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忍術罷り通る

柳家金語楼、エンタツ主演の「里見八犬伝」パロディ

過去「里見八犬伝」の映画化が何本かあることは知っていたが、パロディまであったのは知らなかった。

そもそも「里見八犬伝」の物語は、現代風に大胆にアレンジされた角川映画か50年代の子供向け「東映娯楽版」くらいでしかちゃんと見ていないので、きちんと内容を熟知しているとは言いがたく、何人か馴染みの名前のキャラが登場する以外は全く知らない展開を見ているような印象すら受ける。

もちろん大作などではなく、基本的に一軒の旅籠でのエピソードが中心になっているドタバタ劇で、役者芝居の部分も馴染みの薄い役者さんばかりなので、正直B級感溢れるものになっているが、村雨丸を巡っての展開になっているので、剣を抜くと雷光の中雨が降って来るなどと言う表現は貴重。

基本は「当時の人気芸人顔見せ出演映画」になっているのだが、柳家金語楼、エンタツ、ミスワカサの3人がメインでおとぼけ演技をしているだけで、他の芸人さんたちは普通の芝居に近いことをやっているので、爆笑コメディと言うほどではない。

芸人さんたちは上方の人が多く、上総館山が舞台のはずなのにコテコテの大阪弁が飛び交っているのがご愛嬌。

何せ作られた時代が時代なので登場しているお笑いの方も皆異様に若いため顔が判別しにくく、劇中延々と漫才風に説明セリフを披露している秋田Aスケ、秋田Bスケ師匠コンビなど定型通りのボケとツッコミの応酬で漫才師なのだろうと推測する程度で顔に馴染みがない。

夢路いとし、喜味こいし師匠コンビも後年のTVでのイメージしか知らないと誰だか分からないかも知れない。

ミヤコ蝶々さんも声は聞き覚えがあるのに、顔を見てもピンと来ないほどお若い。

特に喜味こいし師匠は八剣士の1人の訳をシリアスに演じておられ、笑いの要素は全くない。

ミスワカサさんは思いのほか出番が多いだけではなく男勝りのパワフルな役柄で、柳家金語楼、エンタツと並ぶほどの存在感。

当時の人気のほどがうかがえる。

TVがまだ普及していなかった当時の観客は、この手の人気芸人が登場するだけでみんな顔を見分けていたのだろうか?

金語楼、エンタツクラスの人気者なら写真や似顔絵が流布していた可能性もあるが、他の上方芸人の顔は全国に認知されていたのだろうか?

新聞広告に写真が載った程度で全国に顔が広まったのか?

顔を知らないと「出オチ」は通用しないはずなので、よほど芸人として目立つようなことでもしない限り当時の観客も役者か芸人かの区別もつかずに見ていた可能性が高いような気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1953年、宝塚映画製作所、秋田実+鏡二郎脚本、並木鏡太郎監督作品。

安西城から何か長い物を盗み出して逃亡する忍者。

異変を知らせる呼子が打ち鳴らされ、家臣たちが城に駆けつけて来る。

翌日城下町に出た高札に書かれた文言を食い入るように読んでいたのは俳諧師金梧桐(柳家金語楼)だった。

そこには「告 昨夜城内より宝剣村雨丸を盗み出せしものあり。犯人を届け出た物には金十両、村雨丸を届けしものには金百両を与うるもの也 文類8年9月3日 城主」と書かれてあった。

読み終えた金梧桐は今の高札の内容のことで頭が一杯だったが、すぐに役人に呼び止められる。

どうしたんじゃ?と聞かれた金梧桐が、あそこの高札にありまする、あれは本当にくれるんでしょうね?と聞くと、犯人を知っているとでも申すのか?と役人から突っ込まれたので、え?それは刀盗んだ奴が犯人…と答える。

すると役人は決まっているではないか、で、何か心当たりでもあると申すのか?と聞いて来たので、それはこれから探すのですが、その刀はどんな形で何か特長が…と金梧桐が聞くと、うん、一目見ればすぐに分かる、鞘を払えばたちまちすーっと水煙が立ち上る、これが何よりの証拠で村雨丸と申すのじゃと役人は言う。

それを聞いた金梧桐は、水煙がさっと?それが百両!水煙が百両!と1人で興奮して喜ぶ。 そんな町の一隅では、さあさ皆さんこれから始まる♩と刀の包みを片手に歌いながら蝦蟇の油売りの客集めをしていた香具師塩谷達観斎(横山エンタツ)がいた。

その見物客に混じって、これなる名刀、鞘を払って何が出るやらお楽しみ♩と歌っている達観斎の刀を凝視し始めたのが金梧桐だった。

さあとっくりとご覧じろ♩と言いながら、鞘の包みを解いた達観斎は、拙者これに取り出したる一刀、故あって名ははばかるが、まごう事なき希代の名刀!そ~れそれそれ御覧じろ!と言いながら剣を抜くと、その刃の切っ先から水が吹き出るではないか! それを見た金梧桐は、ああ…、村雨丸!と呟く。

