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月の出の決闘('47)

GHQの意向で基本チャンバラ御法度だった終戦直後の大映時代劇。

その分、娯楽映画としては真面目と言うか、おとなしい展開になっているのだが、決して退屈な感じはない。

ヤクザの用心棒と言う酒好きで気の短い主人公と、それに惚れ抜いて人斬りを止めさせようとする茶屋の女将、そして農民たちに仕事の大切さを教え諭す学者の3人が中核となり、人間のクズが真人間としての心を取り戻すまでの課程が描かれている。

その話に勧善懲悪の剣劇要素を加える為に、学者と組合に嫌疑をかけ潰そうとする悪役が登場するのだが、それを演じているのが若き日の東野英治郎さん。

さすがにこの頃の東野さんは今見ても若々しい。

何故、罪もない農民や学者を弾圧しようとするのか、今の感覚で見ていると分かりにくい部分もあるのだが、おそらく「生かさぬように殺さぬように」支配したい農民層が知恵をつけ、歯向かう恐れがないでもないので、その前に知恵の芽を摘んでおこうと言う施政者側の恐怖心から出た行動ではないかと想像する。

東野さん演じる役人が、農民たちに博打を流行らせたいと言うのも、大衆を愚民にしておいた方が支配しやすいからだろう。

学ぶ農民の姿は、後年の劇画「カムイ伝」 の一部を連想させたりもする。

主役の天堂が心を変化させるのも、この知恵ある学者に理詰めで諭されて…と言う事なのだが、この辺が、むやみに激情や力に頼ってはならないと言う、終戦後らしい真面目な発想になっている。

博打を禁じようとする姿勢も教育的と言うか真面目な言い分で、娯楽映画としては物足りないでもないが、当時の情勢でチャンバラを正当化するためには致し方ない発想だろう。

ただ個人的には、大原幽学と言う学者のキャラが何となく教育者と言うよりは宗教家風と言うかうさん臭く感じないでもなく、今ひとつ感情移入しにくい部分があるため、主役があっさり諭される部分にも何となく共感できない面がある。

一つには、主役の気持の変化をきめ細かく追った描写がないからではないかとも思う。

古い時代の白黒作品なので、昼夜の区別がつきにくかったり、時間経過が分かりにくかったりと云う部分もあるが、基本的には良くあるパターンの話なので、全く理解できないと言うことはない。

この時期のバンツマ(阪東妻三郎)は、見る角度によって、ご子息の田村高廣さんに似ているようでもあり、田村正和さんに見えたりもするので、血は争えないと言う感じ。

全体を通して、もの凄い傑作!と言う感じではないが、くだらない作品と言う訳でもなく、公開当時の時代背景なども鑑み、時代劇ファンなら一見の価値はあるような気がする。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1947年、大映、丸根賛太郎脚本+監督作品。

夜、尻端折りした白い着物姿で、飲み屋「おせん茶屋」に帰ってきた天堂小彌太(阪東妻三郎)は、店内で喧嘩が始まっていたので、片っ端から投げ飛ばし、もう静かになっちまった、おい、おせん!と呼ぶと、店の女将のおせん(花井蘭子)は、お前さん、来方が遅いよと文句を言って来る。

俺はここの二階を借りているが、用心棒に雇われた訳じゃないとぼやいた天堂は、投げ飛ばした連中の顔を改めて見回し、良三か?その横は平吉(羅門光三郎)か?と確認していると、背後で倒れていた男が、先生!と呼びかけて来たので、与助!と気付く。

来方が遅えや!とおせんと同じようなことを言うと、良三の奴がサイコロ捨てると言い出したので、ついその…と喧嘩の言い訳をするので、それを聞いたおせんは、お前さん、博打の神様かい?良さんが騙される博打を止めるんなら、良い方になると言うことでしょうと言うと、あっしは博打を止めることが良いことだとは思わない…と与助は言う。

それを聞いた天堂は、長谷部村の名主の若旦那が騙されたのは大原幽学だぜと良三のことを言う。

その良三が帰ろうとするので、顔の手当てしてお行きよとおせんはすすめるが、先を急ぎますので…と良三は言うので、若旦那、酷え目に遭いやしたな〜と平吉が同情すると、先生、すいませんと良三は頭を下げ帰って行く。

