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豹の眼('56)

高垣眸の伝奇ロマン小説原作の映画化で、後編「青竜の洞窟」の前編に当たる、上映時間40分の中編添え物映画。

どう観ても子供向けなので、メインの映画の方も子供向けに違いないと思い、調べてみたら、メインは何と、日本初の本格的カラー空想特撮映画「宇宙人東京に現る」だった。

同じ1956年1月29日と言えば、高倉健さんの初主演作「電光空手打ち」の封切日でもあったので驚いた。

この作品、テレビで1959年から1960年にかけ、大瀬康一主演で人気があった同一タイトルの子供向け番組と同じ原作だと思われる。

テレビ版はかすかに観ていた記憶があるが、笹竜胆(ささりんどう)の紋を額につけ白頭巾のようなマスクをかぶったヒーローが出て来たようなイメージ以外に何も覚えていない。

だから、この映画版とテレビ版との話の違いは分からないが、テレビ版で大瀬康一が扮していた笹竜胆は登場しない。

代わりに、黒覆面の王大人(わんたいじん)なる謎の人物が出ている。

この映画だけを観た印象を言えば、作られた時代のせいもあるのだろうが、短い尺で子供向けの内容にしてはかなりテンポが遅く感じる事。

物語の導入部らしき船の上の話が大半なので、見せ場らしい見せ場と言っても、船員相手の柔道とか喧嘩程度で、子供には退屈なのではないかと思うのだが、当時としては、この程度でも胸躍らせていたのかも知れない。

今観て、興味深いのは、「少林寺拳法」と言う言葉が、既にこの当時から出て来ること。

中国の古い拳法で、今では日本人1人にしか使えないと言っているので、当時から、中国から伝わったものの、日本人が伝承した技と言う認識があったのかも知れない。

それにしても、金鉱の上に国があり、どこを掘っても水のように金が出て来るのなら、宝の在処などどうでも良いのではないか?

妖術使いがクーデターで王を倒したのなら、後は妖術で反対勢力は封じられるはずで、好き放題に金を独占出来るような気がするからだ。

国王が非常時のため、北海道の山に隠した財宝とは一体何なのだろう?

無尽蔵の金鉱脈以上の宝があるのだろうか?

特撮を担当しているのは「昭和ガメラシリーズ」などでお馴染みの築地米三郎氏。

船のシーンなどが多く、全体的に低予算のためチャチなのだが、時折、迫力があるシーンもないではない。

この映画版で主役を演じているのは、後に刑事ドラマなどで活躍する北原義郎。

目がくりっと大きなイケメンで、角度によっては、少しぽっちゃりして来た時期の森次晃嗣に雰囲気が似ているような気もする。

昔のヒーロー顔なのだが、個人的に馴染みがあるのは、やや中年に差し掛かっていた時期だったのか、脇役の俳優さんと言うイメージの方が強い。

劇中、一見カウボーイような衣装を着たジョーと言う外国人風の役を演じているのは、高田宗彦と言う人で、テレビの「少年ジェット」でブラックデビルと言う敵役を演じていた事で有名。

映画と言うにはとにかく短過ぎ、この作品だけで満足感は得られ難いような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、大映、高垣眸原作、中井新一脚色、鈴木重吉脚色+監督作品。

嵐の海を進む一隻の密輸船ブラック・プリンス号

操縦士が陀輪を必死に操作している操縦席にやって来た香港の龍(羅門光三郎)は、キャプテン(斎藤紫香)から酒瓶を奪いながら、今、どの辺です?と聞く。

北海道へ廻る海の上よ!とキャプテンが酒瓶を取り戻して飲みながら教えると、香港の龍なんだ、そんなものを怖がるか!と息巻く。

その時、操縦士が陀輪の動きに弾き飛ばされたので、キャプテンが代わって、陀輪を押さえる。

龍やカッパの鉄(南弘二)は、子分たちを使い、木箱の中に入れていた麻袋を特別室に運び込ませる。

床に置いた麻袋を、ナイフで鉄が斬り裂くと、中に入っていたのは、こんこんと眠っている、チャイナドレスを着た若い娘だった。
船が香港を出てから、すでに4~5時間経っていた。

鉄は、良く効きやがった、あの麻薬、これじゃあ、何されたって分かりゃしねえとほくそ笑み、周囲を取り囲んだ船員たちも好色そうな目で少女を見つめる。

しかし、龍はそんな船員共を部屋の外に追い出すと、あの方はジャガー様のお客様だ。指一本触らせないぞ!ジャガー様はどこにいるか分からない。何かあったら一蓮托生だ!と全員に言い聞かせる。

