白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

愛するあした

元スパーク三人娘の伊東ゆかりさんとワイルドワンズ主演のアイドル歌謡映画。

ドラマ部分を支えているのは松原智恵子さんと和田浩治さんと云う日活の若手2人。

孤児設定で子役も何人か出てくるのだが、その中の1人、問題児っぽい修二と言う少年は見覚えがあり、「バロム1」(1972)の主役白鳥健太郎を演じていた高野浩幸さんだと思う。

「バロム1」の3年前であり、高野さんとしては最も初期の映画出演作ではないだろうか?

伊東さんが「知らなかったの」を歌う時後ろのベッドで聞いているし、夜ベッドの中では伊東さんにだっこされているし、セリフを言うシーンもいくつかある。

さらに、初代「オバQ」の声でお馴染みの曽我町子さんも役者として登場している。

この当時の曽我さんはかなり丸顔で、劇中ではメガネキャラと言う事もあり声を聞かないと誰だか分からない。

キャストロールでは、伊東ゆかりさんと松原智恵子さんがダブル主演のように最初に横書きで上下に並んで出て来るが、上に書いてあるのは伊東ゆかりさんの方だし、その文字の背景は伊東さんの笑顔であることから見ても、主役は伊東ゆかりさんと見るのが普通だろう。

何しろ伊東さんだけアップのシーンには紗がかかっているくらい特別扱い。

日活配給なので一見日活作品のような印象だが、制作「芸映プロダクション」と冒頭に出て来るので外部作品のようだ。

斎藤耕一監督は元々松竹で撮ってらした方だし、比較的出番の多い中山仁さん、有島一郎さん、保母役の阿部寿美子さんなども特に日活ゆかりの方ではない。

ただ斎藤監督御自身は日活でスチールの繋がりなどがあったようなので日活配給作品に絡んでも不自然ではないのだが…

伊東ゆかりさんとワイルドワンズ主演、最後の最後に内田裕也さんまでセリフもないのに唐突に出て来ると言う事は当時所属なさっていたナベプロ出資だった可能性があり、伊東さんが布施明さんと共演なさっていたTBSドラマ「S・Hは恋のイニシャル」と同年の作品なので、ナベプロが若手を売り出すプロモーション目的でTVや映画を積極的に活用していた一環なのかも知れないとも思うが、渡辺プロの名がどこにも出てないので金銭ではなくタレント協力と言うだけなのかもしれない。

既に経営悪化でスタジオ閉鎖の危機を迎え、一般映画から手を引こうとしていた当時の日活と所属タレントを売り出したがっていたナベプロの利害関係が一致して生まれた企画だった可能性もないではない。

ただ、それにしては伊東さんとワイルドワンズがドラマの中であまり目立ってないのが不思議。

ワイルドワンズの方はゲスト扱いと考えても、伊東さんと松原さんを同じ比重で撮っていると、どうしても美貌の盛りだった松原さんの方ばかりが目立ってしまう結果となる。

対して伊東さんは歌を歌っているシーン以外では見た目的にも地味と言うか主役タイプではないので、前半は完全に松原さんの陰に隠れている印象を受ける。

後半の孤児院のありがちな臭い展開になってようやく伊東さんの主役っぽさを出そうとしているが、作品全体での印象はやはり松原さんの方が強い。

ワイルドワンズはチャッピーこと渡辺茂樹さんが新メンバーとして参加し、それまでの湘南っぽいサウンドから少しイメージが変わった時期で、渡辺さんがボーカルを担当した「バラの恋人」も登場する。

ワイルドワンズの中で一番目立たないイメージながら、見た目的には長身のイケメンだった島英二さんが結構目立つように撮られているのが興味深い。

外部作品だからなのか低予算のためか、アイドル映画やGS(グループサウンズ)映画みたいな弾けたポップな感じやファンタジックな雰囲気はあまりなく、どちらかと言うと泥臭い歌謡映画に近くなっている。

全体的に夢がないのが弾まない要因ではないかと思う。

アイドル映画だから他愛無い話や御都合主義、添え物の低予算作品なので見せ場もないと言う辺りは承知の上なのだが、見ていて弾むものがないと言うのが辛い。

特に松原さん演じるヒロイン役のキャラが前半は好奇心一杯で積極的な明るい性格なのに、何故か途中からがらりと臆病で消極的な性格に変わってしまっているのがトーンを暗くしてしまっている。

ペンパルの来日によってリアルな恋愛、現実と言うものが見えて来た分、慎重になって来たと言うか大人の分別が湧き出て来たと言う事なのだろうが、キャラクターとしてヒロインが悩める等身大の少女と言うより頭の悪い嫌な女に見えているし、ドラマとしても元々地味な設定だったものをさらに萎縮させてしまっているように見える。

伊東さんも松原さんもヒロインが共に「泣き顔」であったり、劇中に登場する歌の大半があんまり聞き覚えのないマイナーな曲と言うのも、何となく映画をからっとさせてない…と言うか、華がない一因だろう。

クライマックスの音楽会も、最初から歌を歌っている伊東さんはともかく、全く歌や楽器を弾くような説明がない松原さんが参加すると言う意味が分からず、結局ぐだぐだになってしまっている。

斎藤監督はこの後70年代に「キネ旬」などで高く評価される作家映画タイプの監督になられるだけに、そう言うものへの移行期間の作品と言うか、この作品に関してはティーン向けの映画として脳天気にもなり切れてないし、かと言って考えさせる深いテーマがあるとも言えず、どっち付かずで今ひとつ巧く行ってないような気がする。

二本立ての併映は石原慎太郎原作、川口浩さん主演の「野蛮人のネクタイ」だったようで、おそらくメインはこっちの方だったのだろうが、どちらも興行的に強そうな感じはしない。

それでも本作はアイドル映画だけに一部のファンの人たちは律儀に見たのだろうか?

ちなみにこの当時は劇中で「ツ○ボ」とか「びっ○」などと言う今のTVでは放送コードに引っかかる言葉を普通に使っている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1969年、芸映プロダクション、中野顕彰脚本、 斎藤耕一脚本+監督作品。

ちょっとお願いします、現代の男性どう思いますか?と街頭インタビューが行なわれている。

そうね…、どうってことないんじゃない?だらしないしさぁ~、どうでも良いみたい、服装なんか良いと思いますけどね、あんまり中味はよくないみたい…などと集まった娘たちは向けられたマイクに好き勝手な答えを言う。

そんな中、私?と聞かれた矢代美智子(松原智恵子)は、そうね~、最近の男の子って頼りないと言う一言とにつきると思うな!と断言する。

それからレディファーストって言ってるでしょう?だけどそれを守ってる男性なんていないし、女性に優しくするならする、強引に引っ張って行くなら強引にする、どっちかに決めて欲しいわ、そうしないと女の子にモテないわよ、やっぱり男性はもっとプライドを持って、男女同権だと行っても精神的には上でいて欲しいって私たちは思うでしょう?と答える。

そんなこと言うんだったら君たちだって大体そうじゃない、最近の日本女性はみんな同じだよ、みんなミニスカートはいて、同じメーキャップして、まるで反抗してるみたいだよな、俺はそんな外見美よりか、もっとなんて言うのかな?もっと心の優しい、もっと温かい…、それが日本女性だと思うんだけどな?と「青社評」と白文字が書かれた赤ヘルをかぶった阿部信一(和田浩治)は言い返し、そうだろう?諸君とセクト仲間たちに聞くと、異議なし!と角棒を持った仲間たちは答える。

そうですかな~、ま、そうでしょうね?でもね、女性の立場から言いますとね、女性は本質的には優しいもんなんですよと保母さん(阿部寿美子)が答えると、背後にいた男の子が目隠しをして来たので、それを振り払い、それも相手によりけりですけどね~とわらってごまかす。

そうよ、空威張りしている男の子たちにはね、私たちの本当の気持なんか分からないのよ、もっと素直になってもらわなくちゃ~…と水沢洋子(伊東ゆかり)は答える。

だって本当は私たちのこと好きなんでしょう?ねえ?と洋子が問いかけると、そうだ、そうだ!と若い男たちが一斉に右手の拳を突き上げて答える。

レポートを読んでいる美智子に寄り添う洋子を背景にタイトル

キャスト、スタッフロール (林の中を散策する2人を背景に)

チャイムが鳴る大学「愛和学院」に入って行く学生たち 麻雀屋で麻雀に興じていた4人の男子学生の1人が、オヤジが入って来たのをきっかけに急に何かを思い出し、大変、中止、中止!とポケットから紙切れを取り出して急かすので、別の1人がおいおい、この回だけでもやろうよと誘うが、ダメダメ、講義の方が大事だよと言いながら他の3人が出て行ったので仕方なく最後の1人も出て行く。

それを聞いていた麻雀屋のオヤジは講義、講義って偉そうに言いなさんな、どうせ美人の顔見に行くんだろうとバカにしたように入り口を睨みつける。

「青社評」の部室でも、おい授業が始まるぞ、もうそんな時間か…などと口々に言いながら仲間たちが授業に向かい始めたので、君たち、まさかこれで終わったと思ってる訳じゃないだろうな?と阿部が声を掛けると、しかし、我が愛和学院の闘争に於いては、一応これでポクになったと考えて良いんじゃないかな~と仲間の1人が答える。

