伸子は人気があったらしく、指名する客がたくさんいたらしかった。

支配人のこれだったのよと、ユミと言うホステスは親指を出すと、もう1人のホステスが、止めなさいよと止める。

その時、隣のテーブルに座っていた和服の女性がハンドバッグを落として気づかない様子だったので、拾って、落ちましたよと声をかけた阿久根だったが、女性は全く聞こえていないようで、立上がると奥の支配人室の方へと向かう。

阿久根は気になって後をつけてみる。

女は、支配人室の、どんでん返しの仕掛けがある酒だなの背後にある秘密部屋で麻薬を腕に注射してもらっていた。

注射し終えた女はほっとしたような表情で支配人室に入って来ると、支配人の篠村(内田良平)から3箱は箱を受け取って、札束を渡すと部屋を出る。

出て来た女の様子を、物陰から阿久根は見張っていた。

阿久根はいきなり支配人室に入ると、篠村さんですね?お聞きしたいことがあります。夏木伸子さんのことで…と聞くと、どうかしたのか?と篠原は言う。

アパートで軟禁していたそうですが?どうしてそんな事をしたんですか?と聞くと、麻薬を止めさせようと思ったんだと篠村が言うので、なるほどね…と部屋を見回した阿久根は、この部屋には麻薬の匂いがします。信用出来ないな…と阿久根は言う。

教えてもらいたいのは俺の方だと篠原は睨みつけて来るし、用心棒らしき男たちも入口にやって来たので、せいぜいぼろを出さないようにすることだな…と言い残し、阿久根は部屋を出て行く。

その間、篠村は、右手を上着の内側に差し込んでいた。

手品師の大原天嶺(小沢昭一)は、ストリップ小屋のステージでのショーを終え、楽屋に戻って来ると、そこに阿久根が待ち受けていた。

初対面にしては種明かしが早過ぎるんじゃないかな?と話しかけた阿久根は、楽屋に入れてもらう。

麻薬?と驚いた大原に、心当たりないかね?誰が教えた?いつ頃止めたとしつこく聞くと、遺産の話を聞いた。10日ほど前の事だ。別れた父さんがアメリカで死んだらしい。1000万とか言ってましたと大原は答える。

どうして手放したの?と聞くと、「ゼロ」の支配人がいたんでね。ご存知の通り、これでしょう?と大原は、頬を斜めに切る真似をする。

篠村は薬を扱っていただろう?と聞くと、それを調べるのがあんたの仕事じゃないの?ととぼけ、大原は呼びに来たストリッパーチェリー滝(茂手木かすみ)と一緒に風呂へと向かう。

帰りがけ、阿久根は、ストリップ小屋の階段下の奈落に、麻袋などが置いてあるのに目を留める。

取りあえず阿久根は、病院に勤めている依頼人の瑛子に会いに行き、病院の屋上で、今まで分かった事を報告する。

行方不明だったお父さんの遺産を姉さんがもらったと言うのは始めて知った事だったようで、意外だったわ…と驚き、一緒に連れて来た内科の医師松井(椎名勝己)を紹介する。

どうやら2人は恋人同士のようだった。

お姉さんは、麻薬の常習者だったそうですよと教えると、知ってましたと瑛子は言う。

警察に行く訳にも行かなくて…、それであなたにお願いしたのですと松井が言う。

生死の手掛かりを知るために、探しますか?と阿久根は聞くと、たった1人の肉親じゃないか…と松井も捜査続行を勧める。

そこへ、阿久根に瑠理からの電話が入ったと言うので内容を聞くと、国吉刑事が、月島の岸壁に女の水死体が上がったとの連絡をして来たと知ったので、瑛子と松井を車に乗せ、月島へと向かう。

