白夜館

 

 

 

幻想館

 

続・人間革命

「人間革命」の続編。

前作に続き、またもや主人公戸田を演じる丹波哲郎さんの大芝居が見られるが、話を補足する映像として、ニュース映像やアニメ、そして過去の再現シーンなどが特撮で描かれている。

前作にも若干特撮めいたシーンがあったが、本作の方が本格的な特撮シーンが楽しめる。

内容はドラマと講義シーンが中心だが、丹波さんのセリフ量は膨大で、かつ一般人には馴染みにない言葉が大量に出て来るので、映画館などで1回見ただけの一般人にはほとんど理解不能なのではないと思えるほど。 

前作からのお馴染み陣を中心に、今回はあおい輝彦さんや大竹しのぶさんと云った当時お馴染みの若手も参加しているし、前作から登場している森次晃嗣さんに加え、黒部進さんや岸田森さんと云った新顔も登場しており、円谷プロ「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「怪奇大作戦」ヒーローのそろい踏みである。

黒部さんと森次さんが隣り合って写っている幹部会のシーンもあるし、黒部さんの髪の一部はやや白くなりかけている。

本作の魅力は、何と言っても新加入の若者を演じているあおい輝彦さん。

あおいさんはジャニーズ時代から既に映画経験がある方だが、単独の俳優として登場しているのはこの作品辺りからではなかったかと思う。

そういう風に撮っていると言う面もあるが、あおいさん自体に青春期特有の外見的な美しさを感じる。

尾藤イサオさんも出ており、正に「あしたのジョー」の主演声優と主題歌コンビ共演である。

まだ少女時代の大竹しのぶさんが宇宙進化論を語るシーンも興味深い。

前作では何となく中途半端な印象だった渡哲也さんも見せ場が用意されている。

宗教映画と言う性格上、一般人があまり見る機会がない映画ではあるが、70年代後半の日本映画の特長は良く出ており、その後の東宝映画等への影響を考える上で重要な作品だとは思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1976年、シナノ企画+東宝映像、池田大作原作、橋本忍脚本、舛田利雄監督作品。



雪が降る「創価学会本部」兼「日本正学館」

その二階では、火鉢の前で戸田城聖(丹波哲郎)が1人タバコを吸っていた。

昭和21年

戦後第1回地方折伏

清原かつ(夏純子)、原山幸一(長谷川明男)や関久男(児玉泰次)らが戸田に付いて来ていた。

国破れて山河ありと言うが、正にそうだね~…と戸田は周囲の風景を眺めながら言う。

本当ですねと相づちを打ったのは、同行していた三島由造(稲葉義男)だった。

ところでね三島君、戦前の学会の脆さって何だったんだろう?と戸田は問いかける。

教学の不徹底から来る信心の弱さ…、これは良いんだ、もう一つ、歯軸と歯車の関係のような気がするんだと戸田は言う。

歯軸と歯車?と三島が聞くと、うん、組織、組織だよ…と戸田は答える。

寄って来る歯車をどうきちんと組み合わせるかだよな…、後、これだけではないような気がするんだがな…と戸田は首をひねる。

「戸田城聖氏来る 法華経大講義会」の貼り紙が貼られた電柱とその側の木にたわわに実った柿。

戦後の記録フィルム

国鉄闘争

昭和21年11月17日 牧口初代会長三回忌

創価学会第一回総会 これより追悼の辞に移ります。

創価学会理事長戸田城聖!と進行係から呼ばれた戸田が祭壇の前に進み出る。

戸田君、君は将来大成功をするか、それとも大失敗をするか、そのいずれかの人間だな~…、牧口(芦田伸介)の遺影を前にした戸田は、かつて言われた言葉を思い出す。

先生、私が最後に先生にお会いしたのは…と戸田は話し出す。

(回想)先生!東京地方裁判所で、笠をかぶらされ取調室に向かう途中だった戸田は、同じく笠をかぶらされ、先に取り調べを終えた一団とすれ違い様、そこに牧口がいることに気付き、先生!と呼びかける。

その言葉に、笠を少し持ち上げ顔を見せた牧口は少し微笑んでいた。

先生!お身体だけは御大事に~!と絶叫する戸田は、看守たちに引きずられて行く。

巣鴨・東京拘置所 先生、私は不肖の弟子でした…、法華経の本物がどんなものか分かった時には先生はもう… 私はこれから先生の意思を継ぎ、1人で…、どこまでも1人で…と、雪が降りしきる窓の外を見ながら涙ながらに戸田は誓う。

(回想明け)創価学会第一回総会の壇上では、今年の1月1日より始めました、戸田一生の法華経講義会、ならびにその率先する座談会によりこの1年間における新しい入信者の数は213!実に213にも及びました!と三島が報告していた。

雪が降りしきる「創価学会本部」の2階に1人いた戸田は、この1年間でやっとスタートラインに…、しかし…これで良いんだろうか?と呟く。

満開の桜の花をバックにタイトル 四季の花々を背景にキャスト、スタッフロール

土砂降りの雨の中、傘をさして道ばたに立っていた戸田に、先生、どうも遅くなりまして…と挨拶して来たのは山平忠平(森次晃嗣)だった。

「旅客来りて嘆いて曰く」…と女の声 立正安国論 強風に吹き飛ばされる農家の中で怯える親子たちの姿

「近年より近日に至るまで天変地夭・飢饉疫癘・遍く天下に満ち広く地上に迸る」

市中に馬でやって来た鎧武者と敵軍との戦…

「牛馬巷に斃れ骸骨路に充てり 死を招くの輩既に大半に超え 悲まざるの族敢て一人も無し」

片腕を切断させたり、矢を射かけられ死ぬ鎧武者、首が切断され降りる武士 地震で倒壊する家屋と逃げ惑う人々

山崩れ、地割れに飲み込まれる女たち 干ばつで地割れした地面に倒れている老人

「乞客目に溢れ死人眼に満てり、臥せる屍を観と為し並べる尸を橋と作す」…と談話会で清原かつが「立正安国論」の一節を読み上げる。

つまりだな、近頃は恐ろしいことばかり続いているけれども、世の中は終わりに近づいたのではないかと…と解説する戸田。

「主人の曰く独り此の事を愁いて胸臆に憤悱す客来つて共に嘆く屢談話を致さん」…と又かつが「立正安国論」を読む。

主人は客に答えた、いや実は私もこのことが心配で心配で、怒りでこの胸が塞がり、何とも言えないいやな気持になっていた…、良い所に来られた!これから2人でそのことに付いて話合おうではないか…と戸田は説明する。

「夫れ出家して道に入る者は法に依つて仏を期するなり」 詰まり信心をすると言うことはだな、仏法によって崩れることのないありがたい境涯を覚ると言うことだと戸田。

「而るに今神術も協わず仏威も験しなし」… 君の言ってることはご本尊の御字ことか?と戸田が聴講生に聞くと、はい、末広がりになり撥ねているのはどう言う意味ですか?と男は聞く。

末広がりはね、仏法の広がりを意味します、力強く撥ねているのはね、公然流布が必ず実現すると言うことを意味します。

ご本尊の字が偉そうにひげを生やしているとかそう云うことは考えなくて良いからと戸田は冗談めかし、聴講生たちも笑う。

すると、はい!と手を上げた中学生くらいの少年が、僕は1年ほど前から母と信心してますが、父が反対してご本尊を焼いてしまいました…と悔しそうに言う。

仕方がないので、近所の家に行って拝んでおりますが、今後ご本尊を頂くときは僕はどうしたら良いでしょうか?と少年が言うので、気の毒だな、そりゃ…と戸田は同乗し、君は偉いよ、本当に偉いよと戸田は少年を褒める。

学校では良く勉強するんだよ、そして立派に成長してだ、自分で生活できるようになった時にね、ご本尊頂きなさい、それが良いと戸田が言い聞かすと、少年は素直に、はい!と答える。

その時、別の男が、あの~…、学会は行ったら商売繁盛する言うから入れてもらいたいんですけど、そらあ、本当ですか?と言うので、あんたの考えはそれはごろつきだと戸田は批判する。

釜に米と水とを入れてだ、火も点けずに良いご飯が出来ますようにと手を合わせるようなものだと戸田は言う。

まず鎌の下に火をかけなきゃダメじゃないか、肝心なことはせず働かず、ただ商売繁盛なんて…、そんな人は学会には入ってもらいたくないと戸田は手を振る。

すると、山本伸一(あおい輝彦)が、先生!質問がありますと声をかけ来る。

自分ではいくら考えても分からない、だから御聞きしたいんですと山本は言うので、どんな質問でも良い、聞いて上げるよと戸田は答える。

先生、自分にとって一番正しい人生とは、そりゃ一体どう言う人生でしょうか?と山本は聞くので、ほお~、これは又難問だね…と戸田は戸惑いながらも、君名前なんて言う?と聞く。 山本伸一ですと青年は答えるので、いくつだ?と聞くと19歳ですと言う。

19か…、今の君の質問に正しく答えられるものはだ日本には1人もおらん…、しかし私にはそれが出来るんだと戸田は言う。

人間の一生には色々と問題があるよ、生活苦、経済苦、あるいは恋愛、病気、家庭のいざこざ…、何が起こって来るのか分からんの人生だ、だがそれなんかはまだまだ優しい、根本にはもっと大きな問題がある、人間の生き死に、生死の問題だ! これをどう解決する?これに対してどう言う考えを持つか? これを自分自身で捕まえない限り、正しい人生なんてあり得ないな…と戸田は言う。

いつまでも19、20の娘でいたい、絶対年は取りたくない、だが3~40年も経てばだ、もうこれも梅干し婆だ…、あたしゃ絶対病気はご免だと言った所で、生身の身体じゃどうしようもない、そして最後に死ぬと言うこと…、これは厳しいよと戸田は山本を見て告げる。

いくら地位や財産があった所でこれだけはどうしようもない。

厭世的になるか、刹那的になるか?あるいはその日その日を風任せの気まぐれで行くか? だが、日蓮大上人の仏法はものの見事にこの問題を解決して下さっている…と言いながら、戸田は山本の前に正座する。

君がもし何が自分にとって一番正しい人生か確かめたいなら、まずこの大生命哲学に飛び込んでみる、それ以外に方法はあり得ない…と戸田は言う。

中国の礼記(らいき)に、同感できてももう一度考えるが良い、同感できなくてももう一度考えるが良いと言う言葉があります。

正直に言いますと、先生のおっしゃる仏法の話は僕にはまだ良く分かりません。

いえ、今日からそれを僕自身の問題として考えてみたいと思います、先生、どうもありがとうございましたと山本はきちんと礼を言う。

星空の下の帰り道、哲学の話だって言うので行ってみると日蓮正宗、しかしそれを話す人は坊さんじゃない…、白装束や太鼓ではなく、ごく普通の人だ、それからどんなことを聞いても答えは早い、あの…、あの迷いのなさは一体…と山本は考える。

夏の入道雲

「創価学会本部」である「日本正学館」では、トラックに積まれて戻って来た大量の返本の山を前にした奥村 (桑山正一)が、「涙の川」まで5000か!とぼやいていた。

店の中では、山本伸一だよ、山本伸一!昨日の座談会の結果は?…と戸田が山平に聞いていた。

一応入信の約束だけは…と山平が答えると、すぐに入信の手続きをなさいと戸田が命じたので、今から?と山平は驚くが、君ら2人付いて行くんだよ、中野の歓喜寮へと戸田は指示する。

「城南興行会」の看板がかかった小さな家屋にやって来た山平と三島から話を聞いた山本は、今日はだめです、勤めがありますと断る。

じゃあ山本君、君は何時そんな?と山平が聞くと、次の日曜日、僕も約束したんですから必ず入信はしますと山本が答えると、間違いないね、君、次の日曜で?と三島が念を押す。