何を言ってるんだ、うちの学園で終わっても、他の大学では何一つ解決してないし、新たな時期を迎えようとしている…と立ち上がった阿部が反論している時、1人の仲間が脱出しようとするのに気付き、おい!どこへ行く!と聞くと、トイレですと言うので、トイレ?と絶句する。

すると他の仲間たちも俺も生きたかったんだと言い出し、全員部屋から出て行ってしまう。

お前は?と残っていた仲間にメガホンで聞いた安倍は、何だ?1時間目のフランス語出ないのか?と逆に聞かれる。

フランス語?意味がないね…と阿部が答えると、しかし洋子と美智子が…と相手が言うので、うるさいな!と阿部は遮り、フランス語は意味がないけど、あの2人のケツを追っかけるのはもっと意味がないよと答える。

でも…と相手が言い返そうとすると、でも?そう、我々の先輩はデモに参加すると、先頭に立って機動隊と激突したもんよと、それまで床にしゃがみ込んでいたメガネの女性闘士(曽我町子)が立ち上がって意見する。

ホオあの大学で闘争が始まったと知ると、我が愛話学院のセメンは真っ先に助っ人に駆けつけたと言うじゃない?と女性闘士が力説し始めると、それまで残っていた他の仲間たちも白けて全員部屋から出て行ってしまう。

私はね、その精神に惚れてこの社研に入ったの!所が何?今の君たちは!と言っている女性闘士の横をお通り、そうだ、どうだ!と言いながら阿部も出て行こうとしたので、どこに行くの?と女性闘士はコートを引っ張るが、は、トイレ!と阿部は真顔で答える。

そんな中、先に部室を抜け出た仲間たちは、阿部の奴無理してるぜ、いつもなら美智子の恋人面してるのにな?そうなんだぜ、おかしいぜ!あの野郎、振られたかな?などと嘲笑しながら授業へ向かう。

一方、秀幸(加瀬邦彦)中村(植田芳暁)俊夫(鳥塚繁樹)小橋(島英二)北川(渡辺茂樹)ら写真部の仲良し男子学生5人組(ワイルドワンズ)は、壊れた垣根を潜って大学構内に近道で入って来る。

愛しい人よ、その声を~感じて目覚めて♩と中村が「あしたに逢いたい」を歌いながら一般教養部の校舎に向かう5人組。

教室の前の廊下にやって来た秀幸が、おお、集まってるね?と教室内を覗き込み言うと、来てるね?と中村も笑顔で答える。

その時、北川がお客さん、お客さん!と言うと、駆けつけた学生(杉山俊夫)が、来てる?と聞いて来たので、写真買わない?買ってくれたら2人の今日のスケジュール教えるよと5人が取りかこんで声をかける。

見本見せろよとその学生が求めて来たので、こっちがね水沢洋子さん、こっちがね矢代美智子と、俊夫と中村がアルバムを見せながら勧める。

2人一緒のない?と学生が求めたので、はい、ありますよ!と秀幸が調子良くアルバムをめくってみせる。 これこれ、これいくら?と学生が喜んで聞くと、ごめんなさい、売り切れなんです、これ!と小橋が頭を掻きながら詫びる。

売り切れ?ないもの貼っとくなよ!と学生が文句を言うと、見るだけでもさ、サービスじゃないですかと秀幸は笑ってごまかすので、調子良いな~と学生は呆れる。

そうだぜ、昨日のスケジュールだって全然違ってたぜともう1人の学生が苦情を言うと、女心は変わりやすいもんねと北川が背後からフォローしようとするが、バカバカしいと言い捨てて2人お学生は教室内に入ってしまう。

その時、ボンジュール!とフランス語の教授(伊藤久哉)がやって来て、今日は女性が2人欠席のようだが、ま、その方が気が散らずに講義が出来るだろうと嫌みを言う。

では、出席を取る、我孫子君!と教授が名簿を呼ぶと、我孫子がやけくそのようなふて腐れた大きな声ではい!と答えたので、私はツ○ボじゃないんだから、もっと低い声で…と教授は注意する。

グラウンドでサッカーに興じる男子学生をベンチから見学していた洋子が、どうして男の子ってこうもスポーツに熱中できるのかしら?と腕組みしながら言うと、私、運動選手って嫌いだな~と美智子は言う。

社研の阿部君の方が良い?と洋子がからかうように聞くと、あれもダメ、気が利かないんだもんと美智子はダメ出しをする。

要するに彼は私を楽しませようと努力しないのよ、そこへ行くと外国の男性は違うわ、一昨日来たアフリカのペンフレンドの子ね?と美智子が言うと、ああ、人食い人種…と洋子が返すと、手紙にこう書いてあったわ、気味がアフリカに来るなら我々種族の太鼓でゴーゴー踊りたいって…と美智子は言う。

そんな2人の背後にやって来た例のファンの学生に気付いた洋子はバカバカしい…、ちょっとあっちへ行ってよと注意する。

オーバーだけど何となくユーモアがあって楽しそうじゃない?行ってみたいって思うでしょう?と美智子が言うので、スリルねと洋子も苦笑しながら答える。

そうよ!そう言うユーモアやスリルが今の日本人には欠けてるのよ!と美智子が主張するので、じゃあ本当の恋人ってどう言う人?と洋子が問いかける。

私思うんだけど、分かれる時に、また会いましょうねって言いたくなるような人だと思うわと美智子は答える。

また合いましょうね…か?と洋子が感心すると、う~ん…と美智子は頷く。

ところでさ、最近の阿部君どうなの?とバックネットの前を歩きながら洋子が聞くと、近頃急に積極的になって来て嫌らしいの…と美智子は言う。

勝手ね~、ヒゲなんか生やしちゃってさ、お風呂にも入ってないみたいよ、臭いもん…と洋子が蔑むと、そんな事ないわよと美智子は否定する。

それをバックネット裏の蛇口で顔を洗っていた阿部が聞いて来て、おい、2人揃ってどこ行くんだい?又悪い相談してるんだろう?と声をかける。

洋子はあっと口を押さえるが、美智子は阿部が顔を拭いていたセーターを見ながら、そのセーター、何にでも使えるのねと嫌みを言う。

え?まあな…と阿部が答えると、革命ごっこはもう終わり?と洋子がからかって来たので、分かっちゃいないな~、だから女の子って嫌いだよと阿部が言い返したので、まあ!と美智子は怒る。

大体、学園闘争はだな、日本帝国主義の大学改変に対する戦いであると同時にだ、学園内に現れる矛盾に対する戦いでもあるんだよ、それを通して我々はいかに…!と主張し始めたので、待った!君、それ本気で言ってるの?と美智子が詰問する。

ああ本気本気、大体君の質問こそナンセンスだよと阿部が言うので、そんな事ないわよ!と美智子も向きになり、お止しなさいよ、2人とも!会えば必ず喧嘩してるんだから…と洋子は止めに入る。

だって、阿部君の言う事矛盾だらけなんだもん!と美智子は言い返す。

何が矛盾なんだ!と阿部が又言い返す中、これで結構楽しんでるんだからな~、やんなっちゃうわ…、ヘヘ…と呆れながら洋子は1人でその伯母を立ち去る。

あの子はだ~れ、誰でしょね?♩と歌いながら帰る洋子は、孤児院「花村学園」に帰って来た所で庭にいた子供たちから囲まれたので、一緒になって歌いながら校舎に入る。

その頃、レストラン「シュバリエ」では、さて、明日はどうするかな?と5人組が、洋子と美智子の明日のスケジュール表を書こうと相談し合っていた。

明日はって、今日も全然違ってたじゃないか、どうするんだ?と北川が指摘すると、今日は失敗したな~と秀幸が言うので、この頃この素行版もの凄く評判悪いんだからなと小橋が指摘する。

だけどよ、女心と秋の空って言ってね、なかなか分かんないものなんだな~…と中村が言い訳する。

何しろね、お前らこれで商売やってるんだからね、これが外れたら詐欺になるじゃねえかな?と俊夫が注意する。

そう言うけどよ、お前らだって余録があるんだからよ~と中村が答えると、そうだよ、分かってるのかよ~と北川も乗って来たので、まあまあと秀幸が取りなし、とにかく明日はばっちりやろうよと俊夫が励ます。

明日は任しとけよ、駅から喫茶店に行くんだよ、最近、夜明けのコーヒーって、コーヒー飲んでるんだと秀幸が教える。

あ、そう言えばよ、コーヒーを飲んだ後必ずトイレに行くと中村は言うので、なるほど、5分間かな?5分増しだなどと秀幸はスケジュールを予想する。

じゃあ10時35分だなとコピーした画稿周辺の手描き地図に書き込む。

その時、そのコピー地図をつかみ取り、こらお前たち!と睨んで来たのは阿部だった。 お前たちは女のケツばっかり追っかけて一体何やってるんだ!と阿部は抗議する。

ドヒャー!と5人組が頭を抱え込むと、何がドヒャーだ!学生なら学生運動の度を超えてる、我々学生運動で一番大切な事はだ、大学の自治の開放と真実の追求である!分かるな、そこの阿部君!と阿部は別のテーブルの学生にまで声をかける始末。

