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男は騙される

若者の性愛描写で知られていた富島健夫原作の映画化

一応、ミステリ映画風なのだが、冒頭の設定を観た段階で、ミステリ好きなら、あのパターンでは?と気づく程度のトリックで、謎解きとしてはいたってシンプルなのだが、事件を追及するうちに、高校生の恋愛、セックス、妊娠、堕胎…と言った、当時としてはかなり衝撃的な内容が徐々に明かされ、謎解きは錯綜して行く。

その中心にいる女性の本心が、本作の一番「謎」の部分で、最後の最後でその真実が真犯人と共に明かされ、ラストは、何となく「泥だらけの純情」を連想させるような純愛ドラマになっているのが異色。

「七人の刑事」での刑事役でも知られる菅原謙二が探偵役を勤めるのだが、彼には同居している従兄弟がおり、男女のカップル探偵のような体裁にもなっている。

菅原謙二演ずる主人公をお兄ちゃんと呼ぶこの好奇心豊かな従兄弟に扮しているのが岸正子と言う女優さんなのだが、男心をくすぐるような妙な色気があるので、最初に出て来たときから観客は2人の関係に惑わされる。

男が、色っぽくコケティッシュな若い女性と同居していると言う設定は、その後のラブコメマンガでも読んでいるような、エロティックな妄想をかき立てる危ない設定であるが、菅原謙二が落ち着いた大人として描写してあるので、観ていて軽薄な感じはない。

事件を追う内に、探偵側と容疑者側の男女間の心理関係が複雑に交差して行くのが見所。

ヒロイン役は、信子役の叶順子さんの方なのだろうが、何故か、複雑な立場の重要な役どころを演じている女性にしては印象に残り難い。

信子の相手役の学生たちも、リアルと言えばリアルなキャスティングで、何ともオーラの欠片もないような無名の役者であり、このメインとなる男女の魅力のなさが、ラストの感動を弱めてしまっているように思える。

やはり、恋愛劇の男女は、観客がそれなりに感情移入出来る程度の風貌の人を用意しておくべきだと感じた。

ロマンチックに見えないのだ。

単なる脇役同士のエピソードならともかく、話のメインとなる男女に魅力がないのはかなり致命的だと思う。

ドキュメンタリータッチを狙ったのかも知れないが、それにしては、事件の謎を追う探偵側に妙に色っぽい美女が出て来るのが不釣り合いにも感じる。

菅井一郎の刑事役と言うのも珍しい気がするが、苦労人タイプの老刑事として実に巧くハマっている。

信濃の通信局員として、若い頃の伊丹十三が出て来るのも興味深い。

ズベ公役を演じている江波杏子は、若過ぎたせいか、ちょっと観ていて気づかなかった。

キャストロールに、「特殊撮影:築地米三郎」の名前があったので、どこに特撮が登場するのだろう?と思っていたら、何と、最後の最後、ラストカットがミニチュア特撮になっており、雪山に横たわる犯人の姿からカメラが引いて行き、雪山全体を写すと、いつの間にか、ミニチュアの風景に人形が寝かせられている特撮シーンにすり替わっている。

実際の雪山での望遠撮影では無理と判断したと言うことだろうか?

モノクロ作品と言うこともあり、意識して観ないと、ミニチュアとはまず気づかないのではないかと思う。

まさに、特撮の巧い使い方の一例だろう。

一応、菅原謙二が客を呼べるスター扱いと言うことなのだろうが、全体的な印象としてはノンスター映画に近く、地味な印象は拭えないのだが、錯綜した恋愛ミステリとでも言うような内容自体はなかなか面白いと感じた。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、大映、富島健夫原作、長谷川公之脚色、島耕二監督作品。

離れかな?と、異臭に気づき顔を見合わす母屋の夫婦横田(遠藤哲平)と妻みの(耕田久鯉子)。

離れに行ってみると、部屋の中が燃えており、下宿していた学生の石井が丹前を着て炬燵に突っ伏している。

石井さん!と呼びかけながら、身体を引き起こした横田は、被害者の顔を見て、わっ!と叫び、思わず手を離す。

タイトル

畳に転がったアルコールかなにかの瓶と燃える畳を背景に、スタッフ・キャストロール

電車が凄い音で通過する高架下の公衆電話で、警視庁の高橋刑事(菅井一郎)から、石井って大学生を知ってますか?と聞かれた雑誌記者竹中一郎(菅原謙二)は、郷里が一緒ですと答えるが、その石井が、午前1時から2字の間くらいに殺されたと聞き驚く。