国吉さん、連絡ありがとう!と言いながら、麻薬患者だと言う水死体に近づいた阿久根は、連れて来た瑛子に確認させるが、姉の伸子ではないと言う。

そこに、うらぶれた中年男が近づいて来て、国吉が、岩井さん、どうですか?と聞くが、死体を一瞥した岩井は、知らんね…、お役に立てなくて…と素っ気なく答えただけで帰ろうとするので、国吉はわずかですが…と恐縮しながら電車賃を渡す。

誰です?今の…と帰って行った岩井の事を阿久根が聞くと、一月前退職した刑事で麻薬に詳しいと国吉は言う。

その頃、ある男が、真空浄血療法のマッサージ中だった「ゼロ」の用心棒に、篠村がドジを踏んだ。もしものことがあると困る、監視を怠るなと電話で命じていた。

岩井の家にやって来た阿久根は、ごめん下さい!と呼びかけるが返事がない。

岩井さん!と何度か呼びかけるが、家の中は人気がなく、陰気な感じだった。

やがて、二階から、岩井の女房らしき無表情な中年女が降りて来たので、岩井さんはどちらに?と尋ねるが、分かりませんと、取りつく島もない答えしか帰って来なかった。

クラブ「ゼロ」では歌手(松尾嘉代)が歌っていた。

篠村や用心棒がカウンター席で観ている中、同じカウンターで飲んでいた岩井に近づいた阿久根は、昼間お会いしましたね。夏木伸子知りませんか?と聞くが、知らんね、俺はもう刑事じゃない…と答えると、すぐに帰ってしまう。

その後、支配人室に篠村と入った阿久根は、遺産はどうした?1000万転がり込んだはずだ。麻薬で釣って、女から金を絞ろうとしたのか?大原って奴が教えたんだ。そのロッカーの中にあるのかな?と迫る。

すると、入口に立っていた用心棒が、捜査令状を見せてもらおうか?と言って来たので、あんたより、この男の方が役者が一枚上だなと篠原に嫌味を言い、阿久根は「ゼロ」を後にする。

オープンカー乗り込もうとした阿久根は、前輪がパンクしている事に気づき、やむなくその場でタイヤの交換を始めようと、ボンネットを開けていると、いきなり背後から襲撃されたので、あっさり叩きのめすと、タイヤの交換をすませ、何ごともなかったかのようにその場から走り去る。

そんな阿久根の様子を、用心棒が物陰から監視していた。

立体駐車場に車を止めた阿久根は、近くの通りを歩いている大原天嶺を見かけたので、呼び止めて、打ちっぱなしのゴルフの練習場に付いて行く。

そこまで調べてるんだったら…、大原は観念したのか、たった1回こっきりなんだから…と打ち明けるが、ヤクの魔力を知らん君じゃないだろう?と阿久根が責めると、きれいな肌してましてね。やっぱり雪国の女は違うと思い出すように大原は話し始める。

あれは、昨年の夏の熱い晩でした。かねて用意していた煙草をあの子に吸わせたんです。

(回想)良い気持ちだろう?と役入りのタバコを吸わせた伸子(二木佑子)に大原は聞く。

雲の上を歩いているみたい…と伸子はうっとりしたように言う。

どう?もう1本…、良い気持ちだろう?と勧める大原。

伸子、どうしたんだよ?と聞くと、ヤクが効いて来たのか、放っといてよ。良いのよと伸子は投げやりな返事で突っ伏したので、大原は、楽屋のドアに鍵をかけ、自分の身体に香水を振りまき、扇風機を伸子の方へと向ける。

(回想明け)今でもその手を使っているのか?と呆れたように阿久根が聞くと、今でも俺のめ石を持ってたとはいじらしいね。最初の男を忘れれないんだね…などとにやけた大原だったが、麻薬はどこで手に入れたんだ?と阿久根が聞いても、近くで、「ゼロ」の用心棒が監視している事に気づいた大原は、そんなこと、もう忘れちゃったよ!と言うだけだった。

