白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

ど根性一代

今東光原作だけに、どことなく「悪名」を連想させる根性と腕力自慢の男の痛快話。

酒も博打も興味がなく実直な男が、世話になった家の女将と関係を結んでしまい、その後はその女将と夫婦になって懸命に生きようとして行く話なのだが、特定の女性を好きになり、女遊びは嫌っていたはずの主人公があっさり女将と出来てしまう発端がやや不自然に見えなくもない。

妹とは純愛、姉とはつい出来心…と言うことなのだろうが、出来心の方に責任を持たざるを得ない展開になり…と言う辺りが面白い。

山伏修業の辺りがちょっと珍しかったりするし、赤ん坊に目がない所などは座頭市などを連想させたりするが、力自慢で短気な所はあっても堅気と言うのがミソ。

「悪名」の朝吉に似た、気は優しくて力持ちキャラクターだけに、どこか見慣れたシリーズ作品を見るような安心感がある。

脇役として当時の大映の常連だった杉田康さんが、勝新の敵役と言う重要なポジションを演じているのが珍しいような気がする。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1963年、大映、今東光「山淑魚」原作、松村正温+吉田哲郎脚色、池広一夫監督作品。

港町駅での荷役現場

何やて!トーシロの癖しやがって!と橋本組の荷役から怒鳴られた越智平助(勝新太郎)は、どつけるもんなら、どついてみい!と言い返し、大喧嘩が始まる。

タイトル

そこへ、止めんかい!と怒鳴り込んで来たのが、荷役の親分みっちゃ寅(曽我廼家明蝶)で、あんたが使うてくれ言うたのはこの男か?と阿波屋の主人正やん(石原須磨男)に聞く。

たった1本のレールに4人掛かりでふらふら運んでるさかい…と平助が言うので、1本90貫からあるのやぞ、言うからにはそれ相応のこと見せてもらおうかとみっちゃ寅は言う。

平助はレールの片側に立つと、他の荷役たちが見守る中、渾身の力でレールの片方を持ち上げ、それを肩に担ぎ上げたので、見物していた連中もみっちゃ寅も度肝を抜かれる。

掘り出し者ですやろ?使うてもらわんと宿賃貯め込んどりますのやと阿波屋の正やんが言うので、レールを他の荷役たちに手伝わせて地面に下ろすと、良し、任せとけ!とみっちゃ寅は平助の面倒を見ることに決め、小頭の南谷音吉(杉田康)に預ける。

音吉の家に世話になることになった平助だったが、音吉が子分らと花札をしていて、入れよと呼ばれても、博打知りまへんのやと平助は言う。

それでも何となく仲間になり、当てずっぽうで金を賭けてみると、ビギナーズラックで勝ったりする。

その後、音吉が家の金を持ち出しでかけるのに気付いた女房のお民(高千穂ひづる)が、あんた今晩はどこの女子の所に行くんや!と睨むと、音吉は、今夜は帰らんぞ!と言い残し子分らと一緒に出て行く。

平助も、良い女抱けるでと仲間から誘われるが、そんな野暮な所行けるか!と断ると、お民に新聞おまへんか?と聞く。 あんた、新聞なんか読むのか?とお民が驚くと、マンガ見ようと思いますねんと平吉は言う。

その後、家の前で水まきをしていた平助に、姉ちゃん、いはりまっか?お民姉ちゃんやがな…と言いながらやって来たのは、お民の妹のお峰(長谷川待子)だった。

土産に持って来た反物をお民に渡しながら、この子新顔か?と平助のことをお峰が聞くと、田舎者やけど実直な男やでとお民は教え、平さん、この子、お峰言うて妹、新橋の芸者よと平助にも紹介する。

お峰は、煙草代にしと平助に小遣いを渡し、うちな、芸妓さん辞めよう思うねん、引いてくれる人がいるんや、船場の糸問屋の大店の若旦はん…とお民に打ち明ける。 障子の影にいた平助は、もらった小遣いの包み紙の匂いを嗅ぎ、ええ匂いやなと感激する。

料亭で飲んでいた音吉は、親分のお気に入りである芸者のお笹に裸踊りをやれ!などと言い出し、子分たちに諌められると、親分にでかい面させるか!わいはいつまでも小頭でおらへんど!と音吉は酔いに任せて怒鳴り散らす。

