白夜館

 

 

 

幻想館

 

時をかける少女('83)

筒井康隆のジュブナイル小説原作で、大林宣彦監督のいわゆる「尾道三部作」の一本で、角川映画の中でも人気が高い作品の一つ。

タイムスリップものの範疇だと思うが、SFと言うよりは、原田知世のアイドル映画のような印象の方が強い。

雪山で星空を見上げるモノクロシーンから、ラストカットでスクリーンに向かって微笑むカラーの知世ちゃんまで、観ているこっちがちょっと気恥ずかしく感じるほど、とにかく全編、角川3人娘の1人原田知世を、可愛らしく、可愛らしく撮っている

この当時の原田知世は、いわゆる美人顔と言う訳ではないのだが、半分子供みたいな年頃であることと幼顔なので、その愛らしさは子供の愛らしさなのだと思う。

過去何度か観ているのだが、今回、改めて観て、細かい所まで良く考え抜かれ、情感細やかに丁寧に描かれた思春期ドラマだったことを再認識した。

「尾道三部作」が名作として残っているのも頷ける。

一見、アイドル映画特有の無邪気な恋愛ファンタジーのように見えるが、実は救いのない悲劇で終わっている事にあまり気付かなかったりする。

冒頭のテロップにあるように、ヒロイン芳山和子は時の亡者ではなく叶わぬ理想の恋の亡者になって平凡な人生が狂っただけではなく、本来結ばれそうだった堀川吾朗(尾美としのり)の人生も狂わせてしまっているのに、その悲劇を生み出してしまった深町自身も記憶を失って罪の意識すらないまま…と言うのでは、悲恋ですらないある種残酷物語である。

さりげない地方の暮らしの中で少しずつ起きる不可解な事象と、それに巻き込まれるヒロインの気持ちの揺らめきを追ったこじんまりとした話だが、ヒロイン和子だけではなく、尾美としのり演じる醤油屋の堀川吾朗の描写も実に丁寧だ。

甘く切なく哀愁溢れる音楽。

今となっては懐かしいと言うより珍しいアナログ特撮のオンパレード

モノクロ映像が、部分着色になっているのなどは素人にも分かり易いが、風景の背景が合成になっていたりするのは、よほど注意して観ていないと見逃しそう。

言わずもがなのことだが、深町のおばあさん役で出ている入江たか子は、和子の母親紀子を演じている入江若葉の本当の母親で、昔、お嬢様女優から「化け猫女優」に転身して有名だった方。

深町のおじいさん役を演じている上原謙は、若大将こと加山雄三のお父さんで、往年のイケメン俳優。

▼▼▼▼▼ストーリーを「最後」まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1983年、筒井康隆原作、剣持亘脚本、大林宣彦監督作品。

ひとが、現実よりも、
理想の愛を知ったとき、
それは、ひとにとって、
幸福なのだろうか?
不幸なのだろうか?(とテロップ)

「A MOVIE」とアニメ風ロゴが星のようにきらめき、画面が円形ワイプして、雪山に立つスキーウエアを来た男女2人の姿が写る。

(モノクロ画面)不思議な星空…、あんまりきれい過ぎて何だか怖いわ…、きっといつかあの星のどこかからか、私のステキな男性がやって来るんだわ!…雪山の上から満点の星空を見上げながら、芳山和子(原田知世)は嬉しそうに呟く。

ちぇ、女の子って、本当に始末に負えないロマンチストでやんの…、あれはね、水素や酸素なんか、色んな元素が燃えてるだけなんだよ!と言いながら、雪玉をまるめて和子の背中にぶつけて来たのは同級生の堀川吾朗(尾美としのり)だった。

もう!いじわる吾朗ちゃん!と膨れて振り返った和子に、化学はときとして非常である…と言うので、それ、誰が言ったの?と和子が聞くと、私、堀川吾朗大博士!と自慢げに答え、さ、行こうよ、雪祭りに遅れると、福島先生たちうるさいからね…と吾朗は言う。

ふんだ!そんなに現実的で女の子の気持ちが分からないようじゃ、吾朗ちゃんには永遠に恋人なんか…と後ろ向きに歩いていた和子が前を向いた瞬間、誰かの胸にぶつかる。

見上げると、見下ろした男の子が微笑む。

深町君?と振り返った和子は驚く。

どうした?何だ、深町じゃないか…、こんな所でどうしたんだ?…と言いながらと吾朗も近づいて来る。

あんまり星がきれいだから…と深町一夫(高柳良一)が答えると、バカバカしい!全くみんな乙女チックなんだから…と吾郎は呆れ、さ、急いだ、急いだ!と2人を急かす。

スキーを履いて雪山に登っていた立花尚子(根岸季衣)と福島利男(岸部一徳)の両教師は、これでみんな揃ったな?とクラスの全員に声をかけるが、雪に刺したスキー板が2組残っており、堀川君と芳山さんがいません!と女子が答えたので、しようがないな…と当たりを見回していたとき、あら?噂をすればですわ…と立花先生が、雪の中を転がるように近づいて来た深町と吾朗と和子たちを見つける。

こら~!遅刻だぞ!と福島先生が呼びかけると、すみません!あんまり星がきれいだったので…と和子が詫びる。

そしたら、深町の奴がいたもんで…と吾朗が説明し、深町はすみません!と謝る。

ま、良い。さ、早く始めるか。早くスキー付けて!と福島先生が指示を出すと、あら?深町君のスキーが足りません!と和子が気づいたので、そうか?変だな~…と福島先生は怪訝そうな顔になる。

星なんかに見とれていたんで、どっかに置き忘れて来たんじゃないの?と吾朗が嫌味を言うと、深町は気まずそうな顔になる。

しようがないわね…、じゃあ、あなた、福島先生のスキー借りなさい。福島先生には歩いて降りてもらいますからと立花先生が言い出したので、おいおい、せっかく名スキーヤー振りをみんなに見せてやろうと思っていたのに…と福島先生はがっかりする。

ぐずぐず言わないの!男らしく早くしなさい!と立花先生が叱りつけたので、はいはい…と福島先生はおとなしく従う。

さ、行くわよ!と立花先生が叫び、トーチを持った生徒たちが滑り始める中、和子は嬉しそうに微笑む。

(モノクロ映像の一部がカラーになって行く)麓の駅から列車に乗り込んだ一行だったが、きれい!山の上はまだまだ冬だったのに、下は完全に春なんだもの…。季節と言う時間が何だかこうゆっくり動いているのが分かるみたい!と窓の外を観ていた和子が嬉しそうに言いだしたので、芳山がそんなに詩人だったとは知らなかったな…と駅弁を食べていた福山先生が冷やかす。

