エノケン映画だが、同時に巨人軍宣伝映画のようでもあり、お涙人情話風にまとめてあるので、コメディを期待していると笑える所は少ない。 その分、往年の野球ファン、ジャイアンツファンには最高の資料的映像ではないだろうか。 スポーツ全般に無知な自分には良く分からないが、さすがに、川上、青田、千葉、三原辺りの名前は知っており、その現役時代の姿が観られるのは驚きである。 特に、川上哲治は若い! 選手時代の川上は、鈴木英夫監督「不滅の熱球」(1955)や、滝沢英輔監督「川上哲治物語 背番号16」(1957)などにも本人が登場するが、この作品での川上が一番若く、痩せていて、正に現役バリバリと言った風貌をしている。 長いセリフのシーンは、背中からの描写だったり、カンペを読んでいるようにも見える。 母親役は、もちろん役者が演じている別人だが、息子の名前を「てつじ」と呼んでいる。 どうやら、当時はそう呼んでいたと言うことなのだろう。 エキストラではなく、本当の観客で埋め尽くされた後楽園の様子も凄まじく、当時の野球人気を知ることができる。 さすがにエノケンも、本物の野球選手相手ではおふざけ演技は限界があり、セリフのやり取りがあるシーンは役者に野球選手を演じさせているし、お笑い部分は主に、達者な清川虹子と田中春男の夫婦が引き受けている感じ。 むしろエノケンの方は、後半のシリアス演技が見物だろう。 それでもまだこの当時は身体が動いていたので、走るエノケンの姿なども観ることができる。 それにしても、この映画、タイトルから連想するような「エノケンが野球選手になってホームラン王になる」スポーツファンタジーのような内容ではない。 小柄なエノケンが、体格に似合わぬものすごい強打者で…とか、ギャップを利用したナンセンスならもっと面白かったのだろうが、架空の球団ならともかく、さすがに人気プロ野球球団が共演なので、そこまでの大掛かりな展開は無理だったのだろう。 結果、エノケンは、あくまでもジャイアンツファンでしかない素人設定での狂言回しみたいな立ち位置になっており、エノケンがホームランを打つような展開にはなりようがない。 さらに、主人公は無類の野球好きで、野球に詳しいはずなのに、素人がいきなり試合に出られると思い込んでいる世間知らずの変人みたいなキャラクターになっている。 そう言ういかにも非常識な主人公に観客が感情移入出来るように、とにかく、球団に入ってからは、人一倍熱心でまじめな男と言う性格を与えているが、どう考えても、その性格だけでプロ野球の試合に出られるはずもなく、川上らが、マスコットとして雇った主人公を試合に出してやってくれと監督に直訴するばかりか、三原監督が本音を打ち明け現実を突きつけると言うかなり不自然なシーンが描かれている。 そんな事は、リアルに考えれば、スポーツに疎い人間にでも最初から分かっている事なのだ。 そこから後半の、夢破れた主人公が落胆の日々を送る…と言う暗いお涙展開になって行くのだが、誰もエノケン映画にそんなものは求めてないような気がする。 否、エノケンがお涙人情劇を演じても別に良いのだが、タイトルとのギャップが酷いのではないかと言うこと。 結局、どこが「ホームラン王」やねん!と言う突っ込みをごまかすため、かなり強引なラストに持ち込んでいるように見える。 それでも、TVなどがまだなかった時代の映画であり、現役の人気野球選手がスクリーンで観られるだけでも十分興行価値はあったと思うし、スローモーションで野球選手の動きを丁寧に見せたりと、スポーツ資料映像としての価値は多少あるような気がする。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1948年、新東宝、サトウハチロー原作、岸松雄脚色、渡辺邦男脚色+監督作品。 自転車を夢中になって漕ぐ肉屋の主人健吉(榎本健一)がやって来たのは野球場だった。 その日の試合は、巨人、阪神戦。 観客席最前列の金網にへばりつくように移動しながら観ていた健吉は、同じ巨人ファンのジャイ床(如月寛多)と合流する。 青田がホームランを打ち、4対3で巨人が勝ったので、健吉とジャイ床は大喜びするが、同じ試合を観に来ていた健吉の向いの魚虎は、大好きな阪神が負けたのでがっかりする。 益本牛肉店では、なかなか戻って来ない健吉を、叔父の益本幸兵衛(田島辰夫)とその女房の女将(柳文代)が呆れていた。 その従業員が浪花節を歌いながら仕事をしていると、娘の和子(島和子)を連れて向いの魚虎に帰って来た女房のお時(清川虹子)が、浪花節なんか止めてよ!私は魚屋のお時なんだから!と文句を言う。 魚虎に帰って来たお時は、妹のお千代(春山美禰子)が刺身を作っているので、どこのだい?と聞くと、お向かいよと言うので、憎々し気に、あんな所断れば良いのに!などと嫌味を言う。 そこにやって来た見知らぬ男が、お時に名刺を渡しながら、自分は結婚興信所のもの(北村武史)だと自己紹介したので、お千代の事だと勘違いしたお時は、千代子の義理の姉ですと嬉しそうに挨拶する。 しかし、結婚興信所の男が、お聞きしたいのは、お向かいの健吉さんの事ですと言うので、がっかりしたお時は、あんな野球キ○ガイ!