白夜館

 

 

 

幻想館

 

人間革命

公開された年、「日本沈没」に次ぎ興行収入2位の大ヒットだったにもかかわらず、その後、名画座などでもほとんど日の目を見ない幻の映画。

上映時間が159分とかなり長いと言うのも再映されにくい原因だと思うが、封印されているのは創価学会の映画と言う特殊性の為かと想像していたが、中味を見る限り、何となく問題視されそうな部分が見当たらなくもないが、それが原因かどうかは分からない。

公開当時、上映館の入り口に長蛇の列が出来ていたのをかすかに記憶しているが、やはり公開当時は一般人としては入りにくい雰囲気があり、見る機会を失ったまま今日に至った。

実際に見てみると、前半は教育者だった主人公の商才で事業がドンドン拡大して行くサクセスストーリーと、戦前の師との出会い、戦時中の獄中での苦難が描かれ、後半は、獄中で得た自らの考えを元に、法華経の教え、特に十界論を中心に丹波哲郎さんが独特の「丹波節」とも言うべき名調子で、朗々と観客に教義を教え諭す流れになっている。

つまり「一部」は昭和史のドラマとして楽しめるが、「二部」の方は法華経の解説であり、信者以外にはやや単調な印象に感じられなくもない。

素人なので宗教の部分は置いておくとしても、第一部で語られる主役キャラの才能とバイタリティは魅力的で人を惹き付ける人物と言うしかないのだが、その自信家ぶり、人心掌握術のような部分が何となくうさん臭く感じないでもなく、後半の講義においても、そのうさん臭さが後を引き、話術の巧さでついつい聞き入ってしまう反面、どこか今ひとつ話にのめり込めない部分もあるように感じる。

古来、宗教は、無学な民衆に広まりやすかったのではないかと思っていたが、ここでは、小学校の教師たちと言う、エリートと言うほどではないが無学でもない比較的真面目な中間層辺りを中心に広がっているように見えるのが興味深い。

丹波さん以外のキャストは、おおむね東宝系の常連組が揃っているのだが、そこに渡哲也、芦田伸介と言う旧日活系のスターが登場しているのも珍しいように思う。

森次晃嗣さんも重要な役所として全編に渡り登場している。 一番分かりにくいのは、赤ん坊を持ちながら、亭主の家庭内暴力に耐えかね、離婚をするエピソードに登場する母親役が雪村いづみさんであること。

アップのシーンが何度かあるのだが、どうしてもいづみさんと気付きにくい。

再現劇の中には、佐藤允さんや黒沢年男さんも登場しているし、会員役として鈴木ヤスシさんや塩沢ときさんの姿も発見できる。

退院後の佐藤さんがサントリービールをうれしそうに飲んでいるのは、当時佐藤さんがサントリーの「純生」のCMに出演なさっていたことからのタイアップか?
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1973年、シナノ企画+東宝映像、池田大作原作、橋本忍脚本、舛田利雄監督作品。

タイトル

荒れる海を背景にキャスト、スタッフロール

昭和20年 7月3日 刑務所の塀

白い着流し姿で豊多摩刑務所の門から出て来たのは戸田城聖(丹波哲郎)だった。

そんな戸田に駆け寄って来たのはもんぺ姿の幾江(新珠三千代)で、幾…、大丈夫か?と戸田が聞くと、大丈夫です、家も焼けませんでしたと幾江は答える。 そうか、そうか…、苦労をかけたな…と戸田はねぎらう。

幾江は首を横に振り、戸田の風呂敷包みを受け取ったので、それは僕が持とう…と戸田は言うが、幾江は良いんですと風呂敷包みを抱きしめる。 刑務所を振り返った戸田は、帰ろう…と呟く。

電車に乗り、戦災の町並みを見ていた戸田は、隣に座っておしゃべりをしていた女に、酷いですね、関東大震災の比じゃないですねと話しかけると、そんな…、あの30倍も50倍も…と答えかけた女は戸田を怪しみ、あなた、どちらから?と聞いて来たので、青梅の方に疎開していたものですから…と戸田はごまかす。

やがて、乗客が、神宮だ、明治神宮だ!と窓の外を見て言うので、隣に座っていた幾江が、あなた、明治神宮ですよ、ね!と戸田に話しかけるが、乗客たちが一斉に敬礼やお辞儀をする中、戸田だけは外を見ようともしなかった。

目黒で降りるので幾江と共に降りるため立ち上がった戸田は、乗客たちが、包丁よりシェベルの方が良い、焼夷弾一個でちょうど仕上がるんだななどと話しているので、焼夷弾とシャベル?と話しかけると、アメ公の奴が良いシャベルを使ってやがるんだ、俺は包丁を作ったんだけどよ、すぱすぱ斬れる上に、1個で8丁も取れるんだよなどと言うので、焼夷弾1個で8丁も?と戸田は驚く。

包丁だってせいぜい5~6丁だよと他の客が反論すると、だってよ…と包丁を作ったと言う男が言い返そうとし、8丁だってよ!とシャベルが良いと言った男が嘲ったので、皆さん、頑張って下さいよと戸田はその男たちをいきなり励ましたので、幾江は驚いて振り返る。

もうね、ドンドン作って下さいよ、包丁をね、もうB-29なんかには負けないでね、元気出してうんとね!などと戸田が素っ頓狂なことを言うので、周囲の客たちは釣られて笑い出す。

配給のサツマイモを配っている列の所へやってきた戸田は、道ばたにしゃがんで一休みするが、もう大丈夫?と案じて幾江が聞く。

戸田が心臓の辺りを押さえたので、どうなすったの?と幾江が聞くと、シラミだよ、牢屋の…と戸田は答える。

その後再び歩き出した戸田だったが、余りの廃墟の凄まじさに呆然として立ち尽くすので、風呂敷包みの上に腰を下ろさせた幾江が、配給の煙草あるけど召し上げる?と言いながら取り出す。

うんと答え一服吸い始めた戸田だったが、久しぶりの煙草にむせる。 戸田は「時習学館」で生徒を教えていた昔を思い出す。

(回想)印刷が間に合わなくてね、取次店からじゃんじゃん火のような催促だ…と、受付に大量の印刷物の束を抱えて来た奥村(桑山正一)が言うと、山平忠平(森次晃嗣)が頷く。

北は樺太から南は台湾へ約80万!100万越すかも分からんねと奥村が言うと、山平は100万!と驚く。

その二階には小学生の教室があり、戸田はそこで教師をやっていた。 みんなの中でね、犬の欲しいものはないかな?と戸田が聞くと多くの生徒が手を上げたので、戸田は黒板に犬と書き、さあ犬だ、持って行きなさいと言うと、1人の生徒が立ち上がり、先生、それ字じゃないですか!と文句を言い、他の生徒たちも騒ぐので、そうだよな、これは本当の犬じゃないから持って行けないんだ、ただね、犬と言う者を現す字に過ぎない、でも便利なもんでね、黒と書けば黒犬、白と書けば白犬になっちゃうんだよ、な?これと同じようにだね、3と言う数字に人と書けば3人だろう?紙なら3枚、鉛筆なら3本、こういう風に便利に使われているんだよ、分かったかな?と算数を教えていた。

(回想明け)そのことを思い出す戸田の表情は硬かった。

やがて立ち上がった戸田は又歩き出し、家にたどり着いた時は暗くなってた。 門柱に手を置いた戸田に、さああなた、帰ってきましたよと幾江が笑顔で言うと、戸田も満足そうに頷く。

家の電気を点けた幾江は、玄関を入った戸田に、一休みなすって、食事の支度しますからと勧める。

二階に上がった戸田はすぐに読経を始める。 ごちそうだね、今時これだけのものを集めるのは大変だったろう…と、食卓に並んだ食材を見た戸田は感心する。

幾江が酌をすると、一杯酒を飲んだ戸田が苦いな…と言うので、このお酒良くないのかしら?と幾江が驚くと、ううん、そうじゃないんだ、まだ身体に馴染まないんだよと戸田は答える。

その方が良いかもしれないわ、あなたの身体のことを考えたらこれからずっと…と幾江が言うので、そんなバカな、これが飲めないくらいだったらいっそ死んじまった方が良いよなどと戸田は答える。

時に喬一は元気かねと聞くと、ええ、あなたには手紙を忘れないようにって…と幾江は答える。

このままの方が良いかもしれんな、食料事情もあるしさ、一関には姉さんもいるしな…などと戸田が晩酌を続けていたとき、空襲警報が鳴り出し、幾江は急いで灯火統制のため、電灯の回りに黒い幕を下ろす。

牢屋から出て来てやれやれと思ったけど、今度はB-29か…と戸田はぼやく。

翌日、杖をついて出かけた戸田に、日傘をさしかけた幾江が同伴し、途中で教練で駆け足をする女学生の一群とすれ違った戸田は、ちょっと待ってくれと立ち止まり心臓を押さえたので、昨日出て来たばかりじゃありませんか…、それも中野から入野まで2時間以上もかかって…、用事があるんだったら顧問弁護士の渡辺さんに…ね!と言うと、うちに呼んだんじゃ埒があかんのだよ、肝心なのは帳簿と書類だと戸田は言う。

渡辺弁護士(平田昭彦)に会った戸田は、そんな1つ1つの細かいことはどうでも良いんです、僕が知りたいのは全体のバランス、数字ですと言うので、渡辺は書類を戸田に見せる。

ここに差し引き残高が250万とありますが、これは黒ですか?と戸田が聞くと、赤ですと渡辺弁護士は言うので、首をひねった戸田は250万の借金か…と呟く。

渡辺さん、わしが牢屋に入る前にいっぺん確か計算しましたな?と戸田が言うと、ええ覚えています、出版、食品、金融関係の17の事業の資産合計は620万でしたと渡辺が言うと、2年の間にばったりなくなり、おまけに謝金が250万位増えたと言う訳ですね?と戸田は確認する。

ま、そう云うことになりますな…と渡辺は言う。

620万の資産、現在では約50億、250万の負債、現在では約20億(のテロップ) ある日、先生!と戸田の家に訪ねて来たのは奥村だった。

何、突っ立ってるんだ、入って来いよと戸田が手招きすると、先生酷いよ、出て来られるなら何故そのことをさ…とぼやきながら奥村が座敷に上がったので、牢屋の中で考えてたんだが、出たらやり直しなんじゃないかと思ったんだ、正に何もかも1からだな、ひょっとしたら0からも知れんと戸田は言う。

先生、じゃあ数理式算術も又?と奥村が聞くと、ううん、今度は通信教師だと戸田は答える。

いつから?と奥村が聞くと、そう簡単にはいかんなと戸田は首を傾げる。

始める時期も難しいけど、先立つものがいるのさと戸田は明かす。

東洋銀行 事業を御始めになる?今からこの東京で?と戸田から話を聞いた片山(伊豆肇)は考え込む。

その時又空襲警報が鳴り出し、又来ましたね…東京定期便…と片山はうんざりしたように言う。

その後戸田が訪ねた印刷屋のオヤジは、教義の出版事業?物好きにも程があるよ、正気の沙汰じゃないよ、こちとら無事に東京から逃げ出せるかどうかの…と相手にしなかった。

広島への新型爆弾投下 戸田は窓から外を見ながら、戦争はこれで終わる、しかし党本部がそれを渋る…と呟く。

そこに、お早う!お早うございます!と言いながら栗川(名古屋章)が家にやって来る。

台所にいた幾江が、ここですよ、くり買わさんと声を掛けると、ああ奥さん、いよいよ終わりますぜと栗川は言う。

しかし幾江が無反応なので、まだ知らないんですか、さっきラジオで…と久里川は苛立つが、そこに戸田が、バカに早いじゃないか?と姿を現すと、今日の昼、天皇陛下の重大な放送があるんですよ!重大な放送が…と帽子を脱ぎながら栗山が言うので、戸田の顔も緊張する。 正午、戸田は幾江と栗川と3人で自宅のラジオで玉音放送を聞く。

