何でも、本作のラストシーンを会社側から勝手にカットされたことがきっかけで吉田喜重監督が松竹を辞める事になったと言う曰く付きの作品らしいが、「巻き込まれタイプの破滅型逃亡スリラー」とでも言うべき内容である。 どう考えても脇役タイプのように思える鈴木ヤスシさん主役と言うのも珍しいような気がする。 夢はあるけど現実には力不足で、いつの間にか犯罪に巻き込まれ、次から次へと転落して行くダメ男を良く演じている。 冒頭、待田京介さんや内田良平さんと云った強面が出て来るので、こちらの方が主役では?と感じたが、2人はすぐに姿を消す。 そして後半は本当に鈴木ヤスシさんと桑野みゆきさんの逃避行になる。 トルコ風呂とかオリンピック前日の聖火ランナーとその中継車が登場したりする辺りの時事ネタは面白く、出来としてはそう悪くないと感じるが、何となくどこかで見たような犯罪もののパターンなのに加え、華があるスターがいない為地味な印象は拭えず、興行的に成功しそうな感じはあまりない。 さりげなく登場している市原悦子さんは、この当時多かった水商売のホステス役。 坂本スミ子さんも米軍相手のオンリーさんのような役で登場する。 端正な顔立ちの中野誠也さんが意外な役柄で登場しているのも注目である。 ラストシーンは何故カットされたのか良く分からないが、歌う竜夫の背景に花火をブルーバック合成で処理してある。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1964年、松竹、吉田喜重脚本+監督作品。 この映画の物語は全てフィクションである(とテロップ) 岡本太郎画伯が原色で力強く抽象画を描く。 タイトル 竜夫(鈴木ヤスシ)は、煙草の吸い殻が床に落ちた薄汚い楽屋で、壁に貼られた鏡に向い、ステージから聞こえて来る歌手が歌うジャズに合わせ、あたかも自分が歌っているように身振り手振りをも合わせエア歌唱をしていた。 クラブのステージでは歌手が汗塗れで歌っている最中だった。 やがてステージが終わり、マスターがバンドのメンバー達に、10時の急行だから急いで!と声をかけ、バンドマンたちが列車かよ、たまには飛行機にしてくれよとぼやきながら店を出て行く。 そんな中、マスター、俺も一緒に連れて行って下さいよと竜夫は頼むが、甘えるんじゃない、連れて行く訳ないだろう!と叱られる。 電気の落ちたステージでバンドマンたちが残して行ったベースを愚痴りながらケースに閉まっていたバンドボーイの竜夫だったが、その時突然ドラムの音が聞こえたので、兄貴!と喜んでドラムセットの側に駆け寄る。 ドラムを叩いていた浅川タカシ(待田京介)は、まだバンドボーイやってるのか?少しはものになったのか?などと聞いて来る。 兄貴、身体はもう良いんですか?と竜夫が案じると、竜夫、お前の部屋一晩俺に貸さないか?とタカシが言うので、又女ですか?と聞くと、二ヶ月も麻薬絶って入院してたんだと言い訳する。 竜夫は自分の車の運転席で、タカシがサングラスの女を連れて来て後部座席に乗ると、良い女ですねと世辞を良い、バカヤローとタカシに叱られる。 それでもバックミラー越しに見たサングラスの女はイカす女に見えた。 竜夫のアパートにやって来たタカシは、ベッドに女を押し倒すと、メガネを取ったらどうだい?誰にも見られやしないよと言いながらサングラスを取る。 その女ヤスエ(桑野みゆき)は、私待ったわ!あなたに会いたくて!と言いながらタカシに抱きついて来る。 その頃、車の運転席で歌っていた竜夫だったが、酔って帰って来た同じアパートの隣に住むホステスフジ子(市原悦子)がガラス窓を叩いて来たので迷惑がる。 何でこんな所にいるのと聞いて来たので、今部屋を兄貴に客が来てるんだと教えると、温泉マークみたいなことしてるのね?