その足で先ほど会った役人の元へ向かった金梧桐がいきなり百両!と言うのでどうしたのじゃ?と役人が聞くと、犯人がもし村雨丸を持っていたら合わせて百十両…と言うので、いかにもそうじゃと役人が答えると、金梧桐はその役人の手を引いて達観斎の元へ向かう。

あれ!と役人を連れて来た金梧桐が達観斎を見せると、嘘であるか、嘘でないか、何を隠そう、これこそ里見家の家宝村雨丸、故あって拙者所持致す何よりの証拠、お立ち会い、もう1回やってごらんに入れると、またもや口上を述べている所だった。

えいっ!と気合いと共に抜いた刃の切っ先から又水が飛び出し、鞘におさめながら、これぞ名刀村雨丸!どうじゃお立ち会い!と達観斎が言ったので、見ていた役人が、おい!拙者はこう云うもんだがな…と言いながら胸の「宝塚映画」と書かれたバッジを見せたので、これ何ですか?と達観斎が聞く。

これは保安係の徽章じゃと役人は言う。

おいおい、良ーく見ろともう1人の役人も同じバッジを見せるので、どっかで見たことがありますな、これは宝塚映画の徽章ですなと達観斎が指摘すると、こら!本署まで来てもらおうか?と良いながら役人は達観斎の腕を掴む。 拙者…と達観斎が狼狽すると、その方こそ昨夜御宝蔵を破り村雨丸を盗みたる下手人であろうが!と役人は責める。

冗談言っちゃいけませんよと達観斎がとぼけると、隠すな!確たる証拠のあるからには…と役人が腕を引こうとするので、待って下さい、この村雨丸と言うのは真っ赤な偽りなんですよ!インチキ、イカサマなんですよ!と達観斎は訴える。

これはそれ、「滝の白糸」が水芸に用います仕掛けの刀ですと言いながら剣を抜いてみせた達観斎は、ここからね、水がちゅっと!ちゅっと!ちょちょちょっと!と説明し出したので、それを野次馬と一緒に聞いていた金梧桐は慌てて逃げて行く。

やってみせましょうか?さあさお立ち会いてんと言いながら達観斎が剣を抜いてみせると、剣之切っ先から水が飛び出して役人の顔にかかる。

こりゃっ!かかるインチキ刀を持ち歩いて役人を嘲弄致す不届きもの!本署まで来い!と又役人は達観斎を腕を掴み、これが分からんのか?と胸のバッジを見せるので、これは宝塚映画の印ですと達観斎は答えるので、何!と役人が怒ると、保安の方でございますか?と達観斎は低姿勢になる。

それを見た役人がこれから木を付けろと言うと、達観斎はぺこぺこして気をつけます、どうぞご勘弁の程を…と殊勝な所を見せる。

その頃、例の高札の前ではこりゃ偉いこっちゃと言う男(秋田Aスケ)がいるので、何がいな?と相棒(秋田Bスケ)が聞くとぎょうさん字が書いてあるがなと言う似で、読んでみいやと勧めると、1つ2つ3つ4つ…と数を数え出したので、慌てて相棒が引っ張って来て、おい、何をやっとるんだそれは?と聞く。

何がって、字読んでるんやがなと男は言うので、字の数やないがない意味やがなと相棒が突っ込むと、ああ意味かいな、ああそうか、なるほどな…と男が感心するので、おいおい何と書いてあると相棒が聞くと何も男が分からんと即答したので、鈍な奴やな、あのな、村雨丸が盗まれたんやと相棒が教える。

村雨丸て何や?と男が聞くと、安西城のやな、主であると言う証拠の大切な刀やと相方が教えると、そうか、大切な刀かと男が納得したので、分かったんかいな?と相棒が確認すると分からんと言うので、癇の立つ奴やな~ほんまに!と相棒は呆れる。

あのな、安西城のやな…、安西城言うてみいと相棒が言うと、安西城の?と男が繰り返すので、主であると言うと相方が続けると主であると言うと男は繰り返す。

大切な証拠の刀やと相方が言うと大切な証拠の刀か?と男が念を押すので、そうやがなと相方が言うと、そらなもしこのわしがやな、その村雨丸を持って行ったらどないなるねん?と男は聞く。

村雨丸をかいな?そしたらお前が安西城の主やないかと相方が答えると、この俺が城の草鞋か?と男が言うので、草鞋?と相棒は驚くと、主!と男は言い直す。

若殿様やと相棒が男の肩を叩くと、俺が若殿様かと男は得意げになる。

そうやがな、お前ならバカ殿様やなと相方はからかう。

とにかくな、安西城の村雨丸も元々は里見家のものやったんやでと相方が言うと、それが一体どないしたん?と男が聞く。

それをやな、安西景清が横領しよったんや…と周囲の目を警戒しながら相方が教えると、う〜ん、悪い奴やなそいつは!と男が威張り出したので、おい!そんな大きな声で言うな!と相方が突っ込むと、もう言うてしもうたがな…と男と会い方が一緒に口を塞いで身を屈める。

