白夜館

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にっぽんGメン

「三本指の男」で金田一耕助、「二十一の指紋」で多羅尾伴内に扮した片岡千恵蔵御大が、同じ比佐芳武脚本、松田定次監督とのトリオで描く刑事物。

戦後の一時期、GHQに禁止されていた時代劇に代わり、戦前の時代劇スターたちが出演せざるをえなかった現代劇の1本で、「後援:警視庁」と出る所からも分かる通り、私立探偵もの程荒唐無稽ではなく、どちらかと言うと警察の広報のようなそれなりに真面目な内容になっているが、基本は娯楽捜査ものである。

結果的にこの辺の刑事ドラマが後の東映の刑事物の源流になっているのではないだろうか。

脚本家が同じなので、千恵蔵御大は金田一のように妙に堅苦しい言い回しをしているし、時々鋭い直感を働かせる人物で、変装姿を披露したりもしており、キャラクター的には千恵蔵版金田一や多羅尾伴内とそう違っていないようにも感じる。

ただ一応警視庁の刑事なので、コケ脅かしのような突拍子もないことはしないと言う違いがあるだけ。

この当時の千恵蔵さんは、現代劇でも他の俳優と並ぶと明らかなイケメンで目立っていることが分かる。

ただ、Yシャツ姿の千恵蔵御大などを見ていると、顔の大きさに対して肩幅が小さいと言うか、身体が小さく見えるような気がする。

つまり、良く御大は顔が大きいと言われるが、身体が昔の日本人体型で小さいのではないか。

登場しているのは大半が戦前からの二枚目俳優や脇役俳優で、加東大介さんや杉狂児さんもまだ痩せてきりっとしている時代である。

特に鈴木伝明さんと言うイケメン俳優が見られるのが貴重かもしれない。

TV特撮番組「キャプテンウルトラ」のムナトモ博士でも知られる伊沢一郎さんの若々しい姿も貴重。

その伊沢さん演じる白石刑事の家に、御大扮する江藤刑事が居候していると言う設定らしい。

白石刑事のことをいつも気にかけている母親を演じているのは杉村春子さんで、それが伏線になって後半の悲劇に繋がるのだが、刑事が単独で聞き込みに歩いていると言うのが、今の常識からすると信じられない。

警視庁が後援している以上、当時はそうだったと言うことだろうか? 芝居の女形上がりのオネエっぽい人物を変態と表現しているのも今となっては意外な気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1948年、東横映画、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

タイトル

そのタイトル文字の上に「後援:警視庁」以下、白文字のキャスト、スタッフロールが横にスクロールして行く。

「またも集団強盗」「符号の元子爵邸襲わる」「変幻自在の出没」「一夜に都内二カ所を襲う」「怖るべき凶魔団の横行」「当局必死の捜査も空し」「集団強盗既に6件」「警視庁への不信たかまる」の文字が踊る新聞各紙面

桜田門の警視庁本部

その中の「刑事部長」の表札が出た部屋に集まった刑事たちを前に、藤沢刑事部長(月形龍之介)の訓示が始まっていた。

居並んだ刑事の中には、加藤警部補(加東大介)、江藤実(片岡千恵蔵)、甲野金治郎 (杉狂児)らの姿があった。

諸君は全力を尽くし、現に最善を従っておられる…、にもかかわらず、世情とかくの噂を耳にするのはひとえに私の不徳の致すところであって、決して諸君のせいではないのである。 刑事部長は捜査の大動脈であり、諸君はその支脈である。

従って大動脈の高鳴りなくして支脈の躍動は望めない。

その意味に於いて、私は深く責任を痛感しているのです。

本事件の犯人は本日まで杳としてその実体を明らかにしないとは言え、これはいずれにかに実存するのであり、いずれにか存在する限り必ず解明されなければならないはずである。

諸君、どうか不撓不屈の精神でやっていただきたい、捜査第一課の名に於いて、たゆまず勇敢にあらゆる困難を克服して前進していただきたい、公衆のため国家のため、正義そのもののために、諸君、どうかお願いする…と藤沢刑事部長は頭を下げる。