と気付いたフジ子は竜夫の部屋の前に来ると、ドアをドンドン叩きながら、いい加減にしてよ!外で待っている人がいるのよ!と中に怒鳴りつけたので、裸のタカシが顔を出すと、こいつ、酒飲み過ぎなんだよ!と竜夫はフジ子の手を引きながら詫びる。 竜夫、どっか連れて行けよ!とタカシから叱られた竜夫は仕方なく隣のフジ子の部屋に連れて行くことにする。 部屋の中を見た竜夫は模様替してるじゃないかと驚くと、タンスの中から新しく買ったらしい伏を取り出しながら、もう少しでオリンピックだから模様替したのよ、このベッド試してみない?新しく買ったのよなどとフジ子は誘って来る。 冗談じゃないよと竜夫が拒否すると、やけに静かね?と隣の孝と女の事を言うので、俺なんて毎晩だぜ、女は良いよな…などと竜夫は嘆き、アメリカ行きたいな…、あっちで仕込んだら、日本じゃ一流だから…、シナトラ、サミー・デイビスJr…、最高だな…と夢を語る。 その時、シャツを羽織ったタカシがやって来たので、兄貴、どうした?あの女…聞くと、あいつトルコ風呂の女だぜ…とタカシはバカにしたように言う。 それを聞いたフジ子は、スペシャル専門のミス・トルコねとからかうので、見かけによらないな~…と竜夫は驚く。 タカシが帰ったので部屋に戻った竜夫は、シミーズ姿になっていたヤスエに、あんなのと付き合っていたら酷い目に遭わせられるぞと忠告する。 ヤスエは無言で服を着出したので、今度トルコ風呂に行くからよ、特別にサービスしてくれよとからかうと、いきなりヤスエは竜夫をビンタして来て帰って行く。 付いてないよな~あの子も…と竜夫は呟く。 その後、タカシにプールに呼びつけられた竜夫は、海パン姿の見知らぬ男郷田勇(内田良平)からプールの中に引きづり込まれ息が続かず、兄貴!勘弁してくれよ~!とプールサイドに這い上がろうとしながら、プールサイドで座っていたタカシに懇願していた。 やるのか、やらないのか?どっち選んだって良いんだぜとタカシは知らん振りをしながら言う。 その後、外車を運転して指定の場所に来た竜夫は、待っていて乗り込んで来た郷田から、こんな目立つ車乗ってくるんじゃねえよ!と怒鳴られたので、これしかなかったんだよ~!と弁解する。 やって来たのはヤスエがいるトルコ風呂で、客を装って入った竜夫は、指名を聞かれてヤスエさん空いているかな?と打ち合わせ通り言う。 21号室に案内されると、午前3時までですと案内役のボーイが告げる。 中にはブラジャーにパンツ姿のヤスエが待っていたので、兄貴は?と聞くと、前の個室よと教えたヤスエが、あんたお風呂入る?と聞くので、そんな場合じゃないだろう!と竜夫が苛つくと、入らないとかえって怪しまれるわよとヤスエは言う。 俺言ったろう、兄貴と付き合ったら大変なことになるって…と言うと、じゃああんたは何故付き合っているのよ?と言うので、俺、兄貴の紹介でバンドに入れてもらった義理があるんだと竜夫は説明する。 俺、素質あるんだ、アメリカで修業すりゃ、ちょっとしたものになるぜなどと言う竜夫に、マッサージする?とヤスエが聞くので、そんな悠長な真似してられねえよ!と竜夫は苛立つ。 その頃、前の個室から客として出て来たタカシは、大きなゴルフバッグを持ち込んでいた。 21号室をノックすると、すぐにヤスエが開けてタカシを中に入れる。 カーテンをめくって浴室を覗いたタカシは、のんきに竜夫が湯船に浸かっていたので、バカヤロー!何やってるんだ!と叱るので、竜夫は、案行き!外車しかなかったんだよ!と今日乗って来た車のことを明かす。 お前たちの部屋は?とタカシから聞かれたヤスエは4階よと教え、非常階段は中から開くようになってるわと言う。 それを聞いたタカシは、竜夫、分かってるな?と念を押して来る。 