白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

秘密('60)

犯罪ものと言うか、運の悪いお人好しの転落話とも言うべき内容で、人の良い工員がつい親切心から人に金を貸したばかりにのっぴきならない状況に追い込まれ、とうとう犯罪に手を染めることになるが、1人の純真な娘と出会うことで、何とか最後の良心だけは失わずにすむと言う展開になっている。

主人公も娘の方もまだ若くて世間知らずなばっかりに、理想論を思いつきそれを実行しようとするが、結局、苦い現実が待っていると言うちょっとビターな話でもある。

前半は犯罪もの特有のサスペンスフルな展開になっているが、後半になると主人公の気持が揺らぎ、観客からするとじれったくなるようなもたついた印象になるのが惜しい。

結末も何となく想像がつくものである。

低予算の添え物映画のようなので特に大きな見せ場はないし、終始、貧しい地域の貧乏話の雰囲気であるが、それを山田五十鈴さんや殿山泰司さんなどのベテランが少ない出番ながらしっかり支えている。

併映作を調べた所、この作品と同日公開の東映作品は4本あり「殴りつける十代」「白い崖」「秘密」「浪曲国定忠治 赤城の子守唄」、まさか4本立てと言うことはないだろうが、キャスティング面から考えてもメインになりそうな作品と言えば「白い崖」くらいで、後はどれも添え物映画風、さすがに2本立て2種類に分けて上映するには弱過ぎるような気もする。

当時、どう言う興行形態だったのか詳細が知りたいような気もする。

シネコンで封切は1本立てが一般的になった昨今だとこの種の映画は成立しそうにないし、単館向けのインディーズ映画だとしても集客は厳しいような気がする。

映画館人口が多かった当時ならではの作品だと言う印象だが、「白い崖」が大ヒットしたと言う話も聞かないことから、この作品を封切で見た人も限られて来るのではないかと言う気がする。

ヒロイン役の佐久間良子さんは初々しいし、主人公の底抜けに明るい親友役を演じている南廣さんも意外。

夢の中にちらり登場する刑事役の花澤徳衛さんもうれしい。

「地獄大使」こと潮健児さんなども若い工員役で登場している。

主人公を演じている江原真二郎も、気の弱い青年の役を良く演じている。

地味と言えば地味そのものだし、飛び抜けて出来が良いと言う感じではないが、娯楽としてはまずまずの出来と言った所ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、東映、早乙女勝元原作、家城巳代治+内藤保彦脚色、家城巳代治監督作品。

公衆電話ボックスの中で電話を握りしめていた高橋恵一(江原真二郎)は、絶望的な表情で目の前にある「安井銀行寺門町支店」から小さな風呂敷包みを手に出て来た1人の女子社員中田順子(小林裕子)を凝視する。

電話ボックスを出た高橋は無意識のその女子社員を尾行し始め、路地から人気のない裏道に入った所で、足下に飛び出した猫に気付いて足を止めた女子社員の包みを奪い逃走する。

泥棒!と叫ぶ女子社員中田順子の声を背に無我夢中で走っていた高橋は行き止まりの所に入り込んでしまったので、道の横の塀をよじ上り、向こう側に落下する。

その時、子供たちとボール遊びをしていた 保育園の保母紺屋みや子(佐久間良子)がたまたま転がったボールを拾いに近づいており、塀から落ちた高橋のことを驚いて見つめる。

高橋もみや子と目が合ったことに驚くが、慌ててその場を逃げ出し、人気のない空き地の土管の中で息を整える。

そして奪って来た封筒の中を確認すると、5000円札がかなりの枚数入っていた。

どうしてこんなことになったんだろう…、高橋は自問する。

工場のオヤジが風邪を引いたので、俺が代わって集金に回っていた…

タイトル

(回想)自転車でのんきそうに集金に回る高橋 駅前で煙草の「しんせい」を買っていた時、高橋さん!三村(大村文武)です、あさえの亭主の…と駅から出て来た男が声をかけて来る。