家で留守番をしていたお民は、風鈴の音をええ音や…と聞きながら1人ビールを飲んでいたが、えらいみんな遅うおまんな…と音吉たちの帰りを待ちわびている平吉に、あんた好きな人いてんのか?とからかう。

すると平助は、出来ましたんやと言うので、1杯飲んで聞かしてなとビールを勧める。

飲めまへんのやなどと言いながらも、一応コップに注いでもらい分けも分からず飲み干すと、お峰はん言う人きれいやな、さっき、引かれるとかなんとか言うてはりましたけど、芸者辞めるんでっか?お峰さん、きれいでんな…と平助が繰り返すので、あんた好きな人ってお峰ちゃんのことか?けど、あんたがどう思うてもどないにもならんわとお民は呆れる。

それでも平助は、みんな遅いな…、いつもこんなんですのか?姉さん、いつまでも良ういてまんな、こんなぐるぐる回る家…、もう寝ますと言うと二階へ上がって行く。 飲み慣れない酒で酔ったと知ったお民が案じて、二階で横になっていた平助に近づき、まだぐるぐる回っているか?と聞きながら、手ぬぐいを濡らして額に置いてやったりするとその手を平助が握る。

お民は、どないするの?と優しく聞きながら電灯のコードを抜く。 夜が明け、先に起きた平助がタバコを吸っていると、朝になったんやな…、後悔してるの?と布団に横になったお民が聞く。

その時、したで物音がしたので慌てて降りてみたお民は、そこに子分の常吉(沖時男)がお峰が持って来た反物を持って出て行く所だったので、常やん!それ何?アホ!返し!と叱りつけるが、姐はんこそ大事なこと隠してるん違いますか?夕べどこで寝てはりましたんや?と常吉は言い返し出て行く。

二階へ駆け上がったお民は、平さん、えらいこっちゃ!と教えるが、出来たもん仕方ねえじゃねえですかと平助は開き直る。

橋本組のみっちゃ寅の元へ出向いた平助は、親分はん、間男したらどないなりますんや?と聞く。 それ、四つに畳んで斬られるんやとみっちゃ寅が答えると、わい、人のかか…、小頭の所の姐さんと間違いを犯しましたんや、悪いことした思うてますと平吉は打ち明け、どないかなりまへんかな?あきまへんやろな…とうなだれる。 するとみっちゃ寅は、平助、お前、指詰め!俺が話をつけたると言い出す。

その頃、音吉は、あのガキ!見つけ出したらバラバラにしてやる!と平助の行方を探していた。

平助は度胸を決め、出刃包丁で左小指を切断するが、そこにお民が、平さん!と言いながら入って来る。

姐さん、もう住みましたから帰ってくれなはれと平助は言うが、そこにやって来た音吉は、平助、おのれ!とつかみ掛かろうとするので、みっちゃ寅は、俺が拾うた男や、それで話つけたってくれと音吉を止め、今後は女に据え膳されても意地汚いことするなよと平助に言い渡す。

今日からお前たちは夫婦や、平助、お前堅気になれ、二度と帰って来るな!とみっちゃ寅は言い聞かすが、それを黙って聞いていた音吉は悔しがる。

阿波屋の正やんは、平助がお民を連れてきて、2人を又泊めさせてくれと言うので、前の宿賃も残っているのに…と困惑するが、お民は女中でも掃除でも何でもしますさかいと言うし、平助は、姐さんだけでも置いておくんなさい、わては仕事探してきますからと頼み、そのまま出掛けて行きかけるが、姐さん、わい逃げたりしません、わてら今日から夫婦やからとお民に良い安心させる。

急勾配の坂道の近くでリヤカーの引き屋が集まっている所があり、ちょうど通りかかった大山和四郎(遠藤辰雄)がお供の者に引かせていたリヤカーにも、引かせてくれと頼み込んで来る。 良かろうと大山が許可すると、いざ引こうとした車引きは余りの荷物の重さに音を挙げ、20銭出して下さいと言い出したので、大山は、相場は10銭と違うのかね?と顔をしかめる。

そこに突然割り込んで来たのが平助で、わいに運ばせてくれ、10銭でと言うので、他のリヤカー引きは文句を言って来るが、あんたら20銭でわいは10銭で言うてるだけやと言い返した平助は、重い荷物を積んだ大山のリヤカーを見事引いてみせたので大山は、ごっつい力やな〜と感心する。

