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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

松本清張のスリラー 考える葉

一見、鶴田浩二さん主演のように思える出だしだが、意外にも途中から江原真二郎さんが主役になる。

鶴田さんがこう言う役を引き受けたと言うのがまず予想外なのだが、白黒の地味な展開でミステリとしては通俗ながらそれなりに楽しめるスリラーになっている。

ただ細部まで精緻に考え抜かれた本格ミステリと言う感じではなく、社会派推理特有の政治の裏側を暗示した部分などは興味深いが特に掘り下げていると言う感じでもないし、展開を見ても不自然な部分もないではなく、特に奇妙な依頼を受けた主人公がその当日に出掛けており、依頼人からの中止指令を聞き損なうと言う部分は、重要な部分だけに映画では何の説明もないのが解せない。

また、一旦射殺犯として冤罪で捕まった主人公が一枚のメモで釈放されたりする辺りの説明もないのが不思議。

前もって用意していた人物に冤罪を仕掛けた連中が釈放させると言うのもおかしな話で、結局、自分たちの手で始末しなければいけないハメになるので、釈放させるのは自分で自分の首を絞めるようなものだろう。

彼らではないとすれば、一体誰が釈放させたのか?

板倉を陥れようとする一派の仕業とすれば、その理由や説明が必要な気がする。

劇中に登場している人物たちは全員板倉と一蓮托生の関係なので、板倉を陥れるとそのまま自分の身の破滅に繋がるはず。

原作にはその辺の説明もあったのかもしれないが、読んだとしても遠い昔の話なので今確認しようがない。

鶴田浩二扮する井上があらかじめ投函しておいたと言うことなのか?

しかし、全く無名の人物の手紙を警察が鵜呑みにして釈放すると言うのも考えにくい。

笹子駅から主人公が警察を呼び出す明瞭な証拠もないはずだし、何故出迎えた相手を怪しいと睨んだかと言う説明もなく、通俗スリラー特有のありがちな展開と言うしかないような気がする。

ミステリとしては穴だらけのような気もするが、低予算の添え物映画として見ると特に不満を感じるような作品でもない。

タイトルに「スリラー」等とわざわざ入れているのも、ミステリとして色々突っ込まれることを最初から避けるためかもしれない。

ちなみにキネ旬データのキャスト表は誤記だらけで、木村功とされている板倉彰英訳は仲谷昇さんだし、洋子役も久保奈保子さんではなく八代万智子さん。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1962年、東映、松本清張原作、棚田吾郎脚色、佐藤肇監督作品。

荒磯の岩の東映クレジットに時報のチャイムの音が重なる。

夕方6時の時報を打つ銀座和光の時計

タイトル

歩道を千鳥足で歩く男の姿を背景にキャスト、スタッフロール

宝石商のショーウィンドーの前で宣伝用手持ち看板を掲げたサンドイッチマンと出会った無精髭の酔っぱらい井上代造(鶴田浩二)は、いきなりそのサンドイッチマンから手持ち看板を奪い取ると、ウィンドーガラスを叩き毀し始めたので周囲を野次馬が取り囲む。

丸の内署の留置場に入れられた崎津弘吉(江原真二郎)に近づき、モク(煙草)を持ってないか?とねだる同房の連中(潮健児、高田博)の声に、それまで留置場の中で寝ていた井上は目覚める。

国会議事堂が間近に見える屋上での休憩時間、タバコを吸いながら崎津に近づいた井上は、喧嘩でもして入ったのか?愚連隊とやったのか?などと話しかけると、何て名だ?と聞く。

崎津が名乗ると井上も名乗り、東京へは働きに来たのか?と聞くので、崎津は山梨から出て来たんですが、この広い東京、どっかに働き口ないですかね?もう国には帰りたくないんですと言うので、家に来ないか?君はすぐに出られるよと井上は誘う。