近くの飲み屋で話を聞いた所、三村は事業を一緒にやっていた男に金を全部持ち逃げされた、さらにあさえが病気で医者にも診せられず田舎に住まわせていると言う窮状を話し、あさえはあなたからもらった時計だけはいまだに手放していませんなどと言うので、同情した高橋は集金バッグから6000円を取り出し、入院の費用に使って下さいと差し出す。

あさえが三村と結婚してから高橋は一度も会ってなかった… あさえとは学校の同級生で仲良しだった。

いつも将来の結婚相手としてあさえの姿を自分と並べて空想したりするだけで幸せだった。

勤め先である「宝メッキ工場」に戻って来た高橋は、社長の山岸宗平(殿山泰司)から太洋工業の集金のことを聞かれ払ってもらえなかったと嘘を言うと、給料の前借りができないかと頼む。

しかし山岸は、今は苦しいので今日は無理だ、足りてる時は貸してやっているだろうと断って来る。

その後、同僚の藤本(清村耕次)に金を貸してくれないかと頼むが、給料前なのである訳ないよ、古谷(潮健児)に頼めよ、あいつはいつも持ってるからと言うので、古谷を呼び出し、1枚でも2枚でも…と金のことを切り出す。

しかし古屋が差し出した札は100円札で、2枚で200円でしかなかったので高橋は受け取らず、200円は床に落ちてしまったので、いらないのか?助かった…と古屋は呆れたように言う。

そうだ、コウちゃんに頼もうと思いついた高橋は、親友の田村浩介(南廣)のアパートを訪ねることにする。

コウちゃんは部屋の中に水着の外国人女性のピンナップ写真を貼りながら、若い娘がウッフン♩などとうれしそうだったが、高橋が金ないかな?6000円ばかりいるんだと持ちかけると、そんな大金持っているわけないよ、会社で借りてやるよと言うので、何なら半分でも良いんだ…と頼み込む。

帰宅した高橋はふさぎ込んでいるので、母親のさと(山田五十鈴)が、お前、具合でも悪いんじゃないかい?と心配して声を駆けて来る。

弟の次夫(小森甲二)と妹のテル子(春丘典子)が出掛けた後、服を押し入れから出す高橋に、どうするんだい、それ?と聞いて来たので、心配しなくて良いよ、給料日には必ず返すから…と説明しがらも質入れを諦めると、 つまんないことに足を突っ込んでるんじゃないだろうね?お前にしっかりしてもらわないと、この家は明日からでも食べていけなくなるんだよ、今が一番大事な時なんだよ、母ちゃん、内職頼んでみるから千円くらいなら…とさとは案じて来る。

工場に出社してみると社長が呼んでいると仲間が教えて来たので、社長室へ行って見ると、得意先が来ており、遅れている支払の催促をしていた。

高橋が部屋に入って来ると、太洋興業すぐに取って来てくれと山岸が言うので、あそこは2〜3日待ってくれと…と言い訳して見るが、3時まで戻って来い、良いな高橋!と言われてしまう。

コウちゃんに電話をして見るが、前借りの話をしたけど、課長が今出掛けているんだ、今は1000円しかできないとコウちゃんはすまなそうに言うので高橋はがっかりする。

こんな急な話になるとは…、オヤジのことだからぐずぐずしていると太洋興業に電話を入れるかもしれない…と高橋は気もそぞろになる。

時間が気になる高橋は、腕時計をはめた通りすがりの人に時間を聞くと2時ちょっと過ぎだと教えてくれる。

その後、電話ボックスからまたコウちゃんに電話を入れてみるが、課長はまだ帰ってないんだと言うので、どうしてもいるんだ、何とかならないか!と訴える高橋。

このことがバレたら…、首になったらおれの家はすぐ困ってしまう… 悩みながら、交通事故の対応をしている警官の横を通り過ぎる高橋は、又公衆電話ボックスに入りコウちゃんを呼び出して見るが、金策はどうにも無理のようだった… あの瞬間、目の前にいたあの女子社員の手の中に金がある…、そう思っただけなんだ…