恵成病院の前では、瑛子が松井と久々のデートをするため会っていた。

阿久根の方は、何者かに尾行されていた。

飲屋街の路地裏に入り込んだ阿久根だったが、やがて行き止まりに突き当たる。

追手の連中から追いつめられた阿久根は、クラブ「ゼロ」に連れて来られると、そこで篠村が寄越した子分たちと乱闘を始める。

阿久根は、ホール内のテーブルや椅子をぶん投げ抵抗する。

その様子を篠村と用心棒がじっと観ていた。

良く荒してくれたな…と篠村が言うと、警察だって、考え改めたらしいぜと阿久根は答える。

おめえはサツじゃねえ!おめえには、このハジキの方が薬になりそうだな?と睨みつけた用心棒が銃を突きつけると、阿久根は、入口にやって来た国吉刑事の姿を見つけ、よう、警視庁!と呼びかける。

本物の刑事と知った用心棒は慌てて銃を上着に隠し、篠原は支配人室へ案内して行く。

これ、バラしましょうか?本物に…と阿久根は用心棒の胸を軽く叩いて帰って行く。

国吉刑事は、今朝方上がった水死体の女性の写真を篠村に見せ、お宅で働いていたそうですね?麻薬を打っていた痕があり、首を絞められていましたと聞く。

一方、事務所に戻って来た阿久根に、瑠理は、クラブ「ゼロ」の経営者は織部剣之助と言い、大原天嶺は、他の見せにはあまり出演しておらず、チェリー滝と言う踊子と関係がありますと調査済みの事を報告すると、上着を脱いで下さい。袖口の綻びを縫いますからと言うと、夏木伸子は、東洋銀行の口座に850万の残金があり、誰も引き出していませんでしたが、ヤクザ風の男が銀行近くの赤電話をかけていたそうですと続ける。

伸子の失踪は、午後7時前後と言うことになるな…と阿久根は呟く。

その頃、喫茶店で松井と向かい合っていた瑛子は、あなた、一度も生活には触れさせてくれないわねと寂しそうに言い、表に出て歩き出すと、姉さん、どうしているんでしょうね…と案ずる。

すると松井が突然、瑛ちゃん、僕の家に行こうと言い出す。

ただいま!と松井が家の奥に声をかけると、家の角から、松葉杖をついた暗い表情の妹文子(辻野房子)が姿を現す。

奥に寝ているのが父だけど、中気でね…、ああなったのは1年くらい前かな…と松井は自嘲気味に教える。

その後、洋品店で買物をした文子は、これ妹さんにあげて、気持ちだけだけど…と言って、その品物を松井に渡す。

とある旅館の前まで来た時、瑛ちゃん!と松井が呼びかけるが、今、あなたが考えている事と、私の考えている事は違うの。私、いつも思うの。愛し合ったら、信じ合うだけで生きられないかって…、そのくせ、私たちだけの家も赤ちゃんも欲しいの。

今の私たちは、あの旅館に入らなくても十分愛し合えるって自信を持ちたいのと瑛子は言い、松井は何も言わず、瑛子と二人でそのまま歩いて行く。

阿久根は、オープンカーをクラブ「ゼロ」の前に停め、様子をうかがっていた。

やがて、店から男が出て来たので、阿久根も車を降り尾行を始める。

人気のない路地に、店で見かけた幹部の1人を追いつめた阿久根は、2月13日、1週間前、篠村がどこで何をしていたか、思い出してくれ!伸子と言う女がアパートから姿を消した日の事だ!幹部のお前が知らないはずがない!と胸ぐらを掴んで責める。

言うから放してくれ!と根をあげた相手は、どこに行ったんだ?と聞くと、佃島の船着き場だ…と教える。

翌日、佃島に向かった阿久根は、子供たちが遊んでいる中、網の手入れをしていた地元の漁師らしき男(河上信夫)に、13日の晩、この辺で変わったことがなかったかね?と煙草を1本与えて聞く。