非常階段の外で待っていた郷田は、ヤスエが内側から開けた非常階段の扉から中に侵入する。 郷田は1階と2階はもう誰もいなくなったぜと中で待っていたタカシに教える。 ビルの窓から表の通りの様子を見下ろした郷田は、ポリスボックスが意外と近くにあるのに気づき、つまんない所にあるなとぼやく。 そんな中、私行くわよと言い残し、ヤスエはトルコ嬢たちの休憩所に戻る。 休憩所にいた同僚たちは、あんたまだ稼いでたのかい?先月最高の稼ぎだったそうだね?などと嫌みを言って来る。 そんな声は無視して鏡の前に座ったヤスエだったが、その時、パトカーのサイレンが近づいて来たので緊張する。 暗いビルの中に潜んでいた郷田たちも接近して来るサイレンに緊張するが、やがて遠ざかって行く。 そんな中、タカシは苦しんでいた。 洗面所に駆け込み、麻薬を溶かして注射しようとし出したタカシに気付いた竜夫は、兄貴、いけねえぜ、そりゃ!と止めるが、ヤクが切れたタカシは聞く耳など持ち合わせなかった。 ヤクを打ったタカシは少し落ち着いたのか、ゴルフバッグの中に隠して来たガスボンベとガスバーナーを取り出し、金庫室の扉を開けようとする。 郷田が階段で見張り役だった。 非常階段を降り、地上に来たヤスエは、停めてあったガイア社の運転席に乗り込む。 一方、屋上に上がったヤスエは、ビルの下に停めてある竜夫の外車と、その通りの向こう側にあるポリスボックスを見比べる。 その時、運転席で待っている緊張感に耐えられなくなった竜夫が降りて来る。 ガスバーナーで金庫を焼き切っていたタカシは咳き込んで一旦炎を停めるが、又着火して作業を続ける。 そこに竜夫が上がって来たので、バカヤロ~!車の中にいろって言っただろう!と郷田が怒鳴りつけるが、見られたんだよ!と竜夫が言うので、誰に?と聞くと、あのヤスエって女…と竜夫が教えると、だから女は信用できねえって言ったんだよ!と郷田は苛立つが、その時、ビル内に非常ベルが鳴り響き出す。 慌てた郷田は、非常ベル用に線を見つけ切るが、下の方から上がって来る人声を聞くと焦り、拳銃を2発ムダに撃ってしまう。 弾はトルコ風呂用のスチーム管を貫き、蒸気が吹き出す。 トルコ嬢は騒ぎに気付き非常階段から下に逃げ出すと、お巡りさ~ん!泥棒よ~!とポリボックスの方へ呼びかける。 金を奪い非常階段を降りたタカシ、竜夫、郷田たちは外車に乗り込み走り出すが、目の前に迫ったポリスボックスから警官が飛び出し車の前に立ちはだかろうとする。 後部座席に乗った郷田が、スピードを落とすな!突っ込め!と言うので、竜夫はヤケになるアクセルを踏むと、警官はボンネットの上に跳ね上がって車を掴みながら運転手の竜夫の方を見る。 その時、郷田が銃を発砲し、顔面を撃たれた警官はそのままボンネットの上で固まる。 もっと踏み込め、振り落とせ!と郷田が言うので、表通りに出た所で警官を振り落として逃げ出す。 竜夫の車は無人の競輪場前に停まり、3人は金の入った袋もって、地下の駐輪場に降りる。 俺もここのバンクで走ってたんだ、ここなら誰も来ねえよとタカシが言うと、郷田は早速金勘定を始めるが、タカシと竜夫の顔が冴えないので、なんて面してるんだ2人とも!と喝を入れると、死んだかな…あいつ…と、竜夫は振り下ろした警官のことを気にしているようだったので、撃ったのは俺かも知れねえけどよ、お前たちも強盗殺人だぜ?と念を押し、ヤスエどうするつもりだ?今頃俺たちがここにいるって警察に話しているかもしれねえぜとタカシの人選ミスのように言う。 そんな中、タカシの様子の異変に気付いた郷田は、又ヤクか?と嘲ると、うるさい!お前がドジ踏みやがったからだ!とタカシは郷田に言い返す。 竜夫は絶望のあまり泣き出したので、この野郎!少し黙ってろ!と郷田は叱りつける。 その時、地上から車が近づいて来る音がしたので3人は緊張する。 