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大阪ど根性物語 どえらい奴

藤田まこと主演の戦前の大阪を舞台にしたど根性もの。

どうやら鈴木則文監督のデビュー作らしい。

葬儀屋を描いている所が異色で、主役の藤田さん以外にも、谷啓さん、犬塚弘さん、大村崑さんとか秋田Sすけ、Bすけさんとかお笑い関係の人が出ているが、笑う要素はほぼなく、喜劇と言うより人情話に近い。

若かりし時代の藤純子(富司純子)さんがヒロイン役を演じている。

後半登場する女性事務員のゆかりを演じている新城みち子と言う女優さんは(新人)とキャストロールで出て来るが、あまり馴染みのない方である。

きれいな方だが、どうやらすぐに映画界から去られたようだ。

良くある商人の出世物語で、後半の展開は予想通りと言った感じだが、素材の珍しさもありそれなりに楽しめる。

達者な浪花千栄子さんが出ているが、登場シーンは少なく印象も弱い。

東宝作品でもお馴染みの谷晃さんなどもちょい役と言った感じで出て来るし、汐路章さんなどもセリフもないちょい役としてちらり1シーンに出ている。

青島幸男さんがゲスト的に登場するのは当時の人気の現れだろう。

質屋に入った藤純子さんが、出て来た時にはおなかが大きくなって時間経過を現す辺りは工夫が感じられるが、内容も真面目なものと言うこともあり、監督デビュー作としては、まずは手堅いまとめ方だと感じた。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1965年、東映、長谷川幸延「冠婚葬祭」原作、中島貞夫脚色、鈴木則文脚色+監督作品。

大正元年、明治天皇崩御後の葬儀の様子を書いた新聞記事を涙ながらに音読する教師(谷啓)は、それを聞き一緒に泣いている教室内の女生徒の中でただ1人、全く無関心そうに泣いてない女生徒を発見、花房美津(藤純子)!畏れ多くも天使様のご葬儀の記事を読んでいるのに何故泣かない!と聞くと、うち葬式に慣れてますんやと美津が答えたので、そうやったな…何!と驚く。

女学校の前で大名駕篭の前で、下校時の美津を待っていたのは、大木勇造(藤田まこと)と三吉(阿波地大輔)だった。

帰宅する女生徒の中から美津を見つけた勇造が、とうはん!と呼びかけると、あんたら何!今日の駕篭のかき方!学校で頭痛うなったわ!そんな腕で一人前の葬礼屋になると思うてるの!と叱りつけ、駕篭に乗り込む。

三公、行くぜ!と声をかけた勇造は、一種に駕篭を担いで歩き始めるが、女生徒たちの集団に阻まれなかなか前に進めない。

焦れた美津が駕篭から顔を出し、あんたら2人とも足遅いのと違う!と叱りつける。

タイトル

良う!ご苦労はん!と駕篭を担いでいた勇造に声をかけて来たのは水を売っている水屋の市助(大村崑)だった。

駕為の店の前で、親方の花房為次郎(曽我廼家明蝶)や使用人の平助(汐路章)相手に、人力車に乗ったまま、さすが天使様のご葬儀やったで、葬儀屋土産や取っとけと平助に風呂敷包みを渡したライバル会社の親方駕花(阿部九洲男)は、そのまま愉快そうに去って行ったので、怒った為次郎は、平助の持っていた風呂敷包みを地面にたたき落とし、何をぼやぼやしとるんや!と使用人たちを怒鳴りながら店の奥へ入ってしまう。

そこに、美津を乗せた籠が帰って来る。

籠を降りるとき草履を出させた美津は、汚い草履やな?あんたら、ほんまにあかんな!と使用人たちを叱り奥へ入ると、1人焼酎を飲んでいた父親の為次郎に、お天子様の御葬儀に呼ばれなかったからってまだ怒ってはるの?商売で負けただけや、また頑張ればええ!とさばさばした言い方をする。

