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花のヒロイン 

 

 

 

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続向う三軒両隣り 恋の三毛猫

ラジオドラマの映画化の第4話で「続向う三軒両隣り どんぐり歌合戦」の後編に当たる。

「キネ旬データベース」では「続向う三軒両隣り 恋の三毛猫」、東宝WEBデータベースでは「向う三軒両隣り 恋の三毛猫」など、タイトル表記がいくつか分かれているが、画面上のタイトルには「続(旧字)向う三軒両隣り 第四話 恋の三毛猫」と出る。

そして「前後編」の二部構成になっている。

前作に続き少女時代の美空ひばりさんが登場する。

女性アナウンサーの朗読とドラマ部分が交互に登場する形式になっており、戦後間もない頃の貧しい庶民たちの人情ドラマが描かれているが、後半は子役美空ひばりのスター誕生のような趣向になる。

劇中、南ヶ丘撮影所として東宝スタジオが登場し、藤田進、李香蘭、高峰秀子、エノケンと笠置シヅ子と言った当時のスターたちがさりげなく出ているのが凄い。

エノケンと笠置シヅ子さんが共演している撮影中の時代劇が何なのか不明。

新東宝の「エノケン・笠置のお染久松」(1949)の撮影風景を東宝が使ったのだろうか?

そのスタジオエピソードの中でひばりさん演じる子供が本物の美空ひばりと間違えられると言うシーンがあり、1日に5万のギャラが払われていると言っているのが驚き。

もちろんフィクションの中の値段なので本当の金額ではないだろうが、1950年の5万と言う数字は妙なリアリティがある。

大卒の初任給がまだ5000円に達していなかった頃、子役の1日のギャラが5万だとしたら、今の大卒初任給が20万だとすると200万くらいか? ひばりさんは当時まだ小学生くらいながらもう映画出演だけでも10本を越えている時期なのであり得なくはない数字のような気がする。

子役でそのギャラだとすると、大人のトップスターたちは今の価値観で1000万くらいは1日に稼いでいたのかもしれない。

ひばりさんも、この後成長するにつれギャラはもっとうなぎ上りになって行ったに違いない。

金語楼さん得意の泣き顔もふんだんに登場する。

この時代の金語楼さんは前髪だけは堤防のように残っている。

白黒映画で低予算なので、花井家の屋敷などは絵合成で表現されている。

エピソード的には、身よりがなかった健吉と言う少年を養子にした車屋(柳家金語楼)と仲が悪い新興成金の花井夫人(清川虹子)のエピソードと、虚栄心が強い妻を持つ失職をした元高等官とまだ幼い娘(美空ひばり)がサンドイッチマンと納豆売りをして生計を支える2つの子供を絡めた話が基本になっている。

その貧しい庶民と対照的に、高慢な虚栄心に満ちた俗物も悪役風に登場している。

貧乏人は清く正しい心を持っており、金持ちは鼻持ちならない人物が多いと言う、いくらなんでもステレオタイプ過ぎるだろうと感じる設定なのだが、視聴者の大半が貧しかった当時としては、こう云う分かりやすさの方が寓話として受け入れやすかったと言うことかもしれない。

何しろ戦争で家や親を失った浮浪児たちが出て来る時代だから、今とは全然違う。

ただし劇中に登場する浮浪児たちは、格好こそ汚い衣装を着せられているが、髪型はきれいに散髪されているのが不自然。
▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1950年、東宝、八住利雄+伊馬春部+北条誠+北村寿夫原作、八住利雄+成澤昌茂脚本、斎藤寅次郎監督作品。

タイトル キャスト、スタッフロール

「JOAK RADIO TOKYO」ビル

放送スタジオで、「向う三軒両隣」の中の山田家の主人孝助さんは、高等官にまでなった失業官吏でしたが、自分から納豆売りになった娘の孝子さんに勇気づけられてサンドイッチマンとなり、虚栄心の強い奥さんにもわざとその姿を見せて…と女性アナウンサーが朗読する。