(回想明け)中田順子から金を奪った高橋は2時50分、会社に戻り、金を受け取った山岸は間に合ったか!と喜び、再度会社に来ていた得意先に渡す。

帰宅して自室で横になっていた高橋は、隣の部屋で母と妹、弟たちが聞いていたラジオから「安井銀行寺門町支店から日本重工業の女性社員中田順子(としこ)さんが現金28万を強奪された」と言うニュースを流していたので、うるさいな!と声をかけ消させる。

それを聞いたテル子は、兄ちゃん、ヒステリーねとさとに呟きかける。

部屋の中で、奪った残りの金を茶筒に入れ、天井裏に隠そうとしていた高橋だったが、急に襖を開けた次夫が、兄ちゃん、何してるの?と声をかけて来たので、ネズミが騒いでいたから…とごまかし、外に出て、造成地の一画に埋めておく。

翌日の会社の昼休み、同僚たちは強奪された28万円の話で持ち切りだったので高橋は黙り込んでいた。

それに気付いた小松(岡部正純)が、高橋、どうした?と聞いて来る。

その時、山岸社長が、高橋、ちょっと…と呼び出し、社長室に来ると、注文取りに太洋興業も回ったが、あの金、前に払ったそうじゃないか!恥をかかされた!今月分の給料と退職金代わりだ、会社の信用問題だからな…、分かるだろう?と言って来る。

会社を首になったとは言えない高橋は、翌日からもいつものように出掛ける振りをするが、次夫が、兄ちゃん、今日給料日だね、バット頼むよ!などと声をかけられる。

家の中で、テル子が、兄ちゃん最近怒りっぽくなったと言い、さとも、お弁当を残したりして…、こんなこと初めてだよ…と首を傾げていた。

橋の所で、トラックに乗って来たコウちゃんに声をかけられ、助手席に乗せてもらうと、会社を首になったことを打ち明け、家には内緒にしてくれと口止めする。

俺だって就職前は失業してたんだ…と同情したコウちゃんは、その後、焼酎を片手に高橋を連れアパートにやって来るが、そこに保育園児を連れたみや子が通りかかり、コウちゃんに会釈して来たので、塀から落ちたとき目撃された女だと高橋は気付く。

コウちゃんはみや子を知っているらしく、若葉保育園の保母さんだと言うので、いつも来るのか?と聞くと、滅多にお目にかかれないが、会うと心が洗われるようなので、その日は風呂に入らなくても良いくらいだなどとコウちゃんは言う。

部屋に入ったコウちゃんは、あの金の話どうなった?と聞くので、何とかなったと答えると、あの日のギャング事件、ひょっとしてお前かも知れないと思ってさ…とコウちゃんが冗談を言うと、高橋がむくれて帰ろうとしたので、怒ったのか?全く馬鹿正直なんだから…、もっと飲むんだと焼酎を進めて来る。

コウちゃん、俺働きたいんだ…と高橋が愚痴ると、辛いよな、仕事がないと…とコウちゃんは同情してくれる。

コウちゃん、俺はこの前…と高橋は言いそうになる。

夜中、コウちゃんの部屋で一緒に寝ていた高橋は、誰かがやって来てとを執拗に叩く音で目が覚めるが、起こしてもコウちゃんが起きないので、仕方なく自分が起きて戸を開ける。

そこには刑事が2人(花澤徳衛、亀井明)立っており、高橋恵一だな、証言があるんだ、お前をこの目で見たと言う人がいるんだと言うので、廊下に出て見ると、奥に立っていたのは自分の方を指差し、何か叫んでいる紺屋みや子だったので、高橋は逃げ出そうとする。

