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忍術罷り通る

エンタツ、アチャコ主演の奇想天外な風刺コメディ

東宝WEBのデーターベースによると「東京映画目黒撮影所第10回作品」らしい。

「東京映画撮影所」はかつて世田谷区船橋にあったことは記憶しているが、目黒撮影所と言う物があったと言うことは初めて知った。

ファンタジー仕立てなので部分的に初歩的な合成なども使用されているが、基本的には絵合成など稚拙に見えるものが大半なので、ビックリするようなトリックはないかな…と油断していると、競輪場のシーンで観客席とコーナーを合成してあったり、迫りくる列車の前を自動車が横切るなどと言うビックリするような特撮が時々混ざっているので驚かされる。

死んだ人間が天国から条件付きで地上に戻って来る、侍が現在に現れると言うのは最近でも似たような発想の作品がいくつかあるファンタジー設定であるが、この時代からそのアイデアが既にあったと言うことが分かる。

地上に戻った猿飛佐助は忍術を封じられていると言う設定なので、タイトルから想像するような忍術映画風にはなってないのかな?と思っていると、案に相違して後半は忍術映タッチが盛り込まれている。

厳密に言うとエンタツ演じる佐助の方が忍術ドタバタ劇調になり、アチャコ演じる入道の方は名コンビ(1954年から「お父さんはお人好し」が始まる)浪花千栄子さんと共に子煩悩の人情話風と言う風に、エンタツとアチャコで持ち味の違いを巧く使い分けている。

さらに「MSA(日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定)」や「朝鮮戦争」など、当時の社会ネタが入っているのが興味深い。

銀座の森永の球形広告塔での撮影などもスタンドインを使っているのだろうが、本物をロケに使っているので度肝を抜く。

さらに本作では、戦後の作品では脇役を演じることが多い渡辺篤さんのコメディアンとしての魅力を満喫できる展開になっているのもうれしい。

戦前から活躍している中村是好さんのボクサー姿と言うのも珍しい。

ただし気になる点もないではなく、いくらコメディと言っても、月代のある髷を切ったエンタツ佐助が翌日にはもう天頂部も髪の毛ふさふさと言うのはどう考えてもおかしい。

さらに気になるのは、キャスト欄で金太郎役の曾我智良と書かれている子役のこと。

金太郎役は冒頭の戦国時代の子役と昭和時代の子では別人なので、どちらか一方の方の名前だと思うが、セリフの多さから考えても昭和時代の子役の方の名だろうが、だとすると戦国時代の方の金太郎を演じているには誰なのか?

渡辺篤さん演じる松本の娘を演じている遠山幸子さんと云う女優さんも愛らしい美女なのに今まで知らなかった。

主に新東宝出演が多かったようだが、見ている作品が少ない事もあり記憶にない。

映画で活躍なさった時期は短かったようだが惜しい気がする。
▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1953年、東京映画、若尾徳平脚本、野村浩脚本+監督作品。

大阪夏の陣

六文銭の旗印の兵たちと共に、まだ幼い金太郎(曾根智良)を背負い、金棒を手にした三好清海入道(花菱アチャコ)は、やあやあ我こそは真田にその人ありと知られたる三好清海入道なり!我と思わん者あれば尋常に勝負致せ!と立ち止まって名乗りを上げると金棒を振り回し始める。

背中の金太郎が、父ちゃんしっかり!と応援して来るので、しっかり掴まっておれよと入道は声をかける。

ひとしきり敵を蹴散らした入道は、近くに腰を下ろし、ああしんど…と言いながらおんぶ紐をほどき、背中の金太郎を降ろす。

すると金太郎が父ちゃん強いなと声をかけて来たので、もっとお父っつぁん、強い所を見せてやるぞと言い聞かせ、腰の弁当を開けて握り飯を息子に食わせる。

しかしその時、又敵軍の雄叫びが近づいて来たので、又来よったなと入道は緊張する。

お父っつぁん一暴れして来るからなと言い、自分用の握り飯も金太郎に托した入道は、ここで待ってろよと言いながら金太郎を側にあった小木の枝に座らせる。

早く帰って来てねと言う息子に、うん、帰って来るまでどこにも動くんじゃないぞと言い聞かせた入道は又金棒を持ち上げて敵に向かって行く。

枝の上で握り飯を食べようとした金太郎は弁当箱に入った握り飯の方を落してしまうが、不思議なことに弁当箱と握り飯は息子の手元に戻って来る。

その直後、笑い声とともに姿を現したのは印を結んだ猿飛佐助(横山エンタツ)だった。

何だ、猿飛のおじさんかと金太郎が言うので、いや〜すまんすまん、お父っつぁんどっち行った?と佐助が聞くと、金太郎はあっち行ったよと指差すので、そうか…良し!と言い佐助もそちらへ駆け出す。