店の外では、仲良しの蜂谷重平(長門裕之)から中田の若旦那死んだらしいと言う情報を聞いた勇造が、ほんまか蜂ちゃん!と喜ぶといくらか小銭を渡してやる。

早速出向き、この度は若旦那はんのこと、お力落としのことで…、わいは駕為の者です、この葬式、わいとこに任せていただけまへんかと殊勝に挨拶すると、応対に出た男は不思議そうな顔をし、奥へ入ると、次に出て来たのは、竹刀を持ったその若旦那の中田(犬塚弘)本人だった。

出て行け!まだ死んどらん!風邪を引いていただけだ!俺は剣道3段や!と竹刀を振り回して怒るので、勇造は慌てて退散する。

勇造の額には大きなたんこぶが出来ていた。

すると、駕花を自転車の後ろに乗せ目の前を走り過ぎて行った市助の姿を見かけたので、急いで勇造も自転車で後を追う。

先に着いていた駕花と市助が遺族と対座している所に乗り込んで来た勇造は、この度は真に御愁傷様で…と挨拶したので、良く切れる方でしたなどと仏の知り合いのような言い方をしたので、市助がええかげんなこと言うなと怒ると、太刀の悪い水屋がおりましてな、最近は葬礼屋と組んでぽち稼ぎしてますのやと勇造は遺族の主人に伝える。

それを聞いて怒った駕花が勇造を殴りつけると、顔を上げた勇造が泣いているので、それに気付いた遺族の主人が、仏の為に涙こぼしてくれはりますのか?と驚く。

すると勇造は、仏様だけではなく、遺された若くて美しい奥さんのことを思いますと…と答えると、それを奥の部屋で仏に寄り添っていた細君が、お父さん、葬式はこの方の所で出してあげてと呼びかける。

ただちに駕為からおうめ(浪花千栄子)らがやって来て仏壇の飾り付けを始め、勇造も毛槍を取り出し、伝統的な葬儀が行なわれる。

その夜、初めて勇どんが受け取った取引や、そやけど仁義ちゅうもんがある、駕花付けてた仕事を取ったんやと為次郎が言うので、それを聞いた勇造は、親方、そう言いはりますけどな…お天子様の葬式かて…と言い返そうとするが、その場で為次郎に殴りつけられる。

それを見ていた美津は、駕為の為のこと思うてやないか!と父親に文句を言うが、駕為には駕為のやり方があるんや、分かったらあっちへ行き!と勇造を追い払う。

すると三吉が、勇どん、水屋が待っとるどと声をかけて来たので、指定の場所へ行くと、そこは川縁で、市助と駕花の連中が待っていた。 駕花が、分かってるやろな?と言うので、分かってるわい、わて1人にこないぎょうさんおらんといかんのかい!と啖呵を切った勇造は駕花の連中と1人で喧嘩を始める。

トロッコなどに乗り込んで川に突っ込んだりと必死に抵抗した勇造だったが、数には勝てず、駕花の連中に袋叩きにされてしまう。

おいこら!普通やったら命ない所やど!駕為に言うたれ!文句あるのやったら駕花がいつでも受けて立つ!と言い捨てて駕花の連中は去って行く。

川岸に泥だらけで倒れていた勇造だったが、親方!わいは負けへんで!親方への恩返しや!駕花1人で相手してやるわ!親方!と心で叫びその場に気絶する。

(回想)死んだ父親を棺桶に入れ、大八車に乗せて火葬場に運んでいた少年勇造は、駕花の葬列と遭遇、避けようとした大八車はひっくり返ってしまう。

気丈にも駕花と言い争いをしていた勇造は、わいが大きくなって偉くなったら立派な葬式してやる!貧乏やからバカにされるんや!と叫んでいたとき、おっさんが葬式やってやる!おっさん、久しぶりに毛槍を振ってやるぞと勇造に声をかけて来たのが駕為だった。

(回想明け)勇どん!と呼びかける美津の声で気付いた勇三は、とうはん!と答えたので、お医者も呼んどきや!と一緒に探しに来た三吉に頼むと、何で1人で来たん?駕花のレンチュが何するか分かっとったやろう?と美津が叱ると、わいが起こしたことや、親方に迷惑かけられん、このことは親方には内緒で!と勇造が頼むと、アホやな…と美津は呆れる。

大正3年(1914)

