白夜館

 

 

 

幻想館

 

湯殿山麓呪い村

渡辺典子さん主演「晴れ、ときどき殺人」と二本立てだった角川映画だが、両作品とも見事なくらい客が呼べそうなスターやアイドルが登場せず、良くこれでメジャー系公開したなと感心したくなるほどの地味な内容である。

ミステリとしては全体的なリアリティの希薄さに目をつぶれば、伝奇趣味や怪奇趣味などで、まあ見れなくもないと言う程度の出来なのだが、正直、映画としての見せ場は雪国ロケと精巧に出来たミイラの造形ぐらいしかないような気がする。

TVサスペンスよりは予算をかけている感じだが、ミステリ特有の動きのなさに加え、冒頭から半道徳的な匂いや暗い雰囲気が覆い、その割に話の展開は単調で、ラストは救いがなさ過ぎる…と言った感じで、小説としてはともかく、映画として共感しにくい部分がある。

と言うか、そもそもこの原作はミステリとして評価は高かったのかと言う疑問もある。

原作者の山村さんは元々ジュブナイル系を良く書いていた方だと記憶しているが、この作品のトリックも、設定がおどろおどろしかったり、大人の男女の仲がドロドロしている割にやけに子供っぽく、アンバランスな感じがする。

この設定だと犯人にアリバイ作りの必要性など最初からないのでは?と思えるし、むしろ騒いでいたので、誰かが部屋に注意しに来る危険性の方が高いような気がする。

鈴を鳴らすタイミングも、回想シーンと実際の事件当夜とはタイミングが違っているようにも見える。

やはり一番に気になるのはキャスティングに華がないこと。

主演は一応永島敏行さんなのだが、探偵役と言う訳でもなく、どちらかと言うと利己主義の嫌なタイプの人間として描かれている為、最初から最後まで共感できない。

では他の誰かに感情移入しようと探しても、捜査側にも犯人側にも魅力的なキャラが誰一人見当たらず、途方に暮れたまま事件を傍観するしかないと言った印象。

脇役系の人ばかり集めた感じで、芝居は皆さんそれなりに巧いんだけど、画面を輝かせるスター的存在がいないのは辛い。

あえて言えば、岩崎加根子さんのエキセントリックな演技で魅せようとしているのか?と言えなくもないが、いくらなんでもマニアック過ぎだろうし、まだ幼さが残る仙道敦子さんのアイドル映画にも見えない。

警部役の三谷昇さんも驚くほど存在感がなく、個性もほとんど掻き消えているのが凄いと言う他はない。

ひょっとしたら、角川映画の人気が低迷し始めたきっかけともなった作品かもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1984年、山村正夫原作、荒井晴彦+佐伯俊道脚本、池田敏春監督作品。

(回想)雨が降りしきる山の道、通行止めが立っている奥の道へ蓑と笠をかぶった男が走って行く。

どうしたら良いべか? 弱音吐くでねえ! あげな浅ましい姿を誰も拝まべえべ? とにかく燻すべ! ちょんまげ姿の3人の男(今井健二、深江章喜、高橋明)が相談し合い、ミイラを燻し始める。

(現在)家具も何もないアパートの一室に来た女に、家出るのか?と男が聞くと、外泊の言い訳するの面倒くさいもん…と女が答える。

面倒になると思ってる?それとも便利になると思ってる?と女が聞くと、ホテル代が助かると思っていると男は答え、寒いな…と言うので、待ってと答えた女が蝋燭を1本灯す。

窓際の部屋に直に座り、ワインの栓を抜いた男が、グラスに注いでやりながら、メリークリスマスと女にもたれかかりながら言う。

良い加減ねと女が馬鹿にすると、仏教の学校だって、真言密教では蝋燭を使うと男は言い訳する。

見合いを勧められたので、結婚相手がいるって答えたら、この際だからって、私、ママの本当の子じゃないんですって、パパが他所の女に生ませた子だったんですって…、不倫の子が不倫よ…と女が打ち明けたので、バカ!と男が叱ると、どうしてバカよ!利口だったら…、バカだから良いんでしょう?と女はすねる。

男が女を押し倒すと、好きって言って!ね!何か言ってと女がねだるので、好きだよ…と男は答える。

ロウソクの火を吹き消した女は、良く見えないの…と言うので、何が?と男が聞くと、火事…と言い、窓辺に立ち上がった女は夜景の遠くに見える火事の炎を見つめる。

きれい…、私、ママに言えなかった、結婚する人に奥さんと子供がいることを…と女が言うので、別れるよ…と男が答えると、良いのよ、来られるとき来てくれれば…と女は答える。