泣きながら逃げようとするよし子(江戸川蘭子)に、何故逃げるんだ?とサンドイッチマンになった孝助(江川宇禮雄)が追いかけて来ると、すみません、あなた、その手を離して下さい!とよし子は孝助の手を降り払う。

大きい会社の課長なんて嘘を言ったのは、それは私が悪かった、謝ると言いながら、かぶっていたシルクハットを脱いで頭を下げた孝助は、私には本当の勇気がなかったんだと説明する。

しかしね、よし子、これが、このサンドイッチマンが今の俺の本当の値打ちなんだよ、孝子は毎朝、納豆を売っているんだよと言うと、よし子はえっ!と驚く。

そして孝子と俺とが働いて得たお金で、お前のせめてもの見栄が支えられているんだよと孝助は言い聞かす。

そこに募金箱を持った孝子(美空ひばり)が駆けつけて来る。

孝子もさっきみんなの前で俺のことをお父さんって呼んでくれたんだ、よし子、お前も何でこの俺をあなた!って呼んでくれないんだ、ん?と孝助は言う。

話を聞いていたよし子は、私、私…と感極まってその場に泣き崩れたので、孝子が、お母さん!そんな所で泣く方がよっぽど恥ずかしいわ、お母さん、泣かないで、泣かないでよ~と駆け寄って慰める。

ところで、向う三軒の近くの空き地は健吉たちの楽しい遊び場でしたが、ある日野球のボールが地続きの花井家に飛び込んで…と女性アナウンサーが朗読する。

ガラス窓を破って家の中に飛び込んだボールは、ちょうど食事中だった花井夫人(清川虹子)のクリームスープの皿の中に落ちたので、スープが夫人の顔にかかってしまう。

まあ!誰です、失礼な!と花井夫人は怒り出す。 そこに、奥様、車屋が玄関口に来ておりますが…と書生牧野(田中春男)が知らせに来る。

あんな車に用事ありません!と顔を拭きながら答えた花井夫人が玄関に出て見ると、健吉たちを連れた坂東亀造(柳家金語楼)が、奥様、飛んだことを致しまして…、この通りお詫びします、御勘弁くださいまして…と深々と頭を下げて来る。

するとボールを持った花井夫人は、ふん、車屋風情が生意気にボール遊びなんかするからだよ!と罵倒する。

はい、何と申されても一言もございませんで、ガラスは弁償させていただきますからと亀造が低姿勢に謝ると、ただのガラスと違うんだよ、とっても高いんだよ!と花井夫人は興奮気味に言い返す。

それも十分心得ておりまして、へい…と亀造が苦笑すると、お前がわざと投げつけたんだろうなどと花井夫人は言いがかりをつけて来るので、トンデモねえことですよ、そんな…と亀造は否定する。

家の大事なお嬢さんにもし当たったらどうするつもりなの!お前の頭とは違うんだよと花井夫人の怒りは収まらず、ボールを亀造のはげ頭にぶつける。 すると健吉が進み出て、おばさん、お父さんじゃありません、僕がやったんです、どうぞ許して下さいと頭を下げる。

すると花井夫人が、お黙り、浮浪児!と罵倒したので、何を!浮浪児とはなんだ、浮浪児とは!とさすがに低姿勢だった亀造も怒り出す。

東京都の知事が認めた立派な俺の子なんだぞ!と亀造が詰め寄って来たので、そんなことどうだかしらないけどね、あの空き地は家の地所なんだからねと花井夫人は言い返す。 それがどうしたって言うんだい?と亀造も負けていない。

こうした亀造の態度に花井夫人は、明日から誰1人あの空き地には出入りさせません!と臍を曲げてしまう。

何言ってるんだい、このペルシャ猫!と亀造が悪態をつくと、何ですって!と花井夫人は逆上し、そこに書生牧野が飛び出して来て、おい、車屋!奥様に対して言葉が過ぎるぞと注意する。

すると亀造はその牧野を投げ飛ばしたので、何をするの、乱暴な!と花井夫人が驚くと、ねじり鉢巻を締めながら、今まで人が謝ってりゃ良い気になりやがって…と亀造が凄い形相で怒り出したので、キャー!おゆき~!と花井夫人は女中の名を呼び、健吉はお父さん!喧嘩は止しとくれよ、よう、お願いだから!と言いながら亀造にしがみつく。