城の中では、まだ犯人は見当たらんか?と城主安西景清(瀬川路三郎)が家臣たちに聞いている声を、部屋の外から女(高羽千鶴)が盗み聞きしていた。

まさか警護厳しきこの城中へ外部から忍び込むとも思えませんが…と家臣が首を傾げると、それでは誰か城内にて手引きしたものでもあると申すのか?と景清は聞く。

はっ、ことによりますると…と発言した腹心(島陣五左)は疑わしそうに背後を見やり、廊下で耳をそばだてていた女の気配に気付いたのか、別の家臣に目で合図を送る。

廊下の女は背後からの足音に気付きその場を立ち去るが、部屋から出て来た家臣は、女とすれ違って近づいて来た仲間に顔で今去って行った女を指し示す。

景清の側にいた愛妾お綱の方(加賀裕子)が、殿様、御気をつけあそばせと声をかける。

すると笑った景清は、何をちょこざいな…、高の知れた里見の小娘照姫を小童共が取り巻いて何するものぞ、我が領内に近づいてみろ…たちどころに捉えて素っ首討ってくれるぞと豪語する。

その頃、山の中で待っていた里見照姫(桃乃井香織)の元に男たちが集まって来る。

爺よ、お城に乗り込めるのはいつの日のことであろうか?と照姫が老臣 朝吹主馬(不二乃道風)に聞くと、首尾よく村雨丸を手に入れ次第…、程なきことと思われますと主馬は答える。

早苗(高羽千鶴)は無事であろうか?と照姫が切り株に腰を下ろして侍女のことを案ずると、はっ、兄の志乃共々心聞きたる兄妹なれば万万抜かりはなかろうかと存じますが…と主馬は畏まって答える。

そして主馬は、背後で旅姿で控えていた網代木兵部(藤川隆司)に、兵部、仔細は書中にしたためてある、無事信乃たちに渡してくれ、そちも初めてのことじゃ、くれぐれも気をつけてな…と言いながら手紙を手渡す。

相手は掏摸をしている、合い言葉は?と主馬が聞くと、釣れますか?と兵部が答えたので、鯉を釣っていると言えと指示する。

おいとは大物を狙っていますな?と兵部が指摘すると、なお念のために笠をの…と主馬は指す。

笠の内側には牡丹を象った布が縫い付けてあったので、この牡丹が目につくように致しますと兵部は答える。

うん、それで?と主馬が聞くと、相手が犬塚殿なれば腕をまくって腕の痣を見せますると兵部は自分の右手をまくる素振りをして見せる。

主馬は、良し!と言いながら立ち上がり、照姫は、兵部、随分道中気を付けて…と声をかける。

では行って参りますと頭を下げ、兵部は笠をかぶって足早に旅立って行く。 しかし山中では、その兵部を2丁の鉄砲が狙っていた。

やがて発砲音が聞こえ、歩いていた兵部は倒れる。

山中から待ち伏せしていた役人たちが近づいて来たので、倒れていた兵部は証拠となる笠を谷間に向けて投げ捨てる。

その笠を拾ったのは、旅をしていた金悟桐だった。 その笠を手に取った金悟桐は、笠一つ…、落ちて天下の夏を知る…とどこかで聞いたような一句を詠み、はい出来た!と手を打つと、その場で帳面に書き記すのだった。

やがてその笠をかぶり川の所に出た金悟桐が笠を取って腰を下ろすと、側で釣りをしていた犬塚信乃(坂東好太郎)がその笠の内部の牡丹に目を留める。

扇子で仰いでいた金悟桐が釣れますかな?と話しかけると、にやりと微笑んだ信乃は、いや鯉を狙っているんですが、どうも…と答える。

それを聞いた金悟桐が、ほお、鯉とは大物を狙ってますなと答えると、あなたも釣りがお好きですか?と信乃が話しかけて来る。

すると金悟桐が、いや、私も大物を釣り落としましてな、ただし魚ではなく刀ですがな…と言い出したので、刀?と不思議がると、村雨丸!と金悟桐が言うので、信乃は急に真顔になる。

村雨丸?と信乃が聞くと、昨夜村雨丸を盗み出した奴がいるそうです、それを見つけると何と百両ですよ!何でも盗み出したのは里見家の残党だと言うんですがね…と金悟桐は教える。

その時、犬塚さ〜んと呼びかけながら近づいて来た上総屋の娘 お浜(浅茅しのぶ)がご飯ですよと伝える。

信乃が竿を引き上げている間、ビクの中を覗き込んだお浜は、あら?朝からいらしてまだ1匹もお釣りになってないのと呆れたので、どうも今日はダメらしいと信乃は苦笑する。

お浜は信乃の竿を手に取り、私に持たせて下さいと言いはり、良いんだよと拒もうとする信乃から無理矢理受け取るので、ではお先に…と信乃は金悟桐に会釈してお浜と手を繋いで一緒に宿へ戻って行く。

