白夜館

 

 

 

幻想館

 

戦雲アジアの女王

女性が主人公の、珍しい歴史アクションロマン

しかしながら、ヒロイン川島芳子を演じている新人女優高倉みゆきにあまり魅力を感じないので、作品自体に今ひとつ乗り切れない部分がある。

高倉みゆきと言う人、容貌としてはまあそれなりの美人ながら凡庸な印象で、表情にも乏しく、主演を張るようなオーラを感じない。

かえって、脇役として出ている万里昌代や三重明子の方が生き生きとして愛らしいので、余計にヒロインが精彩なく見えてしまう。

元々大部屋出身だった方らしいが、失礼ながら、普通だったら、せいぜい市井のおばちゃんBとかホステスC…などと言った端役か、エキストラ止まり程度の風貌で、TVの再現ドラマでも、もうちょっとまともなキャスティングをするのではないか?と思う程度の人である。

どうやら、新東宝の大蔵貢社長の愛人だった事での抜擢だったらしく、そもあらんと思うだけ。

こういう公私混同の事が結構大作風のメジャー映画と言う世界でもかつては出来たと言うことの方が興味深い。

考えてみたら、どう言う出方をしようと、その人に人を惹き付ける魅力があれば、自然と人気は高まっていたはずだが、残念ながら、このヒロインに社長以外を吸引する魅力は乏しかったのではないだろうか。

この映画、その魅力に乏しいヒロインに加え、その恋人役を演じている高島忠夫の方も、あまり面白みのないキャラクターなのが残念。

軍人と言う役柄もあるが、妙に生真面目だけの堅物演技で、誠実な好青年っぽさだけが取り柄みたいな凡庸なキャラクターになっている。

それでも、後半、かなり強引なラブロマンス演出で、やや大味ながら派手なアクションとも相まって、それなりの通俗な盛り上がり感はある。

丹波哲郎の方がイケメンだと思うのだが、この当時から丹波さんは妙な威圧感があるため、甘い二枚目役よりもすでに悪役として重宝がられている雰囲気がある。

特にこの映画での丹波哲郎は、なかなか憎々しくて良い。

一番の儲け役ではないだろうか。

この時期の新東宝作品としては、天知茂が出ていないくらいで、後は大体お馴染みの顔ぶれ。

いつも通り、それぞれに少しずつ見せ場が用意されている。

板倉大佐を演じているロッパこと古川緑波は、ギャグが一切ないまじめな演技を求められているせいか、長ゼリフには苦戦している印象で、途中でちょっと、セリフに詰まりかけているような所も見受けられる。

内容そのものも、素材的には珍しいので、どこまで史実に忠実なのかは不明だが、何となく、戦前、こう言う話が流布していたらしい…程度の参考にはなる。

荒野のロケ地は、御殿場辺りであろうか?

毎回新東宝作品に登場するお馴染みの風景であり、あまり大陸風の広大さは感じないが、セットとの組み合わせで、それなりに異国感は出ている。

蒙古の暗黒軍の根城である都はマット絵合成。

サスペンスとアクションも要所要所にちりばめられており、クライマックスの馬上アクションに繋がって行く。

丹波哲郎から山野の暗殺を命じられた部下やロシア人たちの行動が描かれていなかったり、クライマックス、逃げる馬車の周囲が大爆発を起こすのは、あらかじめ地雷でも設置していたのか、どこからか大砲でも撃っているのか意味不明だったり、説明不足の部分もあちこちに見受けられるが、全体としては「大作風B級映画」とでも言う感じで、まずまず楽しめる内容と言えよう。

余談だが、この映画に出ている三重明子と言う女優さんは、かなり可愛いと思うのだが、万里昌代さんのように、その後も活躍していた記憶がない。

どうやら、新東宝以後、映画の世界からは引退されたようで、魅力的なだけに惜しい女優さんだと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、新東宝、棋本捨三原作、岡沢新一+ 小野沢寛脚本、野村浩将監督作品。

