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黒の札束

佐野洋原作の映画化で、偽札テーマの犯罪サスペンス

大映「黒シリーズ」の1本でもある。

船越英二と並んで、大映を代表する「気の弱そうな二枚目」川崎敬三が、本作では珍しく有名大学出のエリートを演じており、気が弱そうなだけではなく、かなりの頭脳派キャラとして登場しているのが珍しい。

話の展開は「犯罪は割に合わない」と言う良くあるパターンであり、途中から計画がどんどん破綻して行く様が描かれており、作品の出来としてはまずまず…と言った所ではないだろうか。

一方で、かなりご都合主義に見える部分もあり、相棒が欲しいと思っていた主人公が、あっさり同窓会で相手を見つける展開や、ラストで、英子が唐突に競輪場にやって来る件など、不自然に感じる部分がないではない。

そもそも、会社を首になりそうな状況の主人公が、近況を根掘り葉掘り聞かれる可能性がある同窓会などにのこのこと出かけるだろうか?

相棒を捜すために無理矢理出席したと考えても、早々簡単に都合が良い相手に巡り会えるとも思えないのだが…

他の映画と違い、ミステリは特に、あれこれ細かい所が気になってしまうからだろうが、高松英郎演じる石渡が、偽札のナンバーを打つための活字や木枠をどうやって手に入れたり、作ったりしたのかなど、説明不足に感じる部分もある。

逆に面白いのは、そうした計画とは一見無関係そうに見える主人公の恋人の心根が最後まで分かり難いように描かれている点だろう。

最後になって、観客は、この英子と言うキャラクターの「愛情」が本物だったと気づくのだが、途中は意図的になのか、主人公同様「疑心暗鬼」に襲われるような描き方になっている。

英子同様、主人公を事件に誘い出す澄江と言う女も正体不明で、妙に頭が良く、男を自在に動かす術を持っているように見える。

もう1人、石渡の女房も不安要素になるようなキャラクターで、欲に目がくらんだ男たちが頭をしぼった犯罪を、これら一癖も二癖もありそうな3人の女たちが壊してしまう、あるいは裏切るのではないか…と言う「男にとって、女は良く分からない…と言うイメージ」がサスペンスの一要素となっているようにも見える。

主人公の会社のライバル的存在を中条静夫が演じていたり、どこかとぼけたような登場の仕方をする巡回警官を大辻伺郎が演じているのも懐かしい。

劇中、「高嶋易断」が実名で登場しているので、当然PRと言うか、タイアップのようなものだと思うのだが、組織に対し辛辣な意見も言っているように聞こえるので、良く「高嶋易断」側が許可したな〜とちょっと驚かされる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、大映、佐野洋「重い札束」原作、高岩肇脚本、村山三男監督作品。

お札のアップをバックにタイトル

アジア化工と数社の企業が絶縁との新聞報道

新専務(花布辰男)に呼びだされた総務課の相馬課長(丸山修)は、今後徹底的な経営改善のため、部課長クラスに勇退してもらいたいと詰めよられていた。

すでに、前の社長の派閥であったS大出身者が19人も辞めさせられた。同じS大出身で、2年先輩の石田さんを追い抜いて係長になった桧山賢二(川崎敬三)も危ないんじゃないか?などと、庶務課の吉田(中条静夫)や女子社員たち(田中三津子、小山優子、永井由美)は噂し合っていた中、相馬課長が気落ちした様子で部屋に戻って来る。

夕方、自由が丘の「味の一番」と言う食堂で、恋人の柏木瑛子(三条魔子)と会った檜山の表情は暗く、食欲もないようだった。

もし俺が会社を辞めたらどうする?と突然、檜山は言い出し、私が稼ぐわと英子が答えると、髪結いの亭主はごめんだぜ…とぼやく。

一方の英子の方は食欲旺盛で、ヒレカツを注文すると、お土産用にカツサンドまで注文する。

その後、いつものように英子のアパートにやって来た檜山だったが、カツサンドを拡げられても見向きもしなかったので、英子は、どうしたの?会社で何かあったんじゃないの?と聞くが、檜山は、何もないと言ってるじゃないか!と感情的になるだけ。

お互い、隠し事はしないと言う約束は守って頂戴と英子は責める。

すると、それまでふて寝していた檜山は起き上がり、どうかしてたんだよと詫びると帰ると言いだす。

翌日の会社でも、すでに課長の4割を含む84人が整理された。うちの組合は御用組合なので、それに対しどうすることも出来ない。課長の社宅は時価の7掛けで買ってやると言われたそうだ…などと、吉田たちが噂していた。

