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空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎

夢枕獏原作の映画化で中国とKADOKAWAが協力した中国と日本の合作映画。

総製作費は150億、湖北省襄陽市に東京ドーム8個分もの広さのオープンセットを120億かけて作ったと言う大作である。

日本では、東宝が営業、KADOKAWAが宣伝と言う役割分担だったようで、主演の染谷将太さんと阿部寛さんは中国語で演技した映像に、日本語版ではご本人達が日本語吹替、中国語版では現地の人が中国語を再吹替したらしい。

日本人には馴染みの薄い歴史的な説明をするため、冒頭の水彩画風のアニメとナレーションでの解説は日本版だけの趣向だと言う。

日本のタイトルでは何だか空海の伝記映画か宗教映画と勘違いしそうだが、内容は中国版タイトル「妖猫伝 Legend of the Demon Cat」の方が近く「化け猫映画」である。

悲運の最期を遂げた女性の復讐を猫が受け継いで妖怪となって実行すると言う流れは日本の「化け猫映画」のパターンそのままなのだが、そこに楊貴妃伝説と古代中国ファンタジーみたいな者がミックスされており、壮大な美術セットとVFXの多用などで幻想的なミステリータッチのファンタジーになっている。

ただ、夢枕獏さん自身がミステリ作家ではないので、伏線をきっちり論理的に説明する本格ミステリのようなものではない。

一種の奇譚の類いで、その豪華絢爛な奇想を楽しむタイプの作品だと思う。

昨今の日本映画では見られない大作らしいビジュアル面での贅沢さがうれしく、古代中国の幻想イメージを楽しむだけでも十分価値がある映画だと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2018年、中国+KADOKAWA、夢枕獏原作、ワン・フイリン+チェン・カイコー脚本、チェン・カイコー監督作品。

1200年以上前、唐は絶頂期を迎えていた。

9代皇帝玄宗は偉大な功績を上げた。

そして楊貴妃を愛した。

名君に愛された唐の長安は当時世界最大の都市として各地の人物を惹き付けた。

若き僧侶、真言密教の開祖空海もその1人だった。

彼の際立った能力は唐でも発揮された。

だが当時はまだ無名の僧侶に過ぎなかった…(と淡彩画風のイラストで解説)

タイトル

(大きな木の周囲カメラが回りながら)キャストロール

赤い木の実が木から落ち、暗闇の中で血しぶきのように破裂した背景に中国版タイトル「妖猫伝 Legend of the Demon Cat」

大きな屋敷の中にある池に突き出した桟橋に腰掛け、1人瓜を食べる春琴(キティ・チャン)は、どこからともなく甘いか?と声が聞こえたので、何?と女が振り返ると、俺だ、1つもらおうか?…と答えたのは池の縁の岩にやって来た見知らぬ1匹の黒猫だった。

春琴は怯え、慌てて屋敷の中に逃げ込むが、俺ならここにいる…と窓辺で声をかけたのは同じ黒猫だった。

来い!瓜の礼をしてやろう…、庭の夾竹桃の下に銭が埋まっている、掘り出して使え、又来るからな…と猫は言う。

恐る恐る池の桟橋へ戻ってみた春琴は、そこにあった瓜が全て食われていただけではなく、その側で血を流して撥ねていた魚の目がないことに気付く。

その後、夫の陳雲樵(チン・ハオ)が馬で帰宅すると、今日、猫が言ってたの、銭が埋まっているから使えって…と妻の春琴がうれしそうに言うので、本当に銭か?と疑うと、部屋の中に招き入れた麗華はそこにあった坪を傾けてみせると、中から大量の銭がこぼれ出る。

懐かしき太鼓の響き… 唐を夢見たとき聞いたのだろう… 宮中の病床で苦しんでいる皇帝の前に連れて来られた空海(染谷将太)を、書記官としてその場にいた白楽天(ホアン・シュアン)は初めて見る。