ある日、光華学園大学史学科にやって来た講師・滝連太郎(永島敏行)に、即身仏を発掘する目的はなんだ?と教授の柳沢英輔(仲谷昇)が聞く。

僕と同じ生臭坊主がおりましてね…、去年、面白いものを発見しましたと古文書を出してみせた滝は、幽海上人、修業の途中で逃げ出してミイラになったと書いてあると指摘する。

天明2年、幽海は好きになった庄屋久右ヱ門の娘志乃と「手に取って寺を逃げ出したが、見張りの僧に見つかり、弥勒寺で即身仏を作ったんだ。 志乃は首を吊って後を追ったんですと連は言う。

「語られぬ湯殿にぬらす袂かな」と柳沢が呟いたので、芭蕉ですか?と滝が聞くと、生意気な蛙が飛び込むんだよな…と柳沢は答える。

幽海は、寺の都合でミイラにさせられたんですと滝は言う。

大学から出た滝に、瀧さん!姉さん一緒?と声をかけて来たのは、のここと淡路能理子(仙道敦子)だった。 側のバイクの男の子を見た滝が、ボーイフレンドか?と聞くと、みんなには黙っていてねと能理子は頼むと、おじさん迎えに来たのと言う。

上野駅 葉巻をくわえた相良道海(青木義朗)が改札を通って、迎えに来た能理子に近づいて来る。

車で帰宅した淡路剛造(織本順吉)は、門前に着くと、おい、ドア!と横柄に命じる。

庭先に出て来た美穂美穂が田辺田辺に、夕べの所痣になってるからね、旦那様の方が巧いわ…、お布施払うまで帰らないつもりかしら…などと道海の悪口を言う。

田辺は、郵便受けに入っていた小包のような物を見て不思議がる。

屋敷の前の道を遠ざかって行っていたのは白装束のお遍路の後ろ姿だけだった。

その手紙を読んだ剛造の表情が変わったので、どうした?と道海が聞くと、滝君、180年振りに再生した幽海上人は、弥勒の生まれ変わりとして再生する、大師村御三家が犯せし罪を罰する為に、化物塔婆を忘れるな…と剛造は内容を読んで聞かす。

こっちは何か入っているのかな?と同封されていた、紙包みを開くと、中に入っていたのは2つの手のミイラだった。

剛造は憮然とし、玩具だ、プラスチックの!と断定すると、これ、焼却炉で燃やしといてくれと美穂のに渡す。 そして手紙の方も庭に出て、道海と一緒にその場で焼き捨ててしまう。

ミイラ発掘への資金提供を剛造に頼みに来ていた滝は、応接間でそうした一連の様子を傍観していた。

あの男だろうか?と道海が言うと、奴がどうして知っている?と剛造は聞き返す。

あのことを知っているのは俺とお前と…、まさかあいつが?と道海は呟く。

本当に玩具なんですか?と座敷に戻って来た剛造に滝は聞くが、わしは金は出さんよと言い出したので、剛造何を言うんだ?と道海も驚き、今の手紙のせいですか?と滝も戸惑う。

違う、経営者としての判断だと剛造は言い、飯にしようと命じる。

家族揃っての夕食の席、滝が出された鶏肉を余り食べないので、滝さん、鳥嫌いなの?と能理子が不思議がる。 援助をしないと言い出したので食欲なくなったんだよと道海が教える。

人間の干物を思い浮かべながら、うちのハムやソーセージを食う奴がいるかね?と剛造は、ミイラ発掘への援助を断る理由を言う。

淡路さん、この通りです!慶子(永島暎子)、君からもお願いしてくれと滝が頼むと、パパ、滝さん、息子になるかもしれないわよと慶子が言い出したので、慶子さん、あなたが結婚したい人って?と母の謡子(岩崎加根子)が驚く。

