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右門捕物帖 まぼろし燈篭の女

映画の「むっつり右門捕物帖」と言えば、アラカンこと嵐寛寿郎さん主演のシリーズが有名だと思うが、これは大友柳太朗主演御東映版シリーズの1本。

大友柳太朗さん特有の多少モゴモゴとした滑舌が悪いセリフとあば敬を演じている進藤英太郎さんとおしゃべり伝六役の堺駿二さんのコメディリリーフ振りが楽しいシリーズになっている。

特に本作はあば敬役の進藤英太郎さんの出番が多く、この当時の進藤さんは本当に達者な役者だったことが分かる

8月1日公開と言う夏興行作品なので話自体も盛夏設定になっており、夏らしく怪談仕立ての演出も取り入れられている。

事件そのものは右門の直感?で急転直下の意外な解決と言う事になるのだが、捕物帖なので本格謎解きほど厳密な謎解きがある訳ではなく、何故右門が真相にたどり着いたかの種明かしなどはほとんどない。

バリバリの美形時代の里見浩太朗さんが準主役のようなポジションで出ているのが見物。

冒頭の不良たちのシーンで、ひと際目立つ特徴的な垂れ眉毛の青年は、ハリセンおじさんこと「チャンバラトリオ」の伊吹太郎さんのはず。

まだ当時はお笑いではなく東映の大部屋役者だったことは知っていたが、実際に映画に写っているのは初めて見たような気がする。

セリフもあるし結構目立っており儲け役ではないだろうか。

ちょん切れ松役を喜味こいし師匠がやっているのも意外で、この手の子分役はお笑い方がやるのが通例で、それは良いのだが、こいし師匠はツッコミなので特に面白い事をやるようなイメージはないのだが、ライバル役の堺俊二さん演じる騒がしキャラとの対比でキャスティングされたのかもしれない。とは言え、劇中での松はボケまくっており、あば敬の方が突っ込んだりしているのも興味深い。 相方の夢路いとし師匠もちゃんと出演なさっており、TVの「がっちり買いまショウ」の「3万円、5万円、10万円、運命の分れ道!」でお馴染みの口元を素早く動かす独特の早口言葉のような言い回しを披露している。

時代劇のはずなのに、まあショック!などと言っているのだから、典型的な庶民向けの通俗娯楽映画で、右門と言うキャラ自体が仕事一途で色恋に無関心と言う昔気質なストイックな描かれ方なだけに、女性客向けのサービスとして、平幹二朗、里見浩太朗と言う当時のイケメン若手を配して、ラブロマンス要素もたっぷりと…と言う狙いなのだろうが、登場する3人の娘が真面目な清純派、子供っぽい甘えん坊娘、おきゃんな娘…と型通りの記号化キャラであることもあり、男の目からするとこの手の型にはまったラブロマンス要素を面白いとは思えず、テンポも落ちてしまうので、捕物帖としてはやや冗漫な印象を受ける。

今見ていると、この頃の東映時代劇が後年のTV時代劇の見せ方の定型になっているような気がする。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1961年、東映、佐々木味津三原作、鈴木兵吾脚色、工藤栄一監督作品。

荒磯に波の東映マーク

蚊取り線香入れの鋳物の前で、胸をはだけた女の絵にタイトル キャスト、スタッフロール

夏の盛り、江戸の町中を、退け!退け!と通行人を避けさせながら走っていたのは、捕り手の一団を引き連れたあばたの敬四郎(進藤英太郎)とその子分ちょん切れ松(喜味こいし)だった。

角の家の陰に隠れ、女性の悲鳴が聞こえる通りの方をうかがった敬四郎は、昼日中から酔った半裸の若者たちが女中をからかっている店を発見する。

店の前にいた不良(伊吹太郎)が通りかかった町娘を呼び止め、お嬢さん、何か落しましたよと背後を指差すので、どこに?と娘が戸惑うと、あそこですよ、あれですよなどと親しげにと言いながら、日傘を持った娘と平行して道を戻って行く途中、急に日傘を奪い取ってその笠を目隠し用に背中に向け娘を家壁に押し付けると、声を立てるんじゃねえ!俺と一緒に来な!と匕首を突きつけて脅す。

それを見て走りよって来た敬四郎が、こらっ!現行犯で逮捕する!と女の日傘を持ったままだった男に十手を差し出す。

旦那~と思わず匕首を出して見せた男はそれに気付いて慌てて背中に隠すと、何か勘違いしてるんじゃないですか?俺たちとこのスケとはダチ公なのと笑いかける。

しかし、今連れ去られようとした娘が敬四郎の背後に回って、違います!この人があの匕首で!と訴えたので、松!ふん縛れ!と敬四郎は命じる。

南町奉行所に連れて来られる不良グループ 取り調べのため奉行所の室内に連れて来られた不良グループを前に、敬四郎は扇子を扇ぎながら、暑い、暑いと愚痴る。

横で書類を見ていた笠井久平(里見浩太朗)に、笠井、当に調べは付いておる、片付けておけと言ったではないか!と言いながら、敬四郎は自分の机の上の書類を投げつけて来る。

はあ、どちらの棚にと御聞きしてからと思っておりましたので…と笠井が答えると、定石をいちいち俺に聞かねばならぬのか!と敬四郎は怒り出し、机の書類を全部放り投げてしまう。

それを見ていた不良たちが嘲笑し始めたので、その態度は何だ!鎮まれ!と敬四郎はさらに激怒するが、不良たちはニヤニヤ笑ったままなので、松が全員の頭を小突いて行く。

敬四郎は、泣くな!すぐ根を上げるくせに一人前みたいな顔しやがって…とバカにする。 そこに、お早う!と挨拶しながらやって来たのが南町奉行神尾元勝(黒川弥太郎)だった。

その神尾に聞こえるように、神妙に控えておれ!と不良たちに命じた敬四郎は、お早うございます、御奉行、今日は又御早いご出仕で…となどと言いながら神尾に追従したので、敬四郎、何か用か?と神尾は聞いて来る。

実は少々ご相談致した気ことが…と愛想笑いを浮かべながら敬四郎は神尾に付いて行く。

頭を下げてそれを見ていたのがおしゃべり伝六(堺駿二)で、神尾と敬四郎が通り過ぎると、ごますりめ…と呟くと、部屋でほおづえを付いていたむっつり右門(大友柳太朗)に、旦那、見ちゃいられませんぜ、あば敬のごますりもあそこまで行くと手の付けようがねえや、宮仕えも凄まじいもんだ…とぼやいてみせるが、右門が一向に振り向きもしないことを知ると、旦那、旦那?ぼやぼやしてられませんぜと文句を言う。

やんなっちゃうな〜、旦那ときたら事件がなかった日には皆目元気がないんだからな〜、あっしは哀しいよ、全く…と伝六は全く微動だにしない右門を見ながら呆れたように言う。

こうなったら殺人事件の2つか3つ、ばんばんっと起きやがらないかな、全く…、身の毛もよだつ謎の怪事件…と伝六がふざけながら言っていると、バカなことを言うもんじゃないよ、俺たちが暇なときは世間様が良い日だと右門がようやく振り向いて言い聞かす。 そりゃそうですが、旦那も早く与力になって、お嫁さんでももらって…、あば敬旦那を見なせえ、巧いこと言って御奉行様に…と言いながら、伝六は右手をひょこひょこ下げてみせ、米つきバッタだ…と皮肉る。

その頃、執務中の神尾の部屋に来た敬四郎は、敬四郎、折り入ってお願いがございますと切り出したので、願い事?と書類に目を落したまま神尾が聞く。

昨年暮から空席になっておりまする与力の穴埋めの儀はいつなさいますでしょうか?と敬四郎はにやにやしながら聞く。

すると神尾は、おおそのことか、いつでもすると言いながら振り向く。

そちは定石同心、目覚ましい手柄さえあれば当然与力に昇進させる考えであると神尾が言うので、ぱっと目を輝かせた敬四郎は、はっ!と平伏する。

だが断っておくが、余の関心を得ようとして見え透いたお世辞や中元の品では買収はされんぞと神尾が釘を刺して来たので、とんでもございません!その方はそのようなさもしい心で…と敬四郎が言い返そうとすると、そうであろう、定石同心であるその方は他の者の模範であらねばならぬからなと神尾は言い聞かす。

ごもっとも!この敬四郎、本日より旧に倍して粉骨砕身、その職務に励みます!と手を付いて約束する。

神尾の部屋から戻って来る途中、敬四郎は、わしはどうしても与力になるぞ、南町奉行与力村上敬四郎、源業平!…と独り言を言っていたかと思うと、いきなり茶を飲んでいた右門の部屋にやって来て、近藤!なんだ貴公のその態度!何にも仕事をしていないじゃないか!これじゃあ他の同心がたるむのも無理はない、良し、今日から俺が気合いを入れてやると言い出すと、何の相談をしているんじゃ、仕事をせい、仕事を!と他の同心たちにも喝を入れ始める。

鬼の居ぬ間に居眠りをしていた松の所に戻って来た敬四郎は、松!真っ昼間からたるんでおるぞ!と怒鳴りつける。

その時、最前捕まえて来ていた不良たちがいないことに気付いた敬四郎は、うん?不良共はどうした?と聞くと、あんまりぎゃあぎゃあ泣くんで帰しましたと松は言うので、帰した?出過ぎたことをするな!と敬四郎は松を叱りつける。

これで与力になるのが三月は遅れたわい、表の訴訟箱を見て来いと敬四郎が命じると、又ですかい?と松が文句を言ったので、又ではない!行け!と敬四郎は苛立たしそうに怒鳴りつける。

へい…と生返事をしながらゆっくり起き上がる松に、走れ!と喝を入れる敬四郎。 奉行所の前に走り出て、訴訟箱の中の紙を見た松だったが、すぐに丸めて捨てると、通りかかった娘に声をかけ始める。

その頃、飲み屋「樽清」の縄のれんを触りながら、右門…、むっつり右門…、本当に来るのかな〜などと呟きながら面白くなさそうに外を見ていたのは櫛巻お由(丘さとみ)だった。