その後、身を寄せている次郎吉(尾上菊太郎)の所へ行った天堂は、先生の働きで、大八の子分は退散してしまったようですと感謝されたので、次郎吉さん、まだ邪魔をする悪い奴がいる、博打をするのを止めさせようとする長谷部村の大原幽学と言うヘボ学者だと天堂が言う。

賭場のお百姓たちを説得しているらしく、放っておいたら賭博に来なくなっちまいますからね…と次郎吉も頷くと、心配いらねえ、ちょっと片付けてきやしょうと言い、天堂は立ち上がる。

風速計

大原幽学教会では、大原幽学(青山杉作)が見守る中、良三の婚礼が行われていた。

その婚礼の席に同席していた長尾主馬之介(東野英治郎)は、大原先生の組合を見まして、こう云うめでたい式に列席でき光栄に存じますと大原に挨拶する。

その席の出席していた農民の1人が、回りにおだてられて祝いの歌を歌い出そうとしたその時、雌の猫が産気づいたような歌は止めろ!と行っては行って来たのが天堂だった。

次郎吉親分の世話になっておる天堂小彌太と言う者だと名乗ると、話によってはこの場も御通夜になるぜ、俺の気が短えのを知らないなら教えてやるぜと大原を脅して来る。

大原が長尾とともに外に出ると、口より早く剣を抜くのが早いんだ!と言いながら天堂は剣を抜いて向けて来るが、大原はそれには動じず、博打退治に10年近くかかったが、それが実を結んだようでうれしいんだ。

おぬしは博打が人の一生をめちゃくちゃにすることを知っているだろうと言う。

すると天堂は、人生も同じだろうが!自分のことも運否天賦に任せるだけ、てめえのような理屈は分からねえ!と天堂は言い返す。

それでも大原は、それは人間のクズが唱える屁理屈だと言うと、それだけ言やあ、言い残すことはないだろうな?今度は俺の力が文句を言うぜ!と天堂は迫る。

大原は、俺は一介の百姓だ、斬りたければ斬れば良い、天堂、人間のクズと言われて腹が立つか?人間のクズと言われても平気で笑え、そしてこれからも片っ端から斬れば良いぞと皮肉る。

剣を振りかざしていた天堂だったが、棒を突き出している大原に対し、全く動けないでいた。 その様子を長尾が側でじっと見ている。

そこへ、待って下せえ!と止めに来たのは平吉で、今日は若旦那に取って大事な日、切る斬られるなんてこれっきりにして下せえ! 先生!いくら稼業か知らねえけど、婚礼をぶち壊すのはお門違いじゃねえでねえですかね? 後で気分良くありませんぜ、大原先生はお仲人なんで…と平吉から言われた天堂はいつしか剣を下げていた。

それを見た大原は、おぬしはいまだ良心の欠片はあると見えるの…と言い残し、平吉とともに教会方へ戻って行く。

1人残っていた天堂に近づいた長尾は、何故切れないんです?運命は博打のサイコロと同じですよ、目は大原を斬れと出ているのです、速く追いかけて御斬りなさいと勧める。

翌朝「おせん茶屋」の座敷では、姉さん、いつもの通りですね?とおしま(香住佐代子)から聞かれたおせんが、お酒かい?朝っぱらから飲ますと思うの?と呆れたように聞くので、疲れ休みに一杯どうです?などとおしまは言う。

夕べ大原さん斬ったのかしら?とおせんが言うので、姉さんが聞けば良いじゃないですか?とおしまが呆れると、自分で聞けるくらいなら聞くもんか!本人の口から斬ってしまったぜなんて言われたらどうしたら良いの?あんなに止めたのに…、泣くの?怒るの?などとおせんは絡んで来る。

それでも、近くに置いてあった天堂の件を少し抜いてみておせんは喜ぶ。 血のくもりがなかったからだ。 すると急に機嫌が直ったおせん、おしまに、お酒!と言い出す。

お前さん!疲れ直しに一杯どう?とおせんが呼びかけるが、いらねえや!そんなもん!と二階で答えた天堂は、ふて腐れたように寝そべると、酒どころじゃねえや!ヘボ学者とナマコ野郎!2人とも叩き斬らねえと腹の虫が収まらねえや!と呟くと目を閉じる。