入道の背後から近づき、おい三好!と呼びかけた佐助に気付いた入道がおお佐助!と答えた途端、2人のすぐ側で爆発が起き、2人とも倒れる。

佐助、大丈夫か?と目が見えなくなった入道が手探りで横に倒れていた佐助に触れると、残念だ、地雷にやられるとは思わなかった…と呻く。

入道は、俺は死にたくない、金太郎のことを思えば死んでも死に切れんのじゃ!お前の忍術で何とかならんか?と横に倒れている佐助に聞く。

そうだ、うっかりしておった…と言いながら懸命に印を結ぼうとした佐助だったが、ダメだ…、もう手遅れだ…と言い息を引き取る。

ダメか…、金太郎!金太郎!と我が子の名を呼びながら入道も死んで行く。

やがて並んで死んだ2人の身体から霊が起き上がって、木の枝の上で弁当を抱えたまま眠っていた金太郎の元へ戻って来る。

金坊、許してくれ、お父っつぁんはな、帰りとうても帰れんようになってしもうたんやと入道の霊が息子に語りかける。

ああ神も仏もない物か…と嘆く入道に、まあそう嘆くな、親はなくても子は育つ、かえってお前のような親がいない方が良いかもしれんぞと佐助が横から口を出す。

人のことやと思うてそんな無責任なことを言うな、あんな小さい子供が戦災孤児になったらどうなるのじゃと入道は言い返す。

そんな入道に佐助は辛いだろうが仕方がない、俺たちは今天国へ行く途中だ、諦めろ、諦めろと言い聞かす。

それを聞いた入道も覚悟を決めたのか、金坊、達者で暮らせよ、これから寒くなるからな、風邪を引かんように身体に気をつけてくれよ、分かったな…と声をかけ、佐助の霊とともに天上へ昇って行く。

天国 月光大師様に申し上げますと天女が声をかけると、月光大師振り向いた(柳家金語楼)が何事じゃ?と聞き返す。

三好清海入道、猿飛佐助のお二人がお目通りを願い出ておりますと天女は伝える。

すると、又か…、一度天国に参った者をそう容易く下界へ戻す訳にはいかん、何度行ったら分かるのじゃ、これで3333回目ではないかと月光大師は天女に注意する。

そう言わず、許しておあげになったら?と月光大師に随行していた吉祥天女(藤間紫)が後ろから声をかける。

他のこととは違い、下界へ残して来た子供のことを心配しているのでございますからと吉祥天女が言うので、しかしそれでは天国の法律を改正しなければ…と月光大師が言いかけると、法律は解釈の仕方でどうにでもなるではございませんか?この際、父性愛のためには目をおつむり遊ばせ…と吉祥天女は助言する。

ではそう致しましょう…と月光大師も承知したので、お二人をこれへ…と吉祥天女は天女に命じる。

やって来た佐助と入道を前にした月光大師が、その方共、かねてより下界に戻りたい由聞き及んでおったが、子を想う心情に免じ、特別な計らいを持って許して遣わそう…と告げると、2人は一緒に、ありがとうございますと頭を下げ礼を言う。

ただし条件があると言い出した月光大師は、期限は10日、1日たりと遅れたときは地獄へ落す、猿飛は欲得のために決して忍術を使ってはならぬ、その方共が下界に出て何をしておるのか、これで見れば一目で分かってしまうのだぞと言いながら月光大師は天眼鏡を取り出す。

それから降りる前に豊臣秀吉公と加藤清正殿に挨拶して行くが良いぞ、お二人とも再軍備に関しては殊の外心配しておられるからな、良いな?と月光大師は入道と佐助に念を押す。

下界へ参ったらMSAはどう言うことか調べて参れと豊臣秀吉(坊屋三郎)が2人に指示を出す。 MSAと申しますると?と入道が聞くと、分からんから調べて来いと言うのじゃと秀頼は苛立ったように答える。

それから朝鮮問題がもめとるようじゃが、その原因を突き止めて参れ、まさか余のせいとは思わぬが…、この清正が良い気になって虎を追い回したりしたものだからそれが祟っとるのかもしれん…などと、秀吉は側に立っていた加藤清正(市川小文治)のことを当てこすったので、どうもすみませんと清正は頭を掻く。

そう恐縮せんで良いよと秀吉は愉快そうに哄笑するので、清正が、あまりお笑いになりますと顎が外れますぞと注意する。

その時、何か聞こえて来たので、あれは何じゃ?と秀吉が聞くと、は、猿飛たちを見送りしたいと天女たちが…と清正が説明する。 踊る天女たちと秀吉、清正らに見送られ、入道と佐助は天国から下界へ向かう。

雲に乗った入道は、これでやっと金坊に会えるわいと喜ぶが、俺は一向に年はとらんが金坊の奴はいくつになったかな?と喜んでいるのに対し、俺は止めようかな、忍術が使えなければ行ってもつまらんからな…と佐助はぼやくので、まあそう言うな、絶対に使うたらいかんと言う訳ではないし、それよりもっとスピード出んか?俺は一刻も早う金坊に会いたいんじゃと入道は急かす。

これで音より早う飛んでるんだぜと佐助が教えると、あれなんや?と入道が前方から近づいて来るものに気付く。

おい「ゼット」と書いてあるぜと佐助が教えると、2人とすれ違ったのはジェット機だったが、おい、もっと早うスピード出んか?と入道はさらに急かすので、これ以上スピード出したら雲がちぎれるかもしれんぜと佐助は注意するが、ちぎれても構わん、頼む!と入道は言う。