大木勇造君万歳!の声が駕為の店の中から聞こえて来る。

勇造出征の壮行会だった。 おめでとう!とおうめが勇造に声をかける。

しっかりしてくれよ!駕為から出た兵隊はみんな勇敢だったと言われてくれよ!と為次郎は泣き顔で言う。

みんな、飲んでくれよ!こんな目出たいことがあるか!勇造がお国の為に… 無理するなよ!鉄砲玉の飛んで来る所避けるんや…と言いながら、すっかり酔いが回っていた為次郎は勇造の膝の上で眠り込んでしまう。

わい、死なんで…、葬礼屋が死んでたまるもんか!と勇造は心に誓う。

なあみんな、親方頼むぞ!と店員たちに声を掛けると、兄貴の分まで働くぜ!と三吉が答えたので、三公、宜しく頼む!と勇造は後を托す。

夏の花火が遠くから聞こえる中、美津は涙ながらに、たくさんのお守り袋を布に包むと福知山連隊に送る慰問袋に入れ、勇どん…と呟く。

大正4年(1945) 福知山第二連隊 消灯ラッパが鳴る中、便所で美津からの手紙を月明かりで読む勇造。

勇どん、今日は大変哀しい知らせがあります。

入隊した平どんが戦病死したそうです…とかいてあったので、平助が!と勇造は驚く。

勇どんもくれぐれも身体に気を付けて下さい、三吉がみんなの代わりにやってくれています。

私にもそろそろ縁談が舞い込むようになりました。

御相手は青島さんと云う方で、大暴騰した金で何十円と儲かり、北浜の風雲児と言われている方ですと書いてあったので、勇造は悲しむ。

為次郎と美津が青島(青島幸男)と見合いした席に同行したおうめは、青島さんは60円も貯めはったんですって、しかも法学士で士族やて!世界地理のことも詳しいそうだっせと青島のことを褒めると、しばらく交際してから結婚しようやないかと言ってはると説明する。

近い将来、実業界にも入ろうと思ってますと青島は得意げに言う。

手紙を読み終えた勇造に、大木!こっちへ来い!ええ話聞かしたると声をかけて来たのは隣の大便所で饅頭を食っていた蜂谷だった。

連隊長の車運転していたとき聞いたんやが、この連隊青島(チンタオ)行くらしいと蜂谷が言うので、チンタオ言うたら大陸やないか、そんなとこ行ったら生きて帰れへんでと勇造が嘆くと、任しとけ!一口乗るか?ここ壊すんやと蜂谷は自分の尻を指し、痔になって除隊するんや、醤油を飲んだら痔になる言うやろう?醤油軍人言うやろ?などと言う。

2人はその後、こっそり醤油樽から醤油を盗み飲み、無事、痔になって除隊することになる。

除隊する2人を見送る班長(鈴木金哉)は、一刻も早く身体を直して、天皇陛下の赤子として戻って来るように…と言葉をかける。

連隊の門前には美津が待っていたので、蜂谷は気を利かし、これで貸借りなしや!巧くやれ!と勇造の尻を叩いて別れて行く。

軍服姿で美津と帰る勇造は、あの…、お嫁さんの話どないなりました?と聞くと、どうにもならへん、まだ付き合うて間がないんや…と美津は答える。

お金持ちはよろしおますな、わいも株買おうと思うてますねん…と勇造が言うと、勇どん…と美津は感激する。

大正5年(1916)株大暴落

世界的不況で、葬礼の世界も一気に不景気になる。

葬式に使う金など無駄思うとるんやろうな…と為次郎は仕事の激減を嘆く。

何もかもで30円でやってくれとまで…と勇造が言いに来ると、いつもの通りやったら良いがな!と為次郎は苛立ったように答えるので、それでは大損ですがなと勇造が止めると、大阪御城代を勤めて来たわしの気がすまんわ!と為次郎は怒る。

すまんな、勇どんばかり走らせて…と美津が詫びると、親方の言う通りやってたら潰れてしまいますよと勇造が言うので、ほんまのこと言うたら、明日のおかず代かて困ることあるのよと美津は哀しげに言う。 そこまで行ってますのか?と勇造も表情を曇らせる。

