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右門捕物帖 からくり街道

アラカンこと嵐寛寿郎がむっつり右門を演じたシリーズ物の1本。

まずは冒頭の芝居小屋での殺人で謎解きらしき面白さの片鱗を見せているが、後半は御家転覆を狙う悪家老退治の通俗ヒーローもののような展開になっている。

全体的に子供映画のような軽い娯楽時代劇タッチになっており、殿様と農民が入れ替わる「王子と乞食」のようなアイデアとか、伝六が右門に成り済ました為、右門の錣(しころ)正流が飛んだ形で広まってしまったり、捕えられたあば敬と松コンビがどんどん悲惨な目に遭うと言うユーモア表現が目立つ。

捕物帖としては安っぽさもあり期待はずれだが、アラカンのチャンバラを楽しむ鞍馬天狗などの子供向けヒーローものと割り切って見ればそれなりに楽しめると思う。

右門が茶人や家臣、黒装束の賊に変装するシーンなども、どちらかと言えば子供向けの趣向だろう。

クライマックスの屋根瓦の上でのチャンバラはそれなりに楽しい。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1953年、新東宝、佐々木味津三原作 、鏡二郎脚本 、並木鏡太郎監督作品。

タイトル

逆さ富士や富士の麓の街道を旅する旅人の姿

そんな街道を歩いて来たのは、お馴染み「むっつり右門」こと近藤右門(嵐寛寿郎)とその子分のおしゃべり伝六(渡辺篤)、彼らは三島宿に到着する。

三島神社では折しも「中村宗助」の一座の芝居「国性爺合戦」がかかっており、見たくてたまらない伝六は、十手を持っていることを利用し、呼び込みによっ!と挨拶だけして顔パスで中に入ろうとするが、呼び込みは、これが見えねえんですか?と壁に貼られた貼り紙を指差す。

そこには「お達しにより、何衆と言えども無断入城お断り」と書かれており、呼び込みに呼ばれた用心棒たちが入り口から出て来たので、慌てて逃げ出した伝六は、裏の「楽屋入り口」付近にやって来る。

楽屋内では、化粧途中の中村宗助(澤村昌之助)から、衣装方の癖に衣装を忘れたと!と怒鳴りつけられ湯のみを額に投げられた直どんがうずくまる。

宿の前に出したんですが…と他の座員がなだめようとしていたとき、今着きました!と声がかかったので、今頃着いただと?ボタボヤするな!と宗助は叱りつける。

楽屋入り口前に到着した荷車に積まれた荷物を近くで見ていた伝六は何事かを思いついたような明るい顔になる。

額から血を流しながら楽屋の外へ連れ出された直どんは、この仇きっと取ってやる!と宗助のことを恨むが、相手が悪い!と仲間の座員は慰める。

その後、小屋の中に荷物が運び込まれるが、女形がおっさん、急いでんか!と声をかけると、人足は、まだ若いんだぞ!と腹を立てる。

いよいよ芝居が始まり、客席には、「あばたの敬四郎」「あば敬」こと村上敬四郎(鳥羽陽之助)と、その子分のちょんぎれの松(有馬是馬)もいた。

人気がなくなった小屋の中に置かれた箱の蓋が開き、中から顔を覗かせたのは伝六だったが、周囲のうかがっている時、隣に置かれた箱の蓋が持ち上がり出したので、驚いた伝六は又箱の中に身を隠す。

隣の箱から出て来たのは女だった。

その女が姿を消したので、伝六も箱の外に出て今の女の事を考え始めるが、そこに人足の親父がやって来たので、慌てて伝六は逃げ出す。 直どんは仲間に額に包帯代わりの布を巻いてもらうが、仲間が去った後、自分の匕首を取り出し、それを抜いてみせる。

