白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

顔役('58)

佐田啓二さんと伴淳主演の一種「詐欺師もの」なのだが、驚くべきは二重のトリックが仕込んであり、片方は比較的観客が気付きやすそうに描いてあるので、それが「引っかけ」になって、もう一つの種明かしにあっと言わせられる仕掛けになっている。

つまり作品自体が「観客をカモにしている作品」なのだ。

分かりやすいトリックの方は、佐田啓二さんが二枚目から悪役を演じ出した時期の作品らしいことから、おそらくこれは詐欺なんだろうと観客は比較的始めの方から気付くような気がする。

とは言え、こちらも巧妙で、途中で完全に手口を見抜く人は少ないのではないかと思う。

そして、もう一方の詐欺は全く気付きさえしなかった。

佐田さんはいかにもうさん臭そうな演技をしているので、そちらに観客の目が向くように計算されていることが分かるし、もう1人は当時の知名度で何故こんな地味な役を演じているんだろう?とか、役の年齢が若過ぎじゃないのか?と言った辺りが気になると言えば気になったが、オチが分かってみれば、全ては伏線だったことが分かる。

さらにこの作品が粋なのは、被害者が泣き寝入りするような後味の悪さがなく、むしろ清々しいラストになっている点である。

雨降って地固まると言うか、被害者には反省すべき部分は反省させ、なおかつそこから新たな一歩を踏み出させる展開になっているのだ。

山形、米沢、上山などでロケを敢行しており、大木実の演説シーンやラストのパレードのシーンなどはエキストラももの凄い数繰り出しており、地味な内容に見えて全体的に安っぽさはない。

伴淳の奥方を演じている沢村貞子さんは、眉毛を下げたおどけたメイクであか抜けない地方の純朴そうな女性を良く演じているし、淡路恵子さんや桂小金治さん、途中から参加の内田良平さんと云った脇役陣も堅実。

東京から応援演説に来た議員役を演じているのは菅原通済さんと云う、この時期の松竹映画に時々出ている方だが、役者が本業の方ではなかったらしくセリフなどは元々ほとんどないケースが多いのだが、本作では演説と言うことで比較的言葉数が多いのが珍しい。

映画全盛期の松竹作品の実力が垣間見えるような良作である。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1958年、松竹、北条秀司原作、椎名利夫脚色、中村登監督作品。

七夕飾りをバックにタイトル

電車で読んでいた泉川(佐田啓二)の膝の上の新聞に、向いの席の学生輪島一夫(石浜朗)が網棚に荷物を置く途中、登山用具の1つが転げ落ちてしまったので詫びて来る。

登山かい?お国は?と泉川が話しかけると、山形ですと一夫が答えたので、僕も事業でも始めようと思っているので一緒に降りようかな…と言い出す。

山形駅 駅前で一夫を出迎えたのは叔母の波代(淡路恵子)と使用人で三助の角造(桂小金治)だった。 そんな一夫に、今夜は市長と会うんで、時間があったら寄らせてもらうよと声をかけタクシーに乗り込む泉川を見た波代が誰、あの人?と聞くと、大学の先輩、代議士の秘書やってたんだって…と列車の中で聞いたことを一夫は教える。

