白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

黒猫館に消えた男

宇津井健主演の怪奇SFミステリとも言えるが、後半はむしろ益田キートンさんの方がメインのドタバタ喜劇になっている。

タイトルにヒントが隠されているのだが、劇中冒頭で「有馬の怪猫伝説」を連想させるかのようなセリフを言っているので現代版「化け猫話」なのか?と思わせるが、怪奇スリラー風なのは前半だけで、その後は横溝風の遺産争いを巡るSF風テイストのドタバタ劇になって行く。

戦後、東宝の「透明人間」(1954)、大映の「透明人間現わる」(1949)「透明人間と蠅男」(1957)などが作られたことは比較的有名だと思うのだが、ほぼ同時期に同じような発想の映画が新東宝でも作られていたことは今まで知らなかった。

ただし、SFや怪奇ミステリと考えるとお世辞にも出来が良いとは言いがたく、SF、ミステリ、怪奇、コメディ…と、個々の要素自体は個人的に好きなものばかりなのだが、それらを全部ごった煮にしたような本作は、結果的にどの要素も魅力を発揮していないように見える。

古い少年少女マンガの実写化でも見ているような雰囲気で、ドタバタコメディと考えれば細部の粗を指摘するのは野暮かもしれないが、特に後半、地下室の仕掛けを止めたのは誰なのかとか説明不足の部分が多すぎ、とても大人向けの怪奇譚やSFには見えない。

ラストの原子力の平和利用アピールなども唐突で、それまでの研究とどう関係するのかすら良く分からない。

当時は原子力とかのキーワードを入れていれば、何となく現代的なテーマ性があると解釈されたことへのパロディとも考えられる。

ひょっとすると、当時の宮城まり子さん人気に当て込んだティーンから子供目当ての一種のアイドルファンタジーのような発想だったのかもしれず、子供向けのファンタジーだから細かい所は気にするな…と言うことなのかも?

作られた時代が時代だけに、放送禁止用語もばんばん出て来る。

宇津井さんとSF風の空想話と言えば「スーパー・ジャイアンツ」が有名だが、その登場の前年の作品と言う事になる。

この作品に出て来る宇津井さんはまだ若々しい青年だが、笑顔で超能力を披露するシーンなどはスーパー・ジャイアンツのイメージに近い。

又、丹波哲郎さんも出ており、丹波さんが出演した空想特撮ものの最初期作品とも言えるのではないだろうか?

新東宝時代の丹波さんと云えば悪役か偉そうな役が多かったイメージだが、この作品での丹波さん演じるキャラはとぼけた新聞記者役で、ユーモアシーンなどもあり珍しい。

宮城まり子さんと益田キートンさんは「オンボロ人生」(1958)などでも共演なさっていたが、宇津井さんとの共演は知らなかった。

宮城まり子さんは劇中で3曲歌を披露している。

キートンさんは若い愛人にやり込められる情けない中年男と言う御得意のキャラを演じておられ、そのおとぼけ振りが見物。

SFとかミステリとかホラーとは考えず、単にキートンさんのドタバタ喜劇としてみれば、それなりに楽しい作品かもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1956年、村山俊郎+法勝寺三郎脚本、毛利正樹監督作品。

鐘が鳴り響く新東宝映画クレジット

雷雨の暗い森の中にある一軒家のミニチュアを背景にタイトル

キャスト、スタッフロール

雨に濡れる一軒家の外観セット 怪しげな取りの鳴き声が聞こえる中、燭台を片手に階段を登っていた倉田金造(益田キートン)が何かに驚いて踊り場に転ぶ。 舌なめずりする黒猫の目が光ったので、それを見た倉田は、出た!とおののく。

その時、二階の部屋から懐中電灯を手に出て来た有馬信一郎(宇津井健)が、どうしたんです?おじさん!又うなされたらしいですね?と声をかける。

その懐中電灯の明かりに照らされた倉田は、信一郎君、幽霊だ!この屋敷に亡霊がいるぞ、恐ろしいことだ…と上半身を起こしながら答える。

階段をゆっくり下りてきながら周囲を見渡した信一郎は、大丈夫です、何もいやしませんよと慰める。

それでも倉田は、幽霊が…、誰かがわしを狙っているんだと立ち上がりながら主張する。

そして、私は殺される!と訴えながら信一郎の腕にすがりついて来たので、それをノイローゼって言うんですよ、大体何だって今時分こんな所に出て来られたんですか?と信一郎が冷静に聞くと、停電になったのであなたの部屋に蝋燭の火を持って行こうと思って…と倉田は答える。

まだ起きてたんですか?と聞くと、どうも嵐の晩は寝付かれんのだよと倉田が言うので、僕もそうなんですよと信一郎は答える。

な、信一郎君、すぐ交番に電話してこの屋敷の隅から隅まで調べてもらおうと倉田が提案したので、ええ、いずれはそうしたいと思ってるんですが、しかしもう少し僕1人で調べておきたい事があるんですと信一郎は言う。

そんな手ぬるいことを言っておるから誰もこの屋敷には住み着かなくなったんじゃ…、この有馬の屋敷は化物屋敷だよ、このままでいたら、あなたも私も殺されてしまうんだよと倉田は恨めしそうに案ずる。

その時、出た!と倉田が怯えたので懐中電灯の明かりを向けると、そこにいたのは黒猫だったので、つまりあれが怪物って訳ですか?と信一郎が苦笑すると、さっきは猫じゃなかったよと倉田は言い訳する。

さ、もうお休みなさい…と信一郎は倉田に言い聞かし、部屋に連れて行ってやるが、階段下に置いてあった西洋甲冑を見ても倉田は怯える始末だった。

倉田は自分の部屋の椅子に座ると、あんたのオヤジが行方不明になったのもちょうど今夜のような嵐の晩だった…と話し始める。

そうです、あれからもう13年になりますよ…と、側に付き添っていた信一郎も答える。

この有馬の屋敷にはやっぱり有馬猫の祟りが残っているのじゃ…と倉田は言う。 そう安賀昭子に代々の当主は必ず奇妙な最期を遂げておるのじゃ…と倉田が言うので、そうすると次は僕の番ですね?と信一郎が聞く。

そうかもしれない…、わしはこの家にいるのが怖くなった…と倉田は弱気を見せる。

早速明日、どこかアパートでも探して引っ越しせにゃ〜と言うので、待って下さい、おじさん、そいじゃおじさんは僕をたった1人この家に残してどこかへ出て行ってしまうと言うんですか?と信一郎は倉田の側に腰掛け聞くと、命あっての物種だからね…と倉田は言い、あんたもどっかに移った方が良いと思うんだが…、これ以上いては危ないですぞと警告する。

すると信一郎は、おじさん、僕今ある実験をしているんです、どうやらそれが分かればオヤジが行方不明になった原因も、妹が突然この家からいなくなった原因もはっきりするんじゃないかと思います、オヤジはある薬品の発明に成功したらしんですと言う。

薬品?と倉田が聞くと、ええ、人類の平和のために…と言う大きな理想を胸に抱いて研究に没頭したんです、そしてその薬品を発明したんですが…、どうやらその試作品とともに何者かに葬り去られる運命だったんです…と信一郎が教えると、その薬品はどう言う種類の?と倉田が聞く。

残念ながらその最後の資料がないと分からないのですが…と信一郎が曖昧に答えるので、原爆とか水爆とか言うものですかな?と倉田が聞くと、あるいはそうかも知れません…と信一郎が答える。

うん、あなたは今その実験をしているんですかな?と倉田は問いかけ、そうですと信一郎が答えると、信一郎君、それはいけない、そんな仕事は早速止めた方が良いと思うんだ…と倉田は言い出す。

どうしてですか?と信一郎が聞くと、そのために今まで何人もあなたの身内が死んでいるんですぞ!今にこの私までが犠牲にされるんじゃ…、恐ろしいことだ…と倉田は心配の種であることを明かす。

すると信一郎は、分かりました、それじゃああしたそのことに付いてゆっくりご相談しましょう、今日はもう夜更けですからお休みになって下さいと声をかけるので、あんたも寝た方が良いですよ…、嵐が酷くなりそうだから…とパイプの煙草に火を点けながら倉田は答える。

じゃあお休みなさいと言い、信一郎は部屋を後にする。 柱時計が深夜1時の時報を鳴らす。

その時、燭台を持った黒衣の家政婦とみ(小野彰子)が玄関の鍵を確認して戻って行く。

その間にも、信一郎は自室で父の遺したノートを元に実験を続けていた。

疲れきった信一郎がソファーに横になった時、音もなく扉が開き、何者かが部屋の中を覗き見て又扉を閉める。

雷光が轟く中、いつしか信一郎は眠りに落ちていた。 やがて部屋の蝋燭が消えたので、目覚めた信一郎は、蝋燭までバカにしてやがる…、マッチどこやったかな〜と白衣のポケットをまさぐるがないので、懐中電灯を灯して部屋の中を照らす。

すると実験用具のフラスコなどが空中に浮かんでいるのを発見し仰天する。

さらに父親のノートまで空中に浮かび恰も誰かが呼んでいるかのようにページがめくれて行くではないか! 誰だ!と信一郎が誰何すると、靴音が部屋の中に聞こえるので、その方向に懐中電灯を向けると、箪笥が開き、中にかけてあった白衣が空中に浮かび上がったので、誰だ!と怒鳴りながら信一郎は椅子を持ち上げて脅そうとする。

しかし、いきなり椅子が自分の方へ投げつけられたので、とっさに避けた信一郎は机の引き出しに入れてあった拳銃を取り出し身構える。

しかしその拳銃も何者かに奪い取られ、空中に浮かんだ拳銃が自分の方に向けられたので信一郎は怯えて後ずさる。

信一郎が近くにあった薬瓶を手に取り投げつけようとすると、拳銃が発射されその薬瓶に命中したので、止めろ!と叫びながら信一郎は床に身を伏せる。

そっと顔を上げてみると、空中に浮かんだ拳銃が消えて行ったので、誰か!誰か来てくれ!と信一郎は助けを求め、ヒャからでようとするが、何故かドアには鍵がかかっていた。 その時、今まで消えていた蝋燭が自然と灯る。