崩壊せる清朝の王族

粛親王の王女として生まれた東珍…

幼少期を日本人川島芳子の名において育てられた彼女は…

革命と動乱に明け暮れる母国中国大陸に帰るや直ちに金指令と名乗り

手兵三千をひきいて自らせんかと風雲の中にアジアの自由と平和のため

神出鬼没の活躍をした…

この数奇なる彼女の生涯は今や伝説的物語となっている(…とテロップ)

タイトル

荒野の一本道を馬に股がった赤い軍服の女性が大勢の馬賊を従えて走る背景にキャスト・スタッフロール

大正15年秋

富士山の麓

湖のほとりを走って来た二頭の馬に乗っていたのは、川島芳子(高倉みゆき)と山野英介少尉(高島忠夫)だった。

馬を降りた芳子は、お嬢様と山野から呼びかけられると、嫌!お嬢様なんて!芳子って呼んでちょうだい!と甘える。

一団と乗馬がお上手になりましたねと山野が褒めると、山野さんのご指導がお上手だからなどと言いながら、山野の横をすり抜けた芳子は、いつの間にか、山野の腰につけていた拳銃を抜き取って構え、銃の撃ち方を教えて!お父様はおっしゃったわ。国家非情の時、鉄砲の撃ち方くらい知らなくては…と芳子は言い出す。

最初は戸惑っていた山野だったが、教えて!と重ねて言われると、はい!と言うしかなく、近くの木の枝にハンカチを結びつけると、それを的にして拳銃を撃ってみるように勧める。

芳子は、最初の弾こそ外すが、二発目にはもう命中させていた。

これでクサクサした気持ちが晴れたわと言うので、何か嫌な事でもあったんですか?と山野が聞くと、婆やが、東京から田代少佐が来ると言うのよ。お説教に来るんでしょう…と芳子は迷惑そうに言う。

そして芳子は、山野さん、私が一番嬉しい事って分かって?といきなり言い出し、さあ?と山野が口ごもると、あなたが私の側にいて下さる事!と言いながら、山野の背後から抱きしめると、中国の歌を歌い始める。

その時、書生の御木本小六(御木本伸介)が、お嬢様!田代少佐がお見えになりました!と伝えに来て、すぐ後から、馬に乗った田代少佐(丹波哲郎)がやって来る。

お嬢様、お迎えに参りました。東京へ帰りましょう。お父様の御命令です!と馬を降り、芳子に伝えた田代少佐は、帰りません!とダダをこねる芳子に、何故ですか?と問いかけ、山野少尉、遠慮したまえ!と命じ、山野少尉!帰る必要ありません!と言う芳子の言葉を前に、敬礼して、馬に乗るとその場を立ち去って行く。

田代少佐は、お嬢様、蒙古カンチェルチャの特使がもうすぐ日本に来られますよ。もしもご結婚をご承諾なさらなければ、あなたのお父さん、川島浪速先生長年の念願であるアジアの自由は水泡に期しますぞ。アジアの平和のためです。粛親王としてのご身分をお考え下さい!と説得するが、嫌です!私は嫌です!東京へは絶対帰りません!と芳子は断る。

歩兵師団第34連隊

山野英少尉は、第三師団特使命令として、大正15年11月2日付けで、関東軍奉天特務機関勤務を命じられる。

田代少佐は山野に対し、明朝の汽車で極秘の内に発ってもらいたいと命じ、含み笑いをする。

部屋で荷造りを始めた山野は、芳子の写真を見つめていたが、そこに中田軍曹(中山昭二)が迎えに来る。

中田の操縦するサイドカーで、芳子の自宅へやって来た山野が、庭掃除をしていた書生に、お嬢様は?と聞くと、夕べから頭痛がするとおっしゃられ、まだ休んでおられますと言うので、メモ書きを書生に渡し、サイドカーで駅へと向かう。

そのメモを書生から受け取った芳子は、「満州へ転属になりました。ご病気とうかがい心配です。一目お会いしたかったのですが残念です。ではごきげんよう、さようなら」と書かれてあったので、何故知らせてくれなかったのです!と書生を叱り、ベッドから飛び起きると、止めようとする婆やのみき (五月藤江)の言葉も聞かず、馬に股がり駅へと向かう。

