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幻想館

 

愉快な仲間

進藤英太郎さん主演の刑務所コメディと言うニュー東映時代の珍品で、主役の進藤英太郎さんが珍しく、出身地の博多弁を交えてしゃべっている。 

エノケンこと榎本健一と田崎潤、三木のり平らが東宝から参加している。

三木のり平さんが出ている社長シリーズと同じような 東映版社長シリーズをやっていた進藤英太郎さんの作品に三木さんが出ており、後半にはお馴染みののり平さんのおふざけ芸も出て来ると言う趣向になっているのが興味深い。

ゲストのエノケンを核にしたお涙人情話に持って行こうとしている意図は見えるのだが、感動話へ持って行こうとするあまり、いくらコメディとは言え素人目にも話に無理があるし、特に後半辺りから展開が間延びし、堤防完成の後の演芸会の辺りから話がぐだぐだ状態になっているのが残念。

一番分からないのが、大学生で独房に入っている林と言う人物で、初犯のようなのに実刑になっているのがまず分からない。

凶悪犯なら2年の刑期は軽過ぎるようにも思えるし、仮釈放などどう考えても難しいのではないか?

その大学生囚人を演じているのは「忍者部隊月光」の水木襄。

柳沢真一さんは丸刈りのオカマ役を演じており、何でも撮影前に新聞記者を集め、宣伝用に丸刈りになる姿を取材させたと言う。

清水看守役の大村文武さんと囚人役の柳谷寛さんは、東映版「月光仮面」シリーズでの祝探偵と五郎八の名コンビ。

大村さんは最初の内は憎まれ役かな?と思わせて、後半良い役に転じているが見せ場はほとんどない。

さらに、エノケンの娘役で三木のり平さんと恋仲になる役を演じているのが、後の太地喜和子さんこと志村妙子さんなのも注目したい。

目元などに面影はあるが、まだ高校生くらいにしか見えない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1962年、ニュー東映、甲斐久尊脚本、 渡辺邦男脚本+監督作品。

刑務所から出て来た長瀬善太郎(進藤英太郎)は、もう満期になってしまった…と嘆き、長瀬、もう二度と来るんじゃないぞと看守から声をかけられ、嫌なシャバの風が身に染みて来やがら〜と見をすくめる。

この映画に特定のモデルはありません…と言う断り書き

タイトル(夜の繁華街を背景に)

夜の繁華街の一画のショーウィンドーに看板がぶつかり派手に割れる。

長瀬は、愚連隊相手に喧嘩をしていた。

娘さん、逃げな!こんなチンピラなんて事ない!と愚連隊に絡まれていた娘に声をかけた長瀬は、本当の喧嘩ば見せてやる!と怒鳴りつけ、若い相手に立ち向かって行く。

行された警察署長は、前科33犯のお前が今度刑務所に入れば34犯になると言うと、どうか、刑務所に入れるようにお願いしますと長瀬は頭を下げる。

しかし署長は、君は被害者だ、相手は札付きの愚連隊で、君はいわば暴行しようとした女性を助けた人命救助者なんだと言うので、凄い当てが外れやがった…と長瀬は悔やむ。

その後、料亭にやって来た長瀬は、連れて来たルンペン3人(富久井一朗、河合絃司、ピエール瀬川)と一緒に芸者を上げ、炭坑節を歌っていた。

芸者と陽気に踊っていたルンペンは、あんたのような俺たちの下々に通じた人こそ総理大臣になるべきだ!と褒めながらも、本当にここの払いは大丈夫かね?と案じるので、ここの払いは国家がやってくれる、大蔵省が払うから心配するな!俺はいわば刑務所の大将だ。

シャバは大嫌いよ!前科は立ったの33犯だ!などと豪語し出したので、芸者達は驚いて部屋を出て行ってしまう。

旦那、ここの感情本当に大蔵省が払ってくれるのかい?とビビったルンペン達が聞くと、金なんか持ってるものか、血から風が吹いてらあ!おめえたち、ここに残った奴持って、母ちゃんへの土産にしろ!とテーブルに並んだ料理類を指したので、ルンペン達は一斉に自分の服の中に料理を詰め込み始める。

酒も全部飲んでけ!後は俺に任せろ!と長瀬が言うので、徳利の酒も飲み干したルンペン達は、這々の体で料亭から逃げ出して行く。

そこにやって来た料亭の女将木村綾子(清川虹子)が、あんた本当に一文なしなんですか?と聞いて来たので、なかと…と長瀬は九州弁で応える。

刑務所できれいに払ってくれると、ムショはシャバと違って静かで良いや!などと居座っていた長瀬が言うので、ちょいとあんた!2階や3階は言ったからって啖呵切るのは止めたらどう?と綾子がひるまずに言うと、啖呵を切っとるのはあんたの方だろう、俺はムショが好きだから好きと言ったんだと長瀬は開き直る。

