白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

何処へ('66)

石坂洋次郎原作だけに古い学園物のパターン通りの展開で、冒頭からエレキの音が混じっているように加山雄三さん主演らしいモダンな要素も若干加わっているが、特に目新しさはない。

とは言え、芸者役の星由里子さんが現代劇にしては珍しく生き生きとしたキャラクターで描かれており、真面目一方の加山さんのキャラより魅力的に見える。

他にも池内淳子、沢井桂子、山茶花究、東野英治郎、渥美清、沢村いき雄、田崎潤と言った顔馴染みの役者が登場している他に、中学生役として二瓶康一こと火野正平さんが後半出番が多いのも楽しい。

渥美さんと加山さんがしっかり共演しているのもあまり見た記憶がない。

学校の教師やPTA関係者はエキストラだろうが、宝塚映画製作と言うこともあり、かつての東宝大部屋の常連方ではないが雰囲気はぴったりな方々ばかり。

内容は、一見モテモテの新任教師を巡る地方都市のちょっとした騒動と言ったありがちな展開で、特に大事件が起きる訳ではないが、のんびりした地方都市の雰囲気が楽しめる明朗青春ものみたいな雰囲気になっている。

「若大将」シリーズの加山さんが大活躍する「坊ちゃん」風の展開になるかと思いきや、実際に活躍するのは女性たちで、後半になると加山さんのキャラは回りから置いてきぼりを食らう孤独な存在に成り果てる。

新任の青年教師が大活躍をする学園ものとはちょっと様相が違っているのだ。

全体的に女性の方が生き生きとしており、男性陣はふわふわと地に足が付いていないような生き方をしているかのような描き方になっている辺りが、時代の変化を感じさせる。

ちょっと気になるのは、劇中に和田弘とマヒナスターズ&田代美代子のヒット曲「愛して愛して愛しちゃったのよ」が出て来る所で、ワンフレーズだけとかではないので、ソフト化などした時は音楽著作権を払っているはず。

加山さんの「俺は海の子」や「ブラックサンド・ビーチ」が聞けるのも楽しい。

東宝が製作から身を引き出した時期の下請け作品と言った所だろうが、地味ながら軽いタッチで十分に楽しい文芸作品になっている。 
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1966年、宝塚映画+東宝、石坂洋次郎原作、井手俊郎脚色、佐伯幸三監督作品。

エレキと琴で奏でるメロディに乗せタイトル、キャスト、スタッフロール(0系新幹線の映像)

岐阜羽島駅 改札口を出て来た伊能琢磨(加山雄三)は、伊能先生!伊能琢磨先生ですな?と背後から近づいて来た石黒清一郎(沢村いき雄)に呼びかけられる。

お迎えに参りました、学校があります玉田市は、ここから西南方約13.5kmの所にありまして下宿も用意してあります、日当りの良い東向きの部屋で主人は農協に勤めている温厚篤実な方でして…、さらびその娘さんに独身の美人さんがおります、絶対に気に入ります!などと、お話中ですが…と話に割り込もうとする伊能を制し一方的に石黒が話す。

さあと伊能のバッグを受け取ろうとする石黒を止め、下宿はどこでも構わないんですけど、僕はまだあなたが誰か知らないんですと伊能は言う。

失礼しました、私は玉田第一中学の事務の方をやっております石黒清一郎でありますと自分のうかつさを笑ってごまかしながら挨拶する。

そこに、先生!石黒先生!と近づいて来て、ちょうど良い所であったわ、百円貸して!煙草買いたいんだけど細かいのがないのよなどと無遠慮に石黒に甘えたような言葉をかけたのは芸妓新太郎(星由里子)だった。

大きいのは持っておるのかね?と石黒が聞くと、失礼ねと言いながら、慎太郎はバッグの中から一万円札を取り出したので、偽札じゃないだろうな?と石黒はからかう。

大丈夫よと答える慎太郎だったが、先生、細かいのをお持ちじゃないですか?私あいにく細かい持ち合わせがなくて…と石黒が言い出したので、伊能は慌てて小銭を探し、ありますよ、どうぞとポケットの中に入っていた100円玉を渡す。

ありがとうございます、初めての方にと喜んだ慎太郎はその100円玉を持って売店へと戻る。

すると石黒が、先生、実は私、この通り細かいのは持っておりますがなと言いながら小銭入れをスーツから取り出すと、他人に軽率に金を貸さない方針をとっております、今度から先生も気をつけられた方が良いですなと忠告し、参りましょうと言う。

駅の外に出ると、先生!お送りしますわ、お金を借りたお礼に!と車を運転した慎太郎が降りて来て誘う。 すると石黒はバス代が浮きましたと言うので、伊能も一緒に車に乗り込む。 駅までお客さん、送って行ったのと運転しながら新太郎が言うので、後部座席に座った石黒がこれかねと言いながら親指を差し出して来たので、あら、そんなんじゃないわと新太郎は否定する。 そして助手席に座った伊能に、ねえ、その煙草、1本抜いて下さらないと慎太郎はダッシュボードの煙草を見ながら頼む。

伊能が1本抜いてやると、早く!とねだるので慎太郎にくわえさせると、そのまま口を向けているので、すぐに自分のポケットから出したライターで火を点けてやる。

新太郎は店に着いて中に入るなり、あら、姉さん、美容院じゃなかったの?と姉の才太郎(池内淳子)に声をかけ、一緒に中に入った石黒も、昼間っからやっとるね!とからかう。

あら石黒先生、例によって迎え酒!と、カウンターの前にいた才太郎はコップ酒を片手にうれしそうに答える。

私お腹空いちゃったわ、二階空いてる?と新太郎が女店員に聞く。

二階に上がって落ち着いた新太郎と才太郎に石黒は、こちらは今度玉田中学に赴任された英語の伊能琢磨先生!と紹介する。

こちらが、すぐそこに「ひさご屋」の才太郎姉さんと、そこのぴか一の新太郎君ですと伊能に石黒が紹介すると、どうぞ御贔屓に!と新太郎が笑顔で挨拶する。

伊能も、宜しく…と頭を下げるが、…と言いたい所だけど、我々は安月給だからとても贔負にするまでは行かないなと伊能が苦笑するので、あら、そんなことないわ!と新太郎と才太郎は顔を見合わせ笑いあう。

こちらの先生なんか、しょっちゅう出没よなどと才太郎が石黒を指したので、石黒は咳払いでごまかし、何ですな、とかくこういう輩は無責任な発言を…などと差別的な発言をする。

先生!輩って私たちのこと?と新太郎が聞き返し、私たちが無責任なら、きっと付き合うお客の影響ね、何しろ無責任な輩ばっかりなんですから…などと才太郎も言い返す。

そこに下から店屋物のうどんが届いたので、4人は食べようとするが、その時、ねえ伊能先生、一回英語教えて下さいなと新太郎が甘えたように頼む。

英語だったら教頭の田島先生がいつだって教えてあげると石黒が口を挟むと、田島先生ったらすぐ英語で口説くんですもの…、教えてくれるのはエッチな単語ばっかり…と新太郎はうどんを食べながら言うが、その時、隣の才太郎を見て、姉さん、始まるの?と聞く。

才太郎の表情は豹変し、胃の辺りを押さえ隣の部屋に行くと座り込み、先生たちに出て行ってもらって!早く!と言いながら自分の足を縛り始める。

新太郎は石黒を部屋から追出し、木山先生すぐ来て下さいって!と頼むと苦しみ出した姉を見て、始まっちゃったわ、先生来て、押さえて!と姉の足を押さえながら言うので、胃けいれんか?と伊能は聞くが、みぞおちを押して!男の力じゃないとダメなのよ!と新太郎が言うので、でも…と戸惑いながらも、伊能は苦しみ暴れ出す才太郎のみぞおちと背中を押し始める。

少し収まったようだな…と伊能が言うと、放しちゃダメ、油断するとすぐやられるわよと新太郎が言うので、そのまま伊能は才太郎の背中を押さえたままにする。

あら先生、凄い汗!と言いながら新太郎は伊能の顔の汗を拭いてやるが、その時、才太郎が又痛みを答える為に伊能の髪の毛を掴んで引っ張る。

ほどなく、木山医師(浜村純)が駆けつけ注射をして落ち着いたので、新太郎は、ごめんなさいね、いつかご恩返しするわと伊能に謝る。

それより頭見てくれないか、ごそっとやられたからハゲになっているかもなどと伊能が言うので、あら嫌だと言いながら伊能の頭を新太郎が覗き込み、大丈夫よと慰める。

その時、往診を終えた木山医師が、少し寝かしておくんだなと新太郎に声をかける。

お勘定どうします?現金?それとも今度遊びに来た時引いとく?などと新太郎が聞くと、それはないよ、勘定は勘定、遊びに行った時は行ったときと木山先生が言うので、偉そうに、先生のツケ、随分溜まってるのよと新太郎はすました顔で言う。

そんな中、戻ってうどんを食べていた石黒が、では伊能先生、下宿に案内しましょうと伊能に言う。

伊能と石黒を自分の車に乗せ、一緒に帰ることにした木山医師が、どうです、この町の第一印象は?と聞いて来たので、はあ、頭がひりひりするだけですと伊能が答えると、隣に座っていた石黒が、男冥利と云う物ですなと愉快そうに笑う。

どうも田舎なもんで道が悪くてな…、この辺の産業と言えば織物くらいでしてな…、そのせいじゃありませんが美人が多いんですなと石黒が余計な情報を教えて来る。

先ほどもお話ししたように、これからお連れする下宿にも美人が一人おりましてなと石黒は付け加える。

木山医師は、伊能を連れて来た下宿の主人井上吉蔵(遠藤辰雄)と碁を打ち始め、吉蔵の妻つね(赤木春恵)が二階の伊能に茶が入ったと呼びかける。

伊能琢磨とは良い名前だなと碁を打ちながら井上が呟くので、名前だけじゃありませんよ、良い男…、いえ、良い先生ですよと縁側にちゃを運んで来た常はうれしそうに言う。

そこに、着物に着替えた伊能が降りて来たので、常は見違えたように驚く。

三保子さんはお出かけかな?と木山医師が聞くと、ええ、お花のけい子にね、もう帰って来る頃なんですけど、何してるのか…と常が答えると、三保子さんはいくつでしたかな?25?6?と木山医師が聞くので、つねは、ええ?と怪訝そうな顔になる。 そこに、当の三保子(稲野和子)が帰って来て、伊能に挨拶をする。