その後、どないしたらええやろうな?と考えながら河原を歩いていた勇造だったが、突然背後から迫って来た車に撥ねられ、砂利山の中に突っ込んでしまう。

しっかりせんか!と砂利の中から勇造を引っ張り出したのは、車を運転していた蜂谷だった。

大木やないか!と蜂谷も驚いたようだったが、しばらくやな、葬式屋が葬式やってどうするんや?病院に連れてったると言うと、車の二台に勇造を乗せて走り出すが、読売を運んでたんや、これも連隊長の車、運転していたお陰や!と運転席から蜂谷が話しているのを聞いていた勇蔵は、読売か…、おい蜂ちゃん!行き先は駕為の店や!と呼びかける。

傷だらけで帰ってきた勇造の姿を見て驚いた美津が、どないしたん?と聞くと、ぼーっとしてて自動車に撥ねられました。

そのとき思いついた事があるんで、とおはん、聞いておくんなはれ!とうはん、あかんて言うんやったら諦めますけど…と勇造は言う。

それを聞いた美津は急にうれしそうになり、ふすまを閉めて2人きりになる。

親方に折り入って頼みがあるんや、言うてもらえまへんか?親父に反対され、出て行け!言われたら…と勇造が頼むと、美津は、そうなったらうちかて…、はっきり言うてえな!うちにも承知して欲しいことやろ?言うてえな!と迫る。

言わしてもらいます!葬列に自動車使うたらどうやろう?って、家からお寺や葬儀屋まで車で運びますんや!と勇造が明かすと、美津はがっかりしながら、商売の話かいな!と呆れる。

勇造と美津を前にした為次郎は、近頃流行の自動車ブーブーッと言う奴やろう?新婚旅行に車でと言う広告出とるやないかと新聞を見せながら、全てお見通しだと言わんばかりに笑いかける。

それを聞いた勇造は、は?と不思議がり、美津は、お父っつぁん、まるで違うわ!これまでの葬列に代えて車で葬儀屋へ運ぼう言うんやと説明すると、あほ!葬列言うのは急いで行くためやない!と為次郎は反論する。

そやかて奴道中みたいなものはムダですと勇造が言い返すと、葬列は亡くなった仏はんと遺族がお互いに心を結ぶんや!と為次郎は怒る。

それでも勇蔵は、このまま行ったら駕為は潰れます、第一、近頃の葬列は車から邪魔されますやろ?と言うと、出て行け!俺の目の黒いうちは俺のやり方で行くんや!と為次郎に言われてしまう。

「散りゆく花」の大きな看板の下で勇造に追いついた美津は、さっき勇どん、うちに話したい事ある言うたやろ?あのとき、うちを好きやと言うてくれるんやと思うた、女が恥を忍んで聞いてるんや、うちのこと、好きか嫌いか言うて!と迫る。

すると勇造は、好きです…、でもわいととうはんは身分が…と言うので、何でうちに付いて来いと言うてくれへんの?と美津は責める。

男にも意地がありますのや、葬式自動車に命賭けてますのや!と勇造が言うと、うちかて女や!今すぐとはいかんけど、その内、嫁入り道具持って付いて行きますと言うので、とうはん!と勇造は感激する。

蜂谷運送店の蜂谷に葬儀車の計画を打ち明けた勇造は、これは大当たりするで!わいの言う事間違いない、1日に2人も3人も運ぶんや!これからは人のせん事やなら儲からんぞと焚き付ける。

その時、蜂谷は美津が来たことに気付く。


その後ろには三吉が家財道具を荷車に積んで付いて来ていた。

約束通り葬式道具一式や、これで親子の縁を切る言われましたけど…と美津は言い、どうするつもりや?と戸惑う蜂谷に、お前の所に世話にならなあかんなと勇造はすまなそうに頼む。

