白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

猛獣使いの少女

高倉健さんの元奥様で、少女ジャズシンガーとして人気が出てきた時代の江利チエミさんが大映専属となった映画デビュー作らしい。

専属と言ってもチエミさんは翌年にはもう新東宝作品に出ておられるし、3年後にはひばり、いづみさんらとの3人娘として東宝作品、更にその後、日活、松竹と各社で活躍されるようになったらしいので、大映とは1年なり何本かと言った短期契約だったのではないだろうか。

タイトルは「猛獣使い」だが、劇中でチエミさんが虎を操るシーンは最後の最後までほとんどない。

着ぐるみの虎の相手をするシーンと後半に本物の虎との合成シーン(この合成シーンはかなり巧み)があるだけで、劇中でのヒロインの得意芸は綱渡りである。(もちろん実際の演技風景は吹き替えの別人をロングで撮っているだけで、アップのシーンだけチエミさんで別撮りされている)

後半、虎を操ろうとするのは千秋実さんで、画面上は吹き替え役の外国人の背中と千秋さんのアップの切り返しで表現している。

千秋さんはこの作品で着ぐるみ虎と対峙しているが、この3年後には「ゴジラの逆襲」で着ぐるみゴジラやアンギラスを相手にすることになる。

チエミさんのヘアスタイルは、後の当たり役になる「サザエさん」みたいなパーマで前髪と後ろ髪を上に巻き上げたような当時の流行りになっているのが興味深い。

冒頭は子供映画か?と思わせるような出だしで、なんだか古い漫画「あしたのジョー」や「てんとう虫の歌」などに出てきそうな貧乏長屋でのびのびと育つ元気いっぱいの兄弟たちが登場したりするのが、その子どもたちはすぐに話の本流からは外れてしまい、その後は少女向けのちょっとセンチな父子物語になってゆく。

良く言えば古き良き時代の純朴でかなりしめっぽい人情噺といった感じで、そう割り切って見ればそれなりに楽しめなくもないのだが、正直今の感覚で見るとあまりのご都合主義に苦笑させられたり、正直臭く感じないでもなく、絵的にも低予算らしく全体的に見せ場不足というか地味な印象で、ミュージカルのように歌唱シーンが派手なイメージに変化するといった演出もない。

不自然な部分も目立ち、日本に父親を探しに来た二世の少女がいきなり街へ出た途端、その実父と遭遇するというのはいくら子供向けとはいえ偶然すぎるだろうし、その父親の兄が長年音信不通だった弟がたまたま訪れていた銀座のバーにいきなり会いに来る部分の説明もない。

又、ヒロインが最初に出会った若くてハンサムな根上淳さんの方と親しくなるならともかく、ちょっと強面風に見えなくもないバーで出会っただけのおじさんの方とバイオリンの音色だけで急に親しくなるというのも不自然に見える。

父親の愛に飢えていると言うならともかく、ヒロインには千秋さん演じる愛情深い育ての父がいるし、実父を求める潜在意識から…と解釈してもちょっと強引に見えなくもない。

チエミさんも母親がアメリカ人と言う設定にしては日本の庶民的な風貌だが、この辺はヒロインに無理なくアメリカのカバー曲を歌わせるための発想かも知れない。 隅田川近辺の様子など当時の東京の様子は興味深いし、劇中に登場するラーメンもまだ「中華そば」と言っていたりする。

子供の横でタバコを吸ったり、夜、中学生を1人で銀座に行かしたり、帰らせたりするのも今の感覚だと変に思えるが、当時はそういうものだったのだろうか?

低予算の添え物映画らしく、ロケーション以外のシーンは書割の前にセットを組んで、そこで芝居を演じている。

パースを付けた絵の前で芝居をしていたりすると、前景のセットとの兼ね合い上、どうしてもカメラは大きく動けないわけで、今の映画を見慣れた目からするとおとなしい画面構成になっている。

この当時のチエミさんはまだ幼さを残した近所の普通の可愛い中学生といった感じで、今で言う絶世の美少女と言った感じではないが、嫌味がなく明るいその笑顔は好感が持てる。

意外なのは、まだチエミさんは中学生くらいの少女なのに劇中では衣装替えのシーンまであり、画面に向かって正面からブラ姿(サーカスの衣装)まで堂々と披露していること。

今ならアイドルが水着姿を披露したりすることはあまり珍しくないが、50年代でこの少女の露出シーンはどういう演出意図だったのか判然としない。

アイドル映画なのでお色気サービスだったとは考えにくく、サーカスの衣装なので下着ではないと言う解釈なのかも知れないが、見た目はビキニのブラである。

思春期のチエミさんが良くそんなシーンを承知したなと感心する。

キャスティングで一番驚きなのは若尾文子さんがバーのホステス役で登場していることで、当時19歳くらいだったのか、丸顔の娘さんと言った感じであまりにその後と顔つきが違うのでちょっと見誰だか分からないくらい。

角度に酔っては面影があると言った程度で、予備知識がなければキャストロールで若尾さんが出ていることを知って見ても、どこに出ていたの?と困惑する人もいるはず。

割烹着姿で子沢山の母親とみを演じている清川玉枝さんなどもまだ若々しいし、千秋さんも劇中では白髪交じり初老役を演じているが顔の肌には艶があり若々しい。

東宝のイメージが強い千秋実さんが出演している点や、中村哲さんが日本映画で日本語と同時に英語を披露してるのも珍しいような気がする。

劇中に敵役として登場する「三味線バロー」と言うトリオは初めて見たが、実在した芸人さんのようだ。

三味線漫才というのは「内海桂子好江」さんとかギターと合わせたグループとか昔は色々あったようだが、3人共三味線を弾く男性トリオというのは珍しいような気がする。

お笑いなのに長身のイケメンメンバーがいるのも当時としては異色だったのではないか? ネタで「保安隊」の事を言っているが、これは自衛隊の前身となる「警察予備隊」のことだろう。

今でこそ映画は映画館上映だけではなく2次使用もするので、あまり腐りやすい「時事ネタ」は意図的に使われなくなったような気がするが、当時の映画は「情報発信源」的な要素もあったため、こうした時事ネタが色々な娯楽映画に散見できる。

根上淳さんのイケメンぶりも見ものだが、戦前イケメンとして活躍したという岡譲司さんも実父役で登場している。

この当時の岡さんは既に中年体型になっておられ、もう戦前のようなイケメンという雰囲気ではないのだが、この作品の前作が「毒蛇島綺談 女王蜂」での金田一耕助役である。

この当時の岡さんは必ずしも二枚目役ばかりという立場ではなくなっていたような気がするが、この作品ではまだ良い役だと思う。

TV「少年ジェット」のブラックデビル役で知られる高田宗彦さんは、金髪のサーカス団員役でチラリ登場し英語のセリフが1つある。

後、ものすごく若く髪もふさふさの中条静夫さんと早川雄二さんが、サーカスの楽屋でメイク中の千秋さんにマユミのことでインタビューに来ている新聞記者役で最初の方に登場している。
▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1952年、大映、井手俊郎+井上梅次脚本、佐伯幸三監督作品。

木彫エンボス風の会社クレジット

サーカスの入場ゲートの幕が左右に開きタイトル

入場口から白馬に乗った外国人少女らが満員の場内に愛想を振りまきながら入ってくる。

「オールアメリカンサーカス」のアドバルーンが翻る中、5人兄弟の少年少女たちがうれしそうに蔵前国技館の会場に走ってくる。

B券500円、C券300円と書かれた会場の前の柵に兄弟たちはしがみつき、会場の方をうかがい始め入る。

一番上の兄一郎(ハモニカ小僧)に一番下の妹が、お兄ちゃん、見たいね…と漏らす。

うん…、だけど、こんな大勢じゃなぁ~と兄は連れてきた5人の仲間たちを見ながら答えるが、おいみんな、付いておいで!と呼びかける。

サーカスの会場外の一画では、出番前のサーカス団員たちが集まり、練習したり休憩していた。

門番のおじさんは椅子に座って居眠りしていたので、その目を盗んで全員中に入ろうとするが、一郎と一緒に入りかけた一番下の妹が門番の足にぶつかってしまい、門番は目を覚ます。

しかし、とっさに一郎が、こんにちは!と野球帽を脱いで丁寧に挨拶したので、門番は怪しむこともなく、子供らをそのまま通してしまう。

会場内に潜り込んだ子どもたちは、楽団が演奏しているボックス席の背後の二階通路部分にやって来て場内を見学しだす。

一郎は、今度は白馬の出番だよと妹たちに教えると、よく知ってるねと上の妹が感心したので、知ってるさ、毎日来ているんだと嬉しそうに答えた一郎は、でもお母さんには言うなよと釘を刺す。

すると下の妹が、お兄ちゃん、一番前に行こうよと言い出したので、あ、あそこが良いわ!と上の妹も場内の中央部分を指さして賛成したので、贅沢言うなよ、ただじゃないか!と一郎は言い聞かせる。

ステージ上では、歩く白馬の上に乗った白人女性と男性がパフォーマンスを披露していた。

その上ではロープに吊られたはしごを使った女性の空中パフォーマンスが繰り広げられていた。

チンパンジーが竹馬に乗って歩いてみせたりもする。

それを兄弟たちは嬉しそうに見物している。

アシカショーも始まる。

女性団員たちのアクロバット演技に拍手が起こる。

兄弟たちも拍手をするが、その時、下の妹が、お兄ちゃん、マユミちゃん、まだ?と聞いてきたので、マユミちゃんかい?後2つ目だ!とプログラムを思い出しながら指折り数えて兄は答える。