俺たちの学生運動は決して退廃文明に埋没するために戦っている訳ではない!と1人悦に行っていると、5人組は嫌がってさっさと帰ってしまう。

お前たち分かったのか!と店を後にする5人組に怒鳴った阿部だったが、俺にも分からねえや…とぼやく。

その頃、美智子は自宅の勉強机で、私は桜とマウント富士に住むチャーミングな少女…、レディの方が良いな…などとアフリカのペンパル宛の手紙を綴っていた。

私は現在、世界一周旅行を計画しております、そのせつ…、「そのせつ」って何だっけ?と英和辞典を調べる美智子だったが、そこに入って来た母親(三条美紀)が、はい、また来てますよと外国郵便を数通渡しながら、何がおもしろいんでしょうね?身も知らない外人さんと手紙のやり取りをして…と呆れたように言う。

美智子は、良いから、良いから、今はママの時代と違うんだから、何でも見なきゃ損、何でも知らなきゃ損って言う時代なのよと手紙の差出人を見ながら言うので、そんなもんですかね?と母親が聞くと、そんなもんですよと美智子は答える。

フランス、ペルー、ニューギニア、エチオピアか…と美智子は外国郵便を確認していたがそんな中に一通、「東京都世田谷区富士見ヶ丘3-22-1 八代美智子様」と書かれた日本からの手紙が混じっていた事に気付く。

裏の差出人を見ると阿部信一とだけ書かれていたので、まあ!何だってあいつ…と美智子は顔をしかめながらも開封して中を読み始める。 突然の手紙で驚いたと思う。

君と会うときはいつも心の中の会話が交わされていないのだ。 それは僕に対する好意の表れと思っている、しかし、君はもっと自分に正直になるべきだよ。

ペンフレンドの問題にしても文章によって相手の性格が理解できるなんてナンセンスとは思わないか? 気勢の権威主義の崩壊の時代はもはや眼前に到来しているのだ! 今こそ我々学生が自覚せねばならない!だから…、いやそれは別にして、とにかく僕は君が好きだ、君を愛してるからこんな事を書いたんだ…と書かれていたので、読み終えた美智子はまあ!と呆れる。

翌朝7時半に目覚めた洋子の方はノートなどをチェックしながら、あなたの面影~♩と「朝のくちづけ」を歌い出す。

歯磨きをしながら歌っていると、起きて来たばかりの子供たちが「朝のくちづけ」を歌い始めたので、君たち、こんな大人っぽい歌歌っちゃダメよと洋子は注意する。

すると、子供の1人が、ふ~ん、じゃあ先生大人か?と聞いて来たので、当たり前よ、私はもう立派な大人よと洋子が答えると、子供たちはおもしろそうに笑い出したので、全く嫌らしい子たちなんだから…と洋子が呆れていた時、保母さんが牛乳を入れたかごを下げてやって来たので、子供たちは一斉に逃げ出す。

お願いしますと洋子が保母さんに会釈をし洗面所へ向かうと、保母さんはテーブルに牛乳瓶を並べ始めるが、目を離した隙に1人の子が牛乳瓶を持ってバイバイ!と言い残して逃げたので、こら、ゆう!今日は許さないからね!と保母さんは怒る。

その日も五人組は、学校にやって来た男子学生たちに、洋子と美智子のスケジュール表を売りつけていた。

儲かったな…と喜びながら人気のない所にやって来た5人組は、北川が取り出したその朝集めた金を見て、やっぱり頭の問題だよ!と秀幸はノートをつけながら得意がる。

その日の昼、食堂では、すみません、混み合いますので…と客に詫びていた主人が、ずっと席に座ったままの我孫子ら学生2人に気付き、すんだら立ってもらえないでしょうか?他のお客さんも待ってる事だし…と注意すると、俺、ざる追加!俺も!と追加注文した2人は腕時計を見ながら遅いな~と愚痴る。

そして、おい、あの5人組、この店からいくらかもらっているのと違うかな~?そうかもよ…などと疑い出す。

しかし当の美智子と洋子は今川焼を買って店を出ていた。

どうもありがとう、子供たちが喜ぶわと洋子が礼を言うと、良いのよ、そんな事…、あ、これは私たちの分よと言いながら、洋子が抱えていた包みの半分を美智子が取り上げたので、えっ!と洋子は驚く。

いくつ食べる?と美智子が聞くと、そうね、5つくらいかな?と洋子が答えるので、温かくて美味しそうよと美智子は言う。

その時美智子は、目の前の電柱の前に阿部が立って待ち受けているのに気付き、早く行こう!何でもないと洋子を急かし逆方向へ向かう。

美智子と一緒に物陰に隠れた洋子は、阿部君がラブレター!と驚く。

そう!と美智子が肯定したので、それは事件よと洋子は指摘し、そうでしょう?困るのよ、私、これからだって色々経験したいでしょう?と美智子は言いながらその場に座って今川焼を食べ始める。

でもそれはちょっと欲張り過ぎじゃないの?と言いながら、洋子も美智子の分の今川焼を食べ始める。

そうかしら?でも彼と会うといつも喧嘩ばかりしてるのよ、これが恋人同士って言える?…と言いながら美智子は包みを取り返しながら言う。

そういうもんなのよ、それが恋人同士の始まりなのよと答えながら洋子は又美智子の今川焼の包みを奪い取る。

無責任ね…と美智子が膨れると、ねえ、それより今日は私の相談乗ってくれるってやj句即じゃない!と洋子が言い出す。

そうそう、今日は洋子の悩みを聞いてあげるんだったわよねと美智子が思い出すと、悩みじゃないのよ、危機なのよと洋子は訂正して来る。

危機?それは大変だわ!相手は誰?と美智子が驚いて聞いて来たので、勘違いしないでよ、危機って言うのはね、学園の経営の事なの…と洋子は打ち明ける。

何だ、花村学園か…と美智子が安堵すると、巧く行ってないのよ、何しろ園長さんが素人でしょう?と洋子が話しかけた時、シャッター音が聞こえたので振り向いた洋子は、奴らよと言い出す。

一度とっちめなくちゃ!と美智子も洋子と顔を見合わせて頷く。 1、2、3!それ~!と合図をし2人が立ち上がって背後に隠れていた写真部5人組を追いかけたので、やばい!と気付いたカメラを持っていた小橋を始め5人組は一斉に逃げ出す。

洋子が逃げていた北川の足を引っかけ転ばした所に美智子も駆けつけ、2人して北川を捕まえる。

北川は、僕、何にも知らないですよと抵抗するが、女2人掛かりなので逃げ出せなかった。

さあ、みんな!ネタは上がってるのよと北川を人質に写真部の部室にやって来た2人は、慌てて隠れた他の4人に向かって言い放つ。

何とか言いなさいよ!と洋子が机の下に隠れていた小橋を引っ張り出して聞き、何ですか?と小橋がとぼけると、今日はいくら売上があったの?と美智子が中村に問いつめる。

何の話だろうな~?と中村が答えると、とぼけないでよ!1度皆さんとゆっくりお話がしたかったのと洋子は宣言する。

隠れていた俊夫が、おい白状しちゃえよと促し、そうそう、その方が男らしいわよと洋子も諭したので、英幸は諦めたかのようにノートを尻の下から抜いて差し出す。

そのノートを見た美智子は、まあ!凄い売上じゃないと5人組を睨みつける。

そして部屋の隅に向かった洋子と美智子はひそひそ話を始める。 話終えた2人は部屋の中央に戻って来て、ねえちょっと、私たちと契約しない?と洋子が切り出す。

え、契約?と英幸が驚くと、そうよ、ビジネスの…と腕組みをした洋子が答え、歩合を決めるのよ、私たちと…と美智子が補足する。

協力するわよ何でも…、写真のモデルからスケジュールの状況提供まで…、どう?と洋子が提案すると、良い話だな~と北川が乗り気になったので、横から小橋がおい!と頭をこづく。

一体どんくらいの歩合で?五分五分?じゃあ四分六!と英幸が聞くと、七三ねと美智子が答えたので、そりゃ厳しいよ!と小橋は抵抗するが、いやなら良いのよ、止めるわよ…と洋子が脅して来たので、とんでもない、やりましょ、やりましょ!はい、やりましょう!と英幸は揉み手をしながら笑顔で応える。

その後、洋子と美智子は近くの林の中でポーズを取り合い、写真のモデルの仕事を始める。

レフ版を持っている北川の首から下がったカメラ紐を引っ張って来いよと言いながら移動していた中村が、ちょっとオーバーじゃない?と俊夫に話しかけると、こいつらこれで協力しているつもりなんだからさ、調子に乗っているうちにガンガン撮っちゃおうぜと俊夫は答える。

