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襲われた手術室

上映時間64分の中編作品で、おそらく2本立ての添え物映画だったと思われるサスペンス(調べてみたら、どうやら併映のメイン映画は、勝新主演の「人肌呪文」と言う大映京都作品)

スターらしき人が誰も出ていないノンスター映画に近く、個人的に知っていたのは犯人役の高松英郎と藤山浩一の2人くらい。

高松英郎が一応メイン扱いなのかも知れないが、この映画で一番光っているのは藤山浩一の方である。

始終、にや付いて、世の中を嘗めまくっている悪党の感じがなかなか良い。

「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」(1966)での小野寺に匹敵するキャラクターである。

もう一人光っているのが、子供の母親昌代役を演じている町田博子と言う人で、リアルなおばちゃんの雰囲気が素晴らしい。

無精髭を生やした高松英郎は、後のテレビドラマ「柔道一直線」の車周作の雰囲気そっくり。

映画ファンの中には、映画への人気アイドル起用などを嫌い、適材適所に無名でも巧い俳優さんだけで作れと言う意見をたまに目をするが、その人たちの言う理想的な映画はこうしたものになるのだと思う。

これは、二本立て時代の添え物だから成立していた映画で、今の時代、1本立てでこんなタイプの映画を公開しても、おそらくヒットはしないと思う。

この手の映画を金を払っても見に来るのは、よほどのミステリ映画好きくらいだろう。

サスペンスとしてはコンパクトにまとまっており、なかなか良く出来た話だと思うが、電話を引っ張ったらフラスコを落としたり、ドアを開けたらバケツを倒して大きな音を立てて犯人に気づかれるなど、サスペンスの盛り上げ方などは全体的に古いと感じる。

音を立てて犯人に気づかれると言うアイデアは1回で良く、繰り返すのは不自然。

音を立てるのは別人だからと言うことなのだろうが、観ている方としたら、又、音か…とわざとらしく思ってしまう。

電話の切り換えサスペンスなどは、当時としてはなかなか面白いアイデアだったのだろう。

気になるのは、ラストのオチが分かり難い点。

手術室の窓から外に投げ捨てた懐中電灯など、病院の敷地内に落ちるだけだから、人気のない深夜、部外者に発見されるはずがないし、添えてあったメモは一体いつ書いたのか分からなかった。

ずっと医者や看護婦たちの行動は犯人たちに監視されていたはずで、あんなメッセージを書く時間などなかったはずなのだが…

尺が短いので、ラストは雰囲気だけで観客に納得させてしまったと言うことだろう。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、大映、竜井謙太原案、下飯坂菊馬 、 田坂啓脚本、阿部毅監督作品。

深夜12時36分

雨が降り仕切る中、とある駅から降りて来た質屋の主人(山口健)ら数人が改札口を出て行くと、最終便が終わった駅員は駅の電気を落とす。

その質屋では、懐中電灯の明かりの中、覆面をした2人の男、船山(高松英郎)と塩田(藤山浩一)が、金をバッグに詰め込んでいた。

そこに帰って来たのが主人、畳の上には息子夫婦が縛られて転がされているので、何をしてるんだ!と怒鳴りつけると、塩田が発砲した銃弾が当たる。

急いで外に逃げ出した船山と塩田だったが、ちょうど近くを警邏中だった警官二名に見つかり、止まれ!と制止されるが、そのまま待たせていた車に乗り込もうとしたので、やむなく1人の警官が発砲する。

兄貴、早く!と運転席にいた里見(土方孝哉)が呼び掛け、車は雨の中発車する。

後部座席に乗った船山は、助手席で銃を持っていた塩田に向い、約束が違うぜ、そいつは脅しに使うだけと言っていたじゃねえか。バラす事なかったんだと言いながら、左手に受けた警官の銃弾を自分で止血しようとしていた。

