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三日月童子 三部作 第一篇「剣雲槍ぶすま」

60年代の東映興隆の礎になったとも言われる子供向け中編映画(現代劇と時代劇がある)シリーズ「東映娯楽版」初期のヒット作「新諸国物語 笛吹童子 三部作」(1954年4月27日公開)に登場した大友柳太朗演じる霧の小次郎を主役にした姉妹編の「霧の小次郎 三部作」(1954年8月8日公開)

その「霧の小次郎」に新たに登場した悪の妖術使い三日月童子(東千代之介)を今度は正義の味方の主役にした姉妹編と言うかスピンオフ三部作(1954年10月12日公開)の第一作目が本作らしく、それぞれの三部作が数ヶ月おきに作られたと言うのだから、今の毎週放映されている東映変身ヒーローものに繋がる量産型子供映画の元祖的作品と考えて良いと思う。

少年時代の六助を演じている山手弘さんと言う子役はその後も数年間「東映娯楽版」や東映のプログラムピクチャーに何本も出演しているし、少女時代の千鶴を演じているには人気子役だった松島トモ子さんである。

そして東千代之介さん演じる大人になった三日月太郎は刀を背中に背負った佐々木小次郎風の美剣士。

悪代官を憎々しげに演じているのは「東映娯楽版」を始め、後のTV実写版「悪魔くん」の初代メフィストでもお馴染みの吉田義夫さんで、この作品での悪役振りは型にはまっているとは言え絶品。

三部作の第一部なので単品としてこの作品だけでは評価しにくいが、当時の東映が東宝の怪獣映画と並んで「子供層」と言う新たな客層の鉱脈を掘り当てた様はうかがえる。

筋立てもシンプルな勧善懲悪の復讐譚なのだが、全体的にセットの類いも安っぽく、役者の演技も子供向けと言うことを意識してか、分かりやすさ重視でオーバー目に演じられている。

他愛無い作品と言えばそうなのだが、子供はいつの時代も想像力で話を膨らます力を持っているので、こう云う作品でも胸を躍らせた子もいたはずである。

ファンタジー性としては、一応「笛吹童子」から「霧の小次郎」を経て登場しているレギュラーキャラで、妖術を使う提婆(千石規子)が妖怪と共に登場する。

妖怪は学芸会レベルの衣装に役者がメイクをしたり面をかぶっているだけだし、遠くの山は書き割りの絵と言った稚拙な出来で特撮と言うほどのものでもないが、提婆が主人公の少年を山で育てると言う設定は、親を殺された少年が山の仙人に妖術使いとして育てられ仇を討つと言う「自来也」辺りからの流用ではないかと想像する。

実際、この後の展開は、ライバルの妖術使い黒姫太郎(三條雅也)が大蝦蟇に変身し、三日月童子は大蛇に変身して戦うと言う「自来也」や後の「怪竜大決戦」と同じパターンになるらしい。

と言ってもまだ本格的な着ぐるみなどを作るほどの技術や予算は当時の東映にはなく、大蝦蟇は本当の蛙を使っていたらしい。

おそらく提婆(ダイバ)と言う役名は釈迦の仏敵「提婆達多(ダイバダッタ)」から来たものではないだろうか。

提婆を演じている千石則子さんは白髪のカツラをかぶっているが顔は若々しく老婆と言う感じではない。

又見方を変えれば、黒髪山での修業など「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」でルークがヨーダからフォースを習っているのと全く同じ発想で、提婆が六助の身体を妖術で浮かせたりするのはフォースそのものにしか見えない。

妖術を学ぶには心と身体を鍛えなければいけないなどと言う教えもフォースの修業そっくりだ。

ルーカスがこの作品を参考にした確証はないし、おそらく世界中に似たようなファンタジーがあるのだろうが、その類似性が興味深い。

また本作には、現代劇の野球やTVと言った要素がそのまま洒落として使われているのも子供向けのサービスとして面白い。

予算がかかる東宝の特撮ものが主に海外で稼いだのに対し、東映のこの手の子供映画はとにかく低予算だったので国内だけでも十分利益は大きかったと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1954年、東映、北村寿夫原作、小川正脚色、小沢茂弘監督作品。

笛吹童子や霧の小次郎より少し前の時代の頃ー(海辺の小村を背景に)

