白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

毒蛇島奇談 女王蜂

初期の金田一もので、雑誌「キング」連載「女王蜂」の映画化。

片岡千恵蔵が金田一を演じた東横映画「三本指の男」が1947年の作品で続く「獄門島」が1949年なので、その間に作られた他社作品と言う事になる。

雑誌掲載時頃の映画化なので原作を熟知している人は限られていたはずだが、原作とはほとんど別物のような展開になっている。

何せ古い作品で白黒と言うこともあり、夜景などはかなり見にくいが、若くて美貌時代の船越英二さんと森雅之さんがメインの役を演じており、そこに久慈あさみさんが怪しげな美貌の琴絵とその娘智子の二役で登場している。

その美貌のために何人もの男が死んでいると言う琴絵と智子役を映像化するのはなかなか難しいと思うが、当時既に30歳くらいだったと思われる久慈さんは、やや面長の顔立ちで大人びて見えるだけに、年齢不詳の琴絵の方はともかく、20歳と言う設定の智子のイメージが合っているかどうかは見る人の判断次第だろう。

ちなみに後年の市川崑版「女王蜂」(1978)での琴絵と智子は、萩尾みどりさんと中井貴恵さんと云う別の女優さんが演じていた。

久慈さんは歌って踊れる宝塚出身の方だけにそう言う見せ場が用意されている。

前半はナレーションと言うか智子の独白のような説明で展開しており、内容はかなりダイジェストのような描き方になっている。

伊豆下田から海上約21里と云うのだから約80kmくらいの所にある島(冒頭の地図では伊豆のすぐ横にあるように描かれているが)と言うことで、三宅島と八丈島の中間辺りに位置すると思われる月琴島が、中国風の影響を受けた南海の神秘島のような独特の描写になっているのがまず面白い。

絵合成を用いているが、特撮は横田達由之+築地米三郎さん。

シーンによってはロケではなく、簡単な背景絵を描いたホリゾントと書き割り風の絵の間で舞台劇のように演じている部分もある。

密室殺人は登場するが原作の設定とはかなり違っている。

金田一役は往年の二枚目岡譲二さんだが、状況説明が長いのでなかなか登場しない。

銀座に探偵事務所を構えていると言う設定のようなので、金田一は東横の片岡千恵蔵同様スーツ姿。

岡さんもこの当時はオールバックヘアの普通のおじさんにしか見えず、原作のイメージとはまるで違っている。

片岡千恵蔵版と同じく変装の名人と言う設定など、おそらく戦後の通俗長編に登場するようになって知名度の高かった明智小五郎の名探偵イメージに近づけようとしていたのかもしれない。

実際、この作品も本格謎解きと言うよりコケ脅かし要素に満ちた通俗怪奇譚に近い。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1952年、大映、横溝正史原作、倉田勇脚本、田中重雄監督作品。

タイトル(蜂を象ったレリーフを背景に)

スタッフ、キャストロール

(地図を背景に)伊豆の下田から海上21里余り…、そこにその形が中国の月琴に似ている所から、誰言うとなく「月琴島」と呼ばれている小島がある…と言う大道寺智子(久慈あさみ)の独白。

海上の情景 その昔、伊豆の豪族大道寺一門が北條氏に追われ、この島に逃れ、あたかも平家村のように自ら本土との交渉を絶って幾世紀を過ごした。

(絵と実写の合成で南国情緒溢れる南海の神秘島のような情景描写)

江戸時代には密貿易の中継地となって栄えたこともあるらしく、唐風の文化が流れ込み、一種独特な風俗が今に伝えられている。

この猟奇に満ちた島の長、村人たちが御陣屋と敬っている大道寺家は今は荒れ果てて住む人もなく、怪奇なマムシ採りの老婆が1人うずくまっているばかりである。

この大道寺家に今から20年前、すなわち昭和7年の夏、2人の大学生が招かれて客となった…(と智子の独白)

屋敷に来た2人の大学生を部屋に案内していた大道寺鉄馬(見明凡太朗)は、歩くごとに廊下が音を立てるので、鶯張りと言ってな、くせ者の侵入を警戒するためじゃと大学生に説明する。

その時、お帰り遊ばせと挨拶して来たのは鉄馬の妻槙(瀧花久子)だった。

家内ですと学生に教えた轍馬は、船の中で一緒になった学生さんと槙に教える。

日下部君と鉄馬が紹介すると、学生服の日下部達哉(船越英二)が会釈をし、隣にいたもう1人の学生服の速水欣造(森雅之)も名乗ると、良くいらっしゃいましたと槙は丁寧に頭を下げる。