おめえ、黙ってろ、畜生!と亀造は興奮していたが、みどり姉ちゃんも言ってたよ、喧嘩っ早いのがお父さんの一番いけない所だって…、そんなげんこを振り回すのはもう流行らないんだよと健吉はなだめる。

お父さん、そのげんこを止めてくれなけりゃ、僕お父さんが嫌いになるよと言われた亀造は、お前に嫌われたら、お父さんどうすりゃ良いんだ?と聞くと、だからさ、こっちが悪かったんだから謝ろうよ、よう、お父さん、よう謝ろうよ!だからさ、こっちが悪かったんだから、謝ろうよ、お父さん、謝ろうよと健吉は言って来る。

巨漢の女中おゆきも出て来て腕っ節を自慢げに見せて来たので、いけない、すみません…とあっさり態度を変えて亀造は謝る。

翌日、空き地には「ハイルベカラズ 立入禁止 花井家」と書かれた立て札が立つ。 それを黙って見つめる野球少年たち。

花井家にボールを打ち込んだ健ちゃんは以前夕刊売りをしていた宿無しの子供で、亀造さんの里子になっていましたが、学校で共同募金のお金がなくなった時に疑いをかけられ、その上…と女性アナウンサーの朗読姿。

公園で一緒に弁当を食べていた亀造が健吉に、どうだ、旨かったろう、たくさん食ったか?と聞くと、食後のみかんを食べていた健吉は嬉しそうに頷くので、やっと元気になったんだなぁと亀造は喜ぶ。

すると健吉が笑い出したんで、何笑ってるんだ?と聞くと、お父さんの鼻にご飯がついているよと健吉が指摘する。

その鼻に付いたご飯も口に入れ、ほっと安堵の息を漏らした亀造だったが、ふと前方を見ると、掃き掃除をしている復員兵姿の男に見覚えがあったので立ち上がる。

お父さん、どうしたの?と健吉が聞いて来るが、いや、今…と言葉を濁しながらその復員兵姿の男の側に近づいた亀造は、おめえ、泥棒だろう?と声をかける。

何を言ってる?と男は無視しようとするが、俺の家に風呂敷包みを預けて行ったの、おめえだろう!と亀造は詰め寄る。

すると男ははっとしたようで、あの箱の中は何だ!と聞く亀造からいきなり逃げ始めたので、亀造も後を追う。

男が転んだので亀造は飛びつくが、男はそれを振り払って又逃げたので亀造も後を追う。

そこへやって来た健吉は、男が転んだ場所に落ちていた「大」と彫られた指輪を拾い上げる。

それを見た健吉は、あ、兄ちゃんだと気づき、兄ちゃ〜ん!と呼びかけながら後を追うが、途中で追うのを諦めた亀造は追って行く健吉を見ながら、兄さん…、兄さんとはおかしいぞ…と呟く。

指輪が証拠で、健ちゃんの兄さんと分かった若い男は、いつか花井家で空き巣狙いにあった風呂敷包みを亀造さんの娘のみどりさんに預けて行った男でした、そして…と女性アナウンサーの朗読。

自宅で娘のみどり(野上千鶴子)から頭を冷やしてもらっていた亀造の所に老婆つる(飯田蝶子)と一緒に訪ねて来た孝子は、おじさん、お金が見つかったのよ、お金が!と知らせる。

