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共犯者('58)

始めて観た作品だが、松本清張原作のサスペンスの映画化

北九州出身の清張らしく、福岡を主な舞台にしている。

当時の福岡市内の様子…、特に旧歌舞伎座風の二連屋根が目だつ和風の博多駅の外観が写っているのが珍しい。

しかし、福岡だけではなく、高崎、千葉、大阪、神戸、尾道、下関…とかなり色々な地方でのロケも含まれており、決してスケールは小さくない。

話自体はシンプルな犯罪者の自滅ものだが、元々気の弱い主人公の疑心暗鬼振りがサスペンスを盛り上げていく。

その気の弱い主人公を演じているのが、一見強面風の二枚目根上淳と言うのも面白い。

逆に、いかにも気の弱そうな船越英二が、本編では狂言回し的な役割を担っているのがミソで、それが後半、意外な展開に結びついて行く趣向になっている。

薄々予想出来る展開なのだが、そこには更にひねりが加えられており、平凡な夫婦愛が最後の決め手になっている所なども巧い。

そのつましい夫婦愛とは対称的に、犯罪を犯した2人の方は、最終的に愛情も失うと言う皮肉も興味深い。

若い女性の結婚への不安から来る、尽きることない男性への猜疑心…

それは最終的に彼女を幸せに導いたのだろうか?

全くにこりともせず、常に主人を睨みつけているような眼差しの女中キクの強烈なキャラクターも面白い。

ちなみに、冒頭の婚約披露パーティの席、商工会会頭の挨拶の後ろに立っているボーイ役は、セリフも何もなく、一瞬しか写り込まないが、藤巻潤である。

白黒の地味な印象ながら、通俗要素と文芸的な人間描写が巧く融合した佳作のように思える。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、大映、松本清張原作、高岩肇脚本、田中重雄監督作品。

雲海に朝日のバックではなく、規則的な模様が彫られた木をバックに大映マーク。

タンス販売などで九州一円に知られる丸内堀屋社長内堀彦介(根上淳)と、博多人形師吉沢勇吉(宮口精二)の1人娘雅恵(叶順子)との婚約披露パーティが福岡ホテルで3時より開かれており、商工会議所会頭(花布辰男)の挨拶が行われていた。

ここ4〜5年で急成長し、たちまち有名になった丸掘屋の社長への最大限の賛辞が述べられていた。

10月3日の結婚披露にもご招待いただきたいなどと言い添えて挨拶を終える。

次いで立上がった招待客も、内堀社長こそ、正に立志伝中の人!などと持ち上げるが、その話を婚約者の雅恵と並んで聞いていた内堀は、目の前に置かれた豪華なローストチキンの皿を見つめ、ふと過去の握り飯だけの弁当を思い出していた。

(回想)食器の行商を行っていた内堀は、夏の盛り、1人汽車で地方を回っていた。

馴染みの雑貨屋店主(早川雄三)に、多少持って来たコップなど買ってもらった内堀は、又、新作のコップでも入ったらお持ちしますから…とぺこぺこ営業トークを行う。

店主の女房(竹里光子)ももって来た麦茶を美味しそうに飲み干す内堀は、あんたはあちこち色んな所に行けて良いですななどと言われると、とんでもない!びっしり仕事が詰まっており見物どころではございませんと否定する。

夜、馴染みの宿の露天ボロに入った内堀は、先に入っていた同業者の町田武治(高松英郎)に出会ったので、気安く声をかける。

町田は笑って、風呂の中くらいは仕事の話は止めようや…、世の中もまだ戦後8年しか経っていないんだから…と言うので、僕も4年くらいになろうかね…と内堀も答える。

僕なんか、高崎を一歩出た途端、女房子供のことなんて忘れるんだ!と愉快そうに答える町田。

そんな町田に、何かぼろい儲け話はないかね?と冗談めかして内堀が聞くと、ある!といきなり真顔になった町田が答える。

隣の棟では、芸者と団体客たちが、景気良さそうに炭坑節を歌い踊っていたが、太く短く…か、そろそろ時間だぜ…と言う町田に対し、ラムネをコップに注ごうとする内堀の手は震えていた。