その槙に近寄った鉄馬は、例のあれを用意しておいてくれと声をかける。

槙はあれ…と呟き、少し戸惑ったようだったが、畏まりましたと丁寧におじぎをする。

鉄馬は、さ、どうぞと学生たちに声をかけ、奥へと向かう。 回り廊下の角に来た時、どこからともなくピアノの音色が聞こえて来たので、日下部と速水は驚いて立ち止まる。

それに気付いた鉄馬が、さ、こちらへと誘ったので、2人はさらに奥へと向かう。

この旗指物は、3代景久が石橋の合戦の折に使用したものです、この太刀はその時の厚恩で頼朝公より拝領したもの、このクワガタの片方欠けたる兜は、同じく三代景久が頼朝公の御馬前で敵の猛将保田軍九郎安正と一騎打ちの折…と鉄馬が古い武具類を説明をしていた時、午前様、お支度が整いましてでございますと女中が知らせに来る。

そうか…と答えた鉄馬は、それではしばらくこちらでお待ち願いましょうと言い、日下部と速水にその部屋の小さなテーブルと椅子を指し示す。

暗くなった部屋の行灯に火を灯し、煙草に火を点けた日下部は、おい、とんでもない化物屋敷に連れ込まれたよと速水に話しかける。

なに…、鬼が出るか蛇が出るか… その時、突然、ロウソクの明かりを持った女中が部屋に入って来て、お客さん、ご案内しますと声をかけたので、2人は驚く。

食堂へ向かう途中、2人は渡り廊下にいた左頬に大きな痣があり片足が悪い白い着物姿の少年伊庭良平(足立英臣)を目撃する。

さあどうぞ、遠慮せずにこちらへ…と、そんな2人に食堂から鉄馬が呼びかける。

こちらへおかけくださいとテーブルに案内された2人は、黙って椅子に腰掛けるが、その食堂の中に白い着物姿の良平もいた。

どうです?変わった趣向でしょう?と鉄馬が言うので、はあ…、するとこの建物もその密貿易が盛んだった頃の?と日下部が聞くと、いや、わしが建てたんですよと中国風の奇妙な衣装に着替えていた鉄馬は答え、お客樣方に極上酒を味わってもらおうと思いましてな…と言う。

もっとも家内や皆は悪趣味じゃと笑いよりますと鉄馬は言い自嘲し出す。

そこに槙が酒を運んで来て日下部と速水のグラスに酒を注ぐ。

ではどうぞと鉄馬が勧め、2人がグラスを差し上げて飲もうとしたその瞬間、突然部屋の銅鑼が鳴ったので2人はビックリしてしまう。

見ると、白い着物の良平が銅鑼を鳴らしたのであった。

さらに鉄馬はランプの火を落としてしまう。

すると2度目の銅鑼がなり、部屋の片方の扉が静かに開き始める。

するとその奥には庭先に座って演奏する楽団と、その前で踊る美女の姿があったので、2人の学生は目を奪われてしまう。

鉄馬が娘の琴絵ですと紹介する。

月下の中、異国風の衣装で舞う琴絵の姿は幻想的であった。

日下部も速水もその琴江の視線に捉えられたかのようだった。 琴江の怪しいまでの美しさに心痺れた2人の学生は、その翌朝はさらに意外な彼女の姿に驚かされた(…と智子の独白)

庭を散策していた速水と日下部は、外国語の本を音読しているチャイナドレス姿の琴絵と家庭教師の神尾秀子(荒川さつき)を見かけたので、会釈してその場を去る。

それは昨夜の妖婉さとは似ても似つかぬ清純そのものの彼女だった… 外へ散歩に出た2人の学生の前に現れたのは、穫ったマムシを入れた一生瓶を下げた老婆で、お前らは御陣屋に来た客人だな?と声をかけて来る。

琴江様の色香に迷う出ないぞ、そのために何人の人が死んだことか…と良いながら老婆は2人に近づいて来る。

それ、お前たちが立ってるそこん所でな、去年の十五夜の晩に2人の若者が果し合いをしての、2人とも死んで退けたじゃと老婆は言う。

猫の首の洞窟でも殺されて、鷲の岬でも死んでいた… これから先、どれだけの血を歃ることになるか?あの子にはお殿様の呪いがかかっている… あの子は女王蜂じゃ、滅多なことにあの子に手を触れるでないぞよと老婆は忠告し、不気味な笑い声と共に去って行く。

