白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

夜の配当

田宮二郎主演の産業スパイもの。

産業スパイもの+ピカレスクロマンと言った感じで、悪知恵を働かせて法律の裏をかき一儲けを企む悪党の話になっている。

原作があるだけに緻密な筋立てになっており、派手さはないがぐいぐい展開に引き込まれて行くおもしろさがある。

とは言え、一介のサラリーマンが実力はあるが裏もある重役の社会的生命を奪うほど懲らしめると言う動機部分にやや無理があるような気もしないではない。

主人公個人が在籍中、復讐を誓うほどの辛酸を嘗めさせられた私怨が動機かと思っているとそうでもなく、単なる正義感が動機のように見えるのが今ひとつすかっとしない部分かもしれない。

そもそも、やり手の重役が会社の金を私物化したり妾に店を持たせていると言う事と、会社を辞めた元部下が会社を強請って大金を巻き上げる行動は、「必殺!」みたいな勧善懲悪ではないだろう。

何しろ問題の重役はやり手なので、会社に多額の利益をもたらせている良い面もあるはずで、社会や会社を害する極悪人ではないと思う。

やり手であるだけに部下には厳しいかもしれないが、それが社会的生命を奪われるほど罰せられるほどの悪だろうか?

それに対し主人公がやっていることはどう見ても狡猾な強請であり、やり方のおもしろさはあるものの共感すべき面はほとんどない。

毒を以て毒を制すると言う2つの毒が対等に見えないのだ。

その奸智に長けた悪党に扮するのは田宮二郎だが、この作品で一番芝居に感心させられるのは山茶花究演じるやり手の石神常務。

言わば主役が戦うべき敵役なのだが、切れ者、出来る男と言うキャラなのでそういう風に見えなければならず、山茶花さんは演出通りにやっているとは言え、ちゃんとそういう風に見えるし、その巧さにぐいぐい引き込まれる。

ひょっとしたら本作は山茶花さんの代表作の1本ではないかとすら感じる。

檜垣課長役の早川雄三さんも、ちょっと間の抜けた中間管理職のキャラを真面目かつちょっとユーモラスに演じているのが珍しい。

大魔神こと橋本力さんもちらり登場しているが、思ったほど大柄と言う訳でもないのでちょっと意外な感じがある。

田宮さんと並んでも頭1つ小さいくらい。

この手のサラリーマン(?)向け映画が当時成立していたと言うのは、まだ映画館人口が多く、日本人特にサラリーマン層が良く映画館を利用していたからではないかと思う。

大映以外の映画各社も5〜60年代はサラリーマンものと言うジャンルをコンスタントに作っていたくらいだから。

ただ娯楽の選択肢が増えた今、この手の映画を作ってもサラリーマンは映画館には来ないような気がする。

最後のサラリーマンジャンルシリーズだったような気もする松竹の「釣りバカ日誌」シリーズも、興行的にはほとんど伸びなかったし、その後同じような映画発信のサラリーマン企画が出て来ない所を見ると、ジャンルとして成立するようなことはもうないだろう。
▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1963年、大映、梶山季之原作、田口耕三脚色、田中重雄監督作品。

タイトル(不協和音のような音と会議のシーンを背景に)

スタッフ、キャストロール(どこかの部屋に忍び込んだような設定の女のシルエット、女のヒールや手のアッップを背景に)

数人の男たちの足下が部屋から出て来て立ち去ると、女のヒールが机の影から出て来て、誰もいなくなった会議室に入る。

女のシルエットは、机の上に置いたままだったメモの切れ端に書かれた「ポリレン」と言う商品名に○が付いている書き込みを見る。

その名の横には、ポリポロとかポロレンと言った他の候補名も書かれていた。

新たな営業会議では、新商品「夢の繊維ポリレン」の広告ポスターが数種類出来上がり、それらを前に、我々には4つの鉄則がある!と石神常務(山茶花究)が発言していた。

良いかね?消費者にはどんどん使わせてどんどん捨てさせること!ムダ使いさせること!流行遅れにさすこと!そのためには次々に新しい流行を作り出すこと! 消費者が王様なんてのはただの体裁なんだ、需要は松もんじゃなく作るもんなんだ!と石神常務は言う。

そして我々は今ここに夢の繊維ポリレンを生んだ!このポリレンこそは合繊業界が待ちに待った革命的新製品なんだ! ウールにもなれば綿にもなる、否、皮にさえ化けるんだ、この新製品を引っさげて、我が世界レーヨンは合繊業界を一気に制するつもりである!良いかね?我が世界レーヨンはポリレンに全生命を賭けた!ポリレンを売って売りまくれ! 国野市工場増設の暁は日産40トンの生産も可能である!他社の首根っこを押さえつけてグロでもダウンしてやるんだ!と石神常務は檄を飛ばす。

良いね?それから宣伝部長!と石上が呼びかけるが、木村宣伝部長(花布辰男)は頭を抱えて下を向いて考え込んでおり気付かないようだったので、横にいた津田宣伝課長(杉田康)が部長!と声をかける。

木村が顔を上げて立ち上がると、宣伝と言うのはだね、3年経ったら放っといても売れる品物を半年や3ヶ月で売り切ろうというものじゃないのかい?と石神は問いかける。

はっと木村が答えると、君のやり方は全く生温いよと石神は指摘する。

知恵を使うんだよ、これからの宣伝はフレッシュなアイデアマンでないとやって行けん、木村君、君には全くそのセンスが欠けている!君は田舎回りのチンドン屋に過ぎん、良いかね?今日唯今から、津田君!君が代行したまえ!良いね?と石神常務は言い出す。

いきなり指名された津田は立ち上がり、はっ!と答えるが、立ったまま無視された木村部長は戸惑い、あの…、常務…と問いかけると、不服かね?社長が病気療養中は僕が人事権一切任されている、嫌なら辞めても良いんだよと石神は葉巻をくゆらせながら言う。

はっ…と答え座った木村は胸を押さえ力なく咳き込む。

世界レーヨン株式会社の新製品ポリレンの広告が載った新聞を見ていた伊夫伎亮吉(田宮二郎)は、磨いていた馴染みの靴磨き(伊達正)から、旦那、病気だったのかね?随分見なかったからね〜と声をかけられ、辞めたんだよ、会社を…と答えると、そうかね、どおりで良い皮だね〜、昔と大違いだと靴磨きは磨いていた伊夫伎の靴を褒める。

伊夫伎が背後のビルを見上げていると、はい、お待ちどう!と靴磨きが声を賭けたので、金を払ってビルへと向かうが、あ、お釣り!お釣り!と呼びかける靴磨きに手でいらないと答えたので、あ、どうも…と靴磨きは感謝する。

コートを脱いで、受付の前に来た伊夫伎が、石上常務にお目にかかりたいんですけど?と声をかけると、それまで下を向いて書き物をしていた受付嬢が、お約束ですか?と良いながら顔を上げ、な〜んだ、伊夫伎さん!と喜ぶ。

石神常務に取り次いでくれと頼むと、常務?どうかな〜?と言いながら内線の受話器を取った受付嬢は、今どこにいるの?伊夫伎さんと聞くが、伊夫伎は無視する。

あ、文書課?常務さんは?あらまだ会議中?と受付が受話器に問いかけると、文書課長で良いよと伊夫伎は言う。

そこに、もう1人の受付嬢が来て、伊夫伎を見て、あら〜!と喜ぶ。

最初の受付嬢は内線をかけ直し、部長さんですか?伊夫伎さんですけど?はい分かりましたと答えるが、その時、ロビーに救急隊員がストレッチャーを運んで来て、それに付き添って来た社員が、よお伊夫伎君!と声をかけて来たので、伊夫伎もどうしたんだい?と近づいて聞く。

木村宣伝部長だよ、会議中に倒れたんだと運ばれて行くストレッチャーの方を見ながら社員は言う。

石神常務にガチ〜ンと言われたんでね〜と社員は説明する。

前々から肝臓は悪かったんだが…、所でいやにばりっとしてるじゃないか?と社員が伊夫伎の様変わり振りに驚いた時、受付嬢が、伊夫伎さん!第一応接室へどうぞ!と声をかけて来たので、じゃ!と社員に断って応接室へ向かうので、取り残された社員は唖然とする。

応接室に来た桧垣文書課長(早川雄三)は、よお、君!他人行儀やな〜、受付を通して来るなんて…と久々に会う伊夫伎に笑顔を見せる。

どうもご無沙汰しておりますと笑顔で答えた伊夫伎は、どうカネその後は、元気かね?と聞かれ、ありがとうございます、おかげさまで…宜しくお願いしますと愛想笑いを浮かべながら名刺を手渡す。

その名刺を見た檜垣は、何だい?トラブルコンサルタントとは…と聞くと、は、今度僕が新しく始めました商売で…と伊夫伎が答えると、ふ〜ん、コンサルタントね…、それで?と檜垣は名刺をポケットに仕舞いながら聞く。

ちょっとこの広告を見ていただきたいんですが?と言いながら伊夫伎が新聞を取り出し、これは確かに世界レーション?と聞くので、君!君は何か?もううちの広告も他所の広告も区別がつかなくなったのか?と檜垣は皮肉る。

いや〜、始めに確認していただきたかったんですよと笑顔で答えた伊夫伎に、何?何が言いたいのや、君は?と檜垣は戸惑い出す。

このポリレン広告主世界レーション、つまりお宅の会社ですね?と伊夫伎が言うので、そうよと檜垣が答えると、これを伊夫伎亮吉、つまり私が商標権侵害で告訴しようと思うんですよと言い出したので、煙草をくわえた檜垣は唖然とする。

関係法規はですね、刑事訴訟法第230条、同じく239条、及び商標法39条と六歩全書を見ながら伊夫伎は指摘し、このポリレンと言う商標の使用権は法的には私にあると言うことです、ですから今後一切、この名前は使用しないでいただきたいと新聞を片手に伊夫伎は言う。

呆れたように話を聞いていた檜垣は、君、僕は忙しいんだ、告訴なんて…と言うと笑い出す。

すると伊夫伎は、笑ってごまかすのは昔からの課長の癖でしたね、私は真面目に話してるんですがね?と指摘したので、止さんか君!君はどうかしてやせんか?この商標権がどうして君の物なんだ!と煙草に火を点けた檜垣は怒鳴り出す。

え!会社はね、5日前にちゃんと登録の手続きを済ませているんだ!と檜垣が語気強く言うと、残念でしたね、私が登録したのはそのもう5日前なんですよと伊夫伎が言うので、何だって!と檜垣は驚く。

商標法第8条先願登録日、つまりですね、先に出した方が勝ちと言うことですよ、ご存知ですか?いずれその内特許庁の方から拒絶理由を書いた通知書が来ると思いますから、ま、それからと言うことにして…、じゃ課長、お大事に…と伊夫伎は良い応接室を出る。

君!待ちたまえ!と慌てて伊夫伎を追いかけた檜垣が立ちふさがると、ま、じっくり石神常務とご相談ください、いつでもその名刺にある事務所におりますからお電話ください、じゃあ…と伊夫伎は言い、立ち去る。