その頃、調理場で料理を作っていた中国人コックは、ターバンを巻いたサムに、この船はどこに行くのかね?と聞いていたが、サムも知らないようだった。

そこに鉄と共にやって来た龍がサムに、2番の特別室にお客様がいるので食事の世話をしてやってくれ。食事を運ぶ以外に口を聞くんじゃないぞ!と命じ、鉄が特別室の鍵をコックに渡して行く。

その鍵で特別室に入り、食事を運んで来たコックは、気がついていて怯える少女に沙利(サリ)姫(藤田佳子)と呼びかける。

すると沙利も、コックの顔を見て、陳爺(チンイエ)(花布辰夫)!と喜び、お前がどうしてここに?と聞く。

姫を追って、香港から出航前に乗り込み、コックに化けているのです。もうしばらくの辛抱ですと陳爺は答える。

一体、この船はどこへ行くのですか?と沙利が聞くと、ジャガーの手下の船で日本の北海道へ行くのです。姫から宝の秘密を聞こうとしているのですと陳爺は答える。

その頃、鉄たち船員たちは、休憩室でカードゲームに興じていたが、鉄のカードの一枚が落ち、ベッドに腰掛けていた新米船員の旭杜夫(北原義郎)の長靴の甲の部分に落ちたので、取ってくれと鉄が頼むと、横着にも、杜夫は長靴をそのまま持ち上げ手渡そうとしたので、鉄はその無礼を怒り、お前には仁義がないのか!と怒鳴りつける。

特別室の中では、陳爺が、今まで何度も危ない目に遭って来たではないですか。日本に着く前に逃げましょうと沙利に言い聞かせていた。

休憩室では、杜夫が鉄と戦っており、柔道の技で投げ飛ばしていた。

そこに、陳爺が戻って来て、杜夫が次々に柔道で、飛びかかって来る船員たちを投げ飛ばしているのを目撃する。

そんな中、卑怯にも鉄がナイフを取り出すが、次の瞬間、鉄はナイフを落とし顔を押さえる。

顔を上げると、何が原因なのか、右頬から血が出ているではないか。

動揺する船員たちに向い、陳爺は、酒飲まんか!と声をかけ、場を和ます。

その後、甲板掃除をしていた杜夫は、ゴミを捨てに出て来た陳爺に、危ない所を助けてもらった礼を言う。

柔道強いなと陳爺が感心すると、あなたのピーナッツの早業も凄かったよ。空手術か?弾丸のような凄いピーナッツだと杜夫は答える。

良く分かったな。あれは中国に古くから伝わる少林寺拳法と言うものだ。今、この技を正統に継いでいるのは、1人の日本人だけだと陳爺は言う。

その時、ジョー(高田宗彦)がやって来て、仕事をさぼるな!と叱りながら、陳爺を突き飛ばし、陳爺が落とした特別室の鍵を拾い上げると、陳爺が止めるのも聞かず、そのまま下に降りて行く。

特別室の鍵を開け、中に入り込んだジョーは、驚く沙利に襲いかかるが、そこにやって来た龍が、ジョーの首根っこを掴んで外に連れ出すと、あの方をジャガー様にお渡しするまでに指一本触れるなと言ったではないかと言い、兄貴!勘弁してくれ!出来心だ!と謝るのも聞かず、その場でジョーを射殺してしまう。

龍は、降りて来た陳爺に特別室の鍵をかけさせると、甲板に登り、船員たちを呼び集めると、ハッチから陳爺が持ち上げて来たジョーの死体を見せ、許しを得ないでこのハッチに入ると、出て来るときはこうだぞ!と脅し付ける。

そして、新入り!と杜夫を呼びつけると、陳爺と2人で、ジョーの死体を海に投げ込ませる。

その後、龍と鉄はキャプテンに、早く接岸してくれと頼んでいたが、濃霧が発生しているので、この霧じゃダメだとキャプテンにはねつけられる。

甲板の階段に腰掛けていた杜夫に気づいた船員の1人が近づいて来て、噓か冗談なのか、おめえは日本が見えても上陸禁止だそうだと告げ、薄笑いを浮かべながら去って行く。

物思いに耽っていた杜夫に近づいて来た陳爺は、何を考えているんだい?と話しかける。

たった一人の兄貴の事を思い出しているんだ。中国で別れたきりなんだ。きっと日本に帰っていると思うんだと言うので、上陸すれば会えるじゃないかと陳爺が言うと、僕はダメらしいんだと杜夫は教える。

