白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

モリのいる場所

極限まで色と形を簡略化し、あたかも子供が作った版画のような絵を描いていた孤高の画家熊谷守一を描いた作品。

作品を知った瞬間から気になっていたので見てみたが、インディーズ映画の良さを堪能できる佳作になっていた。

派手な視覚効果を使ったハリウッド映画も悪くないが、時にはこうした淡々とした邦画も悪くない。

冒頭の樹木希林さんとジュリーネタや荒井注が抜けた後のドリフネタなど、分かる人には分かる世代ネタがあるので、70年代半ば頃の設定のように見えるが、文化勲章辞退のエピソードのように実際は1968年のことも登場したりしているので、伝記映画のような物と言うより、あくまでも画家熊谷守一のユニークな人となり、暮らしぶりなどを自然の姿やファンタジックなエピソードも交え、独特の世界に仕上げた淡々とした日常映画と言った印象。

何か派手な事件が起きる訳でもないがさりげないユーモアも交えているので退屈することもないし、凡々とした日々の生活の隅々に息づいている自然の美しさが感じられるようになっており、心が穏やかになる作品である。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2018年、「モリのいる場所」製作委員会、沖田修一脚本+監督作品。

昭和天皇(林与一)がじっと展覧会の一枚の絵を凝視しておられる。

それは「伸餅」と言う3枚の伸餅と包丁を描いた作品だった。

そして、これは何才の子供が書いた絵ですか?とお尋ねになられたので、後ろに並んだ従者たちは狼狽して互いを見合うが誰も答えなかった。

蟻を描いた絵、梟、分解された懐中時計…などが所狭しと置かれている部屋

木々が生い茂る庭をカメラがパンして行くと、木々の中にこの家の主、モリこと熊谷守一(山﨑努)が木々の中に埋まっているように無言で立っていた。

タイトル

焼き魚

モリの姪で家事を手伝っている美恵ちゃん(池谷のぶえ)が、ジュリーの「危険なふたり」を口ずさみながら料理をしていると、モリの妻の秀子(樹木希林)がその背後に近づき、あの人やろ?美恵ちゃん、嫁いるんやろね…と自分に言い聞かせるように話しかける。

その後、美恵ちゃんが、おばさん、前の旦那さんのこと嫌いだったの?と聞くと、そんな事ないよ、良い人やったよと秀子は答える。

モリと秀子と美恵ちゃんは3人で朝食を始めるが、モリはみそ汁の中に入っていた大きめの油揚げやウィンナソーセージをハサミで切って食べる。

食後、秀子は鳥籠で飼っている小鳥たちにえさをやり始める。

美恵ちゃんは門の所で郵便配達の男から、落ちるもんじゃない、何ヶ月も見んですが…、又持って行かれたんじゃないですか?と言われ、何故表札なんて盗むのかし?と聞くと、だてお金になるからじゃないですか?と郵便配達人が言うので、え?と驚き、聞かれた郵便配達人も、え?と聞き返す。

今日はどちらへ?と秀子がモリと五目並べをしながら聞くと、池行く…、後、今日はゴミ焼くよとモリが言うので、ゴミなら昨日焼いたでしょう?と秀子が注意すると、バカ、俺は何だって燃やすよとモリは答える。

今日も人が来ますからね、ちゃんとして下さいと言葉をかけた秀子は、髪ちょっと切りましょうか?と聞くと、人間頭の後ろは急所なんだ、それを長い髪が保護してくれてるんだとモリが言うので、そうですかと秀子は答える。

やがてモリは、腰にポケット付きの平べったいバッグのような物と毛皮を付け、羽織を着て三角帽をかぶり、二本の杖を両手に持って縁側から庭先に降りる。

横で洗濯物を干しながら秀子が、御気をつけて…と声をかける。

地面を走る蜥蜴、あじさいの花、ミツバチ…、やがてモリは庭の一部を草をじっと見つめ、今まで生えていたか?と問いかける。

やがて、黒いアゲハが飛んで来たので注意深くそれを捕まえて放してやる。

カエルを捕まえ損ねたモリは、庭に埋めてやる壺の中の金魚を見る。

その時、背後に猫の鳴き声を聞いたので振り返ると、木の下に白猫がいた。

それを捕まえようよとすると逃げられたので諦め、木の株に腰掛けると、側の草の上にいた小さなカマキリを観察し始める。

その時、足下に白い意思のようなセメント片が落ちていたので拾い上げ、どっから飛んで来た?と問いかける。

そして、腰のバッグのポケットの中にそれを収める。 続いてモリは蟻を観察し始める。

その内、モリはまた縁側の所に出て来たので、どこだここは?と方向感覚を失うが、どうしました?と秀子が声を掛けると、池は遠いなとモリがぼやくので、頑張ってらっしゃい!御気をつけて!と秀子は励ます。

