白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

パンク侍、斬られて候

町田康原作の映画化で、クドカン脚本、石井岳龍(石井聰亙)監督としては珍しい時代劇と言う事もあり映画館で見たが、予想通り客の姿はマニア風の若者がぱらぱら入っている他はまばらで、東映配給ながら、かつての時代劇ファンが詰めかけるような昔風の時代劇ではなく、かと言って一般の若者が殺到するような要素も見当たらないし、一定数のマニアがいるジャンルとも思えず、総じてターゲット不鮮明な企画のように感じた。

東映の内部作品ではないと言う事もあってかまともな宣伝もしていなかった部分もあるのだろうが、興行的には目立たぬまま終了した記憶がある。

冒頭の老いた巡礼を斬るシーンなど「大菩薩峠」を連想させたりする部分もあるが、どちらかと言えばコミック時代劇の実写化のような雰囲気で、ナンセンス時代劇と言った方が分かりやすいと思う。

時代劇のセリフに現代のカタカナ用語が混入しているような作りなので内容はハチャメチャ、後半は何やら観念的で作者の自己満足のような世界になっており、そう言うカルトっぽいノリやナンセンスが好きな人には楽しめるが、時代劇と言えばシリアスな物しか受け付けない…と言うような人には、付いて行けない内容だと思う。

個人的にはナンセンス時代劇は大好きなので始まった瞬間からその作風を気に入ったが、見終わった感想はもう一つだったかな?と言うものだった。

出来としてはまずまずだとは思うのだが、ナンセンスとしてはもう一段突き抜けて欲しかったような気がする。

せっかく前半から能天気な展開になっており、クライマックスはかなり大掛かりなシュール世界になっているのに、最後の最後に陰気な人間ドラマが付け加えられており、それまでの明るさ、バカバカしさと互いに効果を相殺しているように見えなくもない。

かと言って最後のドラマで現実に戻った訳でもなく、蛇足のようにも感じられもったいない気がする。

表現的にはナンセンスな抽象表現の部分が多いので、人形劇や紙芝居、特殊メイク、CGI…などと言った様々な手法を使って描いているのが楽しい。

内容が内容なので出演者達の羽目を外した演技が見物なのだが、主演の綾野剛さん、内藤役の豊川悦司さん、孫兵衛役の染谷将太さん、茶山役の浅野忠信さん辺りは、シリアスな演技も知っているだけにそのギャップが強烈。

オサム役の若葉竜也さんも印象に残る。

白猿出臼(デウス)役の永瀬正敏さんなど、特殊メイクで顔出しがないのに良く引き受けたと感心する。

決して万人向けと言う雰囲気ではないが、マンガやクドカンワールドなどが好きな人にはそれなりに楽しめる出来ではないかと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2018年、dTV、町田康原作、宮藤官九郎脚本 石井岳龍監督作品。

その日も不純な天気だった…

北の小さな藩に1人の流れ者がやって来た。

黒和藩(ころあえはん)街道、峠の茶屋

そんな流れ者掛十之進(綾野剛)に、道ばたにしゃがんでいた2人の汚らしい親子と思しき巡礼が空の茶碗を差し出して来たので、巡礼か?と掛は考える。

男は親子をじっと見た…、 にたり…、にこっではなくにたりと男は笑った。

そしていきなり剣を抜いた掛は巡礼の親の方を幹竹割りに斬る。

それを茶屋で団子を食いながら目撃した節は団子を吐き出し、目を布で覆っていた娘の方の巡礼は怯えて身を引く。

男の名は掛十之進! その場から立ち去りかけた掛に、率爾ながらお尋ね申す!と声をかけて来たのは茶屋で目撃した武士だった。

拙者は黒和藩藩士長岡主馬(近藤公園)と申すものだ…と名乗った武士に、某は掛十之進、見ての通り浪人でござる…と掛は応じる。

何故にこの者を斬ったのだ?と長岡が問うと、この者達はこの土地に恐るべき災いをもたらせる…、それを事前に阻止すべく斬ったのだ…と掛は答える。

災い?と長岡が聞くと、いかにも…、この者共「腹ふり党」ですと掛は言う。 「腹ふり党」?と長岡が聞くと、近頃流行病の如く急速に蔓延している新興宗教、これにより隣りの牛逐藩(うしちくはん)は壊滅状態…、あやつらは牛逐よりの流れ者…、1人いたら20人は潜んでいる、それが「腹ふり」、既にこの黒和藩も邪教に蝕まれている…と掛が言うので、と言う事は…と長岡が当と、藩は滅亡でしょうな…とこともなげに掛は答える。

…と言い残し、涼しげな顔で掛は踵を返し、その場を…(とナレーション)

お待ちくだされ!と長岡が呼び止めたので、まだ何か?と掛が立ち止まると、何かって、じゃ京都か壊滅とか滅亡とか散々不吉なワードで脅して具体的な対処法も示唆せず、涼しげな顔で去るのは少々無責任が過ぎると言うもの…と長岡は掛の前に進み出て文句を言う。

拙者は親切であれこれ教えてあげたまで…、それだけで本来貴公にとってはプラスでござろう、ではご免… と言い残し涼しげな顔で…(とナレーション)

しかし刀に手をかけた長岡が、又、待てい!と呼びかけたので、 貴公は教えを乞いたいのではなかったか?とまた立ち止まった掛が振り向いて聞くと、これは脅迫ですと言いながら長岡はけんを抜く。 すると掛は、御主には斬れない、拙者、超人的剣客故…と言い出す。

問答無用!と斬り掛かったつもりの長岡…、しかし実際には…(とナレーション)

この時点で刀を落し、どうとうずくまっていた(とナレーション)

うずくまっただけではなく小便まで漏らした名賀かに、泣くな!それでも侍か?と架け橋カルト、痛い…、だって盲動したら良いのか分からない…、どうしましょうと長岡は子供のように泣きながら聞くので、知るか!と掛は怒鳴りつける。

そもそも拙者の気が変わったのも、貴様が貴様のそう言う依存的な態度が、こちらの親切は既に織り込み済みって態度が、やってもらって当然と言うその甘えた態度が気に入らなかったのだと掛は言い聞かす。

あげくに逆ギレして斬り掛かり、斬り返したら泣きながら小便垂らして被害者面とは…、片腹痛いわ!と掛が睨むと、いや〜、パニックになり申した!すみませんと腰を抜かした長岡が詫びると、すいませんとは恐れ入った、すみませんだろうが!と掛が訂正すると、すみません!行かないで下さい!と長岡は泣いて頼んで来る。

条件がある…と掛が言うと、急に長岡の顔が変化したので、何だその顔は?親切心がなくなったらその先はビジネスでござろう!WIN=WINの関係を求めるのが道理でござろう?とと睨んだ掛は割り切ったように言う。

長岡は覚ったように、はいはい、何なりとどうぞ…と投げやりに聞く。 拙者長らく浪々の身…、出来るもんならそろそろ仕官をしたい…と掛が言い出したので、あなたを士分に?と長岡が驚くと、ついては貴公にお口添えを頂き、この黒和藩にお召し上げになれればと存ずる…、それが条件だ…と掛は要求する。

走って城に戻る長岡の後ろ姿を見ながら掛は笑い出す。

あいつ、むちゃくちゃバカじゃないか、あんな「腹ふり党」を根絶する方法なんてある訳ねえだろうがよ…と呟く掛。

悪人である…、掛十之進、始めから長岡を騙すつもりで巡礼を斬ったのか?(とナレーション)

「不」の文字が入った目隠しをした娘がすがって泣いていた巡礼の死体の所に戻って来た掛は、死体を蹴って体を改めて確認すると、あれえ?と驚く。

「腹ふり党」信者にあるべき入れ墨がない!…と言う事は…(とナレーション)

しまった事をしてしまったわ…と掛は焦る。 …と不覚にもだじゃれを口にしてしまった掛だが…(とナレーション)

問題はこの娘…と呟いた掛は刀を抜いて斬ろうとするが、近くには野次馬達がいる事に気づくと、やい娘、俺はお前を斬らぬ…、斬れぬのではなく斬らぬのだ…、そこんとこわきまえてどこへなり立ち去れ、良いな?と言いながら、刀を鞘に収める。

斬れぬのだ、超人的剣客でありながら、掛十之進、今だ浪人たる所以か?(とナレーション)

もし図々しく城内に姿を見せたら、今度は容赦なく斬る!さ、行け!爺の香典じゃ!と言いながら、掛は着ていた上掛けを脱いで、娘の頭に投げつける。

立ち去って行く掛の後ろ姿を、立ち上がった娘は目隠しをとった目に焼き付けると、言ってんじゃねえよ!ぶっ殺す!と吐き捨てる。

その後、黒和藩家老内藤帯刀(豊川悦司)と会っていた長岡は、素性はしかと知れませぬが、掛十之進、相当の人物かと…と推挙していた。

筆頭家老内藤帯刀は、長岡の報告を聞いている風を装いながら他の事を考えていた…(とナレーション)

「腹ふり党」が御領内に入り込むのは由々しき事態…、手を打たねばなあ…と内藤は答える。

この一件、ライバルの大浦主膳を追い落とすのに使えるかもしれん…と内藤は考えていた。

黒和藩次席家老大浦主膳(國村隼)と内藤帯刀は、幼き頃より犬猿の仲、その上司たる藩主黒和直仁(東出昌大)が、全く融通の利かぬ堅物にして偏屈、直情径行の人故、藩の政は大混乱…、藩内は内藤派と大浦派の2派に分かれていた…(とナレーション)

黒和藩本丸大広間 招いた掛から話を聞いた大浦派の侍は一斉に笑い出し、「腹ふり党」だと、埒もない事を抜かしよって…と大浦自身も笑って相手にしなかった。 いえ大浦殿、私、見ました!掛殿、「腹ふり党」をぶった斬る!親子を…と長岡が立ち上がってしどろもどろに説明する。

上座で話を聞いていた直仁は、掛殿と申したな?その方「腹ふり党」を根絶する方法を知っておるのか?と言葉をかける。

すると掛は、知らねえよと答えたので、長岡始め話を聞くために集まっていた侍達は狼狽する。

ま、と言うには嘘で、もちろん知ってるが…と膝を崩しあぐらをかいた掛は、教えた所で貴公らには到底理解できねえだろうし…、実践する能力なんてねえだろうしね…と掛が言うので、大浦派の連中は憮然として掛を見返す。

言うだけムダだから知らないと申したまでだ…と掛は城主の前にも関わらずふてぶてしい態度で言う。

素浪人の分際で!そこに直れ!手討ちにしてくれるわ!と激怒した大浦主膳は立ち上がるが、ほお?斬れる物なら斬れば良い!と掛の方も大浦を睨み返しながら立ち上がる。

そしていきなり後ろを向いて着物を持ち上げた掛は、赤褌の尻を殿と主膳に向けて突き出して来ると、おれおれおれ!と挑発して来る。

掛の暴挙には実は絡繰りがあった…(とナレーション)

黒和藩尊大寺(そんだいじ)愛染堂(あいぜんどう) さかのぼる事数日前…(とナレーション)

仁王像の前の護摩壇の火の前で掛を待ち構えていた内藤は、はったりなんだろう?「腹ふり党」について多少の知識があるのを良い事に、その脅威を盾に当藩の弱みに付け入り、対処法を教えましょうとうそぶき、給金を搾取し、あわよくば侍に召し抱えてもらおうと言う浅ましい魂胆が見え見えだ…と話しかける。

それを聞いた掛は、何を申しますか?と苦笑し、そのような事は決して…と否定するが、ほお?一応そうした取り繕うような事は言うんだな…、よいよい、分かった…と内藤は掛の肩を気安く叩きながら言う。

…と器の大きな所を見せつけて話を詰めると思ったかもしれんが、私はそう言う若者に好かれたい年寄りじゃない、君の心情など察しないし、答えるまで追求を止めない…と内藤は脅して来る。

いやいやいや、ですから拙者は…と掛が苦笑いしながら言い返そうとすると、そうやって甘える奴も嫌いなんだ…と内藤は言い放つ。

老人殺しと称して、若干の男色臭を漂わせながら、特別に可愛がられて実力以上の出世をする者があるが、そう言うの期待してるのなら無理だから…と、内藤は掛の着物の襟を治してやるような素振りをしながら言う。

完敗である…、掛はぐうの音も出なかった…(とナレーション)

護摩壇の前に座り直した内藤は、どうした?こんな弱小藩の家老などちょろいもんだと思ったか?と掛に問いかける。

だったら、せめて考えをまとめて来いと言う内藤に、凄い、貴公は私が嘘をついていると疑っていて、私がそれを認めた…と掛が言いながら近づくと、認めるのか?と内藤は被せて来る。

認めたらどうさせるのですか?と掛が聞くと、殺すねと内藤は即答する。 殺さないで!と掛が頼むと、嫌だ!と内藤はそっぽを向く。

拙者だって死にたくない…と掛が言うと、認めるのかい?と内藤は迫る。 認めたら殺すんでしょう?と掛が聞くと、殺されるの嫌かね?と内藤が言うので、そりゃそうですよ!と掛が答えると、だから答えないのかね?と内藤はさらに迫る。

そりゃそうですよ!と掛が言うと、嘘付いてるしね!と内藤が笑顔で指差すと、はい!と掛は思わず頷いてしまうが、笑顔で自分を見つめている内藤の顔を見て、自分がうっかりゲロしてしまった事に気づき、わっ!怖!怖!わあズル!と掛は身を引く。

って言うか、はいって言わないと次の段階に進めないかと思って…と掛がうろたえると、次の段階とは?と内藤は聞いて来る。

私が出会えと叫べば、それを合図に襖の奥で聞き耳を立てているであろう手下が君を押さえつけ、その方の身体をなめろうのようにずたずたに切り刻む段階の事か?と内藤が立ち上がってからかうので、ちょっちょっ!と怯えた掛は狼狽しながらも、超人的剣客なんです、私!と手をついて売り込む。

