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二人の銀座

往年のヒット曲「二人の銀座」をベースにした歌謡映画

この作品、「ブルー・コメッツ」や初期の「ビレッジ・シンガーズ」(まだ、ボーカルの清水道夫が参加してない)などが登場しており、主役の「ヤング&フレッシュ」も一種のGS(グループサウンズ)なので「グループサウンズ映画」と言っても良さそうなのだが、それにしては話自体がやや古めかしい。

銀座を舞台にした「大人のラブロマンス」がベースにあって、それを若者たちが助ける…と言うまじめな展開になっており、印象としては、裕次郎の「銀座の恋の物語」(1962)の延長のような雰囲気で、純粋なティーンメインの映画らしくないのだ。

後のタイガース映画のようにファンタジックだったり、スパイダース映画のようにおふざけ要素が入っていると、又印象が違うのだろうが、「大人が考えた若者映画」とでも言うか、ロックやポップスのノリがまるで感じられない世界になっている。

去って行った男をひたすらじっと待ち続ける女…、その姉の幸せを願う妹…、どちらかと言うと、ベースに流れている感覚は「ポップス」ではなく「演歌の世界」に近いようにすら思える。

この後、「ザ・タイガース」や「ザ・テンプターズ」と言ったアイドルグループが登場し、ファン層も、ハイティーンからローティーン中心に移行すると、映画の内容ももっとファンタジックなアイドル映画のノリに近くなり、さすがにもう、この手の日活音楽映画は泥臭い過去のものに見えてしまうような気がする。

いわゆる「GS映画」なら、主演バンドのリードボーカルが主人公であるはずで、この作品だと山内賢がそれに当たるはずなのだが、当時の山内賢さんが、そんなに人気アイドルだったと言う認識がまずない。

同じように、ドラムの和田浩治さんの方も大人気だったと言う記憶がないし、この2人が物語を引っ張っていると言う印象も薄い。

つまり、「GS映画」としては、メインとなるバンドにもボーカルにも魅力が乏しいのだ。

どちらかと言うと、ヒロイン役の和泉雅子さんの方が目だっているのだが、では彼女が主役なのかな?と考えると、こちらもインパクトが弱く、一体誰が主役なのか良く分からない。

若者たちの群像劇と観るには他に魅力的な若者が出てないし、音楽映画にしては夢がなさ過ぎる。

いかにも低予算で作られた添え物映画風で、華やかさに欠けるのが気にならないではない。

やはり、60年代半ば以降なのに、「メインにTVでお馴染みの人」がいないことが致命的なような気がする。

「GS」はTVが生み出したアイドルのようなものだったのに、この映画に出て来る「GS」はゲスト扱いでしかなく、TVではあまり馴染みがなかった「ヤング&フレッシュ」などをメインにしているため、熱狂するものがないのだ。

ただ、こうした印象は世代的なものなので、上の世代の方にとっては、こういうタッチの方がしっくり来るのかも知れない。

映画自体がモノクロで作られていると言うこともあるかも知れないし、夜の銀座のネオン描写が多い事も、大人向けに感じる理由かも知れない。

これに次ぐ「東京ナイト」(1967)は、同じ年の公開ながらカラー作品になっており、話もコミカルなタッチになっているため、作品の印象自体も、明るくポップなものに変化している。

それでも、この映画、若い頃の尾藤イサオや「ブルー・コメッツ」を観る事が出来る音楽映画としては貴重だと思う。

登場シーンが多いので、「ブルー・コメッツ」映画と言っても良いくらい。

ボーカルの井上忠夫さんは若くてカッコ良い!

不遇の作曲家戸田周一郎を演じている新田昌玄さんも渋い!

最近観た、山本迪夫監督「雨は知っていた」でも渋い二枚目役だったけど、本当にカッコ良い役者さんだと思う。

和泉雅子さんの愛らしい美貌も最高!