と悪口を並べ始める。 益本牛肉店に注文の刺身を持って行ったお千代は、お客さん?と女将に聞かれたので、いいえ…と答え、健吉さんは?と聞くが、まだなのよ。お宅の兄さんも野球好きね~と女将から言われる。 今も、健吉さんの事で結婚興信所の人が来てますのよと教え、急にまずいことを言ったと気づいたお千代は気まずくなって帰って行く。 お時は興信所の男に、健吉には、同じ巨人ファンのジャイ床と言う悪い友達が付いているなどと調子に乗ってしゃべっていた。 そこに帰宅して来た魚虎は、何となく場の雰囲気が悪いと察し、風呂屋に逃げるように行く。 幼い和子は、お時が機嫌が悪いので、お父ちゃん、虐めちゃダメ!と抗議する。 風呂から帰る途中の魚虎は、巨人が勝って、飲み屋で上機嫌で飲んでいる健吉とジャイ床を見かけるが、からかわれたので、怒って帰ることにする。 しかし、魚虎の店は鍵がかかっており中に入れない事に気づいたので、お母ちゃん!開けて!お時!と呼びかけるが、開けてくれたのはお千代だった。 外に出て来たお千代は、帰って来た健吉を見かけたので声をかけるが、その時、魚虎の店の中から夫婦喧嘩の声が響き、ものが次々に健吉の方へ飛んで来る。 翌日は、ラジオを店で聞きながら健吉は肉を切っていたが、今日は阪神の一方的な優勢だったのでいら立っていた。 一方、同じく店でラジオを聞いていた魚虎の方は上機嫌。 巨人劣勢の放送を聞きたくない健吉は、耳栓をしてラジオの音を消そうとするが、すぐに、耳に詰めた紙が取れてしまうので、面白くなく、表に出る。 観ると、ぬかるんだ地面にボールが落ちていたので、悔し紛れに蹴飛ばすと、そのボールが向いのお時の頬に命中! 怒ったお時は、何をするのよ!と店の中に逃げ込んだ健吉の方へボールを投げて返すが、それが益本肉店の女将の目にぶつかってしまったので、いくらお向かいさんだからって酷いじゃない!と文句を言う。 お時は、健ちゃんの方からこっちに投げて来たんですからね!観て下さい、この傷!と頬の汚れを見せると、何よ、そんなもの!洗えばすぐ落ちますよ。第一健吉は間違えたんですよ!あんたはまともにぶつけたんじゃないの!と怒ってお時に文句を言う。 そこに、魚虎も出て来て、こら病院に行かなあかんわ!えらいことしてくれたな!健吉出してもらおうか!などと、女房のお時の頬の傷を観て加勢しだす。 一方、二階へ逃げ込んだ健吉は、部屋に貼ってあった千葉、中尾、青田、三原、そして川上ら、巨人のメンバーたちの写真に、しっかり頼むぜ!と文句を言うと、窓から、向いの二階にいたお千代に向い、ジェスチャーで、お時が今下にいるのでので出られないと伝えていると、お千代もジェスチャーで何か伝えようとしていたが、途中から声を出し、何言ってるのか分からないわ!同点よ!と呼びかける。 何!同点?と驚いた健吉は、下に降りて行き、店の前で自転車に乗ると、野球場へと向かう。 しかし、一足先に自転車で野球場に向かっていたのは魚虎とお時の2人 懸命に漕いだ健吉は、途中で、魚虎夫婦に並ぶ。 ところが、野球場に着いて試合を見ると、阪神がホームランを打ち、5-3で巨人が負けてしまったので、魚虎夫婦は大喜び、一方、いつものように鍋をヘルメットのように頭にかぶって応援していた健吉は、がっくりして倒れ込んでしまう。 試合が終了し、観客も全員帰ってしまった球場で、まだ気絶して倒れていた健吉を、ジャイ床が助け起こすが、目を覚まして、得点表に目をやった健吉は、やっぱり、最終回3点を阪神に奪われ、巨人が負けていたので、又気絶してしまう。 一方、店の前にいつも通り、その日の試合の得点表を貼り出していた魚虎は、臨時休業していた。 昼間っから祝い酒を飲んでいた魚虎は、健吉の奴昨日も気絶してやがった。変な奴だよと言うと、付き合っていたお時も、どうしてお千代はあんな健ちゃんの事が好きなのかね?と不思議がる。 タデ食う虫も好きずきさ、健ちゃんは人が良過ぎるよと話していた魚虎は、お千代が出かけようとしていたので呼びつけ、お前、健の字のどこが好きや?と聞く。 考えてごらん、お千代ちゃん、健ちゃんはジャイアンツ贔屓だよとお時も口を出して来たので、放っといてよ!私、健吉さん、好きなんだからとお千代は膨れる。 しかし、魚虎は、あいつがジャイアンツ贔屓でいる間は、この結婚は反対やで!と言い、お時も、お父ちゃんが承知しても、私が承知しませんよ。宗旨の違いくらいならともかく、ジャイアンツとタイガースではねえ?と言い、それを聞いた魚虎は、ええこと言う!とお時を褒める。 その頃、益本の店の二階では、結婚話を切り出された健吉が、お嫁さんをもらうのは僕なんですよ。それなのに、僕の考えも聞かずに勝手に勧めるなんて…と叔父夫婦に文句を言っていた。 相手がお金持ちで、僕がジャイアンツ贔屓だからまずいなんて…、僕はそんな思いまでして養子に行きたくありません!と健吉は言う。 だけど、向うじゃ、興信所まで雇って、お前のジャイアンツ贔屓を探っているらしいんだよ。ここだよ、お前、ねえ、お前さん…などと女将が健吉と幸兵衛に話していると、健吉は、向いの二階の窓に見えたお千代に気づいた健吉は、そわそわと立ち上がり、女将に落ち着きなよと注意される。 