良し!と言い、佐助が印を結ぶと猛スピードになり、あっという間にバランスを崩した2人は雲から転がり落ちてしまう。 下界は既に現代になっていた。

昼休み、ビルの屋上でくつろいでいたサラリーマンたちは、突然空から2人の男が降って来たので慌てて身を避ける。

佐助と入道が落ちたのは銀座の森永の球形宣伝塔の上だった。 しばし球体の上にへばりついていた2人だったが、すぐに耐えきれなくなり屋上に落下してしまう。

佐助と入道は見知らぬ群衆に取り巻かれていたので立ち上がりながら刀に手をかけるが、それを見たサラリーマンたちは慌てて屋上から逃げ去る。

2人もその群衆の後を追い階段を降りて地上に出て見ると、そこは京橋で路面電車や自動車が走っていたので面食らう。

ここは一体どこじゃろうな?と入道が言うと、噂に聞いた南蛮か?さもなけらば唐天竺当たりかもしれんな…などと佐助も答えていたが、その時、音楽とともに御通行の皆様!御通行の皆様!と言う女性の呼び声が聞こえて来たので2人はキョロキョロとその声の主を捜す。

漫談社の新しい絵本が出ました、「忍術猿飛佐助」「豪傑三好清海入道」などお子様方に大喜びされる絶好のお土産でございます…と中央区京橋2-13「綜合広告代理業 日本広研株式会社」と書かれたビルのスピーカーから聞こえて来たので、俺たちの名を知ってるらしいぞと佐助は喜ぶが、それにしてもどうも様子がちょっとおかしいぞ…と入道は警戒する。

その時、入道が霧隠才蔵と後藤又兵衛じゃと近づいて来る侍姿の2人を発見したので、これは良い所であったと佐助も喜びその侍の側に向かう。

日劇の前で2人の侍を呼び止め、しばらくだったな!お前らに会わなかったらどうしようかと持っていた所だ、しかし良う生きておったのと声をかけた佐助と入道だったが、才蔵と思われた侍(須永康夫)は、あんまり見かけねえ面だけど、お前たちのショバはどこだ?と聞いて来る。

ショバ?と入道が驚くと、そうだ、銀座は俺たちの縄張りだ、下手に荒らしやがると承知しないぞと又兵衛に似た侍(大庭六郎)が言うので、何や訳分からんと入道が戸惑うと、分からん?分からんのはこっちだ、どっから来たんだ?と才蔵に似た侍が聞いて来る。

天国から参ったと入道が答えると、天国?と又兵衛似の侍は首を傾げ、おいいい加減にしろよ、あんまり油売ってると親方に言いつけるぞと才蔵似の侍が叱りつけ2人は立ち去ろうとするので、おい、待て待て、お前たちはわしを忘れたのか?猿飛だよ、佐助だよと佐助が2人の前に出て話しかける。

俺は三好清海入道だと名乗ると、この野郎!ふざけるない!と言い、急に才蔵似の侍が殴って来たので、バランスを崩した入道は佐助の片足を踏んでしまう。

無礼者!と入道が叱ると、無礼者?どっちが無礼だ?黙って聞いてりゃ良い気になりやがって!と佐助似の侍が反論して来たので、周囲は人だかりが出来てしまう。

そんな才蔵似の侍を押さえた佐助が、待て待て、同士討ちはいかんぞとなだめる。

すると又兵衛似の侍が佐助を殴って来る。

すると又兵衛似の侍が佐助を殴って来たので、さすがに堪忍袋の緒が切れた佐助と入道は刀を抜き、無礼者!と2人の侍の衣装を斬ると、その下には「松木屋」などと書かれた宣伝文句が出て来る。

2人はサンドイッチマンだったのだ。

それに気付いた野次馬たちは、何だ、洋服屋の宣伝かと笑い出す。

転んだ才蔵似の侍は、おい、あれ竹光じゃない、本物だよと又兵衛似の侍に教え、2人は這々の体で逃げ出して行く。

それでも野次馬たちは、近頃は宣伝も楽じゃないな、しかし馴れ合いの喧嘩とは巧い手だよなどと感心していた。

しかし驚いたな…、何が何だかさっぱり分からん…と暗くなった道を歩きながら佐助はぼやいていた。

しかし言葉の分かる所を見るとから天竺でもなさそうやな…と入道は指摘する。

その時、道に出て来た丸刈りの子供を見た入道は、金太郎!金坊!と呼びかけながら抱き上げるが、違ったか…と人違いに気付く。

がっかりして子供を降ろした入道に、元気出せ、その内見つかるよと佐助が励ます。 さらに佐助は目の前の店の中で丼物を食べているサラリーマンを見て、腹減ったな…、忍術使ったらあかんだろうか…と言い出したので、辛抱せい…と大師さんに言われたん忘れたんか?と入道が言い聞かせる。

しかし朝から何にも喰ってないんだからな…と佐助はぼやく。

そんな2人の前に近づいて来たのは、泥酔した松本(渡辺篤)で、落したバッグの中から「猿飛諸国漫遊記」と言う品が飛び出したので慌てて拾い上げる。

立ち上がった松本は目の前にやって来た2人を前にして、これはこれは…、猿飛氏に三好氏ではござらぬかと帽子を脱いで挨拶する。

御主は我らの名をご存知か?と入道が聞くと、うん、存じておるともと松本は答えるので、我らが猿飛、三好なることを信じて下さるか?と佐助が聞くと、うん、信じますと言うので、佐助はありがたや、ありがたや…と安堵のため息をつく。