そうした中、こういう人が訪ねて来たと「宮川新平」の名刺を持った部下が檜山の元にやって来る。

応接室で会った宮川新平(見明凡太朗)は、旧知の印刷屋だった。

宮川の顔を見て、かつて秘書課にいた樋口澄江さん、覚えてますか?と檜山が聞くと、今、店やってますよと言うので、前にあなたの所の印刷の失敗を助けてくれたのが彼女でしたからね…と檜山は説明する。

宮川は、そうでしたか…と応じると、今日うかがったのはお恥ずかしいんですが、1000円か2000円お貸し願えないでしょうか?実は場外馬券に引っかかり、帰りの電車賃もなくなったものですから…と言う。

檜山が2000円渡すと、すぐお返ししますから…、住所は今?と宮川が聞くので、その程度の金ですから、ついでの時で良いですよと、檜山は少し迷惑そうに答える。

翌朝、英子が出かけようとしていると、出社するつもりだったんだが、徹夜続きで頭痛がするんだと言いながら檜山がやって来たので、部屋の中で寝るように進めた英子はそのまま出かけて行く。

8時51分

毛布をかけて眠っていた檜山は夢を見ていた。

(夢)檜山君、ちょっと来たまえ!と呼びだされ、今度会社を辞めてくれと言い渡したのは吉田だった。

吉田は愉快そうに笑っている。

(夢から醒める)ノックの音で目覚めた檜山がドアを開けると、そこに立っていたのは近所の交番勤務の警官(大辻伺郎)で、近所の住居人カードを作っているんですが、あなたが柏木瑛子さん?と、表札の名前と檜山の顔を不思議そうに見比べるので、僕は泥棒なんかじゃないですよ!と檜山は怒りだし、警官を追い返す。

もう1度横になろうとしていた檜山だが、又ノックされたので、いら立ってドアを開けると、そこにいたのは宮川新平だった。

会社の吉田さんに聞いたら、こちらじゃないかと…と説明した宮川は、ちょっとお邪魔します。奥さんになる方の部屋だそうで…と言いながら、無遠慮に入り込んで来る。

宮川は、先日借りた2000円を折り畳んだ状態で返して来たので、檜山がそのままポケットに仕舞おうとすると、お調べにならなくて良いんですか?と宮川が言う。

どうせ2枚でしょう?と言いながら、枚数だけを檜山が確認すると、こちらが本物の1000円札ですと1枚の札の方を指摘した宮川は、どうです?何かお気づきになりませんか?と重ねて聞いて来る。

二枚の1000円札を見比べていた檜山は、No.がない!造幣局の印刷ミスか?と驚く。

今、印刷しているのは印刷局ですと訂正した宮川は、それほどのミスが出回る可能性は少ないでしょうと言うので、まさか、これあんたが刷ったのか?でも、透かしも入ってるじゃないか!と檜山は驚く。

ちょっと分からんでしょう?と得意がった宮川は、透かしなんて簡単ですよ。紙の上に天ぷらを乗せると紙が透けるでしょう?などと平然と言う。

だが、こんなもの作ったら捕まるのでは?と檜山が心配すると、使う目的で偽造すれば、無期又は3年以上の懲役です。私は作っただけですし、お見せしたのは後にも先にも檜山さんだけなどと宮川はしらっとしている。

檜山さんのご意見と言うか、お気持ちをうかがいたくて、あなたにだけお話ししているのです。ご決心がついたらお電話下さいと言い、名刺を渡して宮川は帰って行く。

その後、スマートボール屋で宮川の言葉を真剣に考えていた檜山は、帰りがけ、景品として取った煙草を持って行くのを女店員に注意されるくらいだった。

「河田順三」と書かれた名詞を、とある遊園地の観覧車の中で再度会った宮川から見せられた檜山は、その人物から14万で依頼され、1万枚1000円札を刷ったのだと聞かされる。

作るだけで良い。400万で縁切りする。使う方には一切関係なく、日本では使わず、香港で使うんだそうです。香港ではどこの国の紙幣でも両替するそうです…と、宮川は、今度はボーリング場に場所を移動して説明する。