すると陳爺は、これを君に謹上しよう。これを持っていれば、前に話していた日本人、少林寺拳法の使い手に会えるんだと言うので、杜夫は、その髑髏の印がついたペンダントを感謝して受け取る。

そんな杜夫に、急に真顔になった陳爺は、君を日本人と見込んでお願いがあるんだと言い出す。

何だい、陳爺?と杜夫が聞くと、あのハッチから船室に降りて来てくれ。お願いする!と陳爺は真剣に頼む。

休憩所では、上陸を待たされることになった船員たちがぼやいていた。

そんな中、陳爺は特別室に食事を運んで来るが、約束通り、扉の側の物陰に杜夫がいて声をかけて来たので喜ぶ。

一緒に中に入ると、沙利は杜夫を観て身構え、下がれ!と命じるが、陳爺が、日本人です。私たちの見方になってくれる人ですと教えると安堵する。

これは一体どう言う事だ?と沙利を見た杜夫が聞くと、あなたはイランゴルと言う国があったのをご存知でしょう…と陳爺が杜夫に問いかける。

(回想)イランゴルは、ヒマラヤの高い山に囲まれたアジアで一番小さな国ですが、とても豊かな国でした。

何故なら、この国は国土全体が無尽蔵の金鉱の上にあって、誰がどこを掘っても水のように金が出るからです。

この国は、代々サラバン王朝が世を治め、正に王道楽土、国王は全国民の尊敬を受けていたのです。

サラバン王は世界一の富を集め、そのハレムには美しい妃たちが妍(けん)を競っていました、ところが、その中に1人の日本婦人がいたのです。

才色兼備の誉れ高く、国王のご寵愛もことのほか。

かくて、イランゴル国は繁栄していました。

ところが突然、一夜にしてこの国が世界地図から消えてしまったのです。

それは恐ろしい陰謀、ジャガーの陰謀です。

ジャガーが国王を襲撃、国王の指輪を奪ったのです。

その指輪の中にイランゴルの金塊の秘密が隠された地図があると思っていたジャガーは、これさえあれば、世界一の富は俺のものだ!と喜ぶが、瀕死の国王は、愚か者め!その地図だけでは分かるまいと言って息絶える。

確かに、指輪に刻まれた地図は半分しかなかったので、残りの半分の在処を聞こうとしたジャガーだったが、時既に遅く、国王は死んでいた。

その謀反を目撃し、驚いて、生まれたばかりの沙利を抱いて逃げ出したのが、日本人王妃、桜妃(伏見和子)だった。

ジャガーは、地図の半分を記した指輪を守っているのが桜妃であると気づくと追って来るが、忠臣陳爺と二人で国境近くまで逃げ延びて来た桜妃は力尽き、陳爺!私はもう歩けない…、どうか、この子を連れて、お前だけ逃げておくれと頼む。

イランゴルを再興を計るものはあなたしかおりません!と陳爺は励ますが、いえ、それは沙利姫です。この姫を守り育てておくれ。この指輪には、北海道のマススリ山に隠した大金塊のあり場所が分かる地図が入っています。ジャガーに渡してはいけません。サラバン王が密かにそこに大金塊を置き、イランゴル国の非常時に供えたのです。私もその時お供としてこの国に来たのです。沙利姫が大きなったら、必ず北海道へ言っておくれ。そしてアイヌを探しなさい…と言うと、桜妃は、そのまま倒れて帰らぬ人となる。

(回想明け)その後、姫はジャガーに捕まり、ここに連れて来られたのです…、助けてくれますか?と陳爺は杜夫に語り終える。

僕の命に代えてもお守りします!と杜夫は約束する。

霧に隠れて逃げましょう。ボートが用意してあります。あなたは漕げますか?と陳爺が聞くと、杜夫は自信がありますと答える。

その時、いきなり龍が入って来て、まだ食事が終わってない事にいら立つ。

とっさに杜夫は姿を隠したので、龍は気づかず、後でゆっくり喰えば良い。出ろ!ジャガー様がお待ちかねだ。そうなったら手も足も出せないからな…と言うと、陳爺を部屋から追い出し、沙利に襲いかかろうとする。