ラジオを切った栗川は、やれやれ…、これでやっと大助かりだ…と泣いている幾江の前で言う。

もうB-29がやって来ることもないだろうし、空きっ腹抱えて逃げ回ることもないだろうしな…と栗川は庭を見ながらへらへら笑いながら言う。

そんな栗川に、君は何だかうれしそうだね?と戸田も立ち上がると、当たり前ですよ、うちは好き好んで始めた戦争じゃないですからねと栗川は言い、縁側に腰掛ける。

しかし、無条件降伏ってことになると、これはどう言うことに…と栗川は汗を拭きながら考え込む。 戸田は、庭のヒマワリの花を眺めてながら、罰だよ、とんでもない大きな罰が当たったんだよと言うので栗川は驚く。 とにかく負け戦だしね…、大変だなこれからは…と戸田が言うので、嫌だな~…、又一苦労か…と栗川も困惑顔になる。

ところでね栗川君、この間から君に頼んどいた、ほら…、上大崎の店さ、あれ今日から借りたいんだけど?と戸田が切り出したので、ええ、今日から!と栗川は仰天する。

三殿下、現地へ特派と言う見出しが朝日新聞一面に載る。

中学1年用、5年用、3年用、数学物証の学び方、考え方、各学年別に数学物証の参考書を月1回解説して、月1回添削する、又これを綴じ込めば、得難き参考書となる…と戸田は計画を打ち明ける。

「日本正学館」と言う出版社を始めた戸田の元で働き出した奥村はその日の参考書の注文が120になったと聞くと喜び、先生、毎日増えますね、一昨日が70、昨日が90…、当たりましたねと声をかけると、1日1万入ったらすき焼きやるか?と戸田は言うので従業員たちは大喜びする。

その内、370になり、30ばかり足りないけど、この調子で行くと明日は確実だね?と奥村は女子従業員たちの会話する。

その背後では、戸田が例の件、もう一押し頼みますよ!と電話をしていた。

その時、店の中に復員兵が入って来て、電話を終えた戸田に、先生!と呼びかけたので、山平君じゃないかね!と戸田は驚き、良く生きて帰ったね!と喜ぶ。

時習学館の焼け跡に、それからお宅へ寄ってみますとと山平が言うので、そうかそうか、いや、良かった!と戸田はねぎらう。

先生、今からでも、ここで働かせて下さい!と山平が言うので、良いとも、君に来てもらうと大助かりなんだよと戸田は承知する。

そうだ、1日2日、ゆっくり休んでさ、明日の晩僕の家に来たまえ!と誘うと、女子従業員たちは歓声を上げる。

そして、奥村君、すき焼きには肉や酒ばかりじゃなく、ご婦人方にはサイダーも用意してくれと戸田は明日の用意を頼む。

翌日の晩、戸田家ではすき焼きを囲んだ慰労会が始まる。

幾江!お前さんも、みんなと一緒にそこで食べちゃいなさいと戸田は言い、自分は手酌で酒を飲み始める。

旨い!これがあるから生きていられるようなものだよと戸田はコップ酒を飲むと安堵する。

そこに栗川もやって来て合流する。

先生、今日1万円入りましたね!と栗川が感心すると、奥村が先生は目の付け所が違いますとお世辞を言う。

目の付け所が違うじゃないよ、何の罪もないのに…、とにかくさ、事務所を貸してくれたのは君だしさと栗川の肩を叩いた戸田は、働いてくれたのはあんた方、皆さんのお陰なんだ、まあ事業も順調に行ったし、来月は神田に進出が出来ると言うので、神田!と栗川は驚く。

専修大学の通りからね5~6軒入った所に事務所の出物があるんだよ、なんてったって出版の事業と言えば神田だからな…と戸田はあっさり打ち明ける。

ごもっとも!と奥村が間髪を入れず相づちを打つ。

「日本正学館」と言う出版社の前にやって来たのは、子供連れのもんぺ姿の女性だった。

出版社内は活気を帯びており、社員たちを励ましながら二階の座敷に戻った戸田は、下手な考え休むに似たりって言ってね…などとからかいながら、栗川との将棋の席に座る。

そこに、奥村が、先生!…と声をかけて来たので、これは負けだとあっさり将棋を終えた戸田に、先生、さっきの話…と栗川が持ちかけると、あれはまずいな~…、アルミのクズなんてまずいよ、いくら儲かると言ったってちょっとな~…と戸田は言うが、いずれ又、話持ってきますからと立ち上がった栗川は帰って行く。

問題は紙か…と、戸田は奥村の持って来た資料に目を通しながら呟く。

そうです、何もかも値上がりしているんですが、特に紙が…と奥村も言う。

ついこの間まで一連60円だったのが今日辺り130円なんですよと奥村がぼやくので、130円!と戸田も驚く。

現在は収支がトントン、通信料費を値上げしないと…と奥村は言うが、そうはいかんよ、3ヶ月分や半年分の前売り受け取っているんだからそうはいかん…と戸田は反対する。

「日本正学館」の受付にやって来た子供連れの女性は、名前を申し上げても先生はご存じないでしょうが、お目にかかれば分かります…、学会員だったとおっしゃって下さいと訴える。

学会員?と受付の女性は戸惑うが、とにかく先生に!宜しく御願いしますともんぺの女性が頭を下げるので、受付嬢は取り次ぎに行く。

もんぺの女性と対面した戸田は、随分と苦労したんだな、でも過去のことなんかに拘ったって仕方ないよ、大事なのはだよ、この子供さんの為にもだ、あなたにもだと言うので、ありがとうございました先生と女性は礼を言う。

夫が戦死してしまったのも家が焼けてしまったのも、これは私の信心が弱いから罰が当たったのでは?と女性が言う。 だけど、こんな相談は誰にも相談できませんし…、いつもそのことばかりを…と女性は苦悩を打ち明ける。

先生の話を伺い、本当にほっと…と女性が言うと、戸田は、うん…と答え、子供を抱き寄せ年を聞くと3つだと男の子は言う。

3つか?何かないかな?何か美味しいものがな…、何もないんだよなどと子供をあやしながら戸田は考え出し、我並びに我が弟子・諸難ありとも疑う心なくば自然に仏界にいたるべし…と呟き、大聖人様もこう言われておるんだよと女性に告げる。

罰じゃないよ、高見さん、罰じゃない…、肝心なのはだよ、その困難を乗り切ることが出来るかどうかだ…、つまり信心を貫き通すかどうかなんだ…と戸田は高見と言うその女性に言い聞かす。

今も先の分からん状態だしさ、お互い我慢強く辛抱強く行こうや…と戸田は言う。

店の外に出た戸田は、子供を高く持ち上げ、可愛いなと褒める。

高見と呼ばれた女性はありがとうございましたと戸田に礼を言い帰って行く。

元気出してな、又お出で、坊や!と戸田は毋子に手を振って見送る。

そこへ、よお、神田へ出たことは知っとったけど、ここやったんかと話しかけて来たのは北川直作(田島義文)だった。

「日本正学館」昔と同じやけど字が違うな、昔は小さい小だったけど、それが正しい正に…と北川は店の看板を見上げて言う。

中に入ってと戸田は誘う。

ほお、さすが戸田君やな、僕もやっと印刷機が回るようになってな、昔なじみに少し仕事を…と店に入って中の様子を見た北川は言うので、それは良いんだけど、都合が付くかな、紙が…と戸田が聞くと、実はな、江戸川の方にかなりまとまったものがあるらしい…と北川は教える。

隠匿物資でな…、ところが取引金額が大きくて手が出ないんや、それで君を思い出してな…と北川は言う。

その後、人気のない場所に怪しげな男たちとやって来た戸田が、ここが取引の場所か?、ジャンパーの男(渡哲也)が、あんた、見ちゃ行けないものまで見過ぎたよと脅すように言って来る。

おまけに1枚120円なんて取引じゃなく冷やかしだ、警察のイヌかもしれん…とジャンパーの男は戸田を怪しむので、冗談言っちゃいかんよ、俺は神田で「日本正学館」と言うのをやっていると戸田が言うと、戸田城聖…、名前も聞いたし名刺ももらいましたよ、けど、あんたが本当の戸田さんかどうか分かりゃしねえと男は言う。

じゃあ、どうしろって言うんだ?と戸田が聞くと、さあね~と男はとぼける。

それはあんたの胸にでも、人1人いなくなったからってどうと言う世の中じゃないですからねと男は戸田に近づき肩に手をかけると笑いかける。

すると、仲間の男2人が銃とナイフを戸田の両脇に突きつけて来て、ジャンパーの男は口笛を吹き始める。

戦争を随分人を殺して来たらしい…、まだ殺し足りんのか?と口笛を吹いて近くを歩き回る男に戸田は聞く。

何?と男は睨むと、第一俺がここに来たことは会社の者ばかりでなく他の大勢の者が知っている。行方不明になったらそれこそ本物の警察、都合によったらジープに乗ったアメリカのMPまでやって来るかも分からん…、取引した方が良いんじゃないかな?と戸田が淡々と言うので、良い度胸だね、ここまで来て逆の俺たちを脅して買いたたく、全く見上げたもんだよ…とジャンパーの男は苦笑する。

値段は1連160円、数量も思い切って3万連だと戸田が言うと、ほお、160で3万までまとめる?と驚いたジャンパーの男は笑顔になる。

「正学館」では、満足げな笑顔で帰って行く北川たちを尻目に、算盤を持っていた奥村が苛立っていたので、山平が訳を聞くと、どうもこうもないよ、危ない橋を渡り散々苦労して手に入れた紙をだよ、北川印刷5000、大野出版3000、藤木と高島は2000ずつ、それも原価でだよ?山平君、どうにかならんかな、先生のあの人の良さは…と他の出版社に譲り渡した戸田の判断に文句を言う。

2階では、情けは人の為ならずと言うものの…、情勢は厳しいな…と戸田も売上表を見ながらぼやいていた。 そこに女子社員が、先生、お客様ですが?昔の学会員の方とかで…と知らせに来る。 江戸川区大島の川本と名乗ったその男は、用件は何もないんですが、一度先生にお目にかかりたいと思いまして…と言う。

戦前は牧口先生に直接指導を受けましたと言うので、それじゃあ、学校の先生…と座布団を勧めて対座した戸田は確認する。

私立春江小学校の訓導をしており、復員後は大島小学校に復職しましたと川本は言う。

しかし、牧口先生があんなことになってしまわれて…、現在は何を生き甲斐とし目標とするのか、教壇に立っておりましても全然自信がありませんと川本は言い、先生、学会は…、学会はどうなってしまったんでしょう?と問いかけて来る。

その夜、戸田は闇市の屋台で1人酒を飲んでいた。

周囲では荒くれた男どもが喧嘩をし始める。

戸田はその場から帰宅すると、夜、布団の中に入っても寝付けないでいた。

横の布団に寝ていた幾江がそれに気付き、あなた、まだ眠れないんですか?と声をかけるが、戸田は何も答えなかった。

翌日、戸田は、民衆は何かを求めている…と原稿を書き始める。

だがそのエネルギーには方向がなく、呻いて嘆き、何かを…と戸田は書き続ける。

そこに、先生、何か?と奥村たちが上がって来る。

冷えるね~、みんなもこっちに来て当たんなさいと火鉢の方へ誘った戸田は、昼弁当が芋だったせいかカロリーが足りなくて堪えますわ…などと言いながら、奥村と山平が火鉢にすり寄ると、実はな、新しい編集長を迎えると戸田は切り出す。

三島由造君だよと言うので、三島さん!そうですか、そりゃ良かったですねと奥村は喜ぶ。

北川さんや藤崎さんみたいな経済人グループなんかよりも…と奥村が言いかけると、奥村君、人間にはそれぞれの生き方ってのがあるからなと戸田は制する。

しかし、三島君を迎える前にだよ、手を打たないと行けないことが1つあるんだよと戸田は言うので、通信教育ですか?と奥村が察すると、いくらわしが紙の都合であくせくしたりだな、君たちがそれでどんなに苦労してもだよ、このインフレには撮っても付いて行けんよ、前金制度ではな…、だから思い切って単行本を出すと戸田は提案する。

じゃあ、通信教授の方は?と山平が聞くと、適当な時期を見て打ち切ると戸田は説明する。

後日、出版社にやって来た戸田の企画書に目を通した編集者の高島(堺左千夫)は、書き下ろしが10点乃至15点…、戸田さん、この書き下ろしの作者は?と聞き、新しい人ですと戸田が答えたので、え?全部新人に!と驚く。