刑事部屋に戻った江藤は、大地君どうしたかね?と煙草をくわえ声をかける。

は、何かイライラするんです大地が答えるので、イライラする?ハハハ…、止したまえ、イライラしたら捜査のプラスにならんよと江藤は笑う。

そこにやって来た金森警部(大日方伝)が、全くだね〜、イライラは捜査の役には立たんよと笑うので、はっ!と大地は恐縮する。

江藤君、君は確か、小石川原町の叩きの現場に立ち会ったね?と金森警部が聞いて来たので、立ち上がった江藤は、はっ、小石川原町、蒲田西6号、新宿淀橋とこの3つの集団強盗事件に立ち会ってますと答える。

うん、じゃあすまんがね、これは宇都宮と埼玉県草加町に起こった2つの強盗殺人事件のことだが、これ呼んで手口の比較をやってくれたまえと金森警部が指示を出す。

僕の考えじゃ、どうも手口が似てると思うんだがねと金森警部は言うので、承知しましたと江藤はくわえ煙草のまま答える。

その後、金森警部に曾我部貞一(鈴木伝明)と言う訪問客があり、実はもう1つお願いがあるんですが?先だって挙げられたチャリンコで香川光太郎と言うのがいますね?あのお袋が家の町内に住んでおりまして、何とかして一目倅に会いたいと…と申し出たので、聞いていた金森警部は、いや困りますな、私に職務上、そう言う斡旋は出来かねますと断ると、いや、ごもっともです、しかし親1人子1人ですからな、私も色々泣きつかれますとな…と曾我部は粘る。

それでも金森警部は、いや、せっかくですがお断りします、私にはそう言う権限がありませんときっぱり答えると、その返答を聞いた曾我部が、ほう、私の顔ではダメだと言うのですかな?と上から目線で問いかける。

すると金森警部は、顔の問題じゃありませんよ、あなたであろうとどなたであろうと、ダメな物はダメなんですと憮然とした表情で答える。

いや、私は別にそう言う意味で言ったんじゃありませんからお気を悪くせんようにお願いしますと曾我部は苦笑しながら言う。

甲野刑事が刑事部屋に入って来た婦人警官に気づき、おっ、たか子(折原啓子)さんと白石譲治刑事(伊沢一郎)に教えると、たか子婦人警官は母さんが来てらっしゃるわと兄の白石に言いながら弁当を1つ差し出し、向いに座っていた甲野刑事に江藤さんは?と聞くと、江藤の机の前に来て、母がお弁当を持って参りましたと言いながら江藤の机にもう1つの弁当を置く。

それはありがとうございますと江藤は書き物から目も上げずに答えので、たか子はじっとそんな江藤のことを見つめていた。

廊下で出た白石刑事に母親のおとよ(杉村春子)が、でも20日のお前の誕生日には帰してくれるでしょう?と聞いていたが、分からんですよ、その日になってみないと確かなことは分かりません、ま、帰るつもりではいますがねと言いながら白石がさっさと部屋に戻ろうとすると、ねえ譲治、何か汚れ物ないの?と笑顔で聞いて来たので、ありませんと白石が言うと、身体に気を付けてね、風邪引かないよう用心しなさいよなどと子供の言い聞かすように言って来るので、分かってますよ…と白石はうるさそうに言う。

刑事部屋に戻って来た白石に、待っていたたか子が、今夜もお出かけ?と聞くので、一休みして甲野君と森たちを集めるんだと答え、母さん、頼むよと言う。

江藤は金森警部に、この集団は多分に軍隊的色彩を持っておりますと報告していていた。

どうして分かる?と金森警部が聞くと、行動に統一がありますし、その敏速性から見てそう結論されるのです、具体的証拠としては新宿の事件の犯人の遺留品の中に陸軍作戦用務令の一部がありましたと江藤が言うので、うん、なるほどならその説は本筋だねと金森警部は納得する。

そこに飛び込んで来た記者が、金森警部何ですか?と話に割り込ん来たので、な~に、前に拾った男の話さと金森が笑って答えると、誰が?と聞くので、僕さ、夢でねと金森が笑いながら言うと、な~んだ、大体、大将水臭いよ、僕にだって手がかりを提供したらどうです!と記者は文句を言うので、そう思うんだがごらんの通り閑散でね…と金森は苦笑しながら答える。

