白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

かっぱ六銃士

タイトル自体がだじゃれになっている斎藤寅次郎監督の風刺ファンタジーコメディで、部分的にオペレッタ要素もある。

劇中でアチャコがアメリカ映画の「心の旅路」みたいなもんと言っているので、ひょっとするとその辺の「記憶喪失もの」が1つの発想の原点なのかもしれない。

アチャコ、伴淳、堺駿二、キートンらが出演しているが、これを見て水木しげるのマンガ「河童の三平」を連想する人もいるかも知れない。

河童のヒロインの名前がカナ子(キネ旬データや東宝WEBデータのキャスト欄には「カチ子」と書いてあるが、あらすじ欄には「カナ子」と書いてあり、映像を見ていると、伴淳扮する勘平はカナちゃんと呼んでいる)、「河童の三平」をTVドラマ化した「河童の三平 妖怪大作戦」(1968)の河童ヒロインはカン子…、似ていなくもなく、少なくとも東映のTV番組はこの作品をヒントにした可能性がなくもないような気がする。

劇中に吉田茂が総理大臣時代であることが描かれており当時の世相を知ることが出来るし、外国の男と見ると目尻を下げる若い娘たちを皮肉る描写もある。

主役の勘平を当時45歳くらいだったはずの伴淳が演じているのも驚きなら、その恋人のカナ子役を当時20歳そこそこだった八千草薫さんが演じているのも凄い。

人間の姿になったショートカット姿の八千草さんのキュートさ、清楚さは絶品。

八千草さんが「孫悟空」(1959)に出て、悟空役の三木のり平さんと共演なさっているのは知っていたが、他にもこんなファンタジーに出ておられたとは意外。

「白夫人の妖恋」(1956)にも出ておられたし、昔から美少女とファンタジーの組み合せは必須だったと言うことかもしれない。

凄く短期間で撮ったのか、劇中の堺駿二さんなど何度もセリフをかんでいるのだが、そのまま使われている。

堺さんは河童の大博士と新興宗教の教祖の二役を演じているが、教祖の方は前年の同じ斎藤寅次郎監督作品「トンチンカン捕物帖 消えた女」(1952)に登場した教祖そっくりである。

監督が堺さんのキャラが気に入って再登場と言う事になったのかもしれない。

一見タイトルから全編ハチャメチャのドタバタ劇か?と思わせるが、途中からお涙頂戴パターンが入って来たりして意外性もある。

ナンセンスは承知の上だとしても、ちょっと気になる所もないではなく、伴淳が演じている人間の松山と言う人物は何故片言をしゃべる二世のようなキャラなのか説明がないこと。

米軍関係者のようにチョコやガムを持っているのに仕事は土建屋の社員のように見えるし、普通に日本に家も日本人家族も持っていると描かれており、どこにも外国との接点が見当たらないからだ。

河童の国の王子に外国に行かないと貫禄がつかないと言い聞かせている所から、何度かの洋行経験で勘違いした男と言うことかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1953年、宝塚映画、八住利雄脚本、斎藤寅次郎監督作品。

太陽はまだ上がらない。

森は平和に眠っている。

ここは東京の郊外である。

この沼の畔は人間のラブシーンの名所として有名である。

が、実はここには又、誰も知らない別世界がある。

静かに、静かに入ってみよう。

咳などはちょっと我慢して下さい(とナレーションが重なる中、沼の状況からカメラは水面の下へ降りて行き、水中シーンへ)

これから諸君を案内しようと思う別世界は河童の国である!

古来河童の子は河童であると言う。

故にこの国の河童六銃士族の人民は皆血統正しき純潔種の河童である(とナレーション)

かっぱ国案内図

地方から見物に来る田舎河童や毛色の変わった外国河童のこれは遊覧案内地図である。

ご覧の通り学校もある、病院もある、工場もある、国会議事堂もある、何もかも揃っている。

何もかも人間の世界と同じだ。

もちろん、オスとメスとの違いもある。

だから恋もある。

ダンスを踊る男女の河童。

踊り終えたメス河童のカナ子(八千草薫)が、ねえ勘平さん、王様が急にあなたをお召しになるなんて一体何の御用なのかしら?と聞くと、勘平(伴淳三郎)はなんだか分かんねえと答える。

私、心配だわ…とカナ子が言うと、でもねカナちゃんね、王様がお召しになったのはね、この国の勇士ばかりなんだよ、僕はその1人に選ばれたんだから喜んでくれ泣きゃしようがないじゃないかと勘平が言うと、だって私とっても心配でこんなにお皿渇いちゃったのよ、ほらとカナ子が頭頂部の皿を見せたので、あ、凄く渇いてらと気付いた勘平はつばをつけてやる。

そんなことしたらくすぐったいじゃないのカナ子が頭を上げると、うん!くすぐったくたって良いじゃないか、2人は愛し合っているんだから、誰も見ている訳じゃないんだから、良いじゃないか、ね?と勘平が言い聞かすと、カナ子も恥ずかしそうに下を向く。

お城ではメス河童たちのダンスが披露されていた。

「重大会議中」と書かれた札が置いてある。 野郎共!人間と言うのはむちゃくちゃなことを考え出すもんじゃないかいとカッパ大王(花菱アチャコ)が切り出す。

あの沼を埋めてしもうたら、我々河童の国はどうなるのじゃ? あの泥の下に潰されてしまうんじゃないかい?と大王が言うと、出席河童全員が御意にございますと頭を下げる。

今あの沼を埋めて一体何をする気じゃい?と大王が聞くと、さらば大王様、毎日あの河童ビジョンを覗いて人間界の研究に従事しておりますが、人間がやることは何が何だかさっぱり分かりませんとカッパ大博士(堺駿二)が答える。