その後、モリは窪地への階段を降り、そこにある池の中に腰掛け、パイプを取り出してタバコを吸い始めると、水の中で泳いでいるメダカや小魚を観察し始める。

座敷には、荒木(きたろう)ともう1人が勝手に上がり込み、電話だよ!と美恵ちゃんに教える。

美恵ちゃんは、角田さん?来られるのはいつでも構いませんが、午前中にして下さい、モリは午後になると寝ますからと伝え、いつにします?明日?お待ちしていますと言って電話を切る。

そんな美恵ちゃんに荒木たちは、メロンと地蔵堂の肉を差し入れする。

その時、庭先にガス屋が来たので、来客多くて大変だねと荒木が同情すると、いきなり美恵ちゃんは右足がつった!と痛がって倒れ込むので、慌てて荒木たちが揉んでやる。

その後、又来客があったので、縁側で応対した秀子が、美恵ちゃん、お客さん!麦茶!と頼む。

その客、朝比奈(光石研)は、たった3文字なんですがね…、もちろん1文字いくらと言っていただいて良いんですと頼む。

しかし秀子は、そう云うの無理なんです、あの人、自分の好きな言葉しか書かないから…と断るので、看板を守一先生に書いてもらうと宣伝になると思うんです、「雲水館」とだけ!と朝比奈は粘る。

聞くだけ聞いてみましょうか?と答えた秀子は、庭にいるモリの側に寄り事情を話す。

朝比奈は、自分の方を向いたモリに気づき、こっち見た!と感激する。

その様子を縁側から見ていた朝比奈の所に戻って来た秀子が、今、忙しいそうですと言うので、でもそこに…と朝比奈が目の前に見えているモリのことを言うと、今、池のメダカを見るので忙しいそうなんですと秀子は申し訳なさそうに言う。

朝比奈は落胆し、はるばる信州から来たんですけど…とぼやくので、信州からですか?と驚いた秀子は、もう一度モリの側に行き、そのことを教える。

戻って来た秀子は、お書きになるそうですと言い、モリが縁側に帰って来たので、こっち来た!こっち来た!と朝比奈はうろたえる。

モリは、これはこれは遠い所をようこそ!と挨拶する。

信州で温泉旅館をやっている朝比奈ですと答えた朝比奈は、信州はどの辺に?と聞かれたので蓼科の方ですと答える。

わしは岐阜の生まれなんだとモリは言うので、存じておりますと朝比奈は答える。

着替えてきますか?などと言いながら座敷にモリが上がって来たので、意味が分からずこのままで…と朝比奈が答えると、お帰りは?と聞かれたので、今日これから…と答えると、それは大変じゃなとモリが焦って奥へ向かったので、あんた、良かったね、先生、「ひかり」なんか知らないから何十時間もかけて来たと思っとるよと荒木が声をかける。

「雲水館」の文字が入った法被を着た朝比奈は持参した木の板を取り出し、それに書いて欲しいとモリに差し出す。

部屋には荒木や見知らぬ来客たちが居並んで、モリの仕事ぶりを覗き込む。

あんた、先生に書いてもらえるんだから一生感謝しなさいよなどと荒木が朝比奈に声をかける。

その時、とてもじゃないが見てられない!こんな見ず知らずの人に書いちゃいけない!申し訳ないが私は失礼する!と1人の男(三上博史)が叫びながら部屋から飛び出して行くが、誰?とモリが聞くと、誰も知らない男だったことが分かり、知らない人あげちゃダメだよ、あんたたち!とモリは荒木たち常連に注意する。