その後、釈放された井上が武蔵野にある板倉彰英(仲谷昇)の屋敷にやって来ると、ちょうど書道の村田露石(三津田健)が板倉に教えている最中だった。

社長、ご迷惑をおかけしましたと井上が詫びると、社長、お上手になったでしょう?と村田が話しかけて来る。

そんな村田に、先生、この石いかがです?会社の鉱山から出たそうで、杉田君の土産ですと言いながら板倉が硯を取り出してみせると、笹子硯ですな?と村田は感心するが、今日は中野先生の所へもうかがいますのでと断った村田はそのまま帰って行く。

2人きりになった板倉は、井上君、私が呼んだらどんなときでもすぐに来てくれときつい一言を言う。

その後、板倉の部下の杉田一郎 (植村謙二郎)と3人になると、2人とも例の件で来てもらった、例の男がうるさくなって来たらしいと説明した板倉は、君には別のことを頼んでおいたはずだが…と言うので、もうそんな情勢ではなっているんですか?と井上が驚いて聞くと、妙な雲行きになっていてね…と板倉は言う。

井上は適任者を捜しましたと答える。

それを聞いた板倉は、案外早く使うことになるかもしれん…と呟く。 その後、丸の内署で待ち受けていた井上は釈放された崎津を出迎えると、今日辺り出れるんじゃないかと思っていたんだ、とりあえず僕んちへ行こうと誘う。

行く宛のない崎津は遠慮しながらも、すみませんが、今夜だけ…と恐縮し同行することにする。

タクシーで自宅前にやって来た井上は自宅の中に入ると、2人暮らしの妹美沙子(磯村みどり)にタクシーを待たせているんで運賃300円払ってくれと頼み、崎津を客だと紹介する。

美沙子が金を持って外に出ると、何度入っても感じ悪いな留置場…などと言うので、井上さんは何度も入っているんですか?と崎津が聞くと、世の中の何もかも…、特に自分自身に腹が立ってしまうんだと井上は答える。

翌日、再び板倉の家に出向いた井上は、ちょうど政治家の中野博圭の所へ行くと言う板倉の車に同乗してその後の崎津の報告をすることになる。

ひとまず就職させましょう崎津のことを話した井上が、今日のお相手は?と聞くと、民政党の実力者だと答えた板倉は、その男の子とは任せると指示する。

その頃、家の前で洗濯をしていた崎津の隣で一緒に洗濯を始めた美沙子は、困った兄ですわ…、ちゃんとした生活をして欲しいのに…と変わり者の井上のことを相談する。

崎津も、自分は田舎で農協に勤めていたんだけど上司と喧嘩しちゃって…、耕す田んぼもないし…と打ち明けていると、そこに井上が帰って来る。

大日建設の警備員の仕事があった、寄宿舎もあるよと井上が報告すると、家から通えば良いのに…と美沙子が言うので、男2人の面倒を見るのは大変だよと井上は言い聞かし、これから飲みに行こうと誘う。

大日建設は三流だが、社長は中野博圭だよと外に出た井上が教えると、数年前造船疑獄で騒がれた人ですねと崎津も思い出す。

すると井上は、世の中、表もあれば裏もあるさ、俺みたいな死に損ないのクズみたいなのもいるし…などと自嘲するので、井上さんは戦争に行かれたんですか?と崎津は聞いてみるが井上は答えなかった。

崎津は、僕、あんまり飲めないんですが…と飲みに行く前に弱音を吐く。

板倉と会った中野博圭(柳永二郎)は、軍事省に残っていた隠匿物を押さえているらしい…、全く目先の利益を追うだけで国家の利益を考えん奴がいるらしい…と中野は苦々しそうに言う。

その頃、警視庁では、外務省からの話では、近々ラバーナ国から戦時中に日本が奪って内地に持ち帰ったと言われる金、白金、タングステン、鉛などの貴金属を探しに代表団が来ることになったので、資料を急いで用意して欲しいと言って来たと能勢刑事部長(永田靖)が部下たちに通達していた。

大蔵省、通産省、外務省も調べているらしいが、戦後16年尻尾を出さなかった奴だ…と部長は捜査の難しさを指摘する。

一方、飲めなかったはずの崎津が泥酔して路上で喚き続けるので、それを何とかなだめながら家まで連れ帰った井上が俺のお株を取られちまったとぼやくと、出迎えた美沙子は弘吉さんは兄さんに似ているわ…などと苦笑するので、お前もそろそろ結婚しなくちゃな…と井上は兄として妹のことを案ずる。