はいと答えた山本は軽く咳をする。

店に帰って来たや麻痺ら富島は、いやいや高橋さん、そうじゃないんですよ、出版の点数は印税にはとても付いて行けないんですよ!再販、重版は値上げしないと追っ付かないんだ、ところがね、定価改定すると、意外とこれが売れないんですよ、うん、小説の単行本はもう思い切りますと電話をしていた戸田の声を聞き、唖然とする。

東洋銀行を尋ねた戸田は、ほお、「冒険少年」は少年向き、「ルビー」と言うのは?と支店長(小泉博)から聞かれると、15、6歳から20くらいまでを対象にした婦人向けなんですけどと答えると、しかし大丈夫ですか?通信教授から小説の単行本、単行本から月刊誌ですか?と支店長は戸田の戦略転換をいぶかる。

何せ、このインフレに次ぐインフレですからね…、再販、重版と言うのは全く当てになりませんし、いやこう…新しい方針を考え出しませんとね…と戸田は説明する。

次いで戸田が会いに行った湯浅(志村喬)は、鳥かごのメジロの餌を練りながら、戸田君も大変だろう?大手の出版社がぼちびち復活して来たからねと話して来る。

だから彼らがまだ目をつけない月刊誌をと…と戸田が答えると、君のことだ、こと出版に関しては大丈夫、じゃ資金は応援させてもらうと湯浅は答える。

所で君は、何か、学会と言うのをやってるそうだね?と湯浅が聞くので、やっておりますと戸田が答えると、余りその肩入れが過ぎないようにね…と湯浅は釘を刺す。

事業家にとって一番の道楽は政治と宗教だからねとと湯浅は指摘する。

その後、会社に戻って来た戸田は、奥村から話を聞き、会費を取る?と驚く。

そうです、「価値創造」の郵送や印刷代、夏季講習会の一部、それに地方折伏費用、何から何まで全部「正学館」持ちじゃないですか、会員もこれだけ増えて来た所ですし、某かのものを…、それに他所の宗教団体ではですね…と奥村は言う。

信心や折伏をだな、金儲けに利用するくらいなら、俺は学会なんかはじめっからやらんよ!と戸田は臍を曲げたので、先生!金は儲けなくてもですよ、必要な費用、いっただけのものくらいはですね~…と奥村は反論しようとするが、金儲けだな、商売の方で!今の学会を支えているのは「正学館」だ、「正学館」が巧く行かないと学会までがたついてしまう、単行本から月刊誌に切り替えるんだ、君も御願いします、これまで以上の努力で何としても延ばすように…と戸田が正座して頼んで来たので、三島、山平らもはあ…と言って引き下がるしかなかった。

1人に会の部屋に残った戸田は、タバコを吸い、学会も大変だな…、学会には何か…、去年の暮れには分からなかったが、今年になって何もかもが惰性だ…、こんな…、こんなことじゃどうしようもないな…と呟く。 次の日曜日、山本は山平、三島に付き添われて中野の歓喜寮にやって来る。

そして咳をしながら、保ち奉るべし…と僧侶の言う事を復誦する。

昭和22年10月19日「創価学会第二回総会」 凄いな戸田君、今日は千人越すかもしれんぞと控え室にいた戸田の元に北川直作(田島義文)が報告に来る。

壇上では、次に支部としまして、東京に河田、小岩、安達、本庄、芝などの12ヶ所、地方支部としましては、千葉県の浦安、埼玉県の志木、長野の諏訪、伊東市村の伊豆支部、栃木県の那須、群馬県の桐生、九州では八女など以上の11ヶ所で、本部におきましては定例の毎週月水金の半分の…と三島が報告をする。

山本伸一も出席していたその満員の会場を見ていた戸田だったが、21名が逮捕されただけで壊滅状態、教義そのものの曖昧さに加えた組織力ゼロの弱さ!所詮、創価教育学会は眉唾物の邪教だ!と尋問中に喝破した、戦時中の検事の言葉が脳裏をよぎる。

その後、幹部たちによる反省会の席上、戸田は、なるほど今年は会員数が増えた!しかしそれは単なる自然増!会員数が増えたってのはだ、何もうちの学会ばかりじゃないよ、霊友会、それから分離した立正佼成会、「ひとのみち」を改称したPL教団、世界メシア教、どこの教団だってみんなうちよりはるかに増えてる! 敗戦で民衆の心は乾ききって、ちょっと動くだけでもな、砂に水がしみ込むように…、良いかな?僕は何も数が増えることだけを問題にしてるんじゃないんだ。良いか?真の学会活動がどこにあったんだ!と戸田は訴える。

はっきり言えばだ、僕が座談会をし、講義に行く、それ以外に積極的な学会活動がどこにあったんだ!それが言いたいんだよ、それが!と戸田が力説するので、それはだな…と北川が反論しかけるが仲間が止める。

僕の法華経の講義をこっちの耳から聞いてこっちから入れても、良いか?もっと1人1人がだな、教学への熱意、積極的な折伏、会員全体の力強い組織作り、株式会社の総会じゃないんだから、頭数だけ揃えて形式的なことだけやってそれが何になるんだ!と戸田は興奮気味に訴える。

書店では「冒険少年」や「ルビー」と言った雑誌が売れていた。

泉田(黒部進)は、担当を畳に突き刺した金木(尾藤イサオ)から、この始末どうするか聞いているんだ!と迫られ、俺の所の女房はな、子供までありながら俺と別れると言い出しているんだぜと相手の男は言う。

そのクソ婆!、折伏なんてくだらない事しやがったんだよ!と金木は泉田の背後に座っていた千谷ハツ(春川ますみ)を指差す。 お前さん達ゃ、夫婦別れさすような邪教をばらまくんか?と金木と共に詰めかけていた黒川(岸田森)も責める。

ただじゃすまさんぞ、学会を仕切っている責任者は誰だ!と金木は凄むと、私が責任者であり幹部ですと泉田が答える。

じゃあ、あいつがやったことは自分が始末するんだな?と金木が聞くと、そうです、その通りですと泉田は答える。

じゃあおめえら!おめえらが寄ってたかって、たぶらかしたんじゃねえか!と金木は立ち上がり文句を言う。

おめえらで、こいつの信心を辞めさせろよ!と言われた泉田は、信心を辞める辞めないは本人自由だ、しかし夫婦別れは穏やかじゃない、仮に奥さんが信心を辞めれば、別れないですむんだったら、それはそれで結構ですと泉田は言う。

すると、金木の妻金木ユリ子(山田はるみ)は、私、信心は辞めません!と言うので、金木は、辞めろ!とユリ子の襟首を掴み、畳から匕首を抜き、殺すぞ!と脅すが、殺されても辞めませんとユリ子は睨み返す。

金木は、何を!と言うなりユリ子の頬を叩き、髪を掴んで畳に押し倒すので、止めなさい!と泉田が停めに入ると、他の会員達が、支部長!と背後から止める。

すると、止めな、ばい菌のようなとんでもない信心を振りまく奴らに、二度とふざけた真似をさせない為だと黒川も止めに入り、な、おとしまえの話をつけようじゃないか?と切り出す。 会員の1人が外へ出ようとすると、相手の子分が入り口を固める。

サツにたれ込みたけりゃたれ込んだって構わねえぜ、そんなことじゃ話のケリはつかねえ…と黒川はその会員の方を向いて言う。

俺たちはな、おめえらの親玉、張本人にまで会うつもりなんだぜと黒川が言うので、何を言うんだ!と会員もいきり立ったので、座るんだ!と泉田は押さえる。 良し分かった!それじゃあな、明日の朝緊急の幹部会議を開こうと自宅で電話を受けた戸田は答える。

全議員とな、それから青年部の幹部に集まるように連絡してくれと電話に答える戸田の背中に、妻の幾枝(新珠三千代)が丹前をはおらせる。

時間?それは早い方が良いに決まっとるじゃないか!みんなが集まれるんだから、それじゃ、宜しく頼むよ!と戸田は電話を切ると、泉田さん、何だったんです?と幾江が聞く。

あいつも浮かばれんな、戦争でニューギニア辺りで散々苦労してな、やっと帰って来たと思ったら、今度はヤクザだ…と戸田は答え寝室へ戻るので、ヤクザに?と幾江は驚く。

翌朝、幹部達が集まった中、君が直接会うことにしたのか?と戸田が聞くと、そうです、今日の午後6時、場所は西新橋の島谷組の彼らの事務所ですと泉田は答える。

君が解決できなかったときは、僕が向かう、しかしな泉田君、1人じゃ心もとないからな、松村君、君も一緒に行きなさいと声をかけると、はい、是非そうさせて下さい、奴らの出方一つでこっちだって…と松村が意気込むので、何言ってるんだ、勝負は最初からついとる、相手は修羅の人間、こっちは仏界の人間なんだと戸田が言うと、そうです、先生のおっしゃる通りですと泉田は答える。

私は2つ3つぶん殴られればことがすむ…と泉田が松村に言い聞かそうとしたので、泉田君、君が出かけて行ってぶん殴られればそれですむと思ったら大間違いだな、相手が何人いるか?何か持っているかも分からんしな、こっちが信心しているからと言って良い気になっちゃいかんよと戸田が注意する。

相手が相手なんだから万全の策を立てんとな、そこが信心なんだ、お題目さえ唱えてれば良いってもんじゃないと戸田が言うと、先生!奴らがピストルなら、私が泉田さんに変わって撃たれます!と松村が口を出して来たので、松村君、君は何度言ったら分かるんだ、喧嘩に行くんじゃないんだよ、おい、不穏なことが起きそうになったらな、そのっと抜け出して電話で知らせる、良いな?ここでみんな待ってるんだと戸田が言い聞かせる。

昨日のことは一応警察に連絡しておこうか?と泉田に言うと、三島君と原山君(長谷川明男)に頼むか?と指示する。

分かりました、じゃあ原山君…と答えた三島らは席を立つ。

で、金木ユリ子さんを折伏した千谷ハツさんだがね、色々心配していると思うんだよ、全ては本部が処理するからとそう言って欲しいんだと戸田は泉田に伝える。

それで朝の仕事がある人か?と聞くと、いえ、そうでも…、ただ戦争未亡人で、女ばかりの子供を行商などで育てて、生活は恵まれませんでしたが、最近は長女が結婚し、次の女の子も就職しましたので…、本人も以前ほどは足らなくても…と泉田は答える。 忙しくて、ほっとした時に又今度のようなことが起きたんだな…と戸田は千谷ハツのことを案ずる。

そのハツは「書き置きのこと」と書いた箱を前に喪服に着替えていた。

もし泉田先生に危害でも加えられたらどうしよう…とハツは案じていた。 ユリ子さんを折伏したのは私、事件の種を撒いた私がそれを刈り取らないと…と、ハツはまだ寝ている娘達の寝顔を見ながら考え、私は何故、ユリ子さんなど折伏と涙ながらに考えていた。

誰の責任でもない、私の、この私1人の…とハツは決意を固めて出かける。

そしてハツは、島谷組の事務所に1人で乗り込む。 創価学会本部である「日本正学館」の二階では、先生、みんなそれぞれ仕事がありますし…と戸田に小西武雄(浜田晃)が声をかける。

そうだな、こうして雁首並べててもしようがないしな…と戸田も承知し、泉田君が会うのが夕方6時か…と確認すると、みんな、5時になったらもういっぺんここに集まってもらおうか?と集まった幹部達に申し出る。

みんなが立ち上がりかけたそのとき、千谷さんがどこにもいませんと言いながら松村が飛び込んで来て、こんなものを…と「書きおきのこと」と書かれた封筒を戸田に差し出す。 先生!と泉田は緊張する。