例えば、変な男が歩いていたとか…、モーターボートの音がしたとか…と阿久根はヒントを出すが、そんなのしょっちゅうだからな〜と漁師は首をひねる。

その時、1人のちびっこが、ガンマンの真似をしてみせたので、頭をなでて追いやった阿久根だったが、その子供が去った方向にあったボートを観て、あのボート誰のだい?と聞く。

そのボートに目をやった漁師は、待てよ…と考え、1週間前、あのボート動かしていたな…、あの日、綾次郎の浪花節が聞きに家に戻ったな〜。連続ものの2回目だったから、13日に間違いねえ。海に走って行ったと言うので、阿久根は、お礼の印に煙草を箱ごと渡して、ボートへ向かう。

係留してあったボートに乗り移り、カバーを外して、舟底を調べていた阿久根は、赤いハイヒーツを片方見つける。

その後、双葉マンションに向かった阿久根は、管理人のおばさんに、又、伸子の部屋の鍵を借りようと声をかける。

すると、今、刑事みたいな人が持って行ったよと言うではないか。

伸子の部屋に行ってドアを開けてみると、そこにいて、何かを探していたのは岩井だった。

やっぱり知ってたんですねと言いながら近づくと、調べたいことがあったんだよと言った岩井は立ち去ろうとするので、何故避けようとするんです?と聞くと、俺は避けてやしないと言い残し帰ってしまう。

その後、阿久根は、伸子の靴箱の中の靴を調べるが、ボートで見つけたヒールとは全くサイズが違い、伸子の靴は全部大きめだった。

すぐさま、マンションを出た阿久根だったが、もう岩井の姿はなかった。

阿久根は事務所の瑠理に電話し、岩井の事を調べさせる。

その後、阿久根は、クラブ「ゼロ」の支配人室に行くと、篠村にボートで見つけた赤いヒールを見せる。

しかし、篠原は全く動揺せず、強請るのは良いが、ここに来るにはそれ相当の証拠がいるぞ。それは伸子のじゃないと断言する。

しかし阿久根は、警察に持ってっちゃまずいんじゃないか?俺は心配してるんだと言うと、信用できないな…と篠村は怪しみながらも、伸子が遺産を持っていても、ヤクと遊びに消えただろう。だから俺は彼女を軟禁したんだ。

ところが、見張りの好きを盗み、彼女を窓から非常口を使って引っ張りだした奴がいる!と篠村は言う。

このヒールは女を殺した時に履いていたものだ!と阿久根が迫っても、俺は伸子を殺しはしない!と篠村は否定する。

その時、酒だなのどんでん返しの壁の隙間から銃口がのぞいていることに気づいた阿久根は、次の瞬間発砲音を聞く。

同じ頃、ストリップ小屋では、何かを見つけたチャリー滝が悲鳴を上げていた。

その時、大原天嶺は、何も知らず舞台で手品を披露していた。

左手に包帯を巻いた阿久根が伸子の遺体が発見されたと言う電話を国吉から受ける。

ストリップ小屋にやって来た阿久根は、現場検証をしていた国吉刑事から、一応、大原天嶺を逮捕したよと聞かされるが、ボートで見つけたヒールを手渡し、この前、月島で上がった女のじゃないかと思うと伝える。

ありがとうとその証拠品を受け取った国吉は、夏木伸子は通帳と印鑑を持ってたよ。通帳の残金は850万、いくら大金を持っていたって、死んじまえば終わりだよと言う。

その頃、篠村にも子分が、伸子が見つかったそうですと伝え、何!と驚いていた。

死体が安置されている警察の面接室で瑛子と松井に会った阿久根は、何もお役に立てなかった事、残念に思います。僕としては、このままだと色々割り切れない気持ちですと挨拶し、部屋を出るが、そこにやって来た篠村とすれ違う。