幸兵衛は、大体、野球なんか贔屓にしてどこに利益があるんだ?良いか?全て勝負事は勝つ方を贔屓にしていれば間違いねえんだ!負ける方を無理に勝たせようとするから、そこに無理があるんだと説教する。 それは無理強いってもんですよ!と健吉は抵抗するが、お前は黙ってろ!と言った後、おじさんには何も言えまい!何とか言ってみろ!と無茶な事を幸兵衛が言うので、ねえ!とだけ言って立上がった健吉は、野球帽を取ると、向いのお千代に手で合図をして表に出て行く。 表でお千代と合流した健吉は、近くの公園へ向かいながら、互いに、家では文句を言われっぱなしだと愚痴を言い合う。 公園のグラウンドでは、小学生が野球をやっていたが、どうだい?と健吉が声をかけると、ジャイアンツと言う子供チームの方が負けているので、おじさん、入ってよと誘われる。 しかし、バッターボックスに入った健吉は、お千代の方にばかり気を取られているので、子供から、おじさん、野球観ているだけで、出来ないんだね?とバカにされたので、3球目に打ってベースを廻り始める。 ところが、やっぱりお千代の事が気にかかるので、三塁を廻った所で、ホームを踏まず、水飲み場の所に来ていたお千代の元へと駆け寄って来る。 お千代は、あんたのそんな中途半端なやりっ放しの所が嫌なのよ。いくら子供相手でも、どうして三塁からこっちに来てしまったにお?と注意される。 頭に来た健吉は、又、三塁に戻ると、子供たちが制止する中、無理矢理ホームを踏んでみせる。 お千代は嬉しそうに迎えるが、子供たちがじっと自分たちの事を見つめている事に気づくと、恥ずかしそうに水を飲んでごまかす。 健吉も、飲もうとするが、急に水飲み場の水が出なくなったので、色々操作している時、急に水が噴き出し顔に命中する。 ある日、いつものように、ラジオで野球の実況中継を聞きながら、肉屋の仕事をしていた健吉だったが、5-1でジャイアンツがリードしていることもあり上機嫌。 さらに1点追加と聞き、向いで仏頂面している魚虎夫婦にからかいの言葉をかける。 ところがその直後、急に店のラジオの調子が悪くなる。 聞こえて来るのは、向いの魚虎の店のラジオだけなので、ついついそちらに近づこうとするが、魚虎が意地悪してラジオの音量を落とす。 お時も、試合経過を教えようとしないので、健吉はやきもき出す。 ようやく2時過ぎになって、店のラジオが聞こえるようになるが、ちょうど試合が終わったようで、8-7と言っている。 さすがに勝ったと思った健吉は喜んで店の前に出て、同じように笑顔で出て来た魚虎と握手するが、ラジオの放送では、どっちが勝ったかがはっきりしない。 不安になって耳をすませていると、阪神が土壇場で逆転したと言うではないか! それを聞いた途端、又、健吉は気絶してしまう。 寝込んだ健吉を見舞いに来たジャイ床は、おめえ、悪いクセがついたな~と、気絶してばかりいる健吉に呆れながらも、俺なんて現場に居合わせたんだ!しゃくに障ったと言うより、はらわた煮えくり返ったよ。もう野球観るの、止めようかと思ったくらいだなどと、その日の結果を悔しそうに報告する。 すっかり気落ちした健吉は、おじさんの言う通り、特に御贔屓なんて作らないで、勝った方を応援出来れば良いんだがな…と愚痴るが、何かを思いついたように起き上がると、おい、ジャイ床、俺、思い切ってジャイアンツに飛び込もうと思うんだ!と言い出す。 それを聞いたジャイ床は、おめえがね~…と呆れたように呟く。 野球場では、川上がバッティング練習を行っていた。 ジャイ床と共に外野席にやって来ていた健吉は、ボールを拾いに来た巨人選手たちに、自分が拾ったボールと手紙を一緒に手渡して行く。 しかし、さすがに三原監督だけには、怖くて近づけなかった。 三原監督は、川上に打ってみろと言い、川上が打つと、そのボールは取ろうと待ち構えていた健吉の頭にぶつかってしまう。 健吉は又、脳しんとうを起こして倒れてしまう。 見かねたジャイ床が、直接、三原監督に話をしに行くが、どうもね~…、マスコットくらいなら…と言ってもらえたので、ユニフォームさえ着られればそれで良いんです!とジャイ床は感謝する。 まだ正式に決まった訳ではなかったが、ジャイ床は、それを先に帰って寝込んでいた健吉に知らせに行く。 ジャイアンツに入れたぞ!とジャイ床が言うと、誰が?と健吉が聞くので、おめえがよ!とジャイ床は教える。 その後、益本牛肉店のの店先には、長年の夢だったジャイアンツに加入したので、応援宜しくと記した貼紙が貼られる。 ジャイ床は応援団長として書かれてあった。 町内の人々は拍手して応援するが、お時は、とうとう喧嘩を吹っかけて来たわねと迫って来て、背番号何番なの?と聞く。 健吉が振り向いて見せた背番号は「0(ゼロ)」だった。 そこに帰って来た幸兵衛は、店の貼紙を観て、健の奴が?と驚くので、あんた知らなかったの?とお時はバカにすると、さ、こっちも悠長には構えていられなくなったよ!とお時は張り切って店に戻る。 すると、幸兵衛の方も、こちらも江戸っ子だ!健のこと、何とかしねえと…と張り切りだす。 翌朝、暗いうちから目覚まし時計で起きだした健吉は、店の前でランニングや柔軟体操をかけ声を出して始めるが、魚虎から、うるさいな、寝たられないやないか!