勇造と美津に出て行かれた為次郎は、1人ややけ酒を飲んでいた。 蜂谷は、勇造と美津を前にして、高砂やの歌を歌おうとしていたが、わい、この歌知らんねんと言い出す。

続けて、妻を娶らば才長けて〜♩と歌を変えるが、これも良く知らないようで、一緒に新婦の勇造が歌って聞かせるが、途中で諦め、蜂ちゃん、全部知ってる奴歌うてんかと頼む。 結婚式どないしたらええんや?と戸惑った蜂谷は、新婚旅行行こう!車でブッブーって行こう!と言い出し、雨の古大阪の町に2人を乗せて走り出す。

おやっさん、どないしてるやろな?と勇造が言うと、久に涙を流し出した美津が、目にゴミが入ったんやとごまかしていたが、とうはん!と勇造が案じて声を掛けると、アホ、何言うてんの、うちとうはんやあらへんで、あんたの奥さんやないか!と美津は言い返す。

わいは、もっともっとアホになろう思うてんのやと勇造が夢を語ると、あんたご免な、こんな大事な日に泣いたりして…、あんたが急にお父さんのこと言うから…と恨みがましそうな目で言う。

その後、三吉が駕為の仲間たちに、とうはんと勇さん頑張ってるでと知らせる。

美津は銭湯に自分たちが始めた葬儀屋「博益社」のポスターを貼ってもらいに来ていた。

路面電車の中吊りポスターの前で、勇造も乗客たちに宣伝していた。

その時、新聞を読んでいた客がいたので、その新聞を外して説明しようと勇造は、相手が以前竹刀で叩かれた中田と気づき気まずい顔になる。

しかし、床屋に来ていた蜂谷は待っていた客たちが、白状やな、仏を車で運ぶなんて…と博益社の悪口を言っているのを聞く。

美津は苦しい生活をやりくりする為に質屋に入る。

そして質屋から出て来た時にはお腹が大きくなっていた。

予想に反して、勇造の葬儀自動車の需要は全くなく1年が過ぎようとしていた。

ずっと居候されている蜂谷はいら立ち、おい、返事せんかい!お前が絶対儲かると言うから話に乗ったけど、もう1年経ったやないか!わいの運送屋で何とか食うてるんだけや、わいは恩人やど!と言うので、勇造は言い返し、2人が口喧嘩している中、電話がかかって来たので美津が出る。

お葬式?農工銀行の隣の安倍さんですね?と美津はうれしそうに返事する。

それを聞いた勇造と蜂谷は張り切り、モーニング姿で早速霊柩車に乗って出かける。

それを火打石を売って見送る美津。

ところが、勇造と蜂谷が出向いた先(秋田Bスケ)は結婚式の最中で、わいら葬儀屋ですと挨拶すると、うちは高利貸やけど、そんな嫌がらせ受ける筋合いはない!と集まっていた家人たちから袋叩きにされる。

道に放り出された蜂谷は、くそったれが!とぼやきながら起き上がると、鼻血を出し付け髭が取れかけていたが、それを見た勇造が、活動写真見てるようやったな、おもろかったなと笑いかけ、血出とるでと言うと、冗談やないわ!と急に怒り出した蜂谷は、自分で作った霊柩車の屋根を引きはがし、そのまま1人で車に乗り帰ってしまう。

道に転がっていたシルクハットを拾い上げ、かぶった勇造に、1人の老婆が近づいて来て博益社さんですか?と声をかけて来たので、銀行横の安倍さんってお宅はんですか?と勇造は驚く。

老婆について路地の奥の自宅へ着いて行くと、亡くなっていたのは老婆の孫で、この子は車が好きで、大きくなったら運転手になるなんて言うてました。

病気になっても、直ったらタクシー乗せたる言うてたんですけど…と老婆は言う。

帰ってきた勇造は、ありったけの銭並べられたら断れんかったんや…と、握りしめた小銭を出して美津に説明する。

車の葬儀屋言うの夢やったんや、お前に無理言うのこれが最後や、頼むわ!これ1回きりや!坊の死に顔見たら、死んだお父っつぁん大八車で運んでいるの思い出したな…と勇造は美津に言う。

老婆の家に来た勇蔵は、美津!飾り付けやど!と指示し、懸命に仏壇を揃える。 それでも身重の美津が無理しないように労る勇造。 それを見た老婆は、こんな立派な飾りしてもろうて…と感激する。

