白夜館

 

 

 

幻想館

 

夜が崩れた

70年代、男向けの映画をあれこれ模索していた時代の松竹作品の1本だと思う。

さすがにもう、ヤクザ映画の時代ではなかったが、ここでは、ヤクザになってしまった男とその妹を愛してしまった刑事の奇妙な三角関係を描いた、松竹らしく物寂しい人情ドラマになっている。

どう考えても、巧くいきそうにない関係…

勝野洋などが出ている所から、一見「太陽にほえろ」系の刑事ドラマを連想するし、原田芳雄や夏八木勲が出て来るが、特に男臭いと言うほどでもなく、特に派手なアクションなどがある訳でもない。

雪国への逃避行…等と言った通俗要素もあるので、演歌の世界のような泥臭い雰囲気になってもおかしくないのだが、やはり、若い原田芳雄や桃井かおりの都会的な存在感が、そうなるのを間一髪止めている感じ。

地味と言えば地味な展開なのだが、それでも桃井かおりの独特のキャラクターがクッション役になり、いかにも70年代らしいけだるい哀愁が漂う雰囲気は出ている。

それにしてもこの作品、犬塚弘、中島まことなど、かなり有名どころが出演しているのに、キネ旬データのキャスト欄には全く書かれていない。

ゲスト扱いと言うことだったのかも知れない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1978年、松竹、結城昌治原作、田坂啓脚本 、貞永方久脚本+監督作品。

黒字に赤文字のタイトル

雪の中を歩く赤い服を着た女の子

半纏を着た少年が、その少女をおんぶしてやる。

教会に集まる子供たち。

大同倉庫の横の雪道を歩く少年と少女

そうした北海道の風景を背景に、役名とキャスト名が重なる。

雨が降る中、横断歩道を渡って、赤い傘をさした中根浩子(桃井かおり)に、遅れた事の詫びを言いながら近づいて来たのは、新人刑事の安井(勝野洋)だった。

二人は地下鉄に乗り、楽しそうにおしゃべりをしていたが、その時、座席に隣り合って座っていた中年サラリーマン(小田草之助)と遊び人風の2人の男が言い合いになり、遊び人がサラリーマンを殴りつける。

安井はすぐさま殴った男を捕まえ、次の駅の交番に突き出す。

交番からの帰り道、浩子は驚いたように、刑事さんだったのね。それでいつも遅れてたのか…、ただのサラリーマンですって言っちゃってさ…と一人納得する。

付き合ってまだ日が浅かったこともあり、浩子は安井の仕事を知らなかったのだ。

俺、怖かったんです。もう会ってくれなくなるんじゃないかと思って…と安井が言うと、どうして?と聞いて来た浩子は、人に好かれる職業じゃないし、例えあなたに嫌われるなら、噓をついた方が良いと思ったんですが…と答えた安井に、哀しい人ね、あなたって…と答えたので、じゃあ、良いんですね?又会ってくれるんですね!と安井は聞き返す。

当たり前じゃないと浩子は笑う。

勤務先である五反田警察署に戻って来た安井は、調べて来た古物商の結果を先輩刑事の矢吹刑事(夏八木勲)に報告しようとするが、後で聞こうかといなされる。

応接セットでは、数人の来客相手に事情を聞いている小口捜査係長(福田豊土)がおり、どうやら手形を7000万パクられたらしかった。

そんな刑事部屋の中で、安井は見慣れぬ男を見かけ、気になったので見つめる。

矢吹刑事がその男に、帰れ、中根、兄貴分のお前さんが猿股まで持って来てくれたんだ。言っとくよと話している。

その後、廊下に出た安井は、連行されて来た茨組のチンピラを見かける。

岡田質店の件で矢吹に報告し始めた安井は、中根を知ってるのか?さっきの男観てたろ?と聞かれたので、知りません!と即答する。

署を出て、再び聞き込みに向かった安井を、外で待っていたらしき中根孝(原田芳雄)が尾行し始める。

品川区東大井5丁目辺りで立ち止まった安井は、ずっと尾行して来る中根に、茨興業の中根さんですよね?用があるなら、さっさと言ったらどうです!と詰めよる。

すると、サングラスを外した中根は、俺の面だけでも覚えといてくれやと言って去って行く。

公衆電話から矢吹に、盗品は発見できなかったと報告を入れた安井は、そのまま帰宅する事にする。

5時18分

デパートの1階フロアで、化粧品の実演販売をしている所にやって来た安井は、パックのモデルになっていた女性客が手を振って来たので、それが待ち合わせていた浩子だと気づく。