駅からの帰り道、街灯の所に来た波代は、これよ、兄さんの提案でこの防犯灯が付いたんで、今お祝いやっているのと一夫に伝える。

その頃、一夫の父輪島八十吉(伴淳三郎)は、来賓で埋め尽くされた警察署内の庭先で警察署長から旅籠町防犯灯設置提唱の功労者として表彰状を受け取っていた。

その後、八十吉の家で、今正に祝賀会をやっていた「輪島湯」に警察署から車が到着し、署長らも宴会に出席する。

そんな中、若旦那さんにお客さんですと女将のさと(沢村貞子)に女中が連絡に来る。

泉川と言う人だと聞いたさとは聞いたことがなかった。

一夫は河原でスケッチをしていたが、そこに女中が知らせに来る。

一夫の部屋で待っていた泉川に挨拶に来たのは波代で、一夫の叔母でございますと言うと、お姉さんかと思ったと泉川は世辞を言う。

そこにさとと共に一夫が帰って来て、母ですとさとを紹介する。

さとは今下で祝賀会をやっており、うちの人が是非来らっしゃい言うとりますので…と泉川に勧めると、一応遠慮しながらも泉川も下へ降りることにする。

下では近隣の客も含め飲み食いをやっており、そんな中で八十吉は、現状大人1人15円の入浴料を12円にすることを決心したと演説していた。

浴場組合は大丈夫かの心配の声には、あれこれ言われたら脱退するだけ!と八十吉の鼻息は荒かった。

それを聞いた泉川は初対面の挨拶の後、風呂銭値下げ断行には恐れ入りましたと八十吉を持ち上げる。

来客たちは盛り上がり、防犯の歌を歌いましょう!と声があがる。

全員が歌を歌い出した中、波代は泉川にビールを注ぎ、それを飲み干した泉川は波代にも返杯しかけるが、そこにジュースの瓶を盆に乗せて運んで来た女中の花枝(高千穂ひづる)が、急によろけて倒れたので、奥に行って休ませながらも、八十吉は客たちに歌を続けるよう促す。

奥で寝かせられていた花枝に付き添っていたのは角造で、疲れてるんだよ、腹減ったろう?これ取っといたから…と来客用の弁当を出してみせる。

そこにやって来た一夫は、吐いたのか?これ飲んどけよと薬を出そうとするが、起き上がった花枝は、もう大丈夫です、直りました!と気丈に答える。

その後、さとの所に来た一夫が、母さん、泉川さんは?いつまでもオヤジが花サイト迷惑じゃないかな?と声をかける。

奥の座敷に残っていた泉川は、波代が自分の店から連れて来たホステス相手にまだ飲んでいたが、そこに警察署長が町内会長にならないかと勧められたと愉快そうに笑いながら八十吉が来ると、市会議員ですか?と聞いた泉川は、男同士の話があるからとそのホステスを追出す。

宴会も終わり客も帰った後、さとは義妹の波代に3人も店の子を連れて来てくれてありがとうと礼を言いながら、断ろうとする波代に強引に寸志を手渡す。

波代は、兄さんも三助やっている頃に比べると人間が10倍大きくなった、浴場組合長になってもおかしくないわなどと言い出したので、組合長は松田さんがいるから…とさとが笑うと、市会議員よ、その内義姉さんも市会議員の奥様よなどとおだてるので、私は奥様と言う柄じゃないわよとさとは苦笑する。

町内会長どころか市会議員に立候補されたらどうです?と八十吉に提案する。

奥座敷では、市会議員への立候補を持ちかけられた八十吉が、風呂屋のオヤジなんかがなれるはずがないと苦笑していたが、泉川は、自分はこれまで3人当選させたと力説する。

私は三助上がりで学がないので組合長にもなれないんですよ…と八十吉が泉川を送りがてら外に出て自嘲すると、その組合長も出るらしいじゃないですか?蹴落としましょうと泉川は焚き付ける。

輪島八十吉ねえ〜…と考え出した泉川は、名前を変えましょう、輪島八十彦にした方が風格があるなどと言い出す。

浴場組合長で市会議員への立候補を予定していた松田太一(富田仲次郎)は、八十吉も立候補すると聞いて驚く。

八十吉は輪島八十彦名義で立候補し、自転車屋の山野(殿山泰司)の店を選挙事務所にする。

対策委員長になった泉川は、こいつは撒き餌だから…、主婦の会や青年団の票を固めなきゃいかんし、橋向うの商店街や理事さんも抱き込まないと…と言い、八十吉から札束を受け取る。

一夫は友人の戸川(田村保)と川で釣りを楽しんでいたが、泉川の話を聞いた戸川は、なんか気に入らないな…と怪しむ。

しかし一夫の方は、本人がやりたいようにやらせとくさ…と父親のことには無関心そうに答える。

輪島湯では、働いていた花枝がまた気分が悪そうにし出したので、案じた角造が奥へ連れて行くが、それを見ていた女客が番台に座っていたさとに、あれは悪阻だよ、花枝ちゃんいくつになった?と聞くので、アメリカ方式だと18って言ったかしら?とさとは教える。

そこに選挙演説の練習をしながら八十吉と泉川が帰って来る。

泉川は、選挙と言うものは金も身体も使わなくちゃならないんですとアドバイスする。

又具合が悪くなったと聞き、寝ていた花枝の部屋に来た八十吉は、どうだ、塩梅は?どうして医者に診せないんだ?と優しく声をかける。

すると花枝が泣き出したので、どうしたんだ?何かあったのか?と聞くと、旦那さん、私を奥さんにして!旦那さんの子供を産むんです!と言いながら花枝が抱きついて来る。

八十吉は、そうか…、そうだったのか…と事情を知るが、おら、死にてえ!と花枝が訴えるので、良く考えるんだ、今は頭がこんがらがってるんだ、花枝、誰にも言うなよ…と優しく言い聞かせる。

