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黒い樹海

松本清張原作の映画化作品だが、社会派推理的な色合いは薄く、どちらかと言うと女性向けの通俗サスペンスのような雰囲気になっている。

モノクロ作品で、上映時間86分程度のコンパクトなミステリ作品なのだが、とにかく冒頭から凄まじい情報量がナレーションセリフの形で流れるので、最初の内は事件の概要を聞き漏らすまいと耳をすますだけで精一杯と言った印象。

清張ミステリの特長である、風変わりな名探偵ではなく、一般庶民が事件の核心に迫って行く展開になっているのだが、容疑者が最初から数人に絞られていることに加え、真相の意外性も薄く、清張作品にしては珍しく動機面が薄っぺらいこともあり、全体的に添え物映画風のかなり安手な印象を受ける。

確かに、ホームズや金田一のような現実離れした探偵が快刀乱麻に事件を解決すると言うパターンもファンタジーめいていて不自然なのだが、全く警察や探偵業関係でもない一般女性が、単独で事件を探る…、ましてや、犯人と思しき相手に単独で会って追求するなどと言うのも、自ら墓穴を掘りに行くような愚かで危険な行為と言うしかなく、よほど巧く描かないと、単にヒロインは頭が悪いと言うことを露呈しているだけの結果となる。

本作では、やはり女性編集者が1人で探偵の真似をするは調査能力と言う面からも限界があるので、週刊誌の男性編集者が協力する形になっているのだが、洋裁学校を出ているだけの妹が、縁故採用であっさり姉と同じ編集者になると言うのがまず解せない。

2〜3人でやっている家族経営のような出版社ならともかく、位置的には日比谷辺りにある大きなビルの大手出版社だ。

見習い期間を経て、正式な編集者になってからの話なので、しょっちゅう仕事をさぼって事件調査をやっていると言うのも不自然。

とは言え、この作品にも全く魅力がないではなく、一番の見所は、おねえ言葉を操っている怪し気な文化人に扮しているのが、根上淳と言う、TVの「帰って来たウルトラマン」の伊吹隊長などでも知られる、どちらかと言えば厳格そうに見えるイケメンであること。

その見た目と演技のギャップが面白いのだが、単なるゲスト的なキワものキャラではないことが分かって来ると、根上淳の強面っぽい一面が前面に押し出され、なかなか興味深い。

対する探偵側のイケメン藤巻潤は、新人時代と言うこともあり、かなり芝居は稚拙に見える。

クライマックスのビルの周囲を取り囲む出っ張り部分を逃げ回るヒロインとそれを追う犯人と言うサスペンスは、昔、TVの洋画かなにかで似たような設定を観たが、古めかしい手法ながらそれなりにハラハラさせる。

ヒロイン役の叶順子と言う女優さんは、濃い顔立ちと言うか、目鼻立ちのはっきりした女性なのだが、万人向けの美人かと言うと微妙で、かなり気が強そうな印象を受ける。

藤巻潤の方も主役と言うには微妙な感じで、2人でダブル主演と言うことだろうが、この作品だけで客が呼べるような雰囲気ではないと思う。

あくまでも、典型的な添え物映画だと思う。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、大映、松本清張原作、長谷川公之+石松愛弘脚色、原田治夫監督作品。

私たち姉妹は、このアパートの31号室に住んでいました。

姉は雑誌社に勤め、私は洋裁学校通い

3月ほど前の日曜日まで私たち姉妹は幸せに暮らしていた。

おじ様の所へ行くと言うからお土産買っといたのに…と、東北旅行へ出かける姉の信子(水木麗子)に墓場無理矢理渡した妹の笠原祥子(叶順子)は、1人旅だもの…と言う姉に、十和田湖ホテルでステキな相手と出会うかも…と冗談を言う。

そして、「週刊女性倶楽部」の社員証と、災害避けのマスコットを持たそうとするが、社員証だけ受け取り、そんなもの持たなくても大丈夫よ!とマスコットは断って出かけて行く。

アパートを出る時、管理人のおばさん()が、お出かけですか?と挨拶してすれ違う。

仙台ミソ忘れないでね!と祥子は伸子に声をかけ見送る。

あの時の姉は久々の休暇で嬉しかったはずだ。

ところが、あくる日の夜

管理人のおばさんと一緒に、祥子の部屋を訪れた警官が、本署からの連絡で、お姉さんがバス事故で亡くなったそうですと言うので、場所はどこですか?と聞くと、浜松の郊外ですと警官は言うではないか。