ビルの入り口を出掛けた伊夫伎は入って来た女性とぶつかり、あ、失礼!と振り向き、何だ、一井(いちのい)君じゃないかと気付く。

拾っていただけない?と一井鮎子(浜田ゆう子)が言うので、足下を見ると、スケッチブックが落ちていたので、それを拾いながら相変わらずおきれいですね?と伊夫伎は世辞を言う。

どうお茶でも?以前の僕と違ってお食事でも結構、お供できますよと誘うと、これからデザイン会議がありますの、失礼!と鮎子はきっぱり言って断る。

タクシーで伊夫伎が帰って来た事務所「伊夫伎トラブルコンサルタント」は、舗装もされてない路地の建物の中だった。

同じ建物の中にいくつも他の事務所が入っているような共同事務所だった。

事務所に入ると清原弁護(高松英郎)が待っていたので、待たせたなと伊夫伎がコートを脱ぎながら声をかけると、不思議な商売始めたもんだなと言うので、退職金17万8636円を投じてな、サラリーマン生活8年間をこれに変えた訳だと伊夫伎は「伊夫伎トラブルコンサルタント」と書かれた名札を触りながら答える。

良く割り切ったな?と清原が感心すると、どうだい?あんたもイソ弁なんか辞めて独立したら?と伊夫伎が言うので、イソ弁?と清原が不思議がるので、居候弁護士だよと教え、清原法律事務所か?もう1つくらいテーブル置く所あるわななどと部屋の隅を見ながら伊夫伎は誘う。

そして、ちょっと話があるんだ、奥へ行こうと声をかけ、煙草買って来てくれと部屋の掃除をしていた学生に頼むと、ピースありますよと出して来たので、伊夫伎が煙草代として30円差し出すと、40円ですけど?と言うので、パチンコで取ったんだろう?公定価格だよと言い、お茶を頼むと言うと、あのコーラありますけど?と学生が言うので、パチンコのかい?と聞くと、はいと正直に答える。

他の事務所の人間がソファに寝ている奥の共同椅子に座った清原は、お前のことだからいつか辞めると思っていたが、石上常務とか言ったな?親方に睨まれていたんじゃ出世は出来ないからな、しかし変わった商売があればあるもんだな~と苦笑する。

俺たちはな、どんなに逆立ちをしてみた所で資本家になれっこないんだ、かと言ってサラリーマンのままずるずるスクラップになるのはご免だ…と伊夫伎が話している時、ソファで寝ていた他者の男が起き上がり、ちょっと失礼を2人の間を通って自分の事務所のエリアに戻る。

だったらどうする?悪党になる以外にないんだよと伊夫伎は話を続ける。 俺たちは今の世の中をどんなにしてでも生き抜いて、例え水爆が落っこたって俺たちは生き残るんだよと伊夫伎は熱弁を振るう。

賛成だな、その意見は…と清原が答えていた時、学生がコップに注いだコーラを持って来る。 ところでな…と話を続けようとした伊夫伎は学生がまだ残っているので、何だい?と聞くと、現金でと言うので、いくら?と聞くと50円でどうです?と言うので、いやに安いじゃないかと驚くと、水割りですからと学生は頭を掻く。

水割り?と伊夫伎が驚くと、は、1本しかなかったもんですから…と言うので、酷いもんだねと呆れながらも100円渡すと、お釣りは先ほど30円ですからちょうどこれで…と言いながら学生はピースをさらに1箱渡して来る。

その一部始終を見ていた清原は、やられたな、悪い奴だと笑い出す。

ところで清原、1つ俺の仕事に手を貸してくれないか?と伊夫伎は切り出す。 そうだな〜…、トラブルコンサルタントか…、そんな商売が成り立って行くのか?と清原が聞くと、お前は弁護士なんでこんなことが分からんでどうするんだ?え?俺たちは法律に縛られて生活してるんだ、つまりブーブー言いながら税金を納めるのも、これが法律にあるからだな?と伊夫伎が指摘すると、そりゃそうだと清原は頷く。

ところがだ、早い話がNHKの聴取料金だがこれは税金じゃない、つまりTVやラジオを持っている人とNHKとの商契約になる訳だと伊夫伎は言うので、うん、それで?と清原が先を促すと、だから料金を払わなくても刑務所に入らずにすむ訳だと伊夫伎は指摘する。

それで日本全国の人がNHKに対して不払い同盟を作ったらどうなると思う?と伊夫伎が言い出したので、おいおい!俺に法律の講義をするのか?と清原は苦笑する。

しかし伊夫伎は、まあ聞けよと言い、聴取料金は一種の商契約になる訳だ、だからNHKは1人ずつ裁判所による不払いによる訴訟を起こさなくちゃ行けない、この費用だけでも大変な金額になる!と指摘する。

しかし現実にはそんな不払い同盟は出来やしないよと清原は言うが、しかし実際に俺がその不払い同盟を作ったとしたらNHKはどうすると思う?問題はそれだ!と伊夫伎は愉快そうに問いかける。

清原は、とんでもない夢みたいなことを考える男だと感心する。

法律は人間が作ったものだ、だから必ずどっかに抜け道があるはずだ、これが俺の目の付け所だと伊夫伎は結論づける。

今度の仕事をやるのにどうしても本格的な法律の仕事が必要なんだよ、俺もにわか勉強でやったんだが、やっぱり専門家が必要なんだよ、どうだい?俺の顧問弁護士を引き受けてくれないか?と伊夫伎は頼む。

その時、遠くで電話が鳴る音が聞こえる。

ま、引き受けても良いが…と清原が答えようとすると、無論、顧問料は弾むよ、もういい加減、イソ弁なんか辞めろって言ってるんだよと伊夫伎が説得していた時、伊夫伎さん、電話がかかってますよと別の事務所の男が伝えに来る。

誰からですか?と聞くと、シガレーの誰とか言うとったな?と電話を受けた男が言うので、そら来た!と伊夫伎は喜び、まだ帰ってないって言って下さいと電話の伝令の男に頼む。

良いのかい?と清原が聞くと、良いんだよ、放っときゃ火の手はどんどん上がる!これだよ!と伊夫伎は得意げに答える。

帰っとらん?と言い電話を切った檜垣文書課長は、まだ帰っておらんそうですと石神常務に伝える。

檜垣君、伊夫伎は君の部下だったんだろう?と西本事業部長が聞くので、はあと檜垣が答えると、君はあの男が職務を利用し、極秘に触れる新商品の名称にタッチしておったのに気がつかなかったのか!と叱って来たので、はっ、真に申し訳ありませんと檜垣は謝る。

その時、待て!伊夫伎が会社を辞めたのはいつだ?と石神が聞いて来たので、は、あれは確か創立記念日の頃だと思いますんで、2ヶ月前ほどかと思いますと檜垣が答えると、2ヶ月前?2ヶ月前には新製品の名称問題についての会議を持ってないはずだと石神が指摘すると、はあ、確かにそうですと西本は記憶をたどり同意する。

新製品をポリレン、もしくはポロレン、ポリポロ、この内から選ぶべき会議を開いたのは伊夫伎が辞めたからだぞと石神は言う。

そうしますと…と西本が戸惑うと、そうだ、誰かがあいつに通報したんだと石神が断じる。

良いかね西本君、君は早速伊達弁護士に連絡を取る、伊夫伎を告訴するんだ!と石神は命じる。 既にポリレンは生産過程に入り、TVラジオ新聞にだ、ポリレンの名称をこれだけ宣伝した以上、その名称を今さら変える訳にはいかん!良いな?伊夫伎の下手な芝居に絶対乗るな!と言い聞かす。

それから今日のことは絶対外部には漏らさんように…、良いな?と石神は檜垣と西本に釘を刺す。

その夜、各社の記者を集めた飲み会を開いた石神常務は、そう言う訳だから、記者諸君、今後も宜しく頼むよ!と陽気に話しかけていた。

しかし本当に夢の繊維かね?ポリメタキシアミノ系系繊維ってのは?と1人に記者が発言すると、夢の繊維じゃなくて、夢にうなされる繊維って言いたいんだろう?ま、実物を見てから行ってくれたまえ、自信ありだよと石神は笑って余裕を見せる。

繊維植毛に難があるらと言うじゃない?と聞かれると、いやそれはうちの研究所で解決したと石神は即答し、極東化繊はイギリスから技術を入れるらしいよと言われると、な~に勝負ありだよと石神は交わす。

常務、通産省を狙った実施調整はどうなんです?お宅なんか全然はねつけたらしいじゃないですか?良いんですか?と1人が発言すると、各社が共存共栄で生きる奴だろう?と別の記者が被せて来る。

まっぴらだよ共存共栄なんて、共産陣営のインフラじゃあるまいしと石神が檜垣に剥いて言うと、2人で大笑いする。

自由貿易化は目の前だよ、そんな甘いこと行っていたら飯の食い上げだ!と石神はぶつ。

その時、女将の徳光せつ(角梨枝子)が石神に何か耳打ちして、頷いた石神は席を立つ。

その間、檜垣が座を取り持つ。

檜垣さん、ここの女将、石神のこれだって?と檜垣の隣りの記者が小指を立てて聞くと、その辺はまあご想像にお任せしまして…と檜垣は笑ってごまかすので、聞いた記者は、タヌキだね~と呆れ、うっかりすると俺たちも化かされるんじゃないか?もうバカされてるんじゃないの?などと他の記者も言い出す。

笑ってそれを受け流した檜垣は、この辺でぐっと若いのでも呼びましょうか?と記者たちに聞く。

別室で西本からの電話を受けた石神は、記者たちがいる座敷が騒がしくなったので、どうだった?伊達先生の返事?何?聞こえんな、もっと大きな声で!と苛立たしそうに受話器に呼びかける。

はっ!伊達先生のおっしゃるには伊夫伎がポリレン、ポロレン、ポリポロ、この3つとも出願登録をした以上、商品の区分では第14類から第17類まではこの名称は…と西本が伝えていると、そんなことはどうでも良い!結論は?と石神が性急な答えを知りたがるので、結論と言うのは…と言いかけた西本だったが、その途中で立ち上がった伊達伊顧問弁護士(伊東光一)が西本から受話器を受け取る。

あ~もしもし、伊達ですと電話を代わった伊達は、あのな~石神さん、顧問弁護士として結論を申しますとな、伊夫伎を背任罪で告訴しても、こちらの負けですな、は~、いやムダです、こうなったら伊夫伎から占用使用権を買い取るしかありませんな、もっとも相当吹っかけられるでしょうが…と伝える。

石神が渋い顔で電話を切ったので、どうしたの?とせつが聞いて来ると、うん、伊夫伎の奴…、お前も知っとるだろう?ここへ来て怪しげな踊りを踊った奴だと石神は言う。

ええ…とせつが頷くと、会社を辞めたと思ったら、今度は脅迫しやがる!と石神は憮然とした表情で言う。

まあ大変ね〜とせつは同情しながらも、あ、お風呂ちょうど良いわ、お入りにならない?と聞いて来るが、いや、それどころじゃないんだと言って立ち上がったので、う〜ん、久しぶりじゃないの…とせつは不満を漏らす。

アパートで小荷物用の箱詰めをしていた小泉かおる(藤由紀子)は、ノックの男が聞こえたので警戒しながらドアを開けると、よお!と入って来たのは伊夫伎だったので、あら?と驚く。