町田の言うぼろい儲け話とは押し入り強盗のことだった。

深夜、手ぬぐいで顔を隠した2人が押し込んだ家の金庫を主人の開けさせれいると、物音がしたので、驚いた町田が音のする方を見ると、帯で縛り上げたその家の妻が気絶して倒れた音だった。

その時、金庫を開けた主人が逃げ出そうとしたので、思わず後頭部を殴りつけた町田は、金庫の中の札束を内堀にバッグに詰めさせる。

2人は沼のほとりの草むらに逃げて来ると、そこで盗んだ金の分配に入る。

幸いなことに札の番号は揃っていないと気づいた町田は、内堀に分け前として500万持たせる。

内堀が怯えているので、どうした?ぼやぼやしてたら夜が明けるぞろ急かした町田は、今日限り俺たちは赤の他人だ。名前も顔も知らんことにする。3年くらい鳴かず飛ばずに地道に暮らすんだな。お互い巧くやろうぜと言い聞かせ、2人はその場から別の方向へ逃げる。

(回想明け)佐賀県唐津市の虹ノ松原(?)に来ていた内堀は、同行した婚約者の雅恵から、何を考えてらっしゃるの?と聞かれ、あなたのことですよ、あなたが私との婚約を承諾してくれるなんて思ってなかったですから…と言ってごまかす。

それに対し、雅恵は、あなたが誠実で信頼が持てる人だからですと答え、尊敬する誠実さがあるからです、女って、好きなだけでは結婚出来ないんですよと答える。

そんな雅恵が、たった一つお聞きしたいことがあるんですと言い出し、結婚する二人の間に隠し事があってはいけないと思うの。今まで私に言わなかったことがあるのならおっしゃって頂きたいの。私の方には何もありません。あなたにもありませんよね?と聞いて来たので、いえ、僕にもありませんと内堀は答えるしかなかった。

その場を取り繕うために、きれいな貝を見つけましたと内堀がお下との砂浜に落ちていた貝を指すと、雅恵が、それはアコヤガイだと教えてくれたので、僕は山育ちなので、海のことは全く知らないんですよねと笑ってみせる。

後日、雅恵の自宅を訪ねた内堀は、雅恵の父親の勇吉から雅恵は幸せにしてやりたいと言われたので、黙って聞いていたが、そこに仕事は良いの?と言いながら、雅恵がやって来たので、伸三に任せて来たと勇吉が答えると、ダメよと叱りつけ、父親を仕事場に追い返し、内堀と2人きりになると、色んな人があなたのことをなんだかんだ言って来るけど、私は今の彦介さんが好きなのと言い、この家にいると息苦しくならない?などと聞いて来る。

内堀が、いや…、別に?と答えると、私はこの家にいると、伝統のようなものが覆いかぶさって来るようで息苦しくなるの。その点、あなたは何もかも一代で築いたじゃないですか?…などと買いかぶって来たので、内堀は、約束があるのを思い出したのでと断り、急に帰ることにする。

車を運転して戻る途中、内堀は、勇吉が言った雅恵は幸せにしてやりたいと言う言葉や、何もかも一代で築いたじゃないですか?と言った雅恵の言葉、ぼやぼやしてたら夜が明けちまうと言った昔の町田の言葉などが次々に脳裏に蘇り、信号が代わって停まった後も、高崎を一歩出ると、もう女房も子供のことも忘れるのさと言った町田の言葉が気になってしまい、信号が青に変わり、後ろからクラクションを鳴らされたことにも気づかなかず、後ろの車から降りて来て速く動けよと文句を言いに来た運転手の顔を町田の顔に見間違えるほどだった。