御主のような御仁に会えて良かったと入道が言うと、拙者も貴殿らに会えて本懐じゃと松本は言い返す。

実は誰も信じてくれんので途方に暮れておったのでござると入道が説明すると、うん、それは信じまい、わしでなければ分からん!と松本は言う。

ここで御主に会うたのは天の助け、実は少々空腹でござるが…と佐助が恥ずかしそうに申し出ると、何!空腹?さればあれへ!と帽子を取ってある方向を指す。

いらっしゃいと松本は手招いて2人を連れて行ったのは飲み屋で、食事にありつけた佐助は、やっと人心地がつきましたと礼を言う。

すると松本は、御主たちもなかなかシャレた御仁だなと愉快がる。

時につかぬ事をお尋ねするが、ここは正しく日本でござるな?と入道が聞くと、ニッポン?正しく日本でござると松本は吹き出しながら答える。

我ら慶長の頃しか存ぜぬが、それから何年くらい経ってござる?と入道が聞くと、慶長なれば昭和の今日まで…としばし考えた松本は、およそ400年も経っておるかな?と教えると入道は400年!ありゃ〜…と仰天する。

佐助の方は天国におりましたのでそれ程時が経っているとは知りませなんだ…と苦笑する。

さよう…、天国と言えば拙者も時々天国へ参るが、天国などと言う所はとかく時間の経つのが早いもんでな〜などと松本もおかしなことを言うので、気候なかなか話せるな〜と佐助は意気投合するが、入道の方は落胆していた。

そこにアコーディオンを持った流しが来て、失礼しますが、こちら猿飛さんとお見受け致しますが?と話しかけて来たので、俺を知っているのかと喜んだ佐助は、良し、1杯飲めと酒を勧める。

すみませんと言い盃を空けた流しは、それじゃあ猿飛さんのためにと言い、背後にいたギターの仲間と一緒に、僕はしがないサラリーマン♩と歌を歌い出す。

もしも私が猿飛ながらば、ここらで忍術使いたい♩などとと言う曲を聞いていた松本が奇妙な踊りをしながら立ち上がったので、佐助も釣られて踊り出す。

すっかり酔って上機嫌になった猿飛は店を出た後浮かれながら夜道を歩いていると、がっくりしたまま付いて来た入道が、佐助、もう天国へ帰ろうと言い出したので、どうして?と聞く。

けどお前、あれから400年も経ったとすると到底金太郎に会えそうもない…と入道は嘆く。

しかしせっかく来たんだからもう少しいようよ、下界もまんざら悪くなさそうだと佐助は楽しそうに勧める。

その時、飲み屋の少女(進藤和子)がこれあんたたちのでしょう?と良いながら鞄を持って来たので、これは違う、これはさっき一緒に飲んだ男の物だと入道が説明すると、だったら渡してあげてよと言い、女は店に戻って行ったので、おい女!と入道は困惑する。

何じゃこりゃ?不思議なもんじゃな…などと言いながら鞄をいじっていた2人だが、やがて中に入った空の弁当箱と千円札の束を見つける。

しかし2人には紙幣と言う物が分からないので、これは何だ?人間の顔が書いてあるぞと佐助は首を傾げる。

ひょっとしたら人相書きかもしれんぞ…などと言っていた佐助だったが手元がすべって紙幣は全部横を流れていた川に落ちてしまう。

そこに慌てて戻って来たのが松本で、入道が持っていた鞄を見ると、ああ良かった!と言いながら中を確かめるが、この中に入っていた金はどうした?と聞くので、金?と入道たちは戸惑い、金目の物と言えばこれだと良いながら弁当箱を引っ張り出したので松本はそれを払いのけ、何を言ってるんだ!金だ!返してくれ!千円札で30枚!確かにこの中に入れといたんだ!と文句を言い出す。

すると小判のような物じゃな?と入道が聞くと、冗談はやめてくれ!あれは会社の金なんだ!あれがなくなったら、俺は…、俺は…と松本は頭を抱えて嘆く。

その時佐助が、ひょっとしたらさっきの人相書きのことじゃないかな?と気付く。

まさかあんな物…と入道は否定するが、佐助が地面に一枚落ちていた紙幣を拾い上げて、おいこれと違うか?と聞くと、そうだ!みんな返してくれ!と松本は訴え、佐助の懐の中を探ろうとする。

いや、そんな大事な物とは知らんから、さっきうっかり川に落してしまったと佐助が明かすと、えっ!と松本は立ち尽くす。

佐助と入道を伴い帰宅した松本は、事情を打ち明けた妻のおかつ(武智豊子)から、お前さんと云う人は良くもそんな大金を…と責められる。

佐助たちを意識し、隣の部屋に松本の首根っこを掴んで引っ張って来たおかつは、だから言ったじゃないか!会社のお金を持って飲んじゃいけないって言ったじゃないか!と説教し出す。

すると正座して恐縮しながらも、いや違うよ、酒は飲んだけど会社の金には絶対手を付けなかったよと松本が言い訳するので、何言ってんだい、あんな人に騙されて!とおかつは入道たちを見て文句を言う。

一体どうするつもりなんだい?3万円もの大金をどうして返すつもりなんだよ!とおかつから聞かれた松本は、それはその…と言葉に詰まる。

その会話を聞いていた入道が、奥方、金は我々が返す、明日から働いて何としてでも返しますから…と申し出ると、当てになるもんか!とおかつは睨み返す。

すると、だってこうなったらこの人達を信用するしかないだろう?と松本が口を出して来たので、だからあんたはお人好しだって言うんだよ!あんなクルクルパーの言う事なんか真に受けて!とおかつは佐助らの方を見ながら叱る。