やがて車が停まるとクラクションが聞こえたので、そっと階段を上がって様子を見に行くと、車から降りて来たのはヤスエだった。 約束通りやって来たヤスエを見た郷田は、金があるからだろう?と言うと、タカシは郷田に、おまえのスケにしたらどうだなどと言い出す。 地下に降りたヤスエは、件感心だわよ、即死だって…とヤスエが言うので、3人は固まる。 店の様子はどうだ?と聞くと、刑事が店に来て色々聞いてたわ、私の部屋だけ鍵がかかってなかったことがバレたのよ!あんたたち警官を殺したのよ!と責めるようにヤスエが言うので、お前も店に帰っても良いんだぜと郷田は嫌みを言う。 金が欲しかったらしいな?でも警官バラしたらもうそうはいかなくなるんだと郷田は覚悟を決める。 そして、ここへ来なけりゃ良かったのによとヤスエに話しかけた郷田は、奥へ歩きな、お前の為に良い場所を用意してあるんだと言い出す。 郷田から奥に置いてあるベッドにある部屋に連れて行かれるヤスエはあんた~!と叫び、それを見ていた竜夫は、兄貴~!と叫ぶ。 ヤスエまで殺されそうになってきた状況に怯えた竜夫に銃を向けながら、郷田はまだ3発残っているんだぞと脅す。 兄貴~!と竜夫が呼びかけると、言われた通りになるんだ!とタカシは竜夫を叱る。 それでも兄貴~!と訴えながら泣き出した竜夫に、うるさい!と郷田は怒鳴りつけ、タカシは、竜夫、薬局行って睡眠薬買って来いと命じる。 それを聞いた竜夫は、兄貴~、俺嫌だよ~とごねるが、結局行くしかないことを覚る。 それを聞いていた郷田は、おめえにしては上出来だな…、薬で眠らせて自殺って訳だ…とタカシの狙いを見抜く。 薬局から睡眠薬を買って来るまで戻って来ていた竜夫は、バイクと接触してしまう。 咳き込んでいたタカシの元へ戻って来た竜夫は、途中でオートバイ突き飛ばしてしまった!向こうから飛び込んで来たんだ!と震えながら言い訳するが、ヤクが切れて禁断症状が出ていたタカシは、早く飲ませて来い!じゃないと俺の身体が持たないんだよと苦しげに言う。 奥の部屋に行くと、パンツ一丁になった郷田がヤスエに覆い被さり今にも置かされそうだった。 タカシの元へ戻って来た竜夫は、兄貴!あれ、兄貴の女じゃねえかよ!もうたくさんだ!あのままじゃ、あの女やられちまうよ!と訴えると、お前やれ!あそこにハジキあるからよ!とタカシは自分が脱いだ上着のポケットに入っている拳銃のことを教える。 その拳銃を持った竜夫は奥の部屋に行き、ヤスエに覆い被さっていた郷田に、兄貴!離れてくれよ!と頼む。 しかし竜夫に撃てる度胸などないと見くびった郷田は、パンツ姿のまま竜夫に近づき、あのお巡り、あんたに撃たれた時俺を見やがった!死ぬ時俺を見やがったんだ!と怯える竜夫から拳銃を取り上げようとする。 その時、竜夫は引き金を引く。 ムダに使いやがって!後2発しか残ってないじゃねえか!と怒りながらも、ヤスエの首を絞め要素とする郷田は、あっちへ行け!と竜夫を叱りつけ、タカシの方へ逃げる竜夫を追って来て倒れ込む。 しかし弾は郷田の身体を貫通しており、抱きつかれていたヤスエの下着にも血が付いていたので、ヤスエは悲鳴をあげる。 ヤク切れで倒れ込んでいたタカシの所へ来た竜夫は、兄貴~!俺じゃない!俺は誰も殺してないんだ!と言い訳するが、タカシはその場を逃げ出してしまう。 竜夫は、俺じゃない!殺す気なんかなかったんだ!逃げんのか!俺を1人にしないでくれ!怖いんだ!と呼びかける。 夕方、ヤスエの車でタカシの住む団地へやって来た竜夫とヤスエは、部屋のブザーを押すと、うるさいわね!こんな時間に、近所迷惑よと文句を言いながら出て来たのは見知らぬ女晶子(黒田絢子)だった。 あんたここで何してるの?とヤスエが聞くと、浅川の家内よ!と晶子は言うではないか。 