持って来たよと言いながら伊夫伎が内ポケットから封筒を出すと、まあ!こんなに遅く?とかおるは驚くが、1日にでも早い方が良いと思ってね、5万円、手付けにしかならないけれど足しになるだろうと伊夫伎は言いながら封筒を手渡す。

助かるわ〜と言いながらかおるは封筒を受け取る コーヒーでも1杯ごちそうになれないかい?と伊夫伎が言うと、ええ良いわ、どうぞと答え、かおるは伊夫伎を部屋に上げる。

箱に詰めていたものを目にした伊夫伎に、弟に送ってやろうと思って…、あっちは凄く寒いらしいのよとかおるは説明する。

どうなの?弟さんの具合は…と伊夫伎が聞くと、このお金で手術が出来るわ、今寝たきりなの…とかおるは言う。

長いのよカリエスって、母のときは薬がなくって父も随分苦労したらしいわ、でも今はお金さえあればね…とかおるは言い、インスタントよと断って来たので、良いよ、何でも…さっきお茶漬けやで辛いの食っちゃったから喉が渇いちゃってねと伊夫伎は笑顔で応える。

どうぞとコーヒーカップを差し出したかおるがミルクは?と缶詰を差し出すと、いらないと言いコーヒーを飲み始めた伊夫伎に、ねえいつまで続くの?とかおるは聞く。

うん?と顔を上げた伊夫伎に、私の仕事…とかおるは言う。

ああ、そうだな、石神の奴が地べたに叩き付けられて息の根を止めるまでだと伊夫伎が笑うので、そんなに憎いの?そんなに嫌な人?とかおるが問うと、ああ…と伊夫伎は真顔になる。

そりゃ確かに傑物だよ、しかし憎いね、権力の座にあぐらをかいて、人間を人間とも思わないような奴だ…と伊夫伎は断ずる。

翌朝、タクシーを待っていた伊夫伎はなかなか車がこないので、やむなく近くのバス停の列の最後尾に並ぶ。

その列に弁当を小脇に抱えた労働者風の男(橋本力)が割り込んで来たので、後ろに並んでいたサラリーマン(丸山修)が、君君、後ろに並びたまえ、みんな順序良く並んでいるんだ、割り込みはいかんよと注意すると、うるせえな、ガタガタ抜かしやがってと労務者は言う。

それでも後ろのサラリーマンは、君、後ろに並びたまえと繰り返したので、てめえ、文句あるのか!と振り返った労務者はサラリーマンを列の外に放り出す。

それを見かねた伊夫伎が前に出て来て、その労務者風の男に、君君と呼びかけると、何だよと振り向いた男を払い腰に投げ飛ばす。

労務者はバツが悪くなりその場を立ち去り、投げられたサラリーマンが、君、ありがとうと礼を言って来るが、あなたもだらしないですね、良いですか?人に文句をつけるときは喧嘩に勝てるくらいの力を付けてからになさいと伊夫伎は言い聞かす。

そして又最後尾に並ぼうとした伊夫伎だったが、タクシーが来たので手を上げて停め、それに乗り込むと、京橋!と行き先を告げる。

世界レーションの応接室に茶を運んで来たかおるは、そこにいた檜垣、西本、そして伊夫伎の前に茶を置くと、呼ぶまで来んで宜しいと檜垣が指示するので、はいと答えて引き下がるが、ドアを出る時気になって伊夫伎の方を振り返る。

行ってみたまえ、君の要求をと西本が聞くと、要求なんてありませんよと伊夫伎が言うので、じゃあ君は我々にどうしろと言うんだ!え?と西本が感情的になると、僕はあくまで自分の商標権を守りたいんです、つまりお宅のポリレンを他の名前にしていただきたいのですと伊夫伎は冷静に答える。

君、ポリレンの名称を今から変更するなんてとんでもない!良いですか、ポリレンに関しては既に広告費だけで1億以上使っているんですと西本が立ち上がって説明すると、そうですか…と伊夫伎は気のない返事をする。

宣伝費も宣伝費だが、伊夫伎君、君は世界レーションの社員だったじゃないか、今、ポリレンにケチをつければ我が社はどうなる?極東化繊に足をすくわれてんと西本が力説するので、部長、お話中ですがね、今の僕は世界レーヨンとは何ら関係ないんです、17万8636円の退職金で3ヶ月前にさようならをした人間ですと伊夫伎は言う。

そんなことは分かってる、しかしね、極秘に触れる新製品の名称を探知し、その名称を個人名義で登録した、それでも君は法律的に何らやましいことはないと言うのか?と西本が言うので、なるほど…と伊夫伎が答えると、君は背任行為です、断然告訴します!と西本が強気に言うので、部長、それはムダですよ、商標広報にちゃんと公表してありますからね、そうでしょう?と伊夫伎は指摘する。

すると、全く法律の解釈と言うのは微妙なもんですからな…と檜垣が人ごとのように言うので、檜垣君、人ごとじゃありませんよ、君だって世界レーヨンの人間ですと西本は憮然とした表情で注意する。

どうかね?ざっくばらんに言って我が社も困っている、ね、これでどう?と伊夫伎の隣りに腰を下ろした西本は指を2本出し、君、20万円じゃないぜ、200万円だぜ、君も8年間お世話になった会社だからね、お互い丸く収まれば、もう…、え?君、これですよ、200万!と立ち上がった檜垣が笑いながら伊夫伎の肩を叩く。

すると伊夫伎はいずれ又!と言って立ち上がろうとするので、君!と檜垣は肩を押さえてもう一度伊夫伎を座らせ、不服かね?じゃあ後30万出そうと西本が提案する。

じゃあ30万!500万!と檜垣も立ったまま適当に金額を提示するので、檜垣君!と西本が諌める。

45万と檜垣が言い直すと、世界レーヨンともあろう会社がですよ、資本金250億円でしょう?と伊夫伎は西本だけを見て言う。

その横で、又檜垣が500万!と提示したので、止したまえ、おい!と西本が止めたので、檜垣はしょげてソファに座る。

伊夫伎君、ぎりぎりの線を出そうと西本は仕切り直し、700万でどうだ?と提示する。

しかし伊夫伎は黙ったままなので、君、この金額でも不足なのかね?会社としてはぎりぎりの線だよとさすがに西本も苛立って来る。

それでも伊夫伎は返事を返さなかった。 その後、次々に世界レーションに役員連中がやって来る。

役員会議

これは恐喝ではないかとお考えになる向きもあるようですが、法律的には犯罪が成立しないものであります…と伊達顧問弁護士が解説していた。

なぜなら伊夫伎は会社側に対し金銭を要求したり金額を提示したりの行為は全くないのでありまして、これでは恐喝にならない訳ですと言う。

700万でも手を打たないとすると、際限なく吊り上げられる危険があるなと小石原重役(大山健二)が発言する。

極東化繊は、ポリメタキシアミノ系繊維の新企業化に入ったと言うニュースも入っているときだしな…と別の重役が発言する。

我が社がせっかく他社に先駆け企業化に踏み切ったのにそんなことでもたついていたのでは極東化繊に時を貸すようなものですな…と別の役人が言う。

石神君、ここの所は何とか君の手で収拾してもらわんことにはなてんと小石原重役が言って来る。

後日、伊夫伎は檜垣とともに昔来た料亭にやって来る。

仲居のお照(町田博子)は伊夫伎の顔を覚えていて挨拶して来たので、伊夫伎はさりげなくその仲居に心付けを渡す。

お照はその金を広げてみると1万円札だったので驚く。

座敷で待っていた石神は伊夫伎にビールを注いでやると、さあ伊夫伎君、率直に行こうと切り出す。

ほお、これは鯉の洗いですか?と目の前に置かれていた小鉢を伊夫伎が覗き込むと、そう、どうぞ、良かったら、これもどうぞと石神は自分の分も差し出して勧める。

伊夫伎君、今日は虚心坦懐に聞くんだが、一体いくら出せば手を売ってくれるんだね?と同席した檜垣が横から口を挟むと、この鯉の洗いってのは季節があるんですかね?と伊夫伎は食べながら聞く。

無視された檜垣は鼻白むが、君!会社はだね、君を背任罪で訴えるのを止めるとまで言っとるんだぞ!と強気に出ると、石神が手でそれを制し、いやこれはこちらの言い方が悪かったと詫びる。

金と額を君の方から切り出せないと言うのを忘れとったよ、こちらから誠意を示させてもらおうと石神は言い檜垣に合図をすると、はいと答えた檜垣は鞄から小切手を取り出し石神に渡す。

それを伊夫伎の前に置いた石神は、3000万円、誠意だよ、会社の誠意を受けてくれたまえと言う。 伊夫伎はその小切手をつまみ上げ、ポンと指で弾いて飯台の上に置くと、これが誠意ですか?と聞く。

それを見た石神は、そうか…、石神個人が頭を下げているんではないぞ、世界レーションが頭を下げているんだ、1つ何とか…と言いながら頭を下げて来る。

すると伊夫伎は条件があるんですがね〜と言い出したので、石神が頭を上げ、条件?と驚くと、一筆書いていただきたいんですが…と言いながら伊夫伎は鞄から書類を取り出すと、「この度のポリレンの発売に関して貴殿の絶大なるご協力をいただきましたことを深く感謝致します。 世界レーヨン株式会社、 伊夫伎亮吉殿」と内容を読み上げ、これに1つサインしていただきたいんですが?と言いながら檜垣に渡す。

何だこれは、まるで感謝状じゃないか!と檜垣が憤慨すると、いや、後で僕が世界レーヨンを恐喝したり不信行為を働いたように宣伝されるとこれからの僕の仕事に差し支えるものですからねと伊夫伎は微笑みながら言う。

その書状を黙って受け取った石神はその場でサインを入れ、印も押す。

それを見た伊夫伎が結構ですと言うと、こっちの書類に捺印してくれるね?と石神も言って来たので、どうぞと答える。

檜垣が鞄から「商標権移転登録申請書と譲渡書」これに判を…と檜垣が言いながら書面を出したので、伊夫伎が判を押そうとしていた時、女将のせつが入って来て、まあ伊夫伎さんじゃないの、すっかり見違えちゃったわと言うと、おすみになりまして?と聞くので、石神が生返事をすると、石神さん、もう1つ、お願いがあるんですがね〜とまだ判を持ったままの伊夫伎が言い出す。

おいおい君!と檜垣は注意するが、石神は言ってみたまえと言うので、風呂に入りたいんです、それから女将さんをちょっと貸していただけませんか?と伊夫伎は言うので、何!と石神はさすがに景色ばむ。

人の持ち物を黙って使われちゃまずいけど、断って使うんなら構わないと思うんですがねと伊夫伎はうそぶく。

さすがに石神が黙り込むと、せつが急に笑い出し、見直しちゃった、伊夫伎さんっておもしろい方なのね…と口を挟んで来る。

よござんす、ねえ常務さん?とせつが聞いて来たので、ん?うん…、支度したまえと石神は苦虫をかみつぶしたような顔で言う。

常務、感謝しますと礼を言った伊夫伎は判に息を吐きかけ書類に押す。

せつはどうぞと伊夫伎を誘って部屋を出て行く。

判を押し終えた伊夫伎がこれで良いですね?と言うと、確認した檜垣がこれで結構と言い、伊夫伎はこれは頂戴しますと言って3000万の小切手をポケットに入れる。

それではお言葉に甘えて、お風呂いただかせていただきますと言いながら立ち上がると、檜垣も一緒に立ち上がり、伊夫伎君、失礼のないようになと釘を刺して来たので、伊夫伎は笑い出して部屋を後にする。