それを見送った金悟桐は、当てられて白髪数える秋の暮れ…と又一句詠み、ほらできた!と喜ぶ。 その後、金悟桐は一軒の宿に到着する。

ごめんなさいよと声を賭け中に入ると、上総屋の亭主 蟇六(夢路いとし)がいらっしゃいませと出迎える。

静かな部屋はあるかね?と金悟桐が聞くと、へえと言うので、芸術的雰囲気に充ち満ちる部屋はあるかね?と重ねて聞くと、へえ?そんな物は完備しておりませんが、家内のもの一同静粛に礼儀正しく正直をモットーとしておりまして…と蟇六は頭を下げる。

そこへ、蟇(ひき)やん!あんたこんな帳面の付け方したらあかんやないか!と鬼のような形相で出て来たのは上総屋の女房 お亀(ミス・ワカサ)だった。

サービス料は忘れてるし、飲んだお銚子の数、きっちり正直に付けたるやないか!ただの2〜3本付けとかなあかんやんか!と蟇六を怒鳴りつけていたお亀だったが、目の前に客の金悟桐がいることに今気付いたらしく、いきなり帳面を投げ捨ててあらまあまあいらっしゃいませ!と三つ指をついて挨拶すると、あんた、何ぼやぼやしてるんや、早うご案内せんかいな!と蟇六に命じる。

さらに立ち上がったお亀は、お鶴!お蝶!と奥へ呼びかけ、お客さん、ヘイ、カモン!と金悟桐に明るく呼びかけ、プリーズ、プリーズ!と言いながら無理矢理金悟桐を中に押し入れる。

竿とビクをもって上総屋の裏手に帰って来た信乃を出迎えた下男荘助実は犬川荘助(喜味こいし)は周囲を警戒しながら信乃に近づき、姫から使いは?と聞くと、それらしき男に会うたがどうも怪しいと信乃は言う。 その時、部屋に案内される金悟桐に気づき、あの男だと荘助に教える。

金悟桐はなかなか良き眺めはなと庭を褒めると見せかけ、いやお前さんが良き眺めじゃなどと部屋に案内する女中をからかっていた。

目印の仲間の傘もしているし合い言葉も存じておる、仲間かと思うとそうでもない様子だ、変なんだと信乃が言うと、安西方の密偵かもしれんと荘助は言う。

うん、油断はできんぞと注意した信乃は、お前は風呂番だ、あの男に我らと同じ痣があるかどうか確かめて欲しいと頼むと、荘助は承知した!と答える。

村雨丸は?と信乃が聞くと、荘助が風呂の焚き付け用の薪の背後からそっと取り出し、姫に早くお渡ししたいのうと言いながら信乃に手渡す。

うん、安西景清が横領した城はこの村雨丸を持って照姫が乗り込めば取り戻せるんだ、山にこもっておられる姫に村雨丸入手の知らせをしたいが警戒が厳しいと信乃は言う。

そんな中、頼もう!と上総屋に新たな客が入って来るが、それはインチキ香具師塩谷達観斎だった。

いらっしゃいませと蟇六が出迎えると、一番上等で…と達観斎が言うので、ありがとうございますと蟇六が礼を言うと、一番安い部屋を頼むぞと達観斎が続けたので、えっ?と驚いて顔を上げる。

それを聞いていたお亀は蟇六を部屋の隅に引っ張り込み、あかんがな、あんなん蝦蟇の油売りやがな、居合い抜きやで、良う見てみ、金のなさそうな顔してるがな…と諭す。

それを聞いた蟇六が、なるほど、ヒゲはあるけど金はなさそうだと納得している声が聞こえた達観斎は驚き、こら!バカにすな!金のない顔やて?そう云う失礼なことを申し上げるんじゃない、金はないけど、ほら有名な村雨丸を持ってるぞと言うと、インチキ村雨丸の包みを取り出してみせる。

村雨丸!とお亀が驚いて近づくと、捨て値にしても10両、20両、競りにかけたら50両、良いか?現代はこう云う顔が金を持っとる顔じゃ、覚えとけ!失敬しよう…と言いながら、達観斉が店を出ようとすると、ちょっと待って下さい!とお亀が止める。

まあまあこれはこれは…とお亀が愛想笑いを浮かべるので、べんちゃらすな!と達観斉は無視しようとするが、無理矢理宿に押し込んだお亀は、あんた!ぼやぼやすな!顔のある種や!あんた、早う引っ張り上げんかいな!と蟇六を叱りつける。

部屋に押し込まれ、お亀から酒のお酌をされた達観斉は、良いか、現代はこう云う顔が金のありそうな顔じゃ、覚えとけと又同じ事を繰り返すので、へえ分かってまんがな、お蝶、十分サービスしてやと、お亀は一緒に部屋にいたお蝶(都蝶々)に指示すると、ほな旦那、御ウゾゴゆっくりとと挨拶し部屋を出て行く。

するとお蝶がお銚子を取り、さ、旦那はん注ぎましょうと進めるが、いや、すまんな〜と達観斉は上機嫌になる。

あんたお蝶さんか?と確認した達観斉は、これお蝶殿、これなる刀、何を隠そう元を正せば里見家の家宝村雨丸、良いかなお立ち会い、開祖義弘公、3、7、21夜の願掛けて、満月戌月、戌の夜…と言いながら刀を包みから出してみせたので、戌の夜?そんなんおまんの?とお蝶は首を傾げる。