満員の客席に、いよいよ皆様お待ちかねの「オール・アメリカン・サーカス」の花形、マユミ嬢が象のパトリシアに乗って登場いたします!とスーツ姿の日本人(中村哲)がマイクの前で挨拶し、すぐに英語でも同じことをアナウンスする。

すると、マユミ(江利チエミ)が象の先頭に立って笑顔で登場し、ステージの中央に立って客席に愛想を振りまく。

その頃、楽屋でピエロメイクをし始めていた江川浩介(千秋実)に、やって来た新聞記者が、マユミさんはおいくつですか?とインタビューをしていた。

江川は14歳ですと答える。

もし実父がわからない場合はどうします?と記者が聞くと、もちろん今までどおり私が養いますよ、10年以上も男手1つで育ててきたマユミです…、他人の手には渡したくはありません…と江川は答える。

ステージの中央では、マユミが、私は陽気な象使い♪と歌を歌い始めていた。

その曲に合わせて3頭の象による曲芸が始まる。

その頃、兄弟の住まいの長屋では、母親とみ(清川玉枝)がベルを鳴らしながら、みんなどこ行っちゃった?とその場にいた小さな男の子に聞いていた。

幼児に答えられるはずもなく、とみはしようがないね~と呆れながら又ベルを鳴らす。

そこに無断でサーカス見物に出かけていた一郎が、早く、早く!と兄弟たちを急かしながら走って戻って来て、とみの前に年齢順に整列する。

そんな子どもたちを睨みつけながら、とみは、黙って行っちゃだめだよ!と叱る。

すると、一番下の妹の顔が泥まみれだったので、何だい?その顔は…と笑いながら、とみは顔を拭いてやりながら、どこに行ってたんだい?と聞く。

その質問につい妹は、サ…と言いかけるが、横目で見ると一郎がげんこで殴る真似をしたのが見えたのでその後は黙ってしまう。

どうしたんだい?と不思議がったとみだったが、これでみんな揃ったね…と安堵しかけるが、一番大きいのが足りないじゃないか?と気づく。

タアちゃんのことだよと下の妹が指摘し、タアちゃんならカネさんのところで将棋指しているんだよと大きな女の子が教えたので、しょうがないねえ~ととみはぼやく。

タアちゃんこと山本源太(杉狂児)は庭先の将棋盤の前に座り、さあ、いつまで待たせるんだ、お前の番だぜ!又俺に新聞読めというのかい?などと長考しているカネさんを急かしていた。

そして愉快そうに笑いながら広げた新聞で見つけた記事には「祖国に父を探すー猛獣使いの二世マユミ嬢 オールアメリカンサーカスの人気者!」とあった。

その頃、兄弟たちは全員ちゃぶ台の前に正座し、とみが給仕する晩御飯を食べていた。

次々とおかわりの催促されるとみだったが、オカマに作った雑炊は既に底をついていた。

もうないの?これっぽっち!とおかわりの茶碗を受け取った女の子が聞くので、ご飯というものはね、よ~く噛んで食べるものだよととみが言い聞かせると、お雑炊はどうして噛むの?と一番下の妹が聞き返してきたので、ええ?理屈言うんじゃないよ!さ、もうお終い!ととみは叱り食卓を片付け始める。

食事を終えた子どもたちがめいめい散らばってゆく中、新聞を手に帰ってきたのが源太だったので、あんた、何をぼやぼやしてるのさ!支那そばやはこれからが稼ぎどきなんだよ!ととみは聞く。

すると一番下の妹がチャルメラを吹き始めたので、やかましい!静かにおしよ!ととみが叱る。

すると源太は、おい、俺の弟は確かに山本専吉といったな?と聞くので、専吉さん階?ととみは聞き返し、あんたが山本で弟が専吉なら山本専吉じゃないか、何をとぼけたことを言ってるんだよ!と呆れたように答える。

すると源太は持ってきた新聞を指差し、ほら、ここ読んでみろと言いながらとみに差し出す。

何だって?と言いながら新聞を受け取ったとみは、山本専吉、当時26、市民権を持たない山本氏は日米戦争勃発によってついに夫婦別れとなり、交換船にて日本に送還された…と記事を読み、専吉さん、帰ってるんだね?と聞く。

そうらしいなと源太が答えると、既にヘレン夫人のお腹にはマユミ嬢がいた…ととみが新聞の記事を読み進めると、お母ちゃん、マユミってアメリカン・サーカスの子のこと?と一番小さな妹が聞いてくる。

驚いたとみが、よく知ってるんだね?と聞くと、だって今日…と妹がサーカスに言ったことをしゃべりそうになったので、見ないけどね!看板に出てたんだよ、表通りの…と側にいた一番上の兄が妹を制止し、とみに対しては笑ってごまかす。

まもなくマユミ嬢誕生とともに、ヘレン夫人はこの世を…。

親友江川浩介氏は孤児マユミを引き取り、教育費1万円…ととみが又新聞を読み始めると、1万ドルだよと源太が訂正する。

1万ドル!と読み直したとみが、今日の金にするとどれくらいかしら?と聞くので、1万ドルだから10万円、いやもっとだな、30万円くらいだなと源太が教える。

しかしその言葉が信じられないとみは、一郎、ドルは円に直すといくらだい?と妹の側にいた一郎に聞く。

360円だよと一郎が教えると、360円…、じゃあ1万ドルだといくらかしら?ととみが言い出したので、1ドルが360だから、10ドルで3000…、100ドルで3万…、36万円くらいだなと源太がいい加減に答えたので、違うよ!頭悪いな、360万円だよと一郎が教えてやる。

それを聞いた両親は、え!360万円!と2人揃って驚く。

その頃、アメリカン・サーカスでは、ピロに扮した江川がステージ上でコントを繰り広げていた。

出番を終え外に出てきた江川は、マユミが虎のトニーに肉を差し入れしていたので、こりゃトニーの好物だと声を掛ける。

ええ、とってもうれしそうよと言いながら降りの入口を開け、肉を中に入れたマユミは自らも中に入って虎に肉を食べさせる。

その間、江川が入り口を閉めてその場を立ち去ろうとするが、そこに、浩介!来客だと団長(ジャーアン・カーニー)が声をかけてくる。

来客は源太ととみ夫婦だった。 とみは、私達は専吉…、あの…、山本専吉さんの兄夫婦でございますと挨拶すると、ご挨拶さいと亭主に命じる。

私、山本源太と申します、なんですか、専吉がいろいろ…と源太がへりくだると、そうですか、楽屋へどうぞ!中でゆっくりお話を伺いましょうと江川は2人を招く。

その時、トミーに餌を食べさせたマユミが入口を開け外に出てくる。

楽屋に来たとみは、持参した古い写真を江川に見せながら、これが14の時の専吉さん、この並んでいるのがこの人なんですよ、これが6つの時…、これが3つの時の写真…などと説明する。

はあ、なるほど…と感激しながら古い写真を見始めた江川の前で、とみと源太は互いにお前が話せと言う風に顔で牽制しあっていた。

結局とみが、あの~、マユミを引き取らせていただけますか?と切り出すと、いいえ、あれはやっぱり私の子ですと江川が答えたので、とみと源太は仰天する。

だってそんなこと!ととみが言い返そうとすると、いいえ、専吉くん、専吉くん本人が現れるまでは私の子です、他の方にお渡しすることは出来ませんと江川は言うので、そんなこと言ったって、あなたは専吉さんのただのお友達じゃありませんかととみが言い返す。

私達はあの人の血のつながった兄夫婦ですよ、もし専吉さんが死んでたら、当然マユミは私達が引き受けなくては…ととみが説得しかけると、待ってください、専吉くんはまだ死んでるとは決まってませんよ、いや私はね、あの子を赤ん坊の頃から育ててきたんです、初めは面倒でした、何度孤児院に入れようと思ったか知れません、でも2~3年の辛抱で専吉くんに再会できると思ってずるずる育ててるうちにいつの間にか自分の子供のような愛情が育ってきたんですと江川は説明する。

夜中、ミルクを買いに走りました、病気で寝ていたときなどは一晩中だいて明かしたこともあります、あの子のために稼ぎを全部貯金しました、適当な教育も受けさせています、日本語も一人前に喋れるようにしました、まあそのために私は婚期まで失いました…と江川は自嘲気味に説明する。

でも今はあの子とともに暮らせることをどんなに喜んでいることか、それを…、それを急に私はマユミの叔父だ、あの子を渡せなんて、そんな…、私からマユミを持っていけるのは私の親友の専吉だけですと江川は毅然と言い放つ。

そんな楽屋の外に立っていたマユミは、その他の方には絶対渡しませんよと言う中から聞こえてくる江川の言葉にしんみりしていた。

話を聞いた源太は、いや、お気持は良く分かりました、いまさら引き取らせてくれなんて、ついふらふらっと持参金…と口を滑らせかけたので、あわてたとみが、あなた!と制する。