劇中で披露している「踊りたいわ」の歌の拙さもご愛嬌。

節子ネタで人気があった時代の月の家円鏡(現:8代目橘家圓蔵)師匠の姿も懐かしい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、日活、雪室俊一原案、才賀明脚本、鍛冶昇監督作品。

主題歌を歌う村木健一(山内賢)らバンド「ヤング&フレッシュ」と歌う瀬川マコ(和泉雅子)のハイコントラスト映像にタイトル

鳩が飛び立つ日比谷公園の電話ボックスで姉に電話をしていた瀬川マコは、卵5つ、ひき肉200g、タマネギね?と姉の注文を確認すると、今夜のおかずオムレツね!とうしそうだったが、外に立っていた城南大学の学生村木健一が、焦れたように透明ボックスを叩くので、嫌な奴が外にいるのよろ姉に伝え、ようやく、電話を切ると外に飛び出して行く。

その時、楽譜をボックスの中に落として行った事にマコは気づかなかった。

東南大学構内の喫茶店「カレッジ」にいた倉田秀夫(和田浩治)は、ウエイトレスのサチコ(瞳美沙)から村木からの電話を受け取り、その内容に喜ぶ。

その時、無柿は、足下の落ちていた楽譜に気づき、急いで電話ボックスを出て、マコに忘れ物だよ!と呼びかけながら追いかけようとするが、一足違いで、マコはタクシーを停め、それに乗り込んで走り去ってしまう。

銀座1丁目のジャズ喫茶「ハイティーン」で歌っていたのは、歌手の尾形(尾藤イサオ)だった。

その店の支配人小泉(片山明彦)に、先輩、頼みますよ!と頭を下げていたのは、電話して連れて来た「ヤング&フレッシュ」のメンバー、倉田と杉本(杉山元)、山下(木下雅弘)、そしてリーダー村木だった。

しかし、突然の嘆願に呆れたように、小泉は、君たちはアマチュアではそこそこかも知れないけど、プロは無理だよ。新しい楽譜を観てすぐに演奏出来るかい?プロフェッショナルはそんな甘っちょろいもんじゃないんだぞ!と説教する。

どうしてもダメだと分かった倉田たちは明日から他のジャズ喫茶廻ってみるか?などとぼやきながら支配人室を出るが、観ると、ちょうどステージは幕間のようで、楽器が置きっぱなしになり、客席は退屈しているように見えた。

その時、倉田は、村木が楽譜を持っている事に気づき、持ってるじゃん!と嬉しそうに取り上げると、ヒデちゃん!と村木や他のメンバーが驚く中、いきなりその楽譜を持ってステージに上がると、今日のお客さんは運の良い人たちだ。皆さん、退屈しているようだし、幕間を利用して、僕たち東南大学の「ヤング&フレッシュ」の演奏をお聞かせしますです!などといきなり挨拶する。

仕方なくその場に置いてあった楽器を手に一緒にステージに上がった村木に、題名は?と倉田が聞くので、言いよどんでいると、題名なしですと和田は紹介し、その場で即興で楽譜の曲を勝手に演奏を始める事になる。

それに気づいた小泉は、苦々しい顔をしてステージを眺めると、演奏が終わったメンバーを呼びつけ、冗談じゃないぜ!何を考えてるんだ!と叱りつける。

でも、僕たちには新曲を弾きこなせないって言ってたじゃないですか?いま弾けたでしょう?客にも受けてましたよ!とメンバーが口々に反論すると、お前たちの演奏が受けたんじゃなく、曲が受けたんだよ!あの曲、誰が作ったんだ?と小泉が聞くので、こいつですよと倉田は、驚く村木を指差す。

小泉は、本当の事が言い出せずにおどおどする村木に、是非曲を完成させるんだ。そしたらもう1度来たまえと諭す。

「スマート」を出て、夜の銀座に出た村木は、あの曲は俺が作曲した曲じゃないんだよ!と打ち明けるが、他のメンバーたちは気にしない様子だった。

姉玲子(小林哲子)がやっている「おしゃれの店 ラムール」兼自宅に帰って来たマコに、私のスケッチブック黙って持ってたでしょう?と玲子が聞いて来たので、友子が見せてくれって言うんですものと言い訳すると、あの間に挟んでいた楽譜知らない?と言うので、そんなの入ってたかな~…とマコは首を傾げる。