非現実的なんだよ。時間が動くのが分かるなんて!と又吾朗が茶化す。

その時、深町が、菜の花を一輪持って車両に入っていたので、何?その花?と女子が聞くと、さっき駅に停まった時、きれいだったから…と深町は答える。

全くもう…、女の子みたいに花なんて積んじゃって…と言いながら、吾朗は深町に席を譲りながら、自分はトイレに行く。

しようがないわね~、乗り遅れたらどうするつもりだったの?と立花先生が注意すると、大丈夫です…と深町は答え和子の隣に座る。

そんな深町を観ながら和子も、大丈夫じゃないわ。あなたって、いるんだかいないんだか分からないんだから…と深町のことを注意する。

(完全なカラー画面になる)菜の花畑の中を列車が通過して行く。

障子をバックに縦書きのタイトル(障子には和子らしき女の子の上半身のシルエットが写る)

尾道の風景をバックにスタッフ、キャストロール

満開の桜の下、高校に登校して来る生徒たち

お早う!急いで、急いで!遅刻よ!と深町に呼びかけて来たのは和子。

4月16日(土)と日付が書かれた黒板に、「モモクリ3年 カキ8年」と書いた立花先生は、これが何だか分かりますか、木を植えて実が熟してなるまでの年月ですねと教壇から生徒たちに教えていた。

これには続きがあります。「ユズは9年で成り下がる」と言った立花先生の言葉に、生徒たちはどっと笑う。

その次は…と立花先生が言うと、「ナスのバカめが18年!」と和子が答える。

良く知ってましたねろ先生が褒めると、今、みんな思い出したんです。小さい頃、そんな歌っていた気がして…と和子は言い、昔の人は、いつもこんな大切なことを唄にして生活して来たんですね…と立花先生は言い、ところでみんないくつですか?と問いかける。

この新学期で全員16歳になりますと神谷真理子(津田ゆかり)が答えると、さて16才と言えば、植物に例えると十分熟して実がなった年頃です。これからはこの身体を一層大切にして、この身体にふさわしい心を宿すようにしましょうと立花先生はまとめる。

次の授業、菜の花や 月は東に日は西に…、つまりだ…、辺りは黄色い菜の花畑、真っ赤な夕日と月が…、そして空の色は青紫になっている…そう言う絵画的な状況を描いていると言う訳なんだ…と教えていた福山先生は、あ~あ、弁当持ってくれば良かった…とぼやいていた吾朗に、おい!そこ、うるさいぞ!と注意する。

この俳句には別な見方も出来、地球と月と太陽をいっぺんに読み込んだと言うことで、日本人の宇宙観を表していると言う解釈も出来るんだと言ってその日の授業を終えた福山先生は、土曜日の掃除当番が掃除をして帰ることと指示を出すと、神谷に地下室の鍵を渡す。

どうも、春の間に理科室に入っていたずらしている奴がいるようなんだと福山先生は言う。

土曜日の掃除当番なんて付いてないな~とぼやきながら教室を出た吾朗に、仕方ないじゃない。順番なんだから…と言いながら和子と深町が同行する。

そんな和子に、理科室の鍵を渡しに来た神谷は、お掃除が終わったらきちんと鍵をかけて職員室に持って来るようにですってと福山先生の伝言を伝える。

そ、分かったわ!と和子が承知すると、じゃあ頼んだわね。お先に!と言って神谷は帰って行く。

さっさとやりましょう!と和子が率先して掃除を始めると、さあ一働きするか!と言いだした吾朗が腹減った、腹減った♪と歌いながら、理科室の掃除をし始めると、それ、すっかり吾朗ちゃんのお掃除ソングになったわねと和子が茶化す。

しょうがないじゃないか、土曜は特に腹が減るんだから…と吾朗はぼやくので、おなかが空くのはみんな同じよと返した和子は、後は私がやるから、ゴミを捨てて来て。そしたら手を洗うのよ、後はもう簡単だからと和子は男子二人を部屋から追い出す。

ゴミ焼却場に来た吾朗は、芳山君って、ちょっと生意気だよね?と言うので、深町が、そうかな?と答えると、だってさ、あれしなさい、これしなさいって、お姉さんぶってさ…と言う吾朗は、小便、小便!と言いながらトイレに向かう。

理科室に残っていた和子は、人の気配を感じ、誰?吾朗ちゃん?深町君?と問いかけながら、一旦施錠していた実験室の鍵を開ける。

誰なの?と恐る恐る実験室の中を覗き込んだ和子は、誰なの、そこにいるのは?…と問いかけながら、中に入ってみる。

床にはフラスコが転がっており、その中から何か湯気のようなものが立ち上っていた。

深町君でしょう?吾朗ちゃん?驚かそうとしてもダメよ!どこから入ったの?そう言いながら室内を探しまわった和子だったが、誰もいないし、出ようとドアノブを回すと鍵がかかっていることに気づく。

もう!いじわる!怒りながら、床のフラスコを拾い上げようとしゃがんだ途端、和子は気が遠くなって、テーブルの乳鉢が床に落ち、彼女も床に倒れ込む。

その時、部屋にかかっていた置き時計が、1時の時報を鳴らす。

手を拭きながらトイレから吾朗が戻って来ると、深町が和子のカバンも持って来て一緒に理科室に行く。

しかし和子の姿が見えないし、掃除道具も置きっぱなし、変だな?鍵も開きっぱなしだし、しょうがないな…とぼやきながら、実験室に入り込んだ吾朗は、そこで倒れていた和子を発見する。

芳山君!と近づいた吾朗に、大丈夫。気を失っているだけだよ…と冷静に判断した深町は、芳山君を抱いてくれないか?保健室に連れて行くんだ。多分貧血だと思うんだと深町は言いながら、部屋の中を見回す。

