白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

三十三の足跡

「多羅尾伴内」シリーズの第4弾で大映時代最後の作品となる。

戦後しばらく、GHQが日本映画から時代劇を禁止したため、それまで時代劇で活躍していたスターたちも現代劇を撮らざるをえなかった事もあり、苦肉の策として作られた通俗活劇であるが、そのあまりの荒唐無稽さを当時の永田雅一大映社長が軽く捉えていた発言があった事から、それを聞いた片岡千恵蔵さんが怒り、企画と共に東映に移ったと言われる曰く付きの作品である。

低予算かつ荒唐無稽であったために、制作側の意図とは裏腹に当時の子供たちの人気を博したとも言われるシリーズである。

主人公の探偵が変装の名人で、観客は一目で分かるようなコントメイクで事件現場に現れると言う趣向が有名なのだが、今回の変装の中でははげ頭の御大の姿が楽しい。

観客は誰でも分かる程度の変装と言うけれど、スーパーマンがメガネをかけただけのクラーク・ケントは誰も気付かないと言うマンガの発想と同じと考えれば良いだろう。

この作品は終戦直後の作品だけに、登場している俳優がとにかく若いのが見所。

杉狂児さんなどはキャスト表を確認していないと判別できないくらい。

大友柳太朗さんも若く痩せており、この当時は特にもごもごしたしゃべり方ではない。

この当時は、女優のアップの際、紗がかかっているのも特長。 今作は、とある幽霊が出ると言う劇場内での事件と言うことで、怪奇趣味はあるもののスケール感に乏しく全体的に地味。

同じ劇場内に、色んなコスプレをした多羅尾伴内が繰り返し出入りしていると言うのもマンガチックで不自然なのだが、この頃になるとそう云うことはどうでも良くなっていたのだろう。

あんまりスマートとは思えない御大がヒーローと言うのも今の感覚からすると奇妙なのだが、娯楽が少なかった当時の子供たちにとっては、応援したくなる憧れのスーパーヒーローだったのだろう。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1948年、大映、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

カーテンをバックにタイトル

ステージではミュージカルの練習が行われていた。

ストップ、ストップ!と客席から止めたのは演出家の川上敏夫(月形龍之介)だった。

ちょうど舞台を横切る芝居をしていた男が振り向き、メガネの俳優花村金一(杉狂児)がどうしろ言いますねんと大阪弁で聞くと、いや、君じゃないんだ、おい明るの君と舞台を横切る芝居の男を名指した演出家は、君は背景であって演技者じゃないんだ、後ろを通りたまえと指示する。

へえと答えた明るのは急いで舞台から立ち去るが、それを愉快そうに見送った女優中谷よし子(木暮実千代)は、ふとある方向に目を留め悲鳴をあげる。

花村や明るのもその悲鳴に驚き、どうしたんだ?と川上が聞くと、あれ!あれよとよし子が指差す先にあったのは、暗闇に浮かぶ不気味な顔だったので、舞台の女優たちは全員悲鳴を上げ、花村は気絶する。

客席にいたスタッフたちが一斉に後ろの方へ駆け出す。

楽屋に戻った花村は、君は何にも知らんのやと女優に話していた。

ここの小屋の幽霊がどんだけ恐いか知らへんのやろう?10年前、前の座主の中谷が首縊りはったの、一体誰のせいや思うねん、その自分わてはなこの小屋にかかった事あるさかい、詳しい知ってるんやけどな、中谷はんはな、今出たあの幽霊に責められて、あそこの壁際のロープで…と言いかけ、そこに立って自分を睨んでいた支配人の部下森川雄三(上代勇吉)に気付き話を止めて立ち上がる。

花丸君、正月興行を前にしてあまり不吉なことを言ってもらいたくないねと森川が花丸の前にやって来て注意する。

すんまへんと花丸が謝罪すると、君たちにしたってそうだ、雇われ早々仕事を抜きにしてつまらんことにおろおろするようじゃ、わしが支配人に顔が合わされないじゃないかと美術スタッフの笠原実(大友柳太朗)とアカルノにも叱るので、笠原たちも、どうもすみませんでしたと謝罪する。

