白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

やっちゃ場の女

何だか昔の松竹作品を思わせる下町を舞台にしたホームドラマだが、大映作品で若尾文子さん主演である。

オリジナル脚本らしいが、最近この手のホームドラマが珍しい事もあってか、なかなか面白かったので驚いた。

おそらく一時期この手のドラマが量産され過ぎたのと、テレビの方がこの手の素材に向いていたこともあり映画では減少したのだろうが、こちらが年を取ったことなどもあってか、今見ると意外とハマるような気がする。

下町特有のからっとした印象で、じめじめした要素があまりないのが良いのだと思う。

藤巻潤さんが若尾さんのお相手役を勤め、宇津井健さんなどもゲスト的に登場しているし、根上淳さんが珍しく女たらしの嫌な上司として登場したりしている。

一見「父帰る」のような設定で、父親が女を作って家を出た後、長女が店と家族を切り盛りしている中、母親が急死してしまった後の家族の変化を描いた作品だが、長女は憎んでいたはずの父親に、何故か妹や弟が慕って会うようになり…と言う展開で、父親役の信欣三さんも世捨て人のような雰囲気ながら、自分を慕って来る子供たちに対しては心を痛める温厚そうな父親役を演じており好ましい。

女中を3人も抱えて、使用人も同居している大家族の中での年頃の娘特有のわがままさと世間知らず振りが巻き起こす騒動が描かれるが、長女だけは女としてより家長としての責任を背負い込むしかなく、ラストのヒロインの行動が冒頭で亡くなった母の行動とダブる演出がやるせない。

当時、ボクシングが流行っていたらしいことなどが分かる。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1962年、大映、田口耕脚本、木村恵吾監督作品。

隅田川にかかる橋を背景にタイトル

築地の青果市場

果物屋小田源の娘小田ゆき子(若尾文子)は、使用人井上精一(藤巻潤)に、精ちゃん、リンゴとネーブル頼んだわよ、いくら値が張っても良いからと声をかけると、自分は夏みかんを仕入れにいく。

小田源さん、張り切ってるね!と同業者が声をかけると、外人客当てにしてるのよと笑ったゆき子の元へ戻って来た精一が、リンゴは落しましたが、ネーブルはちょっと手が出ませんでしたと言うので、いくらでも良いって言ったじゃないとゆき子が文句を言うで、でも女将さんに怒られちゃいますよと精一は言う。

みっちゃん、お店に運んどいて!と使用人の光(森矢雄二)に声をかけると、ゆき子は先に店に戻る。

小田源の店から自宅に電話を入れたゆき子は、もしもしきよちゃん?お母さん、どんな具合?と女中おきよ(小笠原まり子)に聞くと、母親のくめ(清川玉枝)が電話を代わり、もう平気よ、ふらっとしただけだからと言うので、大丈夫?1日寝ていたら?とゆき子は案じ、一郎、もう起きました?朝ご飯食べさせて学校行かして下さいよと頼む。

今、ご飯食べさせているよとくめが返事すると、その一郎はボクシングの真似をしておきよの腹を殴ったりする。

それを見ていたくめは、日ごとに言う事聞かなくなるんだから…と呆れたように良い、私が甘いからかい?とゆき子から指摘され膨れる。

するとゆき子は、早苗ちゃんいる?お小遣い挙げて下さいと言うとさっさと電話を切ってしまう。

もう切っちゃったよ、あの子の電話はいつも一方通行なんだからと呆れて電話を切ったくめは、ぐずぐずしていた次女の早苗(叶順子)に、玄関口で小遣いを渡そうとするが、札を2枚も抜き取られたので、フレンドに奢ってばかりしちゃダメよと注意する。

もう時間ですよとおきよが言いに来るが、だって靴がないんですものと早苗はぐずり、そこに別の女中のおまつ(竹里光子)が靴を出して来る。

外に出た早苗は、これから2〜3件配達に回ると言う精一の軽トラに無理矢理便乗し、方向違いの自分の会社までタクシー代わりに送らせる。

会社の前でトラックから降りた早苗に、おはよう!と声をかけた同僚の市田(穂高のり子)は、誰今の?ちょっとイカすじゃない?と精一のことを聞いて来る。

その後、店に出て来たくめは、果物を値切ろうとした客を喧嘩腰で追い返したので、それを見ていたゆき子は、血圧高いんだからあんまり喧嘩しないでよと母親に注意し、ちょっと隣に出掛ける。