ところが、その相手に逃げられたので困っている。印刷に70万ばかり使ったので、100万で買ってくれませんかと言う申し出であった。

100万なんて持ってないよと檜山が断ろうとすると、巧く行けば1000万ですよ、10倍になります。何せ、被害者はいないんですから…。あえて被害者を探せば、日銀の総裁か日本政府でしょう?と宮川は言う。

本当に1人で作ったんですか?と檜山が念を押すと、実は1人助手を使ったんですが、手間賃払ってはっきり手を切りましたと答えた宮川は、何か良い知恵ありませんか?と聞いて来る。

夜、英子のアパートに来ていた檜山は、個人的な被害者はいませんからね…と言っていた宮川の言葉を思い出していた。

勤続21年で定年退職しても退職金は250万、俺はせいぜい300万か…、月5万ずつ使ったとしても、1000万あれば17年も暮らせる。500万で英子の美容院を作ってやり、残りの500万を手形の融資する手もあるな…などとあれこれ頭の中で計算していた時、英子が帰宅して来る。

この前、会社を辞めたらどうするなんて聞いていたけど、会社辞めた方が良いんじゃない?お店のお客さんに聞いたんだけど、アジア化工の株、最近下がりっぱなしだそうじゃない…。でも、良い仕事の当てがなくちゃね…と英子が言うので、思わず、あるよ!と檜山は答えてしまう。

じゃあ、問題ないじゃない!と英子は喜ぶが、その事業を始めるには資本がいるんだと檜山が言うと、いくら?と聞いて来たので、100万と言うと、たった100万円?と驚いた英子は、持ってるのか?と檜山が驚くと、積立貯金は20万しか持ってないけど、事業と言うから500万くらいと思ったのと言う。

ちょっと話を持ち込まれたんだけど、100万まとまらないとどうしようもないんだ。どうせ夢物語なんだ…、良いんだよ!と檜山はふて寝する。

翌日、銀行に勤めている旧友を訪ねた檜山は、ちょっとレポートを書かなくては行けなくなって、初歩的なことを聞きたいんだが、香港で円はどのくらい信用されてる?と聞く。

香港には、マネーチェンジャーや○○バンクがいくらでもあり、円はいつでも通用すると言うので、どのくらい円は出回ってるんだい?と聞くと、1億~1億5000万くらいだと友人は言う。

その後、英子に呼びだされアパートへ行った檜山は、私のこと、本当に愛している?私から絶対逃げないわね?と念を押された後、額面100万円の小切手を手渡される。

金を出してくれたのは「ときたきみえ」となっており、英子の店のマダムで、返す期限は3ヶ月の約束なのだと言う。

無利子でかい?と驚いたように聞く檜山に、怒っちゃ嫌よ。最近のあなたを観ていると辛いのよ。女って、平凡な奥さんになるのが幸せだって思ったのと英子は言う。

僕も、君にこんな中途半端な生活させて申し訳ないと思っている…と檜山が謝ると、私が吉田に困っていた時、助けてもらったんだもの…、あなたの人生狂わせたのは私ですと英子も詫びる。

キザな言い方だけど、私はあなたに賭けたのよ。あなた、きっと勝つわよ!と英子は言う。

金が用意出来たので、檜山は、宮川から指定された樋口澄江(藤原礼子)経営のクラブにやって来る。

久々に再開した澄江と宮川を前にした檜山は、2000円借りる名目で私の所に宮川さんを来させたのは澄江さんのアイデアですね?と突っ込み、手は貸さない。取引したいと言い出す。

条件は90万で渡すこと。万一逮捕されても、絶対仲間の名前は出さないことと条件を檜山が告げると、二番目の方はもちろんですが、経費ですでに10万くらい使ってますから…と宮川が渋るので、半年後にお返しします。それなら言いでしょう?と檜山は押す。

どうせいつまでも気づかない檜山さんじゃないでしょう?と澄江が言うと、河内順三なんて人物もいないんでしょう?それを思い立ったのもあなたでしょう?と檜山は澄江に問いかける。

そこまで知られていては条件を飲むしかないでしょうね…と宮川は承知し、その場で偽札1万枚を檜山に渡す。

1日5枚使っても5年半かかる…、英子の条約は3ヶ月しかない。絶対信用できる相棒が必要だ!…、自分の下宿に戻って来た檜山はそう考えながら、大きなカバンの中の札束を詰め込んでいたが、そこに大家がお茶を持って来たので、慌ててカバンを隠す。

