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三つ首塔

御大片岡千恵蔵が名探偵金田一耕助を演じるシリーズ第6作で、これが千恵蔵版としては最終作となる。

このシリーズでは、金田一には白木静子と言う助手がレギュラーとして付いており、本作でその役を演じているのは高千穂ひづるさん。

初期の頃の白木静子は女性ながらも頭が切れ、推理面でも金田一を良く補佐する名ヒロイン役だったが、この時期の白木静子は役には立つキャリアウーマン風だが、特に頭が切れる風には描かれておらず、ごく普通のヒロイン像になっている。

もっとも主役の金田一耕助にしても、初期のようなやたら堅苦しい言葉を連ねる奇妙な印象はなく、セリフ使いも普通になっている。

膨大な遺産と奇妙な遺言状を巡る連続殺人と言う趣向や複雑な姻戚関係や因縁めいた過去の話などは横溝原作ものらしいのだが、事件そのものに外連味は薄く、見立て要素などもないので、ごく普通の通俗連続殺人と言った感じで、かなり凡庸な印象になっている。

突然、莫大な遺産を受け継ぐ事になった可憐な少女を演ずるは大きな瞳が印象的な中原ひとみさん。

弁護士役を演じているのは小沢栄(太郎)さんで、市川崑監督「犬神家の一族」で古館弁護士を演じていた人である。

意外なのは相続人になる親戚の1人を演じている稲葉義男さんで、「七人の侍」(1954)の2年後なのにセリフもほとんどないようなちょい役を演じている。

金田一は銀座辺りに自分の探偵事務所を持っており、そこで白衣を着て毒物の分析等を自分でやっていたりする。

初期の頃の金田一はまだ千恵蔵御大も若々しさが残っていたが、この頃になるとさすがに顔もむくんで来ている。

変装したり銃撃戦をやったりチンピラと格闘するなど、金田一と言うよりはどう観ても多羅尾伴内である。

年齢にも関わらず、ロープを伝って下りるなどクライマックスの御大のアクションも見物。

クライマックスの三つ首塔の炎上もミニチュアと実物大セットを併用しているらしく、なかなか見応えがある。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1956年、横溝正史原作、比佐芳武脚色、小林恒夫+小沢茂弘監督作品。

「荒磯に波」東映マーク

沼の側の枯れ木に止まるカラスが鳴き、寺の鐘の音が響く。

沼の奥に塔のシルエット タイトル 三つ首塔の中の各階には人間の頭部を象った無気味な頭像が祀られており、その一番階上でその像を拝んでいた法然和尚(加賀邦男)が、あんたも海の彼方で死んでしもうた。

2人が結ばれれば高頭省三も喜ぶはずだ…と語りかける。

新聞に「300万ドル稼いだ日本人亡くなる」「10億円の遺産が宙に浮く」「遺産は日本人に!幸運は誰の手に」と言った扇情的な記事とともに、海外サクラメントで亡くなったジョージ斉田(吉田義夫)の顔写真が掲載され話題になる。

上杉欣吉の屋敷前で車を磨いていた南條勇吉(杉義一)は、そこにやって来た客の後ろ姿をちらりと盗み見る。

応接間で客を出迎えた上杉欣吉(宇佐美諄)と姉の品子(松浦築枝)、そして義弟の佐竹建彦(三条雅也)が自己紹介すると、客は弁護士の黒川誠一郎(小沢栄)と名乗ると、上杉博士は近く御還暦のお祝いがあるとか…と言うので、私はうれしくないのだが、どうやら赤い物を着せられそうですと苦笑した上杉だったが、ご用件は?と聞くと、この新聞記事はご存知でしょうか?とジョージ斉田の記事を黒川が取り出してみせる。