その時、電話がかかって来て、新橋の島谷組の島谷から理事長へと言うので、受話器を戸田は受け取ると、創価学会の戸田だけど…と応じる。

すると相手は、俺だよ、俺、島谷組の島谷って言うんだよ、俺の声に覚えがないのかい?と言うので、俺は付き合いが多いんでね、一々覚えていないんだよと戸田が答えると、だろうな、じゃあこう言ったら分かるべ、以前の深川の埋立地で紙の取引をし、一度は座談会とかでおめえさんとはよ…と言うので、ううん、ああ…と戸田は気付いたので、やっと思い出してくれたか、いやね、お前さん所の会員の千谷とかと言う人がやって来てね、話と言うことはこう云うことなんだよ…と言う。

島谷(渡哲也)はハツを前にして、おばさん、話はもう分かったよ、今度のことは学会とか信心には関係ねえ、大体、手前の女房に愛想を尽かされる方がどうかしてるんだよと酒を飲みながら言う。

でも組長さん、このままだと…とハツが言うので、金木と黒川には俺からよく話しておくよと島谷は答える。

でも…とハツが案ずると、あの2人は根性がもう一つなんで旅にでも出すつもりだったんだ…、良い潮だし、関西か九州か…と島谷は言う。

それでもハツが、でも…と言うので、まだ何かあるのかい? 学会の戸田会長や泉田さんに手出ししたり、文句つけたりしないって…、お願いです、紙にでも書いて判を…とハツは頭を下げるので、えらく念のいったことだな?そこまですることはねえわな、創価学会ってのは戸田城聖ってのがやってるんだろ?と島谷が聞くと、え?とハツは驚く。

俺が直接話す…、戸田さんにね…と島谷は言い、電話で、まあこう云う訳だよと戸田に伝えた島谷は、それからな、千谷っておばさん、気張り過ぎてガタガタ震え腰が立たねえようだから、今から車で若い者2人付けて帰す、小岩までね…、じゃあ、戸田さん、又縁があったらな…と言うと電話を切る。

ハツは緊張と安堵のあまり泣き出していた。

問題はきれいに解決した…と、電話を終えた戸田も幹部達に伝える。 千谷ハツさんが直接乗り込み、向こうの組長が送ってくれる、昨日難癖付けた2人な、あれは地方へ飛ばされたそうだ…と言う戸田の言葉を聞いた幹部達は全員ほっと胸を撫で下ろす。

これが本当の信心の強さだよと小西が言い、泉田も、千谷さんは命がけだったんだと断ずる。

すると戸田は、いや、向こうの組長はそうは言ってなかったな…と言いながら椅子から降りて畳に正座すると、弱い物はな、弱いままでいるのが一番強い、弱い物が強がった時、身の破滅が怒る…と言う。

下町を歩いていた山本伸一は、書店で「ルビイ」と並んでいた「冒険少年」を手に撮って奥付けを見ると、そこに戸田城聖の名前が書かれているのに気付く。

「冒険少年」を買い、帰っていた山本に声をかけて来たのは、三川英子(徳永れい子)と男性会員で、ちょうど良かったわ、今あなたの下宿に行く所だったのよ、今日日曜日だからいらっしゃると思って…と言う。

山本は、朝の内家出て本屋に寄って…と言いながら「冒険少年」を見せる。

お母さん元気と聞くと、海苔屋も最近は金詰まりで、あまり景気は良くないらしいけどね…と歩き始めた山本は答える。 アパートに帰って来た山本だったが、本棚には文学本や哲学書などが詰まっていた。

山本君、少しは支部の集まり…、いや、本部の方へも顔を出したらどうだ?と男性会員が勧めると、凄いのよ、今年の青年部の張り切りはと英子も言う。

(回想)本部で青年部を前にした戸田は、あんまり調子に乗ってべらべらやるんじゃないよ!あれじゃ君、座談会じゃなくて、君1人の独演会じゃないかと注意すると、指摘された青年は、はい、気を付けますと詫びる。

次!と戸田が言うと、別の青年が立ち上がるが、緊張のあまり顔が強ばっているので、そんな顔じゃみんな逃げ出しちゃうよと戸田はからかい、みんなが一斉に笑い出すと、その青年も思わず笑い出す。

そうそう、そういう風に笑うんだよと戸田は指摘する。 座談会には初めての人も来るし、女の人もやって来る。

そんな怖いか押したんじゃ仏のくどくの話には無冠じゃないかと青年の肩を叩いて言い聞かすが、その時、日配の高瀬さんから電話ですが?と奥村が伝えに来たので、もうちょっとしたら終わるから後で…と追い払おうとするので、先生…と奥村は困惑するが、良いかい?折伏は焦っちゃいけない、1回でだめなら2回、2回で納得しない者には3回と気長にやるんだ…、良いな?みんなもなと青年達に言い聞かせる。

(回想明け)こうした座談会だけじゃなく、堂々と他宗に攻撃をかけると男性会員が言うので、他の宗教に攻撃?と山本は戸惑う。

ああ、本部やその会合の場所に出かけて法論だ、日蓮正宗を持ち出し、とことんまで徹底的にね…と会員は言う。

だけど、電灯が出来たらランプや松明は入らなくなるのと違うかね?と山本は反論する。

自然科学の発展で生活や考えはこれからドンドン変わる、いや、現在大部分の人は既に宗教を必要としなくなっている。

もし必要だとすれば、これはきっと新しい物だ…と山本は言う。

南無妙法蓮華経と言うだけで、祈りとして叶わざるなく、罪として滅せざるなく、福として来らざるなく…、しかし僕にはそんなこととても信じられないよと山本は言うので、英子と青年会員は驚く。

それは君がまだ信心が足りないからだよと青年会員が言うと、でも先生もこの殴り込みにはちょっとね…と英子は言う。

(回想)ふざけるな!誰がそんなことをしろと言った!え?向こうから仕掛けられたんならともかくだな、あのような教団やっつけてどうなるんだ?しかもそれを手柄代わりに得々とだ…と戸田は青年が他宗教を攻撃していると聞き、青年会で叱りつける。

勝負は始めっからついとるんだよ、700年前からそんな物は決まっとるんだ、日蓮正宗はそんな一時的な物とは違う!違うんだよ、うん?過去現在未来に渡ってだ、永遠に、良いか?永遠に人の心を貫く物なんだ…と戸田はこんこんと言い聞かす。

そんな暇があったらだな、本当に悩んでいる人、本当に苦しんでいる者達に一人でも話しかけ折伏しろ!この大バカもの!と戸田は青年会員達に一喝する。

(回想明け)その話を聞いた山本は窓の外に目を向け考え込む。

すると青年課員が、これはまだそんなに大きな声では言えないんだが、とりあえずの目標は戸田先生が力を入れておられる夏季講習会だと言うと、ね、山本さんも是非一緒に!こんな熱い東京よりずっと涼しいだけマシよ、富士の方が…と英子も誘う。

で、その夏季講習会はいつからだ?と山本は聞く。 富士山の麓の寺で行なわれた夏季講習会 さて、十界論の内、9界の菩薩まで終わったんだが、何か質問はないか?と戸田が聞き、質問がないと言うことはみんな分かったってことなんだな?と念を押す。

ではそれが本当かどうか、山平君と清原君、僕に代わってみんなに聞いてくれたまえと頼んだので、山平戸清原が立ち上がり、聴講生たちに聞いて行く。

君!君だ!と1人を指名した山平が、十界論とは基本的にはどう言うことですか?と聞くと、人間の感じる世界ですと答えたので、感じることとはどう言うことですか?と山平はさらに聞く。

人間には地獄とか餓鬼とか、本当にあると言うことですと青年が答えたので、つまりその人間に撮って地獄とか餓鬼、畜生、あるいは人、天、声聞、縁覚等を感じる境涯が実存すると言うことですね?と山平が確認すると、そうですと青年は答える。

今度は清原かつが、はい、あなた!と別の女性を指名し、三悪道、四悪趣とはどんなことですか?と聞くと、はい、1が地獄、2が餓鬼、3が畜生…、これが三悪道と言い、4の修羅を加えて、三悪道、四悪趣と言いますと鍛える。

次はあなた?いえ、あなたじゃない、その隣のメガネをかけた人!とかつから指名を受けた青年が立ち上がると、六道輪廻とはと聞く。

三悪道、四悪趣の上に5の人の世界、その上に6の喜びの天があり、普通の人間がこの6つの世界をぐるぐる回っている、これが六道輪廻ですとノートを読みながらも答えたので、そのくらいのことはノートなしにねとかつは注意する。

では、展開の次の声聞、縁覚、菩薩とはどんな状態のことですか?と山平が聞き、1人の青年を指名すると、7の声聞は考える、8の縁覚は縁に触れて悟りを開く、9の菩薩はそれを実行することですと答えたので、8の縁に触れて悟りを開くとは?と山平が重ねて問うと、自分がこれから実行するその方法を天と青年が言いよどんだので、後ろに座っていた声援が、はい!と手をあげる。

そうぞと山平が勧めると、この声聞から先は自分のためだけではなく、人々を救済する悟りでありそれを実行することですから、本当は信心がないと達しえない状態なんですと言うので、先に立っていた青年が違うよ、それは!と否定する。

だって先生はさっき、誰でもどんな人間だっていつでも六道輪廻を超えていると…と青年が言うと、ううん、確かに僕はそう言ったね、しかし田辺君にも一理はあるんだと戸田が立ち上がって答える。

古今お頃が一番大事なんだから良く聞いてくれよと戸田が言うのを、参加していた山本もじっと聞き入っていた。

田辺君は信心がないと入れない世界だと言った、それもまんざら嘘じゃない、だとすれば、僕の言う信心のあるなしに関わらず誰でもが出入り自由だと言う事はだね、良いかね、どんな人間だって仏法を信じている面があると言うことなんだよと戸田は説く。

その後、女性達の食事の支度の手伝いをしてた山本は、どんな人間だって仏法を本質的に信じている…とと言う戸田の言葉を思い浮かべていた。

そこに、差し入れだぞ、先生から…、先生がお金を出してね…、夜食と言われたんで、これは夜食、だから今すぐに食べるんじゃなしに、これは勤行が終わってから、良いわね?と言いながら、山平とかつがスイカとトウモロコシを何個も運んで来る。

夜中、布団に入っての就寝時間でも、山本は考え込んでいた。 翌朝、戸田の講義は続く。

仏法では人間の喜怒哀楽の状態と、物事を考え、方法を思いつき、それを実行することを明らかに区別しています。

つまり7の声聞から先を高く飛躍させる。 仏心…、突き詰めて行けば慈悲…、基本的には慈悲の心がないと入れないとしている。

しかし、昨日も話した通りにだ、信心をしているとかしていないとか、そんなことには関係なくだ、人間は誰だって出入り自由なはず、何故ならば、どんな人間だってたまには仏様みたいな気持になることもある。

つまり仏法とはこの大宇宙の原則そのものなんだから、意識するとかしないに関わらずにだね、どんな人間だって心の奥底でそれを感じている面があるからなんだよと戸田は言う。

しかしだよ、人間なんてだねいい加減なもんでだね、せっかく菩薩になっても他人と喧嘩をしたり金儲けに目がくらんだりでだ、すぐ又地獄に堕ちたり餓鬼になったりする。

1日の内にだってそうだ、泣いたり笑ったり、誰かと諍いを起こしたり、地獄、餓鬼、畜生、あるいは声聞、縁覚、それが又菩薩まで行ったかと思うとどさっと修羅だ、我々はこの九界を上がったり下がったり、いや、上がったりさっ方りと云う余裕なんざ全然なくてだよ、それが全部一緒くたに入り交じって来るんだ、この入りまじりが十界互具(じっかいごぐ)だと戸田は説く。

じゃどうしてこんなことが起きるのか?十界論の本質とはなんだ?それを分かる為にはまだ明らかにしていない物が1つ、1の地獄界から9の菩薩界までは人間の形と状態で表したが、10の仏界、これがまだ残っている。

釈迦が悟りを開き、中国の天台が体系化した仏法の神髄をだよ、日蓮大上人は鋭い目で見抜かれている、其身非有亦非無(ごしんひうやくひむ)…

(回想)巣鴨・東京拘置所 因に非ず縁に非ず自他に非ず非方非円非短長(ひほうひえんひたんじょう)方に非に円に非ず短長に非ず非出非没非生滅(ひしゅつひもつひしょうめつ)出に非ず没に非ず生滅に非ず非造非起非為作(ひぞうひきひいき)造に非ず起に非ず為作に非ず非坐非臥非行住(ひざひがひぎょうじゅう)…

(回想明け)何だろうな?あらずあらずが全部で34!