「ナショナル…」と書かれた河童ビジョンとはTVそっくりの物だった。

とにかく人間共は、あの森の木を切り払い、沼の後に大きな工場を建てるようでございますと河童大博士が解説すると、馬鹿野郎、工場なら他に建てる所いくらでもあるじゃないか、そうじゃろう?と大王は怒り出す。

すると又全員が、御意にございますと頭を下げる。

しかし大王様、人間界にはろくに家も建てないくせに、土地の値段だけはバカに上がりますんでなと大博士が指摘すると、それに大王様、最近の人間界は自動車強盗に密輸、国際賭博に殺人…、それに親子心中など道徳が非常に低下しておりますので、河童の国を潰すくらいのことは、屁の河童でございましょうと左大臣(益田キートン)も意見を言う。

それを聞いた大王は、ああ気のもめることじゃ、水夫の水害で河童の川流れが多いのに困っている矢先に、この沼を潰されてたまる物か!一刻も早く我が国の勇士を人間界に派遣をして事の真相を調べた上で、これを未然に防いでもらいたいのじゃと大王は言う。

御意にございますと全員が一礼すると、左大臣、その勇士はどうして決めるんじゃと大王は聞く。

は、今、知能と頭の皿の検査をしておりますと左大臣は胡瓜をかじりながら答える。

ああそうか、勇士が決定したら早う国へ連れて来いと大王は命じ、さて皆の者、我が国の勇士を人間界に遣わすにはどんな変装をさせたら良いか?と問いかける。 さればでございますと1匹の河童が席から立ち上がり大王の前に跪くと、私はかくのごとき物を考えましたと言いながら紙を広げてみせると、いかがでございましょうと大王に聞く。

そこには丹下左膳の絵が描いてあったので、これは何じゃ?と大王が聞くと、これは丹下左膳と申しまして人間界の勇士でございます、これは古い!と大博士が横から説明すると、横に控えていた鐘係のメス河童が胡瓜が並んだ鐘を1つ叩く。

続いて別の河童が大王の前に進み出て、これはいかがでしょう?と又紙を広げると、そこには吉田茂の似顔絵が描かれていた。

これは何ちゅうもんじゃ?と大王が聞くと、それは今をときめく総理大臣でございますが、近頃ではあっちこっちの反対が多く、もう何もかもむちゃくちゃでございますと大博士が解説する。 鐘係はまた1つ鐘を鳴らす。

今度は別の河童が、王様、これはいかがでしょう?と花菱アチャコの似顔絵を差し出すと、これはどこに奴じゃ?わしに良う似とるじゃないかと大王が聞くので、これはこの沼を埋めようとしている会社の社長でございますと大博士は解説する。

ああ!もってのほかじゃと大王は怒り出し、又鐘を1つ叩くよう鐘係に指示すると、何と情けない者ばかり揃いよったもんじゃな、お前らついでに生きてるのか!すかたん!アホ!と出席者に小言を言う。

その時、ファンファーレが鳴り出し、二匹のオス河童が武装したメス河童を従えてやって来ると、ただいま、勇士が決まりましたと大王に報告する。

ベロベロベロバ!と勘平が挨拶すると、同じように挨拶仕返した大王は、お前が勇士に選ばれたのか?と聞くと、御意にございますと答える。

今度はなかなか大役じゃと大王が言うと、ただ今おうかがい致しましたと勘平は答える。

勘平、人間界では代議士やら学者やら芸能人とやら申す輩が見聞とかを広めるためにしきりにアチャラに行くのが流行しとる、中には何が何やらさっぱり分からずに行って分からないうちに帰ってしまうのがいる、勘平、お前は違うぞと大博士が忠告すると、心得ております、ベロベロベロバ!バ!と勘平は答える。

ところでお前の考えではどう言うものに化けて出掛けるのが良いと思うか?それを遠慮なく言うてみいと大王が聞くと、そうだな…、あまり目立たない格好をして行った方が仕事がやりやすいんですがねと勘平は答える。

それを聞いた大王は、ああ気に入った!なれどこれから人間界に出るのは何かと金がいるじゃろう、遠慮なく言うて来い、なんぼでも送ってやるぞと伝えると、勘平は嬉しそうにジェスチャーで感謝する。

我が河童の国も外貨を獲得せねばならぬときがあるが、危機存亡の時じゃ、我が国の金を外国に吐き出すのは惜しいが、こりゃもうやむを得んと大王が言うと、全員、御意にございますと一礼する。

金が足りなければ税金を取り立ててれば良いのじゃと大王が言うと、また御意にございますと一同が賛同する。

なお、お前たち始め近年の歳費お手盛り商法を知るやと大王が聞くと、全員、あちゃ〜!とずっこける。

ところで勘平、あの沼を人間が埋めようとしていることを河童民族が聞いたら定めし動揺することじゃろう、だからお前の指命は絶対に秘密じゃ、どんな好きな女子に会うても腹の真相打ち明けたらあきまへんで!と大王は念を押す。

こら勘平、お前はこれからつまり陸にへあがった河童になるのじゃ、十分気をつけなければいかんぞ、必ず頭の更に水を忘れまいぞと大博士も忠告し、自分の皿を叩いてみせる。

心得ましたと勘平が答えると、それから女じゃ、女は恐ろしいからな、ことに人間の女は癖が悪いからなと左大臣も口を出し、従って寝姿などを人間に見せるでないぞと大博士が釘を刺す。

それから犬じゃ、犬も大敵じゃ、以上4つのことを必ず忘れるでない、復誦!と左大臣が教える。

すると勘平は、1つ、皿に水を忘れないこと、1つ、女に気をつけること、1つ、寝姿を人に見せないこと、1つ、ワンワンに注意することと復誦したので、宜しいと満足そうに左大臣は胡瓜をかじる。

