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花のヒロイン 

 

 

 

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カメラを止めるな!

内田けんじ監督作品を彷彿とさせるような「二重の視点構造」を用いた「アチャラカ(綿密に計算されたスラップスティック)映画」

劇中劇がハプニングの連続でスタッフが右往左往すると言う展開は、エノケン映画「極楽大一座 アチャラカ誕生」(1956)など昔から前例がないではないが、元々途中で止められない舞台劇などで有効な手法のような気がするし、この映画の着想のヒントになったと言われる舞台劇の脚本家や上田監督が「アチャラカ」とか「スラップスティック」などを意識していたどうかは分からない。

それでも映画化に際し「ワンカット撮影」と言う設定にした所が見事で、これにより「アチャラカ」がちゃんと成立している。

「二重の視点構造」だけではなく、ゾンビを素材にしたり「エド・ウッド」(1995)等も連想させる「低予算映画内輪もの」にしているため、見せ方が今風になっているのも特長。

さらに前半のワンカット映画自体にも楽屋落ち要素が含まれているため、「二重の入れ子構造」になっており、余計にややこしくなっている。

映画好きや多少映画現場を経験したことがある人には、何かとトラブルが起きやすい現場やクセの強い(つまり面倒くさい)キャストたち、理想論に走りやすい若者など、思い当たる節があちこちに描かれているのが面白いのだが、そうした舞台裏を知らない一般の観客にも十分楽しめる展開だと思う。

前半30分程度のワンカットゾンビホラーの劇中やや不自然な部分があるのが後半の伏線になっているのだが、ワンカットと言う点や、慣れない若いスタッフが撮ったのならこう言う感じでもそう不自然ではないのかも…と勝手に見る側が解釈し、見過ごしてしまいがちな設定になっているのが巧い。

インディーズ映画であり、キャストが全員見慣れない新人ばかりと言うのも設定をリアルなものにしており、結果的に全ての低予算要素が作品を巧く成立させている希有な成功例になっているように思える。

この作品は見事に成功しているが、アイデア勝負と言う面があり、今後この手の成功作を連発して行くのは厳しいような気がする。

上田慎一郎監督の次なる作品に注目したい。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2018年、ENBUゼミナール・シネマプロジェクト、上田慎一郎脚本+監督作品。

ゾンビ化したケンちゃん役の役者神谷和明(長屋和彰)が迫って来る。

斧を持って階段脇の壁に追い込まれたヒロイン役松本逢花(秋山ゆずき)が、ケンちゃん、止めて!お願い!目を覚まして、お願い!と絶叫するが、その言葉が通じたかのように一旦動きを止めたケンちゃんは、その直後ヒロインに飛びかかり首筋に噛み付く。

ハイカット!と監督の声がかかり、何テイク目?と女性スタッフナオ役の日暮晴美(しゅはまはるみ)がうんざりしたように聞くと、42ですと助監督が答える中、逢花に近づいた監督役日暮隆之(濱津隆之)が、今の表情、本当の恐怖出てた?恐怖は出すんじゃないの!出るの!と苛立たしそうにダメ出しをする。

お前にそれが出ないのは、お前の人生そのものが嘘ついてばかりだからだよ!と日暮は壁を叩いて説教し出したので、側で見ていた神谷はやり過ぎだよ…と呟く。

それでも日暮は、これは俺の作品なんだよ!と興奮して言い返したので、一旦休憩入れよう!と晴美が提案し、30分の休憩です!と助監督が声をかける。

監督、いつもあんな感じなんですか?と神谷から聞かれた晴美は、今日は一段と荒ぶってるな…と教える。

カメラマンの細田学(細井学)が、ちょっと外に空気を吸いに行くわと言い残し、ロケ現場である倉庫を出て行く。

神谷がすっかり気落ちしている逢花に、大丈夫?あいつ、マジやばいって…、マジ狂ってるよ!と声をかけ慰める。

しかし逢花は、最後、もっとがって強く噛んで来てと女優魂を見せて来たので、今日俺行って良い?早く風呂に入りてえ!などとぼやきながら、神谷は逢花と階段上の休憩所に向かう。