出雲の国のある村でー

何!姫を見失ったと!ええい!今一度探して参れ!と岩沼代官所の前で役人たちに怒鳴りつけていたのは代官加々見大五郎(吉田義夫)だった。

その頃、道ばたの花を摘みながら、てんてん小天狗何で泣く〜?♩と歌を歌って森の中に入って行った少女は千鶴(松島トモ子)だった。

歌い終わった千鶴はすぐに数人の山賊どもに捕まってしまう。

助けて〜!と叫ぶ千鶴の声に気付いたのは、弓を引きかけていた少年六助(山手弘)、少女が捕まえられて来たことに気付き、小屋の前に並べてあった泥だんごを手に取り、最初はオーバースローだと言うと近づいて来た山賊の喉元にぶつける。

次はサイドスローだ!次はアンダースローだ!と言いながら、野球の投手宜しく泥玉を次々と山賊の顔に当てて行く。

怒った山賊たちは、小僧!と叫びながら六助を捕まえようと迫って来るが、足の速い六助はアカンベエをしながら森の中を逃げて行く。

やがて山賊たちは1人ずつおとし穴に落ちて行ったので、六助はまたアカンベエをし、やあい、ざまあ見ろ!と手拍子を打って喜ぶ。

千鶴の側に近づいた六助がどうもなかったかい?と聞くと、うん、どうもありがとうと千鶴は礼を言い、あなた、だ〜れ?と無邪気に聞く。

俺か?俺、六助と言うんだと六助が教え、お前は?と聞くと、千鶴と少女も答える。

ふ〜ん千鶴?侍の子みたいな名前だなと六助が面白がると、侍の子なら嫌なの?と千鶴が言うので、ううん、嫌じゃない…とちょっと考えた六助は、うちへ行かないか?お蝶と言う妹もいるんだ、行って一緒に遊ぼう!とは誘う。

千鶴は喜んで、ええ、行くわと言うので、2人は六助の家に行く。 お蝶!お蝶!いないか?と六助が外から呼びかけると、両親の五兵衛(高松錦之助)とお静(山田光子)と家の中にいたお蝶(香山喜代子)が立ち上がり外にいた兄と千鶴と出会う。

3人で遊ぼう!と六助が呼びかけた時、お嬢様!こんな所に!と千鶴に声をかけて来たのは代官所の役人たちと共に探しに来た女だった。

その時、やい小倅!代官様のお嬢様と無礼であろう!頭が高い!下がれ!と役人の1人が前に出て六助を叱りつけ、六助を捕まえて投げ飛ばしたので、あっ!と千鶴は驚くが、そんな千鶴が嫌がるのを役人たちは無理に連れ帰ろうとする。

それを見ていたお蝶が家の中に駆け込み、女2人が、嫌、嫌!六助さん、助けて〜!と叫びながら運ばれて行くのを見た六助は、畜生!と言いながら立ち上がると、代官の子と玉造りの子とどこが違うんだ!同じ人間が遊んでどこが悪いんだ?と役人に問いかける。

すると、玉造り?さてはここは玉造り五兵衛の家か?とその言葉を聞きとがめた役人は、家の前に出て来た五兵衛とお静に問いかけ、これを召し捕れ!と従者たちに命じる。

家の前で捕まった五兵衛は、逃げろ!早く逃げろ!と腰を抜かした六助に命じる。 こ

れで代官様から褒美は思いのままだと命じた役人はほくそ笑むみ、五兵衛を縛らせる。

その間、従者は父を助けようとする六助を棒で押さえつけていた。

代官屋敷に連れて来られた五兵衛は、五兵衛!お前は千鶴を奪って殺そうとしていたそうだな?と加々見大五郎からとんでもないことを聞かれたので、滅相もない、倅が千鶴様をお助け申し…と言い返すと、黙れ!つべこべ申すな!貴様は死刑だ!と加々見がいきなり言い渡したので驚愕する。

すると加々見は、それともかねてより所望の「白鳥の珠」素直にこの代官加々見大五郎に差し出すか?差し出せば千鶴誘拐の件は無罪にしてやる、さあどっちだ?返答次第で命がなくなるんだ…と無茶な交換条件を突きつけて来る。