石神の前に正座した檜垣は、常務、どうも…と頭を下げる。

風呂に入った伊夫伎が、悪趣味だな常務も…と苦笑すると、ねえ?あなたもお使いになったら?とせつは風呂の洗い場に置いたビニールベッドを準備しながら誘う。

ベッドの前で、割烹着を来たせつがお揉み致しましょうと笑いかけると、湯船の中の伊夫伎もにやりと笑う。

座敷でビールを飲んでいた石神は、風呂場から突然聞こえて来たせつの嬌声を聞き、心穏やかざる表情になり、舌打ちをしたので、檜垣は常務、申し訳ありませんと何故か詫びる。

その時、またせつの嬌声と笑い声が聞こえて来たので、君!と石神は言いかけ、檜垣は立ち上がろうとするが、良いと石神は止め、まずそうにビールを飲み続ける。

その後、経営者、並びにサラリーマン諸君!会社のことで困ったことがあったらどんなことでも相談に応じますと言う伊夫伎のトラブルコンサルタントのCMを会社で石神と小石原重役が見ていた。

何とそのCMの中に、これは最近世界レーションから受けたものですと石神がサインした感謝状が映し出されたので、石神君、良く見たまえ、問題はこれだよと小石原重役は指摘する。

TVには、トラブルコンサルタントへご相談くださいと言う伊夫伎のナレーションと、東京都千代田区内幸町と言う事務所の住所と電話番号が感謝状をバックに映る。

石神君、偉いものを渡してくれたね〜と小石原重役が言うので、石神はただ、はぁ〜と言うしかなかった。 一方、かおるがドアの外で盗み聞きしている中、伊達顧問弁護士が石神と檜垣らに、法廷で争うことは出来んことはないが、放送倫理規定に抵触する疑いでね…、その間時間がかかりますね…とCMに感謝状を出されたことにどう対処するかを説明していた。

それよりテレビ局に、大スポンサーとして打つ手があるんじゃないですか?と伊達が逆に聞くと、それがね〜、やってみたんだが、極東化繊のテコ入れで割り込んだらしいんだよ、このスポット…と石神は答える。

じゃあ感謝状を伊夫伎から紙戻すより他はありませんなと伊達は指摘する。

それで東洋TVから後の放送時間を買い取れば良いと思いますが…と檜垣が提案すると、君!そもそもこれは君の責任なんだよと石神が檜垣を叱りつける。

はい、分かっております…と檜垣は小さな声で答える。

女性更衣室に来たかおるは、常務、役員会で散々絞られたらしいわよと既に着替えていた同僚たちが噂しているのを聞く。

それより岩城さんよ、自分の部下だもん、減俸ですってよ半年くらい…、飼い犬に手を噛まれたって訳ね、凄腕ね〜伊夫伎さんって、伊夫伎さんだけじゃなくてまだまだいるわよ産業スパイなんて…、知ら〜ん顔して…、案外あんたかも…、止してよ!去年のファッション、どうして今年のに化けさせようなんて、そんな苦労しているスパイなんかいる?などと女性社員たちは口々に色んなことを言っていたので、身に覚えのあるかおるは沈み込む。

男性社員たちも休憩時間屋上で、2000万とか3000万とか言うじゃないか?強盗もんだなと男性社員が言うと、でも痛快よと女性社員が言い返したので、法律を悪用するなんて高級な悪党だよと男性社員は反論する。

しかし石神常務だってただの鼠じゃないからな…、赤坂に二号囲ってさ、ほらお前もいつか連れて行かれたろう?あそこの料理屋、あれだって会社の金で適当にやってるんだ、誰だって知ってるよ、もちろん伊夫伎だって知ってたさ、それを知らん振りして常務の言いなりに…、そこで踊れと言われれば踊らなければならない我々の生活に伊夫伎は我慢できなくて反逆したんだよ、俺はそう思うね…、むしろ伊夫伎に喝采を送りたい気持だよ…などと別の男性社員が噂する。

それも、近くにいたかおるは耳にする。 何も褒めることはないでしょう?と女性社員が反論すると、いや伊夫伎が悪党なら、常務だって結構な悪党ってことさ…と男性社員は言う。 悪党と悪党か…、嫌ね…と女性社員たちがこぼす。

その会話をかおるは少し離れた所で深刻な顔で聞いていた。 とにかく徹底的に制裁すべきだよ、あの伊夫伎って奴は…と、屋上の別の場所でも伊夫伎の話をしているのにかおるは気付く。

ま、正常な人間の出来ることじゃないね、人間失格か…、でもあれが現代的な生き方かもしれないな…などと言っているのがかおるに聞こえて来る。

その夜、伊夫伎と2人で飲み屋で飲んでいた清原は、成功だったなと喜んでいた。

いよいよ第2号作戦で行くか?と清原が言うと、もっと奴の度肝を抜いてやるんだ、あ、所で、アサヒ工業の脱税の件だがね…と伊夫伎が言い出す。

どうかね、協力は?あそこの経理部長が泣きを入れて来たんで、俺たちとしては何とかしなきゃ行けないんだと言うと、俺もいよいよ悪行商売かと清原が自嘲したので、バカ言え、物は考えようだよ、人のためだと思えば良いんだと伊夫伎は言うにおで、良し調べとこうと清原は答える。

この件はあんたに頼んだ、俺はコンサルタントとして世界レーヨン石神をとことんまで絞り上げてやると伊夫伎が言っている時、雨に濡れたコートを着た1人の初老の男がふらふらと店に入って来るが、その顔を見た伊夫伎は驚く。

世界レーヨンの木村宣伝部長だった。

木村さん!お忘れですか僕を?と伊夫伎が声をかけると、いや覚えてます、文書課にいた伊夫伎君…、いや違う違う違う、今は英雄だ、な!そうだろう?と、既に酔いが回っているらしい木村はからかうように笑いかけて来る。

ねえ君、石神は酷い奴だよ、あいつと僕はね同期なんだぜ、最も向うは出世頭だが、その僕を満座の中で罵倒するんだ、工場へ行け?何を言ってやがる馬鹿野郎!な、君!石神の尻尾を掴めよ、何かある、何かあるんだよあいつには!と木村は酔った勢いで言う。

戸田工場新設の時だって、あいつはただの課長だったんだが…と言った所で木村は咳き込み出す。

アパートで洗い物をしていたかおるは、良く会社も黙ってるな、2000万とも3000万とも言うじゃないかと屋上で男性社員が言っていた話を思い出していた。

強盗ものだな、でも痛快ね、法律を悪用するなんて高級な悪党だよ、しかし石神常務もただの鼠じゃないからな… その時、ドアがノックされたので、伊夫伎さん?と声をかけると、人違いで悪かったわねと言いながら入って来たのは同じアパートの住むバーの女だった。

お店今夜お休み?と聞くと、うん、国から妹が出て来ちゃってさ、砂糖切らしちゃったんだけど貸してくれない?雨の中買いに行くの面倒なのよと言うので、良いわと言い砂糖入れを渡すと、悪いわね、すぐ返すわと言って出て行甲として立ち止まり、あ、この間の話考えといてくれたとバーの女は聞く。

えっ?とかおるが驚くと、お店のアルバイトよと言うので、ああ…と思い出す。

昼間お勤めしてさ、夜バーに働きにする人結構いるのよ、バカになんない収入よとバーの女は言うが、私なんか…とかおるが気乗りしないように答えると、あんたぐらいの人そうざらにいないわよ、自信持ちなさいよとおだてて来る。

でも着物もないのとかおるが言うと、あ、そんなことなら任しといて、心配ご無用!とバーの女は言う。 そこに伊夫伎がやって来たので、それに気付いたバーの女は、お邪魔しちゃって…と詫びながら帰って行く。

いらっしゃいとかおるが招き入れると、酷い降りになって…と雨に濡れたコートを払いながら伊夫伎は言う。

コーヒーでも煎れましょうとかおるは気まずそうに台所に向い、あ、これ、これだけあれば弟さんが何とかできるだろうと思ってね…と伊夫伎は言い、封筒を出す。

すみませんとかおるが台所から礼を言うと、あ、その後何か情報が入った?会社の連中何か言ってるかい?と伊夫伎は聞くが、かおるが何も返事をしないので、どうしたの?と聞く。

何も持たずに伊夫伎の所に来て座ったかおるは、ねえ伊夫伎、私この仕事から手を引かせて…と言い出したので、何だい、急に…、怖くなったのかい?と伊夫伎は戸惑う。

怖いわ、とても…とかおるは打ち明けると、石神なんか恐れることはないんだよ、それに第一僕が付いてるじゃないかと伊夫伎は言う。

するとかおるは、私常務さんが怖いんじゃない、あなたが怖いの!ね、止めて、こんなこと…と言い出したので伊夫伎は驚く。

私、文書課にいた頃の伊夫伎さんが好きだわ、いつも黙って仕事していた頃のあなたが…とかおるは言う。

でも今は違ってしまったわ、ね、以前のあなたに戻って欲しいの、思う通りお金だってで着たじゃない、だから…とかおるが説得すると、僕にみみっちいサラリーマンに戻れって言うのかい?そんなことはご免だねと伊夫伎は答える。

それに君だってこの仕事弟さんのために引き受けたんじゃないのかい?お金のために少し悪人になることだって覚悟の上じゃなかったのかい?と伊夫伎が聞くと、お金は欲しいわ、でもそのために人間じゃなくなってしまうのがとても怖くなったの…とかおるは言う。

それにこの仕事を引き受けたのは本当は弟のためばかりではないわ、あなたが頼むからだからやったに…、でもそのあなたがだんだん昔のあなたと違って行くのを見るととっても堪らなくなって、…とかおるが言うので、ありがとうって言いたい所だけどね、僕は君がそんな甘っちょろい考えを持つのは嫌いだな、僕はね、あなたはもう少し利口な女性だと思っていたんだ、見損なったよ君を…と伊夫伎は答える。

しかしまあ良いさ、君が嫌なら辞めたって良い、別に束縛はしない、勝手にしたまえと言うと伊夫伎は立ち上がる。 かおるが靴を履いている伊夫伎の所へ行ってコートを差し出すと、君も元気でと言い残し、伊夫伎は去って行く。

1人残ったかおるは頭を抱えて泣き出す。

新聞に「仕事の行き詰まりか?木村氏とび込み自殺 世界レーヨン宣伝部長 肝臓ガンを悲観してか?」の記事が載る。

その記事を飲み屋で読んだ伊夫伎は、ねえ君、石神は酷い奴だよ…僕を満座の中で罵倒するんだ!と飲み屋で言っていた木村のことを思い出す。

かおるは会社に辞職願いを出す。

辞めるって、辞めてどうする?と上司の人事課長(北城寿太郎)が聞くと、は、まだそれは…とかおるが言うと、もう少しいたらどう?結婚する訳じゃないんだろう?と人事課長は勧める。