世の中まるで大きくでんぐり返ってますからな、小説を出す以上、もうこれからは新しい作家をドンドン登場させて行かんとねと戸田が言うので、しかし事業ってのは難しいもんですね…と銀行で融資を受ける戸田に片山は言う。

前金で金を取ってしまうんだから、通信教育ほど固い商売はないと思っていたのに、ところで今度の小説は?と片山が聞くと、絶対に大丈夫!と戸田は自信ありげに答える。

単行本の小説ですから、印刷は関係ない、その場その場の勝負ですよ、絶対に大丈夫、何としてでもまず事業、事業を安泰の軌道に乗せたいと思いましてね、 その後、北川が「正学館」に藤崎陽一(浜田寅彦)らを連れて来る。

戸田は窓から、雪の中帰って行く夫婦者を見送っていたので、昔の学会員やな?と北川が聞くと、 ああ、千葉県の横芝からわざわざ…と戸田が言うので、みんな拠り所がないんじゃよ…、だから君を頼りに…と藤崎は言い、僕らも同じかも知れんな、一番先に立ち上がった君ん所にどうしても…と言いながら車座に座った北川は、ところでどや?今日は身体は空いてるか?と聞いて来る。

今日は4時から編集社会議で、5時から出車交渉…と戸田が腕時計を見ながら答えると、ほなら6時からどうや?実はな神田の須田町で寿司屋が開店したんやと北川が言う。

うちは事業の面で世話になり、そこでごちそうばかり、そこで今日は我々一同で招待と言う事になっとるんやと藤崎が明かす。

戸田は北川らとその寿司店で久々に寿司を食い満足するが、今日は君に相談があるんだと北川が言い出す。 以前からみんなで時々話し合っているんだが、つまり学会の再建だよと岩森喜造(加藤和夫)が言い出す。

再建ってのはどう言うことなんだ?と戸田が聞くと、昔通りまず組織を立て直すことじゃろうと北川が答える。

誰がやるんだよ?と聞くと、誰がって…、我々がやるしかないじゃないかと北川は言うので、じゃあ、再建と言うのは君たちに任せるわ…と戸田は無関心そうに答える。

すると藤崎は、いや違う、それは違う、君が中心にならんと!と言い返す。

今さら学会の再建など僕たちの口から言い出せることじゃない…、だけど、学会の中心は…、君は別だが、どちらかと言うと僕ら経済人グループより教育者の方が多かった…、しかし教育者は今の情勢じゃとても立ち上がれないし、経済人もまだ力が弱い…と本田洋一郎(内田稔)が言う。

戸田君、事業が大変なのは良く分かる、しかし学会の再建は誰が見たって君以外にはいないんだよと本田は力説する。

それに昨日は1人、今日は2人と、毎日のように訪ねて来る昔の学会員に対しても…と北川は言い、本当はもっと多くのものが…、しかし生活の困難とこの交通難、それに君に対する遠慮もある…、それは多くの会員に対してだよ、君は一体…と岩森も補足する。

指導は確かに牧口先生だった。

しかしその片腕!片腕以上に期待されていた戸田君!君は創価教育学会の理事長だったんだよ!と本田は説得する。

タバコを吸って黙って聞いていた戸田だったが、難しくなって来たね、話が…と呟くと、今日は一つこれくらいで…と言って立ち上がると、自分で払おうとし出したので、他の仲間たちが制止する。

雪の中、歩いて帰っていた戸田は、過去のことを思い出していた。

戸田城聖…、明治33年2月11日にここで生まれた…(とナレーション)

石川県加賀市塩谷 だが5歳の時に北海道へ移住する一家とともにこの地を去る。

幼い眼底からこの海は消えた。

北海道 石狩郡厚田村 戸田は5歳からこの土地で生活した。

少年になった戸田は、この河口から小舟を操り、1人で良く海へ乗り出した。

幼い眼底から消えた日本海が奇しくもここで蘇ったのである。

札幌市 15歳から18歳まで札幌市の格子会社の店員 18歳からはこの学校に代用教員として勤めた。

夕張市登川村 真谷地小学校 しかし、それから2年後には彼は苦学を目的に東京へ出て来た。 大正9年、時に20歳である。

戸田は早稲田黒牧町に下宿を決めると、北海道の友人の知り合いである東京市立下谷西町小学校の校長牧口常三郎(芦田伸介)を訪ねた。

井戸の水を汲んでいた牧口は、来客がある、ちょっと待ってくれたまえと戸田に言う。

牧口は1人の男に、彼の人生地理学から発達した思想、価値論による大善の生活を説いていた。

うん、なるほどね…、しかし今のあんたの考えから、貧乏人はいつまでも貧乏人、金持ちはいつまでも金持ち、女房運が悪い奴は一生女房運が悪い…、こうなります。

あなたは奥さんやお子さんと巧く行っていますか?また、物質的に恵まれていますか?と牧口は聞く。

そうじゃないから悩みがある。

それをあんたは運命だからと諦めてしまい、積極的に切り開いたり対決しようとはしない。

人間の運命の転換は、値打ちのある、詰まり自分にとっても他の人にとっても価値のある生き甲斐のような物だ、それが何であるかを考え、作り出し、そしてそれを思い切って実行することによって、初めて始まるんです…と牧口は説く。

運命の転換は自ら価値ある物を想像し、その実践によって始まる…、意味はまだ良く分からなかった。

この言葉は戸田の胸を何か矢のように貫いていた。(とナレーション)

戸田は叫ぶように言った、先生!私を先生の学校の先生として採用して下さい!必ず、必ず1人の劣等生もないように教育してみせます! 牧口はそのとき戸田にこう答えた。

君は将来大成功するか、それとも大失敗をするか、そのいずれかの人間だな… 戸田は牧口により、西町小学校に代用教員として採用された。 が、その後牧口は三笠小学校に転任した。

牧口の価値論に深く傾倒した戸田は、異常とも思える強引さで牧口に従い、三笠小学校に転任した。

だが、戸田は何を思ったのか、2年ばかりで三笠小学校を辞めてしまった。

保険の外交員、紙芝居屋、下駄の露天商、こうした職業の変遷の他に、大正12年の関東大震災には新潟から米を運んで来て金を儲けたり、奔放不覊、彼の行動は誰にも理解できなかった。(とナレーション)

「時習学館」 そしてその年に、目黒の上大崎で「時習学館」を開く。

そこに訪ねて来た牧口は、戸田君、やっと君の気持ちが分かったよ、僕の価値論による創造的な人間をどうして作るか、普通の学校教育では所詮不可能だから、色んな職業で金を貯めそれを実際にやってみようと…と察すると、いえいえ、そんな大それた物じゃないんです。

ま、上級学級への受験生を対象にしている…と戸田は答える。

で、もう一つの「日本小学館」と言うのは?と牧口が聞くと、あれは出版社ですと戸田は答える。

僕は今数次式算術と言うのを考えているんですけど、これがもし巧く行きますと、先生の創造的価値論、創価教育体験は是非出版させていただきます。

ま、社会的価値のある物には金の方も付いて回る!と得意げに戸田が笑う出したので、牧口は戸惑う。

戸田君、僕は理論家だが、君はその実行、実践家かも知れないねと牧口が言う。

それから5年後、 昭和3年 ある日、牧口の家に呼ばれた戸田は、戸田君、僕は日蓮正宗に入信したと打ち明ける。

目白商業の校長に、三谷素平と言う人があり、僕の価値論をかねがね話し合いたいと言っていたので会って来た。

会ってそれは真剣勝負だった。

だがわしは負けた…と牧口が明かしたので戸田は驚く。

価値論の根底は、小善から中善に、中善から大善へと進む善の世界だ、しかし大善とは何かと言うと、この人間社会の為と言う酷く広い漠然としたものになってしまう。

そしてこれを理論的にもう一段階進めると、これは哲学を越えたもう宗教の問題だ…と牧口は言う。

日蓮正宗には何が大善であり、あらゆる一切を変えて行くもの…、これが何であるかはっきり示している。

とにかく君も入信したまえと牧口は勧める。

入信?それは先生の言われることですからその通りにしますけど、しかし…と戸田が迷っていると、すぐに行きたまえ!池袋の常在寺か、中野の歓喜寮へ!と牧口は強い口調で命じる。

戸田はすぐに、室田日照(山谷初男)に会いに行く。

保ち奉るべし!と戸田は日照の問いに答える。

冗談言っちゃいけないよ、君の所は僕の所との商売で成り立っているんでしょう?これは認める?これは南無妙法蓮華経のお陰じゃないか?とすればだよ、一番は今すぐに法華経に入信することだ、そうでしょう?と戸田は出入りの業者に入信を勧める。

運送屋にも入信を勧める戸田だったが、そりゃ社長…、いや先生、家は先祖代々凝り固まった一向宗ですからね?それだけは…と拒否するので、まあ良い、それは良いよ、しかしだよ、このまま無事に牛込まで帰り着けば良いんだがな~、何しろこれだけ五里あえ気のある日蓮宗を進めても見向きもしないんだから…、間違いなしにきっと当たるよ、とんでもないこんなに大きな罰がな!などと戸田は脅す。

その後、「創価教育学体系」牧口の本を出した戸田は、礼を言いに来た牧口に、そんなことはないですよと謙遜し、あれからずっと数術算術が調子良いですし、ついでに価値創造を出そうと思ってるんですよと戸田は言う。

これは機関誌的な物なんです、これまでは先生中心の教育者が多かったんですが、最近では一般の入信者もかなりあります、そうだ、こう会員の数が増えたんじゃ、先生、一つ会の名前を…と戸田が勧めると、うん、その通りだ…、会の名前が必要だね…と牧口も賛同する。

書名を見ながら、「創価教育学体系」…と牧口が考えると、体系を取って「創価教育学」では?と戸田が提案すると、それじゃ尻切れとんぼだと牧口は反対する。 そうですな…、でも会なんだから…、先生、学会と言うのを入れたらどうでしょう?と戸田は言い出す。

創価教育…、学会…と牧口は考え始め、創価教育学会…、創価教育を学びこれを実践する…会…、指導方針とぴったりだな~…、良いよ、戸田君、創価教育学会!これが良い!と言うので、良し決まった!学会の成立はその本の発行日昭和5年11月18日、会長は先生です!と戸田は勧める。

理事長は君だ!と牧口が言い返すと、それはいかん!それはいけません、先生には価値論中心の先生がたくさんおられますし、理事長はその中から…と戸田が辞退すると、いや、理事長は君だ!と牧口は言い聞かす。

かくして「時習学館」「日本小学館」の二つの看板がかかった建物の入り口に「創価教育学会」の看板も新たに加わる。

しかし最初の夏季講習会が行われるまでにはそれからなお6年の歳月を要した。

昭和11年8月 参加者18名 会員世帯数 約五百

従来の考え方によれば、物自体に価値があるとして客体が価値があるとする唯物論、人間の心が元で価値を生じ、考えがこれを決定するとする唯心論の2つであるが、今はどちらも偏見であり…と牧口が講話している間、戸田は1人酒を飲んでいたので、良い機嫌ですな、戸田さん…と日照が話しかけて来る。

郡山は良いですな、東京と違って涼しくて…などと良いながらコップ酒を勧めようとする戸田に、遠慮した日照は、戸田さんは、あんた、牧口会長の講話は?と聞く。

僕はね、あれを聞かなくてもね、法華経がどれだけご利益があるかはちゃんとこの身体が知っているなどと戸田は答える。

僕がね、南無妙法蓮華経を言い出して殿くらい事業が伸びたかと言いますと、「小学館」の他にね、出版としてはね、「大同書房」でしょう、それから「奥川書房」、その他に「集英社」、金融業としましてわね、日本橋で「大日商事」と言うのをやってるんですよ、それから今度東京に帰りましたらね、「大橋物産」と言うのを買収して「平和食品」と言うのをやるんですよ、とにかく僕が牧口先生から入信しろと勧められた時にはね、勘でこれだと!何のためらいもなしにだね、直感でこれに飛びついた。