そして店の中で飲んでいた男に、おい南雲堂(沢村宗之助)!来やしないじゃないか、あたいの恋いこがれた待ち人は…と苦情を言いながら、お由はその前の椅子に腰を降ろす。

すると南雲堂は、ああ、来るよ、来ますよ、大丈夫!わしの卦はちゃんと出ておる、どんぴしゃと箸を筮竹(ぜいちく)に見立てて持つと答える。

それを聞いたお由は、何言ってんだい、へぼ易者!とバカにするが、そこに酒を運んで来た店の主人が、お由さん、相変わらず、凄い肩入れですねとからかって来たので、そりゃそうさ、10日も会わないんだもん…とお由は切なそうに言う。

ねえおやじさん、あたいが伝馬町入りしている間さ、まさか右門の旦那、ご新造などもらっちゃいまいね?とお由が聞くと、それがあいにく…と主人が言うので、何だって!とお由は焦るが、嘘だ、嘘だよ…、惚れた女は五万といても、旦那の方から惚れるような女は一匹もいねえよと店の主人は笑って答える。

畜生!と主人の背中に箸を投げかけたお由は、胸がどきんとなったじゃないかと可愛いことを言う。

その時南雲堂が立ち上がり、どれ、わしは商売に出掛けようか…と言いながら荷物を手に取ると、ごちそうさまと言い残し店を出て行く。 それでも残ったお由は、ねえ、右門の旦那は本当に来るの?と主人に尋ねる。

一方、南町奉行所の前で待っていた振り袖姿のふみ(北条喜久)は、右門と一緒に出て来た笠井に気付くと、名を呼びかけて駆け寄って来たので、ふみさん、奉行所には来るなと言ったじゃないかと笠井は慌てて諌める。

だって困っちゃったのよ、明日向こうからお見合いに来るんですってとふみが言うので、しっ!と言いながら笠井は右門からふみを遠ざけると、もっと小さな声でと…注意すると、で、嫌だって言ったんだろう?と念を押す。

言ったってお父さん聞きゃしないのよ、日本橋随一の鰹節問屋の息子で…とふみが思わせぶりに言うので、それで、見合いするの?と笠井は詰め寄る。

お父さんはね、どんなことがあっても笠井さんとは一緒にさせないって…、あんなすかんぴんな同心なんてまっぴらだってさ…などとふみは言う。

ええ?へえすかんぴんの同心で悪かったな!と笠井がむくれると、あら、私が言ったんじゃないわよとふみは言うが、見合いすれば良いじゃないか、相手は日本橋一
の鰹節問屋の倅だろう?そりゃ良いだろう、俺はどうせすかんぴんだものと笠井はすねてみせる。

じゃあ私がお見合いしても良いのね?とふみもすねると、ああ、結婚してもびくともしないよと笠井は意地を張る。

するとふみは、いじわる!笠井さんのいじわる!と責めながら、側の木にすがって泣き出したので、ふみさん、泣くなよ、な?先輩が見てるじゃないか…と慰めるが、その時、おい笠井!と右門が声をかけて来る。

喧嘩しちゃいかんな、お前たち2人が幸せになる手はいくらでもあるよと笑いながら右門と伝六が近づいて来たので、そうでしょう?近藤様とふみは急に真顔になって聞いて来る。 うん、せいぜい2人ともがんばるんだなと右門は声をかける。

飲み屋「樽清」では、酔いつぶれたお由の腕をさすりながら主人が、お由さん、もうすぐ旦那が帰る時刻だぜと声をかけたので、お由は少し身を起こすが、その時、おお、噂をすれば影とやら、ほ〜らご入来だと主人が暗い店の中で入り口の方を見ながら言う。

見ると縄のれんの向こうから同心が近づいて来たので、旦那!会いたかったよ、旦那!と呼びかけながらお由は暖簾の所へ向かうが、入って来たのが敬四郎だと知ると、な〜んだ、あば敬の旦那か…と落胆する。

それを聞いた敬四郎は、こやつ…、今朝、伝馬町の老を出してやったのは俺の計らいだぞ…と威張るので、ええ、長いことお世話様でしたよ…とお由は、敬四郎と目も合わさないで答える。

良いか、二度と掏摸を働いたら今度は佃の方に放り込むぞと敬四郎はお由を脅すと、二度と旦那のお世話にはなりませんよ、愛しい右門様に縛られますとさ…い〜だ!とお由が言い返したので、抜かしたな、こやつ!と敬四郎は十手を振り上げて殴ろうとする。

その手をすり抜けたお由は、落ちかけていましたからと笑いながら、敬四郎の懐から掏った巾着袋を差し出し、それを嗅いであ〜あ嫌な匂い…、はいどうぞとバカにする。

敬四郎は慌てて懐を探り、それを見ていた松は、さすが櫛巻お由だ、目にも留まらない早業だと感心しながら巾着袋を受け取ったので、何、感心してやがるんだ、この野郎!と言いながら敬四郎が十手で松の頭を殴りつける。

殴られた松をお由が哀れんで赤子を抱くように抱きつくと、わいせつな真似をするな!と敬四郎は怒鳴りつけ2人を離れさすと机に向かう。

お待ちどうさん!と主人が酒を持ってくると、いや酒はいらん!、飯を持って来いと敬四郎は主人に命じるので、旦那、景気付けましょうや、お盆のお手当も出たことだしと松が誘うと、うるさい!たかが役人の手当くらいなんだ!と叱るが、それを聞いていた主人が、ええお手当がたんまり出ましたら、店の方の借りをとっくりとお払いくださいと願い出たので、分かっとる、目先の効かん奴じゃ!与力になったら倍返しだ!と敬四郎が虚勢を張るので、へえありがとうございますと主人が頭を下げる。

ある雨の夜、破れ傘をさしてひた走る伝六と松が道でぶつかる。

それでも構わず、起き上がって走り出した2人は、それぞれ右門と敬四郎の屋敷に飛び込んで行く。

旦那!事件ですよ!と右門の屋敷に四つん這いで這い上がった伝六が呼びかけると、今深川町の番屋を覗いてみると、昨夜方に殺しがありましてね、殺されたのは備前弥一郎とか言う若い浪人でさ〜と報告する。

やった手口は?と右門が聞くと、それが妙な殺され方でねと伝六が言うので、妙な殺され方?と右門は目を光らせる。

一方雨漏りする部屋の中で手桶を両手に持って雨漏りを受けながら立っていた敬四郎の方も、何?凶器は手ぬぐいに巻いた石だと!と、松の報告で驚いていた。

松に桶を渡し、刀を手に取った敬四郎は、今度こそこの敬四郎の腕の見せ所だ!と張り切る。 松から神棚に置いていた十手を受け取ると、松と共に家を飛び出して行く。

一足遅れて家から飛び出した2人の前に立ちふさがったのはお由で、旦那!会いたかったよと声をかけて来たので、怯えた右門は伝六とともに反対方向へ逃げる。

するとお由も、旦那〜!待って〜!と呼びかけながら後を追って来るがすぐに右門たちを見失ってしまう。

御用提灯が周囲を取り囲む事件現場の屋敷。

被害者の表を改めた敬四郎は、凶器に使われた手ぬぐいに巻いた石を振り回してみた後、お内儀殿ですな?と室内にいた2人の女性の1人に問いかける。

はあ、奈美(青山京子)と申しますと内儀が頭を下げると、もう1人が弥一郎の妹の静(桜町弘子)でございますと名乗る。

そんな美貌の女性2人を前にした敬四郎は、ああお労しい…、全くお労しいことでござると同情するが、だがご安心なさい、南町奉行の筆頭同心の村上敬四郎が出張ったからには2〜3日うちには犯人を挙げてみてごらんに入れますと約束する。

そこに遅れてやって来たのが伝六と右門で、村上様、ご苦労でございますと挨拶する右門に、近藤、筆頭同心のわしが来ているんだ、遅いぞ!と敬四郎は叱りつける。

この証拠が手に入ったからには、もはや犯人は袋のネズミも同然でござると敬四郎は自信を見せると、松、この手ぬぐいを売っている所を大急ぎで洗って来いと言って手ぬぐいを松に投げ渡す。

へい合点だ!と言い、松が飛び出して行ったので、敬四郎は遺骸を調べながら思案している右門の様子を横目でちら見ながら、お内儀殿、変わったことがありましたらすぐに番屋までお知らせください、村上敬四郎間髪入れず出張りますから…と言い聞かし、一旦帰りかけるが、ふと気付いて右門の方へ向くと、近藤、言っておくがな、我々同心は事件と聞いたら迅速に行動するを以て尊しとする、良く心得ておく方が良いなと説教すると、お先にご免と言い残し部屋を後にする。

南の町所の近藤右門ですと静と奈美に自己紹介した右門が、さっそくですが、ご主人が殺された時、あなた方は留守をされていたんですね?と聞くと、はい、深川の八幡様に月代わりをして帰りました所…と奈美が答えたので、お帰りになった時刻は?と右門が聞くと日の暮でございましたと奈美は言う。

するとお二人が家に入った時にはご主人は既に殺されていたんですね?と右門は念を押すと、はいと奈美が答える。

で、別に争ったような様子も見えませんが、もちろんその時には犯人らしき姿は見えなかったんですね?と右門が聞くと、いえ、それが…と奈美が口ごもったので、いたんですか?と右門は問いかける。

ではあなたが家に帰って来た様子をもう少し詳しくお話しくださいと右門は頼む。

その言葉に少し悩んでいるかに見えた奈美だったが、意を決したかのように、申し上げます!と口を開く。

(回想)土砂降りの雨の中、相合い傘で帰宅した奈美と静は、ただ今帰りましたと夫に声をかけながら入り口を入った奈美は、誰か男が夫の部屋から庭先に飛び出すのを見たので、どなた?と声を掛けるが、奥に部屋に入ると夫が倒れているのに気付きあなた!と抱き起こす。