その後、久しぶりに大学の同窓会があり、出席した檜山は、学生時代学生運動の闘士だった石渡謙吉(高松英郎)が隣に座り、今は、高嶋易断をやっていると言う話を聞き、何事かを思いつく。

学生運動をやっていたって、社会に出れば、どこも官僚主義に支配されていることが分かったので、無性に裸の人間が欲しくなった…と言うのが易を始めた理由だったそうで、今は、大学病院で言う所の予診みたいな役割で、大先生が使う客のデータを作るくらいだと言う。

高嶋易断本部と書かれた家を後日訪れた檜山は、始めての客から初見料3000円徴収し、大先生の占いは次の火曜日に来て下さいと言って送り出した石渡と再開する。

易は一種の新興宗教のようなものだと説明した石渡は、ある事業を目論んでいるんだが…と言う檜山に、後でゆっくり聞こう。今自宅の地図を書くよと言って、メモに向かう。

行ってみると、普通のアパートの一室で、ノックしても誰も返事がないが、ドアには鍵がかかっているので檜山が戸惑っていると、すぐに、石渡の女房千鶴子(宮川和子)らしい派手な化粧の女が出て来たので、石渡君の学校の友達です。こちらで待つように言われたものですから…と説明すると、電話位すれば良いのに…とぼやきながらも、鶴子は部屋に入れてくれる。

部屋の中には男がおり、鶴子が言うにはモアレ化粧品のセールスマンと言うことだった。

そのセールスマン山口三郎(杉田康)はすぐに部屋を出て行くが、千鶴子はこっそり脱いでいたストッキングを履く。

すると、下からクラクションの音が聞こえて来て、千鶴子は、私、出かけます。タクシー代わりになるので…と檜山が聞きもしないのに、言い訳がましく言い残し、下で待っていた山口の車に乗り込む。

その後、帰って来た石渡は、檜山が見せた1000円札に、これは良く出来ている!と驚く。

1万枚あるんだと檜山は打ち明ける。

図書館に行って調べたんだが…と前置きし、どのお札の偽造が一番効率良いか檜山は、100円札から1万円札までの発見され難い成功度を数字で紙に記して行く。

結果、発光年度の振りものほど成功し易く、千円札が一番高率が良いと分かったと説明する。

その話をじっと聞いていた石渡は、戦う相手は日本銀行か…、これ以上強大な相手はない!と気に入ったようで、その場で仲間になる気持ちを示すために、檜山と角瓶のウィスキーで乾杯する。

この手の計画は秘密を知る人間は少ない方が失敗しにくい。100万はどうやって用意したんだ?と念のため聞かれた檜山は、女房になる女が勤めている店の主人だと檜山が明かすと、女が女に金を貸したのか?と石渡は疑念を持つ。

金の出所を確かめておいた方が良いのでは?と石渡は指摘する。

その後、英子を茶店に呼びだした檜山は、あの金、本当にマダムから借りたのか?と念を押すと、そうよ?と答えた英子だったが、店から先に出て行った中年男が気になるようで、今忙しいからと言うと、その男の後を追うように店を出て行く。

窓から英子の様子をうかがっていた檜山は、英子が先に店を出た商店主風の中年男に近づいたのが分かった。

石渡のアパートで、偽札に偽の番号を印字してみる実験を始めた檜山と石渡。

100枚単位ほどの札束を固定する箱形の木枠の中に紙幣を入れ、紙幣の表面の番号を打つ場所だけ穴が開いた蓋状の板を札の上に置き、活字を並べた手製のスタンプで慎重に押してみる。

すると、意外と時間がかかり、この方法で全部の札束に番号を打とうとすると、不眠不休でも5日と18時間もかかることが分かる。

しかも、万一インクが札に付着などして失敗すると使い物にならなくなる。

とは言え、偽札を世間にばらまく期間は、短期間行使が有利なことは檜山も石渡も分かっていた。

取りあえず、10~20枚程度をテスト的に使ってみて、その偽造ナンバーが何日くらいでバレるか試してみることにする。

その偽ナンバーが世間に認知された時、違うナンバーの偽札を大量にばらまけばバレ難くなり、一石二鳥と言う訳だ。

取りあえず、「CB-654321-A」と言うナンバーでテスト用の紙幣を作ってみることにする。

印字した紙幣を確認してみた檜山は「4」の数字が他の数字よりずり上がったようになっているのが目だつと気づくが、テスト用としてはかえって好都合だろうと言うことになる。