僕が一生やるのはこれだと!と戸田が熱弁を振るうので、戸田さん、昭和3年、歓喜寮で僕があんたの入信を受戒したは…、恨めしげでどうしようもないと日照は教えるので、え?と戸田は、こりゃいかん!あの時のあなたで…と驚く。

支那事変始まる、

昭和12年7月 第三回夏季講習会

昭和13年8月 参加者34名 会員世帯数九百 宗教団体法成立

昭和14年4月 宗教団体やその教師などの教義の宣布もしくはその儀式で国家の安寧秩序を妨げ、又は神民間の義務に背き、例えばもし神社の参拝を拒むようなことをすれば、宗教団体たることを取り消し、本法によって厳しく取り締まる(とナレーション)

昭和15年8月 参加者78名 会員世帯数千八百 治安維持法改正さる

昭和16年3月 その第7条:国体を否定し、又は神社もしくは皇室の尊厳を妨害するような事項を目的として結社を組織したる者は、又はその結社の役員、その他その指導者たる任務に従事たる者は無期懲役、もしくは4年以上の懲役を科す。

以上が文部省からの通達ですと日蓮宗の僧侶たちから言われた牧口は、大聖人御遺文の種々を振舞いおるに、歴代の天皇をわずかの小島の主、又主旬天皇は腹悪しをとあるが、これら不敬の文字は、語彙分より一切削除せよと言うのですね?と問うと、そうですと言うので、その必要はありませんと牧口は拒否する。

昭和16年8月 参加者148名 なお、この年の11月17日には昭和12年の第一回に続く第二回総会が東京神田の教育会館で行なわれた。

第六回 夏季講習会 会員世帯数三千 総会では、そして政府は宗教団体法と治安維持法で、宗教、いやあらゆる自由な思想をなくしたのであります。

何故あえてこのような暴挙を…、それは大きな戦争に突入する為だ!と牧口が会員たちを前に演説していた。

このままでは国は滅びてしまう!今こそ、今こそ、国家諫暁の時だ!と牧口が言うと、戸田や北川、岩森らがうれしそうに拍手する。

昭和16年 12月8日 太平洋戦争始まる。

キリスト教の牧師は神の存在の否定を強く要求された。(とナレーション)

日本には昔から神は天照大神しかいない。 又莫大な予算を使い、多くの人命を奪う戦争は罪悪であり、千人針や神社参拝は迷信だと主張する仏法僧は容赦なくことごとく検挙された。

どう?6日に逮捕された吉田君は折伏が原因なのかな?と戸田が仲間たちに聞くと、それは単なる名目だけで、狙いは不敬罪だと牧口は言う。

ええ、町内会から伊勢神宮のお札を持って来たら、吉田君はこれを祀らずに3日の日に燃やしてしまっておりますと三島由造(稲葉義男)は会員たちに教える。

その伊勢神宮の紙札をどう扱うかだが、これは学会だけでは決められない、ことは日蓮正宗そのものに対する大問題だと牧口は言う。

同じ日蓮正宗の者の中で受け取るもの、受け取らぬもの、祀るもの、祀らないものと言う風にバラバラではいけないと言うのですね?と牧口から相談を受けた日蓮正宗の堀米内務部長(草川直也)は確認する。

そうです、伊勢神宮の紙札はどう扱うのか?本山ではっきりしていただきたいのですと牧口は申し出る。

しかしね、前には御遺文削除の件もあり、祀るとか祀らないと言うことではなく、一応受け取るだけは受け取る…、こう云うことで良いのではないかと…と堀米内務部長が答えると、そんな曖昧な…、良いですか?伊勢神宮の紙札を拝むようなことなら日蓮正宗は滅亡してしまったのに、いや、拝むのなら拝んでも良い…、拝む…、問題はその先ですと牧口は指摘する。

一宗一派が滅びるのは良い、しかし国が滅びることは許されません、政府の宗教政策は明らかに間違っている。

拝めと言うなら拝むが、その上で、この間違った宗教政策を根本的に直させる為に今こそ国家諫暁を行なうのですと牧口は言う。

その後、外のお堂の前で牧口と二人で拝んでいた戸田は、先生、本山側の意向がどうであれ、私は先生に従いますと小声で伝える。

先生のお考えに間違いはありません。私たちは後に付いて実行あるのみです、師弟不二ですと戸田が語りかけると、子弟…、君も案外法華経を…と牧口が感心したので、それほどでもありません、私も一応信者ですと戸田は答える。

戸田君、君と僕とは不思議な縁だね…、2人と裏日本の生まれで、大きくなったのは北海道、人生の振り出しは共に小学校の教師だ…と立ち上がった牧口は言う。

本当にそう思います、先生も私も子供の時から見て来た物は多分同じではないかと…と戸田も同意する。

同じ物?と牧口が問うと、北の海、日本海ですと戸田が言うと、そうかも知れんね、4~5年前、生まれ故郷に折伏に帰り、久しぶりに日本海を見た…、戸田君、もう1人日本海を見ていた方があった、今から721年前の文永8年から3年間、向こう側の佐渡島からだと牧口は言う。

それから1ヶ月後の7月6日、牧口常三郎逮捕 同じ日に、戸田城聖逮捕 しかし逮捕は会長と理事長だけではなく、この2人を入れた幹部21名が根こそぎである。

調書?そんなもの君が勝手に書けよ、どうせ僕の言う通りには書かんだろうからねと取り調べに刑事(細井利雄)に対し戸田は言い放つ。

それよりも僕の面会の方はどうしてくれるのかね?と戸田が聞くと、面会?何と刑事が言うので、僕は宗教活動もやったけどね経済人だ、経営している会社は17、その状況は気になるしね…、社員だって僕の指示を受ける為に会いたがっていると戸田が言うと、黙れ!貴様は国賊だぞ!と刑事が威嚇して来る。

逮捕者に対する取り調べは過酷を極めた。 犯罪容疑は治安維持法違反と伊勢神宮に対する不敬罪である。

警視庁の留置所は40日余りで、刑務所内の拘置所に移された。

看守(谷村昌彦)が戸田に、房内の便所や洗面所、呼び出しボタンなどの説明をして行く。 戸田の獄中生活が始まる。

取り調べは遅々として進まなかった。 危険分子を社会から隔離するのが目的だったのかも知れない。(とナレーション)

夜中、シラミに悩まされて眠れない時もあった。 ある日、又取り調べに向かう時、意外に長いな、お前の取り調べは、大体お前、宗教関係の連中なんてな2~3ヶ月でカタついてるんだよと看守が呆れたように話しかけて来るので、何の罪もないので調べようがないだろうと戸田は言い返す。

そう云う態度からお前…、今日の取り調べはな、刑事局じゃなく地方裁判所だ、少しはおとなしく、頭下げた方が良いぞと看守は言い聞かせる。 手錠をかけられ、その手錠に紐を結わえられた戸田たち囚人は、顔を隠す笠を頭からかぶらせられる。

裁判所との往復は規則を守っておとなしくする。騒いだり手こずらせたりすれば後でどうなるか分かってるな!と看守は全員に言い渡す。

裁判所で、同じく笠をかぶらせられた先に取り調べを終えた囚人たちの列とすれ違う時、戸田は思わず、先生!と気付いて呼びかけると、牧口の方も気付いて笠を少し上げ、戸田君…と小さく答えるが、すぐに看守たちに押さえつけられてしまう。

それでも戸田は、遠ざかって行く牧口に向い、何度も先生!と絶叫する。 戸田の取り調べをする検事(青木義朗)は、どうだ、早くシャバの空気に当たりたいだろう?と煙草を差し出しながら聞いて来る。

何の罪もないのにもっそう飯をくわされて、昼夜の区別なくシラミシラミ…、友達と言えばシラミばかりだとタバコを1本つまんだ戸田がぼやくと、だったら早く転宗すりゃ良いじゃないか!と検事が言うので、転べと?この僕に…と戸田が反論すると、南無妙法蓮華経の連中ももう余りこの拘置所にはいないよとマッチで火を点けながら検事は言う。

3ヶ月目くらいから次々と転宗されて…と検事が言うと、先生が転宗されれば僕も転宗しましょうと戸田は答える。

ほお?戸田君、もう残ってるのはね、君と牧口と、他に三島由造、この3人だけだよと検事が言うと、それはね、あんたたちの取り調べがあまりにえげつなさ過ぎたんだ、人間誰だって弱いもんがあると戸田は指摘する。

すると検事は、そう云う見方もあるだろうと苦笑し、しかし又、僕は違った見方をするな…、例えばだ、徳川時代の天草の乱だ、キリスト教の為に大部分の信者は命を賭けた。

しかし法華経にはそれだけのもの…、つまり本当に人間の魂に触れ、これに納得させ、信じ込ませる教義そのものがないんだよ! その上にだね、会員3000人だなんて言いながら、幹部21名が逮捕されただけで壊滅状態、教義の曖昧さに加えたこの組織力ゼロの弱さ、君たちがどんなに躍起になった所で宗教と言えるような集団には…、所詮創価教育学会は一次の眉唾物の邪教だ!と検事は断ずる。

それを黙って聞いていたと打破、火の点いた煙草を片手で掴んでもみ消す。

拘置所に帰って僕の言ったことをゆっくりと、思い当たることがあるかないか、次ぎの調べまで選ぶ…と検事がさとして来たので、そんなことは考える必要はない!と戸田は抵抗する。

ほお、しかしさっき君は、牧口が転宗すれば自分もそれに従うと…と検事が言うと、冗談じゃないよ、先生が転宗するなど!と戸田が反論すると、じゃあ、牧口が地獄に落ちたら君はどうするんだ!と検事が責めたので、先生に殉じて従うと戸田は答える。

これが法華経、師弟不二!良いかね、師とは1つであって2つのもんじゃないんだよ!でと戸田は言い切る。

ただね、ただ先生はもう年なんだ…、扱いだけは丁重に…御願いしますと戸田は頭を下げて願い出る。

ああ、まあそれは心得とくがね、しかし戸田君、その師弟不二と言うのは随分古いな?鎌倉時代の日蓮の思想で、そんなものはもう誰も…と検事が迫ると、それじゃあ、天皇陛下の為ならどう思える?と戸田が言い返すと、何?と検事は気色ばむ。

拘置所に戻った戸田は、便所の蓋の上で2匹のシラミを並べ、その1匹を親指の爪で圧死させ、1匹は死んだ…、もう1匹は逃げた…と呟く。 こいつは死んだからもう逃げられない、あいつは生きていて命があったから逃げた…?するとこいつの命は一体…、命…、命…と戸田が考え込んでいたとき、看守が正月の本だと本を持って来る。

ちっとも僕の言うもの入れてくれないじゃないか、今度はお正月なんだから間違いなく…と文句を言うと、ぐずぐず言うな、色々入れてやるから…と看守は一冊の本を差し出す。 それを見たと打破、文字の間違いを指摘するが、分かった、分かった、前のを返せと言うので、「日蓮宗聖典」なる先に差し入れられていた本を返すことになるが、こう云う固いものは3行くらい読めば頭が痛くなると言うことが分からんかな~?第一こう云う物はこっちがご本尊なんだから、読まなくなってさ…とぶつぶつ言いながら戸田は辞書のように分厚い本を看守に返す。

メガネが壊れそうです。

右一度弱くし、左一度強くしたりして入れて下さい…、それから会社のこと、心配で毎日身を切られるような思いですがどうしようもありません、決して廃業などしないように…と手紙を書いているとき、又、正月の本だ!と看守が分厚い本を放り込んで行ったので、中を確認すると「無量義経徳行品第一(むりょうぎきょうとくぎょうほんだいいち)」だったので、待て!約束が違うぞ!と扉を叩いて怒鳴りつけるが看守は無視して立ち去って行く。 畜生!と本を投げ捨てようとした戸田だったが思いとどまる。

今日は12月31日、昭和19年も終わりです。新しい年の幸せを祈っています。それからわがままばかり言いますが、本をもっと入れて下さい、特に小説類を…と、又手紙を書いていた戸田だったが、目の前にある「無量義経徳行品第一(むりょうぎきょうとくぎょうほんだいいち)」を広げて読み始める。