一方、料亭に肩肘で寝そべり酒を飲んでいた長尾は、女中が酒を運んで来ると、おい、大分にぎやかだな?と先ほどから聞こえて来る騒ぎのことを聞く。

大八親分が八州様を連れて来られているのですと女中が答えると、権藤が来ているのか?ここへ呼んでくれ、長尾が呼んでいると言えば分かると女中に頼む。

部屋にやって来た権藤を前に、大八の所にはいつから参っておるのじ?と長尾が聞くと、3日目かと…と権藤は平伏して答え、大八のこの度の願いは思い上がった為かと思われ、博徒のくせに十手を持たせろなどと…と呆れたように言う。

おぬしも十手を持たせてやれば良いではないかと長尾が言うと、賭博に証文を与えるようなもので、奨励するようになりますと権藤は言う。

すると長尾は止めるどころか、ではこの際、十手をやるんだなと言うので、結果をご存知でそんなことをおっしゃるのですか?と権藤は驚く。 長尾は、わしはもっと賭博をやらせたいのだと言う。

かくして、十手を手にすることが出来た荒川の大八は、これがあれば鬼に金棒だ!次郎吉一家を叩きのめすんだ!と子分たちの前で檄を飛ばす。

大八一家は全員わらじを履き、出入りに出発する。

その話を次郎吉の組で聞いた天堂は、なんでえ、十手が怖くて表が歩けるか!お前たちはいっぱしのヤクザじゃねえのか?良し、俺が叩き斬ってやるよ!と言って出かけようとするが、次郎吉が止めたので、だめとは何がだめなんです?と次郎吉に聞く。

星田様からのお呼び出しで、天堂先生の力を封じるため、八州様が大八との喧嘩はならんと…と苦しそうに次郎吉が説明するので、散々縄張りを荒らされてかい?と天堂は皮肉る。

次郎吉がうかつに出れないと言うので、畜生!と天堂は悔しがる。

長尾は酒を飲んで愉快そうに笑っていた。 苛立った天堂は、俺が叩き斬ってやるぜ!今更じたばたしたって所払いされるだけさ、大原幽学倒すしか次郎吉一家の道はないはずですぜ!と言い放つ。

おせんは、出かけようとする天堂に、お前さん、大原さんは10年もお百姓さんを助けた人じゃない!と引き止めようとするので、何だって邪魔するんだ!畜生!と苛立った天堂は、酒徳利を抱えて出かけて行く。

途中、夜道で何か探している平吉に出会ったので、何をしてるんだと天堂が聞くと、サイコロを落しやしてね、明日、祭りでしょう?その太鼓荒川まで取りに行く所なんですが…と平吉が言うので、てめえ、荒川で博打やる気か?と察した天堂は、大原はどこだ?と聞く。

耕作地に御出でになりますが何か?と平吉が言うので、斬りに行く!今日こそ斬りに行くんだ!太鼓どころじゃねえだろう!と天堂は答え、その場を立ち去る。

組合耕作地にやって来た天堂は、頬かぶりをした農民に、百姓!そこらに大原幽学がいないか?と声を掛けると、ヘボ学者か?いるよ…と言いながら頬かぶりを取ったその農民こそ大原本人だった。

大原は天堂が酔っていることに気付くと、酒の力で多少残っていた両親を酔わそうと言うのか?では、人間のクズと言われて厭わんのだな?素手のわしを斬れるようになったか?何度行っても同じ事だ、百姓に武器はない!と大原は動じないので、仕方ねえ!勘弁しろよ!と言い、天堂は刀を抜く。

すると、近くで働いていた農民たちが集まって来て大原を庇うように固まる。

天堂!斬るなら斬れ!わし1人斬っても、幾千幾万もの百姓を殺さねばならない。

元通りにはならんぞと大原は言い、先生を斬るならおらを斬れ!あたいを斬れ!と大原を囲んだ農民たちが口々に言い出しすし、両親を斬るなら我を斬れ!前も後ろも斬って斬って斬りまくるか?と大原は言う。

おいらも斬ってくれ!騙されるもんか!と農民たちが言うので、貴様ら本当に斬られたいのか!と天堂は凄んでみせるが、ヤクザの用心棒か何か知らないが、汗を流して働いている俺たちに勝てるのか!と農民たちが言い返し、今、お前の眼によぎったことを考えるが良い。