目黒の自宅に戻って来た竹中は、従兄弟で同居している明美(岸正子)から、一昨年でしょう?石井さんが信子さん、連れて来たの?と聞かれながら着替えをしていた。

石井の下宿先にやって来た竹中は、母屋のみのに、このたびはご迷惑をおかけしましたと頭を下げると、吉川さんと言う許嫁の方が郷里の方に電報を打ちましたと教えられる。

吉川信子(叶順子)は、一昨日田舎から出て来て、今は世田谷のおばさんの所に泊まっているのと捜査本部で高橋刑事に伝えていた。

今朝訪ねて気がついたんですね?と高橋刑事が確認している時、竹中が到着し、酷い目に遭ったねと信子を慰める。

竹中さんはガイシャと郷里が一緒でしたね?と聞いて来て、協力して欲しいと言われる。

高橋刑事が言うには、石井には親元から5万送られているらしいんだが、部屋には残ってなかったと言う。

それで、石井の友人関係を洗ったら、高中さんの名前が出たんですと言うので、自分のアリバイを説明しようとした竹中だったが、それよりも、死体の確認をお願いしたいと言う。

都の監察院に高橋刑事と信子と共に向かった竹中だったが、死体を見せられた信子はだったが、石井の顔は焼けただれており、そのあまりの凄惨な姿を観て貧血を起こしてしまったので、代わりに竹中が観てやることになる。

酷いな、こりゃ…と竹中も絶句するが、高橋刑事は、竹中さん、間違いないですな?良く観て下さいと念を押す。

その後、喫茶店に連れて来た信子が泣くので、泣いたってしようがないじゃないか…と高中は慰めるが、あの人があんなことになったのは私が悪いんだわ!と信子は自分を責める。

あの人が、春休みに帰ると言ってたのに、東京で会うようにしたのも私なんです。私ってそんなつもりはないのに、あの人の悪い面ばかり…、高校時代、あんなに成績が良かったのに、東大受験を諦めさせたのも私のせいなんです…と信子は言う。

あの人、受験前の春休み、高杉山に籠ったんです。私、その間会っちゃいけないと思いながら、どうしても我慢できなくなり会いに行ったんです。

(回想)吊り橋を渡り、目指す石井の住む小屋にたどり着いた信子に気づいた石井は、ノブ!と驚き、信子は泣きながら石井天頂(三田村元)に抱きつく。

会いに来たの!怒る?と甘える信子に、僕だって会いたかったんだ!勉強も手に付かなかったんだ!と言い、石井は信子とキスを交わす。

その晩、彼が安らぐなら、どうなっても良いと思いました。

お互い、相手のことばかり思うようになりました。

(回想明け)その結果、あの人は学力が落ちて行ったのです…と落ち込む信子に、もっと割り切って!元気を出すんだ!と竹中は励ます。

一方、捜査本部に戻って来た高橋刑事は捜査主任(北原義郎)に、女が脳貧血を起こしたと報告し、地取り捜査の線で行きますか?と聞くと、タクシーを洗おうと思うと言うので、駅前の飲み屋、当たりましょうか?竹中さんに聞いた所、ガイシャはいける方だったようですからと伝える。

その後、「シスコ」と言う駅前のバーにやって来た高橋刑事は、来なかった?夕べ…と石井の写真をバーテン(谷謙一)に見せて聞くが、バーテンが他のホステス(村井千恵子)らに写真を見せている間、ズベ公風の女、陽子(江波杏子)が入って来て、あの人来なかった?あん畜生!どこで浮気をしてるんだろ?とぼやき、店のレコードをかける。

バーテンに、あの子は何だい?と高橋刑事が聞くと、ズベ公ですよ。良い家の娘らしいんですが…とバーテンは教え、石井に関しては誰も見かけなかったと答える。

その後、一軒の小料理屋で写真を見た女将(加治夏子)が、石井さんじゃないですか!一昨々日の夜来たわ、連れと一緒でした。旦那って、石井さんのことを呼んでいましたよ。連れの男は、グレーの上着に黒いズボンでしたが、前科者なのか、左手の小指を…と女将が言うので、詰めていたのかね?と高橋刑事は確認する。

帰宅した竹中を出迎えた明美は、物取りって本当なの?等と聞いて来る。

見ると、たくさんの夕刊を買い集めており、明美は1人で推理ごっこを楽しんでいるようだった。

どうせ同じようなことしか書いてないだろう…と呆れながらも、編集長からニュースストーリーを書いてみないかって言われたんだと言うと、知っている人だけに書き難いんじゃないのと明美が聞くと、実はそうなんだ…と竹中も答える。

信子さんお気の毒ね、どんな気持ちかしら…と明美は信子のことを思いやる。

その頃、世田谷のおば(平井岐代子)の家に戻っていた信子は、おばさん、心配だよ。あんたが後追い自殺でもするんじゃないかと思って…などとおばから言われていたが、その時、庭先に人の気配がしたので、窓の外から外を見たおばは、誰もいなかったので、何でしょう?気味が悪い…と怯え、カーテンを閉める。