翌日、大学のフランスの授業に出ていた倉田は、遅れてやって来た村木に、健ちゃん、良い話があるんだと話しかけたので、倉田君!次を読んで観なさいと、先生にから名指しされてしまう。

構内の喫茶店「カレッジ」のウエイトレスサチコに呼ばれた村木たちは、奥で待っていた「女性問題研究会」なる堅苦しい名前のサークルの女子たちを紹介される。

彼女たちが言うには、今度資金集めのダンパを開くので、村木たち「ヤング&フレッシュ」に出てもらいたいらしかった。

1人1000円、4人で4000円でどう?嫌だったら他のバンドに頼むわと言い、さらに、あの時の曲をレパートリーに入れる事を条件にして来るが、倉田はあっさり承知する。

校庭に出たメンバーたちは、良いのか?パー券まで引き受けさせられて…と、倉田の安請け合いを不安がるが、考えがあった倉田は、小泉さんをパーティに呼ぼうと言い出し、あの曲もどうせ落とし物だろ?といまだに他人の楽譜を使っている事にビビっている村木を説得する。

その頃、マコは、友達の友子(伊藤るり子)が働いている店に行き、スタイルブックの楽譜の事を聞くと、あなたに返すときまで確かに挟んであった。あの後どこに寄ったの?と言われたので、プレイガイドに寄って、日比谷公園でお姉さんに電話を…と考えていたマコは、あっ!と気がつく。

友子と二人で日比谷公園の公衆電話に行ってみるが、もう楽譜はなかった。

がっかりして噴水の所へやって来たマコは、お姉さんにとっては思い出の曲で、前、ピアノを弾きながら、お姉さんが歌ってたわと言うので、友子が、どんな唄なの?と聞く。

すると、マコは、その場で「待ち合わせて~♪」とアカペラで歌い始める。

一方、村木たちは、倉田の自宅ガレージで、同じ曲を演奏し、村木が歌を歌っていた。

それぞれの場所で歌っていた村木とマコの唄が、2分割画面でデュエットのように重なる。

しかし、うるせえ!とガレージに怒鳴り込んで来たのは、倉田の父床造(金原亭馬の助)だった。

お前のような奴をどら息子と言うんだ!と叱られた倉田とメンバーたちは、楽器を持って港に来る。

練習場がない村木は、オーケストラをバックに演奏出来たらスゲエだろうな!と夢を語るしかなかった。

やがて、「東南大学ダンスパーティ」が行われ、ステージで「ヤング&フレッシュ」が、約束通り、村木のボーカルを加えた「二人の銀座」を演奏していた。

会場の隅には、呼ばれた小泉が満足そうに曲を聴いていた。

いつの間にか、来ていた女性たちも、馴染み易い「二人の銀座」の曲を歌いだしていた。

翌日、西5番街を歩いていた友子は「アムール」に入ると、玲子に、マコは?と聞く。

二階よと教えられると、マコの部屋に向い、マコ、ニュースよ!大ニュース!と呼びかける。

この間、あなたが歌っていた歌をお客さんが歌っていたので、どこで聞いたのか聞いたら、1丁目の「ハイティーン」って店でやってる学生バンドが毎日やってるんですって!と友子は教える。

早速2人で「ハイティーン」に行くと、ステージでは、「ジャッキー吉川とブルー・コメッツ」が「ブルー・シャトー」を歌っていた。

フルートを持ち歌い終わったボーカルの井上忠夫(井上大輔)は、今日はアマチュアバンドを紹介します。一週間前からやってくれてる東南大学の「ヤング&フレッシュ」です!と紹介する。