何故、東北へ旅行しているはずの姉が浜松で亡くなったのか…

夜汽車に乗って、姉の遺体が安置されている地元署へ向かうことになった祥子は信じられなかった。

姉は今まで、噓を言ったことがなかったからであった。

地元の死体安置所で姉の遺体と対面した祥子は、お姉さん!と遺体にすがりつき泣き崩れる。

担当者は、お姉様は夕べの19時23分頃お亡くなりになりましたと祥子に告げるが、その時、フラッシュが焚かれ、場所柄をわきまえたまえ!と係員から追い出されそうになったカメラマンと記者(藤巻潤)がいた。

週刊タイムスの者です。今回の死亡事故はバス会社に責任があるんですから、それを報道するのはジャーナリズムの使命です!と記者は叫び部屋から追い出される。

酷い雨の踏切で、臨時の貨物列車が通り過ぎたのが原因でした。

もう1秒か2秒バスが通り過ぎるのが早かったらこんなことにはならなかったのですが、列車と接触した後の席に座っていた方が犠牲に…、身元を証明するものがなかったので、失礼ながら、お姉様のスーツケースを調べさせて頂き、服に付いていた仕立て屋さんの名札で何とかお名前を確認出来た次第で…と係員が説明するので、社員証が入っていたはずですが?と祥子は聞くが、ハンドバッグはきれいなままの状態でスーツケースに入っており、前から三列目くらいの位置で発見されましたが、そのようなものはありませんでした。ある人の話によりますと、お姉様には連れがあったらしく、発車するまではお姉様も前の方に座っていらしたらしいのですが、いつの間にか後ろに移られていたそうで、連れの方は身なりの良い男性だったそうですと係員は言う。

その目撃者は斎藤常子と言い、丸藤食堂の店員だと言うことだったので、すぐさま詳しい話を聞こうと食堂へ向かった祥子だったが、常子は昨日辞めて郷里に帰ったのだと言う。

常子の郷里は山形県波高島と言う所まで聞いて祥子は東京に帰ることにする。

祥子は、雑誌社に頼み働き始める。

姉の知らなかった生活を知りたかったからかもしれない…

あの黒い…、黒い樹海の中から…

タイトル

日劇の側のビルにある「週刊女性倶楽部」編集部

編集長(星ひかる)から、笠原君!原稿取って来てくれ!妹尾郁夫の所だ!と呼ばれた祥子に、同僚の安藤(花野富夫)が、いよいよ見習い期間が終わったかとからかう。

ガウン姿で出迎えた妹尾郁夫(根上淳)は、始めて対面した祥子の名前に聞き覚えがある様子なので、笠原伸子の妹ですと自己紹介すると、やっぱりね…と顔をほころばし、原稿を良く取りに来てくれたわ…とおねえ言葉で言いながら、妙に馴れ馴れしく祥子に迫って来る。

帰社した祥子は、女性トイレの前で会った先輩記者の町田知枝(穂高のり子)から、妹尾から抱かれたでしょう?いきなり…とか、腕触られなかった?などと聞かれたので、誰でもああなんですか?と驚き、不潔です、あんな人!と不快感を示すが、伸子さんはまんざらでもなかったようよ、聞いてなかった?などと言われたので、私、何にも知りません!と答えると、いくら妹でも、あんなこと言えないわよね〜…などと、意味ありげなことを町田知枝はほのめかす。

詳しい話を聞こうとすると、知枝は、明日で良いでしょう?と言って立ち去ってしまう。

そこに通りかかった安藤がクリスマスパーティ行かないの?と声をかけるが、祥子はまっすぐアパートに帰り、知枝が言った言葉を思い出していた。

翌日、出社して来た安藤が夕べのクリスマスパーティは8時頃までで終わっちゃいましたよと編集長に報告していると、編集長に電話がかかり、町田知枝が殺されたと言う警察からの連絡が入る。

社員手帳を持っていたはずですが…と電話口で聞いた編集長は、持ってなかった?との返事に驚く。

殺されたのは夕べの12時前後で、今、銀座・渋谷方面から彼女を多摩川方面に運んだはずのタクシーを探しています…と言うラジオニュースを聞きながら、祥子はその夜、タクシーに乗って、死体発見現場の多摩川まで行ってみることにする。