五兵衛が黙ったままなので、返事をしろ、返事を!と加々見は苛立つが、そのような物は知りませんと五兵衛は答える。

加々見は黙れ!その方が持っているのは良く分かっているんだ!「白鳥の珠」を持って逃げ歩いているその方をどれほど探したか分からんのか!と睨みつけて来る。

それを聞いた五兵衛が、いかなる理由でそれほどまでして「白鳥の珠」を?と聞くと、都の将軍様が殊の外のご所望、さあどうぞと差し出せば、我が身の出世は思いのまま…、どうじゃ五兵衛、素直に寄越せ…、悪うはせんぞ…と加々見は懐柔しようとする。

さては代々我家に伝わる「白鳥の珠」を横取りしようと、井のない所に井を据えての無理難題…と五兵衛が気付き、う〜ん…、打て!打つなら打て!と自ら声を挙げる。

今こそ世を隠れ、しがない玉造りに身を落としたとは言え、元を正せば…と言いかけた五兵衛を、庭先に降りて来た加々見は先を言わすまいと鞭打ち始める。

五兵衛が気絶すると、加々見はこやつを牢へぶち込んでおけ!と命じる。

その後、五兵衛の家にやって来た加々見は、お静を突き飛ばし家捜しを始める。

やがて1人の役人がありました!と差し出した白い陶器を見た加々見が、これだ、これだ!と喜ぶので、お静はそれだけは返して!と取り返そうとするが、押しのけた加々見はうるさい!と叱りつけ、泥棒!と言いながらさらにしがみついて来たお静を、面倒だと言うなり、六助とお蝶の目の前で刺し殺してしまう。

お母ちゃん!と2人の兄妹はお静にすがりつくが、六助は気丈にも、その珠を返せ!と加々見につかみ掛かる。

わっぱ、放せ!と振り放そうとした加々見だったが、六助はその加々見の右腕に噛み付く。

加々見は小刀を抜き、六助の左掌を柱に突き刺し、わっぱ、それでも動けるか?悔しかったらいつでも来いと言い残し、引き上げろ!と役人たちに命じる。 六助は自ら左手を串刺しにした小柄を抜き、立ち去る加々見に斬り掛かろうとするがあっさり役人に突き飛ばされてしまう。

六助はこの手裏剣は預かっとく!覚えてろ!と叫ぶが、お蝶は亡くなった母のお静にすがりついたまま泣いていた。

家から帰って行く役人たちを見送った六助は、お母さん!とお静にすがりつきながらも、泣くな!この仇はきっと取ってやる!取らずにおく物か!と妹のお蝶に言い聞かせるのだった。


そこに騒ぎに気付いた名主幸右衛門(飯田覚三)と近所の者達が集まって来て、このままここにいては危ない、いつ殺されるか分からん、どこかに身を隠さなければ…と、幼い兄妹に声をかける。

代官所に戻って来た加々見は呼び集めた玉造り職人たちを前に、貴様たち、玉造りを商売にしていながら、1人もこの白鳥の珠が磨けんと申すか!と叱りつけていた。

すると庭先に座した玉造り職人の1人が、はい、この珠は、五兵衛以外には磨けませんと恐縮して答える。

やむを得ず牢から出された五兵衛にこの珠を磨け!と命じる加々見に、その珠は!と驚くと、心配するな、正真正銘、貴様の家から奪って来た「白鳥の珠」だと加々見は嘲る。

奪って来た?と五兵衛が驚くと、この村の物はみんなこの代官の物だと加々見は言い張る。

してお静は?と五兵衛が聞くと、女房か?邪魔立て致したので斬って捨てたと加々見が答えたので五兵衛は驚き、六助とお蝶は?と聞くと、あの小童たちか?あいつらはもう逃げてしまってもうおらぬわと加々見が言い哄笑したので、その隙を狙い「白鳥の珠」を奪い取った五兵衛はその場に叩き付けて壊してしまう。

怒った加々見は鞭で五兵衛を打つが、打とうとて殺そうとて死生はこの世に留らんぞ!加々見大五郎〜!と五兵衛は叫ぶ。

その後加々見は、牢に入れていた玉造り職人たちに、どうだ?「白鳥の珠」は出来たか?と聞くと、はい、大中小、色々と作りましてござりますると言い、それぞれ出来上がった「白鳥の珠」を差し出すが、何だ、これは!と怒った加々見はその場で受け取った珠を床に叩き落として壊してしまう。