それを聞いた友子は、あの連中よ!とマコに教える。

ステージ上で「二人の銀座」を歌い始めた村木の顔を見たマコは、本当にあいつだわ!あんた、先に帰っても良いわ!と友子に言う。

曲の浸透度は凄まじく、客席に来ていた女性客たちは一緒に「二人の銀座」を歌っていた。

楽屋に戻って来た倉田たちは、受けてた、受けてた!客の半数以上が俺たちを観に来てたな!などとはしゃぎ回っていた。

その間、ステージ上では、「ビレッジ・シンガーズ」が「君をもとめて」を歌い始める。

そんな中、ボーイが、村木さんに女性の面会人ですと伝えに来たので、良いな、ボーカルって!と倉田たちはファンの子が相手だと思い込み、部屋を出て行く村木をうらやましがる。

村木も、サインをねだられるのかと、にやけながら面会人と言う女性に会いに行くが、そこで待っていたのが、あの日比谷の電話ボックスで楽譜を落として行ったマコだと気づくと、君は!と慌てる。

返して!私の楽譜!恥知らずね!勝手に人の曲を演奏して!とマコが迫ると、ここじゃ話が出来ないから…と、村木は店の外の喫茶店にマコを誘うことにする。

ビルの上の喫茶店で向かい合ったマコは、あの曲を作ったのは戸田周一郎と言う人で新進気鋭の作曲家だったの、2年ほど前、姉を残して行方不明になったの。その人、昔から、放浪癖があったのよ。お姉さん、その人の事を今でも待っているのと教え、楽譜、返してよ!と迫る。

もう、楽譜がなくても演奏出来るから良いよ。あの曲はもう誰のものでもなく、大衆の要請なんだなどと村木が答えると、卑怯ね!そんなに世の中に出たいの?とマコは軽蔑したように言う。

出たいよと村木が言うと、手段を選ばずにって訳ね。この事を世間が知ったらもう歌えなくなるわ!とマコは責めるが、そうなったら、傷つくのは君の姉さんじゃないのかい?君だって、そんな大切な楽譜を電話ボックスに落としたじゃないかと村木も負けていなかった。

悪党ね!と怒ったマコは店を出て行ったので、マコちゃん!と慌てて後を追いかけて来た村木は、僕らは演奏したいんだ!作曲者が戻って来たらいくらでも詫びるから、それまで、あの曲を貸していてくれないか?と頼む。

マコは、こうなったら、意地でも戸田さんを捜してみせるから!と決意する。

「ハイティーン」では、又、尾形が歌っていた。

楽屋で、女子学生から写させてもらった授業のノートを見せ合っていた倉田たちの元へ村木は戻って来る。

村木は、どうだった?とファンの事を聞きたがるが、電話ボックスに楽譜を落とした子が譜面を返せと言いに来たんだよと村木は言い、あれこれ勝手に書き込んで汚していた楽譜を、慌てて消しゴムで消してきれいにする。

村木から取り戻した楽譜を後ろ手に隠し、「アムール」に戻って来たマコだったが、目ざとく、姉の玲子に見つかってしまい、どうしたの?この楽譜と聞いて来る。

この前、友子と交番に届けておいたのが見つかったのよとマコは弁解するが、もうダメよ、無断で姉さんのものを持ってっちゃ!と言いながら、玲子はその楽譜を机の引き出しの奥にしまい込む。

そんな玲子に、お姉さん、今でも平田さんの事を愛してる?とマコが聞くと、何であなたが戸田さんの事を知ってるの?と玲子は驚いたので、決まってるわね、姉さんほどのきれいな人がいまだに男の人を寄せ付けないんですもの…とマコがからかう。

しかし玲子は哀し気な目で、マコ、余計な詮索しないでねと言い聞かせ、部屋を出て行く。

戸田の出身校である城北音楽大学に翌日やって来たマコは、戸田の本籍地や現住所、当時の友人など、分かる情報が何かないかと聞く。

「佐賀音楽教室」

ピアノを前に、演歌歌手の卵(桂京子)が「お待たせしました」と言う曲を歌って練習していた。

新しい生徒かと思ったらしい佐賀(天坊準)が、部屋に通されて待っていたマコに話しかけて来たので、私、歌を習いに来たんじゃありません。先生と同級生だった戸田周一郎さんの事をおうかがいしたくて…と用件を言うと、戸田周一郎か…、人付き合いが悪くてね~、同窓会にも顔を出した事がなかった…と言うので、親友はいらっしゃらなかったんでしょうか?と聞くと、そんな奴、いたかな~…?と首を傾げる。