金持ちかて貧…、わいも貧乏やけどな、葬儀は立派にさせてもらいます。明日10時に迎えに来ますよって、霊柩車でちゃんと来ますでと勇造は老婆に言う。

無事飾り付けを終えた帰り道、あんた、喜んではったねと美津が勇造に話しかけるが、わいの方は霊柩車の夢、消えてしもうたけどな…と勇造は答える。

すると美津は、差し出がましいようやけど、うちの宣伝、中途半端やなかったんか?あんたい討てたやん、貧乏人も変わらん葬儀やりますって、お父さん、大八車に乗せていた時を思い出して、一般の人の為の葬儀屋をやったらどう?と提案する。

それを聞いた勇造は、こないなのどうやろ?10円で葬儀!どうや!と言い出したので、やっぱりあんたは見込んだ通りの男やったわ!と喜ぶ。

勇造も、美津の大きなお腹に向かって、坊!宜しく頼むわ!と声を掛けると、まだ坊かどうか分からん!と美津は笑う。

家に帰って来た2人は、蜂谷が霊柩車の屋根を修理しており、早よせんと、明日間に合わんやろ?と言うので、あいつ、ええ格好しとるなと勇造は美津に笑いかける。

負けるもんかと〜♩(と藤田まことの歌が流れる中) 霊柩車で仏を運んでいた勇造と蜂谷は、行列を作っていた駕花の葬列を追い越す形になり一悶着あるが、そのまま無視して走り抜ける。

大正7年(1918)米騒動

大正8年(1919)

駕為の店では、おうめが為次郎に、いい加減に仲直りしなはれ、孫みたいやろ?と説得していた。

孫なんて見とうない!と孫の手で背中をかきながら言い返す為次郎に、こんな孫の手使わんと、本物に叩いてもらいなはれ!博益社すごいでっせ、5円かて!と値段の安さを教える。

しょうもない車使いよってと為次郎はバカにするが、申し込み殺到しとるらしいのやとおうめは言い聞かす。

しかし、蜂谷は安い5円の仕事ばかり増えるので、また勇造にいら立ち口喧嘩を始めたので、赤ん坊が泣き出し、美津は仕方なく赤ん坊を抱いて店の外へ出る。

そんな博益社に様子を見に来ていた為次郎は、娘が出て来たので、慌てて側の公衆電話の中に身を隠す。

為一、泣きなや、お父ちゃん気が立ってるのやと赤ん坊をあやす美津の言葉を聞いた為次郎は、為一か…と孫のpな前を知ると、公衆電話の中で涙ながらに娘と孫の姿を見守るのだった。

お美津!と呼ぶ声で美津は家の中に戻る。

その時、また電話がかかって来るが、又5円か…とぼやいて蜂谷も勇造も受話器を取ろうとしない。 仕方なく美津が取ると、福島の村山さん…、30円!と驚いたのでまた赤ん坊が泣き出す。

30円や!と勇造と蜂谷は喜ぶ。

ところが、その村山の葬儀の後、お陰はんで立派な葬式が出来ました、さすが駕為はんですねと喪主が言うので、駕為さんがどうして?と勇造が聞くと、博益社さんに是非にと勧められましてねと言うので、訳を知った勇造は、親方!と感謝する。

大正10年(1921)原敬暗殺さる。

博益社の看板には一万円から十円までと書かれてあった。

霊柩車方式に押され始めた葬礼屋の組合長になった駕花は、今のうちに何とかせんといかんな、業者で組合作って料金の統制するんやと会合で発言し、今や駕花の使用人になっていた市助に説明さす。

最高なんぼ、最低なんぼって料金を決めて、どの葬礼屋も同じにするんですと市助が説明すると、それを聞いた為次郎は、葬式には店によって値段が違うのがええのや、駕為には駕為のやり方がある!と反対したので、やっぱり娘さんが可愛いんやな…と駕花が呟くと、痩せても枯れても葬式は形式じゃない!わしはとらわれとうない!と咳き込みながら駕花が言い返したので、他の葬儀屋は為次郎の身体を心配する。