いつからこのように?と空海が皇帝の容体を尋ねると、かれこれ7日になります、法術を…と通訳の男が空海に頼む。

空海は皇帝に対し合掌するが、その時、空海には部屋の中を走る黒猫を見たような気がしたので、その後を追おうとすると、背後の寝室で皇帝の顔色が急に変化し、寝床から飛び起きるようにしてつんのめり、そのまま息絶えてしまう。

空海には黒猫が逃げ去ったように感じられた。

高官は白楽天に、書け、陛下は風邪で御崩御と…と命じ、法師、崩御のことは宮中の秘め事ですので、対面はなかったことに…と、空海を連れて来た護衛が頼んで来る。

しかし空海は、風邪で死んだのではない…と考えながら夜の庭を眺めていたが、そこに空海法師と声を駆けて来たのは書記官の白楽天だった。

風邪と御典医が言っていましたが…と空海が聞くと、白楽天は、7日も寝込んでいた者が急に風邪で死ぬはずがありません、起こっていないことを書けませんと答える。

宮中では猫を飼っていますね?と良いながら空海が聞くと、もう3年、誰も猫など飼っていませんと白楽天は答える。

跪いたとき、膝に毛が付いたんだと良いながら空海がその毛を差し出すと、確かに猫の毛だ…と白楽天も納得する。

すると空海は、庭の石畳を指差してみせる。 確かにそこには猫の足跡が残っていた。

さらに空海は石畳の上に落ちていた木札を見つけ、拾い上げようと手を延ばすと、木札は奇妙なことに1人で起き上がる。

そこには、「皇帝は死んだ、次は李俑だ」と書かれてあった。

それを読んだ空海が李俑とは誰だ?と聞くと、白楽天は、李俑とは次に皇帝になるお方だと教える。

その頃、陳雲樵と春琴は寝所で睦み合っていたが、又来るって行ってたわ、明日魚を買わせるわ、小さくても良いのよ、目玉ばかり食べるんだから…と春琴は言う。

その寝所の隣の部屋に置かれた金屏風には猫の影が映っていた。

その後、白楽天は、秘密の倉庫に忍び入り、1本の鍵を盗み出す。

鍵が入った箱の底には「侵入者には死を」と書いてあった。

白楽天はその後、先代皇帝の館に侵入する。

天井に天体図が描かれた中央部分の部屋に入った白楽天は、部屋の中央にあった秘密の隠し戸棚の扉を盗み出した鍵で開けると、中には何枚もの中扉があった。

その時、部屋にあった琵琶が急に鳴り出し、生きているかのごとく動き出したので白楽天は驚く。

その音に気づいた外部警護の者達が先代の宮殿だ!と気づき駆けつける。

宮殿内では、暴れる琵琶を必死に白楽天が抱きついて動きを止める。

静かになった…と警護の者は気付く。

次の瞬間、白楽天は、天井に天文図から針が床に向かって多数発射されて来たのに気づき、盗人を殺すための装置だと気づき、すぐさま部屋から退散し、物陰に隠れる。

外から宮殿の様子を伺っていた警護の者は、黒猫が見えたので、何だ猫だったのか…と安堵し、立ち去って行く。

隠れていた白楽天はほっとしながら、隠し戸の中から持って来た小袋を見る。

翌日、空海の家にやって来た白楽天は、宮中に猫が現れました、役人に聞きました、金吾衛の陳雲樵と言う者の家に現れたそうですと言う。

しかし空海が、私は帰国しますと答えると、白楽天も宮中を辞しました、詩を書く為だよ、書記などに甘んじたのは宮中のことを知る為さと白楽天が言うので、長安は詩人だらけだなと空海は苦笑する。

どんな題名だ?と空海が聞くと、長恨歌と白楽天が教えたので、主人公は?どうせ皇帝と后の物語だろう?大抵の皇帝は妃を愛さない…と空海は当ててみせる。

唐最大の詩人は?と散歩に出た空海が聞くと李白だろうと付いて来た白楽天は即答するが、彼は改元の恩恵を受けただけだと負け惜しみを言うと、白居易は詩を作ることしか興味がない男だ、誰にも会わないよと言う。