自宅の書斎に帰って来た内堀は、机の引き出しの中に入れておいた雅恵の写真を見て、又考え込む。

電話をかけようとした内堀だったが、部屋の外からちらちら覗き込んでいたキク(倉田マユミ)が気になる。

元雅恵の所にいたちょっと奇妙な雰囲気の女中だった。

念のため、ドアを開けると、キクはその場に残って聞き耳を立てていたようだったが、明日は何時にお出かけですか?と無表情に聞いて来たので、いつものように、8時に店に行くと言うと、では、お先に休ませて頂きますと挨拶して来たので、ドアを閉め、窓のカーテンも閉めて、天井の照明を消すと電話局に電話をかける。

内堀は、高崎の電話番号を知りたいと言うと、町田武治と言う人の電話番号が分かるか?と聞く。

町田は成功しているのか?落ちぶれているのか…?内堀は、返事を待ちながらあれこれ考え、メモ帳には内堀はメモ帳には、少し書き直した結果、「商工特報社」と言う社名を書いていた。

その内、電話局から町田の電話は高崎6714と知らせて来たので、なんの商売をやってますか?と聞くと、漆器屋だと教えられる。

3年くらい鳴かず飛ばずで地道にやろうぜ…と言っていた町田の言葉が蘇る。

再度、今度はとある地方新聞社に電話をかけた内堀は、広告を出したいと申し込む。

サラリーマンだった夫が職を失ったため、夫婦揃って田舎の実家に戻り、洋裁の内職としてミシンを踏んでいた竹岡悦子(八潮悠子)は、近づいて来た母親スギ(町田博子)から、又、良一さんは釣りに出とるのか?と聞かれる。

東京出て、夫見つけたと思うたら…と愚痴りながらも、本家のヨシエが服縫ってくれと言うとったと教えると、悦子は嬉しそうにするので、娘時代は、ヒロシのシャツ一つ縫えなかったのに…と呆れ、そのヒロシが、高崎の機関区に今度戻って来ると言うと、悦子は暗い顔になり、ヒロシがここに帰ってくるんだったら、どこかに部屋探すわ…と答える。

そんな娘に、早うしまっとかんかいとスギが、ミシンの端に置いていた手紙を渡すと、始めてそれに気づいたと言う風に差出人を確認し、「商工特報社」の文字を見ると、来たわ!返事が来たわ!とちょうど釣りから帰って来た夫の竹岡良一(船越英二)に声をかけると、良一も嬉しそうに、君のトランプ占いが当たったんだよ…とお世辞を言う。

すぐさま手紙を開封して中の文面を読んだ良一は、毎月2回、高崎のとある店の状況について相手には絶対気取られず調査報告してもらいたい。月給は2万円を支給する!と呼んだ所で満面の笑みになる。

通信記者か…、やっと肩書きが出来た!さあ、もりもりと働くぞ!と良一と悦子は、ようやく決まった仕事を喜び合う。

その後、良一は、すぐさま手紙に書かれていた町田漆器店を探し当て、その前をさりげなく通過しながら中の様子をうかがう。

店の中では、町田が男女店員2人にそろばんを弾かせ、決算をしている所だった。

老いた番頭大森(星ひかる)の方が前の晩に飲み過ぎたのか、そろばんを弾き間違えたりしていたが、そこに、町田の妻から電話があり、息子の学校のことですぐに帰って来てくれ!と言われたので、今日は決算日だ!と怒鳴り返し電話を切る。

上州名物のかかあ天下ですか?うちのも赤城ですから本場ですなどと大森が冗談を言うと、町田は愉快そうに、女性事務員の夏子(若松和子)の手を露骨になで回し、気づいた大森は目のやりどころに困ることになる。

しかし、外を通っただけの良一にはさすがにそこまでは見抜けなかった。

福岡郵便局の私書箱25番を開けて、中に入っていた手紙を受け取った内堀は、前に停めてあった車に乗り込み急いで手紙を開封しようとするが、その時、店の社員である田口(多々良純)から会社まで同乗させてもらえないかと声をかけられたので、やむなく新天町にある「丸内堀屋」本店に向かう。