続いて、キャバレーで、バニーガール姿の3人娘が歌って踊る練習を指導していた白鳥(藤田幹?)に会いに行ったマコは、自分の名前を名乗り、やはり同じように、戸田周一郎の事について聞いてみると、君は瀬川玲子さんの妹さん?と気づく。

あの二人は本当に愛し合っていた…。でも彼女は可哀想に、戸田があんなことになって…、何か、仕事の事でまずいことがあったと聞いている…と白鳥が言うので、私、姉のために戸田さんを捜しているんですとマコは打ち明けるが、探し出して、戸田が喜ぶかな?戸田はそんな男だ…と白鳥は呟く。

地下道を歩いて帰っていたマコに、どこに行って来たの?と声をかけて来たのは友子だった。

歌謡曲教室、キャバレー、ナイトクラブ…とマコは、戸田を探し歩いた場所をあげて行く。

戸田さんの前で、あいつの頭、床にすりつけさせてやる!とマコは村木の事を思い出し息巻く。

その頃、その村木は倉田から、芸能プロダクションの森山プロから電話があり、話があるので、店に行く前に事務所に寄ってくれと言われたと聞き、いよいよ俺たちプロになれるのかな?と興奮していた。

森山プロに行くと、今度、うちが主催でフェスティバルを開くのだが、そこで、プロとアマチュアの共演を企画しているんだ。君たちの事は、2、3日前に小泉君から連絡があってねと、社員の塚口(野村隆)と金子(相原巨典)が言う。

そして、村木を観て、君が作曲やったって?夕べ聞かせてもらったけど素晴らしいよ!巧くいったら、レコード会社に推薦しても良いと思ってねなどと褒めて来る。

事務所を出たメンバーたちは、ジャズフェスティバルか!と喜ぶが、1人、村木だけは、まずいな、そんなのに出たら、マスコミにもじゃんじゃん出てしまうよとビビる。

しかし倉田たちはそんな弱気な村木を大丈夫だよ!と励まし、その内この銀座を征服するんだ!例え本物が出て来たって、売り出したのは俺たちなんだからな!と張り切る。

一方、自宅の部屋で、お客が注文したドレスを勝手に自分の身体に当ててうっとりしていたマコは、いつしか自分がそのドレスを着て、キャバレーで踊っていた3人のバニーガールと共に「踊りたいの」と歌って踊っている夢を観ていた。

そこへ、姉の玲子が覗きに来て、ダメよ、又お客様のものを!と叱りつけ、話があるのと部屋の外に呼びだす。

近頃、しょっちゅう出かけているようね?一体どこに行ってるの?姉さん、ちゃんと知ってるのよ、どうして戸田さんの友達に会いに行ってるの?と問いつめて来たので、姉さん、今、誰と会って来たの?白鳥さんでしょう!いつ帰って来るかも分からない彼氏をずっと待っているお姉さんが可哀想なのよ。お姉さんがいつまでもオールドミスだったら、私はどうなるの?とマコは切り返す。

姉さんだって良い人がいたら結婚するわと玲子が言うので、そんな人永遠に出て来ないわよ。私だったら相手をキ○ガイみたいに探すな~とマコは言う。

そんなマコにじっくり言い聞かすように、姉さんはこの店を始めるために高校だって行かれなかったのよ。あなたはこの店を継げるように立派なデザイナーになって頂戴。何よ、1人前じゃないくせに!と玲子は諭す。