モリは朝比奈が横に置いた板を何故か縦に置き換え、いきなり字を書き出すが、それを見ていた朝比奈の顔が青ざめ出す。

モリが書き上げた文字は「無一物」とあり、何もないと言う意味です、じゃあ私はこれで!御気をつけてと朝比奈に挨拶すると、立ち上がったモリは部屋を出て行く。

唖然とする朝比奈に、だから始めに言いましたよね?と秀子が慰める。 荒木たちも、旅館の名前変えろよ、そうしろよ!と無責任なことを言う。

モリは、庭の小道に筵を広げ、枕を置いてその上に寝転がる。

朝比奈は板を風呂敷包みに包んでがっかりした表情で帰って行くが、モリの家の塀には、若者たちが何やら檄文を書いた看板を貼付けていた。

その後、朝比奈が土産に持って来た饅頭を食べながら、美恵ちゃんは、モリ、後で表札書いてねと頼む。

一緒に饅頭を頬張っていたモリは、饅頭が入っていた折り箱の蓋を目にする。

「豊島区…」と住所と名前が書かれた表札を美恵ちゃんが門柱に釘付けしていると、何か、呪いみたいですね?と犬を2匹連れて散歩していた隣人(森下能幸)が話しかけて来る。

これ盗まれたらいよいよダメよね…と美恵ちゃんはぼやく。

その日、モリの家にやって来たのは常連のカメラマン藤田武(加瀬亮)で、見学に連れて来たと鹿島公平(吉村界人)と言う書生をモリに紹介する。

縁側に腰掛けカメラの準備をし出した藤田は、半ズボン姿の加島がいきなり防虫スプレーを足に吹きかけ出したので、何してるんだ?と聞くと、僕虫苦手なんで…などと言うので、お前帰るか?と呆れ、手帳を見せる。

手帳にはびっしり手描きの家と庭の見取り図が書かれており、半年かかって少ずつ書いたんだと藤田は説明する。

何です?この番号?と加島が聞くと、先生が座る場所、14ヶ所あって、切り株、樽、曲がった木、ひっくり返した壺などで、人はそれを天狗の腰掛けと呼ぶと藤田が教えると、それ、誰が言ったんですか?と加島が突っ込む。

腰掛けたモリがセメント片を右手に乗せ、じっと見つめている様子を離れた所から写真に撮り始めた藤田に、凄いですね、見た目仙人みたいですねと横にいた加島が言うと、それ絶対先生の前で言うなよ、一番嫌がる言葉だから!と藤田が注意すると、ぜもさっき天狗って言いましてよね?と加島は怪訝そうに呟く。

場所を移動した藤田は、下がらせようとした加島が虫を嫌がるので、良いからここで見てろ!と自分の横にいさせる。

縁側に腰掛け小休止のとき、絵描かなくて良いんですか?と加島がモリのことを聞くので、絵は描かないよ、先生、絵は夜描くからと藤田は教える。

何しているんですか?と加島がモリの行動を聞くと、石見てるんだろうと藤田は見たまんまを答える。

動いた!と加島が言うので、しっ!と制した藤田に、藤田さん、あれは?と聞くと、石を移動して又見ているんだと、又見たままを教える。

何で?と加島が聞くと、何でだろうな?と藤田も困惑する。

その後、木の切り株の上を歩き回る蟻を観察し始めたモリは、横で写真を撮っていた藤田に、藤田さん、これは最近気付いたんだけど、蟻って左の二番めの足から動き出すんだねと言うので、藤田はメガネを外し、モリと同じように切り株に顔を近づけ蟻の行動を見てみるが、分かるような分からないような、分かるような気もしますが…、正直良く分かりませんと答えると、もっと良く見て!とモリから注意される。

だめですか?と落胆したモリは、はい、あなた!と加島を指摘するので、加島も切り株の前にしゃがみ込み、蟻を観察するはめになるが、早くて全然分かりませんと正直に答えると、良く見て!とモリは注意する。

3人の男が切り株の前にしゃがみ込み、しばし蟻の動きを凝視し続ける。

その後、藤田は水筒の水を飲みに縁側に戻るが、既に加島が大半飲んでしまっており、少ししか残ってなかった。

凄いですね、飽きないんですかね?と加島がモリの生活振りを驚くと、もう30年もこの庭から出てないんだぜ、天狗や仙人と言わなくて何て言うんだと藤田は呟く。

その後、座敷で、秀子を写した写真を本人に見せると、熊みたい…と自分の姿の感想を言った秀子は、モリと縁側で並んで写した写真を見せると、藤田さんは中良さそうな写真ばかり写すのと照れたように答える。

そこに、鬼婆みたいだな…、何か燃やす物はないかと言いながら近づいて来たモリが、藤田の写真をふんだくって行きそうになったので、勘弁して下さい!と藤田は慌てて停める。

その後も、地蔵堂が来たり、人がモリの家に集まって来る。 TVでは、三木のり平のアニメの桃屋のタレのCMの後、モリを取材したドキュメンタリー番組が始まり、それを家族と来客たちがみんなで見る。