さらに森川は、川上さん、明日早速全部の座員の本名を出して下さいと指示したので、本名?どうしてそんな物がいるんですか?と川上が聞くと、とにかく出して下されば良いんですと森川は言う。

アカルノと舞台袖に下がっていた笠原が何気に上を見ると、ライトを下げているロープが切れかかっていたので、あ!危ない!おい、上に気をつけろ!と舞台に呼びかけたので、女優たちは悲鳴をあげる。

次の瞬間、ロープが切れてライトが一列落下したので、逃げるんだ!と笠原が叫ぶ中、ライトは舞台上に落下する。

それを見て唖然とするアカルノと笠原。

笠原が切れたロープの方を見上げると、そこに又人の顔が浮かび上がったので、舞台上の女優は気付き、全員悲鳴をあげる中、又花丸は気を失って女優陣の中に倒れ込む。

結局、練習は中止となり、笠原がコートに着替えて帰りかけていた花丸に幽霊の正体だと言う鶴太郎について聞くと、12〜3年前、この小屋を根城に売り出しとった若手の二枚目だんねんと花丸は言う。

で、その鶴太郎が死んだのは?と聞くと、10年前の確か2月でしたと花丸は思い出す。

当時、鶴太郎はんは中谷はんのお気に入りでな、えろう可愛がられておりましたんねん、ところがちょいとしたことで恋女が出来おりましてな、まあ大変な熱の上げようや、そのお陰で鶴太郎の方はさっぱりあかんようになりまし…、そしたら中谷はん、えろう心配して、ある日、きつう意見しはったん、そしたら鶴太郎それを根に持ってな、その晩ですわ、3階の楽屋でな、お恋と二人、とうとう心中やらかしよりましたんねんと花丸は言う。

ふ〜ん、心中ね〜と笠原は頷く。

それからと言うもんはな、あんた、毎晩のように鶴太郎の幽霊は出る、どの興行も不入りで寂れる、見る見るまに火だるまになりましてな、この小屋の権利もな、今のあの木塚さんの手に移る始末、半キ○ガイのようになった中谷はんはな、ある晩、鶴太郎!俺はお前に恨まれる筋はないぞ〜と言うてな…と話していた花丸は、そこにひげ面の大道具係後藤宗吉(山本礼三郎)が立って睨んでいることに気づき、話をやめる。

その頃中谷よし子は、今夜また何かあったらどうしようかと思って…と妹の中谷あつ子(喜多川千鶴)に悩みを打ち明けていた。 大丈夫よ、あんなバカバカしいことそう毎晩あるはずがないわとあつ子が慰めると、あなたは幽霊を信じないのねとよし子が言うので、絶対信じないわ、そんなものあるはずがないんだもの…とあつ子は答える。

でも私はね、あなたや川上さんやみや子さんのように笑い事にはどうしても出来ない気持なの…と言うので、じゃあ姉さんはあれを本当の幽霊と信じていらっしゃるの?とあつ子が聞くと、そんなはずはないと思うんだけど…とよし子は弱音を吐く。

その後、劇場の支配人室に、お邪魔しますと訪ねて来た眼帯の男がいた。 あなたは?と、支配人木塚専三(進藤英太郎)と一緒にいた森川が聞くと、小村組の建築技師の坂田ですと名刺を出しながら男は自己紹介する。

で、御用とおっしゃるのは?と森川が聞くと、他のことでもありませんが、実は今度手前の方である劇場の建築を請け負ったのですが、依頼者がぜひともこちらの劇場の様式を取り入れて欲しいと申しますので、ぶしつけながらお願いに上がりましたような訳で…と坂田(片岡千恵蔵)が言うので、視察ですか?と森川が聞くと、はあ出来ますれば…と言うので、せっかくですが今日は困りますなと森川は断る。