ま、君みたいなベテランに辞められるのは会社は困るんだがな…と人事課長は説得する。

それでもかおるは、はあ…、でも決心したものですから…と答える。

一方、伊夫伎の事務所には暴力団員が4人(津田駿二、工藤堅太郎、九段吾郎、森一夫)乗り込んで来て、とぼけるんじゃないよ、ネタ上がってるんだぜ、世界レーヨンから大分巻き上げたそうじゃないか、ええ!と因縁をつけるので、一体何の話ですか?と伊夫伎はとぼける。

この野郎!ふざけるんじゃないよ、落し前付けてもらおうじゃないかと匕首を机に突き立てて脅して来る。

え?何とか言ったらどうだよ!と凄まれた伊夫伎だったが、素早くテープレコーダーのスイッチを煎れる。

おい、近頃はな、コンクリート付けにして東京湾に沈めるって手があるんだぞ!おい聞いてるのかい!と暴力団員が脅すと、どうぞ、続けて、続けて…、脅迫罪のネタになりますからね…と余裕な表情で勧める。

何を!お、何だこんなもの!とテープレコーダーに気付いた暴力団員は、ちぇっ、シャレた真似しやがって!と言いながらレコーダーを床に叩き付け、良いか、今度世界レーヨンに手を出しやがったら承知しねえぞ!覚えとけよと言うと、おい、引き上げろ!と言い残して帰って行く。

その騒動を聞いていた他の事務所の連中が、あなた良い読経してるね〜、おい、なかなかやるじゃないか、私、110番電話しよう思ってたんだけど見つかると大変だからね、キ○ガイに刃物だからね…、私、まだ胸ドキドキしてるよ…などとと伊夫伎を褒めに来る。

そんな中、伊夫伎は暴力団が机に刺して行った匕首をハンカチで掴みとると、バカな奴だ、奴さん、身分証明書置いて行ったようなものだと苦笑し、何事かを考え始める。

世界レーションでは石神常務も出席のもと、デザイン会議が開かれており、宮田デザイン課長(谷謙一)が、常務!ナチュラルカラーの色彩の基調は?と質問していた。

そりゃあ君、君が作るんだよ!五感から行くんだ、五感!と石神は答える。

我々がやるべきことは、ナチュラルカラーに沿った色調を作る!それか津田君、君は食品メーカー、化粧品メーカーとタイアップして、一大コンビナート作戦で日本中をナチュラルカラーで埋め尽くす、良いね!ナチュラルカラーにあらざるものは流行にあらずだ!その印象を徹底的に消費者に植え付ける!分かったね!と石神の陣頭指揮は続く。

はいと答えながら、津田がメモを丸めて横のゴミ箱に捨てると、檜垣が津田君、拾いたまえ、今のメモ!と小声で注意し立ち上がると、石神に会釈して、突然ですが一言ご注意申し上げます、本日の会議の決定事項は極秘中の極秘でございますので、書類その他の保管には十分気をつけていただきたいと思います、え~、何分にも近頃は産業スパイに狙われておりますんで…と出席者たちに申し渡す。

席に戻った石神が、ねえ藤原先生、来春のシルエットの傾向は?とデザイナーの藤原ミチコ(倉田マユミ)に問いかけると、ナチュラルカラーにマッチすると思うのよ、どう?全体に大胆なカッティング、それに女性らしい優雅なフェアをミックスしたのよとミチコはサイン部分を消しゴムで消したスケッチを見せながら答える。

なかなか良いですな〜と石神が褒めると、それから他にも…と言いながらミチコは、隣りに座っていた一井鮎子に、鮎子さん!と促し、他のデザイン画を受け取って、そのサイン部分を消し、これ何かホームウエアに最高だと思うのよと石神に見せるので、鮎子は不満そうだった。

ポリレンのソフトなタッチと優雅さを100%利用しているつもりなのよとミチコが勧めると、ほお、こりゃなかなか…、宮田君、ちょっと、ちょっとと石神は気に入って宮田を呼び寄せる。

どう?と石神がスケッチを見せると、ほお、結構ですな〜、さすがは藤原先生でいらっしゃいますと宮田は藤原をヨイショするので、お上手ねとミチコは笑う。

デザイン室に戻って来た鮎子に電話が入ったので、もしもし?一井ですけどと出ると、よう、元気?伊夫伎だよと言うにで、ええ、元気よと答えると、ちょっと会いたいんだけどね、久しぶりに食事でもしないかい?と伊夫伎は言うので、良いわと答えると、じゃ5時半、西銀座、地下鉄の入り口で待ってるよと伊夫伎は言う。

サングラスをかけて待っていた伊夫伎は、約束の時間に鮎子が姿を現すと、よお、来られないのかと思ったよと言うと、いじわる!と鮎子は甘える。

さあ、どこに行こうか?とサングラスを外して伊夫伎が言うと、ねえ、どっか攫ってってと鮎子が言うので、攫う?と伊夫伎は驚くと、私、明日会社に出たくないのと鮎子は言う。

それを聞いた伊夫伎は少し晴れやかな顔に鳴り、良し、行こう!と鮎子の肩を抱いて歩き出す。

座敷でスッポン鍋を注文した伊夫伎がビールを注いでやろうとすると、鮎子は、私酔っちゃったわ、私たち大阪にいるのね?と甘え出す。

君が行けないんだ、もう少しどうだい?と笑い、伊夫伎はビールを勧め、ここのスッポン料理はね、女性には美容にとても良いんだと説明する。

鮎子は、ねえ?お話うかがわせてと切り出して来たので、うん、君にね、どうしても手伝って欲しい仕事があるんだと伊夫伎は答える。

少々危険を伴うので場合によっちゃ今の仕事を…伊夫伎が続けようとすると、世界レーヨンの情報を探れって言うのね?と鮎子は察して言う。 来年の春のネーミングが欲しいんでしょう?と鮎子が言うと、伊夫伎は驚いたように鮎子を見つめる。

相手は分かってると気づいた伊夫伎は笑い出し、何だ、じゃあ話はしやすくなったと言い、良し、君の条件を聞こうと言う。

すると鮎子はいきなりにじり寄って来て伊夫伎にキスして来たので、嫌、君の方の条件をだね…と伊夫伎は慌てるが、私ね〜、私の名前でショーをやりたいのと鮎子は甘えたような目つきで答える。

なるほど…と伊夫伎が納得すると、それからね、お店を持ってパリへ行きたいと鮎子は言うので、はは〜と受け流す。

私は自分を台無しにしたくないの、自分をスポイルして個性をなくしてしまうのは嫌なのよ!と言いながら鮎子は伊夫伎の首にしがみついて来る。

私は自信があるの!下積みはもうたくさん!と鮎子は日頃の不満を吐き出したので、良し、君の条件は分かったよと伊夫伎は冷静に答える。

抱きついて来た鮎子とは裏腹に、伊夫伎の表情は冷めていた。

飛行機で帰京した2人は一旦別れる。

鮎子を車で帰した伊夫伎は、すぐに公衆電話に入り電話帳で調べると極東化繊に電話を入れると吉倉専務を呼び出す。

面識はありません、伊夫伎亮吉、世界レーヨン商標法問題の伊夫伎亮吉、多分、ご存知だと思いますと伝える。

後日、新聞に極東化繊の「サンライズ・トーン」の宣伝が大々的に載る。 その新聞を手に津田の前に来た石神は、これを読んでみたまえ、これを!読みたまえ!と言い、新聞を投げ渡す。

「輝く自然の美、生命力、この自然を蘇らせた太陽の輝き、女性の自然な美しさの元太陽、極東化繊が全女性に贈る生命力、サンライズ・トーン」と津田が読み上げると、自然の下にフリガナが付いてるだろう?と石神が指摘する。 は…、ナチュラル!と津田が読むと、ナチュラルを蘇らせる太陽サン!決定的敗北だ!と石神は断言する。

しかしうちの情報が本当に盗まれたのか…津田が言い返そうとすると、まだそんなこと言ってるのか?誰からどうやって漏れたか、早速調査したまえ!と石神は命じ去って行く。 石神が自分の席に戻ると電話がかかり、それを取った女性秘書(新宮信子)が伊夫伎さんからですと伝える。

ああ、用はないと石神が突っぱねると、秘書は受話器を切ってしまうが、伊夫伎?と聞き直した石神はもう一度かけたまえと命じる。

はぁ?と秘書が戸惑うと、伊夫伎にかけるんだよと石神は苛立たしそうに繰り返す。 いつもの料亭に呼ばれた伊夫伎は、又仲居のお照に案内され中に入るが、あんたなかなかやるわね、石神なんかに負けちゃダメよ、私ゃあんたのファンなのよとお照が手を握って励まして来たので、驚きながらも伊夫伎は苦笑する。

石神は1人で待っていた。 失礼しますと声をかけ、部屋に入った伊夫伎が、どうもたびたびお誘いを受けまして…と言いながら座ると、一体いくらもらったんだね?と石神は聞くので、はっ?ととぼける。 極東化繊の「サンライズ・トーン」!何もかも分かっているんだと石神が迫ると、的確な推理ですなと伊夫伎も感心する。

ネーミングだけかね?君がスパイしたのは…と石神が睨みつけると、参りました、ズバリです!と頭を下げた伊夫伎は、他に1、2…、ポリレンは世界レーヨンでは、メリヤスに35%、織物には55%の比率で出すそうですね?と情報を明かす。

良し、分かった!そいつも買い戻そうと石神が答えると、いや申し訳ないですね…と伊夫伎は苦笑する。

しかし君はうちから金を取った上に、極東化繊に渡すつもりではないだろうな?と石神が聞くと、まさか、二重売りはしませんよ、これは法律に引っかかるもんですからねと伊夫伎は否定すると、あ、常務、1つお願いがあるんですがねと言い出し、何だ?と常務が聞くと、私は学生時代から暴れん坊でしてね、暴力で来られても一向に響かんのですよと伊夫伎は言う。

しかし驚きましたな、世界レーヨンさんが意外に下情に通じてらっしゃるとは…、何ですか?この間うちの事務所に寄越されたのは江東の金田一家の者ですか?と伊夫伎が聞くと、知らん!わしは知らんよ!と石神は否定する。

は、そうでしょうね、まさか常務が…と言いながら鞄から匕首を取り出した伊夫伎は、しかし奴さん、こんな定紋付きの忘れ物残して行ったんですよ、これは私が預かっても何ですから、どうぞお引き取りくださいと言って座卓の上に置くと、じゃあ失礼と言って帰って行ったので、石神はじっと睨みながら考え込む。

その後、清水商事と言う不動産事務所にやって来た石田は伊夫伎から返された匕首を投げ出し、清水、君は総会屋としても二流だが、脅しもあまり巧くないようだなと皮肉る。

金田一家のチンピラなんか使うからだ、相手は君が考えているより大物なんだ、良いかね、徹底的に奴を洗え、奴の弱みを握るんだ!と恐縮している清水(高村栄一)に命じる。

金はいくらでも出してやる、しかし今度失敗したら、君をこのままでは住まさんぞ、良いな?頭の切れる奴を集めるんだ、奴の回りに罠を張るんだ、うん?良いな!と言い、札束の入った封筒を机に置いて行く。