取りあえず40枚ナンバーを印字して、2人で20枚ずつ使ってみることにするが、檜山は、下宿に置いとくと危ないんだよと言い、残りの紙幣を石渡のアパートに隠すように頼む。

町に出た2人は次々と場所を移動しながら、それぞれ、タバコや薬、スーパーマーケットでの買い物、本、タクシー代、缶詰など様々な品物を購入し、偽1000円札を使って行く。

英子のアパートに来た檜山に英子は、事業の話巧く行ってるの?あなたが張り切ってくれれば嬉しいのなどと、買って来たメロンを食べながら言うが、英子への疑念が膨らんでいた檜山は、君は絶対何か隠しているよ!金を借りたのはどこの男なんだ!と責める。

そんなに気を回すなら話すけど、お金を借りたのは確かに店の先生なの。でも、3ヶ月でお金が返って来なかったら、44、5の電気器具店のご主人に払ってもらうことになっているの。お店を出してやっても良いって言ってくれてるんで…と英子は明かす。

じゃあ、もう…と肉体関係を檜山が疑うと、酷いわ!私の気持ち、全然分かってくれないのね!と泣き出す。

そんな英子を観ながら、檜山は、英子は知らないんだ…、偽札を知ったらどうなる?石渡の細君は口が軽そうだな…と心の中で自問する。

深夜1時半、石渡が寝ていたアパートで、妻の千鶴子が、明日夏服のコンクールがあるのと言いながら、小さな箱を踏み台にしてタンスの上の服の箱を降ろそうとしていたので、それに気づいた石渡は、止めろ!と止めるが、一瞬遅く、千鶴子はバランスを崩し、タンスの上の箱を全部落としてしまう。

その箱には大量の札束が隠してあったので、畳に散らばった札束を観た千鶴子は驚く。

ばかやろう!と石渡は怒鳴りつけるが、もう後の祭りだった。

その石渡の隣の部屋で起きていたのが千鶴子の愛人山口で、石渡の部屋が騒がしいと気づき、間の壁の割れ目から隣の様子を覗き込む。

翌日、千鶴子を呼びだした山口は、夕べ観たぞ!言っちゃ困るんじゃないか?と脅すと、あんた、本当に観たの?あれ、みんな偽札なのよ!あんた、本当に観たの?と千鶴子は自らしゃべってしまったので、実は、夕べ、石渡と千鶴子が抱き合っているように見えただけで、札束には気づいていなかった山口だったが、観たよ!観たとも…とごまかすことにする。

結局、檜山に石渡は、千鶴子と山口に偽札のことがバレたことを打ち明けるしかなかった。

石渡の部屋に集まった3人と檜山。

俺が悪かったんだが、君の目的は、早く金にすることじゃないのか?と石渡が言うと、困惑していた檜山だったが、これ以上、仲間を増やさないようにして欲しいんだ…と注意するだけだった。

そんな檜山に石渡は、分け前の比率は、檜山450、俺と千鶴子が350、山口は100だ!と言い渡し、不満そうな山口に檜山は、君はしゃべり過ぎる!と叱る。

それにしても、もう最初の偽札を使ってから、もう9日経つのに、偽札発見のニュースが出ないと檜山がいぶかると、警察が押さえている可能性もあると石渡が指摘する。

しかし、発見車は共犯者ではない。秘密捜査する意味がないと檜山が反論すると、山口がトランプを取り出して占いを始め、大丈夫!見つからないのは、偽札が巧く出来ているせいです!などと妙な太鼓判を押す。

ある日、外を歩いていた檜山は、かつてのアジア化工の部下に声をかけられたので、その車に便乗させてもらうことにするが、先に吉田が乗っていたことに気づく。

吉田は資材課長になり、君の後釜には渡辺君がなったと教える。

そんな吉田は、この前柏木君と千駄ヶ谷のホテルの前で会ったよ。こっちもバツが悪かったので声はかけられず、顔をそらしたがね…などと教える。

急いで、英子のアパートに行き、ノックをするが一向に返事がないので、ますますいら立つが、隣の部屋の住人らしき女が、檜山さんですね?と聞き、手紙を預かってますと言いながら手渡して来る。

それを読むと、町内の慰安旅行に誘われ、伊東へ行きます。明日帰りますと書かれてあった。

伊東の温泉旅館の大広間では、酔った英子が中年男性に部屋まで怒ってもらっていた。

一方、警察の捜査第三課では、都内数カ所で見つかった偽札の出来が良いこと、「CB4321A」と言うナンバーが共通していること、その数列の「4」の文字だけがずれ上がっている特長であることを既に把握していた。