田口は、小倉支店はもう決まり、次は自分の地元の熊本に支店を…などと景気の良い話をする。

会社の社長室に帰って来た内堀は、急いで、手紙を読み始める。

それは、通信員として町田の近況の調査を依頼した良一からの報告書だった。

それによると、町田漆器店の営業成績に問題はなく、町田の女性関係などもない模様…と書かれていたが、末尾に、すでに4回目のご報告なので、一度お会いしてご尊顔を拝したいなどと書かれていたので、内堀はひやりとし、バカな…!と呟く。

そんな所へ雅恵が急にやって来たので、内堀は手紙を慌てて隠し、愛想良く応対すると、今晩付き合って?と言うので、一旦承知しながら、急に、今夜は小倉支店に関し、銀行と会食の約束があったと思い出し、謝る。

すると雅恵は、私、みんな知ってるの。でも良いわ。彦介さんの過去なんか気にしないわ…などと意味ありげなことを言いながら帰って行く。

その後、内堀は、又高崎宛の手紙を書く。

ある日、妻の悦子同伴で映画館でフランス映画を観ていた良一は、一つ前の列の席に、町田と夏子が連れ立って座り、露骨にいちゃいちゃし始めたことに気づく。

思わず2人に注目し始めた良一は、町田はやると決めた以上はやると夏子に言っているのをキクが、周囲の客からおしゃべりを注意された町田と夏子が外に出て行ったので後を追い、自分もロビーに出てみる。

すると、そこのソファーに二人が座っていたので、慌てて側の売店でソフトクリームなど買い、その場で食べながら、さりげなく2人の様子を観察する。

夏子はどっか遠い所へいかない?北海道か九州…、千葉に行きましょうよ。友達もいるし…などと町田を誘っていた。

ただちに内堀はこのことを内堀に手紙を書き、町田の女性関係のこれまでの報告に誤りがあったこと。さらに、番頭の大森を酒で誘い聞き込んだ所によると、漆器店の経営も自転車操業の状態になっていることを知らせる。

自宅にいた町田は、不機嫌な妻(目黒幸子)の目の前で、家の登記所と離婚届に判を押し、これでこの家はお前のものだ。荷物は後で送ってくれと言い残し、さっさと家を飛び出して行く。

川で妻の悦子と共に釣りをしていた良一は、二ヶ月でチョンは可哀想だよ…と、通信記者の仕事を早くも首になったことを嘆いていた。

ヒロシ君の転入も迫っているし…、東京にでも出るか?どかどかって金儲け出来ないかな?貧乏暮らしは飽き飽きしたよ…と愚痴る良一だったが、悦子の母親が呼びに来たので実家に戻ると、又、通信社から手紙が来ており、開けてみると中には3万の現金と、別の角度から調査を始めます。失敗した中小企業者の例として、町田氏の動静を今後は調査願いたい。つきましては、移転の費用として同封の金を使ってくれと書かれてあったので、悦子は、嫌ね…、他人の内幕に入るなんて…と言うが、良一は、しようがないじゃないか、それが仕事なんだから…と答える。

丸内堀屋の社長室に、刷り上がったばかりの小倉店のポスターを持って来た田口は、女性社員から社長は留守だと教えられると、怪訝そうにしながらも、女性社員の尻を触り嫌がられる。

その頃、福岡郵便局の私書箱に確認に来ていた内堀は、竹岡からの連絡がここ半月、ふっつり絶えたことに不安を感じていた。

竹岡は実直な男だ。町田が見つからないんだ!すると町田の狙いは…?と内堀は疑心暗鬼になる。

自宅書斎の電話が鳴り、内堀が出てみると雅恵からで、すぐ来てくれと言うことだったので、仕方なく内堀は、女中のキクを呼び、着物で出かけるから準備してくれと頼む。

すると、いつものように無表情なまま部屋に来たキクは、着物の袂にこんなものが入っていましたと紙切れを差し出して来る。

それをちらり観た内堀は慌て、キクを睨みつける。

雅恵が自宅に内堀を呼びだした用事と言うのは、結婚式に着る式服を選んでもらうと言うことだった。

呉服屋を待たせ、勇吉もやって来た内堀に、選んでくれと頼みながら、実は自分の好みを押し付けているだけの娘のわがままを、男手一つで育てたけん…などと、半ば嬉しそうに詫びる。