コウちゃんが、高橋を揺り起こし、どうしたんだ?えらくうなされてたよと言うので、夢だったことに気付いた高橋だったが、コウちゃんの部屋の畳に置かれたナイフに気付く。

その後、みや子を待ち伏せ人気のない道で姿を現した高橋は、昨日俺のこと誰かにしゃべっただろう?と迫ると、みや子は驚いたように、あなたは?と聞き、しばらくしてようやく塀から落ちて来た男だと気づいたので、君は知らなかったのか!と高橋の方が驚き、あの時のこと黙っていてくれ、おふくろたちが可哀想なんだ!と頼む。

しかしみや子は、渡し、何も知らないんですと狼狽するので、金は君にやるよ全部!などと高橋が言うので、卑怯よ!大声出すわよ!とみや子は気色ばむ。

その時、道幅一杯の大型トラックが通過して来たので、思わず、危ない!と高橋は堤防の方へみや子の身体を押し付ける。

そして、ポケットに入れて来たコウちゃんのナイフを川に投げ捨てる。

それを見て少し落ち着いたみや子は、どうしてあんなことしたくなったの?やっぱり自首すべきだと思うわと言い出す。

私、それまで誰にもしゃべりはしないわとみや子が言うので、すまなかった、迷惑かけてしまって…と高橋は詫び、その場は別れる。

みや子の実家は豆腐屋だったが、帰宅すると、たまたま両親(須藤健、利根はる恵)たちが愚連隊の仕業じゃないかなどと強奪事件のことを話題にしていたので、この犯人がそんなに悪い人じゃなかったら…とみや子が言い出すと、弟の勝(唐木沢一雄)が、姉ちゃん、古いよ、今は悪人が悪を主張する時代だぜなどと生意気なことを言って来る。

そんな中、コウちゃんのアパートにやって来たテル子は、あんた、何か兄ちゃんをそそのかしてない?隠してるんじゃないの?と迫ったので、待ってくれよ、テルちゃん、嫌だな〜、恵ちゃんが黙っていてくれって言うから…と弁解し、あいつ工場を首になったんだよと打ち明ける。

その後テル子は帰宅して、母のさとと一緒に内職をしていたが、そこに高橋が帰って来て、昨夜はコウちゃんおところに泊まったんだと言い、給料と称して金を渡そうとするので、兄ちゃん、私、さっき浩介さんの所へ行ったのよとテル子が言い、さとも、家のことはみんなで心配するのが当たり前じゃないかと会社を首になったことを知っていることを明かし、何か訳が会ったら言ってくれと迫る。

テル子は高橋が酒を飲んでいることに気付き、明日からどうするのよ!と責めるので、どうだってなるよ!と言い捨て、さとは、恵一!どこに行くんだい!と呼びかけるが、そのまま家を飛び出して行く。

暗い夜道の塀にもたれ、高橋は泣き出す。

その後、日雇いの河口の荷役の仕事をしていた高橋は通りかかったみや子に気付き、仕事終わりに若葉幼稚園に出向く。

仕事を終えたみや子と教室内で2人になった高橋は、あれからおふくろや妹にどうしても話し出せなかった…、確かに卑怯なのかも知れない…と打ち明ける。

今は仕事をしたい、めちゃくちゃに…、一思いに町の真ん中で叫んでしまいたいくらいだ…と高橋は悩みを打ち明ける。

高橋さん、あのお金どうしたの?とみや子が聞くと、5000円札1枚取り、後は隠してあると高橋が答えると、そのお金返しましょう、あの女性にとってもそれが一番良いと思うの、その人私と同じ年でしょう?きっと会社でも具合悪くなっていると思うの、謝るのよと提案する。