肩が凝るわなどとぼやきながら店の奥へ引っ込んだくめは、隠していた日本酒をコップに注ぎ、そのまま飲み始めたので、女将さん良いんですか?身体に触りますよと精一が苦笑しながら店先へ向かうが、ゆき子には内緒だよと笑って頼んだくめは、ちょうどかかってきた電話に出ようとして立ち上が牢とした所で倒れ込む。

その音で振り返った精一は、女将さん!と驚いて駆け寄る。

連絡を受けた早苗がタクシーで帰宅して来ると、既にくめの顔には白布が置かれており、お母さん、死んじゃったよと言うゆき子や精一ら家族のものが枕元に集まっていた。

さっきまでいびきかいていたのよ、だけどそれっきり…とゆき子が言うと、一郎は?と早苗が言うので、学校では欠席してるって…とゆき子は応える。

ジム行ってるんじゃないのか?と使用人の三吉(吉葉司郎)らが言い出したので、俺、探して来ると言い、精一らが出掛けて行く。

早苗はくめの遺体にすがりつき、嫌!お母さん、死ぬなんて!と言いながら泣き出す。

ゆき子を奥へ読んだ組合のおじさんは、葬式は組合で出すとして、どうするね?お父っつぁん…と聞くので、私の方から知らせるとゆき子答えると、お父っつぁんに会っても何も言うんじゃないよとおじさんは言い聞かせる。

それを聞いたゆき子も思わず泣き出す。

その後、佃島にある下宿の女将さん(村田扶実子)が、誰?おしまさん?などと玄関口に来ると、そこに来ていたのはゆき子で、どちら様でございますか?と聞くと、築地の小田ですが、父が二階にお世話になっているとうかがっておりますとゆき子が答えると、驚いた女将は、二階で縫い物をしてた時子(水戸光子)に、小田源さんのお嬢さんが、お父さんはいるかって来てるよ、大きい方のお嬢さんだよと伝えにいく。

それを聞いた時子も驚き、ざっと部屋を片付けてゆき子を出迎えると、お嬢様、かねがねお噂は聞いておりました、皆様お元気にしていますか?と頭を下げて挨拶をすると、母は死にました、今朝!父が家出して顔も見ないうちに1人で死んでいきましたとゆき子は冷たい口調で答える。

父に、他の時とは違いますから帰って来てもらいたいと思いまして…とゆき子から聞いた時子は狼狽し、伊豆の方へ釣りに御出でになっていますと答えると、じゃあいつ帰って来るか分からないんですね?とゆき子は落胆する。

時子は、今日は帰って来ることになっているのですが…、心当たりの釣宿に電話か電報を打ちましょうと立ち上がりかけるが、急にゆき子に向い正座をすると、お嬢様、お許しください!亡くなった奥様に何とお詫びをしたら良いのか…と頭を下げて詫びる。

しかしゆき子は、そんなこと言っても…、お母さん、死んじゃったわ…とゆき子は冷めたように答える。

御通夜には、親戚一同、商売関係者などが集まっていた。

父の妹萩源たけ(村田知栄子)とその夫萩源芳吉(潮万太郎)とその小学生の息子も来ていたが、読経の最中、息子は紙飛行機を正座して神妙にしてた一郎にぶつけたりする。

たけはゆき子を離れに呼び、突然のことで…と挨拶をすると、この子が明日江ノ島まで遠足だって言うので興奮しちゃってて…と息子のことを教え、あんたも何かのお役に立つんだよとのっそりやって来た芳吉に言うと、さっきからやってるよ、弔問客を寺まで送る自動車の数を考えてるんだがなどと芳吉が言うので、私に言われても…、精ちゃんと相談して下さいとゆき子は芳吉に答える。

お父さん、やっぱり来ないの?私の兄貴だけど、どんな了見で出ていったのか?とタケが言うので、お父さんの所行ったのよとゆき子が教えると、お時いた?どんな顔してたのよ?引っ掻いてやりゃ良かったのよなどとたけが興味深げに聞いて来る。

その時、ゆき子を近所の店で呼んでいると言う知らせが来たので、精一に後を任せてゆき子は出掛けて行く。

台所では、つばめタクシー、6台無理だってなどと芳吉が精一に伝えていたが、そこに、お腹空いた、何かない?いなり寿司なんか嫌なのよ!と早苗が精一にわがまま言って来たので、わがままは困りますよと精一は叱る。