しかし、丘の上から遠ざかって行く列車の姿を目撃し、愕然とする芳子であった。

その後、田代少佐と板倉大佐(古川緑波)は特使の出迎えに、なかなか芳子が姿を現さないのにいら立っていた。

日本髪に和服姿になった芳子は、父親の川島浪速(江川宇礼雄)に、お父様!何故、芳子は蒙古へお嫁に行かなければならないのです!と詰めよっていた。

川島は、お前の身体には、清国王朝の血が流れておる。粛親王の王女に生まれたお前は、日本、満州、支那、アジアの三大国を結ぶために蒙古に嫁がねばならぬ運命にあるのだ!

満蒙の独立!これこそ日本がロシアの侵略戦線に対抗してアジアの主導権を握る。内地の余剰人口を大陸に移植して、貧弱な国府を捕捉するために、日本の同盟国にせねばならぬのだ。芳子!お前は小さな恋愛のために一生を終わる女性ではないぞ。

アジアの自由と平和のために、大きな使命がある!お前には必ずそれが出来る!

川島がそう説き伏せている時、先生、蒙古の特使がお見えになりましたと、田代少佐が知らせに来る。

父親と田代が部屋を出て行くと、芳子は床の間におかれていた文箱を開け、中から懐剣を取り出す。

応接間で待っていた特使は、日本で言えば結納に当たるパンケルジャップからの貢ぎ物を持参しており、王謹明(宇津井健)は、王におかれましても、このたびのご縁談、この他お喜びで、一日も早く式をあげたいと申されておりますと川島に伝える。

その時、婆やのみきが入って来たので、何ごとかと川島が廊下に出て訳を聞くと、何!芳子が?と驚く。

座敷に残っていた芳子は、懐剣で長い髪の毛を斬り落としていた。

芳子は蒙古に参ります。大陸の荒野を駈けるのに長い髪はいりません。せめてこれを山野に送って下さいと言うので、芳子、お前は山野と別れるのがそんなに辛かったか!と川島は悔いる。

お父様の言葉は良く分かりました。清朝に生まれた私の運命と思い、蒙古に参りますと気丈に芳子が言うので、許してくれ!日本の娘として育てたお前に、出来る事なら女の子として、山野のような立派な青年と幸せにしてやりたかった!と川島は詫びる。

お父様!芳子はもう哀しんではおりません。喜んで、アジアの平和のための礎になる覚悟です!と芳子が無理に作った笑顔で言うので、ありがとう!良く決心してくれた!それでこそ清朝の姫君だ!と川島は感激するのだった。