と文句を言われたので、いつまで寝てるんだ!と怒鳴り返す。 いま何時か知ってるのか?と言いながら、魚虎が出て来たので、おめえは知ってるのか?とやり返すと、目覚まし時計を寝間着の懐から取り出した魚虎は、2時10分だと教えたので、さすがに早過ぎたと気づいた健吉は頭をかきながら店に戻って行く。 いよいよ、巨人軍の練習に加わった健吉だったが、外野フライばかり拾わされているだけでも疲れ果て、その後帰って来てから、ジャイ床でジャイ床の女房(里見圭子)からヒゲを剃ってもらう時には眠りこけていた。 そんな健吉に呆れながらも起こしたじゃい床は、お千代ちゃんが重大な話があるそうだと言い、動けないと言う健吉の元に連れて来る。 お千代が言うには、義姉さんと喧嘩したの、何とかして、健吉さんをタイガースに行くようにしろって言うのよ。無理よね?だから言ってやったわ、兄さんがジャイアンツ贔屓になった方が早いじゃないってと言う。 ねえ、間に挟まって困っちゃったの。あんた…、あたいと野球のどっちが好き?どっちよ!はっきりして!とお千代が言い出したので、健吉は弱ったな…と戸惑う。 そこに、戸締まりを終えたジャイ床が、今度からおめえに代わって俺がこいつをかぶってやるよと、ヘルメット代わりの鍋を持って来て、ところで試合はどうなるんだ?と聞くので、一週間ばかり東京でやって、それから九州に行くんだ。大丈夫さ、俺が付いてるんだから…と健吉は受け合うが、お千代が不機嫌そうなので困ってしまう。 翌日からまた練習が始まる。 捕手-内堀保、二塁手-山川喜作、遊撃手-白石敏夫、二塁手-千葉茂、一塁手-川上哲治… 天才ですねと健吉が選手たちの事を褒めると、練習の賜物さと大竹は言う。 じゃあ、努力すれば誰でもああなれるんですか?と健吉が聞くと、それがなれないんだよ、なかなか…と大竹は笑う。 その後、しばらく観ていた健吉が、練習の賜物ですねと選手たちを褒めると、天才だよと大竹は答えるので、どっちなんです?健吉がいら立つと、両方だよと言うので、あ、そう…と健吉は納得する。 総監督-三原修がノックを始める。 中堅手-青田昇、左翼手-平山菊治、右翼手-只元敞、投手-藤本英雄、中尾碩志、多田文久三、小松原博喜、捕手-武宮敏明、 練習中の巨人軍投手の高速度撮影による投球フォームと球種、まずは中尾投手の直球、多田投手の直球、小松原投手の直球、続いてそれぞれの投手のカーブ、 健吉が試しにバッターボックスに入ってみるが、空振りして、一塁に滑り込んで見るが、良く見ておけと、滑り込みの手本を見せられ叱られる。 外野でフライを取る練習もさせられるが、健吉には一向に出来ず、すみませんと謝るばかり。 何とか、一度だけファールをキャッチすると、選手たちから拍手が起きたので、帽子を取って、すみませんと言いながら、健吉は腰が抜けたようにへたり込む。 練習後、ロッカールームにやって来た健吉は、休息していた青田や右翼手の中島治康に、何か、洗濯物ありませんか?と話しかける。 その後、洗面所で、ふらふらになりながらも選手のユニフォームを洗う健吉は、ロッカールームで1人へたり込む。 そこへやって来た選手から、健坊、一緒にキャバレーへ行こうよと誘われるが、用があると言って断る。 もはや、身体が動かず、ロッカーを伝いながら歩いていると、どうしたんだ?と選手が聞いて来て、無理するなよとねぎらうので、皆さんを喜ばそうと、余興の練習をしている所でして…と健吉はごまかす。 それを真に受けた選手が他の選手たちも呼び寄せたので、仕方なく、健吉は猿の真似を披露するのだった。 自宅の二階で、布団にうつぶせに寝そべったまま身動きできなくなっていた健吉の前に来たジャイ床は、ユニフォーム姿の健吉の写真をながら、立派なもんだ、一流の選手だと褒めるが、俺はとうとう猿になっちゃったよと健吉は嘆く。 まだその事に拘っているのか?猿で結構じゃないかとジャイ床が言うと、心安そうに言うな!俺は何もな、猿になるためにジャイアンツに入ったんじゃないんだからと健吉は不機嫌になる。 すると、ジャイ床は、健吉の足を揉んでやりながら、そう思うのが凡夫の浅ましさだ。三原さんがこの前、何て言ってたと思う?野球と言うものは決して1人で出来るもんじゃない。チームの1人がチーム全体のために頑張らなくちゃって…、猿を真似をする事だってそうだ、選手を喜ばせるんだったら立派な事じゃないかと言う。 いつの間にか起き上がって、聞き入っていた健吉の元へ、向いの和子がやって来て、お千代おばさんからと届け物を渡す。 良い子だなと和子を抱こうとした健吉だったが、まだ足が痛かったので、思わずジャイ床に和子を渡して顔をしかめる。 北海道、福島、新潟、金沢、千葉、横浜、静岡、名古屋、福岡と言った遠征にも健吉は着いて行く。 一方、お千代は健吉から手紙をもらい、うれしそうに読み始める。 幸兵衛も手紙をもらったので、ジャイアンツに付いて行ったと知った女将は、あの子はあれでなかなか立派な所があるわねと感心する。 そこにジャイ床がやって来て、俺も明日帰って来ると手紙をもらったと幸兵衛に言う。 ジャイアンツに入ったかと思うと、どっかに消えちゃたのかと思ったよと、幸兵衛も嬉しそうに言う。 