そこに電話がかかって来たので、前にまだ立っていた江藤が取り、ああ、ううん、良しと言って切ったので、金森が何事かと見つめ、何だね?と聞く。

は、木更津署内に自動車ギャング事件が発生して、被害者は重傷のために前橋の神楽病院に収容したそうですと江藤は伝える。

金森と江藤がすぐさま部屋を出て行くと、それを聞いていた記者も慌てて後を追う。

神楽病院に入院していた被害者は、やって来た金森と江藤を前に、10時過ぎだったと思います、私が勤務先の帰り、雷門の付近を通ると、ルームライトを消した一台の乗用車が疾走してきました…と言う。

ぴたりと私の前で停まったかと思うと、車内から手が出てあっという間に私を車内に引きずり込みました…(回想シーンあり)

車内の奥にはピストルを持った2人の男がいました、車はすぐ走り出し、田原町から本所に出て、再び前橋方面に帰ってきましたと被害者は言う。

その間に私は靴と上着をはぎ取られ、三筋町に差し掛かった時、いきなり車外に投げ捨てられたのですと言う。 その話を一緒に聞いていた新聞記者は、部屋の外に飛び出すと、あ、君!電話は?看護婦に聞く。

すぐに新聞に「自動車ギャング現る 被害者は重傷」の記事が載る。 さらに、同じように車内で身ぐるみ剥がされた男が車から突き落とされる事件が発生し、「またも自動車ギャング!被害者は突落されて即死」と言う記事が新聞紙上に踊る。

その後、サラリーマンが歩いていると、一台の車が横付けし、旦那どちらまで行かれます?と助手席の男が聞いて来たので、中野までだよとサラリーマンが答えると、そんならお乗りになったらどうですか?相乗りですからお安くしときますぜ、さあ!どうぞ!と助手席の男が笑顔で勧める。

その言葉に乗せられ、後部座席に乗り込もうとすると、いきなり車内に引きずり込まれる。

「戦慄!夜の通り魔 自動車ギャング 昨夜またも深川方面に出没」との新聞記事を甲野と呼んでいた江藤の元に返って来た白石刑事が、近県に問い合わせ電報の返事が来たんですが、4日の日に沼津で中古車が盗まれたそうですと言うと、それだなと江藤は頷く、それから沼津市では、今月の3日の日に、6人組の強盗事件が発生していますと言うので、6人組の?と江藤は驚く。

は、少し大胆な推理かも知れませんが、僕は例の集団強盗事件とこの自動車ギャング事件との間には何らかの関連があるんじゃないかと思うんですが?と白石は指摘する。

それを聞いていた甲野が、まさか君…と横から口を挟むと、いや、ないとは言えないよ、これは考えられんことじゃないねと江藤は考え込む。

そこに加藤警部補を連れた金森警部がやって来て、江藤君、今課長から命令があって、僕と君たち3人、それにこの加藤警部補を加えて特別捜査班が編成されたんだと伝える。

今や自動車ギャング事件の解決は我々の責任だよと金森が言うと、加藤警部補が宜しく!と挨拶する。

その後、被害者の入信した病院に向かった江藤や金森たちが被害金品を聞くと、オーバーに洋服、それから時計に鞄、それから現金が2万7300円でしたとベッドに寝ていた被害者は答える。

それについて何か参考になることはありませんか?と江藤が聞くと、ございますと言うので、何です?と金森が聞くと、時計はロールサムの8型で、番号は74447で、それから洋服ですが、これは薄茶の地に縦線の入った物で、上着の襟裏には裏地の耳を覗かせているのが特長です、布地の見えの模様は褐色と薄鼠の縞でしたと言うので、もう一度願いますと白石が念を押す。

夜、時化だね〜今夜は…と闇取り引きの買い手がぼやくと、別の男がそんなことねえよ、数は少ないが、みんな良いネタ持ってらあねと否定する。

おめえのネタは何だね?と聞かれたその男は、これだよと言って持って来た靴を披露する。

大分すり減っているな、まあ良い所300だなと買い手が値踏みをすると、バカ言うな、どうしたって500の代物だよ持って来た男は文句を言うので、なら他に回せとボスは吐き捨て、靴を放り投げる。