蒙古での結婚式

式中、酒を注いでいた李花(万里昌代)がそっと会場から抜け出る様を目撃した小六は、その行動を怪しみ追って行く。

芳子は、王謹明と夫に勧められ、得意の日本舞踊「藤娘」を披露し始める。

一方、馬に乗って外へ出て行った女を追って馬で丘を駆け上った小六は、丘の上にずらり並んだ馬賊の群れを発見、急いで結婚会場へと戻る。

芳子の踊りを観ていた王謹明の元にやって来た小六は、蘇炳文の馬賊が来ます!と知らせる。

それを聞いた王子は、謹明!直ちに出動!と命じ、謹明は戦闘用意!と全員に呼びかける。

私もお供いたします!と藤娘の姿の芳子も王子に申し出るが、それは危ない。あなたの勇気は王も嬉しいが…と停められたので、いいえ、芳子は覚悟の上です!と訴える。

王は必ず帰ってくる!待っているように!と王子は芳子を諭し、自らは出かけて行く。

丘の上では、李花が鉄砲を撃って合図を出し、それに応じて蘇炳文の馬賊が一斉に駈け下って来る。

それを迎え打つ王子と王謹明たち。

しかし、その戦いの最中、蘇炳文が放った銃弾が王子に命中し、王子は絶命してしまう。

新婚早々、夫を失った芳子は、自ら赤い軍服を身に纏い、新しい女王として、整列した王謹明ら兵隊の前に姿を現す。

私たちは、新しい統率者に対し、全員、魂と忠誠を誓うものであります!と王謹明が挨拶すると、アジアの自由と平和のため!と芳子も答える。

新しい我らの女王のため!と王謹明が応えると、以後、我々の軍を暗黒軍と命名する!と芳子は伝える。

後日、芳子は、日本軍司令部で参謀長になっていた板倉大佐を訪れ、次の作戦計画についての意見交換に来る。

その後も拡大を続けている蘇炳文の資金源が芳子には気にかかっていた。

政府としては戦争を回避したい日本政府としても、芳子の協力はありがたく、今、特務機関として田代中佐が赴任して来て調べているのだが、その言動に怪しい節があるので、軍としても内々に警戒していると板倉は芳子に教える。

芳子も田代が当地に赴任して来た事に胸騒ぎを覚えた。

その頃、田代中佐は、中国人に化けた長富(細川俊夫)と橋口(川部修詩)とで内々の話をしていた。

田代は、特務機関として戦争の口火を切る!と打ち明けるが、その時部屋に入ってきたのは山野少尉だった。

今の話、盗み聞いたか?と田代が聞くと、特務機関として…と言う所は聞こえましたと山野は応える。

すると、拳銃を取り出した田代はそれを山野に渡し、自決せよ!情感の秘密会議を盗聴した以上、潔くここで自決せい!と迫る。

呆然とする山野だったが、拳銃を受け取ると、そのままベランダへと出て、拳銃をこめかみに当て引き金を引く。

しかし、弾は入っていなかった。

良し!その度胸だ!と褒めた田代は、速やかに所定に任務に就け!と命じ、山野は復唱すると部屋を後にする。

その直後、ところで田代君、特務機関を利用してどうする考えだ?と長富に聞かれた田代は、半日政府に武器弾薬を密輸して敵の戦力を増強させるんだ。向うから火ぶたを切れば、ただちに戦争開始と名目はいくらでも付くと説明、軍人の点数稼ぎは戦地に限っとると言う。

長富と一緒に話を来ていた橋口は嬉しそうに、とにかく早く戦争を始める事だ。我々の儲けはそれからだ!と言うと笑い出す。

ある日、道路で爆発事件が起きる。

山野と中田軍曹は、特務機関として町の中を警戒していたが、塀に「徹底抗日」と書かれたビラを貼る怪し気な男たちを発見、その者たちも山野たちに気づき発砲して来る。

銃撃戦をやっている所に通りかかったのが芳子と小六で、小六が、中国人に化けて発砲している山野に気づくと、芳子も驚き、山野さん!と呼びかける。

山野もその声で芳子に気づき、しばらくでした。ご活躍の事陰ながら聞いておりましたと挨拶に来る。

そこに中田軍曹がやって来て、逃げ延びた3人がキャバレーに入ったと報告したので、山野も芳子に会釈して、中田と共にそのキャバレーへと向かう。

その後ろ姿を名残惜しそうに見つめる芳子。

キャバレーでは、歌手が歌を歌っていたが、ホステスの中には、あの李花と馬賊の一員、春蘭(三重明子)の姿もあった。

そのキャバレーに中田と森野がやって来ると、中田と前から馴染みの春蘭が嬉しそうに声をかけて来たので、君は踊りながら見張るんだと森野は気を効かせる。

一方、宿に戻って来た芳子は、裏庭に1人出ると、藤の裾野で森野と二人きりになったとき歌った歌を懐かしそうに歌い出す。

後日、中田軍曹は、春蘭との別れを哀しんでいた。

私の田舎に一緒に行って!今の私には、あなたなしでは生きて行けないの!と言い出した春蘭は、私の田舎は平和な村よ、2人一緒に暮らしましょう?と迫る。

あなたには何不自由させないわ。お金だってこれだけあるわ。一生大丈夫でしょう?決心して!と、それまで貯めた金を取り出して見せる春蘭。

その後、本部にいた山野は、部下の秋山から、今、子供が投げ込んだと言う手紙を見せられる。

その中を読むと、「山野中尉殿、お許し下さい。中田は春蘭の故郷に一緒に旅発ちます。今日までのご厚情を深謝いたします」と書かれてあったので、秋山!山野中尉は奥地探索の任に就く!すぐ機関長に連絡しておいてくれ!と山野は伝える。