そんなに健坊は意志薄弱じゃないよとジャイ床が言うと、入ってるんなら、一度くらいラジオで名前くらい良いそうだなどと幸兵衛は言う。 まだ入って日が浅いし、あいつにはマスコットと言う大切な役目があるんだとジャイ床は弁解する。 何だか知らないが、早いとこ、ホームランでもかっ飛ばしてくれると良いんだがな…などと、野球を知らない幸兵衛はのんきなことを言う。 魚虎の二階では、和子がお千代の手紙を悪戯していたので、注意しながら、何気なく、その封筒を観たお時は、全部、健吉からのものだと気づく。 何やってるんや!人の手紙をなどと近寄って来た魚虎を呼び寄せたお時は、遠征先から毎日健吉がお千代に手紙を寄越している事を伝える。 何気なく、その内容を読みだしたお時だったが、7月7日、選手たちが沈んでいたので、今日も例によって猿になって…などと書いてあったので、横で聞いていた魚虎は、けったいな奴やな~と不思議がる。 すると、みんな笑ってくれて、青田、千葉、川上が特大ホームランを3本打ってくれました。試合が終わって、みんなが又猿の真似をやってくれと言い、胴上げをしてくれました。 でも僕はちょっと哀しくなりました。早く一度でも良いから試合に出たい。 今夜は七夕さん…、お千代ちゃんの事を思って寂しがっていると、三原さんが、寂しそうじゃないか?しっかりしないとマスコットらしくないよと言って、氷をおごってくれました。 今日はお千代ちゃんに謝らなくてはいけない事をしてしまいました。 お千代ちゃんに編んでもらったセーターを、ピッチャーの川崎さんにあげてしまったんです。 川崎さんは列車の中でカバンを取られてしまい、セーターがないんです。 ピッチャーは肩を大事にするから、どうしてもセーターが必要なんです。それで、お千代ちゃんに悪かったけど、あげてしまったんです。 それを読んだお時は、ちょっと感心しちゃったわね~、偉いわと言うと、お千代の奴、セーター、編んでやりよったんやなと魚虎も嬉しそうに言う。 すると、横で聞いていた和子も、洗濯も手伝ってやったわ。あたい健吉おじさん大好き!と言うので、そうかいと笑いかけるお時 7月19日金沢にて…と又手紙を読みだしたお時は、昨日から、ショートの白石さんが熱を出したので、徹夜で看病したら、朝は元気になりました。 選手の皆さんも喜んでくれました…と書かれてあったので、健ちゃん、良い人ね~とお時はますます感心する。 ええ人やな…と頷いた魚虎が、別の手紙を読むと、夕べはバットを振って色々考えているうちに… (回想)みんなが寝静まった宿の部屋の中で、バットを振ってみた健吉は、弾みで電燈を割ってしまったので、寝ていた選手たちから、何してる?と叱られ、布団に潜り込んですみません!と謝る。 (回想明け)監督さんから怒られるかなと思っていたら、三原さん、中島さん、千葉さんから逆に褒められました。 僕は、酒も煙草もやめました。明日は大阪に行きます…と魚虎は読み終える。 すると、いつの間にかお千代が上がって来て、いくら兄さん、義姉さんでも、人の手紙を黙って読むなんて酷いわ!と怒る。 すると、お時は、謝りながらも、私は今日から、断然、ジャイアンツファンになるわと笑顔で言う。 魚虎の方は、それとこれとは話が別や、わいはタイガース贔屓や!と言い張るので、強情ね!そこが良い所なんだけどさとお時はのろける。 大阪甲子園 健吉は、いつものように、ロッカー室で投手の川崎徳次選手たちと雑談をしていたが、又、選手が面白がって、あれやってくれよと猿の真似をせがむので、今日は勘弁して下さいよと言いながら、部屋を抜け出る。 残った選手たちは、健坊って良い奴だよなと噂し合う。 その後、荷物を持って健吉が戻って来ると、大竹選手(曾根通彦)がぽつんと1人でいたので、大竹さんどうしたんです?と聞くと、俺、辞めようと思ってるんだよと急にい大竹が言いだす。 辞めるって、どっか他所に入るんですか?と聞くと、入りたくても、俺みたいな奴、どこの球団もお断りだよなどと言うので、そんな気が弱い…、案外意気地がないですなと健吉が笑うと、ああ、何と言われても仕方がないよ。万年補欠の、それもやっとピンチヒッターに出してもらったら三振じゃ、自分でも愛想が尽きたよなどと言う。 そんな事ないですよ、こんな事、私が言っちゃ生意気かもしれませんけど、大竹さんの場合は、酒と麻雀、あれがいけないんですよね。あれさえ辞めれば、あれは巧くなるんだがな~って、三原さんなんか言ってましたよ。大竹さんなんか巧い人が辞めなくちゃいけないんだったら、私なんか真っ先に…と健吉は話す。 すると大竹は、そんな事あるもんか!うちの連中はね、みんな君の事を褒めてるんだよ、実に熱心だって…、君がいないときのみんなの褒めようなんて凄いからと教えてくれたので、健吉は、本当ですか?と言いながらも喜ぶ。 大竹さん、そんなにしょげないで、元気を出して!と大竹を励まし、部屋を出ようとした健吉は、東京に帰ったら、一度健坊を試合に出してやって下さいと監督に頼んでいる川上選手らの言葉を聞いてしまう。 日頃、練習を観ていると、本当に頭が下がりますよ、ピンチヒッターでも良いから出してやって下さいよ。僕もね、常日頃から健坊の熱心さには打たれてるんだよと三原監督も答える。 