(回想)因に非ず縁に非ず自他に非ず…、出に非ず没に非ず生滅非ず?…戸田は獄中に懊悩していた。

(回想明け)何百回、何千回、何万回読んでは考え、考えては読んだんだがどうしても分からない! 無量義経を読んで、何日、何十日経ったのか?もう時間の観念するなくなってしまっていた…

(回想)そんなある日、寝床の中で、ああ!と戸田は気付く。

窓の外には朝日が昇って来る。 分かった!やっと分かった!仏とは、仏とは命のことなんだ!自分自身の命のことなんだ!と戸田は気付く。

(回想明け)その話を聞いていた山本も愕然とする。 命とは?生命とは?あるものではない!ないものでもない!どこからかやって来た物でもなく、どこかへ去ってしまう物でもない… 丸くもなければ四角くもなく、短くもなければ長くもない、34のあらず、あらずが当てはまる! 全部ぴったりとな! 仏とは?仏法で言う仏とは生命のことなんだ! 生命の表現なんだ!他にある物ではなく、それは命!自分自身の命なんだ!と解く戸田の言葉に山本は衝撃を受けていた。

表の道を走る山本。 そして目の前に見えた富士山の姿に立ち尽くす。

昔から法華経は難信難解と言われているんだが、十界の仏が自分の命であると言うことが分かれば、すらすらと誰にでも分かって来る。

仏界はこの菩薩界の上にあるんではなくて、自分の命なんだから、他の九界をも貫いている。 すなわち仏界すなわち九界、九界即仏界なんだ…と戸田は説く。

だから人間はその時その時に置かれている状態で、地獄を感じたり、あるいは畜生、修羅、または天、声聞、縁覚、菩薩などを感じたりしているんだよ。 しかしこの十界の生命、これはただ自分の命だけじゃない、ここから又大事なことなんだから良く聞いてくれ、それは宇宙全体が大きな生命体であり、自分もその生命体の1つだと言うことなんだと戸田が言うのを山本は熱心に聞いていた。

牧口先生がね、ここで僕に向かって、戸田君、君は十界互具(じっかいごぐ)の塊だよ、いや君ばかりじゃない、この畳机、庭の向こうの木に至るまでが十界互具(じっかいごぐ)のとうたいなんだよ…、さあ僕にはこれがさっぱり分からないんだ… 法華経とは難しい物で、これじゃあちょっと手が出ない… しかしだ、今の僕にはそれが分かる、いや分かると言うよりも遅まきでい歪ながらも、それは科学が発達して来たからで、今なら誰だって簡単に分かる。

十界互具(じっかいごぐ)はおろか、永遠の生命、因果の理法までがね… 宇宙の中心で爆発が起きる。

凄いぞ!大爆発だ!大爆発!と物干し台の上で望遠鏡を見ていた子供が興奮して叫ぶ。

一緒に見ていた姉信子(大竹しのぶ)が琴座のリング青雲ねと言うと、違うよ!南の下の方だよと言うと、じゃあ、射手座の散光青雲だわと姉は言う。

ああ、生まれてる、新しいのが!こっちでは大きいのが死にかけてるのに、さっきのもこうして生まれ変わるのかな?と言うので、光る星かもしれないし、空間へ飛び散った星間物質が集まり地球のような惑星になるかもね…と信子は言うと、ふ~ん、僕らの生まれた星はどこだろうと弟は考える。

この子供の言っている通りだ、星は次々と生まれ変わる、その最後の大爆発の際に、これまでの軽い元素、光っている星って言うのはだね、水爆の爆発原理と同じで水素がヘリウムになって行くんだ。 それが大爆発で、さらに酸素、炭素、窒素、マグネシウムのような重たい元素になって行く…と戸田は言う。

どこの星にいたなんて、お前が生まれたのはこの星じゃないか!と物置台にいた母親(石井富子)が長男に言い聞かせると、父親(人見清)が、星が生まれて~♩と1人将棋を指している中、その前田よ!と長男が言うので、生まれる前ね?父ちゃんと母ちゃんが生まれたのはね…と母親が思い出そうとすると、違うよ、そのずっとずっと前だよと長男は言うので、そんなこと分かる分けないじゃないかと母親は叱る。 望遠鏡を覗いていた信子は、その通りなのよ、お母さん!と話しかける。

私たちの身体はね、炭素とか酸素とか水素で…、私たちだけじゃない、地球上にある物質はなんだって星の爆発の時出来た元素で、だから私たちは前にどっかの星で光ってたのよと信子が言うので、冗談じゃないよ、そんなバカなおとぎ話みたいな話!と母は笑い出すが、いいえ、おとぎ話じゃない、大洋の膨張できっと私たちは又光る星に…、それが爆発して又生まれ変わるのよ、でもその時にはこれまでになかった新しい元素で、今度は同じ人間でももう少し進化しているかもしれないわ…と信子はうれしそうに言う。

3000年前に釈迦が鋭い「直達正観」(じきたつ しょうかん)で捕えたこの宇宙全体が大きな生命体であると言うこと、それらら過去現在未来に渡る永遠の生命!これは今や子供にだって分かっている。

仏法がキリスト教などと基本的に違うのがここなんだ、良いかい?キリスト教では全知全能の神があってあらゆる物を創造しこれを支配してると言うんだが、仏法ではそんな神なんて一切認めない! あらゆる物は宇宙生命の大包蔵、つまり何かと何かが関わりあうことが原因でその結果を生み、その結果が又次の原因を生み、全ての物は生々流転、変化しながら果てしなく…、いやその流転の中、自分の運命そのものを変える大法則を説いているんだ!と戸田は力説する。

では十界論の仕上げ…、宇宙即我、我即宇宙、南無妙法蓮華経について述べる。

その後寺の僧侶も交え、会員達全員でお経を唱える。 生命とは何か?現在未来に渡る永遠の生命です… 十界互具(じっかいごぐ)とは?仏界即九界 九界即仏界…、自分の命がそれぞれに感じる世界です。

では南無妙法蓮華経とはなんだ?生々流転の変化層の奥にあるその不動の実態です! 寺の外に夜歩み出た山本は、戸田から出された質問に自ら答えていた。

もっと具体的にだ!と戸田の声を聞いた山本は、宇宙即我、我即宇宙! 我が生命への呼びかけ、力づけ、揺り動かし、それを宇宙生命まで響かす! いや、言葉ではない!と、夜空を見ながら答えた山本に戸田の叱責が聞こえる。

言葉ではない…、自己の生命も、宇宙の生命も内なる法は同じじゃ、自今の生命に脈打つ物をこの大生命に共に一緒に脈打たせる物なんだ! 宗教と学問は違う、本質的に違う! 宗教は確かめえた理屈矢学問に留まる物じゃない。

外を歩いていた山本の中には、寺で聞いた戸田の言葉が繰り返されていた。

釈迦は?いやキリストだってこれは同じ事なんだ? 弟子達と討論会をやっていた訳じゃない。

この世に充満する苦悩、生活、病気、他人との不和、そうしたあまねく不幸に対する訴えを聞き、1人1人、その1人1人に直接救いの道を教えたんだと戸田は言う。

南無妙法蓮華経には理屈はない、哀しい時、辛い時、あるいは切ない願い事がある時に、言うならば、三悪道、四悪趣の無明の闇に彷徨う命! その我が命に目覚めを与え、呼び起こし、奮い立たせ、宇宙の大生命と冥合させることにより、初めて六道輪廻を離れさせて、自我の確立、慈悲の大海とも言える声聞、縁覚へ導き入れ、さらに菩薩へと進む道を教える物なんだ。

善も悪もひっくるめたこの大宇宙! 生々流転して止まない因果の報、南無妙法蓮華経は十界互具(じっかいごぐ)の当体(とうたい)に力強い運命の転機を与える何よりも強い因果! 因あれば果あり、果は次の因を生む! この繰り返しにこそ、あらゆる物の大変革、真に人間に革命をもたらす人間の理と法がある… 夜道を歩き続ける山本は、戸田の言葉を思い返し、滂沱の涙を流し続ける。

巨大な滝の下で1人佇んでいた山本に声をかけたのは山平だった。 みちとらの勤行の後ここまでやって来ることが時々あるんで、もしかしたらと思って…、君は前に雑誌の編集のような仕事をと言っていたね?いや実はね、これは僕の個人的なことなんだが、大学の夜間から昼間部の試験に合格してね、ま、先生もそれは良かった、ぜひそうしろ、ただし、誰か適当な後釜をと言われていたんだよ、で、先生は前から山本君はどうしてると言われていてね、どうだ?君は戸田先生の「日本正学館」に勤める気は?と山平が言うので、お世話に…、いや、お願いします!と山本は即答する。

そうか…、いやありがとう!ただ先生は、話が決まっても、勤めている所には迷惑をかけないようにきちんと後始末をしてからだと…と山平が補足すると、いやそれは…、僕の方から…、僕の方からお願いします!と山本は頭を下げる。

滝も水が、富士山の背後から昇って来た朝日で赤く染まる。

正月 山本は学生姿のまま張り切って「日本正学館」に出社するが、社には誰もいなかった。

床の汚れに気付いた山本は、率先して社内の掃除を始める。

そこへ電報が届いたので、受け取った山本だったが、困ったな、今日はまだ休みか…と電報の処理に戸惑う。 するとこれは急ぐから先生の自宅へ…、とりあえず、掃除がすんでからだと山本は呟き、掃除を続行する。

その時、山本は戸田が経って自分を見ていることに気付き、おめでとうございます、今日からお世話になりますが、宜しくお願いしますと挨拶する。

それから、電報が来ておりますが…と伝え、胸ポケットから電報を出して戸田に私、すぐ終わりますから…と言うが、戸田の表情は厳しかった。

そのまま二階へ上がろうとする戸田に、先生!二階はまだ掃除をしておりませんが…と山本が声を掛けるが、戸田はそのまま黙って上がって行き、俺は何か勘違いをしていたらしい…と心の中で呟く。

二階の椅子に腰掛けた戸田は、今後不壊のような歯車…、そんなものは必要じゃない…、車軸には思いもよぬことをやってのける人間…、やはり一番大事なのは人間なんだ!…と考えながら立ち上がる。

人間、人間、人間…、人間ほど良く出来ている物はない…、組織とは、所詮、人間と人間との関係…、いや待てよ? 色々欠点はあるにしても、人間ほど機能が揃い、それが有機的に巧く出来ている物は…? そうだ!人間の身体ほど完全な組織はありえない、例えその数がどのように増えようとも、それはまるで一つの身体のような組織…、それだ!それがこれからの学会だ!と戸田は気付く。

「中共軍南京へ突入」「蒋総統台湾へ」「中華人民共和国の成立」の新聞記事

ジョセフ・ドッジ(総司令部経済顧問)の写真

日本経済は両足を地につけず 竹馬に乗っているようなものだ

足がこれ以上高くなると 日本はコロンで首を折ってしまう

今ただちに この竹馬の足を切らねばいけない(とテロップ)

経済九原則実施指令! 物価統制の強化 インフレの停止 危機に立つ 中小企業 倒産2,318件 解雇者数 93,969名 金詰まりで社長一家心中(広島)!!