その後、首つりが見つかった舞台裏に見知らぬ男がやって来たので、あなたは?と笠原が聞くと、長谷川(片岡千恵蔵)と言う医者ですと自己紹介し、表を通りかかると血相を変えた男が楽屋口から飛び出して来たので、委細を聞いたんですが首縊りですか?と言うので、そうですと笠原は答える。

どれ…と言い、勝手に死体を検分し始めた長谷川は、もう20分早いと良かったですな…と首を傾げながら言う。

で、どうですか?と聞かれた長谷川は、いけませんなと答え、場所はここですか?と首つりの場所の所へ移動し、ロープの様子などを見た後、おお人間とは恐ろしいものですな…と何かを思い出すように呟く。

10年前の中谷氏と場所も同じ、方法も同じ、検死の医者も同じ…、わしは10前にこの場所で今夜と同じことを経験しましたと打ち明ける。

その後、よし子とあつ子姉妹と共に帰りかけていた川上らの目の前でその長谷川がロープを背後から投げ、それが首に絡まった笠原は滑車越しのロープの反対側に付いた分銅の重みで背後に引かれたので、何をするんだ!と驚いた川上は姉妹に手助けを頼み、ロープを止めて笠原を救出すると、どうしてこんなバカなことをするんだ危険じゃないかと長谷川に抗議する。

すると長谷川は、何も驚くことはありませんよ、ほんのちょっとした実験ですと冷静に言い返したので、実験?と川上は驚く。

アパートへ帰って来たよし子とあつ子は、部屋の前でおかしな動きをしていた禿頭の男を見て、黒木さんですか?と声をかけると、わしは黒木(片岡千恵蔵)です、そう云うあんたは中谷よし子さんですか?それともあつ子さんですかと聞いて来る。

よし子ですけどと答えると、それじゃあそちらがあつ子さんと黒木は納得する。

わしゃあな、あんた方のお父さんには色々お世話になり、事務上のお手伝いをさせていただいた公証人ですが、先日ふとある謝礼に疑問を持ってな、実はそのことでちょっとお邪魔に上がったのじゃと妙に早口口調で説明する。

その頃川上は、内部の調査は順調に行ってるから、やがて多羅尾伴内の登場だよと愉快そうに誰かに話していた。

その予測通り、劇場の支配人室に、翌日、多羅尾伴内(片岡千恵蔵)がタバコを吸いながら入って来たので、君は誰だ?と森川が聞くと、多羅尾は名刺を差し出す。

森川はその名刺を木塚に手渡すと、「私立探偵局 多羅尾伴内」と読んだ木塚は、うさん臭そうに多羅尾を見る。

多羅尾はその後、川上らを連れ、10年間開かずの部屋のドアを押し開けると、ドアには仕掛けがしてあり、大量の材木が落下して来る。

それを予知していた多羅尾は、ドアの所に落下したその瓦礫を踏み越え中に飛び込むと、へへっ…鶴太郎の幽霊もなかなか科学的かつ計画的ですな、入った途端に上から落下するように巧く仕掛けがしてありますよと苦笑する。

さらに、その室内で足跡を発見した多羅尾は、10年は経つのに真新しい足跡…と呟くと、鶴太郎さん、ちとこの多羅尾を甘く見過ぎましたなと苦笑する。

あなたにとっては自信満々の挑戦だったんでしょうが、それは結局蛇足…、ためにわしは1つの確信を得ましたよと多羅尾は笑う。

その頃、よし子とあつ子姉妹は化粧屋に閉じ込められていた。

何をなさるの!と姉妹揃ってドアをこじ開けようとするが鍵がかかっているので開かない。

誰かいらっしゃらないの!骨塚さん!武宮さん!花村さん、いらっしゃらないの!と外に呼びかけるが返事もない。

その時、化粧室の壁の一部がどんでん返しになり、反対側に黒いフード付き衣装を着た鶴太郎が立っていたので、よし子は思わず悲鳴をあげる。

あつ子は恐怖のあまり失神してしまう。

鶴太郎の幽霊が迫って来る。
 


 

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