その頃、長富とキャバレーに来ていた田代は、ロシアのバルスキーと通じればありがたいと言っていた。

その時、ホステスから踊りませんか?と誘われた田代がフロアに出て行くと、王謹明と同じテーブルで飲んでいた金指令こと芳子を見かける。

こんな所でお目にかかれるとは…と田代は挨拶に来るが、そこにやって来た小六が、板倉閣下の飛行機が後1時間で到着しますと報告に来る。

それを聞いた田代は、又弾薬の交渉ですか?と聞くが、芳子は黙って、王謹明や小六と共に店を出て行く。

それを見送った長富は、大した女だ、油断ならんぞと田代に言うが、そこに、バルスキーがやって来たので、奥のテーブル席へと案内する。

酒を勧めながら、蘇炳文と連絡が取れるか?と田代が聞くと、バルスキーは条件次第と応える。

その後、馬に乗って偵察に出ていた王謹明は、移動する農民の一団を発見する。

金指令は、部下たちを集め、近頃、蘇炳文一味が農民に化けて武器弾薬を輸送していると言う報告をしていたが、そこに戻って来た王謹明は、農民の一団が南方20kmの地点を北進しています。直ちに攻撃しましょうと提言する。

しかし、金指令は、その農民たちは武器弾薬を持っているかどうか?持っている武器が日本品か、それとも他の第三国製かを調べる必要がありますと言い、自分自らが行く、自信がありますと言いだしたので、部下は、張英俊(泉田洋志)をお連れ下さい!金指令にもしものことがあったら大変ですと懇願する。

張と共に農民の列に近づいた金指令だったが、荷車に積まれた麻袋の中味が弾薬である事を知った張は、敵に見つかり発砲される。

逃げようとした張だったが、金指令の目の前で射殺され、その張を残し逃げようとした金指令も又、捕まって敵の根城へ連れて行かれる。

牢に入れられた金指令は、隣の房から聞こえて来る聞き覚えのある声に気づく。

お前に脱走兵の汚名を着せさせないために俺は後を追って来たのだ。こうして捕虜になったのは俺の不覚だ。すみません!春蘭に騙されたばかりに!と隣の老で話し合っていたのは、中田軍曹と山野中尉だった。

山野さん?山野中尉ではありませんか?と金指令が声をかけると、それに気づいた山野も驚き、どうしてこんな所に?と聞く。

あなたこそと言われた山野は、敵地深く入り過ぎて…、不覚にも…と伝える。

そんな2人の会話を聞いていた見張りは、すぐに蘇炳文(大谷友彦)に知らせに行く。

山野は上半身裸にされ、むち打ちの拷問を受けながら、この女は金指令ではないのか?と蘇炳文に尋問されるが、山野は決して口を割らず、途中で耐えかねて教えようとした金にも、言うな!と目で伝える。

しかし、目つぶしだ!と蘇炳文は命じ、熱した鉄杭を山野の目に突っ込まれそうになると、もはや我慢できなくなり、自分が金指令です!と芳子は告白してしまう。

牢に戻された山野は、山野さん、ごめんなさい!私のために!と隣から詫びて来る芳子に、どうして白状してしまったのです。あなたが金指令と分かってしまった以上…と口ごもる。