お正月にはコマを回して遊びましょう♩と謳いながら、寝っ転がって読書を続ける戸田。 その後も戸田は「無量義経徳行品第一(むりょうぎきょうとくぎょうほんだいいち)」を読み続ける。

その身は有(う)にあらず…また無にあらず… 因にあらず…縁にあらず…自他にあらず… これは前後の関係から言って、仏?仏教で言う仏の正体を明らかにしようとしている…、しかしあらず、あらずが34も…?と戸田は呟き、その後、この部分を考え抜く。

南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経…と念仏も唱える。 分かりたい…、分かりたい…、どうしてもこれだけは分かりたい… 戸田の思索は続く。 そんなある時、布団に寝ようとした戸田は、あっ!と気付いて飛び起きる。 窓に朝日が昇る。

分かった!やっと分かったぞ!と戸田は叫ぶ。

その後、検事の取調室にやって来た戸田は、冷える、冷えると思ったら、とうとう雪に…と窓の外を見ながら呟いた検事から、少し痩せたようだな…と声をかけられる。

当たり前だ、世が世なら、今頃、雪見酒と洒落込んでいる所だからね、全く哀れなのが…と戸田がぼやくと、ぼやく事ないよ、僕との約束さえ実行してくれればねと検事は笑い出す。

約束?と戸田が戸惑うと、君は前に牧口が転宗したらそれに従うと言ったね?と検事が言うので、先生が何か?と問うと、死んだよ、去年の11月18日だ、老衰と栄養失調で病館に移されていたが心臓発作だった…と検事は言う。

何しろ74だからね、君にはもう少し早く知らせようと思ったんだが、事件が忙しくてね、なかなか会うチャンスがなかったんだよ、これまでの君は、ただただ牧口の尻馬に乗って来ただけだし、これからは誰にも遠慮はいらないよ、法華経からはあっさり足を洗ってしまってね…と検事は言い聞かす。

房に戻った戸田は嘆き苦しみ抜く。 泣きながら窓の外の雪を見た戸田は、先生、私は不肖な弟子でした…、法華経の本物がどんな物か分かった時には…、私は今、荒野の果てに1人で取り残されたような気がします。

先生!私はこれから先生の意思を継ぎ、1人で、どこまでも1人で…と誓う。 雪の中を黙々と歩く戸田。

(回想明け)吉沢君今度は随分早かったな…と、小説の原稿に目を通しながら戸田は山平に声をかける。

中味は夕べ僕が全部目を通しましたと山平が言うので、じゃあ、印刷屋の方に回そうかと戸田は指示すると、三島君ちょっと!みんなも聞いてくれと社員たちに声をかけ、今度うちの編集長に就任してくれることになった三島由造君だと紹介する。

みんな拍手した所で、早速二階で編集会議…と山平が声をかける。

総括的に言って書き下ろしの作家と言うのは疑問がある…、なんて言うかな、新しい激しさに弱い…かな?もっといきなり弾んだ奴が欲しいんだなと戸田は言い、山平君、リスト作りなさい、リスト!新しい有望な作家のリストをさと指示する。

そして、三島と奥村以外の社員は解散する。

3人だけになると、来年三月高尾が来る~っかと急に歌い出した奥村は、採算割れの通信教育も見切りがつき、小説もドンドン、中には重版も再販も出て来る、良かったですな先生、本当に…、その上三島さんには来ていただける!と上機嫌だった。

いやあ、僕にはたしてどれだけのことが…と三島は謙遜する。

帰宅した戸田は、天ぷらだと土産を幾江に渡すと、北川や藤崎たちにごちそうになるはずだったんだけどね、結局、勘定はこっち持ちだよ…などと説明する。

こんな時期だから一晩持つかしら?などと幾江が聞くので、今食えば良いじゃないかと戸田が答えると、喬一が一関から…と言うので、ほお…、喬一が変える?と戸田は呟く。

一関の姉さんからね、集団疎開は今日一応終わって暮に帰るって…、でも東京の食料事情もあるだろうから、改めてこちらに来るかどうか東京でみんなで相談しなさいって…と幾江が伝えると、そう、そりゃ良かったな…、しかしね、僕はお正月元旦にはお山に登るよと戸田は言う。

え?と驚く幾江に、久しぶりに正月は本山だ…、冨士の大石寺へね…と戸田は笑うので、幾江は驚きながらもはいと答える。

北川、藤崎、岩森、本田と一行5人だな…、勉強会でねと戸田はミカンを食べながら言うので、それを聞いた三島は、先生!と驚くと、北側君たちの話は君にも話したはずだと言うので、しかし他のこととは違いますと三島は反論する。

どう違うんだ?と戸田が聞くと、はっきり言えば彼らは脱落者です、獄中の試練が耐えきれずに転宗した退転者ですと三島が言うので、脱落者に改めて法華経を説いて何が悪いんだ?と戸田は平然と問いかける。

いや、この勉強会は学会の再建に直接繋がる、彼らにそんな資格はないはずだ!と三島が興奮すると、三島君、僕は学会を立て直そうなんて考えてないんだよ、再建と言うのはなくなっちまった物を改めて又作り直すってことだろう? 学会はなくなってなんかいやしないよ、僕がいるよ、君がいるじゃないか!と三島の前に正座した戸田は三島に面と向かって言い聞かせる。

それに昨日は1人、今日は2人とだ、訪ねて来る学会員だって数多い、学会は絶えることのない力でずっと続いているんだと戸田は言う。

それは認めます…、しかし…と三島が納得しきれないように言うと、三島君、創価教育学会の根本理念とは一体何だ?と戸田が聞く。

日蓮正宗の広宣流布ですと三島が答えると、もっと具体的に言ってくれと戸田は要求する。

仏法思想、今まではあまりに誤りに伝えられて来たのだ、その神髄を明らかにし、祓い、多くの人、1人でも多くの人に…と三島が熱弁すると、うん、ならば僕は北川たちに法華経の講義をする…、例え彼らが退転者、脱落者であれ、必ずそれを聞こうとする8つの耳を持っている、これを一体どうする?と戸田は詰め寄る。

三島は苦慮し、勉強会はやむを得ません…と言うので、やむを得んと言うのは君の個人の感情だ、僕は君の個人的な感情まではとやかく言わんよ…と戸田は答える。

しかし仏法の広大さに比べたらな、個人的感情と言うのはこんな芥子粒より小さい、うん、これは君も認めるな?と戸田は聞く。 三島が答えないので、どうなんだい、三島君!と戸田は相手の肩を持って迫る。

すると三島は、認めます!と苦しそうに答えるので、そうか、やあ分かってくれてありがとう!と戸田は礼を言う。

三島も硬かった表情を和らげ笑顔を見せたので、戸田も愉快そうに笑い出し、ありがとう、これからはここが学会の本部ってことになるんだと教え、看板がいるんだよと言い出す。

看板?と三島が聞くと、僕が書こうと思ったんだけどね、ないと、でも字が下手だから、な?だから餅は餅屋で看板屋に頼むことにするよ、「日本正学館」よりでかい字で頼むよと戸田が言い「創価学会 本部」とかかれた原稿を三島に渡す。

それを見た三島が、先生、これは「教育」の2字が落ちていますが?と指摘すると、それは僕が削ったんだよと戸田は又ミカンを食べながら答えるので、え?と三島が戸惑うと、これからの学会と言うのは民衆の中に溶け込んで行かなければいけないんだよ、あらゆる階層の中にな…と戸田は説明する。

労働者、百姓、学者そして政治家に至るまでさ…、これからはね、教育者中心の教育なんてもういらんのだよ、だから僕は2字削っちゃったんだ、これからはそれが学会の名前だと戸田は説明する。

(回想)安房 東條 小松原

僧と武士との戦いの背後で祈りを捧げていたのは日蓮(仲代達矢)だった。 次々と斬り殺される僧侶たちの中、ただ1人日蓮だけは必死に防戦する。

(回想明け)この時大聖人は、額に傷を負われて左の腕を折られ…、と言うことはだ、みんなに守られてじっとしてたんじゃなくてね、自分自ら命を賭けて戦っておられたと言うことだと戸田は、北川、藤崎、岩森、本田たちに講話をしていた。

これが第二の御難、第一の御難は、鎌倉の松葉ヶ谷の草庵でね、襲われた、もしこれが普通の人間だったらだよ、二度もこんな目に遭えばだ、少しは手控えするよ、法華経の説教にしても、時の政治を批判するにしてもだよ、ところがだ、今度は鎌倉幕府を政策に真っ向から反対の国家諫暁でね、今度は死罪の勧告だ!と戸田は話を進める。

(回想)若宮八幡宮に馬に乗せられ連行される日蓮を、他の宗派の僧たちや侍たちはあざ笑い、一部の民衆だけが嘆いていた。

(回想明け)この時の大聖人の怒りと腹立ちは実に良く分かるんだ、ぞ~っとするほどの迫力でな…だ、良いかい?鎌倉武士の守護神若宮八幡宮の前で馬を止めさせ、八幡大菩薩に申すべき事あり!日蓮は今、日本一の法華経の行者だ!しかるにその身、一部の過ちなきにも関わらず今この首を撥ねられようとしておる。

法華経には八幡大菩薩をはじめとする諸天善神、必ず法華経行者を守護するとある!ならば出て来てこの日蓮を何故守護せん!それが出来ぬとあらば八幡大菩薩、お前は神ではなく偽者だぞ!と戸田が熱弁を振るうと、諸天善神、必ず法華経行者を守護すると言うのは確かか?と岩森が聞いたので、ああ、あるある!と戸田は答える。

(回想)相模 鎌倉 竜の口 日蓮は浜辺で座し、今正に斬首させようとしていた。

斬れい!と介錯人に声がかかり、日蓮以下、見守っていた民衆たちが一斉に南無妙法蓮華経を唱え始める。

するとにわかに風が吹き始め、かがり火が砂浜に倒れ、夜空の彼方から光の球が接近して来る。

その光は海岸一帯を真昼のように照らし出す。 光が消えた後、お経を唱えていた民衆や日蓮以外の侍たちは消え失せていた。

(回想明け)この竜の口の光球は彗星かな?今で言うほうき星のような…と北川が藤崎に問いかける。

いや…、隕石かもしれんな…かなり大きな…と藤崎は答えるので、そんな科学的詮索は…、要は鎌倉幕府はどうしても大聖人を断罪することが出来なかった…と岩森が言うと、そう、こう動かすことの出来ない大きな歴史的事実やなと北川も賛成する。

しかし、結果は幕府の為に佐渡に島流しなんだ…、今の佐渡じゃないよ!取りも通わぬね…当時としては絶海の孤島だ…と戸田が続ける。

まるでその一生は迫害と流転の連続…、しかしこの佐渡と言う所はね、寒さは肌を刺し、食うに食なく、着るに衣なくさ、これまでの流罪史とは比べようもないくらい厳しい! 大聖人もはっきり言われた、佐渡島以前の法華経はまだ秘技が現れておらず、これ以後こそが本意の法華経だと… この中での佐渡御書、これほど力強いものはないよ、もうまるでね、がつがつと骨にまでこたえる。

後になって身延に入られてからね、上のそのご返事のある、法華経と自分との関係に関し、大聖人が繰り返し繰り返し言われている大事なこと、自分は聖者でも生き仏でもなくさ、ごく普通の凡夫だと言う事だな… 元々わしは貧しい漁師の家に生まれ、哀しければ泣き、おかしければ笑い、腹の立つことがあれば酷く怒る!ごく普通の人間だ… 言うならば似非もので偏屈もので、自分の信じている法華経だけは紙一筋も疑わないつむじ曲がり、日本一の強情もの… もっと言えば、この身は畜生かもしれん… しかし!五体に漲っている法華経!これだけは、その南無妙法蓮華経だけは永遠に天地とともに絶対に永遠のものだぞ~!(佐渡の海岸の岩の上に立ち、荒海に対して手を広げる日蓮の姿)