詰まらんこと考えたんはお前か!組合長かなにか知らんが、水屋上がりの言う事真に受けやがって!と為次郎は市助を睨みつける。

会合の後、駕花に煙草を渡し、マッチで火を点けてやろうとした市助だったが、駕花が自分で火を点けながら、余計なことばかり言いやがって!俺の面目丸潰れや!と市助を叱って来たので、わいが止めたら良いんやろう?止めさせてもらいますと市助は駕花の半纏を脱ぐ。

その後、路面電車の中で「社員募集 博益社」の中吊りを見た市助に、久しぶりやな、どうだい、景気は?と話しかけて来たのは勇造だった。

水道が出来たんで水屋は用なしになったと市助が嘆くと、どうや、うちに来んか?おまえやったら、月給50円でも60円でも出したる、駕花、首になったんやてな?どうや?お前の腕見込んどるんやがな、今までのことは水に流してな…、どうやねん!と勇造は言う。

勇造に連れられ博益社にやって来た市助は専務と呼ばれるようになっていた蜂谷などがモーニングを着ているので驚くと、モーニングはうちの制服やと女性社員のゆかり(新城みち子)が教える。

勇造は若い社員たちに、古い知り合いの市助君と言うんや、みんな宜しく頼むで!と紹介する。

市助はすっかり上機嫌になり、煙草を持った勇造にマッチを擦ってやり、社長、わて、急にパーッとうれしゅうなったわと言うと、道修町の薬屋で中村はんが亡くなったんや、大きな店や、駕花に言おうと思うとったんやと教える。

それを聞いた勇造たちが早速出かけようとするので、わいの制服は?と市助は聞く。

中村の店にやって来ると、既に駕花と従業員の中政(谷晃)が来ており、葬儀の内容を説明していた。

300〜500人の人足を頼んだと言う駕花の説明を聞いた中村の遺族は、納得していないようだった。

遺族はモーニング姿の勇造にお金はかけます。金の使い道に付いて聞きたいと具体的な葬儀の内容を知りたがったので、モーニング姿で来ていた市助が、パンフレットを出して言葉巧みに営業し出す。

遺族は、千円の尾州檜の棺と言うのに興味を持ったようなので、これはまだどちらはんも使うておりませんと勇造が説明すると、千円で御願いしましょうと遺族は言い出す。

会社に戻って来た勇造は、社長室に飾ってある為次郎の写真に向かって、親方、わいはとうとうここまで来ましたと報告する。

そこに息子の為一を連れ美津がやって来たので、男手一つで育てた一人娘のお前を取ってしもうた。

親方は不幸な方だ。 まかりなりにも葬儀屋や、今度の千円の葬儀が済んだら、お父はんに会いに行こうと勇造が言うと、一緒に暮らすようになるのね?と喜んだ美津は、明日、おじいちゃんに会いに行くのよと為一に言い聞かせる。

その頃、事務所内では、電話番のゆかりが、次々に注文の電話を受け、社員たちは一斉に出かけて行く。

しかし、間もなくその電話は全部いたずらだったことが分かり、社員たちが憮然として戻って来る。

電話をかけていたのは駕花の指示を受けた中政で、駕花は、間違うても仏さんに手付けたらあかんで、あの会社だけを絶対潰すんやで!と社員たちに命じていた。

その後も鯨幕が切られたりする駕花の嫌がらせは続き、棺桶屋からも尾州檜の棺桶は出来ないと言う断りがある。

急いで棺桶屋に出向いた勇造は、その店のガラス戸に、博益社せんぞくと書き込むと、これから博益社だけで食えるようしてやると言うと、棺桶や(秋田Aスケ)は、まだ箱に入った人から一片も文句が出たことあらしまへんとうれしそうに言う。

駕為の飾り付けをしていたおうめも、家の前に出していた道具を車で倒されたので、駕花の若い衆やな!と睨みつける。

千円葬儀の会場に集まった写真たちに、わいは今夜ここに泊まるからなと勇造は言うが、そこに駆けつけて来た美津が、あんた!霊柩車のタイヤがズタズタにされてる!と言いに来る。