億のベッドにタカシが寝ているのが見えたので、兄貴!俺だよ、起きてくれよ!と竜夫は呼びかけるがタカシは動こうともしない。 薬が切れるとこのざまなんだから…、帰ってよ!帰らないと警察呼ぶわよ!と妻の晶子が2人に言う。 うちの人は薬が切れるとろくな人間じゃないわと言うアキ子に銃を突きつけて黙らせベッドに近づいた竜夫だったが、タカシは、頼むよ、晶子は妊娠してるんだ…と弱々しい声で哀願して来る。 ヤスエは呆れて竜夫を呼び戻すと一緒に部屋を出る。 ベッドに駆け寄ったアキ子は、あんた、何したのよ!子供が生まれるって言うのに!とタカシに抱きつく。 竜夫はまだ、俺じゃない!殺してない!と怯えていた。 その後、ヤスエは外国人が集まっているバーのカウンターに1人座っていた。 それに目を付けた足の悪い赤間(早野寿郎)が隣に座り、この辺じゃ見かけねえ顔だな?と話しかける。 自衛隊相手じゃダメだよ、奴らは国民の税金で養われているだけだから、遊ぶ金なんて持ってないよなどと話しかけて来るので、見損なわないでよヤスエが怒ると、顔に書いてある、男が欲しいって…などと赤間はからかい、この辺はヤクザが多いから気を付けな、俺は昔リンタクやってたから詳しいんだなど言う。 お目当ては?と聞かれたヤスエは、アメリカ兵で明日にでも帰る男が良いんだけどと条件を言う。 近くの安ホテルに戻って来たヤスエは、あんた出てってよ、今、アメリカ船員が来るのよ、こっちは身体撃ってもあんたを逃がしてやろうって言うの、そうでもしなけりゃあんた死刑になるのよ、そんなの見たくないからね…と部屋で待っていた竜夫に言い聞かす。 すると竜夫は金の入った包みを持って出て行こうとするので、待って!それ持って行くの?私がカネを横取りするって思ってるのね?とヤスエが聞くと、警察いくのか?やれば良いよ、まだ一発残ってるんだと脅すように竜夫が言うので、私だって捕まったら刑務所に入れられるんだよとヤスエは反論するが、竜夫はそのまま部屋を出て行ってしまう。 ヤスエは鏡台に向かって化粧を始めるが、外に出た竜夫が港にやって来て外国船が停泊しているのを見たりする。 やがてヤスエの部屋に来たのは、松葉杖をついた主人を連れた3人のヤクザたちで、このスケか?と赤間を痛めつけながら、勝手に商売しやがって、少し挨拶してもらおうか?このシャバで仕事やりたいんだったら俺の顔を立てろ!おめえ、あちら専門だってな?どっかにキャンプにいたのか?惜しいな商売やらせておくにはよ~などと、赤間を痛めつけていた子分2人を部屋から追出した兄貴分らしき花田(垂水悟郎)がヤスエに詰め寄って来る。 ところがその直後、バーの女主人が通報したのか刑事が部屋に訪ねて来る。 娘さん、此花だって知ってる男かい?と刑事が聞いて来たので、ベッドに入っていたヤスエがええと答えると、まあ気を付けるんだよ、こいつら、骨の髄までシャブリとらないと気のすまない奴らだからと注意して帰って行く。 その会話を聞いていた花田は、お前、何かやったのか?ヤケに落ち着いているな?とヤスエの態度を疑い出す。 するとヤスエが、あんた、抱いてよ!気分出やしないじゃないの!と誘いかけて来たので花田はベッドに入りヤスエを抱く。 ホテルに戻って来た竜夫は、女主人から花田の手下と間違われ、さっきはすまなかったね、後から落し前付けられたりしたら敵わないからね…と刑事を呼んだ詫びを言われる。 部屋に入るとヤスエしかいなかったので中に入ると、相手はヤクザよと小声で教えたヤスエは、花田が今入浴中であることを目で知らせる。 浴室に入った竜夫は、銃を突きつけてバスタオル姿の花田を寝室に連れて来る。 ひも付きとは恐れ入ったな…とぼやく花田は、新聞に出ていたトルコ風呂を襲ったのはおめえたちだな?と見抜く。 そんな花田に睡眠薬を取り出した竜夫は飲むんだよ!