いや…、それが…、本当にどうも今までよく育ててくださいました、弟に変わって御礼申します!今後ともどうぞよろしく!と源太は慌てて言葉を切り替え頭を下げて礼を言う。

そんな亭主の態度に不満そうな顔をするとみに気づいた源太は、こんなありがたい話を聞いてみっともない話を言えるか!と源太は叱りつけ、どうもお邪魔しましたと立ち上る。

帰ろうとする元気地たちに、あの~、マユミを見てやってくださいと江川は勧める。

私服に着替え劇場の入口付近に出ていたマユミは、とみに引かれ帰る源太たちとすれ違うが、互いに面識がなかったので気づかぬまま分かれる。

ところがその後、橋を渡って帰りかけていた源太は、背後からついてくる見知らぬ少女に気づき首を傾げて立ち止まる。

すると少女も立ち止まるので、不思議に思いながらも源太ととみはまた歩き始めるが、するとマユミがまたついてくる。

橋を降りかけた源太は、まだマユミがついてくるので、やっぱりそうだ、おい!ととみに声をかけ、一緒にマユミのもとに近づく。

あんた、マユミちゃんと違うかい?ととみが声を掛けると、マユミが不思議そうな顔をして顔を見つめるだけなので、お前はマユミちゃんだろう?ね?と源太も優しく語りかける。 するとようやくマユミはうんと頷く。

それを聞いたとみは、やっぱり良い勘だね、私ゃ…などと自画自賛するので、呆れたように睨んだ源太は、マユミちゃん、私はお前の父さんの兄さんだよと語りかける。

するとマユミが、私のパパ、おじさんに似てるの?と聞いてきたので、ああ似てるとも、そっくりだよと源太は自慢げに答える。

しかしそれを聞いていたとみが愉快そうに笑うので、源太は気まずそうに真顔になり、いや、そりゃ兄弟だから、似ているところは似てるよと言い直す。

でもね、こんなへんちくりんじゃないよ、マユミさんのお父さんはもっと上等だよ何もかも、うちに来れば写真もあるよ…ととみが口を出してきたので、源太はムッとなるが、マユミは興味を持ったのか、見せてくれる?と言い出す。

ああ良いさ、赤ん坊の頃のもあるよ、あんたそっくりさととみは嬉しそうに答える。

自宅に付いてきたマユミに古い写真を見せながら、この小さい方がマユミちゃんのパパだよととみは説明する。

子供の時のばっかり?大きくなってからのはないの?とマユミが聞くので、あったんだけどね、焼けちゃったんだよ、戦争で…ととみが答えていると、源太が台所で作った中華そばを持ってきてやる。 これをお上がりと源太が勧めると、何?これとマユミは聞くので、中華そばだよと源太は教える。

食べてご覧、美味しいよ、ほらととみが割り箸を渡すと、マユミは慣れない箸でラーメンを啜ると、側に正座してみていた兄弟たちにポケットからガムを取り出し、上げるわ、さあ遠慮しないでいらっしゃいと呼びかける。

すると、他の子達に促され、ハイと答えて近づいてきた一番末っ子の妹がガムを受け取り、どうもありがとうと礼を言う。

あ~ら、おばさんちの子どもたち、お行儀が良いのねとマユミが感心したので、そりゃあもう…ととみは笑い、源太も躾が良いからなと嬉しそうに自慢する。

しかし次の瞬間、兄弟同士でガムの奪い合いが始まったので、マユミと両親は絶句する。

だめよ喧嘩しちゃ!と立ち上がって近づいたマユミが注意すると、だって5つしかないんですもの…と女の子が言うので、足りないときは大きい人が我慢するのよ、その代わり、今度来る時たくさん持ってくるからとマユミは優しく言い聞かせ、兄弟たちの和に混ざって座る。

それを聞いた子どもたちは、本当だね?本当にね?げんまん!と言いながら一番末っ子が小指を差し出してくる。

げんまんって何?とマユミが聞くと約束の印よと末っ子が言うので、そうと納得したマユミは末っ子の小指に自分の小指を絡める。

夜、宿泊先の外でパイプをくゆらせていた江川に近づいてきた団長が、おい、どうした?と声を掛けると、江川は、江川の父親の消息がわかったんだと英語で答える。

引き取りに来たのか?と団長が聞くと、どこにいるかわからないが、いずれ来るだろう、狭い日本のことだと江川は寂しげに答える。

団長は「鳶に油揚げ」とはこのことだな、その気持、俺にもよくわかるよ…と同情し、去ってゆく。 そこに近づいてきた女が団長の首に腕を絡ませ甘えてくる。

そこにマユミが戻ってきたので、マユミ!どこへ行ってたんだ!と江川が問いかけると、あの~…とマユミが言いよどんだので、マユミが持っていたものに気づき、それは何だ?見せてごらん、あ、さっきのおじさんに会ったね?と気づく。

マユミが持っていたのは源太の家からもらってきた実父専吉の写真だったからだ。

そして?と江川が先を促すと、おじさんの家に行った…とマユミは打ち明ける。

マユミ、お前はこのパパに黙って見も知らぬ人の家に行ってきたのかい?知らない土地の出歩きはこのパパに断って行きなさいとあれほど言い聞かせているじゃないか!そんなにいたくないならもうパパのところにいなくて良い!さっさとそのおじさんの所へ行きなさいと江川が感情的になって咎めると、パパ!とマユミが寂しそうな顔になったので、もうパパはマユミを自分の子だと思わない、さ、行きたいところへ行くが良い!と江川は言い残し宿舎の中に入ってゆく。

取り残されたマユミは、パパ!ごめんなさい、パパ!と外から呼びかけるが、江川は返事をしなかった。

宿舎入口の前で泣きながらしゃがみこんだマユミに、マユミ、こんな所でどうしたの?と声をかけてきたのはサーカス仲間のチェリー(伏見和子)だった。

パパに叱られたの…とマユミが打ち明けると、どうして?気晴らしに銀座に行かない?東京で一番賑やかなところよとチェリーは誘ってくる。

さ、行きましょう、私、パパに断ってあげるわとチェリーが言い、宿舎のドアをノックする。

その後、マユミはチェリーと車で川沿いの場所にやって来る。 銀座ってここなの?とチェリーと車を一緒に降りたマユミが聞くと、ううん、ここは東京のリバーサイド、ちょっと回り道したの…とチェリーは言い、私のママね、この辺りで生まれたんですって…と打ち明ける。

夕暮れ時の隅田川をポンポン船が通り過ぎてゆくが、ひと目見たかったのこの隅田川…とチェリーは感慨深げに言う。

チェリーだって、やっぱりチェリーもママのことを考えることがあるのね…とマユミは同情する。

ええ、たまには考えることもあるわ…、でも欲しいとは思わないの、ただ知りたいだけ…とチェリーは寂しげに答える。

知りたいだけなら悪いことじゃない?とマユミが聞くと、ええとチェリーは言うので、良かった、私だって、本当のパパのことが知りたいだけなの…と安堵したようにマユミは答える。

でも今はパパに悪いような気がして…とマユミが打ち明けると、偉いわ!江川さんが聞いたらきっと喜ぶわ!とチェリーはマユミの方を掴んで微笑みかける。

その時、どこからともなくバイオリンの「トゥー・ヤング」の音色が聞こえてきたのでチェリーとマユミが周囲を見渡すが、マユミはいつしかその音色を一緒に口ずさみ始める。

するとチェリーも又一緒に口ずさむ。

川の畔でバイオリンを弾き終えた男はそっと立ち去ってゆく。

マユミが今のバイオリン、誰が弾いていたのかしら?と嬉しそうにつぶやくと素敵だったわ~とチェリーも嬉しそうだったので、バイオリンの幽霊ね、日本には不思議が多いんですって、パパが話してたわとマユミが言うと、チェリーが、行こう、銀座へ!不思議を探しに!と誘う。

ネオン輝く夜の銀座をぶらつく2人。

そんな銀座の路地裏から花束を抱えて出てきたのは、ハーモニカを吹く一郎と妹2人だった。

彼らは家計を助けるため、夜、花売りをしていたのだった。

一番末っ子の妹が、あ、マユミちゃんだ!と気づく。 マユミちゃん!と呼びかけながら近づいた兄弟に気づいたマユミは、何してるの、3人でこんなにお花持って?と聞くと、アルバイトさと一郎が答える。

するとマユミが、じゃあそれみんな買ってあげるわ、いくら?と切り出す。

一郎は、みんな買ってくれるなら負けとくよ、1000円で良いやと答えると、マユミはその場でハンドバッグからお金を取り出して、OK、これみんなのお小遣いと言いながら多めに手渡すと、今夜は早く帰るのよと姉のように言い聞かす。

さようならと挨拶して一郎たちが帰ると、誰、あの子達?と花束を受け取ったチェリーが聞いてくる。

うん、ちょっと知ってるのとマユミが教えると、ふ~ん、こんなにお花買ってどうするの?とチェリーが呆れたように聞く。

どうしようとマユミも困惑すると、まあ何とかなるわ、行きましょうとチェリーは明るく言う。

三味線を弾きながら流すトリオとすれ違い、飲み屋が並ぶ路地を歩いていたマユミとチェリーは、とある店の前で、先程川で聞いたバイオリンの音色を再び聞き足を止める。

「トゥー・ヤングだわ!」とチェリーが気づき、さっき隅田川で聞いたバイオリンの幽霊ねとマユミも喜ぶ。

その時、バイオリンを抱えた男が店から出てきたので、お兄さん、お兄さんのスリラムとっても素敵ねとマユミが声を掛けると、嬉しそうに振り向いた岡田良平(根上淳)は、そうかい?どうもありがとうと笑顔で礼を言う。