その頃、捜査本部の刑事たちは、現場から犯人を乗せたタクシーがないか、手分けして運転手探しを続けていた。

中野の温泉マークまでアベックを乗せたと言う運転手や、池袋西口で、左手の小指を詰めた、黄色いベルトのレインコートを着た客を乗せたなどと言う情報があったので、それを電話で主任に伝える。

池袋まで乗った客と言うのは、28才くらいで、グレーの上着に黒のズボンだな?と主任が復唱し、降りた辺りを追ってくれ敏次を出すと、小指のない男らしいんだと、本部にいた高橋に伝える。

ガイシャの親父さん来たかね?と聞かれた高橋刑事は、遺体を持たせて帰りましたと伝える。

東京での簡単な荼毘には、石井の父親(河原侃二)、信子、竹中の他に、郷里から3人のクラスメイトが来てくれていた。

高橋刑事は、再びバー「シスコ」にやって来ると、あんた、浅草辺りじゃかなりの顔だったんだってな?とバーテンをおだてると、今じゃ、人の子の親ですよ。3つになりますなどとバーテンは照れる。

この辺のヤクザで、指を詰めている奴はいるか?と聞くと、松村のことかな?陽子の彼氏なんですがね…とバーテンは答える。

ヤサは分からんかね?と聞くと分からないと言うし、陽子のヤサを聞いても知らないとバーテンは言う。

石井の級友3人が帰った後、さすがに郷里の友達ですねと竹中が感心していると、大島君もわざわざ来ることになっていたんだがな?と父親が言うと、大島三千夫さんですか?と信子は聞き返し、妹さんの話によると、一日前に出て来たそうなんだが…と父親は不思議がり、高校時代は良い競争相手だったと思い出す。

その後、竹中は信子を自宅に連れて来て、明美に、うちに泊めるからなと告げる。

どこで飲んで来たの?と明美が聞くと、親父さんを旅館まで送って行って、信子さんが気が紛れるだろうと思って…と竹中は答えるが、その時庭先の犬が又吼え始めたので、表に誰かいなかった?怪しい奴…と明美が聞いて来る。

犬が先ほどから、何度も吼えていたからだった。

「シスコ」には、又、陽子がやって来たので、バーテンはいつものようにジンを出す。

竹中も家で飲み直しており、信子にも勧めるが、信子は飲めないんですと断る。

明美が2階の自分の部屋に、信子の分の布団も敷きに上がると、又庭先で犬が吼え始めたので、竹中は、怖がることはないよ、あの犬良く鳴くんだと、怯えている信子に言い聞かせる。

すると、信子は、私、飲んでみますわと言い出し、竹中が注いでくれたグラスを取ろうとした時、又、犬が吼え始めたので、思わず立上がり、本当に誰かいるんだわ!と怯える。

竹中は、誰がいるって言うんだい?と落ち着かせる。

すると、大島さんだわ、きっと…と信子が言うので、どうしたの?言ってごらん…と竹中は優しく信子を慰める。

あの人殺したの、大島さんじゃないかって…と、まだ信子が怯えているので、何故、僕にまでおどおどしなくちゃいけないんだ?と竹中が諭すと、私…、どうなっても言いから、はっきり言うわ!と決意したらしき信子は、私、あの人が大島さんと会うんじゃないかと思って上京したんです。私、大島さんと過ちを犯したんです!と言い出したので、いつ?と竹中が聞くと、去年の秋…と信子は話し始める。

(回想)その日、台風が来そうだったんですけど、遅れているようなので大学に出かけました。ところが午後になると、雨風が強くなり、帰りの列車が不通になってしまったんです。

ずぶぬれで駅までたどり着いた信子が途方に暮れていると、そこに大島三千夫(立花良一)と友人の男子学生が同じく濡れて駆け込んで来たので事情を話し、近くにある大島さんの友達の家に連れて行ってもらったんです。

友達のお母さんは朝出かけて留守だったんですけど、3人一緒だからと安心していたんです。

ところがその夜中、囲炉裏の側で眠っていた大島が起きだし、一晩中起きているつもりだったが、布団で寝ているうちにいつの間にか眠ってしまっていた信子を襲いに来る。

信子さん!僕は前から君が好きだったんだ!あいつは消防団の手伝いで行ったんだ!と言う大島は、その日から信子のことを思いのままにするようになる。

信子が拒むと、関係をばらすと大島は脅し、私が上京して帰らないと、石井と対決してやると言っていたので、大島がそれで上京したとなると…

(回想明け)その時、竹中さん?と玄関で呼ぶ声がしたので、竹中が出てみると、近所のタバコ屋の女将さん(橘喜久子)が立っており、お宅に信子さんっていますか?電話が親戚の方から入ってますと言うので、信子が付いて出て行く。