国道を行くのはまずい、裏を廻ろうと里見に指示を出した船山は、この道を出るとどこへ出ると聞く。

多摩川沿いに二子の方に出ると里見は答えながら走っていたが、間もなくエンジンの調子がおかしくなる。

車を降り、ボンネットを開けエンジンを調べた里見だったが、ダメだ、エンストだと船山に伝える。

どっかで車を探そうと言いだした船山は、ここは田舎だぜ!と文句を言う塩山には、電気を消しとけと命じ、車を捨て、3人で雨の外に出る。

「大山外科医院 院長大山清蔵」と書かれた病院では、院長が別の病院の手伝いに出ているのに、院長の娘で女医の大山典子(浜田ゆう子)は、当直の沼田司郎がまだ戻って来てないので、どうしたんでしょう?と聞いて来た看護婦の楠幸子(倉田マユミ)に、どこかで飲んでいるんでしょうと答え、院長先生が遅い時くらい早く帰って来てくれれば良いのに…と愚痴る幸子に、婦長さんが持って来てくれたお餅でも食べましょうか?と元気づける。

その時、玄関ブザーが聞こえたので、思わず、お餅を持って来た幸子が驚いて袋を落としてしまったので、脅かさないでよ!と典子は注意する。

玄関のカーテンを開けて外を観た幸子は、そこに立っていたのが沼田医師だと気づくと、な~んだ…と拍子抜けし、典子先生怒ってますよと嫌味を言う。

しかし、当の典子は笑って出迎えると、銀座で同級生に会っちゃって…と言い訳する無又に、当直のくせに!これじゃあ、結婚しても、後が思いやられるわ。私、まだあなたの奥さんになると決めたつもりはないのよと釘を刺す。

そこに、銃を手にした船山ら3人が入り込んで来たので、沼田たちは驚く。

ちょっと手当をしてもらいたいだけだと船山がいうので、沼田は憮然としながらも治療の準備を始め、幸子は診察室の台の所に船山を招くと、ここにかけて腕を上げて下さいと事務的に指示する。

その頃、塩田は外のガレージを開けようとしていたが、鍵がかかっていて扉が開かない。

金は取れたのか?と沼田が嫌味を言うと、うるさい!さっさとやれ!と船山は怒鳴りつける。

そこに、塩田がやって来て、車庫の鍵を貸せや。車がいるんだと言うが、幸子が、車は院長先生が乗ってらっしゃるのでないと答える。

それじゃ、帰るのを待たせてもらうしかないな…と塩田はにや付きながら答え、人間はこれだけか?他に何人いるんだ?と船山が聞く。

入院患者はいねえのか?と塩田も聞き、船山は里見に、全部鍵かけて来いと命じる。

沼田は、患者に手をかけるな!と頼む。

その時、電話がかかって来たので、塩田がお嬢さん出なよ。詰まらねえ事言ったら、ぶっ放すぞと典子に指示し、典子が受話器を取る。

小島の父(武江義雄)ですけど、又痛がって困ってるんですが…と言う内容だったので、塩田は断れやと後から銃を突きつけ脅す。

返事をためらっている典子に、手術中で出来んと言え!と繰り返すが、見かねた沼田が、構わん、後で往診すると言いたまえと口を出したので、塩田は銃で沼田を殴りつける。

その間、もしもしと電話の相手が話しかけて来るので、典子は、今、手術中です。すみませんが他のお医者さんにどうぞと言って電話を切る。

その頃、ベッドルームにいた婦長山口初枝(三保まりこ)は、氷嚢用の氷を割っていたが、そこにやって来た入院患者の森(花野富夫)が近づいて来て、眠れないんで薬を下さいと言う。