マコを解放し、下に降りて来た玲子は、従業員の和子()が、拭き掃除をしながら「二人の銀座」を歌っているので、あなた、その歌どこで聞いたの?と聞く。

すると和子は、マコちゃんも歌っていたし、生地屋の桜井さんも歌っていましたと言うので、これから店の中で歌わないで頂戴と注意する。

「ハイティーン」のステージで「ブルー・コメッツ」が歌っている中、小泉が「ヤング&フレッシュ」の宣伝と、今後、マネージメントを担当する告知のために呼び寄せた「週刊日報」の記者が来ていたが、妙な噂を聞いたんですが、あの曲は素人が作ったんじゃないんじゃないかってねと記者が言い出したので、小泉は、村木が盗作したとでも言うのかね!と気色ばむ。

その時、ステージに「ヤング&フレッシュ」が登場したので、記者とカメラマンは客席に向い、歌い始めた村木の写真を映し出す。

村木はフラッシュが焚かれるたびに、まぶしさとは違う後ろめたさで顔をしかめる。

演奏後、メンバーを支配人室に呼び寄せた小泉は、今、「週刊日報」を呼んだんだが…と言い、やっかみ半分で妙なことを言っており、あの曲が学生らしくないってな…と伝えると、この世界じゃしょっちゅうある事だ気にするなと慰める。

それを聞いた村木は、先輩!と何か言いだそうとしたので、倉田たちが慌てて止め、部屋の外に連れ出す。

しかし、村木はどうしても我慢できなかったようで、小泉さんだけには本当の事を話そうと思うんだと言うと、他のメンバーも、小泉さんだけは味方にしておいた方が良いと賛成し、すぐに支配人室に戻ると、さっきの噂、本当なんです。あの曲は僕の曲じゃないんですと村木が打ち明ける。

倉木たちメンバーも、自分たちが悪いんですと村木をかばおうとするが、それを聞いた小泉は、バカもん!今更かばい合って何になるんだ!と叱りつける。

しかし、誰の曲なんだ?と聞かれた村木が戸田周一郎の名を出すと小泉の表情が変わる。

知ってるんですか?と村木が聞くと、2年ほど前、とある先生の曲を自分が作ったと言っていた男だ。相手が戸田周一郎なら話は別だ。誰も奴の言う事など信じやしない!…と小泉は言い切る。

その後、「ラムール」にやって来た村木は、マコを呼びだすと、今、ステージの途中なんだ。向いのお汁粉屋まで来てくれと頼む。

お汁粉屋で村木は、マコが戸田周一郎を探すのを止めたと聞き、驚く。

探してみせるって言ってたじゃないか!止めないで欲しい!謝りたいんだ。今度、ジャズフェスティバルに出ることになったんだけど、これ以上、黙っているのが嫌になったんだ。手掛かりくらい掴んでいるんじゃないのかい?と村木は聞くが、マコは、全然!と答えるだけ。

困惑した村木は、僕と一緒に探して欲しいんだ!分かっている事を教えてくれないか!素晴らしい曲を作った人に会いたいんだ!と頼み込む。

一方、「ハイティーン」の楽屋では、村木はどうした?と聞いて来た小泉に、倉田が、戸田を探しに行くと出て行ったが、次の出番までには戻って来るはずですと説明する。

それを聞いた小泉は、彼の事は何とかするから、フェスティバル前に余計なことをするなと村木に止めさせろ。勝手な行動をするな!練習するんだ!と命じる。

「ヤング&フレッシュ」の面々は、言われる通り、練習を始める。

それを傍らで聞いていた小泉は、一緒に聞いていた森山プロの塚口に、どうですか?と話しかけ、塚口さんだけにお話ししますが…と言い、戸田周一郎の事を打ち明ける。

それを聞いた塚口は驚き、冗談じゃない!もうポスターだって刷ってるんだ!前売も始まっているんだ!当日までに作曲者が現れたら、主催者としては困るよ!君も作曲本を出すんだったね?と小泉も抱き込もうとする。

その頃、マコは友子から、又、ニュース!大ニュース!戸田さんを見かけたって言うお客さんがいたのよ!と電話を受けていた。

すぐさま出かけようとしていたマコだったが、姉の玲子から、こっちも大切なお話なの!これはどう言う事なの?と週刊誌を見せられる。

そこには「ヤング&フレッシュ」の演奏写真が載っており、この真ん中の人、この間訪ねて来た人ね?と問いつめて来たので、私が落とした楽譜を拾ってくれた人たちなのとマコが答えると、学生のくせに悪い人ね!と玲子は断ずる。