チェリーを見た岡田が姉妹?と聞いてきたので、ええとチェリーが嘘を言うと、売れるかい花?と岡田は聞いてくる。

だめなの、さっぱりとマユミが首を振ると、そりゃいけないね、僕についてらっしゃい、とても稼ぎの良いところへ案内しようと岡田は声をかけてきたので、チェリーは渡りに船とばかり、マユミに目で合図をして岡田の後をついていくことにする。

大きなクラブに来た岡田はバイオリンを弾き始め、マユミとチェリーは花束を持ってその側について歩き始める。

先程道ですれ違った三味線トリオも同じ店内で客を探していた。

さて歌は世に連れ、世は歌につれ…、「三味線バロー」お得いの一番!と客の気を惹こうと三味線トリオが立ち止まって口上を述べ始める。

平和の日本にの〜え!予備隊が出来たらの〜え♪と三味線バローは大声で歌い出す。

客はその三味線トリオの歌に拍手をし盛り上がり始めたので、マユミとチェリーは岡田の弾くバイオリンに誰も耳を傾けなったことを知る。

失礼だわ!とチェリーが岡田に同情すると、あの連中、幅利かせてね、事事に邪魔して困るんですよと岡田も困った顔をしながらバイオリンをやめる。

いよ〜、皆さん、景気良く飲んでますねと「三味線バロー」が漫才を始める。

その時マユミが、お兄さん、私が歌うわ、「トゥー・ヤング」弾いてよと岡田に提案する。

しかし…と岡田が躊躇するので、良いから弾いてよとマユミは頼む。

少し考えた後、笑顔でうなずいた岡田はバイオリンを弾き始めると、マユミは「トゥー・ヤング」を歌い始める。

その歌顔で客が耳を傾けだし、いつしかマユミと岡田は「三味線バロー」の前までやって来る。

「三味線バロー」たちはマユミの歌に押され、演奏を止めてしまう。

形勢不利と悟った「三味線バロー」が客席を去ると、客たちは一斉にマユミの歌に拍手をしだす。

「三味線バロー」のリーダーは、客席の端にいたチンピラ風の男たちに何事か指示する。

客席では、一緒に回っていたチェリーが花束を売りさばいていた。

その後「バー テネシー」と言う店で、岡田はマユミとチェリーとテーブルに座ると、お近づきの印に乾杯!とビールを飲む。

マユミとチェリーもジュースで乾杯をする。

ははは、痛快だったな、さっきの三人組の顔ったらなかったよと岡田は愉快そうに笑う。

所ですげえな今の歌、本当に素人なんですか?と岡田はチェリーに確認する。

ええ、でもあなたのバイオリンも素敵でしたわとチェリーは答える。

いや俺なんか…と岡田が謙遜していると、良平さん!ずいぶん可愛いお連れね?と呼びかけながら店のマダム加代(荒川さつき)が近づいてくる。

いやあ、そこで初めて会ったんだよと岡田が振り向いて答えると、ううん違うわ、お兄さんは知らないけど、私達2度めよとマユミが言葉を添える。

どこで?と岡田が聞くと、隅田川でとマユミが答え、「トゥー・ヤング」弾いてらっしゃったでしょう?探したけど姿が見えなかったわ…とチェリーも打ち明ける。

すると岡田は、いいや僕じゃないよと不思議そうに答えたので、じゃあやっぱり幽霊かしら?とマユミはチェリーに聞く。

でも「トゥー・ヤング」の弾き方、お兄さんそっくりだわとマユミが岡田に言うと、岡田の顔がこわばり、加代の顔を見るとジョニーだよと言う。

すると加代も、帰ってるのかしら、東京に?と笑顔になる。

すると、岡田の相手をしていたホステス愛子(若尾文子)も立ち上がり、帰ってるならここに一番に来てるわよとママに話しかけるが、分かんないわよ、あんな風来坊だもの…と加代は苦笑しその場を立ち去る。

残ったホステスは、幸せな風来坊…とつぶやき、あんな良いマダムを置いてけぼりにしてどこをうろついているのかしら?ジョニーさん…と岡田に聞く。

それを聞いていたチェリーが、ジョニーさんってマダムの?と聞くと、ホステスは微笑み、ええ、そうよと言いながら座り直す。

するとマユミが、お姉さんはお兄さんの?と岡田を見て聞いたので、あら!と恥ずかしがた愛子が立ち上がった時、チンピラ風の男2人が店に入ってくる。

チンピラ2人は岡田の前に来ると、おい、さっきはうちの連中の商売をえらく派手に煽ってくれやがったな?おい、ちょっとそこまで顔を貸しな!お前たちも来るんだ!と因縁をつけてくる。

立ち上がった岡田は、待ち給え!やるなら俺1人にしろ!この子達は…と言い返すが、チンピラたちは、何?その心配ならこっちがしてやらあ!などと言い返し、その場で殴りつけてくる。 岡田はそんな2人の相手を始める。

加代は必死に喧嘩を止めようとするが、その時やって来た客を見て、ジョニー!と驚く。 おい、健二!だいぶ手を焼いたな?とチンピラに話しかけてきたジョニー(岡譲二)の出現に、チンピラは急におとなしくなり、そそくさと店を後にする。

岡田は近づき、ジョニー、やっぱり帰っていたのかと語りかけると、この子達がお前の「トゥー・ヤング」を聞いたんだとマユミたちの方を見ながら教える。

隅田川で弾いてたでしょう?と言いながらマユミが近づくと、うんとジョニーは頷く。

おじさんの「トゥー・ヤング」ワンダフルね!とマユミが褒めると、ありがとうと答えたジョニーは、誰?と岡田に聞く。

不思議な花売り嬢だよ、それに彼女の「トゥー・ヤング」素晴らしいんだと岡田は褒める。

ほお、そいつは聞いてみたいなとジョニーが興味を示したので、私、おじさんのバイオリンで歌いたいの、弾いてくれる?とマユミは申し出る。

ジョニーはうんと承知したので、いつ?とマユミが聞くと、いつでもとジョニーは答える。

その時、マユミちゃん、今夜は遅いから明日にして今夜は帰りましょう、あんまり遅くなるとパパが心配するわよとチェリーが声をかけてくる。

そうねと答えたマユミはハンドバッグを手に取ると、おじさん、明日弾いてね、約束してとジョニーに頼み小指を差し出す。

するとジョニーもオーケーと答え、指切りげんまんをしてくれる。

さようなら、お兄さん、又明日!とマユミは加代と岡田にも挨拶して帰ってゆく。

マユミとチェリーが店を出てゆくと、いつ帰ってきたの?と加代はジョニーに声を掛ける。

一昨日、銀座の夢を見てね、急に東京が恋しくなって記者に乗っちまったんだよとジョニーは加代に答える。

ひどい人ね、便り一つよこさないで…と拗ねた加代は、カウンターに座り、コートのポケットからジョニーが取り出したからのウイスキー瓶を取り上げると、新しい酒瓶からグラスに注いでやりながら、あなた、あの新聞読んだ?と問いかける。

新聞?何の新聞だい?とジョニーが聞くと、やっぱり知らないのねと呆れた加代は、愛ちゃん、あの新聞、取ってあったでしょう?と岡田の相手をしていたホステス愛子に声を掛ける。

岡田にビールを注いでいた愛子は、スタンドの下にありますと答える。

加代はカウンターの内田名から新聞を取り出すと、ここよと言いながらジョニーに記事を見せる。

それは「祖国に父を探すー猛獣使いの二世マユミ嬢 オールアメリカンサーカスの人気者!」と例の記事だった。

その記事を読んだジョニーの表情が激変する。

ジョニーの顔を覗き込んでいた和代は、ヘレンさん、亡くなったのね…と言いながら又酒を注いでやる。

そのグラスを一息で空けたジョニーに、マユミってあなたの子よと和代は教える。

ジョニーは感慨深げに、マユミ…とつぶやく。 翌日もサーカスは盛況だった。

只今より、先刻虎使いで大喝采を博しましたマユミ嬢の綱渡りをご覧にいれます!と司会者が英語も使いマイクで紹介する。

そんな場内にふらりと入ってきたにがジョニーだった。

ジョニーは頭上の出発台の上に立ったマユミを発見すると嬉しそうに拍手を始める。

マユミはバランス棒を持って綱の上を歩き始める。

それをハラハラしながら見上げるジョニーだったが、底に通りかかったのがピエロに扮した江川だった。

江川は通路で上を見ているジョニーに気づくと、専吉?専吉じゃないか!と驚く。

一瞬誰だか分からない様子の専吉に、俺だよ、浩介だよ!と江川は打ち明ける。

メイク姿の顔を凝視した専吉は、おお浩介!と判別し、ずいぶん探したぞ!と喜ぶ江川と握手し合う。

ま、楽屋に来てくれ!と江川はジョニーこと専吉の手を引いてゆく。

頭上では、マユミと外国人少女を乗せた外国人の男が自転車に乗ったまま綱の上を渡っていた。

楽屋では、グラスに並々と注いだウィスキーで江川と専吉は再会の乾杯をしていた。

10何年ぶりかな?2人でこうやるのは…と江川が聞くと、専吉もうんと答えながら、楽屋の中に置かれていた日本人形やマユミのバッグや衣装類をそれとなく見る。

ヘレンは可愛そうなことをしたが、マユミだけはどうやら大きくなってくれたよと江川が言うと、すまん!何とお礼を言ってよいやら…と専吉は答える。

な〜に、大したことも出来なかったよと江川は謙遜しながら笑い出し、立ち上がると棚の上に置いてあったカップを取り、これはね、シカゴの万国博覧会で取った優勝カップ、これはカナダのケベックの市長から送られた…、これは学校で取った日本語の優秀賞だ、うまくなったよ日本語も…、こっちでお婿さんもらっても困らないねなどとこれまでのマユミの功績を教える。