そして白楽天は、空海、何故国に帰る?と聞くので、青龍寺に弟子入りしようとしていたが認められそうもない…と空海は答える。

橋を渡った所で人だかりがあり、大道芸人の瓜翁(チェン・タイシェン)が何か始めていたので空海と白楽天も足を止める。

瓜翁は地面に種を撒き、水をかけるとあら不思議、見る見る芽が出て近くの柵に蔦を絡めて行き、スイカを実らせる。

白楽天は驚くが、空海は幻術です、全てまやかしだと冷静に言うので、スイカはいかがかな?と瓜翁がスイカを1個空海に差し出す。

銭がないと断ると、術にかからぬ御仁から銭は頂かぬと瓜翁が言うので、本物のスイカは1つだけなのですね?と空海が聞くと、恐れ入った!倭国の方か?と瓜翁が聞くので、空海と申しますと教え、何かの縁だ、差し上げましょうとスイカをくれる。

そのスイカを持って歩き始めた空海だったが、何か垂れてるぞ!と付いて来た白楽天が言うので、スイカに目をやると、それはいつの間にか大きな魚の頭に変わっていた。

かけられたか?と空海は呟くが、その血まみれの魚の頭を捨てようとした白楽天は、又それが元のスイカに戻っていることに気付く。

その幻術を目の当たりにした白楽天は、放す猫の話は本当かもしれん、あの男の名は陳雲樵!と馬で駆け抜けて行った一団を指して、真ん中のが陳雲樵だと教える。

どこへ行くのだ?と空海が聞くと、胡玉楼!唐でも有名な妓楼だ、付いて行くのか?と白楽天が呆れたように聞くと、もちろん行くとも!と空海は明るく答える。

新入りの妓生、玉蓮(チャン・ティエンアイ)は仲間と話し込みながら廊下を歩いていて、酔って廊下に出て来た陳雲樵の背中にぶつかってしまう。

振り向いた陳雲樵は玉蓮の顔を見るなり一目で気に入ったようで、そのまま自分の部屋に連れて行こうとしたので、それを階段の上から目撃していた元からの雲樵のお気に入りだった麗香(シャー・ナン)はにわかに嫉妬で激怒する。

自分の部屋に戻ってふて腐れた麗香は、陶器の欠片があることに気づき不思議がっていたが、その時、テーブルの上の急須がひとりでに浮き上がり、湯のみに茶を注いだので唖然とする。

次の瞬間麗香に両耳から煙のような者が頭に入り込み、麗香の目の色は何かに取り憑かれたように変化していた。

胡玉楼に来た空海がこれぞ大楼閣だな!とそのスケールに喜ぶと、戒律破りませんか?と百楽天は案ずるが、私は見聞を広めると空海は開き直る。

その時、白楽天に店の者が、旦那、この品物質屋から出しときましたと話しかけて来たので、白楽天が又預けて来いと命じたので、あなたはここに来慣れているようだと空海は呆れる。

そんな空海も、陳雲樵のいる座席で踊っていた玉蓮の手を取り、自分も一緒に踊ってみせたので、それを見た白楽天は、君こそ常連みたいだぞとからかう。

廊下に出た空海はそこに酒を運んで来た麗香の影に怪しい気配を感じる。

雲樵はその麗香から受け取った盃の酒を踊り終えた玉蓮を抱き勧めていたので、麗香はその様子を見ながら、玉蓮、良い舞だったわと褒める。 その時、空海は座敷内に猫の気配を感じる。

陳雲樵!とどこからか呼ばれた雲樵がきょろきょろと辺りを見回すと、俺だ、銭を使い切ったか?もっと欲しいか?と呼びかけたのはふすま絵に紛れ込んでいた黒猫だった。

それに気付いた仲間が、あの猫だ!黒猫が又銭を届けに来たぞ!とからかう。

しかし立ち上がった雲樵は、宴に来た者には褒美をやったが、畜生にはこれをやろう!と言いながら床に落ちていた魚を掴み、ふすま絵の近くに投げ与える。

するとふすま絵の中の黒猫の影は、俺は目玉しか食わん、誰の目を頂くかな…と不気味なことを言うので、誰かがナイフを投げつけるが、戸の桟に当たっただけで、黒猫の影は消える。