すると、二階から降りて様子を観ていたらしい明美が、お兄ちゃん、信子さんの話、どう思う?犯人は大島さんじゃないかしら?などと探偵のようなことを言い出す。

タバコ屋に付き、赤電話の受話器を取った信子が、信子ですが…と話しかけると、相手の言葉に、えっ!と驚愕の表情になってしまう。

その頃、バー「シスコ」では、いつまで待っても松村が来ないので、どっかで欠け麻雀でもやってるわ!と諦めた陽子が店を出て行く。

その後を、店内で最前からじっと待ちかねていた高橋刑事がつけて行く。

竹中の自宅に戻って来た信子が元気がないので、出迎えた明美が、どうかしたの?と聞くと、おばさんから、明日何時に帰るのかと言う電話だったと信子は答える。

その信子は、私、残っていようと思う。大島さんのことが気になるので…と突然言いだしたので、お葬式はどうするの?と見送りに来た竹中が聞くと、お葬式なんて、犯人が捕まってから1人でも出来ると言うので、竹中と明美も手伝うと約束する。

翌朝、郷里に帰る石井の父親を見送りに、竹中らと一緒に駅に来ていた信子は、母に電報を打って来ますと言って座を外す。

竹中は一緒に付いて来た明美と戻って来た信子に、石井の高校生名簿から昨日来てくれた3人を引くと、東京にいるクラスメイトは5人だけなんだと話し、君と信子さんとで3人、僕が2人を当たってみると言うので、お兄ちゃんの方が少ないじゃないと明美が文句を言うので、この2人は離れているんだよと教える。

遺骨を持って帰る石井の父親に、信子は、私、犯人が見つかるまで東京にいるつもりですと伝える。

一方、捜査本部では、事件当夜、犯行現場からタクシーに乗ったとみられる5人の乗客の内4人はシロで、残るは、黄色いバンドをつけたレインコートの男で、小指が欠けた男を見つけるんだと主任が指示を出していた。

その頃、陽子の屋敷の前でタクシーに乗り、じっと出て来るのを待ち受けていた高橋刑事は、陽子がようやく出て来て車で出かけたので、その後を追ってもらう。

やがて、陽子は、喫茶店で待っていた松村と会ったので、その後から付いて入った高橋刑事は、松村だね?と問いかけながら、警察手帳を差し出す。

明美と信子は、東京に来ている石井の同級生を探しまわっていた。

2人を探し当てた明美と信子は、後は菊地さんねと話し合う。

週刊トピックスの編集部に来た高中は、信濃市信濃新報の社会部に電話を入れ、知人の水谷(伊丹十三)を呼びだすと、大学生殺しを調べているのだが、大島三千夫がそちらに連絡してないか調べてくれと依頼する。

自転車で向かった水谷は、洗濯物を干していた大島の妹八重(三木裕子)に声をかける。

捜査本部では、連行した松村に、あの夜、池袋までタクシーに乗ったんだろう?と主任が聞き、松村が何も答えないのを見ると、証人を呼んでくれと部下に頼む。

週刊トピックスに信子とやって来た明美を、案内して来た編集者は、竹中さん!奥さんですよ!と呼びかけたので、やって来た竹中に、ちゃんと私のこと教えといてねと明美は叱る。

そんな明美は、胸に赤いバラのアクセサリーをつけていたので、どうしたのかと聞くと、信子さんにもらったのだと言い、2人の級友を訪ねたが、大島はどこにも立ち回ってなかったこと。菊地と言う人物だけはスキーで出かけていて会えなかったと報告する。

そこに、信濃新報の水谷から電話が入り、今日、大島の妹の所に兄から電報が届き、これから東北旅行するらしいと言い、妹は、石井の事件で兄が疑われていると知ってカンカンだったと言うことだった。

それを聞いていた明美は、高飛びしたんじゃないかしら?石井さんの5万円持って…と大島の行動を疑う。

捜査本部では、池袋までレインコートの男を乗せた運転手が、マジックミラーで松村の顔を確認していた。

刑事(橋本力)は、その結果をドア越しに、取調室内の高橋刑事に目で合図し、高橋は主任に合図する。

それを知った主任は、殺しの現場近くでお前を乗せたって人がいるぞ!と松村に伝えるが、松村は、大学生なんか知るもんか!とシラを切る。

石井と2人で小料理屋で飲んだこと覚えてるだろう?女将さんを呼んで、面通しやってもらおうか?と高橋刑事が畳み掛けると、さすがに観念したのか、すみません!と松村は頭を下げる。

いつからなんだ?と主任が石井との関係を聞くと、あの晩からなんで…と松村は答える。

(回想)その日、賭け麻雀で負けてクサクサしていた松村は、たまたま通りかかった石井の方に自分からぶつかり、因縁を付けると、金をせびり取ろうとするが、逆にやられてしまう。