知ってます、全財産を日本人に送ると遺言した人のことでしょう?と上杉は答える。

黒川は、実は私がその遺産管財人で、これがその執行書ですと書類を出してみせる。

上杉さんは、佐竹善吉と佐竹玄蔵と言う人物をご存知ですね?実は、ジョージ斉田と言うのは佐竹玄蔵さんその人なんですと黒川弁護士は明かす。

40年も前に戸籍が消えた玄蔵さんが何故?と上杉が理解できかねるように聞くと、上杉博士の亡くなった奥様には節子さんと言うお姉さんがおありになって音称さんをお産みになった。

その節子さんは戦災で亡くなりご主人もその後亡くなったので、その後音称さんはこの家の養女として育てられて来たはずですが、その音称さんが遺産相続人になったのですと黒川弁護士は言う。

ただし条件があり、音称さんは高頭俊作と言う人物と結婚すること、目下の所高頭俊作さんは行方が知れぬので探している所ですと黒川弁護士は言う。

音称が結婚を拒否した場合は?と上杉博士が聞くと、第2の遺言状が有効になり御血縁の方々に…と黒川弁護士は告げる。

その時、外出していた音称(中原ひとみ)が帰宅して来たので、黒川弁護士を紹介した上杉は、お前は10億の相続をするそうだと教える。

その後、東京会館で行われた上杉の還暦祝賀会が始まる前、その日司会役を務める佐竹建彦が上杉博士に高頭俊作のその後のことを聞くと、今日会いに来るはずだから、私を訪ねて若い男が来たら知らせてくれたまえと上杉は頼む。

その後、佐竹はその日披露するために呼んでいたのに遅れて来た笠原薫(浦里はるみ)と笠原操(鶴実千子)姉妹を注意し、早く支度にかかりたまえと指示する。

一方、黒川弁護士は会場で会った音称に、今夜高頭俊作さんに会っていただかなくてはいけません、三つ首塔にご記憶は?玄蔵さんは結婚式は三つ首塔で…とご指定でしたので…と言うが、その時、音称に上杉博士がお呼びですとボーイが伝えに来る。

二階に上がる音称と階段ですれ違ったのが金田一耕助(片岡千恵蔵)と助手の白木静子(高千穂ひづる)で、今のが宮本音称だよと金田一が教えると、あの人が!と新聞で名を知っていた静子も振り返る。

二階の通路に来た音称の前に急に火を灯したライターを差し出し、待ちたまえ!と呼び止めた男があり、君は宮本音称だね?僕は堀井敬三(南原伸二)だと名乗ると、俺がいる限り、君は高頭とは結婚は出来ねえよとぞんざいな口の聞き方で言い残しさっさと立ち去って行く。

上杉の待つ控え室に来た音称を待っていたのは品子しかいなかったので、何か御用がありましたの?と音称が聞くと、用と言うこともないけれど、お前が側にいないと落ち着かないのよ、まだ20分ありますから、それまでここで待ちなさいと品子は命じる。

祝賀会は予定通り夜8時から始まり、赤いちゃんちゃんこを着せられた上杉博士や招待客達の前にして、舞台では笠原薫、操姉妹による踊りが披露されていた。

ホテルのグリルには金田一もいたが、別のテーブルには手帳を眺めていた古坂史郎(片岡栄二郎)と、下品な食べ方で塩の瓶を床にぶちまけた志賀雷三(永田靖)も居合わせた。

その直後、踊っている最中だった笠原操が突然倒れてしまう。

等々力 グリルを出てちょうど祝賀会の部屋の前を通りかかった金田一はその様子を扉の隙間から目撃する。

急ぎ、操の身体を控え室に抱え込んで来た佐竹だったが、もうダメだと素人判断すると、一応医者を呼ばないことにはと上杉博士が言うので呼びに行かせると、失礼しますと言いながら突然その部屋に入り込んで来た金田一が、操の容態を診て、いけませんな、手遅れですと言うので、その場にいた全員があっけにとられていると、私は私立探偵の金田一耕助です、こちらは助手の白木静子と名乗ると事項紹介すると、ああ、あなたが!と上杉博士は納得する。