人気のない河原に降りた彼女に、大丈夫ですか?と声をかけてタクシーは発進してしまう。

暗闇の中、人気のない草むらを歩き回っていた祥子は、突然前方から、懐中電灯の灯を向けられ立ちすくむ。

相手も驚いたようだったが、やあ、あなたでしたか…と話しかけて来たその相手は、浜松の病院の死体安置所に乱入した週刊トピックスの記者だった。

何で今頃?と聞かれた祥子は、現場を観てみたかったんですと答えると、そう言えば、お姉さんも女性倶楽部にお勤めでしたね?と相手も思い出したようで、自分は町田知枝の弟なんですと名乗る。

犯人は必ず現場に立ち戻ると思ったものですから…と言う祥子の言葉を聞いた町田は、私も同じことを思いましたと嬉しそうに答える。

思い過ごしかもしれませんが、姉のときも社員手帳がなくなっていたんですと祥子は打ち明ける。

その後、喫茶店で町田と向かい合った祥子は、姉は事故です。でも姉に連れがいたと言うものですから…と教えると、僕の姉の犯人も同じだと思うんですね?と頷く。

しかし、編集者が一緒に旅行する相手って誰だろう?執筆者くらいだよ…。2人が担当していた執筆者を捜すのさ!と町田が提案すると、祥子も、まあ本当だわ!と気づく。

編集部に戻った祥子は安藤から、姉がかつて担当していた執筆者について聞くと、画家の鶴巻莞造の名をあげる。

鶴巻がモデルにしていると言う服飾デザイナーの宇野より子(倉田マユミ)に電話をしてみると、鶴巻先生にはあなたの方がイブのパーティで会ったんじゃないの?あなたの姉さんにも惚れ込んでいたもの…と嫌味っぽく答える。

どうやら、クリスマスパーティに、祥子も出かけたと思い込み嫉妬しているようだった。

鶴巻先生をご紹介下さいませんか?と祥子が申し込んでも、ダメ、今夜の忘年パーティで見つけるのねと素っ気ない返事だった。

その直後、町田から電話が入り、週刊タイムス主催のジャーナリストパーティに来ますか?と連絡があったので、これ幸いと出かけてみることにする。

忘年会では、スパンコールの水着を来た半裸の女が踊っていた。

そこに、会員数先週百人を誇ると言う生け花の佐敷流家元佐敷泊雲(伊東光一)が妻富枝(村田知栄子)娘令子(花井弘子)と共にやって来る。

それを遠くから観察していた町田は、もはや新興宗教のようなものだよと祥子に教える。

妹尾が令子と踊りだす。

整形外科医の西脇満太郎(北原義郎)も来ており、佐敷夫人が病院の資本を出しているそうだよと祥子に言う。

取りあえず、町田知枝と笠原信子が共に担当していた執筆者と言えば、妹尾、西脇、鶴巻の3人だと言うことが分かったので、今夜から早速アリバイ調査を始めると町田が言うと、私もやってみますと祥子は言い出す。

鶴巻の踊りの相手をしながら、宇野先生がクリスマスパーティの後、私が一緒だったと思っていらっしゃいますと切り出すと、今夜付き合ってくれたら言うよと、鶴巻は好色そうに笑うが、そこに宇野ユリ子がやって来たので、何だ、君も来てたのか!一生に踊ろう!と慌てたように、祥子から離れユリ子に近づく。

後日、佐敷の屋敷にグラビアの取材として乗り込んだ町田は、猫もしゃくしもフランス、フランス!と言うけれど、愚の骨頂だよ!と言いながら出かけて行った佐敷の秘書関谷しず子(矢島ひろ子)に、7日には京都にいたと言う佐敷のスケジュールを聞こうとするが、グラビアだけじゃなかったんですか?と警戒されてしまう。

一方、西脇の病院の方を訪れていた祥子は、美容整形の様子を手術室のドア窓から覗いていた。

手術室から出て来た西脇は、最近のオフィスガールにも呆れるね。エリザベス・テイラーみたいな鼻にしてくれって言うんだよと祥子に教え、これから横浜のナイトクラブに一緒にどう?君の姉さんは来てくれたんだが…と言うので、西脇の車で付いて行くことにする。

姉さんは気さくな人だったからね、誘うとどんな所へも付いて来たよと運転しながら西脇が言うので、どんな所へ?と助手席の祥子が聞くと、思い過ごしは行けないね…と西脇は笑う。