何回入ったの?と綾子が聞くと、33回だ!と言うので、お前さん、それにしちゃ、澄んだ目してるね〜と綾子は妙な関心をする。

さあ捕まえてくれ!俺は現行犯だ!と長瀬が呼びかけたとき、綾子の隣で様子を見ていた娘(上津原鮎子)が、母さん!この人、この間、私が不良に捕まったとき助けてくれた人よ!と言い出したので、綾子は驚き、長瀬もおかしな事になって来たなと戸惑う。

そこへ番頭が警官を連れて来たので、女将のお尻も6〜10回くらいなでてやった!と長瀬は自己申告する。

すると綾子は、これはあたしが承知でおごったんだよと警官に言い訳したので、それじゃここで暴れてやるぜ!俺は婦女暴行傷害罪だ!などと長瀬は凄んでみせる。

あんた変な人ね?何故あんな嘘つくの?と綾子が聞くと、シャバは生き地獄、汚職、賄賂、外国では原子爆弾、放射能!それに比べ刑務所は静かで暮らしやすいや!などと長瀬はうそぶきながら連行されて行く。

そんな長瀬を見送っていた綾子が何事かを考えているようなので、母さん、何考えてるの?と娘は問いかける。

東海刑務所

護送車で連れて来られた長瀬は、ここは3年振りで懐かしいな…などと喜んでいた。

出迎えた榎看守(榎本健一)の前ではすっかりおとなしくなったので、連行して来た看守はその豹変振りに呆れる。

寄贈された刑務所内に入った長瀬は、先に連行されて行く囚人が学生服を来ているので、最近は大学生まで来るようになったんですか?と驚き、あんな飾り、前はなかったろう?刑務所もだんだんやかましゅうなりましたぜと榎看守に話しかける。

山口戒護課長(神田隆)が出迎えると、あんた部長くらいになったと思うとったが…などとからかう長瀬。

さらに、外に出ていた囚人の中の児玉(三木のり平)も、長瀬の親父さん!と懐かしそうに話しかけて来たので、誰だっけ?と長瀬がきょとんとすると、前に一緒に花を作っていた児玉ですよと名乗るとようやく思い出す。

そんな児玉に、こんな所で油を売っとると叱られるぞと榎看守が注意し、どうだ?設備も変わったろう?と長瀬に話しかけ、食らい込んだ以上、おとなしくして、速く出る事を考えろと言い聞かせる。

一方、先ほど収監されていた大学生囚人林高志(水木襄)が逃げ出そうとするので、大学行ったお前が逃げられない事くらい分からん訳ないだろうと看守から諌められる。

囚人の中の8犯こと高橋(田崎潤)は、長瀬の父っつあんと言えば暴れん坊だぜ、前の看守が賄賂を受け取っているとかで告訴して、結局裁判にはならなかったが、重巣にいれられなすったそうだと噂するので、明日から面白いぞ!と児玉が調子づいてしゃべっていたので、騒いだ奴は前に出ろ!と清水看守(大村文武)が迫って来たので、今にあの清水看守が一番にやられるぞ!と陰で苦笑する。

事情聴取の前の控え室で長瀬と一緒になった林が、僕はもうダメだ…と言うので、何をやったんだ?と聞くと、ある男を傷つけてしまったんだと言うので、女が絡んでいるな?と長瀬が指摘すると、来年、美奈子と結婚するつもりだったんです。

でも2年も入れられたら終わりだ!と林が嘆くので、仮釈放ってのもあるぜと長瀬は慰めてやるが、何の為に苦学したのか…と林は絶望した様子だった。

わしはここに来て落ち着いたんだ、俺は34犯だと長瀬が教えると、あんたは人間のクズだ!と林が喚いたので、言いにくいことをやけにはっきり言うな…と長瀬は驚く。

その時、清水看守が部屋に長瀬を呼び入れる。

第6刑務所から送られたんだな?などと清水看守は聞いて来るが、長瀬が何も応えないので、身分長所にはツ○ボと書いてないな?などと不思議がる。

風呂に入るんですか?と長瀬がとぼけるので、懲罰だ!と清水看守はいきり立つが、その声で部屋に入って来た山口戒護課長が長瀬か…、あんまり世話焼かせるんじゃないよと注意する。