2人はその後、浩子の馴染みのスナックに飲みに行く。

浩子は、店のママに、安井を柔道2段なんだから…と紹介し、安井にはママの事をお仕事で知り合ったのと紹介する。

どこで知り合ったの?とママから聞かれた浩子は、私が手帳忘れたんだよね〜…などと本当なのか冗談なのか分からないような答えを浩子は笑いながらする。

店を出た2人は、夜、口笛を吹いちゃ行けないって知ってる?悪魔なんてくそくらえ!などと酔った浩子が上機嫌でおしゃべりしながら歩道橋を渡る。

明日も会ってくれる?と浩子が聞いて来ると、忙しくなるらしいので約束出来ないですと安井は生真面目な口調で答える。

そんな安井に抱きついた浩子はキスをする。

あんたが好きよ。だって、あんたみたいな人始めてなんですもの…と言いながら、石段の下で又キスをする浩子。

明日、本当にダメなんですと安井が言うと、明後日は?と浩子は聞くので、分かりませんと安井は答える。

それじゃあ、さあ〜、これから私の家に寄って行きなよと浩子は誘うが、でもやっぱり帰ります!と答えた安井は、駅の方へ戻る。

石段の上に「芙蓉荘」と言うアパートがあり、そこが浩子に住まいだった。

駅の自動販売機で切符を買った安井だったが、何故か気が変わり、先ほどの歩道橋を渡ると、石段を上がり「芙蓉荘」の浩子の部屋のブザーを鳴らす。

しかし、中のベッドの上にいたのは中根孝で、ブザーを無視していたので、不在と思い、安井は帰りかける。

歩道橋の所で、缶ビールを買って戻って来た浩子にばったり会ったので、安井さん!どうしたの?と浩子は嬉しそうに呼びかける。

俺…、やっぱり、寄せてもらおうと思って…と安井が恥ずかしそうに答えると、浩子は喜んでアパートに連れて行く。

ドアを開けて室内で競馬新聞を読んでいた中根に、ねえ、お客さん!と教えた浩子だったが、その背後から部屋の中を覗き込んだ安井は、そこに中根がいる事に気づき、慌てて帰る。

驚いた浩子は、安井の後を追いかけ、待って!安井さん!誤解しないで!私の兄さんなんですと教える。

それを聞いた安井は驚き、兄さん?何故?何故隠していたんだ!と問いかける。

私、本名は中根って言うの。大木ヒロミって言うのは仕事の時に使ってる名前と打ち明けた浩子は、嫌だ!こんなの!と叫ぶ。

ヤクザでしょう?茨組の?と安井が聞くと、どれがどうしたの?兄は兄、私は私、安井さんには関係ないでしょう?私はあなたが好き、それで良いじゃない!兄は関係ないじゃない!と訴える浩子。

しかし、安井はそのまま帰ってしまったので、アパートの部屋に戻って来た浩子は、兄の孝が風呂に入っている事に気づく。

背中流してくれよと言うので、浴室に入って兄の髪を洗ってやりながら、正直に言いなさいよ。あの人と付き合っているの、言ってたでしょう?と聞く。

俺には責任感があるからな…と中根がとぼけるので、変な事してないでしょうね?と聞くと、おい、酒ないか?と聞いて又ごまかす。

浴室で洗い物をしながら、お兄ちゃん、今日、泊まっていくでしょう?と甘えたように聞く浩子。

一方、自宅アパートに帰って来た安井の方は、電気ごたつの電源を入れると、寝そべって悩みだす。

浩子は、孝から耳あかを撮ってもらいながら、あいつがデカだと分かって付き合ってるのか?惚れちゃいないんだろ?と聞かれ、好きだよ、惚れたかどうかは分からないけど、とにかく良い人だよと答えていた。