金指令は、芳子は覚悟していますと答える。

それを聞いた山野は、あなたの命はあなた1人のものではありません。アジアのため、満蒙独立を忘れたのですか!と呼びかける。

暗黒群の連絡が発ったそうです。再び彼らは戦うでしょうと山野が教えていると、中田軍曹は、牢の中にあった皿を割り、その破片で山野中尉の手を縛っていた綱を切る。

自由になった山野は、中田の綱をほどき、二人は牢の陰に隠れると、水をくれ!と牢番に声をかける。

何も気づかず、牢番が中に入って来ると、2人で殴りつけ、銃を奪う。

そして、牢を出ると、隣の芳子の牢の扉も開けようとしていた中田だったが、酔って寝入っていたもう1人の門番が気がついたので、銃を奪い殴りつける。

山野、中田、金指令こと芳子の3人は、夜の闇に紛れ、敵の本拠地を抜け出す。

しかし、すぐにサイレンが鳴り渡り、見張り台の上の敵兵が機関銃を乱射して来る。

中田は奪った銃で、見張り台の兵隊を射殺するが、自分も撃たれてしまう。

驚いた山野が駆け寄ろうとするが、中尉!中田に構わず逃げて下さい!と言うと、その場で息を引き取ったので、森野と金指令はその場を逃げ出す。

途中、2人は離ればなれになるが、何とか無事に帰り着くことができる。

金指令から、蘇炳文一味の戦力を聞いた板倉大佐は感謝し、暗黒軍の日本軍への側面協力に感謝して、武器弾薬を手配すると約束する。

部屋を出た金は、予定していた武器弾薬を全部もらえることになったと部下たちに教える。

その様子を側から観ていた中国人に化けた橋口は、キャバレーでホステスと踊っていた田代少佐に報告する。

それを聞いた田代は、司令部に戻ると山野を呼び寄せ、今夜9時、奉天南方30kmの地点を蘇炳文の武器輸送隊が通過するそうだと伝える。

森野は、機関長殿、それはそれは先日報告申しました通り、蘇炳文と気脈を通じる不良軍人の仕業ではありませんか?と言うと、言葉を慎め!関東軍の名誉に許せんぞと叱りつけ、君は単独でそれを爆破するのだと無謀な命令を出す。

部下を10名連れて行きたいのですが…と山野は申し出るが、いかん!絶対にいかん!と田代は拒否する。

山野が部屋を出て行くと、奥の部屋に隠れていた橋口とバルスキーが出て来る。

その時、電話がかかって来たので田代が出ると、金指令が来ると言うことだったので承知し、橋口には、バルスキーと森野をつけ、爆破の後に射殺するのだ。証拠を隠滅しとかないとなと命じ、別の部屋に追いやる。

そこに、金指令ことと芳子がやって来る。

板倉少将を巧く丸め込んだようですね?武器弾薬を手に入れて結構でした。ところで、私に何の用?と田代が聞くと、山野さんはどうしてます?と金指令は聞く。

山野…?奥地へ探索へ行ったきり…、いまだに連絡がないと言うことはもはや絶望としか考えられません。生死不明で一生を終える…、これが我ら特務機関の運命ですよ。一杯どうです?と田代は酒を勧めるが、帰ろうとした金指令はドアに鍵がかかっている事に気づく。

驚いて振り返った金指令は、田代が銃を向けており、俺の言うことを聞け!と命じて来たので、計画的だったのね?私には、まだやらなければいけないことがたくさんある!怖くないわ。ピストルを振り回すなんて…と嘲り、庭の方へ逃れようとするが、そちらのガラス戸も鍵がかかっていた。

すると、田代は金指令に襲いかかり、床にねじ伏せようとする。

その時、庭先から、ガラス戸を破壊し、中に飛び込んで来た小六が、テーブルの上に置いてあった田代の銃も奪い取り、金指令と共に庭先から脱出する。

夜、1人、輸送隊を待ち受けていた山野の前にやって来たのは、実は暗黒軍だったが、それを知らぬ山野は、荷車に積んだ弾薬を爆破する。

しかし、逃げる山野は、馬で追って来た王謹明に捕まり、翌朝、金指令の元に連れて来られる。

山野の姿を観た金指令は唖然としながらも、自分が取り調べると言い出す。

1人で山野を入れた別室に入ろうとする金に、王謹明は銃を渡して去って行く。

その銃を部屋の中野テーブルの上に置いた金指令は、山野、本当なの?本当にあなたが爆破したの?どうしてやったの?と聞く。

理由を話す事は許されておりません。犯人の私を処罰して下さいと山野は答える。

暗黒軍の武器と知って爆破したの?そうじゃないでしょう?まさかあなた、蘇炳文の手先となって!と金が問いつめると、違います!山野は日本帝国軍人として行動しましたと言う。