ひれ伏した玉造り職人は「白鳥の珠」は世にも不思議な力を持つ珠、とても五兵衛でなければ作れませぬと言い訳する。

やむなく牢から五兵衛を引き出した加々見は、貴様「白鳥の珠」を作れ!作らぬうちは、例え10年が20年、何年経ってもこの牢からは出られんぞ!分かったな?分かったら素直に作れ、褒美は望み次第!と命じる。

すると五兵衛は、作る…、きっと作る!倅の六助に白鳥動物精を伝えるためにきっと作る、六助よ、お蝶よ!達者でいてくれ〜!と念じる。

家来たちに天井から吊るした大きな内輪を仰がせ、座敷に横たわりブドウを食べながら女に腕をもませていた加々見の所にやって来た別の女が、千鶴には困ったものです、六助の所に遊びに行きたい、行きたいと聞かないのですと報告する。

すると寝そべっていた加々見は、お前、千鶴に勝手な真似をさせてはならん、あいつは大事な出世の種、捨て子を拾って今まで育てたのは俺の出世の糸口にしようと思えばこそだ…と言いながら起き上がる。

「白鳥の珠」のことと言い、千鶴のことと言い、返す返すも俺の出世の邪魔をする憎い六助兄妹め!草の根を分けても探し出し、殺してやる!と加々見は吐き捨てる。

その頃六助は「しづの墓」と書かれた山の中の母親の墓に手を合わせ、お母さん!と呼びかけていた。

そして近くに座ると、今に見ていろ加々見大五郎!きっと貴様を倒してみせるぞ!と復讐を誓うのだった。

そんなある日、六助とお蝶を匿っていた名主幸右衛門の家に加々見が家来と居所を白状させた近在の夫婦を捕まえてやって来て、貴様俺を裏切ったなと睨みつける。

ここはわしが引き受ける、良いか、命の続く限り逃げ延びるんだぞ!と幸右衛門は六助とお蝶に言い聞かせ、その場から逃がす。

何をしとる?こいつらを絡めとれ!と加々見は命じ、役人どもが幸右衛門に近づくと、幸右衛門は剣を抜いて抵抗し出す。

加々見が六助に近づくと、六助は地面の砂を加々見の顔に浴びせかける。

幸右衛門が子供たちを守ろうと加々見を押し倒すと、怒り狂った加々見は立ち上がり様、役人が持っていた槍を使い、幸右衛門の剣を払って腹に突き刺す。

それでも幸右衛門は逃げろ!と叫んだので、はいっ!と答えた兄妹はその場から逃げ出すが、すぐに断崖絶壁に追い込まれる。

槍を持った加々見と役人たちが迫る中、捕まえようとした役人の手を振り払おうと暴れたお蝶は崖から真っ逆さまに落下してしまう。

それを見た六助は、お蝶!お蝶!と崖の下を見ながら呼びかけるが、そこに加々見が笑いながら槍で突いて来る。

近くの木に六助の袖を突き刺して動きを封じた加々見は、薄笑いを浮かべながら剣を抜き、斬り掛かろうとしたその時、一天にわかにかき曇り、雷鳴が轟き出したので、加々見たちは一斉に腰を抜かす。

そこに笑いながら姿を現したのは提婆(千石規子)で、六助を助けると加々見に向かって、こら!と一声残して姿を消す。

周囲が再び明るくなると提婆と六助は雲に乗って空を飛んでいたので、返せ!と加々見たちは空に向かって呼びかけるが、提婆が笑って飛び去って行ったので山の上で悔しがる。

黒髪山

傘お化けなど奇妙な妖怪が住む自宅に連れて来た提婆は六助を見て、お前はなかなか可愛い子じゃと褒める。

頭も良さそうだし、それに元気がある…、わしが見た目に狂いはない!おい六助、お前はこれからわしの子供になるんじゃぞと提婆は言い出したので、六助は驚く。

おババ、どうしてわしの名を知っているんだ?おババは一体誰だ?で、ここはどこだ?と六助が問うと、ここは黒髪山じゃ、わしは提婆(ダイバ)じゃ、わしが妖術を使えば何でも出来る、何でも分かるのじゃと提婆は答える。