そこに又、通称「CB券」と呼ばれるナンバー「CB-654321-A」の偽札が、中央銀行京橋支店で見つかったとの電話が入る。

偽札の発見場所は広範囲に渡っており、偽札が転々とするともう犯罪ではない。PRして民間に協力を頼むしかないと主任は言う。

翌日、朝刊に載った偽札発見の報道を檜山の下宿で読んだ英子は、偽札、本当に良くできているそうよと人ごとのように教える。

しかし、檜山の表情が暗いので、どうしたの?と英子が聞くと、昨日、吉田に会った。男とホテル行ったんだろう?と檜山が睨んで来たので、あなた、本当にそう思ってるの?吉田の方を信じるの?私を観ているのは、自分を観ていると言うことになるんじゃないの?帰るわと気分を害したように立上がる。

すると檜山は、俺はダメなんだよ。情けない男なんだよ。君が帰ったらめちゃめちゃになるんだ!期限まで後1ヶ月しかない…と弱音を吐く。

何故失敗すると思うの?私を疑る前にお仕事巧くやってよと英子が慰めると、檜山は思わず英子を抱きしめる。

やるだけやって、失敗しても良いじゃない、お金なんてどうにでもなるじゃない…と英子は慰める。

一方、「CB券」の特長「ロウを塗ったような手触り」で番号は「CB-654321-A」と言う報道を山口も、メンバー4人が集まった石渡の部屋で読んでいた。

発見されたのは金融機関ばかりだった。

やはり、お札を扱いなれている金融機関は偽札を見つけ易いことが判明したのだ。

番号が報道されたことを知ったメンバーたちは、いよいよ本格的な偽札作りに入ることにする。

新しいナンバーをどうしようか?と石渡たちが悩むと、これで行きましょう!と又山口が得意のトランプを取り出し、数字だけでなく、52枚のカードはアルファベットにも対応できると言うので、檜山はすぐに番号を決めるように指示する。

そして、決まった新しい番号を偽札に印字し始めた檜山だったが、このやり方だと80時間はかかり、慣れて3日目には完成すると予測する。

問題は、どこで使うのが一番効率的かと言うことだった。

国電はどうか?と石渡が提案する。

駅で次の駅までの切符を買って行くと言うアイデアだった。

しかし、駅から駅への移動時間などを考えると、1人1日144万円も買えれば良い方で、1000万を使い切るには7ヶ月もかかると石渡自身が気づく。

香港で鐘に帰るってのはどうでしょう?手数料1割でドルに替えるんですと山口が言い出すと、石渡は、密輸組織に関わるのは危険だと案じる。

裏に通じているボスを知っているんで探りを入れときますと言い、山口は出かけて行く。

不良印刷業者の調べを続けていた刑事(夏木章)が主任の元に来て、昨日入金した浅草の肉屋の主人が来てますが?と知らせる。

夜中、交代制で紙幣にナンバーを印字していた千鶴子が、早くも辛いと弱音を吐き始める。

1人1日250枚のノルマなのだ。

石渡と檜山が寝ている間、起きて、側でカレーを食っていた山口が、そんな千鶴子に触ろうとすると、檜山と一緒に仮眠を取っていた石渡がムクリと起きて来て、2人に当てつけるように自ら印字作業を始める。

警察に出頭した肉屋の主人は、偽札を使ったのは、120円の逢い引き肉を買った42、3才の浅黒い男だったと思う、混んでなかったら、顔をはっきり覚えているはずなんですが…と言い訳しながらも、モンタージ作りに協力する。