誰の命令なの?田代ですか?山野!と迫るが、山のは黙ってテーブルに置いてあった拳銃を取り上げ、さあ、お撃ちなさい。山野があなたに撃ち方を教えたでしょう?と優しく声をかける。

しかし、金こと芳子は、撃てません!私には撃てません!と拒絶し、壁にすがって泣き出す。

その時、ノックが聞こえ、入って来た頃くが、将軍の方がお待ちですと金に伝える。

出て行こうとする金に、芳子さん!山野個人のために、暗黒軍を犠牲にしないで下さいと頼む。

軍服に着替え、会議に出た金指令は、万順柱将軍(岬洋二)に意見をもとめる。

万将軍は、犯人は即時銃殺に処すべきですと意見を言う。

しかし、金指令は、いけません!本人はまだ白状しておりません!と拒否するが、理由の如何を問わず、我が軍に多大な損害を与えたのですから…と万将軍も譲ろうとしない。

その時、入口の側に控えていた小六がm犯人は、金指令の日本にいたときの恋人です!と打ち明けてしまう。

御木本!言葉を慎みなさい!と金指令は叱りつけるが、事情を知った将軍たちは黙り込む。

金指令は関東軍の指示を受けますと言い出すが、引き渡すと、間違いなく銃殺にされてしまいます。ここは時間の猶予を!と王謹明は助言するが、暗黒軍は許しません!と言う金指令は部屋を出て行く。

庭先で、別室にいる山野の姿を窓から観た金指令は、つい涙ぐみ、自分の寝室に入ると、ベッドにすがりつき泣き出すのだった。

バカ!山野を殺せとあれほど言ったではないか!暗黒軍は山野の身柄を囮に引き渡すに相違ない!そうなったら、俺たちはどうなると思う!と戻って来たは橋口とバルスキーに田代が怒鳴りつけていた。

長富が止めに入り、田代君、君のようにそう怒ってばかりでは始まらんと言うので、ではどうするんだ!と田代が聞くと、山野を奪い返すんだ。馬賊蘇炳文に連絡して、あいつを利用して山野を殺すんだ!と長富が入れ知恵をする。

三木曹長、山野中尉の護送の命を受けてやって参りました!と暗黒軍司令部にやって来た三木曹長(岡竜弘)が、山野を連れ出して来た王謹明に言う。

山野は王謹明に、金指令は?一言ご挨拶したいのですが…と申し出るが、せっかくですが、金指令は…と王は拒否する。

ではこれを金指令にお渡し下さいと山野は託し、三木曹長に付いて馬車に乗ると、護衛の兵隊たちと共に暗黒軍の街から出て行く。

ちょうど馬に乗って帰って来た小六は、それを観て、金指令に、今、山野さんが護送されて行きましたと伝えると、金は驚くが、そこにやって来た王が、山野中尉がこれを…と託された紙包みを渡す。