一方、妹の静の方は、逃げた男を追って庭先から通りに出た所で、たまたま通りかかったのか、逃げた男にぶつかられよろけた南雲堂が、お嬢さん!どうしたんですか?と聞いて来たので立ち止まり、思わず泣き出す。

家の中では、奈美が夫を抱きかかえ、あなた!あなた!と泣きながら呼びかけていた。

(回想明け)職人風と言うのは間違いありませんね?と右門が念を押すと、はいと奈美は答える。

あの傷口から見ますと、相手はそこら辺に転がっている職人風情とは思われませんが…と教えた右門は、ご主人の以前の藩はどちらですか?と質問を変える。

掛川藩の江戸詰めでございましたが、三月前からお咎めを被りまして…と奈美が言うので、三月前?と右門は何か思案し出す。

翌日、掛川藩の江戸屋敷に事情を聞きに言った右門に応対した平岩和泉(水島道太郎)は、公儀への思惑もあり今日まで秘しておりましたが、実は三月前のある夜、当屋敷の御金蔵が破られ、1万両を奪われたのですと打ち明ける。

後にその責めを負って備前弥一郎は藩を去った次第ですが、殿の御懐疑もようやく解け、近く帰参が叶う時に不慮の死を遂げるとは…、よくよく不運な男です…と和泉は同情するかのように言う。

下手人の心当たりは?と右門が問うと、それが、御金蔵の前に落ちていた印籠が証拠となって当藩士甲斐達也なるものに嫌疑がかかったのですと和泉は言う。

甲斐と言う男、死んだ備前同様まれに見る精錬実直な男で、吟味をすれば立派に申し開きをする物と固く信じておりましたが、彼はその夜から藩から姿を消してしまったのですと言う和泉の話を聞いていた右門は思案し始める。

それから藩も必死の探索を続け、なお殺された備前弥一郎にも帰参の条件として甲斐の捜索を命じておきましたが杳としてその行方が知れないのですと和泉は続ける。

その頃、奉行所にいた敬四郎の方は、年格好や人物くらい分かるだろう!太った野郎か痩せぎすな野郎くらいはよ!と汗を拭きながら、参考人として呼びつけた南雲堂に文句を言っていたが、嫌になっちまうな〜、何度も言ったでしょう、ともかくね、私は家に帰って銭湯で汗を流してさっぱりしてえとあの雨の中急いで来ると、急に職人風の男が備前さんの所から飛び出して来て、私にぶつかりの泥だらけの所へ尻餅をつかされるの、悪態をつこうにも相手はすっ飛んで消えてしまってるんですからね…、旦那、早く帰して下さいよと敬四郎に頼む。

しかし敬四郎は、身振り手振りばかり大げさな真似しやがって…、そうはいかねえよ!と拒否する。 そこに、旦那!と飛び込んで来たのが松で、旦那!手ぬぐいの奴連れてきました!と言うので、そうか!でかした、これへ!と敬四郎は手招く。

松は気張って入り口の前に立つと、一同、入りませい!と外に呼びかける。

すると同じ柄の手ぬぐいを手にした商人たちがゾロゾロと数十人も入って来て、旦那、連れてきましたと松が得意げに言うので、これは何じゃと敬四郎は戸惑う。

同じ手ぬぐいと松が自分が持っていた手ぬぐいを指したので、バカもん!同じじゃなく、これを売った店を探してくれと言ったんだと敬四郎は叱りつけるが、全部売ってやすと松は居並ぶ商人たちを十手で指しながら言い返したので、ああそうか…とさしもの敬四郎も納得する。

祭りで賑わう通りを歩いていた伝六は、悔しいね〜全く!世間じゃ祭りだって言うのによ、旦那、いつもの伝でとっとと埒を明けておくんなせえよ、旦那、旦那!とうるさく呼びかけるが、バカみたいな顔して祭り提灯見てたってね、ホシは掴まりませんぜとけしかける。

すると右門は、うるせえな〜、顎を外して懐にしまっときなと諌める。

その頃、奈美と静は、元禄二年六月二十八日と裏書きされた弥一郎の墓に手を合わせていた。

そして2人揃って帰りかけた時、墓所に見知らぬ不良グループが出現し、2人を取り囲む。

奥に隠れていた深編み笠の浪人者が合図すると、不良グループは一斉に奈美と静に襲いかかり2人を拉致しようとする。

そこに現れたのが右門で、やいやいやい、手前たち!八丁堀の町羽織が見えねえのか!と伝六が見栄を張る。

不良たちは逃げろ!と喚きながらも、突きかかって来た者もいたので右門は軽く交わし、逃げる不良のひとりに縄を投げつけて捕まえる。 それに気付いた深編み笠の浪人は慌てて逃げて行く。

伝六が縛り上げた不良に、おい、誰に頼まれたんだい?と右門が聞くと、今逃げて行った浪人者に兼ねもらって頼まれたのさと白状したので名前は?と右門が聞くと、知りませんよ、勘弁しておくんなせえよと不良は金を差し出して懇願するが、馬鹿野郎!人を殺し損なって勘弁してくれですむと思うか!と伝六が叱り頭を叩く。

まあ良い、こいつをしょっぴけ!と右門は伝六に命じる。

その様子を物陰からうかがっていたのは行方知れずになっていた甲斐達也(平幹二朗)だった。

奈美と静は右門にありがとうございました、近藤様が見えなければ私たちはどうなっておりましたことか…と救われた礼を言う。

今の浪人者に何か心当たりは?と右門が聞くと存じませんと言うので、掛川藩の旧藩士の中には?と重ねて聞くと、亡くなった兄の知り合いの中にはあのような人はおりませんでしたと静が答える。 そんな3人を甲斐が密かに尾行する。

寺の門前に来た時、奈美が苦しそうにしゃがみ込んだので、静はお姉様!と驚き、右門も、どうされました?ご気分がお悪いんですか?と振り返って聞く。

はあ、あまりの出来事でございましたので…と胸を押さえて奈美は答えるが、大丈夫ですか?と右門は案じるが、その時、門の陰に男は右門に姿を見られたと気づきその場を逃げ去るが、それを見た静は、達也様!と驚き、奈美も甲斐様!と呼びかける。

右門はその甲斐の後を追う。

祭りの神輿で賑わう通りに逃げ込ん甲斐を見失うまいと必死に追っていた右門だったが、結局甲斐の姿を見失ってしまう。

奈美と静とその後休憩所の座敷席で再会した右門は、ご主人の部屋にいた職人風の男と言うのは甲斐達也と言うさっきの男ですね?と聞くと、はい、とっさのこと故はっきり申し上げられませんでしたが、先ほど甲斐様のお姿を見てあるいはと…と奈美が答えると、お許しくださいと静がひれ伏して謝って来る。

私は知っていたのです、でも私の口からは申し上げられませんでしたと静は言う。

失礼ですが、妹さんと甲斐達也との間柄は?と聞くと、はい…、三月前までは末を誓った間柄でございました…と奈美が答える。

でも私には信じられません、甲斐様ともあろう方が御金蔵破りをするなんて…、ましてや夫を殺す理由などは…と奈美が言うと、お姉様、良いのよ、私、誰よりも甲斐様を信じて…、でもそこには私たちの知らない深い訳が…と静が涙ながらに訴える。

私は甲斐様に一言申し上げたい…、逃げ隠れしないで罪は罪として償いの道があれば、何故…、何故それを選んで下さらないのかと…、そればかりが心残りで…と静は泣き崩れる。

右門はまた左手を顎にかける思案のポーズを取るが、奈美は義妹のもらい泣きをしそうで我慢していた。

お内儀…と右門が問いかけた時、突然何かが部屋に投げ込まれ、飾ってあった信楽焼のタヌキが壊れる。

右門は外へ走り出てみるが、外はまだ祭りの見物客で犯人を見つけることだと敵わなかった。

店に戻った右門は、旦那様、これでございますと店の主人から差し出された者を受け取る。

それは手ぬぐいに巻かれた石のようだったが、手ぬぐいをほどいて確かめてみると、中には紐で数珠のようにまとめられた石が入っていた。

その頃、いつもの飲み屋「樽清」で酒を飲んでいた南雲堂に、主人が旦那、おめえが通り合わせたのが災難だよと、弥一郎の家の前で男にぶつかられたばかりに敬四郎に絞られたことを同情していた。

全く嫌な野郎だね〜、朝っぱらから呼び出しやがって…、お陰で今日一日は丸つぶれさ…と南雲堂も敬四郎の悪口を言う。

そこに、ちわっ!と伝六が暖簾を潜り、続いて右門も入って来たので、おや旦那、いらっしゃいと主人が愛想を振りまく。

右門は、南雲堂、お前今日、村上さんから呼ばれたんだそうだなと聞くと、実は今、そのことでこぼしていた所なんですがね、一日がかりでやいのやいのってね…と南雲堂は苦笑する。

そうかい、そりゃご苦労だったな…と同情した右門は、ところで俺もおめえにちょっとばかり聞きてえことがあるんだがなと言いながら南雲堂の前に座る。

え?と驚く南雲堂に、備前の所の垣根から出て来た職人風の男な、おめえ何か見当付かないか?と敬四郎と同じ事を聞くので、思わず含み笑いし出した南雲堂は、実はね…と言うと、ちょっと…と右門を店の奥へと手招くと、あば敬の旦那にはね、最初から剣呑にされたんでしゃくに触って言わなかったんですがね、私にだって目がありますよ…と言い出したので、どんな野郎でい?と伝六が聞く。

25〜6の色の浅黒い目元の涼しい奴でしたよ、私にぶつかるとそのまま韋駄天走りで消えて行ってしまいましたがね…、ちょっと見にはなかなか良い男でしたよと南雲堂は言う。

それを聞いた右門は、25~6の色の浅黒い目元の涼しい男か…と考え込む。 その夜、笠井さん!いませんか!と家に向かって呼びかけ、そのまま門の前に座り込もうとする一団がいた。