今度はのんびりさせてもらいますよと長瀬が言うと、お前にビシビシ気合いを入れてもらわんと、みんな働かないんだ、まずはゆっくり風呂へでも入って来いと山口は促す。

風呂に入ると、児玉達が一緒に入って来て、雷様の入れ墨がある長瀬の背中をみんなで流し始める。

その頃、清水看守は榎看守に、あいつを静かに扱えと言うのが分かりません、殺人や暴行を自慢してる奴ですよと長瀬への待遇に不満を口にしていたが、あいつはバカがつくほど良い男です。刑務所に入ると模範囚になるんですよと榎看守は教えるが、僕には分からん!と清水は首を傾げる。

厨房担当だった勝ちゃん(大東良)は同じ厨房係のゲイボーイの柳かをる(柳沢真一)に、卵もらって来て大将に玉子丼でも作ってやれ!と命じ、嫌がられると、とんでもないやろうが来て頭が痛いよとぼやいていると、それを聞きつけた児玉が包丁とダイコンを持って近づき、誰が頭遺体って?と睨み、親父をバカにすると懲役全部が黙っていないよと凄む。

独居房に入れられていた林が、見回りに来た看守に手紙を出したいんですけどと願い出るが、月に1度しか手紙は出せない規則になってるんだと言われる。

長瀬と房が同じだった勝ちゃんは初顔合わせだったが、大将は病人となっているので…と言いながら、特別豪華な食事を差し出す。

その勝ちゃんは後1年でシャバに戻ると教え、大将はやっぱり叩きで?と罪状を聞くが長瀬が黙っていると、じゃあ殺しですか?と驚くと、面洗って来い!と長瀬は叱るので、じゃあ強姦でしょう?と指摘すると、丼でいた湯のみの茶を浴びせ、強姦は懲役の面汚しだ!と長瀬は叫ぶ。

食堂で囚人達が食事をしていると、清水看守がその日届いた手紙を配りに来る。

かをるが受け取った手紙を覗き込んだ仲間は、それが借金の催促状である事を知りからかう。

佐伯(柳谷寛)は女房に赤ん坊が出来た!と大喜びするが、隣に座っていた児玉は自分が独身と言う事もあり、赤ん坊の写真を見せられ、これが人間か?などと悪態をつく。

かをるは、私も産みたいわなどと言い出したので、お前は埋めないだろう!ち周囲から突っ込まれる。

あんたいつここにやって来た?と児玉が聞くと、昨年の5月と佐伯が言うので、それじゃ計算が合わんじゃないか?あんたがシャバでして来た事、女房がやられたんじゃないの?などと言うので、すっかり佐伯は落ち込む。

そんな児玉を隣に座っていた8犯が叱ると、私は月足らずで産まれて来たので脳足らずなの、中国じゃ、66年もかかって産まれた人もいるらしいから…、知らないけど…などと言って言い繕う。

そんな児玉のポケットにも手紙が入っていたので8犯が、おめえにも来てるじゃないか!と言いながら取り上げると、それは昨日来たんだからと児玉は慌てるが、内容を読んだ8犯は、てめえんち、泥棒が入ったんじゃないか!と笑う。

ママ、応接間で腰を抜かしたんだってと児玉が言うので、おめえんちは応接間なんかあるのかよ?と8犯がからかうと、三畳間だってあるんだよと児玉は言い返す。

みんなで金出し合って赤ん坊の産着くらい贈ってやろうぜ!と8犯が提案すると、私も個人で乳母自動車を贈りますなどと児玉は言う。

ある日、児玉が通路で長瀬の散髪をやっていた。 児玉はシャバにいた時の癖で、指を曲げたりする。

独房に入っていた林の所に来たかをるは、頭が痛いのでアスピリンをくれと言われ、規則で出来ないのよ、あんた大学出でしょう?どこの大学?と聞くと、東都大学ですと言うので、ここは青服大学よとシャレてみせる。

児玉はどこからかくすねて来た酒のポケット瓶をこっそり長瀬に渡すが、受け取った長瀬が、前掛けの下でその中味を通路にこぼしているのを見て、もったいない!大将!こぼすならここへ!と言いながら、児玉は長瀬の膝元で口を開けて上を向いてみせる。