そんなことは知らないさとは帰って来た一夫に、花枝が妊っているらしいと教え、相手は?と聞かれると、私は角造じゃないかと思うんだけどね…、男も32にもなればな…と推理を聞かせ、お父さんがどんなに怒るか…、あのあの気性だからな…と八十吉の反応を心配する。

その頃、部屋では泉川が八十吉に注射をしてやっていた。 そこにさとがやって来て、ご飯は?と聞くと、喰いたくない…と八十吉は答える。

その時部屋に電話がかかって来たので、泉川が出て、それ本当か?と驚く。

電話は選挙事務所の山野からで、松田陣営が東京から菅井を読んだと言う知らせだった。

選挙事務所にやって来た泉川は、敵ながらあっぱれですとうろたえる上野に、菅井と言っても東京じゃ陣笠だからな…と余裕を見せると、じゃあ東京の大物を見せてもらおうかと上野が挑発して来る。

泉川は八十吉に、女の浮動票をかき集めるんだ…と演説内容についてアドバイスすると、俺はちょっと米沢に行って来るからな…と言い残し出掛けて行く。

米沢では、人気スターの大木実(大木実)のショーをやっていたが、その楽屋で待っていたのは泉川で、舞台を終え戻って来た大木は面食らうが、駆け出しの頃会ったじゃないかと煙に巻くと、久しぶりに一杯やろうと思って…と誘う。

大木はその言葉を真に受け、泉川に連れられ波代のバーでホステス相手に飲み始める。

カウンターでは波代が泉川に、ねえ大丈夫なの?と小声で聞いて来たので、君からも頼むよ、女の泣き落としってのが一番なんだから、宜しく頼むよ、俺は終列車で山形に帰るからとこちらも小声で伝えると、窓から女性ファンが歓声とともに覗き込んでいる中、ホステスにサインなどしてやっていた大木に、もっと静かな所へ移りませんか?と声をかける。

翌朝、八十吉は赤ん坊の声で目覚め、うろたえる。

赤ん坊の正体は、番台のさとに話に来た女客が抱いていたもので、あの子、あれからどう?と花枝のことを聞いてくる。

表通りでは、松田陣営の選挙カーが、菅井道三の応援演説会が開かれるとアナウンスしていた。

輪島湯では、廊下の拭き掃除をしていた花枝を見つけた八十吉が、お前、本当に生む気なのか?せめて選挙が終わるまで頼むよ…、もう170万も使ったんだから…と泣きついていた。

その後、一夫には、お前、東京の大物政治家の息子か誰か知らんか?応援演説してもらいたいんだと八十吉は聞く。 座敷に戻って生きた八十吉は、裏庭で見知らぬ男を引っ張っている角造を見つけ分けを聞くと、女湯の覗きだと言う。

町内の人か?年は?と八十吉が聞くと、覗きの青年(吉野憲司)は21だと言うので、有権者だ!と角造に教え、輪島八十彦を宜しくお願いしますと声をかけたので、友達にもおじさんに入れるように言っとくよと青年は笑って答える。

女性の美を鑑賞しようとするのは人間の本能だから、構うことはない、時々来なさいなどと八十吉は青年に言う。

その後、無所属の八十吉が街頭演説をしていると、その側で、社会自由党の松田太一も演説をしており互いに意識し合う。

その後八十吉は軽い日射病になり、選挙事務所の山野自転車屋に戻って来る。 それを見た山野は、事務長さん、さっぱりだな、大臣呼んで来てくれよ、風来坊が大きな顔するな!と憎まれ口を聞いて来たので、泉川は思わず山野の顔を殴りつける。

そして泉川は、山ちゃん、大木実知ってるか?呼んで来ようか?と聞く。

いよいよ松田側の応援演説会が始まり、東京からやって来た社会自由党の代議士菅井通三(菅原通済)を見るために会場は満杯になる。

ところが菅井が離し始めてすぐ、表が騒がしくなり、大木実が輪島八十彦の応援にやって参りましたと言うアナウンスが聞こえると、女性陣を中心に大半の客が会場から出て行ってしまう。