開けてみると、その中には、自分の写真と、切って彼に渡したはずの髪の毛の束が入っていた。

哀しむ金指令。

その直後、馬に股がり、都を出た金指令。

それを追って門まででて来た王謹明と小六は、急いで門の中に戻って行く。

その頃、蘇炳文率いる馬賊の一団が根城を出発していた。

近道を馬で走り、金指令が護送隊の前に出ると、それに気づいた三木曹長が気を効かせて、隊列を止めてやる。

山野!と馬車に乗せられた山野に近づく金指令。

もう、お目にかかれないと思っておりました。芳子さん、ありがとう!山野はいつまでもあなたの事を忘れません。

楽しかった内地の思い出を胸に抱いて、潔く刑に服します。

あなたにはアジア平和の礎となられる大切な使命があります。どうか、くれぐれもお元気で…、芳子さん…、山野は陰ながらあなたをお守りしますと山野は感謝する。

その言葉を合図に、三木曹長は隊列を再び出発させる。

それを馬上から見送る金指令。

やがて、護送隊の前の丘の峰に出現したのは、蘇炳文率いる馬賊であった。

その中には、春蘭の姿もあった。

進め!と丘の上から命じる蘇炳文の声に、馬賊たちが一斉に丘を下り、護送隊に襲いかかる。

それに気づいた金指令も馬で駆けつけ応戦する。

山野を乗せた馬車は、襲撃を逃れようと逃げ出すが、何発か馬賊の銃弾を受けてしまう。

それでも、必死に撃ち返す山野だったが、2人の御者が撃ち落とされてしまう。

それを観た金指令は、自ら山野の馬車に飛び乗り、御者を勤める。

それを追って来る蘇炳文一味

馬車の周囲が次々に爆発して行く。

馬車の中から追いつこうとする蘇炳文たちを撃つ山野は、その後も、肩などを撃たれる。

そんな中、暗黒軍の援軍が駆けつけて来る。

山野が乗った馬車に追いすがり、飛び乗って来た敵を、馬を操っていた金指令が振り向いて撃ち殺す。

しかし、やがて、金指令の馬車は窪地に車輪をとられ動けなくなってしまう。

そこに近づいた蘇炳文と長富は、馬から下りて銃を構えたまま馬車に近づいて来る。

御車台を降り、馬車の荷台に踞る山野の前に出てかばおうとする金指令は、そっと背後から山野から拳銃を渡されたので、その拳銃で迫った蘇炳文と長富を撃ち殺すが、同時に発砲した蘇炳文の銃弾が山野を貫く。

必死に、1人で馬賊を相手に応戦していた金指令の前に、暗黒軍の援軍が近づいて来る。

その頃、関東軍司令部では、田代少佐を呼びだした板倉少将が、証拠は全て上がっとる!潔く白状せんか!と追求していた。

しかし、田代は、誰が言いました?どこに証拠がありますか!と開き直ったので、貴様!それでも帝国軍人か!と怒鳴った板倉は、部下に入口のドアを開けさせる。

そこに立っていたのは、捕らえられた橋口、バルスキー、春蘭だった。

その3人を目にした田代は急に笑い出すと、良く聞け!満州を日本のものにするにはどうすれば良いか知ってるか?

敵を抗日に煽動して戦争を始める他に方法はないのだ!関東軍は何をしておる?何をしとるんだ!

戦争を始めるためやった事が悪いか?悪ければ…!悪ければ俺が解決する!と言うと、自分の拳銃を取り上げ、次の瞬間、こめかみを撃ち抜いてその場に倒れ込む。

その頃、山野は、愛する金指令こと芳子の胸に抱かれて、芳子さん…、さようなら…と告げ、息を引き取っていた。

山野〜!と呼び掛け泣き出す金指令。

やがて、丘の上に建てられた立派な山野英介の墓を前に、赤い軍服姿になった金指令が立っていた。

その背後の馬たちに股がった暗黒軍の面々は、王謹明が発した「捧げ筒!」の号令のもと、一斉に軍刀を下げる。

軍隊ラッパが鳴り響く。

芳子さん!あなたにはアジア平和の礎になられるため、大切な使命があります…と言う山野の声が聞こえたような気がした金指令は、山野!何故芳子だけを残して死んでしまったの?私にはもう、生きる勇気も戦う勇気もない。全ての希望が失われてしまった…と墓の前に跪き嘆く。

芳子さん、そんな弱い事を言わないで下さい。アジアのため、満蒙独立のため貴い使命を忘れず戦って下さい。さようなら…、山野は陰ながら見守っています。

山野!もう1度帰って来られるものなら、芳子の胸の中に帰って来て!ねえ、山野!帰って来て!

さようなら〜、さようなら〜…と山野の声が遠ざかって行く。

山野〜!と絶叫する金指令。

馬上から、そんな金指令の姿を辛そうに見守る王謹明と小六。

やがて、馬に股がった金指令を先頭に、暗黒軍は荒野を駈けて行くのだった。


 

 

inserted by FC2 system