出来たのか?と剛造が聞くと、出来てるわと慶子が答えたので、謡子は次女の能理子と長男信也(田中義尚)には、二回でデザートを食べるよう言って食卓から遠ざける。

すると能理子が、パパ、約束破るなんてずるいよ!と剛造を責め、信也もいきなり食堂の電気を消したりしていたずらしたあげく二階へ向かう。

君には女房も子供もいるだろう!と剛造が滝を責めると、パパもいたでしょう?鶴岡の芸者でしょう?と慶子が言い返す。

何故そんなことを?道海、お前か?と剛造は戸惑い、慶子の結婚相手は俺が決める!と言うので、それじゃ妾じゃないか…、謡子も同じか…と道海は呆れる。

謡子、この家に来た時、誰を殺したいと思った?と兄の道海から聞かれた謡子は、この人よ!と剛造を見る。

剛造はお前を傷物と承知でもらってくれたんじゃねえかと道海は妹に言い聞かす。

その時、剛造が立ち上がったので、逃げるの?と、慶子が聞くと、風呂だ!と言う。

すると、ワインで酔った慶子は、パパ、一緒に入ろうか?私、お母さんの身体に似ているかも知れないわよなどと言いながら剛造に抱きつこうとする。

そんな慶子を引き離した滝に、慶子と別れるならミイラ取りの金を出すよ、手切れ金と言うことで出すよと剛造がからかって来るが、滝が良いですと承知したので、慶子は滝さん!と憤慨し、剛造は、慶子、こう云う男だと言って風呂場に向かったので、汚え!と滝は言う。 慶子もそんな滝を置いて1人で二階へ上がって行く。

台所で仕事をしていた美穂は、ルームホンで二階の能理子から、裏庭で煙が見えるわ、焼却炉が消えてないんじゃない?と連絡があったので、もう一度見てきますと返事し、焼却炉の様子を見に行く。

すると焼却炉の蓋が開いており何かが燃えていたので、バケツの水をかけて蓋を閉める。

その後、美穂は、入浴中の剛造に、いつも飲む水を水差しに入れて持って行く。 食後、家族はそれぞれの部屋に戻り時間を過ごしていた。

二階の子供部屋では、信也が玩具のピストルを撃ちまくっている音と、止めて!と叱る能理子の声が聞こえていた。

慶子はベッドでうつぶせに眠っていた。

やがて、鈴の音が聞こえて来たので、慶子は目をうっすら開ける。 道海も、滝も、美穂も鈴の音に気付く。

何か言わなかった?と美穂に田辺が聞く。

社長、まだ風呂か?と田辺が聞いたので、40分?いつもは烏の行水なのに…、ちょっと見て来るわと美穂が風呂場に行き、旦那様、どこか具合でもお悪いんでしょうか?と着替え室から聞くが返事がないので、硝子戸を開けようとするが施錠させていて開かない。

急いでルームホンで、奥様!旦那様のご様子がおかしいんです!と呼ぶ。

やがて、滝や田辺も駆けつけ、仕切りのガラス戸を割って中を見ると、浴室に遣っていた剛造の額には独鈷杵(どっこしょ)が突き刺さり絶命していた。

換気口だけが開いており、風呂の外の庭に出てみた滝は、薬のカプセルのような物が3個地面に落ちているのに気付く。

翌日、淡路家の前に停めた車と塀の間にしゃがみ込み、競馬の実況中継をイヤホンで聞きながら、地面に数字を書いていたのは、殺人事件の捜査に来た大曽根達也警部(三谷昇)だった。

そこに駆けつけた刑事が、ガイシャの胃からアルコール以外に睡眠薬が、風呂場の水差しの中にも検出されましたと報告する。

開いていたのは換気窓だけか…と大曽根警部は呟く。

美穂は、旦那様が風呂場で水を飲むことは誰でも知っているので、睡眠薬を入れようと思えば誰でも出来るし、自分は9時半くらいから裏庭の焼却炉の火を消しに行っていたと言う。

このうちで睡眠薬を飲んでいるのは奥様だけだとも言うので、謡子に確認に行くと、常日頃飲んでいるぜんそくの薬ピクベンザミン10錠ほどと睡眠薬5〜6錠がなくなっていると言う。