その頃、バーツ勤めを始めたかおるは、誘った隣人から、今日の店での出来事を気にしちゃダメよとアドバイスされながら一緒にアパートに帰って来る。

鍵を開けて自分の部屋に入ろうとした時、かおるは廊下の暗がりで待っていた伊夫伎に気付く。

何か御用?とかおるが声をかけると、会社を辞めたって聞いたんでね、金がいると思って持って来た…と言いながら伊夫伎が封筒を差し出すと、ご親切ね、あなたのお仕事辞めたんですもの…、もうあなたとは関係ないはずよ、帰って頂戴とかおるは睨みつける。

伊夫伎が君の煎れたコーヒーが飲みたくなってね、1杯だけと笑いかけると、あいにく切れてるわとかおるは無愛想に答える。

そう…、来てはみたが…、じゃあ失敬と言い、伊夫伎は封筒を持って帰って行く。

部屋に入ったかおるは、上がりがまちに力なく座り込む。

翌日、事務所にいた伊夫伎にお照から電話が入る。

すぐに手伝いの男から受話器を受け取った伊夫伎は、え?女将が出掛けるって?とお照からの情報に喜ぶ。

そう、旅行よ、間違いなし、だってさあ、部長にパジャマ、スーツケースに入れたのよとお照は言う。

行く先は?と聞いた伊夫伎は答えを聞いて、ありがとう!と笑顔になる。 富士の裾野にやって来た2台の車が停まり、前の車から降りて来た檜垣が後ろの車のドアを開けると、降りて来たのは石神と女将の徳光せつだった。

まあ、あんなに近くに富士山が!とせつは喜び、工場にするなんてもったいないみたいと言うと、バカを言っちゃいけないよと石神が答え、土地会社には工場設置だと言うのは伏せてありますから、会社の綜合グラウンドという触れ込みにしてありますと檜垣が付け加える。

あ〜、足下を見るんだね?と石神が聞くと、ええもうべらぼうに吹きかけてきよりまして、土地会社と言ってもこの辺りの百姓上がりですがね…と檜垣は言う。

で、総坪数は?と石神が聞くと、3万坪ですと檜垣が答える。

あ〜、水質検査はしたんだね?と同行させた大学研究所技師(中田勉)に石神が聞くと、は、水質、水量とも十分です、特に水質は軟水ですからそのまま使用可能ですと技師は答える。

あの丘の下、あの辺を東京からの高速道路が通る予定ですとちょっと高まった部分に登った檜垣が一方向を指す。

せつの手を取ってその場所に上げてやった石神は、ああ、じゃあ早速契約の手続きをとりたまえと指示する。

その時、せつが、何かしら?あれ…ととある方向を指差すので、その方向を見た石神は、測量じゃないか、あれ!と気付く。

檜垣がその連中の元へ走って行くと、上空にはヘリが飛んで来る。

やがて土地会社の社長を連れて戻って来た檜垣が、常務、真に申し訳ありませんと頭を下げる。

こりゃあと石神に挨拶した土地会社の社長は、いや、手付金を払ってもらったんでね、な〜に全部払ってもらった訳じゃないんだがねと弁解する。

縦横十文字に30町も買い取った奴がおるんですよと檜垣が言うので、30町も!と石神は驚くが、あんたん所に障りはないと思ったんでね、こんなに拾い土地だもんな…と土地会社の社長は言って笑う。

買ったのは誰だ?と石神が聞くとヘリが着陸し、そこから降りて来たのは伊夫伎だった。

あら?伊夫伎さんじゃないと説が驚く中、コートにサングラス、革手袋姿の伊夫伎が近づいて来て、サングラスを外して笑ってみせる。

ここをグラウンドにするんですって?常務、本当ですか?と伊夫伎が聞くと、憮然として石神は車に戻って行く。

せつや檜垣も慌てて後追うが、その姿を伊夫伎は愉快そうに見送っていた。 その後、会社に戻った石神に檜垣が、伊夫伎の要求は土地代に上乗せして2000万近くも多く吹っかけてるんですと報告する。

奴はこう言うんです、こっちから買うてくれと頼んだ訳じゃない、売ってくれと頼まれたから当然だろうって…、そう言われれば理屈もあるんで…、常務、いっそもう他に土地を探したらどうでしょうか?と檜垣は提案する。

するとそれまでずっと背を向けて考え込んでいた石神が突然振り返り、君はあの男の味方か!と叱って来る。

檜垣は返答できず黙ってしうが、その時ちょうど電話がかかって来たので、これ幸いとばかりに受話器を取り、常務、お電話ですと言い差し出す。

ああ石神常務、檜垣課長にこの間話しました件はもう結論が出ましたでしょうか?と聞いて来たのは伊夫伎だった。

もしもし?極東化繊との対抗上、工場の設置が遅れれば遅れるほど世界レーヨンに取っては不利な…と事務所からかけていた伊夫伎だったが、その途中に電話は切れてしまう。

それを側で見ていた清原と一緒に伊夫伎は笑い出す。 一方、石神から事情を聞いた小石原重役は、私はね、何もあんたを怠慢だとは言っとらんですよ、ただ極東化繊に勝つには早急に工場を設置して生産を開始せねばならないと言うので、分かっておりますと石神は答える。

じゃあ早速買収したまえ、条件が揃っているなら、土地代の多少高い安いは問題じゃないだろうと小石原重役が命じると、は、では早急に…と石神は答え部屋に戻る。 すると秘書が、内容証明の手紙が参っておりますと言って封書を持って来る。

ああ、読みたまえと石神が命じると、拝啓、御社ますますご清栄の段お喜び申し上げます、さて先般来懸案の冨士の工場用地の件、既に事態は緊急を要し、1日を遅延せんか極東化繊と世界レーヨンとの業績の差は正に致命的とも言うべく…と秘書が読んでいると、いきなりその手紙を奪い取った石神は丸めて捨てる。

そこへ電話がかかって来たので、伊夫伎さんだったら?と秘書が聞くと、いないと言うんだ、構わんと石神は指示する。

は、ただいま常務は…と受話器を取って話し出した秘書が、は?清水様…と言うので、急いで受話器を石神が取る。

ああ石神だ、君か?何か掴めたか?小泉かおる?うん、それがどうしたんだ?と石神は聞く。

事務所から電話していた清水は、清水かおると伊夫伎の関係をそれとなく突き止めましたと言う。

小泉かおるはもっか「シシリア」と言うバーに、は、それからもう1つ…と清水が続ける。

何?一井鮎子?と石神は繰り返し、知っとるか?と秘書に聞くと、はあ…、デザイン室の…、この間辞めましたけど…「アコ」とか言うお店を持ったとかで…と教えられる。

ふ〜んと頷いた石神は、その女と一井鮎子が関係あると言うのか?と清水に聞き、良しやれ!徹底的にやっつけろと命じる。

その後、鮎子の洋裁店「アコ」の前にはチンピラたちがたむろし、やって来た客たちをからかうので客は遠ざかってしまう。

あんたたち何なの?営業妨害よと鮎子が店の前に出て聞くと、へえ…そうなりやすかね?などとチンピラたちはとぼける。

警察呼ぶわよ!と鮎子が言うと、俺たちここで人待ってるんだよな?とチンピラは笑い出し「モードサロン 一井鮎子」の名前の入った看板に火の点いた煙草を押し付ける。

鮎子が店の中に戻ると、あいつ遅いんじゃねえか、ざまあみやがれ!とチンピラが罵倒して来る。

一方「シシリア」で働いていたかおるは、突然の指名に驚き、私に?と聞き帰す。 あちらの方?知ってる方?と聞かれたかおるは、ええと答える。

そこに座っていたのは檜垣課長と石神常務だった。 いらっしゃいませとかおるが席に付くと、こう云う所で会うとぐっと若返りますねと檜垣がからかって来る。

板に付いたじゃないかと石神も世辞を言っていると、他のホスタスたちがやって来たので、君たち遠慮して、この人に用があるから、内密の…と檜垣が言い追い払う。

1人席に残されたかおるが緊張すると、安心したまえ、何も取って食おうって訳じゃないんだよ、実は君にね、折り入って話があるんだよと石神は切り出し、檜垣に先を促す。

ねえ小泉君、君は伊夫伎を知っとるだろうね?と檜垣が聞くと、かおるが黙って頷くと、じゃああの男が会社を強請っていると言うことも当然知っとるね?と檜垣は念を押す。 かおるが黙ってるので、どうなんだね?と聞き返すと、仕方なくかおるは頷く。

そう、そんなら話は手っ取り早い、いや実はね君、うちでは近々あいつを告訴して監獄にぶち込んでやろうと思っているんだよ、とにかくあいつのやり口はいけないよ、そうだろう?子供が親の首を締め付けて殺そうとするのと同じだからね、そいでね…と樋口が説明していると、石神が手で制し、ねえ小泉君、さすがの僕もね、腹に据えかねたんだよ、僕だってね、個人的に伊夫伎君をどうのこうの思っている訳じゃないんだよ、ただね、やり方があまりにどぎついんでね、ま、会社としてもこれ以上我慢がならんのだよと伝える。

そこでだ…、これは僕の仮定だが、もしもだよ、君が伊夫伎君と何らかの関係があった場合、君もやはり彼の巻き添えで罪になるかもしれんのでね〜、ま、一言注意しようと思ってやって来たんだがね…と石神は言う。

僕はね、伊夫伎君はともかく君までこの事件に巻き込みたくないんだよ、ま、ともかく伊夫伎組んのやり方は想像を絶していてね〜…、君の他にも色々女の子が関係してるんだよ、例えば、うちのデザイン室にいた一井鮎子さん、あの子も伊夫伎の世話で店を出してもらったそうだよ…と石神が話していると、あの〜とかおるが言うので、何かね?と石神は聞く。

会社はどうしても伊夫伎さんを?とかおるが聞くと、ああ、ああ言う社会の不徳漢をやっつけるには告訴以外に手はないからねと石神は言う。

何とか、何とかあの人を救う道はないんですか?とかおるが聞くと、どうでしょう常務、ありませんかな〜と檜垣も口裏を合わせて来る。

う〜ん、ないとは言わんがね…と石垣が思わせ振りな返事をすると、あるんですか?あるんならお願いです、何とかしてあの人を…とかおるは訴える。

うん、君がそんなに心配するなら言うが、ただ君が協力してくれんとね、我々に…と石神が匂わすので、私、どんなことでもしますわとかおるは申し出る。

本当かね?と石神が念を押すと、それであの人が助かるなら…とかおるは言う。

そう、それなら話すがね、実は今伊夫伎は会社から2000万と言う金を強請り取ろうとしているんだよと石神が明かすと、2000万円!とかおるは驚く。

そう、そりゃあ我々の方にも弱みはある、しかし恐喝は恐喝だ、伊夫伎がその金を握った以上、我々はそれを証拠にあいつを訴えることが出来るんだ、ここなんだよ小泉君、伊夫伎の手に金が残る以上、彼は罪になる…、つまり伊夫伎からなんとか金を返させれば証拠はなくなってしまう訳だ…と石神が説明すると、そうすると私は伊夫伎さんからお金を?とかおるが聞く。