と迫る。 眠っている間にずらかろうって言うのか?と勘の良い所を見せた花田は、飲まねえこともない、水くらいくれよと落ち着いた所を見せる。 ヤスエがコンプに入れた水を渡すと、睡眠薬を飲んでみせた花田だったが、もっと飲め!と竜夫が迫ると、馬鹿野郎!これ以上飲んだら死んじまうじゃねえか!と悪態をつく。 すると竜夫は、おめえなんか死んだ方が良いんだ!と銃を突きつけた竜夫が言うので、ベッドから逃げ出そうとした花田だったが、その後頭部を竜夫の銃座で殴られてしまう。 そして頭から流血した花田は、浴室の水の中に頭から漬けられる。 その後、竜夫とヤスエは車で厚木の米軍基地の近くまで逃げて来る。 朝霧の中、金網の所にやって来たヤスエは、基地内に停まっていた軍用機を見て、あれなら一足飛びにアメリカねと言うので、乗れるのかって!聞いてるんだよ!と竜夫が苛立つと、私に任せて!とヤスエは言い、とある家に竜夫を連れて来る。 そこはヤスエの友人だった光子(坂本スミ子)が米兵のジョーが暮らしている家で、ベッドで一緒に寝ていたミツ子はブザーで眠そうに起きると、ヤスエやないの!テレビで見たわ、あんたの写真などと驚きながらも家にあげてくれる。 みっちゃん、ジョーに頼んでアメリカ行きの飛行機に乗れないかしら?とヤスエが切り出したので、ヤスエもバカやな、あんな人ごろしと行くなんて…と光子は呆れながらも、マネーあるんやろうな?と言うので、いくらでもあげるわとヤスエは答える。 光子はジョーを起こし、一緒の車で出掛けて行く。 光子の家に残って朝食を食べ始めたヤスエは、光子もジョーもバカみたいに良い人なんだから…、私の友達と言ったら、あの光子くらいな者よ…などと話していたが、緊張しながらも無理して飯をかき込もうとしていた竜夫が咽せたので笑い出す。 何がおかしいんだよ!と竜夫が怒ると、だってあんた、本当に付いてないギャンススターだよ、向こうに言ったら、今までのことすっかり忘れちまうよとヤスエが言うので、あんた、行かないのか?竜夫が聞くと、私なんかどこへ行っても代わり映えしないよ、男相手しかできないし…と言うので、じゃあ俺も行かねえよと竜夫は言い出す。 あんたが私のためにやったの知ってるよ、それでなくちゃこんなことしてないよとヤスエが言うので、俺、付いてないな〜と竜夫が愚痴るので、あんただけじゃないよと答えたヤスエは、後何時間もいられないんだから、日本にいられるの…と言う。 すると竜夫は、日本か…薄汚えな…と竜夫は呟く。 入浴したヤスエは、ガラス窓から見える基地内の軍用機を見る。 寝室に入ると、先に寝ていた竜夫がうなされていたので、そっと横に潜り込むと、脅かすなよと竜夫は目を覚ます。 うなされっぱなしだったわよとヤスエが教えると、俺、怖えんだよと竜夫は身をすくめるので、そっと竜夫の銃をヤスエは取り上げ、もう少しよ、あんたが日本にいられるのも…と慰める。 すると竜夫は、俺は行きたくねえんだよ、寂しくてしようがねえんだよと言うので、あんたと2人きりよ、ここまでしてやろうって気になったのわ…とヤスエが慰めると、俺好きかい?と竜夫は聞く。 あんたみたいに付いてない男…と嘲ったヤスエだったが、ただ、あの男を殺そうとしたときのあんたの目ってなかったわと言うと、やめてくれ 思い出すじゃないか!と竜夫が嫌がったので、ご免ね…、私もあんたと同じだわ…、良く騙されたっけ…とヤスエは言う。 私の家、この厚木の近くなの…、床屋やっていてさ、それだけじゃ食べられないから山に田んぼ持ってたの、でも雨が降ると流されてね…、カネのためにあの男と付き合ったのよ、有名なドラマーだって言うから…とヤスエは打ち明ける。 