殺すのは惜しい、自分で言うのも何でござるが、何かのお役に立てると思うんです、例えば、隠密とか…、密偵とか…と立ち上がった掛は訴える。 隠密は間に合ってるし、密偵は今朝発った所だ…と内藤は言う。

江下レの魂次(渋川清彦)と言う、そのネットワーク、リサーチ力、スピードとも、トップクラスの密偵だ…と内藤は教える。

町の路地裏で口笛1つで情報仲間を呼び寄せ、飛脚をあっさり追い抜くほどの脚力を持つ江下レの魂次。

その魂次が牛逐藩にて「腹ふり党」への情報収集を開始した故、君の出る幕はな〜い…と内藤は笑顔で言う。

そんな取りつく島もなかった内藤が、あるとすれば…と言い出したので、掛が一縷の望みを繋ぐように笑顔で見守ると、浅ましい!と笑った内藤は、はなからそう言う素直な態度に出れば良いのに…と掛の肩を触って来る。

おっしゃる通りですとすっかり素直になった掛は、で、あるとすれば?と聞くと、質問すんなよ!むかつくんだよ!と内藤が切れて来たので、すみませんと再び土下座し、助かりたいなら黙っておれ!と言われると、はい!と従順な態度に出る。

良いか?私の言う事を聞いて私に従っているうちは、私は御主を殺さな〜い…と内藤は言い聞かせる。

ははあ…と平身低頭する掛に、数日後、殿の御前にて「腹ふり党」対策の必要性を私が説く、すると次席家老の大浦と言う男が、「腹ふり党」だと!埒もない事を抜かしよって!ハッハッハとか一笑に付す…と内藤は説明する。

そこで掛、御主の出番だ、そのお得意のむかつく口調で、大浦をバカにする事を言ってくれよ…と言いながら、内藤は刀の鞘を掛の背中に押し当てる。 …と言う、指示通りの暴挙なのだった…(とナレーション)

ほれほれ!斬れる者なら斬れば良い!と囃しながら、下半身を露出した掛が藩主の前でおどけるので、逆上した主膳が貴様!と刀を抜くと、大浦殿!殿の御前でござりまするぞ…と内藤が冷静に声をかける。

掛とやら…、その方もその方である…、以降口を慎むように…と内藤は、赤褌の尻を丸出しに突き出した掛に注意する。 それを聞いた掛は素直に平伏し、はっと従う。 目を上げた掛に、内藤はウィンクして来る。

そして内藤は直仁に対し、殿、この掛を「腹ふり党」対策要員として起用し、今すぐ策を講じては?と進言するが、いらぬ!いらぬ!このような者が申す事を鵜呑みになさってはいけませぬぞと直仁に伝えた大浦は、虚言じゃ!妄言じゃ!と内藤に向かって怒鳴りつける。

同時に大浦派の家臣達も一斉に、妄言じゃ!と内藤派に向かって抗議して来る。

その夜、内藤帯刀私邸で、内藤とともに巨大なキセルでタバコを吸っていた掛は、実際に「腹ふり党」が来るよな?、みな洗脳されて腹ふって働かない、押し込みはする、火付けはする、強姦はする、ハッハッハ…、取り締まる警察力と言うのも、財政逼迫の折から期待できない…、そうなって初めて責任問題が生じる訳だよ…と説明すると、一緒にキセルを吸っていた長岡は、ああ、何故もっと早く策を工事手を打たなかった?と…と納得する。

誰のせいだ?と掛が聞くと、それは本稿を退けた大浦殿?と長岡が答えると、だろう?大浦一派は淘汰され、藩政は内藤様の思うがまま…と掛は教える。

それを聞いた長岡は、うわ〜、汚えなあ〜と呆れるが、加担している掛は愉快そうに笑う。

一方その頃怒り収まらぬ大浦主膳は…(とナレーション)

私邸庭先で案山子相手に剣の稽古をして、案山子の首をへし折っていた。

何であんな奴にバカバカ言われななきゃいけねえんだよ!おら、家老だぞ!と言いながら転げ落ちた案山子の首を悔し紛れに踏みつける。

怒りに震えていた主膳は、孫兵衛はまだか!まだか!と苛立ったように屋敷内に呼びかける。

すると、座敷で餅を食っていた大浦派用人、幕墓孫兵衛(染谷将太)が、お呼びでしょうか、大浦様と言いながら回り廊下に出て来る。

振り返った主膳は、いつからおった?と呆れたように聞く。 掛は自堕落な日々を送っていた…(とナレーション)

女中らが寝そべった掛の身体を揉み、枇杷酒を口に注いでやる。

内藤帯刀の屋敷に居候し、昼から酒を飲み、女中を冷やかし、そして糞をして寝る… その日も掛は酔い覚ましに近所の境内を歩いていた…

風が葉を揺らし、零れ陽も美しい…、良い気分だ… ひょっとして今の俺、絵になる?と悦に入りかけたその時!(とナレーション)

殺気を感じた掛は側転を繰り返しながらその場を避ける。

立ち止まった掛は、孫兵衛と一緒に姿を現した笠で顔を隠した浪人に、拙者に何か用か?答えろ!と呼びかける。 我ながら錆びた良い声だ…と、再び悦に入りかけた時…(とナレーション)

笠を放り投げた浪人は刀を逆手に抜いて構えたので、ビビった孫兵衛はその場に昏倒する。

斬る…と、その浪人者が声をかけて来たので、いずれ拙者が掛十之進と知っての狼藉であろうが、待ち伏せとは卑怯千万…、名を名乗れ…と聞きながら掛はゆっくり振り返る。

謎の刺客真鍋五千郎(村上淳)が名乗るので、そこで眠っている奴は?と掛が確認すると、関係ないね…と真鍋は言う。

関係ねえ奴がそんな所にいたらお互いやりづらいだろ?と掛は困惑するが、説明する暇はない!と言いざま、真鍋が斬り掛かって来る。

掛も大きくジャンプし、2人は空中で交差する。 では私が…、時は昨夜までさかのぼる…(とナレーション)

(回想)真鍋の庵 で、拙者に何を?と訪れた孫兵衛に、飯時にアポなしに訪ねて来て非常識だとか、そんな事は一切気にせず、何なりと聞いてくれ…囲炉裏の前に座していた真鍋が聞く。

この者が大浦主膳の使いで、用件が暗殺依頼である事は分かっていた…(とナレーション)

だからと言って、ひょっとして暗殺?ああ良いよ、誰斬れば良いの?とそこまで歩み寄る必要はない。

言いづらい用件を自ら言いだすのも侍の勤めだ。 いや、あの…、ちょっと言いにくいのでござるが…と孫兵衛が口を開いたので、うん…と真鍋が促すと、そのまま口を開けた孫兵衛が黙り込んだので、言わないのかい!ったく、どう言う教育受けて来たんだ?と真鍋は心の中で突っ込む。

どうせあれだろう?個性を伸ばそうだの、No.1より何たらだの…、ぬるま湯に浸かり切っていたんだろう? もしや拙者に…と真鍋が口を開くと、一手ご教示願いたいとかそう言う事か?とボケてみる。

いやいやいや…と孫兵衛が否定するので、いや遠慮なさるな…と真鍋は慰めて、拙者も稽古がしたくてうずうずしておる…、いや真剣でも構わんよ…とフォローしてやる。

すると、本当に違うんです、真剣とか…い、嫌参ったな…と孫兵衛は笑って否定するので、え?今何っつったよ?と睨みながら真鍋は立ち上がる。

今何つってた?おいと言いながら剣を抜いた真鍋に、何か言いました?と慌てて孫兵衛が聞き返すと、とぼけるんじゃねえよ、参ったな〜って言ったじゃん、つったよ、つったよ、つったじゃんよ!と真鍋は怖い顔で迫って来る。

人が親切に剣術を教えてやろうって言うのに、何なんだお前は?参ったな〜って言って頭かくのかよ?苦笑するのかよ?ハハハ、それってさあ、自分より馬鹿が誘っているのに気づいてない相手に対して取る態度でしょう?参ったな〜つって?それとも俺がお前より劣っていると言いに来たのか?わざわざこの飯時に!このハゲ!と真鍋が逃げ回る孫兵衛を追い回すと、ギャン!と言うなり孫兵衛は気絶してしまう。

孫兵衛は仮死状態に陥っていた。

ピンチになると気絶すると言う特異体質の持ち主なのである。 まだ斬ってないだろう?おい…と抜いた鞘を拾い上げながら真鍋はぼやく。

(回想明け) 真鍋は地面に転がり落ち、掛は反対側に降り立って剣を構えるが、目が覚めて起き上がった孫兵衛は、その掛の真剣を見て、又ギャン!と叫んで気絶する。

掛と真鍋は互角の力量で斬り合う。

なかなか勝負がつかず、キセルの灰を吹き付け相手がひるんだ隙に逃げ出した掛を真鍋が追って来る。

木の幹に足をつけ空中反転した掛けは真鍋の剣を弾き飛ばす。 すると真鍋は秘技草履返し!と叫んで技を仕掛けて来る。

掛は、受付嬢すっぴんあぐらの技で切り返す。

すると、助六ちゃぶ台返し!と真鍋が返して来て、さらに怪奇人間火燵で掛の身体を持ち上げて来る。

研ぎすまされた技と技…、精神と精神のぶつかり合いだった…(とナレーション)

掛は褌を引っ張り上げ相手の顔に懇願を押し付ける睾丸稲荷返しの技を見舞う。

しかし真鍋はカンチョーの技で返して来る。

真鍋が掛と69の体勢になり厚顔稲荷返し返しを掛けて来たので、掛は睾丸稲荷返し返し返しを仕掛ける。

その技の最中、掛けの黄門の匂いを嗅いだ真鍋は、あ?ひとげちゃん?と聞いて来る。 シトゲとは掛の幼名である(とナレーション)

彼をそう呼ぶのは育ての親と谷木さんのおばちゃんと、それから… ゲラちゃん?と掛も気づき、互いに身体を離して改めて顔を見合うと、懐かしい!シトゲちゃん!ゲラちゃん?通りで強いわ~、こっちのセリフだよ〜と再会を喜び合い抱き合う。

何たる奇遇!2人は幼なじみだったのだ…(とナレーション)

共に貧しさから親に捨てられ、通じて剣客養成所「そこの穴」にて剣や武術を超えた修羅の技を学び、腕を磨いた…

2人は良きライバルであると同時に親友同士でもあった… 実に20年振りの再会…、驚いたのは2人だけではなかった… 昔のように指相撲に興じる2人に近づいて来たのは気がついた孫兵衛だった。

ついさっきまで壮絶な戦いを繰り返していた2人が、私の意識が飛んでいる間に一体何が…?(とナレーション)

そうか…、シトゲちゃんも浪人か…と指相撲をしながら真鍋が言うと、え?ゲラちゃんも?と掛は驚きながらも、10カウントを取り勝負に勝って喜ぶ。

俺は相変わらず黒和藩でぶらぶらしてるよ、それで頼まれたら刺客?みたいなことやってる…、1人1日2800円…と真鍋が答えると、刺客?と掛が聞くので、そう言うの言っちゃいけないんだけどな〜と真鍋は小声になる。

頼まれたんだと真鍋が言うので、こいつに?と掛がその場に突っ立っていた孫兵衛を見ると、いいやこいつは単なるパシリ…と真鍋が教えたので、これ、ま、真鍋殿!と孫兵衛が注意するような口調で呼びかけたので、立ち上がった真鍋は孫兵衛の足を蹴り飛ばす。

すると孫兵衛は、痛い!と言ってしゃがみ込む。

おい!御主のせいで大切な友達を斬り殺す所だった…、これさえ返せば御主に義理はなかろうと真鍋は孫兵衛に文句を言い、もらった金をその場に捨て、あ〜すっきりしたと安堵し、掛の隣りに又座り直す。

ねえねえゲラちゃん、大浦って次席家老なの?と掛が聞くと、うんと言うので、だったら斬られて大正解!と言うと、何で?と真鍋が聞き返されたので、大浦は近く失脚するのよ…、俺バリバリの内藤派だから…と掛は教える。

それを横で聞いていた孫兵衛は唖然となる。 そんな孫兵衛の様子をあざ笑った真鍋が剣を抜いて差し出すと、ギャンと言って孫兵衛は気絶する。

黒和城、本丸大広間 黒和摂州守様…と内藤が書状を読み終えると、つまり隣国の飢饉の原因は大水や日照りではなく…と直仁が言うので、おそらく「腹ふり」の残党の仕業かと思われます…と内藤は答える。

まだそのような戯れ言を…と大浦が牽制すると、西国では「腹ふり党」が猖獗を極め多くの藩が潰されております、それ故…と内藤は直仁に告げる。

直仁は正論公と呼ばれる程ストレートな人柄故…(とナレーション)

ダメじゃないか、そんなの放っといちゃ!と叱りつける。

正論しかおっしゃらない…(とナレーション)

それ故、「腹ふり党」対策の専門家である掛十之進を推挙したのですが、次席家老が私怨からこれを藩政から退け、今日の危機を招いたのでございますと内藤は進言する。

それ対し主膳は、あの男は殿を愚弄したのでございますと言い返したので、礼儀に気をとられ、人間の本質を見抜けないようでは…と内藤は皮肉る。

すると、大浦派側の末席に座していた孫兵衛 が挙手し、拙者も怪しいと思いますと言いだす。

これ、孫兵衛 !と同じく、内藤派の末席に座していた長岡が注意すると、言ってたし、影で…、大浦は失脚するって俺聞いたし…と孫兵衛は言い返す。

それを聞いた出席者達はざわめきだし、直仁も、それは真か?と問いただす。

すると孫兵衛は、はい、真鍋さんと掛がしゃべってましたと答える。

真鍋?あの真鍋五千郎と掛殿が?何故?と内藤が念を押すと、大浦殿が刺客として雇ったのでございます、僕が仲介しました!と孫兵衛はあっさり明かす。

それを聞いた主膳と大浦派は動揺するが、そしたら何と、いや、これ言っちゃっていいのかな?真鍋さんと掛が地元が一緒で幼なじみって事が判明し、なんつうか、竹馬の友的な?…と孫兵衛は得意げにべらべらしゃべってしまう。