そこに、パパ、衣装替え!と言いながら、綱渡りを終えたマユミが戻ってくる。

専吉に気づくと、あら、ジョニーのおじさん!こんにちは…とマユミは喜ぶが、専吉の方は、眼の前の少女が自分の娘と気づくと、マユミちゃんと笑顔で答えただけで、後は感激のあまり言葉を失う。

着替えてくるわねと言い着替え始めたマユミは、ねえパパ手伝ってと甘え、パパ、ジョニーおじさん知ってるの?「トゥー・ヤング」とっても上手いのよと無邪気に聞く。

そうかい?と江川が調子を合わせると、昨夜、おじさんのバイオリンで歌うって約束したのとマユミは打ち明ける。

江川は、そいつは良かったねととぼける。

ねえパパ、私の歌とおじさんのバイオリンで銀座を流したらみんなどう思うかしら?とマユミが聞くので、そいつは親子に見えるさと専吉を見ながら江川が答えると、そしたらパパ嫌だろうな…とマントを羽織りながらマユミは言う。

それを聞いた専吉と江川は互いに何も言えなくなる。

そこに団長が駆け込んできて、浩介!ジミーが熱を出して倒れたんだ、5分間だけ座を繋いでくれ!マユミちゃん、次の仕事頼んだよと頼んでくる。

オーケーと答えて楽屋を出ていく江川は、そっと専吉にマユミの相手をしてやれと目で促す。

ジョニー、ちょっとここを直してくれる?とマユミがマントの襟を掴んで頼んできたので、専吉はゆっくり立ち上がり、マユミの側に行くと気持ちを落ち着け、襟の乱れを直してやると、パパ、マユミちゃんをかわいがってくれるかい?と聞く。

ええとっても、本当のパパみたい!とマユミが答えたので、専吉はちょっと寂しげな表情になる。

専吉が黙り込んだので、どうしたの?おじさんとマユミは菊が、何でもないんだよと専吉は答える。

ステージではピエロ役の江川がコントを熱演していた。 マユミちゃんは良いパパを持って本当に幸せだねと専吉は、鏡台の前で髪を直しているマユミの背後から声を掛ける。

うん、だけど…とマユミが口ごもったので、だけどって?と専吉が聞くと、本当のパパが現れたらどうしよう?とマユミは吐露する。

どうしよって…、嬉しくないのかい?と専吉が聞くと、そりゃ嬉しいわ、嬉しいけど、今のパパに悪いような気がして…と、目の前にいるのがその実父とも気づいていないマユミは打ち明ける。

マユミのパパ、きっと死んじゃったのよ…、生きてるなら、とうの昔に現れているわ…とマユミは自らに言い聞かせるように言うので、うん…、それもそうだね…と専吉は答えるしかなかった。

マユミは、あ、出番だわ、すぐ帰ってくるから待っててねと言い残し楽屋を後にする。

後に残った専吉は鏡台の前に座り込むと、鏡に映る老けたおのが姿を見つめ、何事かを考え込む。

その時、ステージの方から拍手の音が聞こえてくる。 眼の前にあったペンを手にとった専吉は何かを書き始める。

そんなサーカスに1人でやって来たのは源太だったが、ピューマの檻の前に来た時、ピューマが急に吠えたので驚いて飛び上がると、側で休憩していた団員たちがおかしそうに笑い出す。

バツが悪そうにその場を離れかけた源太に、いらっしゃいと声をかけてきたのはピエロ姿の江川だった。

江川さん、先日はどうも!と源太は安堵して挨拶すると、家内が…おはぎを作りましたと言いながら、持参した土産を手渡す。

おお、そりゃ珍しい!と江川は喜び、風呂敷包みを受け取る。

それより珍しい人が来てるんです、さあ、どうぞ!と思い出した江川は源太を楽屋に案内する。

しかしそこには「江川君」と書かれた手紙が残されているだけだった。

そこには「宥してくれ浩介 僕はしがない流しの芸人だ 生活力に乏しき心も腐りきっている男がどうしてあの子を仕合せに出来よう 最後のわがままだ 何も云わず いつまでもマユミの良きパパであってくれ 頼む」と書かれてあった。

テーブルの前に座り込んだ江川に気づいた源太が、何か心配事でも?と聞くと、江川が手紙を渡したので、それにざっと目を通した源太は、馬鹿な野郎だと呆れる。

そこにマユミが戻ってきて、源太に気づくといらっしゃいと挨拶する。

パパ、ジョニーは?ねえジョニーは?と聞くので、うん、帰ったよ、急用を思い出したって…と江川は嘘を言う。

まあ、待ってると言ったくせに!嘘つきねとマユミは落胆すると、私、今夜行ってとっちめてやるわと言いながら、兄弟に座ると化粧を落とし始める。

すると江川が、マユミ、ジョニーっていう人はどこにいるんだい?と聞いてみる。

銀座の「テネシー」ってバーに行けば分かると思うわとマユミが教え、ねえ、私、今夜行っても良い?と聞く。

うん?今夜はだめだ…と江川は拒否する。 どうして?とマユミが聞くので、お前は疲れている、今夜は早く休んだほうが良いと江川はごまかす。

だって〜とマユミは甘えるが、いけないと言ったらいけない!と江川は強い口調で叱る。

その頃、タバコを咥えた専吉はとぼとぼと隅田川にかかる橋を帰っていた。

その時専吉は、橋の欄干に貼られていた「オール・アメリカン・サーカス」のポスターに写っていたマユミの姿に目を留める。

更に歩きだすと、又電柱に同じポスターが張ってあり、マユミの写真が目につく。

その夜、楽屋のベッドに横になり新聞を読んでいた江川は、机に座り、どこか寂しげに物思いにふけっているマユミの姿を見て案じる。

起き上がった江川はわざとらしく、ああ肩が凝った…、マユミ、揉んでくれるかい?と話しかける。

考え込んでいたマユミは急に笑顔になり、ええ、揉んであげるわと答える。

すまないな、勉強中に…と詫びる江川に、ううん、良いのと答えたマユミは立ち上がって江川の肩をもみ出す。

椅子に腰掛けて肩を揉まれた江川は、さっきから何を考えていたの?と聞く。

しかし、ううん、何にも…とマユミが言うので、ふ〜ん…、マユミと江川は呼びかける。

何?とマユミが聞くと、パパに会いたいだろうと江川は切り出す。

ううんとマユミが否定したので、本当に?と江川は念を押す。

ええとマユミが言うので、もしあの新聞を見てここへやって来たらどうする?と江川が聞くと、もうパパなんて来なくなって良いの、2人もパパはいらないんだもの…とマユミは殊勝に答える。

本当かい?と江川が再度確認すると、ええ、本当よ、だって私にはこんな良いパパがあるんだもの…と言いながら、マユミは江川の肩に抱きついてくる。

そうかい、そう思ってくれてるのなら、パパも嬉しいよと言いながら、江川はマユミの手を握り返す。

ねえパパ?とマユミが話しかけてきたので、何だい?と江川が答えると、マユミはその膝の上に腰を下ろし、江川の首筋に手を回し、私ね、お願いがあるんと言い出す。

ああ良いとも、マユミの言う事なら何でも聞くよと江川が微笑むと、マユミね、今夜、ジョニーの所に行っても良い?とマユミは切り出す。

その願いを聞いた江川は、えっ?ジョニーの所に?と驚くが、事情を知らないマユミは、バイオリンとっても素敵なの、私、ジョニーに弾いてもらって「トゥー・ヤング」歌いたいのとマユミが無邪気に言うので、マユミはそんなにジョニーが好き階?と寂しそうに聞く。

マユミは、ええ、大好き!ねえパパ、行っても良い?とねだってくる。 落ち込んだ江川だったが、ああ良いよ、行っておいで、マユミがそんなに好きなら…と答える。

本当?嬉しいと言って膝から降りたマユミに、ああそうそう、パパもジョニーさんに手紙を書こう、持ってってくれるかい、これからでも?と江川は聞く。

マユミはうん、早く書いてね、私支度するからと嬉しそうに答えると着替え始める。

「家へおいでよ」をハミングしながら着替え始めたマユミを背に、江川は便箋を開き手紙を書き始める。

バー「テネシー」にやってきた源太と再会していたジョニーこと専吉は、マユミは可愛い子だよ、お前のことをな、根掘り葉掘り聞きたがってな、お前が本当の父親と分かったらどんなに喜ぶか知れないよと嬉しそうに話す兄の話に表情を曇らせていた。