しかし美沙子は、2人きりの兄妹だからもう少し一緒にいたいのと答える。

すると井上は、ちょっと考えたんだが、辞めさせるか?大日建設…と言い出したので、どうして?と美沙子は聞き返す。

翌日、大日建設の資材置き場にやって来た崎津は、現場担当者の黒田から、戦時中は軍需工場だったのが今じゃこんなスクラップ工場になっているんだが、ガラクタでも盗みに来る奴がいるので警備も必要なんだと説明を受け案内されていた。

金網越しの隣の用地もうちの土地なので気をつけてくれ…と黒田の説明を聞いていた崎津が、隣の草むらの中に何かを見つけ、あれは?と聞くと、も何だろう?と黒田も不思議がり、一緒にその側に駆け寄ると、それは見知らぬ男の死体だった。

早速駆けつけた刑事は、死体を見た鑑識医(相馬剛三)から、心臓を一突きにされており、死後12〜3時間経過していると聞き、所持金は2650円で浮浪者にしては金を持っていたことを知る。

その時、死体の側にあったメモを拾った刑事が、これは何でしょう?と小出警部(原田甲子郎)に聞く。

そこにはこの場所への道順が書かれてあった。

殺された男は通称てっちゃん、本名大原鉄一(久地明)と言い、昨夜駅前のおでん屋で35、6歳の男と一緒にいたのを目撃されており、その後、近くの古物屋でツルハシとシャベルを購入していたことを刑事は報告する。

男は何かを掘り出しにやって来たらしかった。 発見者である黒田と崎津も事情を聞かれるが、今日からここで働くことになっていた新米の崎津では何を答えようもなかった。

メモに白金やダイヤなどと言う文字があったので、大日建設社長中野博圭を訪ねた刑事たちだったが、君たちはあんな所にダイヤや白金があるとでも思っているのかね?選挙も近くあちこちに金を回さねばならん時期だ、そんな金があったらとっくに自分で掘り出すよ、それにあそこは名を貸しているだけの会社だし…と中野ははぐらかすし、書道の先生が来ているので…と断って部屋を出ようとするので、大日建設の社長に推挙した人物の名を聞いても中野は答えようとせず、他愛無いことで税金の無駄遣いは困ると警視総監の耳に入れとくよと脅すだけだった。

その頃、井上は過ぎたと共に羽田空港に来ていた。

お目当ては来日した外国人夫婦相手にガイドをしている洋子(八代万智子)と言う女を確認することで、元はオンリーをしていたこともあり、金だけが目的…と言うドライな女だった。

その後井上が戻って来た戻って来た屋敷で、来日予定のルイス・ムルチと言う人物はなかなかの切れ者らしく、コロンビア大学卒で頭も切れ、悪行の噂も聞こえて来ている…と教えた板倉は、例の男はいつでも動かせるな?と井上に念を押す。

帰宅した井上が崎津に、あそこで働き始めて何日になる?と聞くと、脇で聞いていた美沙子の方が呆れたように6日じゃないと答えると、世話した僕が言うのも変だが、いつ辞めても良いからね、あそこは良い会社ではない…などと井上は言い出す。

しかしそこに杉田がやって来たので、井上は崎津に、明日は会社を休んで芝高輪4丁目の電話ボックスの所で9時から10時までの間ぶらぶらしていて欲しい、誰かが品を君に預けると思うんで、それを持って下宿に戻って来て欲しい、訳は後で話すから…と奇妙なことを依頼する。

翌日、ラバーナ観光視察団来日のニュースが新聞に載る。

再び羽田空港に来ていた杉田と井上は、その中にルイス・ムルチ(フェルズ・サイターラ)の姿を確認する。

その後、杉田は井上を車に乗せ、ラバーナ観光視察団が宿泊するオリエントホテルの前に来ると、それとは別に、ムルチが女と泊まる秀峰荘と言う別のホテルの前にも来て、あちらの連中も良い気なもんだ、女を用意させるなんて…と忌々しそうに杉田は言う。