この人悪い人じゃないわ!と弁護したマコは、姉さん、もう少しで何もかも分かるのよ!と言って店を飛び出すと、村木に会いに行き、戸田さんが見つかったのよ!と知らせる。

支配人室では、小泉が森山プロに電話をかけ、手を打っときましたと知らせていた。

その直後、倉田がやって来て、村木が戸田が見つかったので探しに行ったと知らせる。

川崎の屋台のうどん屋の主人(月の家円鏡)に話を聞きに行ったマコと村木は、節子と一緒に観たんだ。黒いメガネしていてね。あの頃、毎日来てくれていたからねと親爺は戸田の事を懐かしがる。

そこのサンドイッチマンに声をかけて出て行っちゃったよと言うので、どのサンドイッチマンですか?と聞くと、私は頭は弱くて、胃も弱いのは節子も公認でね…などと言って考え込む主人。

その屋台に倉田もやって来て、小泉さんから止めて来いと言われたんだと村木に説明する。

その時、主人が、そうそう、「パチンコの大穴(ダイアナ)」と書いてあったよと思い出したので、そのプラカードを持ったサンドイッチマンを見つけ、戸田周一郎さん知ってるでしょう?と村木とマコは聞く。

戸田周一郎?とサンドイッチマンは戸惑ったようだが、黒いメガネをかけピアノを弾く人…と教えると、ああ、その人なら「風車」って店に行ってみなと教えてくれる。

「風車」と言う店にやって来た村木とマコと倉木は、ピアノを弾いていた黒めがねの男に、戸田さんですね?東京からあなたを捜しに来たんですと打ち明ける。

昔、「二人の銀座」をお作りになりましたね?と倉木が聞くと、黒めがねの戸田周一郎(新田昌玄)は、その場で、そのメロディーをピアノで引き出す。

僕たち、その曲を無断で使ってしまったんですと村木が詫びると、あの曲はもう僕の曲ではありません。音楽なんて最初に誰が作ったかなんて関係ないんです。音楽はみんなのものですと静かに戸田は答える。これは誰かに言われたから言うんじゃないなどと念を押すので、小泉さんに何を言われたんです!と村木は問いつめる。

誰も来やしません。僕は昔、君たちのように世に出たかった。しかし、僕が作曲した曲を名のある作曲家に発表されてしまった。それ以来、あの世界が嫌になってしまった。僕はこうやってピアノが弾ければ良いんです…と、戸田は諦観したように言うので、私の姉さんはどうするんです?とマコが口を挟む。

姉は、あなたが帰ってくるのを1人で待っているんです!と訴えると、帰ったらお姉さんに言って下さい。僕の事は忘れて、新しく生きて下さい。僕は銀座と言う街を忘れたんです…と戸田は言う。

店を後にした村木たちは、プロの世界が、あの人の言う通りだとすると嫌になったな…、小泉さんが何かしたのね…と話し合う。

その頃、小泉は塚口に、30万!誰だって金には弱いですよと話していた。

楽屋に戻って来た村木は、クロキやメンバーたちに、みんな、プロになるのを諦めてくれないか!ここまで来て始めて気づいたんだ…と言い出す。

このままじっと観ているわけにはいかないじゃないかって!戸田さんのために何かやらないと…、俺たちじゃなければ出来ない何かがあるような…、俺たち、世の中にあの曲を送り出す役目があるんだ!と賢明に説得する村木の言葉を聞いていたメンバーたちは、君がリーダーなんだから付いて行くよと言ってくれる。

一方、夜の銀座を歩き「ラムール」に帰って来たマコに、玲子は、遅かったわね?どうしたの?何かあったの?と話しかけて来る。

お姉さん、私、さっき、もう少しで何もかも分かるって言ってたでしょう?私、川崎の「風車」って店で、戸田さんに会って来たわ。いくら待っても、戸田さんはここには戻って来ないわ。僕の事、忘れて、新しく生きて下さい。僕はこの街には帰りませんって言ってくれって言われたわ。どうする?姉さん!諦める?迎えに行く?よけいなことは言いません。後は、姉さんの自由意志よとマコは問いかける。