孫兵衛の正義のたれ込みによって、大浦は窮地に追い込まれ… こら!藩政にとって大切な人物の暗殺を企てるとは何たる暴挙!と直仁が立ち上がって主膳を叱咤する。

切腹じゃ、今すぐ自害しろ!と直仁が命じたので、主膳と大浦派の手下達は驚愕する。

その時、まあ殿、お待ちください!と留めた内藤は、何だ内藤、この期に及んで情けをかけるのか?と直仁が怒ると、いえ…、ただ財政逼迫の折、「腹ふり党」のせいで危急存亡の時、人材をあたら損亡する余裕もございませんと内藤は言う。

なるほど…、ではどう致すと言うのじゃ…と直仁が納得すると、屁高村へやってはいかがでしょう?と内藤は提案する。

屁高村では、庄助と言う猿回しの名人が卒中で死んでからと言うもの、村には跡継ぎが1人もおらず、民百姓は猿回しを見る事が出来ず、泣いて暮らしております…と内藤は説明する。(紙芝居での解説映像あり)

猿回しと言うにはそんなに重要なのか?と直仁が聞くと、重要ですとも…、民百姓は猿回しを見て、アハハと笑い、良し、明日も頑張って耕そう!商売をしようと思うんです、猿回しがいなければこの世は闇です…と内藤は答える。

なるほど!あい分かった…と納得した直仁は、大浦!その方、さるまわ奉行に任命する!と命じたので、あっけにとられながらも従うしかなかった。

それから孫兵衛!大浦の手良くぞ暴いた、今後は内藤が家臣として重用すると直仁が付け加えたので、ありがたき幸せと平伏する。

さらに、長岡は大浦に帯同せよと直仁が命じたので、え!と驚いた長岡だったが、ありがたき幸せ…と平伏するしかなかった。

これを聞いていた内藤派の連中はおかしそうに必死に笑いをかみ殺すのだった。

屁高村さるまわ奉行所道場

猿を引き連れやって来た主膳が、直れ!そう座る!立つ!直れ!そう座れ!と先に稽古をしていた長岡にどうじゃ今年の猿は?と聞くと、自ら猿を肩に乗せ自分も同じように猿に声をかけ始める。

しかし主膳は、ジャンプして逃げ出した猿の糞を顔に浴びせかけられる。

その匂いを嗅いだ主膳は、おのれ!猿が家老の顔に糞をするとは!そこに直れ!手討ちにしてくれる!と激高し、刀を抜くが、大浦殿、堪えて下され!何とぞ、何とぞ!と大浦と他の猿たちが土下座して懇願して来る。

ニホンザル変太郎も反省していた。

藩と言う社会で権力闘争に敗れた者はかほどに惨めであった…(とナレーション) 辛うじて怒りを抑えた主膳は、内藤め〜!と絶叫する。

そして時は過ぎた…(とナレーション)

城下大通り 平和じゃのう…と内藤が呟くと、ですね〜、ですですと尊大寺愛染堂の通路を共に歩いていた掛が答える。

御主は平和主義者か?と内藤が聞くと、ですかね〜?ですですと掛は適当に答える。

あるいは平和の使者か?御主がこの藩に来てか何も起こらん…と内藤は言う。

ですです…と掛が答えると、何をすっとぼけて「ですです」言っておるんだ?ふざけてると殺すよ〜と内藤は脅して来る。

またまたまた〜…と冗談と思った掛が言い返すと、尊大寺愛染堂の本堂内にいた内藤派の侍達がいきなり立ち上がりかけを取り囲む。

そんな掛を振り返った内藤は「腹ふり党」来ないじゃん!と文句を言う。

あ!あれ?確かに…と掛も今気がついたと言うようなポーズを取るが、お前が斬った爺、入れ墨あったか?と内藤は聞く。

入れ墨…と掛が呟くと、「腹ふり党」の信者は目印にかような入れ墨をしているそうじゃ…と言いながら、内藤は紙に描かれた渦巻き模様のようなものを示す。

ところが爺の身体をくまなく調べたがなかったそうだ、どこにも…と困った表情になった内藤が言う。

入れ墨模様を描いた紙を掛の口にくわえさせた内藤は、勘違いだったんじゃないの〜?と迫る。

何してくれちゃってるのよ、罪のないお年寄りに〜と内藤は掛の肩をポンと叩き、背後から身体をすりつけながら話しかけて来る。

内藤から顔をくっつけて聞かれた掛は堪り兼ね、あああ〜!いつ来るか分からないのを待つのは落ち着かない!と内藤から身を離すと言い出す。

うん、ちょっと様子見てきますと言って部屋を出ようとすると、そのまま逃げるつもりか?と指摘した内藤は、密偵の使いが今、中間報告書を届けて来た…と言うと、長い書状をその場に広げる。

貴方様の忠実な密偵の魂次でございます、全身全霊を傾け書きました壮大なる報告書でございます。

使いの者はオサム(若葉竜也)と言います。 少々アホで何でも食べますので、目を離さぬよう願います…と報告書には書いてあった。

元馬方オサムは、孫兵衛に魂次からの報告書を届けた後、外に供えてあった饅頭にたかった蟻をとってとって食べようとしたので、孫兵衛が握り飯を与えると、喜んで食べ始め、何を思ったか、孫兵衛の足に擦り寄って来る。

さて報告の前に、そもそも「腹ふり党」とは何ぞや?と言うベーシックな情報を共有していただく存じます…と報告書は続いていた。

「腹ふり党」教祖、醜道乱倫才(すどうらんりんさい)と言う男が岐阜羽島で結党した「腹ふり党」(人形劇で説明映像)

その経典によるとこの世は巨大なサナダムシの胎内にあり、彼らはサナダムシの胎外、すなわち真実、神性世界への脱出を願います。

そう…、この怪しげな紋章はサナダムシだったのです! 神性世界を目指して彼らは腹を振ります、そこかしこで狂騒的な儀式を行い、近隣住民とのトラブルが絶えません… これが「腹ふり党」騒動です。

続いて「腹ふり」の作法について… 足をやや開き、腰をやや落とす…と内藤が報告書を読んでいると、同じ部屋にいた内藤派の手下達も自らその格好を真似てみる。

両手をやや左右に広げ、やや激しく払う…と内藤が読む報告書を掛が横から覗いていると、何をしとる?やれよ、御主も!と内藤は掛にも命じる。

ええ!と引いた掛だったが、はいと頷き、他の手下らと一緒に「腹ふり党」の作法を真似だす。

首を前後左右にやや振り、瞼は開けるでもなく閉じるでもなく…、アア〜ンとか、ウッフ〜ンとか…と読んでいた内藤は、どうじゃ?と掛に聞くが、それはこっちが聞きたいですよ、てか、これ何の意味があるんですかね?とおかしな踊りを踊っていた掛は答える。

その無意味さが良いのです…と報告書には書いてあった。

あまりの意味のなさに世界の所有者たるサナダムシは苦悶し、彼らを肛門から排出する。

この境地を信者は「おへど」と呼ぶ…と書いてあったので、「おへど」?と踊りながら掛が聞くと、これぞ神性世界への脱出!真の悟りだそうだ…と報告書を内藤は読む。

腹にサナダムシを表した渦巻き模様を描いた褌一丁の裸のデブ男3人が屋敷の中に腹を振るわせながら迫って来たので家人たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。

その家の主人が刀を抜いて斬り掛かり、3人の信者の首を切断する。

「おへど」への到達は困難を極めます。

噂では腹を振ってトランス状態に陥った信者が首を飛ばされても腹を降り続け、「おへど」を目指した事もあったそうです。

それを聞いた掛は、おわ怖!怖っ!とおののく。

そのような連中が攻め込んで来ては一大事…、内藤様、拙者は今すぐここを発ち、牛逐へ!と言いながら、掛はその部屋から少しずつ後ずさって逃れようとすると、そんな「腹ふり党」ですが、結論から申し上げると、とっくに滅んだようです…と内藤が報告書を読み上げたので、うわっ!と叫んでその場に倒れる。

手下達は刀を手にうつぶせになった掛の周囲を取り囲み、おめでとうございますと内藤が一礼して来る。

民はもう、そんな宗教があったことすら忘れ、平和に暮らしておりますと言いながら報告書を握り潰した内藤は、倒れていた掛の側にやって来ると、はっ!と叫んで丸めた報告書を掛の背中に投げつけて来る。

教祖、醜道乱倫才が内部からの密告で捕縛されたのです…、掛は床に落ちていた報告書を広げ、最後の部分を自分で確認する。

十字架に磔になる教祖の様子を人形劇で再現。 何やってんだよ、馬鹿野郎!と掛は悔しそうに呟く。

狂信的な末端信者達がい、教祖はビジネスでやってましたから至って良性、完全にしらふでしたが、散手に対しては号泣、失禁、気絶など見苦しいことこの上なく、最後はねじ切るように… 両脇腹を槍で貫かれた教祖は首を自ら振り落として果てる。

そんなこんなで牛逐藩、至って平穏でした、江下レの魂次より愛を込めて… 読み終えた掛は、ええっと、そう言うことはその…、どうなるのでしょうか?と立ち上がって聞くと、どうにもならん…と手下共を先に帰らせた内藤は言う。

「腹ふり党」の危機を訴えて来た私は面目を失い失脚、御主は死刑であろうな…と言うので、ええ!死点、嫌だ!と掛は震え上がる。

すると内藤は、何をうろたえている詐欺師が!と叱り、椅子に腰掛け、心配するな、「腹ふり党」は存在するし、この藩にやって来る…と言う。

え?それは…と掛が戸惑うと、滅んだからと言って何だと言うんだ?銭を槍、人を集めて腹を振らせ、それを「腹ふり党」と呼べばすむことだ…とこともなげに内藤は言う。

それは…と掛が聞くと、偽装…と呟き、内藤は側にあった鐘を鳴らすと、ああ、インチキだよと開き直る。

そもそも「腹ふり党」自体はなからインチキじゃねえか!もっと言うと、お前もインチキだし、俺もインチキだし、この藩だってインチキだろう!内政的、モラル的にとっくに破綻している…と内藤は指摘する。

そして、終わってんだよ〜と内藤は本堂内で叫ぶ。

だったらみんなで力を合わせて帰れば良いんだよと言いながら内藤は立ち上がる。

それがしんどいから、大丈夫、大丈夫って慰め合って騙し騙しやってんだよ! それに比べりゃ「腹ふり党」でっち上げるなんて容易いこと…、何ビビってんだよ〜!と内藤は考え込んでいた掛に喝を入れる。

お前なんかインチキが着物着て、刀さして歩いているようなもんだろう?と内藤に責められた掛は、はい!と応じるのが精一杯で、しっかりしろよ!おい!食いつぶしの浪人がよ!仕官して侍になるんだろう?お?どんな手を使っても生き延びてやろうと思ってないと、お前なんか一発でやられちゃうんだよ!分かってんのか!と内藤に頬を叩かれながら迫られると、はいと答え、床に倒れ込むしかなかった。

内藤の方も興奮し過ぎたのか、話し終えた瞬間床に倒れ臥し、しゃべり過ぎだ…と呟く。

掛は思った…、えぐい!やはりこのおっさん肝が座ってる、太刀打ち出来ない! あの〜、そのインチキ「腹ふり」騒動って誰がやるんですかね?と恐る恐る掛が聞くと、内藤が顔を上げ睨んで来たので、私だ、私だ、私だ、私だ、私だ〜!私が起こしましょう!と立ち上がった掛は自分で答える。

その時、内藤様、魂次が寄越した使いの者が、あの〜…と孫兵衛が知らせに来たので、アホなんだろう?しっかり見張っておれと内藤が言うと、見張っていたんですけど〜、あ、どうしようかな〜、ちょっと来て下さいと手招きして来たので、何だ?と内藤は答える。

口で言えと内藤が命じると、いや…、口で言うと私がバカみたいに思われますので…、うん、ちょっとと孫兵衛は返事を渋り手招きをする。

庭先では修が皿を嘗めていたが、出て来た孫兵衛の姿を見ると、怯えたように側の盛り砂の後ろに身を隠す。

握り飯を15食らい、米びつが空になりました…、素麺を茹でてやったのですが…、おいオサム!と孫兵衛は声をかける。

へい、兄貴!とオサムが答えたので、こちら凄く偉い人とまあまあ偉い人だ、挨拶しろと孫兵衛は内藤と掛を紹介する。

するとオサムは、挨拶って何だ?分からねえ…と聞いて来たので、頭を下げて名乗れば良い…と孫兵衛が言い聞かすと、名前!名前!名前!名前!名前!と叫びながら頭を米つきバッタのように振り始めたので、オサムだろう?お前の名は!と孫兵衛は叱りつける。

するとオサムは、オサム!オサム!オサム!オサム!オサム!…と言いながら頭を下げて来る。

アホって、ここまでアホなのか?と掛は驚き、何だ?オサム!、何を見せると言うのだ?と内藤が聞くと、さっきのあれ、見せてみろと言いながらオサム!が猿を持つと、さっきのあれ?何だろう?分からねえ?とオサムは戸惑いだしたので、チュルチュルピューだろ?と孫兵衛がヒントを出すと、チューぴゅるぴゅるか!とオサムは納得する。