遅かったじゃないの、お風呂の様子見て来て、ちょうど良かったら先生ご案内してとつねが頼む。

三保子が風呂場に向かうと、三保子さんは相変わらず若くて美人ですな…、とても26とは見えないと木山医師が碁を打ちながら言うので、25ですよ!とつねが訂正する。

ほお25ですか、女盛りと言う所ですかな…、それに比べるとうちのヤスエはまだ22!などと木内医師は続ける。

その時、あの~と三保子が声をかけて来たので、どうだった?お風呂の加減?と常が聞くと、ちょうど良いわと言うので、じゃあどうぞと常が伊能に風呂を勧める。

三保子に案内され風呂場に向かう伊能は、つい和服の三保子の襟足に目を奪われてしまう。

風呂場の中に案内した三保子が濡れないように着物の裾をまくり、ふくらはぎを見せたのにも目を奪われる。

風呂上がり、二階でタバコを吸いくつろいでいた伊能は、静かで良い所ですねと、隣の部屋に布団を敷きに来た三保子に話しかけると、三保子が布団の上に寝そべっていたので、何をしてるんですか?と驚くと、どちらを頭にした方が落ち着くか試しているんですと三保子は答えるので言葉を失う。

どっちが良いかしら?と誘うように三保子が言うので、伊能は、どっちでも…と目をそらしながら答える。

でも、北枕はいけないでしょう?などと三保子は色っぽい眼差しで寝そべったまま聞いて来る。

構わんです!と面倒になった伊能が答えると、でもこの部屋に寝るのは先生なんですもの…、ねえ先生、ここへ来て自分で試してみて!などと三保子は布団に誘う。

はあ…と言いながら、一旦は布団へ向かおうとした伊能だったが、構わんですと遠慮する。 机の下から子犬が鳴く。 翌朝、伊能は学校に初登校する。

下駄箱で靴を上履きに履き替えた伊能は、通りかかった女性に、君君!職員室はどこ?と聞く。

バレーボールを二つ持ったその女性山中圭子(原恵子)は、あちらです、ご案内しますと答え、伊能を職員室へ案内する。

その時、前方にいた男性に圭子がボールを一つ放ると、その男性はボールを受け取り、伊能に投げ返しながら、お早うございます、山中先生と挨拶をして来たので、ええ?君…、あなた、先生ですか?それはどうも失礼しましたと伊能は驚く。

いやあ、あんまり若くて美しいもんで…と伊能が言い訳すると、君、この先生、生徒と間違えたのか?と聞いて来たのは、ボールを受けた体操着姿の教師野口長太郎(渥美清)だった。

君、この先生を生徒と間違えたのか?生徒がこんな洋服着ている訳がないじゃないか、生徒はみんな制服来てるよと野口は伊能をからかう。

そりゃそうですけど、ついうっかり…、何しろあんまり若くて…と伊能は照れくさそうに言うので、若くて美しいからか?と野口は重ねて聞き、ようやく、君一体誰?と初対面の伊能を怪しむ。

へえ、東北大の英文?と職員室では新任教師の経歴を聞いた男性教師は驚く。

ええ、現役のパリパリですわと石黒が吹聴していた。

そんな優秀なのが今頃になって、しかも静岡からこんな田舎に転任になったんだろう?とサンドイッチをくいながら坂本先生(久保明)が不思議がる。

何か事情があったんだな、どうしたんです?と男性教師が聞くので、さあ?とんと私は…と石黒は答えると、あら石黒さんでもご存じないことがあるんですか、我が校のことで?と女性教師が声をかける。

そりゃ私だって、しかしなかなかの美男子ですから…と石黒は伝える。

じゃあ、女性問題かな?と坂本先生が無責任なことを言うので、あら、私たち気をつけなくちゃ、ねえ小川先生!と女性教師は小川先生(矢野潤子)に話しかけ、小川先生は笑い出す。

そこに、野口と圭子と共に伊能がやって来て、石黒さん、この人、廊下でまごまごしてたよと野口が説明する。

いやどうも…と伊能に挨拶した医師グルは、今あなたのことを…と言いかけ、周囲の目を気にして黙り込む。

妙な雰囲気になったのに気付いた石黒は、あ、ご紹介します、こちらが今度新任の琢磨先生!と職員室の教師たちに紹介する。

その頃、石黒君、この学校にはわしの他にもう一人校長がおるのかね?と石黒に迫って来たのは清水校長(東野英治郎)だった。

いえ…、1人だと思いますが…と石黒が答えると、思います?わしの大事な物がないんだよと言い、校長先生のスリッパが待たなくなったそうだよと説明しに来たのは田島教頭(山茶花究)だった。

何となく嫌な予感がした伊能が自分のスリッパを見下ろしたとき、あ、それだ!君は一体誰だね!と清水校長が問いただすので、は、本日本校に転勤になりました伊能と申します、申し訳ありません、靴箱に名前のないのがありましたから、そこなら構わんだろうと思いまして…と詫びる。

それを聞いた清水校長は、常識がないね、君は…と呆れスピッパを脱がせると、ええ?君、この校長と言うのはだな、1校につき1人に決まっとるんだ、1人しかない物の所有物に姓名を記す必要はないだろう、分からんかね?と説教する。

下駄箱見たら、こんなに大きな靴が入ってたからね、かっとしてね、それじゃ、あれが君の所有物だったのか、しまった!と清水校長は言い出す。

どうかしましたか?と石黒が聞くと、小使呼んでね、わしが許可するからと言って捨てさせたんだと清水校長が言うので、ええ!と伊能は驚く。

その頃、小使(左卜全)は靴を焼却しようとしていた。

こりゃ、捨てるのはもったいねえが…などと小使が自分で履いてみて、こりゃ大きい、ばがばがだ、バカの大足だなどと呟いていた所へやって来たのが伊能で、あの~と声を掛けると、あんた誰だね?と言うので、今度新しく入ったその場かの大足ですと自己紹介した伊能は、あの~すいません…と言いながら靴を指差す。

そんな様子を生徒数名が覗き見していた。

何とか靴を取り戻した伊能は、その後、田島教頭から、校長もあれだけの男です、勘弁して下さいと謝られたので、とんでもない、ユーモラスな方で、かえって親しみがわきましたと恐縮する。

親しみね~、しかし身体が小さいと気持まで小さくなるのか太っ腹な所がなくてね、みんなを引っ張って行くだけの統率力がないんだな~などと田島教頭は清水校長の悪口を言い始める。

職員室なんかも一見平和そうに見えるけど、実は色々派閥があってね、僕も教頭として弱っとるんですよ、ま、この話はいずれゆっくりとなどと言う。

途中、又やっとるな…と田島教頭が気付いたのは、野口が生徒をビンタしている姿だった。

いつも殴るんですか?と伊能が立ち止まって聞くと、君は生徒を殴ることをどう思いますか?と田島教頭は逆に問いかける。

反対ですと即答すると、そう、僕も絶対反対でね、野口君には時々注意するんだが、あの先生は単純と言うか野蛮でね~、ま、この話もいずれゆっくり…と田島教頭はその場をやり過ごして行く。

ここが君のクラスですと田島教頭が連れて来たのは2年B組だった。

一緒に入って紹介しようと良い、田島教頭が先に教室に入り、みんなおとなしいなと意外そうに言うと、黒板に「バカの大足」と大きな落書きが書いてあるのに気付く。

すると、生徒たちが、靴で机を叩きながら三三七拍子の音頭を取り始めたので、静かにせんか!と田島教頭は注意するが、伊能はただ黙っているしかなかった。

その後、職員室では、生徒への暴力の問題が議論されることになる。

つまりですな、生徒を殴るべきか、殴るべきではないかと言う両方の意見に付きましては…と清水校長が言っていると、校長先生、この問題は過去にも何度か問題になりましたが結論が出ておりませんので、今日は一つ新任の伊能先生から意見を聞かせていただいたらいかがでしょう?と田島教頭が提案する。

ああ、なるほど、なるほど、それじゃあ伊能先生のご意見をどうぞと清水校長が同意するので、私は暴力は絶対反対です、戦前ならともかく、議論することがおかしいんじゃないでしょうか?と伊能が意見を言うと、何がおかしい?私は断固殴ります!と野口は答え、私も殴る方ですと坂本先生まで同調する。

反対ですと他の男性教師が言うと、賛成です!いえ、殴らない方に賛成ですと小川先生も意見を言う。

すると別の女性教師が、私、殴る方に賛成などと言い出し、職員室は意見が別れ騒然となる。

お静かに!と制した清水校長に、やっぱり意見が二つに分かれとるようですなと田島教頭が話しかける。

私は生徒がたるんどる時はできるだけ厳しく扱うべきだと主張するんです、厳しく扱うと言うことはつまり殴るってことなんだ、これは理屈じゃないんだよねと野口が言う。

その通り!現にそう云う崇高な理念の元に生徒に手を上げない先生方の授業は例外なく騒々しい、隣の教室にいて迷惑この上ないと坂本が同意すると、坂本先生、はっきり僕の名を出していただいて結構ですよとメガネの男性教師が反論する。

ともかく私は殴る!だがそのことによっていまだにPTAから苦情を受けたことはないと野口は腕を組んで頑固そうに主張する。

それを聞いた伊能は、かと言って暴力を肯定することにはならないでしょうと言い返すと、じゃあ、どうしようって言うんだ?と野口はつっかかって来る。

教えていただこう、言う事を聞かん生徒にはどうしたら良いんだ?と野口が挑発して来たので、暴力じゃなくて、しかも暴力以上にもっと厳しい何かがあるはずです、その何かをみんなで見つけるのが教師としての義務なんじゃないでしょうか?と伊能は答える。

しかし野口は、現実には間に合わんねと言いながら腕を組む。

間に合うってことで割り切るべきではないと思いますけどねと伊能が反論すると、圭子は頼もしそうに伊能を見る。

問題にならん!と坂本が言い放つ留め金の先生がフォローしようとして又言い合いが始まる。

静かに!と清水校長が止め、田島教頭もなかなかもめますなと苦笑する。

これでは水掛け論で際限がありませんが、校長先生、一体先生のご方針としては、殴る、殴らない、どっちをお取りになるんですか?と田島は清水校長に話しかける。

すると清水校長は、原則としてわしは生徒を殴ると言うのは許さん、ま、しかしだね、やむを得ざる場合にはだね、強くなでる、もしくは摩擦するに留めとく…などと野口を前にして曖昧なことを言うので、強く摩擦ね…と田島教頭は笑い出す。

ただし、摩擦して怪我をさせた場合、校長が許しているからこうなったと言ってもらっちゃ困りますよ、私は原則として許しちゃおらんのだから…と清水は逃げ口上を付け加え、では私は時間も経過しましたから、これで失礼します、どうも皆さん、ご苦労様ですと言い残し、そそくさと帰ってしまう。

残された教師たちは呆れたように笑い出す。

下宿に戻った伊能が鰹節を並べていると、階段の方から突然子犬の声が聞こえたので振り向くと、それは三保子の声色だった。

何してらっしゃるの?と部屋に入って来たので、いや、清水校長の家はこの近くですか?と伊能が聞くと、ええ、歩いても10分くらい…と言う。

どうしようかな、おふくろからこの土産を持って校長の家に一度挨拶に行けって言われているんですが、どうも僕はこう云うことが苦手でねと伊能はこぼす。

あら、せっかくお母様が下さったものをムダにしたらいけませんわ、付いて行ってあげますと三保子が馴れ馴れしく身体を寄せて言って来たので、いやいや、僕1人でも行けますと伊能が遠慮すると、だって道が分からないでしょう?と三保子は言う。