門の前には駕篭が置いてあった。

ゴザを敷いて年長の男が座り込むと、他の面々は、又戸を叩いて、笠井さん!居留守使っても分かってるんですからね、早く出て来て下さいよ!などと又家の中に呼びかける。

そこにやって来たのが伝六で、何事が起こったんだ?と声を掛けると、門の前にいた商人風の男は、関係ないのと言い返して来る。

上等だこの野郎…と頭に来た伝六が、一体どうしたんだ?とゴザに座っていた播磨屋五郎右衛門(夢路いとし)に訳を聞くと、家の娘が家出したんですよ、ふみと言う娘がねと言うではないか。

すると笠井さんとどう言う関係があるんだい?と伝六が聞くと、そそのかしたに違いありませんよ、きっと家の中に隠れているに違いない、もうこうなったら出て来るまで絶対ここは動きませんぞ、おい煙草!などと使用人たちに命じたので、そこに近づいて来た右門が、おいおい笠井は番所に詰めとるよと教える。

すると播磨屋は、最前、非番だと言うのを調べて来たんですよ!と言い返して来たので、それが急に事件が起きてな、奉行に呼ばれたんだよと右門は笑顔で教える。

そら大変や、駕篭!と言いながら、播磨屋と使用人たちは泡立たしく屋敷の前から去って行く。

それを見送った伝六は、門から笠井さんと呼びかけ、右門は隣の自分の家から木戸を潜って隣の笠井の家の庭先に入り込むと、おい、笠井!と呼びかける。

すると、布団にふみと一緒にくるまっていた笠井が嬉しそうにはい!先輩!と答えながら姿を見せる。

なんだお前その格好は…と右門が笑いながら上がり込んで来て、おいオヤジ殿はもうすぐ来るぞと脅すと、とにかく家に帰ってろって言ったんですけど、帰るくらいなら死ぬって言うんですと笠井が当てつけたので、え?死ぬ!と右門は驚く。

だって…、嫌な所へ行くくらいなら死んだ方がマシでしょう?とふみが聞いて来る。

ね?近藤様お願い、助けて〜!とふみが合掌して来たので、こいつは困ったな…と右門はため息をつく。

一緒に座敷に上がり込んでいた伝六が、ねえ旦那、この子のような苦労もあるし、兄貴を殺されてなきを見ているあんな子もいる、世の中色々だね?蛸の足はイボイボだと意味有りげなことを言う。

帰宅して寝かせられた奈美は、私たちはこのまま江戸にいて良いのでしょうか?と静に問いかけていた。

夫の次に今度は私たちが狙われ…と呟いていたかと思うと、突然起き上がり、怖い!怖い!と静にすがりついて来たので、お姉様!気を鎮めて下さい!お番所の村上様たちが守っていてくれます、それに近藤様たちも私たちに付いていて下さるのです…、気を強く持って下さい、ね?お姉様…と静は言い聞かせ、奈美を再び横にならせる。

一方、特大の握り飯を食べながら備前の家の外で夜番をしていた松は、近くにいた敬四郎がだらしない顔で眠りこけているのに気付き、旦那!旦那!と呼びかけながら、落ち葉の先で鼻の穴をくすぐると鼻を動かすだけだったので、筆頭同心の顔かね?と呆れる。

それでも起きないので、旦那、出た!と耳元で大きな声を出すと、何、出た?!と敬四郎は驚いて目覚めたので、あそこ!月が出た!と松は夜空の月を指して笑うと、馬鹿者!と敬四郎はビンタをする。

翌日、2人組の瓦版売り(上方柳太、上方柳次)たちが、お侍が殺された!事件の影に女あり!オヤジのハゲに毛がない!そんなもん関係あらへんやないか!と声を挙げながら町を走っていた。

すいません、こりゃ冗談ですけど、後に残されたご内儀と妹子がこれが又揃いの別嬪と来たからにゃ、こいつはただの遺恨じゃねえと思いてえのが人の常…、恋は思案の帆掛け船…などと漫才のような口上で人を集める。

今江戸の噂を引っ張っているのがこの浪人殺しだ!そして皆さんご存知の、あのむっつり右門でさえ思案の投げ文だよ!新しいことはこの瓦版にちゃんと書いてあるよ〜!と集まった町人たちに2人は声をかける。

その時、お前たち、いつ商売替えしたんだい?と声をかけて来たのはお由だったので、姉御!こればっかりはね〜と掏摸の真似をし、役人がうるさくてしょうがないんですよと2人の瓦版売りは言い訳する。

細かく稼ぐと考えればね、姉御、一枚いかがですか?とお由に瓦版を渡すと、あたいを裏切るつもりかい?とお由が言うので、そんな事ないですよ、姉御愛してるのよ〜などとおべんちゃらを言って来たので、怒ったお由は瓦版を掴んで周囲にまき散らす。

その後、右門の家にやって来たそのお由は子供が道の真ん中に仕掛けていた小さなおとし穴に足を取られ、下駄の鼻緒が片方取れてしまう。 惨めな様子で、旦那、お早う!と右門の家に入って来たお由だったが、どなたです?と女の声が聞こえたので驚く。

部屋の掃除をしていた姉さんかぶりのふみがどなたでしょう?と出迎えたので、お前さん、一体何者だい?とお由は愕然とした顔で聞く。

御用をおっしゃって頂戴なとふみが聞くと、おや?用を言え?お前さん右門の旦那のおかみさんかい?とお由が嫌みを言うと、お留守を預かってるんですとふみが答えたので、謂れを聞いているんだよ!とお由が怒り出すと、そんな返事はお断りよ!とふみも臍を曲げ出す。

何だって!お退きよ!と言い、勝手に上がり込んだお由は、右門の旦那と私とは二世を契った深い仲なんだよ、あたいの身体のどこに黒子がいくつあるかまでちゃんと知り尽くした仲なんだから!などとお由は部屋の仲を見回しながら言い張るが、それを無視してふみが叩きをかけ始めたので、うるさいわね!と怒ると、ふみもいーだ!と可愛く言い返す。

するとお由も意地になり、お前なんかに取られてたまるもんかい!と言うと、ふみが持っていた叩きを奪い取り、自分が叩きかけをやり出す。

伝六が旦那!と笠井の家に来ると、笠井と右門がメザシを焼いている所だった。

ご苦労だったなと右門はねぎらい、どうだったお静さんの家の方は?と聞くと、あべ敬旦那の派手な張込みを知ったのか何事もなかったようなんで…と伝六が言うので、で他の方は?と聞くと、別にこれと言う聞き込みはなかったんですがね、旦那、あれはやっぱり甲斐の野郎の仕業ですぜ、だって現に寺の下に現れたときだってれっきとした職人風だったと言うじゃないですかと伝六は言う。

甲斐に野郎をふん縛って泥を吐かした方が良いのにな〜全く…と、伝六はメザシを摘もうとしながらもその度に笠井に邪魔され、悔し紛れに右門に愚痴を言う。

どこに潜っちゃったんでしょうね?甲斐のやろう、甲斐のやろう…探し甲斐がないとはこのことですねと伝六が言うので、馬鹿野郎、つまらない洒落言ってねえで早く飯食え!と右門が叱る。

右門の家では、まだお由とふみが右門の着物を奪い合いながらそっぽを向いていた。 そこにやって来た笠井はお由の存在に気付き、障子の影からふみさんちょっと!と小声で呼ぶ。 お由はそれに気付いて障子の影を覗き込む。

番所へ言って来るよ、ひょっとしたらね、2〜3日帰れないかもしれないんだ、寂しいだろうが待ってくれと笠井が言うので、えっ、2〜3日も?嫌だわ私1人ぽっちで留守番してるなんて?とふみがすねると、ふみさん、分かってくれよ、な?俺たちが一緒になるにはどうしても手柄を立てなければならない、それでオヤジを見返してやるのさと笠井が言い聞かせる。

そうね、じゃあこれ持って行ってとふみがお守りを差し出すと、受け取った笠井はありがとうと言って立ち上がったので、早く帰ってねとふみは甘える。

笠井が出掛けると、そうした2人の会話を盗み聞きしていたお由は不思議がり、ねえねえ、ここ右門の旦那の家じゃなかった?と聞くと、近藤様のお家ですよとふみはそっぽを向いたまま答える。

でしょう?ねえ…、おかしいね…だけど、ねえ、今の人何?とお由が聞くので、関係ないでしょう?とふみが無愛想に答えるので、あらショック…とお由は憮然とする。

自宅に戻った笠井は右門の耳元に、先輩、お由さんが来てますよと告げると、そいつはいけねえ!と慌てて立ち上がった右門は伝六、笠井とともに入り口から逃げ出す。

浅草境内に店を開いていた南雲堂は、暑いので上半身をはだけていたが、その時、偶然通りかかった甲斐に気付いたので、近くにいた若い衆に店番を頼み、そのまま奉行所に駆けつけると、ちょうど門から出て来た伝六に耳打ちをするが、途中で堪り兼ねて、甲斐達也ですよ!と声を上げる。

驚いた伝六が、旦那!旦那!と叫びながら右門の部屋へ走っていると、騒々しい!無作法千万!少しは松を見習え!と自室で書き物をしていた敬四郎が注意して来て、部屋に一緒にいた松も、気を付けろい!と威張って来たので、そっと歩いて右門の元に来ると、旦那、大変なんですよと呼びかけるが、右門も書き物をしており、敬四郎が何事かと奥から覗いて来たので、それに気付いた伝六はでば亀!と注意する。

そして伝六は、早く、早く!と言いながら右門の手を取って、側にいた笠井も一緒に廊下へ連れて行く。

何?南雲堂が甲斐の隠れ家を?と伝六の報告を聞いた右門が聞くと、ええ奴はね浅草境内に現れたのをそっと後を付けて行きますよとね、砂裏の千基稲荷の近くの明願寺と言う寺に入ったそうで、甲斐はそこに隠れているに違いねえって南雲堂が知らせに来たんでさあと伝六は言う。

砂裏の明願寺?と笠井が聞くと、ええ、ぐずぐずしていられねえ!あっしは腕が鳴る、駕篭呼んできますぜと張り切った伝六が外へ向かおうとすると、おい、捕物には日が高いよと右門は呼び止め、部屋の方を振り返ると、柱の影で盗み聞きをしていた敬四郎がそっと身を隠す。