しかし、すぐに、剛造の葬儀のため、謡子の兄、道海の読経が始まるので一旦捜査は中断される。

その後、列席者の数も減ったので、受付の担当も1人だけになる。

滝は風呂場の外に落ちていたカプセルを慶子に魅せると、ママが飲んでいるぜんそくの薬ピリベンザミンでしょうと言う。

淡路さんは金を出すって言ったそうですね?と警部から聞かれた慶子は、出すと言ったわと嘘を言う。

その頃、受付に、気付かぬうちに新たな書状が置いてあった。

そこには「御霊前 相良道海殿」と書かれ、一緒に置かれていた」包みにはまたもや2本の手のミイラが入っていた。

次の殺人予告だと思いますと大曽根警部が言うと、道海は怯える。

剛造の額に突き刺さっていたのは独鈷杵(どっこしょ)と言って仏具の一種です、弥勒寺にもありますね?と警部は道海に確認する。

昨日は遍路が現れ、剛造三当ての小包が届いた。 昨日の2本の右手首と今日の2本の左手首で、2人だ。

大師村御三家とは何です?と大曽根警部が聞くと、庄屋だった淡路家、弥勒寺の住職だった相良家、それと伏原家のことですと道海は答える。

忌まわしい罪とは?化物塔婆を忘れるな?とは…と書状の内容を聞く警部。

あいつだ!津島勘治だ!と道海は指摘する。

あの手は、親子は犠牲になった その時、謡子が、警部さん、子供はもう遅いので…と声を掛けると、お子さんはもう結構ですと警部は能理子と信也を二階へ解放する。

子供たちがいなくなると、誰なんです、その男は?正直言わないと、明日はあなたの御通夜ですよなどと大曽根警部は脅す。

道海は、脅かすな…と怯え、酒を飲んで良いか?と聞く。

あの親子は犠牲になった…と酒を飲んだ道海は話し出す。

戦時中、大師村に疎開して来た。 しばらく海で魚を捕ったり、山で山菜を採ったりしていたが、仙人洞窟で首を吊った…と道海が言うので、村八分にしたんですね?と大曽根警部が察する。 剛造と俺と欣作の3人で死体を始末した。

化物塔婆で葬った…と道海は言う。

津島勘治と言うのは?と聞くと、昭和23年、シベリア帰りだったが、村に母と妹を探しに来た。

我々は、どこかへ行ってしまったと嘘をついた…と道海は言う。

奴は東京でグリーン部隊に入って、人を殺して刑務所に入ったと思ったけど…と道海が言うので、化物塔婆に埋めたのは3しか知らないんでしょう?どうして知ったのか…と聞くと、欣作は剛造に誘われ、株に手を出し無一文になって謡子にも手を出した…、おらは謡子を剛造と結婚させた。

脅迫状を届けた遍路と言うのは津島勘治か伏原欣作か?風呂場の外に足跡はなかった…と警部たちが考え込むと、幽霊背は?と謡子が口を出す。

そう言えばあの時鈴が鳴ったな?と思い出した滝が、ここにいるのは身内だけ…と淡路家の家族と道海のことを言うと、皆さんそれぞれ動機があるような気がすると大曽根警部は言う。

その後、滝は風呂場の外に出て換気口から入れるか、軒先にジャンプして掴み、懸垂の要領で足から換気口の中に入ろうと試みるが、途中で引っかかってしまい、結局、上半身が入らず宙ぶらりんの状態になり、近くにいた刑事たちに助けを求めると言う無様な所を魅せる。

大曽根警部も駆けつけ、こりゃ何の真似ですか?と呆れる。 剛造の遺体を焼き場で焼いた後、外に出て来た道海は一緒に付いて来た滝に、今さら止める訳にはいかない、弥勒寺再生するため、仙人沢に戻って、滝行を行なう。

雪の中の祈祷所の方が安全だ、金は謡子に頼めば良いでしょうよ言うので、妹でしょう?と滝が頼むと、あいつは言う事聞かないんだ…と道海は諦めたように言う。

その後能理子は上越新幹線「あさひ143号」で東北へ向かっていたが、座席であやとりをしていた。

一方、夜1人タクシーで住まいのアパート近くに来た慶子は、降りた後嘔吐し、そのままふらつきながら線路の上を歩いて戻る。

自宅にいた滝がかかってきた電話に出ると、志乃ですと言うのですぐに慶子だと気付く。

180年前、首を吊った庄屋の娘志乃です…、幽霊の時間よ…と慶子は悪ノリを止めない。

さっき、家にもそこにも電話したんだ、発掘資金どうにもならないんだ、謡子さんに頼んでくれよと滝が頼むと、私、男と寝て来たの、本当よ、今までホテルにいたの…と慶子が言うので、嘘だろ、酔っぱらいと滝が叱ると、来て調べてよ、男の物が残っているわ、来てよ…と慶子は誘い、前のように何も家具がない部屋の中で大きな蝋燭に火を灯す。

しかし、滝の目の前には夜トイレに起きた子供を連れて降りて来た、妻の美貴(田島令子)がじっと見ていたので、言えを出れるはずがなかった。 朝になっても滝が来ないことを知った慶子は、腹立ちまぎれに蝋燭を蹴飛ばす。