和子を抱き上げようとした吾朗だったが、重くてダメだったので、深町に足の方を持ってもらい、2人で保健室へ運ぶ。

ベッドに寝かした和子を診た立花先生は、これで大丈夫、なかなか適切な処置だったわ…と深町の判断を褒める。

吾朗が、濡れたハンカチで汚れた和子の顔を拭いてやっていると、私、どうしたのかしら…と言いながら、和子は目覚める。

実験室貧血起こしてで倒れてたんだと深町が説明すると、違う!違うわ!誰かがいたのよ…と和子は言い出す。

何もなかったよ…と吾朗は否定するが、それでふいにフラスコが床に落ちて、湯気のようなものが出て…、良い匂いがしたのと和子は説明する。

それで、近寄ったら、身体がふわっとして…と和子が懸命に説明するので、一緒に聞いていた福島先生は、本当に何もなかったのか?と吾朗に確認する。

誰もいなかったと吾朗が答えると、実験室が荒らされて、おかしい、おかしいって話は聞いてたんだが…、鍵を付けたばっかりだと言うのにな~…と、福島先生も頭をひねる。

誰もいなかったんですよ、試験管やビーカーもそのままだったし…と深町も答える。

それにしても、良い匂いがしただなんて…、こんな顔で…と、和子の顔に付いた煤を拭いてやっていた立花先生には呆れたように言う。

ちょっと観て来るか…と福島先生が言い出したので、私も行きます!自分の目で確かめてみますと言いながら和子もベッドから置きだしたので、本当に大丈夫なの?と立花先生は心配する。

それでも、上着を着た和子の顔を拭き続けながら、堀川君、ごめん、ハンカチ汚しちゃったと謝るので、良いんですと吾朗は受け取ろうとするが、そのハンカチを奪い取った和子は、これ、洗って返すと言う。

実験室にやって来た和子は、思わず、おかしいわ…と叫ぶ。

付いてきた福島先生も、ちゃんときれいじゃないか。荒らされてなんかない…と言う。

確かに、床に落ちたフラスコや乳鉢はきれいになくなっていた。

一緒に付いて来た立花先生が、芳山さんが嗅いだ良い匂いって?と聞くと、甘いんです。なんて言うか…、そう!あれはラベンダーの香りにそっくり!一度母からラベンダーの香水を嗅がせてもらったことがあるんですと和子は答える。

そんな和子の様子を、深町はじっと見つめていた。

そのラベンダーにそっくりな薬品なんてあったかしら?と立花先生が聞くと、いや~…、知らんな…と福島先生は答える。

欲、人が気絶する時、頭の中にきな臭い匂いがすると言うけど…、それじゃないかしら?と立花先生は仮説を立てるが、福島先生も何となく頷く。

その時、柱時計が二時の時報を打つ。

そうだよ!それだよ!腹が減り過ぎて気絶しちゃったんだよ…と吾朗も賛成する。

そんなに腹減ってるのか?と福島先生が聞くと、だって、土曜日だよ、先生。それにたった3人で掃除やらせるんだもの…と吾朗がすねたので、分かった、分かった、そいつは悪かったな。じゃ、今日はかえって良いぞと福島先生の許しが出る。

じゃあ、堀川君、深町君、芳山さん頼んだわよ。ちゃんと送って行くのよと立花先生が頼み、和子は立花先生に、さようなら、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です!と頭を下げて帰って行く。

その後に、深町、吾郎も続く。

一緒に実験室を出て3人を見送った立花先生は、芳山さん、あの子今、生理…と言いかけるが、福島先生が後から出て来て実験室の鍵を閉めていたので、そのネクタイを結んでやりながら、そう言えば、お誕生日でしたわね、明日…と立花先生は恥ずかしそうに言う。

掃除道具を持って戻って行く立花先生のホットパンツから伸びた健康的な足を、鍵をかけ終えた福島先生は見るともなく観る。

3人一緒に帰る途中、ねえ、吾朗ちゃん、私今日どこか変?でも、やっぱり変よね…。だって私観たんですもの!床にフラスコがあって、白い湯気が出てて…、それ、どこに行ったんだろ?と和子は吾朗に問いかける。

それにしてもびっくりしたよ。芳山君ってこんなにチビのくせしてさ、すんげえ重いんだもの…と吾朗はからかう。

もう、いじわる…と言いかけた和子は、その時、一台の自転車が3人にぶつかるように走って来たので、思わず深町の身体をかばうように飛びつく。

ああ、びっくりした!芳山君、今日は厄日だねと吾朗は去って行った自転車を観ながら言う。

でもさ、こういう後ってさ、一杯良いことあるからさ…と珍しく吾朗がまじめなことを言うので、うん、そうね…と頷いた和子は、行こ!と深町と吾朗を誘う。

吾朗の実家に着いて、吾朗がじゃあねと挨拶して来たので、今日はどうもありがとうと和子は礼を言う。

お帰りなさい。深町さんもお帰りなさいと、表の道で水まきをしていた吾朗の母親堀川貞子(きたむらあきこ)が挨拶して来る。

じゃあ、月曜日!おばさんもさよなら!と吾朗と別れた和子と深町は2人で帰る。

階段を登り、温室のある深町の家に着いたので、ここで良いわよと和子は言い出す。

そんな事言ったって、僕には責任があるから…と深町は送って行くと聞かなかったが、オーバーね、先生には送ってもらったって言うわよ…と和子は断ろうとする。

そんな2人を庭先で見つけた、深町のおじいさん正治(上原謙)とおばあさんのたつ(入江たか子)が、寄ってらっしゃい。今、すぐお茶を入れますから…と声をかけて来たので、和子は庭先に降りて行く。

その時、和子は温室から匂って来るラベンダーの匂いに気づく。

あ!この匂い!ラベンダーの香り!実験室で嗅いだ匂いにそっくり!と言いながら地下室に近づこうとすると、ラベンダーならおじいさんが温室で育てているんだと深町は言う。

私、観たいわ、お願い!私、ラベンダーの花が観たいの!と和子が頼むので、仕方なさそうに深町は温室の中に入れてやる。

そこにはラベンダーの花が咲き乱れていた。

南フランス辺りの高い山の上ではね、真夏になると、このラベンダーの花で山肌がすっかり紫色にすっかり覆い尽くされてしまうんだ。ラベンダーから香水を作ると、男性的な匂いとしては欠くことの出来ないほどのものになるんだ。可愛い花だろう?と深町が教えてやると、私、花を見るの初めてだわ!…と言いながら、和子が少しふらついたようだったので、大丈夫か?芳山君!と驚く深町。

確かにこの匂いだわ!私、間違ってなかった!と興奮気味に言い出す。

向こうに行こうか?お茶入っていると思うから…と深町が誘うと、ごめんなさい!お茶失礼して帰るわ!と言いだす和子。

送って行くよと深町は声をかけるが、大丈夫!それより1人になりたいから…、ごめんね、心配させちゃって…、おじいさんとおばあさんにはお茶のこと謝っといてねと和子は言う。

