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東京の瞳

川口松太郎原作で息子さんの川口浩さん、山本富士子さん、船越英二さん、根上淳さん、若尾文子さん、川崎敬三さん、黒メガネ姿の柴田吾郎(田宮二郎)さんなど、当時の大映の若手が勢揃いした恋愛映画。

山本富士子さんの歌うシーンがあったり、古めかしい失恋お涙シーンがあったりと、文芸ものと言うよりもうちょっと砕けた感じの通俗娯楽作品ではないかと思う。

山本さんと船越さんコンビがやや年長の大人びたカップル役で、若尾文子さんと川口浩さんが まっすぐな青春コンビと言った所だろうか?

山本富士子さんの映画はあまり見た記憶がないのだが、この当時は20代後半くらいらしく、劇中の設定よりはやや年上と言うこともあり大人びた雰囲気になっている。

子供や若者が憧れるアイドルタイプと言うより、本作での設定通り、昔の中高年が好んだ大人びたお色気のあるタイプなのではないだろうか。

今、山本さんのような大人びたタイプの女優さんはあまりいないような気がする。

企業が自社提供のPR番組を持っていて、そこに新人を起用するなどと言うことが既に始まっているのが分かる。

そう云うTV番組を通俗とバカにしているデザイナー役の船越英二さんが話している芸術論なども今聞いているとさすがに古めかしい。

当時は抽象画などが流行っていたので、もっともらしい理論武装が流行っていたのだろうが、画面に登場する絵画の力のなさを見るに付け、理論武装の方の薄っぺらさも透けて見える。

映画用の小道具として登場する絵に力がないのは仕方ないとは言え、理屈で描く絵に説得力や普遍性があるはずもないと言うような芸術風刺の要素もあるのかもしれない。

50年代頃の映画には、こう云う油絵などを描いている芸術家志望の青年を美化しているような描写が時折見られるが、ここでの船越さんは商業美術を生活の糧にしているようなので、一応生活は出来ると言うことだろう。

男勝りのおしゃべりなデザイナー役を演じている倉田マユミさんはこの頃痩せていらして、どう見ても「ハリセンボン」の箕輪はるかさんそっくりなので驚く。

「よろめく(浮気)」などと言うセリフも時代を感じさせる。

ホンダとのタイアップなのか宣伝臭い部分が目立つが、途中の自宅の火事のシーンなどの表現はリアルで驚く。

炎の大きさから見てミニチュアではなく、屋外に実物大の建物を建てて実際に燃やしたのではないかと思うほど。

焼け跡のシーンなども本物にしか見えない。

この作品も当時の映画としては珍しくエンドロールがある。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1958年、大映、川口松太郎原作、舟橋和郎+星川清司脚色、田中重雄監督作品。

バラの花を背景にタイトル

「ホンダモータース 立入禁止」と書かれたレース場ではバイクの試験走行が行なわれていた。

整備工の堺和男(川口浩)がバイクでコースから注射時雨に戻って来ると、どう?と整備士が聞いて来たので、異常なし!と答え、食堂へ向かう。

食堂では又今日もカレーだったので、マンネリだよと他の工員仲間と一緒に食べ始めるが、あまりに辛いので、一種の安易主義だなどと文句を言うものが多く、通りかかった栄養士の本田洋子(若尾文子)に、今日のカレーは辛すぎるよと和男は抗議する。

すると洋子は、カレー粉増やせって言ったの誰だったかしら?実費30円でカレーを改良するにはカレーしかないわと反論して来る。

その時、厚生課の本田洋子さん、社長室へおいで下さいとアナウンスが聞こえる。

社長室では海外向けの新商品ポスターの一般公募デザインの審査中で、洋子の父親で社長の本田彦次郎(千田是也)が、洋子、どれが良いと思う?と聞くので、これが良いわ、富士山を背景にと言うのはちょっと通俗だけど、配色のセンスが良いわと1枚の作品を選ぶが、そのデザイナー名が堺晶子、23歳と書いてあったことに気付くと、この方、堺さんのお姉様じゃないかしら?と指摘する。