晴美はそんな2人に水を出し、42テイクはヤバいよ、あいつおかしいってと2人の俳優に同情する。

ケンちゃん役の神谷は、普通、映画用の斧に本物なんか使わないでしょうとナオ役の晴美に訴える。

その時、ポリバケツを持ったスタッフ役の山ノ内洋(市原洋)が、屋上にありったけの血糊持って来いって監督が…とぼやきながら外に出て行く。

いつもあんなんですか?と神谷が聞くと、映画に夢中過ぎて、あれで随分借金なんかもしたみたいよ…と晴美が日暮監督のことを教える。

その時、椅子から立ち上がった逢花が、もっと集中しないと…と自分に気合いを入れ始めたので、座って、真面目ね本当に…と晴美がなだめる。

良くこんな場所を見つけたものですね…と神谷が、ロケ場所の工場のことを言い出したので、あの監督が何百箇所も回って見つけたみたいよ…、まあマジものらしいけどねと意味有りげなことを言うので、神谷がもっと詳しく聞きただすと、ネットなんかで噂の都市伝説みたいなものよ…と断りながら、この浄水場、昔は日本軍が人体実験やってた所らしいの…、死人を生き返らせたのだとか…と晴美は真顔で教える。

それって…と逢花が怯えた表情をしたので、この噂には続きがあるのね…と晴美が話そうとしたとき、近くの扉がドン!と大きな音を立てたので、その休憩所にいた晴美、神谷、逢花の3人は凍り付く。

しかしその後何事も起きなかったので、マジビックリした~!タイミングがなぁ…と神谷がぼやく。

そして急に、ところで晴美さんって趣味は何ですか?と唐突に神谷が話題をかけたので逢花は驚くが、楽しい話しましょうと神谷は言う。

すると晴美は、今、護身術を勉強してるの、こう云う仕事してると若い子に会うことが多いじゃない?空いた時間に若い子に教えたりしてるのよと答える。

護身術?例えば?と言いながら神谷が立ち上がると、かかってきてみてと晴美が言うので、言う通りに前空手を延ばして抱きつこうとすると、こう!と言いながらあっさり交わす。

後ろからは?と神谷が聞くと、同じく後ろから抱いて来るように指示した晴美は、ポンッ!とかけ声とともに両手を上に伸ばす。

すると、栓が抜けるように神谷の両腕が外れたので感心し、ポンッ!と言うのはと聞くと、それを言うのと言わないのでは全然違うのよ、抜け方が…と晴美は真顔で教える。

その時、音声の​山越俊助(山﨑俊太郎)が外に出て行く。

建物の外でタバコを吸おうとしていた山ノ内は、突然背後から容貌がゾンビのように一変した細田が顔を近づいて来たので、びっくりした!それ、やってもらったんですか?と、顔の異変をメイクだと思って聞くと、いきなり細田が反吐を吐きかけて来る。

その直後、休憩所にいた3人の側に入り口から片手が飛んで来て床に落ちたので、それを見た晴美は、こんなの作ったっけ?と片腕を見つめる。

神谷もメチャメチャリアルじゃないですか!気持悪い!と小道具だと思っていたので驚きを口にする。

その時、入り口から右手を失った山ノ内がふらつきながら入って来たので、まだメイクだと思っていた晴美は、誰にやってもらったの?監督?と山ノ内に話しかける。

しかし山ノ内はその場に倒れ息絶えたので、死んじゃった…、何ドッキリよ!と、まだ作り物だと思っているナオは呆れたように言うが、死体の様子を側で観察した神谷は、死んでる!マジで!とビビる。

その時、入り口からゾンビ化した細田が入って来て逢花に襲いかかろうとしたので、嘘だろう!と言いながらも、神谷は落ちていたマイクのブームを使って細田を外に押し出す。

まさか!と逢花が言うので、そんな分けないわよ!あり得ないわよ、そんなの!と晴美は逢花が思いついたであろうことを否定する。

しかしその時、死んだはずの山ノ内が立ち上がったので晴美も逢花も逃げ出すが、落ちていた山ノ内の右腕を拾い上げた神谷は別の入り口目がけて走り、開いていた扉から右腕を外に投げ出す。

すると神谷を追って来た山ノ内のゾンビは、自分の右手を追うように外に出て行ったので、神谷は急いで戸を閉めて施錠する。

怯えていた逢花に、突然、日暮監督がカメラを持って近づいて来たので、監督、何やってるんですか!と神谷が聞くと、何って、撮影だよ!俺の映画だよ!ここには嘘が1つもない!本物だ! と日暮は満足げに答える。

そして、撮影は続ける!カメラは止めない!とカメラ目線で日暮は宣言する。

そして屋上を指差した日暮は、血はもう撒き終えたと言う。

あの噂は本当だったなんて!と晴美が驚くと、あれはちょうど1年前だった、俺はこの台本を書いていた…と日暮は入り口付近で話し始めるが、その時、はちまき姿の山越がドアから外へ出ようとしたので、何だ?お前…と日暮が聞くと、山越は、ちょっと…とだけ答える。