明日は日曜日だから、ゆっくり休むと良いよと深町が労ると、そうする!と和子は答え、正治とたつが仲睦まじく庭で話しているのを横目で観ながら、夕方、自宅に帰り着く。

すると又、画面がモノクロになる。

ジュディ・ガーランドのアートカードが飾ってある部屋の中、和子はベッドの中で目覚める。

ゆっくり部屋の中を見回した和子は、弓道着の横に飾られていた日本人形に目を留める。

横の棚の上の、和子が弓道をしている時の写真の横に置いてある目覚まし時計を見ると「9:87」などと妙な数字になっていたので。壊れたのかな?と思った和子は時計を振ったり叩いたりしてみる。

すると、時計は「10:27」になる。

同じく、棚の上のキス人形を動かしてみながら、昨日の自転車を避けようと、思わず、深町に飛びついた時の事を思い出す和子。

リビングで紅茶を飲んでいた母親紀子(入江若葉)に、お早うと言いながら近づいた和子だったが、紀子は、いくら日曜日だからって寝坊のし過ぎよ。みんな出かけちゃったわよ。お紅茶飲むでしょう?お父さんは今日はゴルフのコンペ…などとおしゃべりしながら、紅茶のカップを和子の前に置くと台所へと向かう。

きれいになって置いてあった吾朗のハンカチをいじっていた和子は、いつの間にか、目の前のカップに紅茶が入っていることに気づき、お母さん?と呼ぶが、やがて、紀子が入って来たのは反対側からだった。

冷めちゃうわよ、せっかくいれてあげたのに…、何だか顔色悪いわよ…などと忙しそうに洗濯物を持った紀子は去って行く。

和子は、又、昨日の実験室の床に転がっていた湯気を上げるフラスコのことを思い出す。

鏡台の鏡をのぞいていると、調子悪いの?と言いながら紀子が近づいて来る。

何だか気分がはっきりしないの…と答えた和子だったが、大丈夫?と案じる紀子を後に、ちょっと出かけて来ると言い残し家を出る。

庭先の降りて来た紀子は、ねえ、寝ていた方が良いんじゃないの?と声をかけるが、下駄を突っかけた和子は、ハンカチを手に吾朗の家である醤油屋にやって来る。

すると、吾朗が醤油の仕込みをやっていたので、こんにちは!温かいのねと声をかける。

ああ、熱いくらいだ…と吾郎が答えると、私、この匂い好きよ。お醤油の匂い…、何だか優しくて…と和子は言う。

そう言う気楽なことは醤油屋の倅に入って欲しくないね。何しろこっちは年中なんだから…と吾朗は作業を進めながら答える。

漏斗を使って、樽から瓶に醤油を詰めだした吾朗の横にしゃがんだ和子は、ちらちら吾朗の方を観ながら、吾朗ちゃん、私ね…と話しかけようとするが、ごめん!ちょっと黙っててくれないか。こぼしちゃうかも知れないから…と作業中の吾郎は言う。

ごめんなさい!と謝りながら和子が立上がると、吾朗の母親貞子が、 和子さんいらっしゃい!と上がるように勧める。

私、これを返しに来ただけなんです。吾朗ちゃん、ありがとう、これ洗っといたから…と和子はハンカチを吾朗に渡すと、ありがとう。そのハンカチ、お醤油の匂い、一杯したわ…と付け加えお仕事の邪魔をしてごめんん際。おばさん、さよなら…と言い残し帰って行く。

貞子は作業を続ける吾朗に、夕べも話したけど、あんたやっぱり大学の受験受けなさいと話しかける。

しかし吾朗は、受験は良いよ。俺が好きなんだし…、親父の代から醤油の匂いが染み付いてるんだから…とぶっきらぼうに答える。

醤油屋を名残惜しそうに振り返りながら帰って行く和子の姿を、たまたま通りかかった神谷真理子が目撃する。

一方、蔵の二階に上がって物干し台に出た吾朗は、さっき和子が返しに来たハンカチをポケットから出すと、拡げて顔の上に乗せ、その匂いを胸一杯に吸い込む。

そして、その場に干してあった醤油桶を洗い始める。

4月18日(月)と教室の黒板の右端に書き込んでいた神谷真理子は、お早う!と言いながらやって来た和子に気づくと、あら、どうしたの?一昨日倒れたんだって?どうする?体育…、見学にしておく?と聞いて来る。

うん、大丈夫!さっぱり汗かきたいからと和子は答えるが、そう…、無理しないでね…と答えた真理子は、芳山さん…、私、本当は昨日あなたを観たのよ。堀川君の家の側で…、あの時あなた、酷く元気がなかったわ…、本当に大丈夫?と真理子が聞くので、ええ…と和子は頷く。

体育館でバスケをしていた深町は、鏡の横で体操着姿でぼーっと立っていた和子の側に近寄って来ると、大丈夫かい?無理しない方が良いよと諭す。

和子は、本当にもう大丈夫よと答える。

福島先生の漢語の授業中、教科書を机の上に立てて吾朗が寝ていたので、隣の席の和子は懸命に起こそうとする。

その小声に気づいた福島先生は、芳山を指名し、この文章に返り点を付けなさいと黒板を指す。

前に出た和子が出来ない事を知った福島先生は、真新しいネクタイを結び直しながら、どうした?ダメじゃないか。ま、今日は大目に見ておくから、ちゃんと復讐しておくように…と注意する。

和子が机に戻ると、隣の席の吾朗が目を覚ます。

グラウンドで弓道に部活をしていた和子は、弓を引き絞った時、的にまだはなってない矢が突き刺さるイメージが見えたので、矢を放たないまま下がったので、後ろで観ていた顧問の先生が、どうした、芳山?と声をかける。

しかし、そのまま帰宅していた和子が、深町の家の温室の横を通り過ぎた時、雨が降って来る。

帰宅した和子は漢文の復習をする。

その時、和子の背後に置いてあったキス天使の人形が触ってないのにキスをした気配に気づいて振り向くと、日本人形も、突然首を振りだし、目を閉じる。

そして、いきなり和子の方に飛びかかって来たかに見えたが、部屋中が大きく揺れていることに気づく。

地震よ!と慌てて、部屋を飛び出した和子は、リビングにいた母紀子、父親哲夫(内藤誠)や妹良子(山下陽子)らと一緒に庭に飛び出す。

火を消したか?と紀子に確認した哲夫は、一旦庭に出た後、慌てたようにリビングのテーブルに置いていたワインの瓶を持ち出す。

あ、終わった!と良子が気づき、大きかったな…などと言いながら哲夫は部屋に戻ろうとするが、紀子の方は、揺り返しが来るんじゃない?ここにいた方が…と紀子は不安がる。

しかし、揺り返しの方が大きいと言うことはないだろうと言う哲夫の言葉で、全員、家の中に戻ることにする。

その時、雨も上がったわと紀子が気づく。

勉強部屋のベッドに腰掛けた和子だったが、遠くで消防車のサイレンが聞こえたので、気になってベランダに出てみると、吾朗の家の方に向かう消防車の灯が見えた。

リビングでは、哲夫もサイレンに気づいたのか、ん?火事か?と呟くが、和子が、ちょっと行って来る。吾朗ちゃんの方が火事なの!と言いながら飛び出して行ったので、危ないわよ、止しなさい!と紀子は止めようとする。