結婚式まで後二ヶ月に迫っていた。

竹岡、知らせてくれ!と内堀は心の中で叫んでいた。

京成千葉駅から稲毛行きのバスに乗り込んだ町田は、夏子が待っていた家に戻って来ると、2時間待ったが来ないんだと報告し、何としてでもやってみせると意欲を見せる。

そんな町田に夏子は、高崎の店は惜しかったわねとからかうと、お前が満足しなかったろうと町田は応じ、じゃあ、あんたは満足したの?と切り返されると、庭先でキスをして答える。

一方、そんな町田の足取りを追っていた良一は、町田と夏子が転々とした宿を探しまわるが、最後の家に到達した時には、近くの漁師(河原侃二)から、町田はその家にいたが、一昨日越したと教えられただけで、その後の足取りは杳として掴めないでいた。

悦子と暮らし始めた簡易旅館に戻って来た良一は、あの金持って東京に出れば良かった…と愚痴る。

トランプ占いをしていた悦子は、町田の居場所は西南よなどと教えるが、それを聞いた良一は、ここの西南は海じゃないか!と呆れる。

千葉なんか来なけりゃ良かったのよ。こんな生活に見切りをつけない?私、洋裁店は諦めたわよ…と悦子は話しかけて来るが、今頃おいそれと2万も稼げる商売などないよと言い、スイカとタバコを買いに悦子を行かせた良一は、猫後¥尖って新聞を開くと、2000円で運転手殺害と言うニュースを読み、世の中には2000円で人を殺す奴もいるんだ…と呆れる。

その後内堀は、町田は従兄弟の家に同居しており、最近焼け気味で競輪が良いなどしている。つきましては、今の簡易旅館住まいでは調査しにくいのでアパートを借りたく、権利金3万、敷金2万の合計5万お貸し願えないだろうか?今後給料から5000円ずつ差し引いて頂いて構いませんと言う良一からの手紙を受け取る。

それを読み終えた内堀は、田口を呼び、すぐに現金5万円用意してくれと頼むが、田口が、磯崎マネージャーが持って来たと新品のゴルフセットを持って来たので、まだ自分はゴルフを始めたばかりだし、いつから君は道具屋のセールスマンになったんだい?と叱りつける。

田口が社長室を出て行くと、内堀は雅恵に電話を入れてみるが、出かけたと言うことだった。

雅恵は、市内の櫛田神社に来ていた。

郵便局で竹岡宛の為替を送っていた内堀は、表でクラクションが鳴るので、不審に思って出てみると、自分の車のクラクションを雅恵が鳴らしていたのだと知る。

お花ですか?と笑顔で話しかけた内堀に、家に連れて行ってくれないか?久しぶりにキクにも会いたいわ。あの子、ちょっと変わってるけど、家に3年もいたのよと雅恵は言う。

その夜、床に入って考え事をしていた内堀は、枕元に活けてあったユリの花がぽとりと1つ落ちたのを観て怯える。

書斎に行き、金庫を開ける内堀だったが、そうした様子をキクが密かに監視していた。

金庫の中から手提げ金庫を取り出した内堀は、布団の所に持って来ると、中に入れていた良一からの手紙を読み始める。

町田は千葉で失敗した後、同行していた夏子にも逃げられ、再起を図って関西に向かった。調査を続行するかどうか指示を願いたいと言う内容だった。

それを読み終えた内堀は、奴は俺を捜すつもりだ。俺を捜してどうするつもりなんだ?と自問する。

社長室を出た内堀は、目の前に町田が立っていたので驚く。

久しぶりですね?小倉にも支店出来るんですってね?恋人が出来て、近々結婚するんだってね?あの元手で、良くここまでのし上がったものだ。俺は自分が落ちぶれるほど、君のことが懐かしくなってね…、当分、福岡でゆっくりさせてもらうよ。儲けの全部とは言わん。半分でどうだ?と言いながら、内堀に迫ると、その首を締め付けて来る。