刑事なんて三下と同じだよ、俺ん所の…、止めとけ!男の事でこれまでごちゃごちゃ行ったことないだろ?今回だけ!あいつだけは止めてくれ!もっとましな男を見つけてくれ!男なんていくらでもいるだろ、歩行者天国に行ったら…と中根は浩子に頼む。

翌日、五反田警察署では、昨日の茨銀行が7000万パクられた事件にも絡んでいるらしい茨組を徹底的に操作するため、矢吹を班長として特別捜査班を編成し会議をしていた。

矢吹は安井に自分と組むように指示を出すと、君にとっては始めての仕事らしい仕事になると伝える。

そんな安井に、刑事部屋に浩子から電話が入ったので、どう言うご用件でしょうか?と他人行儀に聞くと、あなたにお会いしたいと言う事なんですが…と堅い調子を真似た浩子は、お互い嫌でしょう?と言う。

その時、矢吹が飯を食いに行こうと誘って来たので、はい!と返事をした安井は電話を切る。

その後、茨組捜査班は、茨組のビルの向いのビルの屋上に隠れ、望遠カメラなどを使って、組へ出入りする人物たちの監視を始める。

白髪のジジイが茨組組長(嵯峨善兵)で、顧問の松野(田中浩)、宮下(草薙幸二郎)と言った幹部連中の顔も、刑事たちはみんな確認しておく。

カップヌードルを喰いながら、刑事たちは、出入りの人間を望遠カメラで撮影して行く。

そんな中、見慣れない男が茨組に来たので、組関係じゃないな…と監視していた矢吹は言う。

そんなある日、安井は、とある喫茶店で待っていた浩子に会いに来る。

浩子は真っ赤なドレス姿だったが、パーティホステスをやっているのでその衣装なのだと言う。

3日ぶりの再会だった。

私、噓ついてやった…、兄に…、もう会わないって…、あなたに…、大した事じゃないわと浩子は言うが、それほど簡単な問題じゃないんですよと安井は話す。

僕は兄さんに手錠をかけなくちゃいけない立場なんです。どうしてヤクザになったんですか、兄さん…?忠告したんでしょう?と安井が聞くと、最初からヤクザになっちゃいないわ、私に言われて辞めるようじゃね。私たち、拘らないでやって行けない?と浩子は逆に聞いて来る。

そう言うわけにはいかないんです。我々には職務規定と言うものがあり、職務に支障がありそうな人と付き合ったり場所に出入り出来ないんですと安井が言うと、それじゃ、付き合っちゃいけないってことになるじゃない?分かった、言いよ、さよなら…と浩子は言い出す。

安井は何も言い返せず、そのまま店を後にする。

安井はその後、浩子の事を忘れるためか、柔道の稽古に励む。

茨組の監視はまだ続いており、部長試験の準備を犠牲にしてまで、仕事に没頭する刑事たちがいた。

そんな中、中根が近頃、事務所でうろちょろしているのが目撃される。

安井は初仕事として、中根の尾行を命じられる。

中根を商店街の中からつけて行くと、やがて、中根は歩道橋を渡り、石段の上の「芙蓉荘」に入ったので、安井は外で張込みを始める。

窓辺から覗く浩子の姿にも気がつく。

芙蓉荘の近所には中学か高校の校庭が広がっており、そこで、コーチから個人指導を受けている陸上部の男子の姿が見えた。

その様子を、何気なく観ていた安井だったが、アパートの窓から中根もじっと見守っていた。

中根用の食事を出してやった浩子は、私だってバイトあるんだから、ちゃんと食べてね。何観てんの?と言いながら窓辺に近づくと、同じ校庭の走る男子学生の姿をじっと見る。

東京、離れたい…とぽつりと浩子は言い出す。あ〜あ、お金欲しいわ…と言う妹の言葉を聞いていた中根の表情が真顔になる。

中根が「芙蓉荘」を出たので、安井も尾行を再会し、途中、人気のない所で、中根さん、話がしたいんですと呼び止めると、浩子さんの事です、彼女にはまだ話してないんですけど、結婚したいんですと切り出す。