こちらとのご関係はと金田一が佐竹に聞くと、自分は日東商事の社長で佐竹と言い、こちらは笠原操と言い、今日の祝賀会の余興の為に呼んだ者で、姉と一緒に踊りの師匠をしていますと佐竹は答える。

踊りの前に何か召し上がりましたか?と金田一から聞かれた笠原薫は、チョコレートを…、頂き物と言ってましたと答える。

そこへ、たまたま近くで別の事件で出動していたと言う金田一の盟友、等々力警部(佐々木孝丸)が到着したので、自分はこのホテルに滞在中の客に会いに来ていたが相手は不在だったとここにいる理由を説明した金田一は、これは毒入りチョコレート事件ですと伝える。

その時、大変だ!3号室で若い男が死んでます!とボーイが駆け込んで来る。

3号室は上杉博士の控え室用に予約されていた部屋で、その若者の遺体の側にもチョコレートの銀紙が落ちており、黒川弁護士が右の腕を確認して下さいと依頼して来たので、等々力警部が部下の大山刑事(山本麟一)に男の右腕をめくらせると、そこには「俊作、音弥」を書かれた刺青が彫られていたので、それを知った黒川弁護士はこの男は高頭俊作君ですと言い出す。

それを聞いた等々力警部は、新聞に出ていた10億円の!と驚く。

黒川弁護士は相違ありませんと答える。 金田一は、近くから現場を覗いていたくわえ煙草の堀井敬三をジッと観察していた。

翌朝、8時半、金田一探偵事務所にやって来た白木静子は、郵便配達が投げ渡した郵便物を笑顔で受け取り部屋の中に入る。

部屋の中では、朝から実験していたらしき白衣姿の金田一が出て来たので、上杉家の近くのタバコ屋で、27、8の男が根掘り葉掘り音弥の事を聞いていたと静子は教える。

金田一は、毒物実験の結果、2件の毒入りチョコレート事件に使われたの毒は同じだった事、さらに被害者の高頭俊作には窃盗、脅迫など2件の前科があったことも教える。

さらに金田一は、ほどなく分かったのは、黒川弁護士から電話がかかって来ることと指摘した直後、本当に黒川弁護士から電話がかかって来たので、それを受けた静子はズバリですわ!と驚き、その推理の根拠を聞く。

すると金田一は、2時間前に僕の方から黒川弁護士に協力を申し出たら、後で電話すると言われたからだよと答えたので、それじゃインチキですわ!と静子は呆れる。

金田一は、等々力警部から手に入れたと言う高頭俊作の写真を静子に渡すと、さっきのタバコ屋をもう一度当たってくれと指示すると、自分は今電話を受けた黒川弁護士に会いに行く。

黒川弁護士から全面的な協力依頼を受けた金田一はさっそく、佐竹玄蔵さんとは?と聞くと、他言なさらんでしょうな?と黒川は念を押し、半世紀前、佐竹玄蔵は高頭敬介(五味勝雄)と共に、竹田大二(沢田影謙)なる人物から教えられ鉱山を手に入れたが、その鉱山がインチキで、大損したばかりか自らが詐欺罪に問われることとなった…と打ち明ける。

(回想)騙された恨みから、玄蔵はある日、トンネルの所で竹田を待ち受け、持って来た日本刀を抜いて斬り掛かり、逃げた竹田を吊り橋の上でとどめを刺す。

竹田は橋から落ち、茫然自失状態だった玄蔵は持っていた日本刀を橋から落とす。

(回想明け)玄蔵は竹蔵の所持金を奪い渡航したそうです、殺された高頭俊作は高頭敬介の孫です、玄蔵さんは昭和10年に密かに帰国し、三つ首塔を建立したそうですと黒川弁護士は打ち明ける。