醤油屋の前には野次馬が集まっており、醤油屋じゃなくて良かったぜ。醤油屋だったら大変だったなどと声が聞こえて来る。

その時、和子は背後に立っていた深町に気づき、来てたの?と言われたので、家の方から観たら、吾朗ちゃんの方だったから…と答える。

その時、吾朗の姿が見えたので、和子が呼びかけ、大変だったわね〜と労ると、地震の後でこれだろう?もう、くたくただよ…と吾朗は答え、何か手伝おうか?と深町が声をかけると、良いよ、良いよと遠慮し、母親の貞子には、心配して来てくれたんだよと深町と和子のことを教える。

何か、お手伝いでも…と和子も申し出るが、サンキュー、本当に良いよと吾朗が言うので、和子はお休み!と吾朗に言い、深町と一緒に帰ることにする。

深町の家の温室の所まで戻って来たので、じゃあ、明日学校で…と和子は別れようとするが、明日は僕、学校やすんでちょっと…、植物採集に行くんだと深町が答えたので、深町君って、女の子の私より花に興味があるのねと和子が言うと、今のこの季節にどうしても欲しい植物があるんだと深町は言う。

深町君…、私ね…と和子が何かを言いかけたので、何?何でも言ってごらんと優しく深町は応ずる。

もう良いの…と和子が答えたので、じゃ、元気出してね、心配だから…、約束だよと言いながら、コートの下から手を差し出して来た深町だったが、コートの下はパジャマのママだったことに気づいた和子は、風邪引きますよ!とコートを閉じてやるとそのまま帰って行く。

暗い階段を上がる途中、和子は猫がいるのに気づく。

その直後、自分の下駄の音以外の足音が聞こえたので、誰?と周囲を見回し警戒する。

すると、又足音が聞こえ、後をじっと観ていた和子は、何者かに口を塞がれる。

深町君!そう言いながら和子はベッドで目覚めたので、置き時計を見ると「8:08」になっているではないか。

慌てて制服に着替えた和子は、遅刻しちゃう!と慌てながら、リビングで朝食を食べていた良子のミルクを勝手に飲み干し、日めくりカレンダーが「19日」になっていたので破ろうとするが、良子が私が破く!と怒る。

温室の横を通った和子は、植物学者さんはもうお出かけ?と独り言を言い、先を歩いていた吾朗にお早う!と言いながら追いつく。

今日は元気だね。夕べはサンキュー!あの後寝付けなくてさ…、うとうとっとしてたらもう朝さ…と言う吾朗。

その時、何気なく上を見上げた和子は、軒先から瓦が落ちそうになっていたので、思わず、危ない!と叫んで、吾朗をかばう。

その途端、又、ベッドの上に起きた和子は寝汗をぐっしょりかいていた。

又夢か…、なんて朝なの…と自分ながら呆れる和子。

置き時計は「7:06」を指していたので、枕元のキス天使をくっつけながら、深町と吾朗を助けた時の事を思い出す和子。

お早う!と言いながらリビングに来ると、あら?今朝は早いわねと紀子は感心し、鏡台を覗きながら、メロン食べたい…と和子がねだると、メロンは明日よと紀子は応ずる。

まだ食べごろじゃないの!と良子も言うので、昨日もそう言ったじゃないと不満を口にする和子

何言ってるのよ…とみそ汁を運んで来た紀子は、良子の味付け海苔をちぎって口に入れた和子に、何か食べなきゃ、身体に毒よと注意する。

欲しくない…と答えた和子は、ほら、忘れた!と言いながら、「18日」になっていた日めくりを破って出かけたので、私、ちゃんとやったわよ!と朝食を食べていた良子は怒る。

そうよね〜…と紀子も首を傾げる。

出かけて行く和子に向い、良子は又、私、ちゃんとやったわよ!と二枚の日めくりを両手に持って叫ぶ。

お早う!植物大博士!お元気ですか!と深町の家の温室の横で独り言の声をかけながら通り過ぎた和子は、学校へ行く途中、夢の中で観た屋根瓦がちゃんとしていることを確認し安堵する。

学校のグラウンドで、立花先生と仲良く並んで歩いていた福島先生に、そのネクタイ…、素敵ですねって、言いたかったんです、昨日…と声をかけて教室に向かった和子だったが、福島先生は不思議そうに、変な子だな?昨日ったて、これ…、夕べ君にプレゼントしてもらったばかりで、今日始めて締めたんだよな〜…と口走る。

それを聞いていた立花先生は、同じネクタイを持ってらしたの?それならそうと始めから言って下されば良かったのに!と怒って先に行ってしまう。

教室に入った和子は、黒板に神谷真理子が、4月18日(月)と書いていたので、あら?19日じゃないの?と声をかける。

何が?と真理子が聞くので、今日の日付よと和子が答えると、嫌ね、今日は18日よ、しっかりしてよ。そう言えばあなた、倒れたんですって?もう大丈夫なの?と真理子が聞くので、うんと答えながらも和子は釈然としない気持ちになる。

席に座ると、吾朗もやって来て、どうしたの?具合でも悪いの?と元気がない和子に声をかけて来る。

寝不足みたい。刺激が強過ぎたのよ。地震と火事が重なったんだから…と和子が言うと、地震?と吾朗は不思議そうにする。

地震の後、あなたの家の裏が火事になったんじゃないと和子が意外そうに聞き返すと、大丈夫か?芳山君、熱でもあるんじゃないのか?と吾朗は言うだけだった。

そこに、深町がやって来たので、和子は意外そうに、深町君、あなた、今日…と聞こうとするが、福島先生が来て授業が始まってしまう。

みんな、元気だったか?今週の目標は自覚と責任なる行動を身につけること…、つまり、新しい気持ちで自分を見つめ直す…などと福島先生は話し始めるが、和子は怪訝そうに深町の方を振り返る。