それに気づき怯えた信一郎が何度かドアに身体をぶつけて壊そうとしていた時、突然ノブを誰かが回したので、信一郎は廊下につんのめって飛び出してしまい、危うく手すりを壊して一階に落下する寸前で踏みとどまる。

次の瞬間、停電が直ったのかシャンデリアが点灯する。

恐る恐る実験室の中に戻ろうとした信一郎だったが、その時、玄関から呼び鈴代わりのドラの音が聞こえて来たので、怪しんだ信一郎は玄関に出てみることにする。

ドラを叩いていたのはレインコート姿で傘をさした鈴村礼伊子(宮城まり子)で、まだ起きないのかしら?となかなか出て来ない屋敷の様子に苛立っていた。

その時、どなたですか?と信一郎が中から呼びかけたので、信一郎さん、私よ!礼伊子ですわ!と礼伊子は嬉しそうに答える。

信一郎が玄関を開けてやると、わあ、酷い嵐ねと言いながら入って来た礼伊子は、下から雨が突き上げるみたい、ずぶ濡れよなどと言うので、どうしたんです?今時分…、さあストーブに当たりましょうと信一郎は勧める。

1人で来たんですか?と暖炉の前で信一郎が聞くと、ええと礼伊子は答える。

暖炉の火に当たりながら、随分酷い方ねあなたってと礼伊子が言うので、ええ?と信一郎が驚くと、何時だと思ってらっしゃるの?夜中の1時過ぎよと言う礼伊子のレインコートを信一郎は、そうですよと答えながら脱がしてやる。

どんな急用があるか知らないけど、レディを呼び出すには少し常識を外れてやしません?などと礼伊子が言うので、誰のことです?と聞くと、あなたのことじゃありませんか!と呆れたように笑いながら礼伊子が言うので、いえ、僕は御呼びしませんよと信一郎は否定する。

しかし礼伊子は、ダメよ、脅かそうととぼけてみせても…、ご自分で電話かけたくせに…と言いながら腰を下ろす。

僕が電話を?そんなバカな!と再度信一郎が否定すると、でも…、確かにあなたの声で…、そうよ!はっきり僕です、信一郎ですっておっしゃったわと礼伊子は言う。

礼伊子さん…と真顔で言う信一郎の顔を見た礼伊子は、じゃあ誰なの、こんな時間に信一郎さんの声を利用したのは?誰?誰なの!と事の重大さに怯え始める。

信一郎は、礼伊子さん、もっと詳しく話して下さい、今日はこの屋敷には奇怪な事件が重なって起こっているんですと頼む。

立ち上がった礼伊子は、私怖いわ、誰もいませんの?と言いながら信一郎にすがりつくので、伯父がいます、何だったら呼んできましょうか?と信一郎が申し出ると、良いわ、私あの人嫌い…と礼伊子は言う。

そこに黒衣の家政婦とみが2人分のコーヒーを運んで来たので、あの人誰?と礼伊子は怯える。

信一郎は、ああ、家政婦ですよ、とみって言うんです、オ○でツ○ボですよと教える。 気持の悪い人ねと礼伊子が言うと、ええ、普通の人は3日と住んでいられないので仕方なしに使っているんですと信一郎も打ち明け、コーヒーを手渡す。

そのコーヒーを飲みながらも、信一郎さん、本当に電話しなかった?と礼伊子は念を押すので、しませんよと答えると、変ね、確かに今夜是非見てもらいたいものがあるから1時半きっかりに来いって言うの…と礼伊子は電話の内容を明かす。 確かに僕の声でしたか?と信一郎が聞くと、あの声、聞き違えるはずがありませんわと礼伊子は言う。

幽霊かもしれない…と信一郎が指摘すると、ええ!と怯えた礼伊子はコーヒーの受け皿を落して割ってしまう。

亡霊と言うのかもしれませんよ、やっぱりこの屋敷には有馬猫の伝説のような何かの魂が残っているんですと信一郎が言うと、いや、脅かさないで!と礼伊子が耳を塞ぐので、冗談じゃありませんよ、現にたった今僕はあの階段から…と信一郎が謎めいたように言うので、止めて、止めて!私帰るわ…と礼伊子は言い出す。

その時、また玄関のドラが鳴り始めたので、又来たわ…、又怪しい電話を聞いた人よ、誰かしら?と礼伊子は振り向いて怯えるので、礼伊子さん、僕にしっかり掴まっていて下さいと信一郎は指示する。

信一郎が玄関に近づくと、電報!有馬信一郎さん、電報ですよ!と戸を叩く人影が見えたので、電報ですよと信一郎は礼伊子に教える。

玄関を開けた信一郎が、カネさん、ご苦労さんとねぎらうと、コートがずぶ濡れの老郵便局員長谷部兼吉(若月輝夫)が入って来て、どう言うもんですかな、この屋敷への電報などと言うと若い者が配達を嫌がりましてな…、黒猫館だとかお化け屋敷などと言いましてな…などとぼやきながら、酷い嵐になりましたな〜…と言いながら電報を取り出すと、こう云うときにはいくら商売でも些か堪えますななどと言いながらその電報を手渡す。

お茶でも上がって行ったら?暖まりますわと礼伊子が声をかけると、はあありがとうございますと長谷部は言う。

その間に電報を読んでいた信一郎は、カネさん、この発信調べられるかい?と言うので、長谷部は、どうかしましたか?顔色が真っ青ですよと逆に聞く。

何の電報ですの?と礼伊子も中味を覗き込むと「深夜の訪問客に気を付けよ 命危なし」と書かれてあった。

一緒に内容を読んだ長谷部は、命危なし…、これは深夜の訪問客でもあるんですか?と信一郎に聞くと、私のことよ、きっと…と礼伊子が言う。

分からないと信一郎が悩んでいるので、ようがす、あっしがこの発信人を調べやしょう、こう云う悪戯は許せません、ええ、ほれほれ、猫まで怒ってますと長谷部が指差す先には黒猫がいた。

その時、礼伊子は天井のシャンデリアが揺れているのに気づき、長谷部が危ない!と信一郎の身体を押しのけた所にシャンデリアが落下して来る。

その物音に気づいたのか、どうしたと…と言いながら部屋から出て来た倉田は、落下したシャンデリアに気づき驚く。

これはこれはどうしたと言うのじゃ?とシャンデリアの残骸の所にやって来た倉田が聞くので、信一郎は電報を差し出し、この電報を出した奴が若旦那を殺そうとしたんですと長谷部が言う。

これは幽霊だよ…と信一郎は天井を見上げながら呟き、電報を読んだ倉田も、恐ろしいことだ…と怯える。

おじさん、交番に電話しましょうと信一郎が言い出し電話に向かう。 嵐の中の見回りから警官大野木一平(原聖二)と新聞記者川波健次(丹波哲郎)がびしょぬれ、畜生!とぼやきながら帰って来た交番は、信一郎からの電話のベルが鳴り終えた直後だった。

しかし又すぐに電話がかかって来たので大野木が出ると、こんな晩にはどっかにパーッとどでかい特ダネでも落ちてないか?どっかで殺しでもねえかな〜などとその側で記者が無責任なことを言い出す。

すると電話を切った大野木が、おいケンちゃん、ネタありだ!と笑顔で教え、懐中電灯を持って出掛けようとするので、自動車強盗か?何人死んだ?と川波が嬉しそうに聞くので、慌てるな、殺しじゃない、すぐそこだ、高台の黒猫館なんだが…と大野木が言うと、有名な化物屋敷だなと川波も察する。

有馬屋敷の化け猫騒ぎって言うのは話がでかい割に何でもないんだよ、あれは…と川波は笑い、自分は交番に居残ろうとするが、文句を言うな!付き合えよ!と大野木が誘うので、おい、又行くの?しようがないな〜とぼやき、仕方なさそうに大野木の後を付いて行く。

屋敷に到着した大野木は、有馬信一郎26歳、鈴村礼伊子22歳、倉田金造53歳、それに電報配達の長谷部兼吉50歳、それに家政婦のとみ35歳点、この5人が事件の目撃者と言う訳だね?と手帳にメモしながら聞く。

すると長谷部がもう1人います、いや、もう1匹います、あの猫ですと、信一郎が抱いていた黒猫を指差したので大野木も目をやる。 猫は証人にならんね…と大野木は指摘するが、猫?と川波は興味を持ったのか食いついて来る。

ええ、この猫は何代も前からこの家に住んでいてこの黒猫館のありとあらゆる事件を一番はっきり見ているのがこいつなんですと長谷部は言う。

それを聞いた川波は、ははあ、猫が真相を知っていると言う訳ですな…と呟き、じゃあ猫の言葉が分かったら、この有馬屋敷の七不思議もたちどころに解決すると言う訳ですね…、そうでしょう?大野木さん…と川波は警官に指摘する。

すると大野木は、分かった、分かった、良かったら、君は猫と話してみたまえと、からかうように川波に勧めると、カネさんが電報を持って来たのは何時頃だった?と長谷部に聞く。

そんな話を聞いていた倉田は1人何かを考え満足そうに頷いていた。

浅草六区の劇場では、鈴村礼伊子が「じゃがたらマンボ」を歌うショーのリハーサルが行われていた。

その楽屋裏に来ていたのは川波で、近づいて来た秋山マリ子(江畑絢子)が、出来た?私のコント…と聞くので、本人よりよっぽど良いよなどと言って持って来た封筒を渡したので、失礼ね、あんたには美人を見る目がないのよと睨みながら封筒の中味を確認すると、ちょっとしたもんねとマリ子は喜ぶ。