天地とともに絶対に永遠の…と戸田が語り終えると、聞いていた北川は、正にその通りだ…と納得する。

そらあ御本家のお釈迦さんがはっきり30にして悟りを開き、その後40年かかってこのお経を唱えると藤崎も共感する。

さて、そこでいよいよ法華経だ、ちょっと!始めるその前に、改めて日本の仏法、つまり仏法と言うもの、民衆はこれまで一体どんな形で受け入れて来たのか?と言う事だ…戸田は言う。 (回想)和尚様、ありがたいお経でございましたが、要は悪いことをすればあの世に行って地獄に堕ちるんですね?と僧侶を前にした民衆の1人が問いかけると、その通りじゃ、地獄へ堕ちてこのようになるのじゃと僧は地獄絵図を指しながら答える。 地獄へ堕ちまいとすれば、御聖人様、この世で生きている間に…と別の女が聞くと、その通り、ひたすらに仏を拝み、良いことをすれば地獄へ堕ちずに極楽へ行けるのじゃと僧は答える。

極楽図 しかし君たち、こんな地獄や極楽を信じるか?と戸田は、北川らに問いかける。

冗談じゃないよ、死んだ後の地獄や極楽だなんて…と岩森が言うと、第一こんな極楽だったら僕なんか行きたくないよな…と戸田も同調する。

酒がある訳じゃないしさ、きれいな姉ちゃんがいる訳じゃないしさ、藤崎君なんか一番困るんじゃないかな?退屈で退屈でどうしようもないんじゃないか?や、おかしいね…などと戸田は冗談めかして笑う。

ところがだ、日本と言うのは仏法国でありながら、民衆と言うのは結局こう云う形でしか仏法と言うのを教えてもらわなかったんだな…と戸田は言う。

仏教のね、どんな宗派だって、元々の教義なんてそんないい加減なものじゃないんだ。

しかしね、教本が外国語で書かれているせいか、一体どう説明すれば民衆に良く分かるのか、そこについては全く努力がされていなかったんだなと戸田は指摘する。

ところがだよ、民衆と言うのは偉大なものだ、そんないい加減なものの中からでもだよ、少なくともね因果応報、善悪の二報だけはね、これはきちんと汲み取った!と戸田が指摘すると、善悪二報?と北川は聞く。

うん、悪いことをすれば悪い、良いことをすれば良い報いがあると言うことを…、しかし仏法の根本思想と言うのはね、そんな良い加減なものじゃない!現実の生活に充満する生きていくことの苦悩、この1つ1つにだね真っ正面から対決してだよ、それを解決を解ききり、自分の運命を変え、自分自身を変革せしめる! いいかね?つまり、人間に革命をもたらせるものなんだ!と戸田は指摘する。

人間に革命を?と藤崎が聞くと、そうなんだ、その考え方が余りにも偉大な為に哲学を乗り越えてとうとう宗教になってしまった!と戸田は言う。 これはね、世界に誇る東洋の一大英知だ!と戸田は断ずる。

その後、寺の本堂で僧たちと一緒に拝む戸田、北川、藤崎たち。 昨日はよんどころない用事でつい…と言い訳しながら、戸田のいた大石寺を訪れたのは清原と泉田ため(瞳麗子)の2人だった。

お二人はね、牧口先生の門下生でね、清原君の方が小学校の先生、泉田君の方はね、ご亭主が軍人さんでね南方へ行ったまままだ帰って来てないんだなと北川たちに紹介する。

2人を囲炉裏端に招いた北川が寒かったでしょうとねぎらうと、寒い、寒い、一宮から歩いて来たんだよと清原が答える。

そら大変だと戸田が同情すると、何もないんで気持だけ正月のおせちで…と言いながら、泉田が土産を差し出す。

囲炉裏で焚いた粥を食べながら、こりゃ旨い、甘からず辛からず…、こう云う味付けをしてるようだと君は良いお嫁さんになれるよなどと泉田手作りの昆布の煮染めを食べる戸田。

そこに、人数が増えてにぎやかになりましたな…と言いながらやって来たのは室田日照だった。

明日からの勉強会に…と泉田が答えると、勉強会じゃないよ、戸田さんの講義を聞く会だねと岩森が言う。

私も戸田さんの話をちょっと聞いたもんで、戸田さん、いつの間に勉強を?と日照が驚くと、そうだよな、戸田君、君はいつの間にあんな勉強を?と藤崎も驚く。

昨日は前置きの総論から始まって緒論に入り、今日は方便論で…、明日からいよいよ十界論に…と北川が教えると、十界論?と泉田は驚き、戸田君はこの十界論に酷く張り切っていると岩森が言う。

そりゃそうですよ、十界論はよほどしっかりやっておかないと、法華経は前には…、とてものこと1年や3年ではね…と日照は言う。 いやあ、そうじゃなくて戸田君はこれまでに解明されなかった何か重要なものに触れているみたいでね~と藤崎は言う。

しかしこの調子じゃとても予定の明日1日じゃあ…と岩森も言うので、とても終わらんなこれは…と千田も賛同する。

せっかく話が面白くなって来たのにな…と藤崎が残念がると、それは東京に帰ってから続けるさと戸田は言う。

東京に帰っても?と北川も驚くので、うん、時間がかかるのは仕方ないんだよな、僕もそうだけど、みんなの頭の中の容れ物が小さすぎるんだ、一気に詰め込むと頭の方がぱーんといかれちゃうんじゃないか?などと戸田は冗談を言ってみんなを笑わせる。

その頃、幾江は帰って来て食事をしていた息子の喬一(木下圭介)に、又一関に行っても良いの?と聞いていた。

ああ、良いよと言うので、そんなにずっと伯母さんの所で寂しくないの?と聞くと、朝7時と寝る前の9時にお題目上げるんだと言うので、お題目?と幾江は驚く。

お父さんと前から約束してるんだ、それさえやればちっとも寂しくないよと喬一は言う。

そう、お父さんとそんな約束してたのと幾江はあっけにとられる。

ああと言うので、じゃあ喬一も大きくなったらお父さんみたいに?と聞くと、喬一はしっかり頷く。

昨日までは3人、しかし今日からは6人だ…と、大石寺の石段を上りながら戸田は考えていた。

彼らは最後まで講義を聴くだろうか?いや、中には落後するものもおる、しかし又新たに参加してくれるものも… とにかく大事なのはこの講義を最後まで続けることだ。

「創価学会本部」と書かれた大看板を掲げた戸田の「日本正学館」で、再販より新しいの?しかしね高島さん、こっちとしては再販、中販ものって言うのはある程度大事にしてるんだ、これは…、順調に売れてるんだから…、こっちに任せて下さいよと戸田は電話をしていた。 電話を切ると、再販、再販だ!と戸田は三島ら社員に伝える。

「虚栄のメール」と「涙の川」が5000で、後が3000ずつ、宜しく頼むよ、みんな!もう一踏ん張りだからな!と戸田は社員たちを励ます。

奥村君、後2万部くらい増刷したいんだが、どうだろう?紙の方は…と戸田が確認すると、2万と言うのはちょっと窮屈ですねと奥村は答える。 そうか、今日は金曜日か?と思い出した戸田は、先生、良く続きましたね、先生は始めたらとことんまでやる人だけど、あの4人が良くね~と奥村は感心する。 今日でもう…?と奥村が聞くと28回目だな、今日で打ち上げだよと戸田は答える。

戸田はその後、「法華経講義会 第一期修了者」と言う記録を書く。

その日は北川、藤崎、岩森、本田の4人が修了式に出席し、戸田から渡された書面に1人ずつ署名をして行く。

ええっとね、蛍の光くらい歌ってもらわなければいけないんだが、みんなのだみ声聞いてもしようがないしな、これはとっておきの奴なんだ、お祝いだよと戸田は角瓶を取り出す。

「正学館」では、山平が清原かつ(福田公子)に、法華経の講義会のことだったら先生に聞いてみますよ、あなたや泉田さんが改めて講義を最初から…と言うと、そうなんです、今人を集めてるんですけど、4月からなら良いだろうって先生はおっしゃってるんですと清原は答える。

今度は僕たちも参加することに…、12日の月曜日から始めるって言われているんです、毎週月水金5時からに会の8畳で…と山平は教える。

今日は良く集まったね…と戸田は次の講義会に参加し、さ、今日から第二期の講義を始めるかな…と言いながら椅子に腰掛ける。 みんなの中にね、この世に地獄や極楽があると信じているものがいるかな?と戸田は仁丹を掌に出しながら聞く。

清原君どうだい?と名指しされた清原は、仏法上では確かにあります、でもそれは観念の問題であって現実にはあり得ないと思いますと答える。

すると戸田は、そうかな?僕はあると思うんだけどな…と呟くと、あるんだよ、間違いなく現実にそれがあると断ずる。

原爆投下とその犠牲者の写真 これを地獄と言わず、他にどんな地獄がある? 閻魔様やね、赤鬼や青鬼がいる地獄…、あんなものは嘘っぱちだと戸田は言う。

これが本当の地獄って言うんだ!いや、他にももっと地獄はあるよ、あるって… デモや電車事故、飛行機事故などの映像 しかしだね、地獄と言うのは自分が辛くて哀しくてだ、もう泣くにも泣けないようなどうしようもないやりきれないような状態を言うんだ。

だから戦争とかさ、特別な事件とかばかしじゃなく日常生活の中にだよ、日常生活の方がもっとずっと多いんだ、こう云うのはと戸田は言う。

病気で苦しむ男、妻(雪村いづみ)を殴る夫(江角英明)の家庭内暴力の様子、貸し付けを断られる中小企業の社長らしき男の姿など… まだ色々とあるだろう、どうだい?との戸田の問いかけに、例えば、就職の試験に失敗した時と女性が答えると、好きな人に勝向こうから手にさよならを言われた時…と清原も答えると、実感があるねと戸田が茶化し、参加者たちが笑う。

理由もないのに上役からガミガミ叱られたり…と山平が続けると、生まれて来た子供がカ○ワだったり…と奥村も答える。

あるな~、本当にあるんだ、地獄とはそのようにいくらでもある…、しかしね、地獄ばかりではなく極楽だってあるんだよ、地獄も極楽もね、あの世にあるのではなくこの世にあるんだと戸田は言う。

それは今僕が偉そうに言ってるんじゃなくてだよ、700年も前に大聖人がちゃんと言っておられる、この十字御書(むしもちごしょ)の中にだね、そもそも地獄とはいずれの所に候ぞと尋ね候えば、或は地の下と言う経文もあり、或は西方等と言う経文も候う…、しかれどもだ、委細尋ね候えば、それは我が身五尺の身の内に候と見えて候…な? つまり地獄も極楽も我が身の内…、要するにだよ、直接にこれを自分の肌に感じる何者かが現実の世の中にはあると言うことを言っておられるのだよ。

いやそれだけじゃなくてな、法華経ではだよ、単に地獄とか極楽と言った過去の仏教の絵空事のようなことのようなもんじゃなしに、人間が感じる世界をだ、もっとはっきりと明確に10に!10の世界に分類してあるんだよ、な?これが十界論と言うんだと戸田は言う。

え~、じゃあ下の方からいくか、1地獄、2餓鬼、3畜生、4修羅、5人…、これはね人:と書く、6天、天だ良いね?7声聞、これは8縁覚、これは悟る、それから9が菩薩、10仏と…、こうなってんだよ、こう十界に分けてあるんだ、良いね、これが十界論!と戸田は教える。

良し、それじゃあ地獄が終わったんだから、その次は餓鬼へ行こうか? 人を食らう餓鬼の柄から、ポルノや物欲に走る現代人の姿… バーゲンセールに集う主婦たちや、金を受け取る政治家の姿… 欲望に支配されててん、いや、欲望に取り憑かれてだね、それを貪り食うと言う状態なんだな…気をつけないと誰でも陥りやすいよ、これが餓鬼の世界だと戸田は説明する。

日が改まり、参加者も変わった別の日の講義会、今日は第一回の所を復習してみようか…と戸田は言う。

十界論を良く飲み込めないまま前に進んだってしようがないんだ、ええと、地獄と餓鬼はもう良いから、次の畜生だな… 町中で殴り合うサラリーマン、銀行強盗(黒沢年男)の再現映像… これが畜生界…、倫理道徳もわきまえずにだね、ただただ本能の赴くままに行動する…、完全な弱肉強食の考えだな…、大企業が中小企業を圧迫するのもこれに当てはまると戸田は言う。