それを聞いていた佐助が、ちょっとうかがいますが、クルクルパーって何ですか?と尋ねると、お前たちのようなイカレポンチのことさ!とおカツが言うので、ああさよか…と佐助は納得するが、ああさよかって、イカレポンチって分かってるのか?と隣の入道が聞く。

あ、そうかと気付いた佐助は、又、ちょっとうかがいますが…と聞こうとするが、うるさいね、引っ込んどいて!とおかつから怒鳴られたので、入道共々硬直してしまう。

おかつは松本のネクタイを引っ張り、さあどうしてくれるんだよ!と言いながら思い切りビンタをし始めたので、女が男を殴るとは世の中も変わったものじゃの〜と入道が呆れると、400年前に死んどいて良かったのと佐助も返して来る。

そこに帰って来たのが松本の娘千代子(遠山幸子)で、見知らぬ入道たちがいるのに驚きながらも、まあどうしたの?お母さん止めて!とおかつを止めに入る。

うるさいね!とおかつが千代子を払いのけようとするので、あんたたち早く止めてちょうだい!と千代子は佐助と入道に声をかける。

はいっ!と答えた2人だったが、正座していた足が痺れているので額につばをつけ、這いずりながら隣の部屋に向かうと、おかつを止めようとするが、佐助も入道も腕をおかつから噛まれてしまう。

入道は思わず、痛うござりまするがな!と悲鳴をあげる。

結局その晩、松本家に泊めてもらうことになった佐助と入道は、自分たちの着物と刀の代わりに、松本の洋服を借りて着ることになる。

これは酷い、もっとましなのはないかと佐助が服に文句を言うと、贅沢言うんじゃないよ、それだってお前たちには良過ぎるくらいだよとおかつが叱って来る。

千代子はその洋服より頭がおかしいわと笑い、切って挙げるわねと言い出したので、そりゃ困る、これを切られちゃ!と佐助は慌ててちょんまげを押さえるが、大丈夫よ、私が巧くしてあげるから!と笑いながら千代子はハサミを持って来るので、頼む!これだけは勘弁してくれ!と佐助は頼む。

だってそれじゃあんまりおかしいわ、ねえ母さん…と千代子はおかつに意見を求めたので、おかつは、ああ切っちゃえ、切っちゃえ、そんな頭してたらどこへ行ったって相手にされないよと答える。

それご覧なさい、思い切って切っちゃいなさいと千代子はハサミを振りかざしたので、佐助は堪らず、三好、助けてくれ!と入道に背後に隠れる。

しかし入道は覚悟を決めたように、こうなったら仕方ない、辛いやろうが諦めいと言い出したので、佐助はえっ?お前までが…と驚く。

その代わり俺が引導渡してやると言うと千代子からハサミを受け取り、佐助を部屋の隅に座らせると覚悟は良いか?と聞くので、佐助はちょっと待ってくれと頼み、わしゃ辛い…と言うとぐずり始める。

母の胎内を出てここに30有余年…、愛着の念禁じえず…、辛かろうが切るぞ…と感慨に耽りながら入道は佐助の髷を切り落す。

切った髪の毛を受け取った佐助は、これ、俺の毛だ!と嘆く。

それを見た入道も泣きそうだった。

翌日、ちょんまげを切った佐助と入道は背広を着て出掛けるが、おい一体どこに行くのや?と佐助が聞くと、どこ行きましょう?と入道も聞いて来る。

何だ、金を返すと言うからお前に何か当てがあるのかと思うとったと佐助が言うと、おりゃ又お前に一縁あるかと思うて付いて来たんやと入道は情けないことを言う。

何とか3万円の金作りたいな〜と入道が嘆くと、忍術さえ使えれば何の訳もないんだがな〜と佐助もぼやく。

そんな2人が清水の家具と言う店の前を通りかかった時、表に大きな鏡台が出してあるのに気付かずそれを見たので、2人は鏡の中にいる元の姿の自分たちを見て驚き、腰を抜かして一目散に逃げ出す。