そして松の所へそっと戻って来た敬四郎は、松、捕物だと小声で知らせるが、それを聞いた松は、御用だ!と思わず大声を上げてしまう。

それを扇子で制した敬四郎は、捕物には日が高えと右門を真似して敬四郎も見栄を張ってみせる。

お静は、すっかり衰弱し寝込むようになってしまった奈美の看病をしていた。

そこにやって来たのが伝六で、こんちは!と声を掛けると、しっ!と寝ている姉を気づかって黙らせた静が何かあったんですか?と聞くと、ちょっと伺いやすがね、旦那がこちらに来てませんか?と伝六が聞くので、近藤様ですか?お見えになりませんけど…と静は答える。

それを聞いた伝六が、弱っちまうな、この一大事に…、どこをうろうろしてやがるんだろうな…、弱ったな〜…と狼狽するので、何が起こったんです?と静が聞くと、何がってお前さん、一大事なんですよと伝六は言う。

まごまごしてたらね、商売敵のあべ敬さんらに獲物をみすみすさらわれちまうんですよと伝六は説明するので、獲物っておっしゃいますと?と静が聞くと、あ、又来ますわ、とにかく旦那を捜さないと…とその場をごまかした伝六は家を出たかに思うとすぐ戻って来て、お静さん、おめえさんだけにこっそり教えますがね、甲斐達也の隠れ家が分かったんですよと打ち明ける。

驚いたお静に、砂浦の妙願寺の庫裡ですよと、いよいよ兄さんんお仇を今夜ふん縛りますからね、待っててくんなよと伝六は笑顔で教える。

旦那!とあらかじめ近くで待っていた右門と笠井に合流した伝六に、どうだ?あの子の様子は?と右門が聞くと、真っ青になりましたよと伝六は教える。

右門たちは、家を出て出掛ける静に気付き尾行し始める。

笠井、お前はあの長屋を見張ってろと命じると、先輩は?と笠井が聞くので、わしはあの娘さんのお供をするんだと右門は答える。

暗くなった頃、南町奉行所から敬四郎と松を先頭に捕り手たちが御用提灯を掲げて出立する。

駆け出した敬四郎は、松!余に昇進の関ヶ原、遅れをとるな!と喝を入れる。

妙願寺の門を入った敬四郎は、捕り手たちに合図して一旦動きを留めて中の様子を伺い出す。

暗闇の草むらを進んでいた敬四郎は、突然松が悲鳴を上げて抱きついて来たので肝をつぶすが、それは単なる猫だったので、バカ!と言いながら震えている松の口を押さえる。

灯りの灯った庫裡の前に到達した敬四郎は、怯える松を片手で押さえながら、甲斐達也!もはや逃れられぬ所だ!神妙にお縄を頂戴しろ!と中に呼びかけ、それ!と捕り手たちに声をかけて庫裡の中に入るが、そこには誰もいなかった。

探せ!探せ!と敬四郎は寺の中をくまなく探査させるが、いない!どこにもいない!と戸惑うと、松も同じセリフを繰り返す。

さては取り逃がしたか!と敬四郎が悔しがると、残念よな〜と松が後ろで見得を切ったので、やかましい!おれの言うこっちゃ!と敬四郎は突っ込む。

御用提灯の列が塀の向こうに遠ざかって行くのを確認した甲斐は庭先に姿を現す。

振り向いた甲斐は、静さん、何故私を逃がしてくれたんです?とそこにいた静に問いかける。

達也様、今の私にはあなたを咎人には出来ません…と言うと感極まって、達也様!と抱きついて来る。

静はあなたがいて…と言う静の言葉を聞いた甲斐の方も涙を流していた。

弥一郎が息を引き取った時、その場に居合わせたのがこの達也だと言っても?と甲斐は念を押すが、言いました…と静は答える。

その時、ほ、ほ、ホタル来い♩と歌いながら蛍狩りの3人の少女たち(ビクター少年民謡会)が近づいて来たので、甲斐と静は草むらの中に屈んで身を隠していたが、バレそうになると、あっちへ行け!と叱りつけたので、少女たちは泣き出してしまう。

見かねた静は、達也様、お止めくださいと止め、しゃがんで泣き出した娘たちにごめんなさいねと詫び、その場から去らせる。

甲斐は戻って来た静に、静さん、甲斐達也、ご覧のように見も心も荒んだ男です…と恥じ入るように言うが、だが私ではない、御金蔵破りも弥一郎を殺したのも私ではない!と甲斐は打ち明ける。

それを聞いた静は驚き、では藩を脱走なされたのも?何故あの事件以来私にお会いくださらなかったのです?と詰め寄る。

しかし甲斐は、静さん、その理由は言えない!と言い、静を突き放す。

どんなに問いただされても断じて言えぬことだと甲斐が意地を張るので、おっしゃって下さい、身の罪が晴れましょうと静はすがりつくが、嫌だ!と甲斐は拒否する。

例え御金蔵破りと思われても、この真実だけは言えぬと甲斐は言い張る。

静はそんな甲斐にすがりつき、甲斐様!はっきりおっしゃって下さい!と迫る。

あなたは私を…愛しては下さいませんのでしょうか?と静が恥ずかしげに小声で問うと、甲斐は静を草むらに押し倒し、愛している!愛してればこそ言えんのだと甲斐が言うので、静は悲しみ、嘘です!愛しているものの気も知らないなんて!と言い返す。

すると甲斐は、分かるよ、向こう行ってくれ!と突き放して立ち上がったので、また静は甲斐にすがりつこうとするが、それを振り払って甲斐は逃げて行く。 待って下さい!達也様!と静は呼びかけながら後を追う。

2人が立ち去った後、草むらから出て来たのは伝六と右門だった。

旦那、あれ一体どう言う訳なんでしょうね?と伝六が問いかけるが右門は黙ったままだった。

一方、奈美が臥せっている家を見張っていた笠井は、深編み笠の浪人が夜道を近づいて来たのに気付き身を隠す。

浪人は周囲を見回し家の戸を開けたので、待て!その家に何か用があるのか?と聞きながら笠井が浪人に近寄る。

すると編み笠の浪人は、おお、八丁堀の旦那かと言うので、名を名乗れ!と迫ると、名乗るほどのものでもござらんと言い捨て去ろうとするので、待て!と追いすがり、笠の中の顔を確認しようと手をかけると、浪人がいきなり斬り掛かって来たので笠井も十手で応戦する。

しばらくもみ合った後、倒れた浪人は笠が取れるが顔を見られまいと逃げ出したので笠井は呼子を拭き鳴らす。

翌日奉行所で右門にあった笠井は、先輩、奈美さんを襲ったくせ者を取り逃がし、見張りの役目を果たせず捜査に支障を来して慚愧に堪えませんと言うので、久平、気にするな、いずれ又出て来るよと右門は慰める。

しかしですね先輩、私としては早く手柄を立てて、ふみさんのおやじさんを納得させないと男の面目が立ちませんと笠井が言うので、大げさだなと笑った右門だったが、けどおめえさんの気持は分からんでもないよ、だが功を急ぐ出ないぞ、先はまだ長いんだ…と言い聞かしながら笠井の肩を叩く。

そして敬四郎の前にまかり出た右門は、村上さん折り入ってお願いがあるんですがと切り出す。

何事じゃ?と敬四郎が聞くと、備前弥一郎殺しの凶器の石と手ぬぐいをしばらく私に御貸し願えないでしょうか?と右門は申し出る。

一体何のことかと思えばつまらんことを…、ああ、あんなもの欲しくば貴公にくれてやるぞと敬四郎は鷹揚に許し、松、出してやれと命じる。

立ち上がって松から凶器を受け取った敬四郎は、だが近藤、言っておくがな、こんな手ぬぐいはどこの店でも売っている極ありふれた品、何の手がかりにもならんぞと注意し右門の前に放り投げ、今頃こんなものを欲しがる貴公は、まだまだ若いよ…、うん、青いよ…と敬四郎はバカにしながら出掛けて行く。

そんな会話を聞いていた伝六が右門に近づき、旦那しっかりして下せえ、どうだあの態度!野菜や果物じゃあるめえし、貴公は若いよ、青いよ…と敬四郎の言葉を繰り返し悔しがる。

しかし無言で証拠の品を自分の机に持って帰った右門は、奈美と静といた店で自分たちに投じられた凶器を並べて比較し始める。

それを笠井も横から一緒に見る。

紐で数珠のように石を繋いだものを見比べた右門は、中国渡りの石つぶてか…と呟くと、伝六、駕篭だ!と命じたので、待ってました、行ってきやす!と立ち上がった伝六は出掛けて行く。

駕篭で右門に付いて来た伝六は、到着した場所を見て、旦那、ここは浅草の観音様じゃありませんか?良うもないので何で駕篭でこんな所まですっ飛んで来たんです?と不思議がる。

すると右門は、あんまり良い知恵が出ないもんで、ゲン直しにお詣りしようと思ってな…と扇子を開いて言うので、ちぇ!止めておくんなせい、そんな事したらね、江戸名物のむっつり右門様の名が泣きますぜ、良い知恵が出ねえ?神頼みだってよと伝六は嘆く。

しかし右門は、悪い、そう泣くなよ、どうだい向こうの茶店でところてんでも一杯!と笑顔で勧めるので、ちぇっ、言う事までしみったれて来たね、あっしはね、ところてんは神様に絶ってるの、絶ってるから食わないと伝六は言う。

立った?ふ〜ん…、じゃあ座って食ったら良いんじゃないか?と右門が洒落を言うと、けっ!立ったって座ったて同じようなもんだ!と伝六は嘆く。

その時、右門に気付いて近づいて来た南雲堂が、旦那、旦那、昨日の一件、巧くふん縛りましたか?と聞いて来る。

うん、それがどうもいけねえや…と右門が答えると、とんとって言うと、逃がしたんですかい?と南雲堂はがっかりしたように聞くので、村上さんに先を越されてなあ…と右門は打ち明ける。