英幸も小橋たちから、大丈夫?などと文句を言われながらも、はい、アップで一枚!などと笑顔で2人にカメラを向ける。

少し遠慮しろよ!と北川が英幸のスタンドプレイを止めようとするが、うるせえな!と英幸ははね除け、中村も、だけどさ、こうも協力的だとかえってやりづらいねなどとぼやいてみせる。

その内、カメラマンとモデルの立場が逆転し、5人組の方がハンドバッグを持ってポーズを取り、洋子と美智子がカメラで散っていたので、あれ?これどうなっちゃってるの?知らねえよ!と5人組は呟く。 たくさんのお土産を持って孤児院に帰って来た洋子を見て子供たちは大喜びする。

土産を取り合って子供たちが騒いでいるのを聞きつけた保母さんが、まあ、どうしたんですか?先生とやって来たので、お土産なのよと洋子が答えると、いいえ、お金はどうしたんですか?と言うので、アルバイトしたの、モデルしたのと洋子が言うと、モデル?まさか~!と保母さんが驚くので、私がヌードになるわけないじゃないの~と洋子は言うと、それもそうですねと保母さんは納得し笑い出す。

釣られて洋子も笑っていたが、バカにされている事に気付き保母さんを睨む。

一方帰宅した美智子の方は外国のペンパルたちに返事を書くため、何種類もの辞書を引きまくっていた。

そして地球儀やカレンダーを確認しながら何事かを焦っていた。

決心したかのように深呼吸をした美智子は洋子に電話をし、とにかく一大事なのよ、聞いて頂戴と切り出す。

外国で写った宮原咸太郎 (中山仁)の写真。 …と言う訳でヨーロッパ一周を変更して日本へ行くことにしました、一週間後には着けるだろう、僕はもう手紙だけでは我慢できなくなったのかもしれません、是非君に会いたいと言う情熱的な手紙を翌日学校で美智子から渡され読んだ洋子は、へえ、熱烈ね、どうするの?と聞くと、会うべきか会わざるべきか?と千枝子が言うので、どっかで聞いた事があるセリフねと洋子が言うと、茶化さないでよ!と千恵子は怒る。

絶対に会うべきよと洋子が助言すると、そう簡単に言わないで…と美智子が及び腰なので、だって美智子の主義では何でも経験してやろうでしょう?と洋子は指摘する。

そりゃそうだけどさ…と美智子が答えていると、ねえ、何だか私たち監視されているみたいね?と男子学生たちの様子を振り返った洋子が言い出す。

人に知られちゃまずいわ、行こう…と美智子は誘う。

今日こそ会えるんだね?おい、もう時間だぜ、本当に来るのかよ!と例のファンの学生を含め、洋子と美智子ファンの学生たちが教室で5人組に詰め寄っていた。

必ず来ますよと俊夫や英幸たちは答えていたが、おい、詐欺だぜこれは!と別の学生が5人組から買ったスケジュール表を突き出して詰め寄る。

その時始業を知らせるベルが鳴り響いたので、全員席に座って授業の始まるのを待つが、洋子と美智子がやって来ないので、おかしいな?と英幸は首を傾げていた。

その頃美智子は、ね、洋子、困った事が1つだけあるのと喫茶店で洋子に話していた。

何?と洋子が聞くと、会うとしてもそこに問題があるのよと美智子は言う。

問題?と洋子が戸惑うと、阿部君よと美智子は答える。

そうね、彼がこの事を知ったらただじゃ置かないわよ、ゲバ棒かなんか振り回すんじゃない?と洋子はからかう。

脅かさないでよ、彼単純だから何をするか分からないわよと美智子は真剣なまなざしで言う。

ナンセンス!我々は断固として阻止する!と洋子が阿部の口癖を真似て笑うと、止してよ…、だから洋子に頼んでるんじゃない!と美智子はうんざりしたように言うので、何を?と聞くと、阿部君を預かって欲しいのと美智子は切り出す。

阿部君?預かるの?と洋子がきょとんとしていると、そう、洋子の学園子供たちを一杯預かってるでしょう?いやあの子たちは親のない可哀想な子たちを…と洋子が訂正すると、違うのよ、先生って柄じゃないけど、子供たちの遊び相手くらい勤まるわよ、どう?と美智子は言う。

遊び相手ね…、学園もちょうど人手不足だしな〜と洋子が考え込むと、ならグッドタイミングじゃない、彼何故か子供が好きなのよ、そこを巧く利用して!いつから使ってくれる?と美智子が聞くので、ちょっと!気が早いわよと洋子が苦笑すると、当たり前じゃない、時間がないのよ、頼む!と美智子は合掌して頭を下げて来る。

その代わり、後でどうなっても良いの?と洋子が念を押すと、え?それどう言う意味?と美智子は不思議がる。

すると洋子は、さあ…と言うだけで意味有りげに笑う。 その頃、阿部は柔道部で相手から何度も背負い投げをくらい、もう良い!参った!と音を上げていた。

それでも相手は逃げようとする阿部の襟首を捕まえ足払いをかける。 そんな練習風景を美智子と覗いていた洋子は、あれを預かるのね?と念を押す。

着替え終わり、腰を押さえながらイテテ…と言いながら校舎から出て来た阿部に、阿部君!と呼びかけた洋子は、話があるのと声をかける。

俺に?一体何だい、気持悪いな〜…と言いながら近づいた阿部に、どうしたの?びっ○なんか引いて…と洋子が聞くと、ああちょっと…、でもすっきりしたよと阿部は答える。

そんな阿部の左手を自分の肩に乗せ、良いから私に掴まんなさい、あっちへ行くんでしょう?と洋子は言い、自ら甲斐甲斐しくサポートしてやる。

阿部は、何だい?ペースが狂うじゃないかと戸惑うが、実はね、折り入って頼みたい事があるのと洋子は切り出す。

俺にか?と阿部が言うので、美智子にも相談したら、阿部君が一番人間が出来ているし、こう云う事に適任だろうって推薦してくれたの…と洋子は打ち明けると、美智子がか?そうだろう…、で、一体何だい?と阿部はまんざらでもないように答える。

実はね、私がアルバイトしている学園で人手が不足しているのよ、だから知ってる人に手伝ってもらおうと思って…と洋子は説明する。

学園って何だい?と阿部が聞くので、親のない子ばっかりなのよと洋子は明かす。 孤児院か…と阿部は察する。

ただいま!と花村学園に戻って来た用意子に子供たちが集まって来て、こんにちは!と挨拶した阿部を見て、この人誰?と聞いてくる。

この人ね、今日からお手伝いして下さる方!と洋子が紹介すると、宜しくな!と阿部が挨拶するが、子供からは先生とどう言う関係?と聞いて来たので、どう言う関係って、先生のお友達のそのまたお友達…と洋子は答える。

ふ〜ん…と子供たちが納得してないような雰囲気だったので、どうしたの?と聞くと、俺、先生の恋人かと思ったと男の子は言う。

すると女の子が、バカね、先生はこんなひげ面なんか好きじゃないわよと指摘するが、それを聞いた修一(高野浩幸?)が、分からないよ、人は好き好きだから…などとませたことを言うので、洋子と阿部はあっけにとられる。

もう子供たちったらそんな口聞いて!と洋子が怒ると、笑っていた子供たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。

それを洋子が、待ちなさいったら!と言いながら追いかけっこする。

それを見ていた阿部は、どうやらこんなちっさな学園にも現在の教育界全般に於いて討議されるべき問題と大きな矛盾をはらんでいるようだ…と腕組みして考える。

そんな安倍に、どうしたんですか?と保母さんが聞いて来たので、いや別に…と阿部は笑ってごまかす。

その後、阿部を学園の中に連れて来た洋子は、ここが食堂なの、ご飯食べたり、ここで手を洗ったりね…と教える。

TVもあるのよ、そしてここが寝室…と洋子は案内すると、へえ、知らなかったな、君がこんなことしているなんて…、見直したよと阿部は感心する。

それを聞いた洋子は嬉しそうに、どうぞおかまいなくと答え、そうだわ、阿部さんも今日からここで御泊まりになったら?ねえ、みんな?と言い出す。 子供たちは嬉しそうに安倍に抱きついて来る。

そんな子供たちを払い除けようとした保母さんは洋子を食堂に呼ぶと、良いのかい洋子さん?と聞いて来たので、何が?と洋子が聞き返すと、男の人を泊めてですよ!と保母は言う。 良くはないけどさ、仕方ないのよと洋子は言う。

仕方ない?と保母が不思議がると、そう、彼、美智子からの預かりものなんだと洋子は言うので、預かりもの?と保母さんは更に困惑する。

そう、彼、美智子の恋人なのよと洋子はテーブル上の片付けものをしながら明かす。

その美智子ね、今度ブラジルから大金持ちのペンフレンドがやって来る訳よ、そのペンフレンドが日本にいる間だけ彼に邪魔されたくないとこう云う訳…と洋子が説明すると、預かったり預けたり…、まるで小荷物扱いですねと保母は呆れるが洋子は楽しそうだった。