ちょっとって何だよ!と日暮は絡むが、山越は日暮を押しのけて扉から外に出て行く。

日暮は再び、撮影は続ける!カメラは止めない!と言いながら自分も扉から外に出たので、神谷はとに内側から鍵をかけ、怪我はないですか?と晴美と逢花に確認する。

逢花が大丈夫だと言うと、怪我がないのが何よりです、本当に良いことよと晴美は答える。

その時、神谷が携帯をかけようとしたので、ムダよ、ここら完全に圏外…と晴美は教える。

さらに、血の呪文を唱えるとそれは蘇る…と意味有りげなことを言い出した晴美は、今すぐ逃げるわよ、外の車で!と逢花と神谷に言うが、怯えた逢花は、それは何ですか?一体ここで何が起きているんですか?と問いかける。

奥の入り口の所に3人が来た時、外から、開けろと日暮の声がし戸を叩いて来る。

逢花は斧を構え、用心深く神谷が扉の鍵を開けると、日暮が先ほど外に出た山越を室内に押し込んで来る。

山越はゾンビ化していた。

そして、本物だよ!最高だろう!おい!と興奮しながら日暮はカメラを撮影していた。

斧を持っていた晴美は、化物が!と言いながら斧を薙ぎ払い山越の首を切断すると蹴って倒す。

すると神谷も一緒に入って来た日暮を蹴り飛ばして、逢花と晴美と一緒に外に逃げ出す。

3人は車の所に来るが、鍵がないことに気付く。

誰が持ってるの!と晴美は焦るが、多分、監督…と逢花が答えている時、ゾンビ化した山ノ内が突然車の横手から現れ窓ガラスを叩いて来る。

逢花は襲われそうになったので、恐怖で外に飛び出して行くと、山ノ内が持っていた鞄を奪い取って逃げる。

それを追って行く山ノ内の姿が、地面に置かれたカメラからずっと写されて行く。

逢花は別の建物内に逃げ込むが、反対側の入り口からゾンビ化した細田が襲って来たので袋のネズミ状態になる。

その時、背後から追って来た山ノ内をさらに追って来た神谷が蹴り倒し、逢花と一緒に元の倉庫の方へ戻る。

晴美さんは?と逢花が聞くと、大丈夫中にいると神谷は答える。

そんな2人をさらに片腕の山ノ内が追って来たので、倉庫の前にたどり着いた神谷はとを叩いて、晴美さん!俺!開けて!と声をかける。

すると晴美が中から扉を開き2人を入れてくれる。

工場内に入りほっとした逢花だったが、その時ふと自分の右足のくるぶしの近くに血の痕が付いているのに気付く。

するとそれに気付いたらしい晴美が、噛まれたの?と聞いて来たので、ただの切り傷かも…と逢花は狼狽するが、斧を持った晴美の表情は常人ではなかった。

神谷が落ち着きましょうとなだめると、落ち着いているわよ、私…と答えた晴美の目は異常だった。

神谷は、逢花に近づこうとする晴美を捕まえようとするが、ポンッ!と言うと、得意の護身術で晴美は振りほどいてしまう。

その間に逢花はその場から逃げ、又扉から外に飛び出すと、そこには山ノ内と山越のゾンビが待ち構えていたので、助けて!と叫びながら逢花は屋上へ続く階段を登り始める。 すると斧を持った晴美が追って来る。

屋上へ昇った逢花に、大丈夫と言いながら晴美が迫って来る。

神谷も屋上に上がって来ると、止めて!止めて!カメラを!と哀願し、逢花は悲鳴をあげる。

逢花の悲鳴顔が続く間、背後では、ポンッ!と言う晴美の護身術のかけ声が聞こえる。

やがてカメラが振り返ると、そこには頭に斧が刺さった晴美が倒れていた。

神谷が逢花に抱きついて来る。

しかし逢花は、私から離れて!近づかないで!と晴美を殺した神谷を押しのける。

千夏!と呼びかけた神谷だったが、急に後ろによろける。

その間、千夏役の逢花は又階段を使い地上に降りる。

そこには山ノ内と山越のゾンビが死んだように倒れていた。

赤い色で描かれた五芒星の落書きがある小屋に逃げ込んだ逢花はしゃがみ込む。

さっき気付いたくるぶし付近の血を指でそっと剥がしてみると、それは撮影用のシールだった。

そこに誰かが入って来たので、それを見た逢花は思わず口を押さえる。

外へ飛び出した逢花は斧が落ちていたので、こんな所に斧が!ついてるわと喜ぶ。

コウちゃん!と呼びかけながら又階段を登って屋上へ向かった逢花は、頭を斧で割られた晴美が倒れている側で後ろ向きに立っている神谷を見つけるが、様子がおかしいので、あれ?と立ち止まる。 振り向いた神谷の顔は血で染まり、もはや人間の顔とは思えなかった。