体育の授業は休むことにした和子が鏡の隣に制服のまま立っていると、バスケをやっていた深町が、芳山君、大丈夫かい?と言いながら近づいて来る。

あんまり大丈夫じゃないみたい…と和子が心細そうに答えると、心配事があるなら言ってごらんと深町が聞いて来たので、深町君、あなたどうして今日、植物採集止めちゃったの?と和子は聞いてみるが、その時、何やってんだよ?早く来いよ!と吾郎がコートから呼びかけたので、深町はバスケの練習に戻って行く。

少年老い易く…学なりがたし…と福島先生が漢文を黒板に書いていたので、昨日やった問題だわ!と和子は驚くが、前の席の真理子は、今日始めてよと教える。

私昨日自習したのよ…と言いながら、和子はノートを拡げて見るが、そこには何も書き込まれていなかったので、ない!ないわ!と思わず口走ってしまう。

すると、誰だ?おしゃべりしているのは!と福島先生に聞かれてしまい、芳山!この文に返り点を付けてみなさいと指されてしまう。

しっかり勉強していたお陰で、和子はあっさり返り点を打ち終えたので、ほ〜…、いやに簡単に解けたな…、まあ良い、良くやったと褒めた福島先生は、堀川みたいに大胆に寝ていると、永遠に学は成り立たんぞと嫌味を言い、クラス全員笑い出すが、吾朗は、そんな声を聞こえないようにすやすやと眠っていた。

部活の弓道部の時間、和子は弓を引くが、またもや、的新谷が命中するイメージが見えたので、そのまま矢を射ないまま引き下がったので、顧問の先生たちが、どうした?芳山?と声をかけて来る。

帰り道にあった「時計修理 日乃出堂」と言う店のショーウィンドーの時計は、4時5分前を指していた。

立ち止まって、少し戻り、それを何気なく観ていた和子だったが、その時、時計の針が4時15分まで急速に進む。

さらに針はぐるぐるおかしな動きを続け、最後は針が手前に向いて飛び出して来たように見えた。

びっくりした和子だったが、店の中の主人(高林陽一)が笑っているのが見えた。

その後、雨に降られて急いで帰っていた和子は、深町の声を聞く。

上だよ、上!と言うので観てみると、家の二階の窓に腰掛けた深町だった。

濡れるよ、雨宿りして行きなよ。1人留守番していて退屈しているんだ!と言うので、じゃあ、少しだけ…と答えた和子は、深町に教えられるまま庭先から座敷に上がり込む。

仏壇を見ると、亡くなった深町の両親らしき写真が飾られていた。

二階に上がると、屋根裏部屋のような所で深町が本を読んでいた。

今、クラブの帰り?と聞かれた和子はさぼっちゃったと答え、部屋を見回しながら、ステキなお部屋…と感心する。

おじいちゃんやおばあちゃんの影響でね…と深町は答え、そう言えば、私、始めてだったかしら?深町君の部屋に来たの…、変よね、小さな頃から会ってたはずなのに…と首を捻る。

それは、僕が君の家に遊びに行ってからじゃない?と深町が言うと、それは良く覚えてるわ、ほら、あの時だって…と和子は答える。

(回想)稲光が光る部屋の中、ひな人形が飾ってある部屋に来ていた深町と和子は、白酒を飲んではしゃいでいたが、突然、鏡台が和子の方に倒れかかって来て、和子は倒れてしまう。

その際、割れた鏡の破片が、倒れた和子の幼い右手の親指と人差し指の間に刺さる。

和子ちゃん?と言いながら、その破片を取ろうとした深町も、右手に怪我をしてしまう。

その後、深町は、和子の右手を持ち上げると、血が出ている部分を吸ってやる。

和子も又、同じように深町の指の傷の血を吸ってやる。

(回想明け)和子の右手の親指と人差し指の間には、その時の傷が残っていた。

深町君って、昔からとても優しかったのねてんと呟いた和子は、ポプリを入れたガラスケースを見つける。

あら、ポプリ!と驚くと、まだ集めだしたばかりなので少ししかないんだと言う深町がそのガラスケースを受け取るが、そのラベルには「ラベンダー」と書かれてあった。

素敵ね〜、深町君には良く似合うわ…と微笑む和子だったが、深町君お願い!と急に言い出し、変な女の子と思わないでね。あなたのパジャマを見せて!お願い!確かめさせて!と頼む。

深町は良いよと答え、長持の中に入っていた寝間着を取り出すと、僕はいつもこれを着て寝るんだ。うちは年寄しかいないだろ?だからパジャマなんか着ないんだと言う。

でも一体どうしたの?と深町が聞くと、笑わないでね、私、どうかしちゃったみたいなの。丸一日、時間が後戻りしちゃったみたいなの。今日一日あったことは、昨日もう経験したことばかりなの。授業だってやったことのあることばっかりだし、何もかもがそっくりそのままなの…と和子は思い切って打ち明ける。

デ・ジャ・ビュかな?と深町が言い出したので、デ・ジャ・ビュ?と和子は聞き直す。

既視感って言うのかな?絶対始めてのはずなのに、一回経験したことがあるって感じたり、どっかで観たことがあるような経験ない?と深町は聞いて来る。

あるけど…、丸々一日分そっくりなのよ…と和子は納得出来ない様子。

その時、4時半の時報が置き時計から聞こえ、いけね!温室で水やる時間だ!そこで待っててと深町は立上がったので、私も手伝う!と言って付いて行った和子も、ジョウロで温室の植物たちに水をかける。

その時、深町が、モモクリ3年〜♪カキ8年…と歌い始めたので、あ、あの唄ね!と気づいた和子も一緒に歌いだす。

愛の実りは〜♪海の底〜♪と和子の知らないに番を深町が歌い始めたので、ちょっと驚く。

ステキな唄ね…と感激した和子は、私、あの唄にこんな続きがあるなんて知らなかったわ…と打ち明ける。

その時、あ、そっちには近づかない方が良いよ。エアベンダーで又気持ちが悪くなるかも知れないだろう?と深町が注意する。

私…、怖いわ…、私、どうしてこんなことになってしまったのかしら?と和子が怯えると、君は少し精神が不安定なだけだよ。大人になる時には良くあることらしいよと深町は冷静に言い聞かせる。

深町君、私を助けてね…、ごめんね、変なこと言って…と恥ずかしそうに和子は言う。

その夜、勉強部屋でキス天使人形をじっと見ていた和子は、人形がキスをするのを目撃する。

日本人形の首も動き出したので、慌てて押さえると、案の定部屋が大きく揺れ始める。

やっぱり!と叫んだ和子は、そのまましてのリビングで動揺していた両親に、大丈夫だから!と落ち着かせると、すぐ戻るわ!ちょっと火事観て来る!と言いながら出かけたので、哲夫は、火事って何だ!と聞き返す。