デザイン事務所では、野中良介(船越英二)が、小難しい芸術論をオネエっぽい春木重吉(川崎敬三)ら仲間たちに披露していたが、そこにデザイナーの堺晶子(山本富士子)宛の電話が入る。

電話の相手は和男で、姉さん、ビッグニュースだ!ポスター1等賞に当選したんだ、10万だぜ姉さん!奢ってくれるだろう?姉さん!と会社から電話をかけていたので、何でも好きなもので良いわと晶子は笑って答える。

飯にするか?と野中がみんなに呼びかけると、良さん、奢るわ!と晶子が声を駆けて来たので、春木らも喜んで付いて行こうとするが、悪いけど、良さんだけよと晶子は釘を刺す。

レストランで骨付きチキンのグリルを食べた野中は満足そうだったので、晶子はさらにフルーツ頂戴とボーイに頼む。

それを見た野中は、大丈夫かい?どう言う風の吹き回しなんだと晶子の気前の良さに警戒するが、アルバイトのデザインが当選したのよと晶子は打ち明け、野中が手慰みに描いていたスケッチを取り上げると、未来のアトリエ?と聞く。

これは何?とアキ子が聞くと、マチス式ステンドグラス、これはおふくろと野中は言う。

エプロンしてるのは?と聞くと、女中さんでモデル兼人工衛星か、名前はルルとつけようと野中が言うと、ルル、あんたは首よと晶子は絵に向かって言う。

良さん、今何描いているの?と晶子が聞くと、人間の喪失…などと野中が言うので、良さんは絵描きの生きている芸術良心みたいと晶子は褒める。

私その絵見たいわと晶子が言うと、どう?今度の休みでは?と良さんが応じたので、じゃあ太陽の沈む頃と晶子は時間を言う。

ホンダモータースの社長室には、1等の晶子と佳作入賞者の4人が夫々のポスターをバックに並んで授賞式を待つ。

社長の本田が、弟さんは優秀な検査工ですと言い、賞金10万円のは言った封筒を渡そうとすると、宣伝部長の町田(伊沢一郎)が写真を1枚と要求する。

カメラマンがシャッターを押そうとするので、本田と晶子が封書を渡し、受け取るポーズを夫々決めるが、フラッシュが付かないので、何度も同じポーズを取らされる。

挙げ句の果てに、握手をして下さいとカメラマンが言い、本田が持っていた封筒を自分の上着のポケットに仕舞って写真を撮り、そのまま退室しようとするので、気付いた町田が、君、ポケットのもの!と言って取り戻す。

本田は晶子に、うちのTVに出てもらえませんか、ミュージカルショーなんですと誘うので、町田は慌てて、社長、佳作入選の方にも…と声をかけ、失態に気付いた本田は、失敬、失敬と他の当選者達に詫びる。

食堂に集まっていた整備工達は、サイクリングの計画を話していたが、自転車じゃつまらないから、どうせなら会社からバイクを借りて行こうと言い出し、宣伝目的と言って会社名の入ったジャンパーも借りようと提案する。

一方、栄養士の洋子は、社員達からの要求メモを1枚1枚読んで苦笑していたが、やがて和男が自分とキスをしているイラストが入っていたので、恥ずかしくて紙を一瞬隠すが、そっとうれしそうに見直す。

会社の終業後、工員達が帰って行く中、洋子は途中で待っていた和男と合流する。

待った?と洋子に聞かれた和男は、ちょっとと答える。

パパと話し込んでたのよと洋子が並んで歩き始めたので、会い面が来たら離れた方が良いよ、うるせえんだと和男は同僚達のことを言う。

姉さんのこと、どう言ってた?と和男が聞くと、気に入ってたわ、才色兼備だって、今度TVに出るんですってね、パパの会社の、町田宣伝部長が口説いたらしいのよと洋子が話していた時、予想通り自転車で近づいて来た工員仲間が2人に気付いて、周囲を回り始める。