その三つ首塔はどこにあるんですか?と金田一は聞くと、兵庫県の山奥で、法然と言う住職が守っていますと黒川弁護士は言い、高頭俊作君が殺された以上、第一の遺言状は効力を失い、第二の遺言状に沿うことになりましたが、玄蔵の4つ違いで亡くなった弟、彦太の子孫と高頭俊作の調査をお願いすると言い、手がかりとして6歳の時の高頭俊作の写真を金田一に渡すので、金田一は既に死亡していますが?と戸惑いながらも受け取る。

その頃、白木静子は、上杉家の近くのタバコ屋に高頭俊作の写真を見せていたが、宮本音称のことをあれこれ聞いていた男は、もっと顔が引き締まり、目つきが鋭かったと言うので、服装は?と聞くと、バンドのあるコートを着ていましたと言う。

その後、静子は、上杉家の家の前で中の様子をさぐっていたレインコートを着ていた堀井敬三を8mm撮影機で写し始める。

堀井が立ち去ったので後を付けようとした静子だったが、実は堀井は物陰に身を潜めて静子を待ち構えており、フィルムをもらおうじゃないか、俺は写真が嫌いだ、写してくれとは頼まなかったぜと手を出して迫るので、やむなく静子は8mm撮影機を渡す。

堀井は、8mm撮影機からフイルムを抜き取って捨てると、酔狂な真似は止めた方が良いぜと言い残し、撮影機は静子に返して去って行く。

しかし静子はフィルムを装填し直すと、電柱の陰に隠れ、さらに堀井の姿を撮影する。

堀井敬三は公衆電話ボックスに入ると、上杉家の音弥を呼び出し、堀井ですが、折り入ってご相談があるので井の頭公園まで来て下さいと伝えるが、お断りしたら?と音弥が聞くと、高頭俊作さんと同じ運命ですよと脅す。

井の頭公園に音弥が来ると、やっぱり来ましたねと堀井が現れ、歩きませんか?と誘うが、用事があるのでここでうかがいますわと音弥は硬い表情のまま答える。

すると堀井は、君、早くあの家を出ろよ、いればいるほど君の立場は不利になるんだよと言い出したので、音弥はおじさまやおばさまもいますからそんなことで来ませんと拒否する。

それでも堀井は、とにかく思い切って出てみないか?僕の側で暮らすんだよ、僕は新聞を呼んで遠い所から来たんだ、僕と君とは目に見えない悪縁の糸が繋がっているんだなどと説得して来るが、音弥はできませんわと拒否するので、どうしても嫌かね?それじゃあ、待つより仕方ないねと堀井は良い、君、僕のことどう思う?好きかい?と唐突に聞いて来る。

呆れて音弥が黙っていると、分かったよと言い残し、堀井は立ち去って行く。

数日後、黒川弁護士は、俊作と音弥が結婚すると言う最初の遺言状が無効となったので、第二の遺言状を伝えるため、その関係者一同を集める。

金田一は事務所で、静子が撮影して来た堀井の8mmフィルムを上映して見ながら、上杉博士のことならここしばらくは動きはないだろうから神経質になる事ないよと言うので、どうしてそうお思いなんです?と静子が聞くと、高頭俊作が死んだことで第一の遺言状は失効し、第二の遺言状になったが、その内容は誰も分からんからさと金田一は答えるが、笠原操事件の方は?と静子が聞くと、それも第二の遺言状が明らかにしてくれるよと金田一は言う。

佐竹建彦のマンションにやって来た笠原薫は、黒川弁護士から3時に自宅に来て下さいと呼ばれたんですと言う。

その時、窓から野球ボールが飛び込んで来たので、佐竹は下に集まって来た野球少年達に、ボールとテーブルにあったりんごを投げ与えてやる。

何人くらい集まるんでしょう?島原のおば様は知っているんですけど…とかおるが聞くので、操君は残念なことをしたねと佐竹が同情すると、運がなかったんですわと薫は諦めたように言う。