その後、石井は松村を誘い、近くの小料理屋に誘うと、気前良く酒を振る舞いながら、金欲しさにカツアゲしようとしたのか?と笑い、いくら負けたんだ?と聞く。

松村が恥ずかしそうに、3000円ちょっと…と言うと、貸してやろうか?などと石井が言うので、すっかりその気っ風に惚れ込んだ松村は、兄貴と立ててすっかり意気投合する。

私はすっかり石井さんが好きになりましたと松村は言う。

その後は、おごってもらったお礼に、石井さんを家まで送って行ったんです。

玄関口で、じゃあ、旦那、あっしはここで…と帰りかけると、良いじゃないか、入れよと石井が勧めるので、離れに上がり込むと、2人一緒に電気をともし、互いに顔を見合わせて笑い合うと、そのまま寝込んでしまった。

(回想明け)翌朝、郷里から出て来る恋人を迎えに、石井さんは新宿駅に行くと言うので、バス停で別れました。

その後、借りた金で賭け麻雀をやったら又負けたので、あの晩、又鐘を借りようと石井さんを訪ねたら、観たこともない男が立っていて…、石井の旦那は死んでたんです…と松村が言うので、どんな奴だった!と主任が聞くと、若い奴で、黄色いレインコート着て…と松村は言い、そいつから口止め料をもらったものですから…とへつらうように笑う。

一晩飲んだ男が殺されたって言うのに!それがお前たちが大事にしている仁義が立つのかい!と、一緒に話を聞いていた高橋刑事は叱りつける。

夜、竹中家の二階で寝ていた信子は、表で又犬が吼え始めたのに目を覚まし、そっと部屋から出て行くが、一緒に寝ていた明美も目覚める。

信子は一階に下りると、蒲団に入って寝ようとしていた竹中の部屋の前に来る。

気配に気づいた竹中が、だーれ?と声をかけると、信子ですと言うので、どうかしたの?と聞くと、いいえと信子は歯切れが悪い。

犬が吼えたから怖かったんだろう?休みたまえと竹中が諭すと、いいえ、そうじゃないんですと信子が言うので、君、どうしたの?言ってごらんよと竹中が促すが、信子は、私…、私…と、何かを言いたげだったが、二階から明美が下りて来た気配に気づいたのか、そのまま何も言わずに二階へ戻ってしまう。

竹中の部屋の前にやって来た明美は、信子さん、用事あったの?何だか変ね…、もしかすると信子さん、お兄ちゃん、好きなんじゃない?信子さん、しきりに窓を覗いていたわ…と言うと、こんな真夜中にかい?と竹中は首を傾げる。

大島さんに会いたいんじゃないのかしら。その気はなくても、ひっきりなしに好きって言われると、女って満更でもなくなるのよなどとませたことを言うので、もう寝ろよと竹中は呆れる。

翌朝、竹中と明美は、2人で不在の菊地と言う人物をもう1度訪ねてみる。

応対に出て来たアパートの管理人は、スキーに言って帰らんよと言うので、2、3日前、誰か訪ねて来なかったか?と聞いても、知らないようだった。

それで思い切って、竹中は、菊地の部屋の鍵を貸してくれませんか?実は僕、菊地の先輩なんですと嘘をついてしまう。

管理人は疑いぶかそうな目つきで竹中と明美の様子を観ていたが、まあ良いでしょうと言うと、ちゃんとした御休憩所を使ったらどうかね?などと勘違いしたことを言うので、明美は、まぁ!と憤慨する。

菊地の部屋に入ってみた2人は、室内が意外と整頓されていることを知る。

その時、同じアパートの住人で、水商売らしき女性が、あら菊地さん、帰って来たの?等と言いながら部屋に入り込み、人違いと気づくと慌てて帰ろうとしたので、知り合いですか?最近、彼を訪ねて来た人がいませんでしたか?と竹中は聞く。

黄色いバンドのレインコートを着た人がいたとその女性が言うので、持って来た石井が仲間と一緒に写っている写真を見せてみると、この人よ!と女が指したのは大島三千夫だった。

竹中からの電話でその話を聞いた高橋警部は、吉川信子を巡って大島には動機がありますねと考え込み、主任も、東北へ行くって言うのが気に喰わんと呟く。

その後、週刊トピックス編集部にいた竹中を訪ねて来たのは、大島の妹八重だった。

八重は、そうして、竹中さんは、犯人が兄さんだと思うの?あの兄に殺人なんかが出来るんなら、私もっと尊敬してます!と良い、東京に来たのに、葬儀にも出ず、信子さんにも会わずに東北旅行に行ったのは変でしょうと竹中が言うと、それは失恋よと八重は言う。