妖術?さっきわしを助けたのも妖術か?と六助が聞くと提婆は頷き、そうじゃ妖術を使えば何でも思いのままじゃと答える。

そんな不思議なことが本当にできるのか?夢ではないかな?と六助が疑い、自分の頬をつねってみると痛かったので現実のことだと知る。

夢ではないと笑った提婆は、さあ、この刀でな、その化物に立ち向かってみよと刀を手渡し指示して来る。

そして、えいっ!と気合いとともに棒を出現させた提婆は、それを側に座っていた1人の妖怪に投げ渡す。

するとその妖怪ははいと返事し立ち上がったので、六助は鞘を抜いてその妖怪に立ち向かう。

六助が気合いとともに斬り掛かると妖怪は姿を消してしまう。

周囲を探していた六助の背後に急に姿を現した妖怪が頭を棒で殴って来る。

妖怪が笑って来たので、六助はさらに斬り掛かるが、妖怪は又ジャンプして姿を消してしまう。

何度かこうした攻防が続くが、よいよい、お前はそのくらいにしておけと提婆が妖怪に声をかけ、こんなことはな、まだほんの小手調べじゃと六助に言い聞かせる。

どうだ、もっと見たいか?と提婆が言うので、はい、もっともっと見たいですと六助は素直に答える。 そうか、よしよしと頷いた提婆は、そっちへお行きと六助に指示する。

そして提婆がえいっ!と念じると、六助の身体が浮き上がったので、おババ!身体が浮いてしまった!おババ、助けてくれ〜!と六助は慌てる。

それを見て笑いながら、えいっ!と提婆が念じると、六助の身体は地上に降りる。

あっけにとられていた六助に、驚いたか?こんな術は初歩の初の字だ、術の奥義を使えば千人の侍、1つの城くらいおババのふっと吐く息1つですっ飛んでしまうのじゃと提婆は言う。

じゃあ剣術は役に立たないのですか?と六助が聞くと、剣術?剣術使いの10人や20人、おババのこの杖1本できりきり舞いじゃと提婆は苦笑する。

そして小屋の中に六助を招き入れた提婆は、お前に良いものを見せてやると言い、TVそっくりの家具のようなものを見せる。

おババがスイッチを入れると、崖下の河原に墜落していたお蝶の姿が映し出されたので、あ、お蝶!と六助は叫ぶが、TV画面の中では、倒れていたお蝶に気付いた旅芸人の大人たちが駆け寄り抱いて運んで行くのが見えた。

まだ生きてる!と言う男の声が聞こえた所でスイッチを消した提婆は、これはな、「万里の鏡」と言ってな、何でも分かる鏡じゃ、驚いたか?と言うので、はい、おババ、妖術を教えて下さい、妖術を覚えて代官加々見大五郎を討ちたいのですと六助は正座をして願い出る。

うんよしよし、そんなに気に入ったのならわしが教えてやるぞと提婆が承知したので、教えて下さいますか!と六助は喜ぶ。

だがな六助、お前の父親の五兵衛が今、牢屋の中で作っている「白鳥の珠」を将来必ずおババの元へ持って来るか?持って来ると約束するなら妖術は教えてやる、持って来ないと言うなら教えない、どっちだ?と提婆が言い出したので、六助は返事に窮する。

そして、おババ、どうしてそんなにみんなが「白鳥の珠」を欲しがるんです?と六助が問いかけると「白鳥の珠」には不思議な力があるからじゃと提婆は言う。

あの珠を持てば何でも出来る、何が来ても怖くはない、例え妖術使いのこの提婆でも寿命が来たなら死なねばならん…、ところがじゃ、あの珠さえ手に入れば万年でも生きられるのじゃ、あの玉はわしにとっては不老不死の妙薬なのじゃと提婆は説明する。

それを聞いた六助は、おババ、妖術を教えて下さい、どんなことでも言う事を聞きます、お願いしますと手をついて丁寧に頼んだので、良し、しかと約束したぞと言いながら提婆は立ち上がる。 約束を破ったら承知しないぞと提婆が念を押すと、はいと六助は答える。