ご満足ですか?と川波が聞くと、写真の方はね、でも私怒ってるのよとマリ子が言うので、すまん、すまん、この間はすっぽかすつもりはなかったんだよと笑いながら川波は謝る。

30分も数寄屋橋に立ってたのよ…とマリ子は言うので、実はね、この間の後日談を取りに行っちゃってね、ほらこれなんだ、黒猫館!と言いながら川波はコートの内側から新聞を取り出してみせる。

特ダネ賞何回もらったら一人前の記者になれるの?マリ子がからかうと、いや、いや…、そんなことどうだって良いじゃん、マリちゃん…と川波が慌てたので、頼りない人ね〜、あんたが一人前になってプロポーズするのを待っていたら、私よぼよぼのおばあちゃんになっちゃうわ…、しようがないからお金持ちのおじいちゃんでも見つけようかしら?などと嫌みを言う。

マリちゃん、そんなこと言うなよと川波は慌ててなだめるが、ロマンスグレーって良いもんねなどとまだからかおうとしたマリ子だったが、川波の持っていた新聞を見て、あら?と覗き込み、これ、うちの礼伊子じゃないのと指摘する そこには「黒猫館に相次ぐ怪事件」の文字とともに、信一郎、礼伊子、倉田らの顔写真が載っていたからだった。

うん?と川波が驚くと、うちの礼伊ちゃんよ、ほら!とマリ子は壁に貼ってあった礼伊子の写真を見せる。

ステージではまだリハーサルが続いており、場面は変わり靴磨きに扮した礼伊子が警官から注意され、「ガード下の靴磨き」の歌を歌い始めるシーンをやっていた。

楽屋歌では、そろそろ出番なのよと立ち去ろうとしたマリ子に、ちょっとこの子に聞きたいことがあるんだと川波が写真の礼伊子のことで頼むが、ダメよとあっさり断られていた。 うっかり礼伊チャンに近寄ると危ないわよとマリ子が言うので、どうして?と聞くと、ここの支配人が付いてるのと言う。

ははあ…と川波が納得すると、最もこれは横恋慕らしいけどねとマリ子は嬉しそうに教え、じゃあ又後でねと言って去る。

そんな川波の肩を叩いて来たが、引き抜きは困るね〜と文句を言って来たので、あ、ここの支配人さんですか?と確認した川波は、そう…大淵源五郎(小倉繁)でさあ…と答えた相手に、この子、良い顔ですねと礼伊子の写真を指しながら川波は指摘する。

そうですね、鈴村礼伊子は当時売出しの我が社のスターなんだからねと大淵が言うので、ははあ、この子の経歴は?と川波は畳み掛ける。

すると大淵は、舞台に立つものに経歴は必要ないです、そんな物はわしらが後から適当にでっち上げて行くのさと言うので、ははあ、彼桃奴に恋人があるのをご存知ありませんか?と川波が聞くと、何!と大淵が驚くので、深夜に1人で訪ねて行くような…とヒントを与えると、冗談でしょう、あの娘に限ってそんなことがある訳ないですよと大淵は一笑に付す。

そう思います?じゃあちょっとご覧下さい…と言いながら川波はコートの内側から自社の新聞を取り出して大淵に見せる。 客席で休憩していた礼伊子に、妹さん、来てますとスタッフが教えに来て、妹の鈴村ヒロミ(市村雅子)が近づいて来たので、あらヒロミちゃん、どうしたの?1人で来たの?と礼伊子は立ち上がって聞く。

おじいちゃんが御出掛けになるのでここにいなさいって…、一緒に来たのよと言いながら、猫を抱いていたヒロミは答える。

それなら良いんだけど、東京は田舎と違うんだから気を付けてねと礼伊子は言い聞かせる。

そこに近づいて来たのが川波で、こんにちは、先日は飛んだ所でどうも失礼しました!と川波が言うので、礼伊子は恥ずかしそうにうつむく。

いやあ、しかし驚きましたね、有馬さんの恋人がこんな処にいらっしゃろうとは…、これも特ダネですよと川波が言うと、あら、今度記事になすったら承知しませんわと礼伊子は怒る。

結構です、しかし有馬さんの御屋敷に付いてもっと詳しく調べておきたいんですけどねと川波はどこ吹く風と言った顔で答える。

その会話を横で聞いていたヒロミは、有馬さんの御屋敷って?おじいちゃま、確かさっきあの屋敷に出掛けたのよと口を挟んで来る。

川波はそれを聞いて、ほお〜と感心する。 その頃、有馬屋敷にやって来た鈴村銀右衛門(横山運平)は、玄関先に下がっているドラを叩いていた。

屋敷の中では倉田が呼び寄せた巫桃奴(藤村昌子)が怪しげな祈祷を行なっていたが、ソファに倉田と一緒に座って見ていた信一郎は、こんなイカサマ祈祷してみても始まるもんですかとバカにしていた。

倉田は、だがお前、こうでもしなくちゃ一日として安心して寝られんじゃないかとぼやく。

わしは早くこの屋敷を売り払った方が後で騒ぎが起こらんで良いと思うがな〜と倉田は話しかけるが、信一郎が何も言わないので、なあ!と信一郎の足を揺すってみたりする。

そこにすっと近づいて来た家政婦のとみが玄関を指差すので、誰か来たことを知った信一郎が玄関に向かう。

倉田も気になるのか立ち上がって誰だい?と聞くが、とみが答えるはずもなくそのまま引き下がって行く。 玄関口で銀右衛門と会った信一郎は、さあ、爺や行こうと気安げに話しかけていた。

二階からその様子を覗き見していた倉田は、あいつまだ生きていたか…と悔しそうに呟く。

自室に戻った倉田は衣装箪笥からコートを取りだすと、あいつまずい時に出てきよった…とぼやく。

そうか、爺が礼伊子さんのおじいさんとは知らなかったよと自室に銀右衛門を迎えた信一郎は笑う。

私もあの子が坊っちゃまに目をかけていただいていると知って嬉しいやらもったいないやら…と銀右衛門は恐縮する。

爺、もうどこへも行かないでくれと頼んだ信一郎は、この家に僕1人でいるとキ○ガイになりそうなんだと弱音を吐くので、そりゃ、どう言うことでございます?と銀右衛門は聞く。

変な事件が続くんだ、何が何だか分からない…、爺、このうちには本当に幽霊がいるのかい?と信一郎が打ち明けていると、又しても部屋のドアが誰かが入って来たかのようにひとりでに開き又閉まる。

話を聞いた銀右衛門は、やっぱりそうでございましたか…、多分そんなことだろうと思って時節を見計らってヒロミ様を連れて田舎から出て参りましたと言うので、ヒロミ?ヒロミって?と信一郎は聞く。

御妹様のヒロミ様でございますと銀右衛門が言うので、え?ヒロミが生きている?と信一郎は驚く。

はい、13年前にこのお屋敷から姿を消して以来、私の孫として育てて参りました…と銀右衛門は打ち明ける。

それを聞いた信一郎は、そうか!ヒロミは無事だったのか!大きくなったろうね〜と喜び、会いたいな〜、会わせてくれと頼む。

ヒロミは自分のこと知ってるのかい?と聞くと、いえ、まだ話してはございません、礼伊子の義理の妹だと思い込んでおられるようでございますと銀右衛門は答える。

どこにいるの?すぐ行こう!と信一郎が言うと、その前にお話ししておくことがございます…と銀右衛門は神妙な面持ちで言い出す。

この屋敷に付いてかい?と聞くとはいと言う。

これから10日ほど経ちますると先代様の13年忌に当たりますと銀右衛門が言うので、うん、その日に毎年慈善パーティを開くのがこの家の習慣なんだよと信一郎も答える。

その当日、当お屋敷と財産をあなたに御譲りすることになっておりますと銀右衛門は告げるので、しかし財産と言っても、今オヤジが作った製薬会社が1つだけなんだが?と信一郎が指摘すると、いいえ、莫大な財宝がこの邸内に隠されているのでございますと銀右衛門が言い出したので、ええ?財宝!と信一郎は驚く。

13回忌の当日、極秘の内に依頼された弁護士が訪ねて参りまするが、全てのことはその弁護士が知っているのでございまする…と銀右衛門は言う。

弁護士の持っている鍵、あなたのお守り袋に付いている鍵、ヒロミ様の鍵、3つ揃わなければこの秘密のドアは開かないのでございます、無論、あなたの回りの者達はその日の来るのを待っているのですと銀右衛門は続ける。

その財宝が見つかると多分あなたの生命を狙うでしょうと言うので、ヒロミは?と聞くと、無論生きていると分かればすぐにでも狙われるでしょうと銀右衛門は憂える。

その時、信一郎は身を乗り出し、爺、オヤジは一体誰に殺されたんだい?と問いかける。

その犯人は…と答えようとした銀右衛門は突然ソファの上で苦しみだしたので、驚いた信一郎が駆け寄り、爺!爺!どうしたんだ?しっかりしろ!と呼びかけるが、銀右衛門が手に握りしめていた黒い布を見て驚く。

これはオヤジのマントと…と信一郎は呟くと、まだ巫桃奴が祈祷を続けていた部屋に向い、その祭壇を分解し始めたので、何をするのじゃ!と巫桃奴は怒り出すが、帰れ!帰ってくれ!と信一郎は命じる。

巫桃奴は罰当たりな!と文句を言いながらも供物をかき集めてそそくさと部屋を出て行く。

祭壇の背後にあった洋服ダンスを開けて中にかけてあったマントを取り出した信一郎は、銀右衛門が握りしめていた黒い布と比べて、同じマントだと気づく。

もう1つ、誰かの手に渡っているとしたら?と信一郎は考える。

駆けつけた医者の桜沢甚吾(今清水基二)に銀右衛門の容態を診せた倉田が、命は?と聞くと、まず大丈夫じゃ、傷もないようじゃから心配はあるまいが、当分ここから動かさん方が良いねと桜沢は忠告する。