悪夢にうなされ目を覚ました内堀は、蚊帳のすぐ外にキクが畏まっていたのでぎょっとなる。

大変うなされていたようですから…とキクはにこりともせず話しかけて来るが、向こうに行っとれ!と内堀は叱りつける。

町田を見張るんだ!どこまでも食い下がって見張るんだ!内堀は心の中でそう叫んでいた。

ある日、ゴルフ練習場で1人練習していた内堀は、突然、後ろから雅恵に声をかけられたので驚く。

彼女が来ていたことにも気づかなかったのだ。

今日のフォーム変よ。心理的原因によるものじゃない?いつものスィングとは違うわ。どうかしたの?さあ、白状しないか。これじゃあ、先が思いやられるわ…。結婚する前に旦那さんが秘密持ってるんだもの…と雅恵は冗談めかして責めて来るが、心理的な余裕がなかった内堀は、何も言い返せないまま、失礼しますと言い残し、そのまま帰ってしまう。

その後、内堀は、町田が大阪で友人をツテに誰かを探しているようだとの良一からの報告を読む。

公園で町田を監視していた良一は、町田がアイスキャンデー売りからアンパンを買って食べているのを観ていた。

その後、町田は神戸に移動、ニコヨンになっていると良一の手紙には書いてあった。

港の荷運びをやっていた町田は、体力的にきついのか、他の労働者から邪険に扱われていた。

手紙を読んだ内堀は、近づいている!奴は確かに俺を捜している…と確信する。

書斎にいた内堀は、突然かかって来た間違い電話にも苛つく状態だった。

だが、俺が福岡にいることを奴は知らないはずだ…と内堀は考える。

町田は、尾道にやって来ていた。

誰か知人を捜しているようだ。その相手は嗅ぐ関係らしい。なお、自分は移動中なので、ご送金は千葉の家内宛でお願いしますと良一からの手紙には書いてあった。

尾道の町を歩き回っていた町田は、とある店で、主人が包丁を研いでいる様子に目を留める。

そんなある日、丸堀屋の社長室にやって来た田口が、こぎゃん人が名古屋からやって来とりますと名刺を持って来て、お通ししましたと言うので、内堀は慌てるが、入って来たのは大きなトランクを下げたセールスマン風の見知らぬ男だった。

岡本玄(山茶花究)と名乗るその男は、自分が持っているこのトランクには社長のお名前が入っており、会社からもらった時、これは何か言われがあるに違いないと感じ調べた所、大成功なさっていると知り、ぜひ一度お目にかかって、ご成功の秘訣をお教えいただきたいなどと、べらべらと一方的にしゃべりだしたので、迷惑がった内堀が、そんなものはないよ。帰ってくれたまえろ断り、田口に車代を出させようとすると、自分はそんなさもしい気持ちで来たのではない。では九州一周して又うかがいますなどと図々しいことを言い、その場は帰って行く。

内堀は田口に、今後は見ず知らずの人にはあわんよ!と釘を刺す。

その後、自宅書斎の電話が鳴っても、寝床にいた内堀は無視するようになるが、何故か、女中のキクが勝手に電話を取ろうとしたので、よけいなことをするな!と怒鳴りつける。

電話の相手は雅恵だったが、その電話に出た内堀は、疲れがたまっているので、もう2、3日静養すると伝える。

その後、きくには、留守中、この部屋には入ってはいかんと言ったろう!と叱りつけ、雅恵さんから何か言われているのか?と問いつめると、お嬢様だけは幸せにしてあげて下さい…、お嬢様が可哀想…とキクは訴え、部屋を出て行く。