じゃあ村上さんが召し捕ったんで?と南雲堂が念を押すので、それも見事に一本背負い投げを食ったんだと右門は愉快そうに答える。

それを聞いた南雲堂は、やっぱり逃げられてんですかい…と落胆する。

どうもこうドジ続きではまともにお天道様が拝めねえな…と右門が冗談を言うと、大体、あば敬の旦那が張り切り出すとろくなことがねえですなあと南雲堂もぼやく。

せっかくお前に親切に教えてもらったんだが、又甲斐探しに一汗かく始末さ…と右門は自嘲し、南雲堂と分かれて歩き出したので、付いて来た伝六は、旦那、お目当ては一体どこなんですよ?と焦れて聞く。

ははあ、暑さでお脳がぽ〜んと来やしたねとからかう伝六に、馬鹿野郎!俺は急にお由に会いたくなったんだと右門は言い出す。

お由って櫛巻お由ですか?と伝六が聞くので、そうよと右門が答えると、あ〜やっぱりお脳にぽ〜っと来たね、急にお由に会いたいなんて…と伝六は愉快そうに言う

その時何かを見つけた右門が、お?ほ〜ら見ろ、案の定生き弁天様の御光来だと言う。

見ると、混雑する中、通行人にさりげなくぶつかって財布を掏っているお由がいた。

そのお由の手さばきを右門と一緒にそっと付け見ていた伝六は、器用な真似しやがって…と感心する。

境内の隅で掏った中味を抜いた巾着袋を捨てていたお由に、おお、姉御!と声をかけたのは右門だった。

振り向いたお由は旦那!と驚くが、随分探しまわったぜと右門は笑顔で話しかける。

相も変わらず見事なもんだなと右門に言われたお由は、今の仕事がバレたと気づき表情を曇らせる。

じゃあ何ですかい?あたいを取っ捕まえて御用便にしようってんだね?とお由がふて腐れるので、おっと早合点しちゃいけねえぜ、実はな、おいらはおめえに折り入って頼みがあるんだよと右門は切り出す。

頼み?旦那があたいに?とそれまでそっぽを向いていたお由が急に笑顔になって振り返ると、まあ嬉しい!旦那の御用ならあたいなんだってする!と喜ぶ。

でも、立ち話は嫌でござんすよ、ね?とお由が甘えてみせると、良しと右門は答え、付いて行きかけた伝六に気付いたお由は、あんたはあっちへお行きよと厄介払いする。

はい!とそれに従いかけた伝六だったが、すぐ我に返り悔しそうにする。

船宿「舟ぎん」の暖簾の前に来た伝六は恨めしそうに上を仰ぐ。

その二階部屋に収まった右門が窓の障子を解き放ち、実はな…と用件に入ろうとすると、ちょっと待って下さいよ、ねえ旦那、私はね、旦那とあって3年このかた、こうやって差し向かいになれる日を…とうっとりしながら話すが、他でもねえんだがなと窓框に腰掛けたまま右門は切り出す。

お前のさっきの器用な真似、ちょっと見せてもらいたいんだと右門は言う。

しかしお由は、考えてみて下さいよ、3年ですよ、毎朝毎晩、風が吹こうが雨が降ろうが…、でも良いや、こうやって2人きりになったんだもの…などと、右門の頼みなど全く頭に入ってないかのように夢心地で答える。

どうだい?今言ったことやってもらえるかい?と右門が確認すると、今言ったこと?何か言いました?とお由は急に現実に戻されたかのように聞き返す。

そんな寝ぼけたようなお由の言葉に、うん?とあっけに取られた右門は苦笑し、おめえの器用な2本の指、俺のために使ってもらいたいんだよと右門は重ねて頼む。

自分の指を見て右門の依頼の意味を理解したお由はよございますとも、お易い御用ですよと承知する。

だから私、さっきも言ったでしょう?旦那の御用なら例え命をくれって言われようとも、待った無しの心意気なんですよと言いながら右門の側に座る。

分かったとお由の言葉を遮った右門は、その相手と言うのはな…と用件を続けようとしたので、御用なら後でゆっくりうかがいますよとお由はすねてみせる。

ねえ旦那、こっち向いて下さいよ、ねえ…、ねえ!とお由がねだると、うん?と言って無表情な右門が見たので、嫌、そんな顔!ね、笑ってとお由は甘える。

おかしくもねえのに笑うかいと右門が照れると、あ、その顔素敵!とお由は喜ぶ。 座卓の前に座り右門が酒を飲もうとしたとき、突如胸を押さえたお由が痛い、痛い!と騒ぎ出す。

どうしたんだい?と右門が聞くと、持病の癪(しゃく)が出て…と言うので、右門が看病してやろうと近づいたとき、階段を上がって来た伝六が障子に指で穴を開けて部屋の中を覗き込んだので、痛い!ここか?と言うお由と右門の会話と右門がお由の背中をさすっていたので動転し階段から転げ降りてしまう。

その音で右門は一瞬我に返り、お由はさらに痛いと叫んで甘えていたが、その内、ねえ旦那、私の言う事聞いてくれる?と言い出す。

うん、だがな、ことが巧くいってからだよと右門は答えるので、約束する?とお由が念を押すとうんと答えたので、嬉しい!と喜んだお由は急に真顔になって、それじゃあお話聞きましょうと言い出したので、何だ、もうおめえ直ったのか?と右門は驚く。

お由はおかげさまで…と言いながら右門にしなだれかかる。

その頃、夜道を早足で歩くふみを追う笠井は、待ってくれよ、俺は何もふみさんが嫌いで家に帰らないんじゃないんだ、今の事件が解決すれば毎日だって家にいれるだろう?だから、な?分かってくれよと笠井はふみを説得する。

あなたはお仕事に張り切っているけど私は毎日毎日ひとりぽっちで待っているなんてもう耐えられないわ!同心なんか止めて毎日私と一緒に家に落ち着いていられる商売ってないのかしら?御用、御用なんて情けない!とふみはだだをこねる。

同心が何よ、魅力ないわ!とまで言うので、思わずビンタする笠井。 その痛みで自分を取り戻したふみは、笠井さん許して、私が悪かったのよ、あんなこと言って…と良いながら笠井の背中にすがりつく。

すると笠井もふみの手を取り振り返ると、良いんだよと良い抱きしめ、俺は同心にしかなれない男なんだ…、ふみさん!と呟く。

その夜、お由は馴染みの飲み屋の前に来ると、右門から托された凶器の手ぬぐいを袂から取り出して再確認し、覚悟を決める。

お由さん、いらっしゃい!と主人が声を掛けると、笑顔で入って来たお由はちょうど良い所で会っちゃった!と良いながら、先に飲んでいた南雲堂に近づき、今お前さんに八卦を見てもらおうと思って急いでやって来たんだよ…と言うので、何をにやにや思い出し笑いしてるんだよ、何か良いことでもあったのかい?と南雲堂は振り返る。

おおありさと答えたお由は、さては右門の旦那の約束事でも出来たのかい?と南雲堂が指摘したので、さすがに南雲堂!ぴったりの久助さ!とお由は驚いたように答える。

南雲堂は、こいつはおめでてえや、お由さん、1本奢らねえかい?と聞くと、良いとも!と言うので、こいつはありがたいと喜んだ南雲堂は酒を注文するとありがてえな〜と言いながら調子を持って飯台へと移動する。

お由も椅子に座ると、実はね、右門の旦那から頼まれごとがあったのさ…と打ち明けたので、お前さんが頼まれごと?何を頼まれたんだい?と南雲堂は興味ありげに聞いて来る。

お由が掏る手真似をしてみせると、え?これ?これってお前さんお商売かい?と南雲堂も驚く。

らしいねとお由も苦笑する。

へ〜、こいつは不思議だね〜、お番所の事もあろうにむっつり右門の旦那が大石さんに掏摸を頼むとはね〜、で、相手は誰だい?と南雲堂が声を潜めて聞いて来ると、言わぬが花…とお由ははぐらかす。

ところがね、その相手って言うのが相当な代物らしいのさ、そいでね、巧く行くかどうか気になっちゃってね…とお由は続けるので、それでわしの八卦を頼って来たって訳だと南雲堂は言い当てる。

頷いたお由は、ねえ見てよと右手を差し出し、これが巧く行くとさ、あたいは右門の旦那をうんと言わせることが出来るんだからさと嬉しそうに頼む。

自分の念願が叶うかどうかって訳だね?と南雲堂は笑って立ち上がり、この見料は少し高いねと冗談を言う。

良いよ、その代わり念を入れてくれなくちゃ困るよとお由は良い、座敷席の方へ付いて行く。

見料はこの通りとお由が差し出した巾着袋を見た南雲堂は、こ、こいつはとんだ拾い物だと喜び、ありがとうと拝んで懐にしまい、筮竹をこね始める。

そして、お由さん、運が良いねえ、どうやら念願成就の卦が出たと南雲堂は言う。

本当?嬉しいね〜、じゃあ善は急げっていうからさ、ありがとうよと礼を言ったお由は帰ろうとするので、もう行くのかい?現金だね〜と南雲堂は笑う。

お由が出て行くと、オヤジ、勘定払おうか?と笑いながら懐に手を突っ込んだ南雲堂だったが、その瞬間表情が凍り付く。

そっと懐から取り出したものは巾着袋ではなく手ぬぐいに包まれたものだったからである。

南雲堂はお由から受け取った巾着袋を飯台の上に置くとそのまま黙って店を出て行くのを主人が不思議そうに見送る。

「樽清」を出た南雲堂は、辺りを警戒しながら夜道を歩き出し、深編み笠の浪人と出会うと、懐を押さえながら何事かを話しかける。

浪人者と別れた後、南雲堂は人気のない水桶の前に来ると、そっと懐から取り出した手ぬぐいをその水桶の中に落し込むが、その時、同じ水桶に誰かが石を包んだ別の手ぬぐいを投げ込み大きな水音がしたので驚いて振り向くと、そこには右門が立っていた。