黒川さんの所へは一緒に行くかい?と佐竹が聞くと、そのつもりで来たのよと薫は言う。

黒川弁護士の自宅前には、サングラス姿の堀井が車の運転席に乗り込み待機していた。

佐竹とともに先に黒川家に来ていた薫が、島原明美(三浦光子)が来たので挨拶すると、相変わらずカマトトね、あんたみたいな上品な人と付き合うつもりはないわよなどと明美は嫌みを言う。

やがて黒川弁護士がやって来て、皆さん、お揃いになりましたね?では自己紹介をお願いしますと言う。

佐竹建彦、玄蔵の亡き弟彦太の孫の笠原薫、彦太の末娘でバーのマダム島原明美、その支配人古坂)、同じく孫の女剣劇佐竹由香利(日野明子)、キャバレーを経営する根岸蝶子(牧幸子)花子(宮田悦子)姉妹と義父志賀雷三(永田靖)、興行主をやっている鬼堂庄七(稲葉義男)が夫々自己紹介する。

黒川は、そのメンバーと音弥もいる前で、第二の遺言状の内容を発表する。

10億の半分5億は音弥が受け取り、残りを親戚関係になる6人で均等に分配すると言う。

1人分8330万、2人分で1億6660万ももらえると知った志賀雷三は喜び、早速ジョニ黒を入れた懐中容器を取り出して祝杯として飲み始める。

他の親戚達も、夫々の夢が叶えられると喜ぶ。

さらに黒川弁護士は、分配は三つ首塔でありますが、その日までに誰かが死んだら、残りの人間に残額が分配されると言う。

それじゃあ、音弥さんが死ぬのが一番良いわねなどと明美は不謹慎なことを言う。

そんな中、佐竹は自分は辞退し、自分の分を亡くなった操に与えたるつもりで薫に譲ると言い出し、薫とともに席を立って帰って行く。

それを見送った志賀は、お高く止まっていやがるぜと悪態をつくが、音弥も黒川邸を帰ることにする。

その間、金田一はあらかじめ待機していた黒川邸の一室から、参加者達の動向をそれとなく監視していた。

家に前に出ると車が停まったので、何の疑いもせずに乗り込んだ音弥は初音町までと行き先を告げる。

ところが走り出した車は違う道へ向かうので、驚いた音弥は狼狽するが、その時、サングラスをした運転手が堀井敬三である事に気づく。

等々力警部から音弥が帰って来ないとの連絡を受けた金田一は、偶然、白木静子が写真を撮っていた堀井の車のナンバー「す 0258」から手配をし、乗り捨ててあった車と、それを車を堀井に賃貸ししたと言う男から「千代田アパート」と言う堀井のアパートを発見する。

等々力警部とともにその「千代田アパート」へやって来た金田一は、堀井は27〜8歳の男で7号室ですが、昨日出たきり帰りませんと言う大家の許可を得て7号室に入る。

管理人の女性は、堀井は2週間ばかり前に北海道から出て来たが、3〜4年前までは東京にいたらしいと言う。

布団は大家が貸したものと聞いた金田一は、所持品の貧しさから見てもう帰って来ないと等々力警部に伝えると、静子とともに、堀井の自動車のコースをもう一度洗い直してみることにする。

途中の道の様子を見た金田一は、上杉邸からまっすぐ来たとすると、音弥君には逃げるチャンスはあったはずだがな?と考え込む。

君はどう思う?と聞かれた静子は、私には分かりませんわ、高頭俊作が何故3号室にいたのかも…などと答えていたが、車が通り抜けたので、金田一は思わず危ない!と静子を庇い、通り過ぎた車に島原明美が乗っていたことに気付いたので、そこの事件にタッチしているはずはないが…と呟くも、一応後を尾行してみることにする。

自分のバーに戻って来た島原明美は、待っていた古坂に、今見て来た銀座の店の値段のことを明かす。

いよいよ銀座に乗り出すつもりですね、でもそうなったら僕はこれでしょう?と首を切る真似をし、マダムは気まぐれだから…とすねる古坂だったが、明美は、あの金が入ったら結婚しましょう、その代わり裏切ったらただではすまないわよと言いながら古坂に抱きつく。