立ち止まった中根は、もういっぺん言ってくれないかな?と言い、俺、結婚します!と安井が答えると、いきなり殴りつける。

デカは中根家の家風に合わないんだよ!と倒れた安井に言い残し、中根は足早に立ち去って行く。

俺の彼女は煙草が好きで〜♪

その夜も、浩子はバイト先のスナックで、客たち相手に陽気に歌っていた。

その夜、飲み屋の奥座敷で、安井は矢吹に、中根の妹と結婚したいと言うことを打ち明けていた。

辞めにゃいかんでしょう?と安井が聞くと、まず左遷させられ、結局、退職に追い込まれるだろうな…と、酒を注いでやりながら矢吹は言う。

君のお父さんは熊本で中学の先生やってたんだったな?兄さんは熊本県警勤務か…、困ったことになるだろうな…と矢吹は続ける。

俺の女房は3年前に死んだが、辞めた先輩の娘だった…。俺たちには甘い結婚生活なんてないんだぞ。どうしても諦めきれねえってのか?中根の妹が…?何とか言えよ!デカ、辞めるのか?と矢吹が問い付けると、辞めません!と安井は答える。

じゃあ、どうするんだ!と矢吹が迫ると、急に立ち上がった安井は、失礼します!と言い、先に帰ってしまう。

翌日、安井は「高嶺荘」と言うアパートに住む中根孝の部屋を訪れる。

中根は、競馬新聞片手に、テレビで競馬中継を観ていた。

その時、玄関ブザーが鳴ったので、女(中島ゆたか?)が出ると、島村さんですね?中根さんに話があるんですと言いながら立っていたのは安井だったので、面識がない女は、何?この男…と戸惑う。

疫病神だよとテレビから目を離さず中根は教えるが、聞いて下さい!俺…と安井がしつこいので、お前、帰れ!と怒鳴りつける。

しかし、安井は玄関先に座り込むと、聞いてくれるまで帰らん!と言うので、呆れた中根は、女に風呂にでも行って来いと命じる。

女は面白くなさそうに銭湯に出かけて行く。

もし、何か間違いでもありゃ、お前さんが俺のことをお兄ちゃん!なんて猫なで声で呼んだりするようになるんだ。そうなったら、チ○ポコの先までじんましんが出るんだよ!と中根はバカにするが、俺にも一言言わせて下さい!と言い出した安井は、あんた、足を洗って下さい!と頼み込む。

あんたは、廻りのみんなにも妹がいる事を隠している。自分がヤクザってことが恥ずかしいんでしょう?と安井が言うと、中根は赤いジャージを着て、瓶ビールを飲みながら、空しそうに笑う。

俺の足、そんなに汚いか?てめえの都合だけで言うんじゃない!俺がパトカーの運転手にでもなりゃあ嬉しいんだろう?などと中根はバカにするが、俺はあんたを堅気にしてみせる!と安井は言い張る。

後日、茨興行にいた中根に安井から電話が入り、あんたを雇ってくれる所を見つけたんだと言って来たので、いい加減にしろ!と中根は怒鳴りつける。

外に出ても、安井がつきまとい、お願いします!足を洗って下さい!と安井が頼み込むので、頭、おかしいんじゃねえか?と中根は呆れる。

おい、聞いて良いか?国家公務員ってそんなに暇なのか?と中根が皮肉ると、今日は非番です!と安井は言う。

そんな2人の姿を、同じ五反田署のヤマさんこと山川刑事(山本幸栄)が遠くから目撃してしまう。

遠目だと、中根と安井は親し気にしゃべっているように見えた。

その後も、安井は中根につきまとい、夜もクラブから出て来た中根に近寄って来る。

中根と一緒にいた西山と言う三下が、何です、中根さん?あの野郎は?と後ろから付いて来る安井の事を聞くので、妙な奴に絡まれてるんだよと中根が言うと、西山は安井をボコボコに殴りつける。