そんなことで…と高橋はためらうが、私がその人だったらあなたのこときっと許してあげるわ、私5000円出すわ、貯金してあるのとみや子は言う。

高橋はその言葉に勇気づけられ、君が預かってくれないかな?と言うと、茶筒を隠した造成地の方へみや子を案内する。

すると、そこでは割烹着姿のおばさんたちによる地ならしの工事が始まっていたので、驚いて隠した場所にやって来た高橋は、ここに茶筒なかったですか?と工事人夫に聞く。

人夫は何が入ってたんだね?と聞くので、高橋が言いあぐねていると、みや子が地図が入っているんですととっさに嘘を言ってくれる。

すると別の人夫が、アベックさん、ここらのガラクタはあそこに片付けてあるから探してご覧と優しく教えてくれたので、高橋とより子はそのガラクタの山を漁り始める。

やがて高橋が、あった!と茶筒を見つけ出す。

人夫はそれを見て、あったのかい、良かったねと声をかけてくれたので、2人は礼を言ってその場を立ち去る。

私、もうドキドキしてたわと今の同様を話し、私たち、野良犬みたいだったわね、四つん這いになって…と冗談を言うと、高橋も、中味を聞かれた時、地図って行ってくれて助かったよと礼を言う。

金を手にした高橋は、公園の公衆電話から日本重工業庶務課の中田順子を呼び出す。

そして順子が出ると、28万は僕が取ったんです、それを返そうと思って…と切り出すと、あなたが!と電話の向こうの順子は驚く。

謝りたいのですが出て来てくれませんか?今、堀江公園なんですがと伝えると、そのまま電話は切らずやたらに相手が待たせるので、横で聞いていたみや子は、変ね、どうしたのかしら?と受話器を耳に当て首を傾げる。

高橋は、もしかしたら!と感づき、電話ボックスから出て側で様子を見ていると、やがてパトカーが近づいて来て、降りて来た警官が電話ボックスの中を確認する。

そして、アベックを装い歩いていた2人にあなた方はどちらへ?と聞いて来たので、底に病院へ、この人具合が悪いんで…とみや子がとっさに目の前の病院をさしながら嘘を言う。

その電話ボックスで若い男を見なかったですか?と言うので、さあ?ととぼけてそのまま病院に入って行く。 受付に入ると、病院の係員がスリッパを出してくれたので、それを履いて待合室に座る。

何てったって俺は犯人なんだ、今の電話で直接会うのは無理だと分かっただろうと高橋が落ち込むので、明日その中田さんの家に私が持って行くわと言うので、渡すだけなら郵送でも良いんだ、俺は謝りたいんだと高橋は自分のこだわりを伝える。

翌日、新聞には犯人から電話があったことが面白おかしく書いてあったので、それを読んだより小は、酷いわと憤慨するが、高橋は仕方ないよと答え、2人は中田順子の住まいにやって来る。

長屋のような家の様子を探りに行ったより子が戻って来て、一番億が中田さんの家よ、騒がれたら大変だわ、ここに置いときましょう、きっと彼女気がつくわと言い、長屋の途中のゴミ箱の蓋の上に「中田順子様」と書いた封筒を置いておく。

しかし順子はゴミ箱の横を通って通り過ぎるが、封筒には気付かず、通り過ぎてしまう。

しかもその直後、ゴミ箱の前の家の扉が開き、底から出て来たおばさんが先に封筒に気付いてしまったので、驚いた高橋が駆け寄り、それは僕が今ちょっと置いていた物ですと良い、返してもらう。

おばさんは朝っぱらから付け文かい?などとからかって来る。

慌ててみや子の元に戻って来ると、みや子は愉快そうに笑っており、だってあんな太ったおばさんにあなたがぺこぺこしているんですもんなどと言うので、もう止そう、子供騙しなんか…、元々僕たちは別人なんだ、俺は犯人で、君は目撃者!などと言い出したので、より子は恵一さん…と絶句する。 その後、高橋は1人でキャバレーでやっていた「平尾昌章とオールスターズ・ワゴン」のショーを見に行く。