懲役の中で好かれとる看守は誰だと長瀬が聞くと、それは榎のおっさんだと児玉は応える。

怖いのは清水か?と聞いても、榎のおっさんだろうねと児玉は言う。

自宅で新聞に強盗殺人が三件も起きていると榎守衛は女房のおしま(岡村文子)に話していた。

隣の部屋にいた八重(志村妙子=太地喜和子)は、あんな前科者相手の仕事なんて気味が悪いわなどと言うので、わしにはあの受刑者達も産まれた時にはみんな可愛い赤ん坊だったはずで、自分の子供のように思う。

でも殺人とか強盗の悪人ばかりじゃないとや絵が言い返すと、その悪人が目に涙を浮かべわしを見るとじっと抱きたくなると榎看守が言うので、それで、お父さん、抱いたの?嫌だ、手を洗って来て!などと八重は言う。

そんな八重に、あの子にも婿をもらってやりたいとおしまが榎看守に言うと、泥棒の懲役連れて来られたら嫌だわ!と八重は膨れる。

おしまは、晩酌をしている榎看守に、あんたもお酒では懲役だからと言って、深酒を止めさせようとするが、うるさい!と榎守衛は怒鳴りつける。

東海川台風被害地では東海刑務所の受刑者達が堤防の工事に携わっていた。

刑務所の課長室に長瀬を呼んだ山口課長が、今年も堤防が崩れ、30数名も犠牲者が出て、県の損害は1億5000万にも及ぶ…と話すと、シャバの事はシャバに任せないと…と無関心そうに長瀬が言うので、弦にお前のなかまも働いているんだぞ。

その連中を指揮してもらう為に君を第6刑務所から呼んだんだと山口課長は明かす。

現場監督は誰です?と長瀬が聞くと、県の土木課長だと教えると、いかんのは榎の爺さんだ、現場監督が気に食わん!と長瀬は怒り出す。

その事を伝え聞いた榎看守は長瀬の所にやって来ると、長瀬、何故断った?ただ命令するだけではみんな働かんのだ!お前はみんなから信頼されている、それが分かっていながら何故断った!と言いながら、長瀬を突き飛ばす。

わしゃ、今年で定年になるが、わしはお前の性根を見損なったぞ!と榎看守が言うので、立ち上がった長瀬は、親父さん、俺が悪かった!やります!命がけでやらしてもらいます。俺みたいなクズが社会に貢献できるのはこんな時だと頭を下げて詫びる。

それを見た山口課長は、定年間近の君を気遣って現場に出さなかったのは間違いだった。

定年の置き土産としてやってくれと榎看守にも現場に行くよう頼む。

堤防工事の現場に来た長瀬は、働いて、お天道様が黄色く見えるまで国家社会の為にやるぞ!とみんなの前で檄を飛ばし、親父さん、伊勢意欲演説ぶってくれと榎看守にも頼む。

榎看守は囚人達に、命がけの仕事見せてくれ!と声を掛けると、児玉が、親父さん、こうなったら馬車馬で働きますよ!と応じ、かをるも、私だって馬車馬よ!と尻を突き出して応える。

囚人達は一斉に働き出す。

そんな連中に頑張ってくれよ!と榎看守が励ます。

現場の様子を見ていた県の土木課員は、土木課長、数日前から急に仕事がはかどり出しましたよ、どうして馬力出したんでしょうね?と報告すると、神谷の顔が見たいと小坂土木課長(須藤健)はほくそ笑む。

その県議会議員で土建業の神谷(山口勇)は、県の土木課に抗議に来ていた。

そこに戻って来た小坂は、嫌な奴が来とるなと入り口で足を止めるが、県会議員の神谷じゃ!1時間も待たせるなんて!と小坂に激怒する。

あんたは懲役に土手の工事やらせてすむと思うちょるのか!こちらが見積もりで出した950万はどうなる!3割引で引き受けてやったのに!と迫るので、予算がないのですと小坂は突っぱねる。

郷土を愛すればこそ、殺人や泥棒に任せられないんだ!と嘆いた神谷は4割引では?と譲歩してみせるが、予算がないの一点張りで小坂土木課長は断るので、いざとなって懲役が出来んと泣きついて来ても知らんぞ!と言い残し、神谷は土木課を出る。

帰り道、神谷は子分に工事の邪魔(佐藤晟也)をするんだと耳打ちする。

事務所に戻って来た神谷は、子分達と麻雀をしていた岩城(杉義一)に、懲役に裏切らすんだと声をかける。

あっしを3ヶ月ばかりムショ送りだと岩城が勘の良い所を見せると、その場から神谷が警察に電話をしようとしたので、そんな事やったらすぐにばれちまうじゃないですか、親分…、社長とあっしが親分子分の間柄ってみんな知ってるんですからと岩城は止め、今の懲役の中から裏切りを出すんです。