その間、側でタバコを吸いながら観ていた中根に、倒れて顔中血みどろになった安井が呼びかける。

なおも、執拗に蹴り付ける西山。

気絶したかに思えた安井の胸ポケットから、近づいて来た中根は、警察手帳を抜き取る。

それを観た西山は、殴った相手がデカだと気づき、やべえよ!と叫ぶと逃げ出して行く。

誰も、そうじゃねえとは言ってねえよ…と中根は呟くが、その中根の手に、倒れていた安井が突然手錠をかける。

何するんだ!と中根は気色ばむが、手帳をネタに、俺を強請る気なんですか?刑事を襲ったんじゃ、当分出られませんよと安井が言うので、てめえはやっぱりデカだな。汚ねえ手を知ってるじゃねえか!と粋がる。

翌日、安井は中根を連れ、北岡精機と言う会社を訪れる。

応対した社長の北岡(犬塚弘)は、うちには、少年係から何人か預かっているんだと、雇用者の過去は問わない姿勢を見せてくれたが、中根が差し出した履歴書には、名前以外何も書かれていなかったので、さすがに唖然とする。

中根は、賞罰の所…、書く気にならないんですよ…などと言うので、連れて来た安井も驚くが、お茶を運んで来た女性事務員の尻をわざとらしく触る中根にはほとほと愛想を尽かしてしまう。

空地に連れて来た安井に、そう怒るなよ、俺はお前の顔を立てたんだから…と冗談めかして謝った中根は、浩子にはまだ結婚のけの字も言ってないそうだけど、堅気を辞めないと言うのじゃないのなら、俺の所へ来ないか?等と言いだしたので、さすがに切れた安井は中根を殴りつける。

刑事じゃない!今、あんたを殴ったのは!と安井が言うと、すまん、すまん!と言いながら起き上がった中根の方も殴り掛かり、両者の殴り合いが始まる。

安井は、あんたって人は!と呆れ果てる。

浩子は兄の中根に「お兄ちゃん あの人を虐めないで お願い」と置き手紙を書いていた。

夜、それを部屋で見つけた中根は、ギターを1人鳴らしながら、バカだな〜♪お願いよ〜♪などと即興の歌を歌う。

ある日、小料理屋「ひさご」の看板時、女将久代(吉行和子)が暖簾をしまい込んでいたが、奥の座敷では、矢吹が泥酔していた。

コップの水を飲まそうと久代が近づくと、急に抱き寄せた矢吹は、嫌がる久代を貪るように抱く。

久代〜!後半年だな、夫がムショから出て来るのは…と矢吹が言うと、抱かれていた久代は、言わんといて〜と呻く。

そんな久代に矢吹は、強引にキスをする。

ある日、茨興行のガサ入れをするが、暗に相違して何も出て来なかった。

幹部の宮下の横に座った矢吹は、途方に暮れているようだった。

その後、五反田署の屋上に呼ばれた安井は、ガサ入れの情報を漏らしたのは自分だと言うんですか!と呼びだした小口捜査係長に詰めよっていた。

ガサ入れが失敗したのが悔しいんだ。言ってくれないんだね?君は茨組の中根との事はどうなんだ?と小口捜査係長は聞いて来たので、自分は情報など漏らしたりしません!信じて下さい!と答えるが、どうしても言えんのか?中根との関係は…と再度念を押されても、言えません!としか答えなかった。

それを聞いた小口捜査係長は、捜査班から外れてもらおう…と静かに言い、去って行く。

その後、浩子の住む「芙蓉荘」にやって来た安井は、出迎えた浩子を観ると、買って来たリンゴの袋を床に落とし、その場で強く抱きしめる。

苦しい!どうしたの?と浩子が戸惑うと、安いは黙ってキスをする。

非番の日はいつでもいらっしゃいよと言いながら、ステーキを焼く浩子。

2人だけの夕食が始まると、どう?まあまあでしょう?良い感じであんたももりもり食べてくれるんだもの〜と、自分の手料理をがつがつ食べる安井を嬉しそうに浩子は見つめる。

あんた、言ってごらん、何かあったんでしょう?帰って来た時、変だったよ…、良いわ、私…、このまま朝までいてくれたら結婚しなくて良いの。分からないけどさ、あなたといつまで続くか。北海道行きたい…、あんたと…と、安井と抱き合ったベッドの上で浩子は言う。