それが分からないなら、働いているわしをいつでも斬っても良いぞと大原は言い聞かせる。

結局、その日も、誰も斬れずにおせん茶屋に天堂は帰って来る。 おせんの部屋に来ると、おせんは居眠りをしており、見ると、晩酌の支度がしてあるではないか。

座り込んだ天堂は、自分で徳利を御燗に付け、思わずおせんの気持を察したのか微笑む。

そして、居眠りしていたおせんの額にキスをしようと顔を近づける。 その時、気付いたおせんは、あら?いつ帰ったの?と微笑むと、早いわね、もう漬けてると言いながら御燗をしていた徳利を取り、天堂の盃に注いでやる。

ねえお前さん、今日も大原さんを斬らなかったんだろう?とおせんが聞くと、それがどうした?と天堂が絡むので、まあ聞ききよ、お前さんの顔がここら辺にあったんだよと、おせんは今しがた目覚めた時のことを言い出し、その時のお前さんの顔、穏やかで温かだった…、そいでね、今日も無事だったとぷんと来てそう言ったんだよと言う。

本人はどうかって?人を斬らなかった夜の気持は安らかで温かい気持だろう?とおせんが言うので、そうだな〜…と思わず天堂の顔もほころぶが、急に我に返ると、何言ってやがるんでぇ!と憮然とした顔になる。

お前さん、今夜の気持聞かせて!乱暴な仕事辞めて!幸せはいつまで経っても来やしないよととおせんが言い聞かせようとすると、俺から刀もぎ取ろうと言うのか!と天堂は睨む。

きっと幸せにしてみせるから…、私ゃ、出来るだけ、どんなことでもするつもりだよ、お前さん、頼むから惨い商売止めておくれと必死におせんは言い聞かせる。

そんなおせんの説教から逃れようと店に出て来た天堂は、そこに大原幽学がいることに気付く。

やい!人様の家に黙って入って来る奴があるか!今頃何しに来たんだ?と天堂が文句を言うと、友達になりに来たんだと大原は言う。

からかいに来たんだな?と天堂がひねくれると、必ず友達になれると思ったから、手遅れにならないうちに急いで来たんだと大原は言う。

あんたは良い人なんだよ、喧嘩商売のどこが良いのか?と大原が問いかけると、人の知ったことか!と天堂はひねくれる。

おぬしがそうだから、汚れをなくそうと言う人がいるんだ、力を貸してくれぬか?この事業はなかなかな大変なんでな…と大原は頼む。

しかし天堂は素直になれず、てめえが力をもぎ取ろうとしているんだ!手前が出て行かねえなら俺から出て行ってやると言い、天堂が店を出て行ったので、大原はおせんに向い、あんた、あの男が性根から腐ってないと信じてるんだろう?と聞く。

おせんが、ええ…と答えると、頼みますよと大原は言う。

河原の土手に座っていた天堂に近づいて来た大原は、あの女の人は何と言う名だ?良い女将さんになれると思うと話しかけるが、天堂は、人のことは構うなと言い返す。

人の幸せになるのは楽しみなんでな…と大原が言うと、俺は丁と出れば人を斬り、半と出れば地獄行きなのさと天堂が言うので、おぬし、気が弱いな?自分のことになると弱くなる…と大原は見抜く。

しかし天堂は、俺はお前やおせんに言い負かされるほど弱くはねえんだ…と言いながら、小川を横切って向こう岸に逃げる。

すると大原も小川を渡って後を付いて来て、おぬしは業情っ張りだ…と告げる。

俺やおせんさんに任せるんだ、率直に言おう、おぬしが好きなのだ、ただ好きなのだ、ただ一言うんと言ってくれと大原は迫る。

その頃、太鼓を荒川に取りに行っていた平吉は、太鼓を持ったまま賭場の前で入るか入るまいか迷っていた。

結局入り、裸になって出て来るが、諦めきれずに又入り、大八一家の者から、20両とは吹っかけやがったなと呆れられる。

太鼓を持った相手が長谷部村の平吉と聞いた兄貴分は、良し、貸しやしょうと言い出す。

ありがとうございますと感謝した平吉だったが、それでも負けてしまい、この太鼓は明日の晩の盆踊りで必要で、借りに来たんです。

村まで届けようと思いますと頭を下げると、俺の一存では決められねえ、親分が何と言いなさるか…と兄貴分は答える。

それを聞いた大八は、大原の野郎、こんな奴が村にいることを知ったら何と言うか、おめえ大原の組合に入っているのか?と聞くと、入っていると平吉は言う。 そして平吉は、親分、この太鼓を届けに行く暇を下せえませと頭を下げる。