どっちでも良いわ…と呟いた孫兵衛が素麺を乗せた笊を差し出し出し、打ち合わせ通りやれと命じると、へい兄貴!と笑顔で答えたオサムは大きく息を吸い始める。

すると、渡り廊下に立っていた孫兵の手にあった笊の上の素麺が1本伸び上がり、そのまま空中を飛んでオサムの口の中に吸い込まれる。

そして舌を出すと、オサムの舌の上に蝶の形に結ばれた素麺が乗っていた。

こ、これは何だ…と内藤が驚くと、ごめんなさい!ごめんなさい!と叱られたと勘違いしたオサムがへいつくばって謝りだしたので、何をしたと聞いておるのだ、何だ!と内藤は問いかける。

ごめんなさい!ごめんなさい!とオサムは謝るだけなので、もう一度やってみろ…と内藤は優しく言い聞かせる。

すると孫兵衛が、アホだから握り飯を与えた私の言うことしか聞きませんと言い、オサム、次はお豆ピョンピョコピョンだと命じる。

へい兄貴!と喜んだオサムが新しい技を披露すると、それを見た内藤は、おお!これは何かに使えるのうと嬉しそうに感心する。

オサムは、庭石の上に落ちていた何個もの豆を念力で自在に動かしていた。

念動力ですね、物心ついた頃からこのようなことが出来たそうです、しかし周囲の大人達は訳の分からねえことをするな!と酷くオサムを折檻した、そして封印したのです…と、その後、掛は孫兵衛とオサムを連れ旅立つことになり、再びオサムの技を外で見た江下レの魂次が解説し、あ、申し遅れました、密偵の魂次ですと自己紹介する。

4人だけですか?と魂次が聞くので、あ、そうだ、て言うか、さっさと行こうぜ、関所超えたら牛逐だろう?と言い歩き始める。

掛十之進、幕墓孫兵衛、江下レの魂次、そしてオサム…、「腹ふり党」でっち上げプロジェクト、略して「H(腹ふり党)D(でっちあげ)P(プロジェクト)」は関所を超え、牛逐藩に入った。(とナレーション)

牛逐(うしちく)関所

一方その頃…、屁高村で意外な才能を開花させた男達がいた…

屁高村さるまわ奉行所前舞台(ステージ)

さあさ、お立ち会い!本日はこの長岡主馬、そして太郎3歳にしばらくお付き合い願いまする〜と猿と一緒にお辞儀をしたので、集まった近隣の農民達は嬉しそうに拍手する。

はい、トンボ!え、何何?もう一回!と去るの太郎に何か聞く真似をした長岡は、違うだろう!とツッコミ、ではとっておき!と言うと、両手を上げて構える。

太郎はそんな長岡の身体を登り、左手から右手に飛び移ると「天空逆立ち」の技を披露する。

拍手が巻き起こり、異常、太郎でした〜と長岡と太郎は挨拶する。 しかし太郎は床に腹這いになったので、どうしたんだろう?と話しかける。

侍としては無能な長岡だが、彼の潜在能力は猿回しに遺憾なく発揮された、天才と言っても良かった…(とナレーション)

足首にすがりつく太郎を引きづりながら長岡は舞台袖に下がって行くと、観客からおひねりが飛ぶ。

楽しいのは大浦も一緒だった。

長岡、俺はここへ来て、初めて人間の暮らしを知ったような気がするよ…と、舞台がはねた後の夕暮れの中、主膳は長岡に話しかける。

ええ、長年見て参りましたが、近頃の大浦殿は表情も柔らかく、安らぎに満ちております…と長岡も笑顔で応える。

権力闘争などもはやどうでも良い…と主膳は呟く。 猿と働き、猿と暮らし、猿と眠る…、こう云う日々が今の俺には大切なんだ…と、主膳は肩に留った変太郎に頬ずりをしながら言う。

掛達は素屯(すっとん)街道を進んでいた。

H・D・Pの任務は元・幹部を党首に据え、「腹ふり党」を再興することだった。

1人オサムだけは、兄貴、早く行こうぜ!と絶えず先頭を急ぎながら楽しそうだった。 しかしオサムを除く3人は決して前向きではなかった。

さもありなん、インチキがバレて解散した新興宗教の再結成など、いわばコピー商品をコピーするような物(とナレーション)

ああ、せっかく城勤めになったのに…、まあ掛君は出世のチャンスなんだろうけど…と歩いていた孫兵衛がぼやいて来たので、ため口?さりげなく君付け?何上に立とうとしてるんだ?そんなに簡単じゃねえって人間関係って物は!と掛は心の中で突っ込みながら、孫兵衛を睨む。

掛君は手取りいくらもらってるの?などと直も孫兵衛が調子の乗ったようなことを言うので、ちょっと急ぎましょうか?約束の時間までに着かないんで…と魂次が口を挟む。

魂次も決して乗り気ではなかった…(とナレーション)

自分は密偵であり、個人で行動するタイプ、このようなイベント制作みたいな学園祭実行委員のような役目は不得手だ… そしてこれから会いに行く元幹部、茶山のことを思うと… て言うかさ〜、茶…、茶さんだっけ?と掛が話しかけると、茶山さんです、茶山春夫と魂次が訂正する。

その茶山さんは話しの通じる人なのか?と掛が聞くと、党の中でも悪役非道振りは有名だったそうです、次から次へと信者を「おへど」にして、恐怖政治を敷いていたそうですと魂次が答える。

どう切り出す?と掛が困惑すると、拙者が言いましょうか?と孫兵衛が言い出し、一応手引書を読んで心の用意をしてきました!と自慢げに答えるので、え?君が?と掛は戸惑うが、ええ?甘えちゃおうかな?と言う。

その直後、あ、あそこですね!あれが茶山の隠れ家ですと魂次が先の方の一軒家を指差す。

ではくれぐれも茶山さんに失礼のないように…、笑っただけで「おへど」にされた者もいるそうですから…と魂次は孫兵衛たちに言い聞かせる。

腹ふり党元・幹部、茶山半郎(浅野忠信)は、顔に不思議な入れ墨をした得体の知れない男だった。

その両脇には札のようなマスクで顔を覆った2人の付き人が座っていた。

茶山の顔を見て笑いを堪えきれなくなった魂次は一旦正座していたがすぐに屋敷を飛び出して行く。

掛も、俺もすぐに逃げれば良かった〜!と笑いを堪えながら後悔する。

そんな中、我ら黒和藩から参った…、オタクは今、何作だか何兵衛とか言う百姓に成り済まして潜伏しているようだが、その正体は悪名高き邪教「腹ふり党」の元幹部茶山半郎だ!そうでしょう?と孫兵衛が淡々と話しだす。

茶山は、そうやと即答して笑いかけると、それは調査で分かってます、はい!と孫兵衛が答えたので、何だ、この高飛車な物言い?親切ごかしで自ら交渉役を買って出たのは計画をぶち壊しにするためなのか?と横で聞いていた掛は孫兵衛を睨みつける。

実際、目の前の茶山は孫兵衛に怒っているように見えた。 今すぐここを引き払って我々とともに黒和藩に来ていただきたい、はい、その理由は言えません、我々は「ネオ腹ふり党」と言うのを結成しようとしてて、それにはあんたの協力が必要だからだ…と、なおも孫兵衛は淡々と高飛車な口調で話す。

いやいや私は何兵衛か何作と言うしがない百姓と言うかもしれないが、ムダでござる!そんなのは嘘だから! いや違う…、孫兵衛の横顔を見て掛はそう思い直した、彼は彼なりに必死なのだ…(とナレーション)

報酬は多分ゼロです、我が藩の財政は非常に困窮してますのでそれを踏まえて参加の是非を問いたいのです!と孫兵衛が言い終えると、おうと茶山は頷く。

もじもじしたり気絶する自分を乗り越えるため、今日は事前にマニュアルを熟読し、文言を考え、暗記し、そらんじているのだ…(とナレーション)

その意気込みは評価すべき…、だが今は…、完全に裏目に出てる〜…!あ〜あ、絶対に怒ってるよ!絶対怒ってるって…(とナレーション)

表情が読み取れない! 目を閉じた茶山の顔を凝視していた掛は焦る。

その時、両脇に座っていた付き人が、私にもう一度、御教えを広めろと…と話しだしたので、慌てた茶山は振り向いてシーッと口に指を当てる。 え?あなたにじゃなくて茶山産に…と孫兵衛が驚くと、僕にもう一度。

お教えを広めろと…ともう1人の付き人も言い出したので、又茶山はシーッと黙らせる。

いやだから…、ま、良いか…と孫兵衛は苦笑するが、そうです!とひれ伏した掛は、何か言いかけた孫兵衛を制し、彼らの言葉は茶山さんのお言葉…ですね?と問いかける。

すると茶山は違う!と言い、いきなり掛に抱きついて来たかと思うと、また急に怯えたように身を離す。

お教えお願いです!と掛が願い出ると、1つうかがいたいと2人の付き人が同時に聞いて来る。

あなた方は真面目な気持でそれを行ないますか?それともふざけた気持で行ないますか?と2人の付き人が聞くので、いやいやいや、大真面目です!と掛は答える。

この者は茶山先生にお目にかかれて気が動転してるんですと孫兵衛の肩を叩いて掛は説明する。

でははっきり言いましょう、教義が広まらなかったら、私、殺されるんです!と掛が明かすと、わあ、何かいる?どうする、ほら?と茶山は部屋の一隅を指差して怯えだす。

冴える月の滴に伽羅の糸車が絡み、人の世とはそんな物です…と2人の付き人は同時に答える。

あなた方のドラマを易後に見させていただきました、黒和藩に参りましょうと2人は答える。

えっと、と言うことは…、来て下さると言うこと?と掛が念を押すと、真面目か不真面目かは問題ではない、易後のお導きがあれば僕は地の果てまで行って教えを広め、そうしなかったのは、これまで誰も来なかったからです点と付き人達は言う。

その時、あ〜!あれじゃ、あれじゃ!とオサムが騒ぎ始めたので、飛び蹴りして黙らせた掛は、失礼!と詫びる。

顔のことでは気を使わないで下さい、そして二度と口にしないで下さいと2人は指示する。 そんな2人の間で、茶山はへらへら笑っていた。

この入れ墨を私は岐阜で入れられました…と付き人2人は教える。

子供の頃、僕は発狂していたのです、人の脳を味わい、恐ろしい淫楽の愉悦に浸り、悪魔と合体したエグボの聖剣なのです、茶を持ってきましょう…と付き人達は言う。

茶の倫理…、茶倫ですと言いながら2人は立ち上がると、宇宙が砕けますよ…と言う。

一緒に立ち上がった茶山も部屋を出て行く2人と共について行く。 その頃、笑いを堪えて退室した江下レの魂次は…(とナレーション)

土間にうつぶせになって笑いをかみ殺していたが、そこに見知らぬ娘が奥から出て来る。

もし?お加減がお悪いのですか?と話しかけて来たのは茶山の奉公人ろん(北川景子)と言う娘だった。

いえ、大分収まりました…と答えた魂次はろんを見て、恋をしていた。

それは良かったです…と微笑むろんに、あなたは?と魂次が聞くと、ろんです、茶山殿の身の回りの世話などしておりますと答える。

そうですか…と言いながら立ち上がった魂次は、つばで髪をなで上げ、私は黒和藩から来ました…と自己紹介しかけるが、その時奥から、どうした?いたいた、魂次さん、何やってんの?と言いながら掛が近づいて来たので、その後が続かなかった。

茶山さんが一緒に来てくれるって…、後、お茶も煎れてくれたよと掛は教えるが、ろんに一目惚れした魂次は上の空だった。

ろんがその場を立ち去ろうとしたので、お待ちくだされ!と掛は呼び止めるが、ろんが立ち止まって不思議そうに見返すと、いや、勘違い…、失礼しましたと詫びる。

ろんが立ち去ると、可愛いな!と掛が呟いたので、それに気づいた魂次は気が気ではなくなる。

黒和藩貧民街(スラム)

めし処「変粉(へんこ)」を拠点とすることにした掛は二階の窓から外を見回しながら、乞食が増えたな~と呟いていた。

牛逐藩からの逃亡民か?と聞くと、逆です、当藩で食いつぶし牛逐へ逃げた連中が追い返され居着いたのですと魂次が教える。

あれオサムは?と掛が気づくと、念動力のことを話すと、ちょいと貸してくれって茶山さんが…と孫兵衛が言う。

その時、騒ぎながら近づいて来たオサムを先頭に、ろん、茶山、2人の付き人が貧民街にやって来る。

あの黒い太鼓を持った男は?と孫兵衛が聞くと、縄次(ジョージ)って出島からの脱走者ですと魂次が教える。

茶山たちが、舞台のような場所に上がり込むのを見ていた掛が、しかしろんって言うのは良い女だな~と呟くと、魂次は苦笑するが、やっぱり茶山さんと出来てるんでしょうねと孫兵衛が言うと、いや、それはないでしょうと魂次が答え、俺もないと思うな~と掛も答え、万が一そうでも…と言うと、何ですか?と魂次が気色ばんで来る。

え?いや、何でもないよ…と掛は苦笑するが、あの女、ここだけの話、俺に気があると思います!と魂次が宣言したので、こいつ、とんでもないうぬぼれだな…と掛は呆れ、優越感を感じた。

その時、孫兵衛が始まる!と舞台の方を見ながら言う。

太鼓が叩かれ、茶山が妙なポーズをとると、あなた方は悩みを抱えていませんか?と2人の付き人が民衆に呼びかける。

あなた方は苦しみを味わうために生まれて来たのですか?違います、全ての快楽を味わう爆笑野郎、それが本来あるべき姿です! この世の創造主はエグボですとろんが言う。 エグボはこの世を人間お花のような可愛らしい形にしようと考えた…と付き人達は言う。