ビルの陰に隠れた入道が見たか?と聞くと不思議な事もあるもんだなと佐助も驚きから冷めないような顔で言う。

その時2人は目の前に掲げられた立て看板に目を留める。

そこには「飛び入り歓迎 思想と腕自慢 賞金 五万円 懸賞拳闘大会 主催アッパーカット拳闘クラブ」と書かれていた。

リングには既に拳闘選手(中村是好)が控えていた。

先に対戦するのは佐助で、セコンドとして入道が付いていた。

試合が始まり猫パンチを繰り出していた佐助は、グラブをぐるぐる回して相手の目を回し、油断した隙に相手の顎目がけアッパーカットをお見舞いする。

その意気や!とセコンドの入道が褒めると、今度は相手が佐助の顎を殴って来る。

ロープ際で顎が歪んで難儀していた佐助はもう1発殴られて直ったので、ありがとうと礼を言って試合に戻る。

へなへなパンチ同士でぐずぐずな試合展開になるが、第一ラウンドが終わりコーナーに戻って来た佐助が忍術使うたらあかんか?と聞くが入道はあかんと答える。

ゴングが鳴ると、又行かなあかん…と佐助は泣きそうになって立ち上がるが、あっけなく腹を打たれてノックダウンしてしまう。

代わってリングに挙った入道もへろへろで、すっかり疲れ切った相手共々ダウンしたりする。

コーナーに戻った入道をセコンドに鳴った佐助がしっかりしろと励ますが、勝てそうにないでな、忍術を教えてくれ頼むと入道は言い出す。

あかん、あかん!と佐助は断るが、でもお前はダメやけど、俺はかまへんやないか、松本を助けるためや、頼む!と言う。

やむなく佐助は印の結び方とアベラウンケンソワカと言う呪文をその場で伝授する。

ゴングが鳴ったので、しっかりせいと佐助は入道を送り出す。

リングの中央で敵と対峙した入道はグラブを重ねてアベラウンケン…と呪文を言いかけるが、その度に相手に印を結んだグラブを弾かれてしまい術がかからない。

入道は懸命にグラブを重ねようとするが手の重ね方が逆だった。

それを見ていた佐助は違う!左の手が上や!と印の結び方の間違いを注意する。

それが聞こえた入道は、それを先言わんかい!と文句を言い印を結び替えようとするが、その途端相手のパンチを顎に喰らって倒れてしまう。

三好、何をしとるんだ、立て!と佐助は声をかけるが、もう入道に立ち上がる余力は残っていなかった。

それでも倒れたまま印を結び呪文を唱えると急に力が漲った入道だったが、既にテンカウントとは終わっており敵の勝ちが決まっていたのに、立ち上がった入道は有り余る力でレフェリーや止めに入った関係者たちを次々に倒して行く。

観客もパニックに鳴り逃げ出す始末。

続いて競輪場に来た2人は、白のユニフォームの選手に賭けるが、最終コーナーまで白の選手はびりだった。

こうなったら忍術使おうか?と佐助が言い出したので、松本を助けるためや、頼む!と入道も賛成する。

印を結んだ佐助がえいっ!と念を送ると、いきなりびりだった白の選手が猛スピードで他の選手たちをごぼう抜きして行く。

入道は無心に印を結んでいた佐助に、もう良いぞ、勝った!勝った!とうれしそうに教える。

金を全額揃えた入道と佐助は、色々ご迷惑をおかけしてすみませんでしたと詫び、どうか収めて下さいと言い松本に金を渡す。

松本とおかつは現金を前に泣いて感謝する。

おかつは松本に、あんた、お酒でも買って来たらどうだい?と勧めるので、そうだ、酒あるのか?と松本が聞くと、ないのよ…とおかつは答える。

じゃあ俺行って来ると言い、松本はおかつが手にした札束を抜こうするが手を叩かれたので夫婦揃って部屋から出て行く。

その有様を見ていた入道は、佐助、早く天国へ帰ろうと言い出す。

どうして?と佐助が聞くと、お金のために泣いてみたり笑うてみたり…、喧嘩をしたり仲直りをしたり…、もう俺には堪らんのや…と入道は言う。

金の心配いらんだけでも天国の方がずっとましやと言うので、そうかな〜…、俺はその金がものを言うところが大いに気に入ったよと佐助は言い返す。

おもろいよ、金さえあればどんなことでも出来るんだろう?帰りたければお前1人で帰れ、俺は10日の期限が切れるまで居残るよと佐助は言う。

ああそうか、なら俺は帰るわと入道が言うので、勝手に帰れと佐助が冷たく言うので、勝手に帰れ言うたかてこれがなけりゃ帰られへんやないかと入道は印を結ぶ格好をしてみせる。

そうか、じゃあ雲呼んでやろうか?と佐助がタクシーを呼ぶように言うので、薄情な奴やな、こいつは…と入道は落胆する。

元の着物を着込んだ入道と背広姿の佐助がそっと玄関口から外に出て、佐助が印を結ぶと地面から煙が涌いて来たので、それに入道が乗り込もうとすると、おい、天国に行ったら金はいらんだろう?もらっとこと佐助が止めるので、入道は懐に入れていた札束を佐助に渡すと、あんまり無理するなよと言い残し雲に乗り込む。

雲に乗って天に昇って行く入道に手を振って、皆さんに宜しく!と佐助はうれしそうに見送る。

夜のネオン 「オペラ・ハウス」と看板が出た店の入口に来た佐助は、店から出て来た踊子が待っていた男が抱きついて一緒に帰る姿を見る。

店の中に入ってみた佐助は、音楽が鳴っている広いキャバレーの内部に驚く。

席に付くと、いらっしゃいませ、何を召し上がります?とホステスが挨拶して来たので、一番高い酒をもらおうと佐助は鷹揚に答える。

するとたちまち3人のホステスが佐助を取り巻き、あら?あなたのヒゲ魅力的ね〜などと世辞を言って来る。

しかし佐助はそれが商売上のテクニックとも知らず鼻の下を延ばし、ポケットから札束を取り出すと、次々にホステスにチップを渡す。

別のホステスが、あら、ネクタイが曲がっているわと言いながら蝶ネクタイを直してやると、又喜んだ佐助はチップを渡す。

フロアではきざなメガネをかけた洒落男(トニー谷)がホステス相手に踊りまくっていた。

踊り終えた男は、いや〜、サンキュー、サンキューざんすよ、ミーはトゥーマッチベリーベリーダンスがアイライクなんざんすよなどと上機嫌だった。

ホステスを抱きながら席に付いた男は、ヘイ、ボーイさん!エブリシング、エニシング、ハバハバで持ってらっしゃい!ハイボール、フットボール!バスケットボール!などとメチャメチャな言葉を使い大笑いする。