その直後、あの子は女王蜂じゃ、滅多なことで手を触れるでないぞよ…と腰を曲げた老婆の真似をしながら速水が言うと、日下部は愉快そうに笑い出す。

それから4、5日して、1人日下部が植物の採集をしている時(と智子の独白)

白馬に乗ってやって来た琴絵が馬を下り、何か役に立つものがおありでして?と良いながら近づいて来る。

羊歯類にに非常に珍しいものがありましたよと日下部が答えると、この辺はマムシの巣ですからご用心遊ばせねと琴絵は警告し馬の方に帰りかけるが、その時、日下部が右手の指先を持って痛た!と叫んでしゃがみ込んだので、どうかなさいました?と言いながら戻って来た琴絵は、マムシに噛まれたと気づき、その場で急いで応急手当を施そうとするが、とっさに日下部の指から血を吸い取り出す。

人差し指に唇を押し付けられた日下部は琴江をことさら意識してしまう。

この瞬間から2人の愛情は急速に進展した…(と智子の独白)

和服を来た琴絵と日下部は島の洞窟内に手を繋ぎ合って入ると、そこに身を横たえて抱き合う。

それを外から監視する神尾秀子。

やがて夏休みが終わると、愛情の誓いにメタルを残して東京へ帰って行った…(と智子の独白)

屋敷に残された琴絵は贈られたペンダントを握って去って行った日下部のことに想いを馳せていた。

そして10月半ばのある日、日下部は琴絵から「是非お越し下さい、折り入って相談したいことがある」との手紙を受け取った…(と智子の独白)

東京の大学構内を一緒に歩いていた速水が、船が出るのは毎水曜日じゃなかったか?と聞くと、うん、でも木曜の演習は外す訳にはいかないから次の便にしようと日下部は答え、どうだ、君も一緒に行かないか?と聞く。

すると速水は、行きたいがダメだと言い、近くの樹木の幹に鉛筆の芯を押し当てて折る。

来週の水曜日頃は第一俺は国に帰らにゃ…と速水が言うので、それは残念だな〜と日下部は言う。

その再来週の水曜日、これが彼にとって最後の水曜日になるとも知らず、そして又、これが20年にも渡るあの思い出すさえ恐ろしい事件の数々の糸口になるとは知る由もなく日下部は単身月琴島に赴いた(と智子の独白)

中華街の竜の踊りのような祭りをやっている最中、島にやって来た日下部は、よお、東京の色男、バカにご熱心だなと島の若い衆に取り囲まれる。

そこに松葉杖をついた良平が日下部さん!と呼びかけて近づくと、クロさん、お父様に言いつけるよと不良たちに向かって注意すると、日下部さん、僕迎えに来たんだ、嬢さんも待ってるよと言う。

そうかと笑顔で答えた日下部は良平と一緒に屋敷に向かう。

それを見送る、クロさんと呼ばれた男は、おい学生さん、これから1人歩きは危ないぞ!と日下部に声をかけて来る。

屋敷では琴絵が待ち受けており、訪ねて来た草加部を見ると嬉しそうに手を取って離れに連れて行く。

神尾秀子は落ちていたペンダントを拾い上げ棚に置くと日下部に会釈をするが、2人が離れへ向かうのを憂い顔で見つめていた。

離れの部屋の閂をかけた琴絵は、日下部に抱きついて行き熱いキスを交わす。

このまま死んでしまいたいわ…、あなたと2人っきりであなたの腕の中で…と琴絵は抱き合ったまま囁く。

私を捨てないで…、どんなことがあっても私を捨てないで…、捨てられるくらいならいっそ…いっそ一思いにあなたを殺したい…とまで琴絵は言う。

本当…本当よ、私は毒を持った女王蜂…、その針で一突きであなたを刺し殺してしまうかもしれないわ…、今のは嘘…、嘘!と言うと琴絵は又日下部に抱きつき、ああ大好き…と呟く。

僕を呼んだ大事な話と言うのは何?と日下部が問いかけると、私、赤ちゃんが出来るのと言うので、赤ちゃんが?と日下部が驚くと、だから結婚していただきたいのと琴絵は言う。

その頃、大道寺の屋敷の中では出入りの芸人が鉄馬と槙を前に、てな具合に、本年は旦那様のご注文通りに新趣向をこらしましたので何分御贔屓のほどを…と挨拶していた。

結構、結構、まあ大したこともしてやれんが、年に一度の祭礼じゃ、1つ腕によりをかけて島の衆を楽しませてくれと鉄馬は頼む。

槙は芸人に酒を振る舞う。

その時、槙は部屋に良平が戻って来たので、日下部さんいらしたの?と聞く良平はこくりと頷いたので、琴江は?と聞くと、あっちで話してますと良平は言うので、そう…と浮かない表情で答える。