私もやっぱりマユミちゃんは本当のパパと暮らした方が幸せだと思うな…と一緒のテーブルで話を聞いていた和代も意見を言う。

あの子だって本当のことが分かれば、きっとあなたの側で暮らしたいって言うわ、私、マユミちゃんのお母さんになれないかしら?と和代は恥ずかしそうに夢を語る。

2人でマユミちゃんを引き取って、どんな貧乏暮らしでも良い、もう一度出直しましょうよと和代は勧め、うんそうだ、専吉そいつが良いやと源太も賛成するが専吉の表情は硬いままだった。

無言で立ち上がったうんそうだ、専吉そいつが良いやと源太も賛成するが、は隣のカウンターに向かい酒瓶を取ろうとするが、それをダメ!タバコだって多すぎるわ!のべつ幕なしに吸ってるんですもの…、毒よ…と注意したのはカウンターの中で岡田の相手をしていた愛子だった。

しかし置いてあったグラスの酒を開けた専吉は、何もかも遅すぎるんだよと吐き捨てるように言う。

俺の手はアルコールとニコチンでブルブル震えているし、バイオリンだって満足に弾けやしないんだ…と専吉は自嘲する。

マユミはこんな男と暮らすよりはサーカスにいた方が100倍も幸せなんだ…と専吉は言う。

お前だってこの店のマダムに収まっていたほうがどんなに幸せかわからねえんだ!と専吉は別室から出てきて自分を見ていた和代に振り向いて言う。

そんなこと言ったって、マユミちゃんに会ってみなけりゃ…と岡田が言うと、何言ってるのよ!今日会ってきたのよと愛子が教える。

そして名乗りも出来ずに逃げた帰ってきたんだわ…と和代も背後から厳しい言葉を投げかける。

自分で自分の気持ちを惨めにして、それでこの人は良い気持ちなのよ、いいえ…、あなたは自分の気持をごまかしてるんだわ!弱虫!意気地なし!とカウンターに近づきながら和代は責める。

マユミちゃんの本当の幸せだって、私の気持ちだって…心の底ではわかってるくせに!と和代は恨めしそうに続けるので、うるせえ!と専吉は怒鳴りつける。

そこに入ってきたのがマユミだったので、それに気づいた専吉は驚く。

やっぱりここにいたわね、ジョニーのおじさん!と無邪気に言いながら近づいてきたマユミに、こんばんは!と和代たちに挨拶したマユミは、あら?源太おじさんもいたの?今晩は!と声を掛けるが、当の源太は思わぬ事態に笑顔で会釈を返しただけだった。

ストゥールを降りた専吉は感激したようにマユミに近づく。

しかしマユミの肩を抱こうとした専吉は、どうしたのジョニーのおじさん?とマユミから聞かれ我に返ると、なんでもないとそっぽを向く。

なんだか変だわみんな…とマユミは店の中にいる人間たちが全員様子がおかしいことに気づく。

あ、そうそうパパから…とマユミは思い出し、バッグの中から預かってきた手紙を取り出し専吉に渡す。

バーの応接室で「専吉君」と書かれた封筒の中を読み始めた専吉は、「マユミは君を慕っている。トゥー・ヤングの上手なジョニーと言って…。

どうか今夜一晩マユミの相手をしてやってくれたまえ。パパとして、あるいはジョニーとして…、それは君の勝手だ。ただいずれを選ぶにしても君とマユミの一生の幸せに関わることだ、身長に選んでくれたまえ 浩介」と書かれてある文面から江川の真摯な気持ちを知る。

応接室のソファに座ったマユミが、何の手紙?と聞いてきたので、何ね、マユミちゃんがお世話になってありがとうと書いてあるんだよと教えると、まあそんな手紙…とマユミは真に受ける。

そこに和代がケーキと紅茶を持って入って来ると、さあどうぞと勧める。

愛子も果物を持って来たので、まあごちそう!サンキュー!とマユミはよろこび礼を言う。

ごゆっくりねと言って和代と愛子が応接室を出てゆくと、ジョニーは嘘つきね、待ってるって約束したのに帰っちゃって…とジュースを飲みながらマユミが切り出す。

専吉は、ちょうど幼児を思いついたもんだから、ごめんよとケーキを切り分けながら詫びる。

するとマユミが堪忍してあげると答えたので、マユミちゃんっパパは本当に良いパパだねと専吉は褒める。

もちろんよ、今日だってジョニーの所に行きたいと言ったら、そんなに出歩いちゃいけないって叱ったけど、私がジョニー大好きって言ったらちゃんと行かしてくれたわとマユミは嬉しそうに答える。

そんな良いパパなら本当のパパはいらないね…と専吉が寂しげに言うと、えっ?とマユミが驚いたので、じゃあやっぱり欲しいのかい?と専吉は聞く。

だって本当のパパってどんな人か分かりゃしないじゃないか…、悪い人かも知れないよ…と専吉は不思議そうに覗き込むマユミを前にタバコを吸いながら言う。

しかしマユミは、ううん、マユミのパパだったらそんなに悪い人だとは思わないわ、今のパパ、とっても可愛がってくれるの、でも少しも叱ってくれないのよ、本当のパパだったら、マユミがわがままを言ったらほっぺたを叩いてくれると思うわとマユミは言う。

私、パパに思い切りわがままを言ってみたいの、そして思い切り打たれてみたいの…、マユミ、そんなパパが欲しいの…とマユミは心情を吐露する。

目をそらせたままその言葉を噛みしめていた専吉は、感情が昂ぶりソファから立ち上がると、マユミに背を向けて涙する。

それに気づいたマユミは、どうしたの?ジョニー…と言いながら背後に来ると、ごめんなさい、でもジョニーが悪いのよ、私に本当のパパのこと言わせるんですもの…と声を掛ける。

振り返りながらマユミの方を抱いた専吉は、そうだね、ジョニーおじさんが悪かったよ、ごめんよと笑顔で答えると、さ、元気に歌でも歌っておくれと頼み、自分はソファに腰を下ろす。

マユミは得意の「家へおいでよ(カモナ・マイ・ハウス)」を歌い始める。

専吉はそれを愉快そうに聞くが、その歌につられ、和代や愛子、岡田たちも部屋に入ってきたのですぐに又暗い表情になる。

その頃、江川は無人の暗いサーカスステージで1人酒を飲んで寂しさを紛らわせていた。 マユミは専吉と夜の銀座を散歩に出る。

途中、ベンチに腰を下ろしたマユミはああ疲れちゃった、でも楽しかった…、ジョニーは?と聞く。

そりゃ楽しいさ、マユミと一緒だもの…と答えベンチの隣に腰を下ろす。 私、ずっとこのままジョニーと一緒にいたいな、ねえジョニー、言っても良い?とマユミが言うので、何だい?言ってごらんと専吉が聞くと、私ね、ジョニーが本当のパパだったら良いなって思ってるのと言い出す。

それを聞いて黙り込んだ専吉の顔を振り向いたマユミは、あらいやだ、怖い顔しちゃ…、ごめんなさいと詫てくる。

何、怒っちゃいないさと無理に笑顔を見せた専吉は、だけど僕は嫌だな、だってマユミの本当のパパになったらほっぺたを打たなけやならないだろう?それが嫌だからさ…と茶化す。

まあ!でもマユミ、ぶたれても良いんだけどな…とマユミは甘えてみせる。

行きましょう!とジョニーの手を撮って立ち上がったマユミは、私、日本にいる間、毎晩こうしてジョニーと歌ったり歩いたり出来たら本当にパパなんかいらないわと言う。

でもそんなに家を開けたらそれこそパパに叱られるよと専吉が言うと、ううん、大丈夫、私の言うことは何でも聞いてくれるのとマユミは答える。

それを聞いた専吉は、良いパパだねと言って、繋いでいたマユミの手を軽く叩いてやる。

とっても良いパパ、私、帰るわ、ジョニー、明日又約束して…とマユミが小指を出して言うので、一瞬専吉は喜ぶがすぐに表情を曇らせ、マユミちゃん、明日はダメなんだと答える。

じゃあ明後日?とマユミが聞くので、明後日もダメなんだ…と専吉は心苦しそうに答える。

どうして?とマユミが聞くので、ジョニーは、ちょっと用があって関西まで行かなきゃいけないんだよと専吉は答える。

で、いつ帰ってくるの?とマユミが悲しげに聞くと、さあ…、一ヶ月くらいかな…、いやもっと長くかかるかも知れないよ…と専吉が言うので、じゃあもう…とマユミはがっかりし、うん、これが最後のお別れになるかも知れないね…と専吉もなだめる。

どうしても行かなくちゃいけないの?とマユミが聞くので、うん、どうしてもね…と専吉は苦しそうに答える。

本当にもう会えないの?と迫るマユミに、うん…多分ね…と専吉は目をそらせて答え、ポケットからハンカチを取り出すとマユミの涙を拭いてやりながら、じゃあこれでお別れしようね、でも本当のパパが出てこなくても、今のパパの言うことをよく聞いて幸福に暮らすんだよと言い聞かせる。