川崎の「風車」…と玲子は呟く。

翌日、玲子は川崎の「風車」に出向くが、出て来たホステスに戸田の事を聞くと、あの先生は夕べ辞めたわ。荷物をまとめて出て行ったから、もう戻って来ないと思うと言われる。

その頃、当の戸田の方は、「ハイティーン」の支配人室の小泉を訪ね、昨日、小泉が置いて行った30万が入った封筒を返していた。

あの曲は僕が買ったんだよ!と小泉が興奮すると、戸田は、曲を取り戻しに来たんじゃありません。あの曲に30万は高過ぎると思うんです。御心配なく、あなた方の仕事の邪魔は決してしませんから…と言い残し部屋を出て行く。

倉田の家のガレージでは、マコもボーカルに加わり、「二人の銀座」の練習を続けていた。

倉田は、マコの事を、良いね!マコちゃん!と大いに気に入った様子。

俺たち決めたんだ、プロなんてならないと。こうして俺たち、エレキやってるだけで最高なんだから!とメンバーたちは笑う。

いよいよ「ジャズフェスティバル」が始まり、ステージでは「ブルー・コメッツ」が演奏していた。

楽屋に花束を持ってやって来たマコと友子は、村木たちにどうコンディションは?と聞く。

小泉も、心の準備はできているか?とメンバーたちに喝を入れに来る。

「ブルー・コメッツ」が歌い終わると、司会者(ミッキー安川)が登場し、アマチュアバンドとして「ヤング&フレッシュ」を紹介する。

メンバーたちが登場すると、客席で観ていたマコは、しっかり~!と応援する。

客席には、玲子と、後の方には戸川もこっそりに観に来ていた。

演奏が始まる前、倉木が、僕たちをこのステージに立たせてくれたこの曲の作詞、作曲者は村木健一と言うことになっていますが、違います。今から2年前、音楽界は1人の才能を、当柵の罪で追放しました。

その人こそ、この曲の作曲者で、戸田周一郎さんと言う人です!と観客の前で発表したので、袖で見守っていた塚口は慌て、幕を降ろしたまえ!と命じる。

しかし、その背後に姿を現した森山社長(神山勝)は、若者らしい素晴らしい演出だよと褒める。

戸田さん!もしこの拍手が聞こえたら、僕たちの所へ戻って来て下さい!と倉木は呼びかけ、今日はもう1人、アマチュアの歌手をご紹介しますと言い出す。

瀬川マコさんです!と呼びかけられたマコは驚くが、隣の席の友子から、頑張ってよ!と声をかけられると、そのままステージに登ったので、観ていた玲子は驚く。

それではお送りします、「二人の銀座」!と倉木が曲を紹介し、演奏を始める。

1番を歌い終わり、倉木のドラムソロが始まると、他の4人は台の上を飛び降りて踊りだす。

杉本と山下が、又台の上に戻り、下のステージに残った村木とマコが2番を歌い始める。

玲子は少し周囲を見渡し、戸田の姿を探していたが、諦めたように席を立ち帰って行く。

脇で演奏を見守っていた小泉と森山社長は満足そうに頷き合う。

やがて、戸田も席を立ち、ロビーでサングラスを外して外に出るが、夜の帳が降りた会場前で、玲子が立っているのに気づく。

戸田は煙草をくわえ、黙ってその横を通りすぎようとするが、戸田さん!と呼びかけた玲子は、どうか行かないで下さい!あの子たちの好意を無にしないで下さい。そして、私のためにも…と声をかける。

それでも、戸田は何も語らず立ち去ろうとするが、その歩みが緩やかだったので、玲子はその後を付いて行く。

6時10分前の銀座はネオンで溢れていた。

マコと村木も、そんな夜の銀座の街を楽し気に歩くのだった。


 

 

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