芸人が、じゃあ私もそろそろ…と帰ろうとするので、まだお宜しいではございませんかと槙が留めようとすると、もう楽屋入りの時間でございますから…ありがとうございますと礼を言い芸人は帰って行く。

大道寺家を出た芸人は、突然、頬かぶりの男が物陰から飛び出して来て睨んで来たので、怯えながらも身を避けて村へと向かう。

その芸人を見送った頬かぶりの男は、又誰か大道寺家に近づいて来たので身を隠して様子を伺う。

そこにさらに1人別の方向から近づいて来る。

先ほど日下部に因縁をつけた3人組だった。

屋敷の庭先にいた良平は、突然女性の悲鳴が聞こえたので、不自由な足を引きずって慌てて声のした離れに行って見ると、戸に閂がかかっていて開かない。

戸を開けようとガタガタ言わせていたのに気付いた神尾秀子が、どうしたの良平さん?と声をかけて来る。

誰か脅されたみたいでキャーッと言ったんですと良平が教えると、秀子も戸を開けようとするが開かない。

戸を叩いて、お嬢様!お嬢様!と秀子が呼びかけるが返事はないので、良平さん、誰か呼んで!と頼む。

鉄馬と槙も駆けつけ、無理矢理とをこじ開けて中に入ると、そこに琴絵と日下部が揃って倒れていたので、槙は娘に抱きつく。

日下部は完全に事切れていたが、琴絵の方は気を失っているだけのようだった。

その現場から良平は逃げ出そうとするが、鉄馬はその肩を捕まえここにおれと言いつける。

屋敷に戻って来た鉄馬は、みんなを芝居に出したか?と槙に聞く。

はいと答えた槙が琴絵は?と聞くと、まだ気がつかないと鉄馬は教える。

琴絵は座敷の布団に寝かされており、神尾秀子と良平が側で見守っていた。

そこに槙と一緒にやって来た鉄馬は、良平!そこにおれ!と命じたので、思わず後ずさって座ろうとした良平は、床の間の飾り物を倒してしまったので、馬鹿者!と鉄馬は叱りつける。

その時、琴絵が身動きしたので、家庭教師はお嬢様!と呼びかけ、槙は琴絵!と声をかける。

その声に反応し、うっすら目を開けた琴絵は槙の姿を確認し、お母様…と呟き、私、どうしたの?と今の状況が分からない様子で聞く。

私、どうしたのかしら…と呟く琴絵に、琴絵、あなたはね…と槙が教えようとしたとき、何でもない!心配するな!卒倒してたんだよ、廊下の所で…と鉄馬が槙の言葉をかき消すよう声をかけて来る。

廊下で?と琴絵が聞くので、そうだよと鉄馬は嘘を教える。

その時、棚の方を向いた琴絵は見覚えのあるバッグが置いてあるのに気付き、あら?日下部さんいらっしゃったの?日下部さんいらっしゃったのね!と聞くので、さすがに鉄馬も言い返せなくなる。

ね、どこにいらっしゃるの?と家庭教師に聞くので、散歩だ、散歩に行かれたよ、もうじき帰って見えるはずだ…、ちょっとそこらを一回りして来ると言ってたが…と鉄馬は苦しい嘘をつくと、そう…と琴絵は安堵の笑みを浮かべる。

その後、日下部の死体を担いだ鉄馬は神尾秀子と2人で人気のない崖っぷちに来ると、死体を崖から突き落とす。

そして2人は崖下に向かって合掌すると、鉄馬は日下部の採集箱を崖っぷちに置いて帰る。

「クサカベ シススグ コラレタシ」 ダイドウジ」と電報が東京に打たれる。

東京から駆けつけた速水を前に鉄馬は死体発見時の状況を説明する。

あそこにドーランとキャメラ、それからここに羊歯が2本置いてありました、それでクサカベさんはあの花を採ろうとして誤って落ちたんだろうと思われますと鉄馬は説明すると、速水は学生帽を取って深々と海に向かって一礼する。

こうして恐ろしい殺人事件は巧みに永遠の闇に葬られ去った…

それから一ヶ月後のある日、速水欣造は突然大道寺鉄馬の来訪を受けた…(と智子の独白)