「HAPPY NEW YEAR」と店内に飾り付けられたクラブで、祥子は西脇と踊る。

クリスマスパーティの晩、8時頃終わったそうですねとそれとなく探りを入れると、西脇は、自分を店の隅から睨みつけている佐敷富枝に気づき、彼女の方へと向かう。

今夜、ご都合悪かったじゃないかしら?と嫌味を西脇に投げつけた富枝は、色々噂は聞こえてますよ。私があなたの病院の大株主であることを忘れないでね!と釘を刺す。

憎い!殺してやりたい!あなたが好きになるほど…と富枝は嫉妬心を露骨にぶつけて来る。

一方、祥子に近づいて来たのは、偶然同じ店に来ていた妹尾だった。

祥子は店のホステスから、妹尾さんにはあんまり親しくしちゃダメよ。危険人物なのなどと聞かされたので、妹尾のクリスマスイブのアリバイを聞くと、明け方までこの店で酔いつぶれていたわと教えられる。

その後、妹尾の家に行った祥子は、西脇先生の女関係は乱脈を究めてるのよ。セックス医学の権威だから…、スキャンダルがバレたら終わりでしょう?などと陰口を言って来る。

新宿の「アサヒ」と言うバーで、毎晩!

佐敷夫人の方も秘書の関屋女子が監視してるから仕方ないんだろうけど…、お互い様ね。君のような人を西脇に奪われたくないのよ!急に抱きついて来たので。、何をなさるんです!と祥子が怒ると、好きなのよ!祥子さん!と言うので、私が姉に似ているかえあそう言ってるだけでしょう!と言い、祥子は逃げ帰る。

週刊タイムズの編集部に町田が戻って来ると、同僚がもう3度目だぞと言いながら、かかって来た電話を渡す。

祥子から西脇の話を聞いた町田は、夫婦でよろめきか…、佐敷夫人と西脇ね…と呆れる。

鶴巻先生の愛人宇野より子が一番怪しいわと祥子は伝える。

その後、宇野より子の店に行った祥子は、ちょっと誤解を解いておきたいんですが、イブの晩、私はまっすぐアパートに帰りましたからパーティには参加していませんと伝えると、鶴巻先生、あの人は女にだらしがないんだからと眉をひそめながら、先生はあの日、伊吹先生と岡崎女史とでご一緒だったとか…と祥子に教える。

何時頃までおられましたか?と聞くと、10字頃までだったわね…と答えたより子は、あの二人、奥日光のホテルの鍵を持ってるのよと打ち明ける。

奥日光に出向き、ホテルを調べに行った町田は、イブの夜、佐敷は秘書の関屋女史と一緒に来てるよと、雨が降る中、近くの橋の上で待っていた祥子に伝える。

後は、鶴巻莞造だけだな…と町田は言い、私、きっと調べてみせる!その人が姉と浜松にいたのなら、どうして逃げ出したのか問いただしてやりたいのよと祥子は言う。

それを聞いた町田は、良し!正月も返上で頑張ろう!と言ってくれたので、祥子は嬉しくなり、ありがとう…と礼を言う。

後日、町田が、祥子が住むアパートの31号室を訪ねて行くと、笠原さんは今朝早く、山梨県の波高島に出かけたと管理人のおばさんが教えてくれる。

波高島の実家に戻っていたバス事故の目撃者斎藤常子(山川愛子)に会い、姉は最初は、前から3番目の座席に座っていたんですね?と確認すると、男の人と一緒だったんですが、いつの間にか、女の人だけ後へ言ってましたと常子は言う。

事故の後、お連れさんではないですか?と男の人に聞いたら、違う、違うって言っていなくなってしまったと言う。

祥子は、東京から用意して来た怪しい4人の写真を見せ、その相手の男がいますか?と聞くが、常子は忘れちゃったな〜…と困った顔をする。

でも目の前で観たら分かるんじゃないかしら?一度、東京へ来て下さいと誘うと、え、東京に行けるんですか!と常子は目を輝かせる。

アパートで、ひょっとすると、今日は泊まって来るのかも…と管理人のおばさんから言われ、諦めて帰りろうかと思っていた時、運良く祥子が帰って来る。

祥子は、斎藤常子には、明後日、白馬号で来てもらうことにしたと説明しながら部屋に案内する。

その話を聞いていた管理人のおばさんは、アパートの住民用に廊下の上に貼ってあった時刻表を見上げる。

翌々日、新宿駅で常子を待ち受けた祥子だったが、構内放送で呼びだしてもらっても会うことができなかった。

祥子からそのことを電話で教えられた町田は、相手の特長を言ってくれないか?一応当たりをつけてみると答える。

その後、女性倶楽部の編集部に戻っていた祥子は、電話がかかって来たので出ると、しばらくの沈黙の後、つまらぬ詮索をしない方が良い。でないと、命がなくなるよ、良いねと男の声が聞こえ、その後男の笑い声が続いたので、怖くて受話器を落としてしまう。