今のところ、「CB券」は17枚発見されており、毎朝新聞では、新たな偽札発見者には1万円提供すると宣伝し始める。

そんな中、昼夜を問わず、ナンバーを押し続けていた石渡の部屋で、檜山が必死に印字する中、石渡が、後900枚だ!と教える。

その後、千鶴子が作業を担当し、山口もその後に印字を担当する。

徹夜作業の甲斐あって、翌朝、全部ナンバーの印字を終える。

その時、外の廊下を近づいて来る足音が聞こえたので4人は緊張するが、ドアの隙間から朝刊が差し込まれるとほっとする。

その新聞を開くと、「私は犯人を見た」との見出しで、肉屋の主人の証言で作ったモンタージュ写真が掲載されていたが、似ても似つかぬ顔だったので、4人は笑い出す。

僕に会いに行くと山口が出て行こうとしたので、念のため、檜山も同行することにする。

山口の車でボスの家の前まで来ると、ちょうど警官たちが家の前に来ており、何かの容疑でボスが捕まっている所だったので、急いでバックして無関係を装う。

車を降りて側の土手に腰を降ろした檜山は山口に、君、どこまでしゃべったんだ?と聞くと、円をドルに替えてくれるかって言っただけだよと山口は答える。

不良印刷工も絞られて来ているようだし…と、焦りの色を見せ始めた檜山は、今日は土曜日だったな?と山口に確認すると、落ちていた競馬新聞を読む。

石渡の部屋に戻って来た檜山は、競輪場と言うのは数時間で膨大な人数と金が動く場所なんだと調べて来たことを話す。

1日10レースで5時間券売所が開いており、そこで50回両替したらどうか?と提案する。

1人で50回も両替やったら、相手に顔を覚えられてしまうだろうと反論が出るが、場所によっては、顔が見えず、手先しか見えない場所がある。

入場人数はざっと3万だよ、4人が分散すれば覚えられるはずがないと檜山は答える。

しかし、1000円を1万円に両替するのは少ないだろうし目だつのでは?と石渡が意義を挟むと、不自然じゃない。向うは配当金として1000円札が大量に欲しいんだよと檜山は言い、ここに退職金の20万がある。それを手本に、我々の紙幣を古く見せるんだと指示する。

しかし、銀行に渡ったら、すぐに見破られるぞと石渡が言うと、競輪は土日にやるものだ。つまりバレるのは月曜日だと檜山は言う。

今日は13日の金曜日だった。

明日、千葉と平塚で両替をし、翌日、伊東で会おう。やるやらないは、窓口の状況を観て各自で判断するんだと檜山は指示する。

その後、4人で手分けして、偽札を古く見せようと、汚しを入れたりもみくちゃにする。

翌日、平塚競輪に出向いた檜山と山口だったが、第一レースが終わるまで待つことにする。

一方、千葉競輪場では、石渡夫婦が両替を始める。

両方の競輪場で、4人が何度も両替をする。

その日、東京の「クラブひぐち」のマダムが偽札が落ちていたのを拾い交番に届けたとの報道が新聞に載る。

ナンバーには「KEN」で始まるこれまでとは違った札だと書かれていたので、それを読んだ檜山は、樋口のマダムと言うのは樋口澄江の事であり、「KEN」と言うのは、自分が良く「賢ちゃん」と呼ばれていることから、これは何かあって、俺を呼びだそうとする暗号に違いないと察する。

明日は、レース開始30分前に会おうと山口に告げ、自分は東京へと向かう。

樋口澄江に、偽札が落ちていたと言う場所の確認を行っていた刑事たちは、自分も同じ頃ここを通ったんだが気づかなかったな〜、見つけてりゃ1万円になったのに、惜しいことしたな〜などと言う野次馬の声を聞いていた。

本日休業の札がかかった「クラブひぐち」のドアが開き、檜山が店の中に入ると、一足遅かったわ…と澄江が言う。

見ると、床に見知らぬ男が倒れており、どうやら死んでいるようだった。

仕事を手伝った印刷工よ…、金をせびりに来たんで断ったら暴れたんであの人が…と、側にいた宮川新平を澄江は見る。

どうしたら良い?これがバレたらそれっきりよ…と聞かれた澄江は檜山に問いかける。

そして、呆然と立ち尽くしていた宮川に、あんた、布団を包むシートを持って来て!と命じると、沈めるのよ重しを付けて…と言う。

そして、賢ちゃん、きれいな人ですってね…と澄江は檜山に意味ありげに話しかける。

その頃捜査三課では、澄江の情夫が宮川新平と言う印刷工だとの報告がもたらされていた。

檜山は英子のアパートへ向かい、ノックをしてもなかなか返事がない。

いら立ってなおもノックすると、ようやく、どなた?と中から声が聞こえて来たので、俺だよと檜山が答えると、今頃どうしたのよ…と言いながら、英子がネグリジェ姿で出て来る。