近所の寿司屋にやって来たゆき子は、そこの座敷で1人飲んでいた源造(信欣三)を見て、お父さん!と驚く。

とんだことだったな、おっ母さん…、釣りに行ってて、ついさっき帰って来たんだと源造が言うので、とにかく家に行きましょう、お母さんも何とも言えないんだからとゆき子は誘うが、止めとこうよ、今さら、お父っつぁんには敷居が高くて…と源造は答える。

2年前、俺にあんな事があった時、もうこの小田源には俺はいらないって言われたけど、その通りだと思う、散々勝手な真似をして…、今さら…、俺は虫の付いたリンゴだ、店に置いとく訳にはいかねえ…、店には精一がいるじゃねえか、お前にここに来てもらったのはせめてこれだけでも…と言いながら源造は持って来た香典を差し出すが、受け取れないわとゆき子は拒否する。

だったら帰っておっ母さんに言ってくれ、オヤジは葬式にも出ませんって…と源造が言うので、ゆき子は黙って帰って行く。

それを聞いていた寿司屋の主人が、旦那、良いんですかい?と心配して聞いて来るが、ああ…、お銚子もう1本…と源蔵は言うだけだった。

自宅の台所では、まだ精一や早苗、芳吉らが予想以上に増えた弔問客のことで右往左往していた。

茶菓子が足りないと聞いた芳吉は、うちは菓子屋だけど洋菓子だからねと…と言い、あんまり葬式で洋菓子って聞かないですものねなどと三吉が答えていた。

一郎は、タイトルマッチが始まるよ!などとテレビを見たがっていた。 たけは帰って来たゆき子に、ゆきちゃん、浅草の師匠がね、母さん好きだった新内やるってと教えに来る。

くめの遺影の前で三味線が鳴り出した中、読経を終えた僧侶も食事をしていた。

芳吉は先ほど目を付けておいた女中に酒を注いでやったりするが、たけが睨んでいることに気付き狼狽する。

たけの息子は、又紙飛行機を飛ばしたので、ビールを飲もうとしていた客のコップの中に紙飛行機が刺さったりする。

それを見た早苗が笑い出したので、ゆき子は真顔で首を横に振って注意する。 何となく熱っぽさを感じたゆき子は奥に薬を飲みにいくが、付いて来たたけが、ねえ、さっきお父っつぁんに会って来たんでしょう?帰らないって言うんだろう?分かってるよ…、お時って女もどう言うつもりなんだろうね?などと言いながら自分も薬をもらってその場で飲む。

いくら精ちゃんいるからってあんた1人じゃ大変だよ、相沢さんからの紹介なんだけどね、建築技師だかの良い相手がいるそうなのよとたけが言い出したので、御通夜の晩に縁談なんて…とゆき子は迷惑がる。

その後ゆき子が廊下に出ると精一がいて、どうやらきり付きましたと御通夜の手配が一段落ついたことを言うので、あんた、少し痩せたわね?などと言いながら煙草の火を点けてやり、新内聞いて来たら?と勧める。

分かんねえや、あんな奴…、でも女将さん好きだったな…と精一は答え、ねえ精ちゃん、これから頼むわねとゆき子が言うと無言で真顔になる。

その頃、佃島の時子はラジオの新内を流し、1人で線香を焚いて拝んでいた。

そこに酔った源造が帰って来たので、あらあんた、お帰りなさいと時子が驚くと、源造は水くれと言いながら横になる。

ちょうどラジオで新内やっていたから…と時子が言うと、おゆきの奴、立派な姉になりやがった…と感慨深げに呟く。

お時、おめえ、帰って来ないと思ってたのか?と源造が聞くと、奥様に申し訳なくて…と時子が言うので、やせ我慢するなって言うんだよ、行く所もないくせに…と源造は言う。

ごめんなさい、辛かったでしょう?と時子が詫びると、あれ消してくれ、陰気でしようがねえと源蔵はラジオの新内のことを言うので、今夜は飲みましょうよと時子が言い、そう来なくちゃ!破れ鍋に綴じ蓋か…と源造も答える。

すると時子は、ねえあんたが帰って来なくても、私行く所あったのよ、あの世へさ、ほら、薬も買ってある…などと言い睡眠薬を取り出してみせたので、初めてびっくりさせやがる…と源造は言う。

通夜の小田家では、ゆき子は精一に、あんた、少し寝て来たら?明日も又あるからと声をかけ、布団は二階に敷いてありますと女中が教えると、今日はごろ寝だから、どっかに潜り込んでねとゆき子は言う。