だから教えて下さいと言うと、だから付いてってあげますと三保子が粘るので、だから教われば良いって言うんですよと伊能は困惑する。

しかし結局、付いて行きます!と我を張る三保子に従うしかなかった。 行きしな、先生、学校はどう?お気に入りまして?と三保子が聞いて来たので、ええまあと言葉を濁すと、この町は?と聞くので、ええまあ…と同じように答えると、うちは?と聞くので、ええまあ…と答えかけ、三保子が呆れたように振り返ったので、大変結構です、コンフォタブルですと伊能は答え直す。

すると三保子は、先生、私のことお聞きになったでしょう?と、急に神妙な表情で聞いて来たので、何のことですか?と伊能が聞くと、出戻り娘と言うこと点と三保子は打ち明ける。

ええまあ…と伊能が答えると、立ち止まった三保子は、やっぱりお見合い結婚なんてダメね、悲劇ねなどと言い出すので、そうですか…と伊能は答えるしかなかった。

私、今度は恋愛にするの、良いでしょう?と三保子が言うので、ええ、どうぞ…と伊能が受け流すと、ここ、ここよ校長先生の家点と指差すので、ああそうか…と伊能は納得する。

伊能の土産の風呂敷を手渡した三保子は、先生、私、何の為に生きてるのか分からないの…、私、寂しいんです…などと悩ましく言うので、はあ?と伊能が戸惑うと、急に笑顔になった三保子は、先生、ちゃんとご挨拶できないとダメよと言い聞かせる。

はいと答え門をくぐろうとする伊能に、早くお帰りなさいねと三保子は母親の方に言う。

いやあ、どうぞどうぞとソファを勧めた清水校長は結構な物を頂いて家内も喜んでおったよと土産の礼を言ので、いや、つまらんものですと伊能は謙遜する。

ところでね君、さっき外で女の人の声がしたようだったが、あれはお連れ参加ね?と清水校長が聞くので、ええ、下宿の娘さんに道を案内してもらったんですと伊能は答える。

すると清水は、ああ、井上さん所の出戻りか…と気付いたようで、三保子さんと言ったかな?と言うので、ええと伊能は答える。

すると清水校長は、君、気を付けたまえよ、出戻りともあれば人生の何たるかを解しとる訳じゃからな…と忠告して来る。

お茶、遅いな、婆さん、何しとるのかななどと清水が言い出したので、もう結構ですと辞去しかけた伊能だったが、いや、君は遠慮せんで良いんだと留めた清水は、せっかく君が来てくれたんだからこれから一つご案内しようと言い出す。

いえ、すぐお暇するつもりで…と伊能は断ろうとするが、嫌々とそれを制して廊下に出た清水は、どこかに電話をすると、君か、わしだ、今度うちの新任教師の伊能君がわしの家に来とるんだが…、何知っとる?さすがは姉さんだなと笑顔になり、これから出掛けるからな、頼むよと伝える。

そして、伊能君出掛けよう、才太郎が自宅に来てくれと言うんだとうれしそうに誘って来る。

この際、彼女たちの素を見学しておくのも又一興じゃろうからねなどと言いながら素早く出掛ける身支度をする。

いやねえ~、君のファースト・インプレッションは良かったらしいよ、さ、行こうと急かす。

そして奥へ向かって、もう茶はいらんぞ!伊能君がどうしても出掛けると言うからわしも出掛けるなどと声をかけ家を出るので、伊能は唖然としながらも付いて行くしかなかった。

玄関口で一緒に靴を履きながら、善は急げだと清水校長は喜ぶ。

才太郎の家に来た清水は、ねえ君、仕事は違うけどね、この才太郎は、この牧の丘が遅れとると言うことを見抜いてると言う点では僕と共鳴しとるんだ、そこでだね、僕は上の方から教育を通してだね、この人は下の方から実際行動に訴えて町の気風を改善しようと言う訳だなどと上機嫌で話す。

いわば僕の女房役、名コンビちゅう訳だななどと調子に乗って清水が吹き捲くるので、笑って聞いていた才太郎は、まあそう云うこと点などと言いながらも、才太郎は、まあ伊能先生どうぞと伊能に酒を注いでやる。

後で新ちゃんから聞かされたんですけどね、随分先生にご迷惑をかけちゃったんですってね…、本当に申し訳ありませんと才太郎は胃けいれんの時のことを詫びる。

もう良いんですか?問い脳が聞くと、おかげさまでと才太郎はうれしそうに言うので、君!こんな美人に抱きついてもらって幸せだったろう?などと清水が下品なことを言って来る。

そこへ、ただいま!あら、伊能先生!と日本髪姿の新太郎が帰って来て喜ぶ。

伊能の隣に座った新太郎は、そこで初めて気付いたように、あら、いらっしゃいませ、校長先生!と清水には儀礼的な挨拶ですます。

そして、姉さん、今ハーさん来るわよ、今そこで私と連れになって、誰かと立ち話してるわよ…と新太郎が玄関の方を振り返りながら言うので、良いわよ、二階使ってもらうからと才太郎は答える。

おいおい、そのハーさんって何者だい?この辺の有象無象と込みにされちゃ困るぞと清水が聞くと、花山さんよ、PTAのと咲いたろうが教えたので、え?花山会長!と清水校長は慌て出す。

上がらせてもらうぞ!と花山の声が聞こえると、僕がいることは絶対秘密だぞと言いながら清水は押し入れの中に身を隠す。

そこに花山会長(田崎潤)が部屋の前にやって来て、失敬お客さんかと伊能に気付いて言うので、あら良いのよ、ハーさんと新太郎が中に誘う。

さっき話したでしょう?姉さんの看病をしてくれた伊能先生よ、付き合ってらっしゃいよと新太郎が教えると、失礼して良いですか?と花山が言うので、どうぞと伊能も答える。

花山です、PTAの仕事もやっておりますがね、今後何かとご厄介になることでしょう、宜しくと挨拶するので、伊能も名乗って宜しくと頭を下げる。

学校はどうです?と聞かれた伊能がまだ分からんですと答えると、校長とはお話しになりましたか?と聞かれたので、たった今…と伊能は答えかけるが、それを隣にいた新太郎が慌てて袖を叩いて止めるので、良い人ですとごまかす。

いや、根は肝っ玉の小さいお人好しなんですがね、人前で無闇と威張りたがるんですよ、だがね、都合が悪くなるとすぐ隠れたがる癖があるんですよなどと花山は清水批判を始めたので、新太郎は無邪気に笑う。

私は奴さんがここに赴任する時にね、教育委員会から頼まれたので始終味方に回ってるんですがね、どうも応援のしがいがない人物で弱ってるんですよなどとあけすけなことを花山が言うので伊能も困ってしまう。

ま、君たち新進気鋭の人が助けてね、顔を潰さないようにしてやって下さいよなどと言う花山の話を押し入れの中で聞いていた清水校長は悔しそうな顔になる。

その時、押し入れの中で物音が聞こえたので、花山が、ン?と気づきそうになるが、私は校長先生好きだわと才太郎が話に割り込み、頼りがいがあって、ちょっと小粒だけど、良〜く見るとなかなか男前でね〜などと押し入れの中を意識して大げさに褒めるので、おいおい物好きは止せよ、大将は細君が何より怖いくせになかなかの女好きなんだ、お前なんかが油かけたらすぐのぼせるに決まっているよなどと花山は押し入れの前で忠告する。

でも本当に好きな物は仕方ないでしょう?と才太郎は言い返し、じゃあ好きなようにするさと呆れて笑う花山に、しますとも!お金はなくても背は低くても奥さんはあっても、本当に私を理解してくれる人が一番頼もしいんだわ、ねえ伊能先生!と才太郎が話を振って来たので、伊能も仕方なく愛想笑いでごまかす。

その時、押し入れの中から奇妙なうめき声が聞こえたので、反吐吐いてるんじゃない?私の着物が入っているのよ!と新太郎が押し入れの中を心配し出したので、バカだね、この子は、ネズミが反吐吐くもんかね、押し入れの中にはね、ネズミなんか誰も入ってないんだよと才太郎は慌てて言い返し、さあさあさ、私たちは二階へ行きましょうと花山を誘う。

まずい所に来たようだな…と言いながら立ち上がった花山は押し入れを気にするので、何でもないの、さ、行きましょう!と才太郎が部屋から連れ出す。

新太郎は急いで押し入れのふすまを開けると、校長先生、出てよ!と言いながら清水を引きずり出す。

そして自分の着物を確認し、汚れてないのを見ると良かったと安堵する。

伊能が立ち上がらせた清水は、しかし寝君、あの花山会長はだね、反校長の色彩が濃厚なんでね、こんな所見られたら大変なんだよと言い訳するので、大丈夫ですよ、才太郎さんが二階でつなぎ止めていますからと伊能は慰める。

しかしわしは帰るとと小声で言うと清水校長が帰って行く。

じゃあ僕も…と言いながら伊能も部屋を出掛けると、新太郎が伊能のズボンを掴んで離そうとしない。 清水は玄関口で自分の靴が見つからないので焦る。

その後、酔った新太郎はすっかり酔っぱらい上機嫌で歌う伊能のベルトに腰紐を付け、下宿まで引っ張って帰っていたが、その伊能、実は新太郎君、僕は自分がどこに住んでいるのか忘れちゃったなどと言い出したので、新太郎はあわてる。

自分の住んでいる所が分からないの?と呆れた新太郎が聞くと、何しろ住み慣れない物でね…などと伊能は答える。

しようがないわね、ね、なんて言う所?と新太郎が腰紐を引きながら聞くと、井上…と伊能が答えたので井上なんて言うの?と聞くと、井上三保子…と伊能は娘の名を教える。

女のご主人!と新太郎が伊能の肩を叩くと、それが娘なんだ!色が白いよ…と伊能は愉快そうに答える。

それを聞いた新太郎の表情が変わり、そう、じゃあ1人でお帰りなさい!私、もう知らない!とほどいた腰紐で伊能の顔をなでると新太郎は怒って帰ろうとする。

何故です?その訳を述べよ!と伊能がからむと、知らない!と新太郎は睨んで来たので、これは困ったな…と伊能は困惑する。

勝手に1人で困んなさい!と新太郎が突き放そうとした時、伊能が突然、井上さ〜ん!三保子さ〜ん!と大声を上げたので新太郎は驚き、止めようとする。 そして新太郎も一緒になって三保子〜!などと叫んでいると、石垣の上から灯りが灯り、どうなすったの?と三保子が声をかけて来る。

いや〜ちょっと、ここでしたか?と笑ってごまかし伊能は下宿への坂道を登って来る。

どうしたの?風邪引くわよと言いながら駆け寄った三保子が、伊能のベルトに結んであった腰紐をほどいてやり、側にいた新太郎にこんばんわ!と挨拶したので、新太郎もこんばんわと挨拶しそっぽを向く。