それでな…と倉田が何か話しかけようとしたとき足音が近づいて来たので、何だ?見舞客かな?と桜沢は聞く。

この老人の孫達に知らせたんじゃが会わしても良かろう…と倉田は答える。

そこに入って来たのは猫を抱いたヒロミで、おじいちゃん!と銀右衛門の側に駆け寄る。

川波と礼伊子も一緒に来ていた。

おじいちゃん!私が分からないの?ヒロミよ!お姉さんも一緒よ、おじいちゃんしっかりして!と呼びかけると、礼伊子もおじいちゃま!と呼びかけ、どんな具合ですの?と桜沢に尋ねる。

酷いショックに貯め、記憶喪失しておられる、当分口が聞けますまい…と桜沢が説明すると、お姉さんと泣きついて来たヒロミにしっかりしなくちゃ、明日からあなたおじいちゃんの看病できる?と礼伊子は励ます。

僕も手伝ってあげますよと申し出た川波は、信一郎君の姿が見当たらないようですけど?と倉田に聞く。

ここで話をしている間に突然こんなことになったんですが…と倉田が言うので、すると信一郎君がこの老人をこんな目に遭わせたと言うんですね?と川波は驚く。

いやあ、あの子はそんな子じゃないよと倉田が否定すると、じゃあどうしてここに現れて来ないんですと川波は追求する。

さあ…それは…と倉田が返事に困っていると、川波さん、良いじゃありませんか!と礼伊子が口出して来たので、いや良くありませんね、事件の関係者は全てその現場に集めておくべきです、ほら、外国映画に良くあるでしょう?現場に当然いるべくして姿を見せない男、それが大抵の場合犯人なんですよと川波は指摘する。

その間、こっそり部屋を抜け出し、1人で二階に向かった倉田はノックをして信一郎の部屋に入ると、信一郎君!と呼びかけ、ここにもいないとすると…と呟く。

その頃、マントを持って倉田の部屋に忍び込んでいた信一郎は、箪笥の中から同じコートを見つけ生地を付き合わせてみる。

あった、確かにこれだ!と喜んだ信一郎は、倉田のマントの裾が破けていたので、そこに銀右衛門が握りしめていた生地を合わせてみるとぴたりと合致した。 その頃、倉田は突然屋敷にやって来た桃奴(野上千鶴子)を見て、お?どうしたんじゃ今頃!と驚いていた。

何?あっちもこっちもがたがたしてさ、嫌になっちゃうな〜、せっかく私が来たと言うのにお茶1つごちそうしてくれる人がいないんですもの…と桃奴はすねる。

倉田は顔をしかめ、それどころの騒ぎじゃないんだよと言い聞かせるが、あら、私が邪魔だって言うの?パパさん…と甘えてすがって来たので、その気持は分かるがな…と倉田は桃奴の手を軽く叩いて答える。

その頃、倉田のマントを着込んで鏡の前に立った信一郎は、自分の顔から下が透明になっているのに気づき驚愕する。

マントのフードを頭からかぶると全身透明になってしまう。 姿を表した信一郎は、そうか!オヤジが発見した薬はこれだったんだ!と真相に気づく。 そうするとこれを着ていた奴は…と考え、畜生!と呟く。

その時、誰かが近づく気配に気づいたので、急いで持って来たコートを箪笥にしまい、自分は消えるコートを頭からかぶって姿を消す。

だからうちに来ちゃ困ると言っておいたじゃないかと部屋に入って来た倉田が連れ込んだ桃奴に言うと、だってパパ、なかなか来てくれないんですもの…と言い返す。

倉田は困惑顔で、今忙しいんだよ、もう10日もしたら大変なことが起きると答えるが、ダメダメ、ごまかしたってダメよ、私ここの家に引っ越して来ちゃうから…と桃奴は言うので、そんな常識がない事言うなよ!乱暴だよと倉田は言い返す。

だってさ、パパの言うこと聞いていたらいつまで経っったってこの家私のものになりゃしないわと桃奴はすねるので、もうすぐだよと倉田は慰める。 しかし桃奴は、私ね、殺し屋を2人雇って来たのよと言い出したので、ええ、殺し屋!と倉田は目をひんむいて驚く。

兄貴分のめりけん辰(鮎川浩)と弟分のボディの寅(小高まさる)は屋敷の外の林の中の古井戸の側で待っていた。 兄貴、あれが有名な化物屋敷ですか?と寅が聞くと、うん、有馬猫って芝居があるだろう?と辰が教えると、ふ〜ん、あんまり良い気持じゃねえな〜、俺は猫って聞くと寒気がするんでねえ〜と寅は怖じ気づく。

俺も鼠とし生まれだから猫はどうも苦手だよと辰も応じるので、うん…と頷いていた寅は、足下を黒猫が鳴きながら通り過ぎたので、ビビッって辰に抱きつく。

抱きつかれた辰は、この野郎!びくびくするな!と叱りつけ、2人は何とか気丈に振る舞ってみせる。

その頃、倉田は、お前まさかあの2人に俺をバラさせるつもりじゃないだろうな?と聞いていた。 すると桃奴は、パパの返事によってはやらせるわよ、私がここで合図すればすっと上がって来てばっさりよ、どう?驚いた?などと嬉しそうに言う。

ふん、あんなチンピラにおいそれとバラされるような倉田金造ではないわと鼻で笑い、倉田はソファから立ち上がると、洋服ダンスから黒いマントを取り出してその場で着てみせる。

フードをかぶってポーズを決めた倉田だったが、何の変化もないので、意味が分からない桃奴はぷっと吹き出し、何その格好は?西洋の寝ぼけた魔法使い路じゃないの!と嘲る。

すると倉田は、何?わしの身体が見える?と驚き、そんなはずないんじゃが?といぶかしがり、きちんとマントを既婚でどうじゃ?と聞くが、ダメダメ、ごまかしたってダメよと桃奴は苦笑する。 おかしいな〜?さては薬の期限が切れたかな?などとぼやきながら倉田はマントを触りまくる。

何行ってるのよ、まごまごしてると殺し屋たちが上がって来ちゃうわよと桃奴は苛立つので、マントを脱いだ倉田は、おい、あの殺し屋は何でもお前の言う事を聞くかと聞く。

もちろんよ、何人殺したって平気な人達なんだから…と桃奴が答えると、マントを箪笥にしまった倉田は、背に腹は変えられんな…と呟くので、どうやるの?と桃奴が聞くと、信一郎だとくらたがいいだしたので、本当!と桃奴は喜ぶ。

まごまごしてると期日がなくなるからなと倉田が言うと、嬉しいわ、私スリルが大好きよと桃奴は言い、外国のギャング映画なんか全部見てるわよ、完全犯罪って奴ねなどと大いに乗り気になるが、部屋の棚の中に黒猫がいるのに気づくと、猫だ!と驚いてベッドの所まで逃げる。

倉田は何にもしやしないよと言うが、そんな倉田に桃奴は、パパこっちへいらっしゃいよとベッドに誘うので、そうかな?と答えた倉田はそのままベッドへ向かう。

そんな2人の様子を黒猫はじっと見守っていた。 猫の目には、ベッドに腰掛けいちゃつく倉田と桃奴の横に立っている信一郎の姿も見えていた。

信一郎が桃奴の額を叩くと、痛い!何でぶつのよ?と桃奴が聞くが、わしはぶちゃ千四と倉田は答える。

ぶったわよと桃奴が怒るので、どっかに当たったんだろうと倉田は慰め、痛いじゃろう?どこかな?などと言いながら桃奴に近づいたので、今度は信一郎は倉田の頬を叩く。

驚いた倉田は何故人をぶつんだよ!と桃奴を睨むので、桃奴は困惑し、ぶたないわよと答える。

倉田が、ぶたないわよって、ここパチンと行ったな?と自分の頬を叩いた真似をしてみせると、嘘よと桃奴が言い返したので、人をバカにするな!と桃奴の胸を着くと、酷いわ!と言いながら桃奴も押し返して来たので、倉田と桃奴はけんか状態になる。

そんな2人の前からそっと信一郎は立ち去る。

自分の部屋の洋服ダンスにマントをしまっていた信一郎の所に来た礼伊子たちは、どこに行っていたの?随分探しましたわと言う。

礼伊子さん、ぐずぐずしてられないんです、ここにいると君も僕も殺されてしまうんですと信一郎が明かすと、殺される?と川波も驚く。

うん、訳は言えないけど、ヒロミちゃんを放さないようにしていてくれたまえと信一郎は礼伊子に頼む。

私?とヒロミが不思議そうに聞くと、君、礼伊子さん達に力を貸してくれるだろうな?と信一郎は川波に念を押す。

ああ、美人のお付き合いだったらいつでもするよと川波は答えるが、私、おじいちゃんの側にいてあげるのよと事情を知らないヒロミは言い返して来る。

後で話してあげる、今ここにヒロミチャンがいては危ないんだよと信一郎は諭すが、だっておじいちゃんが…とヒロミがすねるので、あの人は僕が責任を持ってみて上げるよと信一郎は約束する。

じゃああなたはここに残っていらっしゃるおつもり?と礼伊子が聞くと、ええ、僕のことは心配ないよ、連絡場所は劇場だ、良いね?と信一郎は川波に告げる。 良し!と川波も答える。