次に洋服をもって来た男がいたので、品物を吟味しながらいくら欲しいんだと買い手が聞くと、なりの片手さと、びた一文欠けたって嫌だね〜と男は答える。

それじゃ談合にならねえと買い手が言うと、回りにいた男の1人がその洋服を吟味しようと手を延ばしたので、手前なんかの手に入るような品じゃねえよ!止しやがれ!と売りに来た男がひったくったので、すみませんと詫びて引き下がった男は変装した江藤だった。

どうだね?皆さん、俺の言い値で手を打つと又良い事あるよ、手を打たないかね?と言いながら売り手が品物を持ち上げると、とっぽい野郎だね、おめえには勝てねえよと言い、結局言い値で買い取ることになる。

さあどうだ、ご覧の通り洋ランはとびきり上等の値だよ、どこかに持ち合わせはねえか?と買い手が参加者たちに呼びかける。

すると若い男がこれ買ってくんねえかと服を差し出したので、今夜はネタが良いなんてて言ったのは誰だ!と買い手は愚痴る。

それを潮に、変装した江藤はその場を離れようとするが、その時、少し先の路地裏で他の浮浪児たちと一緒にいた学生服の子供が、どこ行くんだよと年上の青年に聞いているのが見えた。

青年はどこだって良いじゃねえか、来りゃ良いんだよ、来な!と言い、学生服の子と浮浪児たちを暗がりに連れて行く。

カチアゲだな?と江藤は気付く。

学生服の子を連れて来た青年は、おい、身ぐるみ脱ぎなよ、でねえと、今日からここの定員には付けねえよと子供に命じる。

そこに、何してんでえ?と良いながら江藤が近づく。 ちっとは目先を見なよ、早くとんずらしないと今朝は刈り込みだぜと江藤が青年に言うと、青年は驚いて本当かい?と聞くので、嘘だと思うならじっとしてなよ、今に分からあねと答える。

すると青年たちはその場から逃げ出し、脅されていた子供だけが残ったので、さ、一緒に来るんだと江藤が手を引くと、どこに行くの?と子供は怯えて聞くので、親切なおばちゃんと姉さんのいる所さ、ここは君には良くないよと江藤は笑顔で答える。

するとその子は、僕の母さん、継母だから…と答える。

江藤が連れて来た子にたか子は、継母の母さん、あんたを虐めたの?と聞くと、虐めはしないよ、けど…、何だか面白くなかったから…と子供が言うので、懐けなかったのね?とたか子が指摘すると、毎晩本当の母さんの夢を見るんだもん…と言う。

かるわてんと答えたたか子は洗面器を持ち出し、こっちへ来てお顔あらって頂戴と優しく言い聞かす。

石けんとタオルも出してやったたか子が、だけどあんた良くカチアゲにあわなかったわねと褒めると、カチアゲって?と子供が聞くので、強奪よ、物を取られちゃうことと教えると、ああ、それならやられかけたんだよ、そこへちょうど江藤のおじさんが来てくれたんですと子供は答える。

それを聞いたたか子は、まああんた、運が良かったわね〜と言うと、本当だ、あんたは運の良い子供ですよと言いながら、おとよが炭を持って台所にやって来る。

その時、玄関が悪音が聞こえたので、おとよは譲治かい?と玄関の方へ行きお帰りと出迎えると、白石は江藤さん帰ってるんですか?と聞くので、ついさっきと教える。

そこに江藤が出て来て、おう、どうだった?と聞くと、白石はダメでしたと言う。 江藤も、こっちもだよと苦笑し、奴らは野上とは関連ないようだねと言う。


そう…、結局こりゃなし割り1本の重点捜査だね、それに歓楽街の徹底的調査、もうこの他にないね、ま、とにかく顔でも洗おうと勧める。

翌朝、白石の家から出掛ける江藤と白石にたか子が、やっぱり例の一味なんでしょうね?と言うと、多分そうでしょうと靴を履いていた江藤が答え、家を出る。

白石も一緒に出掛けようとしたとき、譲治、明日の誕生日には帰ってくれるだろう?とおとよが聞いて来たので、そんな場合じゃありませんよと白石は答え、憮然とした表情で出掛けて行く。