ステージ上で歌う生の平尾昌章を見た後、高橋は1人繁華街をぶらつく。

その時、「三河屋」と暖簾がかかった飲み屋から気小覚えのある怒声が聞こえたので、中を覗いてみた高橋は、赤ん坊を背負ったあさえ(月村圭子)が迎えに来ている中、へべれけに酔って板前に文句を並べている三村の姿だった。

あさえさん!と高橋が声を掛けると、さなえは見られたくない物を見られたようなばつの悪い表情になる。

身体もう良いんですか?病気だったんでしょう?田舎で…と聞くと、それに反応するかのように三村が、おかげさまでこいつもすっかり元気になりましたよなどと口を挟んで来る。

しかしどう見てもあさえに病気期間があったとは見えないので、本当に病気じゃなかったんではないですか?三村さん、あん時…と問いつめると、あんただってあさえのあれでしょう?などと馴れ馴れしく懐柔しようとして来たので、バカ!と怒鳴り返す。

お人好しなばかりに三村に騙されて金を貸し、そのあげくに高橋は犯罪者になってしまったことに気付いたからだ。

その頃、コウちゃんは高橋の家を訪れ、さとに、自分が会社に推薦したらあいつを連れて来いってことになったんですと就職の道が開けたことを報告していた。

それを聞いたさとは、それを知ったら恵一も大喜びですよと破顔し、早く帰ってくれば良いのにね…と、まだ帰ってない高橋のことを心配する。

台所でテル子が酒がないことに気付くと、さとは次夫に酒を3合買いに行かせることにする。

玄関を出た次夫は、目の前に立っていたより子に気付く。

恵一さんは?と聞くより子に、まだ帰ってないよと次夫が答えると、恵一さんの就職のことで…と家の中を覗くと、コウちゃんがより子に気付き喜ぶ。 その頃高橋は、かつてのメッキ工場仲間が飲んでいた馴染みの飲み屋に合流していた。

家に上げたより子に、さとはうれしそうに、兄子は元々神経質なんです、5つくらいの頃、父ちゃんや私が帰って来るのをいつも泣いて待っていたのと昔話を教え、あなた、ご家族は?と聞いて来る。 弟が1人いますとより子が答えると、この子、新聞配達始めたんですよと次夫のことを褒める。

その頃、高橋はかつての同僚たちと飲んだくれていた。

小松、分かるか!俺たちは消しゴムか紙ヤスリだ!消しゴムにも五分の魂!今夜は俺が奢る、飲んで飲んで飲ませてくれ〜!と高橋は絶叫し、みんなで歌を歌い出す。

結局、帰って来なかった高橋の家を出て帰っていたより子は、途中で酔って帰る高橋と出会う。

どうしたの?酔ってるのね?と酔っぱらってるよ、金持ってるんだろう?返してくれ、俺、好きにさせてもらうわ、捕まるもんかなどと高橋が豹変したようなことを言うので、驚いたより子はためらうが、良いから出せ!と迫って来る。

より子は、これは中田さんに返して謝るって言ったじゃないと言い聞かそうとするが、俺の金だ!などと言って無理矢理バッグを奪おうとしたので、より子は思わずビンタをしてしまう。

あなたは悪い人じゃないと思うからこうしているのよ、でも間違っているんじゃないかったって…、さっきあなたの家に行ったのよ、浩介さん就職の話を持って来て、みんながあなたの帰りを待っていたわ、お母さんはあなたの昔のこと話してた。

私どうすれば良いか分からなかったわ、このお金持っているの…、恵一さんのバカ!意気地なしよ!と言い残し、より子は走って帰って行く。

翌日、高橋はコウちゃんの紹介で、鈴木鉄工所の社長に会い、週明けから来るようにと言われる。

今夜は飲もうとコウちゃんが言うので、高橋はいつもの馴染みの飲み屋に先に行って待っていることにするが、そこに置いてあった新聞を見て驚愕する。 28万強奪事件の容疑者として八百屋の長男が浮かんだと言う記事が載っていたからだ。