浅草の舞台では、客を前に礼伊子が「毒消しはいらんかね」を披露しており、舞台袖で猫を抱いたヒロミがその様子を笑顔で見学していた。

支配人室では大淵が訪問して来た倉田に、それじゃあ、そのヒロミと言う娘をバラすんですね?と確認していた。

しっ、声が高いぞ!と倉田は注意すると、ようがす、合法的殺人の筋書きはいくらでもありますよねと大淵はうそぶく。

必ずしも殺さなくても、つまり東京から追っ払ってくれりゃそれで良いんだ…と倉田が言うと、そんな手ぬるいことよりばっさりやった方が早道ですぜと大淵は悪ぶって言う。

それより旦那、お屋敷の方の跡取り息子の方、片付けといて下さいよと大淵は頼む。

うん、今夜辺り、けりがつくはずだ…と倉田は答えるが、支配人室の前でタバコを吸いながら中の会話を盗み聞きしていたのは川波だった。

畜生…、悪い野郎だな…と大波が呟くと、支配人室にブザーが鳴り響く。

川波がうっかりブザーのスイッチにもたれかかっていたのだった。

大淵が入り口を開けると、川波がこれは失礼!とハンチングに手を当てて立ち去ろうとしたので、おい!と捕まえた大淵は、今の聞いたな?と睨む。 その手を振り払いながら、何ですかあなた!と川波が抗議していると、部屋から出て来た倉田がその顔を見て驚く。

貴様…と川波の正体に気づいた倉田は、こいつに聞かれちゃ大変だと呟くと、何事か大淵に耳打ちする。

事情を知った大淵が詰め寄って来たので、川波は逃げ出そうとするが、通りかかった脚本家とぶつかって邪魔される。

仕方がないので逆方向へ逃げ出した川波は大道具係などから掴まりそうになるが何とか姿をくらます。

しかしすぐに見つかってしまい、逃げ場を失った川波はダンスショーが行われていたステージに荷重からロープを伝って降りたので、ステージ上も客席も大騒ぎになる。

川波は舞台上の秋山マリ子ら踊子と手を繋いでラインダンスを演じてみせたりする。

その頃、支配人室に来ていた京子(保坂光代)は、いないはずはないわよ、ちゃんと電話で私が来る時間を打ち合わせておいたんだからと恐縮する女性事務員に文句を言っていた。

どこ行ったのよ、ねえ、支配人さんを呼んで来て頂戴よと京子は居丈高に申し出る。

舞台上では、どうしたのよ川波さん?とマリ子が聞くと、踊って、踊って!支配人に追いかけられているんだよ!と川波は踊子と一緒に踊りながら事情を説明すると、それじゃあねと挨拶し逃げて行く。

舞台袖では、捕まえなくちゃ!と倉田がステージに出ようとするのを大淵達が止めていた。

しかし我慢できなくなった倉田はステージに飛び出してしまい、踊子たちの踊りに巻き込まれてしまう。

倉田は踊り子達の踊りにリードされまた元の舞台袖に追いやられるが、舞台上には川波と猫を抱いたヒロミまで紛れ込み踊子と一緒に踊っていた。

大淵はこの混乱に堪えきれず幕を下ろさせたので、客席は大騒ぎになる。

緞帳を降ろしたステージには大淵達が乱入して来たので、その前に立ちはだかったマリ子達は、私たちのお客さんに手出しすると承知しないわよ!と文句を言う。

こっちにも考えがあるぞと大淵が自分のベルトの辺りを指差しながら睨むと、ええ良いわ、どうにでもして頂戴!とマリ子も開き直る。

そこに乱入して来た京子は、色気違い!人を散々待たせといて!何よ、あんな娘っ子なんかにのぼせ上がって!と大淵に詰め寄る。

違う、違う、違うんだよ!と大淵は弁解するが、悔しい!と大淵を抓って来た京子は、断っときますけどね、この人は私の大事な人なんですよ、誘惑するなら別の男にして頂戴!とマリ子達踊子に言い放つ。

するとマリ子が、何よ、そんなに大事な人ならね、朝から晩まで首っ玉にしがみついてりゃ良いでしょう!と言い返したので、言ったわね!覚えてらっしゃい!あなた、行きましょう?と捨て台詞を残して、京子は大淵を引っ張ってステージから去って行く。

ヒロミを連れていた川波は、いやあありがとう!これで助かったよ!あいつはヒロミちゃんを狙っているんだ!どうしたら良いかね?とマリ子達踊子に相談する。

それを聞いたヒロミは、私田舎に帰る、私がいると皆さんに迷惑がかかるんですもの…と哀しげに言い出す。

困ったわ…と困惑する礼伊子だったが、あ、そうだ、今日からヒロミちゃんを私たちの手で守ってあげましょうよとマリ子が提案する。

すると他の踊子も、賛成、私たちが集まっていればどんな奴が来ても平気よと言い出す。

今日からみんなで踊って登場しちゃおうよと別の踊子も言い出したので、そうだ、それが良いわ、どう?礼伊子ちゃん?と聞かれた礼伊子は、ありがとう!そう言ってもらうと嬉しいわと感謝する。

みんなありがとう!と川波も礼を言う。 一方、辰と寅は黒猫館にこっそり近づいていた。

屋敷内では柱時計が1時を指しており、家政婦とみが1人燭台を持って1階の電気のスイッチを消していた。

ベッドで寝ていた信一郎は玄関のドラの音が聞こえて来たので目覚めると、とうとう来たな、殺し屋の奴ら…と呟くと、ベッドの上にいた黒猫を抱いて、おい、行こうぜと呼びかける。

玄関先では辰と寅が出て来た家人を殴りつけようと身構えていたが、ドアが開いて出て来たのは黒猫だったので、行け、しっ、しっ!と追い払おうとするが、次の瞬間、黒猫が空中に浮かんだので、悲鳴を上げて逃げ出す。

兄貴!と寅が古井戸の所で追いすがると、俺、今日止めた!止めるよ、どうも日が良くねえと辰が弱音を吐くので、殺し屋も縁起担ぐようになったらもうお終いだよと寅も言い出す。

うん、だけどおめえ、猫がいきなりすっ〜っと…と辰が言っている所に又黒猫が飛んで来たので、2人は抱き合って怖がる。

その直後、マントを脱いで姿を表した信一郎が、僕に用事があるのは君たちかい?と声をかける。

お?この野郎?来たやっがた?と辰と寅が喧嘩腰になったので、参考のために聞いときたいんだが、君たちはいくらもらって僕を殺そうとするんだ?と信一郎が聞くと、何だと?と辰は身構える。

おじさんは君たちにいくら殺人手数料を払ったんだい?と信一郎は聞く。

この野郎、割とアジなセリフを知ってるじゃねえか?と辰が感心すると、自分が殺されると分かって出て来りゃ話が早いよ、悪く思うなよ、これも世渡り商売だからよと寅も言い殴って来る。

そのパンチを避けた信一郎は又マントをかぶり全身の姿を消す。

どこ行っちゃったんだろうな?おかしいな?と2人が困惑していると、いきなり辰が、イテテ!と頭を押さえて騒ぎだす。

すると寅も左足を押さえて痛そうにうずくまる。

2人は見えない相手を捜そうと手を延ばして周囲を動き始めるが、寅が古井戸に落ちかけたので慌てて辰が引き上げてやる。 結局、2人は見えない相手を捕まえようと互いにぶつかって痛がる始末だった。

屋敷の中では意識を失っていた鈴村銀右衛門がソファに寝かされていた。

そこに近づいた倉田は、良く寝てるわ、大事な若旦那が殺されるとも知らず…と1人ほくそ笑んでいたが、気づくと入り口の近くに家政婦のとみが立っていたので、何しに来たのじゃ?と倉田は睨みつけて叱る。

するととみは黙って部屋を出て行く。

森の中の古井戸の所でしゃがみ込んでいた辰と寅は笑い声に気づき振り返ると、古井戸の向こう側に信一郎が立っていたので、この野郎!と良いながら立ち上がって近づこうとすると、笑顔の信一郎はマントをかぶり又姿を消す。

おっ!と驚いた2人だったが、その直着、井戸の底から水音が聞こえて来たので、野郎、派手に飛び込みやがって!手間取らせやがって!と信一郎ガイドに落ちたと勝手に解釈したのか、笑いながら引き上げて行く。

一方、黒猫は倉田の様子を監察していた。

倉田は戻って来た辰と寅に、どうだった?と守備を聞くと、思ったより手強い野郎ですよ、古井戸の中に叩き込んでやりましたが子の寒さじゃ1分たあ持たないでしょうと2人は報告する。

良し、人目につかないうちに高飛びした方が良いなと言いながら倉田は2人に礼金を渡してやる。

受け取った辰が偽もんじゃないでしょうね?と言うと、作ったのは造幣局だよと倉田が言い返す。

そこにマントを着て姿を消した信一郎がやって来て、3人の目の前でドアを開けて部屋の中に入ったので、倉田と辰達は何事が起きたのかと仰天する。

倉田が猫だよ…とごまかすと、じゃあ、ごめんなすって、いただいていきやすと挨拶し、辰と寅は帰っていく。

しかし屋敷を出た所に黒猫がいたので、さっき家の中に入ったの、この猫じゃないか?と辰が指差すと、確か、そんな気がしたけど…と寅も戸惑い、だったらここにいるのはおかしいね?と辰が聞くので、そりゃ、変だけどよ…と寅は首を傾げる。

だって、さっきここへ入ったのは何だ?と辰が聞くと、知るもんか!兄貴、早く行こう!と寅はすっかりぶるってしまい、辰とともに逃げ出す。

自分の部屋に戻って来た倉田は、リリー山野(前田通子)が自分の持って着た荷物を部屋で広げていたので、おいおいどうなってるんだ、こんなもの全部持って来て!と言いながら着物の胸当てを自分の胸に当ててみたりするが、わあ嫌らしい!私、断然この部屋気に入っちゃったわ、今日から狭苦しいアパート暮らししなくてすむと思うと私嬉しいわ〜…、パパさん、リリーさんは大感謝よなどと桃奴が言いながら抱きついて来たので、一瞬笑顔になるが、急に真顔に戻ると冗談じゃないよ!お前をこの家に入れる約束なんかわしした覚えはないよと文句を言う。

するとリリーは、でも今日桃奴さんが御引っ越しでしょう?などと言い出したので、誰からそれを?と倉田が狼狽すると、誰から聞かなくたって分かるわよ、時代の最先端を行くファッションモデルですもの、天下の情勢はすぐ耳に入るによなどと言うので、そりゃ困るんだよと倉田が言い聞かそうとすると、じゃあ良いわ、私桃奴さんの前でみんなぶちまけちゃうわよなどとリリーは脅して来る。