そこにカメラを手に現れた日暮が、それだ!その顔だよ!できるじゃないか!これで決めるぜ!と逢花に指示して来る。

ゾンビ化した神谷が逢花に迫って来たので、コウちゃん!止めて!と逢花が叫ぶと、何故か律儀に神谷は動作を止める。

しかしすぐに又動き出したので、お願い止めて!と逢花が哀願すると又神谷の動きが止まる。

何度か同じようなことを繰り返した後、愛してる!と叫びながら逢花は持っていた斧で迫って来た神谷の首を切断する。

それを見た日暮は、お前は何やってるんだ!台本どおりにやれよ!と逢花に迫って来たので、思わず神谷と晴美の死体の横をすり抜け、屋上の反対側の窪みに逢花は飛び降りると、追って来た日暮に斧を何度も振り下ろす。

血しぶきが逢花の顔にかかる。

全身血まみれになった逢花は呆然とした表情のまま、屋上のある場所へと向かう。

そこには血のような赤い色で大きな五芒星が描かれており、逢花はその真ん中に立つと振り返る。

上部からカメラが立ち尽くす逢花の姿を写し続ける。

エンドロール 「ONE CUT OF THE DEAD」と言う英語タイトルと「カメラを止めるな!」と言う日本語タイトルが映像に重なる。

監督:日暮隆之、製作:ゾンビチャンネルの文字

はい、カット!と叫ぶ日暮の声。 都会の風景 1ヶ月前… ハイ、OK!と叫ぶ日暮。

屋上で立っていた役者は、今噛んだんだけど…と言うが、大丈夫、ここはナレーション被せるだけですからと日暮は説明するので、今のは何のシーンだったんです?と役者は戸惑う。

続いて、置かれていた車いすに座り、次は泣くシーンですと指示された役者は、ここどんな状況でしたっけ?と聞くが、大丈夫です!と日暮は答え、助監督が役者に目薬を機械的に差し始める。

そんな撮影現場にやって来たのは、馴染みのプロデューサー古沢真一郎(大沢真一郎)だった。

お久しぶり振りですと日暮が挨拶すると、この後時間あるかね?と古沢は聞いて来る。

君の売りは何だっけ?と聞かれた日暮が「早い、安い、質はそこそこ…」と自嘲君に答えると、合格かもしれんねと古沢がその後紹介した大阪弁の女プロデューサー笹原芳子(竹原芳子)は満足げに笑う。

笹原は、8月から「ゾンビ専門チャンネル」を始めるので、開局記念としてほんまもんのゾンビものを作りたい、生中継で昼の1時から30分!熱々ポイントはワンカメラで、最初かえら最後までワンカット!カメラ止めませんと言うので、聞いていた日暮はあっけにとられ、そんな無茶な企画ある訳ないでしょう!と苦笑する。

しかし笹原はマジやで…、やっていただけますか?と聞いて来る。 台本には「カメラを止めるな!」とタイトルが印刷されていた。

自宅のTVで「森岡流護身術」のビデオを見ていた晴美から、何でそんな企画が来たの?と聞かれ、もちろん断ったんでしょう?あんたにそんな度胸ある訳ないしね…とからかうように言われた夫の日暮は何も答えなかったが、そんな2人を無視して娘の真央(真魚)がソファーを踏んで部屋を出て行く。

そんな真魚を見送った日暮が、今度の現場大丈夫なんだろうな?と聞くと、あんた今日現場休みなんでしょう?見に行って欲しいのと晴美は頼む。

真央はとある撮影現場で助監督をやっていたが、そっと日暮が物陰から見ていると、まだ幼い子役に最初から目薬に頼るんじゃなく、哀しいことを思い浮かべて泣けないかな?と説得していた。

見かねた子役の母親が、監督は目薬で良いとおっしゃってましたが?と口を出して来たので、ここは戦場なんですと真央は言い聞かそうとするので、母親は苛立つ。

そこにやって来た監督が、時間内からこのままじゃ撮り上がらないぞ、ババアが何か言っても無視しろ!と真央に注意して来る。

するとそれが聞こえたのか、ババアって誰のことです?と子役の母親が文句を言って来る。

そんな現場監督に日暮が対面して真央の仕事振りを聞くと、基本的には申し分ないので助かっているんですけど、うちじゃもうダメかな…と監督は扱いあぐねていることを打ち明け手来たので、すみませんでしたと日暮は頭を下げる。

日暮は真央にちょっとは妥協しないと…、来月から1人暮らしだろう?良いもの作りたいって言うのは分かるけど…と言い聞かせると、怒ったのか、真央は持っていた目薬を投げ捨てて去って行く。