伸子の死体の前に佇む篠村の姿を、そっと覗き込んだ阿久根は何事かを感じる。

その頃、謎の男がクラブ「ゼロ」の用心棒に、奴が本当にボートから靴を見つけたのなら、篠村を消す方が早いと電話で指示を出していた。

夜、警察署を出て帰りかけていた篠原に近づいて来たのは、待ち伏せしていた阿久根だった。

本当に好きだった。伸子に会ったのは、俺が5年のムショ暮らしから出て来た時だった…と、歩きながら篠原は打ち明ける。

その三ヶ月前に網走からの長い旅から帰って来たおりには、何もかもが重く感じられる晩だった…

(回想)クラブ「ゼロ」に戻って来た篠村は、店じまいの後、誰もいないはずのカウンターに座って1人飲んでいた伸子を見つける。

どこの人?少し酔っているのか、無邪気な笑顔で振り返った伸子は、良かったら飲まない?知らない女と一緒に飲むのもたまには良いものよと明るく誘って来る。

私ね…、ひとりぼっちで寂しいのよ…と言いながら、篠村のグラスに酒を注ぐ伸子は、あんたもそうじゃないの?私、すぐ分かっちゃうのよ、男の人の気持ちが…と囁きかけて来る。

俺はその晩から、あいつを愛した。伸子は麻薬の常習者だった。止めさせたかった…、だから決心した。

篠村はヤクを欲しがる伸子を殴ってでも止めようとする。

こんなに苦しんでいるのに!あなたの言う事なら何でも聞くから!と禁断症状が出た伸子は篠原にすがりついて来る。

止めさせたいんだ!俺の言う事を信用しろ!と篠原は必死に説得しようとするが、伸子は、バカヤローと捨て鉢になる。

(回想明け)俺は麻薬の恐ろしさを知っていた。遺産も有効に使うよう説得した。だが、奴は信用しなかった…、俺は信用してもらえなかった…、話し終えた篠村は、これで良いだろう?俺だって、本当の事を言いてえこともあるんだぜ…と、クラブ「ゼロ」に帰って来た篠村は言う。

阿久根は、救急車が走り去る道を帰路につく。

留美のアパートにやって来た阿久根は、今、篠村に会って来た。死ぬ村を疑わなくて良かったようだ…と留美に報告すると、事件解決は警察に任せます?と留美が聞くので、俺の気分がすまないんだと阿久根は答える。

岩井夫婦には子供がいませんと、留美は頼まれていた岩井に関する報告を始める。

妻は病身で、夫婦関係は巧く行ってなかった。退職の理由は分かりませんでした。伸子がおなくなった13日の7時頃には、岩井は家にはいなかったそうです。奥さんは、岩井が刑事を辞めた事を知らなかったようです。それにしても、伸子さん、ストリップ小屋の奈落で殺されるなんて…と呟いた瑠理は、阿久根がソファで寝入ってしまった事に気づき、聞いてるんですか!と怒りだす。

ねぇ、所長!この部屋に男の人を泊めた事ないの!と留美は阿久根を起こそうとするが、阿久根は全く起きる気配がなかった。

置き時計は11時50分だった。

翌日、警視庁に向かった阿久根は、チェリーの証言で釈放された大原を玄関前で捕まえる。

私が犯人なら、あんな所に隠しませんよとうそぶいた大原は、お話ししときたいことがあるんですと改まって言い出す。

伸子は死んだ日、私に会いに来たんです。夜の10時半頃、ヤクを買いに来たんです。私は持ってなかったので断りました…と大原が言うので、禁断症状は出てなかったかね?と聞くと、普通だったと言う。

旅館に人を待たせてるって言ってました。篠村だと思いますよと大原は言い、帰って行く。

伸子はあの日、禁断症状のはずなのに、君に会ったときは普通だった。誰かがヤクを打ってやったんだ。マンションを抜け出した10時半から1時の間に…と阿久根が言うと、篠村ですよと悪心ありげに大原は断定する。