そんなお前…と倉田はうろたえるが、芸術的天分を大切にすると言う名分で月々2万円ずつ私に送って下さっていること…とリリーが言うので、そりゃいけませんよ…と倉田はすっかり弱気になる。

私は芸術品としてパパの保護を受けている訳でしょう?そして何度も私に跪いて私を本妻にするって誓ったわね〜?とリリーは迫るので、教養のない事言うなよ、そりゃ分かってるよ…と倉田が言うと、分かれば良いのよ、ねえパパ、私はパパの味方よ、この家に隠された莫大な財産を一緒に探してあげるわねとリリーは恩着せがましく言って来る。

それを聞いた倉田は、どうしてそれを!と驚く。

ちゃんと知ってるわよ、ファッションモデルなんてのはつまらんことに敏感なものなんだな…と倉田は妙な感心の仕方をすると、そうよ、その代わり桃奴姉さんには全て内緒にしておいてあげるわねなどとリリーは言う。

倉田は、何でも知ってるな、ああびっくりした!とぼやきながらパイプを口にする。

一方、桃奴も引っ越し荷物を業者に運び込ませ、屋敷の1階に到着していた。

これで荷物は全部ですと業者が言うと、どうもご苦労様とねぎらうと、ついでにね二階へ運んで頂戴と頼む。 その時、待ちなさい!ああ良かった…と言いながら二階から階段を降りて来た倉田は、待ちなさって言うのと桃奴に言う。

どうして?と桃奴が聞くと、それが…ちょっと具合が悪いんだよと倉田は困ったように言う。

だって二階の方が眺めだって良いし、それに日当りだって良いわなどと桃奴がねだるので、うんうんうん、だがな、うん、あの部屋には猫の巣があるんじゃ、夜なんか騒々しくて眠れないよと倉田は急に思いついたように説明する。

猫にも巣があるかしら?と桃奴は怪しむが、巣はない…、いや家のメス猫は特別なんじゃ…と倉田は苦し紛れに嘘を重ねる。

早く追出して下さいなと桃奴が頼むので、良し、そうしようと答えた倉田は、こっちの荷物はなあっちの部屋に運んどいてくれと業者に1階の別部屋を指して指示する。

そこに家政婦のとみが通りかかるが、それを無視して倉田は嬉しそうにそわそわし始める。

それを二階の通路から見下ろしにやついていたリリーは、自分お部屋のベッドに戻って寝そべりながらタバコを吸うと、つまり私がメス猫って訳ね…と独り言を言う。

このメス猫は獲物を狙ったら外したためしがないのよ…と薄笑いを浮かべると、さてと…、財宝はどこに隠してあるのかな〜と考える。

13日の慈善パーティまでは見つけ出しておかなくちゃ…と呟いたリリーはタバコを吸う。

黒猫の目では、屋敷に入るマントで姿を消した信一郎の姿も見えていた。

深夜1時の時報を柱時計が告げる。

ベッドで寝ていたリリーが目覚め、倉田と一緒のベッドで寝ていた桃奴も起きだし、倉田が熟睡しているか、鼻先に手をかざし確認する。

階段を降りて来たリリーは、桃奴も出て来たので階段下に身を隠すと桃奴は二階に上って行く。

桃奴が信一郎の部屋の中に入ると、リリーも階段を登って行く。

桃奴は信一郎の実験室にある箪笥を開けようと近づくが、そこに突然リリーが入って来て、ここには私の洋服が入っているだけよと忠告する。

あの〜、あなたどなたなの?と桃奴が聞くと、この部屋の主人よ、リリー山野ってこの頃ぐっと売り出しているファッションモデル知ってる?あれが私よ、どうぞ宜しく!とリリーは自慢げに答える。

でもね、変ね…、ここはさ、有馬さんのお部屋でしょう?と桃奴が聞くと、昨日まではそうよ、何しにいらっしゃいましたの?と聞くと、桃奴は笑ってごまかそうとしたので、まさかこんな時間に引っ越しのご挨拶でもありませんわね〜?宝探しじゃございませんの?とリリーは嫌みを言うので、ええ!と桃奴は驚く。

有馬屋敷のバクダイナ財宝を探していらっしゃるんでしょうとリリーが言い当てると、あなたどうしてそれを?と桃奴は不思議そうに聞くと、私もそれを探しにあなたの部屋に忍び込む所でしたのよと笑いながらリリーが答えたので、うまあ!あなったって人は!と桃奴は睨みつける。

その時、ドアに鍵がかかる音がしたので、慌てた桃奴とリリーがドアを開けようと駆け寄るが、開かないわ!と慌てる。

あなた、私を閉じ込めてどうするつもりなの!と桃奴が文句を言うと、私は閉めはしないわ!とリリーも驚いていたので、じゃあ誰よ?と桃奴が聞き返し、誰って?とリリーも不思議がった時、室内を歩く足音が聞こえて来たので2人は抱き合って怯える。

2人が見ている前で、ベッドの布団が空中に浮かび上がる。

悲鳴を上げたリリーと桃奴はドアを必死に叩き、誰か来て〜!と絶叫する。

その騒ぎに気づいた倉田が階段を上がって来て、外からドアを開けてやると、飛び出して来た桃奴とリリーに押された倉田は手すりを壊し下に落下するが、辛うじて両手で二階の通路の端を掴みぶら下がる。

これ!助けんか!喜劇映画撮ってるんじゃないわ!と倉田は愛人2人に呼びかける。

リリーも倉田の部屋に付いて来て、私もう1人で寝られないわ、今夜ここに泊めて下さいなと弱音を吐くので、私は知らないわよと桃奴は冷たく答えるが、まあそう言うなよと倉田は注意し、お前達ここで仲良く寝てくれ、頼むよと言う。

壁の所でもじもじしていた桃奴は、そこにスイッチが会ったので何気に押してみると、倉田が立っていた熊の毛皮が敷いてあった部分が抜け、倉田は危うくおとし穴に落下しかける。

幸い大きな毛皮が邪魔をして落下は免れた倉田だったが、毛皮を退けてみるとおとし穴が開いていたので、桃奴が地下室らしいわ!と言い、秘密の地下室よ、きっとここに財宝が隠されているのよとリリーも指摘する。

縄梯子を使い倉田が地下室に降りていくと、上から、パパ、箱があって?ダイヤの箱かしら?などと無責任な声援をする愛人2人の声が聞こえて来る。

何にもない…とぼやきながら周囲に目を凝らしていた倉田は、急に壁面が機械仕掛けで徐々に迫って来ているのに気づく。

リリー!誰だ、このスイッチ入れたのは!と上に叫ぶと、すみません!妙な所に鎖があるんですもの、今止めますよと言う声が上から聞こえ、壁も止まる。

ああびっくりした…と安堵した倉田だったが、おとし穴だけに使ったものらしいと気づくと、良し最後の手段だ、やってやるかと呟く。

遊園地のベンチで信一郎と再会した礼伊子は、今日は13回忌の当日でしたわねと話しかける。

ええ、屋敷では恒例の慈善パーティが開かれているんですよと信一郎は答える。

どうなさるおつもり?と礼伊子が聞くと、どうもしません、僕はもう嫌になったんです、僕は二度とあの家の問題に触れたくないんですと言うので礼伊子は驚く。

その方が誰にも迷惑がかかんなくて良いでしょうからね、僕は死んだオヤジがどうしてヒロミを田舎に隠したのかその理由が分かったような気がするんですよ、その方があの子にとっては幸せなんです、僕もこのまま黒猫館に消えた男としてどっか誰も知らない田舎に引っ込んでしまおうと思うんですと信一郎が言うので、いけないわ、そんな弱気になっちゃ…と礼伊子は言い聞かせる。

礼伊子さん、僕と一緒に田舎に行こう!と信一郎が誘うと、嫌!信一郎さん、あなたいつからそんな意気地なしになったの?と礼伊子は責める。

僕はもう有馬の家にも財産にも魅力がないんだ、だからと言ってあなたがこのまま田舎に引っ込んでしまったら悪い人がのさばるだけじゃありませんか!と礼伊子は叱る。

同じ公園に来ていた川波はジュースを売店で買い、同伴のヒロミに1本渡す。

自分もストローでジュースを一口飲んだ川波は、礼伊子さん達の話随分長いねと呆れたように言う。

するとヒロミは、あら嫌だ、ラブシーンくらい大目に見てあげなくちゃと大人びたことを言うので、川波ははいはいと従う。

するとヒロミが、ねえ川波さん、ヒロミにももう恋人の2人か3人できても良い頃でしょう?などと言い出したので、ええ?冗談じゃないよ、君はまだ子供じゃないかと呆れたように川波は笑う。

すると、失礼ね、私もう子供じゃないわ!とヒロミは膨れたので、いやあ、君はそうやって子猫を抱いている方が似合うよと川波は言い聞かせる。

まあ、私、そんなに魅力ないかしら?とヒロミが言うので、え?君は一体いくつ?と川波は聞く。

16よとヒロミが答えると、いや〜失敬、失敬…と川波は苦笑する。

そこに、ああ喉が渇いちゃった…、私もジュース頂戴と言いながらマリ子が近づいて来たので、もう1本頂戴と川波は店員に声を掛けるが、今度はロケットに乗らない?などとマリ子と川波がいちゃつきだしたので、ヒロミはどこか寂しげな顔になりその場を離れて行く。

失礼ね〜、ヒロミにだって魅力はあるわよね〜、ねえ分かるでしょう?お前は子猫だからねと抱いた子猫に話しかけながら、遊園地内を1人歩いていたヒロミだったが、その側にやって来たのが支配人大淵と愛人の京子だった。