先生、送っていただいたの?と三保子が伊能に確認し、大変だったでしょう?これどうもすみませんと言いながら三保子は腰紐を新太郎に投げて返す。

そして三保子は、さ、帰りましょうと、あ、君!と新太郎の方へ手を上げた伊能に手を添え、強引に下宿へ帰って行く。

新太郎は何さ!と言いながら、腰紐を地面に投げ捨てると、悔しそうに地団駄を踏みながら帰って行く。

翌日、英語の授業をしていた伊能はm女子生徒が英語を朗読した後、誰か訳してごらんと言いながら玉田を名指しすると、分かりませんと言う。

伊能が訳しているとき、教室の外廊下の窓の下に体操着姿で近づいて来た5人が、玉田金助(二瓶康一)、出て来い!と窓を開けて声をかけて来る。

それを聞いた玉田は、畜生!と言いながら教室を飛び出して行くと、窓から外に出る。

おい、玉田!と呼びかけた伊能は、男子生徒が後を追って出て行くので、追い、どこに行くんだ!と言いながら後を追う。

校庭に飛び出した伊能は、そこで取っ組み合いをやって来た生徒たちを引き離そうとするが自ら投げ飛ばされてしまう。

こら!と怒った伊能は生徒たちを柔道技で投げ飛ばし始める。

すると、体操着の生徒が、先生、乱暴したらあかんわと言うので伊能は驚く。

気がつくと、生徒全員が地面に転がっていたので、やり過ぎたかと気づき伊能は苦笑いしながら頭をかく。

校長室へ連れて来られた生徒たちに訳を聞くと、こないだ、町を歩いとったんです、そしたらこいつがかっこ良いジャンパー来て女連れてでれでれ歩いとったもんやから…などと喧嘩を売って来た生徒が説明すると、でれでれなんかするもんかと玉田が言い返す。

俺は明日試験でどうして良いか分からんで、イライラしとったもんやからついかっ〜っとしてと相手生徒は言う。

そいで?と田島教頭が先を促すと、ジャンパー貸せって恐喝に来よったんですと玉田は言うので、恐喝やない!ちょっと頼んだだけや!と相手生徒は反論する。

すると玉田が、あの顔が人に物を頼む顔か!と言いながら又相手に飛びかかろうとしたので、玉田!と伊能が叱り、清水校長がそれからどうした?と聞くと、俺は嫌だって言いました、そしたらこいつがいきなりぼかんって!と玉田が殴る真似をする。

それから?と聞くと、相手生徒がこいつがぽかんと来て…と殴る真似をし、こっちは多勢に無勢なもんやから…などと言うので、多勢に無勢って、玉田、お前仲間がいたのか?と田島が聞くと女がおったんですと相手が言う。 女って?と聞くと、クラスの金村綾子さんですと玉田が答える。

これが強かったと相手は感心し、それからどうした?と聞くと、こいつが俺は2年B組の玉田金助だ、いつでも相手になるぞって言ったんですと相手が言うので、それから?と促すと、そんだけです、な?と相手は玉田と確認しあう。

話を聞き終えた清水校長は、つまらんことで喧嘩なんかするんじゃないぞと注意すると、もうしません、いっちやったからすっとしたんやと相手生徒は言うと玉田と笑顔で顔を見合わす。

本来なら君たちの学校に連絡して、補導の先生なり担任二機てもらう所だがね…と校長が立ち上がって言うので、一応連絡はしておかないと…と言う田島教頭を制し、しかしこう云う単純な事件を騒ぎ立てて、ことを大きくするのはかえって生徒たちの為に良くなかろうと…と清水は説明する。

そう思います!などと生徒も同調したので、君たちは授業中じゃないのか?と田島が他校の生徒に聞くと、先生が休んどるもんで、自由時間やから、何してもええ言うからなどと他校の生徒は口々に言う。

君たちの学校の校長には一応話しはしておく、今日は帰って宜しいと清水は生徒たちを解放する。

一緒に伊能も退室しかけると、清水校長から呼び止められる。

君、困るじゃないか、何も生徒の喧嘩に君が出ることもなかろうと清水は注意する。 申し訳ありません、止めるつもりだったんですがと伊能が頭を下げると、まあ、結果的には止めたようなことにはなっとるがねと清水が言うと、君は暴力否定論者じゃなかったんかね?と田島教頭が嫌みを言う。

申し訳ありません、ついかーっとしてと伊能が詫びると、いや、かっとしちゃいかん、かっとしちゃ、教師と言うものはいついかなる場合でも、どんな時にでもかっとしちゃいかんのです、平静、平静にね、君分かったかね?と清水校長は言い聞かせる。

分かりましたと伊能が頭を下げると、田舎ではね、こう云う単純な事件でも新聞だねになるんですと田島教頭も口を添える。

まあ新聞社のデスクがわしとツーとカーだから良いようなものの、もし新聞にでも出てごらん、君はたちまち暴力教師だよと田島は言う。

だから君にはこれから我が派の…、いや、我が校の親友として働いてもらわなくては行けないのだから、今度のような失態をしでかさんように気を付けてもらわねばならん、大切なことですぞと田島は念を押す。

職員室へ戻った伊能に、よ、先生!やりましたな!とうれしそうに話しかけてのは野口だった。 ああやらにゃいかん!と肩を叩かれた伊能は苦笑するしかなかった。

理論と実際の違いが君にも分かって来たでしょう?などと野口は言うので、一言もありませんと伊能は答える。

やらにゃいかんよ、教師は生徒に対しきっぱりした態度を見せる必要があるんだ、しかし君は本当に頼もしいぞと野口は伊能を気に入ったように言い、何段だ?と聞いて来たので、いや僕は別に柔道はやっとらんですと伊能は苦笑しながら答える。

本当かい、君?と良いながら野口が伊能の前に置いたのは、伊能がやっていたのと同じポーズのロダンの彫像「考える人」のミニチュアだった。

下校時、坂本先生と一緒に帰る途中の山中圭子が声をかけて来て駆け寄ると、今日の先生痛快でしたわと話しかけて来る。 その様子を坂本先生は面白くないように見ながら帰って行く。

何とでも言って下さい、完全に僕の失態なんですからと伊能が笑うと、あら、今日の先生のは暴力じゃありませんわと圭子が言うので、本当ですか?と伊能が驚くと、私ね、人を殴ったからと言ってそれが暴力とは考えませんのと言うので、ほお、野口先生や坂本先生とどう意見ですなと伊能は答える。

あら、でもね、例えば子供の頃の喧嘩、いくら殴り合ったって暴力と言うイメージからは遠い物でしょう?と圭子が言うので、僕も子供の喧嘩だって言うんですか?と聞くと、まあ似たようなものですわね、少なくとも今日の喧嘩はねと圭子は言って笑う。

の話を聞いていると、僕は中学生の頃に帰ってやさしい女の学校の先生から聞かされているみたいだ、いや、もっと子供の頃、おふくろからお説教聞いているみたいだなと伊能が言うと、急に圭子は膨れてしまう。

そこにスクーターで近づいて来て、よお、今お帰り?と声をかけて来たのは野口だった。

そうやって2人並んでいるとなかなかお似合いだよと野口がからかって来たので、圭子がいやだわおじさん!と怒るので、おじさん?と伊能は驚く。

バレちゃったわと圭子が慌てて口を塞いだので、あなたのおじさんですか?と伊能は驚く。

いや、学校じゃそう呼ばないようにしてるがね、圭子ちゃんはね、僕の女房の姪なんだよと野口は説明する。

ああと伊能が納得すると、ごらんの通り美人だし、気だても良いしね、申し分ない娘さんなんだが、玉にきずはね、頭良すぎるんだ、利口な女ってのは、どうも色気がなくていけねえなどと野口が言うので、伊能も思わず、同感ですと言いながら笑ってしまう。

まあ!と呆れた圭子は、じゃあ乗っけてよと言い、野口のスクーターの後ろに回る。

家寄ってくのか?と野口が聞くと、そうよと圭子が言いながら後ろに座ったので、君、良かったら帰りに僕んちに寄ってお茶でも飲んで行かないかと伊能に誘う。

だめよおじさん、ほら?と圭子が話しかけると、そうか!実は今の女房これでねとおなかが大きいジェスチャーをした野口を見た伊能は、ああそうですかと笑う。

さようならと言って野口と圭子はスクーターで帰って行く。

下宿に帰り着くと、子犬を抱いた三保子が、お帰りなさいと出迎えると、だいぶ派手にやったんですってね?と言うので、あれもう知ってるんですか?と伊能が驚くと、いけない人ねと言いながら、お客様が着ているわよと三保子が言うので、誰だろう?と伊能が考えると、女の人!と三保子はからかうように言う。

二階に上がると、そこで待っていたのは生徒の母親連中だった。

伊能先生ですか、初めてお目にかかりますと頭を下げて来た母親たちは、高山すえ(吉川雅恵)です、今日はまあみのるがどえれえことをやりましたそうで、勇の母です、三郎の母の野村花子と申します、耕造の母親でございますなどと1人ずつ挨拶する。

息子がご面倒をおかけ致しまして…と言われた伊能は、いや、わざわざおいでいただくようなことじゃないんですと恐縮するが、いえ、うちのみのるが、先生が校長先生からえらい絞られたから、ちょっと言って謝ってくれと…、一向に聞きゃあせんので…などと口々に母親たちは話しかける。

今度は僕自身の失態ですから、何もお母様に謝っていただかなくても…と伊能は小さくなる、 噂の通りええ男やな…などと母親たちはひそひそ話を始める。

あの〜何か?と伊能が聞くと、申し訳ないこってすなどと言いながら母親たちはにやけた顔になる。

今日のことはですね、強いて言えば、金助君が首謀者ですから、みのる君やいさむ君は、良く言えば金助君に対する友情から…と伊能が弁護しようとすると、いえ、みのるも悪いですよなどとすえは言う。

東京の大学ではないと聞いとったがそれにしてはスマートやな、これやったら娘の婿にええわ、あんた、やっぱりそのつもりで来たんか?そうはいかんで、家に年頃の娘がいるんで婿探している最中だわ…などと母親たちの私語は続く。

そこへ三保子が上がって来て、先生、玉田金助さんの父兄の方がと告げに来る。

またおばさんが来ると焼けになって茶菓子を頬張った伊能だったが、阿賀て来たのは、玉田金助の姉の艶子(沢井桂子)だった。

今日は金助が先生にご迷惑をおかけしたそうですいませんと詫びて来たので、さ、どうぞと伊能は座布団を勧める。

こんにちは、元気でやって見えるかねとすえたちとも挨拶する艶子。

大変やな、あんたんところは姉弟2人きりだからと別の母親から言われた艶子は、大丈夫です、もう慣れましたからと答える。

長いこと会わんかったら、ええ娘さんにならはったな、そろそろお婿さんの心配せにゃいかんねなどと別の母親が艶子をからかい、その間黙り込んでいた伊能も含めて母親たちの話材料にされてしまう。