二階に上がると、雑魚寝状態だったので、空いている場所を探して寝ようとした精一だったが、足を踏まれた早苗が痛い!酷い、人の足踏んで!などと文句を言って来る。

精一は一郎の隣に空いていた布団に潜り込んで寝ようとするが、そこ私が取ってやってたのよ、どうこの髪型、CCに似てない?などと早苗が話しかけて来たので、CCって何だい?と聞くと、クラウディア・カルディナーレよ!たまに暇だと拳闘だって…、野蛮だわ!などと早苗がしつこく話しかけて来るので、その方へ目をやった精一はネグリジェから足が覗いていたので息を飲む。

ねえ精ちゃん、お母さん死んだでしょう?その割に私寂しくないのなどと早苗がしつこいので、やかましいな!締めちゃうぞ!と精一が叱ると、やってみたら?と早苗が挑発して来たので、良し!と答えた精一は早苗の首を絞める真似をする。

早苗は、何するのよ!私怖くないわよ!と睨んで来たので、思わずキスするかのように顔を近づけた精一だったが、すぐ顔を離す。

数日後、仕事に復帰した早苗に市田が、これ手遅れだけど、お香典、みんなで出し合ったのよと渡して来たので、皆さん、どうもありがとうと早苗は受け取って、同僚たちに礼を言う。

どう?母亡かりし寂しさは?と市田が聞いて来たので、こんなにショックだったとは思わなかった…と早苗が本音を吐露すると、じゃあ、来々軒のお蕎麦奢るわと市田は言ってくれる。

その時、伊達課長(根上淳)が、小田君!と早苗を課長室に呼ぶと、酷いね夕べは…、8時まで待ってたんだよと文句を言って来る。

早苗が、でも…と言葉を濁していると、僕は部下の気質などを知る為に、時々食事などに誘っているんだ…などと言い訳していたが、ブザーが鳴ると、いけねえ、専務が呼んでやがると言い、慌てて部屋を出て行く。

ゆき子はたけに、母親の方見分けをして着物などを渡していたが、たけは、どう?この間の話…と見合いの話を蒸し返そうとするので、ゆき子が相手にしないと、そんな吐き出すように言わなくても…、相手は村田さんって言ってね、銀座の建築技師ですってと話を続けようとすると、もう昼ね?おまっちゃん!寿司屋に言ってエビと貝柱頼んで来て頂戴などと話をはぐらかす。

精一や三吉たちが昼食を取っていた店に突然早苗がやって来て、今日、精ちゃん、おごって!月給上がったんでしょう?などと言いながら、精一の隣のカウンター席に勝手に座り込む。

わざわざこんな所に来なくても会社の側にいくらでも店あるでしょうと精一は呆れるが、今度の日曜ハイキングに行かない?と早苗は誘って来る。

しかし精一が、忙しくて…と断ると、封建的ね!と早苗は膨れる。

一郎が裏手の路地で友人とキャッチボールをしている中、ゆき子はたけを送り出す。

そこに女中のおまつが、お嬢さん、コロッケ売り切れですと言いながら帰って来たので、声が大きいわよとゆき子は焦る。

夕方、自宅の台所では一郎や精一がカレーライスを食べていたが、おまつが、上のお嬢様が作ったんですからと地面気に言うので、別の女中(長谷川峯子)が、おまつは大きいお嬢様のスパイなどと悪口を言う。

そこに早苗が帰って来て、お不動産の夜祭りに行かない?と又精一を誘う。

すると、精ちゃん、食べ終わったら終わったって言ってよ、待ってるんだからと苦情を言いに来て、売上の計算の算盤を手伝わせる。

計算をし終えた精一は、ゆき子の経営の仕方に、ゆき子さんが無茶なんですよ、強情なんだから…などと指摘し、テレビ見て寝るか…と立ち上がろうとすると、ちょっと待って!とゆき子が呼び止めたので、まだ計算残ってるの?と精一が聞くと、相談があるのよとゆき子は言う。

そして、たけから受け取った見合い写真を見せ、この写真どう思う?建築会社の技師なんですってと言うので、会ってみたらどうですか?精一が答えると、それならそうするわ、でも私1人じゃ恥ずかしいから精ちゃん付いて来てよ、私初めてだから…などとゆき子は甘える。