そこから少し離れた場所にある公衆電話ボックスの所に来た杉田は、男はあの辺で待たせてくれと言うので、井上はそこで車を降りることにする。

杉田の車が走り去った後、電話ボックスに入った井上は、背後に見知らぬ一台の車が停まっていることに気付いていなかった。

大日建設に電話を入れた井上は黒田が出ると、崎津はいないかと聞くが今ちょっと出掛けており、3時半頃帰って来るらしいと聞くと、では、昨日の話は中止になったと伝えて下さいと頼み電話を切るが、ボックスを出ようとした所で、見知らぬ男2人に取り囲まれている事に気付く。

男たちは板倉の配下の者達だった。

屋敷に連れて来られた井上は、復員兵の中から私が拾ってやったお前が敵に回るとは思わなかった…と板倉から責められる。

すると井上は、あんたには10年前に裏切られた…、あんたは徴兵を免れた…、学徒動員で召集された俺が現地で女子供を撃ち殺していた時、あんたは内地で何をしていた? 朝鮮戦争でも同じだった…、かつてあんたが俺を拾って泥をかぶせて来たように、今度は俺があの男を拾い上げ利用する…と井上が言うと、良し、貴様の言い分は分かった…と板倉は言い、脇に子分たち2人と控えていた杉田が銃を取り出すと、その場で井上を射殺する。

その頃、崎津は井上の指示通り、芝高輪の電話ボックスの近くにやって来ていた。

しばらく暗がりで待っていると、男が近づいて来てハンカチに来るんだ何かを手渡して去って行く。

受け取ったものは拳銃だと知った崎津は愕然とするが、下宿に戻ろうとした所を大勢の男たちに取り囲まれその場で捕まってしまう。

すぐさま取り調べを受けるハメになった崎津は、お前は喧嘩で丸の内署に捕まっていたそうだが、襲撃の練習は相当やっていたようだな?と、最初から色眼鏡で見られていた。

撃たれた相手の銃痕と崎津が持っていた銃のそれが一致したのだと言う。

拳銃は受け取っただけだと答えても、相手の人相は?お前の知り合いか?などと聞かれるので、暗くてはっきり見なかったと答えても信用されなかった。

その時、突然取調室の戸が開き、廊下に刑事と一緒に連れて来られた洋子は、戸を閉めた後、廊下で刑事にあの人に間違いありませんと証言したので、ますます崎津の立場は悪くなる。

洋子も知らなければ、その廊下での証言も聞かなかった崎津は、誰か見た人がいるんですか?と聞くと、目撃者がいるんだよ!と刑事は言う。

刑事が推理を披露した所によると、昨日の晩9時頃、犯人は秀峰荘の裏側から侵入し、当日一部屋だけ明かりがついていた部屋のベッドに座った男を狙ったのだろう、その側には派手なガウンを着た女が立っていたので覚えているだろう?と言う。

撃たれた男は日本人ではなく重要な人物だったと刑事は教えるが、その時、何やらメモ書きが刑事に渡され、それを見た刑事2人は苦りきったような表情を浮かべ、崎津の取り調べをこれで終えると言い出す。

結局崎津は、世話になった井上の名を出すことはなかったが、何故突然自分が釈放されたのか訳が分からなかった。

しかし、護送車に乗せられた崎津は、隣の警官が読んでいた新聞に載ったルイス・ムルチと言う外国人が散歩の途中心臓マヒで急死し、本国へ送り返されたと書かれた記事を横目で見て、拳銃で撃たれた被害者と言うのはこの男に違いないと確信する。

散歩の途中などと書かれているのも、ホテルでいかがわしい女と一緒にいたのを隠すために違いないと推理する。

井上の自宅前まで帰って来た崎津は家の前に人だかりがあったので不思議に思って近づくと、玄関先には「忌中」の札が下がっていた。

家の前には大日建設の黒田がいて、井上さんが亡くなった、八王子の山林の中で発見されたんだ、昨日の昼頃井上さんから詰め所に電話があり、今日の夜頼んでいたことは中止してくれと言っていたんだと黒田が言うので、崎津は愕然とする。