あるとも、そこが不思議な所じゃ、義弘公、敵の重囲に堕ちたまい、八方より迫る紅蓮の炎!あわや人間のビフテキにならんと言う有様!と口上の続きを披露する達観斉は、この時早く刀の鞘を払えばあ〜ら不思議と言いながら立ち上がり、当たりよりむらむらっと水煙立ち上り…たちまち業火消え失せたり!さすればお立ち会い、えい!と言いながら刃を抜いてみせる。

すると刃の切っ先から水が飛び出したので、あらまあ!とお蝶は仰天し達観斉の背後に隠れたので、これすなわち名刀村雨丸、良いか?お女中、誰にも言うなと達観斉は自分から見せたくせにわざとらしく口止めをする。

その時、刃の先の水流の勢いが落ちたので、あら?と戸惑う達観斉に、どないしましてん?とお蝶が聞くと、水圧が低下したらしいと達観斉はとぼける。

その頃、別の部屋で刀を改めていた男女2人の客がいた。

旅芸人に身をやつした犬山道節(島岡希夫)とその妹おゆう(久保幸江)であった。

そこに荘助がやって来て、お客様、お風呂へどうぞと声をかける。

そうですか?と答えた道節は、おゆうが部屋を出て行くと、入って来た荘助とともに部屋の窓や戸を全て閉ざしてしまうと、互いに腕をめくり、そこにある痣を見せ合う。

荘助の左腕には「義」、男客の右腕には「忠」の字と牡丹の花が描かれていた。 荘助は地図を書いた布を取り出す。

廊下に出て見張りをしていたおゆうが女中の姿を見かけ歌を歌い出すと、それを聞いた荘助は慌てて地図を懐にしまい、障子の所に立って外の気配を聞く。

一方、部屋で女中のお鶴(九重千鶴)相手に酒を飲んでいた金悟桐は、わしは俳諧の宗匠でな、山ノ下金悟桐と言う、どうぞ宜しく…と自己紹介をしていた。

するとお鶴は笑い出し、まあ、俳諧の宗匠だなんて巧いことおっしゃって…と信じてないようだったので、いや本当だよと答えると、嘘ですわ、俳諧の宗匠はもっとお年寄りですわ、お客様はまだお若いですものなどとお鶴が言うので、金悟桐は急に相好を崩す。

若く見えるかな?と聞くと、お鶴は、ええとってもと世辞を言うので、本当はな、俳諧の宗匠で向こうの細道当たりを今吟行しつつある所なんだなどと金悟桐は言う。

するとお鶴は、あんなお上手ばかりおっしゃって…、ちゃんと分かってますのよ、お客様のお人柄を見抜くのは宿の女中の長年の経験などと言うので、ではわしはどういう風に出ておる?この人相は…と聞くと、そうね〜、何かの秘密を持った方てんなどとお鶴は言う。

すると金悟桐は、しっ!壁に耳あり障子に目ありと言い返し、かくなりし上は何も隠さん、近う、近うと言って手招きをする。

お鶴が近づくと、金悟桐はその手を引いて耳にキスして来たので、お鶴は金悟桐の腕を抓って逃げる。

そんな上総屋に役人家老の腹臣島陣五左(島ひろし)がやって来て、とにかく等々力の残党が城下に忍び込んだ様子、お前の所はこんな商売、気を付けてくれと言うので、お亀はさあどうぞと座敷に招き入たにで、ではごちそうになろうと上座に座る。

そこに呼ばれた荘助がやって来て、お呼びでございますか?と聞いたので、ああ荘助、今旦那様からお達しがあったんだけどね、痣のある客に注意して下さいよとお亀が言い聞かす。

痣?と荘助が聞くと、里見の八犬士にはみんな痣があるそうや、あんたは風呂番や、人様のお肌を見るのが商売やからなとお亀が言うので、荘助ははいと答えるが、 密かに伝えたものには多大の恩賞がもらえる上に立身出世が出来るぞと陣五左も言うので、張り切って痣探しなはりやとお亀は命じる。

そんな中、歌を歌いながら風呂に向かう金悟桐は、左腕をまくってみせるが、そこには今お鶴から抓られた痕が痣のように残っていた。

その金悟桐、風呂へ行く途中の部屋の障子が少し開いていたので好奇心で中を覗き込むと、犬塚信乃が天井裏から刀の包みのようなものを取り出している所だった。

それに気付いた荘助が、お客様、お風呂はこちらでございますと金悟桐に声をかける。

その直後、剣の包みを手に部屋から出て来た信乃は荘助の顔を見て目で合図をしたので、荘助は頷いて風呂へ向かう。

金悟桐が風呂に入ったので、窓からそっと中を覗こうとしていた荘助だったが、女中が女将さんが呼んでますよと知らせに来たので、じゃあ風呂を一焼べしてからうかがいますと申し上げてと荘助は返事をする。

風呂に入った金悟桐は左腕の痣にキスをしたりして脂下がり、上機嫌でオッペケ節を歌っていた。

裏手で待ち受けていた信乃が近づいて来た荘助に痣は?と聞くと、女中に邪魔されてまだ掴めないと言うので、そうか…、あの男が真の姫の使いならこの村雨丸入手の吉報を姫に伝えさせるんだが…と信乃は迷っていた。