じゃあ早くお帰りと勧める専吉に、ジョニー、次の角まで送ってくれない?とマユミは頼むので、頷いた専吉はマユミの方を抱いて送ってやる。

腕組みしてある場所まで来た専吉は、さあここでさよならしようねと言い聞かせる。

次の角まで…とマユミはわがまま言うが、きりがないよ、ここでお別れしようと専吉は断るが、マユミはいやいやとわがままを言う。

その後もしばらく歩いたので、さあここでお別れしようねと専吉は言うが、マユミは、ジョニー、私のこと忘れないでね?と頼む。

誰が忘れるものか、それに僕のことを本当のパパだったら良いと言ってくれたことも忘れはしないよと専吉が答えると、感極まったマユミは、ジョニーと言いながら専吉に抱きついてくる。

専吉はマユミを受け止めながらも近づいてきたタクシーを止め、マユミをそれに乗せて、運転手に金を渡しながら国技館までとタニムと、マユミちゃん、達者でね!と後部座席のマユミに声を掛ける。

ジョニーもね、もしもジョニーが本当のパパだったら…とマユミは窓から言い残しタクシーは走り出す。

それを見送った専吉は、高架下に近づき、電車の走りすぎる音の下で、マユミ、マユミ!と思い切り叫ぶのだった。

鼻歌交じりの上機嫌で宿舎にやって来たチェリーだったが、楽屋内に江川の姿がないので、無人のはずのステージへ探しに行く。

浩介さん、こんな所で何してるの?マユミは?とステージで1人苦そうに酒を飲んでいた江川に声をかけてきたのはチェリーだった。

江川は、今頃銀座で歌っているだろう…パパと2人で…と苦笑交じりに答える。 パパって?とチェリーが驚くと、ジョニーってのがマユミの本当のパパだったんだよと江川は教える。

ジョニーがパパだってこと、マユミは知ってるの?とチェリーが聞くと、ジョニーが打ち明けるかどうか…、ま、隠した所で実の親子だ、いずれは知れるさ…と江川は不安そうに言う。

そんな中、楽屋にマユミが嬉しそうに鼻歌を歌いながら帰ってくる。 しかし江川がいないことに気づくと外に探しに行く。

暗いステージ内では、生みの親より育ての親って言うが、それは親にしても子にしても血の繋がったほど強いことはないさ…と江川は苦笑しながらチェリーに話していた。

それを聞いていたチェリーは、そうかも知れないわ、いつも強いことを言っている私でも時には本当のパパのことを考えるもの…と打ち明けるが、ごめんなさい、こんなこと言っちゃって!と江川の気持ちを察したのか詫びる。

ううん、良いんだよ、いつかは今日という日が来ると思っていたんだ…と江川は答えながらウィスキーのポケット瓶をあおる

だから今度の日本行きを僕だけは何度断ろうと思ったか知れない…と江川が言うので、でも不思議ね〜運命って、ジョニーがマユミの本当のパパだなんて…とチャリーが話しているのを近づいてたマユミは聞いてしまう。

驚いて立ち止まっていたマユミは、思わず、パパ!と呼びかけたので、江川は驚いて酒瓶を背中に隠しながら立ち上がる。

パパ!本当なの?ジョニーが…とマユミが聞くと、やむなく江川は頷いてみせる。

パパの嘘つき!と言い放ったマユミはその場から逃げてゆく。 マユミは後を追おうとするが、チェリーが後を追いかける。

江川はがっくりその場でうなだれる。

チェリーは入り口のところまで追ってくるが、マユミはタクシーを捕まえたのかその場から走り去ってしまう。

マユミは店じまいしてホステスたちが帰っていっていた「テネシー」の前に再び来る。

店の中では、まだ残っていた岡田が和代に、ジョニーのことだから、又気が向けば帰ってくるよと慰めていた。

そこにマユミが入ってきたので、和代はマユミちゃん!と驚くが、マユミはジョニーは?どこにいるの?と聞く。

和代と岡田が口を閉ざしていると、ジョニーは隠していたの、私に嘘ついていたの、本当のパパなのに…とマユミは悲しそうに言う。

マユミちゃん、どうしてそれを?誰に聞いたんだい?と岡田が聞くと、あなたも知っていたのね?いじわる!マダムも知ってたんでしょう?とマユミは責めるように聞く。

知ってて知らないふりするなんて、酷いわ、酷いわ!とマユミは嘆く。

すると和代がマユミの方に手を置きながら、マユミちゃん、隠していたことは謝るわ、ジョニーはマユミちゃんのことを…、マユミちゃんの幸せを一生懸命考えて…、やっぱりジョニーおじさんのままでいたほうが良いと思って…と慰めようとするが、嘘!嘘!どうしてジョニーが本当のパパじゃいけないの?とマユミは問い返す。

そりゃ…と和代が答えに窮すると、バカよ、ジョニーのバカ!とマユミが泣いていると、マユミ!と声をかけたのは追いかけてきたチェリーだった。

ジョニーは?と抱きついてきたマユミに聞いたチェリーだったが、いないの、ジョニーはどっかに行っちゃったのよとマユミは答える。

チェリーは和代と目で頷きあう。 すると岡田が、マユミちゃん、大丈夫だよ、ジョニーはきっと今夜中に探し出してみせるからと声をかけてくる。

和代も決して遠くへやりゃしないわと慰める。

そうよ、こんなにマユミが慕っているのにジョニーだってそんなにあっさり東京を離れていくもんですか、ねえマユミ、ジョニーのことはお願いして帰りましょう…、ね?パパはとっても心配してるのよ…とチェリーもマユミに言い聞かせる。

それを聞いたマユミはパパ…とつぶやく。

サーカス団員たちは、夜の楽屋の外に出て折りたたみ椅子に腰掛けたりダンスしたり思い思いに時間を過ごしていたが、江川は楽屋に戻り、マユミのことで心を痛めていた。 壁に貼られたマユミの写真を見上げ涙する江川。

翌日もいつものようにサーカス興行が満員の客の前で始まる。

源太ととみの家族もその日はそろって客席に見に来ていたので、ここならよく見えるわねと妹たちは喜ぶ。

一郎の膝の上に抱かれていた末っ子が、お兄ちゃんと来た時はいつも上よ!と言うので、やっぱり見に来てたのね!ととみが気づき、おいおいそんなお金どうしてたんだ?と源太が聞くので、ただだよ、顔さと一郎は笑ってごまかす。

それを聞いた源太は、へ、生意気言ってらあ!と呆れるが、後ろの席の老人の白いあごひげが首筋に当たるので気持ち悪がる。

馬に乗って登場したマユミの様子を見たとみは、ねえあんた、あの子なんだか元気がないね…、專吉さんのことを想ってるんだよ、かわいそうに…と同情する。

チェリーも白馬に乗ってステージ内を行進していた。 司会者がレディース アンド ジェントルメン!と挨拶を始める。

只今より「オール・アメリカン・サーカス」の人気者マユミ嬢の綱渡りの妙技をご覧いただきます!と英語と日本語で説明する。

マユミは外国人の少女と男性とともに台の上に登っていくが、その様子を見ていたとみは、頑張るんだよ、おばちゃんが付いてるからねと座席でつぶやく。

静まり返って上を見上げる客席の中には、こっそり專吉も紛れ込んでいた。

いよいよマユミが綱を渡し始め、江川も專吉も息を呑んで見守るが、マユミの目には專吉の顔がちらついていた。

マユミは綱の上で視界が怪しくなり、次の瞬間足を滑らせ落下寸前綱に掴まってしまう。

客席は動揺し、專吉も立ち上がって見上げる。 江川も愕然とし、急いで他の団員とともに救助縄を綱の下に広げる。

そこに力尽きたマユミが落下してくる。 気絶したマユミに、大声で呼びかけた江川は急いで抱きかかえ、控室に運び込む。

客席の專吉もすっかり動揺していた。 医者が来てマユミの容態を診るのを、駆けつけた源太ととみ、チェリーたちは江川とともに不安そうに見守る。

医者と看護婦たちが帰ると、ベッドに寝かされていたマユミは、ジョニー!ジョニーは!とうわ言を言うので、それをそばで見ていたチェリーは、やっぱりジョニーのことを…と江川に話しかけ涙する。

とみはあまりの不憫さに泣き出し、かわいそうに…、何とかならないかね?と源太に語りかける。

何とかならないかってお前…と源太も困惑するが、放送に頼むとか…、わたしゃ探してくるよ、東京中を走り回ったって…と言ってとみは部屋を出ていこうとする。

お前、そんな!と源太は止めようとするがとみは出ていってしまう。

廊下に出たとみは、バイオリンケースを持って立っていた專吉に気づき、あんた!と驚くとその腕を取ってマユミの寝かせられている部屋に連れてゆく。

連れてきたよ!と言いながらとみが戻ってくると、江川は專吉を見て驚き、專吉も浩介!と言いながらもベッドのマユミを凝視する。

マユミ!ジョニーよ!とまだ目覚めないマユミの枕元からにチェリーが呼びかける。

すると薄っすら目を開けたマユミはジョニーと喜び、專吉もマユミ!と呼びかける。

江川はそんな2人の様子を見て、專吉、何をぼやぼやしてるんだ、さあ早く抱いてやるんだ!マユミ、パパと呼んでお上げと2人にそれぞれ声を掛ける。

マユミは江川に気兼ねしたように、呼んでも良い?と聞いてきたので、ううん、良いとも、マユミの本当のパパじゃないか、さあ、大きな声で!と江川は答えながら泣きそうになる。 マユミはパパ!と呼びかけ、專吉はマユミ!と答えながら抱いてやる。