しかし、和子は階段を降り、吾朗の醤油屋の前に駆けつける。

すると、裏手で煙が上がっており、通りかかった自転車の男が、燃えてるよ!火事だ!と騒ぎながら戻って行く。

そうした様子を観ていた和子は、背後に人影が近づいたので振り返ると、深町君!と驚く。

黒いコート姿の深町が、気になったから来てみたんだよと言う。

君の言う通りになったな。君の予言通りなら、すぐに収まるはずだろう?などと深町は言うが、予言なんて…と言いながら、深町のコートの下のパジャマに気づく。

昼間、おばあちゃんが買物行ったついでに買ったんだよと深町は言う。

私が知っているのは、この柄よ!と嬉しそうに答えた和子は、醤油屋の入口が開き、吾朗の姿を発見したので、そんなに慌てなくても大丈夫って教えてあげようか?と言うが、止めなよ。なんて説明するんだい?と深町は止め、帰ろうと促す。

深町の家の温室の所に戻って来た和子は、テレポーテーション?と深町から聞き、不思議そうにする。

別の場所に移動できるんだ、君はタイムリープを同時に出来る身体になったとしか思えないと深町が解説したので、デタラメよ、どうして私が?じゃあ、昨日の出来事はもう起こらないの?と和子は聞き返すと、2つの時間、2つの空間に同時に存在できないんだと深町が言うので、分からない!と怯えた和子は深町にしがみつき、もっと良く抱いて!あなたとこうしていると安心なの…と甘える。

その後、和子は深町と、ヒトデと出会って~♩と一緒に歌いながら竹林を通り抜け自宅に向かう。

嫌よ!普通じゃないなんて… 普通の女の子として深町君とこうしていたい…と和子が言うので、極度の緊張で精神状態が不安定になっているんだよ。こんな事あったんだもの…、ゆっくり休んだ方が良いよと深町は優しく言い聞かす。

すると和子は、あなたも明日は気を付けてね、植物採集に行くんでしょう?と聞くので、どうしてそれを?と深町は驚くが、私の今日は2度目の今日ですもの…と和子が教えると、そうか…と深町は納得する。

それを聞いた和子は、分かってくれる人がいるだけで安心!と喜び、深町と握手する。

その時、深町の右手を見た和子は、傷が見当たらないので不思議がると、深町は、僕のは軽かったからすぐ直ってしまったんだと焦ったように言い訳する。

そう…、でも私の傷は大切な思い出よ…と和子は自分の指の傷のことを愛おしそうに見て、さようなら!と挨拶して帰って行く。

翌朝 起きて来た和子に、母親が、メロン食べていきなさい、食べごろよと声をかけてくる。

和子は日めくりカレンダーの18日の分を破ると、妹の良子が、私が破く!と文句を言う。

行ってきます!と家を出た和子だったが、何かを思い出したのか、急に走り出す。

登校の途中、お寺の門に近づいていた吾朗を発見すると、吾朗ちゃん!危ない!と叫びながら、門に身体を押し付ける和子。

次の瞬間、屋根瓦が大量に落下して来る。

その時、和子は、あっけにとられている吾朗の右手の親指の腹に傷跡がある事に気付く。

吉山君…と驚いた吾朗が声を掛けると、和子は振り向き、深町君!と叫ぶと学校とは反対方向へかけて行く。

近くにいた神谷真理子たちが驚いて、寺の門の方に集まって来る。 深町の自宅の温室の所へ来た和子は、深町君!と呼びかけるが、返事はない。

温室内に入って呼びかけても誰もおらず、自然とラベンダーの花の側に近づいた和子は、何もかもこの香りから何だわ…と呟きながら顔を近づけると、彼女の周囲の映像が白黒になり、和子は失神して花の中に倒れる。

そのハナの中に立ててあったフラスコが倒れる。 深町君!和子は呼びかけながら、コマ落とし状に変化する風景の中を移動して行く。

海辺の絶壁の上で植物を採集していた深町は、突然、深町君!と呼びかけ和子が出現したので、芳山君!どうしてここに?と驚く。

会いたかったの!あなたに会いたかったの!と呼びかけながら崖に沿って近づいて来る和子に、危ないよと注意する深町。

やっぱり、あれ本当だったのね。あのラベンダーの香りの秘密が知りたいのと和子は迫る。

君は気をつけないと時空間をさまよう時の亡者になるかも知れないよと注意した深町は、土曜日の実験室へ戻るんだ。あれはちょっとした事故だったんだと深町は言うが、知りたいの!私、本当の事が…と和子が迫るので、知らない方が良い事もあるんだと深町はなだめようとする。

しかし和子は、こんな変な能力持っているより、まともな女の子に戻りたいの!と頼むので、どうしてもかい?と確認した深町は、時の放浪者、時の亡者になってはいけないよと注意すると、しっかり念じるんだ、土曜日の実験室!と言い、崖から和子を突き落とす。

そして自分も、土曜の事件室!と叫ぶと深町も崖からジャンプする。

又しても、コマ落としのような風景の中を移動し始めた和子は、神社で手を合わせている若い頃の良心と幼い頃の自分の姿を発見する。

幼い和子が側で物陰に隠れたので、振り返った良心は慌てて和子?と探しまわる。

呼びかけようとした和子だったが、そうか、同じ空間に存在しないんだったわ…と、自分が今目にしている若い頃の良心には自分が見えていない事に気付く。

桃の節句の日の自宅の雛飾りの所に出現した和子は、そこにいた男の子が深町ではなく吾朗だったことに気付く。

次に和子が移動したのは深町家の葬式で、深町の両親と幼い深町一夫が一緒に写った遺影が飾られており、おじいさんがおばあさんに、元気を出しなさいとと声をかけていた。

弔問客の女性が、息子さん夫婦とお孫さんをいっぺんになくすなんて…、せめてお孫さんだけでも助かっていたら…と泣いていた。 その葬式には、幼い頃の和子と両親も弔問に訪れていた。 深町たちの遺体を乗せた霊柩車が寺の門の方へ向かう。