近藤右門…と南雲堂が気付くと、やい南雲堂、とうとう尻尾を出しやがったなと笑いながら近づいた右門は、備前弥一郎殺しの犯人はてめえじゃないかと俺はとっくに眼をつけてたんだいと言う。

何!と南雲堂が驚くと、備前弥一郎がやられた時、家の中から飛び出して来た甲斐達也にぶつかったと言いやがって、その人相までまことしやかにべらべらとしゃべりやがったが、雨の中でしかもとっさの場合良く人相まで手前には分かったな…と右門は左手に捕り縄を握ったまま差し出し絵解きをする。

その甲斐達也に殺しの嫌疑を押っ被せようとして妙願寺を御注進に及んだが、こいつが帰って手前には仇になったとは気がつくめえが!と右門が詰め寄ると、南雲堂はその場から逃げ出そうとするが、そこに伝六が占いの小道具を放り投げて道を塞ぐ。

やい南雲堂、てめえ茶店で俺を襲った時と同じ手口でこの中国渡りの石つぶてで一撃の元に倒したとはどうして大した手練だと右門は続ける。

何の恨みでやったんだい?それとも誰かに頼まれたのか?おう、逃れぬ証拠は向こうの手ぬぐいだ! すっかり泥を吐いちまえ!と右門に攻められた南雲堂は、匕首を振りかざし襲いかかって来る。

さらに、壊れた商売道具から小物を拾い右門に投げつけるが右門は十手でそれを防ぐ。

逆に右門が捕り縄を投げて南雲堂の手を捉えると、南雲堂は匕首で縄を切る。

追いつめられた南雲堂は、畜生!さすがは八丁堀一の大者だ、そこまで眼をつけていたとは褒めてやる、だけどな、俺はまだまだこんなことでは年貢を納める気にはならないのさとうそぶく。

おい、俺がこんなことが出来るとは気がつくめえ!と叫んだ南雲堂は、屋根の上にジャンプし、あばよ!と言い残し、高笑いとともに闇の中に消え去る。

それをお由とともに見上げた伝六は、畜生、せっかくホシが割れたと言うのに…と悔しがる。 な〜に良いってことよ、どうせ一筋縄で泥を吐く代物じゃねえや、ああして放しとけばやがてご主人をくわえて戻ってくらあと右門は言う。

そんな右門たちを闇の中から見つめていた深編み笠の浪人は、斬る…と呟く。

その頃、臥せってしまった奈美のことを聞き及んだ敬四郎が自宅を訪れ、心配のあまりご病気とうかがい、取る物も取り敢えず駆けつけました、これはほんのお見舞いのお印まで…、どうぞお収めくださいと手みやげを披露する。

まあ、貴方様にこんなことをしていただきましては…と起きて出迎えた奈美は遠慮するが、何を水臭いことを…、こうしてあなた方御姉妹の生命を預かるのも、これもよくよくの因縁でござると敬四郎は殊勝に答える。

そして敬四郎は、うん、これは内緒じゃがな、配下の近藤右門らがわしの手足となって働き、どうやら捜査網は縮まったようじゃと打ち明け、もう心配はいりません、どうか大船に乗った気持でおられるが良いと慰める。

それを聞いた奈美は、何とお礼を申し上げたら良いやら…、ありがとうございますと礼を言うと、何を言われる、どうか手をお上げなさいと言い、敬四郎は奈美の両手を握り、おやつれなされたな~と同情すると、そこに入って来た松が、旦那、止しなさいよと言いおかしそうに笑うので、出しゃばるな!と敬四郎は怒鳴りつける。 今、捜査上の打ち合わせ中じゃ、気分が壊れる、表をで見張ってろ!と敬四郎は叱り、へいと答えた松が外に出ると、無理もない、最愛の夫を殺され、今なお御身たちが狙われてはな~と姉妹にわざとらしく同情し、うん、わしは断固として犯人を挙げてみせ申すぞ!と大げさな言い方をする。

そして、興奮する、どうぞお休みなさいと言いながら敬四郎は奈美を床に寝かせる。

そこに悲鳴を上げて松が転がり込んで来たので、ああびっくりした!病人がいるのに気をつけろ!と敬四郎が叱ると、松が十手で外を指すので、貴様、て○かんにでもなったのか?と良いながら外に出ると、そこには1匹の白猫がいただけに見えたので、何だ、猫か…、もっと精神を鍛錬せい!と家の中の松に怒鳴りつける。

その時、目の前に刀を突きつけられたので、誰だ?俺は南筆頭同心村上敬四郎なるぞ!と怯えながらも敬四郎は見栄を張る。

刀を突きつけながら近づいて来たのは深編み笠の浪人だった。

おのれ、御用だ!と果敢に敬四郎も十手を出して身構えるが、相手の気勢に押され、表に逃れるも、そこにももう1人浪人が待ち構えていた。

さらに2人と浪人の新手が増えて来て敬四郎は追いつめられる。

松、抜かるな!と叫びながら浪乃家に逃げ込んだ敬四郎だったが、松は浪人の刀を逃れ布団に倒れ込んだので、奈美は悲鳴を上げて静に抱きつく。

多勢に無勢、追いつめられた敬四郎は、南町奉行所同心泣く子も黙る村上敬四郎と知って抵抗するか!神妙にお縄を頂戴しろ~!と肝をつぶしている中、精一杯の虚勢をはる。 恐怖に狂ったかのように、夫の遺骨箱を抱いた奈美は突然静の制止を振り切って家を飛び出して行く。

静も後を追うが、夜の町中に逃げ込んだ奈美が、あなた!あなた!と叫びながらひたすら走り続けるので、誰か来て下さい!お姉様!と静は絶叫する。

橋から飛び降りようとする奈美に追いついた静は飛び降りさせまいと必死にしがみつくが、その静を押したした奈美は、橋の欄干に登りそのまま川に身を投げてしまう。

遺骨箱が川面を流れて行き、橋から静が、お姉様!お姉様!と絶叫していたが、やがて力尽きたかのようにその場に崩れ落ちる。

翌朝、水死体が上がったと知った右門と伝六が現場に駆けつけて来る。

何も身投げすることはねえのにね、1人残ったお静さんが可哀想だと思わないんですかね?と伝六が嘆きながら水死体の筵を剥いでみると、それは奈美ではなく南雲堂だったので、これはどう言うことなんでしょう?と伝六は驚き、右門もまた考え込む。

右門の旦那は一体何を考えているんだ?さすがの名同心も今度ばかりは手も足も出ないらしい、俺たちは八丁堀に只飯食わせているんじゃねえや!どうして野放しにする気だ!何とかしてもらわないと夜もろくろく寝られやしないや!下手人はどこかで笑ってやがる!今度の事件も又迷宮入りか?など野次馬たちの罵倒が聞こえて来る中、右門と伝六は引き上げて行く。

「爾今一切手出し無用のこと 万一違背の節は村上敬四郎の生命を絶つことあるべし 近藤右門へ」と書かれた手紙を右門から渡され読んだ奉行神尾元勝は、かような事実が表向きとなれば江戸の南北両奉行の面目に関わる一大事じゃ、右門!何としてでも事件を解決し、敬四郎を助け出してくれと命じる。

右門は、はっ、一命に賭けまして誓って…と頭を下げるので、ならば目星がついたと申すのか?と神尾が問いかけると、御意!残るは証拠固めのみにございますが、おそらく今宵本事件の巨魁を挙げることが出来ると確信致しますと右門は答える。

備前の妻女の死体はまだ上がらんのか?と神尾が聞くと、それも今明日中には必ず…と右門が答えるので、右門、元勝、そなただけが頼りじゃ、頼むぞ!と声をかける。 その夜、1人奉行所に残っていた右門はまだ考え込んでいた。

備前弥一郎(藤木錦之助)、南雲堂、奈美、甲斐、静らの顔が走馬灯のように浮かんでは消える。 そこに先輩!とやって来たのが笠井で、静を連れていた。

先輩、静さんに甲斐達也から手紙が来たそうですと笠井が教える。

達也が!と右門が驚くと、どうかご覧になって下さいませと静が手にした手紙を差し出す。

「取り急ぎ…、もはやいかなる手段も尽き果て、自らの手で無実を晴らすか身を裂かれる思いで今までのことはなきこととお諦めください、一目お会いして別れを告げし所なれど未練が募るばかりなり、お別れしたい、どうか幸せにお暮らしください。甲斐達也 静殿」

それを読んだ右門は、甲斐が何かことを起こそうと…死を決意しておる!と呟く。

雨の夜、笠をかぶった男が屋敷に忍び入ろうと、塀の脇の木を登りかけた時、お待ちくださいと声をかけたのは傘をさして近づいた右門であった。

邪魔するな!と笠の男が刀を抜いて右門の傘を斬って来たので、右門は十手を構える。

斬り掛かって来た甲斐の刃を十手で受けてひねった右門は、今この掛川藩の上屋敷に入れば犬死にだ!お止めなさい甲斐さん!と右門が呼びかけると、甲斐?甲斐達也と分かっていたのか…と笠の男は驚く。

どうやら事件は今夜が大詰めらしい、ここら辺りで男同士の話をしようじゃないか?と右門は甲斐に囁きかける。

その後、掛川藩の門を叩いて潜り門を開けた門番に出会った使いの男は、向島の寮から参りましたが、御家老様にこれをと手紙を差し出し、ご返事をいただきとうございますと言うので、しばらく待っておれと門番は男に言い屋敷の中へ向かう。

その直後、その使いの男の口を背後から塞いだのは右門だった。

門番から手紙を受け取った平岩和泉は行灯の側でそれを読み始める。

雨の中、門に戻って来た門番は、御上の用がすみ次第、必ず向島にお出でになるとのことだと、そこで待っていた使いの者に伝言し、笠をかぶった使いの者は一礼をして帰って行くが、その使いはいつの間にか右門にすり替わっていた。