キスをし終えた明美は、見慣れぬ品物がテーブルに置いてあることに気付き訳を聞くと、志賀雷三の使いの磯畑と言う男が持って来たと古坂は言う。

ジョニーウォーカーじゃないと品物を見て明美が言うと、ブラックですよ、近いうちに商売を是非にと…と古坂は志賀の伝言を教える。

どうせ娘の金が自由にならないので、共同経営か何かの話しよと明美は品物に付いていた志賀の名刺を破り捨てながら一蹴するが、飲みましょうか?と古坂は誘い、ジョニ黒の栓を明けると明美に注いでやる。

あなた飲まないの?と明美が聞くと、マダムが飲んだら…、目的があるんだ…と意味有りげに古坂は笑う。

ところがそれを飲んだ明美は突然苦しみ出し絶命する。

明美が倒れた時、手に当たったトランジスタラジオが床に落ち、急になり出す。

古坂はあっけにとられて明美の側に近寄り、ラジオのスイッチを消すが、その時、店の前に人の気配がしたので慌てて裏から逃げ出す。

店に入って来たのは金田一と静子だったが、床に倒れて死んでいた明美を発見する。

金田一が古坂は?と聞くと、古坂って?と静子が聞くので、このマダムと特別な関係の男だと金田一は教える。

カウンターに遺されていたジョニ黒の匂いを嗅いだ金田一は杏の匂いがすると呟く。

さらに床に落ちていた破られた名刺を拾い、繋ぎあわせて、それが志賀雷三のだと知る。

すぐに志賀雷三のキャバレーに客を装ってやって来た金田一は、漁師風の格好をした女性達が歌い踊るショーをテーブルから眺めていたが、そこに古坂が現れたので、志賀は、よお、今日は休業かい?と聞く。

古坂は、折り入ってご相談があるんだよと話しかけると、2人して裏口へ向かう。

裏の路地に出た古坂は志賀に、あんたには覚えがあるはずだ、あんたが磯畑に持たせた酒でマダムは死んだよと告げると、志賀はあっけにとられ、まるで知らぬことだと否定する。

しかし古坂は、止しなよ、俺には仲間がいるんだと脅すと、俺はマダムと結婚するつもりだった…、それをふいにしやがっててん、今夜100万出せ、そして根岸花子と結婚させて欲しい。

そうしたら、あの最初の事件の夜、あんたがあのグリルにいたことを黙っていてやると伝える。

そこに奥に隠れていた仲間たちが近づいて来て、古坂はやると言ったら必ずやる男だぜ!と志賀に迫る。

そこへ、待ちたまえ!古坂君に聞きたい事があるんだと声をかけて近づいたのが金田一だった。

しかし、仲間たちは金田一に殴り掛かって来たので、やむなく金田一は数人の相手をしながら、近くの川に放り込む。

全員逃げ去った後、キャバレーの裏手に戻って来た金田一は、そこで死んでいた志賀を発見する。

古坂の姿はどこにも見えなかった。 事件を知った上杉博士は黒川弁護士に会い、あなたは人殺しです!あなたが遺産を発表したばかりに4人も殺されました、音称は私たちの宝でした、私も品子もあの子を頼りに生きて来たんです、お金なんかどうでも良いんです、今すぐあの子を返して下さい!と責める。

分配をお急ぎになっては?との上杉の提案を聞いていた黒川弁護士は、同感です、これ以上の不祥事を防ぐ為にも考えましょうと答える。

黒川の屋敷から塀を乗り越えて出て来て車に乗り込んだ堀井に、監視していた金田一が近づき、君は堀井敬三と言う男かね?と聞くが、堀井は無視して走り出したので、金田一も車に戻り、静子と共に追跡を始める。