小樽店、今だったら雪ね…、みんな真っ白で…、汚い所なんてないの。夜になるとキラキラ光ってさ、シーンとしている。それでいて優しい。神様の声が聞こえるの。私、教会の孤児院にいたのよ。

早くに父母を亡くしてたんだから…、あの頃は一番良かった気がするわ…、あれから良い事なかったからね〜…、兄貴もね、もう1度行ってみたいのは小樽だけだって。あの鏡良いでしょう?一番先に買ったんだから…

どうしても行きていたくなかったりする時あるでしょう?私、そう言う時、ぱっと鏡観ると、何とかなるかな〜…なんて思ちゃうんだから〜…、私って変でしょう?と浩子が甘えて来たので、ううんと否定すると、変なんだから〜!と甘えながら又浩子はキスをして来る。

その時、安井の唇が切れているのを見た浩子は、痛かった?これ、兄貴にやられたんでしょう?と聞く。

 

否…と安井は否定するが、あなたは分かんないでしょうけど、私、時々、兄貴が…、あの人が可哀想になっちゃうの。そうしようもないくらい…と浩子は言う。

その時、突然、待って!との外に誰かいるような気がするのと言い出した浩子は、入口のドアを開け、誰?お兄ちゃん?と呼びかけるが、廊下に人影はなかった。

しかし、浩子がドアを閉めると、物陰に隠れていた中根が出て来て、浩子の部屋のドアに会釈をすると、足音を立てないように、そっと立ち去って行く。

横断歩道の所にやって来た中根は、しらけ鳥飛んで来た〜♪と歌いながらやって来た2人の酔っぱらいをいきなり殴り倒して去って行く。

翌日、パトカーが走る。

3ヶ月分の家賃を払い住んでいた松村清次と言う男が殺されていたのだった。

松村は、茨組に出入りしている総会屋のようだった。

室内を探していた山下刑事は、メモや帳簿も盗んで行ったようですと矢吹に報告する。

そこに駆けつけて来た安井は、松村の本名は大川(加島潤)と言うパクリ屋で、先日の7000万の事件も大川らしいですと報告する。

五味刑事(松山照夫)は、署にいる係長に電話を入れ、ホシは茨興行の中根で単独犯ですと伝える。

線路脇に呼びだされた浩子は、安井から、中根が強盗傷害で逃げていると聞くと、噓でしょう!どうして兄がそんな事…と絶句する。

じゃあ、連絡はないんだね?電話をかかって来ないのかい?頼むから隠さないでくれ!会いたいと言って来たら、時間と場所を聞いて教えてくれ!はっきりした理由は分からないんだけど、組でいざこざ起こしたらしく、事件の前から姿を消していたらしいんだと安井は教える。

あなたしか教えないわ、兄から連絡があっても…、後で私の所に来て!怖いの…、来て?と浩子が怯えた目つきで言って来たので、安井は頷く。

五反田署に戻って来た安井は、五味刑事たちが3人で出かけて行くのとすれ違う。

矢吹がそんな安井の肩を叩き、会ったか?中根の妹と…、何て顔してるんだ?俺がしゃべると思ってるのか?もし、妹の所に中根が姿を現したら、君が手錠をかけるんだ、そうだな?と矢吹は問いかけ、安井ははっきり、はい!と答える。

その時、電話がかかって来たので、受話器を取った矢吹は、話を聞くと、すぐ行くよと答える。

小料理屋「かさご」にやって来た矢吹は、そこに待っていた松野たちに、どうしたら良いんだ?と聞く。

もう1度だけ、あんたの力が借りたいと松野が言うので、もう大小は十分支払ったはずだと矢吹は答える。

あんたは、内の後藤のバシタを抱いたんだよ!自分で後藤を捕まえといて!と松野は凄む。

奥座敷で小さくなっていた久代が、私が悪いんです!と泣き出す。

松野に代わって前に出て来た宮下が、後藤が出て来ても文句を言わせません。二度と近づかねえようにしますよ、あの女房に…と前置きし、中根を黙らせて欲しいんだ。困るんですよ、パクられたら…。もう手出しできねえんですよと矢吹に言う。