その夜、先妻を亡くして独身だった本田は妹の木村夫人(村田知英子)からしつこく縁談を進められ、困惑していた。

松本夫人だっけ?相手は随分おばあさんじゃないか、私よりまずは洋子をやらんと…と、まずは娘の結婚の方が先だと断る。

洋子さんは金山さんと決まってるんでしょう?いつご婚礼を挙げるの?そこに洋子が合流して来たので、お兄さんはもっと若い人が良いんですってと木村夫人がからかうと、和服が似合う人だよと本田が言うので、和服が似合うと言うと芸者辺りかな?と洋子が言うと、茶を持って来た女中(高野英子)が笑い出したので、木村夫人は何がおかしいのと睨みつける。

次の日曜の夕方、約束していた洋子がなかなか来ないので、ごちそうを作って待っていた野中の母親春子(滝花久子)は心配し、迎えに行ったら?と野中に勧める。

しかし、その頃洋子は、本田モーター提供のニュースタイルのミュージカルショーの生放送TVスタジオにいた。

4人の緑の服を着た女性が踊り、その後から赤い服を着た男性とミニスカートの女性が登場し踊り始めると、町田宣伝部長がキューを出し、ドリーム号などと書かれた看板を背に脇で待機していた晶子はマイクの前で最高時速130kmなどと用意されていた宣伝文句をしゃべり出す。

人が集まっていた電気店の前でTVに出ている晶子を見た野中は、下らん、実に下らん!と怒って帰宅したので、どうしたの?晶子さん…と春子が聞くと、春木!飯食いに来い!と裏に住んでいる春木を呼ぶと、お母さん、ビールある?TVに出てるんだよ、来ない訳だよ、今オートバイ会社の宣伝べらべらしゃべっているよと憤慨する。

図案家がポスター描くのは良いよ、自分がその中に入ってどうする!と野中がぼやいていると、野中がやって来るが、一緒に原マリ子(倉田マユミ)も連れて来たので、お前か…と野中は呆れる。

一方、生放送を終えた晶子は、本田や洋子、和男と一緒に本田の家で慰労会に出席していた。

町田宣伝部長が、察しく電話がじゃんじゃんかかって参りまして、今出ていた女性は誰かとの問い合わせが来ておりますとうれしそうに報告する。

晶子は野中の家を訪問する約束も覚えていたので時間を気にするが、隣に座っていた和男は、遅れついでにすっぽかしちゃいなよ、せっかくこんなお祝いをしてくれたのに悪いよと囁きかける。

そんな和子に、迎え側に座っていた洋子が、晶子さん、お酒は全然いけませんの?などと話しかける。

すると和男が、姉は歌も巧いんですなどと売り込んだので、それを聞いた本田は、すぐに企画をなどと言い出し、洋子からパパ!と注意されると、いかん、すぐ仕事の話に夢中になって…と反省する。

そこにこんばんわと姿を見せたのが、洋子のフィアンセの金山信次(柴田吾郎)で、本田は、ハワイの大学を出ているんだとみんなに紹介する。

洋子さん、今度ニューカー買いました、今度の日曜ドライブしませんか?などと誘うが、洋子は興味なさそうだった。 その頃、野中の家では、すっかり酩酊したマリ子が、分かった?春木君!などと男勝りにしゃべりまくり、ビールはいかんなどとぼやきながらトイレに行く。

それを見ていた野中は、良くしゃべるねと呆れるが、トイレの中からも、惚れて、惚れて〜♩などとマリ子の歌が聞こえて来る。

慰労会の方では、晶子が本田とダンスを踊っていた。

それを見ていた重役達は、社長、大分ご機嫌だぞとか、全くあいつはきざな奴ですな、鼻持ちならない奴ですななどと洋子と踊っていた金山のことを貶していた。

その間、和男はテラスに出て、1人オルゴールを聴いていたが、そこに出て来た洋子が、踊らないと誘う。

和男は、良いです、フィアンセと踊ってらっしゃいと勧めると、これ、パパがオランダに行った時、ママの為に買って来たものなのとオルゴールの説明をし、これ、あなたに挙げても良いわ、ママへの会いの印と言ったじゃない、だから…と洋子は言う。