そこへ大村と言う男が現れ、この世をメンコのような形に使用と言いだした! 議論は果てしなく続き、完成した世界を見てエグボは激怒しました! 何だこの世界は!とろんが言う。

そしてエグボはろんの脇腹を竹べらで刺し、流れる血でサナダムシをこしらえたのです! エグボは言った! 条虫よ、虚妄の世界を丸呑みにしてしまえ!とろんが叫ぶ。 それがこの世、ここは条虫の腹の中!と付き人達が言う。

皆さんは条虫が腹に貯め込んだ糞なのでございます!と付き人が言うのを聞いていた掛は、何言ってるのか、分かんねえ~と苦笑する。

しかし孫兵衛だけは、その言葉を真剣に聞いていた。

あなた方の良い行い、全て無意味である、エグボ様は条虫の腹の中を決して認めない! 悪いのはお前じゃない! バカ!糞共!と太鼓を叩きながらジョージが叫ぶ。

世の中が悪いのです!だから腹を振りましょう、髪を冒涜しましょう!と2人の付き人は言う。

「おへど」になって外へ出よう!とジョージが叫ぶ。

「おへど」になって飛び出そう! オサムは桶の水を口に拭くんで霧吹きすす。

茶山はずっとへらへら笑いながら奇妙な踊りを踊っていた。

さすが茶山さんの腹踊りは素人目にも一味違うな~と掛は感心すると、そうですかね~?醜悪で見るに耐えない…と孫兵衛が反論する。

でもあの腹を見てると、何だか哀しい…と魂次が言うので、ええ?そう?可愛くない?と掛は言い返す。

とても哀しい…と魂次が言った時、急に孫兵衛の様子がおかしくなる。

世の中が条虫の腹の中なんて!と憮然としたように孫兵衛が言うので、あっけにとられて振り返った掛は、御主、腹打っとるぞと指摘する。 確かに孫兵衛の腹は蠢いていた。 それに気づいた孫兵衛は、あ、やばい、これ!と自分で慌て始める。

掛は笑ってみていたが、おへど!おへど!と言い出したは着物をはだけだす。

そして、ああ、もう我慢できない!と叫ぶと孫兵衛は、孫殿!と止めようとする魂次の言葉も無視して窓から外へ飛び出して行く。

いやっほ~!そうだったのか~!と叫びながらは舞台目がけて突進して行く。

掛と魂次はそんな孫兵衛を見ながら、気が違ったのか?と驚く。

否そうではない、彼は常日頃から飽和状態、つまり一杯一杯だったのだ…(とナレーション)

分不相応な昇進、身の丈に合わぬ身分、追い込まれると気絶する癖…、抱えきれない悩みと苦しみが小さな器からこぼれ落ちそうだった… え?彼、サクラ?と魂次が聞くと、いやいやそんな指示は…と掛も戸惑う。

何かにすがりたい!いや、何かを信じ切ることで思考を停止させなければならないほど追い込まれていた…、何でも良かった、我を忘れて熱狂出来れば…、夏フェスでも反戦デモでも何でも… 紫色の褌一丁になった孫兵衛は、貧民達とともに狂ったように踊っていた。

狂ってはいない…、彼はどこにでもいる安上がりな若者だった!(とナレーション)

おいちょっと大丈夫か?と二階の窓から見下ろしていた掛は案ずる。 ここはとりあえず成功…ってことで、早く内藤殿に報告を…と魂次は答える。

腹を振ってふざけておれば良い!と2人の付き人が呼びかける。

おへど!おへど! 驚きましたね、あんなインチキで容易く盛り上がるとは…、だって信じないでしょう、普通…、この世がサナダムシの腹の中なんて…と、掛とともに内藤の家に向かう魂次は苦笑する。

しかしずっと考え込んでいた掛は、違えよ、奴らは正しいから信じるんじゃない、自分が信じたいことを信じるんだよ…と立ち止まって言う。

お前らがなくして生きられないような世の中が間違っているって、そっちの方が都合が良いから信じるんだよ… その時、ろんが何かを孫兵衛 をくわせ、これは時軸の実ですと言う。

聖なるエグボのおへどですとろんは言いながら実を差し出すと、民衆にばらまきだす。

それに群がる貧民達。 無表情に身を巻き続けるろん。 集まった群衆に、ありがとう、ありがとう!とハイタッチをしながら礼を言う茶山。

そこに、何だ、この騒ぎは?退け、退け!と言いながら乱入して着たには黒和藩同心(ポリス)江部荘二郎(えべそうじろう)だった。

茶山の前に来た江部が、お前が首謀者か?と聞き、来い!と命じると、触れるな!汚れた犬!立ち去れ!と付き人達が杖を床に叩いて告げる。

誰が犬じゃ?このアホめらが!と江部が群衆を罵倒すると、手に持った十手で茶山の額を殴りつける。

流血した額を押さえ、痛い!何するんだ!バ~カ!と茶山は嬉しそうに笑って言う。

おめでとうございますとろんが言い、あなたは茶山の額を割った!と付き人2人が同時に言う。

この世界にほんの小さなヒビをこしらえた!その功績によってあなたを…と付き人が言うと、来るぞ、来るぞとジョージが呼びかける。

おへどにさせていただきます!と付き人達が宣言する。

オサム、この者をおへどにしてしまいなさい!と付き人達が命じると、できませ~ン、できませ~ん!とオサムは、茶山の足下に隠れて拒否する。

その時、群衆の中にいた孫兵衛が、オサム、やっちゃえよ!と命じる。

兄貴!と喜んだオサムは、舞台上に置いてあった石に向かって念を放出させ始める。

握り飯の恩を決して忘れない律儀なオサムだった…(とナレーション)

すると石が空中に浮き上がり、更に念を送ると、石は吹き飛び、江部の腹にぶつかって、江部の体は群衆の中に吹き飛ばされる。

おへどにしてしまえ!と付き人が命じると、群衆は一斉に江部に殴り掛かる。

良くやったオサム、褒美だ!と付き人が言い、茶山が近くから風車を持って来て渡すと、オサムは大喜びする。

ジョージが太鼓を叩き、舞台に上がった孫兵衛 もろんや茶山と一緒に踊りだす。

内藤帯刀私邸にやって来た魂次だったが、人の気配がなかったので、城にでも一旦ですかね?と掛に呼びかける。

屋敷の中に上がり込んだ掛は、番人くらいいるだろうと言い、ご免下さい!と呼びかける。

異様だ、この静けさ…、掛は得体の知れぬ不安に襲われた。(とナレーション) その時、はあ!と魂次が叫んだので、ビビった掛は何だよとうろたえながら聞く。

すると別の部屋で魂次が書状をもっており、それを読むと、さるまわ奉行大浦主膳からのインビテーションだった。

1人前の猿回しになった姿を是非殿にお見せしたいと一筆したためた所、ならば城内の者総出で屁高村まで見物に行こうでじゃないか…と、相成ったのである。

内藤ら重役たちは無論冷やかし半分であった。

殿、お久しゅうございますとすっかり猿回しの姿が板に付いた主膳と長岡が黒和直仁を迎え挨拶する。

大浦、壮健か?と聞いた直仁も久々の再会に嬉しそうだった。

うん、では早く猿を回せと直仁が命じたので、え?と戸惑いながらも御意と主膳は答える。

内藤は、よ!さるまわ奉行!と扇子を振り上げてからかうように声をかける。

それではこれよりお猿さんの芸の数々をごらんにいれましょうと主膳は舞台上で挨拶する。

私、元黒和藩の家老職にありました大浦主膳と名乗ると、見ていた家臣達が嘲笑して来る。

その屈辱をぐっと我慢した主膳は、親しみを込めてシュンチャンと読んで下さいと愛想笑いし、観客がシュンちゃ~ん!と呼びかけると、そして私の相棒、変太郎!と猿を紹介する。

編太郎は後ろを向いてしまったので、変太郎、殿にご挨拶を!と命じるが、変太郎は言う事を聞かずに主膳を蹴り倒して、その顔を足で踏みつけたので、内藤達は大喜びする。

しかし直仁だけはにこりともせず、これ大浦!その猿、何故に挨拶しないのだ?無礼であろう?と聞いて来る。

舞台上でまだ編太郎から顔を踏まれて倒れていた主膳は、ああ、恐れ入りましてござりますると答えると、恐れ入らずとも良い、バカで挨拶をせぬのなら良いが、横着にて挨拶をせぬのならその方ら、きつく折檻すべきであると直仁は言い出す。

その言葉に驚き起き上がった主膳は、恐れながら申し上げます、ただ今ごらんにいれましたるは、猿の芸にございますと答えたので、芸?挨拶をせぬのが芸と申すのか?と直仁は不審がる。

さようでございます、人間である手前らが師匠である猿に翻弄されると言う権力構造の逆手に滑稽味が生ずるのでござります故、簡単に挨拶せぬよう訓練してございますと主膳は説明する。

しかし直仁は、分からん!もやもやすると苛立ち、内藤、おもしろいか?と横にいた内藤に聞く。

はあ、まあおもしろいと感じるか否かは感性の問題ですと内藤が答えると、余は感性が鈍いと申すのか?と直仁が絡んで来たので、いえいえ、そのようなことは…と内藤は否定する。

すると舞台袖にいた長岡が、猿回しは芸そのものにあらず、猿が人に対して粗相をしたり反抗したりすると言う地位の反転こそが庶民にとっては痛快なのでございますと説明する。

まだ納得いかぬと言う顔つきの直仁に、しかし殿ご安心くだされ、簡単には反転致しません、最終的に猿は反省し、芸をしますと長岡は言う。

それを聞いた内藤は、お前、俺言っちゃったらもうお終いだろう…と顔をしかめる。

ならば始めから素直に芸のみを見せれば良いと直仁は言う。

しかしその…と舞台上の主膳は困惑するが、芸に自信があれば小細工は必要なし!違うか?と直仁は言う。

主膳は、はっ…と頭を下げるしかなかった。

その頃城中では、裸で腹を突き出した男達が、おげど!おへど!と良いながら繰り出していたので、事情が分からない女共は悲鳴を上げて逃げ出す。

屁高村では、主膳が猿の玉乗りを披露していた。

なるほど、猿が球に乗るから玉乗り、その方の申す通りじゃ、愛分かった…、次は?と直仁は感心する。

町中では腹踊りの連中が家屋敷に乱入し、大混乱が起きていた。 腹踊りの連中はもはや暴徒と化していたのである。

次の芸は銭取りと言って桶の中の銭を拾います…と主膳がつまらなそうに紹介していた。

ええ、本来であれば客を笑わせるために、こいつはがめつい奴で~等と漫才しますが、それは割愛します!え、猿は餌が欲しくてやるんです…と主膳は冷めたように言う。

銭を投げちゃ行かんぞ、そうだ、罰の当たるような事をするでないてんなどと芸を始める。

それを熱心に見ていた直仁に、殿、ここらで休息を取られては?と内藤が勧めると、急速?我らは今休息に来ているのではないのか?と直仁は聞き返す。

ええまあ…、休息は休息ですが、その休息を更に休息したら、もっと休息できるのではないかと…と内藤は答える。 その時、内藤様…と、背後に魂次が来ているのに気づいた内藤はそっと座を外す。

殿は今休息中じゃ、後に致せ…と叱ると、腹が、腹が…と言いながら魂次が自分の腹を動かしてみせるので、腹がどうした?と内藤が聞くと、「腹ふり党」が来ましたと魂次は告げる。

それを聞いた内藤は、やった~、そうか、遂に着たか…と安堵したような笑顔で応えるが、来るように仕組んだんですから来るのは当然で…と魂次は言い、ただちょっと心配なくらい盛り上がっちゃって…と付け加える。

腹ふり連中はすっかり暴徒化し、腹に模様を描いた連中が城になだれ込んでいた。

一揆のような状況になっていた。

城の壁には落書きまで描かれる始末。 そんなのガンガン弾圧すれば良いんだよと事情を聞いていた内藤は言い聞かせる。

ですが、数がちょっと多くて…と魂次はビビるので、多いって2~30人?と聞くと、いやもうちょっと魂次は答える。

所詮は百姓町人だ、槍と鉄砲で脅せば恐れて解散する…と内藤は言うが、ええまあ、4~50人ならそうでしょうけど…と魂次が苦笑するので、何?1日で100人も集まったと言うのか?と内藤が聞くと、現段階で1000人…と魂次は答える。

ろんが踊りながら、アラビアンナイトのような衣装を着た半裸の女性陣と褌一丁で踊る孫兵衛を引き連れて町を練り歩く。

集まれ!腹を振って、勝ち割れ!と付き人が叫ぶ。 何でそんなになるまで放っておいた!と内藤が魂次に切れる。

内藤が怒るのも無理はなかった…、黒和藩の兵力は現在ここにいる30人のみ… 加えて100人いた足軽も内藤が経費削減と称してリストラしたため20人に減り…(とナレーション)

50人で1000人を弾圧できるか?と内藤は悩む。

そこに、如何致した?どうした内藤?と言いなが直仁が近づいて来るが、うるさい、今考えてる!と答えながら振り向いた内藤は、直仁を見て固まる。

いや、違うんですとへりくだった内藤は「腹ふり党」が御領内に…と打ち明けたので、猿回しを見ていた家臣達も驚いて振り向く。

舞台上の主膳もその声を聞いて驚いていた。

「腹ふり党」…と直仁が呟くと、いかにも!しかし御心配なく!対策のエキスパート掛十之進が収束に動いておりますと内藤は答える。

殿、今宵は大事を取って、こちらに一泊致します…と内藤は申し出る。

掛は、暴徒化した腹ふり当の連中の中に入り込むと、おい!茶山さん、どこだよ!と聞く。

城下は争乱状態 エキスパートはピンチだった。(とナレーション)