客席では「あば敬」が居眠りしていた。

母親に抱かれ、芝居の語り手を見つめていた幼児が、語り手の怖い表情に驚き急に泣き出す。

その声で「あば敬」は目が覚めるが、気がつくと後ろにいた末が寝ているのに気付く。

客席の中には侍の姿もあった。

舞台で、鳳凰の皿を手に芝居をしていた役者は、目の前に持っていた皿に血が落ちて来たのに気付き天井を見上げると、竹を格子状に組んだ「ぶどう棚」に中村宗助の死体があったので、慌てて逃げ出そうとしてセットを壊してしまう。

火事だ!と叫ぶ声に驚いた客たちも一斉に逃げ出す。

宿に泊まっていた右門にこの怪事件のことを報告した伝六は、旦那がいらしたら110番手柄になっていたのに、あべ敬が星を上げたんですぜと悔しがったので、村上さんが来ているのか?と右門は驚くが、京見物の途中だ、村上さんの手柄にしようと鷹揚に答える。

衣装方の直どんを捕まえていたあば敬は、匕首を突き出し、これはお前のだろう!と聞くと、自分のだと直どんは答えるが、これでやったの相違ない!と責めると、直どんは、滅相もないと否定していた。

その時、否、相違ありますぞと声がして、楽屋に入って来たのは右門だった。

宗助の額の傷は確かに刀傷ですが、その匕首に血のくもりがありますかな?と右門が指摘すると、あば敬は言葉に詰まる。

しかし、右門が小屋の中を調べようと楽屋の外へ出ると、待たっしゃい!この事件はわしが先に手を付けとった、つまらん差し出口は控えてくれ!とあば敬は声をかけて来る。

その時、また人殺しや!と座員が叫んだので、驚いて客席に向かってみると、そこで女が斬り殺されていた。

先に駆けつけた伝六が、女が右手に掴んでいた書状を抜き取り右門に見せる。

右門が内容を読みかけていたとき、背後からやって来たあば敬が奪い取ってしまう。

ご自由に!とあば敬に言った右門は、伝六!と声をかけ一緒に出て行く。

書状の内容を読んだあば刑は、浮上の役人に告ぐ!この事件から手をひけ!引かぬ時は数日を出ずして貴殿の姿は彼女と同じになることを覚悟されたし!と書かれてあった。

怯えて松と共に外に出たあば敬だったが、そこは寺の前だったので、待つ、何だか気味が悪いなとあば敬は震える。

日蓮宗だったら陽気なんですがね…などと松が答えていたとき、黒ずくめの賊が2人に近づいて来たので、慌てて2人は逃げ出す。

山岡頭巾をかぶった侍が2人後から姿を現し、2人の後を付いて行く。 その様子に気付いた右門が、伝六!と呼びかけて駆けつける。

賊に取り囲まれたあば敬は、わしはあの事件から手を引くつもりだったんだと言い訳するが、頭巾をかぶった1人が、斬れ!と命じたので、もう1人の頭巾が刀を抜いて斬り掛かろうとする。

そこに駆けつけたのが右門で、賊の相手をし始めたので、松とあば敬はその場から逃げ出す。

その時、どこからとも法華太鼓の音が聞こえて来たので、旦那!陽気な日蓮宗ですぜ!と松はうれしそうにあば敬に教える。

右門は寺の境内で賊の一味と戦っていたが、頭巾の侍1人を捕まえる。

しかし、倒れたその侍の頭巾を外した右門は、侍が舌を噛んで事切れているのを知り、こやつ!井上屋敷の!と呟き、腰の印籠を奪い取る。

小田切彌八郎と言う侍で、松平伊豆守様の命により、井上河内守を調べていたのだ、松平様が内々にお召しになってな…と、宿に戻って来た右門は伝六に教える。

(回想)松平伊豆守(高田稔)は、密かに調べて欲しい、分かっていると思うが、穏便になと右門に指示する。

村上様が来ていると言うのは、例によって付けて来たのかな?と右門は察する。

小田切が下手人と言う証拠は?と伝六が聞くと、第一の手がかりは、中村宗助の懐から出て来た立派なタバコ入れで、城紋が書いてあった、この印籠と同じだと、小田切の遺体から取って来た印籠にも書いてある紋を右門は見せる。