しかし、婦長が断ったので、冷たいな、婦長さんは…とぼやきながらトイレに入る。

その間、病院内の窓の鍵などを締めて廻っていた里見は、ベッドルームに気づくと、中をこっそり覗いてみる。

ベッドで寝ている入院患者たちは、皆寝ていたし、身動きできないような患者しかおらず、トイレを開けて中を覗くが、森が入っているのには気づかないままだった。

ベッドルームの部屋の扉の陰で待ち伏せしていた里見は、山口婦長が出て来ると、背後から口を塞ぎ、銃を突きつけて受付に連れて行く。

その直後、森がトイレから出て来るが、何も気づかずベッドルームに入って行く。

治療室では、沼田が船山の左腕から弾丸を抜き取る治療をしていたが、あんまり船山が痛がるので、塩田に押さえてくれと頼む。

その隙を狙い、治療室の外にこっそり抜け出した幸子は、治療室の扉の窓カーテンを閉め、治療室のシルエットで様子をうかがいながら受付の電話をかけようとする。

弾を抜き終えた船山は塩田に水をくれと頼む。

これですんだ。どこへでも消えてくれたまえと沼田は犯人たちに言うが、そうはいかないんだ。院長が来るまで待たせてもらうぜと船山は答える。

彼らの目的は、車を手に入れる事だったからだ。

電話の受話器をあげたものの、隣の治療室の犯人たちに声が聞こえる事を警戒したのか、なかなかダイヤルを廻せないでいた幸子は、電話機を治療室からより奥へ持って行こうとし引っ張るが、その際、電話コードが、花瓶代わりに浸かっていたビーカーを引っ掛けて落としてしまう。

その割れた音に気づいた塩田が治療室から出て来て、幸子を殴りつけ、電話線を引っこ抜くと、嘗めた事しやがるとただじゃおかねえぞ!他に電話はねえのか?まだ他にあったら承知しねえぞ!と怒鳴りつける。

幸子は、そんな塩田を観ながらも、机の下の電話の切り換えスイッチを、後ろ手でこっそり「受付」から「手術室」に切り替えていた。

塩田は幸子を治療室へ追いやり、里見も婦長を連れて来て、入院患者は心配ねえ。みんな動けない奴らばかりだと船山に伝える。

その時、パトカーが外を通り過ぎるサイレン音が聞こえて来たので、里見は船山に、まずいよ兄貴、もう通れないよとびくつく。

そんな中、玄関を叩く音と共に、大山さん!息子が急病なんです!と大声で呼びかける女性の声が聞こえて来る。

それは、苦しんでいる一郎(伊藤茂信)と言う少年を抱えた母親の昌代(町田博子)と、ここまで2人を乗せて来たタクシーの運転手だった。

治療室にいた全員、息を詰め、成り行きを互いに探り合っていた。

それでも、昌代の、子供が病気なんです!と叫ぶ声は収まらない。

たまりかねた沼田が、犯人たちを無視して玄関に向かうと、玄関を開ける。

子供が変なんです!2時間くらい前に吐いたんですと言うので、吐瀉物は?と沼田が聞くと、緑色のものを…と言うので、沼田は緊張する。

連れて来た運転手は、今、旦那さんが留守なんですよ、じゃあ、宜しく!と沼田に挨拶し雨の中、帰ろうとするので、思わず、沼田は、あ、ちょっと!と呼び止める。

背後では、犯人たちが息を詰めて様子をうかがう中、沼田は、いや、何でもない。こちらで何とかしますと続けたので、立ち止まって振り向いていた運転手はそのまま帰ってしまう。

その様子を物陰から観ていた船山は、大丈夫だ、気がついちゃいねえと里見に話す。

既に意識を失った一郎を抱え、沼田の後に付いて病院に入って来た昌代は、扉の陰に銃を持った塩田がいたので驚く。

手術室に一郎が寝かせられると、皆さんはあちらに行って下さい!と婦長が犯人たちを追い出そうとするが、3人は医者らの動きから目を離すつもりはなく、部屋の外に下がっただけだった。

お通じは?と沼田が聞くと、昨晩からないんですと昌代が答える。

高圧浣腸の準備!と沼田が指示を出す中、婦長は船山らの方を気にする。

そんな中、塩田は、餅を見つけ、嬉しそうに里見に見せたりしていた。

沼田は、腸捻転かも知れない。レントゲンをかけようと言い出し、典子がレントゲン室の鍵を開けに行くが、そんな行動も、ちゃんと塩田が目を光らせていた。

強心剤!と沼田に言われた幸子が、薬室に取りに行くが、外への開き扉を開けようとして、意外に大きなきしみ音がしたので諦め、里見が覗き込んで来た中、何くわぬ顔をして薬を持って手術室へ戻る。