その後、帰宅した和男と晶子は、婆や(浦辺粂子)から、神戸のお兄様がお見えですと言われる。

長男の堺茂(根上淳)は沈んでおり、商売がダメでね、中小企業は今ダメだね、今度出て来たのは折り入って頼みがあるからなんだ、100万ほど必要なんだが、半分はめどが立ったんだが、この家をしばらく貸してくれないか?この家を担保にして金を借りたいんだ、どうだろう、和男?と切り出して来る。 父さんが死んだ時、動産は兄さん、不動産は俺たちにって言ったのは兄さんじゃないか!と和男は反論する。

私はいずれお嫁に行くから良いけど、和男ちゃんには父の形見を遺してやりたいと晶子も言い、10万くらいならあるんだけどと言うが、10万では役に立たない、1年先には必ず返すから…、このままでは神戸に帰れないと茂は泣きつく。

しかし和男は、1年先に良くなるとは思えない、兄さんが倒れたら僕たちも共倒れだよ、これ以上言っても堂々巡りだよと和男は不機嫌なままだった。 翌日、デザイン事務所では、春木がマリ子に、マリちゃん、変だと思わないかい?今朝から冷たい戦争だよと深刻じゃないか?原因は何かね?とマリ子に耳打ちする。

確かに私が悪かったわと晶子は約束をすっぽかしたことを詫びていたが、野中はそんな言葉は聞いてないように、茂!それこっちに持って来てくれないか!と仲間に呼びかけ、モールの飾り付けをする。

次の日曜日、和男達は計画通り、会社の名前入りのジャンパーを全員着て、バイクで海にサイクリングに来ていた。

しかし、帰る時になっても和男が寂しそうに1人リンゴをかじり、女子工員達の言葉も耳に入らないようで、食べかけのリンゴを海に放り投げる。

そこに新車でやって来たのが金山と洋子だったが、ごめんなさい、実はあちらが先約なのと言いながら、勝手に洋子は車を降り和男の元へ近づく。

酷いわ、私1人、置き去りにして!知らない!つむじ曲がり!と和男に洋子は文句を言い、そのまま全員バイクで帰って行く。 1人新車に残された金山は唖然として遠ざかって行く和男達を見送る。

TVショーでは、司会者(ジョージ・ルイカー)が堺晶子さんと晶子を呼び寄せ、1曲歌っていただきましょうと紹介すると、「あの人だけに」を歌わさて頂きますと晶子は言い、歌を歌い始める。

それをデザインルームで見ていたマリ子達は、アキちゃんって心臓ね、才能多彩などと感想を述べあっていたが、春木は、神様って不公平ね、アキちゃんとマリちゃんでは…などと言ってマリ子を怒らせる。

しかし、そんな中、野中だけは一切テレビを見ようともせず、仕事に打ち込んでいた。

本田も自宅でTVを見ていると、洋子は、パパ、プロポーズしたら?と言うので、親をからかう奴があるか!お前は行動派だなと本田は呆れていたが、そこに女中が、木村様の億様が参りましたと伝えに来たにで、断ってくれないかと本田は洋子に頼む。

しかし、もう木村夫人は上がり込んでおり、是非お話ししたいことがあるのよと本田に迫って来る。

本田は急場凌ぎで空咳をしてみせると、あら?お風邪、いけませんわねと木村夫人が驚くので、その会話を聞いていた洋子は苦笑する。

和男は仲間とバーに来るが、店の奥で1人飲んでいた茂を見つけ、兄さん、まだ東京にいたの?と側に寄る。

あれからおばさんの所にいるんだと茂が言うので、金出来た?出来ないから東京に残っているんだ!と不機嫌そうに茂は言う。

随分酔ってるな…と和男が呆れると、姉さんも待っているから帰ろうよと勧めるが、お前みたいな薄情な奴はいない、貴様って奴は自分さえ良ければ良いんだ、近頃流行のドライって奴か!などと言いながらグラスの酒をかけて来たので、思わず和男はビンタし店を出る。