その感動の様子を見ていられなくなった江川は座を外し、鏡台の前でピエロのメイクを始めかけるが、鏡越しに見える2人の姿に動揺する。

マユミ、許しておくれという專吉に、パパ、パパとマユミが呼びかけるので、大丈夫か、怪我は?と專吉は聞く。

なんでもないの、ちょっと失敗しただけ…、大丈夫よとマユミは気丈にも答えながらベッドの上に上半身を起こす。

ねえパパ、もうどこへも行かないでね、どこへも行かないでしょう?ねえパパ、どこへも行かないって言って!パパ!とマユミは頼む。

いたたまれなくなった江川は書きかけていたメイクを落とし楽屋の外に出る。

そこに近づいてきた団長が、浩介、マユミの様子はどうだい?と聞いたので、元気になったよ、良いときに来てくれたんだ、本当のパパ金…と江川は答える。

それを聞いた団長は、えっ!あの專吉君とかいう…と驚く。

血は水よりも濃し、やはり血を分けた親にはかなわないさ…と江川が言うのを帰りかけた源太ととみは聞く。

団長が慰めていると別の団員がやって来て、ミス・マユミの出番だがどうします?と団長の判断を聞いてくる。


団長は、マユミはまだ無理だよ、と言っても呼び物のトニーを出さないわけにも行かないし…と団長は迷う。

側にいたヘンリー(高田宗彦)に声をかけた団長だったが、三倍もらってもゴメンだよと断られる。

その時、団長、僕がやろうと声をかけたのは江川だった。

楽屋の中では、マユミはパパの気持ちが…、パパの言う事を分かってくれるね?と專吉が言い聞かせていた。

驚くマユミに、このパパは、やっぱり銀座のジョニーおじさんなんだよ、そう…、それで良いんだ…と專吉は自らに言い聞かすように説得する。

この僕にはマユミのパパなんかになれる資格なんてないんだよ、マユミには今のパパのほうが幸せなんだよと專吉が言うので、どうして?どうしてなの?とマユミは聞く。

立ち上がった專吉は、マユミ、そうしておくれ!と目をそらせて頼む。

マユミはこの興行が終わったらやっぱり今のパパと一緒にアメリカに帰るんだ、そうすることが一番良いことなんだよ、ね?そうしておくれと專吉は言い聞かせる。

今に分かる、このパパの…、いやこの僕の気持ちが…、マユミにもいつかきっと分かってもらえると思うよと言う專吉に、いやいや、マユミ、分からない!パパの言うことなんか分からない!とマユミは泣きながら抗議する。

マユミ、パパが欲しい!本当のパパが欲しいの!とベッドから立ち上がったマユミは專吉のすがってにすがって泣く。

ねえパパ行かないで、どこへも行っちゃ嫌!行かないで、ねえパパ!と訴えるマユミに振り向いた專吉は、僕はもうマユミのパパじゃない!パパは1人しかいないはずだ!マユミはいくつになった?14にもなってそんな聞き分けのないことを言うのならおじさんはもうマユミが嫌いだ!とあえて憎まれ役になる。

「トゥー・ヤング」も弾いてやらない!顔も見たくない!と強い口調で叱り、再び背を向けるが、專吉の目からも涙が流れていた。

そして帽子とギターケースを手にして帰りかけた專吉に、おじさん…、おじさん!と呼びかけたマユミは、お願い、もう一度「トゥー・ヤング」を弾いてと頼む。

立ち止まり、頷きながらマユミの頭をなでた專吉はベッドに腰を下ろすと、帰っちゃ嫌、帰らないでよ!マユミ、おじさんが好きなの…、おじさんがいないと寂しいの…、もうパパなんて呼ばないわ…、おじさんで良いから側にいて!とマユミはすがりつく。

專吉がケースからバイオリンを取り出すと、おじさん、あんまりお酒飲まないでねとマユミが頼み、約束して!と言いながら小指を差し出す。

專吉は無言で指切りげんまんをしてやる。

タバコもあんまり吸いすぎると身体に毒だって「テネシー」のマダムが言ってたわとマユミは付け加える。

專吉は黙って頷く。

その頃、虎のトニーを檻から出すとしていた江口に気づいたチェリーは、お止しなさい!虎と心中する気なの!と駆けつけて注意する。

大丈夫だよと江口は答えるが、ダメよ、トニーはマユミ以外の人には動かせやしないわとチャリーは言い聞かそうとする。

しかし江口は、マユミと一緒にいつも世話してるんだよ、トニーはきっと僕の言うことを聞いてくれるよ、なあトニーと檻の中の虎に話しかける。

その時、楽屋から專吉が奏でる「トゥー・ヤング」の曲が流れてくる。

それを側で聞いていたマユミは曲に合わせ鼻歌を歌い始める。 そして日本語で歌い始める。

歌い終えたマユミの手を軽く叩きながら、專吉はマユミ!と優しく呼びかける。

その頃、ステージに用意された鉄格子の檻の前に立った江口は客に挨拶をすると織りの中に入って内側から扉に施錠する。

そして檻から出てきた虎のトニーの前にムチを片手に立ちはだかり調教しようとするが、トニーはその場に座り込んでしまい、江口がいくら呼びかけても動こうとしなかったので、客席からやじが上がり始める。

やがて度重なる江口の呼びかけに苛立ったように立ち上がったトニーが近づいてきたので、江口は恐怖を感じながらもなおもトニーを動かそうと声をかけ続ける。

やがてトニーは江口に掴みかかってくる。

その頃、何も知らずに楽屋でメイクを始めたマユミに、無理じゃないかね、今度の出演は?と專吉が聞いていた。

大丈夫よ、パパ…、じゃない、ジョニー、「トゥー・ヤング」のおかげで元気が出たわとマユミは笑顔で答える。

そこにチェリーが、マユミ!大変、浩介がトニーに!と知らせに来る。

ステージ上の檻の中では、何とかトニーから逃れた江口が椅子を持ってトニーの攻撃から身を守ろうとしていた。

檻の外では猟銃を構えた団員がトニーを射殺しようと構えていたが、そこに駆けつけたマユミが、トニー!と呼びかけながら、檻の中に入ると、シットダウン!トニー!と命じる。 トニーがしゃがむと、パパ、大丈夫?とマユミは江口に話しかける。

大丈夫、それより皆さんが見ているんだ、早くやってくれと江口は頼む。

承知してマユミはトニーに芸を命じ始めるが、その好きに江口は入り口から団員たちに救助されて出てゆく。

それを唖然と見送っていた司会者に団長が続けろと命じると、司会者はミュージック!と楽団に声を掛ける。

楽団がファンファーレを奏でると、笑顔になったマユミが客席に愛想を振りまき、万雷の拍手が巻き起こる。

客席に戻っていた源太ととみと子どもたちも大喜び。

入場口でそれを見守る江口の肩を叩き、危なかったな〜と声をかけてきたのは專吉だった。

お陰で命拾いをしたよと江口が安堵すると、ま、命を大切にしてくれ、マユミのためにな…と專吉はマユミを見ながら江口の肩を軽く叩きながら語りかける。

えっ!と驚いた江口に、かけがいのないパパだから…と專吉は続ける。

マユミはこれからはやっぱり僕のことを銀座のジョニーおじさんと呼ぶそうだ、君たちの間にはもう血が通っているんだ、誰に遠慮することもない父と子だよ!と專吉は伝える。

その言葉を聞いた江口は感激し、專吉!と呼びかけると固く握手を交わす。

檻の中ではマユミが巧みに虎のトニーに芸を披露させていた。

どうだい、大きくなって、こんなに拍手喝采を受けて、みんなお前のお陰だ、いや江川浩介の作り上げた宝物だよ、それを一番良く知っていたのはやっぱりマユミだと專吉は江口の肩を叩いてねぎらう。

感極まった江口はありがとう專吉!と礼を言い、再び握手すると、宝物は大事にするよと檻の中のマユミを見つめながら約束する。

檻を出てきたマユミは象使いの明るい歌を歌いだす。

それを見守る江川と專吉だったが、いつしか專吉は1人去ってゆく。

外に出た專吉に、ジョニー!と呼びかけて近づいたのは和代だった。

何だ、来てたのか?と專吉が振り返ると、もう1度会いたかったの、きっとここにいると思って…と洋服に着替えてきた和代は嬉しそうに言う。

建物の中から聞こえてくる歌声に気づいた和代はマユミちゃん?と聞き、專吉は黙って頷く。

和代は黙って專吉がくわえていたタバコにライターで火をつけてやる。

一息吸った專吉だったが、何かを思い出したかのようにタバコを地面に叩きつけたので、どうしたの?と和代が聞くと、マユミと約束したんだよ、酒もタバコもやめるってね…と專吉が答えたので和代は笑顔になる。

それから…と專吉が和代に近づいたので、和代は期待してそれから?と聞き返すと、急に怖気づいたかのように專吉は踵を返し立ち去ってゆく。

一瞬落胆したかに思えた和代だったが、それでも笑顔を取り戻し後をついて行く。

チェリーや源太一家が見守る中、ステージではまだマユミが歌を歌っていた。

(暗転して) 終
 


 

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