深町君!あなたどこ?と時空の中で混乱し和子が立ち止まっていると、そこに深町らしきシルエットが駆け寄って来て和子をお姫様だっこする。

土曜日の実験室!と再び和子に言い聞かせた深町は、和子を降ろすと先に駆けて行く。

道に落ちていた柱時計の針がくるくると回る。 さ、行こう!と深町が声を掛けると、はい!と和子も答える。

はい、実験室の鍵、今日から鍵が付くんですって、なくさないでねと神谷真理子が理科実験室の鍵を和子に渡す。

受け取った和子が、じゃあ、今日は土曜日ね?と聞くと、当たり前じゃないの、変ね、さっきまでどこに行ってたの?と真理子は不思議がる。

そこに近づいた吾朗が、良いじゃないか、さぼった訳じゃないんだから…、じゃあやるか?と言ってくれたので、吾朗ちゃん、鞄取って来て!その方が早く帰れるからと頼んだ和子は、吾朗ちゃん、右手を見せて!と言い出す。

変な顔をした吾朗だったが、良いよと素直に差し出した右手の親指には傷があった。

ごめんなさいと和子が礼を言うと、何だよ?どうしちゃったんだよと吾朗は戸惑う。

それじゃ後で!と実験室へ向かう和子だったが、さよなら…と思わず口走ってしまう。

実験室に入った和子は、深町君?と声をかける。 そこに立っていたのは予想通り深町だった。

やっぱりあなたが…と言いながら和子が近づくと、君を困らせるつもりはなかったんだよと深町は口を開くと、僕は未来人なんだ。

2660年の薬学博士なんだと言い出す。 世界的な人口爆発で、僕の世界では植物が手に入らなくなったんだ。

それでも薬学上どうしても必要な植物…、その一つがラベンダーの成分なんだ。

深町さんの家には植物を栽培している温室があり、おじいさんとおばあさんしかいなかったので、僕にとってはちょうど良かったんだ。

君と同じテレポーテーションとタイムスリップでこの時代に来たんだ。僕の時代では超能力も発達しているんだ。

君との付き合いは短い間だったけど…と深町が言うので、和子が戸惑うと、本当は一ヶ月だよと言うので、嘘!ずっと前から…と言い返そうとする。 違う、スキー教室の夜からなんだ…、すまなかった…と深町は詫びるので、あの星空…と和子も思い出す。

僕に関わった人には強い念波を送って都合の良い記憶を持つようにしてたんだと深町は説明する。

小さい頃の思い出も嘘だったのね…と和子が気付くと、その思い出は君と堀川君のものを借りていたんだよと深町が言うので、私の気持は嘘ではなかったわ!と和子が言うと、僕がインプットしたのも本当だよと深町は答える。

だってあれはあなたが教えてくれたわ…と歌のことを和子は言う。

さようなら…t深町が言い出したので、嫌よ!と和子は止めようとするが、仕方ないんだ…、僕はルールを犯したから…、全てをしゃべってしまった…、過去の歴史を狂わせる事は出来ない…、君の記憶も消さなければいけない…と深町は言う。

君だけではなく、念波を送ったすべてを消さなければ行けないんだ…、僕自身も…と深町が言うので、お願い!あなたとの記憶は大切にしたいの!と和子は迫ると、この時代で幸せになるんだ!君は堀川君と…と深町が言い聞かそうとするので、止めて!そんなこと言うの!私、決めたの!あなたと…と和子は訴える。

僕も好きだよ…と答えた深町だったが、でも僕には僕の時代で責任があるんだ。

僕の帰りを多くの人が待っている…、もうお別れだ…と言う。

分からないわ、この気持!胸が苦しいの!これは愛って言う事?と和子が問いかけると、それはやがて分かる…と深町は良い、どうして時間は過ぎて行くの?と和子が問うと、時間は過ぎて行くんじゃなくやって来るものなんだと深町は教える。

じゃあ又会えるのね?と和子が聞くと、会える…、君は僕とは分からない。

僕にも君を見つける事は出来ない…と言いながら、深町は和子の頬に汚れを付けて行く。

そして、薬を嗅がすと、さようなら…と深町は言う。

さようなら…、忘れない…、さようなら!と呼びかけながら、いつしか和子は実験室で倒れていた。

柱時計が1時の時報を打つ。

芳川君?どこにいるんだ?お〜い、和子ちゃん、どこへ行ったの?と言う吾朗の声が聞こえて来る。

成長した良子が、古びた鏡台の前で髪を解かしながら、そろそろこの鏡変えない?とぼやいている所に出かける準備をした大人になった和子がやって来る。

あら?もう出かけるの?ご飯食べないの?今日も遅いの?と母が聞いて来る。

はい!と答え出かけて行く和子を見送った母は、全く和子にも困ったものですわ…、大学に残って薬学なんてやるなんて…、お化粧っけもないし…とぼやくので、私がその分きれいになって差し上げますと良子が答え玄関に向かう。

深町家の前を通る良子がお早うございます!と庭のテーブルに座っていた老夫婦に声をかけ、一緒に歩いていた和子もラベンダーが良い匂いですね!と呼びかけて行く。 そんな姉妹の様子を見たおばあさんが、息子夫婦が行きていたら、孫もちょうどあれくらい…と言うので、随分長いの…2人きりが…とおじいさんも答える。

しかしあれは止めた方が…、いもしない孫のものを買ったりするのは…、あれはいけません…、それで孫や息子夫婦が帰って来る訳じゃないんですから…とおじいさんが言い聞かすと、ダメですか?では止めましょう…、でもずっと2人きりなんですね?とおばあさんは寂しげに答える。

ずっと2人きりなんだろうね…とおじいさんも答える。 大学院の研究室にかかって来た電話に出た先輩女性が、芳山さん、お電話!堀川さんよと声をかける。 受話器を取った和子は、吾朗ちゃん?そう…、ありがとう…、素敵ね…、でも私行けないの…、やり残した仕事があるの…と断って電話を切る。

それを見ていた先輩女性は、あなた、たまにはデーと行ってらっしゃい、こんな所にくすぶってばかりだと、すぐにおばあちゃんよと忠告して来る。

しかし和子は、でも…良いんですと答え、大量の本を抱えて廊下に出る。

そんな和子に、あの薬学部の実験室はどこでしょうか?と聞いて来た来訪者がいたので、それならこの先の…と和子が教えると、どうもありがとう…と礼を言ったスーツ姿の青年は、しばし和子の方を見て立ち去って行く。

和子の方は振り向きもせずに反対方向へ歩いて行くのだった。

エンドロール 実験室で倒れていた和子が主題歌を歌い始める。

時計屋の前など、映画のシーンに再登場した和子が歌い続ける。

スキー教室の帰りの列車の中で歌い終えた和子に、出演者たちが拍手を送る。

家の前からカメラ前に駆けて来た和子が、スクリーンに向かって微笑む姿に拍手が重なる。


 

 

inserted by FC2 system