帰宅した和男は、子供の頃、親子5人で写った家族写真を見ていたガ、そこに晶子が帰って来たので、兄さんに会ったよ、バーで、あんまりひねくれているんでつい殴っちゃった…と教える。

考えて見ると運のない可哀想な人なんだよと和男が言うと、兄さん、仕事が巧く行かないのであんなにムキになっているのよと晶子も同情する。

結局頼りになるのは僕たちだけだって言う事だろう、何とかしてやりたいな…と和男は考え込む。

翌日、晶子はデザイン会社から電話をしていた。

何?どうしたの?と野中が聞いて来るが、ちょっと…、良さんには関係ないことと晶子は言葉を濁す。

野中は、僕ちょっとこれ届けて来るとポスターを持って出掛けて行く。

その途中、野中は晶子が喫茶店に入るのを目撃したので、気になって尾行し店に紛れ込み、こっそり晶子の様子を盗み見る。 すると晶子は本田と会っており、50万の小切手を描いてもらっている所だった。

晶子は、今日は急な思いつきだったもので、家の権利書なんて用意して参りませんでしたと詫びるが、そんなことは良いですよと本田は鷹揚に答え、野中はウエイターが注文を取りに来たので慌てて帰る。

本田は、それより、うちの専属になっていただけないでしょうか?図案の仕事ならうちの宣伝部でも出来るじゃないですかと晶子に迫るが、今の所が良いもので…と晶子はやんわり断る。

野中は晶子が金に困っていたことを知り悩む。 一方、会計をしていた本田に、本田様ではございませんか?と声をかけて来たのは、見知らぬ夫人で、いつも木村様の奥様からうかがっております、松本でございますと言うので、本田は常々木村夫人が自分の再婚相手として勧めている相手だと知る。

松本夫人はべらべらとムダなおしゃべりをしていたが、あら?お連れ様がいらっしゃいましたの?と背後にいた晶子に気付いて驚くと失礼を詫び遠ざかる。

しかし、本田と晶子が店から出て行くと、すぐに木村夫人に電話を入れる。 電話を受けた木村夫人は、え?兄が若い女性を!信じられないわ、兄がよろめくなんて…と驚く。

その後、野中から金を借りた事情を聞かれた晶子は、50万なんて大金、良さんでもどうにもならないじゃない…と言うと、何の代償もなしに金を渡すとは思えない、TVで歌うなんて!最近の君の図案はなってない、浮き足立っているんだと野中が厳しいことを言うので、私は人の誠意を信じるわと晶子は反論するが、仕事に千年したらどうだ?申して自分をダメにするんだ!と野中がしつこく責めるので、もう良いわ!兄さんにお金が必要なんですから、お先に失礼しますと言い、晶子は去って行く。

銀座の森永チョコレートの回る球形広告塔を背景に、山本不二子さんの歌う主題歌が重なる。

その後、晶子と喫茶店で会い、金を受け取った茂は、本当にすまなかったな、本当に恩に着るよと礼を言う。

和ちゃんの事許してねと晶子が言うと、悪いのは俺の方さ、和男が怒るのも当然だ、和男に宜しく言ってくれと茂が素直に言うので、兄さん、私たち仲良くしていきましょうね、他に身寄りはないんですから…と言い、列車の中で食べて、兄さんの好きなもの…と紙包みを晶子が差し出したので、甘栗だろう?と茂は笑う。

兄さん、頑張ってね、義姉さんに宜しくと晶子は見送り、金が出来て笑顔になった茂は去って行く。

夜、帰宅途中の晶子の脳裏には、地に足がついてないんだ、社長にちやほやされて浮き足立っているんだ、どうして自分をダメにするんだ、もっとプライドを持てよと言っていた野中の言葉が蘇る。