急いで会社に戻った蜂谷がタイヤを交換する。

自転車で飾り付けが終わった寺の葬儀場にやって来た勇造は、これやったら誰が来ても大いばりやな!と自慢する。

そこに笠をかぶった僧侶たちが乗り込んで来る。

笠を取ると駕花で、やっちまえと社員たちに命じ、僧侶姿の駕花の連中が飾り終えた仏壇を破壊し始める。

その場にいた市助は、駕花が近づくと、つい、すんまへんと詫びる。

鯨幕は引きはがされ、その幕でゆかりは椅子に縛られてしまう。

勇三も殴られるが、駕花一味が引き上げた後、くそったれ!負けへんど!おい、時間はある、霊柩車が来るまで1時間あるんや、白い布買うて来い!ゆかり!専務の所へ行って、できるだけ出棺を送らせてもらえ!と指示すると、頑張ってや!最後まで頑張るんやど!と社員たちに言い聞かせる。

外に出た社員たちは、すでに会場に入ろうとしていた来客を止め、新しい方式でやりますので、霊柩車を出迎えるよう道の両脇に並んで下さい!と呼びかける。

ゆかりも出発しようとしていた霊柩車の蜂谷に耳打ちする。

蜂谷は驚きながらも、指示通り、できるだけゆっくり走り出す。

会場に近づいた時、社員が手を回して合図して来たので、それに気付いた蜂谷はほっとする。

会場に入ってみた遺族は、新方式ってこれですか!と驚く。

場内は鯨幕ではなく、一面白布で被われていた。

無事千円葬儀が終了し、会社に戻って来た蜂谷は、立派なもんやな、転んでもただでは起きんな、俺のお株取りやがって、喪主さん喜んでたで…と笑いながら、勇造に握手を求めて来る。

大満足の笑顔になっていた勇造を美津が社長室へ連れて行く。

お父っつぁんが!あほ!何で早う言わんのや!と美津から為次郎が危ないと聞いた勇造が驚くと、葬儀が済むまでは言うなとお父っつぁんが…と美津が言うので、で、容体は?確認すると、もうあかんやろうて…と美津は哀しげに答える。

もう意識が薄れていた為次郎の床の側に付き添っていたおうめが、まだきいへんのかな?と美津の到着を待ちわび、なんぞ言いたいことは!と聞くと、あいつら、巧いこといったんかいな点と為次郎は葬儀の心配をする。

そこに、お父っつぁん!と美津が為一と勇造を連れ駆けつけて来る。

兄貴、早う!と三吉が呼びかけるが、勇造は玄関口で動こうとはせず、親方に一言許す言うてもらわな上がれんと言う。

それを床で聞いた為次郎は、何言うてん…、俺の負けやがな…と呼びかける。

親方!と読んで上がった勇造だったが、美津が、為一、おじいちゃんやでと言いながら孫の為一の顔を見せると、為次郎は、為一か、ええ子やな…と喜ぶ。

親方!と勇造が呼びかけると、おかしな声出すな、まだ死なんぞ、お前はどえらい奴やな…、俺の葬式はお前のやり方で…と言いながら息絶える。 親方!とおうめや三吉たちが呼びかけ、死んだらあかん!と美津も呼びかける。

勇造も、お父っつぁん!と呼んでいた。

その後、物干し台にいた勇造の側に、あんた!と呼びながら美津が近づくと、何やねん、やっとお父っつぁん、許してくれたな…と勇造は呟く。

自分の葬式、うちらのやり方でやってくれって言うてくれたな、あんな頑固なお父っつぁんが…と美津が言うと、わいは嫌や、わいは嫌や!美津!父っつぁんの葬式は、父っつぁんが後生大事に守り通して来たあのやり方でやるつもりやと勇造は答える。

わいの親父に振ってくれた毛槍をわいが振るんや!わいの毛槍見てくんなはれや、お父っつぁん!と亡き為次郎に勇造は呼びかける。

いよいよ為次郎の葬儀が始まる。

遺体は蜂谷が運転する霊柩車が運び、その前を位牌を持った美津が歩き、さらにその前では勇造が毛槍を振っていた。

鉄橋を渡る葬列。

大正も終りに近く、昭和が迫っていた(と文字が出る)


 


 

 

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