これ勘平、見事使命を果たして帰国の上は褒美の代わりにわしの娘をお前にやるぞと大王は言い出す。

すると突然立ち上がった右大臣(有木山太)が、おおそれながら申し上げます、いかに名家の勇士とは言え、姫様の心もお尋ねなくそのような約束をなさいますことは…と疑問を口にすると、いや心配するな、娘はわしの言う事は何でも聞くと大王が言うので、しかし個人の意思を尊重することを忘れてはファッショになりますぞと右大臣が興奮するので、これ大臣、王様に向かって言葉が強過ぎますぞと左大臣が立ち上がって注意する。

それでも右大臣が、しかしそのような…と抗議を続けようとするので、何を言うか、会議はこれで終わることに致しましょうと一方的に発言を閉めてしまい、鐘係がたくさん鐘を打ち鳴らす。

その後、城からでて来た姫君( 梓真弓)と会った右大臣が、姫君と手を取って話すと、聞いていました、お父上はみんなの前であんな約束をされててんと姫は嘆き、右大臣は困ったことになりましたと悩む。

私たちはどうすれば良いのかしら?と姫が言うと、姫、例えどのような事があろうとも、私はもう決して姫を話したりはしませんぞ問う大臣が手を取って言うので、右大臣!と姫君も感激し、互いに目を見つめ合う。

一方、勘平が人間界に行くことを知ったカナ子は、酷いわ、酷いわ、酷いわよ♩と歌いながら勘平に抗議する。

役目をすませて帰ったら、お姫様もらうなんて!とカチ子は怒る。

すると勘平は、違うよ、違うよ、誤解だよ〜♩僕がそんなこと言うものか〜、王様が勝手に言い出したんだよねと言い訳する。

するとカナ子は、ねえ、ねえ、お願いだから、人間世界に行くのは止めて、私を愛しているのなら♩と頼むので、 お〜、そそ、それはダメです、ダメですよ、大事な役目でいくんだからさ〜♩と勘平は教える。

一体どんな役目?とカチ子が聞くと言えないだよ、王様から言っちゃいけないって言われたんだよねと勘平は説明するが、え?もう!私に言えないの!とカナ子はヒスを起こす。

僕は河童の勇士だからさ!と勘平が自慢すると、嫌い、嫌い、大嫌い!とカナ子はそっぽを向いてしまったので、勘平はアチャ〜!アチャ〜!ポン!とおどける。

ナショナルの河童ビジョンのチャンネルをいじっていた大博士が、王様、あれをご覧なさいませとビジョンを指差す。

何だあれは?と胡瓜をかじっていた大王が聞くと、そこには沼の側のベンチに横たわったホームレスが写っていたので、何じゃしょうもないと大王は馬鹿にするが、何とおうせられます、あの男こそ人間界では一向に目立たない男でございますと大博士は指摘する。

ああ、つまらんもんじゃと大王は言うが、あの男を河童の国に引きずり込み、勘平にあの男の姿をさせて人間界に乗り込ませるのでございますと大博士は提案する。

すると大王も、なるほど、それは名案じゃと気づくき、して引きずり込む手段は?と聞くので、さらば、こう云う事もあろうかと、日頃から訓練させておりますX28号を使うのでございますと大博士は言う。

うん、良い所へ気がついた、さっそくX28号をこれへ呼べ!と大王は命じる。

大博士はその場に置いてあったスタンドマイク越しに、X28号、王様のお召しであるぞよと呼びかける。

メス河童楽隊のファンファーレとともに、X28号(藤波洸子)がメス河童親衛隊の先頭を切ってやって来る。

X28号は、沼の側に人間の女として出現すると、ベンチで寝ていた男のか尾上に伏せてあった新聞紙を剥ごうとするが、犬の鳴き声が聞こえたので、助けて!と行って逃げ出す。

その犬の鳴き声で、ベンチの上の男も目覚めてしまう。

助けて下さい!とX28号がすがりついたのは沼の畔で釣りをしていた松山(伴淳三郎-二役)で、どうしました?と聞くと、背後に回ったX28号が、犬!と言うので、おお犬、あっち行きなさい!と妙なアクセントの日本語で追い払う。

行きましたと松山が教えると、X28号はありがとうございました、おかげさまで助かりましたわと礼を言う。

どう致しまして…と松山は鷹揚に頷くが、X28号に興味を持ったようで、お嬢さん、なかなかきれいですねと色目を使って来る。

その時、X28号はベンチの男がいなくなっているのに気付きキョロキョロしていると、誰か探しているのですか?と松山から聞かれたので、いえ、あの…と口ごもると、こんな寂しい所に何しに来ました?誰か待っているんですか?と松山はさらに聞いて来る。 いいえとX28号が答えると、ほお、じゃあ僕はどうですか?と松山は誘って来る。

あ、浮きが動いていますわ、魚が動いてますわとX28号は教えるが、魚はどうでも構いません、恋人来ないとX28号を指した松山は、私寂しい…、どうでしょうと言いながら、いきなりX28号の手を握って来たので、何をなさるんです!と睨みながら手を振り払う。

今日はね、大きなフィッシュを釣ろうとしました、代わりにお嬢さんが連れましたなどと松山は歯の浮くようなきざなことを言い、ちょっとだけね、ちょっと…と言いながら背後から抱きついて来た松山を振りほどこうとしたX28号は、そのままもつれるように沼の中に落ちてしまう。

再び会議が開かれ、事情を聞いた大王は、うん、それで良い、X28号が間違うたにもせよ、その男もどうせ名もない者であろうと言うので、さようでございます、それに勘平そっくりな男で…と大博士が教えたので、そりゃ好都合じゃ、勘平にその男の姿をさせて一刻も早う出立の準備を致されませいと大王は左大臣に命じる。