矢吹は、俺は鉄砲玉とは違うんだよ!と気色ばむが、この間の話なんですが、中根の奴、組を辞めたいと言って来たんですよ。訳も何もない。茨興行の事、洗いざらいぶちまけると、親爺と俺たちを脅したんですよと宮下は事情を打ち明ける。

その頃、安井は、又、化粧品のデモンストレーションで、顔パックのモデルになっていた浩子と会っていた。

その後、「芙蓉荘」にやって来た安井は、管理人(石井トミコ)から、浩子は3時間ほど前に一旦帰って来て出かけたと聞き驚く。

ボストンでも持って、旅行にでも行くような感じでしたね。あの子、何かやったんですか?と管理人のおばさんは聞いて来るが、安井の頭には、北海道へ行きたいわ…と言っていた浩子の言葉が蘇って来る。

部屋の中の兄弟の鏡をのぞいてみる安井。

良い事なんかなかったもんね、私たち…、又浩子の言葉が脳裏をよぎる。

小樽

港で浩子の肩を抱いて海を観る中根。

大同倉庫の横を歩く2人

昔の自分たちのような幼い兄妹と道ですれ違う2人

大勢の子供たちが雪の中、ソリ遊びをしていた。

孤児院があった今日買いに来る2人

そんな2人の様子を、追って来た安井が見守っていた。

「郷社 本天宮」と書かれた石碑の側で、中根がそんな安井に気づいたので、近づきながら、あんた、腐っている!何故彼女を道連れにするんだ?と問いかける。

違うの!私が一緒に逃げようって言ったの。どうしてって?やっぱり私、お兄ちゃんといたいのよね。ごめんなさい…と詫びる浩子。

何故やったんだ?と中根に問いかけた安井は、金のためさ、この中に3600万入っているとボストンバッグを見せ、茨組を通すと7000万がこうなるんだと苦笑する。

大川が茨と組んでパクリをやったんだと中根は言うが、兄ちゃん!いらないよ、こんな金!と浩子が言い出し、安井さん、見逃して!と言いながら中根にすがりつく。

自首してくれ!そしたら俺…、デカを辞めるよ!と安井は頼む。

その時、矢吹が姿を現したので、俺をつけたんですか!と安井は驚く。

安井君、手錠がかかってないな〜…、どう言う事なんだ?と中根を観ながら矢吹は言う。

すると中根は、矢吹さんには渡せないよ。だってこの方は、茨組に飼われたイヌだよ。こういう事は良くある事なんだと淡々と言い、俺を見逃してくれないか?あんたが欲しいのはこれだろう?と言いながら、ボストンバッグの中から帳簿を取り出して、地面に捨てる。

後は、これを焼こうが組長さんに渡そうが好きにしてくれ。じゃあ、宜しく!部長!と言うと、金の入ったバッグを提げ、中根は1人で歩いて行く。

お兄ちゃん!と呼びかける浩子。

何か、デカ辞めるって言ってるから、2人で相談して巧くやってくれ!と言いながら、中根は遠ざかって行くので、安井は雪に埋もれた道を追いかけて行く。

その時、何すんの!と言う浩子の叫び声と共に、一発の銃声が鳴り響き、先を歩いていた中根ががっくり倒れる。

お兄ちゃん!と叫びながら中根の元に走る浩子。

安井も、中根さん!と叫びながら倒れていた中根に近づくが、中根の身体の下から大量の血が流れ出していた。

銃を撃った矢吹の元に戻って来た安井は、矢吹さん!と睨み付ける。

足を狙ったんだ…と矢吹は呆然としたように呟く。

噓だ〜!と叫んだ安井は矢吹を殴りつける。

俺は!俺は!あんたみたいな刑事になりたかったのに!そう叫びながら、安井は矢吹を何発も殴りつける。

矢吹は全く抵抗もせず、殴られるだけだった。

矢吹〜!バカやろ〜!

雪の中を走るディーゼル機関車。

その中には、兄中根の遺骨箱を抱いた浩子と、暗い表情の安井が向かい合って座っていた。

少し離れた所には、無精髭を生やし、廃人のようになった矢吹も座っていた。

こんなに小さくなっちゃって…、バカなんだから、お兄ちゃん…と呟く浩子。

機関車は雪の中を走って行く。


 

 

inserted by FC2 system