広がる社会不安 山本は、書店「神田書院」で「少年クラブ」を購入した子供を呼び止め、面白いか?と聞いていた。

どこが面白い?マンガかな?それとも小説?じゃあどうして?と首を傾げる少年に迫る。

しかし、少年は書店の壁に貼られた大きなポスターを見て黙って立ち去る。

その後も水道橋近辺を歩いていた山本は、壁に貼られた大手出版社の広告に目を留め悔しがる。

「神田西小学校」の校門前にやって来た山本は、子供達を呼び止め、この本堂思う?と「冒険少年」を見せて感想を聞く。

しかし、子供達は雑誌には全く興味なさそうだった。

その頃三島は戸田に、「冒険少年」は山本君のがんばりで何とか持ちこたえるとしても、「ルビー」は思い切った方が良いんじゃないでしょうかと廃刊を進めていた。

今止めたら、それは損です、しかし先のことを考えたら、先生、雑誌は「冒険少年」1本に絞るべきではないでしょうか?と奥村も勧める。

しかし戸田は、そんなことでこのデフレが乗り切れるかな?と呟く。

その後、自宅で、,栗川(名古屋章)と将棋をさしていた戸田は、購買組合の理事長、確か大井徹って人だろうと聞くと、元役人で、購買組合を信用組合に変えたいと走り回っているんですけどね、適当な協力者がいない、そこで先生ならどうかとねと栗川は教える。

先生、前にほら、日本橋で…と栗川が言うと、大日商事だ…と戸田が答え、金融会社やっておられましたよね?2、3日内にその大井徹に会ってみますか?と栗川は聞くと、そうだね~と戸田は考え込む。

戸田の自宅を訪ねた山本が、やっぱりこの軍艦かな?とイラストを取り出すと、軍艦も良いけど原子力時代、いや、この南極探検の方が…と戸田の長男喬一(山田慶造)が意見を言っていた時、勝負の区切りはついたみたいですよと幾江が知らせに来る。

伸一さん、晩ご飯まだでしょう?残り物ですけどね、さっきから支度を…、お帰りになる前にねと、遠慮する山本に幾江は勧めて部屋を出て行く。

戸田の所へ行って見ると、まだ勝負は付いておらず、この人な、石の地蔵さんだから遠慮いらんよと戸田は栗川のことを紹介する。

はい、じゃあと頷いた山本は、「冒険少年」は内容をかなり変えた方が良いんじゃないかと思うんですと提案する。

読者は内容に飽きを感じてますし、その上、少し荒唐無稽過ぎるんじゃないかと思うんです、もっと現代の少年にですね、自分の夢が叶えられるようなもの、例えばスポーツとか、それから科学の発展で予想されるこれからの夢とか…、その為にこの際、題名も変えた方が…と思いますが? 三島君に相談したか?と戸田が聞くと、編集長にはまだ…と山本が言うので、で、どう変える?と戸田が聞くと「少年日本」ですと山本は答える。

「冒険少年」から「日本少年」か…と考えた戸田は、良いだろう、じゃあ8月号からそうしようと即答するので、え?そんなに早くと山本の方が驚く。 ああ、ぼちぼちそう云う手を打たなければ行けないなとは思っていたんだと戸田は言う。

会釈した山本は、それから先生、お願いがもう一つあるんですが?と言い、宣伝のことを何とか考えていただけないでしょうか?と言い出す。

他のことでは大企業には負けません!しかし…、宣伝が弱い…、大手は宣伝で不況を乗り越えようとしているように見えますが、これは単なる不況の時期だけではなく、これからは必ず宣伝の時代に入ると思いますし…と山本が力説すると、そんなことが出来るか!と戸田は一蹴する。

大銀行と繋がりがあるそんな大出版社のような真似が今の正学館にどうして出来る?と戸田が言うので、分かりました、では内容のことに変わりますが、少年の夢、心の自由な飛び回りには小説、物語、挿絵、またマンガなどの他には詩、ポエジーがとても大事だと思うんですと山本が言うと、おお…、それはその通りだと戸田も納得する。

西条八十の死を乗せたいと思いますが?と山本が提案すると、西条八十?そんなお前高い原稿料…、伸!大手の出版社だってだな、彼から書き下ろしの詩なんか取れないんだぞ!と戸田が言い聞かせると、将棋盤の上の駒を払いのけてしまったので、ああ!と栗川は呆れる。

俺はな、お前の年には「時習学館」をやっていた、北海道から出て来て独立独歩、経済的に頼れるものは何もない!それなのにお前は、もっと宣伝費をかけてくれ、大手でも原稿料の払えない作家を使いたい?それで本が売れるんだったら誰でも売れるじゃないか!それじゃあ、お前の工夫はどこにある!お前の努力は一体どこにあるんだ!と戸田は叱責する。

山本は、伸一さん?せっかく支度が出来ているのに…と呼びかける幾江の声を背中に、悔しそうな顔で戸田家を辞去する。

山本は線路沿いを黙って歩いて帰る。 東洋銀行で25万円の約束手形にサインをしていた戸田に、あなた、信用組合をお作りになるそうですね?こう云うことは同じ業界ですから意外と早く分かるんですと支店長が聞くので、購買組合を信用組合に改組したいと言う人がおりましてね、その手続きを手伝っておるんですが、認可は何時のことになるんやら…、何しろお役所仕事ですからな…などと言いながら戸田は手形に印を押す。

しかし、銀行としてはそれは困りますねと支店長は言い出す。 ほお…と戸田が顔を上げると、その新規の分は貸し出し規制も厳しい折ですからご用立てはとても…、それから手形の書き換えも今回限りにしていただきますと支店長は言い渡す。

やむなく、湯浅の自宅にやって来た戸田は、この間お願いした件なんですが…と話しかけるが、銀行に断られた分ね?それは良いよと湯浅は言うので安堵するが、ただし3分の1だと言うので、3分の1!と驚く。

君からは高い利息が取れん、金融逼迫の折だし、回したい所があるんでね…と湯浅は言うので、せめて半分、半分だけでも…と戸田は懇願する。

山本は通勤途中、いつものように大出版社の広告に目を留める。

その一番隅に、小さい「冒険日本改題 少年日本」8月号より内容一新 日本正学館と書かれた広告が出ていたので山本は、先生!と呟き喜ぶ。

栗川はまた戸田と将棋を打ちながら、いや驚きましたね、先生の凄腕には…と栗川が言うので、組合、信用組合…、普通なら認可が下りるのは半年から1年…、それをたった3月程度でめどを立ててしまう…と苦笑しながら駒を打つ。

こんなご時世だしね、こっちも急いでいるんでさ、やり出した以上はさ、早いとこケリ付けんと…と戸田は笑う。

「正学館」にやって来た山本は、先生がお呼びだと同僚に言われ二階へと上がると、先生!と笑顔で呼びかける。

どうした?もっとこっちへ来なさいと山本を手招いた戸田は、編集部の組織をちょっと変えるよと言い出す。

8月号から変わった「少年日本」な?俺生きるか死ぬかがかかっているから、正学館全体の出版物としては今まで通り三島君がいるとしてもだ、「少年日本」には独立した編集長がいるんだよ、伸!お前がその編集長だと戸田は笑顔で伝える。

先生!と山本が涙ぐみながら絶句すると、どうした?自信がないか?と笑顔のまま戸田が聞くので、感激した山本は、先生!と大声で答える。

新編集長になった山本は張り切り、イラストレーターの西山 (常田富士男)にこと細かく指示を出したりする。

さらに、直接、西条八十の家を訪問した山本は、僕はどうしても欲しいんです、日本の少年に夢を与える詩が!と、応対に出て来た夫人に訴える。

夢を?少年に?と夫人は驚いたように聞き返す。 広告も積極的に取るよう社員達に命じる。 やがて「少年日本」の表紙がカラーで刷り上がり、それを手に取った山本は満足げに微笑む。

後日、「日本正学館」「創価学会本部」の看板の付いた建物に、さらに「東光建設信用組合」の看板が加わる。

「東光建設信用組合」の理事長は大井徹と言う人だ、これは名前だけ、経営の全責任は専務理事の僕が取って事務所はここ、それから営業部長はだな、正学館の経理をしている奥村君が兼任して、中沢君と山下君に手伝ってもらう。

それから仕事の詳しい内容については奥村君から説明してもらう…、その前に三島君から…と戸田は正学館の社員達に説明する。

代わって前に出た三島は、信用組合が出来ても、まあ形ばかりのものだし、経済的に楽になるなんて安心してもらっては困る、出版はますます厳しい時期だ、これまで以上に力を入れてもらいたいと話する。

その時、先生!と清原かつらが飛び込んで来て、困ったことが起きたんですと言うので、戸田が何だ?と近づくと、青年部が6人、警察に逮捕されましたと言う。

山崎産業と言う会社で一方的な首切りがあり、闘争中に会社が警察を呼んだんですと言うのだった。

品川警察署にやって来た戸田達だったが、警察の受付(人見明)が、君たちとの関係は?と聞いて来たので、うちの学会員、創価学会ですと三島が答えると、創価学会?創価学会ってなんだ?と言うので、とにかくもらい下げにやってきたんです、早く出してやってもらいたいんですけど?と戸田が申し出ると、さあて、おとなしく出るかね~と受付の男は横柄に答える。

全く手の付けられない連中でな、会社や警察が否を認めない以上はテコでもここから出ない…とな…と受付の男は苦笑するので、戸田は勝手に留置場の方へ向かう。

みんな食えない?だから生活の為に戦う?その闘争による社会改革が大事だと言うのか?と戸田が牢の前で聞くと、中に入れられた青年部の連中はそうですと答える。

直接の生活から戦い、それを勝ち抜くことにより民主主義を建設する、これが当面の問題です!と青年は答える。

我々は学会の信心活動を捨てるんじゃありません、しかし現在ではどうしてもそれは第二義的なものであって…と青年達が訴えるので、違うよ、それは!と戸田は言い返したので、同行していた山本は驚く。

赤旗を振って物事が解決するんなら俺が先頭になって行く、良いか、経済闘争、政治闘争、そんなものは結局妥協で片がつくんだ、俺たちがやっていることはだな、共産主義、資本主義、民族主義でも解決できっこない、もっともっと厳しいもんなんだぞ!と戸田が言うので、山本はじっくり聞き入る。

立正安国論 颱風水害や列車事故のニュース映像 災害だけじゃないんです、国家討議、生活の苦しさを、全てを成り行き任せの支配者… つまりもう、この世の終わりに近づいたんじゃないか? いやどうせこの世は汚れたエゴの世界、念仏でも唱え、次の幸せでも祈るか…、立正安国論は700年前の出来事とか人々の気持じゃない、それは現在でも全く同じなんですと山本は聴衆に説く。

水俣病の映像 爆破事件 どうせこの世は明日のない世界、その上どうやら自分には生まれながらの定めみたいなものがあり、希望は次の世にでも繋ぐように…、700年前の人は宗教をこのように捕えましたが、それは現在でも同じで、言い換えれば、無気力、全てに無関心になったとも言えます。

しかし、しかしですよ、人間は希望がないからと言って、その日その日を全くの風任せで過ごしたり、ひょっとしたら死んだ先のあの世の方が楽かもしれない、そんな風に思って毎日やって行けるだろうか? それは考え方としては楽かもしれないが、現実の実生活ではそんな気持でとても続けられるようなものではない、どんなに辛く、苦しく、また厳しい時代だとしても、生きてるってことは、何かこの世での幸せを心の奥で願っているのではないだろうか? 人間は生きている事自体に幸せを、投げやりになり、諦めたり、また刹那的になったとしても、それはどっかで幸せを願っている、比叡山をはじめとする20年間の仏道修業から生まれ故郷の阿波の国へ帰られた日蓮上人はこのように考えられた、当時大上人は32歳、仏法は釈迦1人から生まれでた教えにも関わらず、様々な宗派に別れ、中には死後の幸せを祈るようなものが出て来たのだろう。