滝は、知り合いのTV製作会社「銀英プロダクション」の市井(松山照夫)にミイラ発掘の映像化企画を持ち込む。

いけるじゃない!関東TVが乗り気になった、どっか局みたいにやらせじゃない訳ではないからねと市井は乗り気になる。

帰り道、滝は、男の子2人がモデルガンを撃ち合っている所に通りかかり、弾が一発頭にぶつかったので、1人を捕まえ、落ちていたプラスチックの欠片を弾に使ったのか?と問いつめる。

淡路家に来た滝を出迎えた謡子は、お金の話はきっぱりお断りしますと発掘資金の話を拒絶する。

のこちゃんは?と滝が聞くと、大師村に行ったと言う。

そんな謡子に、これ買ってくれませんか?淡路さん、殺された夜、これが散らばっていたんですと滝が差し出したのは、剛造が死んだ風呂場の外で拾ったぜんそくの薬のカプセルだった。

あなたの薬ですよと滝が迫ると、だから殺したっていうの?と謡子は反発するが、カプセル何故落ちていたか分かったんです、上から落ちて来たんです、警察は伏原だろうって言ってます…と滝は指摘する。

すると謡子は、警察に持って行くの?いくら?と聞くので、淡路さんが出してくれるはずだった額ですと滝は要求する。

のこちゃん、何しに来たの?と慶子が聞くと、お墓参りと言うので、誰の?と不思議がると、お母さんの…と能理子は答える。

信也、精神科のお医者さんに入院させられたのと能理子が言うので、私もお墓参り行こうかな?パパ虐めた人でしょう?と慶子が言うと、お墓どこにあるか分からないのよ…と能理子は言う。

数日後、そんな雪の大師村にロケバスがやって来る。

取材班クルーと一緒にやってきた滝だった。

雪の中の祈祷所に1週間ばかり籠っている道海の荒行の様子を撮ろうと行くが、読経の声は聞こえているが、修行中はむやみに人と会ってはいけないことになっていると知り、結局、小屋の様子だけ撮る事にする。

一方、同じく、2体のミイラの手首の捜査のため大師村の化物塔婆に来ていた大曽根警部ら捜査陣は100年以上も前の江戸時代の遺体を見つけていたが、手首を切り取られた遺体は見つからなかった。

棺桶の残骸があり、暴いた形跡があると知った大曽根警部は、ここに埋められた2体は手首を切り落とされた後どこへ運ばれたのか?津島勘治は13年前事故死していたとさっき報告があったと言う。

そんな中、滝は謡子に会ったので、奥さん!どうしてこんな所へ?と驚くと、能理子が心配で…と言う。

自殺未遂した信也が入院していた精神科の病室を訪れた滝は、そこにモデルガンが置いてあったので、ピリベンザミン持ってるでしょう?と謡子に聞き、そのカプセルを受け取ってモデルガンに詰め、試しに撃ってみる。

弥勒寺の中のミイラを引き上げる前、追善供養 (ついぜんくよう)に来るはずだった道海が予定の20分を過ぎてもあ割られないので、撮影のため待ち構えていた市井は苛立っていた。

念のため、祈祷所へ行ってみると、中はもぬけの殻で、テープレコーダーから読経の声が流れていただけだったことが分かる。

やむなく、寺の仏像を持ち上げ、床下を広げた時、悪臭が鼻につく。 ライトを当てて見ると手首のない二体の遺体が入っていたので、側で監視していた大曽根警部は、親子か!と緊張する。

仙人沢の雪の中に一ヶ所陥没した所があり、昔寺を逃げ出したりした者を捕まえて落す古井戸だと言うので、念のため、懐中電灯で中の様子を照らしてみると、行方不明の道海の遺体が底に埋まっていた。

引き上げて調べた所、死後1週間経っていることが分かり、誰かが身代わりになって祈祷所にテープを仕掛け、生きているように見せかけた…、何故そんなことをしたのか?大曽根警部らは頭をひねる。 結局、犯人は伏原欣作と言うことか?他に誰がいる?と捜査陣は迷い出す。

弥勒寺では、遺体の下をミイラを引き上げるための作業が再開され、地下に埋められていた箱を持ち上げるが、釘を抜いて開けてみると、中から現れたのは、左手を持ち上げ苦悩の表情を浮かべたミイラだった。