その時、消防車のサイレンの音に気付き自宅の方を見ると火事が起きていた。

慌てて駆けつけると、姉さん、ダメだ!と逃げ出して来た和男と婆やに出会う。

自宅はもう炎上していた。 その時、いけね!忘れてた!と言い、和男は燃え盛る自宅に駈け戻る。

そこにあったのは洋子からもらったオルゴールだった。

翌朝、すっかり焼け落ちた自宅の前で、右手に包帯をしていた和男を洋子が労っていた。

そこに火事を知った本田と洋子が大変でしたねと見舞にやって来る。

怪我したの?と洋子が和男に聞くと、坊っちゃまはこれを鳥に火の中に飛び込んだんですよと婆やがオルゴールを指して説明するので、まあと洋子は驚く。

洋子は本田に、抵当に取っていただくはずの家がなくなって…とうなだれると、最初からそんなことは考えていませんでしたよ、社長が従業員の家を抵当に取れませんよと本田は笑う。

その時、咳き込み出した和男の額に触れた洋子は熱があることに気付き、本田家に連れて行くことにする。 洋子は、離れを洋子と和男に使わせ、自分の洋服などを着てくれと持って来ると、和男の氷枕を取り替える。

和男の枕元に置いてあった自宅を開けて洋子が聴き始めた様子を見た晶子は2人の関係に気付き微笑む。

一方、晶子の自宅の焼け跡にやって来た野中は、転居先として立て看板に書かれていた渋谷の本田邸の住所を読み、肩を落として去って行く。

翌朝、離れにやって来た洋子が和男にお早うと声をかけると、おとなしく寝てられるかいと和男が無理に起きようとするので、だめよ、当分寝てなくちゃ!と洋子は叱る。

おばさまが来てるのよ、考えたの、夕べずっと…と洋子が言い出したので、何事かと和男が真顔になると、パパの結婚…と言うので、何だ…と和男は拍子抜けする。

すると、パパは晶子さんを真剣に愛しているのよと洋子が言うので、え!ショックだな〜と和男は驚く。

パパは仕事だとリアリストなんだけど、私生活ではウエットなの、お姉さんに誰か好きな人がいる?と洋子が問いかけると、聞いてないと答えた和男は、すげえことになって来たな、待ってくれよ、と言うことは、社長は僕の義兄さんになるってこと?と和男は言い出す。

あなたは私の義理の伯父さんと洋子も付け加える。

屋敷内では木村夫人が、姓名判断したら松本さんとは良いんですよなどと、まだしつこく本田の再婚話を勧めていた。

しかし本田が興味なさそうなので、やっぱり良い人出来てるのね?情報入ってるのよと木村夫人は松本夫人からの電話の件を持ち出す。

このままではいけないわ、私たち…、あなたは打ち解けてくれないし…とビルの上で野中と会った晶子が言うと、話したって聞き入れないじゃないかと野中の方も苛立ったように反論する。

無理よ、出て行くなんてと晶子が、本田邸を出ろと言う野中に抗うと、君は甘言に乗せられているんだよと野中は、本田の悪口を言う。

本当の親切よ、あの時どこへ行けば良かったの?私たち…、あなたの所?と晶子は反論する。

もう遅いよ、君はTVに出たり歌ったり、恩を売る社長の目論み通りになっているんだと野中が言うので、私、出来るだけのご恩返しはするつもり、嫌いになったのね…と晶子が哀しそうに答えると、君が変ったんだ、僕たちの道はどこまで言っても平行線だよ、渡る橋のない…と野中が言うので、もう良いわ、分かったわ…と言うと、野中が去っていってしまったので、残った晶子は泣き出す。