後日父兄参観日が行なわれる。

伊能は、ええ、時間はまだあるが、授業はこのくらいにして、少しみんなで話し合いをしようと言い出す。

今日は幸い、皆さんのご両親が大勢見えておられる、テーマはこれだと言いながら、伊能は黒板に「男の子、女の子」と言う文字を書くと、これは大変難しい問題であるが、誰か話の糸口を引き出す為に発言してくれないか?みんなはもうこう云うことを感じたり、考えたりしたことあるだろう?と生徒たちに呼びかける。

すると玉田が挙手し、僕も最近、僕も男になったことを自覚しましたと言うので、ほお、どうして?と聞くと、裸になって風呂場に行くとき、年頃なんだから前の方を隠して歩けって注意されましたと玉田は言う。

誰から?と聞くと、姉ちゃんですと玉田は答えたので、父兄たちは笑い出し、艶子は困惑する。

すると伊能は、それは玉田、お前が悪い、そう云うエチケットは夏休みの合宿などで自然に身に付くよなと言い聞かす。

でも野口先生はいつだって隠しません、だから姉ちゃんにそう言いましたと玉田が言っている間、笑いが続く教室に絶えきれず艶子は出て行ってしまう。

そこに偶然通りかかった野口は、笑い声が聞こえる教室のなかを覗き込む。

その時、側で聞いていたおばあちゃんが、野口先生は隠さんとも格好が悪いからフリチンは止めんさいと言いましたと玉田は続ける。

笑っていた父兄の中には、何も知らず窓の外から覗き込んでいる野口に気付き、真顔になって会釈をした後、堪り兼ねたように吹き出す人もいた。

それはだな…と言いかけた伊能も、窓の外から覗いている野口に気付き、行ってくれと目で合図するが、野口には通じず、クラスの笑いにつられ自分も笑ってしまう。

夜、商店街を通っていた伊能は、今晩はと本屋から声をかけて来た圭子に気付き、やあ、買い物?と聞く。

頼んでいた本を取りに来たんですわと圭子が答え、先生は?と聞いて来る。

僕は散歩です、パチンコでもやろうと思って…と伊能が答えると、まあ!と圭子は厳しい顔になる。

その頃、料亭で田島教頭や石黒らと飲んでいた医者の木山は、実は重大な秘密書類が手に入りましてなと言い出す。

秘密勝利?と田島は驚き、何です一体?と同席していた坂本先生が聞くと、いや、昨夜、例の才太郎姉さんが又胃けいれんで苦しんでいる時、注射を打ってやったんですがね、そのとき姉御の帯の間から一通の手紙が落ちたんですよ、和紙は破れたり折れたりしたらいかんと思って、何気なくポケットに入れた所がそのまま持って帰りましてね、これなんですよと内ポケットから手紙を取り出し田島教頭に手渡す。

ほお、瓢家才太郎様…と手紙の宛名を読んだ田島は、裏を見て、市内ご存知よりと書かれているのに気付き、ラブレターですかな?と聞く。

ま、読んでご覧なさいと木山に言われ、中の便せんを取り出した田島は、先晩は失敬、いつも言うことだが、こんな田舎町で君のような物の分かった女性と知りあったことは私の最も喜びとしている所です、お互いに郷を離れた寂しい同士の理解ほど心を慰められる物はありませんね…かと声を出して読み始める。

ことに相手が妖艶なる君とあっては、いささか意味深長なる物がありますね…と 昨日も君のことを夢に見ましたよ、今後も大いに助け合って行きましょう、特別な用件もないが窓の外の雨の景色が寂しいままに美しい君を偲んで一筆したためたのです、親分より才太郎姉御より… それを聞いていた坂本が、親分?と首をひねる、じゃあ清水の…、あの清水校長の!…と石黒が気付く。

それを知った田島は、なるほどこれは貴重な怪文書ですなと納得する。 そこに、今晩はとやって来たのは新太郎だった。

遅いぞ、遅いぞ!と石黒が叱ると、あら、これだけ?と新太郎が不満そうに言うので、これだけとはなんだ!と坂本が怒り、聞き捨てならんこと言うじゃないかと田島も言うと、別に…と新太郎はごまかすが、お前さんのお目当ては分かっとるよと木本医師が言う。

伊能琢磨先生じゃろ?と石黒もからかうので、さ、田島先生、お一つどうぞ!と新太郎が酒を勧めると、こんな盃一つじゃごまかされんぞと田島は答える。

その時、いかん!もう一軒回らにゃならん所があった、大事な患者をすっかり忘れとったよと木山医師が言い出したので、じゃあと田島はポケットに入れた手紙のことをそれとなくジェスチャーで木本医師に知らせ、木本は帰って行くのでえ、早いんですね、先生…と新太郎は送りに行く。

伊能君は大した人気者なんだねと座敷で田島が感心すると、それはもうPTAのご婦人連中の間でも我が校一の美男子と言うことで決定したそうですと石黒が教える。

そこに新太郎が、何さ、あんな先生!と言いながらと戻って来たので、今さら無理せんでもええよと田島は苦笑する。

私ちっとも無理なんかしてないわよと新太郎はやせ我慢する。 わしの前でとぼけるのか、とにかく君は彼を狙う女性第1号だ!と石黒が指摘する。

2号が下宿の出戻り娘三保子と石黒が言うと、何さあんな人!と新太郎が不機嫌になったので、それ目の色を変えた!と石黒は喜ぶ。

第3号は山中圭子先生と石黒が指を折ると、隣で飲んでいた坂本先生の目つきが変る。

山中先生?まさか家の先生たちまで…と坂本が疑うと、いやいや、伊能先生が来てから女の先生方の化粧の時間が長くなりましたと石黒が報告すると新太郎も驚く。

何と言うことだ、汚らわしい!と坂本先生が不機嫌になると、しかし確かにそう云う傾向があるようだな…と田島教頭は石黒に同調する。

大ありですよ、第4が玉田金助の姉の艶子!これはPTAのおばさん連中の確実な証言があります!と石黒は自信ありげに指摘するので、そこまで手を延ばしとるのかねと田島は感心する。

パチンコ店「マルハチ」の前にやって来た伊能が入りたがると、先生のくせにパチンコなんて…と一緒に帰っていた圭子が言うので、いけませんか?と聞くと、絶対にいけませんと言う。

すっかり酔っぱらった坂本先生を新太郎と一緒に料亭の玄関口に連れて来た石黒は、あれは確か!と伊能と圭子が一緒に帰って行く姿を見つける。

いやあ伊能先生!と新太郎も気付き、山中先生と一緒だなと田島教頭が指摘すると、え?何だと!と酔っていた坂本先生が睨みつける。

伊能と帰っていた圭子が、先生は野口や坂本先生はどう思います?と単純明快な男らしい男だと思いますと伊能が答えると、単純明快なお答えねと圭子は答え、僕も単純明快な男ですからと伊能も笑う。

畜生!と坂本先生が後を追おうとするので、先生!と新太郎が止め、俺はあいつを見損なってた!と興奮する。

美男美女でなかなか話が弾んどるようですな?そのようですななどと田島と石黒が話していると、新太郎の手を振り切った坂本先生が飛び出して行く。

そんなことは知らない伊能は、実は僕は前任地の静岡で生徒を殴って問題になり、それでこっちに転任になったんですよと圭子に打ち明けていた。

まあ、そうでしたの…と圭子が驚くと、だから野口先生や坂本先生の気持はまるで自分を鏡を見るように良く分かるんだな、それだけに野口先生は別にして若い坂本君には僕の二の舞は踏ませたくない、しかし彼は単純明快な男だから…と言っていると、突然、背後からその坂本が、おい!男同士の対決だ!と言って近づいて来たので、おい坂本君、どうしたんだ?と伊能が聞くと、そこに新太郎が慌てて駆けつけて来る。

新太郎は、坂本先生が伊能に組み付いたのを見て仲裁を諦め、ええい、こうなったら、やれやれ!と応援し出す。

そこに田島教頭と石黒もやって来る。 おい坂本君、どうしたんだよ?と酔った坂本を投げ飛ばしながら伊能は困惑する。

坂本が伊能を一本背負いすると、伊能先生、だらしないわね〜と新太郎が駆け寄って来る。

一方、坂本は、圭子から坂本先生!と叱られると、急にしおれて地面に正座する。

乱暴はお止しなさいと圭子が言葉をかけると、坂本は、はいと素直に頷く。

翌日、教室にいたい脳に、先生!玉田が野口先生に連れて行かれたよと生徒が言いに来る。

野口先生に?今度は何をしたんだ…と伊能は驚く。

体育館では、竹刀片手に柔道着を来た野口が玉田を前にして、良し、お前がいつまでもそう云う態度を取るんだったら、先生にも考えがあると言い聞かせていた。

俺は正直に言ったよと玉田が言うと、肝心なことは何一つ言っとらんじゃないか!と野口が睨んでいる所に伊能がやって来る。

先生!と玉田が言うので、どうした?と伊能が声をかけ近づくと、伊能先生、私は生活指導部長として調べている、余計な口を出してもらいたくないと野口は釘を刺す。

すると伊能は心外と言う顔つきで、余計と言うことはないでしょう、私は玉田の担任なんですからと言い返す。

すると野口は、良し!と言いながら椅子を持ち出すと、ここで見ていてもらいたいと伊能に言い渡す。

玉田、荒野って伊能先生も立ち会っていられるんだ、今度ごまかしたら承知しないぞ!と野口は詰め寄る。

はいと玉田が言うので、良し!最初から言ってみろと野口が促すと、農協のバイクに無免許で乗りましたと玉田が答える。

それから?と聞くと、女を…、芸者を後ろに乗せて帰りましたと言う。

芸者?と野口と伊能が同時に驚くと、新太郎って言うイカす姉ちゃんですと玉田はうれしそうに言う。

イカすの?と笑いかけた野口は伊能の方を見て急に真顔になる。 本当か、玉田?と伊能が聞くと、そうですと言う。

すると野口が、それから山行ったろう?女子と2人で山に行くなんて学校では禁止してあるはずだ、しかも無免許のオートバイなんてけしからん…と叱ると、農協に用事があって…、それで会計の中村さんのオートバイをちょっと貸してもらって…と言うので、それからどうした?と聞くと、ちょうど新太郎姉ちゃんが通りかかって…後ろに乗せてばーっと走ってくれって言うから…と玉田が言うので、新太郎が言ったのか?と野口が聞くと、言いました、新太郎姉ちゃん、誰かに失恋して…と玉田は言う。

それを聞いた野口は、失恋したの?と急に興味を持ったようで、その晩、新太郎姉ちゃんが好きな男が誰か他の女と歩いている所を見て、かーっとして、男同士だと潔く対決する所だけど、その晩眠れなくてむしゃくしゃするからパーッと走ってくれって言ったよと玉田は言うので、聞いていた伊能はええ?と思い当たる。

で?新太郎は走っている間にお前になんて言ったんだ?と野口が追求すると、何にも言わなかったよと言うので、本当か?と野口は念を押すが、歌っていたと言うので、どんな歌歌っていた?と聞くと、愛しちゃったのよ、ララランラン♩愛しちゃったのよう〜…と玉田が歌い始めたので、はい、それまで!と野口は玉田の顎を押さえて止めさせ、それから如何したと促す。