捜査本部も疑っているんですよと教えると、噓よ!と八重は怒る。

捜査本部では、拘留中の松村に、石井のグループ写真を見せ、事件当夜会ったと言う男がいるかと聞くと、松村が指したのも大島だった。

後は、タクシーの運転手に確認してもらえば間違いなかったが、運悪く、運転手は郷里に嫁をもらいに行ったとかで明後日の朝まで戻って来ないと言うことだった。

その結果を高橋刑事から知らされた竹中は、家に帰ると明美に教える。

もはや、大島への嫌疑は濃厚になったように思えたので、八重さん、聞いたかしら…と明美が言うと、聞いたろ。本部に行ったんだからと竹中は答え、可哀想みたいね…と明美は同情する。

そんな竹中家にやって来たのは八重で、私、信子さんに用があるんです。信子さん!うちの兄が犯人なんですって?みんな、あなたのせいだわ!兄はあなたの後を追って来てこうなったのよ!兄をさんざん誘惑したくせに!兄はたぶらかされていたんです!あなたは悪女よ!虫も殺さない顔をして!田舎の噂ご存知?あなたが帰って来ないのは新しい恋人が出来たからですって!と一方的に八重が信子を責めるので、耐えきれなくなった信子は二階に逃げてしまう。

それはあなたよ!と八重が指差したのは竹中だったので、竹中も明美もあっけにとられる。

信子さんってそう言う女なのよ。教えてあげましょうか?信子さんの秘密…と八重の言葉は止らなかった。

(回想)マスクをして顔を隠した信子が、地元の清水医院から出て来るのを待っていたのは石井だった。

やっぱり子供が出来ていたのかい?そうかい…と出迎えた石井に、怒っているの?と信子が聞くので、怒ってなんかないさ。心配しなくて良いよ。大学受験なんか大したことないさと石井が慰めると、私、あなたを心配させまいと手術して来たの…と打ち明ける。

そうした2人の会話を偶然外で聞いてしまった八重は、家に帰ると兄の大島に一部始終話す。

それ、本当かい!と驚いた大島は、勉強机に置いていた信子の写真が入った写真立てを倒して割ってしまう。

片想いの兄は、諦めきれず、憑かれたように信子さん宛の手紙を書いたわ。返事なんて来るはずないのに…

手紙を投函する大島…

やがて、気まぐれな返事が来たわ。

手紙には、落ち合う時間と場所が書いてあったわ。手術して半月も経ってないのに…

私は、2人をつけて行ったわ。

学生服姿で歩く大島と信子。

僕は前から、こうして歩きたかったんだよと喜ぶ大島に、難しいんでしょうね?東大って…と信子が聞くと、東大入れなくっても構わない。明後日又会ってくれますね!と頼む大島。

(回想明け)あの惹き付けるような目つき…、その日から兄は堕落したわ。そして、あんな田舎大学に行くようになって!

あの人は、きれいな羽をした毒蛾なのよ!兄さんは身を滅ぼしたのよ!

君の思い過ごしなんじゃないかい?と竹中が諌めると、竹中さんは信子さんの側なんだわ!夜行切符買ってあったんで失礼します。私は、兄が犯人だとは思わないの!と言い残し、八重は帰って行く。