結婚?と用件を聞いた速水は驚く。

速水さん、実は恥ずかしい話だが、琴絵は日下部さんの種を宿しています、生まれでる子供が不憫なんです!と鉄馬は訴え、両手をついて頭を下げて来る。

その一言が速水の胸を打った…

6月の17日、激しい嵐の夜だった…

雷鳴轟く部屋に置かれた盥に入れた産湯の側に良平が近づいて来る。

雷鳴轟く中に女の子が生まれた…、智子と名付けられ、それが私だった…(と独白)

バレエのレッスンをする智子(久慈あさみ-二役) 大学卒業後成功して屋敷に住んでいた速水は、訪ねて来た澤村光一(菅原謙二)と言う青年を前にして、いよいよ親子揃って東京のわしの所にやって来ると言う前に琴絵が死んだ…、産後の肥立ちが良くなかったらしいんだがね、日下部の変死以来、そのショックから心臓が弱っていたそうだから…、とにかくそんな訳で智子は両親を知らずに育って来た可哀想な子なんだよと打ち明ける。

それを聞いていた澤村は、いいえ、あなたのような方に育てていただいて智子さん非常に幸せだったと思いますよと答える。

さあどうかね…と煙草をくゆらせて窓の外を見ていた速水は振り返って自嘲する。

その代わり少し甘やかし過ぎたかもしれないから、君も大変なお荷物を背負うことになるかもしれないよと澤村をからかって笑い出す。

澤村も照れ笑いするが、そこにレオタードの上にガウンを羽織った智子がやって来て、ごめんなさい、稽古中だったのと澤村に詫びる。

私たちのことパパに話してくだすった?と智子から聞かれた澤村はうんと言う。

速水もタバコの火を灰皿で消しながら、うかがったよと答え、むろん私に異存はないがね…と言う。

ありがとうパパ!と喜んだ智子は、ううん、私行ってみたいの、お母様のお墓参りもしたいし、だって島は私の故郷よ…と智子は嬉しそうに言うと、ね、澤村さん、一緒に行きましょうよと誘う。

すると澤村も、うん、僕もぜひ智子さんが生まれた島が見たいと答える。

私は島の女王様、あなたは未来の王様よと智子は冗談を言う。

帰宅した澤村はノックの音で返事をすると、お帰りなさい、手紙が来てたんですよ、つい忘れちゃって…、変な手紙ですね~と管理人のおばさんから言われる。

ありがとうとその手紙を受け取った澤村は、「中野区昭和町曙荘 澤村光一殿」と言うその宛名が印刷された文字を切り抜いて貼ったもので、裏には何も書いてないことに気付く。

中の手紙も同様に切り貼りで書かれており「警告す 月キン島行キを止メヨ」と言う内容だったので考え込む。

その後、又ベランダに手紙が投げ込まれたので、気付いた澤村が開封して中を確認すると、「再び警告す 渡島を中止セヨ 然ラズンば 不測の事態を生ズベシ 汝の体にも又智子の身の上にも 恰も彼女の母の場合の如く」と切り貼りで書かれていた。

「中央探偵社 金田一耕助」の文字が書かれたガラス窓のはまったドア 後輩の澤村が持ち込んだ手紙を読んだ金田一耕助(岡譲二)は、脅迫状らしいねと判断しながらも、なかなか手の込んだことだ、君の会社の連中のいたずらじゃないのかい?大学の若いラグビーかなんかのやりそうなことだね…と笑いながら確認する。

始めは僕もそのことを考えてみたんです、しかしこう何度もしつこく来るとどうも…と澤村が言うので、気になるのかい?君らしくもないねと言いながら金田一はタバコを吸い始める。

それで先輩にご相談にうかがった訳なんですが…と澤村は事情を話す。 大道寺家の昔話だけでは犯罪の匂いはないね、ただその日下部と言う人が過失死ではなく、実は他殺だったと言うなら別だがね…と金田一が指摘し、智子さんに見せたかね、これを…と脅迫状のことを聞く。

澤村は見せませんと即答したので、大道寺さんにも?と確認すると、ええと言うので、まあ君の胸だけに留めておくんだな、つまらん心配をかけてもいかんと金田一はアドバイスする。

まあ、気を使わずに行って来たまえと金田一は島行きを勧める。

その言葉に従い智子とともに月琴島に渡った澤村が、あの家ですか…と屋敷を発見し、そうよと智子が答えていた時、突然不気味な笑い声とともに、お前様は御陣屋の孫娘じゃな?と聞いて来たのはマムシ捕りの老婆だったので、智子は怯えて澤村の背後に隠れる。