そして懐紙を口にくわえた信乃は人目を忍び、その場で村雨丸を抜いてみる。

するとにわかに雷鳴が光り雨が降って来て風呂の焚き木も消えてしまったので、まだ中で歌い続けていた金悟桐は途中で湯が水になってしまったのでくしゃみを連発し出す。

そんな中、まだ志津の接待をしていたお亀は、やって来た蟇六に、あんた、何してるんや?島さん役人やで、べんちゃらしとかなあかへんがなと本人の目の前で言うで、陣五左は何?と聞くが、これ内緒の話でんねんとお亀はごまかす。

どうも不調法ですんまへん、もうお一つと蟇六も酒を勧めるが、もう結構、時に蟇六、今夜は野暮用でやって来たんじゃないのだ、ちっとばかり粋筋でやって来たと陣五左が言うので、粋筋?とお亀が聞くと、実は女将、うちの御家老大田黒様は年甲斐もなく恋煩いてんなどと言い出したので、恋煩い!あの顔で?とお亀は失礼なことを言う。

あんな顔をしていてもふと見初めたのが病の始まり、女将、何とかうんと言ってくれようか?と陣五左が言うと、急にお亀は恥ずかしそうに笑い出したので、どうした?と聞くと、だって…、私人妻ですもの…と答えたので陣五左は、えっ!誰が?と驚く。

御家老が私にでしょう?…とお亀が言うので、冗談じゃない、なんぞお前なんぞに…、お浜だ、お浜っこだよと言うので、お浜!道理で話がおかしい思うたわとお亀は気落ちする。

御家老様はお浜っこを見初めてな…、どうだ?支度金として百両!それに化粧料として20両…、その他色々〆て…と言いながら陣五左が盃を口に運んだので、お亀は間髪入れず合計148両!よろし、手打ちましょう!と喜んで即答したので、側にいた蟇六はあっけにとられる。

それはありがたい、御家老もさぞ満足であろうと陣五左が喜んでいると、お亀に近づいた蟇六が自分の方に向かせ、それは一応お浜の気持も聞いてみなけりゃと意見するが、気持?今時の経済観念の発達した娘でこんな良い口を袖にする娘がありまっかいな!とお亀は言い返して来る。

そして陣五左に向かったお亀は、良いがな旦那、あの子に何の異存があるもんですか、もしあの子がいややと言うたらこの親の私がいきますがな…などと言い出したので、大丈夫か?と役人は不安がるが、絶対!いやとは言わしません!とお亀は約束する。

しかしその話を聞かされたお浜はいやです!と拒否する。

いや?いやてあんた…とお亀が困惑すると、お断りして頂戴!とお浜は頼む。

するとお亀、そんなもったいない…、こんなええ話、ないえ…と説得しようとするが、いやと言ったらいやです!とお浜が強く拒否するので、何やて!と立ち上がったお亀は腕まくりをして凄い表情になる。

すぐに自らの下品さに気付いたお亀は素に戻り、でもねお浜や、そりゃお前たち若い間は手鍋下げても厭やせぬなんて…センチメンタルなこと言ってるけどね、人生は金蔓なんよと言い寄るが、何と言われようと、私、愛のない結婚などしたくありませんとお浜は拒否して去って行く。

お亀は、ほんまにしようがない…、欲のない子やで…、経済観念に欠けてけつかんねん!とぼやきながら部屋を後にすると、隠れていたお浜は又部屋に駆け込む。

一方、帳場にいた蝦蟇六の元に戻って来たお亀が、島はん、帰りなはったで…、お浜の奴、どうしてもいややて…と伝えると、そなお前、奥方ならいざ知らずお妾様ではあの子だっていくらなんでもてんと蟇六は言う。

するとお亀は、あんたがそう云う気やからあかんのや!と怒り出す。

え!家は今借金で首が回らんようになりかけてますのやで、のんびり人道主義なんか振り回していたら、親子3人首くくらなあかんのんでっせ!金や金や…、そうや偉い金儲けのこと忘れとった!村雨丸谷がな、百両転がっとるわとお亀は思い出す。

達観斉がインチキ村雨丸を収めた包みをありがたそうに手にしていた時、ご免やすとやって来たのはお亀で、お給仕させてもらいまっさと言うので、すまんなと達観斉は喜ぶ。

お酌を始めたお亀は、そや旦那、お一人でさぞお寂しいでしょう?と話しかけると、いや、1人は慣れとると達観斉は答える。

私、男性的で凛々しゅうて、どことなく美男子で本当に女子に優しい殿方は大好きですわ〜などとお亀はお世辞攻撃を始める。

そりゃ誰のこっちゃ?と達観斉が聞くと、いややわ、旦那、そりゃもちろんあんたはんのことですがなとお亀は答える。

わしのこと?照れるわ!と真に受けた達観斉は喜ぶ。 蝦蟇の油売り何て世を忍ぶ借りのお姿で、本当はもっと身分のある偉いお侍さんでしょう?などとお亀が色目を使って来るので、いや〜、わしはそんな…、違う違う!と否定しながらも嬉しそうだった。