すると、二階から降りて来た信子が、話を聞いていたらしく、大島さんから、会わないと手術をばらすって言われたのに…と反論する。

翌日、高橋刑事は、大島八重が兄から受け取ったと言う電報を持ち、電報局へ向かうと、いつ頃、どんな男が打ちに来たか分からんでしょうか?と局員に尋ねる。

すると、電報の整理番号を調べていた局員は、一昨日の午前9時、打ったのは女の人でしたよと言うではないか。

そんな女性でした?と聞くと、胸に赤いバラの造花をつけたきれいな方でしたと局員は答える。

立ち寄った捜査本部で、その話を高橋刑事から聞いた竹中は、信子さんが新宿駅でつけていましたと教えたので、とにかく吉川信子を追求しましょうと言うことになる。

帰宅した竹中は、明美から、お兄ちゃん、大変!信子さんがいなくなったの!私がマーケットから帰って来たらもういないのよ。

高倉のおばさんに聞くと、男から電話がかかって来たんですって!でも、おばさんは一度も信子さんに電話をしたことはないんですって!と明美は言う。

急いでおばさんの家に向かうと、信子の方からお宅に泊めて頂くって…と言うので、信子さんの写真ありませんか?もしものことがあるといけませんから…と竹中は聞く。

捜査本部でも、信子がいなくなった事を知り、タクシーに乗ったそうですと高橋刑事が主任に報告する。

信子の写真を持って、週刊トピックスの編集部に戻って来た竹中から事情を聞いた記者仲間(夏木章)は、誘われるまま逃避行か…とロマンチックな想像をして苦笑する。

しかし、竹中は、僕はそんな逃避行じゃないと思う。大島を殺して、彼女も自殺するんじゃないかと思って…と案ずる。

話を聞いていた婦人記者(響令子)も、純愛ね…とうっとりする。

高橋刑事は、信子を乗せたタクシーの運転手を見つけたとの報告を電話で受ける。

新宿駅10時発中央線を手配しましたと主任に伝える。

間もなく長野県信濃署から連絡が入り、信子らしき女性が信濃駅で下車した!と高橋刑事が聞くと、電話を代わった主任が、大島三千夫が一緒かも知れん。宜しく頼むと信濃署に依頼する。

それを知った竹中と明美は、夜行列車で信濃に向かっていた。

地元署に立ち寄った竹中たちは、明美と男は旅館に寄らず、山の方へ入って行ったと聞かされる。

地図を見ていた竹中は、この道は高杉山に通じてるんですね?と確認する。

取りあえず、地元の宿に落ち着いた明美は、ずっと窓から山を見つめている竹中に、お兄ちゃん、どうかしたの?と聞いて来る。

山はまだ真っ白だね…と竹中は答える。

高杉山は、見えている山の裏だと教えた仲居は、奥様、お風呂は夜中でも入れますから…と言って下がって行ったので、明美は複雑な表情になる。

高杉山は、彼女らの思い出の山なんだ。他の道は別の村に続いているしね…と呟いた竹中は、寝ようか…と言って隣の部屋に入ろうとすると、そこには一つ布団に枕が2つ並べられていただけなので、明美は赤面するし、竹中は慌ててフロントに注意しに行く。

炭坑節を歌う声が聞こえて来る中、明美が待っていると、戻って来た竹中は、団体客が泊まっているから、これしかないんだってさと情けなさそうに言う。

ま、良いか…と呟いた竹中は、先に蒲団に入り、湯たんぽが入っているぞ、早く入れよ、風邪引くぞ!と声をかけるが、明美は恥ずかしがる。

それでも、布団の中に入ってきた明美が、お兄ちゃんはどうしてこんな所まで来たの?と聞くと、信子さんを見極めたいんだよと竹中は答える。

昨日、信子さんが私に聞いたの。私たちって従兄弟同士なのって?だから、血は繋がってないって言ったの。そしたら、がっかりしたようになり彼女は出て行ったの…と明美は言う。

隙間があると寒い。もっとこっちに寄れよ。キスするぞと竹中がおどけると、明美は布団の中に潜り込んでしまったので、どうした?と竹中が聞くと、私、心臓が破裂しそうなの。じっとしてて!と言うので、何もしないよ。暖かくして眠ろうと竹中は優しく声をかける。

翌朝、地元署からの連絡を受けた高橋刑事は、信子は雪山を登ったようですと主任に報告すると、竹中が追って行ったって?その雪の山にか!と主任は驚く。

8時20分、竹中と明美は雪山を登っていた。

大丈夫か?と竹中が案じると、明美は、信子さんも登ったんでしょう?私も行くと言って付いて来る。

11時、熱い!と言って、明美は着ていたコートを脱ぎ捨てる。

明美、帰るか?僕は1人で探しに行くよ。ここからが大変なんだぞと竹中が聞くと、でも、お兄ちゃんは行くんでしょうと言って明美は帰ろうとしない。

12時半、竹中と明美は、雪山で休憩し、昼食を取る。

竹中がタバコを吸い始めると、お兄ちゃん、夕べはごめんなさい。あの時、布団に潜らなければ良かった…、そうすりゃ、お兄ちゃんにキスしてもらえたのに…と明美が言い出したので、竹中は、明美、山を下りたら、結婚しようと答える。