次の瞬間、照明用の蝋燭が大きく発火したので、玉蓮などは驚くが、その時、雲樵の顔の横を黒い影が通り過ぎ、雲樵の右頬に爪痕を残す。

部屋にいた仲間たちは一斉に剣を抜き、芸妓たちは悲鳴を上げて狼狽する中、黒猫は部屋中を飛び回り、仲間たちに襲いかかる。

陳雲樵!借りとは返す物だぜ、良く聞け!明日の夜、お前の家を訪ねると言うと、黒猫は大きな魚を象った提灯の上に飛び乗ると炎になって消え失せる。

そんな部屋の中の様子を、廊下にいた空海は戸を開けて観察していた。

急いで帰宅した雲樵は、春琴!と呼びながら池の所へやって来るが、池は真っ赤に染まっており、目を抜かれた魚が全部死んで浮いていた。

翌日、空海と胡玉楼の黒猫騒動の現場に訪ねた官吏は、現れた猫は三重一軽と言い、足の1本に傷を負っていたと言う空海の言葉を聞き、宮中に現れた猫も同じだと?と聞くと、その通りですと空海は答える。

白楽天に空海は、君は科挙を辞めたんじゃなく罷免されたのか?とからかう。

即位したばかりの陛下が卒中で死んだ…、天使様に呪いなど前代未聞…と官吏は憂い顔で言うので、それを一緒に聞いたいた白楽天は、この空海が祈祷するのです、化け猫退治は得意だなどと無責任なことを言い出し、これで堂々と長安に残れると空海に笑いかける。

空海は、妙だと思う、陳雲樵は金吾衛、つまり宮廷内の護衛で、これは三代世襲だ…、猫はこう言った、借りは返す物だ…と、あ一体誰が借りを作ったのか?と呟く。

その空海をある場所に連れて来た空海に、工場?何故こんな所に?と聞かれ、先先代の皇宮だよと言うので、どう言う関係が?と空海は聞く。

その頃、自宅にいた春琴が、あの猫は本当に来るのかしら?と言うので、夕べの奴は確かにそう言ったと陳雲樵は教える。

災いはお前が招いた!と雲樵が責めると、銭を使ったのはあなたよ!と春琴は言い返す。

その頃、黒猫は屋敷内で祈祷していた男に襲いかかる。

気配に気付き、雲樵が部屋の戸を明けると、外の廊下に血の痕が残されていた。

祈祷師の死体を見つけた雲樵が、春琴!と呼びかけながら部屋に戻ると、ブランコに乗った春琴の膝の上に黒猫が座っていた。

お前の女だろう?助けなければ死ぬ…と黒猫は雲樵に言う。 誰か!と家の中で呼びかけた雲樵だったが、見たりの2人も倒れる。

あなた!助けて!と春琴は呼びかけるが、家の外に出た雲樵は、戸が閉じると、外から鍵をかけてしまう。

すると、目の前に春琴が出現したので、どうしてここに?と雲樵が驚くと、見殺しにするの?と春琴が責めるように問いかける。

その春琴の髪が黒猫に変化し、左手に持った魚を口元に持って来ると、一息で魚の目を吸い取ったので、雲樵は怯える。

胡玉楼では、玉蓮が原因不明の病で瀕死の状態になっていた。

駆けつけた空海と白楽天は、玉蓮の足が崩れかけていることに気付く。 蠱毒に当たったんだ!と空海は見抜き、連れて来た芸妓に生肉を用意するよう命じる。

美しい花が枯れて行くようだと怯えた白楽天が形容すると、今は詩を詠んでいる時ではないと叱る。

自宅を逃げだし胡玉楼にやって来た雲樵は、麗香、今晩泊めてくれ!と馴染みの芸妓の部屋に来るがあっさり閉め出されてしまう。

同じ胡玉楼内では、空海が玉蓮の腐りかけた足に筆で卍をいくつも書いていたので、何故卍で書くんだ?と白楽天が聞くと、卍は光だと空海は言う。

芸妓が生肉を持って来ると、肉は新鮮か?と確認し、玉蓮の足の下にその肉を入れた湯のみを差し出し、取り出した鍼で玉蓮の足の詰めの間を突くと、そこから血のように吹き出した物が湯のみに溜まるが、それは不気味な虫たちだった。