でもうちは子供たちたくさん預かってるし、別に変わりはないと思うのよ、それに手不足だし…ちょうど良いと思ってと洋子が言うと、そりゃそうですがね〜、まあ洋子さんが引き受けたんなら私は何も言う事ありませんがね〜と保母さんは引き下がるので、そう言う訳ですので、宜しくご協力のほどを…と洋子は言葉をかける。

はいはい、何だか良く分からないけど、ご協力しましょうと答えた保母は、じゃあ私はこれで…と言って帰って行く。 お休みなさい、あ、一夫さんに宜しくね!と声をかけ、洋子は帰って行く保母を見送る。

夕暮れの食堂に1人残った洋子は、青い月夜の〜♩と「浜千鳥」を歌い出す。

いつしかそれに聞き入っている子供たちと阿部。

子供たちが拍手をすると、今度は何歌おうかな?「月の砂漠」?それとも「七つの子」?と電灯をつけながら洋子が聞くと、もいやだよ、もっと大人の歌!と男の子がリクエストする。

どんな歌?と洋子が聞くと、知らなかったの、愛したら…なんかだよと言うので、まあ!と呆れた洋子だったが、立ち上がって「知らなかったの」を歌い出す。

その頃、自宅にいた美智子は何かに悩んで落ち着けないでいた。

どうしても気になった美智子は洋子に電話をかけ、ねえ洋子、一体どうなってるの?巧く行ってるの?報告くらいしてくれたって良いでしょう!と詰め寄る。

花村学園の寝室では、子供たちが阿部と一緒に「小指の思い出」を歌っていた。

大丈夫よ、巧く行ってるから、大丈夫と電話口で洋子が答えると、そう?それなら委員だけど、だけどちょっと行き過ぎじゃないかしら!と美智子は電話口から聞こえて来る阿部と子供たちの歌を聴きながら膨れてみせる。

夜中、疲れて眠った子供たちの布団を直してやった洋子は、毛むくじゃらの阿部の足も直そうとしたので、驚いた阿部が起きて、僕やりますから!と言うので、良いです、とてもその格好じゃ…と洋子は答え、譲り合いになる。

そして、一郎ちゃん、おしっこの時間よと声をかけた洋子は、この子ね、今の時間に起こさないとおしっこしちゃうんですと安倍に教える。

おしっこ!そりゃ大変だと良いながら一郎を抱き上げた阿部は、僕がやって来ますと言い残しトイレに連れて行く。

そんな阿部の奮闘振りを思い出しながら、嬉しそうに洋子は布団に入る。

翌朝、保母さんが子供たちに、みんな、お掃除ですよ〜!と呼びかけていた。

洋子も出掛ける準備をして出て来るが、阿部はパンツにランニングと言う下着姿のまま現れたので子供たちは笑うが、恥ずかしがりながらもお早うございますと阿部は挨拶する。

登校する阿部の表情はにこやかなので、それを草影から観察していた美智子は驚く。

あ、いたよ、ほら!と良いながらやって来たのは写真部の5人組だったので、お早う!と美智子は声をかけるが、おは用はないでしょう?困るよ、約束守ってくれなくちゃ!と小橋が文句を言うと、あれ止めたわと美智子が言うので、止めた!今更そんなこと言わないでくれよと俊夫が文句を言う。

そうですよ、僕たちそんな怒ってないんだからと北川も説得するが、事情が変わったのよと美智子は阿部の方に気を取られながら答えるが、その内、そうだわ…と何か思いつき、君たちに相談があるのと言い出す。

相談?と驚く5人組に、ここじゃまずいからちょっと来てと呼びかけた美智子は、小橋の手を引いて物陰に来ると、ねえねえ洋子がね、ピンチなのよと言う。

これ内緒だったんだけど、洋子、孤児院の先生やっているのと打ち明けた美智子は、今泊まり込みで阿部君がその手助けをしてるのよと言うので、5人はえっ!と驚く。

彼1人で?ヤバいよ、そりゃ〜と5人組が言うので、そうでしょう?でも止めろって言えないのよと美智子は言う。

彼は親切でやっているんだし、何しろ人手不足なのと説明すると、なるほどね…と5人も薄々事情を察して来る。

そんな5人組に、どうするみんな?放っとけないでしょう?と美智子は焚き付ける。

その後、各自楽器を片手にタクシーで花村学園に乗り付けた5人組は、庭先で遊んでいた洋子と子供たちの前にやって来ると、「バラの恋人」を歌い出す。

そこにやって来たのが安倍だった。 フルートを吹いていた北川が又歌い出すが、その歌の分から1人はずれていた修一が、お兄ちゃん、どうしたんだよ?と修一が近づいて来たので、何だ修二君、みんなと遊ばないのか?と阿部は聞く。

俺、歌ってあんまり好きじゃないんだと修一が言うので、それによ、あいつらてんで調子良いんだぜ、先生の言う事なら何でもはいはい言ってよ、お兄ちゃん、あいつらと同じ大学か?と修二は聞いて来る。

ああ、大学はでかいからな、色んな奴がいるんだよと阿部は修二の頭をなでながら答え、さ、修二、お前もあそこ行って遊んで来いと勧め、自分は帰ろうとしたので、それに気付いた洋子が、阿部君!ねえどうしたの?と呼びかけながら後を追う。

ちょっと待ってよ、どこ行くの?と洋子が帰りかけていた阿部を止めると、いや、煙草会に行くんだよと阿部は答えるが、嘘つき!帰るつもりだったんでしょう?と洋子は言い当てる。

せっかく子供たちも慣れたって言うのに〜と洋子は言い、ひねくれもん!と叱る。

その時、お兄ちゃん、どこ行くの?と女の子2人が入り口の所から聞いて来て、お兄ちゃん、行こうよと近づいて来て手を引いて来たので、そのまま阿部は抵抗せずに学園に戻る。

門を閉めた洋子は、美智子、世話が焼けるわよ…と心の中でぼやく。

そんな洋子とは裏腹に、美智子は宮原に会うための衣装選びを母親と一緒にしていた。

そんな美智子を案じた母親が、ねえ1人で迎えに行くの?と聞くので、そうよ、だって彼、私を訪ねてわざわざ日本に来るんだもんと美智子が答える。

その人、お金持ちのプレイボーイなんでしょう?と母親が聞くと、そう!と言うので、外国のプレイボーイってどん何だか知ってるの?と母親は詰め寄る。

知ってるわよと美智子が答えると、お母さんはね、若い娘が1人で外国の男の人に会うなんてのはね反対ですよ!と母親が迫る。

どうして?もったいないんじゃない?せっかく研究できるって言うのに…と美智子があっけらかんと答えると、日本にだって立派な男性はいますよと母親は説得しようとする。

すると美智子は、ダメねママは、日本の女性もこのちっぽけな島に埋没していた時代は過ぎたのよと壁に貼った地図を指しながら言うと、もっと視野を世界に向けて世界中の男性と交際すべきよ!と主張する。

交際するべきなんて…と母親は心配するが、それがチャンスだと思うわと美智子は譲らなかった。

でもね美智子!と母親が更に何か言おうとすると、ママ!美智子を信じて頂戴、ママの娘なんだから…と言い、やっぱりこれにするわと、最初に派手すぎると却下したはずの赤いジャケットを羽織ってみる。

一方、花村学園では5人組も泊まると言い出したため、阿部は、とにかく俺は遊戯室で寝る!と言い張っていた。

先輩!阿部さん!と5人組が呼び止めていると、どうしたの?と洋子がやって来て事情を聞く。

寝る所ないんだよと英幸がぼやき、とにかく無理しちゃってね、5人でしょう?と中村が言うので、だから俺があっちで寝るって言ってるじゃないかよと阿部が言い返すと、ダメよ、阿部さんは大事な預かりものなんだからと洋子が止めたので、預かりもの?と5人組は不思議がる。

とにかくね、寝る所がないんだったら私の所に寝てもらいますと洋子が言い出したので5人組は仰天する。

遠慮しなくたって良いのよ、私の事だったら心配しないでと洋子が言うので、心配しないでって、心配だよな〜と英幸らは騒ぎ出す。

そして、さ、私と早くいらっしゃいと洋子が阿部を連れて行くので、俊夫は安倍に、僕、床で寝ても良いですからなどと話しかけるが、何してるのよ、じゃまじゃま!と洋子は言って阿部を連れて行ったので、残された5人組はあっけにとられながらも、良いな〜とうらやましがる。

阿部は洋子の部屋のつい立ての反対側のソファに寝るように指示されるが、つい立て1枚隔てて隣りのベッドで寝ている洋子の事が気になって、なかなか阿部は寝付けなかった。

隣りの寝室では、阿部と洋子の事が気になる中村が急に「すべてを捧げて」を歌い出したので、眠い他のメンバー達も起きて付き合ってやるが、回りの子供たちも目が覚め、口をぽかんと開けて中村の歌を聞く。