床山の久助に聞くと、末広屋の情婦からもらったものだと言う。 情婦と言うのは芸技で、浜松の大名に惚れられていたと言う。

末広屋に振られて気が合ったのだろう。 第二の手がかりは、小田切の懐中にあった手紙。

中村宗助殿 百石の御家老様より妻に致し候おとせ殿… 中村宗介助を殺したのは小田切に相違ない。

甘言に乗ったおとせ(野上千鶴子)は言葉巧みに宗助を天井裏に誘うと、隠れていた小田切が素早く殺しその場に捨てておいたが、すぐに気付かれたので、小田切はその後、おとせの口外を防ぐ為にお登勢を殺すと、この証拠の手紙を奪ったに違いない…と右門は推理する。

右門から、いよいよ井上公の領地に入り込むんだと聞いた伝六は、今日見物させてもらってゆっくりおはるちゃんと合えると思ったのに…と悔しがる。

浜松城にいた家老速水勒負(江川宇禮雄)は、右門が密かに御城下に入った故、ご油断なくと言う浪切左(阿部九洲男)からの早馬の書面を受け、家臣早乙女に役人たちを遣わし国境を警戒し、隠密役人は即刻逮捕すべし、御家の大事でござると命じる。

御家老、隠密の来ぬうちに殿を一刻も早く…と早乙女が進言すると、今日一日で何とか…、殿は本日御遠出だ、これを2人の漁師が鉄砲で撃つ手はずになっておる。

2人の漁師はその場で斬り捨てれば誰にも分かるまい…と速水は計画を打ち明ける。

では殿は今頃…と早乙女が驚くと、そろそろレイの所に差し掛かっている刻限じゃと速水は笑う。

馬で遠出をしていた井上河内守(柳家金語楼)は、田んぼの所まで来た所で、休息じゃ!と自ら宣言し、馬を下りたので、側で畑仕事をしていた農民たちは驚いて土下座をする。

遠乗りと言うのはきつい仕事じゃな…と床几(しょうぎ)に座った河内守はぼやくが、月々三度の遠出は、先君からの御遺訓でござりまするぞと家臣はたしなめる。

そんな河内守の様子をちらちらうかがっていた農民だったが、側で土下座していたお里(南寿美子)が、おじさんだわ!と急に騒ぎ出したので、農民も立ち上がり、八五郎!わしの弟だ!と呼びかけながら河内守の方に近づこうとしたので、慌ててお供の者達が制止する。

慌てて馬に股がった河内守は、御帰還!と自ら叫んで城の方へと走り出す。

お里は、他の農民たちに庇われ素早くその場を逃げ出し、農民も同じように逃げ出すが、お付きの者どもが後を追って来る。

逃げた農民を林の中まで追って来たお付きの者達は、そこにいた伝六に、百姓が走って来なかったか?と聞くが、向こうへ行ったと伝六は答え、それを鵜呑みにしてかけて行ったお付きの者どもを笑う。

野郎ども、行っちまいましたと伝六が報告すると、側にいた右門が出て来ても良いぞ!と奥へ語りかけ、逃げていた農民が、ありがとうございましたと庇ってもらった礼を言う。

城に戻った河内守は、馬に乗り過ぎたせいかがに股で廊下を歩いて来る。

それを出迎えた速水は、御帰還がいつもより早くないか?とお付きのものに聞くと、狂人が笑われまして…と言う。 一方、助けた農民の家に邪魔をした右門と伝六だったが、八五郎は神隠しにあったのじゃと農民の女房は言う。

わしは信心深いので、罰が当たるなどと言う事はないと思うと農民も言う。

女房は八五郎は不信心で道楽者じゃったと言い、2ヶ月前ほどからいなくなったと言う。

弟は変わり者で、左の腕に花のような痣がありましたと農民は言う。 農家の外にいた伝六に近づいたお里は、ねえあなた、江戸から来たと言ったわね、むっつり右門ってどんな人かしら?あの人、とても偉い役人なんだってね?会いたいわ、死ぬまでに1度会いたいわ…などと話しかけて来たので、会わせてやろうか?おめえの目の前にいると伝六は言ってしまう。