男でもいるんじゃないかと部屋の中に飛び込んでベッドの中を覗くが、誰もいなかった。

まだ私のこと疑っているの?今日はゾクゾクしてたから寝てたのよと英子が恨みがましく言い、今日、宮川って人が100万円を返しに来たわよと言うではないか。

その頃、捜査第三課の刑事たちが「クラブひぐち」にやって来て。そこにいた澄江に、宮川は?と聞く。

その時、主任が、カウンター側の床のカーペットについているシミに気づく。

かがみ込んで指で触ってみると、血痕らしかったので、誰か怪我でもしたのかい?と澄江に聞きながら、千田君、電話!場所は月島3丁目25番地、至急鑑識を回してくれ!と部下に命じる。

その頃、近くの川のほとりでは、宮川が死体を包んだシートを川に放り込んでいた。

翌朝、目覚めた檜山は、「お金を返して来ます」と書かれた英子の置き手紙があったので、まさかと思って押し入れの中を確認すると、そこには宮川が返しに来たらしい100万円がそのまま置いてあり、自分のカバンに中を調べると持っていた100万円の偽札の束がなくなっているではないか!

英子はあれを本物だと間違って持って行ったのだ。万一銀行へでも持ち込んだらバレる!何とか食い止めなくては!と檜山は焦る。

そこにノックが聞こえたので出てみると、又以前やって来た警官で、英子さんはお留守ですか?今日は休みですか?などと聞いて来たので、これから出て行く所だ!といら立った檜山は、英子の部屋を飛び出す。

英子の美容院へ行き、マダムは?と聞くと、駅前の三五銀行ですと従業員が教えてくれたので、急いでその銀行へ向かう檜山。

銀行の中にはまだ来てないようだったので、外で待っていると、パトカーがやって来たので、建物の陰に身を隠す。

そこに、マダムの時田君江(竹里光子)がやって来たので、英子がお渡ししたお金は、うちの会社が自由が丘支店との取引のために用意した新しい札だったので取り替えて頂けますか?と言い、その場で取り替えてもらう。

一方、捕まった宮川は、尋問する刑事たちに、CB券を使ったのは私じゃない!使ったのは…と言いかけていた。

誰なんだ!と追求する主任。

英子の部屋に戻って来た檜山は、これから伊東へ行かなければいけないんだと打ち明けるが、何も知らない英子は私も連れてって!この前伊東に行ったでしょう?今度は2人で行ったら楽しいだろうなと思って…などと甘えて来たので、今日はダメなんだと断って、一旦部屋の外に出た檜山だったが、待てよ…、今日伊東で成功したら、東京からしばらく姿を消した方が良いな…、彼女を連れて旅行にでも行った方が都合が良いかも知れないと考える。

そして、ドアを開け、中にいた英子に、5時に伊東の駅前で会おうと声をかけ出かける。

駅に向かう途中、檜山はやって来た覆面パトカーに行く手を阻まれる。

降りて来た主任から、桧山賢二だな?逮捕状だ!と告げられたので、一瞬逃げようとするが、あっけなく取り押さえられてしまう。

その頃、石渡夫婦と山口は打ち合わせ通り、伊東の競輪場でなかなかやって来ない檜山を待っていた。

英子も、伊東駅前で檜山を待っていた。

時間になっても檜山がやって来ないので、石渡たちは、やむなく両替を開始する。

最終レースが始まる頃、英子もふらりと競輪場にやって来る。

最後の両替をする石渡たち。

そこにパトカーがやって来て、主任が檜山を降ろす。

檜山が両替場所の列の中で石渡を見つけ、それを知らされた刑事が石渡と千鶴子を捕まえる。

それに気づいた山口は逃げ出そうとするが、これも刑事たちが追いかけ、すぐさま捕まってしまう。

その際、山口が持っていた偽札が大量に舞い上がったので、客たちは一斉にどよめいて殺到しようとするが、偽札使いの犯人だと分かると、あちこちで噂が広がる。

パトカーに乗せられた檜山が落としたスカーフに気づいた英子は、走り出したパトカーの後部座席に乗っているのが檜山だと気づき、賢二さ〜ん!と呼びかけながら慌てて追いかける。

自分の名が呼ばれていると気づき、車の中で振り向いた檜山も、夢中で追いかけて来る英子に気づき、英子〜!と叫ぶ。

コート姿で夢中でパトカーを追っていた英子だったが、途中で転んでしまう。

何とか立上がり、又よろよろと走りだした英子はすぐ又転んでしまう。

遠ざかって行くパトカー

そして、その場で泣き崩れるのだった。

客が帰って行った競輪場には、無数の車券が舞い散っており、金網には1枚の100円札が引っかかっていた。


 

 

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