一方、離れで寝ている和男の元を訪れた洋子は、枕元においてあるオルゴールを見て、和男の口にそっとキスをして去って行く。

狸寝入りをしていた和男は洋子が出て行くと目を開け、キスされたうれしさで、布団の上ででんぐり返りをする。

そこに晶子が帰って来たので、何だ、姉さんかと和男はがっかりするが、熱下がった?と聞かれたので、もう大丈夫だよと答える。

本田邸の母屋の方では、パパ、良いことがあるわ、希望を持って良いのよと洋子が本田に話しかけていた。

おかしな奴だな?と困惑する本田の前で、晶子はピアノを弾き出す。

姉さん、結婚しなよ、社長を幸せにできるのは姉さんだけだよと、離れでは和男が晶子に勧めていた。

洋子さんも大成功だって、全く驚いたな〜、社長とだなんて、僕だって好きだったら絶対捕まえるよ、姉さん、社長を絶対幸せにしてやってよと和男は勧める。

自宅で油絵を描いていた野中に、お前、何時まで会社を休んでいるんだい?と母親の春子が案じて聞くと、仕方ないよ、展覧会が迫っているんだからと野中は言う。

そんな息子の絵を見た春子は、お前変な絵を描いてるねと言うので、このグレーは貧しさの悲哀だよと野中は答え、このびらびらした牛肉の細切れみたいなのは?と春子が聞くと、人間の悲哀だよと言う。

その時、ノックの音がしたので玄関に向かった春子が、晶子さんよと言う。

今日は大分冷えますね、良い塩梅に雨が上がりましたねなどと言いながら晶子を部屋に招き入れた春子は、気を利かして買い物に出掛ける。

何だ、用事は?とつっけんどんに野中が聞くと、お仕事が住むまで待ってるわと晶子が言うので、良いよ、言ったら良いじゃないかと野中は勧める。

すると晶子は、私、社長さんに結婚申し込まれたのと打ち明けたので、やっぱり僕の言った通りになったじゃないかと野中は嘲る。

良さんどう思う?と晶子が聞くと、反対する理由ないじゃないか、結婚は自分の意思で決めるべきじゃないか、もうこれ以上僕の意見はないね、君はそれで幸せを掴めるんだろう?と野中は突き放したような言い方をする。

晶子は泣き出すが、おめでとう…と言いながら、野中は煙草を口にする。

それで良いんだ、長い友人として幸せを祈るよと言う野中の言葉を背に晶子は帰るが、帰り道でも晶子は泣いていた。 (山本富士子さんの歌う歌が重なる)

展覧会が始まり、見に来ていた春子は、お前の絵は変だと思っていたけど、他の絵を見るとまだマシだね、あれなんか、キ○ガイ病院の患者作みたいだよなどと言いたい放題だった。

そこへ春木があの人が君の絵を買いたいと言っていると知らせに来る。

京橋の画商江原久蔵(星ひかる)と名乗る男は、あの絵を10万で買いたいんです、気に入ったんで、たまには商売抜きで買ってみたくなりまして…と野中に話しかけて来たので、野中も驚くが、側で利いていた春子も泣き出し、良かったね、晶子さんにも喜んで欲しかったねと言うので、もう良いよ、その話…と野中は遮る。

春木も、おめでとう、へえ、これが10万か…と野中の絵を見ながら首を傾げる。

その後、野中の絵を晶子の元へ持ち込んだ江原は、お嬢さんの目は高いですよ、あの人の絵はその内売れますよと褒める。

その絵を見た和男は、姉さん、どうしたって言うんだい?と訳を聞くと、良さんには黙っといてね、貯金を全部降ろして買ったのよと晶子が言うので、良さん、好きなんだろう?と和男は気付く。

姉さんだって、結婚するまで1人や2人いても良いでしょう?ととぼける晶子に、どうして僕に打ち明けてくれなかったんだよ!と和男は苛立つ。

社長と結婚するって決心したのよ、心配しなくて良いのよと晶子は言うが、一緒に話を聞いていた洋子も、何を言ってるんですか晶子さん、本当に愛してらしたのなら、どうしてパパの話承知したの?忘れられないから、絵を買ったんでしょう?と問いつめる。