ある日、ま、配給だけでやって行けと言うのは無茶ですよ…と言う声が聞こえる通りを歩いていた清原かつは、小西武雄(佐原健二)から声をかけられる。

お元気?とかつが聞くと、ああ、僕は元気だけど、どうしたんだい、そんなに考え込んだりして…と小西は聞く。

まあ…と言いよどんだかつだったが、あなた、まだ信心やってる?と聞くと、ああ、幸い僕の家は焼けなかったんで原山君や関君が転がり込んで来て、今一緒にいるんだと小西は答える。

小西さん、あなた戸田先生にお目にかかった?とかつは聞く。

ええ、懐かしいね、今まで一体どこのに雲隠れしとったんだい?と、その後、「日本正学館」にやって来た小西らに再会した戸田は驚く。

我々は現職の教員であったことと、それから上層部の幹部ではなかったので当局の嫌がらせはありましたが逮捕されずにすみました…と、小西や原山幸一(長谷川明男)関久男(石矢博)らは答える。

それは良かった、君たちのことは本当に心配しとったんだよ、蒲田の三銃士な、鎌谷は将来性があるのが3人いるってね、牧口先生が常々言われとったよと戸田は、彼らの肩を触れながら喜ぶ。

ところで先生、講義は?と関が聞くと、二階でやるんだ、予定通りと戸田は答える。

それじゃあと3人が二階へ上がって行くと、戸田は三島に、思い出すね~、先生を…、みんな牧口先生が撒かれた種だよ…と話しかける。 五月の鯉のぼり 奥村は、山平が謄写版に書いていた原稿を覗き込み、「価値創造」の復刊か?と話しかける。

こんなに原稿が、みんな偉い連中ばかりですと山平は答える。

とにかく人集めですね、そう、第一回の幹部会で決められたことは「価値創造」の復刊と、それから折伏を強化する為の各地区での座談会だからねと小西や原山は話合っていた。

戸田先生が御見えになるのに2人や3人じゃ寂しいじゃないの…、あなたも5人くらいは…、5人じゃダメ打破、最低でも7人から10人くらいはね…と清原かつも小学校で同僚と話合っていた。

戸田は三島から今後の講義のスケジュール表を見せられ、月水金は本部での講義会ですから、それ以外の火木土…と説明されると、これじゃまるで日曜日が空いてるじゃないかと疑問を口にする。

日曜日も?と三島は驚くが、夏にはね大石寺での夏季講習会、秋には牧口先生の三周忌を兼ねた総会だろう?この2つはどうしても外せんのだ、だから当分の間日曜も休みもないな…と戸田は言う。

良いね、今のは4の修羅の世界の話でだね、これは他人との争いの話だ、親との争い、嫁と姑のいがみ合い、それから商売敵、主義の衝突、こうしたことはね、いつも相手が間違っていて自分の方が正しいんだと言う、常に他人より勝とうとし、あるいは勝っているんだとする増慢の思いから起こるんだ…と座談会での戸田は説く。 強いてだよ、今度はこれが大きくなると国と国との戦争にまでなる…と戸田が話した時、よお!と声をかけて来たのは。

かつて戸田を脅したジャンパーの男だった。

戸田城聖が何か話しに来ると言うので、あん時のふてぶてしいお前さん思い出してな、しかし今夜の話は嘘だ、インチキだ、まるでデタラメだよとふてぶてしい態度で言う。

何?と戸田が言うと、そうじゃないか、何が修羅だよ、増慢から人と人との争いが起きる?冗談じゃねえぜ、俺たちゃ騙されて戦争に駆り出されたんだと男は言う。

天皇の軍隊、無敵海軍、八紘一宇、聖戦、欲しがりません勝つまでは…、全くいじらしいもんだぜ…と言うので、ちょっとちょっと、ここへお出でと戸田は近くに呼び寄せる。

男が戸田の前に近づいて座ると、今君が言ったことはおそらく間違いないだろう、全部君が経験したことだからね、しかし君は騙された騙されたと言うけどね、じゃあ誰に騙されたんだ?俺たちは…と戸田は聞く。

学校の先生か、それとも軍隊の上官か?と問うと、そんなこと俺に聞かなきゃ分かんないのか?と男がすねるので、ああ分からんとも、君を騙したものなんか誰もいないんだと戸田が言うと、なんだと!と男はむきになる。

その人たちはだね、君を騙したんじゃない、自分たちもそうだと信じ込んでいた!と戸田は上着を脱ぎながら言う。

八紘一宇も聖戦も、欲しがりません勝つまではも、な?だから決して君を騙したんじゃない!と戸田が言うと、ああ嘘じゃないかもしれん、自分たちも信じてたかもしれん、だがそれが俺たちガキを戦争に追い立て、人殺しまで…、それが許されるってのかい!と男は反論する。

そう、そこなんだよ君、一番恐ろしい所は!そうした大きな間違ったことをだね、上から下までもが全部信じ込んでしまうことなんだと戸田は力説する。

すると男はポケットから煙草を取り出し戸田に差し出す。 戸田は1本煙草をもらい、男と一緒に煙草に火を点けながら、君はね、自分に罪がないとは言え、それを信じ込んでしまったが為にだね、今の世界に入り、下は地獄まで見た…、だからこれからの生き方次第では菩薩にも仏にもなると戸田は言う。

話がまどろっこしいな…と男がぼやくので、君、先生のおっしゃることを…と横から三島が口を出すと、うるさい!と男は一喝し、俺はこの人と話しているんだと言う。

戸田さんよ、俺はよ、天皇陛下万歳を止めたんだよ、その時にこう思ったよ、南無阿弥陀仏も飴も俺には一生縁がない、南無妙法蓮華経だっておんなじだね…、じゃあと男は言うとさっさと帰って行く。

戸田は聴衆たちに、あの男は今十界のどこにいると思う?と聞く。

地獄ではないな?もっともっと上の声聞(しょうもん)の世界だ、あの男は道を求めて今何かを考えようとしている…と戸田は言う。

夏の雲

戸田は1人大石寺で合掌していた。

そこに山平が近づいて来て、先生、受講者が集まりました、会員22名、入信希望者が7名、全部で29名ですと伝える。

夏季講習会が始まる。 以上説明したようにだな…、1地獄、2餓鬼、3畜生の3悪道、4修羅を加えた4厄趣の上にだね、始めて人界、第5の人の世界がある…と戸田は話し始める。

これは一般のごく普通の人の話だな、そう苦悩する訳でもないし、がつがつとものが欲しいと言う訳でもないし、又他人と争うと言うこともないんだよ、まあね、どんな人間だってこう云う状態のことがある。

要するにだ、物事を冷静に判断でき、行動の出来る状態を言うんだな。

大聖人様はね、一言でね、こう云う世界をね、平らなるは人!こう言われている。

人の上の6、これが天!と戸田は言う。

赤ん坊をあやす母親、受験で受かった受験生、恋人が西新宿の歩道橋で出会い抱擁する映像

こりゃ良いや、これで心と身体の中、生き生きしてぴちぴちしていると戸田が言うと、聴講生は全員笑う。

でもね、こう云う喜びと言う奴はね、自分が無理に意識しようとしてもこれはだめだ。極自然なものなんだよ、良いかい?これが本当の人間の喜びと言う奴、だから大聖人様もね、喜びは天と言われている。

良いかい、ここでもういっぺん繰り返すけどもね、地獄、餓鬼、畜生、修羅の三悪道、四悪趣の上にだよ、人と6の天を加えて、六道と言うのだ、六つの道だ!と戸田は言う。

良いかい?普通の人間はだね、六つの世界を1日の内に行ったり来たりぐるぐるぐるぐる回ってるんだと戸田は説明する。

これを仏法では六道輪廻と言う。良いかい?六道輪廻だ…

(回想)磯辺の波しぶき

例えば徳川時代の天草の乱だ…、キリスト教の為に大部分の信者は命を賭けた、しかし法華経にはそれだけのものが、本当の人間の魂に触れ、信じ込ませ納得させる教義そのものがないんだよ!と責めて来た戦時中の検事の会話が戸田の脳裏を横切る。

その上、幹部21名が逮捕されただけで壊滅状態、教義の曖昧さに加えてこの組織力ゼロの弱さ! 諸戦争か教育学会は一時的な眉唾物の邪教だ!

磯辺の波しぶき

(回想明け)これまで説明した六道輪廻、これは人間の極一般的な状態で、他の宗教でも説明や説話がある。

こっから先は法華経だけにしかない! 言うならばだ、七界から十界に至るまでが法華経の神髄のようなものなんだ で、六道輪廻を越えた所で初めて声聞(しょうもん)、声を聞くと書くんだがね、その第七の声聞(しょうもん)の世界に入る。

急病で倒れ、救急車で病院に運ばれ、ベッドに寝ている男(佐藤允) 家庭内暴力、赤ん坊と二人きりの母親(雪村いづみ)、銀行強盗の果てに獄中生活の男の姿

悩んでいるのでも、苦悩しているのでもない、みんなそれぞれに何かを考え込んでいる。

手術をし、病院の屋上で悩むインターン(山本豊三) 人間誰しもこう云う状態が良くあるよ、では一体何を考え込んでいるのか? 西洋の有名な哲学者でパスカルと言う人はだね、人間を考える葦と言ったんだが、これも案外その通りかもしれんな。

いずれにしても、ここで人間は六道輪廻の呪縛から離れている。

こう云うのをね、反省的自我の確立と言う。ちょっと難しいかな? もっと優しく言えばだ、1人で考え込む、もっと割り切って言えばだよ、声聞(しょうもんとは呼んで字のごとく、声を聞く。

人間が考え込んでいる姿と言うのはだよ、ひたすら道を求めて何かを注意深く聞こうとしている格好に似ている、こう解釈すれば分かりよいだろうと戸田は笑う。

この状態がだね、もう一段階進むと8の縁覚になる、これは縁を覚ると書く。

これは何らかのものを得んとし、あるいは縁に触れ… 獄中の銀行強盗は1人考え込んでいた。

港で油絵を描くインターン… 亭主がどんなに頼んでももうあかん…、女の人はその男と別れることを腹に決めちまっているんだよ!と愉快そうに戸田は言うので、聴講客たちも笑い出す。

ところでだ、この8の縁覚の縁に触れることだけど、女の人が見た可愛い我が子の寝顔…、それから銀行強盗だが、これは自分が犯した犯罪の中から、使った拳銃と言うのがだよ、建築の工具に繋がって来たのかも分からんな…、しかし医者になることを辞め、絵描きになろうとし始めたインターン、これはね何の縁だったかさっぱり分からない… しかし、もやもやしたもののもう少し先に進むとだよ、ごく自然にそれが何だかはっきりして来る…と戸田は言う。

要は六道輪廻、これは法華経以外の仏法にもあるから、大勢の人が案外知ってる、しかし、その知っていると言うことはだよ、良いかい?人間の限界はせいぜいここまでで、ここから先はなかなか越えられないと言ったね、実はそんないい加減なものなんだよと戸田は説明する。

そんなことはありません、んなことはないよな?人間誰だってだね、日常生活の中で六道輪廻なんてのはしょっちゅう超えてる。

その時、先生、質問がありますと手を上げたもの(鈴木ヤスシ)がいたので、ああ良いよと戸田は答える。

7の声聞(しょうもん)は考えると言うことですが、考えることならこれは5の人界でも全く同じ事があるんじゃないでしょうか?とその男は聞く。 すると戸田は、それは違う、なるほどね、5の人界でも物事の判断は出来る。

ところが物事を判断することと考えるってことはね、明らかに違うんだ! 例えばだね、今君の目の前にウナギと天ぷらがあったとする、ウナギが好きだったらウナギを、天ぷらが好きだったら、君はね、天ぷらを食うと戸田が男に近づきながら言うと、僕は両方とも好きなんですと男が答えたのでみんな笑い出す。

だからね、君はどっちにしようかと迷ってる訳だ、どっちにしようかと迷っているってことはだよ、天ぷらにしようかウナギにしようか迷っているだけでね、別に何か深く考えてる訳じゃないんだよ、うん、じゃあね、今君に対して結婚したい女性が2人あったとする、君もこの女性に対してはまんざらじゃない、でもその顔じゃそう云うことも余りなさそうだけどな…と戸田は男をからかう。