その直後、近くの電話が又鳴り始めたので、祥子は怯えてそのまま放っておいたが、戻って来た編集長が、電話だぞと怒りながら受話器を取り上げ、君だよ!と渡して来る。

恐る恐る電話に出ると、それは町田からだったので一安心し、電報で実家に問い合わせたら、ちゃんと常子さんは白馬号に乗ったと言う返事が届いたと伝える。

町田は、常子の遺体が南武線の矢野口駅付近で見つかったと教え、誰かが立川駅で彼女を降ろしたんだな。君に変な電話をかけて来たことから観ても、僕たちの動きは知られている訳だな…、2〜3日様子を観た方が良いぜとその後、現場に向かうため、立川駅で合流した祥子に伝える。

祥子は、常子さんに申し訳ないと落ち込むので、君に万一のことがあったら…と町田も案ずると、私には災難避けのマスコット持ってるからと祥子は言い、あなたもどうぞともう1つのマスコットを町田に渡し、あなたも狙われているかも知れないでしょう?と言う。

2人が中央線に乗り込んで帰りかけた時、車内の座席に画家の鶴巻莞造乗っていることに気づいたので、どちらまでいらしたんですか?と祥子は声をかける。

すると、鶴巻は、ちょっと落ち着かない様子で、甲府のブドウ園にスケッチをしに…と答える。

隣が空いていたので、ここ空いてますか?と祥子が聞くと、イヤ…、誰かいたはずだが…、トイレに行ったのかな?などと言うので、遠慮して町田と共に更に後方の方へと向かうが、そこに座っていた若い女性に気づいた祥子は、そのまま町田を連れ、女性をやり過ごすとデッキに出て、扉の隙間から覗き込む。

宇野先生の所のお針子よ。鶴巻先生、知っているはずのお針子とどうして離れて座ってるのかしら?と疑問を口にすると、立川まで一緒に乗ってたけど、僕たちに気づいて後ろの席に移ったんじゃないかな?と町田が推理する。

その時、確認のため、もう1度車両を覗くと、お針子は鶴巻の隣に又戻っていた。

さっきの町田さんの推理と同じことが、お姉さんにも当てはまるんじゃないかしら?と祥子は思いつく。

バス旅行にも、2人を知っている人がいたってことだな…と町田も気づく。

あの女を使って、鶴巻のアリバイを調べてみようと町田は言い、後日、2人は喫茶店にお針子を呼びだす。

イブの晩、鶴巻と一緒だったのではないですか?10時頃何していましたか?と町田が聞くと、熱海の宿でお風呂に入っていたと言うので、噓じゃないでしょうな?と念を押すと、マダムには言わないでと頼み、お針子は帰って行く。

全部シロか…と町田は憮然となる。

怪しい4人には、町田知枝が殺された時間のアリバイが全員にあると言うことだった。

常子さんが上京して来ることを知っているのは、僕と君と…、アパートのおばさん!と町田は気づいた2人は、急いで祥子のアパートへ戻るが、人だかりがしているので何ごとかと聞くと、管理人のおばさんが車にひき逃げされたと言うではないか。

目撃者の女性が言うには、轢かれたのは5時頃で、もう薄暗くなっていたので何とかナンバーを読むだけで精一杯だったが、その後の警察の調べで、該当するナンバーの車は同じ頃全く別の場所を走っていたことが分かり、ひき逃げ車は偽ナンバーをつけていたらしかった。

車の特長は良く覚えてないが、中型車だったことは間違いないと目撃者の女性は言う。

例の4人の中で、中型車を持っている奴がいるはずだと町田が言うと、これは計画殺人よ!常子さんも殺したので、おばさんは口封じのために殺されたのよと祥子は言う。

翌日、数寄屋橋で町中で町田と待ち合わせていた祥子だったが、少し遅れて行くと、週刊女性クラブの編集長が町田と親し気に話して別れる所だった。

遅くなってごめんなさいと町田に駆け寄った祥子は、中型車を持っているのは西脇博士だけなんだよと教えられる。

だけど、昨日の病院までの往復はタクシーなんだと言うので、私、昨日の博士の行動を探ってみるわと祥子は言う。

その後、前に来た横浜のクラブで西脇と踊っていた祥子は、妹尾も来ていることに気づく。

西脇は妹尾のことを、ふん!インチキ文化人めと罵倒し、あいつには気をつけなければいけないよ、色事師なんだから…と祥子に忠告し、あいつの子供を始末に来た女もいたよ、君も良く知っている人さと言うので、まさか、うちの姉じゃ?と驚くと、町田だよと西脇は打ち明ける。