左大臣は畏まりましたと答えるが、右大臣は哀しそうにうなだれる。

城の裏庭のベンチにしょんぼり座っていた姫君の所にやって来た王子(西岡タツオ)は、姉ちゃん、人間が連れてこられたんだってね?と聞くので、姫は頷く。

どんな人?色は白いかい?黒いかい?などと好奇心一杯な少年王子は聞いて来るので、知らないわ、そんなこと…と姫は寂しそうに答える。

だって若い女は大騒ぎしているよ、まだまだこの国の女たちは外国の男に憧れていますね〜などと王子が言うので、生意気を言ってるわと姫が注意すると、姫君!と階段の上から右大臣が呼びかけて来る。

それに気付いた姫は階段を駆け上がり、右大臣に肩を抱かれて城に入って行ったので、ベンチの所に残った王子は、ちぇっ、うまくやってらあ〜、アホらしくてアホらしくて見ちゃいられねえや…と愚痴る。

その頃、河童の国のろうに捕まっていた松山は、おお、お嬢さんは毎日僕の側にいてくれるんで、僕は幸せですとX28号に言うので、何言ってるのよ、お気の毒だけどあなたは当分帰れないのよとX28号が教えると、おお、僕は構いません、いついつまでも…などと松山はきざなことを言う。

あなた、ここがどこだか知ってるの?とX28号が呆れると、おお、どこでも構いませんと松山は気にしてないように言う。

そんなこと言っててん、ここはね、河童の国よとX28号が明かすと、河童?おお、人間が想像して描く動物でしょう?河童…と松山は知っていることを話すと、そうよとX28号が言うので、アジャ〜と松山はおどけ、それでも構いません、お嬢さん、僕幸せですと言いながらポケットから取り出したものを差し出し、どうです?チョコレート、飴、チョコ、ガムねと言うと、さすがに見たこともなかったX28号は嬉しそうに受け取る。

お〜、僕の国はね〜、物質の国です、お金持ちですね、え〜、僕の国の1円が河童の国の500円くらいするなどと松山は自慢し出す。

そうなの?とX28号が驚くと、それにレディファースト、女の人には僕はとても親切ですよなどと松山は歯の浮くようなことを言い、お嬢さん、ちょっとだけ遊びましょう、回ってらっしゃい、ここへ、ちょっとだけね…と言葉巧みに誘う。

迷っていたX28号だったが、王子がやって来たので、あ、王子様!と驚く。

松山も、お〜プリンス!チョコレートプレゼントと牢の中から声をかけると、そんな物いらねえよ!とバカにして帰ろうとしたので、いらないよ〜?ヘイユー!バカタレ!と松山が罵倒すると、突如、若い娘たちが気キャーキャー言いながら牢の前に詰めかける。

そこに左大臣、勘平とともにやって来た大博士は、その娘たちに下がりなさい!と叱って追い払うと、河童の国の女性は本当に下品ですぞ、外国人の男と見ればすぐ目尻を下げる!河童の国の恥ですぞ!と嘆くと、河童の国にも男がいるんですぞ!と左大臣も憤慨する。

やんなっちゃう、全く!と吐き捨てた大博士が松山の前に来ると、お早う、これケーキ、チューインガム、クローバーの北海道のバターと又持っていたものを差し出して来るが、大博士はそんなことよりも、良く似てるな〜、こいつは…と連れて来た勘平と松山を見比べて驚く。

早く服を着せてみろと左大臣に大博士が声をかけたので、その場で勘平にスーツを着せ牢の前に行かせると、ユー、ミー、友達、仲良くしましょうと牢の中から松山が陽気に話しかけて来る。

その頃、カナ子の所に姫君と一緒にやって来た右大臣は、そなたの恋人勘平が成功して帰って来ると姫君と結婚するのだよと教えていた。

悔しいであろう、そこでそなたがすることが1つある、勘平の後を追って人間界に行き、勘平を失敗させることだと右大臣が吹き込むと、さすがにカナ子は、ええ!と驚く。

そうすれば王様の怒りを被って、勘平と姫君の話は取りやめになるだろうと右大臣は言うので、でもそれはどうすれば良いのでございますか?とカナ子が聞くと、これだよ、この皿と勘平の頭の皿を取り替えるんだ、この皿はビニール製だから水は染まず、勘平は神通力を失うのだと右大臣は腰美濃から取り出した皿をカチ子に渡す。

すると、まあと驚いたカナ子は、私もあの人の後を追って人間界に参りますと承知すしたので、言ってくれるかねと右大臣はカナ子の手を取り、姫君もありがとうと感謝する。

では姿を変え隠れていなければならぬぞと右大臣は忠告する。

沼の側の「クロバーバター」と広告が付いたベンチに座っていたホームレスが立ち上がると、その背後に松山に化けた勘平が出現する。

少し歩き出そうと下勘平だったが、急に犬に吼えられたので、腰を抜かして逃げる時、帽子の下から皿を落してしまう。

そこに人間に化けたカナ子が出現する。

そして、道に落ちていた勘平の頭の皿を拾い挙げると、バッグに入れて来たビニールの皿とすり替える。

ベンチの所に戻って来た勘平に松山君!と呼びかけて来たのは大王そっくりの波岡(花菱アチャコ-二役)だったので、大王様!と驚くと、大王様?大王様やあらへんがな、わしは社長やないけ、どうしたんやな君は!と相手は訂正して来る。

松山君、今頃まで何をしてたんや、え?釣りに出掛ける言うて、君3日も帰ってこんから家の者みんな心配してるやないか!今日も視察がてらに君を探しに来たんやで!と波岡は松山に化けた勘平を叱って来る。

焦った勘平はしゃべろうとするが言葉に詰まっていると、うんうんて分からんやないかと波岡は戸惑い、同行の男も、社長、どうも様子が変ですな、頭が行かれたらしいなと指摘して来る。

うん、そうらしいな…と納得した波岡は、君、幹!松山!君耳聞こえるか?と聞く。

すると勘平は何とか、聞こえます…と答えたので、ウ〜ン…、耳は聞こえるらしいな…、松山君、君はね我が社の技師長やで、この沼を埋める責任があるんやでと波岡は言い聞かす。