1人の聖者、1人の大先覚者が説いた真理!それはただ一つのはずです!と山本は説く。

建長5年4月28日(西暦1253年) 安房国 清澄山 森の中を歩き朝日が昇るのを見た日蓮上人(仲代達矢)は、朝日に向かって念仏を唱える。

立宗宣言 仏法は決して死後だけを祈るものではない!と山本は講義する。

この世での苦しみや悲しみは最小限にして生きて行く、どこまでも生きて行く為の宗教なのです!と山本は聴講生に説く。

仏法とは自分の生命そのもの、目に見えることを拝むことでも、呪文なんかを唱えることでもない! 常に自分の生命を宇宙代生命を相鼓動させ、今日唯今をどう生きるのか?それからこれから先の未来に対し、自分の運命をどうするのか?常にそれを対象に置いたものなんですと山本は言う。

雨の日の「創価学会本部」の2階では、椅子に腰掛けた戸田を中心に、三島と奥村がため息をついていた。

それじゃ、先生、みんなを呼んできますから…と奥村が言い、席を立つ。

三島が、先生、これは学会のことですが、最近の山本君の講義は少し独創が多すぎるんではないでしょうか?と問いかける。

独創ってなんだ?新しい考えか?それとも行き過ぎる独創か?と戸田が聞くと、先生のおっしゃっている内容よりは行き過ぎで、こりゃあちょっと注意した方が…と三島が進言すると、思うようにさせておけ、あいつには枠なんかはめない方が良いんだ、枠なんかはな…と戸田は言う。

そこに社員達が全員上がって来る。 まず数字的な報告なんだが、奥村君、君からちょっとやってくれと戸田が指示すると、奥村が立ち上がり説明をする。

信頼する君たちだから一切を公開したまでだ、現状はこの通りだ、何か質問あるか?と戸田が聞くと、奥村さん、その返本の数字は本当ですか?と1人が聞く。 数字と言うのは厳しいものだよと戸田が静かに言う。

このところ真剣に色々考えてみたんだが、しかしどうも妙案がない、案がないだけではすまされないので、結論だけは出した、「日本正学館」は一切の出版物の出版を停止しますと戸田は発表する。

諸君に渡す給料は申し訳ないが、それぞれ半分しか入っていない、手元にある金を全部あげた、分割払いと言うことで来月は必ず払いますと戸田は約束する。

「正学館」はこう云うはめになったけれど、僕は諸君の内ただの1人も首にするつもりはないんだ、各自残務整理をやってもらって、その後は東光信用組合の社員として働いてもらいますと戸田は言い渡す。

下の編集部に降りて来た山本は考え込むが、12月号か…、「少年日本」もこれで終わりだな…と編集者が言うので、「紅顔三銃士」と言う山岡荘八の小説原稿をじっと見つめ、校正を続行する。

その後、山本は雨の中、イラストレーターの西山に原稿料を払いに行くが、それを受け取った西山は、ありがとう、これが最後の原稿料だとすると、君とはもう会えなくなる訳だな…と寂しがる。

申し訳ありません、今までは散々無理ばかり言いまして…と山本が詫びると、こんな時期だし、仕事がないんで、君の所だけが頼りだったんだけど、世も末だな〜…、これから先どうなるのかね…と西山はぼやく。

それを聞いた山本は、西山さん、悪いことはそんなに続きませんよ、又お目にかかります、今度は宗教の話でも持ってきますよと慰める。

宗教?俺にはあまり縁のなさそうな話だけど、君は何かやってるのかね?と西山が聞くので、ええ、これだけが今の僕の支えのような気がしますと答え、帰って行く。

印刷屋で、きれいったって、うちの仕上げは何時だってきれいですよと文句を言う印刷工に、いや、特別念入りに、これだけじゃない、12月号は他の挿絵も全部ね、良いね、頼んだよと山本は指示する。

パンパンと米兵などが浮かれている繁華街を通っていた山本はふと映画館に入ってみることにする。

映画は「青い山脈」を上映中だった。 画面では、海岸にやって来た沼田玉役の龍崎一郎が島崎雪子役の原節子に、あなたは一体、僕のことをどう考えていますか?と聞いているシーンだった。

席に付いた山本は穴の開いた靴を脱ぎ、ぐしょ濡れになった靴下も脱ぐ。

結婚して下さい、あなたとなら幸福になれるんですと画面では沼田が雪子にプロポーズしていた。

朝鮮戦争勃発 何故こう悪いことばかり続くのだろう?山本は家で原稿を書いていた。

信用組合の経営が難しい、いや、今年の2月くらいからその傾向が現れていた。

預金者より借り入れの希望者の方が圧倒的に多い、極端な資金不足である、大口出資者の他の組合幹部は全く知らん顔、走り回っているのは戸田先生1人だ… 日掛け、月掛け貯金の開始、一時はこれで凌げるかと思えたが、買い付け金の焦げ付きが始まり、6月くらいから支払いが苦しく、7月にはほとんど支払い不能、今月に入ると今にも取り付け騒ぎに近い状態になって来た。

信用組合の経営者会議が開かれ、大井徹(弘松三郎)が、大蔵省にお願いして、内容や経営状態のもっとしっかりしたどっか他の信用組合と合併すると言うのかね?と聞くので、そうです、私はいかなる状態になりましても絶対預金者にだけは迷惑をかけたくないと戸田は答える。

これが実現しましたならば、私たち出資者や組合員にはかなり不利になると思いますけど、預金者には一切迷惑をかけないですむと思いますが…と戸田は提案する。

先生並びに弟子の我、ただ一筋の妙法を信じる、苦難の連続だ…、これ法難と言うべきか?それとも…と、山本は自宅に横になり考え込み、起き上がっては又原稿を書き続ける。

それとも妙法に何か違背することなきや?いや、妙法に違背は断じてなし! 雷鳴が轟く中、山本は、信用組合の件は必ず福運ありて好転すべし!と信じる。

真夏のある日、東光信用組合にやってきたのは滝田(勝部義夫)と加藤(中谷一郎)と言う名刺を出したので、専務理事の戸田は外出中ですが、大蔵省の係の方が調査に来て下さるのを心待ちに…と三島が安堵しながら、二階へと案内する。

滝田と加藤はすぐさま帳簿を調べ始める。

やがて終わったので、下で待っていた戸田達が二階へ呼ばれる。 どうもこの暑いのに御苦労様でしたと戸田はねぎらう。

戸田さん、この組合、これからどうなさいます?と加藤が聞くと、どうするって、他に案がないから合併をお願いしてるんじゃないですかと戸田が答えると、それは無理ですねと加藤は言う。

無理?と戸田が繰り返すと、まあ上司に報告して私からも合併を頼んでみますが、役所としてもこれまで経営が悪化したものを他に押し付けるような行政指導はちょっと出来ないと思いますよと加藤は言う。

ねえ戸田さん、ここまで来たら他の手段をお考えになったらいかがです?と加藤が言うので、他の手段?と戸田は呟く。

例えば…、例えば組合の解散ですか?と相手が返事をしないので戸田が聞くと、ええ、それは最後の手段ですが…と加藤が言うので、しかし、預金者に返す金の用意もなくて解散などできるものか…、破産ですな、破産…、収拾のつかない大きな社会問題ですとと戸田は言う。

三島、奥村らと一緒に聞いていた山本は大きなショックを受ける。 その夜、戸田は、奥村君、今さら六法全書なんて君…、信用組合ってのはだな、株式会社や商事会社と違って銀行及び銀行貯蓄法によるんだ、会社にしたって解散にしたって監督官庁の難しい許可が必要なんだよと言い聞かせる。

もし違反行為があれば責任者は当然法律的な処罰を受ける…と戸田が言うので、山本は驚く。

預金者の中には警察や検察庁に訴えて出るものもいるだろう…と言った戸田は1人会社を出て行く。

全ては僕の不始末…、僕はどうなったって良い、しかし学会のことが…と帰宅する戸田は悩み抜く。

一方、山本も1人家路をたどりながら、先生が法律的な罪に?…そんな、そんなことは絶対…と苦悩する。

翌朝、出車した戸田を会社の前で見かけて近づいて来た社員が、先生、新聞記者が来ています、昨日、大蔵省から通知があった業務停止命令をどこからか嗅ぎ付けて是非先生に取材をしたいと…と伝える。

先生が会っちゃいけないと、山本君が…、山本君がそう言ってその記者と…と言う。

会社内で山本に対峙した内外新聞記者(橋本功)が、その大蔵省の業務停止命令は何時ですか?と聞くと、昨日ですと山本は答え、しかし営業停止となるとこれは大変ですな…、組合の預金者は何人くらいですか?と記者は聞いて来る。

それから被害総額と言っては何ですが、お宅の債務ね、どの程度になりますか?と聞くので、相当な額になると思いますが、何しろ昨日の今日なので、それは専務理事でないと正確な所は分かりませんと山本が答えると、いや正確な数字は後でうかがうとして、概算で良いんですよと言うので、新聞の報道は正確さが生命じゃないですか?今日は無理ですから、私が責任を持って明日専務理事にお会わせしますと山本は言う。

翌日、喫茶「らんぶる」で戸田と同席の上、再び記者と会う。

帳簿を見た記者は、要するにあれですか?この債券を取り立てることが出来れば負債は一切賄える…、そう云う訳ですね?と記者が言うので、そうですと山本が答える。

しかし今、営業停止をぱっと大きく書かれると、組合が潰れると言うことで預金者や債権者がわっと押し掛けて来る、その上、金を借りている連中はですね、わざわざ潰れる組合に金を返す気持は全くなくなる…、となるともう決済は付かず、さっきから言っているように預金者には収拾のつかない迷惑、我々の一番恐れていることになるんですと山本は説明する。

私は今、その解決に昼夜なしに働いております、大筋のめどが立つまで何とか待っていただきたいんですが?と頼むと、弱りましたな〜と記者はぼやく。

帰り道、伸、新聞とは偉い力を持っているものだな…、今の社会じゃ想像以上の大きな力を…と戸田は話しかけ、学会も新聞を持たんといかんな…と言い出す。

いつかは…、いや近い将来には…、伸、今からそれを考えといてくれと言うので、はいと山本が頷くと、今日の法華経の講義なんだが、みんなに話す事があるからな、幹部のものには全員集まるようにと戸田は指示を出す。

その夜の講義会の最後、今日は折り入ってみんなに聞いてもらいたいことがあると戸田は切り出す。

実は、事情があって、僕は創価学会の理事長を今日限り辞めることにした…、諸君達には全く関係ない私の一身上のことなんだ、実は信用組合が昨日で営業を停止したと戸田は明かす。

私は責任者だから厄介な後始末をせねばならん、そこで考えに考えた末、理事長を辞めることにした、で、理事長はこの三島由造君に代わってもらう、これまで諸君は至らぬ私に絶大な支援をしてくれたが、新しい理事長も変わらず支援してやってもらいたい。

私は思う所あって辞めたんだが、信心を止めるつもりは毛頭ない…、前にも増して広宣流布の道を進むつもりです、この気持があればこそ悩みの多い仕事が出来る、私の一身上にどんなことがあっても、学会は絶対に健全であり、ご本尊様の加護の元にあることを信じて疑いません。

理事長の更迭くらいで決して動揺があってはならんと言うこと、良いですか?この点にもし不審を抱き、批判や策動をする者があったとしたら、それこそ仏敵であり、くれぐれも心得違いのないようにお願いしますと戸田は言う。