しかし中村は歌いながらベッドに横になったので、他のメンバー達もそのままベッドに入る。

翌日、赤い上下の服を来た美智子は、通りかかったタクシーを止め、横浜まで言ってくれると頼む。

運転手の小泉(有島一郎)は、ええ良いですよと答たので、お願いと言いながら美智子は乗り込みタクシーは走り出す。

お嬢さん、恋人のお出迎えですか?と小泉が声をかけて来たので、それが私にも良く分からないの…と美智子が首を傾げたので、お嬢さん、何か迷ってますねと小泉は指摘する。

私の顔そんな風に見える?と美智子が聞くと、ええ、何しろあっしはこの道じゃ20年選手でしてね、しかも若い娘さん専門に乗せて来てるんだと小泉が言うので、どうして?と聞くと、どうしてって、あっしの趣味でしてね、何しろ1坪足らずとは言え、この車の中は密室でしょうが?どうせ1つの部屋にいるんなら若い娘さんの方が楽しいじゃありませんかと小泉は笑って答える。

そんなもんかしら?と美智子は言うと、ええ、そんなもんですよ、ごついあんちゃんに睨まれているよりよっぽど楽しいですよと小泉は言う。

横浜港に着いたので、車を降りた美智子に釣り銭を渡した小泉だったが、歩き始めてすぐ立ち止まった美智子に、お嬢さん、どうかしたんですか?と声を掛けると、何でもないわよと美智子は答える。

それでも歩きながら迷い続けていた美智子の横に、小泉がタクシーを横付けし、お嬢さん、本当に大丈夫ですか?と聞いて来る。

すると美智子はあなたに関係ないでしょう!と怒って去って行く。

外国船から降りて来た外国人の姿が見える。

その中を歩く美智子は写真を頼りに宮原を探し始めるが、なかなか見つけられないので何度も帰ろうとするが、思い直して又探すと言う繰り返し。

その時、同じように写真を見ながら、美智子さん!美智子さんでしょう?と呼びかけて来た宮原に気付く。

はい!と答えると、宮原です!やあ、会いたかったですよ!と言いながら近づいて来た宮原がいきなりハグしてきたので、怯えた美智子は思わず、お母さん!と呼びかける。

その頃、子供たちと海辺で遊んでいた保母は、洋子さん、今日の阿部さん、何だか元気ないわよと話しかけて来たので、堤防の下でうずくまっていた阿部の隣に座った洋子は、どうしたの?阿部君…と聞いて見る。

どうもしないよと阿部が言うので、元気がないみたいと洋子が指摘すると、そんな事ないさ…と言いながら阿部が苦笑しながら堤防に背を持たせかける。

そうかな〜?いつもの阿部君らしくないわよと言いながら洋子もその隣にもたれかかる。

すると、俺な、子供たちがうらやましいんだよと阿部は言い出す。

どうして?と聞くと、君みたいな良い先生がいるし、こうやって海にでも連れて来てもらえるし、孤児ってもっと暗いもんじゃないのかな〜…、でもこの子供たちにはそんな事ちっともないんだ!などと阿部は言う。

それを聞いていた洋子は、実はね、昨日阿部君の留守中に園長先生が来たの…と打ち明ける。

園長先生?と阿部が聞くと、うん…と洋子が答えるので、それで?と先を促すと、困った事になっちゃったのよと洋子は明かす。

園長先生ったら事業に失敗した穴埋めにこの学園を手放そうとしているのと洋子は言う。

(回想)保母さんと話していた園長(松本染升)は、子供を連れて戻って来た洋子が聞いて立ち止まると、やあ洋子君!と笑顔で話しかけて来る。

園長先生が手を引かれても私子供たちのためにがんばるつもりです!と洋子は言い張る。

その気持は嬉しいが、犠牲はいかん、若い女性の犠牲は将来を不幸にすると園長が言うので、私のことなら構いません!と洋子は我を張るが、君はまだ若い、一時的な理想や勘定は現実に対して何の役にも立たんと言う場合も世の中にはあるんだ…と園長は言い聞かす。

そんなの…、そんなの卑怯です!と洋子が園長に詰め寄るので、洋子さん!と保母さんが止めようとするが、私、園長先生みたいな人嫌いです、どんなに辛くても哀しくても逃げ出すような人は大嫌いです!と洋子は責め、部屋の隅に駆け寄って泣き出す。

そんな洋子の側に来た保母さんが、洋子さん、私が話します、あなたはあっちへ行ってて…と説得する。

しかし洋子は、そりゃあ中には憎たらしい子もいるわ、だけど私、あの子たちと別れるなんて絶対にいや!と拒否する。

でも私一生ここを動かないわよと洋子は言い張り、私だけの力でどうしてもダメだと言うんなら、この学園を理解してくれる男の人を探して、その人と結婚します、そしてその人といつまでも学園を続けて行きますと保母に言う。

そんな人いるの?と保母が聞くと、まだだけど…、でもどうでも良いじゃないそんな事!と洋子は言い返す。

(回想明け)変な事しゃべっちゃった、ごめんなさいと洋子は安倍に詫び、阿部君は小さい頃何してたの?と話を変える。

すると阿部は、あの子供たちと一緒だよ、良心がいないんだと言い出す。

それを聞いた洋子は黙り込むが、でも俺そういう風に見えないだろう?と阿部が言うので、うんと答える。

なぁ?学園を建て直すために俺何でも協力するよ、だからがんばれよ!と阿部は励ます。

その言葉で少し元気が出て来た洋子は「潮風の二人」を砂浜で歌い出す。 その頃、美智子の方は咲き乱れるツツジを前に嬉しそうに話しかけて来る宮原の相手をしていたが、少しも笑顔はなかった。

阿部もいつしか海に入り元気を取り戻していたが、代々木体育館の前にやって来て宮原と記念写真を撮る美智子の方の表情は冴えないままだった。

自分の大きな旅行用トランクに座るように勧めた宮原は、自分もトランクに股がり、随分おとなしいですねと話しかけて来る。

はあ…と美智子が頷くと、手紙の印象とは大分違うなと宮原が言うので、そうですか…と答えると、もっと男の子みたいに活発な人かと思ってましたよと宮原は言う。

あなたの手紙によればブラジルに来てアマゾンの原住民と猛獣狩りの競争をするのが夢だと…と言うので、そんな事書いてありました?と美智子が驚いたように聞き返すので、忘れたんですか?僕はちゃんと覚えてますよと宮原は言う。

はあ…と美智子が恐縮すると、でも女の子は優しい方が良いなと宮原は言うので、そうですか?と聞くと、そりゃそうですよと宮原は言う。

あの…、私そろそろ家に帰らないと…と体育館の横を歩いていた美智子が言い出すと、どうしてですか?もっともっと東京を案内してくれる約束じゃなかったんですか?確か手紙にはそう書いてあったけどな?と宮原は戸惑う。

ええ…、でも荷物も重いでしょうし…と美智子が宮原が抱えている大きなバッグの事で言い訳をすると、僕は平気ですよ、疲れてなんかいませんと宮原は笑いかける。

ああ、美智子さんこそ疲れたんですね?と察した宮原は、それじゃあと言いながら、いきなりお姫だっこをして来る。

あの私1つだけお聞きしたい事があるんですけど?と美智子が言うと、何ですか?と宮原が聞くので、私の手紙どう思いました?と美智子は聞いてみる。

どうって?と宮原が聞くので、つまり…、信用しました?と美智子が聞くと、おかしな質問ですね、信用したから僕は日本に来たんですと宮原は即答する。

ごめんなさいと美智子が詫びると、何故謝るんですか?と宮原は不思議そうに聞いて来る。

本当の事言うと、私、ああ言う手紙世界中に送っているんですと美智子は明かす。

別にいたずら半分じゃないんですけど…と美智子が言い訳すると、僕が本当に日本にやって来たんで驚いてるんですね?と宮原は察する。

すると美智子は、ええ…、今朝家を出るまで平気だったんですけど…、横浜へ行ってから今まで身体が震えっぱなしで…と言うので、笑い出した宮原は、僕がそんな悪い男に見えますかと聞く。

いいえ、そんなんじゃないんですけど…と美智子は否定するが、分かりました、美智子さん、恋人がいますね?と宮原は聞いて来たので、えっ!と美智子は驚く。

クラブにやって来た宮原は、店にあったボンゴを叩くと、ブラジルはサンバの国なんです、リオのカーニバルは1週間ぶっ続けで町中で踊るんですよ、連中は先天的に踊りが好きなんですねと言いながら、戸惑う美智子とダンスを踊ろうとする。

私踊れなくてすいませんと美智子が詫びると、そんな事は構いません、僕にだって日本人の血が流れています、だから純粋なブラジル人みたいには踊れません、あなたと同じですと宮原は言う。

宮原さんが日本人で助かったわ、もし目の色や肌の色が違う人だったら私の複雑な気持説明できませんもの…と美智子が言うと、そんなに複雑だったんですか?と踊りながら宮原は聞いて来る。