良う似とる…、母御の琴絵様に生き写しじゃ…と智子の顔を見て老婆は感心し、ついでに星回りまで似れば良いが…、母御は恐ろしい女王蜂じゃった…と言う。

男共を毒の針で刺しよった…、お前様も…と老婆が続けていた時、おババ!何をバカなことを言うとる!昼間からマムシ酒など食らいよって…と横から叱りつけて来たのは杖をついた見知らぬ男だった。

屋敷では老いた槙が寝込んでおり、そこにやって来た神尾秀子が、ご隠居様、智子様がお見えになりましたと知らせる。

その枕元に跪いた智子が、おばあ様、智子でございますと声をかけるが、槙はもうはっきり言葉を発することが出来なかった。

どんなにか御嬢様の御身の上を御案じになられてお待ち申しておられました…と秀子が涙ながらに教えたので、それを聞いた智子も泣き崩れる。

その間、座敷に1人待っていた澤村は障子の背後に人の気配を感じ立って開けて見ると、そこには左頬に痣があり片足が不自由な伊庭良平(植村謙二郎)が立って薄笑いを浮かべていた。

澤村と合流した智子だったが、一緒に付いて来た秀子が、廊下を通りかかった腰の曲がった老人に、東作さん、萩の間のお掃除は?と聞くと、できておりますと言うので、お客様をご案内して下さいと秀子は頼む。

秀子が2人の部屋から出て来ると、先生、あの澤村と言うのは何者です?と良平が秀子に聞いて来たので、お友達ですと答えると、ただのお友達じゃないようですね?と片手に包丁を持った良平は言う。

それに答えず立ち去ろうとする秀子の前に立ちふさがった良平は、先生、おれが今までこうやってこの家で辛抱して来たのは何のためだか知ってるでしょうね?と問いかける。 すると秀子は、私たちだけではどうにもならないことですと答えたので、ご隠居様のお言葉でどうにでもなるんじゃないですか?と良平は指摘する。

ご隠居様のお言葉とあらば智子様も…、しかし今はあの通りのお身体で…と秀子が言うので、だから息のある内に決めてもらいたいんだ、とにかくご隠居は俺を大道寺家の婿にすると約束したんだと良平は出刃包丁片手に迫る。

今頃になってあんな奴に横からさらわれたんじゃ…、ね、先生、僕の気持分かってくれるでしょう!と良平は秀子の両腕を掴んで聞く。

俺は大道寺家の…と良平が続けかけた時、東作が入って来たので、20年も経つとお嬢さんも美しくなったと笑いながら良平はその場から去って行く。

その後、鷲の岬ってどこなんですか?と澤村とともに外に出た智子から聞かれた秀子は驚くが、私、お父様からすっかりうかがってますの、あすこにもお参りしたいと思いますわと智子が言うので、どうしようか一瞬迷うが、その時、ご案内しましょうか?と声をかけて来たのは松葉杖をついた良平だった。

私がご案内しますと秀子も申し出るが、良いですよ、先生は御隠居様のお手伝いがあるからお嬢様は僕がご案内しますと良平は言うので、じゃあお願いしますと智子は頼む。 じゃあ参りましょうと進み出た良平を呼び止めた秀子は、十分気をつけてねと声をかける。

日下部の死体が見つかった鷲の岬に来た智子は合掌する。

それを側から見守っていた澤村は、良くあんな所に咲いたもんですねと良平に語りかける。 あんまり不思議なんでみんなが夫婦椿って呼んでいますと良平は答える。

それを聞きとがめた智子が不思議って?と聞くと、日下部さんの時には白い花が咲いて、お嬢様の時には赤い花が咲きましたと良平は教える。

お嬢様って私のお母様?と智子が聞くが良平は何も答えないので、私のお母様もここでどうかなさったの?お母様、ご病気で亡くなられたんじゃなかったの?隠さないで教えて!どうなすったの?ねえ本当のことを教えて頂戴!と智子は良平に迫る。

すると良平は、日下部さんの後を追って投身自殺をされたんですと打ち明けたので、自殺!と智子は驚愕する。

屋敷に戻って来た智子は、自分と瓜二つの亡き母親の肖像画をじっと見つめ考え込む。

夜、寝室のランプの明かりが消える。

早朝、布団に横になっていた智子はふっと目覚め起き上がると、部屋の壁に飾ってあった母の肖像画を見て何かに気付く。

墓地にいた神尾秀子に所にやって来た智子は、先生、お母様はどうして自殺なさったんでしょう?と問いかける。

どうしてですって?と言いながら逃げるように秀子が立ち去ろうとするので、先生、お待ちになって!と智子は呼び止める。

私不思議なんです、お父様が亡くなられた時、すぐ後を追って自殺なさるのなら分かります、それなのに、それから1年も経って…、しかも明日は東京のお父様の所へいらっしゃると言う前の日になって自殺なさるなんてあまりにも突然すぎると思うんですと智子は疑問を口にする。