三島君、みんなにご挨拶をと戸田から言われた三島は、泣いてしばらく立ち上がらなかったが、さ、三島君と再度促されると、ようやく立ち上がるが言葉が出ない。

さ、三島君、挨拶を点と戸田が重ねて声をかけた時、清原かつが号泣し出す。 結局、三島は何も言えず、戸田は暗澹とした思いになる。

解散後、1階に下りた山本は、中2階にいた戸田の姿を見る。

戸田も山本に気付き、近づいて来たので、先生、三島さんが理事長になると、私の師匠は三島さんになるんでしょうか?と聞くと、いやいやいや、それは違うよ、君には苦労ばかりかけてるけどな、君の師匠はこの僕だ…と戸田は答える。

先生!と呼びかける山本に、どうした?伸…と戸田は微笑みかける。

泣いていた山本は涙を拭い、今日は8月24日、僕が入信してちょうど丸3年ですと言うと、戸田は笑顔で頷く。

後日、雨の降る中、山本は自宅アパートで電球を布でくるみながら、債権者に了解工作を始めて既に2ヶ月、しかし目的の解散へは進まず、まるで泥沼の中でその深みの中にますますはまり込むことになり、この了解工作は疲れる…、本当に疲れる…と考えていた。

先生はまるで地獄の苦しみ、いや、それは単に先生のみにあらず… 戸田の妻幾江も、着物を質に持って行くようになっていた。

戸田が相談に行った湯浅から、だからもっと早めにわしの忠告を…、学会とかの道楽さえ…と言われた戸田は、いや、それはこれまでにももう何度も…と口ごもるだけだった。

君に取って事業と学会とどっちが大事だったんだ?と湯浅に問われた戸田は、いやそれは…、それは両方とも…と言うしかなかった。

わしにはそれが分からん、何れにしても君にはもうびた一文も…、君はもう事業家として完全にその生命を失ってしまったんだよと湯浅から言われた戸田は黙って帰るしかなかった。

しかし、先生には友人や知人が多く、不思議な援助を申し出る人もある…(と山本の独白) ある日会社に島谷から電話がかかって来る、それを受けたのは山本だった。

料亭で山本と共に島谷に会った戸田は、いや、君の気持は良く分かるし、うれしいよ…、しかし闇船で材木を運ぶとか朝鮮の戦争に使う爆弾に使う為の鉄くずを集めると言うのはな〜…と戸惑う。

すると島谷は、戸田さんよ、先の100万より今の10万の方が生きた銭って事もある、ここで白黒をつけることはねえ、ゆっくり考えてみたらどうかね?と言い聞かす。 戸田は、いやありがとう…、本当にありがとう…と感謝する。

今、君の言う金は僕にとっちゃ地獄に仏だ、しかしな、どうもそう云う訳にはな…と戸田は迷う。

戸田さん、おめえさん、一体何にそんな義理立てしてるんだよと島谷が言うので、義理立て?と戸田が驚くと、そうさ…と島谷は言うが、その時、側にいた山本が、島谷さん!と呼びかけ、目で訴える。 その時、部屋に電話がかかって来たので、山本が受け、島谷に渡す。

秋葉組の総長の件で…、分かったよ、田代に言ってくれ、田代にはっきりだ、筋目違いのそんな二代目は俺が黙っちゃいないとな…と言い、電話を切った島谷は、良い代貸しさんだな…と山本を見ながら言う。

年は若えが腹ができてる、この人には目かけてやんなよと島谷は戸田に言う。

うん、分かってる…と戸田が答えると、その代貸しさんも一緒に聞いてもらいたい、戸田さん、あんたが南無妙法蓮華経には身体だけじゃなく、命まで張っての義理立ては良く分かる、だけど金にあくせくはそれとは別の話だぜと島谷は言い聞かせる。

金って言うのはきれいごとだけじゃ動かねえように出来てるんだ…と島谷が言うと、必ずしもそうとは思わんなと戸田が言い返す。 僕には難妙法蓮華経がある、今の世の中は君の言う通りかも分からんよ、しかし人間1人1人が変われば世の中は変わるんだ、それに南無妙法蓮華経だと戸田が言うと、それじゃその南無妙法蓮華経があんたを助けてくれるって言うのか?と島谷が絡んで来る。

いや、助けてくれるとか助けてもらうとか、そんなものじゃないんだと戸田が説明すると、分かったよ、じゃあもう何も言わねえよと島谷は諦める。

しかし戸田さんよ、世の中雨ばかりじゃなく、今に晴れた日も来る、代貸しさん、それまでおめえさんもしっかりとなと島谷は山本にも話しかける。 じゃあ戸田さん、風邪引かねえようにな、さ、景気付けにと言いながら、島谷は酒を勧める。

ありがとう、本当にありがとうと礼を言い、戸田はコップに注がれた酒を一気に飲み干す。

後日、戸田の自宅に債権者達が集まって来る。

まあ皆さん、もっと静かに話しましょうと戸田が出て来ると、これが静かにしてられますか!良くまあ今まで寝てられるねえ、こっちは暗いうちから走り回ってるんだぜ!などと言いたい放題なので、分かってます、話は良く分かってます、どうするかが問題なんでしょうから、資料はここにはありませんしね、会社で話しましょう、ご一緒においで下さいと戸田は言う。

いや、もう話はたくさんだ!金だよ、金!払うのか払わないのか!言い訳はもう!などと債権者達が言うので、私は言い訳などしません、組合の負債は全部私個人の借金に切り替えるつもりですと戸田は明言する。

しかし状況はその深刻さに留まらず、遂には先生が一番恐れ憂慮されていた事態にまで…と、山本は自宅アパートで回想する。

そんなこと聞いちゃいねえよ!と堀部十郎(富田仲次郎)が怒鳴りつけて来る。

良いかい?あんたが理事長って言うからそれを信じてお宝を収めた者が多いんだ、それがこの始末だよ、我々は学会そのものがもう信用できないってことなんだよと堀部が言うので、じゃあ何ですか?皆さんはもう信心はお辞めになるとでもおっしゃるんですか?と戸田が聞くと、辞めないさ、信心は良いことだから続けるさと堀部は言う。

ただし学会から離れて、新しい区を作るんだと堀部が言うので、何!と戸田は驚く。

清原かつも、何を言うんです、営利事業の組合と信仰が中心の学会は別問題です!あなた方はその区別さえ…ととある漁港で漁民達相手に説明していた。が、俺たちはもうご本尊には愛想が尽きたんだよと漁民は言う。

じゃあなた達はそれで解決するとでも?とかつが聞くと、ああ、その通りだ、疫病神のご本尊はお帰しする、南無妙法蓮華経はな!と別の漁師も答える。

自宅の山本は、日記を書くのが辛い…、いや、もう書く必要がなくなったのか…と落ち込んでいた。

戸田先生の境涯…、正に地獄…、我々妙法を信じるものには 三類の強敵三障四魔 (さんしょうしま)あり…と山本は書き始める。

その法難の時期か…それとも、妙法に何か違背、謗法のことが? いや、違背、謗法などはなし!先生に限り、戸田先生に限り!断じて!と山本は確信する。

ミカンを食べていた戸田と会社に2人きりになった山本は、時刻表を調べ、東京駅発午後3時20分…、これなら宇都宮からまだバスがあるはずですと伝え、一枚の原稿用紙を差し出す。

そこには「古の奇しき縁に仕えして 人は変れどわれは変らじ 伸一」と書かれていた。 僕も詩をあげよう、返し詩だと戸田が言って紙を求めたので、山本が渡していたとき電話が鳴る。

新橋の島谷さんからですがと電話に出た山本が戸田に受話器を渡す。

戸田さんか、島谷だよ…、別に用はないんだよ、御前さんには一言だけ挨拶をと思ってな、世の中雨降りばかりじぁねえ、晴れた日もあるなんて口を叩いたこの俺が、照れくさえよ、俺はな、これからお前さん達の言う修羅の世界へ入って行く…と言うので、何!と戸田は驚く。

じゃあ、戸田さん、元気でな…と言うので、島谷!おい島谷!と呼びかける戸田だったが、電話は切れてしまう。

伸、島谷は確か新橋のすき焼き屋で言っていたな、確か、田代とか言ってたな?と受話器を戻しながら戸田が聞くと、はい、それから品川の秋葉組とか…と山本が答えると、良し、すぐに電話を調べろ、秋葉組と田代を!と戸田は命じ、出かける支度をする。

寺で行なわれていた秋葉組の葬儀の参列者の中に、帽子をかぶった島谷が混じっていたのを、迎えていた田代が気づく。

田代に近づいた時、それまで目深にかぶっていた帽子をあげ、コートを脱いだ島谷は、ベルトに仕込んでいたドスを抜く。

戸田と山本は車で寺に向かっていたが、島谷は寺の中で暴れ回っていた。

田代に襲いかかった島谷は、背後から秋葉組の奴に刺される。

その後も執拗に刺された島谷だったが、田代に食らいつく。

そして鐘撞き堂に田代を追い込んだ島谷は拳銃を何発も撃ち込まれる。

戸田と山本が寺に駆けつけた時には、既に警察が固めている門を無理矢理通り抜け、運び出されている担架の中から島谷の姿を探す。

やがて島谷の担架を見つけ、待ってくれ!と止めた戸田は、島谷!と呼びかけると、戸田さんか、すまねえ、ありがとうよ、だが俺はな、南無妙法蓮華経は言わねえよと言うが、お前はな、お前は心の中でそれを唱えていたんだ!と戸田は言い聞かせる。

島谷が差し出そうと仕立てを戸田が握ったとき、島谷は絶命する。 島谷!島谷!と呼びかける戸田。

救急車に運び込まれる島谷を見送った戸田は、島谷!俺はな…、あれほど俺のことを思ってくれたお前を…、心の中で法華経に心を寄せていた1人さえ、そのお前1人さえ…と言い絶句する。

側でそれを見かねた山本が、先生!と呼びかけ、もう汽車が…、参りましょうと声をかける。

暗くなって到着した大石寺、宝蔵の前で合掌し念仏を続ける戸田、それを見守る山本。

すると、戸田の目の前に日蓮上人(仲代達矢)が姿を現す。 戸田は驚き、メガネを取って凝視する。

大上人、この私は戸田城聖はどうすれば宜しいのでしょうか?と問いかける。

昭和21年1月より、ここの本山の房で4人に法華経の講義を始めてより5年にも関わらず、その数7500…。

広宣流布の道はまだまだ…遥かに遠いのです、大上人!この道が厳しいのは常に経済の問題があるからです、戦後の学会の再開に際して基礎の確立…、つまり経済力の充実がない限り、広宣流布の大業は中途で破綻の恐れさえあり、私はそれに付いては尽くせるだけの手当は尽くして参りましたが、天にはもう身動きすら…と戸田は訴える。

すると日蓮が、仏法とは?と問うので、宇宙一切根源の法と戸田は答える。 その神髄は?と日蓮が聞くので、死ですと戸田は答える。

法華経よりの御立つは?と聞かれた戸田は、人間革命!と答える。

すると日蓮上人は、人間根本一切の法に対しなければならない立場のお前に、経済などはあまりに小さすぎる、そんなものを一緒に並べて何になる?と答える。

それだけではなく、今のお前はもっと大きな罪を犯しているのだと日蓮上人は指摘する。

インドの聖者釈迦、中国の先代天台により、法華経は既に衆生に道を拓いている。

だから自分は当体何妙法蓮華経を明らかにし、広宣流布の道へすすんだのだと日蓮上人は言う。

しかるにお前は、ただ一筋のこれの実践を怠り、立つべき時にも立たず、口先で得々と人々に法華経をもてあそぶ謗法だ! 戸田城聖!その罪でお前は今、地獄のどん底にいるのだ!と日蓮上人は責める。