飛びかかって来た暴徒を殴り飛ばしていた掛だったが、迫り来る群集の領には敵わず刀に手をかける。

するとさすがに群衆は前に出て来なくなったので、一丁前に刀が怖いか?と掛は笑う。

かかって来いよ!と怒鳴りながら刀を抜きかけた掛だったが、その手を止めたのはろんだった。 ろんは群衆に手を掲げ、道を開けなさい!と命じる。

すると人ごみが道を開けたので、ろんと掛はその場を逃げるが、それを目撃した魂次は、うん?と首を傾げる。

一方、その夜、屁高村に泊まることにした内藤が外の猿の檻の前に近づいて来たことに気づいた主膳は、おうと声をかけ、久しぶりだな、大浦…と内藤も声をかけて来る。

楽しんだか、内藤?俺を笑い者にしようと家中一党打ち揃って見物に来たのだろう…と主膳は指摘する。

だがムダじゃ、今の俺の気持を率直に言うと、猿回しも家老も同じように惨めだと言うことだと主膳は言う。

あのような醜態を晒したのではなあ…と内藤が皮肉を言うと、俺は俺自身を哀れみ、お前のことも哀れんでると主膳は答える。

腹ふり党が城下に現れ、暴動が起きている…と内藤が明かすと、そのことをお前は喜んでいるように見えるな?と主膳が指摘すると、ある面においてはな…と内藤は認め、お前の猿回しを見て、俺は良心にとがめる所があった…と明かす。

しかし「腹ふり党」は本当に来た!俺は正しかった…、お前はなるべくして猿回しになったのだと内藤は言う。

俺は、俺はもし城内に腹ふり党が現れるとしたら、それはお前が仕組んだやらせだと睨んでいたよと主膳は心で考える。

「腹ふり党」が全滅したことくらい知っている、だがそれを俺は殿に言うつもりはない…、俺は猿が好きなんだ…、そんな自分を本当に哀れだと思う…と主膳は心で考えていた。

聞こえぬはずの主膳の言葉が内藤には聞こえたような気がした。

猿の檻の中を覗き込む内藤… それは2人にとって和解の夜だった、お互いを絶対認めないと言うことを認め合ったと言う意味に於いて…(とナレーション)

地獄ヶ原原ふり会場

一味は河原を本拠とし、天幕を張り、やぐらを建て、のべつ太鼓を鳴らしていた。

天幕の中中央で大の字に寝ていた茶山の所に来た掛は、おつかれさまです~!大成功ですね、自分も座り込んで笑顔で付き人達に語りかける。

「腹ふり党でっち上げプロジェクト」は、もう十分成立しましたと掛は報告する。 いや~、今の時点でもう明らかにやり過ぎです。

横になった茶山は寝ては折らず目を見開いて微笑んでいた。 せいぜい100人くらいで良かったのに、2000人以上のアホが答えてるじゃないですか? そこにはいってきた魂次が何言ってんだ?今宵殿は屁高村に停泊なさいますと付き人達に報告し、明日の朝までに収束させてく浅井と頼み、ちらちら食事の支度をしていたろんの方を見る。

それを聞いていた掛は、いやいや自然に収まっちゃまずいでしょう?ね?アホなの?と口を出す。

あくまで藩の、黒和組によって鎮圧された形でお願いしますと掛は頼む。

その時、付き人2人が、くるみ汁をお召し上がりくださいと声を揃えて勧める。

え?踏みにじる?と魂次がボケると、横になっていた茶山が起き上がり、寒そうに震えだす。

その時、ろんが2人分の汁碗を掛の横に持って来る。

茶山さん、これ飲んだら騒ぎ収めて下さいねと頼むが、魂次は何か嫌な名前の汁ですね?と言うので、良いからと注意し、一緒に吸う。 罪のない者の汁は澄んでいます…と付き人達が言う。

しかしこの偽りの世に罪のない者などいません、このくるみ汁が澄んでいるのは、死んでおへどとなった者の首だからです点と付き人が言うので、魂次は驚き、掛は毛が入ってるよと指に絡み付いた髪の毛を差し出して言う。

恐る恐る、鍋に近づいた魂次が中を覗き込むと、ほら、旨そう!とオサムがふたを開けた鍋の中には人の首が数個入っていた。 2人は外で急いで嘔吐する。

この時改めてこの騒動は到底自分たちのコントロールの利く物ではないと掛は感じた(とナレーション)

斬っちゃおうか…と掛が呟いていた時、御代わりするか?と言いながら茶碗をオサムが2つ持ってでて来たので、斬っちゃおう、おおオサム、俺、あいつ斬るから?と言うと、あいつ斬る?オサムは押さえる?とオサムは言う。

茶山だよ、ありゃやばいだろう!話の通じる開いてじゃない!と掛が話すと、今すぐに雇い主に報告しなさいと言う声が聞こえて来る。

あ?と掛が見上げると、そこには柄杓に入った水を飲んでいる茶山がいるだけだったが、声は付き人2人の物だった。

我らはこれから城を焼きます、これはエグボの御心です、茶山はこの入れ墨を…と言って来たので、岐阜で煎れられたんだろう?だったら何だよ!と掛が言い返し、オサム!ち呼びかけると、出来ん、できませ~ん!とオサムは自分の頭を抱え込んで拒否する。

ああ、もう良いよ!と焦れた掛が刀を抜いて茶山に斬り掛かろうとすると、突然、オサムが念動力で掛の身体を回し、茶山から引き離そうとして来る。

繰り返すが、アホのオサムは世話になった者の言うことしか聞かない、つまり現状、掛を助けることが出来るのは過去に握り飯をくれたこの男だけである…(とナレーション)

その孫兵衛は体中にサナダムシの印を描き踊り狂っていた。

腹ふり太鼓~!と孫兵衛が絶叫すると、群衆と共に踊りだす。

天幕の中に吹き飛ばされた掛は、オサム君ちょっと落ち着こうか…と迫って来たオサムに言い聞かそうとする、 魂次!お前からも言ってやって!と頼むと、なんで?と魂次は言って来たので、え?何でって何で?と掛は戸惑う。

オサムは念動力でたぎった鍋を空中に飛ばし逃げる掛にぶつけようとする。

足に汁がかかった掛は熱がって飛び跳ねる。

その時突然魂次が悲鳴を上げたので、何だよ?と掛が驚くと、つうかさ、前々から思ってたんだけど、まるで俺のこと部下みたいにああしろ、こうしろって言うけど、俺、あんたの部下じゃねえんだわ!内藤殿の密偵なんだわ!と魂次は掛の顔に自分の顔を近づけ言い放つ。

つう事は、俺とあんたは同格だよね?と身体を離しろんの前に来た魂次は冷静に言う。

腹ふり党については俺の方が断然詳しかったし、あんた口ばっかで何にもしてねえし!そこんとこどう考えてるのかな?自覚あんのかな!と文句を言って来る。

面倒くさい時に面倒くさいことを言いやがって面倒くさい奴だな…と掛は思った(とナレーション)

掛が剣を鞘に収めると魂次はろんの前に立って顔を見つめて来たので、ろんは面食らう。

城を焼きます、雇い主に報告しなさい!と月ブチ2人が命じる。

掛と魂次は屁高村へ向かった…、会話はなかった(とナレーション)

監視役としてろんが付いて来た。

途中級に立ち止まって後ろを振り返ったろんが、十之進殿、西の空が…真っ赤!と言う。

塀に落書きされた黒和城が炎上していた。

松明を持った腹ふり党の一味がおへど!おへど!と叫びながら城の周囲を駆け回っていた。

町からも火の手が上がっていた。

城が…、我らが黒和城が燃えている…、何故だ?何故こんなことに!と屁高村にいた長岡は泣きながら叫んでいた。

御前会議が行なわれ、何が腹ふり党だ!所詮は百姓町人、土手上に鉄砲隊並べて一斉に射撃すりゃええ、徹底抗戦しましょう!などと口々に無責任な発言が飛んでいたが、鎮まれ!とそれを制した直仁は、報告を続けろ、掛!と命じる。

はっ!と答えた掛は、2000人の腹ふり党による強盗強姦殺人と言った狼藉が後を絶たず、城下はごった返しておりますと報告する。

しかも奴らは罪の意識が微塵もない… これは腹ふり党に紋章ですと言いながら、掛は渦巻き模様が描かれた布を広げてみせる。

このような旗が至る所に掲げられ、参加者は思い思いに寄せ書きをしておりますと掛が指摘すると、血で書かれておる…と内藤が確認する。

腹ふり、ありがとう、気持良い仲間と気持良い空間を共有してるって感じ?と内藤が読み上げると、改善の余地はあるけど、茶山さん始めスタッフの努力には感謝しかない、また来年も来るよ!と掛も読む。

もう良い!と制止した直仁は、直ちに城下に向い、悪党を征伐する!馬、引けい!と命じるとすっくと立ち上がる。

はっと家臣達が答え、直仁が前に出た時、殿!お座りくださいと言いながら肩を押さえたのは内藤だった。

放せ内藤!城を焼かれてじっとしていられるか!と直仁は叱りつける。

しかし内藤は、これは戦ですよ?綿密な作戦を立て十分な準備を整え、満を持して敵を殲滅すべきです…と内藤は言い聞かす。

それを聞いた直仁は、うん、けだし正論!と納得し、もう一度座る。

我ら100人にも満たない、多勢に無勢じゃ…、今は自重が肝要かと…と弱気な発言が出始める。

すると一斉に、自重!自重の意見が巻き起こる。 そもそもこうなった原因…、責任の所在を考えるに、腹ふり党対策の担当者である内藤さんの処分、切腹とかそう言う考えはないんですか?と言うものが出来て来たので、何を言う!と反発し、今は戦略を!と内藤派直仁に進言する。 それは自嘲ってことでまとまったじゃない!話反らすんじゃないよ、職務怠慢!と反論がでる。

私にはこれなる掛十之進が専門家と言うことで、信頼し切って任しておいた…と内藤がもごもご言い訳し始めたので、責任を押し付けるのか!切腹だ、切腹!任命責任でしょう!などとかえって反感を買う。

その時、刀を抜きながら前に進み出た掛は、私が腹を斬って問題が解決するなら斬りましょうか?と挑発したので、これ、十之進!と内藤が小声でなだめる。

何なんですか、さっきから聞いてれば話が揃いも揃って、誰かが自重と言えば自重、切腹と言えば切腹、情けない!と掛は嘆いてみせる。

茶山には慎重論も正論も通じねえぞ!と刀を収めてあぐらをかいた掛は言い切り、誰か建設的進歩的な意見言える方いないんですか?と聞く。

その時、じゃあ、俺そろそろしゃべって良いかな?と言う声がする。

誰の発言か掛が部屋の中を見回していると、主膳の後ろの奥に座っていた者が、はいと挙手する。

前に進み出たには上下袴を着た猿で、進歩的かどうか分かんないよと戸に片手をついて言うと、けどまあ興味あるならしゃべるわと言う。

ほれデウス!殿の御前で無礼であろうと主膳が諌めると、だけどこいつらの口から打開策出るの無理だし…とデウスは言うので、言葉が過ぎるぞデウス!と長岡も叱る。

いや、そう言う問題じゃない…とぶつぶつ言うデウスを見て、内藤も直仁も掛も、出席者達全員も唖然としていた。

わしは気が狂いそうです…と内藤がぼやく。

これはどう言うことだ?と直仁が問いかけると、あ、これはお見苦しい者をごらんに入れました…と主膳は詫びて来たので、見苦しいと申しておるのではない、余は何故、猿が人の言葉をしゃべっておるのかと問うておる…と直仁は言う。

あ、それは…、皆目分からないんでございますと主膳が答えたので、分からんですむか!猿がしゃべっておるのだぞ!と直仁は叱る。

ええ、ちびっ子には刺激が強過ぎます故、舞台には立たせておりませんと長岡は答える。

もう良い、余が直々に取り調べると直仁が業を煮やすと、これ猿、こちらへ参れ!と命じる。

はいはいはい…と嫌そうに答えたデウスが直仁の前に進み出たので、出席していた家臣達は動揺する。

掛も立ってデウスに道を譲り、内藤は怯えて柱の陰に身を隠す。

直仁の前でひれ伏したデウスに、顔が見えぬ、表を上げい!と内仁は命じる。

はっ!と答え、顔を上げたのは、全身白い毛におおわれた人と同じ大きさの白猿だった。

その顔を凝視した直仁は、なるほど!完全に猿だな!と納得し、名はあるのか?と問いかける。

城猿は、大臼延珍(でうすのぶうず)と申します、大きな臼と書いてデウスですと答える。

で、何なんだデウス?何故そのようにべらべらしゃべる?と直仁が聞くと、基本的にどの猿も人間の言ってることは理解できるとデウスは答え身体を起こす。

ただその場合、そこに言葉がない…、自分と世界があるのみですとデウスは言う。

しかしある時、僕は僕の頭の中に言葉が満ちていることに気づいた、言葉によって出来たもう一つの世界がそこにあったんだ…と言うと、柱の陰に隠れている内藤に気づく。

内藤は思った、こいつ何言ってるか分かんねえぞ…、あるいは私の気が違ってしまったのか?(とナレーション)

目の前の男は本当はただの人間で、私にだけ猿に見えているのか? と言う言葉で形成される世界のことだね…とデウスが指摘したので、貴様、人の心が読めるのか?と内藤は聞く。

いや、そう言うんじゃないよ、たまたま俺が言語が出来るだけで猿はこのくらいのことは考えてる、漫然とね…と答えながらデウスは姿勢をもっと崩す。

目上の人間には警護を使え、後、尻をかくな!と言いながら内藤が柱の影から出て来ると、いやいや、猿だから…とデウスは自分を指差して答える。

猿がしゃべると言うのを私は放置できない、藩の秩序を維持する者として…と直仁が言い出す。

ではどうします?死刑にするんですか?とデウスが聞くと、そうなるな…と苦しそうに直仁は答える。

僕が死んだら秩序がもっとおかしくなるけどね~と言いながら、デウスはさらにリラックスした姿勢になる。

その態度を見かねた内藤は、もう我慢なりません!と言うと前に出ようとしたので、ち、ちょっと待って下さいと止めた掛は、腹ふり党は正に秩序を乱す存在、それはもしかしたら猿がしゃべるより半秩序?なのかな?と言う。