幽海上人だ!と滝は喜ぶ。

ミイラの目の穴の中にはウジ虫が蠢いていた。

(回想)大師村の志乃と寺を抜け出そうとした幽海は見張りの僧たちに捕まり、仙人沢の井戸に放り込まれたんです。

しかし当時は飢饉などで人心が荒廃していた時代だったので、その人心をつかむ為に、弥勒寺では幽海を即身仏に仕立て上げたんです…と滝は説明する。

志乃さんに会いたがっていた幽海は、自分の意思に反して生き埋めにされたんです。

箱に詰めて地中深く埋められた幽海は、箱の中で、この恨み晴らしてやる!生まれ変わって末代まで呪ってやる!と苦悩の表情を浮かべる。

志乃は後を追って首を吊ったのです。 幽海上人の死後、遺体を燻してミイラにしたんですが、嬲り殺しにされた幽海の死に際の怨念が凄まじい形相になったのです。

その余りのおぞましい姿の為、新興の対象にするのは諦め、その後、御開帳を禁じることになったのです…と、滝は取材班のカメラに向かって解説をする。

無事録画を終えた滝は、撮影スタッフが撤収後、弥勒寺に1人残り、そこに置いてあった幽海のミイラに向き合うと、まだ手を合わした奴がいないんだよな…と呟き、俺は即身仏なんて信じられないんだ、安心した、お前に会って…と言いながらミイラの前にしゃがむと合掌する。

その時、弥勒寺の前に人の気配を感じ振り向くと、慶子?と驚く。

来てくれたのか!と喜ぶと、あなたの一番欲しかったものなんでしょう?と慶子が言うので、天明2年のだめ男だよと滝が答えると、幽海はななたの身代わり、志乃はどう?男の勝手で女は作られた…、幽海の引き立て役に志乃が必要だったんでしょう? パパが、私と別れたらお金を出すと言った時のあなたの答え…と慶子が揶揄すると、別れませんとあの時言ったら誰が得する?と滝は答えるが、私が喜ぶわ!と慶子は即答する。

あなた、私が檀家総代の娘だから好きになったんでしょう!志乃のミイラになりたいの!志乃のミイラに会いに行く! 知ってる?志乃って、パパの先祖がどっかの遊女に生ませた子なんですって…、志乃のミイラ掘ってね!と言いながら慶子は雪の中を逃げて行く。

光華学園大学に戻って来た滝は柳沢から、そんなにマスコミの寵児になりたいか?辞表を書くんだ、宗教を尊ぶ大学で、即身仏は薫製だなんて言う奴はいらんよと言い渡される。

その後、伏原欣作(榎木兵衛)は、横浜の寿町で礫死体として発見される。

持っていたウィスキーのポケット瓶の中から睡眠薬が見つかった、あなたの部屋から盗まれた薬ですと刑事が、謡子を屋敷に訪ねて来て教える。

その頃、能理子は産婦人科で診察を終え、診察代の上で泣いていた。 病院から出て来た能理子を待っていたバイクの少年津島武(野上博司)は当たりか?と聞き、やったね!と喜ぶと、飯でも食いに行こうぜ!俺、高校辞めて働くから…と明るく誘う。

一方、滝は市井から、3000万だよ!TV局が買わないと言って来た、あんたが大学にうまく細工してくれれば良いんじゃない?と言われたので、首になりました…と打ち明けると、金さえ用意すれば売ってやるよと市井は言う。

淡路家を訪ねた滝に、囲炉裏端で会った謡子は美穂も田辺も辞めたし、4000万とおっしゃいましたわね?5000でも6000万でも良いですわなどとあっさり言い出し、ブランデーを注いで来たので滝は安堵する。

伏原欣作死んだわてんと唐突に謡子は自分もブランデーを飲みながら話し出す。

ウィスキーのポケット瓶に睡眠薬入ってたの、鈴止しに入っていたのと同じ… 津島勘治も殺された…と言うので、誰に?と滝が聞く。

(回想)地下鉄のホームで近づいて来る電車を待っていた勘治は、突然背後から押される。

(回想明け)何故そんなことを!と滝が驚くと、苦しめ!剛造と一緒に苦しめ! 犯したの、津島が私を…、能理子の父親…と謡子が言い出したので、何ですって!それじゃあ!と滝は真相に気付く。