ヒロミは近づいて来た大淵に気づき驚くが、大淵は気絶したヒロミを抱えて京子とともに車に乗せ遊園地から逃亡する。

それに気づいた川波とマリ子は、待て〜!と後を追おうとするが車は走り去ってしまう。

どうしましょう?とマリ子は焦るが、信一郎君に知らせてくれ、僕は後を追うと川波は言い走り出す。

タクシーに乗り込んだ川波は、速く、速く!と運転手を急かして大淵らの車を尾行する。 畜生!と、自分の油断でヒロミを拉致されてしまった川波は悔しがる。

その頃、黒猫館にやって来た男がいたので、見張り役を勤めていた辰と寅が肩を叩いてどなたですか?と聞くと、男はわしはここの顧問弁護士の森元(岬洋二)じゃと答える。

ああそうですか、じゃあどうぞこちらへと辰が案内する方へ付いていこうとした森元の後頭部を寅がトンカチで殴って気絶させると、辰と二人へどこかへ運んで行く。

いつの間にか気を失っていた川波が気づいたのは見知らぬ地下室の中だった。

上半身を起こし周囲を見回すと横にヒロミが倒れていたので、ヒロミちゃん!と呼び起こすと、起き上がったヒロミも川奈美さん!と驚き、ここどこ?と聞く。 地下室らしいよ、こんな仕掛けがあるとは知らなかったんだと答えた川波は、どうしましょう?と怯えるヒロミに、ご免ねヒロミちゃん、僕がうっかり君から目を離したもんだからと詫びる。

ううん、私が悪かったのよ…とヒロミも反省する。

その時、部屋の隅の暗がりからうめき声が聞こえたので、誰だ、そこにいるのは!と川波が呼びかけると、あ、おじいちゃん!おじいちゃん!とヒロミはそこにいた鈴村銀右衛門の側に寄って呼びかける。

すると銀右衛門はうっすら目を開け、おお、ヒロミか…と応じたので、安堵したヒロミはおじいちゃん!と抱きつく。

立ち上がって部屋の内部を探ろうとした川波は、足に誰かの身体が触れたので、あ!誰です、これは?と驚き、もし!しっかりして、もし!と抱き起こして呼びかける。

すると目覚めた男は森元弁護士で、信一郎君はどうしました?と言うので、あなたはどなたです?と川波が聞くと、信一郎君が殺される!信一郎君をこの屋敷に近づけてはいけない!と森元弁護士が訴えて来たので、ええ!と驚く。

舞台を終え舞台裏に戻って来た礼伊子は、そこにマリ子とともにいた信一郎に分かりました?と聞くが、ううん2人とも…と答え、マリ子もどうしましょうと言う。

その時、僕行って来るよと信一郎が言うので、どこへ?と礼伊子は聞く。

礼伊子さん、もしあそこにいなくても事情は分かるでしょう?と信一郎が言うので、私も行きますわと礼伊子は申し出、マリ子も行くと言う。

黒猫館こと有馬家の館に次々と慈善パーティの招待客達が集まって来る中、1階フロアではダンスが行なわれていた。

さすがは伝統あるパーティだけあって豪勢なもんですな〜と大淵が、リリー、桃奴、夏子、そして医者の桜沢も一緒に揃った控え室で座っていた倉田に話しかける。

しかしこの慈善パーティの主催者たる倉田君がこうやって悪巧みをしてるとはね〜とからかう。

すると同じ部屋にいた桜沢が、しっ!壁に耳ありじゃ…と口止めする。

ウン、ところで問題の信一郎君来ますかな?と大淵が聞くと、来る、きっと来るよと良いながらハンカチを開き、包んであった鍵を取り出すと、これが弁護士が持って来た鍵、こっちがヒロミの鍵、もう1つ信一郎の鍵が揃えば、この屋敷もろとも有馬家の莫大な財宝は我々の意のままじゃと医者の桜沢が笑い出す。

気をつけないと奴は不思議なマントで姿を消して来るんじゃないですか?と大淵が指摘すると、いやあの薬は確か昨日までで、今日から効果はなくなっているはずだよと倉田は言う。

森の中で信一郎を待ち伏せていた辰が、来たぜ!と気づくと、あれ?野郎、妙なマント着てるぜと寅は不思議がる。

行ってくらあと言い辰が知らせに走る。

黒マントを着た人物が入り口から黒猫館に入って行く。 野郎、来やしたぜ!と辰が倉田がいる部屋に知らせに来る。

それを聞いた倉田は、来たか、何も知らずにマントを着て来るとは…こっちの思うつぼだ…と愉快そうに笑う。

すると大淵が、倉田さん、分け前の約束は大丈夫でしょうな?ヒロミを人質に取ったのは私と夏子の手柄ですからな?と念を押して来る。

劇場1つじゃ足りないくらいよと夏子も要求して来たので、そうガツガツするな、どっちに転んだって待望の宝の山は手に入るではないかと倉田が言い聞かす。

それより巧く芝居をすることですな、なるべくならけが人を出さん方が利口じゃでな…と桜沢が倉田に忠告すると、いやいや、それは大丈夫だよ、相手は丸見えの透明人間だからな…と倉田は苦笑する。

そこに入って来たのがマントを着た信一郎で、その場にいた倉田達は示し合わせた通り、信一郎が見えない態で芝居を始める。

こうして我々が漫然と待っている所へあの男が忍び込んで来たら大変なことになるじゃろうな〜とわざとらしく桜沢が言い出す。

そうですよ、相手は透明人間ですからね〜と大淵も口裏を合わせて来る。

そうした連中の会話を消えているつもりの信一郎は愉快そうに微笑みながら聞いていた。

風のように入って来るものは防ぎようがないわ、どうしましょう?私怖くなって来たとリリーが怯えてみせると、今頃信一郎めが忍び込んで来ても何にもならんよと倉田は慰める芝居をする。

だってヒロミと言う娘と引き換えにあの人の持ってる鍵をもらってしまわなくちゃと桃奴が言うと、ううん、その必要はないんだよ、奴が持っている鍵は実は偽もんじゃ、わしがちゃんとすり替えておいたよ、ありゃ何にも知らんのだと倉田は嘘を言う。

それを聞いた信一郎は驚く。

じゃあその本物の鍵って言うのはどこにあるんです?と夏子が聞くと、うん、御見せしましょうかな?と言い立ち上がった倉田はテーブルの上に置いてあった小箱の蓋を開け、これですぞと鍵を取り出しみんなに見せる。 それを見た大淵は、おお、そうでしたか、ちっとも知りませんでしたと喜ぶ。

私がもしも…、そうもしも透明人間になったら早い所偽物とすり替えてしまいますがねなどと倉田は冗談めかして言う。

そうでもしなければヒロミを助け出す交換の品はない訳でしょう?こんなことは奴は何にも知らんのですよと倉田がしゃべっている背後で、信一郎は小箱を開け偽物の鍵を取り出すと、自分が持っていた本物の鍵を代わりに入れてしまう。

その気配を察した倉田は、しかし危ないからこの鍵を身につけておいた方が良さそうだなと言いながら、今信一郎は小箱に入れた本物の鍵を取り出し自分のベストのポケットにしまってしまう。

それを信一郎は愉快そうに眺めていた。 その時、その信一郎を振り返った倉田は、信一郎君、1人で来るとは良い度胸だなと話しかける。

えっ!と驚く信一郎をあざ笑った倉田は、透明液の有効期間は昨日までじゃよと倉田は明かす。

畜生!と倉田に飛びかかった信一郎だったが、倉田はすり抜けて逃げ出し、大淵が信一郎の身体を押さえ込む。

倉田が壁のスイッチを押すと信一郎の立っていた床は開き、信一郎は悲鳴とともに地下室に落下していく。

倉田が再度スイッチを押し床を元の状態に戻すと、おとし穴の周辺に集まっていた仲間に大淵が、さあ鍵が揃ったぞ!と嬉しそうに告げる。

その鍵の使う場所は?と大淵が倉田に聞くと、弁護士とのがわざわざ書類を持って来てくれたよと桜沢が言い、これじゃ!と服の内側から書類を取り出すと、3つの鍵の鍵穴は2階の信一郎の部屋の壁にあるのじゃよと教える。

それを知った大淵は、そうか!良かったな〜と喜ぶ。

地下室に落下した信一郎を川波が抱き起こして呼びかけると、あ、ヒロミちゃん!と気づいた信一郎は驚く。

あ、爺や!川浪君!と銀右衛門らにも気づき、ここはどこなんだ一体?と部屋の中を見回す。

有馬邸の地下室ですと背後から声をかけて来た男に、あなたは誰です?と信一郎が聞くと、弁護士の森元です、お父上の遺言状その他、一切の手続きを済ました書類を持って参上しました、不覚でした…と森元は反省しながら答える。

畜生…もう許さないぞ!川波君、ここから抜け出すんだと信一郎は呼びかけるが、ダメなんだ、どうしてもここからは抜け出せないんだと川波は教える。

その頃、上の部屋にいた倉田は、用事のない奴らは煎餅になってもらうかと笑いながら壁の鎖を引く。

すると地下室の二面の壁が中央に向かってせり出して来る。 両側から接近して来る壁に気づいた信一郎達は慌てて立ち上がると、畜生!と悔しがる。

俺たちを押しつぶそうと言うんだなと叫んだ川波はメモ用紙に何かを書き、礼伊子ちゃんにヒロミちゃんの猫を!と言うので、それを受け取った信一郎はヒロミが抱いていた子猫の首輪に結びつける。

頼むわよ、私たちを助けてねとヒロミは言い聞かせ、子猫を壁の途中に開いた小さな穴に向かって放り投げる。

その頃、倉田達は、信一郎の部屋の洋服ダンスの裏にあった秘密の入り口を発見していた。

これだ、これだ、これが秘密の扉だと倉田は喜ぶ。 そして扉に付いていた3つの鍵穴に持って来た3つの鍵を差し込んで行く。

すると扉は開き、奥の部屋に宝箱が置いてあったので、これだ、これ!これが財宝だ!と倉田は満足そうに笑い出す。 大淵や女達もみんな喜び合う。

外に逃げ出した子猫は、通りかかった電報配達の長谷部が乗っていたスクーターに轢かれてしまう。

驚いて停まった長谷部はスクーターを降り、地面に倒れていた子猫を見つめると、可哀想に…と良いながら抱き上げるが、首に何かが巻かれているので不思議に思いほどいてみる。