お隠しになってもダメですわ…とお亀が言うと、ねえ旦那、あの金襴の袋に入った刀と言い、私の目に狂いがあるもんですか…、ねえ旦那、私にだけは本当のことを教えて頂戴!ねえ旦那!などと良いながらしなだれかかって行くので、けったいな奴やな、こいつ!とさすがに達観斉も気味悪がる。

それを知ったお蝶が帳場に駆けて来て、ちょっと旦那はん、偉いこっちゃ、偉いこっちゃ!と慌てているので、何や?と蟇六が聞くと、ちょっとおいなはれと言いながら、お蝶は蟇六の手を引いて無理矢理立ち上がらせる。

何を騒々しい、何を慌ててるねん?とキセルを持ったまま立ち上がった蟇六が聞くと、何を言うてんねん、旦那はん、今度はあんたが慌てる番ですで…、おいなはれ!と言い、お蝶は達観斉の部屋に引っ張って行く。

達観斉の部屋では、教えて頂戴、ねえ旦那!私の旦那〜♩可愛がって頂戴な〜♩と(ダイナ)風に歌いながらお亀が達観斉に迫っていた。

そこにストップ!と停めに来たのが蟇六で、逃げ出そうと下お亀に、お前と言うお前は!と蟇六が叱ろうとすると、これには…とお亀が言い訳しようとしたので、これにももあれにももあるか!と言い、手を引っ張って部屋を出て行く。

帳簿に連れて来た来た蟇六は、大体わしと言うものがありながら甘ったれるな!と叱ると、偉い!のんびりしていると思うてたけど、やっぱり私のご主人様や、良い所あるがな、あんた、早うお座り!と座布団を指し出したお亀は、おぶ一杯お上がりやすと既に置いてあった茶を差し出すので、蟇六は黙って座るしかなかった。

その頃、お浜は女中のお鶴に手を引かれ、信乃様の所へ行きましょうと強引に部屋から出されていた。

だってあの方ははっきりした返事をして下さらないのよとお浜がすねると、お嬢さんのように引っ込み思案ではダメですわよ、男ってものはね、口では偉そうな事言っていても肝っ玉は小さいものですからね、良いセリフが出なければいきなりしがみつけば万事解決でございます、さ、参りましょう?などとお鶴は入れ知恵をして連れて行く。

信乃の部屋の前にお浜を釣れて来たお鶴は、幸福は待っているものじゃなくてつかみ取るものですよと言うと、障子を勝手に空け、さあいってらっしゃいと言いながらお浜の身体を強引に部屋の中に押し込む。

しかし部屋の中は無人だったのでお浜は戸惑う。

その頃、犬塚信乃は人気のない夜の松林の中で集まった八剣士2人と合流していたが、そこに犬川荘八がやって来て遅くなりましたと信乃に挨拶をする。

おゆう殿と荘八が声をかけると、頷いたおゆうはその場から離れ周囲を警戒する見張りをし始める。

例の笠には確かに牡丹がついていたと信乃が明かすと、ではまぎれもなく兵部の笠だ…ともう一人の男が言う。

では兵部は!と別の男が言うと、あるいは敵の手にかかったかも知れんぞ…と荘八が指摘する。

それにしてもどうして兵部の笠が旅の俳諧師とか言うあの男の手に移っているのか…?と疑問を口にする。 そんな林の所に信乃を探してやって来たのがお浜で、その姿に気付いたおゆうが八剣士たちに危険を知らせるために歌を歌い出す。

それを聞いた信乃たちは立ち上がって警戒する。

村雨丸が手に入ったからいよいよ大願成就疑いなし!と剣士の1人が言うと、うん、一刻も早くお手元に届けようと思ったが、拙者が戻って、この吉報を姫にお伝えしようと剣士が言うのを近くに隠れていたお浜が立ち聞いてしまう。

では明晩戌の刻、場所は八法院の裏山…、なお、この吉報を早苗殿にも知らせてあげたいが…と剣士が言うと、妹には私から言いましょう、おそらく討ち入りに必要な城内の地図も出来上がっていることと思いますと信乃が答える。

その頃、安西城内の絵を部屋で描いていた早苗の部屋にいきなりお網の方が入って来て、早苗、それは何じゃと詰問して来る。

はい…と口ごもる早苗に、それは何じゃと申しているに!とお網の方は強い口調で責め、早苗が答えず絵を持って部屋から逃げ出そうとしたので、典膳!と声をかけ、付いて来た家老大田黒典膳(矢代世文)に捕まえさせる。

一方、宿に帰りかけていた信乃に声をかけたのはお浜だった。

うん?お浜殿かと気付いて近づいた信乃にどこへ行ってらしたの?とお浜が聞くと、海があまりきれいなので…と信乃が答えるので、嘘でございますわ!信乃様、この頃は里見の残党狩りの詮議が厳しいのです、今頃こんな所にいらっしゃって、もし役人が里見の一味と間違いで模したら…、私…哀しゅうございますとお浜は恥ずかしげに目を伏せて言う。