ええ、とっても…と美智子が答えると、また恋人の事を考えてますね?一度紹介して欲しいな、どこにいるんです?と宮原は聞いて来る。

今、預けてあるんですと美智子が教えると、預ける?と宮原が驚いたので、ええ、私の一番仲の良い友達に…と美智子は答える。

テーブルに座った宮原は事情を聞き、じゃあ僕が日本に来たために君たちに迷惑をかけたんだね?と笑い出す。

いいえ、すごい焼き餅焼きなんですと美智子が言うと、いやそうじゃない、それが本当なんだと宮原は指摘する。

でもバカバカしい話でしょう?宮原さんから見るとと美智子が聞くと、うらやましいですよ、楽しそうで…と宮原は答える。

そうかな?だって宮原さんみたいなお金持ちなんかもっとスケールの大きな楽しみがたくさんあるでしょう?お手紙にも書いてあったわ、ヨットをたくさん持っていて、シャツの色を変えるたびに使うヨットを替えるんだって…と美智子が聞くと、そんな事書いたかな?と宮原は笑う。

もう忘れたんですか?私覚えてますと美智子が睨むと、僕の手紙信用してますか?と宮原が言うのでそりゃ信用してますわと美智子は答える。 その後2人はフロアでダンスを踊る。

人間お金があるって言うのは決して幸せだってことではないですよと宮原は言うので、それはそうだけど、ないよりあった方が良いでしょう?と美智子が言い返すと、まあ生きたお金が使えれば幸せでしょうけどねと宮原は言う。

そうなされば良いのに…と美智子が言うと、教えてくれますか?と宮原が頼むので、私なんかダメよ、まだ人間としてひよっこなんですもの…と美智子は答える。

それを聞いた宮原は笑い出し、大分元気が出てきましたねと言う。

どうして?と美智子が聞くと、ほら、身体の震えが止まったでしょう?と宮原は言い、2人は笑い合う。

翌日、学校へ行った美智子は、ばったり阿部と出くわす。

ちょっと来いよと美智子の手を取って阿部がその場から別の場所へ移動するので、痛い!離してよ!どこ行くの?と美智子は怯える。

放してったら!痛いじゃない!と文句を言う美智子には何も答えず阿部はずんずん歩き続ける。

みんな見てるでしょう?みっともないじゃない!と散々文句を言う美智子に、良いから来いよ!と阿部は言い、校庭を横切る。

人気のない場所に連れて来られた美智子は、私あんたの話なんか聞きたくないわと毅然として言う。

すると阿部が、俺、全部知ってるよ、俺を水沢君の学園に預けた事も、ブラジルの四世とデートしている事も知ってるんだ!と言う。

でも今はそんな事どっちでも良いんだ、いや、やっぱりそれは良くないよ!と阿部が混乱しているので、落ち着けよ、一体何が言いたいの?と美智子が言い聞かすと、そうだな、今個人感情なんか言ってる場合じゃないんだ、な?水沢君の学園が危ないんだと阿部が伝えると、ああ知ってるわと美智子は言う。

子供たちは明日からの食事にさえ困ってるんだよと阿部は続けると、そんなに?とさすがに美智子も驚く。

3日前、園長が1万円持って来たけど、それで一体何日食べていけると思う?今月後2週間もあるんだ!と阿部は訴える。

それで何をしろと言うの?と美智子が問いかけると、音楽会だよ、音楽会をすれば必ず集まるだろう?君と水沢君が出てくれれば成功間違いなしだと阿部は提案する。

私と洋子が?と美智子が驚くと、そうさ、君と水沢君は学院の人気者だからなと阿部は言うので、おだてないでよと美智子は睨みつける。

な、頼むよ!良いだろう?と阿部は美智子の両手を掴んで頼む。

良いわ、でも阿部君のためじゃなくて子供たちのためによと美智子が承知したので、阿部は微笑み、そんな事はどっちでも良いさ、とにかく礼だけ言っとくよ、ありがとうと頭を下げると去って行く。

美智子は何となくすっきりしない表情で立ちすくむ。

孤児救済慈善音楽会の手作りポスターが出来上がり、そこには洋子と美智子の写真も貼ってあった。

良いか、ポスターは最低50枚、プロマイドは200枚、これがバカにならない収入になるんだな、君たちは大分経験があるんだろう?宜しく頼む!と写真部に来た阿部は5人組に依頼して帰る。

やけに張り切ってるんだな、あいつはすぐに熱中できるんだよと部室に残った5人組は阿部の事をうらやむ。

麻雀屋にいたファンの学生たちに音楽会のチケットを売りに来た5人組だったが、流行歌じゃないとダメだよなどと乗り気ではなかった学生たちも、ポスターが貼られたのを見ると、おいおい音楽会ってこれかよと興味を持ち急に買うと言い出す。

大学内の掲示板にもポスターが何枚も貼られ、学生たちの注意を惹き付ける。

青社評の仲間たちをチケット販売に協力してくれる。

そんな中、美智子は洋子に、私何だか怖くなっちゃったと漏らしたので、どうして?と洋子が聞くと、だって切符どんどん売れてるんでしょう?と美智子は言う。

そうらしいわね、だって阿部君一生懸命だもんと洋子は言う。

お金たくさん集まってるのねと美智子が呟くと、そうよ…と洋子は答えるので、良いのかな〜と美智子は不安がる。

何が?と洋子が聞くと、だって私たち詐欺じゃないかしら…と美智子は指摘する。

どうして?と洋子が聞くと、そんなに私たちって魅力ある?と美智子は問いかける。

他人からお金を集めるだけの魅力があると思う?と美智子は言うので、そう言われると私も弱っちゃうな…と洋子も言葉に詰まる。

今まで何となくモテてるような錯覚してたけど、実はこの学校の男の子たちの単なるマスコットに過ぎなかったんじゃないのかしら?と美智子は言う。

男の方が多いんで自然現象的に私たちは彼らの精神的慰めの小道具になっちゃったんじゃないのかな?私はそんなに嫌だわ!阿部君はそれを承知で私たちを利用したのよ!と美智子が言い出したので、ちょっと待ってよ!と洋子は遮る。

あなた阿部君の事、本当は好きなの?嫌いなの?それともどっちでも良いの?と洋子は問いかける。

どうして?と美智子が聞くと、どうしてって、あなた彼の事を少し悪く言い過ぎるわよと洋子は言う。

良いじゃない、本当に悪いんだもん…と美智子が言うので、それ本心?と洋子は問いつめると美智子は黙り込む。

意地張ってるんじゃないの?と洋子は畳み掛ける。 そんな事ないわよ!と美智子は否定するが、そうかな?と洋子が疑問を投げかけると、洋子こそおかしいわよ、そんな事気にして!と美智子が言い返す。

あらどうして?と洋子が聞くと、だって近頃阿部君全然変わっちゃったんだもん、洋子に預けてから…と美智子は言うので、だから言ったじゃない、あの時、預かったら、私、どうなっても知らないわよって…と洋子は答える。

すると美智子は、良いわよ、どうなったって…、でも今の私の気持としては例え相手が阿部君でも、他人に軽蔑されながら利用されるのは嫌なの!と美智子は言い張る。

でも誤解しないで、私は洋子の学園の子供たちを助けたいって気持は誰にも負けないつもりよ、ただもっと納得のいく、誰にでも喜ばれるような方法でやりたいのよ!と美智子は主張する。

そりゃ私だってその気持よ、だけどそんな方法ってあるのかしら?と洋子は言い返すと、1つだけあるの…と美智子は言う。

「恵まれない子供たちに愛の手を」と看板が出た音楽祭が始まり、男子学生たちが席を埋め尽くしていた。

会場内には青社評の赤ヘルをかぶった女性闘士らも座っていた。 美智子はステージ衣装に着替え、阿部や英幸らがチケットの確認をしている最中の楽屋裏でそわそわしていた。

そこに、準備OK、そろそろ時間だけど、凄いんだよ、やっぱり2人の人気は凄いよ…などと言いながら北川らが駆け込んで来る。

その時美智子は洋子に、私やっぱり出掛けて来るわと話しかける。

どこに?と洋子が聞くと、ブラジル4世よと美智子は言うので、何よ今になって!と洋子は呆れる。

彼今日の船で帰ってしまうのと美智子が言うので、仕方がないじゃない、諦めなさいって!と洋子は言い聞かすが、誤解しないでよ、みんなが喜ぶ方法はこれしかないのと美智子は訴える。

ああ…と洋子が納得すると、後はお願い、頼んだわよ!と言い残し、美智子は出て行ってしまう。

おい、ちょっと待てったら!と阿部は驚いて後を追おうとするので、違うのよ!と洋子は叫んで阿部の後を追う。

ステージ衣装のまま大通りに走り出た美智子はタクシーを停めようとする。

一方、洋子の方も美智子の後を追う阿部の後を、ちょっと待ってよ!違うのよ、ねえ阿部君!待って!と追いかける。

美智子はようやくタクシーを停め、プリンスホテルまで行って!と頼む。

どうしたんですか?顔色変えて…と聞いて来た運転手はあの小泉だった。 あら?この間の運転手さん、急いでね!と美智子も気付いて身を乗り出すと、まるで恋人に逃げられたような顔してますねと小泉は苦笑する。