わいの取り柄はこれだけでんねんと平助が答え、なんぞええ仕事おまへんやろか?こんなことやったらさっぱりあきまへんなと聞くと、思い切って山伏になってみんか?わしは大先達の大山松四郎と言う者やが、修業は辛いが先達になったら金になると言うので、どんなことでもやります、仕込んでおくんなはれと平助は頼む。

山伏の修業の始めはホラ貝を吹くことから始まる。 いくら吹いても音が鳴らない平吉に、このくらい府県ようでは山伏になれん、帰れ!と大山は叱りつけるが、その内なんとか音が出るようになる。

続いて滝の側で般若波羅蜜多!と念仏を唱える修業が始まるが、般若腹減った…などと平吉が言うので、食うことばかり、根性が入っとらん!と又しても大山は叱りつける。

そんな中、滝の方から女の声が聞こえたので、平吉が覗きに行くと、女が滝行をしていたので鼻の下を延ばしてしまうが、すぐに大山に見つかり、こら!目が血走っとる!修業はまだまだだ!と怒鳴りつけられる。

その頃、女房がいなくなった音吉はさらに荒れており、いやがる女にしつこく迫っていたので、みっちゃ寅が、音!男の器量下げるのか、このわしの顔に泥を塗るつもりか!と叱責すると、小頭の顔には泥塗っといて、えろう都合のええ話でんな?わいは女房寝取られたんでっせ?と言い返す。

みっちゃ寅は、これ以上恥の上塗りせんうちに帰れと言うが、盃はたった今返したらあ!と音吉は言い、子分を引き連れて出て行ってしまう。

阿波屋で女中をやっていたお民は、玄関口に赤ん坊を抱いた平吉がいるのに気付き、もう修業終わったんか?この子は?と聞くと、ここで拾うたんやと平吉は言う。

交番届けたら?とお民は言うが、可愛い男の子や、どないしょ?わいの籍に入れたろかなどと平吉が言い出したので、まだわてかてあんたの籍に入ってないんやで…と睨んだお民は、あんたまさかどこぞでその子点と平吉に疑いの目を向ける。

それでも平吉は、今そこで拾うたんや、分かった、こら御不動産のお導きや、わいに育てい言う事やがななどと言うので、驚いたお民は、わてはここの女中だっせ…、こぶ付きで働ける訳ないやろとお民は慌てる。

しかし平吉は、もう少しで修行も終わる、そしたら2人で初めて所帯持つんや!と言い聞かし、又大峯山へ戻って行く。

再び山伏の修業が始まり、六根清浄と唱えながら山を登る厳しさに、途中で脱落しかける者もいたが、平助はその男を助け、荷物も全部持ってやって崖を昇り続ける。

平助、まだこれからや!と大山が叫ぶと、分かってま!と平助は答え歯を食いしばる。

その頃、南谷組を名乗るようになっていた音吉が、子分たちを引き連れ阿波屋に乗り込んで来て平助に挨拶に来たんや!と言うので、お民は、今、大峯山に修業に行ってると教えると、お民、言うとくけどな、平助が堅気になろうが、俺は俺流に挨拶してやるで、何とか言わんかい!と言いながら、玄関先に置いてあったランプを掴んでガラス戸に投げつけて割ると、帰って来たらけり付けたる!と言い残し帰って行く。

さすがに阿波屋の正やんははた迷惑を怒り、帰って来たら言うけど、一人前の山伏になるそうやな?その時はきっと出て行ってもらいまっせ!あんたも一緒やでとお民に言いつける。

厳しい修行の精進落としで山の麓の宿に泊まった平吉らだったが、見習い修業の他の者たちは平吉の真面目さ、たくましさに、なかなかでけんこっちゃと感心する。

修業が住んだら御滝場で親子三人暮らそう思うんやと平吉が夢を語ると、あんた本物の山伏になるんかと他の者達は驚く。

そんな兵助に、これも精進落としやなどと言いながら芸者が抱きついて来たので、御山で清めた身体や、わいはそんなの好かんのや!と振り払い廊下に逃げ出す。

その時、階段を登っていた芸者を見た平助は、それがお民の妹お峰と気づくと声をかける。

やっぱりお峰はんでっか?こんな所にいたんか…とうれしそうに話しかけた平助だったが、お峰の方は困惑したように黙り込んでいると、そこに大山がやって来て、一緒に風呂入ろう、わいの相方や、お前も早う相方見つけんかなどと言うので驚く。