何!と亀造が驚くと、いえね、10円札が20枚1束になったのがこの子の箱の中にちゃんとあったんですよとつるが説明する。

まあ!とみどりが驚くと、健ちゃんがまとめる時気がつかなかったのよと春恵が指摘する。

それ見ろ、それ見ろ!と亀造が怒ると、私も健ちゃんを疑っていたの…と孝子は後悔するように打ち明け、健ちゃんに謝らなきゃ…、謝らなきゃ…と泣きそうになる。

今頃そんなこと言ったって手遅れでい!と亀造は悔やむが、健ちゃんどこにいるの?と孝子が聞くと、知らねえやい!どっかへ行っちゃった!と悔しそうに言う。

おじさん、本当?と孝子が聞くと、亀造は黙り込んでしまい、つるはナンマンダブツ…と念仏を呟く。

翌日、孝子は「立入禁止」の立て札のある空き地の前に1人来ると歌い出す。

亀造さんの所から家出をした健ちゃんはどこにどうしているのでしょうか?「向う三軒両隣り 前編」の終わりでした…と女性アナウンサーの朗読。

街角に響く「夕刊!夕刊!」と呼びかける子供の売り声。

道に座って夕刊を売っていた子供に、おめえ、健吉って子供知らねえか?と話しかけたのは車を引いていた亀造だった。

健吉か?とその子が聞き返すと、おう、やっぱり夕刊を売っててな、可愛い顔して、けらけらけらっておもしろい笑い方をする子なんだよと亀造は説明すると、健ちゃんかとその子が言うので、知ってるのかい?と聞くと、おじさん、新聞買ってくれるのかい?1枚20円だぜと言うので、買ってやるよ、嬉しいな…と亀造は答え、金を渡して新聞を受け取る。

で、健吉はどこにいるんだ?と聞くと、そんなガキ、知らねえよと新聞売りの子供が言うので、こんちくしょう、又食わせやがったな!と亀造は騙されたことに気付いて悔しがるが、車の席に買った新聞を置いて立ち去る。

車の席には既に、あちこちの夕刊売りから買った大量の夕刊が積んであった。

上野の西郷隆盛の銅像 拾った煙草の吸い殻を仲間と分け合っていた健吉が、近づいて来た車屋の亀造に気付き、あっ!おい逃げろ!と仲間の少年に呼びかける。

その場から離れた時、仲間の少年が、健ちゃん、誰が来たんだい?と聞くと、俺のお父さんだと健吉は教える。

何だ、俺はサツかと思ったぜと仲間の子が言うと、お父さんは俺を探しまわってるんだと健吉は言う。

健ちゃん、どうして帰んないの?俺にお父っつぁんがいたら、すぐ帰っちゃうんだがな〜と仲間の子が聞くと、訳があるんだよと健吉が言うので、どんな訳だい?と聞くと、なあブー公、このモク、みんなお前にやらあと言い、健吉が持っていた吸い殻を全部差し出したので、本当かい?とブー公は喜ぶが、その代わり頼みがあるんだと健吉は言い出す。

何だい?とブー公が聞くと、健吉は何事かを耳打ちし、な?と言うので、ブー公はうんと頷く。

分かったな、お父さんが健吉って子を知らないかと聞いたら、知らないって言うんだぞと健吉は念を押す。

そして健吉は持っていた紙に何かを書き始める。 その紙を持って亀造に渡しに行ったブー公は、何だ?広告配りか?と言われるが、紙を広げた亀造は、あれこれはパーマネントの広告じゃないかと気づき、俺の頭にどうしてパーマネントかけるんだよ、しっかりしろい!と叱ってくる。

ところがブー公は、おじさん、僕、健ちゃんのいる所知らないよと余計なことを言って去ってしまう。

亀造はチラシを前掛けのポケットに入れながら、2〜3日この辺回っているから子供が覚えてやがる…とがっかりしたように立ち去る。

そんな亀造はサンドイッチマンをしていた孝助とばったり出くわす。

坂東さん!と声をかけられた亀造は、山田さん、どうもと挨拶する。 健吉君、まだ分かりませんか?と孝助が聞くと、一向にね〜、それで仕事もろくろく手に付かず弱ってます…と亀造は打ち明ける。

お察ししますよと同情した孝助は、私もこうして歩きながら出来るだけ気を付けて歩いているんですがねと言うので、1つお願いしますと会釈をし、亀造は別れる。

「坂東」の名が書かれた行灯風の電灯がついた自宅に来ていたつるは、こっちの親方だけじゃありませんよ、向う三軒でもみんな手分けして、もちろん警察へも届けたし、一生懸命探しているんですけどね〜とみどりに話していた。