あんまり良い天気だったので、ついでに山に行こうって誘いました…と玉田は言う。

何?お前子供のくせに芸者誘ったのか?と野口がいきり立ったので、違うよ、誘ったのは新太郎姉ちゃんですと玉田は言う。

それで途中の店で餅を買って山に登った…と言うので、山に登ってどうした?と野口が聞くと、黙り込むので、言ってみろよと耳を引っ張ると、新太郎姉ちゃん松の下に寝転んでたよと玉田は言う。

寝ちゃったの?お前どう下の?と野口がしどろもどろになって聞くと、餅食ったよと玉田は平然と答える。

それからどうした?新太郎はお前に何と言ったんだ?と野口が聞くと、草むらのなかに寝て、ああ良い気持だって言ってたよと玉田は答える。

フ〜ン、それだけか?と野口が念を押すと、はいと玉田は頷く。

お前はどうしたんだ?と再度聞くと、餅食ったよと同じ事を繰り返すので、バカ、餅ばっかり食ってるんだなお前は…と野口は呆れ、餅はいくつ買ったんだ?といきなり伊能が聞くと20ですと言うので、いくつ食った?と聞くと、数えなかったと玉田は言う。

あの新太郎は食わなかったのか?と野口が聞くと、4つしか食わなかったよと言うので、それじゃあお前は16食ったんじゃないかと伊能が指摘する。

すると玉田が笑い出したので、ハハハ?と野口は顔をしかめ、お前は2年になってもこんな簡単な計算も出来ないのか?本当に情けない奴だな、お前は…と叱る。

そして、休め、休めと玉谷声をかけ、自分は跳び箱の上に老いていたやかんから湯のみに水を注いで飲みかけた野口は、いきなり玉田が逃げ出したので、水を吹き出し、こら!待て!と後を追いかけて行く。

伊能も、玉田!玉田金助!と呼びかけながら裏山に登ると、ここだ、ここだ、来てくれと野口の声が聞こえる。

言って見ると、木の下にいた野口が、あんな所に入る、太い枝の葉っぱの影だよと竹刀で上を指す。

降りて来い、玉田!と伊能は呼びかけるが、ムダだよ、僕も散々呼んだんだが、どうしても降りて来ないんだと野口は言う。

その時、野口は、生徒2人が近くにいることに気付き、ちょうど良い所に来た、駆け足、駆け足!と声をかけ、近づいて来た2人、お前たち、すぐに登って玉田を連れて来る!と命じる。

それでも先生、生徒仲間の仁義としてそんな手伝い嫌だよと言うので、先生が文台になってやると言いながら、野口は気の幹に抱きついてしゃがむ。

生徒たちは、悪い所に来ちゃったな?お前やるか?嫌だよと互いに言い合いのあげく、早くしろ!と野口に命じられると、こう云う時だけ、先生、踏んづけられるのはなどと言いながら1人が木を登り始める。

伊能も生徒の足を持ってやり補助する。 金助!どこだ!隠れてもあかんぞ!などと呼びかけながら生徒は登って行く。

何だ、ここかと気付いた生徒は、金助!これからお前を捕まえるが、悪く思うなよと下に聞こえるように大声を上げると、金助が小鳥を差し出したので、くれるんか?と喜んだ生徒は相撲の賞金をもらうように手刀を切り、その小鳥をポケットに収める。

生徒が降りて来たので、どうした小田?と野口が聞くと、あかんわ、あいつ折れそうな細い枝の方へ行ってしまってどうしても掴まらんのやと小田は言う。

そうか…と野口が諦めかけると、小田は仲間に今もらって来た小鳥を見せて自慢し始めたので、それに気付いた野口はこら!と叱る。

小田たちは、失礼します!と言い残し走って逃げてしまう。 よ〜し、金助!お前がいつまでもそんな所に登っているんだったら先生にも考えがある、長期戦で行くからな!絶対降りて来るな!良いか!と木の上に呼びかけ、自分は木の下にあぐらをかいて座る。

伊能は、野口先生、このくらいで許してやって下さいと頼みながら、その横に座る。

しかし野口は、うん、理由もなしに許しては教師の沽券に関わるからねと答え、腕組みをしたまま瞑想状態になる。

すると木の上から、愛しちゃったのよ、ララランラン♩と玉田が歌を歌い始める。

伊能はバツが悪くなるが、野口は、こら!いい加減に降りて来い!と怒鳴る。

そして、おい、おい玉田!後を続けろ!と野口は気の幹に背中を付けて立つと、上に呼びかけたので、玉田は意表を疲れ、えっ!と驚く。

玉田が又歌い出すと、野口もそれを一緒に口ずさみ、ねえ、君、僕はこの歌、覚えたくてねえ…と側に座っていた伊能に言うと、おい、始めっからもういっぺんやれ!と木の上に呼びかける。

玉田が歌い出し、野口も唱和し出すと、焼けになったかの用に伊能も一緒に歌い出す。

そこにやって木谷が圭子で、ララランランと来らあ…と野口が伊能と一緒にうっとり歌っていると、先生!と圭子が近づいて呼びかける。

おじさん、今、家から電話があってね…と圭子が言うと、電話?と野口は驚き、赤ちゃんが生まれたのよと聞くと、ええ!と喜ぶ。 男の子ですってと圭子が教えると、万歳!と喜んだので、伊能も、おめでとうございますと祝福する。

女房、でかした、大手柄だ!と野口はすっかり上機嫌になり、君、上2人が女だろう?欲しくってね、男の子が…と伊能に話しかけ、木の上に向かうと、おい金助!お前がこんな所に登っている間に、先生の家では子供が生まれたぞ!まだ対面はしてないが、俺に似た美男子だ!お前のような三角野郎とは違う!早く降りて来い!とん助め!と呼びかける。

なあ伊能君、僕はこの間から男の子が生まれることを予想して色々名前を考えていたんだがね、英安なんてどうだろう?後、勇吉、竹蔵、大作、一郎、健介…、ま、色々考えたんだが、いざ生まれると迷っちゃうねなどと野口はうれしそうに相談する。

なあ伊能君、家の学校も、校長派、反校長派などと言う変な空気が流れていて、お互い職員室でもやもや腹のの探り合いをしているようじゃダメだよ、ま、公平な所、家の校長さんも良い人間だが、だが人間としてはもう一つ目方が軽すぎる、どうもこの町にはてんで向かん人だとわしは思うがね…と野口は言う。

すると圭子も、ダメよ、おじさんだって一番古いくせにぶつぶつそんなこと言ってるばかりでもやもやした不明朗なも空気を追っ払おうとしないんですもの…、怠慢と言うより卑怯だわと野口を批判する。

お前さんはいつもそんなこと言って俺をやっつけるがな、およそ人の長たる者は手柄は部下に譲り、仕事の失敗の責任は自分が取るべきものをうちの親分と来たらまるであべこべだからね、だから今度のような変なラブレター事件が起きたとしても、校長派と思われる連中でさえ、その噂をもみ消そうとしないばかりか、仲間同士でその噂を楽しんだりする始末なんだと野口は嘆く。

それじゃあ花山会長だって…と言いかけた野口は、あ、そうだ!と何かに気付き、今夜花山会長を囲んでPTAの有志と職員で宴会するんじゃなかったのか?はあ、あれるかもしれんぞ、今夜は…と野口が言っていたとき、ようやく玉田が気から降りて来る。

それに気付いた野口がおい、お前!と呼びかけると、転びかけながらも逃げた玉田は、先生、おめでとう!と言い残し、さっさと逃げて行ってしまう。

それを見送った野口はこの野郎!と笑い、伊能、圭子も一緒に笑い出す。

その夜、田島教頭は宴会で、会長、お流れを一つなどと愛想を振りまいていた。

伊能も隣に座った野口や新太郎から酒を注がれていたが、そんな中、宴会を抜け出し廊下に這いつくばっていた清水校長は、こっそり伊能の背後の障子を少し開け、君、誰にも気付かれんように出て来てくれんかと小声で頼む。

伊能が素早く廊下に出て、こっちこっちと手招く清水の元に駆け寄ると、裏手から女中部屋に連れて行く。 そこには既に石黒が待ち受けていた。

女中部屋らしいと言う石黒に、今はそんなことはどうでも宜しい!それより君、誰にも見られなかったろうな?と伊能に念を押した清水校長は、もうわしの身辺はスパイだらけだ、全く油断も隙もありゃせんのだよなどと言いながら、部屋の外の様子をうかがう。

実はな、君たち2人に来てもらったのはな、近頃学校内でわしの名誉を毀損するようなデマが行なわれておるのを知っとるじゃろう?わしが瓢家の才太郎にラブレターを書いた…、あほらしいにも程があるよと清水は笑い飛ばす。

それはだな誰かが密かにわしを陥れる為に作ったに違いない、しかし問題はだよ、この偽手紙、この証拠物件が存在する間はとかく世間がうるさいし、またわしとしてはだよ、筆跡を鑑定してだな、犯人を追求する必要がある! そこでだね、君たち2人だね、これから才太郎の家に行って、手紙を三通とも取り返してもらいたいんじゃと清水が言うので、偽手紙は3通あるくらいですか?と石黒が聞き返す。

するとうっかり自分の失言に気付いた清水は動揺し、そんなことわしが知るはずないじゃないか!君、3通や30通や…、そんなことは分かりゃしない!君もおかしなことを言う人じゃなどと笑ってごまかそうとする。

ただわしはだな、そう云う卑劣なことをする奴はだな、1度なら2度3度やるに違いないと憶測しただけじゃ、どうじゃ、君たち2人で取り返して来る自信はあるか?と清水が聞くので、それはあくまでこれの問題ですと石黒は指を丸めて金のことを要求する。

金か?相場はどのくらいだ?と清水が聞くと、石黒は、まずこのくらいですかと片手を開いて見せる。

5000円?と清水が言うと、いやいやと石黒が言うので、5万円?と聞くと、又、いやいやと石黒は首を振る。 50万!と清水は青ざめる。

何ね、この間抜け野郎!書かない手紙を取り返す阿呆もないもんだ!良い年して良い面の皮してやがる!むじな野郎!と言いながらと才太郎はやってきた石黒にコップ酒を引っ掛ける。

するち石黒は、けしからん!人をむじな野郎とは何事か!けしからん!と怒るので、目障りだ、とっとと出て行きやがれ!と才太郎は石黒と伊能に啖呵を切る。

才太郎は、ぶったばすぞ!と鉄瓶を手に取ろうとするので、わしは帰る!と答えた石黒は座っていた伊能ににじり寄り、後は頼みましたぞ、500円で…と自分で出した片手を見手首をひねり、ちょっと無理かな?5000円で負けて下さい、頼みましたぞと小声で頼んで行く。

すると、何をぐずぐずしてるんだい!と才太郎が怒るので、石黒は服を拭いたふきんを伊能に渡し、そそくさと帰って行く。

すると、1人残った伊能に、坊や、お酌して頂戴と才太郎はコップを持って笑いかけて来る。 伊能が素直にコップに酒を注いでやると、あなたにあげるわと才太郎はそのコップを差し出す。