そうだ、我々はこれから彼に金を渡す、その金さえ戻してしまえば何にもない…と石神は言う。

でも本当にお金を返させれば大丈夫なんですね?とかおるは念を押すので、それは問題ないよと石神は笑って答え、なあ檜垣君と振る。

振られた檜垣も、ええ、そりゃあもうもちろんですと答える。

彼は一井君に店を出すためポンと金をくれた男だ、君も店を持ちたいとかなんとか言ったら2000万くらいは出すよと石神は焚き付ける。

かおるが迷っているのを見て取った石神は、まあ良く考えて決心がついたらいつでも僕の所へ来てくれたまえ、いいね?いくら悪い奴でも前科者にするには可哀想だからね〜と石神は丸め込む。

迷うかおるを見ていた石神は檜垣と目を合わせ合う。

後日、石神の部屋に檜垣に案内されたかおるが訪ねて来る。 檜垣は秘書に、君はちょっと席を外してくれたまえと頼む。

常務、小泉君は承知してくれましたと檜垣が報告すると、そう、そりゃあありがたいと石神は喜び、経理部長を呼び出し、例の小切手準備してくれないかと内線で伝える。

檜垣君から聞いてくれたかね?頼むよ、一応、会社は伊夫伎に小切手を渡すから…頼むよと石神はかおるに告げる。

その夜、じゃあこれ2000万と料亭で小切手を差し出した石神は、いやあ、完全に参った、降伏した!それを収めてくれたまえ…とおどけてみせる。 伊夫伎はそんな石神の様子を怪しんでいた。

その席には女将のせつと檜垣も同席していた。

おお君はいつかここの料理を褒めてくれたね?いやあ、女将も喜んどったよ、もっともこれは美人と言われたい方かもしれんがねなどと石神の饒舌は続く。

あ、どうお風呂?女将、背中を流して上げなさい、ね!と石神はせつに言い、今度は湯漬けにされないようにね…とせつも返す。

君は確か、鯉の洗いが好物だったね?女将、鯉の洗い、良いね?と石神は上機嫌で命じる。

その間、伊夫伎は出されたビールの中味も怪しんでいた。

伊夫伎君、今夜は大いに飲もうじゃないか!と石神が誘うと、ご免下さいとお照がやって来て、伊夫伎さん、お電話ですけど?小泉さんとおっしゃる方から…と伝える。 小泉?と伊夫伎が不思議がると、はい、女の方でございますとお照は言う。

「シシリア」に呼び出された伊夫伎は、良く僕の居所がわかったねとボックス席に座りながら話しかけると、清原さんからお聞きしたのとかおるは固い表情のまま言う。

しかし君がこう云う所で働けるなんて想像もできなかったよと伊夫伎は世辞を言い、で、僕に一体何の用?僕とはもう関係ないと言われたもんだからね〜、一体何のようだか、ちょっと考えが付かなかったんだと不思議そうに聞くと、伊夫伎さん、私ね、お金が欲しいのとかおるは言い出す。

ほお…と伊夫伎がちょっと驚くと、ここで働いてみて、私考えちゃったの…、パトロン持つほどの勇気もないし、またそんなこともしたくないわ、でも弟のこともあるし…、ここら辺で私、お店を一軒持ちたいと思って…とかおるは言う。

あなたに頼むしかしようがないのよ、あなたの仕事には私もリスクを賭けたんだし、それに…、それにあなたは一井鮎子さんにもお店持たせたんでしょう?とかおるが言うので伊夫伎は驚く。

良く知ってるじゃないかと伊夫伎が言うと、きれいなお店ね、あなたに協力してあのくらいのお店出してもらえるなんて、一井さんもなかなかやるわね…とかおるは慣れない芝居を続ける。

しかしそれに気付かない伊夫伎は、あれは一種の投資だよと答え、で、君も1軒お店をやりたいって言うんだね?と念を押す。

かおるが頷くと、変わったね〜君も…と寂しそうに言いながら伊夫伎は煙草を口にする。

いけない?とかおるが聞くと、いや、変わった方が良いよ、その方が良いんだよ、金のある奴を狙えか…、これは前から僕が君にご忠告していたことだからね、君も僕の影響を大分受けたようだね…と伊夫伎は言う。

皮肉?それ…とかおるが聞くと、いや、大いに結構だよ、良し、じゃあ金は出そうと伊夫伎は答えるので、ありがとう、でも私、いつかきっとお返しするわとかおるは言う。

いや〜、そんなこと気にしなくたって良いんだよ、しかし君も商売不熱心だな、さっきから僕のお酒の注文何も聞いてくれないじゃない伊夫伎が笑うと、あら、ごめんなさい、あなた、お酒召し上がったかしら?とかおるも笑顔で気付く。

バーに呼んどきながら酷いね、僕だってたまにブランデーくらい飲みますよ、君も良かったら何か飲みなさいと伊夫伎は答える。

ええ、いただくわ…と、かおるもようやく緊張が解けたようなような笑顔になる。

良し、じゃあ今晩1つ大いに飲むか?と伊夫伎はさっき石神が言った言葉を繰り返す。

しかしかおるの表情が冴えないので、どうしたの?と聞くと、私も飲めるようになったのよ…と言いながら席を立ったかおるに、伊夫伎は何か違和感を感じていた。

じゃあこれ…と翌日、かおるが小切手を石神に返しに来ると、いやありがとうと石神が受け取ると、その代わり、お約束は守っていただきますとかおるは迫る。

う?ううん、分かってる、分かってると石神は答えるが、檜垣君と声をかける。 檜垣は小泉君、こちらでと案内する。

事務所に帰って来た伊夫伎の背後に停まった車から刑事が2人降りて来る。

先に見張っていた2人も伊夫伎を取り囲む。 伊夫伎亮吉さんですね?と刑事が聞いて来る。

そうですと答えると、脱税、恐喝の容疑で逮捕しますと刑事(夏木章)は逮捕状を提示する。

唖然とする夏木章にその場で手錠がかけられる。 事務所にも手入れが入る。

取調室で、冨士野市の赤沢土地会社を知ってるね?と刑事から聞かれた伊夫伎は知ってますと答える。

赤沢から土地を買ったろう?と別の刑事(小山内淳)が言うので、はあと答えると、その土地が世界レーヨンの工場予定地なのを知ってたね?と刑事は聞いて来る。 さあ、知りませんでしたね〜ととぼけると、素直に言いたまえと刑事は責める。

じゃあ何故その土地を世界レーヨンに売りつけようとしたんだ?と別の刑事が聞くので、売りつけはしませんよと否定すると、石神常務に電話したろう?と言うので、うん?どうなんだ?1日3回10日続けて電話している!と刑事たちは調べたことを明かす。

そんなにしたかな〜?ととぼけると、土地を買い取れって電話したな?と聞かれるので、それはですね…と言い訳しようとすると、石神をしょっちゅう付け回したろう!調べはちゃんと付いているんだ!と刑事は責める。

お前の行動は明らかに心理的圧迫で恐喝だ!ともう1人の刑事も指摘するので、ほお、恐喝になりますか?と逆に聞くと、石神はお前を告訴したんだよと刑事が教え、2000万円強請り取ったろう?と聞く。

石神と言う奴は好かんねえ…と伊夫伎が言い出したので、何?と刑事が聞くと、あにね、世界レーヨンでは不正が行われています、石神常務はその彼の地位を利用して背任行為をやろうとしているんだと伊夫伎は訴える。

するとバカ!と罵倒した刑事がこれは何だ、これは!と伊夫伎が送った内容証明の手紙を差し出す。

刑事さん、この内容証明に土地を買えとか土地代がいくらなんて1行も書いてありませんよ、それがどうして恐喝なんですかね?と伊夫伎が開き直ると、しかしお前は2000万受け取ったんだと刑事は言う。

初耳ですねと伊夫伎が言うと、とぼけるな!と刑事が恫喝して来たので、じゃあ聞きますがね、押収した帳簿にその2000万は記載してありましたか?と伊夫伎は聞く。

記載されてないから脱税の容疑があるんだと刑事は言い、どうしてもシラを切るつもりか?と聞いた刑事は同僚に目で合図を送る。

刑事が1人取調室から出て行ったので伊夫伎は怪しむが、楽しみですな〜、何が出ますか?とタバコを吸い始めた残った刑事に言うと、その前に、これ譲渡権利書だ、知らんとは言わさんぜと刑事は封筒から取り出す。

ええ、誰のですか?と伊夫伎が聞くと、銀座西6-3、お前の名義になってるんだと刑事は言う。 なかなか良い店だそうだな?と刑事が言うので、不審に思って内容を読んだ伊夫伎はなるほどねと納得する。

その時ドアが開き、刑事に連れられて入って来たのはかおるだった。 なるほど…、そう言う訳ですか…と伊夫伎は事情を察する。

この女に間違いなく2000万円やったろう?と刑事が聞くので、良し、2000万は認めようと伊夫伎は答えながらも、だが恐喝の覚えはないなと言うと、いい加減にしろ!と刑事が怒鳴るので、しかしこれは脅し取ったんではないと伊夫伎は否定する。

何の理由もなく誰がそんな大金払うものか!脅かしたに決まってるよ!と刑事は責める。

石神って男はね…と伊夫伎が言い返そうとすると、人のことじゃない、お前はどうなんだ、お前は!女の前で良い所を見せようなんてみっともないぞと刑事は叱る。 脅したんだろう?そうなんだろう?白状しろ!いい加減に泥を吐いたらどうだ!どうなんだ!と2人の刑事は追及の手を緩めない。

その時、見かねたかおるが、違います!違います!この人の言う事は本当なんですと口を挟む。

私がいけなかったんです、この人は石神さんに騙されたんです、嘘じゃありません!この人助けるって言いながら、嘘つかれて…、それで私…と言いながらかおるは泣き出す。

それを聞いて愕然とする伊夫伎。 2000万円取り返せば伊夫伎さんを訴えないって石神さんたちが約束したんです!私、この人を騙してお金を取りましたとかおるは全てを打ち明ける。

すると刑事たちは、分かった、分かった、これで2000万取ったことがはっきりした訳だと解釈する。

この男は他にも強請った形跡があるんだ、世界レーヨンの件だけじゃないんだ、まあ良い、今日はこのくらいにしとこう…と刑事はその場を取りなし、伊夫伎は取り調べ室から解放されることになる。

その間ずっと泣いているかおるを見つめていた伊夫伎は、ドアの所で、ありがとう、本当のことを言ってくれて…と礼を言う。

君には迷惑をかけたな…と言い残し、伊夫伎は外に連れ出される。

それを涙で潤んだ目で見送るかおる。

その後、伊夫伎の面会にやって来た清原は、早速だが、君の担当弁護士として言うとだな、君の脅迫罪なんて成立せんよ、脱税にしたって1年以内に収めればそれですむ、どっちみち20日の勾留期限が切れたら嫌でもここを放り出されるよと伝える。