よしよし、良いかな六助、まず妖術を習うには心を鍛えねばならん、それに身体も鍛えなければとても立派な妖術使いにはなれんと提婆は言い聞かせる。

はいと六助が答えると、これから毎日滝壺に行って水を浴びるのじゃと提婆は命じる。

翌日から滝壺で水を浴びた六助は一旦地面に上がってラジオ体操を始め、その後又滝壺に入ると言う修業を続ける。

その後一人で姿を消す妖術の練習を始めた六助だったが一向に消えず、笑いながら姿を現した提婆がそんなことでは術はかからん、お前も滝で大分修業をしたようだから、ではぼつぼつ印の結び方から教えてやろうと言うので、六助は喜び、はい、お願いしますと立ち上がって頭を下げる。

まず手はな、こうするのじゃと良いながら提婆が自らやって見せ、六助の手の形の間違いを訂正してやり、そして呪文を唱えるのじゃと指導する。

トンチキララスポポン…と六助が呪文を繰り返すと、呪文が違う、良く聞いて覚えるのじゃと提婆は叱りつけ、トンチキララスポポンオトコナラドンドン!と正しい呪文を教える。

すると六助が大きな声で復誦したので、そんな大きな声を出したらみんなに覚えられてしまうではないか、心の中で唱えるのじゃと提婆は注意し、自ら姿を消してみせる。

それを見た六助は、今度は俺の番だと言い呪文を心の中で念じると、足の方から姿が消え始めるが、おなかの辺りで止まってしまったので、あれ?半分しか消えないぞ、おかしいな?と六助が戸惑うと、又間違えた!と側から提婆の声だけが聞こえて来る。

はいと答え、もう一度念を入れ直してみると、六助の身体も完全に消える。

見ろ、できたじゃないかと姿を現した提婆が言うと、おババ!元の姿に戻らん!返してくれ〜!助けてくれ〜!と慌てた六助の声が聞こえて来たので、提婆は持っていた杖を気合いと共に地面に叩き付けると、六助の姿は元に戻る。

やった〜、おババ!妖術が使えたぞ〜!と六助は提婆の周りを回りながら大喜びする。

妖怪たちとの試合でも六助は姿を消す術を使い徐々に勝つようになって行く。

烏天狗の背後に姿を現した六助は、烏天狗の後頭部を棒で叩くまでになる。

そうした六助の成長振りを提婆はうれしそうに見守っていた。

やがて食事中、提婆の持った茶碗を浮かし自分の方へ運ぶ術まで使ってみせるので、覚えの良い子じゃ、みっちり仕込んでやるぞと提婆は感心するようになる。

それから10年ー 六助は立派な妖術使いに成長し三日月童子と呼ばれるようになったー

背中に三日月模様の羽織を来たその美剣士の左手には加賀美から刺された三日月の傷が残っていた。

この10年の間にお前も随分強くなったものじゃと提婆はしみじみ語りかける。

これで黒姫太郎にさえ勝ちさえすれば日本一じゃと提婆が言うので、黒姫太郎ってそんなに強いのか?と三日月丸は聞く。

うん…、何でもあいつは聞く所によると出雲の国の悪領主加々見山城守の用心棒になっていると言う噂じゃ、腸の腐った妖術使いじゃ…と提婆は言う。

ババ、加々見山城守って加々見大五郎のことか?と三日月童子が聞くと、そうじゃと言うので、では黒姫太郎をやっつけなければ仇の大五郎は討てないのだな?と察する。

俺はきっと黒姫太郎をやっつけずにはおかん、きっと負かせてみせるぞ!と三日月童子は誓う。

その時、提婆が山の様子を見るために「万里の鏡」を付けると山道を登って来る人影が見えたので、ババ、又武者修行がやって来たな、今度こそそん問うに黒姫太郎かもしれんぞと三日月童子は笑う。

三日月童子の元にやって来た武者が、やあやあ、今噂に高い三日月童子とはお前か!術比べに来た!と狼狽を隠すように大声で呼びかけて来たので、お前は黒姫太郎か?と問いかけると、違うわ違うわ、俺様は耳鳴山の地割れの寛太やと言うので、そんな三流妖術使いに用はないと三日月太郎はバカにする。

けっ、生意気な!と寛太が言うので、俺が会いたいのは黒姫太郎だと言いながらその場を立ち去ろうとする三日月童子だったが、待て!と寛太が追うと、突然姿を消して別の場所に現れた三日月童子は、えいっ!と念じるや否や分身の術で姿を増やす。