金田一の車は路上で花火をしていた子供達や交差点で石油輸送トラックに阻まれそうになったり、踏切で巻かれそうになったりしながらも必死に堀井の車を追尾する。

工場のような所へ逃げ込んだ堀井を追って静子と共にその行方を探していた金田一は、灯りの灯った一画に来ると窓に映った人影に向かって、堀井君、出て来たまえ!僕は私立探偵の金田一耕助だ!男らしく出て来たまえ!と呼びかける。

すると、ゆっくり姿を現した堀井と、その背後から音称も出て来る。

音称が見つかった後、新聞には「10億の相続放棄か?」などと扇情的な記事が載る。

その後、親戚達一同には黒川弁護士から「来たる4月29日、三つ首塔にて追善供養と遺産の分配を行ないますのでご出席ください、三つ首塔の場所は同封の地図を参照になさいませ」と書かれてた手紙を受け取る。

列車で一同はその土地へ向かう。

その乗客の中には、コートで顔を隠して紛れ込んでいた古坂も混じっていた。

車で三つ首塔にやって来た上杉博士ら一行を、先に寺で待っていた黒川弁護士が法然和尚と共に出迎え塔の中に案内する。

やがて吊り鐘が鳴る。

一行は不気味な塔の中を昇って行くが、壁にへばりついていたヤモリを見た笠原薫が驚いて持っていた手提げバッグを1階に落としてしまう。

そのバッグに近づいたのは、ここまで一行を密かに尾行していた古坂だった。

3階には、法然和尚が既に読経をするように座っていたので、法然様、ちょうど8時ですと黒川弁護士は背中越しに声をかける。

どちら様も揃いましたかな?と後ろ向きのまま聞いた法然は、祭壇の下の左側に隠し戸がある、それを開いて巻物を取り出して頂きましょうと黒川弁護士に命じる。

黒川弁護士が言われた通りに巻物を取り出すと、開きなさいと法然和尚が命じ、何とありますかな?と聞く。

子供の手形が2つと黒川弁護士が答えると、佐竹玄蔵さんは昭和10年にアメリカから帰って来てくよう塔を建立した時、それをここへ収めました…と法然は説明し始める。

指紋だけが身分証明の証拠になりうるからです。

小さな手形が宮本音称、大きい方が高頭俊作…と言った法然は手を叩いて人を招くと、すなわち、この両人のことじゃなと言う。

そこへ姿を現したのが宮本音称と堀井敬三だった。

堀井こと高頭俊作!前に進みなさい!そなた、巻物に手形を押した覚えがあるかね?と聞くとありますと堀井は答える。

音称は?と聞くと、ございませんと音称は答える。



まだ幼かったから…と教えた法然は、高頭俊作、右の腕をまくりなさいと命じると、どんな模様の入れ墨ですかな?と聞く。

相合い傘の下に、ひらがなで「しゅんさく」と「おとね」とありますと黒川弁護士が教えると、何故偽名を使った?と法然は尋ねる。

私は昭和29年にシベリアから復員してきましたが、その時、又従兄弟が我が名を使って犯罪を犯していたことを知りました。

やむなく、戦友を頼って北海道へ言ったのですと堀井は答える。

そして今度のことを新聞で知り、音称に会おうとしたのか?しかし、ホテルで自分を騙った男が殺されたので名乗り出られなかったのか?音称を拐かしたのは?と聞くと、命を守る為ですと堀井ははっきり答える。

好意を持っていたのだな?と法然が聞くと、それ以上のものですと堀井が言うので、音称はどうかな?と聞くと黙っているので、黙っているのは承知したと言う意味かな?と確認すると、音称ははいと答える。

めでたい、これで玄蔵もあの世で喜んでいるであろうと法然は言う。

黒川弁護士は、第一の遺言状は本人達の意思で破棄され、第二の遺言状通りに行ないますと一同に告げる。

さて4人の殺しだが、笠原操殺しは動機が不明で迷いを産んだため、犯人に幸運をもたらした、犯人は誰であったか?と言いながら立ち上がった法然和尚は顔の変装を解き、衣装も脱ぎ捨てると、そこに現れたのは金田一耕助だった。