本当にみんなにとんだ心配をかけてしまって…と茶を煎れながらみどりも恐縮する。

うちの孝子もね、何としてでも健ちゃんに会って謝らなきゃって、毎日泣いてますよとつるは言う。 でも疑われたお金が出て来たってことは1日も早く健ちゃんに知らせてやりたくてね〜とみどりは答える。

でもねみどりさん、あの子のお兄さんは本当に花井さんに空き巣に入ったのかね〜?とつるが聞くと、私にはどうしてもそんなことをする人とは思えないんですけどねとみどりは答える。

そこへ泥酔した亀造が帰って来たので、又酔っぱらってるのねと呆れながらみどりが家の中に上げる。

それでも座り込んだ亀造は、何言ってるんだい、おいみどり酒持って来い!1本つけろ!とくだをまくので、ダメよ、もうこんなに飲んでるじゃないのとみどりは叱る。

てやんでぃ、ケチケチすると暴力奮うぞ!と言いながらねじり鉢巻を絞めようとするので、ええどうぞ、げんこを奮うとさぞかし健ちゃんが喜ぶでしょうからねとみどりが皮肉を言う。

すると健吉のことを思い出した亀造は一気にしゅんとなり、何言ってるんだ、畜生!と泣き顔になる。

酔っぱらってみたってごまかせないでしょう?親方とつるが口を挟むと、健坊~…と言いながら亀造は泣き出す。

もっともっとお泣きとつるが言うと、健吉はどこに行ったんだ~と亀造はオーバーな顔で号泣するので、親方、泣くときゃ涙だけ流すと良いんですよ、何も汚い鼻水まで垂らすことはないでしょうとつるは言い聞かす。

鼻水出たら拭きゃ良いんでしょう?と言いながら亀吉は前掛けのポケットから紙切れを取り出すので、お父っつぁん、こんなもので拭いたら鼻の先が赤くなるでしょうと叱り、取り上げたみどりが鼻紙を渡す。

亀吉が鼻を拭いている時、何気なくチラシの裏に目を通したみどりは、あら、健ちゃん、健ちゃんよ、このビラどうしたの?とみどりは紙切れを亀造に見せながら聞く。

おお、健吉の字だ!と気付いた亀造は、読んでみなとみどりに頼む。

「兄ちゃんを見つけてもし本当に泥棒だったら噛みついてやる。僕が警察へ連れて行く、いくら探しに来てもそれまでは帰りません 健吉」とみどりが読み上げると、ああ、健吉…、どこに隠れてやがるんだろうな…、こんな巧え字を書きやがって…、健吉〜とそのチラシを取り上げた亀造は又泣き出す。

翌日から、「健吉に告ぐ お前に疑いのかかった金は出てきました。兄さんは一緒に探しましょう。会いたいよ、すぐ帰って来ておくれ お父っあんの亀造」と書かれた看板を背負って、孝助も町中を歩き回るようになる。

先頭に行く途中、喫茶店に寄ったみどりを出迎えた小林春恵(杉山美子)が、あら、みどりさん、いらっしゃいと出迎えると、あら、春恵さん、これ何?と言いながらみどりが置いてあった丸めた紙を広げると、それは「喫茶店 白百合 看板デザイン 小林春恵の店 喫茶 白百合」と描かれたデザイン画だった。

どこかの装飾屋さんが来てね、店の前にこんな看板出したらどうかって勧めに来たのよとコーヒー豆の準備をしながら春恵が教えると、小林春恵の店か…と微笑みながらみどりはそのデザイン画を丸める。

小林春恵なんて書いたって誰も知っている人はありゃしないのにね、こんな看板出したらかえって物笑いになるって言ってやったわと春恵が言うので、あら、そんな事ないわよ、知る人ぞ知る、小林春恵は南ヶ丘スタジオのスターだもんとみどりはお世辞を言う。