手術をしようと決意した沼田の発言を聞いた船山は里見に手術室を観て来るよう命じるが、手術室なら分からねえ。間違いねえと塩田が言う。

手術の準備を始めた婦長に、幸江がこっそり、電話のスイッチを手術室に切り替えてありますと耳打ちし、婦長は頷く。

里見は手術室の中を覗き込むが、電話など外部に通じるものは見当たらなかった。

子供の血液はO型だが輸血用の血液はあるか?との沼田の問いかけに、1200ありますと婦長は答える。

典子を呼び寄せた沼田は、院長先生はいないけど、君は麻酔、助手は婦長で良いだろうと指示を出す。

婦長は、まだ手術室の外に集まっていた犯人たちに出て行って下さいと頼むが、塩田たちはにや付くだけで動こうとしない。

頼むから邪魔しないでくれ!と沼田も頼み、お願いですから手術をさせて下さい!と声を上げた昌代は、畜生!人でなし!この子を殺したいなら私を殺せ!と塩田に突っかかる。

よし!殺してやろうじゃねえか!どうせ俺は人殺しだ!と逆上した塩田は、昌代の首を絞めようとする。

止めろ!と沼田が制止するが、塩田は殴りつけ、ナイフを取り出したので、おい、止さねえか!とさすがに船山が塩田に声をかける。

院長が戻って来たらここはもう用はねえ。手術しようがしめえが勝手だ。俺たちはこっちの部屋にいようと船山は声を塩田に言い、手術室前の部屋に陣取る。

扉も開け放ったままだったが、分かった…、いつまでも争えない…と沼田も妥協する。

その頃、質屋殺人事件本部では、雨だったので、車の特長ははっきり確認出来なかったが、すぐに非常線を張ったから都内には潜入でないはずと刑事たちは捜査範囲をほぼ特定していた。

そんな中、拳銃の弾はまだ残っているぞと主任(杉森麟)は緊張感を持って全員に言い渡す。

血圧100!脈拍120!メス!手術室では、沼田の執刀が始まっていた。

麻酔をかけた一郎の開腹が始まるが、母親の昌代は緊張し、手前の部屋から覗き込んでいた里見が失神してしまったので、塩見が慌てて殴りつける。

そんな中、幸子は婦長に、電話まだあのままなんですけど…と耳打ちするのを聞いた沼田は驚くが、そのまま手術を続ける。

塩田は、手術台から離れようとしていた幸子に、どこに行くんだ?何の用だ?と聞くが、その時、手術室に電話の呼び出し音が鳴り響く。

塩田は、壁の一部の蓋を開け、その中の空間に置かれていた電話を発見、幸子に、おい、出ろ!と命じる。

幸子が出ると、相手は武蔵野病院の看護婦で、手術が終わりました、院長先生は今お帰りになりますと言う。

塩田は、この電話の事を隠していた幸子の頭を、この野郎!と言いながらこずくが、聞こえて来た内容から、良し!これで助かった…と安堵する。

その時、又、パトカーが面を通り過ぎる音が聞こえて来たので、気の弱い里見はますます怯え、兄貴!もうダメだ!と言い出したので、ばかやろう!怖じ気づいたか?と船山は叱りつける。

沼田は、あそこからなら30分で着くね?と典子に院長の帰りのことを話しかける。

時間は深夜の3時過ぎだった。

玄関を開けてあるね?と典子に話しかけた沼田は、ドイツ語で何事かを伝える。

典子は、入口を塞いでいた塩田たちに、開けて下さい、ボンベを替えますと言い、麻酔ボンベを取り替えに行く。

船山が里見に、付いて行けと命じ、里見は典子と一緒に、ボンベの置いてある部屋に付いて行くが、そこで典子が荷札に何事かを書き記したので、何と書いたんだ?と聞くと、使用済みと書いたのよと言い、持って来たボンベの口の部分に付け、新しいボンベを持って手術室に戻るが、その際、里見に気づかれないよう、前のボンベのコックをひねっておく。

その頃、ベッドルームにいた森が起き上がったので、隣のベッドの患者がどうしたんですか?と聞く。

森は、眠れないので、やっぱり薬をもらって来ると言い、ベッドルームを出る。

受付部屋に向かう途中、ボンベから麻酔ガスが出ている事に気づき、そのコックを閉めた森だったが、何か書いた荷札が付いていることに気づき、それを読む。

「手術室にいる?」かろうじて、ドイツ語が読めた森は、一部分だけ理解しする。

3時15分

ここだ!切ろう!斬れば、大丈夫だ!沼田は一郎の腹腔内の患部を探り当てる。

その頃、森は、受付に置いてあったドイツ語辞書で、荷札の文字が「犯人は手術室にいる」と言う意味だった事を調べ終えていた。

驚いて電話をかけようとするが、電話線が抜かれているので通じない。受付から玄関に向かおうとした森だったが、ドアを開けた時、バケツを倒してしまい大きな音を立ててしまう。