なかなか調子が掴めず困惑していた勘平だったが、その時、少し離れた所から手招いているカナ子に気付いたので、波岡にちょっと待っててとジェスチャーをしてカチ子の側に近寄る。

カナ子がビニールの皿を差し出すと、勘平は気付かずにそれを帽子の下の頭に乗せ、嬉しそうに波岡の元に戻る。

思い出しました、思い出しました、確かに僕は松山淳三ですと勘平は波岡の前で流暢にしゃべり出す。

それであなたはどなたですか?と聞いて来たので、何を言うてんねんな!僕は社長の波岡やがなと答えると、ああそうですか、そう言えばどこかでお目にかかったことがあるようですねなどと勘平は人ごとのように言うので、あ〜、これは大分いかれてますわと波岡は呆れる。

これは早う家に連れて帰ってな、早よ養生させなと波岡が言うので、付いて来た部下たちは帰りましょうと言いながら、勘平を連れて行く。

松山の自宅 小学生の女の子がランドセルを背負って帰って来る。

台所では大量のジャガイモを剥いていた女中2人が、旦那のいく所は女の所に決まってるよ、そうだね、心配することはないよとおしゃべりをしていた。

何しろ旦那は女好きだからねと1人が言うと、本当にね、私にも変なことを言うんだよともう1人が打ち明ける。

ええ!あんたに?と驚いた女中は、まあ、私だけかと思った!と言う。

まあ、あんたにも!なんて気が多いんだろう!ともう1人は憤慨し、銀座裏には2号だか3号だか知らないが囲ってあるってよ、「べらみ」とか言う洋裁の店をやらせているんだって…と言うので、まあうらやましいともう1人が答えると、お前たち、今何を話していたの?とやって来た小学生の娘が聞いて来る。

あの…別に…とごまかすと、パパがきっとその洋裁店にいらっしゃるのね?と言うので、さあ?どうでございましょうか、私たちは何も…と女中ははぐらかす。

だって今、言ってたじゃないの!聞いたわよと娘はしつこく言うが、その時、ちづ子!と娘を呼ぶ母親の声が聞こえて来る。

お嬢さま、奥様がお呼びでいらっしゃいますよ、早くいらっしゃらないと又叱られますわよともう1人の女中が急かすと、ようやく頷いて娘は台所から出て行く。

よそ行きの着物に着替えていた母親の部屋に入った娘は、あ、ちづ子、お前も行くんだよと言われたので、どこへ?と聞くと、神様だよと母親は答える。

こうなりゃパパのこと、神様にお聞きするしかないじゃないかと言いながら、母親は口紅を引く。

もっともこの間はあの神様を信用して、お告げ通り株を売ったらまあ大損したけどね…と母親は娘を振り返って苦笑する。

「大吉教霊場」と大きな看板がかかった家の中では、裁断を前に大勢の巫女たちを従え、教祖(堺駿二-二役)が奇妙な踊りを踊っていた。

娘のちづ子と一緒に正座して見守っていた母親が1万程度のお布施を三宝の上に置くと、それに気付いた教祖は目を白黒させる。

やがて巫女の1人も踊りに加わり、いつの間にか身体が動いていた母親も立ち上がり一緒に踊り始める。

そんな母親を哀しげに見守っていたちづ子は、1人で帰ってしまう。

「服飾研究所 べらみ」でデザイン画を描いていたマダム(清川虹子)がぼーっとしているので、先生どうしたの?と助手が聞くと、又思い出しちゃった…、どうしているかと思ってね…とマダムは言う。

当てにしたらダメですよとミシンを操作しながら助手が言うと、あんた、人のことだと思ってそう簡単に言うけど、あんたも結婚して子供を持つ頃になってご覧、私の気持良く分かるから…とマダムは寂しげに言う。

そりゃ、今だって分かんない事ないけど、そんなの古いと思うな…と助手は言う。

そう…、古いかもしれない、淳三さんに立派な家にようしに行くからと言われ、何か立派なことでもするかと思って身を引いたけど、何もあの子まで手渡すことはなかった…、どうしてあんな気持になったんだろうね〜…とちづ子のことを思い出す。

でも先生は、やっぱりそれがお嬢さんの幸せだとお考えになったんでしょう?と助手が言うので、あの時はそうだったけど、松山の奥さんはわがまま者のヒステリーだと聞くし、あの子が幸せに暮らしているかどうか…とマダムは案ずる。

その時、あの〜、松山のお嬢さんって方が…と別の助手が伝えに来たので、松山?と驚いてマダムが店に出て見ると、そこで待っていたのはちづ子だった。

まあ、お嬢さま!とマダムが驚くと、パパをお家へ帰して頂戴とちづ子が言うので、パパを?お嬢さまどうしてそんなことを…とマダムは戸惑う。

するととちづ子が、だってパパ、ちっともお家にお帰りにならないんだもの…と言うので、そうなんですの?とマダムは戸惑う。

おばさまがいけない人だから、パパはおばさまのお家から帰さないってみんなが言ってるわ、だからちづ子、パパをお迎えに来たの…とちづ子は言う。

でも、パパはここにいらっしゃいませんのよとマダムが言い聞かせると、本当?とちづ子が言うので、本当ですとも…とマダムは答える。

ちづ子が考え込むと、お嬢さま、あなたも私を悪い女だって思ってらっしゃる?とマダムが聞くと、ええ…、でも本当にパパがいらっしゃらないんだとしたらしょうがないわ…とちづ子は寂しそうにうつむいてしまう。

お嬢さま、もしもパパにお目にかかったらね、きっとすぐにお帰りになるように申しますわとマダムが言うと、きっとよとちづ子がせがむので、きっと申しますよ…とマダムは優しいまなざしで答え、お嬢さま、大きくなられましたね〜と目を細める。