今からあっしが中に入ろうとしても1ヶ月はかかりますからねと入れ知恵をする。

その頃、林は、働きたいんです、外で働かせて下さい!独房にいると死にたくなります!と山口課長に申し出ていた。

しかし山口課長は、逃亡の恐れもあるし、お前には自由人の資格はないんだ、お前はいかんと規則を盾に拒否していたが、その話を来た榎看守が、課長、林は私に任せて下さいと願い出る。

山口課長は、外益は模範囚など害のない奴に限っていたが、君の保証なら良かろうと許可する。

榎看守は、こら!逃げ出したりしたら、わしがお前の足をへし折ってやるからな!と林に釘を刺す。

堤防工事現場にやって来た林と会った長瀬は、ここはおまえみたいなへなちょこが来る所じゃねえぞ!仮釈放もらうまで、親父さんと俺を親だと思うんだぞと言い聞かせると、珍しく良い事を言うじゃないか、雨が降るぞと榎看守は冷やかすが、もう可愛い雨が降ってますと、泣き始めた林を長瀬が指差すと、わしも降りそうになった…と榎看守も目を潤ませながら言う。

この堤防が出来るまで、懲役に休みはないんだ!と長瀬は檄を飛ばす。

その働き振りを見た榎看守は、みんな良く働いている、俺の良い置き土産だと感激する。

しかし、体力がない林が途中で倒れてしまったので、この中で学があるのは俺たち2人だけだ、休め、お前の分は俺がやると児玉が抱き上げ休ませるが、その様子を堤防にこっそり様子を見に来ていた八重が聞き、良い話聞いちゃったと喜ぶ。

同じく現場の様子を見に来ていた神谷は、こりゃたまげた!こんなに工事が進んどるとは!と予想外の仕事の進捗振りに唖然とする。

一方、工事現場では働きに見合った食料が確保できず、炊事係になった8犯などは願い下げだよ!と長瀬に不満をぶちまける。

長瀬は、食事を配給するテント前に並んだ囚人達の人数を確認するために手を上げさせるが、すまないが、今日は1食だけで勘弁してくれ!と謝るしかなかった。

みんなで土手に腰掛けて食事を始めた中、林は、僕は半端人足だから…と、周囲の仲間に食事を分け与えるので、それを見ていた長瀬は勘弁してくれと呟く。 児玉も林に同情し、こいつを炊事係にでもして下さいと長瀬に頼む。

そんな現場の窮状を知る榎守衛は、自宅での晩酌も茶でごまかしているのに気付いたおしまが、この頃、ご飯も減ってるんじゃないと案じると、懲役達はみんな3人分働いて1人分の食事しかしてないんだ、俺もこれで良いんだと榎は応える。

ある日、工事現場を通りかかった「川北畜産」のトラックから運んでいたニワトリが3羽ばかり逃げ出してしまい、それを児玉達が捕まえるが、運転手は懲役を怖がり、くれてやるよと言い残してそのまま走り去ったので、児玉達はニワトリが食えると大喜びするが、それを見た長瀬は、炊事係へ持って行け!みんなで分けるんだ!120人分だよと言い聞かす。

その後、現場視察に来た小坂土木課長が、長瀬にウィスキーのポケット瓶を手みやげ代わりに渡すが、長瀬はその場で栓をひねり、中味を全部こぼしてしまったので、又児玉が勿体ながる。

長瀬は、懲役には懲役の誇りがあるんだ!と啖呵を切る。

その後、炊事係になったかをるが、みんな!お食事よ!今日は2人分よ!と呼びかける。 ある日、林に面会人があり、30分の制限で面会が特別に許可される。 それを知った清水看守は、罰則と規則だけでは人は動かんと分かりましたと山口課長に話しかける。

面会相手は美那子(新井茂子)で、もうあんな男の事は関心ないわと言うので、君を信じるしかないと林は答えるが、新宿の洋裁店で働いているのと美那子が言うと、もう僕の事は忘れてくれと言い出したので、何を言うのよ!約束したじゃない!力を合わせて働くって…、林さん!と美那子は迫り、林の手を握りしめる。

山口課長の前に報告に来た榎看守は、食事を2人前にする交渉も出来、工事がはかどっているので土木課長も喜んでいますと言うが、一緒にいた長瀬は、俺は小坂って奴は虫が好かねえ!とはっきり口に出したので、人の事は言うな!と山口課長は注意する。