外では人気スターの大木実を囲んで十重二十重の野次馬が集まっており、泉川が、歌うスター大木実が挨拶してくれるそうですと挨拶すると、大木が輪島さんに清き1票入れて下さいと応援演説を簡単にした後、アコーディオンの演奏をバックに得意の歌を披露し出す。

それを側で聞いていた八十吉は感激する。 会場内にはもはや老人がぱらぱらとしか残っておらず、松田の支援者たちは選挙違反じゃないか!と憤る。

大木の歌を聴いていた泉川の手を、並んで聞いていた波代がそっと触って色目を送って来る。

輪島湯ではさとが角造を呼び出し、本当におめえ知らねえのけ?花枝ちゃんに聞いてみろと言うので、角造は、そんなことは嘘だ、花枝ちゃんはそんないたずらをする子じゃねえと反論していた。

そこに当の花枝が、旦那さんがお戻りですと伝えに来たので、お前に話があるけど、後で良いや…と言い残し角造は仕事に戻る。 疲れて座敷に寝そべった八十吉の足に、さとは灸を据えてやる。

お前もその内、主婦の会の会長にさせられるぞと八十吉が言うと、あんたも大した顔役になったな〜とさとはしみじみ感心し、アルバムを持ち出して来て、三助時代の八十吉の写真を懐かしげに見せると、私は一生、三助の女房だと思っていたよと感慨に耽る。

すると八十吉は、おめえが死んだときは政治家先生の鼻をずらっと並べてやるとなどと冗談を言ったので、縁起でもないと言いながらも、さとはまんざらでもない表情になる。

一夫は?と八十吉が聞くと、盆踊りに行っているとさとが教えると、そのさとの膝枕で横になった八十吉は幸せそうに歌を歌い出す。

盆踊りの和の中には波代の姿もあり、それを泉川が見ていたが、同じ踊りの輪の中に松田の選挙事務所の女も交じってた。

踊り終えた波代は泉川に近づくと、終列車に遅れるわ、着替えて帰りますからと言い残し輪島湯に戻ると、裏手で花枝と角造が何事かを話しているのを見かける。

私が悪いんじゃない点と花枝が言い、あの旦那さんがな〜…と角造が考え込んでいる。

どうしたら良いのかしらと花枝が悩むと、旦那さんに聞くしかないだろう?当面の責任者じゃないか…と角造は答えその場を去って行く。

話を聞いてしまった波代は兄の八十吉と会い、だけどまずかったわね、手を付けたことはともかく、後始末がね…と苦言を呈する。

女地下後9路の若い子は凄いね、女房にしてくれなんて言ってるんだ、この年でも子供できるんだな〜…などと八十吉はまんざらで見ないような口ぶりで答える。

手術すれば良いんじゃない?と波代が提案すると、それを聞くと可哀想になってな、第一お金がないよ…、笑いごっちゃねえよ!と八十吉は言う。

あの子の家はどこ?と聞かれた八十吉が、おばさんが蔵王の麓に住んでいるって言ってたかな?と思い出すと、手切れ金一切やってやろうか?と波代は言い出し、その代わり兄さんにお願いがあるのと言うので、金か?と八十吉が聞くと、店を広げたいのでたった百万ばかり…と波代は頼む。

ただより高いものはないな…と八十吉はぼやく。 その後、輪島湯にやって来た泉川は波代がまだいたので、何だ、帰ったんじゃないのか?と声をかけ、選挙の間に自分の仕事のことも考えないとな…、ちょっと出掛けないか?と外に誘う。

泉川は100万いるんだと打ち明けたので、幽霊会社で兄貴を搾り取らないで…と苦笑しながら、握手しようか?お互い様よなどと波代は持ちかける。

すると泉川は急に波代を抱いて来たので、ダメよと人目を気にして波代は拒否しようとする。

夜空には花火が落ち上がっていた。 翌日、蔵王の麓にやって来た波代はかき氷などを売っていた雑貨屋家に訪ね、花枝の叔母の河内とよ(水上令子)に会う。 とよが出て来ると、花枝さんはご在宅でしょうか?と波代は切り出す。

八十吉は、輪島八十彦は全女性の味方ですと街頭演説していた。

その声が聞こえるパーマ屋で髪をセットしていたさとに、パーマ屋の美容師(野辺かほる)は、ご主人の当選は間違いないわね、大木実連れて来たんで、若い女性層はみんな入れるわ、奥さんも顔つきが違って来たもの…などとおだてるので、さとは鏡に映る自分の顔を見ながら驚く。