「八百駒」と言うその店をこっそりに見に行った高橋は、通りすがりの主婦たちが、あの子、前からかっぱらいしてたのよ、金よりも女にいたずらするためだったって言うじゃない…などと噂している声が聞こえる。

そこに警察の車が到着し、刑事が降りて来て扉を叩くと、中から弟らしい小学生が出て来て、バカバカ、あっちへ行け!と刑事を追い払おうとしているのが見えた。

堪らなくなった高橋は、より子の実家の豆腐店を訪れ、より子を外に呼び出すと、新聞見たよ、俺、自首するよてん、俺最後に君にお礼をして行きたかったんだ、君がいてくれたからやれた、本当にありがとう、じゃあさようなら!と礼を言い帰って行く。

しばし立ち尽くしていたより子だったが、急に走り出し、高橋の後ろ姿を見つけると、恵一さん!と呼びかけ駆け寄る。

恵一さん、自首なんかする事ないわ、あなたが悪い人じゃないことを警察は知らない、私さえ言わなければ良いのよ、私、誓うわ!とすがって来たので、でもいけないことはいけないことなんだよ…と高橋が言い聞かすと、より子が泣き出したので、思わず高橋は抱いてやる。

中田さんの所に行っても、恵一さんの気持は誰も分からないと思うの…とより子が言うと、俺、藤本や古谷のようと同じように働く身分になりたいんだよと高橋が言うと、恵一さんって良い人ねとより子は感心する。

この前、コウちゃんがね、君に会ったら心が洗われるって言ったんだ、風呂行かなくても良いんだって…と高橋が打ち明けると、私、恵一さんともっと早く知り合ってたら良かった…とより子は悔やむ。

翌日 高橋と落ち合ったより子は、待ってたのと話しかけて来る。

俺、おふくろには何も言えなかった…と悔やむと、私、後で行くわと答えたヨリ子は、あそこで待っているわと日本重工業ビル前の道路の向い側の歩道を指す。 会社に1人で入り、受付で販売課は?と聞くと、6階だと言うので、高橋は階段を登り始める。

5階に上がった所で、廊下を歩く似た年頃の女性社員の姿を見つけたので、中田さん!と読んでみるが、その社員は別人のようで振り向きもせずに遠ざかったので、高橋は6階まで登って販売部の部屋の扉を開ける。

大勢の社員が仕事をしている中、柱の影の机に座っていた中田順子を見つけると、僕高橋と言う物ですが、ちょっと御話が…、すぐすみますからと話しかけ廊下に出ると隅の方に向かう。

ご用件は?と高橋を怪しみながら順子が聞くので、実は僕は…と緊張のあまり口ごもる。

そのビルの下の歩道にはより子が待っていた。 謝りに来たんです…と高橋が自分が強奪犯であることを告げると、でも犯人は昨日捕まりましたけど…と順子が戸惑うので、僕が真犯人です、28万円をお返ししたいんです、この通りです、お返しします、受け取って下さい!僕が悪かったんですと用意していた封筒を差し出すが、怯えた順子は誰か来て!と悲鳴をあげる。

高橋は狼狽し、騒がないで下さい!これを返さないといけなかったんで…、受け取って下さい!と迫るが、悲鳴に気付いた男性社員たちが廊下に出て来て高橋を取り押さえようとする。

販売課の部屋の中に順子が逃げ込んだので、その入り口から封筒を投げつけると、床に落ちた封筒の口から札束が覗く。

下の歩道ではより子が、遅いわ、どうしたのかしらと心配していたが、そこにパトカーが近づいて来る。

何かあったらしいぞ!と付近の歩行者たちが騒ぎ出し、周囲のビルの窓も一斉に開いて会社員たちが外を覗くので、より子は道路を渡り、ビルの下に来る。 やがてビルの入り口から警官に捕まり出て来る高橋の姿がより子に見える。

より子の姿を見つけた高橋は、乗せられたパトカーの中で一礼して走り出す。

それを見送るより子のアップ


 


 

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