その後、警視庁の屋上で国吉刑事と会った阿久根は、岩井が怪しいと告げる。

先輩だった…と国吉は言う。

何故現職放棄したんです?と聞くが、国吉も詳しい事情は知らない様子だった。

夕べ、伸子の死体の側に立っている篠村の姿を観た。奴の仕業とは思えなかった…と阿久根が言うと、もっと化学的な根拠がないとね…と国吉刑事は呆れたように言う。

篠村は確かに悪人です。だが、人間を信用したいこともあるはずですと阿久根が説得しても、探偵が依頼以上の仕事に首を突っ込むと、ろくな事にはならないんだ。俺たちに任せとくんだな…と国吉刑事は言うだけだった。

警視庁から帰った阿久根は、伸子が誰かと待ち合わせていた旅館を探しまわる。

そして、とうとう、夕方から待ち合わせていた男に心当たりがあると言う新宿の旅館あかね荘を探し当てる。

どんな男でしたか?と聞くと、中肉中背で、目の大きい刑事みたいな人だったと女将は言う。

男の人がお勘定を払っている間に、女の人はいなくなっていました。さらに、あの電柱の所にサングラスをかけた男がいたとも言うので、何時頃までいたかと聞くと、10時過ぎにはもういなかったと思うと女将は答える。

サングラスの男?阿久根は考え込む。

クラブ「ゼロ」の前に来た阿久根は、通用口から内部に忍び込む。

支配人室に近づくと、中から岩井が出て来たので、中を覗くと、机に頭から血を流した篠村が突っ伏して死んでいた。

岩井さん、あなた、伸子と旅館に…と聞こうとした時、突然、銃声が響き、電気が消える。

その隙を縫って岩井は逃げ出す。

暗いホールに追って来た阿久根だったが、そっと酒の棚から洋酒の瓶を一つ取ると、床を転がしてみる。

すると、暗闇のどこからか発砲して来たので、音を手掛かりに闇に目を凝らし、狙撃手を見つける。

その狙撃手が何者かに撃たれたので、阿久根は、その男が床に落とした銃を拾い上げる。

ステージの陰から撃って来た男に撃ち返すと、飛びかかって殴りつける。

サングラスをむしり取ると、その男の右目は潰れていた。

夏木伸子を何故殺した?岩井に頼まれたのか?と問いつめると、岩井?そんな男は知らんと言うので、岩井をどこに隠した?と首を絞めると、言うから放してくれ!と言うので、手を離すと、俺はな…と言いかけた所で、男は背後から撃たれる。

卑怯な真似は止めろ!と大声を出す阿久根。

すると、本当のことを言われると困るんだ。あんたには眠ってもらう!と何者かが闇の中から言いながら発砲して来たので、阿久根は床に倒れ込む。

そんな阿久根に近づいて来たのは、用心棒だった。

ところが、死んだと思っていた阿久根が急に立ち上がり、用心棒の中を奪い取り、尋問する。

しかし用心棒は、岩井も伸子も関係ない。あんたは深入りし過ぎた。篠村を殺したのはドジを踏んだからだ。どうやらあんたの目的と俺たちの目的は違うようだな…と用心棒は言う。

阿久根はそんな用心棒に銃を突きつけ、110番に電話させる。

翌日、阿久根はオープンカーで、岩井の自宅を訪ねる。

岩井さん!と玄関先から呼びかけるが、返事がない。

ガラス戸を触っているうちに、ガラスが一枚外れてしまい、中の様子が見える。

目の前に、無表情な岩井の女房(雨宮節子)が経っていたので、岩井さんに会いたいんですがねと声をかけるが、女房は、いません。国に帰りました。今、ちょっと前に家を出ましたと言う。