それを聞いた信乃は、いや私はただの浪人者です、そんな恐ろしい里見の残党ではありませんと答えるが、お浜は、信乃様、あなたがどんな恐ろしい人であっても、私、信乃様、私…とすがりついて来たので、遅くなりますから…と信乃ははぐらかしさっさと帰ってしまう。

そこにお嬢様!と声をかけて来たお鶴が、お嬢様、御家老の陣五左様がお見えになっております、今、お帰りにならない方が良うございますよとお浜の身を案じて伝える。

それに里見の残党とかがこの近所に入り込んでいるんですって、見つけて訴えた者には多大の恩賞がもらえるそうですよとお鶴は言う。

里見一同全部の在処を知らせた者には恩賞としてどんなことでも聞いて下さるそうですとお鶴が言うので、お浜は考え込む。

家老の腹臣、島陣五左(島ひろし)が帰りかけていたのを追いかけたお浜は、お役人様、私の大切な方が騙されて里見の残党に加担させられておりますと訴える。

もしその方をお助けくださいますならば里見の残党の在処を…と言うので、何!と島陣五左は驚く。

その頃、安西城の様子を探りに城門に近づいていた信乃は、人の気配を感じ物陰に隠れる。

警護の者が近づいて来ていた。

城内では庭先に縛って捕まえた早苗を景清自らが鞭打って折檻していた。

しかしいくら鞭打たれても早苗が何も答えないので、しぶとい女じゃと根負けした景清は座に戻りながら、典膳、白状するまで叩きのめせ!と側に控えていた家老大田黒典膳(矢代世文)に命じる。

代わって庭先の降りた典膳は、早苗、いい加減、照姫の在処を白状したらどうだ?と言いながら又鞭打ち始めるが、そこに申し上げます!と島陣五左が来て、ただいま上総屋の娘浜なる者容易ならざる事申しました、照姫始め、里見残党の面々、明晩戌の刻、御領内三宝院に集合して、お城乗っ取りの談合を致す由でございます!と報告したので、庭先にいた早苗は仰天する。

では村雨丸は奴らの手にあるな?と景清も察し、もっての幸い、おっとり囲んで村雨丸を取り返せ!と景清は陣五左に命じる。

その頃、上総屋にいた金悟桐は勝手に無人の信乃の部屋に侵入し、以前覗き見た天井裏から村雨丸を包んだ包みを盗み出していた。

その部屋の外では、歌を歌いながら茶を運んで来た女中のお蝶とインチキ村雨丸の包みを持った達観斉が廊下ですれ違っていた。

達観斉は、お蝶の歌が遠ざかると、渡り廊下の天井裏に持って来たインチキ村雨丸の包みを隠す。

一方、金悟桐は盗んだ村雨丸の包みを隠しながら部屋に戻る途中、お蝶が近づいて来たので、思わず同じ渡り廊下の天井裏に村雨丸の包みを隠す。

お蝶は金悟桐を見ると立ち止まり、先生、お願いがあるんですけど…ともじもじしながら言い出したので、何だね?と聞くと、実は…、ラブレター読んで欲しいんですと言うではないか。

い、何ですやろ?名文をお作りなさいますやろ?と蝶は聞いて来る。

うう…ん、まあな…と金悟桐が答えると、先生、これで相手の男がとろりっとなりますやろか、いっぺん添削しておくんなはれなと言いながら、お蝶は胸元に入れていた手紙を差し出す。

ああこれかな?これがラブレターと言うのかな?と言いながら受け取った書状を開いて読み始めた金悟桐は、1つしめじで松茸候…、松茸候?と驚く。

千切り、貴方様を一目水菜なり…、わたしゃあなたにほうれん草…、恋も山芋もとろろっと…するまに南京別れ…、加え心をダイコンに決め、破れかぶられで唐茄子るとも、胡瓜レンコン茗荷唐辛子にて候…THE ENDなどと書いてあったので呆れてしまう。

その頃、又渡り廊下に戻って来た達観斉は、天井裏から村雨丸の包みを取って帰る。

その時、なかなかの名文だな、一読すればいかなる男もとろりとすること請け合いだと褒めながら金悟桐とお蝶が部屋から出て来る。 そうでっか?おおきに…と礼を言いながら手紙を受け取り懐にしまったお蝶は、ご免安と言いながら戻って行く。

後に残った金悟桐は、周囲を見渡しながら天井裏の村雨丸の包みを取り戻して自分の部屋に戻って来ると、開け放していた障子を閉め、ありがたい!百両!と言いながら包みを開いて村雨丸を出すと剣を抜いてみる。

すると検査機から水が流れ出たので、これぞ正しく名刀村雨丸!百両!と言いながら興奮すると剣を包み直して部屋の奥に置くと部屋を後にする。

そこにこっそりやって来たのが蟇六で、無人の金悟桐の部屋に入り込むと、用意して来た別の剣の包みと置いてあった村雨丸の包みを取り替えて、百両と呟きながら嬉しそうに持ち帰る。
 


 

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