それを聞いていた長尾は、大八、いよいよ大原を打ち取る時が来たようだな?おい人数を揃えろ!大原の教会なるものを壊すのだ!と命じる。 それを聞いた大八は、20〜30人じゃ少ないでしょうから、明日の朝出かけるようにしましょうと答える。

長尾は、庭の男には少し言い聞かせないとな…、聞かぬはずはないと言う。

散々痛めつけられた平吉は、御上に対して謀反を何のとは、そんな話聞いたこともないだ…と答えるが、偽りを申すか!役人に嘘をつくとただではすまぬぞ!何を企んでいるか分からんと思うか!と長尾は責める。

しかし平吉は、知らねえ者は言いようがねえと拒否する。 大八、良いから、白状するまで庭の木にでも縛り付けておけと長尾は命じる。

大八の子分たちに木に縛られた平吉は、言わねえと痛い目見せるぞと脅され、鞭打たれる。

風速計 大原と組合の農民たちは笑顔だった。

今年の秋は豊作じゃ、今夜の用意にかかろうか?と大原は農民たちに声をかけるが、なかなか平吉が戻って来ないことを気にかけていた。

農民たちは、平吉のことですから、今頃荒川を出た所でしょうなどと答える。

その平吉は木に縛られ、拷問された上で、大八から、長尾の旦那の言う事を聞いたら、荒川に身内にしてやると説得されていた。

翌朝、馬に乗った長尾や大八を先頭に、大八一家が向かって来る。

一方、大原の組合の農民たちは、祭りの準備の為やぐらを組んでいた。

御神燈と書かれたた提灯がぶら下がり、飴売りの口上を聞きに、赤ん坊を抱いた天堂も来ていた。

そこに、先生!荒川の奴ら来やがった!と次郎吉一家の者が知らせに来たので、その子分に赤ん坊を抱かせると天堂はおせん茶屋に走って行く。

おせん茶屋に帰ってきた天堂は、おせんからいつものように酒徳利を受け取りながら、おせん、そう難しい顔をするな、今夜はおいらの喧嘩稼業の最後の夜だ、底抜けに飲もうぜと言ったので、それを聞いたおせんは、お前さん!と喜ぶ。

次郎吉が待っている所に駆けつけた天堂は、町の皆さんに迷惑がねえように、村の外れに行きやしょうと提案し、次郎吉も承知したように、そろそろ尻を上げやしょうと答える。

その後、大八たちの同性を監視に行っていた見張りが戻って来る。

それは本当か!長谷部村に向かっているんだな?と次郎吉と天堂は報告を聞き驚く。 大八たちの目的は次郎吉一家ではなく、大原と組合の農民たちだと分かったからだった。

大原と組合の農民たちの踊りが始まる。 おせん茶屋では、おせんが集まった女たちに、今夜は思いっきり騒ぐんだ、あたしは今夜うれしいから…と指示していた。

そこに、天堂が帰ってきたので、お前さん!荒川との喧嘩はどうなったんだい?とおせんは聞き、喧嘩はなくなったと聞くと、私、もう斬った斬られたのと心配せずにすむんだ、何で余計なものが出るんだろう?と涙を恥じながら喜ぶ。

あたしゃもうお前さんをどこにも行かしゃしないよ!嫌だよ、黙ってばかりじゃ…とおせんが甘えると、せっかくの酒頂くぜ!と言いながら、天堂は持っていた徳利の酒を差し出し、この貧乏徳利にはおめえの気持が籠っているよ!と笑ってみせる。

店先での会話なので、上がったら?あんたの店じゃないの、今日はゆっくり飲むはずじゃなかったの?あたしもいくらでも付き合いますよと言うおせんに、天堂が徳利の酒を注いでやると、その代わり、今日はあたしが介抱されますからねなどとおせんは笑いかけて来て飲み干すと、もう1杯頂戴とねだる。