その頃、箱を信一郎の部屋に運び込んだ倉田が、この中に巨万の富が入っているんだ!と仲間たちと喜び合っていた。

この中にはな…と何度も同じようなことばかり言う倉田に焦れた女達が早く開けてよと急かす。

急かされた倉田は、分かったと言う風に蓋に手をかけ、この巨万の富は!と又同じ事を言い出したので、開けて下さい!頼みますよ!と大淵達も苛立つ。

ようやく蓋に手をかけ、ゆっくり倉田が押し上げるのを息を詰めて見守る仲間たち。

しかし箱の中には蜘蛛の巣が張っているだけだったので、ない、ない!と倉田は慌てだす。

ない、ない…、何にもない…と倉田が気の抜けたような声で嘆くと、桃奴達もなんにもない…と落胆する。

夏子も動揺する大淵の手を掴んで嘘つき!となじる。

箱の底に残っていた薄い書類をつかみ出した大淵は、そこに何かが書かれているのに気づく。

地下室では、迫り来る壁に潰されまいと信一郎達が身を寄せ合って助けが来るのを待ち構えていた。

するとぴたりと壁が停まる。

お?停まった!と信一郎や川波が気づく。

その時、背後の壁のレンガ1個分が抜け落ちていたので、ここから抜け出せるかも知れんぞと気づいた信一郎と川波は身体を合わせて壁にぶつかってみる。

何度がぶつかると壁の一部が崩れ、その奥にあった秘密の部屋に宝箱があるに気づく。

その箱を開けて見ると中には宝玉が詰まっていたので、それを見た森元弁護士は、これが伝説にも言われている有馬家の財宝だ!と言う。

じゃあ、これが父の遺したものですか?と信一郎が聞くと、いいや、お父上が遺された箱はあなたの部屋の秘密の箇所にあるはずですと森元は言い、が、これは有馬家十数代の祖先が遺されたと言う宝石箱でしょうと推理する。

それを聞いていた川波は、これが時価数億円と言う奴ですねと感心する。

館の慈善パーティに紛れ込んでいた踊り子達は、近づいて来た礼伊子にヒロミちゃんいた?と聞くが、いないのよ、おかしいわ、どこ行ったのかしら?と礼伊子は案ずる。

信一郎の部屋では、1つ遺言のこと、私は世にも不思議な透明液の発明に成功した…と大淵が宝箱の底にあった書類を読んでいた。

だがその利用を願う人々は全てこれを悪の手段とすることを望んだ、余は人類の幸せのためにこそ、その才能と努力を傾注すべきであったのに私の発明は不幸にしてその逆の効果しかもたしえないらしい、それで私は私の発明した透明液化学方程式並び一切の書類を自らの手で灰にした、この灰こそ私が最も愛する子供たちへの唯一の贈り物になるであろう… 読み終えた大淵は、畜生!こんなもん!と叫び、書類を箱の中に投げつける。

狂ったような表情になった倉田は、良し、灰にしてやるわ!こんな屋敷なんか俺の手で焼き払ってやるんだ!と叫び出す。

地下室の奴らもいっぺんに吹き飛ばしてくれるわ!ハッハッハ…と笑うと信一郎の部屋から飛び出して行く。

それを見た大淵は、ああ大変だ!気が違った!と慌てだす。

倉田の後を追い大淵達も階段を降りて来たので、いたわ、あいつら!と1階にいた礼伊子が気づく。

自分の部屋に戻って来た倉田がかねてより隠してあった爆弾を取り出したので、追って来た大淵達は驚いて立ち止まる。

それは何ですか?と大淵が聞くと、爆弾だと嬉しそうに倉田は言う。

万一の時に備えて、わしゃ隠しておいたんじゃと言いながら、その場でポケットからライターを取り出し導火線に着火してしまう。 ぐずぐずしてるとお前達もこれで吹っ飛ばしてやるわと倉田が言い哄笑し始めたので、大淵達はヒエ〜!と身を引く。

そこに、いたわ!と言いながら礼伊子と踊子仲間が入って来て、あいつよ!と倉田を指差す。

爆弾を抱えて笑っている倉田に、ヒロミちゃん、どこにやったの?と礼伊子が聞くと、何だ君らは?と逃げかけた大淵が問いかける。

あんた達を縛りに来ましたのよ、おとなしく警察に自首した方があなた達のためよと礼伊子とマリ子が睨みつける。

ヒロミちゃんはどこにいるんです?」と踊子が聞くと、退いてよ、爆発してしまうわよ!早く逃げないと飛ばされちゃう!桃奴たちがうろたえる。

それを聞いて踊り子達も部屋から逃げ出そうとするが、お前達も灰になれ!と言う倉田に、礼伊子はつかみ掛かって行く。

よろめいた倉田は持っていた爆弾を投げ出し、それを受け取った大淵は仰天する。

あ、怖い、怖い!と焦った大淵が爆弾を桜沢に放り投げる。

受け取った桜沢は夏子に、夏子はリリーに、リリーは桃奴にと、次々と爆弾を投げてリレーして行く。

受け取った礼伊子が爆弾を会場の方へ投げ捨てると、それを受け取った男客が、ほほお、これはおもしろいと爆弾を眺め、爆弾リレーかと呟くと会場内に投げ捨てる。

踊り子達が倉田に飛びかかっている中、パーティ会場内では余興と勘違いした客達による爆弾リレーが続いていた。

部屋を出て来た礼伊子たちはそれに気づき、危ない!と呼びかける。

それでも爆弾リレーが続いているので、階段を駆け上り、踊り場から下の会場に向い、止めて!止めて下さい!と礼伊子たち客達に呼びかける。

それを聞いた女客達は悲鳴を上げて逃げ惑うが、みんな自分で持ちたくない爆弾を誰かに投げつけるリレーはまだ続いていた。

男客がステンドグラスから外に爆弾を投げ捨てると、外で受け取ったのは寅で、ナイスキャッチ!と辰と共に喜ぶ。

余興の一環だと思い、派手にやってやがんな〜と呆れた辰は、俺が投げ返してやるよと言い、又ステンドグラス越しに爆弾を屋内に投げ込む。

床に落ちた爆弾から逃げようと悲鳴を上げ、壁際に身を避ける客達。

そうした中、黙って爆弾に近づいて来たのは家政婦のとみだった。

客達が見守る中、淡々と爆弾を持ち上げたとみが玄関の扉を開けると、長谷部が呼んだ警官隊がなだれ込んで来る。

その時、踊り子達にむしられぼろぼろになった倉田が部屋からよろめきながら出て来る。

とみは乱入して来た警官隊に邪魔され玄関の内側で立ち止まっていたので、早くそれを捨てて!と女客が叫ぶ。 警官隊が全員屋敷内に入った所で、とみはゆっくり外に出て扉を閉める。

ソファーの陰に隠れていた倉田はあっさり警官隊に逮捕される。

底に近づき、良い気味ねとあざ笑った礼伊子は、信一郎さんもヒロミちゃんもいないのよと警官に教える。

すると警官が、この地下室です、すぐ助けますから安心して下さいと言うので、礼伊子たちは喜ぶ。

そこに、この猫が知らせたんですよと長谷部が子猫を手渡す。

子猫は死んでおらず気絶していただけだったのだ。

外に逃げ出していた大淵達も警官隊に捕まっていたが、その時、とみが爆弾を持って近づいて来たので、それに気づいた大淵達は悲鳴を上げてしゃがみ込む。

警官達もそれに釣られて身を伏せるが、とみは持っていた爆弾を古井戸の中に投げ捨てる。

次の瞬間、井戸の中で大爆発が起こる。

その夜、有馬の館の一室でマリ子は川波に、やっと2人きりになれたわねと話しかけていた。 そしてこんなに立派な部屋に住めるなんて夢みたいだね…と川波もマリ子の手を握って答える。

特ダネ賞もらったら盛大な結婚指揮しましょうねとマリ子は言う。

いや、僕の特ダネ賞じゃままごとくらいの結婚式しか出来ないよと川波が諭すと、良いわ、それの方が素敵じゃないとマリ子は答える。

本当に君そう思う?と言いながら立ち上がった川波に、マリ子は恥ずかしそうに、ええ…と答える。

新聞には信一郎の写真とともに「原子力平和利用へ 5億円の遺産を寄付」と書かれてあった。

有馬信一郎氏、時価数億の遺産全部を原子力平和利用研究会に寄贈、人類永遠の平和を願う防空意思を提唱する…、これは黒猫館事件の後日の談である…とその新聞を読む銀右衛門が座ったソファーの横で、ヒロミは子猫を抱いたままぐっすり眠っていた。 読み終えた銀右衛門は、これで良い、これで良いのじゃ…と呟く。

黒猫館の自室で礼伊子と2人になった信一郎は、僕も今度は一介の研究所員です、原子力に真っ正面から取り組んで大いに働きますよ、オヤジの言葉で僕には新しい希望が涌いて来たんですと言うと、良いお父様だったのねと礼伊子が感心する。

ええ、僕もあんな言葉を遺してやりたいと思いますよ、僕たちの子供に…と信一郎が言うので、あら、私たちの子供なんて…と礼伊子 は照れ笑いする。

礼伊子さん!と呼びかけ立ち上がった信一郎は、一緒に立ち上がった礼伊子の手を握りしめる。

1階を燭台片手に見回っていた家政婦のとみが電気のスイッチを消す。

黒猫館の二階の窓の明かりもみんな消えて行く。


 


 

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