お里は周囲を見回して探していたが、まあ、あなたなの!と伝六を見て驚くと、いかにもさよう…と伝六は威張ってみせる。

まあ、うれしい!と笑顔になったお里は家の中に入り、帳面を持って来ると、書いて下さい!あんたの名前、偉い人の名前をみんな書いてもらっているの…とサインをねだって来たので、いかにも書いて取らせようと伝六は承知する。

そして、帳面を受け取って中を開いてみると見覚えのある名前が書いてあったので驚くと、お里は無邪気に、この人、去年書いてもらったの、偉い役人なんだってねと言う。

そこに書いてあったのは「村上敬四郎」の名前だった。

そのあば敬と松が国境の関所にやってきて、江戸役人である!と威張ると、たちまち囲まれ捕まってしまう。

あば敬は「470」の数字を付けられた受刑者になり、松と共にニワトリ小屋で餌やりの仕事をさせられることになる。

そこにやって来たお方様(清川玉枝)が、お付きのいとに、あれなる2人は何者じゃ?と聞くと、江戸の隠密で、殺すのも不憫なので労務に従事させておりますと言うので、なかなか変わった顔じゃの〜とあば敬の事が気に入ったようだった。

そこのことはすぐに早乙女が速水に報告したので、色仕掛けでいたぶるのも一興じゃと速水は苦笑する。

あば敬と松は、お方様と側女のいとの慰み者となり、酒を注いでやったりするはめになる。

松はいとといちゃいちゃできて喜ぶが、あば敬は丸々としたお方様の愛玩にうんざり顔だった。

その頃、農家の世話になっていた伝六は右門に、旦那!一緒のお願いでございます。この家にいる間だけ、あっしをむっつり右門と言うことにして下さいと願い出ていた。

それを聞いた右門が、伝六、こちらの娘がなかなか美しいの…、しかしそのなりで良く信じたものだな と皮肉ると、これは世を忍ぶ仮の姿と言うことで…と伝六は説明する。

そこへやって来たお里が、右門様、村の衆が会わせてくれってやってきました、村長さんもだよなどと伝六に伝えたので、伝六は驚く。

家の前には大勢の村人が集まっており、村長が代表して言うには、農民にも武芸は必要だと思うので、右門様は錣(しころ)流に精通しておられるそうですので、ぜひ錣流をご指導願いたい、お願いしますと言い、長もは、もう一つ、日下流の柔も教えて上げなさいなどと言う。

窮地に陥った伝六だったが、いまさら嘘とも言えないので、剣を頭の上に上げて!などと勝手に指導し始める。 村人たちは、バッターの構えのような珍妙な動きを本当に錣流剣法と思い込み、一斉に真似し始める。

(ラジオ体操のようなメロディーに合わせ) これを近くで見ていた侍が、自分の道場でも弟子たちに伝授する。

さらに城内でもこの錣(しころ)流剣法が流行り、腰元たちと一緒にいとやお方様も一緒に庭で稽古し出したので、松とあば敬も一緒に付き合わされることになる。

嫌々やっていたあば敬は、お方様に捕まり稽古の列の外へ放り出される始末。

河内守までお小姓とと共にこの稽古をやり始めたので、それを見た速水は呆れてしまう。

やがて、止めい!と自ら稽古を中断した河内守は、これが錣(しころ)正流、見事だな…、右門の得てとしているもの、由井正雪の謀反の折にもこれで下手人を捕まえたそうで、それは「謎の血文字事件」として有名だ、これより日下流片手取りを練習致す、これを得意とするのもむっつり右門じゃと得意げに解説する。

それを聞いていた速水の側にやって来た早乙女が、領地一帯錣流が大流行しております。

既に右門めは領内に侵入していると思われます、かくなる上は一刻も早く目的を達せられんことを…と進言すると、本日2時に献上のお茶壺が到着する…と速水は予想外のことを言い出す。