その時、閉めた扉の後から現れた杜夫に気づいた龍は、新米だな?と睨みつけつかみ掛かるが、逆に柔道の技で投げ飛ばされてしまう。

杜夫は銃を取り出した龍と戦いながら部屋の外に出ると、陳爺と沙利に逃げろ!と呼びかける。

竜の撃つ銃はやがて弾切れになるが、甲板には異変に気づいた鉄たち船員が出て来たので、沙利と陳爺は逃げ場を失う。

ハッチから甲板に上がって来た杜夫は、沙利が捕まっているのを知る。

鉄や船員たちが、物陰に身を潜めた杜夫目がけて発砲して来る。

そこに上がって来た龍が、撃つのは止めろ!と制すると、この野郎!ただじゃおかねえ!と叫ぶと、手下が投げたナイフを受け取り、杜夫に迫って来る。

逃げ切れないと悟った杜夫は海に飛び込む。

陳爺と沙利は捕まり、縛り上げられるが、そこにやって来た龍が、あの若造は海の中でお陀仏だよと笑いながら教える。

鉄がキャプテンに船を出せと脅し、やむなく船は動き出す。

それに気づいた陳爺は、ついにお終いです…と落胆する。

しかし、海に飛び込んだ杜夫は、ロープをよじ上って船に舞い戻っていた。

見張りを殴り倒した杜夫は、縛られていた陳爺と沙利を助け出すと、陳が用意していたボートに乗り込む。

それに気づいた隆たちも、別のボートに乗り込んで追って来る。

鉄が鉄砲を取り出すと、女は撃つなよと龍が言い、鉄はボートを漕いでいた杜夫を狙って撃つ。

その弾を浴びた杜夫はボートの中に倒れ込む。

陳爺が代わりにボートを漕ぎ始めるが、そこに霧の向うから巨大な汽船が接近して来る。

陳は間一髪その汽船を回避するが、後から迫っていた龍たちは、汽船に直前まで気づかず、そのまま衝突してしまう。

アイヌの巫女ウルミ(杉本文子)が踊っている。

その巫女が突然、人が来る!人が…、死んだ人が来る!と叫ぶ。

アイヌの家の戸を叩いていたのは、沙利とぐったりした杜夫を運んで来た陳爺だった。

出て来たアイヌのドクター・ウスクラ(吉井莞象)に、陳爺が助けを求めると、その日本人は死んでいる。お入り!と中に誘う。

家の中に横たえられた杜夫の死体を前にして、このものを蘇らせる秘方に必要なのは、死人を助けよう願うものの真心だ。そのものは自分の命を3年縮めることになるのだとドクターが説明すると、この人を助けて下さい!どうぞ、私の命をお使い下さい!と沙利が懇願し、陳爺も、私の方が老い先短い、私の命を使って下さいと言うので、その真心があれば宜しい。若者の命を助けようとドクターは承諾し、祈り始める。

巫女ウルミがその背後で踊りだすが、そのドクターの家に、黒い覆面の男に黒マントが股がった白馬が近づいて来る。

家の前に到着した黒服面に黒マントの男は、家の中に何かを投げ入れ、それは飾られていた銅鏡にぶつかって落ちる。

ドクターがそれを拾い上げ、開いてみると、そこには「王」の一文字が書かれていたので、おお、王(ワン)大人!とドクターは感激する。

黒服面の男は顔を隠していたマスクを降ろすと、白馬で去って行くが、その直後、死んでいたはずの杜夫が目覚める。

起き上がった杜夫に陳爺が名を呼びかけ、沙利は、ありがとうございます!とドクターに礼を言う。

あなたがお出でになるまで、わしは、王大人に頼まれてジャガーの野望を封じるために、あらゆる秘方を研究してきました。

しかし、ジャガーは、恐るべきバラモンの妖術師じゃとドクター・ウスクラは沙利姫に言う。

その時突然、銅鏡の前で踊っていたウルミが悲鳴を上げ失神すると、銅鏡には不気味な男の顔が映し出される。

あ!ジャガーだ!とドクターが叫ぶと、わしは今日と言う日を待っていた!お前たちはわしの手の中にあるのだ!と言ったジャガーの言葉が、乗り移ったウルメの口を通し発せられ、ウルメはジャガーの声で笑い始める。

ジャガーの挑戦-、三人の運命は-(のテロップとナレーション)

(走る白馬に股がった王大人の姿を背景に)王大人とは何者か?(とテロップとナレーションが重なる)


 

 

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