その間、新天町の「丸堀屋」にやって来た良一は、内堀に面会を求めるが、応対に出た田口が、ここの所社長は休んでおり、いつ出て来るか分からないと答えると、郵便局に無理にこの場所を聞いて来たのだが…と打ち明けた良一は困惑してしまう。

その後、那賀川で待っていた悦子と良一は会う。

その後、福岡郵便局にやって来た内堀は、私書箱から、良一の最新の報告を取り出す。

それによると、町田は下関にたどり着いたと言う。

しかし、町田は身体を壊しているらしく、ケーブルカーの工事に使われた現場後の小屋で寝込んでいる。以前誰かを探しているようで、千葉にいる従兄弟に手紙を出したが、内容までは分からなかったと書いてあるではないか。

それを読んだ内堀は、畜生!とうとうやってきやがった…と心の中で呟く。

そんな内堀に突然私書箱の前で声をかけて来たのは雅恵だった。

狼狽した内堀は、もう少し待って下さい!と頼むが、みんな話して下さらない?何か心配事があるんじゃない?と雅恵は詰めよって来る。

今から自宅に来てくれませんか?父は業者の寄り合いで昨日から下関に行ってますと言われると、内堀は同行するしかなかった。

私なりに、あなたが苦しんでいることを考えてみたいの。どんなに辛いことを聞いても私はびくともしないわと雅恵は訴えて来るが、内堀は、何としても言えないんだ。もう少し待ってくれ!そうすれば必ず話すから。君を失いたくないんだ!後、1週間待ってくれ!と頼むが、雅恵はそんなに待てないわ。私は彦介さんが好き!と雅恵は諦めようとしない。

僕は失いたくないんだよ!あさっての晩には必ず話す!とまで内堀は譲歩するが、どうしても雅恵には話さないとおっしゃるの?と雅恵は哀しむ。

それでも内堀は席を立つとそのまま帰ってしまう。

それを観て泣き出す雅恵。

そこに父親の勇吉が帰って来て、何かあったのか?今、そこで内堀君に声をかけたが、振り向きもせんで行ってしまったぞと聞く。

お父さん…、何を言っても怒らない?私、彦介さんと結婚しないかも知れないわ…と雅恵は言い出す。

その後、内堀は、人形町で、地元の愚連隊(杉田康)から拳銃と弾を購入して、新天町小路を歩いていたが、車に乗り込もうとした時、又田口に声をかけられ、便乗させてくれと言われたので、いかん!急いでいるんだ!と断ると、そのまま博多駅に向かう。

列車で門司に着いた内堀は、関門トンネルを通り下関駅に降り立つ。

内堀が火の山ロープウェイで山頂の火の山駅にやって来た時は、辺りは暗くなっていた。

工事現場の時に使われていた小屋を見つけた内堀は、持って来た拳銃の安全装置を外して入口に近づいて行くが、途中、山鳥が飛び立ったり、暗い足下で、うっかり空き缶を蹴ってしまったりするたびに怯える。

その小屋の入口には筵が下がっており、誰かが中から様子をうかがっていることなど内堀には気づかなかった。

内堀はその筵の隙間から中に入ると、入口の外の木の上から蛇が地面に落ちる。

暗い部屋の中には、筵の下に誰かが寝ていたので、起きろ!町田!と呼び掛け、銃口を向けた途端、跳ね起きた人物に持っていた拳銃を弾き飛ばされてしまう。

その拳銃を先に拾い上げたのは、内堀の知らない男だったので、誰だ、貴様?と聞くと、内堀さん、とうとうやってきましたねと銃を向けながら笑いかけて来た男は、竹岡ですよ、あなたに雇って頂いている…と名乗る。

その男は、毎回町田の報告を手紙で寄越していた竹岡良一だったのだ。

会社まで会いに行ったんですがお留守だったので、こちらから呼びだして、あなたが証拠を見せてもらったんですよ。

以前、山陰で人殺しをして500万を奪った強盗犯人の…と良一が言うので、貴様、何が目的なんだ?と内堀が聞くと、千葉転勤と特別手当をもらった時から、犯罪を疑いだしたんです。こちらが金を要求すると、右から左に金を送ってくれたでしょう?それで確信を得て新聞で調べたんです。お陰で裏日本一帯を旅行出来ました。

最後の手紙の消印が福岡だったのにお気づきになりませんでしたか?