先達さん勝て偉いんやと思う、けど、この女だけは渡せんのや!と平助は大山に抵抗しようとするが、頭を柱に打ち付けられる。

やむなく組み合っているうちに、大山は階段から転げ落ちてしまう。

それを目撃した仲間たちは、どえらいことをしてしもうたな、これじゃ御滝場もふいやで…と平助に同情する。

お峰と一室に泊まることになった平助だったが、うちのためにえらい事してしもうて…とお峰が気の毒がると、あんな男にあんた自由にさせられんと答えた平助が、糸問屋の若旦はんと一緒になったんでは?と聞くと、病気にならはって病院に入院しはって…、お店潰れてしまうた…、今ではその治療代にもこと欠くようになり、まとまったお金が欲しゅうてここへ身売りしたんや…、わては良いのや、あの人さえ助かったらそれで良いのやとお峰は打ち明け、姉ちゃんにはここで会うたこと言わんといてねと頼む。

分かってまと平助が言うと、お峰は黙って着物を脱ぎながら、赤ちゃんどないしてる?と聞いて来たので、何で赤ん坊のこと知ってるんでっか?と平助が驚くと、姉ちゃんに会ったし…と答えたお峰は、寝まひょうか?と言いながら電気を消したので、いや、わいは畳の上で寝かしてもらいますと平助が言うと、お峰は泣き出す。

一方、お民の方も、赤ん坊が泣くので、その世話で女中の仕事が滞りがちになっていたため、阿波屋の正やんから、わてん所、赤ん坊の面倒まで見てられへんで!と嫌みを言われていた。

そんあ所にひょっこり平助が戻って来たので、あんた、もう修業すんだんか!あんたが一人前になったら…とお民は喜ぶが、すんまへん、わて、山伏辞めたんや…、先達はんと喧嘩してしもうたんや、辛抱できることと出来んことがあるんや…と平助が言うので、わてらもう、この家いてられしまへんで…とお民は嘆く。

何ぞあったんか?正やんになんぞ言われたんか?と平助が聞くと、そこにその正やんがやって来て、あんたのおらんうちに橋本組の小頭が来て、あんた出せ言うてここで暴れたんや、出て行った方がええと勧める。

そんなことがあったんか…、わいは堅気や、そんなアホなことする訳ないやろと平助は言うが、すんまへん、わてのためにこんなことになって…とお民は詫びる。 しかし平助は、又出直すんや!心配することあらへんと元気づける。

赤ん坊を連れ外を歩いていた平助たちに気付いたのはたまたま人力車で通りかかったみっちゃ寅だった。

平助と違うか、この子はどうした?と聞いて来たので、拾うて育ててますのや、お陰でルンペンやってまと平助が答えると、四天王寺で車引きやってるの知ってる、そこで働かんか?とみっちゃ寅は言ってくれる。

前の親分はんに頼るのも…と平助が遠慮すると、頼るのは俺1人にしとけ、子供抱えて野宿も出来んやないか?とみっちゃ寅は言う。 それから平助は西門の車引きとして働き出す。

ある日、狭い路地を客を乗せて走っていた平助は、向い側から入って来た東門の車引きと遭遇、下がってくれへんかと頼んでも、東が西に下げられるかと相手が動こうとしないので、つい殴り掛かって相手をふらふらにさせその場を切り抜ける。

しかし相手はこれを根に持ち、その後、東門の車引きの頭領熊五郎(上田吉二郎)と平助を持ち伏していた。 そこに空の車を引いてやって来た平助は、良くもうちの若いのを鍛えてくれたな!と因縁をつけて来る。

狭い道をこいつが塞いだからやないか!と平助は言い返すが、分かるようにしたるわ!と言いながらドスを抜いてかかってきた熊五郎の手を車輪のスポークの間に挟んで痛めつける。

東門の連中はその場は引いて行くが、そこに駆けつけた西門の親方は、平やん、えらい事してくれたな、愛面がこのまま引き下がる訳ない、どこぞへ行ってくれ、これこの通りやと頭を下げて来たので、あほらしなって来たと言い法被を脱いで親方に返した平助はすっぱり車引きを辞めてしまう。

帰りがけ、屋台の玩具屋で12銭のガラガラを見つけたので買おうかどうか迷う平助だったが、その頃、橋本組の事務所では、港町駅の帳簿を寄越せと音吉がみっちゃ寅に迫っていた。