自宅では、日下部泰三と言う人物の再現ビデオを見ていた晴美が、これ目薬でしょう?と車いすに座って涙するシーンを見ながら日暮に指摘する。

そこに真央がやって来て、替えて良い?と言うので、TVのチャンネルを譲ることにすると、真央が付けたビデオには見知らぬ若者がインタビューを受けている所だった。

誰?と日暮が聞くと、最近のお気に入り…と晴美が真央の趣味を教える。

次回作のことを聞かれたその新人男優は、あれ言って良いのかな?と側にいるらしいマネージャーに確認を取り、血まみれになりますとだけ答える。

晴美が俳優年間で調べてみると、その若い男優の名は神谷和明と書いてあった。 いよいよ「カメラを止めるな!」のスタッフ、キャスト顔合わせに日が来る。

ヒロイン役の松本逢花は、ゾンビも乗って一度やってみたかったんです!とお世辞を言い、大沢から求められると、お馴染みポーズの「アイタンビー!」もためらう事なくやってみせて愛想を振りまいていた。

対照的に神谷和明は、この作品には人種差別の意図が隠されているような気がしますなどと1人生真面目な態度を崩そうとしたなかった。

カメラマンの細田は既にここでも酒を飲んでいた。 助監督の山ノ内は神谷の解釈を聞き、どこが人種問題なんですか?と突っ込むが、神谷は今集中していますのでと言って相手にしなかった。

音声の山越は、用意されていた水のペットボトルを見て、これ硬水ですよね?自分軟水しか飲めないんですよ、メール入れといたはずなんっすけど?と女性スタッフに注意していた。

劇中での監督役黒岡大吾(イワゴウサトシ)も出席し本読みを始めようとしていた時、遅れて部屋に入って来た劇中でのメイク係相田舞(高橋恭子)は、主人が仕事で預かれないもので…と言い訳しながら赤ん坊を抱いていたので、本読みの最中、その赤ん坊が泣き出し、一同は迷惑がる。

そんな中、ゲロを浴びるのはNGかも…、私は良いんですけど事務所的に…と逢花が言い出したので、日暮は、ゲロと行ってももちろん偽物ですけど…と説明するが、ゲロ、カットしましょうか…と妥協すると、宜しくで〜す!と逢花は軽くいなす。

助監督が、ゾンビが斧を使うと言うのはどうなんですかね?と疑問を口にすると、今は色んなゾンビがいますから…と山ノ内がフォローするが、ちょっと健闘させて下さいと日暮は答える。

プロデューサーの古沢は、泣いている赤ん坊にベロベロバ〜などとあやしていた。 酩酊状態の細田はこの間も眠りかけており、机に自分の頭をぶつけていた。 そんなクセの強いキャストばかりなのを日暮は苦々しそうに見ていた。

立ち稽古が始まり、カメラの動きなども確認し始めるが、カメラ助手の松浦早希(浅森咲希奈)は、カメラマンの谷口智和(山口友和)に自分なりのアイデアを提案するが、お前には無理だ、やらせないよと谷口から念を押される。

日暮家では、1人住まいのための荷造りをしていた真央が晴美に、母さん、又始めたら?女優…、どうせ私、家出て行くんだからさ…、いつもあいつの台本読んでるじゃない…と勧めていた。

何でこんなのばかり見てるのよ?と相変わらず護身術のビデオを見ている晴美をからかうと、護身術は趣味になるでしょう?これまで、ヨガ、社交ダンス、フラダンスもやって無我夢中になれるものを探してるのよと晴美が言うので、それが女優でしょう?と真央が突っ込むと、女優が夢中になり過ぎちゃうのよ!と腹立たしげに答えた晴美は、もうこの話は終わり!と自分から台所に逃げるが、今度ドラマの監督やるみたいよと付け加える。

神谷君好きだよと良いながら、真央も置いてあった「カメラを止めるな!」の台本を手に取って読み始めるが、そこに日暮が入って来たので真央はすぐさま部屋を出て行く。

外での段取り芝居が始まる。

日暮は役者からの注文を聞き、ちょっと考えます、説得しますなどと答えていた。

頭の泣く所、目薬で良いですか?と逢花が言い出したので、分かりましたとあっさり日暮は妥協する。

逢花はいつものように、宜しくで〜す!と軽く答える。

山越は女性スタッフに、現場のトイレってどうなってます?と聞くので、一応仮設を用意しますがとスタッフが答えると、個数と場所教えて下さい、メールもしたんですけど?と女性スタッフに念を押させる。

チェアに腰を下ろしていた日暮の横のチェアに座った細田は、なかなかくせ者揃いですねと変人ぞろいの役者たちのことを言うので、細田さんが言いますか?と日暮は呆れる。

すると細田は、禁酒した!これが終わるまで飲まないと言い出し、自分の台本のページに挟んでいた娘の写真を見せながら、手が震えてるって、娘に何度も絶縁されました…と打ち明け始める。