その頃、輪島湯では、疲れて帰って来た八十吉に、時々おばさんに打ってるんで…と言いながら花枝が注射をしてやる。 注射を打ち終えた花枝は、明日うちさ帰るっす、伯母が戻って来いって電話があったので…と打ち明ける。

それを聞いた八十吉は、叱られやせん、話はちゃんと付けてあるから、おばさんの所でゆっくりして来い、悪いようにはせん、俺が付いてるぞと励ますが、そこにさとが戻って来たので、花枝は色々お世話になりましたと頭を下げ部屋を出て行く。

それを見送ったさとは、あんた気がついてたかい?あの子これなのよ…とおなかが大きくなったジェスチャーをしてみせ、子供ができてるのよ、相手は誰だと思う?と聞くので、八十吉は少し緊張しながら、分かってるのか?と聞くと、怒らないでけらっしゃい、角造なんだすとさとが言うので、誰に聞いた?と聞くと、私の目に狂いはないとさとは自信ありげに言う。

選挙中だからあんまりことを荒立てるなよと注意した八十吉は、寝る、寝るほど楽なことはないと良いながら蚊帳の中の布団に入る。

すると、さとも蚊帳の中に入って来て、少し揉みますか?などと八十吉の身体に触れようとする。

八十吉が断ると、パーマ屋さんがあんたの当選確実だって言ってた、随分人気なんだって…、ああ言われたら600円ももったいなくないと言うので、チップか?と八十吉は聞き、パーマ屋は主婦の会の理事してるべ?どんどん使えと勧める。

するとさとは、男は偉くなると浮気するからと言い出したので、俺は昔から女の裸を見慣れてるじゃねえかと八十吉は反論する。

その時、突然、蚊帳の外に泉川が上がり込んで来て、お仲の宜しい所をお邪魔しますがちょっと…と八十吉を外へ呼び出す。

一方、花枝が部屋の蚊帳を吊ろうとしているので手伝ってやった一夫は、花枝ちゃん、ちょっと御座り…と話しかける。

明日帰るんだって?僕も山寺の獅子踊り見に行こうと思うんで遺書に行こうと思ってるんだ、立ち入ったことを聞くようだけど心配事があるんじゃない?大事なことだからねと…、察しは付いてるんだが相手は誰なんだ?と一夫が聞くと、知ってるっすと花枝が言うので、結婚するつもりか?と念を押すと黙り込む。

そいつは無責任だな…、ダメだよしっかりしなけりゃ、責任取らないそんな男、悪党じゃないかと一夫は言い聞かす。

泉川は呼び出した八十吉に、対立候補の太田の醜聞を攻撃するよう指示したので、自分自身も後ろ暗い八十吉は、あんまり人身攻撃は…と躊躇するが、結局、どうせ政治の公約だから良かんべと割り切ることにする。

翌日、山寺の獅子踊りを花枝と見に来た一夫は、鹿踊りの由来を知ってるかい?昔、この寺の和尚が鹿踊りを禁止したら、山の史家たちがお礼に来たんだって…、嘘偽りがない所だったからだろう…と話して聞かせると、花枝は黙ってその場から立ち去る。

どうしたんだ?と一夫が追いかけると、遅くなるから…と花枝が言うので、ゆっくり養生するんだよ、無理しちゃダメだよと優しく言い聞かせる。

その頃、八十吉は、対抗馬松田の選挙事務所の前で松田の人身攻撃をするネガティブキャンペーンを始める。

それを聞いた松田は、事務所で丼物を食べていたを女性アルバイト沢田良子に、あんなこと言えあれて平気なのか!と文句を言うと、女性アルバイトは、あれ先生のことだったんですかととぼける。

その後、山野自転車の選挙事務所に帰って来た八十吉は、巧く行ったぞ、ビール、ビール!と手応えを感じていた。

そこにやって来たのがさとで、いきなり私はバカな女子でした、悔しい!と言うと、八十吉につかみ掛かり泣き出したので、それを見た山野は、何したの?かみさん興奮状態じゃねえのと八十吉に訳を聞く。

花枝の伯母河内とよが輪島湯を訪ねて来たと言うので、輪島湯に帰り、八十吉が事情を聞くと、花枝が入水自殺未遂をして入院するように言われたととよは言う。

妹の波代がオタクに行って確か10万渡したはずですが?と聞くと、とよは驚いたように3万頂いただけっすと答えるので、そうか…、波代は3万しか渡さなかったのけ…と察し、何かと物入りだっぺ?と同情する。