その男に気づいた塩田は、側にあった金属棒を掴むと、里見と一緒に玄関から飛び出し、外に逃げ出そうとしていた森の後頭部を殴りつける。

その時、車が近づいた音がしたので、院長が帰って来たと思った塩田が、門の所で道路を観ると、少し離れた所で停まっていた車の中でカップルがキスをしており、すぐに走り去ったので、塩田は舌打ちする。

すると、反対方向からライトが近づいて来たので、こんどこそ…と期待して待ち受けた塩田だったが、それはパトカーで、門の前で停まると、2名の警官が降りて来る。

玄関ブザーが鳴り、里見が慌てて、兄貴!パトカーだ!と船山に知らせに来る。

それを聞いた船山は、手術室の中を観ながら、さ、誰か出るんだ?と問いかける。

どうした?出ないのか?と念を推された沼田は、今、呼吸が弱い。僕が出ようと典子に伝えると、そのまま玄関に向かう。

その時、廊下に引っ張り込まれて倒れていた森の姿を観るが、そのまま玄関を開け、警官と会う。

今、手術中なんですが?と沼田が言うと、お宅の電話は異常ありませんか?何度かけても通じないんですが?と警官が言い、今、殺人犯が逃げていますので、立ち寄るようなことがあったら連絡下さいと告げる。

沼田は、背後で銃を持った里見が狙っている事を知っていたので、何も言い出せず、帰って行く警官を見送るしかなかった。

里見は、銃で沼田を脅すと、玄関に再び鍵をかけておく。

手術室に戻って来た沼田は、患者に手をかけるなと言っただろうと倒れていた森の事を船山に抗議すると、電話をかけて置きたまえ、警官が気にしてたぞと伝える。

船山は、外しておいた手術室の電話の受話器を本体に置く。

一方、廊下で気絶したいた森が持っていた荷札を見つけた塩見は、これは何だ?と言うと、里見が、使用済みだってよと教える。

その間、典子は手術室の空気取りの窓から、こっそり電気を点灯したままの懐中電灯を外へ落とす。

その後、その荷札を持って手術室に戻って来た塩田がし術室に土足で入ろうとしたので、土足で入らないで下さい!と婦長が注意すると、笑いながら隣の部屋に下がり、靴を脱いで、下駄に履き替え再び入って来る。

そこに、気がついた森を連れた里見が戻って来る。

近づいて来る塩見に、寄るな!と叱りつけた沼田だったが、おい!これ、なんて書いてあるんだ?と笑いながら塩田は荷札を沼田に突き出す。

沼田は典子の方を気にしながら、少し戸惑っていたが、不良品だよと答えると、本当にそう書いてあるんだな?と聞き直した塩田は、麻酔を担当していた典子の側に来ると、この野郎!とぼけるな!と殴りつける。

それでも沼田は手術を続行していた。

結束!吸引!

それを観ていた母親の昌代はほっとする。

全身状態は?と確認する沼田。

血圧60!脈拍140!

強心剤の用意!血液の補充は足りているんだろうね?と聞くと、後600ありますと婦長が答える。

その会話を聞いていた里見が、兄貴!血液銀行の車ならノンストップだ!と船山に言い、それを聞いていた塩田も、おい、おめえが前に売りに行ったあれか?と里見に聞く。

その時、又電話が鳴ったので、典子が出ると、相手は院長だったので、お父様、どうしたの?と聞くと、少し患者の陽だ胃が悪くなったんで帰れんことになったと言うことだった。沼田君ならしっかりしとるよと、手術と聞いた院長が言うが、その会話を盗み聞いていた塩田は、棚に置いてあった3本の血液瓶の側に近寄る。

それに気づいた沼田は、もう少しなんだ、邪魔しないでくれ!と注意し、手術を続けていたが、塩田はあざ笑いながら、三つの血液瓶をなぎ払い、全部床に落として割ってしまう。