そうか、良し、俺はまだ石神なんかに負けたくない、もう1度あいつをやっつけてやるんだ!と伊夫伎は誓い、あ、パテントの件はどうなった?と聞くと、ああ、その件はな、これだ!とにかくポリレンのパテント関係を穿り出せば何とかなる、俺ももう一肌脱ぐよと清原は書類を取り出して答える。

よし、じゃあ後は大学の研究所を当たってくれと伊夫伎は頼む。

これは大変なことですな?と清原が持ち込んだポリレンの構造図を調べた大学研究所技師(中田勉)が指摘する。

抵触しますか?と清原が聞くと、はあ、ポリレンはイタリアジェノア社の染色法に触れます、微妙な所なんですが…と技師は言う。

再度、伊夫伎の面会にやって来た清原は、大学のデータを送ったらジェノア社から今日返事が来たと伝える。

ん?それで?と伊夫伎が聞くと、つまりポリレンはジェノア社のパテントに触れる!良し、じゃあそいつを明日の世界レーヨンと極東化繊のコンビナート結成祝賀パーティにぶち込もうじゃないか、」まず精巧疑いなしだ!と伊夫伎は言う。

君の計算通りいけば世界レーヨンは慌てて告訴を取りやめる、とりあえず保釈の手続きは取ってあると清原は教える。

そうか、うん、じゃあ頼む!と伊夫伎は清原に任せる。

「世界レーヨン 極東化繊 コンビナート結成祝賀会」 ただいまより、世界レーヨン、極東化繊コンビナート結成に尽力されました石神常務取締役が一言ご挨拶いたしますと司会役の檜垣課長が紹介する。

世界レーヨンの石神です、今夕は御多忙中、御出席くださいまして真にありがとうございますと石神が挨拶を始める。 その上わざわざ我が社のポリレンの背広やドレスをお召し頂き重ねて御礼申し上げますと冗談を言い、笑いを誘う。

部屋の外の休憩所では、ま、体の良い合併だね、極東化繊としては輸出面で外堀を埋められたしね、2社のコンビナートを早めたのは案外良い手かもしれんよ、会社が対立してだね、伊夫伎みたいな奴にぼろ儲けさせる手はないからななどと記者たちが談笑していた。

ま、2つが一緒になっちまえば、伊夫伎なんかの動ける余地はなくなる、奴の息の根も止まったよと記者はあざ笑う。

しかし歯には歯を、毒には毒を…、伊夫伎のやり方には俺は何か正義感みたいなものを感じるんだよと別の記者が言う。

正義感ね〜、黒い巨大な組織にたった1人で敢然に立ち向かったって言うのは人間的だって言えるだろうね…などと話していた時、おい、伊夫伎じゃないか?と1人の記者が気付く。

清原も一緒だ!招かざる客だよ!おかしいぞ、行こう!と記者たちは色めき立つ。

今やポリレンは国内はもちろん、アメリカ、ヨーロッパへの輸出、ソレントの貿易に成功、それに加えて…と話していた石神が言葉を止める。

会場内に伊夫伎と清原が入って来たので、来賓客たちもざわめき出す。

貿易の自由化は日本繊維業界の問題であるこの縦割りに立脚してここにコンビナート結成に踏み切ったのであります! 西本事業部長、小石原重役、藤原ミチコらも伊夫伎に気付く。

世界の自由競争に勝つためには、攻撃こそ最大の防御である! 結束し、増産に次ぐ増産でコストを安くし、数年後には我々が世界合繊市場の半分はいただく! 記者たちが伊夫伎の写真を撮りまくり、会場内は騒然とした状態になったので、伊夫伎と清原は互いに見合ってほくそ笑む。

繊維日本の誇りを全世界に示す絶好にチャンスを…とさらに石神は挨拶を続けようとしていたが、もう会場内のどよめきはそれどころではなかった。 西本や檜垣が静粛に!と呼びかけるが効果はない。

その時、皆さん静粛に願います!と清原が会場に呼びかける。

私は清原タケシ、伊夫伎亮吉の担当弁護士であり、同時にイタリアジェノア社から委託されました弁護士でもありますと自己紹介すると、この席上を借りて真に恐縮ではありますがご報告することがありますと言うので、石神も何事かと進み出る。

この度、ポリネタキシアミノ系繊維ポリレンの染色法をイタリアジェノア社の所有する特許に触れるものとして告発致しますと清原が言うと、石神や西本らは唖然とする。

なお今日以降、ポリネタキシアミノ系繊維の染色法に関する日本の法律の一切の措置をジェノア社は伊夫伎亮吉氏に委任しましたと清原が良い終えると、伊夫伎亮吉です、宜しくお願いしますと伊夫伎は満座の中挨拶する。

記者たちは一斉に伊夫伎を取り囲み、どう言う点が特許に触れるんですか?日本に置ける権利をあなたがもらったと言うんですか?動機を聞かせて下さい、今後の行動はどうなるんですか?などと質問し始める。

伊夫伎は何も答えず部屋を後にしたので記者たちが後を追って行く。

その時、待て!待ちたまえ!と呼び止めた石神は、何か御不審がおありですか?と伊夫伎が振り向いて聞くと、不審だと?ああ、ある!と言うので、承りましょうと言って伊夫伎は対峙する。

諸君、この伊夫伎亮吉をご存知でしょうか?と石神は来賓たちに呼びかける。

この男は法の盲点を巧みに利用し、世界レーヨン並びに私を悪辣極まる手段で脅迫し、多額の金銭を奪って来たダニのような男です!と指差して言う。

すると伊夫伎は、私がダニならあなたは何ですか?と問いかける。

同じようなウジ虫じゃありませんかと伊夫伎が言うと、何!と石神は切れる。

私はね、確かに世界レーヨンに宣戦布告をしました、しかしそれはね、あなたが得体の知れない総会屋と影で手を組み、表面は合法的に見せながら、実は会社の金を私物化し、妾に待ち合いをやらせているそんなあなたと、同時に世界レーヨンの幹部諸君の目を覚まさせたいためにやったのですと伊夫伎が言うと、何を言うか!と石神は言い返す。

あなたは組織の上で人殺しまでしたのだ!と伊夫伎が指摘すると、バカ!と石神は怒鳴る。

木村部長の自殺は単なる自殺ではない!と伊夫伎が突きつけると、また、バカ!と石神は怒鳴るだけだったが、同期のあなたに追い込まれて死を早めたのだ!あなたのその手で木村部長は殺されたも同然だ!と伊夫伎は責める。

黙れ!と石神は伊夫伎を突き飛ばそうとする。

私はね、あなたのようなウジ虫をやっつけるためには、私自身同じように手を汚さなければいけないと思ったんだと伊夫伎が言うと、貴様のような反社会的な悪徳漢をわしは許さんぞ!と石神は罵倒して来る。

私を憎むのは結構、しかしあなたには私をやっつけるだけの力はないでしょう?と伊夫伎が問いかけると、貴様!貴様!絶対許さんぞ!と石神は興奮する。

あなたはやがて世界レーヨンを追われるんだ!と伊夫伎は指摘しても、何を言うかバカもん!と石神は言葉で反撃して来るだけ。

治療中の社長が今日新人事を発表なさるそうですと伊夫伎が記者たちに通達すると、デタラメを言うな!と石神は否定しようとする。

ご承知ないようですな?と伊夫伎が聞くと、デタラメを言うな!貴様の言うままにはならんぞ!この男の言うことはデタラメだ!デタラメだ!と石神は反論するだけだった。

その直後「世界レーヨン新製品 ポリレン告訴さる 商標権の問題か」「苦境に立つ世界レーション 石神氏退陣か!」「全繊維の英雄!伊夫伎氏近く渡欧か」と大見出しで新聞に載る。

その新聞を事務所で読んでいると、良う、大したもんだね伊夫伎さん!と他の事務所の連中が褒めに来る。

「世界レーヨンの石神氏退陣!繊維界の英雄伊夫伎氏近くヨーロッパ行きか」などとはやし立てる。

伊夫伎さん、いよいよイタリー行きですね?と聞かれた伊夫伎はうんざりしたような顔で椅子に座り込む。

それでもまだ、伊夫伎ブームだからな、この事務所も伊夫伎さんに新築してもらおう、我々も大いにあやかろう、伊夫伎さんを見習って発奮しないとな…、お先に!と他の事務所連中は浮かれながら帰って行く。

しかし伊夫伎は何か浮かない顔のままだった。

そこにやって来た清原が伊夫伎は?と手伝いの男に聞くと、扉の影を指す。

おい伊夫伎、パスポートが降りたよと言って渡し、それから明日な、アジア紡績でお前の送別レセプションを開くそうだと知らせるが、伊夫伎は一言も答えないまま帰ってしまったので、おい!おかしな奴だな〜と清原は呟く。

「シシリア」にやって来た伊夫伎は、あ、かおるさんねと探すホステスを無視し、空いたボックス席に勝手に座る。

それを聞いたかおるは、こちらも困ったように席にやって来る。

よおと伊夫伎が声をかけると、イタリーにいらっしゃるんですってね?新聞で見たわ、あなたの勝ちね、おめでとうって言うわとかおるは話しかけるが、伊夫伎が何も答えないので、どうしたの?裏切った女には口も聞いてくれないの?と聞くと、結婚しよう、ね、僕と結婚しよう!と伊夫伎は言う。

驚いて伊夫伎を見つめるかおるは、嫌よ、驚かしちゃ!あなたらしくない冗談だわ…と笑うが、いや、僕も拘置所で考えたんだ色々と…、君のこと…、あの時に本当のことを言ってくれた君のことを忘れられなくて…と伊夫伎が言うと、遅かったわ…とかおるは答える。

驚いて伊夫伎がかおるを見つめると、私ね、今夜でこの店を辞めて弟と信州の療養所に行くことにしたの…、静かな所でもう一度本当の人間らしく行きてみたいのとかおるは言う。

僕と一緒になったて君…と伊夫伎は言うが、嫌!あなたは少しも人間らしくないわ、私に愛情を教えてくれたのはあなたよ!それ何に自分自身は少しも愛情などない!そんな人、嫌よ!私は嫌!とかおるは拒否する。

小泉君店と伊夫伎は声をかけるが、かおるは席を立ち店を出て行く。

君!と呼びかけ、外へ追って行く伊夫伎は、おい君!と呼びかけかけよろうとしてタクシーに撥ねられる。

タクシーの運転手は、馬鹿野郎!「気を付けろ!ち怒鳴ったまま逃げ去る。

驚いたかおるは倒れた伊夫伎に駆け寄り、伊夫伎さん、しっかり!ね、しっかり!と呼びかける。

何とか立ち上がった伊夫伎はそんなかおるに抱きつき、電柱を背にキスをする。

僕は君が好きだ!と訴える伊夫伎に、嘘!嘘よ!と言い放つかおる。

嘘じゃない、もう一度出直そう2人で、今までの僕は自動車に弾かれて死んでしまった…、君とならもう一度やり直す自信がある!ウジ虫になるのはもうたくさんだ!と伊夫伎が言うと、ようやく納得したのか、かおるは嬉しそうに抱きついて来る。

そして再び2人は熱いキスを交わす。

伊夫伎はかおるの背にかけるためコートを脱いで歩き出す。


 


 

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