その日、堤防の現場にやって来た長瀬は、囚人達が土手に座り込み、全く仕事をしていなかったので、一緒に来た林に、大学、ありゃ何だい?と聞く。

林はストライキですよ、仕事を辞めることですよと教える。

その様子を近くでうかがっていた神谷に、社長、始まった!と岩城が笑いかける。

清水看守も、どうしたんだ!とサボタージュをしていた囚人達に聞くが、関係ねえですよと座り込んでいた8犯は無視する。

ストライキに加わっていた児玉まで、長瀬の親父が悪いんだ!と言い、俺たちだけに働かせて自分は分け前もらいやがって!などと8犯も長瀬を睨んで来る。

その想像を近くで眺めていた神谷達が、騙されているとも知らないで…とほくそ笑んでいると心を目撃した八重は、ストライキ中だった児玉に近づくと、犯人はあの人達よ!と神谷達の方を指差す。

事情を知った児玉はストライキをしている仲間たちに知らせに行く。

長瀬は、今日、ここへ来るとき新しい墓の前を通っただろう!先の台風の時の洪水の犠牲者だ!てめえたちの女房が同じように土左衛門になってぷかぷか浮かんでも良いのか!と叫んでいたが、そこに児玉がやって来て、悪いのはあの神谷だ!とみんなに知らせたので、騙されたのは俺たちだったか!と8犯も事情を悟る。

悪い奴を逃がさないで!とおあをるが叫び、囚人達が迫って来たので、畜生、このままではすまさんぞ!今夜ここを叩き毀せ!と子分達に命じる。

その夜、東海刑務所にサイレンが鳴り響き、手段脱走だ!と看守達が走り回る。 雑居房に移ってた林は、高橋さんや児玉さんがいない!と気付く。

自宅でその知らせを聞いた榎看守は、長瀬が脱走した?そりゃ何かの間違いだ!と言いながら着替え出すが、きっと工事現場よ!と八重は指摘する。 しかし、体調を壊していた榎は苦しみ出す。

その想像通り、堤防工事の現場に来ていた長瀬らは、神谷組の連中が破壊工作をしているのを発見、こんなに壊しやがって!俺たちが檻の中にいると思ったら大間違いだぞ!と怒鳴りつけ、一緒にやって来た児玉や8号こと高橋らと喧嘩を始める。

それでも褒められると思ってやった彼らの行動も脱走と判断され、逮捕後は手錠をかけられ刑期が延びる事になる。

林は山口課長の元へ長瀬らの罪を軽減するよう嘆願に来るが、規則は規則だと山口は苦しそうに答える。

すると清水看守が、悪いのは土木業者です、懲罰となれば全員が働かなくなりますと言い出す。

そこに無理を押してやって来た榎看守が、5人を表彰するそうで?と山口課長に聞くと、表彰は心の中だけ、表面は懲罰するしかないんだ、サイレンはシャバにも鳴り響いてしまったんだと山口課長は苦々しげに答える。

すると榎看守は、あれは訓練です、非常訓練でサイレンがシャバに聞こえなければ意味がありません。

懲罰を取り消していただけますか?と辞表を差し出しながら願い出る。 山口課長は、榎君、訓練に辞表はいらんよと言い聞かせる。

みんなに気持が課長に通じて、神谷は裁判にかけられる事になったよと児玉が仲間に知らせる。

それを聞いた長瀬は、神谷はここに来るのか?土手に骨を埋めるほどこき使ってやる!と意気込むが、林も見違えるようになったと山口課長は喜ぶ。

それを聞いた長瀬は、俺に倅があればあれくらいになる…としみじみ言うので、お前もそろそろ身を固めたらどうだと山口課長は勧め、明日大阪に、刑務所で使う薬を取りに行ってくれ…、林とお前にやってもらいたいんだ、榎君の病気も治っとらんし…と頼む。

翌日の堤防現場では、長瀬に代わって8犯が主任になっていた。

長瀬は列車で一緒に大阪に向かう林に、大学、堤防が完成したら仮釈放になるだろう。俺もところてん式に出られるんだ。仮釈放になったらすぐに女の所に行くんだと言い聞かせる。

そして長瀬は、俺は12の時、親父に死なれ、財産を全て伯父に取られた。そんな伯父を殴ったら打ち所が悪くて死んだんだ。

それから人間嫌いになったんだよと過去を明かす。

しかし、それを聞いた林は、嘘です!ムショの方が良いなんて…、あなたは強がっているが心の中では泣いているんだと指摘する。 その頃、山口課長は、小坂土木課長に招かれ料亭で芸者から酒を勧められる。