さらに三日月童子が念を入れると、飛んで来た縄が勝手に寛太を縛ってしまう。

分身の術を解き元の姿に戻った三日月童子は笑いながらそれっ!と声をかけると、妖怪たちが寛太の身体を振り回し、遠くの空へ投げ飛ばしてしまう。

その後三日月童子が、おババ、父はどうしているか「万里の鏡」で見せてくれぬか?と頼むので、良しと答えた提婆がスイッチを入れると、代官屋敷の中の牢で白髪姿になった五兵衛がいまだに「白鳥の珠」を作っていた。

それを見た三日月童子は、お気の毒な…と落ち込むが、提婆は、うん、「白鳥の珠」も大分出来上がっておるな…、もう一息じゃと答えたので、なあおババ、妹のお蝶はどうなっているか分からんかな?と三日月童子は尋ねる。

うん、旅芸人に助けられたと言う所までは分かっているが…、それから先はどうなったかな〜?と提婆の返事はあいまいだった。

「万里の鏡」のスイッチを入れてみた提婆だったが、絵が浮かび上がらないので、おかしいな?誰かが邪魔をしているらしい…、こんな邪魔が出来るのは黒姫太郎の他にはない…、お蝶は何か、黒姫太郎に関わりがあるらしいな…と呟き、もう良いじゃろうと良いながらスイッチを消そうとするので、待ってくれ、おババ、もう一つ見せてくれと三日月童子は頼む。

何じゃ?と聞くと提婆に、大五郎の娘の千鶴がどうなっているか見せてくれと三日月童子は恥ずかしそうに頼む。

うるさいな…とぼやきながらも提婆はチャンネルを切り替えてくれたので、侍女たちと遊ぶ美しい娘に成長した千鶴(千原しのぶ)の姿が画面に映る。

千鶴殿…と三日月童子が呼びかけるが、もう良いじゃろうと言い、提婆はスイッチを切ってしまう。

その時三日月童子は、なあおババ、俺を出雲の国にやらしてくれぬかと提婆に頼む。 父も助けたいし妹も探したい…、そして仇も討ちたいと三日月童子が申し出ると、それにしても出雲には黒姫太郎がいるぞと提婆は忠告する。

すると三日月童子は、俺はどうしても黒姫太郎と勝負をしたいのだ、この山で待っていても黒姫太郎はさっぱりやって来ない、だからこっちから行って勝負をするのだ、やってくれぬか?妖術修業のためだと言う。

う〜ん…、仕方あるまい、だがな童子よ、あいつの持っているされこうべの面には気を付けろよと提婆は言い聞かす。

何!されこうべの面?と三日月童子が驚くと、うん、あの面を向けられると術がかからないんじゃと提婆は言う。

う〜ん…と考え込んだ三日月童子だったが、な〜に大丈夫だ、そんな面の1つくらい…、ババ、心配するなと答える。

その後、剣を背中に背負った三日月童子は、では行って参りますと妖怪に囲まれた提婆に挨拶をして出発しようとすると、くれぐれも「白鳥の珠」を忘れる出ないぞと提婆は念を押して来る。

はいと三日月童子が答えると、10年可愛がって妖術を教えたお前じゃ、よもや心変わりをするとは思わない、もし裏切ったら承知しないぞとた提婆がしつこく言うので、ババ分かった、じゃあ行って来ると三日月童子は答え、気合いもろとも姿を消す。

手を振りながら山道の途中で姿を現した三日月童子は、山道の途中で立ち止まって風景を眺めていた童子をじろじろ見つめる武者に出会ったので、名のある武芸者とお見受けする、御貴殿の名を承りたいと聞くと、黒姫太郎だ!と言うので、何!黒姫太郎だと?と驚く。

そうだ、そう云うお前は誰だ?と黒姫太郎が聞いて来たので、黒髪山の三日月童子だと答え、会いたかったぞ黒姫太郎、さあ一手勝負しようと呼びかける。

すると哄笑した太郎は、三日月童子だと?こしゃくな、来い!と良いながら背中の刀を抜いたので、童子の方も刀を抜く。

太郎が斬り掛かると瞬時に姿を消した童子は、次の瞬間道横の崖の上に姿を現して笑うので、降りて来い!と太郎は苛立つ。

くせ者、降りて来い!と太郎が呼びかけるので、良し!と答えた童子は再び姿を消し、側にあった大きな岩を下に転がすと、あっけなく黒姫太郎は押しつぶされてしまう。

大きな岩は童子が変身したもので、元に戻った童子が相手の身体を押さえ込みながら、黒姫太郎、お前は何と弱いんだ、どうだ、参ったか?と呆れると、参った、三日月童子、助けてくれ、お前本物の三日月童子だったのか?参ったな、助けてくれ〜と黒姫太郎を名乗った男は悲鳴をあげる。