あら、おばさま、ちづ子知ってるの?と聞かれたマダムはちょっと表情が曇り、いえ、ただ前から何となくお噂は…とごまかし、お嬢さんはママさんに断ってここにいらっしゃったの?と聞く。

するとちづ子は、いいえ、黙って来たのと言うので、まあ、じゃあお家ではどんなに心配していることか…、あの…、私がお送りしても構いません?とマダムは聞く。

ちづ子が頷くと、じゃあお供させていただきますわね、ちょっとお待ちくださいと言って準備をして一緒に出掛ける。

おばさまとっても優しいのね、好きになっちゃった…と、手を繋いで自宅へ送り届ける途中ちづ子が言うので、まあ、私の所にいらしたのはママさんにおっしゃらないで、悪い女だと言われてますから、きっと叱られますからねとマダムは頼む。

するとちづ子が、おばさまは悪い人じゃないわと言って来たので、あなたにそうおっしゃっていただいて私嬉しい!と感激し、ちづ子の肩を抱いてやる。

屋敷に到着すると、さようならとちづ子が挨拶して来たので、マダムもさようならと挨拶を返し、門の所で別れる。

そこに車が帰って来て門に入って行ったので、マダムは慌てて避ける。

玄関口に来た母親はそこで待っていたちづ子を見て、もう、ちづ子、どうして黙って先に帰ってしまったの!と叱る。

するとちづ子は、ママ、パパが帰っていらっしゃるわよと言うので、何ですって!と驚いて上がり込む。

でもね、とても何だか変なのよとちづ子は言う。

その松山に化けた勘平は積み重ねられた大量の皿をぺろぺろ舐め回していたので、付いて来た波岡は、ああ汚いな…、嘗めたらいかんちゅうのに!と必死に止めていた。

そこに次々と女中が料理を運んで来る。 松山が食パンにバターを塗っていた時、ちづ子と一緒に入って来た妻が、まああなた!と驚くと、奥さん、困ったことになりました、こら、夕食が28枚とパン2斤分は食べとります、食べるのははっきりしてますが、その他は頭がいかれとりますんや、何にも分かりまへんのやが、困ったもんじゃ…と浪岡が教えると、急に勘平が食べるのを止めたので、あなた、どうなすったの?と妻は聞く。

奥さん、自分が技師長の松山であると言うことすらもう分かりまへんねんと浪岡は言う。 それを聞いた妻は、まあ、一体どうしたんでしょう?とうろたえるばかり。

あなたと妻が呼びかけると、う〜!と勘平は言うだけだし、その息が異様に臭いことにちづ子は気付く。

波岡もその匂いに気付き、何でこんなに臭いんやろな?奥さん、すんまへんけどな、風呂でいっぺん身体掃除してやっておくんなはれと頼むと、そうだわ、お風呂入ると良いわ、ちづ子、早く連れて行きなさいと妻は言い、ちづ子がパパ行きましょうと手を取って立ち上がらせる。

勘平は素直にはいと答えて風呂に行く。 残された妻は波岡に、一体どうしたんでしょう?と狼狽すると、何のことやら…、アメリカ映画の「心の旅路」みたいなもんやな〜と波岡は言う。

そこにちづ子が戻って来て、ママ、パパったらお風呂入ったら水に飛び込んで、う〜う〜って、スッポンみたいな格好になったわとジェスチャーまじりで報告するので、すっぽん?と波岡は驚き、妻も、社長さん、一体どうしたら良いんでしょう…と相談する。

ほんまにも〜、偉いことにちょっとなりにけりですわと波岡は嘆く。 その頃、河童の国の牢の中では、すっかり意気投合した松山とX28号が踊っていた。

そこにやって来た王子は唖然とそれを見ていたが、それに気付いた松山は、ハロー!プリンス、ハワユー!と牢の中から握手を求めて来る。

そして、あなたも外国に行かないと貫禄がつきませんねなどと松山が言うので、うん、僕も行きたいんだけど…と王子はぼやく。

王様がとてもケチだからダメなのよ…とX28号が横から口を出す。 お〜、ケチ!ケチンボ?オ〜泥棒、六尺棒ね、失敗棒、ボーの付くものみんないけません!と松山は指摘して1人で笑い出す。

風呂から上がってパジャマ姿になった勘平は寝床にいた。 そんな勘平に寝間着姿で団扇で仰いでいた妻は、ねえあなた、少しお休みになると良いわ、疲れも直るわよ…と話しかける。

勘平が座ったまま黙っていると、ねえ休みましょうよと妻が迫って来たので、勘平は四つん這いで逃げ出し、枕元に置いてあった水差しの水を頭に付けるので、まあどうなさったの?嫌な方ね〜…、お留守の間、私、とっても寂しかったのよと妻は甘えて来る。 う〜ん、どうせ女の所に行ってらっしゃったんでしょう?ねえ、そうでしょう!白状なさいよ!と焦れた妻は勘平に詰め寄るが、ずっと勘平が頭に水を塗っているので、まあ何をなさってらっしゃるの?と妻は不思議がる。

勘平は、ダメだ、一向に効き目がない…、皿が違う!と気付く。

何ですって?と妻が聞くと、家にある皿全部持って来て下さいと勘平は頼む。

妻が寝室から出て行くと、庭先にカナ子が出現し、ああカナちゃん!と気付いた勘平に、勘平さん、変な真似すると承知しないわよ!とカナ子は釘を刺して来る。

君、一体、何しに?と勘平が聞くと、まあいやらしいわね〜人間って…、こんなものの中で寝るの?とカナ子は寝室の布団を見ながら言う。

僕はね、王様の命令で大事な仕事が…と勘平は言い訳しようとするが、でもね、私は始終見張ってるのよ、それを忘れないでね!とカナ子は釘を刺す。

その時、今の奴帰って来たわ!と妻の気配に気付いたカナ子は又庭先に降り姿を消す。

その瞬間、あなた、お皿持って来たけど!と妻と女中がありったけの皿を持ち込んで来るが、勘平は目指す皿がないので、みんなその場に投げ捨て、発作を起こして寝床に倒れ込んでしまう。