私ゃ今夜はうれしくてしょうがないんだよと言いながら、おせんは天堂に抱きついて来る。 その時、祭りの太鼓の音が聞こえて来る。

天堂は決心したように、おせん!俺は行くぜ!と言い出す。

大原と組合の農民たちは、櫓を囲んで踊っていたが、その時、鉄砲音が響いたかと思うと、大八と長尾たちが姿を見せる。

それに気付いた大原は、櫓の上からゆっくり降りて来て対峙する。

その頃、おせん茶屋では、おい、止さねえか!と止めるおせんの手を天堂が振り切ろうとしていた。

ぶたれても構わない!お願いだから行かないでおくれ!生まれて初めて掴んだ幸せを離さない!とおせんは必死にしがみついて来る。

すると天堂は、俺はおめえを女房だと思っていたんだ!今の今まで…、それがてめえ1人の幸せだけ望むなんて…、もう女房とは思わねえ!と叱りつける。 行ったら、あんた帰らないじゃない!人の為に死ぬなんて!とおせんも抵抗する。

俺のようなクズ人間が真っ当になろうとするには、命捨てる気でやらないと…、それをおせん!見届けてくれ!と天堂は説得するが、おせんは、いや!いや!クズでも何でも構やしない!お前さんに生きていて欲しいんだよ!と叫ぶばかり。

それでも天堂は、俺が一旦こうと決めたら聞かない事を知ってるだろう! 行かしたら、お前さん、二度と帰って来ないんだものん…とおせんはすがる。

離さねえか!と叱り、おせんを突き放す天堂だったが、起き上がったおせんは必死にしがみついて来る。

おせん!勘弁しろよ!と叫ぶと、天堂は店の外に出て行く。

お前さん!と嘆くおせん。 外に出た天堂は、長谷部村の大原たちの元へひた走る。

長尾と大八に対峙していた大原は、私が幕府に対し謀反の気持になりますか?あなたが組合探索に来られた時、何か証拠でもありましたか?と落ち着いて語りかけると、こちらには生きた証拠があると長尾が言い、籠から半死半生の平吉を引き出してみせる。

農民たちは、平吉ではないか!と驚く。

大原の前に引き立てられた平吉は、先生!と大原に呼びかける。

疾走する天堂。 さあ平吉、昨夜貴様が白状したことをもう1度言ってみろ!と長尾が迫るが、おら…、罰が当たったんだ…、先生に黙ってサイコロいじっていた罰が当たったんだ…と平吉が言うので、自白を繰り返すのだ!と長尾は怒鳴りつける。

しかし平吉は、嘘だ!嘘だ!大原先生に悪巧みなんかあるものか!踏んだり蹴ったりしておらに言わせようとしたんじゃないか!と叫ぶ。

何度でも言ってやるぞ!こんなに大勢の友達の前で言ってやろう!折檻しやがったんだ…と平吉が言うので、平吉!裏切ったな!と長尾は刀を抜き、倒れていた平吉を斬ろうとする。

その時、その件の前の平吉の身体を飛び越えて振り返ったのは駆けつけた天堂だった。

年に1度の盆踊りの邪魔をする奴は、天堂小彌太が相手になってやる!と長尾を睨みつけて来たので、今日の所は手を引いてくれ、長尾主馬之介、吟味の筋があったんだと長尾は天堂に言い聞かせようとする。

すると天堂は、ちょっと河原まで来てもらおうと長尾に言い、おい、ヘボ学者!と大原に呼びかける。 大原はそんな天堂に、天堂、良く来てくれた!と感謝する。

大原、おめえ本当にそう思ってるのかい?とうれしそうに呼びかけた天堂は、よしきた!人間のクズたちも河原で踊り始めるぞ、決して覗きに来るんじゃねえぞ!クズたちの踊りを見るのはあれだけだ!と天堂は言い、夜空の満月を指差す。

天堂と長尾、大八一家が河原に向かうと、大原は農民たちに、皆さん、元気に踊りましょう!それがあの男に報いる何よりの道じゃ!と呼びかける。

河原にやって来た天堂は、今度生まれて来る時は、お互いクズにならないように気をつけようぜと笑いかけ、クズはクズだ!人きりか業の店終いだ!仲良く一緒に踊ろうぜ!と言いながら、斬り合いを始める。

盆踊りの笛太鼓に合わせ、農民たちの踊りも、天堂の剣の舞も同時進行で進んで行く。

大八を斬った天堂は、川の中に入ると月を見上げて左手を上げて笑いかける。

3人のヤクザを斬った直後、天堂も又その場に倒れ込む。


 


 

 

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