超俗の人熊谷守一、日本を代表する画家の1人…とナレーションが解説する

奥の部屋に座っていたモリはそんな番組は興味なさそうに、畳の隙間の間に挟まった10円玉を穿り出し、又それをもとの隙間に埋めたりする。

毎日焚き火をするのが日課で、画壇の仙人と言われている…とTV番組のナレーターが言っている。

そう言えば、駅までモリさんを見たって人がいるんだよな…、モリさんが自転車乗っているのを見たことがある!あれいつだったっけな?とテレビの前に集まっていた来客が雑談をするので、恥ずかしいから滅多に外に出ないで下さいねと秀子がモリに言い聞かす。

モリはつまらなそうに下駄を履き、庭に降りると、そのまま門を出て家の前の道を歩き出す。

家の周囲の壁には「この自然を守れ」とか「小宮建設を許すな」と書かれた立て看板がいくつも貼ってあった。

ふと脇道を見たモリは、そこに学校帰りの女子小学生が不機嫌そうな顔で立っているのを見て、慌てて家に戻ると、門側の腰掛けに座り、荒い息を鎮めようとパイプでタバコを吸い始める。

昼食前、台所でうどんを大量に茹でている側で秀子が長ネギを切っていると、近所の主婦が勝手口から顔を覗かせ、家の人いる?これ作り過ぎちゃったんで持って来たんだけどと鍋に入れたカレーを持って来る。

今日はうどんなんだけど…と美恵ちゃんが教えると、主婦は困っちゃった、これどうしよう?と鍋を持って困惑する。

結局、その日の昼食はカレーうどんになるが、来客たちと一緒に食べ始めたモリは、箸でうどんがうまく掴めず全く口に入らなかった。

挙げ句の果て、丼を持ち上げうどんごと啜ろうとするのでうどんが胸元から垂れてしまったので慌てて秀子が拭きに来る。

食後、来客たちは、そう言えば最近ハゲ注どうしたんだろう?などと雑談が始まる。

ハゲ注好きだったのに…、荒井注のことだよ、志村けんね〜…などとドリフの話題なので、顔で言ったら長さん好きかも…などと美恵ちゃんが言いだしたので、全員驚く。

俺体操やってたんで分かるんだけど、仲本工事は本物だよ、フィニッシュポーズで分かるんだなどとアロハ姿の客が言い出す。

その時電話がかかって来たので、美恵ちゃんが出て、秀子が変わると、主人に聞いてみますと答え、あなた、文化功労なんとかと言う所からなんですけど、国から文化勲章を頂けるそうなんですけど、どうします?とモリに聞くので、それを聞いた来客たちは全員仰天する。

しかしモリは、良い…、そんなもんもらったら人が一杯来ちゃうよ、袴は来たくないと答えたので、すみません、いらないそうですと秀子は電話口で答え切ってしまう。 電話をかけた職員(嶋田久作)は唖然とする。

モリは、カレーとうどんを一緒にするな!と文句を言うので、知りませんよ、私は…と秀子は答える。

すると、背後で聞いていた来客たちの頭上から金だらいが落ちて来る。 その後、秀子は、庭で寝転び蟻を見ながら、分っからないな〜、ちくしょー!とぼやいている加島を見つける。

座敷では藤田のカメラを手に取りながら、しかし写真屋って去ぬみたいだな、上からや横から覗き込んだり、腹這いになったり…、あれおかしいな…と言うので、藤田は、先生、私、夜うなされるんです、夢の中に先生が出て来て、下手な写真を撮るなって叱られるんですと打ち明ける。

するとモリは、勝手に人を夢に出すな!と文句を言いながらいきなり藤田の写真を撮ろうとカメラを向けたので、藤田は慌ててそんなモリの姿を写真に写す。

モリの家から帰る藤田に、藤田さん、明日も行くんですか?と機材を抱えて付いて来た加島が聞く。

だったら何だよ?と藤田が答えると、俺、明日も来ていいですか?と加島が言うので、長ズボン履いて来いよと藤田は答える。

ある日の午後、モリはいつものように庭の小道に筵を敷き寝ていると、どこからともなく工事の騒音が聞こえて来て目を開ける。

家の中の鳥籠の鳥も騒音で暴れ出す。

そして玄関には、マンションのオーナーの水島(吹越満)が現場監督の岩谷(青木崇高)を連れやって来て、ご主人はご在宅でしょうか?と言うので、主人はあいにく今出掛けておりますと素っ気なく答えた秀子がすぐにとを閉めようとするので、その戸を強引に開け、いつ頃お戻りでしょうか?と水島が聞くと、今日は帰って来ないんじゃないでしょうか?と言いながら、又秀子は戸を閉めようとする。