あなた!どうなすったんです!と妻が駆け寄る。

翌日、妻は勘平を連れ「大吉教」へやって来る。

勘平は教祖の踊りや、妻の不審な行動にきょとんとなるが、神棚に供えてあったお神酒を頭の上にかけ、さらに一口口に含んでみて気に入ったので、その壺を小脇に抱えたまま喜ぶ。 「波岡商会」の会社では今正に会議が行われていた。

休戦は休戦、特需の方はまず大丈夫ですよと1人の社員が発言すると、何と言っても金へん景気ですからねと他の社員が嬉しそうに言う。

社長、埋め立て工事の方は一体どうするつもりですか?と社員から聞かれた波岡は、ちょうど鼻毛を抜いている所だったが、それがやな、何しろ技師長の松山があんな状態やてな…と答えると、松山技師でなきゃいかんと言うことはないでしょう?と社員は指摘する。

それじゃあ責任者を変えたらどうです?と別の社員が提案すると、そやけど松山は始めから、あの埋立地の測量から何から何までやっとるんやけどな〜と波岡は反論する。

社長は人が良いからな〜と又別の社員が言うと、何!人がええやて?人がええちゅうのはアホと言うことや、何を言いやがる三等重役のくせに!黙っとれ!はったおすぞ!と鼻毛を抜いていた波岡は怒り出す。

そこにやって来たのが松山の妻で、社長さん、どうしましょう?あの人すっかりどうかしてしまって…と困りきったような顔で聞いて来る。

暇さえあれば頭に水ぶっかけて、ダメだ、ダメだって泣いてるんですよと妻が報告すると、困った病気やな〜と波岡も困惑する。

昔のことなんかすっかり忘れてしまっていると妻が言うと、今もそのことでみんなと相談している所やがなと波岡は教える。

私、神様にお願いしてみたんですと妻が言うので、あ、神様と言うと、これの?と波岡は踊ってみせる。 ええ、すると神様がね、あの人の昔の女に会わせたら、あるいは記憶が戻るかもしれないってお告げなんですと妻は悔しそうに言う。

すると、ふ〜ん、そらええことやないか、おもしろいな、会社のためや、やってみよう!と波岡が言い出したので、じゃあ社長はあの人の昔の女をご存知ですか?と妻が聞くと、ああ知ってる、知ってる!と波岡が言うので、まあ!と妻が呆れる。

それを見た波岡は、こりゃ偉いやぶ蛇やったな〜と苦笑する。

「べらみ」に勘平を連れて来た波岡は、待っている間、洋服を着たマネキンの胸を触ったり、胸の谷間を覗き込もうとしていたが、そこに助手がお茶を運んで来たので、奥の様子はどうです?と聞いて見る。

何だかしんみりとお話ししてらっしゃいますと言うので、しんみりと?そうですか…と波岡は聞き返す。

同じ東京にいてちづ子に自由に合えない生活も辛いし、あの子が又たびたびこの家に来るようになったらお宅にもすまないから、やっぱり田舎に帰りますわとマダムがしんみり打ち明けている間も、勘平は出て来た麦茶を頭に塗ったり飲んだりしているだけだった。

お願いですから私が田舎に帰っても、ちづ子はいつまでもいつまでも幸せにしてやって頂戴ねとマダムは頼む。

あなた、何故何もおっしゃって下さらないの?とマダムが問いかけると、カナ子が出現する気配を感じた勘平は、オ〜…トイレと断って裏手に行き、そこに出現していたカナ子に、なんべんも出て来ちゃ困るなと苦情を言う。

だってあんた、あんなきれいな人と…とカナ子がすねるので、カナちゃん、誤解しちゃいけませんと勘平は叱る。

どうして?とカナ子が聞くと、人間の世界には河童の世界にはない色々な事情があるんだよ、だからあの可哀想な人間の話を聞いてやってるんだよと勘平は説明するが、だって〜…とカナ子は承知しない。

カナちゃん、河童の子別れってないだろう?人間にはだよ…と勘平が言い聞かせようとしていた時、あなた?そんな所で何独り言言ってらっしゃるんです?とマダムが呼ぶ声が聞こえて来たのでは〜いと返事をし、カナ子には早くお帰り!と命じ、ベロベロベロ!と言って手を振ると、カナ子の姿は消える。

席に戻った勘平に、あなた、私田舎に帰るまで、せめてあなたあの思い出の沼の畔を歩いてみたい…、ねえとマダムが言い出し擦り寄って来ると、又、カナ子が出現する音に気付く。

慌てて又立ち上がった勘平は、どこにいらっしゃるの?とマダムに聞かれ、ウ〜…WC!と答え、急いで裏手に回ると、本当に君はしつっこいな!と又出現していたカナ子に文句を言う。

だってあんた、あの人と何を約束したの!とカナ子が責めて来たので、僕はただあの可哀想な人を慰める…と勘平は言い訳しようとするが、嘘おっしゃい!と言いながらカナ子は勘平の腕を抓って来る。

痛〜い!と勘平が叫ぶと、あなた!どうなすったの?とマダムが聞いて来たので、は〜いと答え、再びベロベロベロ!と呪文と手の振りでカナ子を消す。

マネキンの腕を外していた波岡は、助手がやって来たので、慌ててその腕を返しながら、何をし取るんや、あいつは?と案ずる。

奥へ行って見ると座敷には誰もいなかったので、ミシンを踏んでいた助手に、このお客様はどこに行かれました?と聞くと、さっきお2人で裏からお帰りになりましたよと言うので、裏から!人を千度待たせといてから…、そんなバカな話があるかい!ほんまにもう!と波岡は怒り出す。