玄関の靴箱の上に、大島の土産らしい人形が飾ってあったので、国って大島ですね?と確認し、阿久根はプロペラ機で大島に直行する。

大島に降り立った阿久根は、地元で漁師をしている岩井の弟(玉村駿太郎)を訪ねるが、兄貴なら来てねえと言い、とし江。兄貴、どこ行ってんだ?と聞くと、女房のとし江(鏑木はるな)は山に行ったと言う。

礼を言って立ち去ろうとした阿久根に、兄貴に言って下さい。大島には働き口なんてねえってと声をかけて来る。

ジープで噴火口へ向かう阿久根は、やがて噴火口に向かっていた岩井らしい人影を見つけたので呼びかけるが、岩井は走り出し、火口の中に入り込んで行く。

ジープを捨て、後を追った阿久根は、何とか途中で追いつき捕まえると、卑怯な真似は止めろ!あんた刑事として今まで自首を勧めてたんだろ?と詰めよる。

しかし岩井は、俺は伸子を殺さん。死んだのは新聞で始めて知ったんだ。

殺層と思った事はある。事実、どうして良いか分からなかったんだ。話したくないが…、去年の暮、俺は麻薬捜査の内偵中だった。

麻薬常習者の口から情報を聞くため、俺は現行犯を押さえようとした。

(回想)岩井は伸子と出会った。

微笑む伸子の顔を見た瞬間から俺の人生の歯車が狂った。

言葉に言い表せない魔力で、俺は伸子の中に埋もれて行った。

そして俺は刑事を辞めた。

辞めずにいられなかった。伸子は愛してくれた。

しかし、意外に早く破局が訪れた。

生活力がない俺は、伸子を殺すつもりだった。新宿のあかね荘で伸子は篠村から逃れようとしていた。

俺は、伸子が出かけた隙にビールに薬を入れた。

しかし、それっきり伸子は帰って来なかった。

何時間も待ったが、死にきれなかった。

(回想明け)伸子は禁断症状でしたか?と聞くと、普通だったよと岩井は答える。

その後、アパートに行ったがいなかった。

夕べは、篠村を問いつめようと行ったら、死んでいた…

岩井さんは、何故捜査しようとしなかったんです?と問いかけると、僕は事件のアウトサイダーだと言う岩井。

しかし、事件の陰で誰かが泣いている。このままだと篠村のせいになる。まだ遺産には手をつけてない。犯人は何かを狙っているんだ!と阿久根が言うと、麻薬は麻薬ルートだけにあるもんじゃない。俺たちも混乱した…と岩井は言う。

夏木伸子をつけていた男…阿久根は何かを思いつく。

東京に戻った阿久根は、恵成病院のナースセンターで、事件当夜の松井のスケジュールを聞く。

2月13日は、5時にお帰りになりましたと、日誌を調べてた婦長は答える。

その後、阿久根は瑛子にも会い、2月13日、松井さんは5時に退社しましたか?と確認する。

前の前の土曜日ですと説明すると、その日はずっと私と一緒だったと思いますと瑛子は答える。

いつ頃まで?と聞くと、門限が12時ですから、11時半頃まででしょうか…と答えた瑛子は、色々お世話になりました。明日姉のお骨を持って国に帰りますと言う。

しかし、もう1度、病院に行って確かめると、瑛子は当日宿直になっていると言うことが分かる。

2月13日の夜は、瑛子は病院にいたはずで、先に帰った松井と一緒に入れるはずがなかった。

何かあったんですか?と問いかける婦長を後に、阿久根は考え込みながら病院を後にする。

翌日、瑛子と松井は、伸子の遺骨を持って列車に乗っていた。

やがて、故郷の雪山が近づいて来る。

山の中にある夏木家の墓参りをする瑛子と松井。

瑛ちゃん、今日の君、少し変だよ…と松井が言うと、松井さん、あなた、何か私に隠していることがあるはずです。話して欲しいの…と瑛子は訴える。

姉がいなくなった日、あなたは病院を5時にお帰りになったわね?あれからどこに行ったの?