その奇妙な客の姿を見た佐助は驚く。

その客の横に慣れた口調の別のホステスが座り、ハロー、オーハンサムボーイ、ジェントルマン、ユア、アメリカン二世ボーイ?と話しかけると、イエス、アイムアメリカン、ジャパニーズ、ガッチャランコ二世よなどと客が答えたので、ユーシャラップ!ハナロングロング日本語ボーイねとホステスがからかい出したので、ミーの言う事何もないじゃない!とその客はふて腐れてしまう。

佐助の横に座っていたホステスたちもその客の様子を見て笑うので、置いてきぼりを食らったような佐助はホステスを促し自分の膝の上に乗せる。

するとそのホステスがコンパクトを取り出し膝の上で化粧を始めたので、佐助はそのコンパクトの鏡に映る自分本来のちょんまげ姿を又目にする。

怯えた佐助はホステスを放り出し、別の空いた席に飛び込んだので、変な人ね、あの人左巻きじゃない?じゃあ偽札かな?などとホステス同士で噂し、佐助からもらった札を確認し出す。

それを見た佐助も自分が持っていた札束を見て戸惑うが、その時、フロアにはドロシー桜木(筑紫まり)と言う歌手が登場し歌を歌い出す。

ドロシーを見た佐助は一目惚れをし、持っていた札束を全て近づいて来たドロシーのドレスの胸元に押し込んだので、ドロシーも喜び、椅子の腰掛けて浮かれている佐助に、おかけになりません?と勧める。

佐助はドロシーに見とれたまま腰を下ろし、椅子から外れて転んでしまったのでドロシーは愉快そうに笑う。

ドロシーがボーイにカクテルを2杯注文し、届いたグラスを持って乾杯しましょうと言うと、焦った佐助はグラスの酒を自分の顔に浴びせかけてしまったので、又ドロシーは笑いながらハンカチで顔を拭いてやる。

すっかり佐助は上機嫌だった。

天国では月光大師と豊臣秀吉が、天眼鏡でこの下界の佐助の様子を監視していた。

そこに、何か面白いものでも見えまして?私にも見せて下さいませと吉祥天女が近づいて来て一緒に天眼鏡を覗き始めたので、秀吉は大師様!と呼びかけ、大師様、お気をつけにならないと天国から足を踏み外しますぞと秀吉は忠告する。

その言葉を聞き、天眼鏡から目を離そうとする月光大師に、いじわるな御方、見せて下さっても宜しいではございまんか!と吉祥天女が甘え、一緒に天眼鏡を覗くため頬を寄せて来たので、うっとりした月光大師はにやつくが、その途端危うく雲を踏み抜いて落ちそうになる。

危ないと大師の身体を引き上げた秀吉は。

大師様もまだ煩悩を捨てきれぬと見えますな?とからかう。

そこに入道が戻って来て、ただ今帰りましてでございますと大師に挨拶をして来たので、猿飛はどうした?と大師が聞くと、いくら勧めましても帰らんと申しまして…と入道は説明する。

けしからん奴だ、もう一度参って連れ戻して来い!と大師が命じるので、入道ははいと答えるしかなかった。

そんな入道に秀吉が再軍備はどうしたかな?と聞くと、大砲かバターかで灰皿を投げるやらのてんやわんやでむちゃくちゃでござりまするがなと入道は答える。

下界ではドロシーを乗せ佐助が車を運転していたが、助手席に乗ったドロシーが、ねえ私、お願いがあるのと言い出したので、何だ?と佐助はにやけた顔で聞く。

お金がいるんだけどと言うので、ほお、いくら?と佐助が鷹揚に聞くと、1000万円ばかり…、お家を建てたいのよとドロシーは言う。

良し、すぐ明日作ってあげるよと佐助は安請け合いすると、ワー、うれしい!お家が出来たらすぐ結婚しましょうよねと言いながらドロシーは運転中の佐助に抱きついて喜ぶ。

その直後、電車が接近中の無人踏切に佐助が車を乗り入れたのでドロシーは恐怖でしゃがみ込んでしまうが、自動車が線路を過ぎる時迫って来た電車は何故か停まっていたのでそのまま通り過ぎる。

助かったと知ったドロシーはああ驚いた!良かったわね、停まってくれてと言うと、あれは僕が停めたんだよと佐助がさらりと言うので、まさか!とドロシーは苦笑するが、本当だよ、僕は何でも出来ないことはないんだよと佐助は自慢する。

本当?と聞いたドロシーが、じゃあ私の顔、もっとチャーミングに変えられる?と聞くとお望み通りと佐助が言うので、じゃあマリリン・モンローみたいにしてよとドロシーが言い出す。 OKと答えた佐助がハンドルから手を離し、印を結ぶと、何故かドロシーの顔はおばあさんに変身してしまう。

バックミラーでそれに気付いたドロシーが泣き出したので、その顔に気付いた佐助は、オー!ミステイク!と叫び再び印を結ぶとドロシーの顔は元に戻る。

ある日、自宅の縁側に腰掛け新聞を読んでいた松本は、入道が戻って来たので、あんたどこ行っとったんだ?急にいなくなったりするもんだから心配しとったよと驚く。

入道は険しい顔をしており、猿飛は?と聞くので、あれ?一緒じゃなかったのか?と松本が聞くと入道はうんと答える。

そうか、まあ良いや、1杯やろうと松本が座敷に入ろうとするので、いやいやそうはしておれん、すぐ猿飛を探さんことには…、ごめん!と入道は言い、一旦立ち去りかけるが、このままでは具合悪いと着物姿のことに気付き、すまんがもう一度君のを貸してくれんかと松本に頼む。