ええかげんにしくされ!とみっちゃ寅が怒ると、こら、えらい言われようやな?帳簿、そろそろ若いのに渡したらどうや?取ろうと思うたらいてもうたら終いや、けど落ち目の橋本組にえげつないことしたくないから、この話は又にしよ、平助のガキが戻って来てるそうやな?あんたが西門へ渡したことも調べ付いてるんや、わいとなりに決着付けたるんや、なんぼなんでも平助と南町駅の帳簿では天秤にかかりまへんやろけど…と言い残し、音吉はひとまず引き下がる。

みっちゃ寅は子分に、おい、今のこと、平助の耳に入れるなよと念を押す。

その直後、力ない様子で平助が戻って来たので、喧嘩か?と聞いたみっちゃ寅は、平助、お前堅気やど、少しくらい力あるからって無茶すんな…、神戸行って働け、加藤て言うのが馬力やってるから…、こうなったらとことん世話してやると言いながら金を渡してやる。

それを受け取った平助は、これから出直すために頑張ります、親分、明日寄らせてもらいますと頭を下げ帰って行く。

帰り道、先ほど目を付けていたガラガラを12銭にまからんか?と言いながら、両手を開いてみせた平助だったが、その左手の小指がないことに気付いた店の主人はヤクザと思って承知する。

そこにやって来たのが音吉で、これは小頭…と挨拶すると、取り巻きの子分たちが、今は南町の親分やと平助に教える。

今橋本の所に行ってお前を渡せって言って来た所や、南町駅の帳簿と一緒にな…と音吉が言うので、関係ないやおまへんか、小頭、わてとお民のことなら小指詰め手話ついたやおまへんか?小頭、あんた、わいを言わしたいんと違いますか?どつかれますけど、いっぺんだけや、そして南町駅の帳簿には手を付けんと約束してくれますか?と申し出る。

良し!と承知した音吉は、近くの路地に平助を連れて来ると、右手に手ぬぐいを巻きながら、間男する度胸は会ってもこの男吉に向こうて来る度胸の一つもないのか!と罵りながら平助を殴り始める。

黙って殴られていた平助は、これで終わりでんな?と言いながら立ち上がろうとすると、子分たちも殴り掛かって来たので、お前ら関係ないやないか!と文句を言うが、問答無用で袋叩きにされてしまう。

平助、これくらいで住んだのは情けやと思え!と音吉は言い捨て、その場から立ち去って行く。

野次馬が見ている中、何とか立ち上がった平助はさっきの露天に立ち寄り、これもろとくでと言いながらガラガラを手に取ると帰って行く。

そんな平助の姿を見た野次馬たちは、あの人、間男したらしいでと聞こえよがしに噂しあう。

家にいたお民は人の気配に気付き、あんたか?と振り返ると、そこに立っていたのはお峰だった。

姉ちゃん、久しぶり…とお峰が言うので、ようここが分かったなとお民は喜び迎え入れる。

若旦はんと仲良うやってんの?どうしたん?喧嘩でもしたんか?とお民が聞くので、平さん黙っててくれたんやね…と気付いたお峰は、船場のお店潰れて、若旦はん病院に入院したんで、下市で働いていたんやと打ち明ける。

小峯山の近くのか?とお民が驚くと、そこで平さんと会うたんや、わてのことが原因で大先達はんと喧嘩して辞めはったんや…とお峰は言う。

それで若旦はんの病気は?とお民が聞くと、黙っているので、死なはったん?と聞くと、お峰は泣き出す。

そうか…とお民が同情すると、姉ちゃん、うち折り入って話があって来たんや、この子返して欲しいんや、これはうちと若旦はんとの間に出来た子なんやとお峰は打ち明ける。

そんなら何で棄てたりしたんや!とお民が責めると、子持ちで働けんやないの!うち、阿波屋の前にこの子を置いて、平さんが拾うてくれるのを見てたんやとお峰が言うので、邪魔やったら棄てて、欲しゅうなったら返して下さいやなんてあんまり身勝手や!とお峰は怒り出す。

この子だけが頼りなんや、平さんに頼んで!とお民が言うので、あんた1人で育てて行けるんか?とお民が聞くと、子供と一緒に面倒見てくれると言う親切なおじいさんがいるんやとお峰は言う。

でも、家の人、どない言うやろ…、今では自分のこのように思うてるから…とお民が案じると、返したれと声をかけて来たのは]手ぬぐいで顔を隠しながら帰って来た平助だった。