僕なら見合いするななどと精一が言うので、あんたにそんな人いるの?とゆき子がからかうと、これでもねと精一が言うので、早くお風呂入ってよとゆき子は追出す。

後日、歌舞伎座の食堂で1人精一がビールを飲んでいるとたけがやって来て、飲んでて大丈夫なの?と聞くので、支度なら出来てますよと近くの予約席を見ながら精一は答える。

劇が終わったのか、劇場の扉から出て来た村田(宇津井健)が、ゆき子さん、歌舞伎がお好きなんですか?僕は映画の方が手っ取り早くて好きだななどと明るく話しかける。

食堂の予約席にたけとともに座ったゆき子が、お酒好きなんでしょう?と聞くと、向いに座った村田は、1升か2升くらい…、昼はビールですと答えたので、ビールを注いでやる。

背後のテーブルにいる精一を意識しながら、スポーツは好きですか?とゆき子が聞くと、柔道や相撲はやりますが…と村田が答えると、ボクシングなんかは大嫌いですわとゆき子が精一に聞こえるように言うと、そうですか…、僕はボクシング好きなんですが?と村田は困惑する。

御御衛は初めてですか?とゆき子に聞いた村田は、僕は3度…、4度目かな?でも良い人にぶつからないなどと平気で言うが、ゆき子の方は、私、昼間から飲んじゃって…と恥じらう。

その頃、早苗は市田たちとウィンドーショッピングを楽しんでいたが、3000円のネクタイを見ていた時、向かいの通りに出て来たゆき子や村田、たけと一緒に出て来た精一の姿を目撃すると、私、買おうかな?と突然言い出し、もったいないわよと言う市田の言葉も無視して、やっぱり買おうっとと言いながら店に入って行く。

村田とたけと別れ、帰ろうと車を探していた精一だったが、来ないなタクシー…とぼやくので、歩いて帰りましょうとゆき子は言い出す。

どうだった?と村田の印象を聞くと、嫌みないなと精一が答えたので、感じは良いわねとゆき子も同意する。

決めちゃいますか?と精一が聞くと、感じは良いわね…と同じことをゆき子が言うので、決めちゃいますか?と精一も同じ事を言い、タクシー!と通り過ぎた車に向かって手を挙げるが、自家用車よとゆき子は笑う。

笑わなくて良いでしょう!と精一が膨れると、おこりんぼ!とゆき子は答える。

その頃、源造は、お客さんですよと下の女将からの声で階段の方を見ると、そこに来たのは一郎だった。

窓辺に来た一郎は、かちどき橋が見えるなどと喜ぶが、お前大きくなったな、今どのくらいある?と聞いた源造は、1m60cmと一郎が教えると、そのcmと言うのが良く分からないなどとこぼしながらも、みんな元気かい?と聞く。

うんと答えた一郎が、いないのかい、これと小指を立ててみせると、下谷の病院に頼まれてしばらくいないんだと源造は答え、お前お父っつぁんどう思う?ひでえオヤジと思ってるんだろうな…、ここに来たのも知られたらおゆきに怒られるんだろうと苦笑する。

一郎は、親子で仲良くしてね、お父さん、肉好きだろう?姉さん脅したら3000円くれたんだと言うので、ゆきは母さんに似ているよ、お前は俺に似過ぎだ、今日金を出すのは俺だと源造は笑う。

その後、料理屋から出て来た源造が、今から映画でも行くか?と誘うと、これから予定があるんだと言い、一郎はさっさと帰ってしまう。

帰宅した一郎は、女中のおきよがテレビのドラマを見て泣いてるのと他の女中がバカにしたように教える。

二階へ上がると、精一や三吉と早苗がトランプをしていたのでそれに参加すると、一郎、金は?あんたどこうろついていたの?と早苗は姉らしく叱り、あんた寝たら?などと露骨に迷惑がる。

すると一郎が早苗にプロレス技をかけて来たので、早苗は大声を上げ出す。

呆れた精一が物干し台の洗濯物の様子を見に来ると、下に降りて来た早苗を、早苗ちゃん、静かにしてよ、何時だと思ってるの?と先ほどからの騒音に苛立っていたゆき子が注意する。