それを又こじ開け、奥さんでも…と水島は粘るが、私はちょっと…と秀子は目を合わせようとしない。 結局、水島と岩谷は上がり込み、モリの帰りを待つことになるが、水島が煙草を取り出し、灰皿を探すと、タンスの横に小さく身を潜めていた秀子が、後ろに豚が…と言う。 豚の形の蚊取り線香入れのことだと気づいた水島はそれを灰皿代わりにする。

今日はちょっと話したい事があって来たんですけど、この家の回りにおかしな看板が立ってますよね?あれって困るんですよね、回りの目もありますし…と水島が切り出したので、でもあれは絵描きの若い人が好きでやっていることなので…と秀子は反論しようとするが、でみマンションの建設は前から決まってましたからと水島は言い返す。

すると秀子は、日当りのことは聞いてませんと呟く。

あれが建つと庭に日が当たらなくなるんです、木や虫が住んでいるんですよね…、虫や鳥や猫が…と秀子が言うので、奥さん、それ本気で言ってらっしゃるんですか?と水島は睨む。

それでも秀子は、この庭は主人の全てやからね〜と秀子がぐずぐす言うので、看板撤去してもらえないと強制的な手段に訴えますよ!と水島は居丈高に出るが、強制的って…、そんなこと自分の口で言ったら良いでしょうと秀子は困惑する。

その時、怖い顔で立ち上がった岩谷は、秀子に向かってトイレはどこですか?と聞く。

廊下の奥だと聞くと、慌ててそこに向かってトイレを開けようとすると、人が入っていたので驚いて戸を閉める。

すいませんと言いながら出て来たのはモリだったので、先生ですよね?と岩谷が聞くと、台所で手を洗いながら違いますと言うので、顔知ってますと岩谷は言う。

失礼!と言い残し、又庭に出ようとするので、変だと思ったんだ、5〜60年も外に出た事ないんですよね?と不在を疑問視していた岩谷は言い、実は先生に見てもらいたい物がありますと言い出した岩谷は、座敷に戻って書類入れの筒を持って来ると、中から一枚の絵を取り出す。

息子のマサルが描きました、颱風だそうです、色々な颱風だそうです…と岩谷が井植は、クレヨンでいくつも丸を並べたような子供の絵だった。

なるほど…と答え、絵を見るモリに、それで家の母ちゃんが言うには、マサルはひょっとすると天才じゃないのかって…、先生のことはなしたら、ぜひ見てもらえって…、俺は絵のこと分からんです、俺としては野球が巧くなってくれれば良いなって思ってるくらいで…、もしマサルが天才だったら、教育を一から見直した方が良いでしょうか?などと岩谷は相談する。

するとモリは、下手です、下手で良いと答えたので、それは喜ぶべきなのか…と岩谷が戸惑うと、上手は先が見えるからつまらないよとモリは言う。

プールで若い男の先生から水泳を習っていた美恵ちゃんは、1人で泳いでいる最中、又右足がつって暴れ出したので、先生やスクール仲間が慌てて集まって来る。

水島は結局モリには会えずじまいで帰ることになり、すぐ戸を閉められたので、何か感じ悪いな〜とぼやきながら岩谷と去って行く。

秀子は、煙草の煙が上がっている窪地の方に、あなた〜!帰りましたよ!と呼びかける。

しかしモリが出て来ないので、自分の方から池の所まで降りて行き、カラス〜何故鳴くの?カラスの勝手でしょう〜♩と志村けんネタを歌う。

毎日色んな人来るもんやが何だかうっとうしいですねと秀子が話しかけると、なあ、ここ埋めようと思うんだがとモリが言い出したので、そうなんですか?もったいないと秀子は驚く。

あれが建つと日が照るのがここだけになるので仕方ないな…とモリは言い、こんな穴どうやって?と秀子が戸惑うと、心当たりが出来たんとモリは言う。

その時、先生!と窪地の上から呼びかけて来たのは帰ったと思っていた岩谷だったので、秀子は慌ててモリの三角帽をかぶり顔を隠す。

穴の大きさを上から眺めた岩谷が、これは凄いな〜…、トラックで5杯くらいでしょうか?しかし良く掘りましたねと感心すると、30年掘りましたから、最初はここに引っ越して来た時に分かったんです、近くの石神井川の魚を放したんだけど、干上がったらまずいから周囲を掘って行くうちに、気付いたらこうですとモリは答える。