そんな祥子に妹尾が踊って下さいと声をかけて来るが、西脇が送って行くよと牽制し、西脇の中型車で送ってもらうことにする。

毎朝、この車で病院へ行くんですか?と聞くと、昨日は修理に出したんだ、かかりつけの修理屋に。半日も出しとけば、ちゃんとやってくれるんだと西脇が言うので、お近くのですか?と祥子が聞くと、何故か西脇は無言になり、人気のない坂道を上っていた時、弱ったな、故障らしい…と言うと、スパナを手に外に降りて修理を始める。

身の危険を感じた祥子が、隙を観て逃げ出そうとすると、いきなり西脇が近づいて、直った!どうもこの頃エンジンの調子が悪くて…とぼやきながら乗り込んで来る。

そして、さてと…、まだ早いから、小料理屋で飲んで行こうか?良いだろう?と言うと、急に祥子に抱きついて来る。

先生!嫌!放して、先生!と祥子が暴れると、急に笑い出した西脇は、勘違いしてもらっては困るね。悪戯が過ぎたが、わしが本気でこんなことをする男だと思うかねと言うと、その後は車を走らせ、祥子のアパート前まで送ってくれる。

部屋に入ると、すぐにノックする者がいたので、祥子は凍り付くが、どなたですか?と問いかけると、僕だよと答えたのは町だだった。

遅いな、どこ行ってたの?と聞くので、ナイトクラブよ、横浜の…と答えた祥子は、怖かったわ、西脇先生…と打ち明ける。

車のことは何か分かった?と聞くので、昨日は修理に出したらしいのと答えると、工場で調べてみるよと町田が言うので、今から?と驚くが、早い方が良いからね…と町田は張り切る。

その後、馴染みの工場とやらを見つけ出し、西脇の車の修理をしたかどうか確認しに行った町田は、そう言う事実がないことを知る。

他の工場に行ったのかも…と聞くと、西脇先生はこの工場以外には出さない人だと言うからだ。

その頃、アパートにいた祥子はドアの外を気にしながらも、君の姉さんの相手は妹尾の方だと思ったようだよ。だから、町田君は快く思わなかったようだ…と話していた西脇の言葉を思い出していた。

その時、ドアノブを外から回す気配がしたので、ますます怯えた祥子は、外の気配が消えた後、そっとドアを開き、廊下に出て周囲の様子を観てみる。

階段を降りて、下の方も確認し終えた祥子は、誰もいないと知り、一応安堵して自分の部屋に戻って来るが、ドアを開けて中に入ろうとした時、そこに見知らぬ老婆が立っているのに気づき凍り付く。

誰ですか!と聞くと、ドアが開いていたものですから…と詫びた老婆は、妹の代わりに来た管理人ですと挨拶して去る。

部屋の中に入ると、下から車が走り去る音が聞こえて来たので、窓から様子をうかがうと、走り去って行った車は西脇の中型車のようだった。

翌日、喫茶「ルノアール」で再会した町田にそのことを教え、でも西脇は、あなたの姉さんが殺されたイブの夜のアリバイあるんでしょう?と確認する。

話を聞いた町田は、共犯者がいるんじゃないかな?と呟く。妹尾は運転免許は持っているんだと言うので、でも…2人は仲が悪いのよ。それに妹尾さんもイブの夜、アリバイがあるし…と祥子は教える。

イブの夜なんか芋の子を洗うように人がいるんだから、抜け出したって分かりゃしないさと町田は言う。

編集部に戻った祥子は、亡くなった町田知枝の退職金が30万だとうらやましがっている安藤に、山梨県都留郡小谷村に住んでいる弟さんに送ってやってくれと頼んでいる編集長の言葉を聞いたので、町田さんの弟なら東京にいますよと教える。

すると、編集長は怪訝そうに、弟は東京なんかにはいないよ。まだ高校生だぜと言うではないか。

でも、この間、数寄屋橋で編集長も話してらっしゃったじゃないですかと言うと、数寄屋橋?と首を傾げた編集長は、あいつなら、吉井正己と言う僕の後輩だぜと思い出して言うので、祥子は愕然とする。