そこへ女中がコーヒーを持って来たので、私、紅茶って言ったじゃない?何でコーヒー持ってくるの?とゆき子は苛立つ。

早苗は大どこに来て、ねえ、ジュースでも飲ませてよとおきよに頼む。

そんな早苗に、あんた二階の精ちゃんたちは昼間働いているのよと注意したゆき子は、精ちゃん、三ちゃん、ジュースでも飲んで寝たら?と階段下から声をかける。

早苗は、もう蚊がいるのねなどと腕を叩きながら呟くと、はい、もう夏でございますとおまつが答える。

ある日、たけが来たので、お嬢様はお留守ですが?と女中が言うと、店で会って来たんだけど、お線香でもと思って…と言いながら上がり込んで来る。

食堂では一郎が1人で食事をしていたので、あんた学校は?とたけが聞くと、残念でした、もう夏休みだよと一郎は答える。

早苗もまだいたので、早苗ちゃんまだいたの?とたけが驚くと、さぼってるのと答えた早苗は、さあ出掛けるか…、今日、川開きか…、白のパンプスにしてとおまつに指示する。

たけはそんな早苗に、おばちゃん、ちょっと困っちゃった、姉さん、縁談断っちゃったのよ、早苗ちゃんから勧めてよ、まさか、ゆきちゃん、好きな人がいるんじゃないでしょうね?と頼むが、早苗は何か考え込む。

その後、会社に着いた早苗は店にいた精一に電話をし、今日、花火見に行かない?と聞くが、スイカ組合で行くことになってるんですよ、ゆき子さんだって行くんですからと精一が言うので、そんなのすっぽかしちゃったら良いじゃない!などと無茶を言うが、課長さん読んでるわよと同僚から声をかけられると、知らない!と癇癪を起こして電話を切る。

伊達課長は書類のコピーを早苗に頼むと、今夜花火見に行かないか?懇意な店があるんだと誘って来る。

すると早苗は、連れて行ってもらいますと答えたので伊達が驚くと、でも私、課長さんと2人では嫌ですわ、どなたか誘って下さい、市田さんとか川田さんも…と早苗は要求する。

その夜、バーに3人を連れて来た伊達は、二階で早苗たちが花火を見ている間に下に降りて来て、カウンターの中のバーテン(中田勉)に、ちょっと計算狂ってね…とぼやいてみせる。

3人じゃね…とバーテンも同情する。

そこに3人も降りて来て、オンザロック、マティーニ、ジン!などとめいめいが注文するが、そこにアコーディオン弾きの女とギターを弾いて歌う男の流しがやって来たので、早苗は伊達に誘われるままダンスを踊り出す。

やがて、アコーディオンを引いていた女があくびをし始める中、早苗は、私、もう帰らなきゃ!と言うと止めようとする伊達を振り切り出て行ったので、去る者は追わず!彼氏が待ってるのよと市田が伊達を制する。

小田家の台所では、おきよが1人でビールとスイカを食べていたが、いきなり悪酔いしたらしき精一を抱えてゆき子が帰って来たので、慌ててビール瓶をテーブルの下に隠す。

色々お手数をおかけして…と精一は恐縮するが、おきよが持って来た、悪酔い、二日酔い、水あたりの薬を飲ませると、精一がしていたネクタイを外させる。

おきよがテーブルを片付け始めると、ここにもこんなものがとゆき子がテーブルの下のビール瓶を見つけたので、おきよは知らん振りをして片付ける。

そんなおきよに、花火見に行ったら?今年の花火は大した事ないけど…と声をかけたゆき子は、そうだ、物干に言ってみましょうよ、外の風に当たれば酔いも冷めるわ、それに花火も見れるし…と精一を誘い、一緒に物干に昇って行く。

物干し台に来て座った精一は、おかげさまで酔いが冷めましたと礼を言う。

隣に座ったゆき子は、花火があがると、まあきれい!と喜び、音に覚えた振りをして精一に抱きつく。

花火が途絶えたので、花火って、消えた後が寂しいわね…などとゆき子はしんみりするが、その時、又大きな花火があがったので、又精一に抱きつき、私、もう終わったのかと思ったの…と恥ずかしそうに言い訳する。

そこに帰って来たのが早苗で、台所にも人気がないので不思議がるが、テーブルに残されていたネクタイに気付く。

それは自分が買って精一にプレゼントしたものだった。

二階に人の気配を感じ、恐る恐る階段を登って行った早苗は、物干し台に仲良く並んで腰掛けていたゆき子と精一を目にし、誰?とゆき子から呼びかけられたので、何も言わず降りて行く。