とにかく猿の話、聞いてみれば?と掛が勧めると、いるじゃん、分かってる奴!とデウスは掛を褒める。

御主、何か妙案があるのか?と直仁が聞くと、いや妙案ってほどでもないけど、ようするに兵隊が足りないって話だよね?だったら僕の兵隊使っても良いですよとデウスは言い出す。 兵隊?と直仁が聞くと、猿ですよとデウスは言う。

ろんは猿の子を抱いて嬉しそうだった。 猿の檻の前にいてろんの姿を見ていた魂次はろんに対する恋心が極めて激しい物だと言うことを初めて知った(とナレーション)

魂次はろんに近づき、可愛いですねと微笑みかける。

ええ、猿は良いねえ…、いやされる…母性がむずむずする…とろんが笑顔で言うので、ゴリラのように上を向いて胸を両手で叩いた魂次は、今しかない…と感じ、ろんさん?と話しかける。

何?とろんが振り返ると、ろんさん、私の嫁になってくれませんか?と魂次は告白する。

するとにっこり笑ったろんが嫌ですと即答したので、キャ~、キャッキャッと猿のように吼えた魂次は、分かりました、私はちょっと屁をこいてきますと言い残し、ろんが笑顔で頷いたので、門の外に出ると、嫌だ~と叫び、上着をその場で脱ぎ捨てると走り去る。

そして魂次は帰って来なかった…(とナレーション)

その頃、藩主黒和直仁は…、己の運命をしゃべる猿に托す決意を固めていた… デウス、今一度申せと主膳が地図を前に聞くと、まず屁高村の猿が50匹、数は少ないが高度な訓練を受けた立派な兵士ですとデウスは言う。

平原でこそ人間に劣るが、山岳地帯でのゲリラ戦、市街戦なら人間など敵じゃないよねとデウスは言うので、どう言うことですか?と掛が聞くと、僕らは木の上、屋根の上を進めるから一瞬にして敵に肉薄できる訳、顔面に飛びつかれ顔をかきむしられて刀や槍が何の役に立ちますか?とデウスは言う。

さらに僕が一声かければ日本中の山から猿がついて来る、1000や2000は雑作もない、 勝てる!と内藤が呟いたので、油断は禁物です、デウス殿が国中の猿を集めるように、奴ら国中のバカを集めてしまう…と掛が言い聞かす。

猿とバカの戦いか…と内藤は考え込む。

策を練りながら掛はどこか冷静だった…、何だ、この会議は?(とナレーション)

では今夜中に伝令を出しておきましょう…、と言い残して猿は去りますとデウスは座を外す。

猿は去りますと猿は去った(とナレーション)

どうかしてる… 皆さん!明け方に出立し、夜明けとともに腹ふり党本拠地を攻撃しますと掛は全員に言い渡す。

殿、一旦休んで休息を…と掛が気づかい、1人会議室に残る。

俺は人とも猿とも話が出来ていた…、対等に… いや、それ自体が妄想で、俺はよだれを垂らして訳の分からないことを喚いていただけなのかもしれない… 全ては妄想… 狂った世界で俺は正気で、頭が痛い…と掛は猿の牢の前で考え込んでいた。

そこに、十之進殿!と声をかけて来たのはろんだった。 ゼウス殿がこれを…と言って、ろんは紫の布のような物を渡す。

ろんさん、あんたはこの屁高村に隠れてろ、戦が終わったら必ず迎えに来る…と掛は命じる。

そんな掛の手を握って来たろんは、気を付けてね、バイバイと言って立ち去る。

そんなろんを見つめていた掛の背後に、どうやら自分に惚れているようなろんに本気で惹かれ始めている掛であった…ちてな…とデウスが近づいて解説する。

何すかこれは?と風呂敷を聞くと、目印ですとデウスは言う。 翌朝、出立前に、大軍団はデウスの指示に従って行動せよ!と内藤が命じる。

赤い立派な鎧兜に身を固めたデウスは、猿達には紫頭巾をかぶった者は襲うなと徹底していますと説明する。

逆に言うと、これをかぶらないと、目玉をほじくられたり、鼻を噛みちぎられますよ…とデウスが脅すので、出陣前の侍たちは全員慌てて紫の布で頭をくるむ。

紫の頭巾を頭に巻いた軍団が揃うと、その前に立った黒和直仁が、さあ、黒和猿軍団、私に続け!鬨の声をあげよ~!と 檄を飛ばす。

軍団一同はおお!と声を上げと命じ出陣する。

夜明け前、ネオ腹ふり党首茶山半郎は縄次の焼いたクロックムッシュを食べていた。 やはりグリエールチーズでないとだめだな…と茶山はつぶやくが、ん?と縄次が聞き返して来ただけなので、全く馬鹿ばかりだ…と、茶山はふと、第三者的な気分になって思った。

なんでこんな事になったのか?馬鹿なやつが4人連れ立ってやって来て、馬鹿なことを言うので、ちょっとからかってやっただけなのに…と考えながら茶山は立ち上がる。

立て!太陽が登る!と櫓の上で縄次が叫び、周囲で死んだように眠っていた民衆の中の1人孫兵衛も目覚め、立ち上がると、2日目来たあ!と叫ぶ。

目覚めよ!と言いながら縄次は櫓の上の太鼓を打ち鳴らし始める。

振れ!振れ!おい、2日目だぞ!2日目!おい!と孫兵衛が呼びかけると、他の民衆たちも次々と目覚めて立ち上がる。

やつらは死がどういうものかもわからぬほどアホばかり…、その上、皆トキジクの実で脳がしびれておる、奴らのお陰で俺が殺される心配は当分ない…、が、いつまで続ける?とテントの隙間から、踊りだした民衆を見ながら茶山は考える。

そもそも何の意味がある?隠れて静かに暮らしていれば俺は安泰だった…、それを望んで教祖を売ったのに…と考えながら茶山はテント内に倒れ込むと天に向かって年を込め始める。

すると一天にわかに暗雲が立ち籠め雷光が光りだす。 そんな天候の中、丘の上に陣をとった直仁たちに、鉄砲が4丁、弓矢が4張、兵士50名、猿50匹、これが黒和軍の全兵力である… 射て〜!と内藤帯刀が命じると、一斉に弓矢が放たれる。

撃て〜!と命じると鉄砲隊も発泡し、踊り狂っていた民衆たちに当たる。

それに気づいた縄次が、なんてことしやがるんだ〜!と櫓の上で叫ぶ。

動揺しだした民衆に向かい、礫じゃ!おめえら石礫を持て!おへどじゃあ!おへどにしたれやあ!と縄次は命じる。

それを聞いた民衆たちが狂ったように踊りながら直仁軍の方角へ向かってゆく。 先手必勝!…、にやりと笑った内藤の顔に石礫が飛んできて命中したので、痛い!と鼻血を出しながら内藤は倒れ込む。

民衆たちの石礫が次々に飛んできたので、 土手裏に退散!殿を守れ!と内藤は叫ぶ。

デウス!デウス殿!と呼びかけられたので、何すか?とデウスが聞くと、卒爾ながら猿軍団の突撃をお願い致すと内藤は鼻を押さえながら頼む。

言ったよね?猿は平原での戦闘は苦手なんだよとデウスが答えると、我らもただで見てはおらぬ、援護射撃を致すと内藤は言う。

周囲の侍たちの狼狽ぶりを見回したデウスが、どうかな?と懐疑的に首を振ると、しかし基本的な考え方として猿が人間の弾除けになるのは当たり前ではござらぬかと内藤は説得しようとする。

それを聞いたデウスは、やっぱりね…、いいっすよ、はいはい…と落胆したように答える。

そんなことだろうと思ってたし…とデウスは吐き捨て、だから俺も遠慮なく条件出させてもらいます、勝ったら俺を士分に取り立ててよと条件を切り出す。 そこもとを?侍に?と内藤は意外そうに聞き返してくる。

うんとデウスが頷くと、それはどうかな〜と内藤は笑い出す。 猿だから?とデウスが聞き返した時、何でもかんでも猿にやらせて自分は高みの見物ですか?と掛が言い出す。

侍ってのはさ、戦争になったら半のために命を投げ出す、いつでも死ぬ覚悟がある、だから普段、二本差しして偉そうにふんぞりかえってんだろ?と掛は側にいた直仁に聞こえるように言う。

それを聞いた直仁は、その方の言い分最もである!この様なときのために侍は禄を食んでおるのだ、猿に負けてたまるか、内藤!と答えると、総員、突撃せよ!と命じる。

だそうだ、突撃!行くぞ!と兵たちもやけになったように叫び、ひと足先に飛び出した掛に続いて丘を下りだす。

その時デウスも大きくジャンプし、猿軍団に突撃を命じる。

やはり猿軍団は早かった! 猿たちは一斉に腹ふり党の民主の顔に飛びかかり、掛も民衆の中に切り込んでゆく。

長岡主馬は洗浄をちょらちょら走り回り、1人の敵も倒していなかった。

それでも猿たちが活躍していたので長岡は安堵した。

俺には猿がいる、猿に回されて俺は幸せだ… その時、味方の侍が間違って槍で長岡の頭巾を突き落としてしまう。

頭巾を失った長岡は、いやいや、ノーノー!と怯え、仲間、仲間!と猿軍団に伝えるが、猿たちに襲撃されてしまう。

そんな長岡の死体にデウスは紫の頭巾をそっとかぶせてやる。

長岡主馬35歳、生涯独身であった… デウスはそんな主馬に合掌する。

掛は腹ふり党に対し剣を投げつけ、自らジャンプして敵の顔にまたがり、よいしょ、よいしょ!超睾丸稲荷返しの技を繰り出すが、とか言ってふざけている場合じゃねえな…と冷静に反省し、地面に刺さっていた剣を又握る。

そんな掛に掴みかかって来たのは魂次で、ろんは?と聞くので、知らねえよ!と掛は答えて振り放す。

しかし、おい、すっとぼけてんじゃねえぞ、てめえ!あの女どうするつもりだ!と魂次は言い返してきたので、だから知らねえってんだろうがよと掛は無視しようとするが、手柄も女も独り占めかよ!貧乏浪人が!と匕首を構えた魂次は罵倒してくる。

なあ、この騒ぎ、お前と内藤のでっち上げだってバラそうか?なあ!と魂次は告発する。

その時、驚いたような表情になった魂次の腹から剣が突き出ていた。

倒れた魂次の背後から刺したのは内藤だった。

何だよ、口の軽い密偵め!と内藤は吐き捨て、驚いたように見ている掛にウィンクしてくる。

そして、行きましょうと手を差し伸べてきた内藤は掛の手を掴んでその場から立ち去る。

江下レの魂次、38歳、密偵にしては純情すぎた。

ろん…と魂次はつぶやき息絶える。

デウスと大浦主膳も腹ふり党と戦っていた。

デウス、いよいよ本丸だ!一気に攻め込むぞ、よいしょ!と民衆を切り捨てながら前進しようとするが、背後から、待て!と内藤が呼び止めたので、なぜ?と主膳が聞くと、一旦土手まで下がろうと内藤は提案する。

何故だ?と主膳が聞くと、殿が危ない!と内藤は背後を振り向いて指摘する。

見ると、丘の上で立っていた直仁の顔に次々に石礫が当たっていた。

それでも直仁はしゃがもうともせず立ち尽くしていた。

俺は行く!と主膳は答えるが、ならん!土手まで下がって形成を立て直すのだ!と内藤は主膳の方を掴んで言い聞かす。

何を言う?せっかく距離を詰めたのに!と主膳が言い返すと、100倍の敵に突っ込んで何が勝利だ!猿野郎の猿知恵だ!と内藤はデウスを見ながら叱ってくる。

早く決めてください!と誰かが聞くと、見ろよ…とデウスが丘の方向を振り返って言う。

見やると、直仁の背後には無数の猿が集まっていた。

日本中から掛けさんじた猿たちだった。 言っただろう?俺は国中の猿を集めることができる…と言ったデウスは、内藤と主膳の手を組ませ、その繋いだ手の上に飛び上がり、ジャンプ台にすると回転しながら丘の中腹に建っていた頭部がなくなった仏像の上に着地する。

そして刀を突き出し命令を出すと、猿軍団が一斉に丘を下って行く。

途中の床几(しょうぎ)に座していた直仁を突き飛ばしながら猿たちは腹ふり党へ向かってゆく。

それをあっけにとられ見守る掛、内藤、主膳たち。

そんな中、密かにテントの中に入ってきたのはろんで、街道の北は猿で溢れています、1億匹位いるかも知れませんと茶山に報告する。

猿が?何?猿に圧殺され、クソがクソのように、ヘドがヘドのように死んでゆく!と茶山が興奮すると、これをかぶれば猿が襲ってきませんと言いながら、ろんは紫色の布を茶山に渡そうとする。

本当に?これ!と喜びながら布を受け取った茶山はオサムを呼びつける。

へい、兄貴!と言って嬉しそうに近づいてきたオサムに、櫓に上がれ、この野郎!おめえ!と命じる。

そして我々に近付こうとする人という人、猿という猿をおへどにして差し上げなさい!と2人の付き人が言ってきたので、おへど?とオサムが戸惑うと、彼らは無思慮、無分別、無教育、無思想の珍妙な風体の生き腐れ人間なのです、皆おヘドにしてほしいのです、お前に!やりなさい、今すぐ!行きなさい!と付き人は断じる。