自分が町田…、否、吉井に騙されていたことに気づいたからだ。

その頃、その吉井の方は週刊タイムスの編集部で、編集長から今回の事件を記事に書けと命じられていた。

しかし、吉井がためらっている様子を観た編集長は、お前、惚れたな?一発屋らしくないぞ!書け!と叱りつける。

その後、祥子に会った吉井は、うちの写真部に頼んで作ってもらったんだと言いながら、西脇の車に似た中型車をひき逃げ現場で写した罠のための偽写真を見せる。

しかし祥子は、吉井さん!あなた卑怯だわ!私、バカだったわ!あなたみたいなペテン師に引っかかって!と睨みつける。

自分の正体がバレたと察した吉井は、うろたえながらも、僕は君が好きなんだ!と告白するが、祥子は、私1人で西脇博士に会うわ!と言うので、持って行くんだ!と吉井は偽写真を無理矢理手渡す。

病院に着いた祥子は、持って来た「週刊女性倶楽部」の社員手帳を、わざと葉巻入れの中に入れておき、西脇が来るのを待ち受けることにする。

やって来た西脇は、これから妹尾君の結婚披露宴に行くんだよと言いながら、葉巻の箱のふたを開けるが、手帳も気にしてない風に避けて葉巻を取り上げる。

お嫌いなんでしょう?妹尾さんのこと?と祥子が聞くと、これが浮き世の義理って奴でねと西脇は悠然と答える。

祥子は思い切って、吉井から持たされた写真を西脇に見せ、ひき逃げの車なんです。私のアパートのカメラ狂が偶然撮ったもんもなんですけど、私、先生のお車にとっても似ていると思ったものですから…、撮った本人は警察に届けると言ってますのよとかまをかける。

それは物好きな人もいたもんだなと言いながら、突然、祥子に襲いかかった西脇は、祥子の口を塞いで失神させた後、麻酔薬を注射し眠らせる。

一方、横浜のナイトクラブに向かった吉井は、ホステスから、妹尾のイブの日のアリバイをもう1度確認していたが、良く聞くと、10時過ぎから1時頃まで見かけなかったが、その後は、隅っこの椅子で寝ていたと言うではないか。

その日は妹尾、車を持ってなかったか?と聞くと、持ってたわよ、西脇先生の車をと言うので、間違いないね!と吉井は聞く。

その頃、妹尾と佐敷令子の結婚披露宴が始まっていた。

鶴巻莞造が乾杯の音頭を取った直後、妹尾は電話が入ったと聞き、エチケットを知らない人ですね…と令子に詫びながら席を立つ。

君に来てもらわないと困る。今、麻酔薬で眠らせているけどね!と電話で妹尾に頼んだ西脇は、あら、まだお帰りじゃなかったんですか?と言いながら看護婦が入って来て、ちょうど鳴った電話を取ったので緊張する。

隣の手術室の椅子に、眠り込んだ祥子がいたからだった。

看護婦は、笠原祥子さん?吉井さんと言う方からですけど…と西脇に伝え、いらっしゃいませんけど…と答え電話を切る。

西脇は、看護婦を追い出すように帰すと、妹尾の結婚披露宴に出かける。

妹尾と人気のない場所で会った西脇は、君の足にも火が付いてるんだぞと妹尾に迫るが、麻酔、効いてるんでしょう?パーティが終わるまで、そう…、小一時間くらい待って下さいと妹尾はのんびり答える。

そんなに待っていられるか!と西脇が焦ると、場所柄をわきまえて下さい!と叱りつけ、あんたが佐敷の娘とこうして結婚出来たのも、私が協力したからじゃないか!と迫る西脇に、僕がお返ししなかったとでも?と妹尾は嘲笑する。

浜松のバス事故のときだって、偶然僕が乗っていたから良かったんで、結局僕は3人も殺してしまった…。町田知枝は佐敷家の財産を得るために仕方なかったの…。明日はパリに飛ぶのよ。あなたには貸し借りはないはずだわ!今度くらいはお一人でやったら?と妹尾は微笑みかける。

1人でやれるなら、始めから君に頼まないよ!と西脇が癇癪を起こすと、顔をお得意の整形で変えて、海にでも放り込んだら?現代に於いて、被害者じゃなければ加害者…、犯罪なんてスポーツみたいよなどと妹尾が言うので、思わず西脇は、君はキ○ガイだ!と罵る。