しかし、あの技術ではね~…、大体、あの人はね、マスコットとして入れてやってるんだ。ゲームの責任は全部僕が持ってるんだよ。人情としては忍びんよ、だが無理だよと言う三原監督の言葉をドアの横で聞いていた健吉は、急に元気を亡くしたので、洗面所でそれに気づいた大竹は不思議がる。 大竹さん、僕はね、東京に帰ったら辞めようと思ってるんだと健吉は言い出す。 お前は辞めちゃいけないよと大竹が言うと、辞めさせて頂きます!断然辞めるよ!と健吉も意地になり、勝手にしろ!と大竹が怒鳴ると、勝手にするよ!と怒って、そん所場を立ち去ってしまう。 落ち込んで部屋に戻って来た健吉は、机に置いておいたはずの選手たちのにも次がなくなっているので慌てるが、私服に着替えた選手が呼びに来たので、事情を話す。 すると、あれは大丈夫だよ、みんなが健坊の慰労のため、自分たちで持って行ったんだと言う。 しかし、自分の荷物もなくなっていると言うと、あれは三原さんが持って行ったよと言うので、健吉はがっくり気落ちする。 東京に帰って来た健吉から話を聞いた幸兵衛は、そうか…、一度も試合に出なかったのかいと聞く。 おじさん、あれからすっかり野球キチガイになったんだよと女将が言い、遊びに来ていたジャイ床も、おじさんもあの鍋かぶるって言うんだよと嬉しそうに教える。 しかし、健吉が、俺は試合に出ない…と沈んでいるので、出してくれないと言うのか?ものには順番がある。練習さえしていればその内…、鳴かなけりゃ、鳴くまで待とう、ほととぎす。短気は損気、人に踏まれて咲くタンポポも、いつか世に出るときもある…と、幸兵衛は得々と言い聞かす。 本当だよ、健ちゃん、この1、2年のうちにはきっと出してもらえるよと女将も励ます。 それでも、ダメですよとしょげた健吉が言うので、良いじゃないか、1、2年でダメなら3、4年…、バカに元気がないな~…、しっかりしろよ!と幸兵衛は言う。 おめえ、本当に、どうかしてるぞとジャイ床も横から口を挟む。 夜、寝床でタバコを吸っている健吉の所へ来ていたお千代は、健吉さん、煙草なんて吸って大丈夫?と言いながら煙草を取り上げる。 千代ちゃん、俺はね…、ジャイアンツ辞めようと思ってるんだ!と言い、煙草を奪い返す健吉。 どうしたの?とお千代が聞くと、俺なんて、プロ野球に入る柄じゃなかったんだよと健吉がすねるので、何だ、そんな事?バカね~と言いながら、お千代は又煙草を取り上げるが、俺はバカだよ!とすねる健吉は、又煙草を奪い取り、俺は気が弱いんだよ。辞めると言ったら辞めるんだ!と言い張る。 そのまま寝ようとするので、健吉さん、あんた、明日の大事な試合分かってるの?とお千代が案じると、知ったこっちゃないよ!と健吉がやけを起こすので、さすがにお千代も怒り、知らない!と言って立上がる。 翌日 満員の野球場だったが、健吉と川上の姿が見えないので、選手たちは心配する。 健吉は熱があるって使いが言って来たと報告があるが、ダッグアウトにやって来た川上は、顔色が悪かった。 訳を聞いても、川上は何でもないと言うだけ。 その川上の元気のなさもあって、巨人はその日も4-1でタイガースに連敗する。 そのラジオ放送を自宅で聞いていた健吉は落ち込んでいた。 一方、魚虎の店の中でも、にわかジャイアンツファンになったお時が、おかしいな~。4対1で負けるなんて…、健ちゃんが出ないからかな?とジャイアンツの不振に首を傾げていたが、魚虎は、アホな、これは順当やと言うので、お時とちょっと言い争いになる。 東京に帰って来て私と会ってから、あんた、とても元気なくなったわね?と健吉の部屋に来ていたお千代は嘆く。 さっきジャイ床さんが来て、川上さんもとても元気がなくなったって言ってたわ。あんたと関係があるんじゃない?と聞くと、俺が元気がないのは分かるけど、川上さんの元気がないのは俺のせいじゃないよと健吉は答える。 とにかく、明日試合場に行ってmあんたが元気を付けてあげるのよ!しっかりして、頼むわよと言い聞かすお千代は、壁に貼られた健吉のユニフォーム姿の写真を見て、この写真誰の?立派なスポーツマンじゃないと褒める。 かたかうねえ!とふて腐れた健吉がコップを取り上げたので、それを横から奪い取って匂いを嗅いだお千代は、あら?お酒も飲み始めたのね?と眉をひそめる。 これから飲もうとする所だよと行って健吉がコップを奪い返したので、お千代とコップの取り合いをしていて酒をこぼしてしまう。 その時、健吉が何か紙で拭こうとしたので、それは?見せて!とお千代は迫る。 しかし、健吉がどうしても見せようとしないので、変だわよ、知らない!とお千代はすねる。 その頃、魚虎の店先では、幸兵衛とお時が、鍋をかぶって応援に行く日をを相談していた。 そこに出て来た魚虎とおと来は、又口喧嘩を始める。 健吉が持っていた紙は辞表だと知ったお千代は、どうしても辞表を出すの?と聞いていた。 いつまでもこんなことしててもしようがないからなと健吉が言うので、せっかくここまで辛抱して来たのに…とお千代は悔しがる。 でもね、俺はプロ野球なんて柄じゃなかったんだと又健吉はすね、辞表を出そうと思うんだが、三原さんがあんまり優しくしてくれるんでな~…、だから明日、川上さんの家に行って、川上さんに辞表を出してもらおうと思ってるんだと健吉は哀し気に言う。 