降りて良いですか?と許可を得、階段を降りて池の所に来た岩谷は、本当だ!魚がいますよ!どうするんですか、マンションなんか建っちゃったら?と岩谷が聞くので、良く言うわと秀子は呆れる。

その魚、あんたもらって下さい、あなたが建てるんですから責任取って下さい、それを息子さんに描かすと良いとモリは言う。

一瞬戸惑った岩谷だったが、納得したようなので、じゃあ一本締めでとモリは言い出し、モリの音頭で岩谷と手を打ち合う。

プールから帰って来た美恵ちゃんが大量の買い物を持って来たので、痩せた?と秀子は聞く。

何かつい身体使ったらお腹空いちゃって買っちゃったと美恵ちゃんが言うので、呆れた秀子は誰か呼ぶ?若い人…、いかにも食べそうな…、独身の…と秀子が提案すると、独身?と美恵ちゃんは目を輝かせる。

その夜、モリの家の庭先に怪しげな光の集団が入り込んで来る。

それはライトを点けたヘルメットをかぶった建設現場の岩谷の下で働いている人夫たちだった。

その夜は大量の肉と野菜、それにビールや日本酒が振る舞われる。

モリも肉にかじりついていたが、その時、ふと庭の方に目をやると、暗い庭にまた1つライトが近づいて来る。

お〜い!と呼びかけながら庭に降りたモリは、それがいつか座敷に上がり込んでいた見知らぬ男だと気付く。

あれ?あんた…とモリが言うと、今朝は失礼しましたと詫びるので、一緒に食べませんか?とモリは誘う。

いえ…、それよりあの池、宇宙と繋がりました、一緒に行きませんか?と誘う男の頭の光は、額からアンコウのように伸びた身体の一部のようだった。

池のある窪地の下からは怪しげな光が漏れていた。

この庭から広い宇宙へ行きたいと思いませんか?行きましょう!と男が言い、いつの間にかモリの横には旅行鞄が置いてあった。

しかしモリは、いえ結構…、私はここにいますと言うので、何故と男が聞くと、この庭には私が必要なんです、ここで十分、それに旅立つことになったらまた母ちゃんが疲れちゃうから…、それが一番困る…と言うので、分かりましたと答えた男は階段を降りて行く。

モリが手を振って見送ると、男も手を振り返して来る。 気がつくとモリは椅子で目を覚ましていた。

秀子は台所でゴミをビニール袋に詰めていた。 モリに気付いた秀子がお目覚めですか?と聞くと、 みんなは?とモリが言うので、とっくに帰りましたよ、あんなに食べて…と呆れたように秀子は教える。

何だか今日はにぎやかだったなとモリが言うと、お茶淹れましょうか?と秀子は答える。

その後、又2人で碁を始めるが、秀子はいつものように強いので、勝つことばかり考えて…とモリが嫌みを言うと、それはあなたが弱すぎるからですと秀子が言い返す。

もう1度人生繰り返すことで切るとしたらどうするかな?とモリが聞くと、それは嫌だわてん、だって疲れるもん…、あなたは?と秀子が言うので、俺は何度でも生きるよ、今でももっと生きたいんだと答える。

そうですか…と秀子が言うと、生きるのが好きなんだ…と盛りが言うので、また、そうですか…と答えた秀子は、こんなに長く生きちゃって…、うちの子たちはあんなに早く死んじゃって…と呟く。

そして、あんた、学校に行く時間やないですか?と秀子が言うと、そうだな…、みんな画稿なくて良いな…と愚痴りながら、モリは二階の画室に入る。





8時20分を指した懐中時計

門の所では、美恵ちゃんが又表札がなくなっていたので、門柱の所にしゃがみ込んでおり、そこにやって来た郵便配達が、大丈夫かと言うように背中に手を添えると、急に、独身?と美恵ちゃんが聞いて来たので、えっ!と郵便配達は驚く。

いつしかマンションが完成し、入居者募集の垂れ幕が下がっていた。

藤田と加島はそれを知ると、そのマンションに登って、屋上から隣のモリの家と庭を撮影してみることにする。

カメラを下に向けると、家の中から、あなた〜!お客さんですよ!あなた〜!と呼びかけながら秀子が出て来る姿が見える。

美恵ちゃんも離れから姿を見せ、履物を揃える。

カメラが徐々に上空に昇って行く。

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