本当なら下関で投函しないと行けなかったんですが、頼んだ女房がうっかり福岡で出してしまったんです。

町田は千葉で落ちぶれた後、又立ち直りました。骨の髄から悪人ですよ、あいつは…と良一は話し続ける。

妻が洋裁をやりたがっているんで、店を持たせてやりたいんですよ。あんたが6年前に奪ったのと同じだけ頂けませんか?と良一が言い出したので、骨の髄からの悪人は貴様だ!と内堀は罵倒する。

失業して3年も経つとどうもいけません…などと良一が言うので、良し、手を打とう!と内堀が答えると、それでお嬢さんと結婚出来ますねなどと良一が笑うので、貴様どこまで調べたんだ!と内堀は怒る。

しかし、銃を持った良一は主導権を握っているつもりなのか、今から行けば次のケーブルに間に合いますなどと言いながら、内堀と一緒に小屋の外に出る。

すると、そこに人が立っていたので、誰だ?と良一が銃を向けると、動かん方が良いな、2人とも…と笑いかけて来たのは町田武治だった。

町田!と2人が驚くと、町田は素早く、良一の手を捻り上げ、銃を奪い取ってしまう。

大森と言う男は口の軽い男さ。千葉に移ってから、こいつの尾行に気づいた俺はお前の腹が分かった。

おい、内堀、こいつを生かしておくと浮かばれんぞ。今度はお前の番だ!と銃を手渡す。

それに気づいた良一は、俺が悪かった、許してくれ!と命乞いを始めると、その場から逃げ出そうとするので、それを捕まえようともみ合いながら、町田は、内堀撃て!と声をかける。

しかし、内堀が撃つ気配がないので、又良一は逃げ出そうとし、町田とも見合っているうちに足を滑らせ、崖から落下してしまう。

何故、撃たなかった?内堀!何故撃たなかったんだ!貴様、俺を殺そうと思って捜していたな?…と詰めよりながら、町田はナイフを取り出す。

二人はもみ合い、物陰に隠れた途端、銃声が響き、やがて銃を持った内堀が姿を現すが、その左胸からはナイフで刺された血が溢れていた。

それを手で押さえながら、内堀はその場に倒れる。

そこへ下から刑事と警官たちが駆けつけて来る。

警察に知らせた悦子も一緒だった。

現場に到着した刑事たちは、そこで絶命している2人の死体を発見するが、良一の姿が見えないので周囲を探しまわる。

あなた〜!と叫ぶ悦子の声に応じるように、悦子〜!と言う良一の声が崖下から聞こえて来たので、刑事たちは崖下に滑り落ちていた良一を発見する。

火の山駅にやって来た良一は、簡単な応急処置の包帯をまいていた。

突いて来たマスコミ関係者が、そんな良一と悦子の様子を写真に撮る。

奥さんが警察に飛び込んで来た時には面食らいましたよ。しかし、これで、迷宮入り事件が一つ解決しました。

君は骨折り損のくたびれ儲けだったがね。これを機会に地道に生きるんだね。

それにしても君は、探偵小説も裸足の計画を立てたもんだ…と刑事(夏木章)は感心する。

その後、丸堀屋は倒産し、新天町の本社の大きな看板が取り外されているとき、九州一周して来た帰りなのか、あの岡本玄と言う口の達者なセールスマンがやって来て、そこにいた田口に事情を訪ね、驚いたように帰って行く。

博多港の前には、1人佇む女の姿があった。

エンドロール(ギターのメロディが流れる中)


 

 

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