(回想)庭先から石を巻いた手ぬぐいを回して弥一郎の頭に投げつけた南雲堂は、匕首でとどめを刺そうと座敷に上がり込もうとするが、そこに甲斐が訪ねて来たのでそのまま庭に逃げる。

弥一郎!と驚いた甲斐が駆け寄り、額から出血している弥一郎を抱き起こし、どうしたんだ、弥一郎?と問いかけるが、弥一郎はそのまま絶命してしまう。

(回想明け)寝床から起きた奈美は蚊帳の外に出て廊下に下がっていた廻り灯籠の明かりを見るうちに、南雲堂の顔が浮かんで来たので、怯えて蚊帳の中に逃げ込む。

そこに腰元がやって来て、奥様、御家老様はすぐお出でになるとのことですと伝言して来たので、ああそう、おしげ、御前、先に休んで良いのですよと声をかけ下がらせる。

寝床に横になった奈美は手鏡で顔の確認をしていたが、人の気配を感じ、誰です?と誰何する。

おしげですか?と暗がりの方を注視すると、そこに立っていたには頭から血を流した弥一郎だったので、あなた!あなた!許して!私は平岩に誘いに負けて…と怯えながら、奈美は後ずさる。

すると闇の奥から、良くも平岩とグルになってこの俺を殺したな…と男の声が聞こえて来る。

あなた!あなたは平岩の誘いに乗り、御金蔵破って1万両盗み出したのに…と奈美が言い返すと、何故殺した?と男は問う。

哉さえ手に入れば平岩には、あなたはもう邪魔になっててん、あなたを生かしておけば平岩自身の身に…、自身の身が危なくなるからですと奈美は答える。

奈美…、奈美…と闇からの男の声が響いて来たので、ああ、あなた!あなた!と絶叫しながら奈美は蚊帳の中から外に這い出た奈美は、そのまま、許して!私、平岩に、あなた!あなた!私を、あなた許して!と叫びながら庭先に落ちてもなお、這いずりながら逃れようとする。

その時、奈美は追って来て弥一郎の着物を脱ぎ捨て目の前に立っているのが弥一郎ではなく、笠井であることに気付く。

備前奈美!とうとう泥を吐きなすったねと笠井は言う。

極悪人と不義いたずらをし、夫殺しの罪は許せねえ!神妙にお縄を頂戴せい!と迫ると、奈美は外へ逃げ出したので、笠井も十手を取り出して後を追うとするが、それを制したのが右門だった。

しかし先輩!と笠井は抗議するが、追うんじゃない!と右門は言う。

その時、水音が聞こえたので、右門と笠井が駆けつけると、奈美は川を巧みに泳いでいたので、笠井、見ろ!入水自殺に見せかけて、実はおいらの見込んだ通り大した恰好振りじゃねえかと右門が言うと、はいと笠井も答える。

おい!伝六!と右門が呼びかけると、待ってました!上等だこりゃ!と闇の中から伝六の声がする。

笠井、あの女をしょっぴけ、お前の一番手柄だと右門は命じたので、え?と笠井は戸惑うが、ふみさんが喜ぶぞ、え、良かったな〜と右門は笑いかける。

江戸屋敷にその後、供揃いと共に平岩が戻って来て、しげ、供揃いに酒をふるまえと命じると、奈美の部屋にやって来る。

奈美!奈美!と平岩は呼びかけるが寝所には奈美の姿がないことに気付き、奈美!奈美はおらんのか!と周囲を探し始める。

その時、廊下に出現したのは甲斐達也と白装束の静だったので、何者だ!と叱った平岩は、静ではないかと驚く。

闇の中から甲斐も部屋の中に入って来て、平岩さん!罪に落し入れられた甲斐だ、身の潔白を正しに来たのだ!と平岩と対峙する。 静も懐剣を抜き、兄の仇、覚悟なさいませ!と迫る。

平岩が、何?何の仇?何を証拠にそのようなたわけたことを申す!と言い返した時、反対側の障子が開き、姿を現したのは右門だった。

平岩さんと右門が呼びかけると、右門!と平岩は驚くと、奈美さんが白状しましたよと言いながら右門は部屋に入って来る。

何!と平岩が驚くと、南雲堂を使って備前弥一郎を殺し、その上、その南雲堂まで亡き者にし、ことを闇から闇に葬り去ろうとしても、この右門の目は節穴じゃねえぜ!さ、観念をするんだ!と右門は迫る。

平岩が刀を抜いて斬り掛かって来たので、それを交わした右門は、さあ静殿!と声をかける。

静が懐剣で突きかかるが平岩が交わす。

平岩は渡り廊下に逃げ出したので、甲斐も斬り掛かろうとするが、それも交わした平岩は、出あえ!出あえ!と大声を挙げる。

部屋でたむろしていた浪人たちがその声に気付き、一斉に廊下に出て来る。

庭には伝六が狼狽していた。

くせ者だ!と渡り廊下に浪人たちが迫ると、待った、待った!これから先はお出入り禁止だ!と右門が出て来る。

引け!刀を引け!野暮にかかってきやがると、しころ正流がものを言うぜ!と右門は叱りながら浪人たちに迫る。

さあ刀引け!引かんか!と怒鳴りつけ、自ら浪人たちの中に飛び込んで行く右門。

乱闘が始まると、無益な殺生はしたくねえ、手を引け!と右門は呼びかける。

静を守って甲斐も応戦し、伝六も勇を振るって浪人に飛びかかって行く。

とうとう刃を抜いた右門は、手向かいをするとおのれらも同罪だぞ!と宣言する。

伝六は庭先を逃げ回り、静と甲斐は刃を向けた平岩に詰め寄られていた。 右門は、散れ!刀を捨てろ!とまだ浪人たちに呼びかけながら応戦していた。

予備の刀を取ろうとする浪人を突き刺した右門は、階段から降りて来た目つきの鋭い浪人と目を合わせる。 降りて来たのは深編み笠の男俵藤善鬼(尾形伸之介)だった。

静は何とか平岩を討とうと懐剣で突きかかるが、平岩にあっさり交わされる、その静を甲斐が手を引いて助ける。

右門は斬り込んで来た凄腕の俵藤と決死の戦いを始める。

右門は俵藤と渡り廊下に出るが、俵藤は既に傷を負っており、その場に突っ伏す。

右門は渡り廊下で平岩から追いつめられていた静と甲斐に気付き、小柄を投げつける。

小柄は平岩に刺さり、平岩に隙が出来たことに気付いた右門は、静殿!と呼びかける。

その声に呼応するように静は全力でぶつかり懐剣を平岩の胸に突き刺す。 それを見届けた右門はまだ斬り掛かって来る浪人を振り払い、渡り廊下で静たちと合流する。

静殿!と声をかけると、甲斐と静が会釈をして来て、その横には平岩が倒れていた。

刀を収めた右門は、甲斐さん、これであなたも青天白日の身ですと告げると、お礼の言葉もございませんと甲斐は答え、静と共に頭を下げる。

さらに右門は、静さん、何故甲斐さんが真相を言わなかったか良く分かりましたね?と言い聞かすと、静もはいと答える。

兄のことを私に知らすまいとする達也様の…と言いながら、堪り兼ねた静はその場にしゃがみ込む。

そんな静に、甲斐さんは真実あなたを想えばこそでした…、全ては平岩の罪です!さ、哀しいことは忘れてしまうんですと右門は言葉をかけ、静を立ち上がらせる。

これから先は嬉しいことで一杯だ、甲斐さん、静さんは良い奥さんになりますよと右門は甲斐に笑顔で話しかける。

そこに、旦那、大変です!と駆けつけて来た松は、うちの旦那がいました!と右門に報告する。

村上さん!と伝六と一緒に部屋に入って来た右門は、裸にされて、猿ぐつわをし、縛られていた敬四郎を発見し、捕縛を解いてやり、どうもお世話をかけましたと下手に出ると、近藤!かく不覚を取った一部始終、ま、聞いてくれと敬四郎は言い出す。

そして敬四郎は、難病の静殿危うしと聞き、押っ取り刀で駆けつけてみれば、家は既に包囲され蟻の這い出る隙もない、かくなる上は虎穴に入らずんば虎子を得ずと群がる敵の中に躍り込み、丁々発止丁発止!縦横無尽に斬りまくり、如何せん多勢に無勢!衆寡敵せずこの有様…、無念残念口惜しい!察してくれ、この苦悶!と長々と述べ、笑って聞いていた右門の手を握る。

後日、暑い、暑い、全く暑いとぼやきながら松と一緒に南町奉行所にやって来た敬四郎は、門から日傘を相合い傘でふみと出て来た笠井に気付き、おい笠井と声をかけ、挨拶せんか、挨拶を!横着者め!と叱りつける。

そんな笠井に手真似で行けと命じた右門が代わってお早うございますと挨拶すると、おう近藤、どうやらわしの働きが御奉行様のお耳に入ったらしく今日のお呼び出しじゃと扇子を鷹揚に扇ぎながら敬四郎は自慢する。

それはどうもおめでとうございましたと右門が頭を下げると、与力昇進の暁には目をかけて遣わすぞと敬四郎は威張るので、宜しくお願いしますと右門は従順に頭を下げる。

お先にご免と言い残し奉行所の中に入る敬四郎の後に付いた松も、お先にご免と同じことを真似して言う。

畜生、旦那!あいつの面の皮をひんむいてやんなさいよ、旦那が庇って御奉行様に報告したのも知らないで、あの高慢ちきな面!目をかけて遣わす、お先にご免!ああ俺が我慢できねえ、頭に来た!と伝六が悔しがり、又奉行所の中に戻ろうとするので、おい伝六とそれを留めた右門は、良いってことよ、俺なんかまるでご奉公に一生懸命なんだ、気にするなってと笑って言い聞かす。

町中に来た右門を橋の上から見つけたお由が、旦那!と呼びかけて駆けて来たので、伝六と右門は慌て、旦那、こりゃいけねえよ、早く早く!と急かして一緒に逃げ去るのだった。 お前さ〜ん!とお由が叫びながら後を追って来る。


 


 

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