別の部屋に行ってみると、さとが家を出る荷造りをしながら、あんた、どこにそんな勢力あっただ?と嫌みを言って来る。

酒の上でつい…と八十吉が言い訳すると、だったら私も酒に酔って男と遊ぶわ!とさとから言い返されたので、落ち着けって!と言い聞かそうとするが、さとの肘鉄で跳ね返されてしまう。

さらにさとは手提げ金庫の中の札束を掴んでもう帰って来ない!などと言うので、さと!おかしな真似するな!内密にな、選挙中なんやからなと叱る。

一方、泉川は角造を呼び出し金を渡して、誰かに聞かれたら花枝のこの親は自分だと言ってくれと迫られ、おら、花ちゃんのこと好きだ、けどそんなことできないよと断って逃げる。

その時、見知らぬ男(内田良平)が輪島湯を訪ねて来たので、泉谷が素性を聞くと、僕はこう云うものだと言いながら名刺を渡して来る。

そこには「弁護士 白河八郎」と書かれてあった。

白川が会いに来たのは八十吉で、妹があんな目に遭わされて黙っていられないんでねと脅して来る。

泉川は、輪島さんにどうしろと?3〜4日待ってもらえないだろうか?と懐柔しようとする。

選挙中だからかね?公約は性道徳の刷新?おばさん、金なんか一門も受け取っちゃいけないぜと白河は連れて来た河内とよに進言する。

町を歩いていた一夫を呼び止めてタクシーから降りて来たのは波代で、お母さんが家出して家に来ちゃったのよと打ち明ける。

義姉さん、あの分じゃ帰って来ないねと波代が言うので、相手の女誰なんです?と一夫が聞くと、花枝ちゃんと言うので、一夫は驚愕する。

ただほど高いものはないのよ…と波代は苦笑する。

輪島湯では、白河が名乗り出て来た角造を前に、君が花枝の相手だと言うのか?いつ頃花枝と関係を持ったんだ?と質問していた。

関係したのは晩ですなどととんちんかんな答えをしていた角造も、時期のことだと教えられると6月頃じゃないかな?と曖昧な答えをする。

それを聞いた白河は、花枝は妊娠4ヶ月だから、君の前の相手だな…と指摘し、輪島さんを出してもらおうか?と泉川に迫る。

八十吉は別室でそわそわしながら待っていたが、そこに泉川が白河を伴ってやって来る。

輪島八十吉って君かね?と白河が聞いてビールでも…と八十吉はなだめようとするが、僕は公務で来てるんだ!と白河が畳み掛けて来たので、小細工は通用しないと覚悟したのか、魔が刺したと言うか…と低姿勢に詫び、正直に言いましょう、私は選挙のために銭を全部使ってしまったと明かす。

泉川も、白河さん、あんたも弁護士でしょうとなだめた上で、八十吉が10万で…と切り出すと、白河は50万!特別割引で30万!と言い出したので、少し暴利だ!と抗議すると、半玉の値と比べてみろと白河が言うので、泉川は手で「払え」と八十吉に合図して来る。

白河はその後帰って行く。

その後、波代が来たので、どうして向こうに3万しか渡さなかったのか!と八十吉が叱ると、全部渡してしまったらどうなるのよ?大体兄さん、人のこと何か言えないでしょう?何が純潔よ!と波代も言い返して来たので、帰れ、バカ!と八十吉はキレる。

そこに来合わせた一夫も、お父さん、選挙出るのを止めたら?性道徳の純潔化なんて…と口を出すので、お前が学校出られるのは誰のお陰なんだ!と八十吉は怒鳴り返す。

今まで、三助だった父さんを尊敬してました…、出て行きます、角造に罪をかぶせるなんて…、ぶって良いのは、父さんの良心だけですと一夫は毅然として言い返す。

しかし波代が、止しなさい、兄さん血圧高いんだから、あっち行きましょうと一夫をなだめるので、帰れ!血圧なんかないんだ!と興奮した八十吉は癇癪を起こしちゃぶ台に乗っていたものを払い落す。