私はあなたを信じていたんです。そして、いつまでも信じていたいんです。

周囲には人影もない雪山でそこまで迫られた松井は、瑛ちゃん…、僕は君の姉さんを殺した!君のためにやったんだと告白する。

何故、私のために?!と驚く瑛子。

麻薬患者に1000万もの遺産が手に入っても無駄だと思ったんだ!

あの晩、君の姉さんに電話をかけたら、瑛子のために300万やると言った。

それを聞いた僕は、新しい生活が始められると思った。

君の姉さんのマンションに言った時、姉さんは虚脱状態だったので、僕は麻薬を打って連れ出した。

でも、あの女を観ているうちに殺したくなった。

君の今の生活はどうだ?僕の生活はどうだ?

僕は、君と結婚して開業するのが夢だった。

あの女をつけ、一気に絞め殺して奈落に落としたんだ。

万事巧く行ったと思った。

でも、遺体確認しないと遺産は手に入らない。

やってしまったら仕方ないんだけど、僕は今の生活から逃れたいんだ!

君の姉さんも、欺いていたじゃないか!と興奮する松井に、あなた、一人なのね…、独りぽっちなのね…と瑛子が囁きかけると、瑛ちゃん!しゃべらないと約束してくれるね?瑛ちゃん!僕たちのためなんだよ!と言いながら、哀し気な目で見つめる瑛子の首に手をかけようとする松井。

その時、何もかも聞いたぞ!自首したらどうだ?と声がかかり、雪玉が松井の方に飛んで来る。

木陰から出て来たのは、東京から尾行して来た阿久根と瑠理だった。

君には信じていた瑛子さんの気持ちが分からないのか?と近づいて来た阿久根と松井は殴り合いを始める。

やがて、阿久根を斜面に投げ飛ばした松井は逃げ出す。

それを追う阿久根。

逃げる松井には、どこからともなく明るいメロディーが聞こえて来る。

やがて、眼前にスケートリンクが見えたので、その中に逃げ込む松井。

しかし、氷上を普通の靴で走っていたため、途中で滑って転んでしまう。

氷に手をついた松井の左手の上を、滑っていた男性のスケートエッジが通り過ぎ、手の甲を斬り裂いてしまう。

痛みに絶叫しながらも、血まみれの左手を押さえながら逃げ続ける松井。

その手から滴った血の痕が、雪山に転々と続いて行く。

その後を追う阿久根。

瑠理と瑛子もその後を必死に追っていた。

やがて、松井は、崖っぷちに追いつめられ、逃げ場を失う。

松井!自首するんだ!無駄な事は止めろ!と呼びかけながら近寄る阿久根。

その時、松井は足を滑らせ、落下して行く。

下の川縁の岩場に叩き付けられ絶命した松井の遺体に近づいた瑛子は、川に浸かっていた右手を岩の上に乗せ、見開いたままの松井の目をそっと閉じてやる。

後日、阿久根の事務所にやって来た国吉刑事は、織部らまで逮捕出来たよと報告していた。

それを聞いていた阿久根は、本当の被害者は妹の夏木瑛子さんだったのかも知れない…と漏らす。

姉さんを捜すつもりが、いつの間にか自分が傷ついていたなんて…、嫌だわ…と瑠理が哀し気に呟く。

俺は、そんな事を許さない。許したくない!と呟いた阿久根は、瑠理に、君!12時だったね?と声をかける。

山水会館です!と瑠理がその後のスケジュールを答えると、忙しくなったものだね…と国吉刑事は感心する。

瑠理と共にビルを出て、オープンカーに乗り込んだ阿久根に、俺も便乗させてくれないか?と遅れて出て来た国吉刑事が頼むが、あいにくこれは2人乗りでね…と答えた阿久根は、国吉を置いてきぼりにして車を出発させる。

(小林旭が歌う唄が流れる中)新宿駅周辺の空撮


 

 

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