せっかくにチャンスをもらっても朝から飲んで現場で意識が飛んじゃったりして…、悔しいですよ…、巧く行かないな〜…とぼやいた細田は、次ぎの瞬間嗚咽を漏らし始めたので日暮は、細田さん、ちょっと!と慌てる。

その日、帰宅した日暮は、幼かった頃の真央を肩車してうれしそうに写っている過去の自分の写真を見ながら落ち込んでいた。

そこに晴美が顔を見せ、そんなに現場が辛いの?と聞き、ちょっとお願いがあるんだけど…、あのね…と言い出す。 いよいよ撮影当日のロケ現場 晴美は夫に無理を言って、娘の真央と一緒に現場に見学に来ていた。

プロデューサーの古沢は真央に映画監督志望なの?などと話しかけ、やっぱり子供は親の背中を見て育つんですね〜などと心にもないお世辞を言う。

日暮はキャストを集め、多少のミスはそのまま無視して続けて下さい、ただくれぐれも無茶はやらないようにしましょうと最後の確認事項を伝えていた。

そこに女性スタッフが、イケメンプロデューサーからの差し入れですと言いながら日本酒の一升瓶を持って来たので、日暮は慌てて撮影がすむまで酒を隠しておくように指示する。 ところがそこに大変です!とスタッフが駆け込んで来る。

追突事故で、2人一緒の車で来ていた監督役の黒岡と相田が2人とも出演できなくなったのだと言う。

それを聞いた古沢は何とかしましょうと考え、代演にしましょうと提案するが、ここへは東京から2時間かかりますから無理ですとスタッフが反論する。

それでも古沢は、とにかく中止はできませんと言うので、マジですか?とスタッフたちは青ざめる。

その時、こう見えても高校時代は演劇部でしたと日暮が言い出したので古沢は考え込む。

でもメイク役はどうします?とスタッフが聞くと、こう見えても元女優です、台本も読んでいますと、晴美の左手を持ち上げた真央が言い出す。

最初は戸惑っていた晴美だが、意を決したかのように、台本100回読んでいますと言うので、古沢はそれで行きましょう!と決心する。

しかし妻が出演すると知った日暮は困惑し、それだけはダメ!と断ろうとする。

それでも古沢が中止できません、テレビ放送があるんです、テレビの前で見てる人がいるんです、お願いします、これは君の作品なんですと言うので、日暮はそれ以上言えなくなってしまう。

山越は自分の名前が入った軟水のペットボトルと間違えて、近くに置いてあった他人用の硬水の水をうっかり飲んでしまったため腹の調子がおかしくなっていた。

カメラマンの谷口は既に腰の調子が悪くなっていた。 古沢は、監督が監督役って売れるかも!と決断する。

それを聞いた逢花は、宜しくで〜す!といつものようにお気楽な挨拶する。

では皆さん、いよいよ始まります、ワンカメラ、ワンカットですから、始まったらカメラは最後まで止めません、宜しくお願いしますと日暮が挨拶し、撮影がスタートする。

テレビ局で他のスタッフとともにモニターを見ていたプロデューサー竹原芳子は、よっしゃ行こう!頼むで〜と笑顔で期待する。

真央はベースでモニターを見つめるスタッフたちの背後から熱心に見守っていた。

階段横に追いつめられた逢花を日暮がダメ出しをするシーンを見た古沢は、監督、良いじゃん、役者だね〜と感心するが、モニターを見ていた女性スタッフ吉野美紀(吉田美紀)は、アドリブ入れてますけどねと台本と違う点を指摘する。

逢花はカメラが他を向いている間に目薬で涙の用意をする。

テレビ局で見ていた竹原は、この子しばらく見んうちに巧くなったね〜と感心する。

ベースに日暮が、つい熱が入っちゃって…と言い訳しながら戻って来るが、その時、山越がよってふらついてますとスタッフが報告に来たので、驚いて様子を見に行くと、先ほど隠したはずの差し入れの一升瓶が空になっていた。

酩酊状態のままメイクを施された山越は、ふらつきながら外に出て行く。

外で待機していた日暮の所にスタッフが細田さん来ません!と言うので、周囲を見渡すと、細田が完全に酔いつぶれてた俺ているのを発見する。

細田さん!と呼びかけながら山越を抱き起こした日暮は、酒臭え!と顔をしかめ、カンペ出して!とスタッフに指示する。

日暮が泥酔した細田を抱き上げ倉庫の入り口に外から近づけようとしたとき、細田が戸に倒れ掛かり大きな音を立ててしまう。

中の休憩所シーンで芝居をしていた晴美、神谷、逢花の3人は台本にない突然の音で驚いていたが、入り口の方を見ると、スタッフが「トラブルなのでアドリブで繋いで下さい」と書かれたカンペを差し出しているのに気付く。