洋服姿になり川辺にやって来た入道は疲れ切って腰を下ろし、猿飛の奴どこをうろうろしてるのかな?と考えながら足をさする。

そこに、おばあちゃん!と泣きながら近づいて来た子供がいた。

そこによそ見をしながら近づいて来た自転車が衝突したので、子供は大泣きし始める。

轢き逃げしたまま自転車は去ってしまい、倒れた子供が泣いているのに気付いた入道は驚いて駆け寄り、坊や、大丈夫か?怪我はなかったかと言いながら助け起こしてやる。

坊や、どうしたんや?と聞くと、おばあちゃん、いない!と泣きながら子供が訴えるので、迷子になってんなと気付き、坊やの名前は?と聞くと金太郎と言うではないか。

金太郎!同じ名前やがな…と気付いた入道は、良し、おじさんがおんぶしておばあちゃん探してやるよってと子供に言い聞かせる。

さあ来いと子供を背中に背負った入道は迷子の迷子の金太郎のおばあちゃん!おりまへんかいな〜!と声を挙げながら歩き出す。

その内、坊やの家どっち?と聞くと、こっちと金太郎が答えたので、あ、そうか…と良いながら家の前に来ると、ここだよと金太郎が指差すので、ここか…と言いながら降ろしてやる。

引き戸の下の閂を外し中に入った金太郎は、おばあちゃん!と部屋を見て回るが誰も返事しないので、おばあちゃん、いないよと入道に教える。

困ったな…と入道は困惑するが、おじちゃん、おばあちゃんが帰って来るまで一緒にいてよ、僕寂しいんだもん、ね?と金太郎がねだる。

そして自分で座布団を出した金太郎が、おじちゃん、上がんなよと勧めるので、そのいじらしさに微笑んだ入道はよしよしと行って上がり込む。

賢いな、ああ賢い賢いと入道はすっかり金太郎を気に入ってしまう。

すると金太郎が持っていたマンガを差し出し、おじちゃん、これ読んでよとせがんで来たので、ああよしよしと入道は承知する。

しかし表紙を見ると「長編まんがものがたり 猿飛佐助」と言うタイトルだったので、ほほお、あいつは俺より偉いんだな〜と感心する。

ここが面白いんだよと金太郎がページをめくったので、ああここがな…と入道は目を細める。

そこへ帰って来たのが金太郎の祖母のよね(浪花千栄子)で、近所の主婦が金坊見つかりましたか?と声をかけると、ええ…、どこ行きましたか、ほんまにもう…、なあ?と心配顔で答える。

御心配なことでと主婦が同情すると、ちょっと失礼しますと会釈をし、自宅に戻る。

それから佐助は…と入道がマンガを読んでやっていると、戸の悪音が聞こえたので、あ、おばあちゃんだ!と言い金太郎は入り口に向かう。

入って来たよねも、あ、金太郎!お前、帰ってたんかいな!ああ良かった、おばあちゃん、心配で心配で…どない探したか分からへんがな…、で、お前1人で帰って来たんか?と驚く。

すると金太郎が、あのおじちゃんが連れて来てくれたんだよと座敷を指差すと、そこに見知らぬ入道が座っていたのでそちらを見たよねは、あっと言うと腰を抜かし、幽霊と違うか?と怯える。

入道は誰のことかと周囲を見回すと、その足を見たよねは、足あるな…と安堵し、あんたアチャコちゃんと違うか?と聞いて来る。

アチャコ?と入道が繰り返すと、アチャコちゃん!良うまあ無事で…と言いながらよねは入道の側に近づき、おかあさん、あんたが戦死したとすっかり思うてたんやがな、良う帰ってくれたな〜と涙ながらに言う。

戦死しましたことは戦死しましたんですけど…と入道が呟くと、何言うてんねんな、戦死した人間が帰って来たりするかいな、帰って来るなら、帰って来ると母さんにちょっと言うてくれたら良いのに…とよねはうれしそうに言う。

それがその〜…と入道は説明しようとするが、まあええわい、無事に帰ってくれたら何よりや…何も言う事ないと笑顔になったよねは、これ金太郎、何してるんやな?お父ちゃんやがな、お前のお父はん、帰って来てくれはったんやがなと言い聞かせ、アチャコちゃん、見てやって、金太郎、こんなに大きゅうなってしもうてからに…と金太郎を改めて紹介する。

しかし、人違いと知っている入道は浮かない表情のまま、わしの倅も金太郎と言う名前やったが…と呟いて落ち込むと、そやがな、倅の金太郎やがなとよねはすっかり入道を自分の息子と思い違いしているようだった。

戸惑う入道の手をとったよねは、ちょっと奥へ来て、早よ立って!ご先祖にな、挨拶してもらわなあかん、こないなったのもご先祖のお陰やがな…と誘う。

仏壇の前に連れて来たゆねが、お礼言うてなと言い聞かしなまんだぶ…と手を合わせたので、入道は仏壇に飾られていた写真を見るが、そこには自分そっくりで軍服を着た男の姿があったので驚く。
 


 

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