蠱毒の虫だ、人の身体で毒を出す、だから生の肉でおびき出したと空海は説明し、麗香の本当の狙いは陳雲樵で、酒に毒を盛っていたと指摘する。

その様子を扉の影から盗み見ていた陳雲樵が入って来て、うちの春琴も救って下さい!と空海に嘆願する。

雲樵の自宅に向かうと、春琴が満月を背景に屋根の天辺を歩いていたので白楽天は驚くが、あれは幻術だ、月下の影なき人…、着きで屋根に上るのは猫くらいだ…と空海は指摘する。

「雲には衣装を想い、花には容を想う」…と屋根の上の春琴が歌っていた詩を聞いた白楽天は、あれは李白だ!と気付く。

いつ、どこで生まれた?と空海が聞くと、突いて来いと白楽天は言い、空海を天子の書庫へ連れて行く。

もう役人ではないのだろう?と空海は案ずるが、構うものかと白楽天は言い、無人の書庫内から目当ての本を探し出す。

その時、1匹の蛍が書庫内に紛れ込み1冊の本の所に止まったので、白楽天はその本を抜いて開いてみると、中には、天宝15年春に、楊貴妃の誕生日の宴が催された、3000人の美女の中からただ1人、寵愛を受けた楊貴妃は、異国の血を引く絶世の美女だった。

玄宗はその楊貴妃の為に7000斤の酒で池を作り、10万株の牡丹を植え、一目見るため方々の地方から人々が集まった。

それは「極楽の宴」と呼ばれた…と白楽天は教える。

李白は庶民を歌った詩人と言われているが?と空海が聞くと、例外はこれだけ、李白は楊貴妃に会って正気を失ったんだ、詠んだのは雲と花だけ…と白楽天は教える。

楊貴妃の甘美な夢に答えるため、玄宗は領土を広げたかった…と白楽天が解説するので、教えてくれ、李白はいくつ詩を作ったのですか?と空海が聞くと、数えきれないほどだと白楽天は答える。

今、君が書いている詩は…と空海が言うと、長恨歌か?と悪楽天が答えたので、玄宗皇帝と楊貴妃の話だろう?と空海は指摘する。

翌日、あの大道芸人瓜翁の元を再び訪れた空海は、幻術で分からない事があるので…と切り出し、化け猫が人の目と命を奪うことだ…と相談すると、スイカがスイカでないのなら猫は猫じゃないんだろう…と瓜翁は棚を畳んで帰ろうとする。