下に降りて来たゆき子がそこにいた早苗に気付き、早苗ちゃんどうしたの?物置に行きましょう?と誘うが、早苗は、お酒飲んで来るわと言い残し出て行ってしまう。

先ほどのバーに戻って来た早苗は、1人酔いつぶれていた伊達に、課長さん、飲みましょう!と声をかけて起こしたので、どうしたの?彼氏と喧嘩したの?と伊達は驚くが、ぐでんぐでんに酔ってやる!何さ!と早苗は呟き、カクテルのやけ飲みを始める。

翌朝、目覚めた早苗は自分が見知らぬホテルのベッドに寝ており、浴室からシャワーを終えた伊達課長が出て来て、お目覚めのようですな?君も一風呂浴びたら?などと話しかけて来たので、こっちを見ないで!と言いながら下着姿の身体を隠しながら何とか服を着ようとする。

その間、伊達も「上を向いて歩こう」を口笛で拭きながら伊達も服を着ていたが、これねと自分の側にあったスリップを拾い上げベッドに投げてやる。

伊達は、一瞬君を見損なったよ、君は海千山千だと思ったけど…と伊達がにやつきながら言うので、課長さんって卑怯です、私を案何酔わせてこんな所に連れて来るなんて酷いわと早苗は抱き出す。

その頃、自宅では、出て行ったまま帰って来ない早苗を案じて、ゆき子があちこちに電話を入れて探していた。

お酒飲んでたから気になって…とゆき子は案ずるが、そこにオートバイで探しに行っていた精一が戻って来て、山崎さんの所にもいないんですと報告する。

一郎もいないわね?とゆき子は気付くが、良いのよ、あの子のいる所は分かっているのとゆき子は落ち着いて答える。

一郎は父源造と釣りをしていた。 ビクの中を覗き込んだ一郎は、父さん、同じハゼでも良く見るとみんな顔が違うねなどと言い、お父さん、この間浅草に行ったこと、大きい姉ちゃん知ってるよ、誰か僕たちのこと見てたらしいんだ…と言うので、何か言ってたか?と源造が聞くと、ただ、行ったでしょう?って言っただけだよと一郎が答えたので、別に怒っちゃいないのか…と源造は安堵し、一郎、そろそろ帰ろうかと呼びかける。

帰宅した源造は出迎えた時子から、一郎ちゃんは?と聞かれたので帰った、何か用?と聞くと、ちょっと外へ…と時子は言いながら源造を表に連れ出す。

時子から早苗が来ていると聞いた源造は、いつ頃来たんだ?と問うと、青い顔して、早苗って言うの、二番目の娘ですと言うと、おばさん、疲れたわって、ふらふらっと倒れて寝てしまって…と時子は不安そうに教える。

近頃、深夜喫茶とかあるからそんな所へ行ったんだろう、聞いてみりゃ良いじゃないかと源造が言うと、誰かにお酒飲まされたみたいなのよと時子が答えるので、そんなこと曖昧に言ったって…、しようがないな、早苗ってゆき子と違って妙に色気付いていやがったから…、とにかく聞いてみよう…と源造は言い下宿へ戻る。

小田家の方ではたけがやって来たので、今一郎を叱ったの、父と会ってたのよとゆき子が言うと、さっきお時から電話があって、お父っつぁんの所に早苗ちゃんがいるんですって、何かあったらしいの、とにかくあんた行ってやりなよとたけがやって来た訳を話す。

早苗ってどうしてあんな所に行ったのかしら?とゆき子が不思議がると、お父っつぁんにも事情があるのよ、おっかさん、一郎ちゃん生んだ後身体悪くしてね、手術して女でなくなったのよ…、お時であんな事あったけど、おっかさん何も言えなかった部分もあるのよ、ゆきちゃんも主人を持って苦労したらその辺の事も分かるだろうけど…などとたけは打ち明ける。

源造と時子は3人分のざるそばを取って食べていたが、一向に早苗が起きて来る気配がないので、良く寝てやがるな、起こしてきなと時子に頼む。

隣の部屋に布団を敷いて寝せていた早苗を起こそうとした時子は、あんた、なんか変ですわと源造を呼ぶ。

布団の中を調べた時子は、睡眠薬の空き瓶を見つけたので源造は驚き、医者だ!と時子に命じる。

小田家に電話がかかって来たので、おきよが出てゆき子を呼ぶと、それは時子から、早苗が睡眠薬を飲んだとの知らせだった。

往診に来た医者と看護婦が帰った後、ゆき子が訪ねて来る。

どうしたのよ、お父さん?とゆき子が聞くと、まだ薬が残っていたらしい、ちょっと目を外した隙に…、何か外で間違いがあったらしいんだと源造も要領を得ず、時子が、夕べどなたか会社の人とお酒を飲んで…と言うので、それを聞いたゆき子は、夕べ?と考え込む。