伊能がそれを飲むと、ねえ伊能さん、あんたにだけには本当のことを言うわねと才太郎は言い出す。

あのね、始めに来た2本の手紙はね、もし学校に迷惑及ぼしちゃいけないと思って私焼いちゃったのよ、だから3度目のもそうしようと思ってるうちにどっかに落っことしちゃったのと才太郎は言う。

それを誰かに拾われて今度の騒ぎになっちゃったんだわ…、それなのにそれなのに…、お金をやるから書いた覚えのない手紙を返せなんて、よくよく見下げた根性だわね…、あんたもおとなしいからそのまま付いて行けって言われたんだろうけど、でもあんまりお利口さんだとは申せませんね…と才太郎は首を振りながら言う。

男ならもっと見識って持たなくちゃと立ち上がった才太郎に、僕はまだ見識なんて持ちたくない、しかし学校内での派閥争いなんてのはナンセンスだ、僕は校長派にも教頭派にも付きたくないと伊能は言う。

すると着替え始めた才太郎は、何、寝言言ってるのよ、校長に付くか付かないは別にして、こんな下らない騒動、早く収めるようしたいんでしょう?と言う。 そりゃもちろん…、しかし清水校長、一体どう言う態度に出たら良いのかな? 2つありますよ、伊能さん、1つはね、いかにも俺は手紙を書いた、だがそれがどうしたって居直ることだわ、それでもう1つはね、あくまでも知らぬ存ぜぬで突っぱねちゃうことだわと才太郎は入れ知恵をする。

だけどね、お宅の親分、最後まこの2つを持ちこたえるだけの度胸があんまりありそうにも思えないのよね…と言うと、ちょっと伊能さん、手伝って!と帯締めの手伝いを頼む。

ま、どっちみち、あんたは心配なんかしなくて良いのよ、はい、これをここにはさんでと帯の支持をしながら、ねえ、花山さんって知ってる?と言うので、の人が何とかしてくれるわよと才太郎は言う。

花山会長が?と伊能が驚くと、うん、あの人今度のこととっても心配してね、何とか清水校長の立場良くしてあげたがってるのよ、清水さんより学校が大切だって言うの、そのくらい腹の大きな人なのよと才太郎は教える。

フフフ、あの人が私のどんな人だか、そんな野暮ったいことお訪ねにならないでしょうね、伊能さん…と言いながら、才太郎はからかうように伊能の顎を触って行く。

その頃、座敷に戻っていた清水校長は、教頭派の連中から、大校長!それ行け!と声をかけられると調子に乗り、隣に座った花山会長に上機嫌で酌をすると、清水君、今夜は元気だな?君は才太郎に何回くらいラブレターを書いたんだと花山はいきなり聞く。

すると酔った勢いもあり清水校長は、3べん、3べんじゃ!とうれしそうに教えるが、それを石黒に耳打ちされた田島教頭は側でしっかり聞いていた。

その時、そう3べん…と言いながら、ふすまが開き、才太郎と伊能が入って来る。

確かに3べん、素敵なラブレター頂きましたわと言いながら、才太郎は清水校長の前に座ったので、さすがの校長も表情が変わる。

でも、それがなんだって言うんです?芸者がお客さんからラブレターもらっちゃいけないんですか? お客さんが校長先生だから、だからいけないんですか?でもさ、先生だって人間、芸者だって人間、人間の男から女にラブレターを送ったって、それがどうして?と才太郎は開き直って満座の席で言い放つ。

そ、そうだよ、それがどうしていけないんだ!3べん確かにラブレター送ったよなと清水校長も気がついたように言い出す。

しかしわしは天地神明に誓って不義を…と言いかけた清水校長の肩に手を置いた花山会長は、分かった、分かった、もう良かろう、青少年の教育に当たる者はそのくらいの人間味があって然るべきだと言い出す。

教育者が去勢された聖人君子であっては困るからなと花山が言うと、それを聞いていた伊能が拍手をし、それにつられてとなりの野口も拍手をする。 坂本先生や新太郎、女性教師たちも拍手をする。 その拍手で勇気づけられたのか、清水校長もすっきりした顔になり、花山会長に酌をする。

その時、才太郎が、所で皆さん!え〜、その3通の手紙の中の1通を、私はうっかりしてね、どっかにおっことしちゃったんですよ、そしたらそれを拾った奴がいて、中味をぺらぺらぺらぺらしゃべって歩いたんですね〜と言いながら田島教頭の方へ目をやる。 これには田島教頭、石黒、木本医師たちは表情が変わる。

それを又たしなめるどころか、鬼の首を取ったみたいに町中に言いふらしたチンドン屋みたいな連中がいるんだから…と才太郎は悔しそうに言う。

そして又、胃けいれんを起こすような表情になったので、姉さん、大丈夫?と新太郎が背中を押しに来ると、大丈夫と答えた才太郎は、本当はもっとしゃべりたいんだけどね、伊能さん?と背後に話しかけるように言う。

もう良いだろう、見事な外科手術だったよと伊能が答えると、まあ伊能先生に褒められてうれしいわと才太郎は喜び、良かったわね、姉さんと新太郎もねぎらう。

すると花山会長が正座し直し、最近世情に伝うる所によれば、学校内に校長派、反校長派が対立しているとか、清水校長は迫害の情熱家であるとか、とかく噂が流布されているようであるが、不肖花山、かくのごときは根拠のないデマと確信しているのでありますと言うと、気に入った、その通りだ!と清水が調子に乗るので花山がその頭を叩く真似をする。

座敷内に笑いが巻き起こった中、人間生き物である以上、誰しも多少の過ちは免れない、故に従来の一切の誤解を快く水に流し、もって母校発展の為に一段の協力と援助を期待したいのである!これが不肖花山のお願いである!と花山会長は頭を下げる。

みんなが拍手をする中、良かったわね〜と言いながら、新太郎が伊能を座敷の中央に引っ張り出す。

よ、ご両人!などと野次が飛ぶ中、そんな堂々と!と清水校長が注意すると、芸者が先生好きになったって良いでしょう?ねえ?と新太郎が言い返すと、野口も立ち上がり、やれやれと拍手して囃す。 翌日、伊能は下宿でギターを弾きながら「俺は海の子」を歌っていた。

すると拍手が聞こえたので伊能が振り向くと、三保子がうれしそうに手を叩いていた。

椅子の上では子犬があくびをしていたので、伊能は口を歪めるが、先生、お客様ですよと三保子が言うので驚く。

やって来たのは玉田艶子だった。 すみません、突然お伺いして…と艶子が言うので、いやいやと答える伊能。

昨日は又弟がご迷惑をかけたそうでと艶子が言うと、玉田さんの弟さんとても元気で面白いお方ですって…と部屋を片付けていた三保子が言うと、もういたずらっ子でいつも先生にご迷惑ばかりと艶子は答える。

先生もまだいたずらっ子みたいなんできっと良いお友達難じゃありません?と三保子は言うので、何だって?と伊能は顔を強ばらせるが、どうぞごゆっくりと良い、三保子は部屋から出て行く。

とても感じの良いきれいな方ですわねと三保子のことを艶子が褒めると、感じが良い?そう言えばこの頃急に変ったみたいだな…と伊能も三保子の変化を思い出す。 あの…、これどうぞと艶子は土産の柿の入ったかごを差し出すと、こりゃあどうも…と伊能は喜ぶ。

家になっているんです、今度一度家にいらっしゃいません?と艶子が誘うと、今度是非と伊能も答える。

いや、実は金助君の家庭訪問で一度おうかがいしようと思っていたんですよと伊能は言いながら煙草を吸う為に机に座る。

本当、是非来て下さいと艶子が言うので、ああと伊能は答える。 色々ご相談したいことが一杯と艶子が言うので、良かったらいくらでも…と伊能は答える。

何しろ年寄りと私たちだけな者ですから…と艶子は言うので、お父さんとお母さん、颱風でなくなられたそうですね?と聞く。

ええ、伊勢湾台風の時に、親戚の家に結婚式の手伝いに行ってて…、でももう昔のことですから…と艶子は言う。 今日は実は、お話を聞いていただきたいことがありますのと艶子は言い出す。

何でもどうぞと伊能が答えると、ええ…と言いかけた艶子だったが、やっぱり今度家に来ていただいた時に…と思い直したように言うので、いや、僕はいつでも構わんですよと伊能は身を乗り出すと、今日はこれで失礼しますわと艶子が言うので、まだ良いじゃないですかと伊能は引き止める。

でも今度、本当にお邪魔しましたと言いながら艶子が立ち上がったので、そうですか、じゃその辺まで送って行きましょうと伊能も立ち上がる。

「パール美容室」から出て来た新太郎は、あら?と伊能と艶子が歩いている所を目撃する。

伊能先生、この頃暑中見せつけやがって畜生!馬鹿野郎!女たらし!いーっだ!と新太郎が怒って大声を出すので、一緒にいた才太郎は驚き、人が見てるよ!と注意する。

送ってもらっていた艶子は橋の所に来て、先生、もうこの辺りまでで結構ですわと伊能に言い、帰りかけるが、途中で止まり振り返ると、やっぱりお聞きしますわと言うので、どうぞどうぞと伊能が言うと、女が男の人を好きになるってどう言うことでしょうか?と言う。

え?と伊能が驚くと、教えて下さいと言うので、どうして僕に聞くんですか?と聞き返すと、だって先生は先生ですもの、教えて下さるのがお仕事でしょう?などと艶子は言う。

いや、別に難しく考えることはないんじゃないかな?第一、そう云うことを考えるのは、もう好きになった証拠じゃないかなと言いながら伊能は艶子に近づいて行く。

後は目をつぶって男の胸の中に飛び込んで行く!それだけじゃないかな?と伊能が自分の胸を押さえながら言うと、先生、ありがとう、さようならと笑顔で言い、艶子は帰って行く。 それを得我を出手を振って見送る伊能。

「和洋一品料理」ののれんに「うどん そば」と書かれた提灯が下がった店の中、新太郎はお銚子を人差し指に突き刺してぶらぶら揺らしながら小唄を歌っていたが酔っていた。

伊能先生!伊能公の女たらし!何が両手に花だよ!学校の先生と百姓の娘と両手に花!などとぼやきながらコップ酒を飲む。

それを聞いていた才太郎は、もう良い加減におしよ!と諌める。 お姉さんも飲んで!と新太郎が甘えると、嫌だよ!と才太郎は断る。

胃けいれんが起きたら介抱してあげるわよと新太郎が絡むと、介抱されるのはお前さんの方じゃないのかい?と才太郎が言い返す。

すると、姉さん押して、私酔っぱらっちゃったと新太郎が机に突っ伏したので、もうしようがない!とぼやくと、介抱して、ね、伊能先生…と新太郎は呟く。

しかしすぐに起き上がって、伊能公!何が両手に花だよ!と又文句を言い出す。

学校の先生と百姓の娘か…、弱いね…と才太郎がその先を言うと、何が弱いのよ、私だって百姓の娘だったのよ!と新太郎は言い返す。

北海道の、帯広のさ…、姉さんだってそうでしょう?と新太郎が言うと、そうさ、あたしだって漁師の娘さ、始めっからこんなに白粉臭かった訳じゃないのよと才太郎も答える。

潮風が真っ赤なほっぺにしみ込んで、白粉なんか塗ったって乗りゃしない…、そんな娘時代があったのさ…、さ、私も飲みますわよと才太郎もコップを持ち、注いでおくれと言うので、そう来なくっちゃ!と新太郎は喜ぶ。