上杉博士の還暦祝賀会以前に遺言状の内容を知っていた者で、ホテルに不自然なく入れる人物でなくてはならないと金田一は続ける。

上杉さん、あなたは養女と言うにしては病的と言うほど音称君を愛していた。

ただ一つ違うのは、あなたは会ったこともない笠原操に毒入りチョコレートを勧めることはない。

笠原薫さん、あなたは操と男を争った…と聞いた金田一は、物陰に隠れて聞いていた古坂に懐中電灯の明かりを当て、毒入りの酒を持って来たのはこの男ではなかったかね?と聞くと、古坂は、確かにこいつですと答える。

それは佐竹建彦の連れて来た運転手さん南條勇吉だった。

建彦君、君の会社である日東商事には大きな借金がありますな?あなたは以前から笠原姉妹と付き合っていた。

あの晩、君は受付をやっていたが、偽の高頭俊作を3号室へ連れ込むことも出来た。

君は露天で手に入れた志賀の名刺をウィスキーに貼付け、罪を志賀雷三になすり付けた!と金田一が指摘すると、佐竹は拳銃を取り出し古坂を撃つ。

身を隠した金田一は、まだ罪を重ねるのか!と呼びかけながら自分も拳銃を取り出し応戦する。

銃撃戦が始まったので、他の親戚一同は身をすくませる。

塔の外通路に出た金田一は佐竹の拳銃を撃ち落とす。

下へ逃げて来た佐竹は、一緒に逃げて来た南條に油を撒け!と命じると、自ら巻かれた油に火を点ける。

金田一は外から閉ざされた3階の戸に身体をぶつけ開けるが、まだ親戚一同が塔の中にいた。

外には連絡を受けて待機していた等々力警部や警官達が駆けつけるが、塔の入り口付近の火の勢いが強く中に入れない。

本物の法然和尚がロープがあると警官達の教える。

佐竹は園とから逃げ出そうとするが、薫は自ら内側から戸を閉め、もう諦めましょう、私はあなたに付いて行くわ、死んだ!と迫る。

かぎ爪付きのロープが届いたので、等々力警部が3階の外廊下にいる金田一目がけかぎ爪を投げる。

ロープを受け取った金田一はしっかり先を建物に結びつけると、まずは女性達から先にロープを伝って下へ下ろさせる。

音称は途中で力尽き落下するが、それを等々力警部が下でキャッチする。

金田一は振り胃を先に降ろすと、自分は部屋の中に戻ろうとするので、先生どうしたんです?と静子は驚く。

金田一は倒れていた古坂を抱いて外へ連れ出そうとするが、もう事切れていることに気付くと、ダメか!と悔しがる。

三つ首塔全体が火に包まれたので、下から見守っていた法然和尚が合掌をする。

静子モスで丹生脱出していたので、最後に残った金田一は急いでロープを伝い下へ下りる。

そして、地面に落ちていた薫の手提げバッグを拾い上げると、中から佐竹と2人で写った薫の写真を見つけ、焼け落ちる塔へ向かい黙祷する。

帰りの列車の中、黒川弁護士の隣に座っていた上杉博士は白木静子と並んで座っていた金田一の側に来ると、金田一さん、私に握手をお許しくださいと声をかけ、金田一が握手に応じると、話して見ると俊作君は立派な男です、姉も安心するでしょうと告げ、元の席に戻って行く。

窓の外を見ていた静子に、白木君、良い景色だねと言いながら金田一が見ていたのは、仲睦まじく隣り合って座っていた堀井こと高頭俊作と音称の席の方だったので、それに気付いた静子も笑顔になり、本当に良い景色ですわねと答える。

遠ざかって行く列車


 


 

 

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