その後、父と一緒にうたた寝をしていたゆき子は、気がつきましたよと言う時子の声で目覚める。

私よ、大丈夫?と早苗に声をかけると、嫌!姉さんなんて帰ってよ!姉さんなんて大嫌い!と早苗は拒絶する。

みんな一晩中一睡もしないで心配してたんだぞと源造が教え、ゆき子も朝から来てくれたんだと言い聞かすと、姉さんだけ幸せになれば良いのよ!姉さん、私がこうなったこと内心でバカだって思ってるでしょう?精ちゃん好きになって…、姉さんが好きだって知らなくて…、私なんてどうなっても良いのよ!と早苗は捨て鉢になる。

私、そんなこと言われたら迷惑だわとゆき子が言い返すと、好きなら好きって言ったらどうなの?白々しい!などと早苗は絡んで来る。

そんな姉妹の言い争いを聞いていた源造は、いい加減にしないか!と叱り、ゆき子も、姉さん怒るわよ!と迫るが、姉さんなんか何よ!帰ってよ!と早苗が追い返そうとしたので思わずゆき子はビンタしてしまう。

見損なっちゃいけないよ!これでも小田源五代目をやっているの!使用人と付き合うなんてあるはずないわ!とゆき子は啖呵を切ると、お父さん、私帰るわ、一風呂浴びないといけないし…と言い表に出るが、あいにく外は雨だった。

濡れながら渡し場まで向かいかけたゆき子に傘を持って源造が付いて来る。

その傘に入って歩きながら、じゃあしばらく早苗のこと頼むわね、すみません、お時さんに迷惑かけちゃってと詫びると、あいつもこれで仲間になったと思うだろうと源三は答える。

私今までお父さんたちのことを悪い人だと思ってたけど、赤坂のおばさんから聞いたわとゆき子は打ち明ける。

それより、精一のことは本当に何とも思ってないのかい?俺もそうなりゃ良いと思っていたんだが…と源造が聞くと、こう見えても私、ちゃんともらってくれる人があるのよ、お父っつぁんの子ですものとゆき子が言うので、こいつはいけねえや…と源造は照れる。

ゆき子は連絡船に乗り込み、源造はそれを1人見送る。

船に乗ったゆき子は沈み込んでいた。

祭りの夜 一郎と将棋をさしていた精一を、大きいお姉さんがお呼びですよとおまつが言いに来る。

ゆき子は裏の通りでキャッチボールをしていたので、ほおナイターですか?と通行人が声をかけて行く。

精一が出て来ると、私ね、結婚しようと思うの、冗談じゃないのよとゆき子が言い出したので、それよりそこのパチンコ行きませんか?と精一は誘う。

するとゆき子は、図に乗っちゃダメ!同じ店でこうしていればお互い気安くなるのは当然だけど、私と精ちゃんの事思い違いしないで欲しいの、それはあなたのこと、色々面倒見たりしたけど、それはそれだけのことで誤解しないでって言う事よと言うので、精一は持っていたバットを思い切り素振りする。

明日でも佃島に早苗の着替え持って行って欲しいの、そして早苗の顔を見たら一言、元気出せって言って欲しいの、お願いねとゆき子は、ゆき子さん…と言いかけた精一に言いつける。

翌朝、言いつけ通り、着替えを持って渡し船に乗って佃島にやって来た精一は、源造の下宿に入って行く。

一方、ゆき子は工事現場で働いていた村田の所に1人来ると、しばらく!今日はどう言う風邪の吹き回しなんです?と村田は驚く。

そして、僕やっと結婚することになりました、昨日5番目のお見合いの話がまとまったんですよと言うので、私をもらってもらおうと思って来たんですが遅かりし由良之助ってことですわねとゆき子が冗談を言うと、こちらは早まった勘平と言う所で、その人とキスしちゃったんですよとあっけらかんと村田が言い、ゆき子さん、お元気で!と帰るゆき子に声をかける。

やっちゃ場に戻って来たゆき子は、屋台の飲み屋に来ると、おばさん、冷やで一杯!と酒を注文し、その場でコップ酒を一気に空けると、ごちそうさま!小田源ね!とツケにしてもらい、そのまま市場の中に歩いて行くのだった。
 


 

 

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