マダムと勘平は沼の畔のベンチの側にやって来る。

まあ、あなた、あのベンチがありますわ!昔あの楽しい時間を過ごしたあのベンチが!と感激したマダムは、ね、あなた、座りましょうよと勘平に声をかける。

静かね〜、いつ来ても良い景色…、例えわずかの間でも、この沼は私を本当に幸福にしてくれたわ…、私は一生この沼を忘れないわ…、思い出の沼…、私の恋を育ててくれたこの沼…とマダムは感慨に耽る。

ねえ、あなたがここで囁いたことを覚えてる?とマダムが寄り添って来ると、全然!と勘平は答える。

君は僕の全てだって私に耳元で囁いてくれたこと、覚えてる?とマダムが聞いても、全然!と勘平は首を振る。

例え僕が養子に行っても愛しているのはマスミだけだって言ったのも?と聞いても、全然!と勘平が知らん振りなので、まあ。じゃああなたは私を愛してくれなかったのね!とマダムは憤慨する。

それでも勘平が全然と繰り返すので、じゃあ長い間、あなたは私を騙していたのね!と聞いても、全然…としか勘平は答えない。

そう、良く分かりましたわ、私、田舎に帰ります!と言い残し、怒ったマダムは立ち去ってしまう。

勘平は頭痛のあまりベンチに横になるが、そこにいつものホームレスがやって来て、俺の場所だよ、起きろよ!この野郎、起きねえかよ!と勘平の身体を揺り起こす。

そして、何するんだ!と文句を言いながらも、ホームレスに殴られてしまう勘平。

その様子を「ナショナルカッパビジョン」で見ていた大王は、左大臣、何じゃあの勘平の姿は!と怒る。

はあ、申し訳ありませんと左大臣は恐縮するだけなので、あれで大役が務まると思うのか!と大王は憤慨するが、右大臣だけは満足そうに画面に見入っていた。

勘平を引き戻し重労働じゃ!と大王が言うと、横にいた姫が、お父上、勘平に罪はありません、勘平が弱いのは当たり前でございますと言い出したので、どうしてじゃ?と大王が聞くと、私と右大臣とでカナ子を人間界に送り、勘平のお皿を取り返させました、勘平を失敗させるために…と姫は告白する。

それを聞いた大王は、何!もういっぺん言うてみい!と睨みつける。

何度申し上げても同じでございます!私、勘平を結婚するのは嫌でございますと姫が言うと、横に座っていた右大臣も立ち上がったので、私は右大臣を愛しておりますと明かす。

ありゃ〜!右大臣、それは本当か?と大王が聞くと、はい、本当ですと右大臣も答えたので、あちゃ〜!もうついこの間まで子供、子供と思うておったにもかかわらず、親の目を盗んでチンチンかもかも…、それは殺生でござりまする!と大王は嘆く。

父上、恋は自由でございましょう?と姫が聞くと、なんぼ恋は自由と言うても、この国家の一大事、沼が人間に埋められて、この河童の国が潰されても良いのか!と大王は問いかける。

う〜ん、左大臣、2人も監禁せい!と大王は哀しげに命じると、立ち上がった左大臣は、右大臣を監禁致しまして、このお姫様は私の読めにいただきとうございますと申し出たので、う〜ん、それも良いこっちゃ…と一旦乗りかかった大王だったが、こら!なんちゅうことを言うんや!と杖で左大臣の頭を殴り、さっさと連れて行け!と命じる。

沼の畔でホームレスに殴られ倒れていた勘平の横にカナ子が出現し、勘平さん、勘平さん!と揺り起こす。

あ、カナちゃん!と気付いた勘平に、酷い目に遭わされたわねとカナ子は同情する。

すると勘平は、僕のお皿がダメなんだよ、カナちゃん、君は神通力を失った僕が嫌になったんだろう?どうせそうでしょう…とすねる。

それを聞いたカナ子は、それじゃ勘平さん、まだ私のこと愛してくれているの?と聞くので、何を言うんだよ、当たり前のことじゃないかと勘平は答える。

だって、無事に国に帰ったらお姫様と…とカナ子が哀しげに言うので、カナちゃん、バカだな〜、お姫様は右大臣とチンチンかもかもだよ、知らぬは王様ばかりだと勘平は教える。

僕は河童の国の危急を救うために河童の勇士として一身を投げ出して人間界に出て来たのだ、ああそれなのにそれなのに…と勘平が嘆くと、勘平さん、あんたこれから人間の女相手にしない?とカナ子が聞いて来る。

それは国を出る時くれぐれも言われて来たんで…と勘平が答えると、勘平さん、堪忍して!とカナ子は謝り、あなたのお皿ここにあるわ…と言いながらハンドバッグの中から皿を取り出す。

ああ、この皿、おらの皿!なんぼ探していたか分かんねと急に東北弁になって感激する勘平に、預かっていたの、堪忍して!それはあなたを愛するあまりだったのよとカナ子は詫びる。

勘平が偽の皿を投げ捨て、本物の皿を頭にかぶると、カナ子がつばで湿らせてくれる。 すると急に元気になって立ち上がった勘平だったが、犬に吼えられると、あ、怖い!とカナ子に抱きついて来る。

しかし神通力が戻った勘平は石を拾い上げて投げつけ、犬を追い払う。

その姿を見たカナ子は、ああ頼もしいわ勘平さん!と感激しすがって来ると、きっと大事な役目をはたしてねと言いながらも、でも、本当に人間の女の子とは気を付けてねと焼きもちを焼くのも忘れなかった。

勘平は、この世で愛するのは君だけだよ!とジェスチャーをしてみせ、カナ子の肩を抱き寄せるのだった。
 


 

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