家の中に入ると正に葬儀の最中で、崎津の姿を見た美沙子は、弘吉さんちょっと…と声をかけ二階に連れて行くと、井上の預金通帳を見せる。

そこには720万以上の入金があり、遺品を整理している時書類箱から出て来たもので通帳は美沙子名義になっていると言う。

720万もの大金をもらっていた井上の仕事が崎津は気になる。

美沙子に井上の仕事について聞くと板倉が所有する笹子鉱山で働いていたと言う。

下から呼ばれたので降りて行くと、葬儀には杉田や書道家の村田露石が来ており、崎津にも何か相談事があったら鎌倉まで来たまえと慰めて来る。

弔問客たちがみんな帰った後、崎津は、僕たち2人で犯人を見つけましょうと美沙子と誓い合う。

その夜、2時を過ぎたので美沙子が寝ずの番をするので、2階で休むように勧められた崎津は布団の中に入るが、井上がもらっていた720万もの大金が板倉商事から出ていたのか気になってなかなか寝付けなかった。

翌朝5時、目覚ましが鳴ったので起きて、美沙子と交代しようと下に降りた崎津だったが、そこには誰もいなかった。

遺骨の前には湯のみ茶碗が出ており、深夜誰かがやって来たことが推測されたがそれが誰なのかは分からなかった。

外に出てみたりして探すが美沙子の姿はなかった。

そこに見知らぬ男がやって来て、井上さんですね?交番から頼まれて来たんですが、鉄橋の所に来て下さいと言うことですと言うので、驚いた崎津は鉄橋の方へ走って行く。

橋の下に警官とビニールをかぶせられた死体のようなものが見えたので、慌てて駆け寄り、今使いの人から知らせを受けて来たものですが?と警官に話しかけるが、警官は使い?と首を傾げる。

それでも一応、探している人の性別と年齢を聞かれたので、女性で22、3ですと崎津が答えると、警官はビニールを剥がして被害者の顔を見させてくれる。

そこに横たわっていたのは取調室で廊下に立っていた洋子と言う女性だったので、違います…と崎津は答える。

彼女が殺されたのは何故か?美沙子さんはどこだ? 誰か遺骨と写真を取りに来た者がいる…、美沙子さんじゃない…、崎津は考えあぐね、葬儀の場で会った村田露石を鎌倉に訪ねに行く。

しかし村田の家にも美沙子はおらず、事情を聞いた村田は警察に届けた方が良いのではないかとアドバイスする。

崎津は、井上さんを殺した犯人を自分で見つけたいんです、僕が躍起になって探せば、相手は僕を狙ってきますと説明すると、それは危険過ぎはしないかねと村田は案ずる。

板倉と言う人物のことを聞くと、自分も書道を教えに行くだけなので詳しくは知らないが、戦後金へんで伸し上がって来た経済人で、中野先生と組んで房総に鉄道を造る計画があるらしい、武蔵野の自宅も元華族が住んでいた所らしいと村田は教える。

その屋敷に帰って来た板倉を待っていた杉田があの青年をこのまま野放しにしておくんで?と聞くと、板倉は不愉快そうに、そんなことまで相談するのかね?とはねつける。

崎津は突然大日建設を首になったので、板倉が戦後金へんで儲けたと言うのは白金やダイヤのことではないのか?と想像しながらいつもの詰め所に行って見ると、既に「大日建設」の看板は「東洋自動車」と言う別の看板に替えられており、何か取り壊し作業が行われていたので、第一建設は?と工事人夫の1人に声をかけると、知らないなと取りつく島もないので、発掘工事が終わったとか聞いてないか?と聞くと、さっきも女が同じようなことを聞きに来た、何でも殺された男の身内だと言っていたと言うではないか。