健吉さん、そんな哀しそうな顔をしちゃいや!とお千代は言い、その場で泣き出したので、何も君が泣くことはないんだよ。泣きたいのは俺の方だと健吉がなだめると、じゃ、辞表出すの辞める?と又お千代が聞いて来たので、そうはいかないよと言うと、お千代は又泣き崩れるのだった。 翌日 野球場はその日も満員だった。 列車で、ジャイアンツの川上の住む町へやって来た健吉は、交番で住所を確認する。 すると、何と、川上の母親(伊達里子)が寝込んでいる事を知る。 川上の母親は、やって来た健吉が見舞いに来たものと勘違いしたのか、すみません、哲治に、今日は大切な試合ですから、私の寝ている事など決して言ってはいけないと良く申しておきましたのに…と恐縮する。 いえ…、実は僕…、川上さんにお願いが…と、辞表のことを言いだそうとするが、しかし大変でしたね~、二日も徹夜で看病したんじゃ…と健吉は話題を変える。 妹の方が、あいにく田舎に行っておりますので…、本当にあなたにご心配をおかけしまして…と母親は礼を言う。 御病人の面倒を見るのが僕の仕事なんですから…と健吉は言うが、もう大丈夫ですから、試合に行って下さい。でないと、哲治に、後で私が怒られますから…と母親は勧める。 健吉は悩み、じゃあ、1時間ほど行ってきます、すぐ帰って参りますからと詫び、家を後にする。 廊下で、お茶を運んで来た川上の幼い弟(沢井けんじ)とぶつかりかけた健吉は、おじさん、もう帰るの?と聞かれたので、その場で茶を飲み干すと、すぐに帰って来るからね、お土産買って来るからと頭をなで出て行く。 その頃、着物に着替えたお時は、魚虎に留守番を頼み、万一、ジャイアンツが負けたら出て行ってもらいますからね!などと嫌味を言うと、お千代と和子と一緒に野球場へ向かいかけていたが、お千代は健吉さんの看病をすると言って残る。 何や、亭主に向かって偉そうに!と出て行ったお時に魚虎が悪態をついたので、お兄さん、止めなさいよ!とお千代が止めるが、かまへんがな!オリオン頑張れや!と行ったので、外に出かかっていたお時は、何ですって?と振り返る。 ジャイ床と一緒に野球場に着いたお時だったが、後の席の客が、今日もジャイアンツは危ないぞなどと話していたので、何が危ないのよ!まだ試合が始まってもいないのに!と後に向かって叱りつける。 その頃、魚虎の店にやって来た男が、病気見舞いに来たんですが、前の店は閉まってますがどうかしたんですか?と聞いて来たので、肉屋の誰を訪ねて来たんでっか?と聞くと、健ちゃんだと言うので、アホな!あいつならその辺で女といちゃいちゃ遊んでますがな。あんなもんの言う事聞いたらあきまへんで。あいつは魚で言うたらたらみたいなやっちゃ。口が巧いさかい、乗ったらあきまへんでと悪口を言う。 ところで、あんた、誰どす?と聞かれた男は、僕はジャイアンツの太田黒(山室耕)ですと言うので、良う似てまんなと魚虎は信用しない。 その時、太田黒は、お千代の腕を引っ張って、何でも良いから来れば良いんだよと連れ去る健吉の姿を目撃し考え込む。 健吉がお千代を連れて来たのは、川上の家だった。 ご迷惑をおかけしまして、奥様でいらっしゃいますか?と、お千代を観た川上の母親は恐縮する。 そうです。僕の愚妻ですと健吉は答え、お千代ちゃん…、いえ…、千代と言いますと紹介したので、お千代はどうぞ宜しくと頭を下げる。 遠慮なく何でも言いつけて下さい。看護婦ならプロ並みですからなどと健吉はいい加減なことを言う。 今夜から、川上君にはぐっすり眠ってもらわないとねと言い、買って来た氷嚢を取り出した健吉だったが、氷を買って来るのを忘れたことに気づき部屋を出て行く。 その後を追って来たお千代が、辞表は出したの?と聞くと、それどころじゃないんだ、お母さん頼んだよと健吉が言うので、安堵したお千代は大丈夫よ、私が看病したら、お母さんの熱なんかすぐ引いちゃうわと受け合う。 その時、腕時計を観た健吉は、いけない、試合だ!と叫び、棚の上の鍋を持って出て行く。 球審池田で試合が始まる。 オリオンズの先頭バッター山本がバッターボックスに入る。 ピッチャー中尾が山本に第一級を投げる。 二番バッター原田… 6回表、オリオンズの3点のリードが続いていた。 白山町のバス停留所で待っていた健吉だったが、予想外に待っていた乗客が多く、バスに置いてきぼりを食らってしまう。 そのバスを追っていこうとした健吉だったが、さすがに諦めて、マら停留所に戻って来ると、又、行列ができていたので、その最後尾に並ぶしかなかった。 その時、自動車が通りかかったので、無理矢理手を挙げて停めてもらうと、後楽園まで乗せて行ってくれと頼み込み、そのまま乗り込み。 それでもなかなか動き出さなかったので、早く出してくれよ!と急かすと、あんたはどっちファンなんだ?と運転手のおじさん(山本冬郷)が聞くので、どっちでも良いじゃないか。ジャイアンツファンだよ!と教えると、ああ、そうかと笑って、おじさんは車を出発する。 ジャイアンツ勝ってくれよとおじさんが言うので、おじさんもジャイアンツファンなの?