それを見た神谷は、マジビックリした、タイミングがな〜…とアドリブを入れ始める。

さらに、ナオさんって趣味あるんですか?と神谷が言い出したので、何?と逢花は驚くが、晴美もアドリブで、趣味っていうか護身術を勉強してるのよね〜と自分もアドリブで答える。

ポンッ!などと晴美が護身術を披露し出したので、モニターを見ていた古沢は、これ、何やってるの?と戸惑う。

ベースでモニターを見ていた真央も母親のアドリブ芝居に呆れていた。

日暮は何とか細田を起こし、山ノ内の背後に迫るシーンのため細田の身体を後ろから支える。

煙草を吸いかけた山ノ内が気配に気付き振り返って細田に気付く芝居をするが、酔った細田は反吐を吐きかけてしまう。

本当の反吐を顔に浴びせられた山ノ内は、これ何ですか〜?と狼狽するが、スタッフたちは構わず、ちぎれた右手の作り物を倉庫内に投げ入れると同時に、右手がちぎれたギミックを山ノ内に装着し始める。

又地面に倒れていた細田を、次のシーンのため日暮と女性スタッフが抱えて遠くの入り口の方へ運んで行く。

テレビ局でモニターを見ていた笹原はリアルだね〜と喜んでいた。 倉庫内で外へ逃げる決心をした晴美たちが離れた入り口の所へ来た所で、外で細田の身体を支えていた日暮がドアを開ける。

その時意識を取り戻した細田がもう始まる?と聞いて来たので、もう始まってますと日暮は答える。

その頃、腹を壊した山越が勝手に倉庫の外に出ようとしたので、慌てて女性スタッフが止める。

晴美がゾンビ化した細田の首を斧で切断する芝居をし、スタッフが切断された首と身体の作り物を倉庫内に投げ入れる。

監督が倉庫内に入り芝居を始めている時、腹の調子がさらに悪化した山越が又外に出ようとするので、ちょっとどこに?と日暮が慌てて聞くと、ちょっと…と山越は困ったように答える。

そんな芝居を見ていた女性スタッフ​栗原綾奈(合田純奈)は、アドリブで繋いでる…、あかんやろうとつい大阪弁で呟く。

しかしモニターで見ていた笹原は、ほんまマジで受けるわ、又1人やられたで…と上機嫌だった。

さすがに現場スタッフはこれ以上は無理と判断し、絵を準備しろと「しばらくお待ちください」と書かれた放送事故用のフリップを用意させるが、古沢はカメラは止めさせないと言い張る。

カメラが外れたので外に出た日暮はしゃがんでいた山越に、どうしたんですか?と聞くと、ウンチ…と山越は恥ずかしそうに答える。

ベースでは女性スタッフが放送事故になりますから一旦停めましょうか?と提案するが、その時、背後で事態を見守っていた真央が、山越さんをゾンビにすれば15ページに戻せますと言い出す。

それを聞いた女性スタッフ吉野も台本を読み直し、確かに繋がりますと気づいたので、真央はおっさん、判断!と古沢に決断を迫る。

外にいた日暮は「山越をゾンビにして戻します」と書かれたカンペをスタッフから見せられ、山越さんをゾンビにして!このままやってくれ、時間がないんだ!とメイクに頼んだので、メイクは当惑しながらもしゃがんで野糞をしている山越にそのままメイクし始める。

山越は恥ずかしさのあまり泣き出す。

ベースでは真央が率先して指示を出し始めたので、何者!と他のスタッフは驚く。

現場では神谷、逢花、晴美の3人が倉庫の外に飛び出し外の車まで走るシーンを続行していたが、カメラマンを追っていた助手が転んだりする。

晴美はもはや役に没入しており、化物は全部ぶっ殺す!とハイテンション状態になっていた。

車に到着するが鍵がないことに気付くシーンの横で、付いて来た日暮が血糊をつけられていた。

車の外に飛び出した松浦早希がゾンビ化した山ノ内と戦うシーンでカメラが地面に落ちたまましばらく動かなくなる。

カメラマンの谷口がばてて倒れていたのだ。

モニターを見ていた古沢は、どうした?どうした?と動かない画面に戸惑っていた。

やがてカメラが持ち上がり、逃げて行く逢花と追う山ノ内を追出したので、スタッフ吉野美紀は動いた、動いた!と喜ぶが、急にカメラが前方に回り役者の表情を映し出したので、カメラマン変わった?と戸惑う。