それではお前は本物ではないのか?と童子が聞くと、あんまり黒姫太郎の評判が高いもんだから…と言うので、一体お前は誰だ?と童子は相手を引き起こしながら聞く。

すると男はムササビ寛太と言うものだと言うので、で、黒姫太郎は今どこにいる?と聞くと、松江の城の用心棒だ、大した羽振りだ、出没自在だからいつもどこにいるか分からんと寛太は答える。 そうか…と童子は諦めて立ち上がる。

その頃、加賀美は外で酒宴を開いていた。

雲に乗って出雲にやって来た童子は、下界を見下ろし、あれは正しく加々見大五郎!有り難や天の助け!と言い、手を上げてえいっ!と念ずる。

すると加賀美が持っていた盃が宙に浮いたので加賀美は驚く。 その直後、地上に三日月童子が出現したので取り巻きの家来たちは声を挙げる。

無礼者め、何者だ!と加賀美が誰何すると、会いたかったぞ、加々見大五郎!と童子が呼びかけると、何?加々見大五郎とは遠い昔のこと、今は当松江の城主、加賀美山城守だ!控えろ!と加賀美は答える。

しかし童子は、うるさい、加々見大五郎!汝のために母を討たれ、父を奪われた玉造五兵衛 の遺児六助をよもや忘れてはおるまい?と呼びかけたので、何、六助?あの小倅か…と加賀美は驚く。

いかにも、六助と申したは遠い昔のこと、今は天下に隠れもない黒髪山の三日月童子だ!重なる恨み、汝の首を貰い受ける!覚悟しろ!と童子が呼びかけると、加賀美は、ええい!者共かかれ!と家来に命じる。

家来たちは童子にかかって行くが、妖術であっという間に全員動けなくなってしまう。

そして加賀美を捕まえた童子は妖術できりきり舞いさせた上に、エアビンタで加賀美の頬を殴りつける。

そして腰を抜かした加賀美に対し、背中の刀を抜こうとした童子だったが、何故か身体が動かなくなってしまう。

その時、笑い声とともにされこうべの面を持って姿を現したのが本物の黒姫太郎(三条雅也)だった。

何奴だ?と童子が聞くと、どうだ?三日月童子、悔しいか?悔しくても術が効くまい?このされこうべの面がある限り貴様の術は効かんのだと言いながら黒姫太郎は近づいて来る。

さては貴様、黒姫太郎か?と童子が問いかけると、いかにも、俺は黒姫太郎だと相手は答える。 そして太郎が、えいっ!と念を送ると、周囲で動けなくなっていた家来たちが一斉に動き出し、刀を向けて来る。

俺が山城守の用心棒をしている間はお前なんかに指一本刺させはせんぞ、とっとと尻尾を巻いて黒髪山に帰れ!と太郎は言う。

どうしても帰らんと言うならお前の命はもらうがどうだ?と太郎が迫るので、童子は背中の刀を握ったまま、畜生と呻く。

加賀美が、こいつを捕まえてしまえと命じると、家来たちが童子に飛びかかりあっさり捕まえてしまう。

杭に縛られた三日月童子めがけ、家来たちが槍を投げて来る。

黒髪山の小屋の中でアイスクリームを食べていた提婆が三日月童子は今頃どうしているかな?と思い出し、「万里の鏡」のスイッチを入れてみると杭に縛られた三日月童子に次々と槍が飛んで来ている所だった。

こりゃ一大事じゃと驚いて立ち上がった提婆はアイスを飲み込み、杖を持って地面を打ち姿を消す。

童子は家来たちに取り囲まれ槍の的にされていたが、提婆は雲に乗って出雲へ急いでいた。

それを見物しながら酒を飲んでいた加賀美は、次はいよいよとどめの槍だと言うと立ち上がり、自ら槍を受け取り、一刺しにしてやると言うと槍を構えるのだった。
 


 

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