それを聞いた戸田はもだえ苦しみ地面に倒れる。

日蓮上人の姿は闇の中に消え失せる。

戸田の心の中には、冬の雪から桜や菜の花の春、四季折々の花々が浮かんでいた。

そうした満開の桜の中で微笑む戸田だったが、先生、先生!と呼びかける山本の声が聞こえ、現実の世界へ戻る。 山本の方へ振り向いた戸田の表情は晴れやかだった。

それを見た山本もうれしそうに微笑みかけ、先生!と呼びかける。

伸!俺はな、こんなでっかい、こんな大きな罰が当たっていたんだ!と戸田は愉快そうに教える。

冨士の裾野の長い橋を山本と渡る戸田は、5年前に牢屋から出て来た時にはな、俺は事業などには一切目もくれず、牧口先生の意思を継いで会長になって学会だけをやるべきだったんだ、学会だけをな…と話す。

それだけでもいい加減罪が大きいのにな、いや〜、罰が当たって当たり前でな、こんなものを持ってたんだものな…と言いながら一枚のハガキをコートの下から出してみせる。

それは検察庁への呼び出し状だった。 本山の境内でこんなものを見せるのもなんだと思ってな…と戸田は自嘲する。

いや〜、ここまでやって来たんだから、白糸の滝まで歩くか、なあ?と戸田は言う。

伸、何を心配してるんだ、何も心配することなんかありゃしないよ、まさかの時にはだな、もういっぺん牢やに入るだけだ、さっきも言ったはずだ、俺はな、出直しなんだ、出直し!と戸田は愉快そうに言う。

学会の先頭に立つ為にはな、検察庁だろうがどこだろうが大手を振って出て行ってだね、この身の証を立てる。

そしてまず組合のだな、始末を付けるんだよ…と戸田は言う。

しかしだな、まさかの時にはだな、伸、後を頼むよ、伸、その時には後をな…と戸田は山本に托す。

山本は、はい!と答える。 「正学館」は当分使えませんから、新宿に建てた大東商事、これは、この経営は必ず僕がやります うん…、程々にと言った所でお前のことだからとことんまでやるだろうけれども、しかし本当に程々で良いんだ…、程々でな…と戸田は言い聞かす。

その時には女房だって喬一だってどんなことをしても食って行くよ、俺の家族のことはどうだって良いんだ、お前に頼みたいのはな、学会だ…と戸田は歩きながら言う。

驚いて山本が立ち止まると、戸田は背後の富士山を眺め、伸、俺はな、俺一代で現在の7500を10倍の75000、いや100倍の75万所帯にまでしてみせると言い出したので、75万所帯!と山本は驚く。

何をそんなにビックリしてるんだよ、75万!75万だよと戸田は笑顔で言う。

その75万をな、750万所帯にするのは、伸、お前の役目だと戸田は山本の方に右手を置き笑いかける。 それがな、伸、お前のこれから歩む道だ、一生をかけてのな…と戸田は言う。

東京地方検察庁に出頭する戸田。

戸田に対した山中検事(新克利)は、要するに事業は最初から不振であり、払い戻し、又は返済不可能の予測があったにもかかわらず、これをわざと隠蔽し、出資、又は預金をさせたんではないんだね?と念を押して来たので、そうですと戸田は答える。

それから焦げ付きになっている貸し付け、これは倒産、又は破産の見込み、その後、密かに回収の意思を計った特別の融資先ではないと言うんだね?と聞かれた戸田は、その通りですと答える。

タバコを吸った山中検事は、間もなく調書が出来る、それに判を押して下さいと言うので、これで?これでもう終わりですか?と怪訝そうに戸田が聞くと、戦時中に戸田を虐めた桑島検事(青木義朗)が姿を見せる。

よっ!と声をかけられたとだが、これはこれは、桑島さんか…と驚くと、もう終わったかね?と声をかけた山中検事が、はあ部長、間もなく調書が出来ますので…と答えると、戸田君、信用組合に関する告訴状には僕が意見書を書いた、君は他人に嘘をついたり騙したりして金を巻き上げる男では絶対ない…、これは戦争中1年以上も付き合ったこの僕が他の誰よりも一番知ってるんでねと桑島検事は言って愉快そうに笑い出す。

ところで君は法華経やってるんだって?と桑島検事が聞くので、ええ、やってますと戸田が答えると、悪いことは言わん、戸田君、ありゃもう止めたまえ、んなものに血道を上げているからそんな妙なひっかかりや、君がどんなにあくせくしても、戦争中僕が言った通りで、学会は伸びんよと桑島検事は言う。

どうしてです?と戸田が聞くと、GHQの社会教育局で、今日本の新興宗教に対する調査が進んでいる、上は会員150万ものばかでかいもんから、30万、他に10万、5万辺りがずら〜っと並んどるが、君んところはそのリストでさえ…と言うので、桑島さん、だから僕は事業を辞めてね、学会だけをやるつもりなんですよと戸田は答える。

事業を辞める?と桑島が驚くと、戸田はうれしそうに頷く。

30億年前の地球(アニメ)

全ては因果の法則なんだ、無機物から有機化合物までに10億年、その有機化合物から最初の生命が生まれるまでに10億年…

(コアセルベートの発生、みどり虫の増殖の様子がアニメで描かれる)

生き物はこうしてだね、植物と他のもの、つまり動物とに大きく枝分かれしたんだ。

4億年前

3億5千万年前

3億年前

両生類の発生

爬虫類 恐竜の戦いがアニメで描かれる。

ほ乳類 サーベルタイガーや森に生息する動物達のアニメ

鮮新世 気候の変化

猿が直立猿人、人類へと変化するアニメ

生き物としての人間は生命から20億年のこうした道順を辿って来たんだ…と戸田は山本達相手に講義していた。

どうだ?こうした事実が信じられるか?と聴講していた青年達に問いかける戸田。 この生命の進化が自分のものとして会得できるかどうかが、つまり人間革命、人間革命と言うけども、人間革命とは一体何なのか? それはこれを基本的に理解できるかどうかにかかっているんだと戸田は言う。

大上人は、人間は才能のある畜生、道具を使うことにより少しは知恵が発達して来たけども、本質的にはまだ畜生だと言われている。

仏法、つまり人間革命とは、その動物の種に過ぎないものが初めて…、初めて人間になる法を示しているんだ!と戸田は説く。

それを食い入るように熱心に聞く山本。 帰宅途中の山本は、大空に沈む太陽を見て、俺は生きている!自分の命は今宇宙的な広がり、いや無限の宇宙が自分の生命の中にあり、それがさらに広がっている!と感じる。

「創価学会本部」の建物から「日本正学館」や「東光信用金庫」等の看板が外される。

昭和26年4月20日 聖教新聞創刊

会長推薦署名運動

常泉寺での戸田城聖 創価学会会長推戴式 昭和26年5月3日

人間の世の中はそう簡単には終わらない、これからは科学技術がドンドン進み、反面、それがもたらす人為的な災害なども起き、又人口が増加し、食料危機などもやって来るだろう、しかし、そんなことでこの地球の表面に1人の人間もいなくなると言うようなことはない、それから気候の変化、氷河期が来るとか、地球の磁気、太陽の黒点など、色々出て来るであろうけれども、そんな長いタイムスケールのことをこの地球の個体の生き物が感覚として捕えるのは到底出来ない、もし人間の世界に終わりが来るとすれば、それは今まで人間が歩んで来た歴史の中に現れているはずである…と戸田は講義する。

人間は知恵のある畜生、自分の身体や手足以外の道具を利用することによって、この地上に栄えて来た。

これを文明と言うのであれば、それが文明だろう。 道具によって適応条件を広めて来たものが、もし滅ぶとすれば、この道具の最も進んだものによる他にあり得ず、ここに仏法の基本とも言うべき、因果の法則がある! 人間の使う道具は戦争によって発達して来た!

(原爆のイメージ映像)

南極や放牧民達の姿

人間はこんな素晴らしい道具を手にしながら、何故次の戦争、第三次世界戦争をためらっているのだろう? 相手に与える被害が余りにも起きすぎる、こんなものを使っちゃ行けないと言う人道的な気持で、その抑止の気持が働いているのではないか? 先制をかければ相手はいちころ、一撃でお終いなんだな…と戸田は言う。

(塩田で働くものや漁民などの映像)

問題は自分の発射した爆弾の放射能にあり、それが回り回って最終的には自分たちを追い込みどれほど苦しめ死に追い込むのか? その影響が計り知れんからに過ぎん、原爆から一団進んだ水爆にしても、これは同じで、引き金は原爆だから放射能の効果は完全に同じ事になる。

しかし、近い将来、人間は原爆を引き金にしないきれいな水爆、放射能を全然ともなわない水爆の開発に成功するだろう。

(宇宙飛行の映像)

この水爆は燃料が海の水だから産業の様相は一変する。 太陽は水素を燃やしてヘリウムを出す、原理は同じで人類はその時には自由自在の太陽を手にしたことになり、言い換えれば、その時には世界中の国が全部きれいな水爆で核武装したことになる。

(サンバカーニバルや阿波踊りの映像と戦争の映像)

人間に取ってこれほど便利な道具はない、不意打ちの早い一撃で、自分には全く被害がなく、相手といつでも徹底的に叩き潰せる、どんな国にでも存在する戦争論者、あるいは軍人は書くの発射ボタンを押す手が強い誘惑で手がむずむずして来るし、又どんな小さな国といえども大国を全然恐れなくなる、コバルト爆弾1個だけ用意しておけば良い、どこかへ命中なんてそんな面倒くさいことは必要ない、打ち上げてただドカンと爆発させれば、2年のうちには地球上には生きているものは何にもなくなる! 自己中心に生きる人間の本能には、憎む相手が出て来た場合、あいつを殺してやる!その為には俺は死んでも良い、畜生と人間の中間にまでしか発達してない我々人間は、こうした気持が起きることは否定しない、人間は自分たちの作った最も素晴らしいものを、人工の太陽を手にしたこの極近い将来、初めて終わりの危機が間違いなくやって来る。 こうしたものを作ってはいけない、しかし他にエネルギーがない、人々は真剣に論議をし始めるだろう、しかし地球の上にはもうそんなエネルギー資源がないのは事実で、やがてあらゆる人々にとっては、これが欠かせない必需品になり、その人工の太陽は行き渡る。

その時になって人類は自分だけではなく、世界中の人間が一人残らず深い慈悲の心、自分だけではなく、他の人々と一緒に生きていると言う事実!

(世界中の恋人達や赤ん坊の姿)

いや、人間だけじゃない!鳥も動物も魚も、花や木や草、水、空気まで自分とは切っても切れない深い関係にあることを知り、自分以外の人間もこの事実を心の底から知ってくれることをただ一筋に祈り求めるだろう!

しかしその時ではもう遅く、今日明日と進んで行く課程でそれが起こらないとも限らない。

これからは慈悲の心、平和利用以外に原子力を絶対兵器としては使ってはいけない、これが遺伝子、人間にとって遺伝子になるほどの努力を続ける以外にもう方法はない。

今日よりは学会の会長に就任した僕が先頭になり、諸君達とともにこの仏法への道へ、人々を1人1人導いて、その数を75万、75万所帯にまで達せる、もしそれが出来なかったならば、私が死んでも葬式なんか出す必要がない、屍骸を灰にして東京湾にでも投げ捨てなさい! この75万と言う数は大きい、しかし、1人1人、確実に1人1人を折伏して行けば、決して不可能なことはない!

(講義を聞き入る山本)

これからは人間1人1人が自分以外のものを顧みる、生命のこの豊かさ、深い慈悲、深い慈悲に達成して、その時にこそ、その時にこそ!

太陽を背景に「人間革命」の文字が出る。
 


 

 

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