早速、小出刑事を訪ねて事情を聞くと、鳥取から姉さんと言うのがやって来た、大原と言う男は昔憲兵だったそうで、戦後は田舎で暮らしていたが、急に上京したそうだ、姉は13時の「いずも」で帰ると言っていたと言うので、急いで東京駅に向かった崎津は、出発間際の電車の窓に、遺骨を持った大原の姉を見つける。

窓を叩いて呼びかけると、向いの客が気付いて窓を開けてくれたので、大原さんではありませんか?小原さんを最初に発見した者ですと声をかけ、大原が上京したのは昭和30年7月20日で、軍隊時代に世話になった上田大尉を訪ねると言って上京したと姉は言う。

その頃、弟は同じ山陰日々新聞を繰り返し読んでいたと答えた姉を乗せた列車は動き出す。

崎津はその足で山陰日々新聞の昭和7月20日以前の記事にヒントがあるのではないかと調べてみることにする。

すると「秀峰荘」の名が載っていたので、これだ!と崎津は直感する。

やはり第一建設のスクラップ場にダイヤや白金が埋まっていたので移し替えるしかなかったんだ、それでわざと大原を殺したんだと崎津は推理する。

だが、大原が頼って上京したと言う上田たいと言うのは誰だ? 板倉のことか?しかし板倉は軍人ではない… 色々考えながら歩いていた崎津だったが、工事現場の下を通りかかった時、上から一輪車が落ちて来たのに気付き、とっさに身をかわす。

今度は俺が狙われた…と崎津は感じる。

再度鎌倉の村田を訪ねた崎津は、大原鉄一と上田と言う人物のことを知らないか?と聞くが、村田は知らないと言う。

そこで崎津は、笹子鉱山に勤めたいので板倉さんに紹介してもらえないか?と頼むが、あんな所に行ったら辛抱できないよと村田は止める。

それでも自分の実家からそう遠くないんですと崎津が粘ると、一緒に行ってあげようと村田は承諾する。

その後、村田と共に板倉の屋敷を訪ねた崎津は、杉田さんを訪ねなさい大原をご存知ですよね?殺されたんです、大日建設の中で…、上田と言う憲兵をご存知ではないですか?と思い切って聞いてみるが、板倉は、村田さん、面白いことを言う青年ですね、山へはいつ行く?と聞いて来たので、宜しかったら明日にでも…と崎津は答える。

その後、中野派と岩手派の戦いの最中だと言う中野に会いに行った板倉は、幹事長はもう決まったような者でしょう?私も全力で尽力させていただきますと世辞を言い、暴走鉄道の許可はまだでしょうか?と聞く。

中野は、白坂の奴のケツを蹴っ飛ばしとくよと愉快そうに答える。

その時、秘書がやって来て、板倉さん、お宅からお電話ですと伝えられたので、部屋の電話を取ると、相手は村田だった。

今、警視庁の連中が来ており、死んだ洋子と言う女性のハンドバッグから板倉さんの口座番号が出て来たそうですと村田が言うので、板倉は青ざめる。

後ろで何となく会話を聞いていた中野が、まずいことになったね、板倉君と声をかけて来たので、大したことはないでしょうと強がった板倉だったが、わしは警察が来た時恐かったよ、特に今度のことは厳然たる刑事事だ…、男子たる者生涯波乱の連続だよなどと言うので、先生、その手も大してきれいとは言えないんじゃないですか?と板倉も皮肉を返す。

それでも、あなたに迷惑はかけませんと板倉は約束する。

単身、笹子の駅に到着した崎津は、笹子鉱業の者と言う藤井(亀石征一郎)が杉田さんに言われて…と待ち構えていたのを知る。

駅前にジープが用意してあり、運転する塚口(八名信夫)も待っていたので、一旦駅を出かかった崎津は何か忘れ物をしたようにちょっと待って下さいと言うと駅舎に戻って行く。