スイカが1人で湧き出て来るとでも?と瓜翁が言うので、つまり1人と言うのは猫そのものにあると?と空海は問いかける。

又、雲樵の屋敷に行くなよ、目玉食われたくないだろう?と白楽天は注意するが、長恨歌のことをあの猫は知っていた…と空海は呟く。

夕べはこんな木はなかったはずだ…、あの女は誰だ?と雲樵の屋敷の前に来た白楽天は見慣れぬ桜の木の下に女が立っていたので驚く。

春琴ではないのか?と空海が言うと、違う!と白楽天は否定する。

すると、目の前にあった大きな桜の木と女の姿は消えてしまう。

屋敷の中に入ると、ねえお2人さん、上がってらっしゃいと二階の窓から春琴が呼びかけて来る。

二階の部屋に空海と白楽天が上がると、かけて、お茶でもどうぞと春琴が勧めて来るので、空海は白楽天が泊めようとするのも気にせず、園田された湯のみの茶を飲む。

空海様は大唐に来てお茶を覚えられたようですね?白居易様のことも知っていますと春琴は言い、空海と笑いあう。

しかし、白楽天の持っていた湯のみには蜘蛛の巣のような物が張ったので驚くが、空海が落ち着かせると、元の茶の入った湯のみに戻る。

長恨歌は書き終えましたか?と春琴は白楽天に問いかける。

春琴に空海は、何者なんです?左後ろ足に傷を負っていますね?と問いかける。

私のことを捨てて逃げてしまったのよ、それから生きたまま穴に埋められたの…と春琴は言うが、その髪の毛は一瞬黒猫に変化する。

生き埋めを命じた者を呪ってやるわ…、陳の父に埋められたの!30年も前の話よ、この屋敷で毒を飲まされたの、だから生き残っていた…と春琴がブランコに乗って訴えるので、何故楊貴妃は姿を見せぬ?一体どんな秘密があるんだ?と白楽天が聞くと、運命があの方と共にあるから…と言いながら、又髪が黒猫に変化した春琴はその場に昏倒する。

あの方とは?と白楽天が口走ると、部屋の中に風が吹き抜ける。

白楽天と寝室の寝台をずらしてみた空海は、そこで黒猫の屍骸を見つけたので庭で燃やす。

春菊が踊っている胡玉楼に空海と白楽天を招いた陳雲樵は、事件が解決したと思ったのか、法師、感謝しますと礼を言う。

そして、春菊が舞台から降り、衣装の一部を雲樵に投げかけると、雲樵は上機嫌になり、室内で奏でられる演奏をバックに玉蓮と踊り始める。

そんな中、酒を飲んで上機嫌になっていた白楽天は、この曲はまずいだろう、玄宗に禁じられている物だと愉快そうに言う。

その言葉通り、踊っていた雲樵の様子がにわかにおかしくなり、春菊の衣装で彼女の首を絞め始める。

部屋の障子が一斉に閉まり、室内が暗くなった中、雲樵は春菊の首を犬を引っ張るように引きずりながら、食卓の上を走り回る。

演奏者達は皆正気を失ったかのように曲を奏で続け、室内はポルターガイスト現象が起きたように皿や鉢が飛び交い始める。

白楽天は春菊の首を絞め続ける雲樵を止めようとするがはね飛ばされたので、春菊を救え!と食う系に呼びかける。

すっくと立った空海は動じず、近くにいた琵琶を弾いている女の背中に指を当てる。

演奏者達は皆気絶し、空中を飛んでいた皿は床に落下し割れる。

首を絞めていた雲樵も正気付き、春菊!春菊!と妻に呼びかける。

薄目を開いた春菊は、埋めないで!地下は寒い!と呟く。

俺じゃない…と言いながら涙を流した雲樵は、その涙を拭って部屋から出て行く。

屋敷に戻った雲樵は、庭木の上に昇り笑いながら、褒美だ!と言いながら壺の銭をまき散らす。

幻術だったなどと言うな、雲樵は気が触れ、春菊は死んだ…と白楽天は呟く。

その後を付いて行く空海は、死に際の言葉、埋めないで、地下は冷たい、あの人と同じだから…、楊貴妃のことではないかと空海は指摘する。

もしかしてこう伝えたいのでは?楊貴妃も生き埋めにされた…と言う空海の言葉を聞いていた白楽天は、全く呆れて物も言えん!君は猫の言葉を信じているではないか!幻術にかかっているのは君の方だ…と言い残し、その場を立ち去る。

その後、空海は、白楽天の自宅にやって来る。

白居易は誰も会わんと言っただろう!と白楽天の気分はまだ直っていなかった。

しかし空海は気にせず室内を見て回ると、猫は春菊を君が好きな楊貴妃に変えた…、長恨歌を書いたからだよ、辛いね…、生き埋めにされたのが本当なら、君の苦労は水の泡だと空海が言うと、君は何を守る?と白楽天は聞く。