堤防完成の前祝いとあんたの慰労をために…などと小坂は良い、馬鹿と鋏は使いようと言うか…などと言い出したので、山口は顔色を変える。

来年は県議に出るつもりだ、君の事も考えとく。お互い出世せんと…などと小坂が言うので、自分は保安課長としての今の地位で満足していますと山口が答えると、県議となったら莫大な利益になるので、君の後ろ盾になってやろうなどと小坂は笑いかける。

さすがにむっとして立ち上がった山口課長は、懲役を利用しようなどとは考えておらん!と言い残し部屋を出て行く。 自宅療養をしていた榎の側でおしまが八重に、お前、婿を決めたそうだけど、まさかお父さんのお仲間…、まさか前科者ではないだろうね?と確認していた。

そんな事ないな?と榎も念を押すが、産まれた時はみんな可愛い赤ん坊だったと言ってたじゃないと八重は榎に言い返す。

大学の林か?と榎が聞くと、違うわよ、当ててみて!などと八重はうれしそうに言う。

私があの人と人生を共にしようと決めたのは児玉さん!と八重が明かすと、あのバカか!と榎はがっくりするが、35年も看守をして、見る目ないのねと八重はバカにするので、おしま…、困った…と榎は嘆く。 列車の中では、いつしか長瀬の隣に女性が座り、覚えていませんか?去年、あなたが無銭飲食をした店の女将…と言うので、ようやく長瀬も綾子を思い出す。

やっとあなたのいる刑務所を探し当てたら、大阪に行ったと聞き付いて来ました。実はあのとき、あなたの啖呵が気にいったんですと綾子は明かす。

私もずっと昔、7ヶ月ばかり刑務所に入った事があるんです。 両親が死んだとき、1人娘の私の財産を伯父に取られて…と言うので、俺と同じじゃねえか、どっかで聞いてたんだな?と長瀬は怪しむが、伯父と言うのが私を手込めにしようとしたので、私、伯父の家に火を点けてしまいました。

刑務所を出た後、シャバで10年、転んだり起きたりし、何とか店を作ったんですが、あの時の啖呵が妙に心に残しましてね、あなたの声や顔が忘れられずに、店を売ってしまったんです。

そしてあなたの事を考えたんです。

土手の工事も見せてもらいました…と綾子はしじじみ長瀬に語りかける。

場が持たなくなった長瀬は、後ろの席で看守と座っていた林に、大学!ここにかけろ!と席を代わらせようとする。

堤防工事完成 現場に来た県会議員たち(小塚十紀雄、志摩栄)は、遂に完成しましたね!こんなに早く完成するとは県民も思わなかったでしょうと小坂に声を掛けると、こんなのは1月仕事です。

しょせんあいつらは人殺しや盗人ですからねなどと囚人達をバカにする。

そんな小坂を、県の恩人です!と県議達は持ち上げる。 刑務所のベンチにやって来た長瀬は、受け取った手紙を林に読んでもらう。

木村綾子さんですよと林が送り主を教えると、背中がむずむずしてきやがったと長瀬は照れる。

1年、夢の中にいらしたあなたですから、汚職や賄賂をもらっている人より立派です。

出所したら私の所に来て下さい…と林は手紙を読んで聞かせる。

児玉も母親から来た手紙を読んでいた。

高校からグレだしたあなたを私も恨んだ事もありますが、この頃は、女中にもあなたの事を話しています…と読んで聞かせると、おまえんち、女中なんかいるのか?と8犯が聞くので。

8人ばかりいますと児玉が答えると、そいつら食わせる為に叩きやったのか?と察した8犯は泣き出す。 土手に集まった囚人達を前に、見ろ!この堤防を!ここに俺たちの血が通っているんだ!と長瀬は誇らしげに呼びかける。

東海刑務所でも堤防完成記念会が行なわれる。 出所の時には、生まれ変わった気で当地へお越し下さい。

保育園をやっています。あなたも子供はお好きでしょうと綾子からの手紙を読んでもらった長瀬は、林に返事の代筆を頼む。

背景ご無沙汰しましたが、僕もますます元気です…と、何だか懐かしの「上海便り」の歌詞のような文言を言い出した事に気付いた長瀬は、バツが悪くなり、良いように書いてくれと頼む。