欲を出したんだわ、厚木にいた頃、甘っちょろい学生に騙されたし…、お金なんか貯まらないものね…とヤスエが言うので、それを聞いていた竜夫は、これやるよ、後50万ある…、そんなに刑務所じゃ使えないものな…と言うと、あんた!と感激したヤスエはキスして来る。 その時、光子が帰って来て、ヤスエ、明後日からオリンピックやろ?それを見にGIが帰って来るねん、そやから韓国へしか飛ばないって、韓国でもええやんと言いながら、来て!と軍服を竜夫に渡す。 思わぬ展開に竜夫は、俺、韓国なんか行きたくないよとごね始めたので、どないなってるのよ、ジョー待ってるのよと光子は急かす。 ヤスエは、行くわ!と答え、急いで竜夫に軍服を着せて外に一緒に出る。 花畑の所に来た時、竜夫が列車のトンネルの方へ走り出したので、自殺するのでは?と感じたヤスエは後を追う。 しかし、列車が走り去った後、トンネルの脇に立っていた竜夫は立ち小便をしていた。 竜夫は悩んでいた。 道路に出ると、「福岡運輸」と書かれたトラックが待っており、何してんの、もう…と苛立つ光子とヤスエに見送られ、竜夫は荷台に潜り込む。 分かれがたいのかヤスエはそんな荷台にしがみついてなかなか手を離そうとしなかった。 やがてトラックは出発し厚木基地の中に入って行く。 停まったトラックの荷台の奥に身を潜めていた竜夫は、いきなり懐中電灯の光りを浴びせられ、誰だ?君も密出国だな?と乗り込んで話しかけて来たのは朝鮮人の李(中野誠也)だった。 君、韓国へ行くんだね?僕、38度線を越えるのが夢なんだ、君の希望は何だ?と親しげに李が聞いて来たので、ジャズ歌手だよと竜夫が教えると、祖国はそんなもの認めない!君のような奴は僕は認めない!祖国に来るの許さない!と責め始める。 竜夫は頭に来て、しゃべるなよ!と怒鳴り返す。 自宅に戻った光子は、派手なドレスを取り出し、このドレスどう?ジョーの友達が帰って来るんや、あの連中、ベビーちゃんみたいに可愛いもんや、警察に行く前に思い切り遊ぼうやなどと誘っていた。 その頃、堪り兼ねた竜夫が倉庫から逃げ出そうとするので、李が止めろ!と必死に止めようとする。 あいつが俺を見送りに来てるんだ!と言い、基地内に飛び出した竜夫に、バカ!見つかる!戻れ!と李が呼びかける。 金網の所に走り付いた竜夫だったが、その奥の暗闇から女の嬌声が聞こえて来る。 その時、福岡運輸のトラックが停まったままなのに気付いたMPが近づいて来る。 荷台に残っていたりは飛び降り、呼び止めるMPの声を無視して逃げ出そうとする。 光子の家ではやって来た白人と黒人兵がさよなら、マリ~♩と歌を歌いながらすき焼きパーティを開いていた。 そこに飛び込んで来たのは竜夫だったので、驚いたヤスエは、見つかったの?ジョーは?と聞くと、光子は人殺しや!と竜夫のことを何事かと狼狽する米兵たちに告げ口する。 金を持ったヤスエは竜夫とともに家の外に逃げ出し、そこに停まっていた車を奪って逃亡する。 車を降り、暗い林の中を突っ切る2人。 やがて2人は空き家を見つけその中に潜り込む。 その時ヤスエは、私持ってないのよお金…、車を降りる時には持ってたのよと言い出したので、2人してまた暗い外を探しまわるが見つからない、仕方なく、空き家に戻りベッドに横になる。 私、家に帰って来るのよ、ずっと仕送りしてなのよ、又お金ないと帰れないじゃない!とぼやくが、竜夫はここにいるよと言うので、どうしてさ?あんた、私がわざと落したと思ってるの?と言い合いになる。 最後まで付いてねえな…と竜夫は呟くので、あんた死ぬ気なのね?とヤスエが指摘すると、行きたかったよ、俺、アメリカ行きたかったな…、死んでもお前を放さない…か…、俺、子供頃から薄のろでさ、おふくろ飲み屋やってて、毎晩遅く帰って来るから俺眠れなくて、毎日寝坊して遅刻してた。 