何か他に理由があるんじゃございません?と智子が聞くと、私は…、私は存じません…と秀子は逃げるように言う。

でも先生はお母様の心からのご相談相手でいらしたんでしょう?お母様の悩みは残らず打ち明けてらっしゃるはずですわ…と智子が食い下がると、智子様、私にはあの頃のお母様のお気持ちは分かりません、あんまり突然の事だったので…と秀子は言う。

嘘、嘘!先生は隠していらっしゃる!先生が何か隠そうとしてらっしゃるのは私には良く分かりますと智子は言い返す。

先生ばかりでなく、良平さんも爺やさんもみんなして何かの秘密を隠そうと…と智子が言うので、秘密だなんて!そんな物はございませんと秀子は否定する。

先生、隠さずにおっしゃって下さい!智子は澤村さんとの結婚、おばあさまのお許しを得るために参ったのです、でも大道寺家に秘密があるのに澤村さんと結婚する事は出来ません、先生がどうしてもおっしゃって下さらなければ私1人で確かめます!と智子が決意を述べると、いけません、お嬢さま!と秀子は振り返って止める。

秀子が興奮状態で黙ったままなので、何故ですの?何故いけないの?教えて下さらなければ私1人で確かめるだけですと智子は言い残し、その場から立ち去って行く。

その後、松葉杖で歩いていた良平の側に近づいた智子は、良平さん、あなたに是非お聞きしたい事があるのと聞くと、あなたのお母さんの事ですか?と良平が察したので、ええ、お母様は何故自殺なさったの?と単刀直入に聞く。

そんなに知りたいんですか?と良平が言うので、あなたは知ってるんでしょう?何もかも…と智子が尋ねると、ええ、そりゃあまあ…と良平は答える。 ね、教えて頂戴、あなた方みんなして何か隠してるんでしょう?何なの?ねえ?と智子が聞くと、周囲をうかがっていた良平は、智子さんこっちへいらっしゃいととある方向へ誘う。

智子は少し迷いながらも良平の後を付いて行く。

天井から水のしたたる洞窟の中に入った良平の側に来た智子は、どうなすったの?どうかなさったの?と聞く。

すると良平は、固く口止めされているんです、もし秘密を漏らしたと知れると僕の命が危ないんですと良平は言い出したので、智子は、えっ!と驚く。

洞窟の外で不気味な鳥の鳴き声が聞こえたので、外を気にした良平だったが、しばらく迷っているかのようだった良平は、突然振り返り、智子さん、僕は!と言いながら突然智子に抱きついて来たので、何するの!放して!嫌よ!と智子は抵抗する。

それでも良平が無理矢理キスして来ようとするので、満身の力で突き飛ばした智子は洞窟から逃げ出す。

外に逃げ出した智子の後を追って洞窟から出て来た良平は松葉杖を投げつける。

その松葉杖は智子の後頭部に当たり智子が倒れたので、周囲を気づかいながら近づいた良平が智子に触れようとしたとき、どうしたのかね、良平さんと声をかけて来たのは爺やだった。

あれ?お嬢様でねえか?こりゃ一体どうしたって言うだね? いやね、今ここを通りかかったら倒れてたんだよと良平が苦しげに言い訳すると、あれまあ、こんな用もない所に…、狐にでも騙されたかな?と言いながら爺やが床もに近づいて来たので、爺さん、家に帰るかい?俺は近所に用があるで、すまんがお屋敷までおぶって行ってくれんか、なあ?と頼んだ良平は慌ててその場から去って行く。

ああ、ええとも、お前さんも狐に騙されんようにな!と爺やは答えると、お嬢さま!と気絶していた智子に声をかける。

秀子と澤村は屋敷に担ぎ込まれて寝かせられた智子の事を聞き慌てて駆けつける。

お嬢さま、申し訳ありませんと謝罪した秀子は、爺屋さんが来てくれなかったら、私…、私…と気がついていたとも子が言うので、申し訳ありませんと手を付いて詫びる。

その時、表から酔って歌いながら帰って来た良平の声が聞こえて来たので、何だ、あの図々しい態度は!と澤村が起こって立ち上がり、待って下さい、私から、私から申し聞かせます!と秀子も立ち上がり澤村を止める。