どうなってるんですか?と現場も混乱状態だったが、すっかり役に没入していた晴美はさっさと行け!と怒鳴りつける。

ベースで戸惑うスタッフたちに、お母さんは役に入ると我を忘れるんです、結局それで引退…と言うか追放されたって…と真央が説明する。

興奮状態になった晴美は、ゾンビ役の山ノ内と山越を蹴飛ばしながら逢花を追って階段を登ろうとする。

それを日暮が止めようとするが、晴美は夫も蹴飛ばして階段を登って行く。

屋上シーンではよろけた神谷が、クレーンを持って待機していたスタッフにぶつかり、クレーンが地上に落ちてしまう。

屋上に上がって来た日暮は暴走している晴美を止めようとしがみつくが、晴美は得意の護身術で、ポンッ!と言いながら外し続ける。

日暮は、許せ!と言いながら晴美の首に腕を巻き、絞め落す。

その間、悲鳴をあげる逢花の顔にカメラを向けさせたまま、日暮はその場に待機していたメイクスタッフに、気絶して倒れた晴美の頭に斧が刺さったように仕掛けをさせる。

ミニターを見ていた古沢は、ずっと逢花のアップシーンが続くので、ちょっと長くないですか?と不満を漏らす。

その時、ようやく準備が整ったので、日暮が合図をし、カメラは斧が頭に突き刺さった晴美の姿を映し出す。

しかし、屋上スタッフは、斧、どうしましょう?最後に使うんですけど?と晴美の頭に使ってしまった斧の替えがないことを日暮に囁きかける。

階段を降りた逢花が小屋に逃げ込むシーンになるが、そこに入って来たのはTシャツにパンツ姿の山越だったので、逢花は驚いて自分の口を両手で塞ぐ。

ベースに戻って来た日暮はクレーンが使えない、カメラを4m上げないと!と悩んでいた。

ラストシーンで逢花が立つ屋上の血の呪文を示す五芒星を上から写さないといけなかったからである。

必要なんです!テレビで見ている人がいるでしょうが!と日暮は古沢に詰め寄るが、ふと我に返り、すみません、取り乱しましたと詫びる。

作品の前に番組なんですと古沢が言うので、ラストは千夏の足下から顔へのアップにしましょうと日暮は妥協しかけるが、その時、待った!と声をかけたのは真央は、今動けるのって何人いる?とスタッフに聞く。

屋上ではまだシーンが続いており、コウちゃん!と逢花が呼びかけていたが、その時急に気がついた晴美が逢花の前に立ち上がり、何あれ!と叫んだので、驚いた日暮は慌てて晴美を後ろに引き倒す。

晴美が驚いたのは、クレーンの代わりに手の空いたスタッフとキャストが屋上に集まり人間ピラミッドを作ろうとしていたのを見たからだった。

コウちゃん止めて!私よ、私!逢花は迫り来る神谷にそう芝居を続けていた。

だが人間ピラミッドは、3段目に乗ろうとする女性スタッフが何度もバランスを崩して落ちていた。

逢花が神谷の首を斧で切断するシーンになったので、スタッフが首と首なし人形の作り物を持って待機するが、シーン直前で首が転がってしまう。

辛うじて下にいたスタッフが首を受け止め投げ渡し、何とか斧を振るった逢花の動きに間に合う。

台本どおりやれ!できるじゃないか、その顔だよ!と役者に戻った日暮が逢花に迫り叱りつける。

逢花が日暮を追って屋上の一団低い部分に飛び降り、斧を振るうと、そこで待ち構えていたスタッフが、バケツに入れた血糊をホースで逢花に吹きかけ、返り血に見せかける。

その間、首を切られて死んだことになった神谷もピラミッドの所へ走り、落ち続けている女性スタッフを押しのけ自分が3段目に登る。

ピラミッドの一番上に駆けつけた日暮が登り、カメラを持った真央を肩車して持ち上げる。

五芒星の所に来た逢花が振り返ると、逢花が上から構えたカメラが捉える。

番組のエンドロールが重なる15秒間、人間ピラミッドを作っていた細田や山ノ内、山越、日暮、他のスタッフたちも最後の力を振り絞ってカメラを支えきる。

肺、カット!と叫ぶ日暮の声と同時に真央がカメラを空に振り、無事番組は終了する。

テレビ局でモニターを見ていた笹原は、始まる前はどうなるかと思うてたけど、本番はトラブルもなく良かったよ!と大満足の笑顔を見せていた。

現場ではスタッフもキャストも安堵の笑みを浮かべていた。

そんな中、真央は日暮に、幼い時分を肩車して移っている昔の写真を差し出す。

それを見たにグレは満足そうに笑う。

カメラが現場の建物から上がって写して行く。 はい、本番行きます!よ〜い、スタート!と日暮の声が響く。

神谷が工場内の階段横で逢花を追い込む芝居が始まる。

エンドロール(メイキング映像とともに) 
 


 

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