上野自転車の選挙事務所内では、八十吉の当選御礼の挨拶がテープレコーダーで繰り返し流されていた。

選挙で八十吉は無事当選したのだった。

上野が八十吉に、社会自由党から入党しないかと言う電話ですと伝えられた八十吉は、泉川の提案を受け、断れと返事する。

八十吉は、警察署長が防犯会長になれって言うんだと誇らしげに言った所で急にひっくり返ってしまう。

泉川と上野が、倒れた八十吉を運び出し、皆さんどうぞごゆっくり!と応援者たちに愛想を振りまく。

その後、輪島湯の座敷に寝かせられていた八十吉が気付くと、角造が側で内輪で仰いでくれていた。

起き上がった八十吉は、布団てん、さとに言ってくれと頼むが、女将さんは…と角造が口ごもるので、留守だったな…と気付く。

床を取ってあるから、ゆっくり寝た方が良いと角造が声を掛けると、すまなかったなと八十吉は角造に感謝しながら椅子に座ると、お前いくつになる?と聞く。

12のときから20年やっていますと角造が言うので、32か…、一夫は6つ違いだから26だな…と八十吉は感慨深げに思い出す。

すると角造が、旦那さん、怒らないで下さい、一夫さんと女将さんを迎えにいかせて下さい、花枝ちゃんはおらがやったんだと言うので、角造、もう良いんだと八十吉は言い聞かす。 角造はおやすみなさいと頭を下げ部屋を出て行く。

泉川は波代の家に居候していたさとと会いに来て、世間の手前、あんまり家をお空けになっていると女ができたりしますよ、輪島さんは女に優しいからな…、良くお考えになって下さいと説得する。

しかしなかなかさとは家に帰るとは言わない。

その後、洗面所で髪を洗っていた波代に近づいた泉川が帰るぜと声を掛けると、お店で飲んでてよ、話あるのよと波代が言う。

下のバーでジョニ黒の瓶を出して泉川が飲み出すと波代が降りて来て、どう2階?とさとのことを聞いて来る。 強情だな…と泉川が答えると、狭い部屋で迷惑してるのよと波代は嫌な顔をする。

おやじさん、迎えに来させた方が良いわ、一夫さんは?と波代が聞くので、友達の所らしいと泉川が教えると、潔癖なのよ、あんたと違って…と波代は嫌みを言う。

東京へ帰ると言う泉川に100万の小切手を取り出した波代はちょっと拝借したの、妹ですもの訴える訳ないでしょう?と打ち明ける。

輪島さんも、悪い妹さん持ったものだな…と泉川が呆れると、誰のためよと言いながら波代はキスして来る。

会社の名義、君にしようと泉川が提案すると、良いのよ、あんたのになさいと波代が言うので、そうだな、同じ事だしな…、じゃあ預かっとこうと言い、泉川は小切手を受け取る。

その頃、一夫は戸川とキャンプに来ていたが、タバコを吸いながら、家を飛び出した所で解決することではないな…、僕は何ができるんだろう?と悩んでいたが、それを聞いていた戸川は、生きる希望を与えるんだなと助言する。

それを聞いた一夫は、希望か…と呟く。

その後、一夫は単身、花枝の伯母の家を訪れる。

家に入り呼びかけても誰もいないようだったが、とよが外から戻って来て一夫を見て恐縮するので、花枝さんがどうしているかと思っててんと一夫が用件を言う。

今、病院に行ってるんですが、身体の具合も良くなくて…、30万の大金もあの子の兄にそっくり持っていかれて…、あの子も身体が弱って来て手術も遅れてな…、ご相談に上がろうと思っていた所です…、又この前のようなことにでもなったら…などととよは言う。

考えておきますと答えた一夫は、今、持ち合わせが少ないんですが、何かの足しに…と言いながら金を出して問いに手渡す。

一夫が家を出ると、奥の部屋に隠れていた花枝が出て来て、とよの着物の胸元から今受け取った金を抜き取り後を追って外に出る。

湖の側で花枝が追って来た事に気付いた一夫が、どうしたの?と聞くと、もう何もしてもらわなくても良いんですと言いながら花枝は金を返して来る。

僕、家を出たよ、母もね…、家には父が1人ですよと一夫が打ち明けると、じゃあ学校も!と花枝が驚くち、自分の力でやってみるよ、東京に帰ったら仕事を探すつもりなんだと一夫は言う。

すると花枝は、私のことかまわないで下さい、自分のことは自分で片付けますと言うので、でもおなかの子は弟なんだから…と一夫は言うので、止めて下さい!若旦那に何ができるの?何にもできないくせに!と言い捨てて、花枝は家に戻って行く。