あら、スターだなんて、恥ずかしい!と春恵は笑う。

あら、撮影のない時にお家を手伝うのはスターとしても立派な心がけよとみどりが褒めると、いくらおだてても何にも出ませんと春恵は言い返す。

みどりが洗面道具を持って帰ろうとした時、店の隅の席で大量の食事をして苦しそうな老人客がいたので、随分食べたわね〜と小声で春恵に聞くと、妙なのよ、初めて来たお客さんだけど…と春恵も怪しんでいるように小声で答える。

あんな年寄りのくせにね〜とみどりも不思議がる。

まるで何日間も何にも食べてなかった人みたいに、がつがつ食べて次から次に注文するのよと春恵は言う。

そう、撮影所行き教えてね、私、これからお湯なのよと洗面器を見せたみどりは、さよならと言って店を出て行く。

その後、席を立って近づいて来た老人客花井涼助 (伴淳三郎)が、私を交番に連れて行ってくれと言い出したので、春恵は驚く。

僕はお恥ずかしいが一文の持ち合わせもないんだと花井老人が言うので、何ですって!と春恵は聞き返すが、その途端、その花井が昏倒したので、パニクった春恵は、お母さん!と店の奥に呼びかける。

看護婦2人とともに往診に駆けつけた医師神田守(河津清三郎)に、神田先生、この人死んじゃうんじゃないですか?と呼び寄せた母親(浦辺粂子)が聞くと、大丈夫、大丈夫と答えながら、並べた椅子の上に寝かせた花井の腹を押さえ、酷くおなかが空いた所にいっぺんにたくさん食べたからでしょう?と神田医師は言う。

看護婦から木槌を受け取り、膨らんだ花井の腹を叩くと、花井は口から白い粉を吹き出すので、この通りですからねと神田医師は指摘する。

春恵に教えられ、どうしたんですか?と亀造と孝子も店に来ると、食い逃げしようとしたんですよと春恵の母親が教える。

ふてえ野郎だなと亀造が憤慨すると、坂東さんご苦労さん、とりあえず僕の家まで運んでくれませんかと神田が寝ている花井のことを頼む。

こんな食い逃げするような野郎なんか!と亀造は断ろうとするが、僕は医者ですよ、死刑囚でも介抱するのが医者の勤めですと言うので亀造が恐縮すると、それに民生委員です、この人もきっと何か気の毒な事情があるんでしょうと神田は指摘すると、君、僕この人の勘定を渡しとくよと言い出したので、とんでもない、先生にそんな事していただいては…と春恵は遠慮するが、母親の方は春恵に肘鉄を打つ。

それを聞いていた亀造は、神田先生は日本一だ、大統領!とおだてたので、何を言ってるんです、これだ、運んで下さいともう一度花井の腹を木槌で叩くと神田は頼む。

その木槌を借りた亀造が同じように花井の腹を叩いてみると両足が垂直に跳ね上がったので、それを押すと、今度は上半身の方が起き上がったので、その背中側を背負って亀造は車まで運ぶことにする。

神田の病院に着いた亀造は、これは何ですな、芝居か小説の良うな事情があるんじゃないでしょうかね?と楽しそうに神田に話していた。

その時、どこからか孝子が歌うご飯が炊けたらおみおつけ~、それから納豆お買いなさい♩と言う納豆売りの歌が聞こえて来る。

それは山田孝助の妻で孝子の母よし子が割烹着姿で盥で洗濯をしている横で歌う孝子だった。

神田の奥さん(清川玉枝)と一緒に裏手に出て来た亀造は何だ孝子ちゃんじゃないかと笑うが、よし子に気付くと、奥さん、何だって洗濯ものなんかしてるんです?と聞くと、私こちらへ通いの家政婦で参っておりますのとよし子が言うので、へえ奥さんが…と亀造が驚くと、坂東さん、そうなんですよ、昨日から…と神田の奥さんが教える。