それを寂しげに見送る音世のは以後にやって来た子供が、何があったの?と聞くと、6人組の強盗殺人事件なの、1人が殺され、1人が重症なの…とたか子が教える。

荒らされた室内では鑑識による調査が行われていた。

その現場にやって来た金森警部は、はっきりした指紋が残っているのに気付き、こいつはとにかく収穫だねと江藤に話しかける。

江藤も、これで病院に送った被害者の陳述があればなお良いんですがねと答える。

しかしそこ甲野とともに駆けつけた白石が、残念ですが被害者は遂に死亡しましたと知らせたので、江藤らの表情が曇る。

じゃあ陳述は聞けなかったんだな…と金森も残念がるが、いや、多少はやられましたと甲野が進み出る。

それは?と聞くと、犯人の1人が参謀と呼んだそうですと甲野は報告する。 参謀?と金森が聞き返すと、それは軍隊用語の参謀かね?と江藤が詰め寄ると、は、だと思いますと甲野は答える。

陸軍参考用語例と参謀か…と江藤は呟く。

本部での会議の席、これは江藤君の説と同じ何ですが、例の特長のある被害品目の発見、歓楽地帯の徹底調査、この2点だと思いますと金森警部は古川久夫(藤井貢?)課長に報告すると、うん、すぐ当たってくれたまえ、応援はいくらでも出ると課長は言う。

全都内の故買者、古着屋、闇市、歓楽地帯、こう云う所を徹底的に洗うんだなと課長は命じる。

かくして刑事たちは都内へ散って行く。 「村岡古着店」と言う店にやって来た白石刑事は、こんにちは!どなたもいないんですかと声をかけると、はい、あ、いらっしゃいませと主人が奥から顔を出す。

警視庁の者だがね、ちょっと店内の品物を調べさせてもらいたいんだと白石が申し出ると、はっと答えた主人が腕にしていた腕時計を見た白石は、君のその時計、ウォルサムの8型だね?と気付く。

すると主人は、さあ…何と言うんですか?この間、無理に買わされたんですけど…、本当は私もっと小型が欲しかったんですと照れくさそうに言うので、君の名前は?と聞くと、村岡ユウジと答える。

前職は何?と聞くと舞台の女形です…、下前でしたけど…と恥じらうように答えるので、なるほどねと笑った白石は、後でその時計調べさせてもらうよと言う。

ええどうぞと言う主人の返事を聞き、座敷に上がり込んだ白石は紐で包んだ小さな行李が置いてあったので、これは?と聞くと、衣類ですの、地方からの注文で荷造りしていた所ですと主人は言うので、そう、ちょっと中見せてくれると頼む。

中の衣類を調べ始めた白石は、特長と同じ縦縞のスーツが入っていたのを見つけ出す。

時計見せてくれたまえと頼み、手帳に書いていた74447と言う数字を確認した白石が受け取った腕時計のふたを開けようとしていた時、外の様子を気にし出した主人は、帯に挟んでいたロープをそっと引き抜く。

白石が腕時計の蓋をナイフで開け、番号を確認しようとしたとき、その背後で主人はロープを延ばしながら白石を睨む。

キャバレーでは楽団が演奏をしていた。 そのホステス秋月ナオミ(市川春代)が、じっと自分ばかり見ていた客に因縁をつけに来る。

あんた、どうして私ばかり見てるの!何故他の人と踊らないの?と言うと、ソフェに肘を突いていた紳士が、悪いか?と聞く。

悪くはないけど、自分の商売の邪魔な人とは踊りたくないのと言い捨てると、ナオミはフロアの別の客とにこやかに踊り出す。

その肘をついていた男の背後にいたソフト帽の男が、どうした参謀?何をそう気にしてるの?と声をかけたのを、近くの席にいた江藤と甲野は聞き逃さなかった。

くよくよしなくなってナオンはあんたを裏切ったりしないよとその男は話しかける。

もしやったらどうする?その時はおめえたち責任持つのか?と肘をついていた男が振り返って聞くので、それが参謀のひがみってもんだよ、参謀、もっと自信を持ちなよ、だってあんたに首っ丈じゃねえかとソフト帽の男は答える。 首ったけの女が俺の見ている前であんなこと出来るけえと参謀と呼ばれた男は不機嫌そうに言う。

さあそこだ、そこが間違いの元なんだよ、参謀にはナオッペのことがまるっきり分かっちゃいねえんだ…とサングラスの男が口を出す。

見りゃ分かるでしょう、ナオッペの奴、カモにする気なんでさあ、そのつもりで…とサングラスの男が放していた時楽団が大きな音を立て、蛸はどうだね、酢蛸で飲んで〜♩親がはちまきチュウチュウ蛸かいな〜♩とおかしな歌を歌手がステージで歌い出す。