藤井がジープに乗り込み待っていると、トイレでも行っていたのか、ハンカチで手を拭きながら戻って来た崎津も乗り込み、ジープは出発する。

鉱山の事務所に行くと、杉田が待っており、戦争中に掘り過ぎてしまって、今は新たな鉱脈を試掘している所ですなどと閑散とした鉱山の実情を説明する。

炭坑ももう相当古く、一歩中に入ると落盤などが起きる恐れがあるとも言い、こんな殺風景な所ですが勘弁して下さいと詫びて来る。

杉田が部屋を出て行ったので、1人になった崎津は、部屋の中で「MI」とイニシャルが入った女物のハンカチが置いてあるのに気付く。

気になり、部屋を出た崎津は勝手に炭坑の中に入って見る。 そうした崎津の様子を、杉田たちは事務所からじっと監視していた。

懐中電灯の灯りを頼りにかなり奥の方まで進んだ崎津だったが、入り口付近にいた塚口がロープを引くと、トロッコが急に滑り出し、崎津にぶつかって来たので、一瞬早く気付いた崎津は身をかわす。

気を取り直し、さらに奥へ進むと、そこには金の延べ棒などが大量に並べられていたので、やっぱりここに移していたんだと気付いた崎津は、懐中電灯の明かりに人影が見えたので、美沙子さんですね?と呼びかける。

暗闇の中に閉じ込められていた美沙子も、その声で崎津と気づいたようだったので、ロープを伝って美沙子のいる場所に降りる。

再会を喜んだ2人だったが、そこに塚口と一緒に杉田が岩の上に姿を現し、この暗い穴の中でせいぜい女と仲良くするんだなと嘲笑して来る。

大原を殺したのは貴様らだな?と崎津が聞くと、あいつは軍事省の頃からのことを種に板倉先生を強請ろうとしたからだと杉田は教える。

その時、塚口が垂れていたロープを引き上げようとしたので、崎津が思わず飛びついてロープの端を掴んで引っ張ると、塚口もロープに引かれ下に落下してしまう。

それでも上着の下から拳銃を取り出そうとしたので、崎津も近くにあった金属棒を掴んで抵抗しようとするが、腕を折ったのか、塚口は取り出した銃を落してうずくまってしまう。 すると上にいた杉田が撃って来るが、その音で落盤が発生する。

杉田は1人で行動を出ようとするが、入り口の方から警官隊が接近していることに気付くと発砲しながら別の行動へ逃げ込もうとするが、反対側からも警察隊が近づき挟み撃ちになってしまう。

逃げ切れないと覚った杉田は拳銃を捨てあっさり逮捕される。

崎津と美沙子も無事救出され行動の外に出て来ると、待ち構えていた小出刑事が、バカだぞ君は!笹子からの連絡が遅れたらどうなってたか分からんぞ!と叱って来る。

板倉を捕まえて下さいと崎津が頼むと、もうすぐ板倉は硯石を見にここへやって来ると小出刑事は教える。

その頃、鉱山に向かう九十九折りの道を車で飛ばしていた板倉は、後部座席に乗った村田露石から、こりゃ偉い所ですね、事故を起こさんでくださいよと声をかけられていた。

しかし板倉は車のスピードを緩めず、あんたとも長い付き合いだったが、それも今日までだ、戦争中は良く大原と一緒に俺を責めてくれたねと言い出したので、それは職務だったと君も承知してくれたはずじゃないか!と村田は言い返す。

戦後は中野と2人で良くも俺を散々利用してくれたねと板倉は嫌みを言う。

車中でそんな会話が交わされているとも知らない崎津は、近づいて来る車を見つけ、板倉さんの車だ!と小出刑事に教える。

止めろ!と後部座席から手を延ばして来た村田を無視し、崖の前でアクセルを踏み込んだ板倉の車はそのまま谷に向かって墜落して炎上する。

それを見て驚いた刑事たちと崎津は崖下の炎上する車に近づく。

燃える車の中からはい出して来た板倉に、板倉さん!あんた、村田先生まで殺したんですか!と崎津が呼びかけると、車の中で死んでいた村田を指差した板倉は、上田…、あいつが上田大尉だ…と言い残し、そのまま息絶えてしまう。

死んだ板倉を見下ろしながら、小出刑事は、こう云う奴らを餌食にして生きている連中がいる…と苦々しそうに呟く。

何事もなかったかのように国会議事堂の中に車で入って行く中野博圭の姿。


 


 

 

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