それを観た母親の昌代は、ちくしょう!あんたと言う人は!と叫びながら塩田につかみ掛かって行く。

しかし、はねつけられ、昌代は泣き出す。

沼田は、すぐに電話してくれ。後30分は持たんぞ!と婦長に頼み、婦長は直ちに血液銀行にO型の血液の20分以内の輸送を依頼する。

その頃、刑事たちは、船山らが乗り捨てていた車を発見していた。

昨日の朝、盗まれていた車に違いなかったが、その後部座席を調べていた刑事が血痕を発見する。

その血痕がまだ新しいと気づいた主任は、一番危ないのはこの辺の病院だと気づき、捜査本部に手配を依頼する。

ちょうど、その本部に、大山外科の様子がおかしいと言う男を連れた警官がやって来る。

血圧58!もう血液がありません!

手術室の中は緊迫していた。

沼田は、リンゲルを打とう。まだしばらくは保つ!と指示を出す。

大山銀行に向かう血液銀行の車が非常線を通過する。

沼田は、3人の犯人たちに、君たちの中にO型の者はいないか?と聞くが、3人とも何も返事をしなかった。

一郎!と叫ぶ昌代。

まだか?血液は?

外に行こうとした婦長は塩田が入口に立ちふさがっていたので、退いて!と声を上げ、玄関から門に向かう。

そこに、血液銀行の車が到着したので、奥の手術室ですと案内する。

血液瓶が入ったボックスを持って白衣の2人が手術室に来ると、ご苦労だったなと銃を向けた塩田が待ち構えており、二人の白衣を脱がせる。

里見が手術室の電話線を引っこ抜く。

白衣を着た船山は、さあ、血液やるぞと言い、同じく白衣を着た塩田は、人質だ、来い!と言いながら、典子を捕まえて、一緒に外へ向かう。

ノリちゃん!と呼びかける沼田に、沼田さん!と答える典子。

逃げる3人は、手術室に外から鍵をかけてしまう。

門前に停まっていた血液銀行の車の前まで来た船山は、おい、勝手な真似をするな!と塩田を叱るが、うるせえ!けが人は黙ってろ!と塩田も睨みつける。

その時、前方に停まっていたパトカーのライトが彼らを照らし出す。

そこには、主任をはじめとする刑事たちが待ち構えていた。

くそ〜!と悔しがる塩田たち。

手を挙げろ、もう逃げられんぞ!鍵はここにあるんだ!無駄な抵抗は止せ!と主任が血液銀行の車のキーを差し出して呼びかける。

里見はすっかり怖じ気ずくが、塩田は動じず、まだ弾はあるんだ!この女が見えるか?車のキーを寄越せ!と叫ぶ。

無益な抵抗は止めて、女を寄越せ!と刑事が呼びかけるが、塩田は、今から10数える!それを良い終える前に鍵を放るんだ!と言うと、1つ!2つ!と大声で数字を言い始める。

さすがに苦悩する主任たち。

手術室では、沼田が、脈拍は?と聞き、婦長がまだ微弱です!と答えていた。

兄貴!と里見は船山にすがりつき、塩田は、典子の側頭部に銃を突きつけながら、8つ、9つ!10!と数え終わる。

その時、待て!と呼びかけた主任は、雨でぬかるんでいた道路に車のキーを投げて寄越す。

塩田は典子に、拾え!と命じる。

その時、嫌だ!俺は嫌だ!と叫びながら、反対方向に里見が逃げ出したので、塩田はその背中を撃ち抜く。

その直後、車の横で様子を観ていた船山が塩田を撃つ。

塩田は、ぬかるんだ道に倒れ込む。

船山は、疲れたように銃を投げ捨てたので、刑事たちが一斉に走り寄って来る。

典子は急いで手術室に戻ると、坊やは?と聞く。

沼田は大丈夫だ!と答えたので、思わず、そこにいた母親の昌代と抱き合って喜ぶ。

一郎は、手術台の上ですやすや眠っていた。

そこにやって来た主任が、やあ、無事で結構でしたと沼田に挨拶する。

全く危ない所でした。みんなこの方のお陰ですと言いながら、主任は懐中電灯と、それに付いていたメモを沼田に見せる。

そこには、犯人が手術室にいますので、警察に連絡して下さいと書かれてあったので、思わず沼田は典子の顔を観て微笑み、典子も微笑み返すのだった。


 

 

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