(回想)14年前、六本木でばったり会ったの…、あなたには何の恨みもないって…、入れ墨の勘治とホテルのベッドで寝る裸の謡子…

(回想明け)謡子はいきなり剛造の位牌を囲炉裏の中に投げ捨てる。

私、大師村に消息を尋ねて来た津島勘治…

能理子が生まれて剛造を苦しめようと思った… のっこちゃんの本当の父親は津島勘治ではなく伏原欣作だったんですね?と酔いが回り始めた滝は指摘する。

分かんない、幽海上人のお導きでしょう…、能理子はどこに行ったんでしょう?と謡子は案ずる。

あなたが死ねば、能理子は無事だわ、ブランデー飲んだでしょう?それ睡眠薬が入ってるの、良く効くでしょう? 剛造も欣作もそれで死んだ、あなたも私もこれで死ぬ…と言いながら、謡子が自分のグラスのブランデーを飲み干す。

ふらつきながら立ち上がった滝は、逃げ出そうと障子を開けると、廊下は火の海だった。

火を点けといたの…、新興の考古学者と社長未亡人の心中よ…と言いながら謡子が滝に抱きついて来たので、放せ!と振り払った滝は、何とか外へ飛び出す。

すでに淡路家は火の海だった。 その中で、謡子は昏々と眠っていた。

慶子が住んでいたマンションにやって来た滝に気付いた能理子は、武?滝さん!姉さんは?と聞くので、家焼けたよ…、ママも死んだ…、君もママ、俺を殺して自分も死のうとして自分だけ死んだと滝は教える。

君を助けようとしたんだよ、分かっていたんだ、大体…と滝が言うと、ママ、死んだの?私を庇ったの?と能理子は聞く。 滝さん、いつ私が犯人だと気づいたの? あの夜は分からなかった、でも庭にカプセルが落ちていた。

それをモデルガンの弾の代わりに使う事があると分かった時、確信したんだ…と滝は言う。

大体だな、完全な密室難てあり得ない、だけど開いていたあの窓から出入りするのは大人は無理だ、でも信也君なら出来る!と滝は指摘する。

(回想)二階の子供部屋では、能理子が開いた窓から外に向け、モデルガンを撃ちながら、自分に球を当てられているように見せかけるため、止めて!痛い!などと自演していた。

その間、窓から外に出た信也は、ボストンバッグを持ち換気窓からしたの浴室に侵入する。

すでに剛造は、水差しに入っていた睡眠薬が効いており、いびきをかいて浴槽の中で寝入っていた。

浴室の床に降りた信也は、持って来たボストンバッグの中から、独鈷杵を取り出すと思い切り振りかぶって、仰向きで顔を浴槽の外に出していた剛造の額に突き刺す。

いびきが止まり、絶命した剛造の右肩部分に、信也はバッグから取り出した2本の手のミイラを置いて置く。

(回想明け)君は部屋でモデルガンを撃って信也君のアリバイを作った。

(回想)滝が剛造の死体を発見した後、庭に出て、モデルガンの弾用に庭先に撃って落ちていたカプセルを見つけた頃、二階の部屋に戻っていた信也は、大きく手を広げて待ち受ける能理子の胸元に近づき抱かれる。

能理子は鈴を鳴らす。

(回想明け)風呂場に手首を置いたのは?と滝が聞くと、確実にパパを殺すには、パパを確実に眠らせておく必要があったの。

水差しに眠り薬を入れるためには美穂を台所から追出さないといけなかった。

それで、裏庭の焼却炉に火を点けに行った時、中にまだ燃え残っていたミイラの手首が残っていたの、不思議な縁を感じ、それを使うことにしたの…と能理子は答える。

道海さんはどうやった?と滝が聞くと、あやとりをしてみせる。

雪山に突然やって来た能理子を見た道海は不思議がるが、能理子は、おじさん、信也君に本当の子と教えてやろうか?信也君は、おじさんのこと一番嫌いだったのよね、だから自殺したのよと教え、古井戸の側にいた道海の身体を押し、穴に落す。

能理子!助けてくれ!と墜落した道海は命乞いするが、おじさん、さようなら…と言いながら、能理子は上から梳を落す。

梳は道海の身体を貫く。 弥勒寺の和尚さんにはぴったりの死に場所よね?と能理子が言うので、欣作も君がやったんだな!と滝が指摘すると、睡眠薬入りのウィスキーをプレゼントしたんですと言う。

私、ボランティアでホームレスに服をあげていたんです、そしたら、服に着いたネームに気付いて驚いたように近づいて来たホームレスがいて、それが欣作だったの、私のお婆さんと伯母さんの話知ってて…、3人はただ村八分にしただけじゃないんです。