家中のものが気を揃えて働きませんことにはね、主人にばかりサンドイッチマンはさせておけませんもの…とよし子は心を入れ替えたように言う。

ああそうですか、良くそこに気がついてくれました、奥さんならではのことです!と亀造も感激する。

恐れ入りやした、あっしも手伝わさせていただきます、どうぞ1つ!と亀造が申し出ると、良いんですの…と遠慮するよし子に、無理矢理井戸水を汲み上げてやる。

ところがあんまり張り切り過ぎてポンプを押していたため握り手が折れてしまう。

亀造は折れた部分を舌で湿らせてくっつけようとする。

南ヶ丘撮影所では昼休み中、人気スターの藤田進がファンたちにサインをしてやっていた。 笑顔の李香蘭こと山口淑子、高峰秀子もいた。

スタジオ内では時代劇のエノケンと笠置シヅ子が踊っている舞台シーンをクレーンカメラが撮っていた。

第一ステージ前の噴水に座った春恵はコート姿なのに日本髪を結っており、見物に来たみどりと孝子に、今日はエキストラをたくさん集めて時代劇の聴衆シーンがあるのよと教えていた。

エキストラって何?と孝子が聞くと、臨時雇いの俳優さんのことよと春恵は教えると、フ〜ン、じゃあアルバイトに良いわねと孝子は納得する。

それを聞いた春恵とみどりは笑い出し、孝ちゃんったら小さいくせに生意気言ってるわとみどりがからかう。

その時、1人の助監督が近づいて来て、ひばりちゃん、こんな所で遊んでちゃダメだよ、さあ行こうと孝子に手を引いて立ち上がらせたので、どうかしたんですか?この子が何かしたんでしょうか?とみどりが聞くと、いやあ、早く行かないと撮影だから困るんですよ、これだから子役は嫌になっちゃうな〜と助監督は説明する。

あなたにはね5万円と言う出演料を払っているんですよ会社からと助監督が孝子に言うので、あら、それ何かの間違いじゃない?と春恵も口を出すと、そう居直られちゃ困るな〜、とにかくギャラのことはプロデューサーと話合って下さいよと春恵に言った助監督は、さ、ひばりちゃん、仕事だから行こう!と声をかけ、孝子の手を引いてスタジオに連れて行ってしまう。

スタジオの中では着物姿の本物のひばりちゃんが首に包帯を巻いており、母親が、お魚の骨が引っかかりまして…と監督(中村哲)に説明していた。

そんなバカな!と監督は怒りその日の群衆シーンは中止となり帰り支度を始めるが、そこに件の助監督が孝子を連れて来る。

監督は首を傾げ、名前は?と聞くと孝子…と言うので、歌歌えるの?と聞くと、歌大好き、何でも歌えるわと孝子は答えるので、踊りは?と聞くと、踊れるわと言う。 それを聞いた監督は指を鳴らし、良し、この子で行こう!至急衣装を着替えさせてと助監督に指示する。

はいと答えた助監督だったが、君、ひばりちゃんじゃないの?と初めて間違いに気付いたようだったが、孝子よと答えると、おかしいな〜と首を傾げながらも衣装部へ連れて行こうとするが、その手を振り切って監督の所に戻って来た孝子が、私、1日5万って本当?と聞くと、監督は、分かってる、分かってるとなだめる。

すると孝子は急に笑顔になって、ああそうと納得する。

監督は、中止するよりこの方が安いや…と胸算用する。

町娘姿に着替えた孝子はステージ上で歌い踊り始める。

カット!良かった、良かったと監督が褒めると、先生、本当に5万頂戴ねと孝子は念を押す。

分かったと答え、更に撮影は進む。

タキシード姿に着替えた孝子は、摩天楼を描いた絵の前で歌を歌い出す。

カットをかけた監督の下へ戻って来た孝子は、5万円大丈夫?と更に念を押す。

分かった、分かったと答えた監督は更に継ぎを促す。

白いドレス姿に着替えた孝子は「鳴くな小鳩よ」を歌い出す。

カットをかけた監督は、戻って来た孝子に、5万円分かっているから、さあと自分から先に言うようになる。

再び町娘姿に着替えた孝子は「ジャンケンブギ」を歌い出す。

その頃、医者で治療を受けていた本物のひばりちゃんは、喉からメザシを1匹抜かれていた。
 


 

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