林はうれしそうに、刑務所から追出されたら喜んで出向きますと書く。

そこへ、余興大会が始まるぞ!と仲間が知らせに来る。 講堂の壇上では、かをるが帚をギター代わりに歌を披露していた。

続いて寸劇が始まり、刑務所の塀の前に来た大学の母に扮した児玉と女中役の勝ちゃんが登場する。

そこへ赤ん坊を抱いた佐伯の女房に扮した佐伯が登場し、林の母役の児玉達と合流する。

さらに8犯までもが、獄中にいる兄の高橋に会いに来た妹役を演じ、スカートをまくり上げ股引を見せたりする。

そこに、出所して来た囚人役の長瀬が登場し、怖いのは俺じゃない、シャバは嘘で固まっている!ムショの中には嘘はねえんだ!みんな素っ裸なんだ!素っ裸と言ったって褌くらいしてらあ!ここにはおめえらそっくりの男が入っているぞ!連中に足りねえのは親の愛情だ!と言うと、講堂に集まって鑑賞していた主人達から喝采が起こる。

児玉はかをるの歌に合わせラインダンスの真似をする。

一旦幕が閉まり、舞台は刑務所の中のシーンになる。

児玉役の児玉は、おふくろさんよ、すまなかった!と詫び、俺は生まれ変わってやるぜ!と8犯は出所後の再起を誓う。

また塀の前のシーンになり、俺はもらい泣きだ!声ならここからでも聞こえるんだぜと長瀬役の長瀬は、塀の前に来ていた児玉の母、佐伯の妻、高橋の妹役のみんなに言うと、全員、塀の中にいる身内を呼びかけるのだった。

舞台代わり、壇上に進み出た山口課長が、金属35年定年退職する榎看守の送別会を行いますと宣言する。

中央に進み出た榎看守は、刑務所は私に取ってシャバです。ここを去るのは辛い。皆さん、今後はどうかまともになって下さいと挨拶すると、私の一人娘の八重が皆さんの中から夫を選ぶと言い出したので、どうか娘の気持褒めてやって下さいと頭を下げると、囚人全員が立ち上がり、「蛍の光」を歌い出す。

堤防工事への貢献もあり、長瀬を始め、林や児玉、高橋、勝ちゃん、かをる、佐伯らが一挙に仮釈放される事になる。

出迎えに来た身内と再会する者もいる中、親父さん、大将、お世話になりましたと長瀬に別れを告げ、先に刑務所から出て行く者もいた。

かをるは、前の彼氏が来てるのよと言い、なかなかその場を動かない。 八重が来て、お父さんは夕べ、小坂の所へ行ってました、予算のピンハネや資材の横流しをやってたんですってと言うので、それを聞いた長瀬は、俺は小坂の所へ行って来ると言い出す。

料亭では、芸者と一緒に小坂土木課長がスーダラ節を踊っていた。

そこへ乗り込んで来た長瀬を見た小坂は脱走だ!と怯えるが、この服を見ろ!お仕着せじゃないぞ!脱走したのかどうか刑務所に電話してみろ!と睨みつけた長瀬は、予算のつまみ食いや資材の横流しやりやがって、陰で俺たちの事何て言った!と怒鳴りつける。

その頃、自宅に屋て来た児玉達から話を聞いた榎は、わしが証拠を見つけるまで待ってくれないかと頼んでいた。

しかし8犯こと高橋は、児玉、お前は残って親孝行するんだ!と言い、家を出て行ったので、みんな、乱暴するな!と榎は止める。

そこにおしまが児玉に母さんから電報が来たと渡す。

今日、来るって…と電報を読んだ児玉は八重に教える。

小坂を完成した堤防の前に連れて来た長瀬は、謝れ!堤防に謝れ!みんなにも謝れ!と迫り、小坂は堤防に向かって跪く。

そこに駆けつけて来た高橋達は一発だけ殴らせてくれ!と頼むが、長瀬は乱暴はいかん!と止める。

それでも我慢できなくなった高橋、林、勝ちゃん、かをる、佐伯たちは小坂を一発ずつ殴って行く。

親父さん、色々お世話になりましたと頭を下げた林は、迎えに来た美那子と一緒に別れて行く。

それを見送る長瀬は頑張れよ!と励まし、勝ちゃんも、大学!泣くなよと声をかける。

佐伯とかをるも、私たちもこの人と一緒に行きますわと言い、別れて行く。

残った長瀬が、生まれ変わったら俺たちだって何でも出来るよ!と言うと、大将、連れてってくれよ、保育園に行くんだろう?と言うと、俺も娑婆っ気が出て来たと8犯こと高橋が声をかけて来たので、今日から星一つの新兵だと言う長瀬は、勝ちゃんと高橋と肩を組み、一緒に歩き出すのだった。

終  
 


 

 

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