みんなが運動場で遊んでいる時、俺だけ空のバケツ持って立たされていたんだ、歌を歌っても音が外れているとか言われてよ…、俺どうしてこんなに薄のろなんだろう?付いてねえんだよ始めから…と竜夫が嘆くので、あんた…とヤスエは同情する。 早朝、1人空き家を抜け出したヤスエは、自宅に入り込むと水道の蛇口から水を飲む。 しかし、振り返った瞬間、ヤスエは刑事たちが家の内外に張り込んでいたことに気付く。 両親も刑事と一緒におり、ヤスエ!と父親に呼ばれたヤスエは号泣し出す。 捕まったヤスエは警察車両に乗せられるが、村の道路には大勢の女学生たちが借出され、掃除をしている最中だった。 もうすぐその道を聖火ランナーが走るらしかった。 女学生たちは好奇の目で連行されて行くヤスエを見守る。 ヤスエは刑事に、降ろして!あの人死んでしまう!私がいないと自殺してしまう!と訴えると、どこにいるんだ、井原竜夫は!と刑事は聞いて来る。 その頃、ヤスエがいなくなったことに気付いた竜夫は空き家を逃げ出し、林の中を走っていたが、途中疲れて木の下で休もうとしたとき、自分の周囲に札束が待っていることに気付く。 昨夜、逃げて来る途中でヤスエが落した札束が風に舞っていたのだった。 その時、ヤスエに居場所を聞いた刑事たちが向かって来たことに気付いた竜夫はまた逃げ出す。 そんな中、ヤスエの村では、明日から始まるオリンピックを前に聖火ランナーが何台もの中継車と一緒に近づいて来る。 竜夫は、村に先乗りして中継をしていた「ラジオ日本」の中継車に乗り込み、アナウンサー(玉川伊佐男)に銃を突きつけ、実況を続けろと命じる。 やがてパトカーに先導された聖火ランナーローマ大会銀メダリスト田辺真治が近づいて来たので、竜夫は乗っ取った中継車をそのランナーの前で走らせる。 放送を止めさせ、走れ!走れ!と竜夫が煽ってスピードを上げたので、白バイと聖火ランナーが遠ざかって行くのを見た竜夫は愉快そうに笑い出す。 誰も先頭を走る中継車に殺人犯が乗っているなど予想もしていなかったからで、竜夫はみんなをまんまと出し抜いたような満足感を感じていた。 お前たち捕まえてみろよ!俺が捕まるとでも思ってるのか!もっと飛ばせ!すっ飛ばせ!アメリカじゃ80以上じゃないと捕まっちゃうぞなどと言うので、中継車は山道を突っ走る。 アナウンサーはそんな竜夫にマイクを向けながら、君はこんなことして逃げられると思っているんですか?どうして日本を出るのか?などと色々質問を始める。 その間、同乗していた技術者は、そっと通信を再開する。 警察署で取り調べを受けていたヤスエの所にやって来た刑事は、井原竜夫、見つかったぞ!と言いながら持って来たトランジスタラジオの中継を聞かせる。 そこから流れて来た竜夫は、さらば日本!さらば祖国日本!俺は朝鮮の奴から聞いたんだ、可哀想に撃たれちまったけどよ、祖国って、調子の良い言葉じゃないか、さらば祖国日本!などと粋がっており、やがて調子に乗って歌を歌い出す。 女の人はどうした?とアナウンサーから聞かれた竜夫は、酷い女だ、警察なんて呼びやがって!と愚痴るが、その時、お前ら!放送してたんだな!と気付く。 それを聞いていたヤスエは泣き出す。 その夜、海ではオリンピック前夜祭として花火大会が行われていた。 観光船からそれを眺める外国人たち。 波止場にやって来た竜夫は、一台のトラックの荷台に潜り込む。 琴の音が流れる中、外国船に積み荷を運ぶクレーンが動き出したので、竜夫はその荷物を持ち上げるネットの中に飛び込む。 作業員たちが竜夫に気付きしたで騒ぎ出す。 その騒ぎに気付いた花火大会の見物客たちがはとべに集まって来る。 夜空に花火が上がる中、積み荷のネットの中に入って宙づり状態の竜夫は、下に集まった野次馬たちを愉快そうに見下ろしながら、得意の歌を笑いながら歌い出す。 岡本太郎画伯の絵 終 |