と健吉が聞くと、ジャイアンツが今日負けると、奥さんに謝らなくちゃ行けないんですよとおじさんは言い、ラジオをつけてくれる。 すると、今日はオリオンズの上野投手に押さえられていると言う。 川上は打ったものの、一塁ゴロでチェンジだと言うので、後部座席で聞いていた健吉はやきもきする。 甲子園に着いた健吉は、控え室にいた太田黒に、自転車が壊れて遅れてすみませんと詫びると、試合どうなってます?と聞く。 聞かれた太田黒は、どうしてだ?病気だって言ってるもんがどこをうろついているんだ!と太田黒は叱りつけて来る。 すがりつこうとする健吉だったが、こんな奴がチームの一員と言えるか?ダッグアウトに入っちゃいかん!チームの神聖を汚す奴は二度とこのグラウンドに来るな!と太田黒は怒鳴る。 でも、これには訳があるんです…と健吉は追いすがるが、うるさい!と突き飛ばされてしまう。 がっくりしてロッカールームの長椅子に腰を降ろしていた健吉だったが、そこに大竹がやって来て、健忘、どうした?みんな待っているぞと声をかけてくれたので、川上さんを呼んで下さい!内緒ですよ!と健吉は頼む。 天の助けだと喜んだ健吉は、川上がやって来たので、もうお母さん、大丈夫です!と伝えると、君、行ってくれたの?と川上から聞かれたので、熱も下がりましてね、それにもう、すっかり元気ですから、看護婦を付けておきましたよと健吉は言う。 それを聞いた川上は、どうもありがとう。お母さん、ラジオを聞いている頃ですよと言うと、みんな君を待ってるよと言いながら、川上が健吉の手を引いて行こうするので、健吉は躊躇し、今試合は?と聞く。 川上は、8回の裏で2アウト、3点負けていると言う。 巧く言えば、9階の裏に僕まで廻って来るが、それが廻って来たら、そこが勝負だと川上は言う。 川上さん、打って下さい!お母さんもラジオ聞いてますよと健吉は頼む。 ありがとう!きっと打つよと礼を言った川上は、何故、来ないんだ?みんな待ってるよと言って、健吉の手を引いて行こうとする。 今日はダメなんですと言い、川上の手を振り払った健吉は帰って行く。 その頃、ダッグアウトでは、大竹が、健坊に会って川上元気になりましたよと三原監督に伝えていた。 川上の自宅では、お千代が母親の肩を支えて、ラジオの実況中継を聞き入っていた。 ラジオのすぐ前には、弟がダイヤルを握りしめ聞いていた。 最後の守備でチェンジで、最後のジャイアンツの攻撃となる。 先頭打者山川ヒット、続く小松原もヒット 塁審西垣が、セカンドのセーフを告げる。 続くバッターは平山だったが、ライトが取ってワンナウト。 3番青田が打ち、走者2名が生還 塁審国友が、三塁に到達した青田をセーフと判定。 応援席では、ジャイ床、お時、和子、幸兵衛が全員鍋を頭に兜のようにかぶっていた。 3-2で、4番バッター川上が左打席に入る。 満員の観客席に紛れ込んだ健吉も、大声で、川上さ〜ん!と叫んでいた。 ピッチャー上野が第一球を投げ、川上は見送る。 川上の母親とお千代が、ラジオ放送を聞き入る。 観客席の健吉が見守る。 カウント、2ストライク1ボール! 三原監督も見つめる。 川上今度打ちますよ!とネクストサークルでじっと川上の姿を凝視していた千葉がコーチに告げる。 4球目、川上の赤バットがうなり、ホームランが生まれる。 客席で飛び上がって喜ぶ健吉、ジャイ床、お時、和子、幸兵衛たち。 三原監督は冷静に見守る中、川上がホームベースを踏む。 試合後、川上が、今日のホームランは僕が打ったんじゃない。健坊が打ったんですと青田に話していた。 実は…、みんなに迷惑をかけちゃいかんと思って黙っとったんですが…、おふくろが病気なんです。それを健坊が、どっから聞いて来たか、看護婦まで連れて来てくれて…と打ち明けたので、それを聞いていた青田は、太田黒さん、それは健坊に謝らなくちゃいけないねと言う。 謝る、中島君、僕はね、二度とこのグラウンドに来ちゃいかんと言ったんだよと太田黒が言うと、それは健坊が可哀想だ、探さなくちゃいかんなと中島は答える。 もしかしたら、川上の家にいるかも分からんよと青田は言う。 無人の後楽園球場のグラウンドのバッターボックスに1人立っていたのは、バットを構えた健吉だった。 背番号0の健吉はバットを振り、益本健吉打ちました!と言うアナウンサーの声(和田信賢)を心の中に聞きながら、1人ベースを廻るのだった。 ホームベースに戻って来た健吉は、益本健吉選手、堂々とホームラン賞を受けるでしょうと言うアナウンサーの声を聞きながら、帽子を取って、無人の客席に笑顔で会釈する。 そして、無人のロッカー室で、ユニフォームを脱いで私服に着替えた健吉は、「G」のマークの入った帽子を触り、辞職届の封筒をユニフォームの上に置いて1人しんみりしていた。 その時、健吉さんと呼び帰る声がしたので振り返ると、そこにはお千代が立っており、その背後から巨人軍の選手たちが全員入って来る。 健坊、今日のホームランは君が打ったんだぜ!その殊勲者は君だ。辞表なんて出す奴があるか。おい、元気を出してもう1度ユニフォーム着ろよ!おい、もう1度ユニフォーム着ろよと選手たちが口々に言ってくれる。 その後、ユニフォームに着替えた健吉を、選手たちがグラウンドで胴上げしてくれるのだった。 |