あなたはそれで良いんでしょうけど、パパはどうなるの?どうして私にだけでも言って下さらなかったの、あんなに喜んでいるパパを見てると…、恨むわと洋子は責める。

しかし晶子は、私は前に愛していたの、でも溝が出来たの、現実のことが溝を作ってしまい、その時にお父様が救って下さったのと言い訳するので、分かんないわ、そんなの!その絵を見るたびにパパを裏切っているのよ、今でもあなたは愛しているんだわ、あなたの心にはちゃんとその人がいるわ!と洋子は指摘する。

それでも晶子は、私は現実を無視して夢になんか生きてられないのと頑なので、女はどうして出来ないと思ってるの?抱きついて愛してくれって言うのよ、貧乏だから出来ないって言うの?現実の生活とかでごまかしているんだわ!愛するのよ!そう言う考えがみんなを不幸にしているのよ!と洋子は説得する。

すると晶子は、あなたのおっしゃる通りです、私もう一度あの人と会ってきますと言い出したので、分かってくれたの、うれしいわと洋子は喜ぶ。

あなたのお陰で勇気が出ました、本当にありがとう、これから行ってきますと晶子は言いながら玄関に向かったので、和男がコートを着せてやり見送る。

晶子が出掛けると、和男は洋子を抱き寄せキスする。

僕たちは姉さんたちみたいにならないようにしようと言うと、和男は再びキスをする。 自宅に来た晶子から事情を聞いた野中は、じゃあ君があの絵を買ったと言うんだね?どうしてそんなことを?と驚く。

あの絵をあなただと思って、一生暮らしていこうと思ったの…と晶子が打ち明けると、君の気持を知らなかった僕が浅はかだったんだよと野中は素直になる。 分かってくれたのね、良さん…と晶子が感激すると、ありがとう、もうこれからは互いに理解しあい、強く生きていこう、これからは決して離れはしないよと野中は約束する。

本田邸では洋子から話を聞いた本田が、そう云うことなら、これからは父親代わりをさせてもらうよ、お婿さんから父親さと答えたので、パパって良い人ねと洋子は感謝する。

早く分かって良かったんだよと本田は言うが、洋子はそんな本田の心中を察し、パパ、可哀想…、せっかく幸せになりかけたのに…と同情する。

悲劇と言うより喜劇だったな…、今度はしくじらないようにしようと自嘲しながらブランデーを手に取る本田に、嫌なパパと洋子は言う。

洋子、お前は幸せになってもらわないと困るよ、パパも今度の事で考えが変った、金山君の話は解消することにしよう、洋子も大人なんだから、お婿さんは自分で選んだ方が良いよと本田は言う。

パパ、ありがとう!私幸せだわと洋子が感謝すると、お前の幸せがパパの一番の慰めだよと本田は笑う。

離れでは野中の絵を前にして、和男がオルゴールを聴いていたが、そこに洋子が、和男さん、お姉さんからお電話よと知らせに来る。 母屋の電話口に和男を連れて来た洋子は、和男さん来ましたと電話口に伝えると、あなたに聞いていただきたかったの、おかげさまで私たち…と公衆電話ボックスの中から晶子が話しかけて来る。

そんな晶子と一緒にボックスに入っていたん中がキス使用したので、いけないわ、ダメ!と晶子が叱ったのが聞こえた洋子は、え?と聞き返す。

何でもないわ、色々ありがとうと晶子は礼を言うと、お二人、円満に行ったみたいよと洋子は後ろにいた和男に伝えると、和男がいきなりキスして来たので、ダメよ、聞こえるわ!と洋子が叱る。

それが聞こえた晶子が、何?と聞き返し、何でもありませんと聞くと、本当にありがとう、私、今自分の気持がどこにあるかはっきり分かった気がするの、ありがとう、さようならと言い電話を切る。

電話を終えた洋子は、何だかとてもきれい、今夜の東京の空…とうれしそうに呟く。

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