コップ酒をあおった才太郎は、でもあの伊能先生ってお前がぽーっとなるのも無理ないね〜と納得する。

近頃の若い男にしちゃどこかぐーっと1本筋が通っているようないないような…、笑うと坊やみたいに可愛くてさ、何となく頼りになるようなならないようなところが年増の気持をきゅーっと!と才太郎が言うので、ダメよ姉さんまで惚れちゃ!と新太郎は文句を言う。 おや?どうしてダメなのよ?えっ!恋愛は自由じゃないかと才太郎はムキになる。

すると新太郎は、恋愛は自由と来たわね?と食って掛かり、じゃあ姉さんも立候補しなさい、ただ彼を巡る女性第5号!と言うので、5?と才太郎は不機嫌になる。

私の前に4人もいるのかい?と言うので、そうよ、まずこの新太郎姉さんでしょう?それから学校の先生に、百姓の娘に…、それからほら!下宿の!出戻り!と新太郎は吐き捨てるように言う。

その三保子は伊能に皿と果物ナイフ、洗濯物などを甲斐甲斐しく渡していた。

二階に戻った伊能はナイフで艶子からもらった柿をむいてかぶりつく。

そこにつねが上がって来てお茶を差し出す。

実はこんなこと本当に申し上げにくいんでございますけどと、紅茶に砂糖を入れながらつねが切り出す。

何でしょうか?と子犬を抱いて飯台の前に座った伊能に、今月一杯でこの部屋を出て行っていただきたいんでございますけどとつねが言うので、ええっ!と伊能は驚く。

いえ、家じゃ先生みたいな方いつまでもいていただきたいんでございますけど、実はこの度三保子が結婚することになりましたので…とつねは言う。

結婚?と伊能が聞くと、それが実は婿養子に来ていただくことになったんですとつねは言う。

まあ私どもも必ず良い下宿をお世話することに致しますけれど、三保子さん結婚なさるんですか、なるほどそれで近頃急に…と伊能も最近の三保子の態度の変化に納得する。

これで私どももようやくほっとしましたような訳で…というつねに、そうでしたか、おめでとう!と伊能は子犬を差し上げて言う。

その後、伊能は玉田の家に家庭訪問に向かうが、そこに、先生!と金助が釣り竿とバケツを持って近づいて来て俺んちに来てくれたの?と聞くので、そうだよと答える。

俺何も悪いことしないけど…と玉田が不安がるので、そうじゃないよ、今日はちょっと遊びに来たんだと伊能は答える。

姉ちゃん、ちょっと出掛けてるよ、ねえ先生一緒に釣りいかないですか?と玉田が言うので、同行することにする。

釣りを始めると、先生、話があるんだと玉田が言うので、何だ?と聞くと、姉ちゃんのことなんだけど…、本当は姉ちゃんの口から直接言うべきなんだけど、姉ちゃん恥ずかしいからって…、姉ちゃん…、先生引いてるよ!と玉田が言うので、慌てて釣り竿をあげた伊能だったが、餌を取られたので、ダメだな…慌てちゃ…と玉田がバカにする。

玉田が餌を取り変えているので、何だい?と聞くと、ミミズだよと言うので、違うよ話の方だよ、姉ちゃん、先生のこと尊敬しているって言ってたよ、この前姉ちゃん先生の所へ言って先生に好きな人があるなら思い切り飛び込めって言われたって言ってたよ、だから姉ちゃん思い切って…、先生もたまには良いこと言うなって俺も感心しちゃったなどと玉田は言う。

その言葉ですっかり上機嫌になった玉田だったが、だから先生にも是非結婚式に出てもらいたいって…と玉田が言うので、何?もういっぺん言ってみろと伊能は促す。

姉ちゃん、杉原の健三さんと結婚することになったんだよと玉田が言うので、伊能はあっけにとられる。

え?その杉原の健三さんって何だい?と聞くと、果樹園で働いているんだよ、ほら、姉ちゃんこの前、先生の所に柿持って行ったでしょう?と言うので、あれお前んところの柿じゃないのかよと聞くと、家のはみんな渋柿だよと言う。

先生、俺からもお願いします!姉ちゃんの結婚式に出てやって下さいと玉田が頭を下げて来るが、ぼーっとしていた伊能は、先生、引いてる!引いてるよ!何してるんですか?今のはデカかったよ…と竿を奪われても返事が出来なかった。 釣り落とした魚はでっかいと言うけど本当にでっかかった…と玉田が言うので、伊能は自分のことと重ね不機嫌になってしまう。

夜、町に出た伊能は、本屋の前で中をしきりに覗き込みながら、おかしいな?どうしちゃったのかな?などと髪を手でなでながら呟いていた坂本先生を見つける。

やあ今晩は!と背後から声をかけると、こんばんわ!としどろもどろに坂本は答えるが、1人?と問いかけた伊能は相手の狼狽振りにどうしたんですか?と聞く。

いや、別に…とごまかした坂本は行きましょうと誘い、伊能さんこそどうしました?と聞いて来たので、別に…、どうも…と伊能もごまかす。

でもいつもの伊能さんらしくないなと坂本が言うので、そうかな…と伊能が呟くと、そうですよと坂本は言う。

実は失恋したんですよと伊能が苦笑すると、失恋!相手は?と坂本が聞いて来たので、山中先生と伊能が答えると、坂本はえっ!とうろたえるので、笑って、じゃないと訂正する。

坂本の表情を見た伊能は、がっかりすることないだろう、僕はどうもああいう女性は苦手だなと言うと、僕も苦手だと坂本も言うので、おい、無理することないよと言い聞かせるが、ああいうのは敵わんと言うので、頭が良すぎるんだな…と言うと、美人すぎるんだなと坂本は言う。

頭の良い美人なんてのはうも面白くないと伊能が言うと、何となく冷たくてと坂本が言うので、高慢ちきでと伊藤が言う。

かわいげがなくて…理屈っぽくて人をバカにしやがってと坂本が悪口を続けるので、そう云う彼女に君は何遍ラブレターを書いた?と伊能が聞くと、3べん…と恥ずかしそうに坂本が答えたので、校長並みだなと伊能は笑う。

返事は?と聞くと、始めの2本だけ来たと情けなさそうに坂本が答えるので、3本めは?と聞くと、あんたが赴任して来てから出したのには返事くれないんだと坂本は言う。

やがて2人はパチンコ屋の前に来たので、パチンコやろう!と坂本は言う。

パチンコ?彼女大嫌いだろうがと指摘すると、絶対やっちゃいけないって言うんだと坂本も言う。

パチンコはつまらんよと伊能が言うが、野郎よと坂本が誘うので、止そうよと伊能は断る。

じゃあ僕だけやる!と言うのでおい待てよと手を取って止める伊能。 その時、あら今晩は!と話しかけて来たのが圭子だった。

珍しいわね、2人がご一緒だなんてと圭子が言うので、いや僕が1人でぶらぶらしてたら、坂本先生があの本屋から出て来たので…と伊能が説明すると、本屋から?坂本先生が?と圭子は驚く。

坂本はしどろもどろになるが、2人でぶらぶら歩いて、僕がパチンコでもやろうと言ったらじゃあ、彼は絶対に嫌だって言うんですと伊能が嘘をつくと、圭子は喜んだので、じゃあ僕だけやってくるからね、さようならと2人に言い残し伊能はパチンコ屋に入り、圭子は、嫌ねパチンコなんてと坂本に同意を求める。

坂本もええ…と答え、行きましょうと圭子に誘われると、パチンコ屋にぺこり頭を下げ付いて行く。

一方、パチンコ屋に入った伊能は心ここに在らずと言う雰囲気だった。

翌日、職員室にいたい脳に、あ、君、赤ん坊ってのは可愛いものだねと野口が満面の笑みで話しかけて来る。

僕んところの英安もね、ここん所、こう言う色の付いたものを見せるととってもニコニコ喜ぶんだよと親ばか振りを披露する。

安、安って呼ぶと、お目めこんなにちっちゃくして喜ぶんだとガラガラを取り出して報告し帰って行く。

その時、田島教頭が帰ろうとするので、一緒に帰りましょうか?と伊能が誘うと、校長先生に誘われているからと笑顔で田島は去って行く。

廊下に出て見ると、校長室から清水校長と田島教頭が笑いながら帰って行く姿を見る。

岐阜羽島の駅では、毛棍式を終えた艶子が新婚旅行に出る所で、伊能も見送りに来ていた。

駅から1人歩いて帰る途中、車から先生!と呼びかけたのは新太郎だった。

やあ!と近づくと、パンクしちゃったのよと言うので、金助君のお姉さん見送ってあげようと大急ぎで来たんだけど…と言うので、助手席に乗り込んだ伊能が、隊や取り替えようか?と言うと、まあ良いわ、急がなくても…、ああ、良い風が吹くじゃない?と窓から身を乗り出した新太郎が言う。

先生とこんな所で会えるなん素敵だわ…、誰もいなくって…と新太郎はうれしそうだったが、助手席側の窓から身を乗り出した伊能はつまらなそうに相づちを打つと、どっか下宿ないかな?と聞く。

あそこどうしたの?と新太郎が聞くと、出されちゃったんだよと伊能は言う。

すると新太郎は、ああ、私もその内大阪に行っちゃうかもしれないわ、才太郎姉さん商売辞めちゃうかもしれないのと言う。

それを聞いた伊能は、俺もどっかに行きたくなったなとぼやくと、どこへ?と新太郎が聞くので、さあ…とはぐらかすと、あら、あそこ、真っ昼間だと言うのにお付き様が!と新太郎は空を見上げて伊能に話しかけるが、伊能が自分を見つめていることに気付き、あら?どこ見てるのと聞く。

君のおでこは美しいねと伊能が言うと、ありがとうと新太郎は喜び、ピカピカ光ってるよ、そこにちょっと触らせてくれないかな?と頼んで来る。

は〜い!と言って差し出した新太郎のおでこに伊能はキスをする。 すると新太郎はセンスで口元を覆いながら、雁が届けし玉梓は、小萩の袂はるかやに…と言うと、車の外に出て踊り出す。

画面は日本髪の芸者姿になった新太郎が踊る姿に変る。

伊能が車を降りると、(「ブラックサンド・ビーチ」のエレキが流れる中)踊ろうと言い出しモンキーダンスを踊り出す。

よ〜し!と答えた伊能もモンキーダンスを踊り出す。 突然、伊能の姿のストップモーションになり

伊能琢磨よ

何処へ(の文字)
 


 

 

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