早乙女が戸惑っていると、この献上茶には茶人も同道され、この宇治茶は、かの茶人と腰元と御用人2人がいる席で殿がお飲みになる。

この同席の2人を殺せは事が露見することはない。

そして、お腰元はわしの娘かよじゃ…と速水は打ち明ける。

この企てを父親は闇から聞いたかよは狼狽するが、頼む!わしを見殺しにすると言うのか?わしの身辺に役人が迫っている!罪人になるか殿を葬って天下を取るかじゃ、わしをイカすも殺すもそちの決心一つ!と速水から迫られたかよは泣き出す。

献上茶の披露は、河内守の他に御用人浦和五右衛門(小倉繁)、かよ、茶人の3人だけで行なわれる。

茶人が点てた茶をかよが河内守の手元に運ぶが、動揺を隠せないかよに手は震えていた。

廊下では、中の様子を早乙女以下家老の仲間が居並び、部屋の中の様子に聞き耳を立てていた。

河内守がその茶碗を手に取り飲もうとした時、あ!それは…と口走ったかよに、どうしたのじゃ?と河内守が聞くと、毒薬でございます!私が毒を投じたのでございます!とかよが打ち明けたので、茶碗を落した河内守は、もう殿様、止めさせてもらう!と狼狽し出す。

その時、茶人が自分の顔の変装を解くと、その素顔は右門であった。

右門は素早く河内守の側に駆け寄り、その左腕をまくると、そこには花のような痣があった。

八五郎!と右門が呼ぶと、私は本物の井上様ではない!無理矢理城へ連れて来られたのだ!と河内守そっくりの八五郎(柳家金語楼-二役)は明かす。

(回想)用人浦和に連れて来られた八五郎を見た河内守は、なるほど、余にそっくりじゃ、わしのみが割になってくれたら礼金百両と望みのものを何なり授けるぞ、その代わり断れば、親兄弟の命なくなるぞ!と河内守と浦和から八五郎は脅かされる。

(回想明け)お引き受けしましたけど毒薬のむことはお引き受けしていません!と八五郎は怯える。

事の次第を聞いた早乙女はすぐに速水に、殿が替え玉だったことを知らせる。 御用人浦和を捕えた右門は、真の河内守はどこにおられる!と詰問する。

すると浦和は、お菊の方を連れて自由な旅に出かけられたと言う。

その時、城内に太鼓の音が響き、部屋の中に速水の仲間たちが乱入して来る。

右門は、草下流柔の術と槍を使い応戦する。

そこに速水が刀を抜いてやって来たので、右門は槍で速水を突き殺す。

さらに、早乙女も当て身で気絶させると、部屋の奥に引きずって行く。

この騒動に乗じ、あば敬と松は城を逃げ出す。

城門から出て来た家臣たちは、手分けして右門を確保するよう指示されるが、その家臣たちの中に変装した右門と伝六が混じっていた。

外へ飛び出した右門は伝六に、真の井上様は、領内の「つるや」にお菊の方をお連れになっていると教える。

旅籠「つるや」にお菊と泊まっていた河内守は、何か音曲が聞こえて来たので何事か?と菊と、お菊が村芝居ですと言うので喜ぶ。

窓から下を行く通行人を眺めていた河内守は、お菊!変わった槍を担いでおる!あの百姓だ!と言うので、お菊が、あれは鍬でございますと教えると、変わった形の槍じゃのうと河内守は感心する。

さらに、珍しい鎧を来ているぞ!と言うので、お菊が、蓑でございますと教えると、町人どもは変わったものをこしらえおるわ、なかなか珍奇の気風に飛んでおるのうと河内守は感心する。

実にのびのびとした生活をしておると、小うるさい領地のことを考えると余はぞっとすると河内守は心情を吐露する。

お菊と過ごした次の朝などゆっくり寝ていたいのに、辰の酷になると起きねばならぬ。

さらに、家臣たちの朝の挨拶を受けねばならぬ、どいつもこいつも山家育ちの連中の顔など見飽きたわ。

その後は、山と積まれた書類を調べねばならぬが、皆が勝手に決めたことに判を押すだけ。

余は正に、外国で早ていると言う印刷機械のようなものじゃ。

夜になると、可愛いそなたと2人で積もる話もしたけれど、そうは参らん。

お部屋共が現れて、白い眼で余を見る。

嘆きの眼…、怒りの眼で余を攻撃致すのじゃ…(廊下に居並んだお方たちが睨みつけて来る様子) そんなある日、浦和が、御上と瓜二つのものを発見しましたと河内守に知らせに来る。