茶山は紫の布を渡しながら行きなさい!と繰り返したので、へい、兄貴!とオサムは答え、紫の布を頭に縛って櫓の上に登る。

地上では腹ふり党と直仁の軍の戦いが繰り広げられていた。 オサムが念じ始めると、地上の人間と猿たちは一斉に空中へと浮かび上がり始める。

それに気づいた掛が、何やってるんだ、オサム!と下から呼びかけるが、声が届かない。

やがてオサムが気合を入れると、空中に浮かんでいた人間や猿たちの身体が真っ赤な花火のように爆発しだす。

内藤、これは何だ?と丘に戻ってきた内藤に直仁が聞くと、さあ?と内藤は答え、北から猿、南からバカが来て押し合いへし合いしたかと思うと、宙に浮かび上がって爆発した…と直仁は訳がわからないと言った表情でつぶやく。

見たまんまでござるなと内藤が答えた一方、主膳は空を見上げながら、太郎!次郎!変太郎〜!花子〜!と愛しい猿たちの名を呼びかける。

そこに戻ってきた掛が、殿!オサムが裏切りましたと報告する。

オサム…、あの薄ら馬鹿の…と内藤は思い出す。 そのオサムがまた念じて、空中に浮かべた猿たちを全員赤い花日のように爆発させたので、あ、又!と直仁が叫ぶ。

お手上げです、今のあいつは茶山の言うことしか聞かない…と掛が嘆くと、何とか致せ、掛!と内藤が無茶ぶりをしてきたので、掛は、はあ!もとはといえばおたくらの責任でしょう!と驚く呆れたように言い返す。

あんなバカ、なにか使えるって理由だけで俺らに押し付けてほったらかすからそのツケが回ってきたんすよ!と掛が責めると、おのれ無礼な!と言いながら、内藤は剣を差し出してくる。

しか背後にいた直仁は、けだし正論じゃ!我らはもっと真剣に取り組むべきだったし、自分たちの手を汚すべきだったのだ…と答える。

それを聞いた内藤は、正論しか言わないんだったら黙ってろよとつぶやいたので、何!と直仁は気色ばむ。

櫓の上のオサムはまだまだ宙に浮かせた人間や猿たちを次々に赤い花火に変えていた。

仏像の頭の上に座っていたデウスは、近づいてきた内藤に、内藤ちゃん、この爆発を止めるのは簡単と言うので、どうすれば良いのだろうか?と内藤が真顔で聞くと、弓か鉄砲であいつを射殺すれば良いとデウスが言うので、ああそうか…と内藤は納得する。

それでどうなるって話じゃないけどね…、人間があんな爆発を起こし、猿の俺がこうして喋っていると言う根本的な問題をなんとかしないと…とデウスはつぶやく。

オサムは今、楽しくて仕方なかった。 子供の頃からバカにされ、虐げられ、その都度ボクは頭が悪いからと諦め、あらゆる哀しみを受け入れてきたオサムの唯一の楽しみが、物を浮かせて爆発させることだった…。

(回想)馬鹿者!爆破で遊ぶとは何事じゃ!良いな?と子供時代のオサムを叱る仙人のような男。

大人に咎められ、やってはいけないことと思い込んだ…。 良いな?やってはならんぞ!と叱る大人に、ごめんなさいと詫びる少年オサム。

馬方になってからも無賃乗車されそうになったので腕を取って、お金…と客にせがむが、乗ってくれって言うから乗ってやったんじゃねえか!金なんかあるか、こら!この阿呆!と逆ギレされ、突き飛ばされた上に足で砂を掛けられる始末。

笑いながら立ち去ってゆく客を前に、オサムは怒りから念動力を使って石をぶつけてしまう。

時々、人に隠れてその力を使っては罪悪感に苛まれた… それを初めておおっぴらに許され、思う存分爆発を実行したが、オサムの心は晴れなかった。

(回想明け)オサムの額に飛んできた矢が突き刺さる。

オサムは櫓の上に崩れ落ち、最後の瞬間こう思った…、でもやっぱり一番楽しかったのは馬方やってた頃だな…、馬鹿だからとカネを払わぬ客には腹は立ったが、楽しかったな…、そう思ったオサムは死んだ、25歳だった。(デウスの独白に、オサムの死体に馬が近づく映像)

掛はオサムの死を目の当たりにし、いたたまれない気持ちになる。 次の瞬間、怒った茶山がテントの垂れ幕を落とし姿を現す。

腹ふり党の民衆たちは一斉に、おへど!おへど!と狂ったように踊りながら連呼し始める。

良いよ!条虫が苦悶しておる!さあもっとがんばりましょう!もっと振りましょう!もっと振りましょう!と付き人たちが声を上げる。

縄次の太鼓の音が響く中、もっと振りましょう!もっと振りましょう!と付き人2人の呼びかけが繰り返される。

彼らが先導するまでもなかった、瓦に集まっているのは木偶同様の付和雷同分子、行列があればとりあえず並び、売れていると聞けば買う、絶対に自分の脳では物を考えないが自分はユニークな人間であると信じて疑わない、そんな連中がこの熱狂に腹を振らない訳がない… 段上のろんも茶山も踊り狂う様子を見ていた掛は、たまらなくなって群衆の中に切り込んでゆく。

ろん!と掛はつぶやくが、当のろんは、そんな掛のことなどあざ笑うがごとく踊り続ける。

さて、こういった場合、物語上重要な人物は後に残り、そうでもない人物から死んでいくものである…、が、例外がいた…と仏像の頭の部分に座ったデウスがつぶやく。

この男である… それは、まだひたすら狂ったように踊り続けていた幕墓孫兵衛だった。

ろんと同じ壇上にい孫兵衛は大勢の民衆の中にジャンプし、来ちゃいなよ!来ちゃいねよ!と民衆に運ばれながら空を向いて呼びかける。

来ちゃえよ!来ちゃいなよ、ろんさん!と孫兵衛は壇上のろんに呼びかける。

民衆も、ろん!ろん!と呼びかける中、意を決したろんは背中から民衆の中に飛び込んでゆく。

おへど、おへど!と唱えながら、腹ふり党の民衆は孫兵衛とろんの身体を移動させてゆく。

そんなろんに駆け寄り、ろん!と呼びかけながら抱き下ろした掛に、十之進殿!とろんも驚く。

刀を振り回し、他のものを寄せ付けないようにした掛は、何故ここへ来た?と聞く。

するとろんは突然掛にキスしてくる。

唇を離した掛は、口の中からろんから口移しで入れられたトキジクの実を取り出すと、俺はこんなものがなくてもいつでも正気を失うことが出来るんだと答え、行こう!とろんの手を引く。

孫兵衛はトキジクの実を食べながらまだ踊っていた。

その様子を丘の上から見る赤い鎧姿のデウス。

デウスは何を思ったか、持っていた剣を投げ捨てると、さて…と言いながら、首のない仏像の上に立って兜を脱ぐ。

デウスは放棄した… 彼は猿として支配層に入ることによって今ある現実を破壊し、新たな世界を築こうとした… しかしまあそんな物は大抵の革命と同じく別に目新しいことではなかった… つまり彼は敗北したのだ… 志半ばにして…と呟いたデウスは天を見上げ、そして突然…しゃべるのを止め、猿のように吼えた… 天に向かって叫びだしたデウスは独楽のように回り始める。

ろんを連れて逃げていた掛は、デウスの身体が赤い竜巻になって空に伸び上がるのを目撃する。

竜巻の上部は光る独楽のように変化する。

ろん、「変粉」で待っててくれ!と呟くと、全てを終わらせて必ず迎えに行くと言う。

天空の巨大独楽の芯の部分は地上に長く伸び、無数の猿達がその芯の部分をよじ上って天に消えて行く。

それを見上げる直仁は、猿が天に退去して行く…と悲しむ。

猿にしては勝ち目がない、我々の負けですと言った内藤は、紫の頭巾を外す。

しかし直仁は、負けてはおらん!と叫ぶ。 腹ふり衆とて元々は我が藩の民…、余が直々に説得致す天と直仁は言うと、勝負毛を内藤に渡す。

ではその方らは尊大寺で会おう!と言い残した直仁は、聞け~!と良い穴柄河原に向かおうとするが、崖から落下する。

地上に降り立った直仁は群衆の中に近づき、聞け~!我が藩の民よ!御主らは騙されている!目覚めよ!目覚めるのじゃ~!と群衆の中に入って叫ぶ。

そんな直仁は群衆達から持ち上げられたので、主膳は慌てて駆け寄ろうとするが、それを内藤が止める。

群衆の中から直仁の悲鳴が聞こえて来る。

だめだったか…と内藤が呟くので、どうしてこんなことになっちゃったんだろうね?と主膳は呆れたように問いかける。

どうしてですかね~と近づいて来たのは掛だった。 掛、御主生きとったか?と主膳が近づくと、掛はいきなり斬りつける。

驚いた表情で倒れ込む主膳。 紫の布を頭から取り去った掛を見て、内藤も刀を捨て、本当に終わらせてくれたな~と笑いかける。 次の瞬間、掛は内藤も斬り捨てる。

睨みつけて来た内藤に腹をさらに薙ぎ払うと、内藤は倒れる。

二刀流になった掛が叫んで駆け出す。 俺はパンク侍じゃ~!と叫び大きくジャンプする掛。

踊っていた孫兵衛は、急に腹が熱くなったことに気づき慌てる。

腹は赤くふくれあがり、 痛い、痛い、畜生!と言いながら風船のようにふくれあがった腹の孫兵衛 は空中に浮かび上がる。

それを目撃した茶山は、あれ、名前何て言ったっけ?と見上げ、狂ったように周囲の群衆達を殴り始める。

赤く膨れ上がった腹の孫兵衛は宙にどんどん浮き上がって行き、ああ、これが「おへど」か~と呟く。

やがて臍からガスが抜け出したので、ああ…、行って来ま~すと孫兵衛は呟く。

腹から噴出したガスは赤い竜巻状になり、孫兵衛の身体はそこに吸い込まれてしまう。

ああ、あれを目指せ~!と天を指差す茶山。

儀とはただ1つの肛門を持っている!みんな違った肛門です!みんな違ったクソ野郎!みんな違って、みんな良い!と茶山は叫びだす。

あの男に続きなさ~い! すると、群衆の腹が赤く膨れ出す。

そして腹が赤く膨らんだ者は全員空に浮かび上がる。

それを見上げながら、ああ、おめでとうございます!ああ、おめでとう!と叫ぶ茶山の目の前に巨大な白い壁が立ち上がる。

その白い空間の中に1人残された茶山は、白い壁も縁に巨大な剣が落ちかかるのを目撃する。

そして平均台を歩くように用心深く前進するとバランスを失い転んでしまう。

茶山はそっと目をつぶる。

貧民街にやって来た掛は水をがぶ飲みする。

ろん!と呼びかけながら、めし処「変粉」の店内を探していると、お待ちしておりましたとろんが店の奥から出迎え

良かった…と倒れ込む掛。

分からないことだらけだ、猿がしゃべり、大猿がおかしな力を使い、俺は人を斬り過ぎた…、そして生きてる…、しかも正気だ…と掛が感激して言うと、急にろんが笑い出したので何がおかしい?と掛が聞くと、のんきなお方と…とろんは言う。

では逆にお伺いします、他のことは分かると言うの?例えばあれ…とろんは店の前を指差す。

そこには電光が横に走っていた。

何だよ、ありゃ!と掛が驚くと、あんなものは自然界には存在しません、でもある!茶山様の言う通り、この今の現実が嘘だからです…とろんは言う。

外に出て横に走る電光に近づいた掛は、確かにこの世は嘘なのかもしれない、だが俺は生きている、俺は他と違う!どんな組織にも社会にも属さず、何も信仰せずこのまま生き延びる!この世の前途は決して問わない! 世界なんて関係ねえ、俺はパンク侍だ! こんな俺と行ってくれますか?と掛が聞くと、はい、どこへでも…とろんが答えたので、感激して、ろん!と言いながら掛が近寄ると、いきなりろんが竹べらで掛の腹を突き刺して来る。

何度も何度も… 何でだよ?とろんに抱きつきながら掛が聞くと、私の顔を忘れましたか?あなたは私の父親を殺したのです!とろんは睨みつけて来る。

お忘れですか?病気の父とメ○ラの振りをして物乞いをする哀れな親子を?と言いながら、ろんは突き刺していた竹べらを引き抜いて身を離す。

これは復讐です、あなたに気がある振りをして近づいたのは直接あなたを殺害するためですと言ったろんは突然笑い出す。

思い知ったか?掛十之進! 倒れ込んだ掛は、何でだよ?この世は嘘だって言っただろう? 何でこんな仇討ちなんかに固執するだよ?と掛は聞く。

どうせむちゃくちゃな世界なんだよ…、真実なんて何の役にも立たない糞みたいな世界なんだよ!と掛は叫ぶ。

だったら、そんなの忘れて生きた方が楽だろう? むかつくからよとろんは言う。

それにこんな世界だからこそ絶対に譲れないことがあるのとろんは言うと、倒れていた掛の側に竹べらを捨てて去って行く。

掛は突っ伏し、俺は嘘の世界で竹べらで肝臓を刺され死ぬのだ、そう思った…(とナレーション)

最後にろんの美しい顔が見たいと願ったが、ろんは振り返らなかった… 掛が息絶えると、ろんは満足したように上に向かって口を大きく開け息を吐き出す。

ろんの吐いた空は雲1つなく、美しく嘘くさかった… フィクションそのものであった。

パンク侍 斬られて候!と男女の声がタイトルを叫ぶと、ろんが去って行くスラム街が崩れ落ちて行く。

遠くに去って行くろんの後ろ姿から青空にカメラが上がって行く。

岩を模した3DCGタイトルが下から迫り上がって来る。 役者の姿に役名と役者名が重なって登場する。

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