その西脇の手を取った妹尾は、先生、たまにはこの白い手を汚したら?とからかうが、僕と一緒に来てくれ!と必死に頼む西脇を前に、困った方ね〜と答える。

そんな2人の様子を、気になってやって来た令子が、そっと壁の角から覗いていた。

妹尾は西脇の車で病院にやって来るが、同じ頃、祥子を案じた吉井も又、タクシーを飛ばして、西脇病院に向かっていた。

佐敷泊雲と妻の富枝は、令子に妹尾さんは?と聞くが、出かけたんじゃないかしら?と令子は無関心そうに答える。

その頃手術室のソファで眠らされていた祥子は目覚め、逃げ出そうとするが、ドアに鍵がかかっていることに気づくと、卓上の電話を取って110番に電話をする。

しかし、警視庁が出た途端、部屋に近づいて来る足音に気づき、思わず受話器を落としたまま、祥子は窓から狭いベランダ沿いに隣へと移動する。

そこに入って来た西脇は、外れた受話器から、住所と氏名を言って下さい!こちら警視庁ですと言う声が聞こえたので、祥子が逃げ出したと気づき、受話器を戻す。

ひき逃げの証拠写真として祥子が持って来た写真を見た妹尾は、こんな写真が証拠か!あんな小娘に騙されて!と西脇の頬をビンタする。

その時、窓の外から物音が聞こえたので、窓から周囲を見ると、恐る恐るベランダ沿いに逃げている祥子を発見、ここは整形医院らしく、彼女は強度の精神性ショックで死ぬんだ!あんたは向うの窓から突き落とすんだよ!と西脇に命じると、自分は祥子の後を追って、窓から狭いベランダに出る。

追手に気づいた祥子は、恐る恐る逃げようとするが、やがて、狭いベランダ部分が欠けている箇所に行き着く。

何とか足を伸ばそうとするが、届きそうもないほどの距離があり、祥子は上からぶら下がっていた綱に手を伸ばしかけるが、何とか足を引っかけた先端部が崩壊し、祥子は綱に掴まり中ぶらりんの状態になる。

もはやこれまでかと思えたが、何とか反動で先のベランダに渡り終えていた。

その頃、吉井は運転手の運転手に、急いでくれ!君!もっと出ないか!と急かしていた。

その後、妹尾も欠けた部分を何とか渡りきり、反対側の窓からは西脇が顔を出し、祥子はビルの角に追いつめられていた。

ビルに到着した吉井は、西脇がいた部屋に飛び込むと、そこで薬瓶を片手に向かって来た西脇ともみ合いながら祥子の名を呼ぶ。

それを聞いた祥子はしばしためらった後、窓辺に近づいて吉井さん!と呼びかける。

その祥子に追いつき、背後からつかみ掛かろうとした妹尾だったが、吉井と戦っていた西脇が投げたテーブルが、窓ガラスを割り外に飛び出したので、それにぶつかって落ちかける。

祥子も狭いベランダ部分に気絶していたが、額に傷を負った妹尾は、その祥子の服を掴んでかろうじて壁面にぶら下がっていた。

吉井は、ナイフを持って迫って来る西脇と戦っていたので窓に近づけない。

やがて、力尽きた妹尾は、絶叫と共に地上へ落下して行く。

西脇を殴りつけた吉井は窓際に駆けつけ、気絶していた祥子の名を呼ぶ。

そこに、パトカーのサイレンが近づいて来る。

後日、祥子は姉笠原信子の墓参りに来ており、合掌しながら、事件の解決を心の中で報告していた。

姉さんを見捨てて逃げた男を見つけたわ。西脇博士…、でももっと憎いのは妹尾です。

バス事故の時、西脇が同伴していたことを内緒にすると言う条件で、藤巻潤令子との結婚を頼んだ。

そして、その結婚の邪魔になる町田知枝さんを殺したんです。

さらに、アパートの管理人のおばさんをスパイに仕立て、用がすむと口封じで轢き殺したのも妹尾さんでした。

そんな妹尾さんは、欧州に発つ日に、お嫁さんを残して死んでしまいました…

報告を終え、帰りかけた祥子に近づいて来た吉井は、祥子さん、謝りに来たんだ。だから、今度の事件の原稿も書かなかったんだよ…、じゃあ、さよなら…と言い残し、その場を立ち去って行く。

反対方向へ帰りかけた祥子だったが、しばし立ち止まると、急に方向を変え、吉井に近寄るとそっとその手にすがりつく。

吉井は、祥子が持っていた水桶を自分が持ってやり、互いに見つめ合って微笑むのだった。


 

 

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