町人姿に身をやつした河内守はお菊の方に、似合うか?さようであろうなどと自画自賛する。

その頃、領内に逃げて来たあば敬と松は橋の所で行き倒れしたので、側を通りかかった農民が声を掛けると、腹が減ったとあば敬は言う。

農民は2人を家に連れて帰り、たらふく飯を食わせると、命の恩人じゃ、何でも手伝うと言い出したあば敬は、農民の畑仕事を手伝うことになるが、一緒にやらされるはめになった松は、旦那、あっしは嫌ですよ、江戸へ帰りましょうとごねるが、まだ警戒が厳しい、又女中に連れ込まれても良いのか?とあば敬が叱ると、おいとさんに会える!と松は喜び、つい力を入れて土を掘り出したので、その土があば敬の顔にかかってしまう。

「つるや」 夜分、廊下を歩いていたお菊を呼び止めたのは浪切左門だった。

巧くやって下さったかい?と浪切から聞かれた尾菊は、中村宗助の事ですか?あのような河原ものと事が知れたらお払い箱ですから…とお菊は言う。

二階で寝ていた河内守は急に目が覚めるが、村祭りの音曲を菊と安堵して又寝入ってしまう。

江戸くんだりまで行ったのは誰の為だと思うんだ?と浪切が恩着せがましく言うと、お殿様に言いつけますよとお菊も機嫌を悪くしたので、その殿様の命も長くない、家老が御家転覆を謀っている、見つかったらお前も同罪じゃ、お前の気持一つで安全な所へ逃がしてやっても良いぜとお菊に迫る。

その時、「つるや」に侵入して来た黒ずくめの賊の姿に気付いた浪切はその場で逃げようとしたお菊を斬ると、二階だ!と賊に指図をする。

異変に気付き起き上がった河内守は、賊に囲まれ、余は河内守だ!と叫ぶが、浪切が早く斬れ!と命じる。

その時、賊の中の1人が仲間を斬り始める。

その黒服面は右門の変装だった。 右門は河内守を屋根伝いに外へ逃がしながら応戦する。

隣の屋根の上には、同じく黒ずくめの賊に化けた伝六が待機しており、おーい殿様!こっちだ!あっしですよ、伝六ですよ!いらっしゃい!と河内守に呼びかけると、無事地上まで降ろしてやる。

右門も、河内守を追って来た賊と屋根瓦の上で戦う。

迫って来た浪切も右門に斬られ、屋根の上の水桶を倒して息絶える。

茶人とそのお供に扮した右門と伝六が江戸へ帰ることになり、元の殿様の姿に戻った河内守が見送りをする。

右門殿!と呼びかけ近づいた河内守は、この度のことは御老中にはご内聞に…と頼むと、伝六がそう云う訳にはいきませんよ、どう見ても断絶ものだなどと口出しするが、控えんか!とそれを叱った右門は、右門はご当地へ参っておりません、私は宇治茶の献上に詣った一介の茶人ですと答えたので、この御恩は終生忘れませんと河内守は頭を垂れる。

伝六、さて氏の里へ帰るか?と声をかけた右門は歩き出すが、そこへ駆け寄って来たお里がサイン帳の伝六が書いた部分を破り捨てると、伝六のバカ!と叱りつける。

すっかり面目を失った伝六に追い討ちをかけるように、茶人姿の右門は、伝六、錣(しころ)正流が盛んであるなと皮肉る。

浜辺で領民たちがそろってあの珍妙な剣法の稽古をしていたので、伝六は思わず自分の顔を手で覆ってします。

その稽古していた領民の中にはあば敬と松も混じっていた。


 


 

 

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