家に入って来た良平は、囲炉裏端にいた婆やに、おい、酒だ!酒持って来い!と怒鳴りつけ、婆やが黙っていると茶碗を蹴飛ばしたので、驚いて婆やは逃げ出す。

台所から酒瓶を持って来た良平だったが、廊下の所でヤケになり酒瓶を投げ捨てる。

そこに駆けつけた秀子が、良平さん!あなたは一体、お嬢さまをどうしようって言うんです!と問いつめると、やかましいわ、智子は俺の女房だ!煮て食おうと焼いて食おうと俺の勝手じゃないか!と良平は言い返して来る。

あなたって人はなんて事言うんです!恥を知りなさい!と秀子が叱ると、ふざけるな!亭主が自分の女房に仕掛けるんだ、恥ずかしがってなんかいられるかい!と良平は言い返す。

良平さん!と秀子は大声を出すが、お前なんかに俺の○○が分かるものか!智子!智子!と良平が智子が寝かせられている部屋に行こうとするので、秀子はお待ちなさい、静かに!お願い、静かにして下さい!と言い必死に止めようとする。

うるせえ!今夜と言う今夜は智子に直接話してやるんだ!と興奮した良平は秀子を振り払い言う。

いけません、お話なら明日にでも私からしますと秀子は言い聞かせようとするが、お前じゃ埒が明かないんだ!と良平は拒絶する。

約束を忘れれたのか!と良平が何かを言おうとするので、いけない!と言いながら、秀子はその口を塞ごうとする。

その時、先生と呼びかけたのは起きて来た智子だった。 この人酔ってるんですと秀子は言い訳しようとするが、良平は酔ってるからって約束事を忘れはしないと反論する。

約束?何の約束なの?と智子が詰め寄ると、お嬢さま、訳は後でお話し致します、さ、行きましょうと秀子が良平の手を惹いて部屋を出て行こうとするので、お待ちになって!何故この男に気兼ねなさるの?何故こんな男を庇おうとなさるんです!と智子は秀子に迫る。

すると良平が、それにはそれだけの訳があるからなんだと答えたので、良平さん!と秀子は慌てて止めようとするが、その訳って?と智子が聞くと、聞いたらお前がビックリするだけだと良平は言い返して来る。

良平、話しては行けない!と秀子が良平にすがりつくので、言って頂戴!と智子は秀子を押しのけ、良平に頼むので、お嬢さま行けない!と秀子は止め、良平あっちへ行って!と智子を引き離そうとする。 それでも智子は、良平さん、話して頂戴と頼む。

聞きたいかね?と秀子の顔色を見ながら良平が聞き、智子さんと呼びかけると秀子は、良平!お前一言でも言ってごらん!と秀子は睨みつけて来る。

言ったらどうするって言うんだ?先生、その時にはどうすると言うんだ?と良平は聞き返す。

20年前祭りの晩…と言いながら笑い始めた良平だったが、その時、良平!と呼びかけたのは起きて来た大道寺槙(瀧花久子)で、良平の胸にナイフを投げて来る。

そのナイフが刺さった良平は苦しみながら暴れ出すが、そこに駆けつけて来た澤村が、貴様!と言いながら良平に飛びかかる。

倒れた良平は囲炉裏の中に顔を突っ込んで倒れるが、すぐに起き上がろうとする。 秀子は倒れた槙に駆け寄り、ご隠居様!ご隠居様!と呼びかける。

畜生…、良くも俺を…、日下部を殺したのは…、おめえの…、おめえのおふくろだ!と良平は打ち明けたので、澤村の背中にしがみつき聞いていた智子は愕然とする。

良平は力尽きたように仰向けに倒れる。 お母様…と智子が呟いた時、東京の旦那様がお見えになりました…と爺やが部屋に入って来る。

速水欣造が部屋に姿を見せると、お父様!と智子は走りより抱きつく。

良平はまだ死んでおらず、一晩中駐在と医者が付ききりで容態の推移を見守る。

その後、秀子の部屋にやって来た駐在は、神尾先生、良平は容易ならざる事を告白しましたが、昭和7年10月27日、午後6時半頃、大道寺琴絵さんがですね、日下部達哉と言う青年を別館唐人の間において殺害したと言うのですが、それに相違ありませんか?と聞いて来る。

秀子がはいと答えると、大道寺さん、事件は20年前であり、しかも犯人は死亡しておるんでありますが、一応本署に連絡取りますから、私が帰って来るまで犯罪現状に立ち入らんようにと駐在が言うので、同行していた速水は承知しましたと答える。
 


 

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