しかしだよ、A子さんはすらっとしてかっこが良いとか、B子さんの方は顔が良いとか、どうだとかこうだとか言う事をだよ、2人を比べて判断しているだけのことなんだよ。

しかし判断しようとしていることには迷いが生ずるだろう? 君は迷っていることを僕は考えているんだと錯覚しているだけなんだよと戸田は言い聞かす。

よし、じゃあね、君はいよいよ結婚することに決めた、そのA子さんとだな、ところが決めたことには決めたんだけれども本当に良いのかどうか?そう云うことをだね、君はふと考えてみることはないか?と聞かれた男は、はい、それはあります!と即答する。

うん、それが反省的自我の確立、すなわち声聞(しょうもん)の世界だ、どっちにしようかなんて言う迷いではなくて、君はここで初めてA子さんとの結婚が自分の人生にとって本当に良いかどうか、ね?これを考え始めた、良いかい?考えると言うことはだよ、一切の迷いを捨てて全部なくなってだ、道を求めてひたすらただただそれに付いてのみ考えると言う、こう云うことなんだがな?分かるか?と戸田はとう。

はい、とにかくA子さんとの結婚だけに付いて考える、こう云うことですね?と男が答えると、そしてそれが8の縁覚ではっきりと…と男が言うと、いやいや、それだけじゃまだ結婚は決まらないんだよと戸田は言う。

縁があれば君の気持だけは決まるだろうけどね、それは君だけの問題であって、良いかい?その時A子さんはだね、他に好きな男がいることに気がついて、はい失礼しました、ご免下さいとさっさとその男と結婚してしまってだよ、世間に俗に言う極楽の世界には行っちまっているかも分からんよと戸田は指摘し、聴衆が又笑う。

その後、仲間内だけでの夕食の席、とにかく29人しか集まらなかったこの現実をどう見るかだよと北川は指摘する。 1日も早う戦前同様支部を復活し、散り散りの会員を元通りにしなきゃ再建の意味はないよ…と藤崎も言う。

支部の復活には賛成ですが、それが単なる戦前への復活だったら意味がありませんと小西は意見を言う。

僕たちが現在入信の対象にしているのはもっと若い層ですと原山も発言すると、若い層、若い層と言うが、それがどれだけの価値がある、少しずつでも増えているのは大部分が昔の会員だよと岩森が疑問を口にし、それを一挙に増やす為にか?と北川が聞くと、いやいや戦前の支部をそのまま復活すると言うのはこれは問題があると戸田も言い出す。

支部って言うのはこれは作るもんじゃなくて極自然発生的なものにしなくちゃダメなんだ、自然発生的?と藤崎が聞くと、うん、ある所に集まりが出来る、ね?そこを法華経に強い信心の砦にする、そうした強固な拠点にするためにはだよ、我々はもっと積極的にそこに出かけて行ってさ、共学の為にもっともっと多くの座談会を催しないと…と戸田が言うので、いやいや、このままでは会員は増えない、戸田君の生命論は分からないことはない、しかし大部分の会員は牧口先生の価値論を中心に進んで来たんだ、君の生命論は耳慣れなくてみんな戸惑っている、これが偽りのない現状だよ…と北川が指摘する。

その件については、今日ご本尊の前に2時間ほど座り、牧口先生にはお断りを申し上げて来た…と戸田は言いながら正座し直す。

先生の価値論は現在哲学の最高峰だ、しかしそれは一時引っ込めさせていただく、戸田城聖は南無妙法蓮華経から出発すると戸田は断言する。

しかし菩薩と言うのはこんな人間を離れちまったもんじゃないんだよ、全てが極短い、賢そうな顔をしている文殊師利菩薩、これはその知恵と力の働きで…(蘭の栽培をしている学者や作曲家、新幹線の運転士の姿)

次の弥勒菩薩、この穏やかそうで優しそうな顔は人の慈悲の心で、みんなの為に働いている人達だ。(保母さんやみどりのおばさん、スチュワーデスなど)

次は普賢菩薩、この静かな表情の中にも深い探究心を秘めた菩薩は、(考古学の研究者や農業試験場で働く人たちの姿)

次の薬王菩薩は読んで字のごとく(医者の姿)

次に注意深く何かを聞き、その上で判断使用としている観音菩薩、観音とは観世音、すなわち世音を感ずるの意味でね(弁護士や工場の社長)

この菩薩の世界、7の声聞(しょうもん)、8の縁覚と違う所はどこだと思う?

人間はね、六道輪廻を離れ、声聞縁覚で初めて自己の確率が始まる。

仏法とは道を求めてひたすら何かを考え、何かの縁に触れてだ、それによる自分自身の確立…、良いかい? 西洋の個人主義なんざね、とってもとっても及びもつかないほどの厳しい自分自身の主体性の確立なんだよ、しかし、これがなされた後ではだ、再び人々の中に、社会の中に入って行く…、これが菩薩の世界だと戸田は言う。

よし、もっと分かりやすく言おうか?7の声聞8の縁覚は、まだまだ自分自身に関連している状態を言う。

しかしだね、それが完成され自己の主体性が確立された後、9の菩薩の世界ではだよ、たった1人ぽっちではなくてだね、再び自他の世界、良いかい?人々の中に入って他の人々と一緒に生きる、ここが違うんだよと戸田が言うと、質問があります!と立ち上がった女性(塩沢とき)が、先生、菩薩までは分かりましたが、こうした菩薩界の人だってたまには人と争ったり喧嘩をしたり、それがないとは絶対に言えない…と言いかけると、そう!その通りだ!と戸田は言う。

するといくら六道輪廻を離れ声聞縁覚から菩薩になっても、又地獄へ堕ちたり、餓鬼になったりすることも…と女性は言う。

すると戸田は、良い所に気がついたね!と感心し、そこが十界論で一番大事な所なんだよ!と言う。(病気で苦しんだり、病院で運ばれる患者)

こうなればもう地獄ではなくてね、人の世界だ、さらにもう少し良くなり今度の病気からだ、家族のことやつい自分の人生などを…、ここじゃ声聞からその進み具合では縁覚にまで入るな…と戸田は言う。

退院後、守衛の仕事に復帰した病気だった男は、家族との食卓で巧そうにビールを飲む姿

ここではもう菩薩を超え、いや極悪の畜生にだってこう云うことはあり得るんだ… 車で逃走する銀行強盗が、途中で警官隊に捕まり、獄中で暴れ回ったあげくにやがて脱力する様子

畜生から地獄に堕ち、それが人界から声聞縁覚の世界へ… そして長い刑期を努めて終わり、これはどう見ても菩薩だよと戸田は言う。

刑務所を出た銀行強盗が、建設現場のクレーンのオペレーターとして働いている姿。

しかしこの十界の入り交じりは特殊な人の特殊な運命ばかりではなく、僕にもあり、君にもある。

君にも…、今日1日だって笑ったり苦しんだり、全部それがちゃんとある。

地獄、餓鬼、畜生、声聞、縁覚…それが菩薩まで行ったかと思うと修羅だ、我々はこのように上がったり下がったり、いや上がったり下がったりなんて全然感じる余裕もなくてだよ、ほとんどこう瞬間的に入り交じっている。

それじゃあ、どうしてこう云うことが起きるかと言うと、それはまだ明らかにしていないことが1つ…、地獄界から菩薩界までははっきりと人の形と状態で示してくれた、仏界だけはそうはいかない… そうはいかないと言うよりも、この仏界の仏だけは人間の形や状態にはなりようがないんだ、説明のしようのない物なんだ… この十界の仏にこそ、全てを解く鍵、つまりその本質を明らかにすることによって全てが解明される… でははたして十界の仏とは何か? この無量義経徳行品第一(むりょうぎきょうとくぎょうほんだいいち)にこう書かれている。

ごしゅゆうやくひむ

(回想)獄中にいた戸田は、にじょうひき…これは何だろうな?、あらずあらずが全部で34…と考え込んでいた。

しかし前からの繋がりと、その後にその身とあるんだから…

(回想明け)仏の実態を明らかにされているのには間違いないんだが…、それはある物でもなければないものでもない…、仏法上の空間と言う考え方を重視すれば、仏とは案外そんなものかも…、しかしそれじゃあ仏は単なる観念にしか過ぎない、仏法の神髄たる大聖人の仏法がそんな単なる観念論であるはずがない! それにね、僕は元々学校の教師だ、科学や数学には特別に興味がある、特に数学が大好きだ、だからもう理屈に合わないことは絶対に納得できない…

(回想)非因非縁非自他非方非円非短長…、戸田はその言葉の意味を考え抜いていた。

(回想明け)こうして朝も昼も夜も何百回、何千回、何万回と、読んでは考え、読んでは考えしたんだけれども、何としても分からない、「無量義経」を何時読み始め、そして何日経ったのか? もう時間の観念すらなくなってしまった…

(回想)くたびれは手、獄中の布団に身を横たえた戸田は、次の瞬間、あっ!と叫んで飛び起きる。

窓の外に登った朝日を見て、分かった!やっと分かったぞ!と戸田は叫ぶ。

仏とは、仏とは命のことなんだ、自分自身の命のことなんだ!

(回想明け)命とは、生命とは、あるものではない。ないものでも、どこか他からやって来たものではない、他へ去ってしまうものでもない、丸いものでもなければ四角いものでもなく、長いものでもなければ短いものでもない、この34のあらず、あらずが全部当てはまる、ぴったりと…、仏とは、仏法で言う仏とは何と生命のことなんだ、生命の証言なんだ! 他にある物ではなくて、命そのもの!自分自身の命なんだ…と戸田は結論づける。

講義の後、1人茶を飲むとだはため息をつく。 寺の鐘の音が響いて来る中、講義会の部屋では、聞いていた会員たちが全員脱力したような状態になっていた。 やがて戸田の元へやって来た山平が、先生…と呼びかける。

又部屋に戻って来た戸田は、法華経は難信難儀、昔から大変難しいものとされて来たが、しかしこの十界の仏、これが自分の命と言うことが分かれば、たちどころにすらすらと誰にでも良く分かって、菩薩の世界が突如として地獄になったり、逆に又地獄が天人、声聞、あるいは菩薩になったりする。

この十界をことごとく供えた人間、その真ん中を貫いているもの!と戸田は言いながら十界を書いた紙を剥がすと、その裏には、南無妙法蓮華経と縦に書かれた文字が出て来る。

これが仏だ!と戸田はその文字を指差す。

自分の命だ!この自分の命が真ん中を貫いている為に、今いる自分の世界を刻々と感じているんだ、言い換えれば、人間がどのような世界にあろうとも、この仏、この自分の生命により、その運命を変える。

仏法の根本は繰り返し繰り返し自分の運命の転換を説いているんだ… 例えば今自分を苦悩のどん底にいる、これは他の世界がことごとく隠れてしまって、自分にはもう苦しみの世界だけしかないんだ、こう云う時には少しでも早く自分の命に聞く、俺は一体今どこにいる?地獄か?餓鬼か、それとも畜生か? こうして我が命に聞けば、今までは苦しみだけしか感じていなかった我が命がここで初めて我に返る。

こうして我が命に問いかけ、我に返ることこそ自分自身の取り戻しであり、同時に自分がいるのは地獄か餓鬼か畜生か?それとも修羅なのかが分かる。

「南無妙法蓮華経」の文字だけが浮かび上がり、その周囲は天変地異のイメージが重なる。

そしてこの自分がいる世界がはっきり分かることによって、隠れている他の世界もあること、他の世界が初めて見え出すんだ!

宇宙の中で回転する星雲のようなイメージ

そして、この他の世界が見え出すのと同時に、自分の意思、つまり命は一気に六道輪廻を離れて声聞、縁覚の世界に入る…、これが解脱の始まりだ。

解脱とは力強い自分の浮き上がりであり仏法思想のこれただ一つ!他力本願ではなしに自己の主体性による自分自身の変革を教えているんだ!

そしてそれがなされた時、いやその時にこそ、そしてそれがなされた時!その時にこそ!

太陽のイメージ

「人間革命 一部 二部 終」の文字が浮き出て来る 。
 


 

 

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