そうじゃないのよ、お金持ちを助けに行くのよ!と美智子は言う。 え?どう言う意味ですか?と小泉が聞くと、生きたお金の使い方を教えてあげるのと美智子は答える。

はあ…?事情は良く分からないが、あんたはしっかりしてるが、相当変わった娘さんらしいねと小泉が笑うと、おじさんも若い娘を乗せて鼻の下を延ばしているエッチな人じゃなさそうねと京子も褒め返したので、喜びかけた小泉はええ!と驚く。

やがてタクシーは赤坂プリンスホテルの前に到着する。

タクシーを降り、受付(左とん平)に、すみません、ブラジルから来た宮原さんは何号室ですか?と聞いた美智子に、23号室ですと受付は答えるが、ありがとう!と言って立ち去る美智子に、あ、ちょっと!ネグリジェじゃ困るんですがね!と呼び止めようとする。

その直後、タクシーで阿部と洋子もプリンスホテルにやって来る。

23号室をノックすると、イエス!と中から声が聞こえたので、失礼します!と言いながら入ると、帰りの準備をしていた宮原が、美智子さん!どうしたんですか、その格好は?と驚く。

で、お金を寄付していただきたいんですと訴える。

寄付って何ですか?と言いながら宮原が近づいて来たので、寄付って…、分からないんですか?と松原は戸惑うと、ええ分かりませんと宮原は言う。

寄付って何って言うんだっけ?じれったい!寄付…、寄付!と美智子が英語を思い出そうと焦れている時、寄付って言うのはね、英語でコントリビュート!と駆け込んで来た阿部が教える。

ああ、コントリビュート!分かりましたと宮原は了解するが、あなた誰ですか?と聞くので、僕は美智子君の友達で阿部って言うんですと阿部が自己紹介すると、私洋子ですと洋子も答える。

あなたがブラジルから来たって言う男ですね?と阿部が詰め寄ると、ええそうです、宮原ですと宮原は笑顔で答え、お二人とも話はうかがってましたと言う。

何をうかがったか知らないが変な真似はしないで欲しいんですよと阿部は向きになる。

阿部君!と美智子が呼びかけると、君の考えてる事は全部分かってるんだ!君は僕への当てつけで金持ちの所から金を出させようとしてるんだろう?そうだろう!と美智子に迫り、大体君も君だよ!と阿部は宮原につっかかったので、興奮しないでゆっくりお話ししましょうよと洋子が仲裁に入る。

俺は別に興奮なんかしちゃいないさ、興奮してるじゃない、俺は悔しいんだよ、そうじゃないか、美智子がこんな男から金をせびる女なんて…、大体君を見損なったよ!と阿部は洋子から矛先を美智子に変える。

いい加減にしなさいよと洋子が叱ると、阿部さん、ダメだな、そんな風に考えちゃ、君の恋人は素晴らしいですよと宮原が笑いながら話しかけて来る。

恋人?と阿部は驚く。 ええ、美智子さんがそう言ってましたと宮原は明言する。

じゃあ…、彼女が言ったんですか?僕の事…と阿部が驚きながら聞くと、そうですよ、僕に会っている間中、君の事を心配してましたと宮原は教える。

阿部と美智子は見つめ合い、洋子は寂しげに視線をそらす。

そんな中宮原が、悪いのは僕の方ですよ、いつものように嘘をついて…と言い出す。

嘘?と美智子が驚くと、実は僕は金持ちでも何でもない、本当は貧しい船乗りなんですよ、移民の息子ですと宮原は明かす。

でも僕の夢は一生懸命働いてお金を貯めて、まだ見た事のない祖国へ来る事だった、それも金持ちになった気分でね!と荷造りを続けながら宮原は言う。

美智子さんを騙したのは悪かったけど、決して悪意じゃなかった事だけは信じて下さいと言った宮原は、阿部さん、君の恋人は本当に素晴らしい、僕みたいな男のささやかな夢を叶えてくれたんです、もっと大事にしないといけないな!と阿部に言い聞かせる。

話を聞き終えた美智子は計画が夢に終わった事を知りその場に崩れ落ちる。

その頃音楽会では孤児たちが「どじょっこ ふなっこ」をステージで披露していたので、どうしたんだ?学園祭じゃないぞ!洋子さんはどう下んだよ!と青社評の連中からヤジが飛んでいた。

ガキの歌なんかもう良いぞ!とヤジがうるさくなって来たのを舞台袖で聞いていた5人組は、相談し合って「マーシーマイラブ」を歌い出す。 それを舞台では、歌が嫌いだった修二が中村の歌に口パクで合わせて歌っているような演技をし出す。

何かおかしいぞこれ?インチキじゃねえか?と場内はざわめいていたが、その舞台裏に阿部らと戻って来た洋子が、こうなったら仕方ないわ、力一杯やるだけ…詐欺になんないように…と美智子を励ます。

美智子は、私、正直に言うわ!と決意したので、行こうか?と洋子は呼びかける。

いよいよお目当ての2人がステージに登場すると、待ってました!と声援が飛ぶ。 早くと洋子に促され、皆さん、今日は私たちの音楽会に集まって下さってありがとうございますと京子が挨拶する。

拍手が巻き起こる中、実はお礼と言うより、始めにお詫びをしておきたいんです…とマイクを持った美智子が場内を歩きながら話し出す。

私たちはこの音楽会を開くにあたって1つの問題があったんです、それは孤児院が潰れかかっているってことなんです、私たちは何とかそれを留めようと考えました、その結果この音楽会を開く事になったんです、でもやっぱりお金を取って開くべきではなかったんです、と言うのは、私たちにそれだけの価値があるかどうかって言う事なんです…と美智子は言うと、いや、そんな事ないよ!なあみんな!そうだ、そうだ!と客たちが反論を言い出す。

もっととっても良いぞ!などと言う声まで上がったので、ありがとうございます、それでは入場料を皆さんのカンパとして孤児院に上げても良いんですね?と美智子が聞きと、異議なし!の声と拍手が巻き起こる。

ありがとうございます!と何度も美智子は頭を下げる。

応援団長(内田裕也)が奇声を上げる中、ステージに戻った美智子はがんばってねと言いながらマイクを洋子に渡す。

洋子は「愛するあした」を歌い出す。 舞台裏に戻って来た美智子は考え込んでいたが、そこに近づいて来た阿部が肩をつかみ、誤解して悪かった…と詫びると、美智子は首を横に振る。

そこに八代美智子さん?と呼びかけて来たのはプリンスホテルの受付だった。

ああ、あんた!これ宮原さんから頼まれてきましたと美智子に気付いた受付が手紙を手渡す。

どうしたのかしら?と言いながら封を開けて読んでみると、中貳波手紙と小切手が入っていたので、ああ、凄い大金!と美智子は驚きながら阿部に見せる。

手紙には、快く受け取って下さい、楽しい旅行でした…と書いてあった。

それを読むのを聞いていた受付は、やっぱり違うね金持ちは…と感心するので、だってあの人、ただの船員でしょう?と美智子は驚く。

ご冗談を!ご存じなかったんですか?あの人は有名な金持ちですと受付が言うので、でもそれは嘘だって…と戸惑いながら美智子は阿部を見る。

どっちが嘘ですかね〜、船乗りなら潮の匂いがするでしょう?私は商売の勘でそのくらいは見破れるんですよ、でもあの人は全然潮の匂いがしなかった…と受付は真顔で答える。

それを聞いた美智子は立ち上がり、大変だわ、それでどうしたの宮原さん?と聞くと、3時の飛行機でお発ちになりましたと受付が言うので、ええ!と驚く。

その時、畜生!あのブラジルやろう、カッコいいとこ見せちゃったな…と声がする。

舞台から戻って来た洋子だった。

青空の中を飛んで行く飛行機。

ファンの男子学生と一緒に「愛するあした」を歌う洋子。

中二階席では応援団も肩を組んで唱和していた。

青社評の赤ヘル軍団も歌っていた。 その内全員ステージ上に上がり、写真部5人組や子供も加わって、全員で「愛するあした」を歌う。

洋子の歌うアップにクラクションの音が重なる。

はい、ちょっとすみませんお邪魔します、現代の若い女性に対してどう思いますか?と若い男性たちに街頭インタビューしている。

一般にみんな生意気だしね、男だって人間なんだからね、女は男を人間と思ってないんだよ、飼っている犬みたいにね…と口々に答えがあがる。

そう言いますけどね、でもまあまあじゃないんですかね?と阿部が笑顔で応える。

それを見て微笑む美智子。

上を向いて脱力をしたような洋子は、結局一番損をしたのは私じゃないかしら…とぼやくが、ステージ上手脇でしゃがんでいた洋子に駆け寄って来た男の子が、先生行こうよ!と手を引いて来たので、行こう…と言いながら立ち上がる。

ステージの中央でその男の子をだっこして下手に向かうと、緞帳が降りて来る。


 


 

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