どないしたん、その顔!とお民は驚くが、返したり言うたら返したり!と平助は買って来たガラガラを気付かれないように背中に隠しながら窓辺に向かう。

2人とも幸せになってな、この子に辛い目に遭わせたらいけんよと、おむつと一緒に赤ん坊を妹に渡しながらお民は言う。

窓辺で外を向いたままの平助に向い、平さん、おおきに…と頭を下げ、お峰は赤ん坊を抱いて帰って行く。

お峰が去った後、わいはもうあかん…、どないしてええのか分からんようになった…と平助が言い出したので、どないしたん、あんた!とお民が聞くと、どないもこないもない、辛抱で金、あの音吉を生かしておけん、ぎょうさん見ている前で我慢してたんや、悔しいんや!あのガキいてもうたるわ!と言うなりで抵抗とするので、待って!とすがりついたお民は、何もかもわてのことからこないなことになってしもうたんや…、堪忍して!と詫びる。

あんた、どっか行きまひょ、大阪いるさかい…、あいつらの目付かんとこ行こ?わて、2人のほんまの子生みますとお民が言うと、神戸行くわ、親分が神戸世話してくれたんや、ほんまに2人きりや!と平助は言う。

その頃、橋本組事務所では、音吉たちの殴り込みがあり、みっちゃ寅が襲撃されていた。

何とか裏へ逃げたみっちゃ寅だったが、水路の所ですぐに音吉の子分たちに捕まってしまう。 音!お前!とみっちゃ寅が睨みつけると、盃返したら親分も子分もないんやで…、駅の帳簿俺の物やでと音吉は迫り、みっちゃ寅は子分たちに袋叩きにされてしまう。

その直後、橋本組の子分が平助の家に駆け込んで来て、音吉に帳簿を取られたと知らせたので、親分は!と平助が聞くと、病院に連れ込んだと言う。

それを聞いていたお民は、あんた!あんたの好きなようにしとくなはれと言い渡す。

翌日、港町駅の荷役は音吉の南谷組が取り仕切っていた。

そこにニッカボッカ姿でやって来た音吉が、祝杯や、みんなに一杯飲ましたれと現場の頭に話しかけ、橋本組は来てへんやろな?と確認する。

根性なしばかりやから来るとは思いまへんが、一応見張りだけ固めてます、来やがったらしばき上げまんがなと頭は笑う。

そんな中、平助は停車中の列車簿したに潜り込んで様子を伺っていた。 そこに機関車の先頭部分だけが近づいて来たので、平助は停車したその横に駆け寄る。

その時、蒸気を吹き出したので、熱!と驚いた平助だったが、機関車が又ゆっくり走り出したのでそれに飛び乗る。

その直後、現場にいたに駅たちが、あれ誰や!と近づいて来た機関車の先頭部分に乗っている平助に気付く。

音吉の側に来た時飛び降りた平助は、そこにあったシャベルを一本手に取る。

そして近づいて音吉がくわえていた煙草を引き抜くと、ここは橋本組の帳簿やないか!と睨みつける。

音吉は、この前は手加減したんやと言うので、平助も、わいも黙って帰らんわ!と言い返す。

おい、どやしたれ!と音吉が子分たちに命じるので、おのれら雑魚は引っ込んどらんかい!と平吉は睨みつける。

いてまえ!と子分たちが平助に飛びかかって大乱闘が始まるが、そこに病院から包帯だらけの姿で駆けつけたのがみっちゃ寅と連れて来たお民だった。

子分たちを全員倒した平助と音吉の一騎打ちになる。

平助は、途中で折れたシャベルに代えて持っていたツルハシを地面に突き刺し素手になる。

一方、音吉の方はドスを抜いてかかって来る。 そんな男吉を殴りながら、おのれを親分おところへ連れて行くんや!わいと一緒に親分の所へ来るのや!と平助は叫ぶ。

土下座させるまで許さんのじゃ!このガキゃ!立たんか!立て!昔通り、橋本組の帳簿をさせるんじゃ!と言い、音吉をこてんぱんに伸す。

その姿を遠目で見守っていたみっちゃ寅は、頼もしい奴っゃ、あのど根性があったら、これからどこへ行ってもやっていける!ど根性や!な、お民はん…と話しかける。

平助はすっかり伸びた音吉の襟首を掴むと、平助はみっちゃ寅の方へ引っ張って行く。
 


 

 

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