しかし、一夫の乗ったバスが遠ざかって行く中、花枝は何か考え込んでいた。

後日、さとがようやく輪島湯に戻って来たので、八十吉は、すまなかった、戻って来てくれてと頭を畳みにすりつけて詫びると、一夫はどうするんね?と言うので、迎えに行ってくれ、私が謝るから…と八十吉は角造に頼む。

そして2人きりになった八十吉はさとに、銀行から出した小切手10万円の小切手を返せと言うと、金なんて持ってねえと言うので、おめえの名で銀行から出てるんだと八十吉は教える。

その頃、列車で東京に向かう泉川は、山奥もこれが見納め、東京が恋しくなった…、当分遊ぶ金も稼いだしな…と一緒の席に乗っていた沢田良子に話しかける。

松田さんこそ良い面の皮だ、まさか運動員の中にスパイが紛れ込んでいるとも知らず…、君にも手を出さなかっただろう?性道徳の純潔運動が効いたかな?と苦笑する。

一夫は輪島湯で角造と別れを惜しんでいた。

角造、後は頼んだぞと言う一夫に、正月は帰って来ないんですか?と角造が念を押すので、当分帰れないと一夫は答える。

そんな一夫に八十吉は、速く警察署に行かないと…、おらが防犯会長になるのはおかしいか?と聞いて来る。

おめでとう、父さんごめんなさいと一夫が言うと、泉川の奴は小切手を持って女と逃げちゃった…、私がバカだった…と八十吉は反省する。

その時さとが、あんた大変よ!と知らせに来る。

玄関に来ていたのは白河八郎で、よお、おめでとう!と出て来た八十吉に祝いを言うので、今てふさがってるんだと断ろうとするが、そこへ派手なドレスにサングラス姿のあばずれ女がやって来て、誰の指図なんだよ?と白河を叱りつけると、おやじさん、選挙勝ったんだってな?挨拶が後になってご免よ…と言い出したので八十吉は唖然とする。

サングラスのあばずれ女は花枝だった。 最初からの芝居さ、おやじさんには私から手を出したんだよ、お前さんだって子供を産んだ事あるんだろう?あたいが腹ぼてじゃないくらい分かりそうなものじゃないかとあっけに取られているさとにも打ち明ける。

おとよ婆さんも今頃逃げてるよ、撮の旦那に教えといたからさ…、この頃の美人局は手が込んでるのさ、良いじゃないか、ブタ箱は慣れっこじゃないかと花枝が言うのを聞いた白河は驚いて逃げ出そうとするが、すでに門の外には刑事の車が来ており、あっさり白河は逮捕される。

これからは住込みには気をつけな、住み込み売春って言うんだよと言い残し、花枝も去ろうとするので、花枝さん!と一夫が声を掛けると、坊や、あばよ!と言いながら門を出た花枝は刑事に手錠をかけられジープに乗せられる。

八十吉は、全くおっかねえもんだの…と呆然とするが、一夫には、東京に帰るか?と聞き、女には気を付けろよとしみじみと言い聞かす。

さとも、今時の女は油断できないよと言うので、花枝の気持分かるような気がする…、我々への好意だよと一夫は言い出す。

あのままだと白河にむしり取られるだけだったから、ズバリ正体を明かして花枝は父さんの危機を救ったんだよ…、そうだ、きっとそうに違いない…と言う一夫の意見を聞いた八十吉は、花枝がな〜…と感心する。

おら、あんまり利口じゃないな…と反省している八十吉の部屋にやって来た上野が、大将、遅いよ!と焦れながら連れて行こうとするので、一夫、俺みたいなものが防犯会長勤まらないな?資格があるかどうか聞いてるんだと八十吉は言い出す。

すると一夫は、父さん、おやりなさい、その代わり、良い顔役になって下さいと答える。

その息子の助言を聞いた八十吉は、良しやるぞ!と決心する。

町内中の人が居並ぶ町の大通りを防犯会長になった八十吉が乗ったオープンカーがゆっくり進んで行く。

そのパレードには「快楽一瞬 後悔一生」「性の乱れは国の乱れ」などとスローガンが書かれたプラカードが掲げられていた。

通り過ぎる八十吉の乗った車の頭上には、ビルの上から紙吹雪が撒かれるのだった。


 


 

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