食べ物を持って来ては3人で嫌らしいことをしたんですってと能理子は、欣作から聞いた昔の津島母娘の話を打ち明ける。

食べるか犯されるかを選択しなければ行けなくなった2人は食べないことに決めたんだわ。 2人は首を吊った。

勘治は私を手伝ってくれたけど、直接人殺しはしなかったの、剛造を苦しめようとしただけよ。

私がいればママからお金を出させることが出来るから… 勘治はすぐに死んだの、私は3人を許さない!と能理子が言うので、伏原に利用されただけだろうと滝が言うと、作戦は私が考えたの、交換作戦を持ちかけたらすぐに乗って来たのと能理子は答える。

分かんないな…、おばあさんと伯母さんの敵討ちで3人も殺したの?と滝が聞くと、私のボーイフレンド知ってるでしょう?彼、武って言うの、津島武…と能理子が言うので、のこちゃんの兄さんか…と滝が驚くと、遅かったのよ、初めて会った時、私あげちゃったんだもの…と能理子は打ち明ける。

(回想)ゴーゴークラブで偶然出会い、瞬時に意気投合する能理子と武… オヤジなんて死んでいねえよ、津島勘治って言うんだけどさ…と、能理子をベッドで抱いた後、自分のことを打ち明ける武。

後日、能理子から飯屋で飯を食わせてもらっていた伏原欣作は、おめえの本当のオヤジっちゅうのは津島勘治って言うヤクザだと教える。

(回想明け)どうしてなの?大人たちが勝手なことをしたのに、どうしてその結果を私たちが背負わなくてはいけないの? 滝さん、どうして私が武を巻き込まなかったと思う?17歳だからよ…、刑法41条って知ってる?

「14歳ニ満タザル者ノ行為ハ之ヲ罰セズ」…

さあご飯を作らなきゃ…、そろそろ帰って来るから… 武、道路工事のバイトやってるの…、着替えるから帰って!私、今日、誕生日なの、14歳になったのと能理子は言い、お姉さんはお母さんの所へ帰ったよ、本当のお母さん…と教える。

部屋を出て階段を降りていた滝は、上がって来たヘルメットを持った武とすれ違う。

滝はその後、列車で雪国へ向かう。

雪国に到着した滝は、泥酔状態で慶子を探し回る。

霞ってどこだよ?と建物から出て来た女に聞く滝。 やがて滝は売春宿を見つける。

そこに変わり果てた姿でいた慶子を見つけた滝は、いたじゃないか、俺の女!と喜ぶ。

慶子と布団部屋に入った滝は窓から外の橋を眺める。

部屋に置かれた新聞には、「放火犯、現場から走り去る」と書かれてあった。

放火犯だ、俺は…と滝が言うと、私は売春婦よと慶子は答えたので、良いな…、放火犯と売春婦…、やっとお似合いだ…と滝は自嘲する。

眠いんだ、寝てないんだ…、寝かせてくれよ…と滝が懇願すると、慶子は、するの?しないの?時間があるのよと言いながら服を脱ぐ。

おい!と滝は注意するが、ね?売春婦と寝てみてよ、ミイラは嫌いよ、私…と言いながら抱きツテ雇用としたので滝は振り払う。

大学も言えもダメになった…、おい慶子!と呼びかけるが、柱に頭をぶつけたのか、慶子は倒れたまま答えなかった。

慶子!おい!死んだ?慶子!死ぬなよ、こんな所で!と呼びかけながら慶子の身体を自分の膝の上に乗せた滝は、慶子…、お前まで…、お前がいなくなったら、俺どうするんだ!慶子! その頃、東京の町中をバイクで走っていた津島武の背後に乗っていた能理子は、好き?愛してる?等としつこく声をかけるので、何言ってるんだよ?全然聞こえねえよ!とヘルメット越しに武は答える。

すると、お兄ちゃん…と言いながら、武のヘルメットの風貌を上げた能理子は、いきなり両手で武の目を覆い隠す。

いきなり視界を奪われた武はハンドル操作を誤り、能理子を乗せたまま、近くの店の窓ガラスを突き破る。

その頃、雪山を1人さまよっていた滝に重なり、キャストロール 人気のない雪山に1人の行者がやって来て、雪の中に倒れ込んでいた滝の横を通り過ぎると鈴を鳴らす。

おい!と呼びかけた滝だったが、立ち去って行くその行者は幽海のようにも思えた。

そして滝は雪の中で静かに目を閉じる。
 


 

 

inserted by FC2 system