同情したの?同情されて結婚するのは嫌よと明美はすねるが、明美、どうかしてるぞと竹中は叱る。

すると明美も、お兄ちゃんこそ、どうかしてるんじゃない?と返す。

その後、更に登り始めた2人は、信子のマフラーが落ちているのに気づく。

その側に、雪に埋もれた服らしきものを見つけたので、竹中は掘り返す。

それはうつぶせになっていた信子だった。

信子さん!と明美は泣き出す。

その信子の横には、男がうつぶせに埋もれていた。

その頃、捜査本部には、郷里に帰っていたタクシーの運転手が恐縮しながらやって来る。

出迎えた主任は、高橋刑事に、石井らが写ったグループ写真を見せ、この中にレインコートの男がいますか?と聞く。

これですか?と大島の顔を指すと、運転手は即座に違いますと答える。

主任と高橋刑事は、松村を取調室に呼ぶと、再び写真を提示し、こっちだったんだろう?と迫る。

観念したのか、松村は素直に、全部申し上げますと言い出す。

あの晩、あっしは賭け麻雀で負けたので、又金を借りようと思って、石井の旦那の所へ行ったんです。

(回想)離れの玄関が閉まっていたので、庭先に廻り、窓ガラスから中を覗いて見ると、石井の部屋の中には誰か来ているようだった。

石井を訪ねていたのは大島三千夫だった。

大島は、自ら部屋の電気を消すと、俺は良いんだが、お前が辛いだろうからな…とうそぶく。

俺は、信子さんを抱いたんだ。それも一度や二度じゃないんだ!噓だと言うのかい?すぐバレるような嘘をつくはずがないと大島が自慢げに打ち明けたので、石井は俺は信じないぜ!と反論する。

すると、マッチを擦って、自分の顔に近づけた大島が、俺の顔を見ろ!これが噓を言っている顔に見えるか?、石井、お前はうぬぼれているんじゃないか?と嘲るので、石井は思わず、火鉢の中の火箸を握りしめる。

信子は本当にお前を愛してるんじゃない!俺に抱かれて喜んで悶えていたんだ!とまで言う大島に、違う!と絶叫して飛びかかる石井。

事の一部始終を外で観ていた松村は、思わず部屋の中に飛び込んで来て、そこに倒れていた大島を観ると、旦那!偉えこと、しちまったね…と石井に話しかける。

大島!と叫びながら、石井は泣いていた。

旦那!この後、どうするんですよ?と松村が聞くと、どうしよう!と石井は動揺しているだけだったが、やがて、兄貴!俺を見逃してくれないか?俺は信に会いたいんだ!恋人なんだ!田舎から出て来てるんだ!と松村にすがって来る。

分かったよ、旦那は、服と丹前を取り替えるんだと指示を出した松村は、窓から外の様子をうかがっていた。

大島のレインコートを着た石井と松村は、丹前に着替えさせた大島の遺体を火鉢の前に座らせ、松村が部屋にマッチの火を落とす。

(回想明け)その頃、雪山では、雪の中に埋もれていた信子と石井の2人の遺体を、竹中と共に仰向けにして横に並べ終えた明美が、信子が持っていた遺書を発見し、その場で読み始めていた。

私は石井さんの真っ黒な遺体を観た時から死のうと決心しました…と遺書には書かれていた。

それなのに…

(回想)竹中の家に泊まりに来た晩、タバコ屋の電話に出た信子は、電話の相手が、死んだはずの石井である事を知り驚愕する。

あの人が生きている!私はすぐには信じられませんでした…、あの人が生きている?

許されない事かもしれませんが、期待と不安に怯える中でも、私は密かにあの人からの連絡を待ってたんです。

その内段々苦しくなって来て、誰かに打ち明けたいと思うようになりましたが、勇気が出なかったんです…

深夜、竹中の寝室に1人で行ったときの信子は、そう言う気持ちだったのだ。

そして、とうとう、あの人に会う日が来ました。

夜中、工事現場の火花が散る側で出会った2人は、その火花のように激しい感情に突き動かされ、しっかり抱き合う。

その後、夜汽車に乗る2人

石井は、レインコートにサングラスと言う格好だった。

私たちは高杉山に行く事にしました。

死ぬと言うあの人…、それを翻させるのが私の役目かもしれませんが、でも、私は止めない…

誰も知らない地の果てで〜♪(唄が重なる中)雪山を登る信子と石井。

ノブ!とても高杉山には行けそうにもないね…と途中で呟く石井に、良いわ、あなたと2人なら…と答える信子。

どうしてあんなことをしたの?あなたが大島君を呼んだの?と信子が聞くと、あいつは1人で来たんだと打ち明ける石井。

あいつはノブの事を話した。僕はふいに大島の首に手をかけた!何故だか分からない…

今日まで分かりたいと思い続けて来たけど、もう分からなくて良いんだ…

あ〜眠い!と雪の中に倒れ込む石井。

私も…、でも幸せよ…と答え、横に倒れ込む信子。

もう何も思い残す事はありません。色々ご迷惑をかけて住みません。どうぞ、お許し下さい…と書かれていた遺書を読み終えた明美は、泣きながら石井と信子の手を繋いでやると、その側に、信子からもらった赤いバラの造花を置く。

明美、警察に届けよう!と竹中が声をかけたので、うん!と答える明美。

2人は雪山を下り始めるが、お兄ちゃん、信子さん、本当に、石井さんが好きだったのね。教えましょうか?何故私がここに付いて来たか…

信子さんと同じ気持ちよ…と明美が打ち明けたので、明美!と呼びかけた竹中は、明美を抱きしめてやる。

雪山に並べられて眠る石井と信子の遺体から、ゆっくり雪山の全景にカメラが引いて来る。


 

 

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