場内が暗くなった中、急に立ち上がった参謀は、右手にハンカチを巻きながらなおみに近づいて行ったので、ソフト帽とサングラスの男は驚く。

参謀は、ナオミを払いのけると、踊っていた男の胸ぐらを掴みいきなり殴りつける。

何をする!と殴られた男が言うと、さらに参謀は飛びかかって殴ろうとするので、おい、乱暴は止したまえ!と止めに入る男がいたが、参謀はその男も殴り倒す。

すると客席にいた2人の男がネクタイを抜いて構えようとしたので、かかわるんじゃねえ、ずらかるんだ!とソフト帽の男が2人を制して入り口の方へ押し出す。

その様子を見ていた甲野は思わず立ち上がって後を追おうとするが、

ちょっと待ちたまえと江藤は止め、今夜は奴1人上げれば良いんだ、連絡してくれたまえと耳打ちする。

捕えた参謀と呼ばれた男は取調室で尋問を受けることになる。

黙秘を続ける参謀の様子をマジックミラー越しに、隣室から江藤が2人の被害者たちを呼んで面通しさせていた。

運転手じゃありませんね?運転手とはまるで別人ですと2人の被害者たちは話合う。

そこに婦人警官姿のたか子がやって来て、兄はどこにおりますの?と言うので、白石君?そう言えば朝から白石君の顔が見えないが…と江藤も戸惑う。

昨日から連絡がありませんの?とたか子が聞くので、そう言うことになりますがね…、しかし6時から連絡会議を開くことになってますからそれまでには帰って来るでしょうと江藤は答える。

しかし深夜11時近くなっても白石が戻ってこないので、会議に出席していた江藤は、課長!白石君の身辺に何か起こったことはもう決定的ですなと伝える。

課長は、そうだ、う〜ん、もう有余は出来ん!諸君、ただちに白石の足取りを辿るんだと刑事たちに命じる。

翌日、村岡古着屋にやって来たのは甲野だった。

いらっしゃいましと主人が出て来ると、あ、警視庁の者だがね、19日の日にこの男が訪ねてこなかったかねと言いながら白石の写真を見せる。

写真を受け取った主人は、一向に存じませんけど…と言うので、一応室内を改めさせてもらうことにする。

しかし漬け物樽が2つ置いてある他に人がいる気配はないので、仕入も君がやるの?と甲野が聞くと、私以前舞台の女形を勤めていましたので…と主人が言うので、ほお…、女形の上がりかね?どうりで…と笑いながら甲野は帰って行く。

その夜の会議で、村岡店と言うのは?と聞かれた甲野は、ここも大体怪しい所ないんですよと報告する。

何しろここの主人と言うのが女形上がりの優男で…と甲野が苦笑しながら言うので、女形かね?と江藤が聞くと、言う所の変態ですと甲野は答える。

その時、江藤が突然、盲点だ!と言い出したので、え?と甲野は驚く。

いや、これは1つの仮設だがね、白石君と君は、ある先入観に囚われていたとしたらどうなるだろう?と江藤は指摘する。

例えば女形崩れの優男が殺人なんか出来るはずがないと言う…と江藤は言う。

夜、再び「村岡古着店」を訪れた刑事たちだったが、今晩は!と甲野が呼びかけても雨戸が閉まった店の中から返事はなかったので、留守らしいですな?と江藤が金森に話しかけると、ずらかったかな?と他の刑事が言う。

やむを得ない、開けようと金森警部が決意し、雨戸をこじ開けることにする。

すると座敷には誰もいなかったが電灯は付けっ放し状態であることを発見。

台所を覗くと漬物石を置いた樽が2つ置いてあるので、おい江藤君、1人者の所帯に何故あんな大きな漬け物樽があるんだと金森が指摘する。

それですよ、僕も今その不信を感じていた所なんですと江藤も言い、まだ手を付けていません、最近買い込んだ者らしいですな?と樽を外から観察して指摘する。

下地がめり込んでいる、最近掘り起こした形跡がある!と漬け物樽の下の地面を観察した金森が発見する。
 


 

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