そんな君にこそ知ってもらいたいんじゃないかな?と空海は答える。

楊貴妃の首を絞めさせた者がある物を手に入れた… 皇帝に送った愛の明かしだ、これだけ入っていた、愛してなかったら何故遺していた?と白楽天は問いただす。

君も愛していますね? あの人のせいで国が衰退したのではない、1人で寂しかったので猫は様々な手で真相を知らせようとした、長恨歌がどう書かれたとしても偽りだと…?と空海が言うと、私は李白を超えられないとは思う、しかし長恨歌を偽物とは言わせない!と白楽天は感情的になる。

それに対し空海は、私はただの偽物にしか過ぎない…、お師匠様こそ本当の僧侶、しかしお身体が悪くて、私が代わりにここへ来た…と明かす。

(回想)私はいまだに解脱しておらん…、天竺から大唐に渡った密教こそ天子のお供と聞いた。

何としても招来して来てくれと大師(火野正平)は空海に頼む。

まるで私に言い聞かせるようにお師匠様は言って下さいました… 旅の荷物を背負い、雪の積もった山を下りる空海

空海が乗った船は荒れた大波で翻弄され今にも転覆しそうになる。

そんな中、空海は、一緒に乗っていた赤子を抱いた母親が落ち着いているので、怖くないのですか?と聞くと、この子がいてくれたので心が穏やかですと母親は答える。

その後、船は転覆する。

海中に投げ出された空海は海に沈みかける。

海に落ちた時は死ぬほど怖かった。

覚えた念仏や呪文も死を間近にしたら全て忘れた。 思い出したのは船で会った母親のことだけでした。 (回想明け)助かったからには命がけで密教を調べる!と空海は言う。

その後、白楽天が案内し、空海を楊貴妃を知る老婆に会いに行く。

老婆は、楊貴妃様の身の回りの世話をしておりましたと言うので、貴妃様が亡くなられたとき、あなたはお側にいたのですか?と聞くと、白綾を作って高力士に渡しました、皆が呼ばれた時にはもう亡くなっていましたと老婆は言うので、つまり首を絞める所を見ておられないのですね?と空海が念を押すと、金吾衛の陳玄礼が検死をしたのです。

貴妃様の花に香の煙をかざしましたが煙は揺るがず…、本当にお美しくまるで眠っているようでしたと老婆は答える。

空海と白楽天が辞去した後、1人機織りを始めた老婆だったが、その機織り木の上に出現した黒猫は、白綾を織ったのはお前か!と言うと、機織り機の糸が一斉に老婆の首に巻き付く。

白楽天は、眠っていると思ったと言ってたな?金吾衛の陳玄礼とは陳雲樵の父親だと気づく。

首謀者は楊貴妃の死に関わった者に復讐しているのだ!と空海も気付き、慌てて老婆の家に駈け戻るが、すでに老婆は床に倒れて死亡していた。

来るべきじゃなかった…と白楽天は後悔する。 空海が、他に馬嵬駅(ばかいえき)のことを知る者は?と聞くと、倭国の人ですと白楽天が言うので、安倍仲麻呂卿?馬嵬駅(ばかいえき)にあの方も…と空海は驚く。

もう亡くなったはずだと空海が言うと、だから、初めて会うのは今でも側女の白玲だと白楽天が言うと、しっ!と空海は声をひそめさせる。

雨の中、白楽天が訪れた白玲(松坂慶子)は、そのお連れの方は?と聞くので、私は日本から来た空海と申しますと自己紹介する。 仲麻呂卿は当時日本に戻るつもりでしたと白玲は言う。

港に着いて考えを変えたのです、遠ざかる船を見送り、長安に戻って来たのですと言うので、何故ですか?と空海が聞くと、1人の女性の為です、その人の生死が分からず、その後知ったのでしょうが聞いてませんと白玲は答える。

日記をつけていましたが、燃やすように言われました。

慚愧に堪えられず、盗み読みしました… 愛していたのは私ではなかった…と白玲が言うので、今でも1人で長安に残っておられるのですね、さぞ寂しいでしょうと空海は同情し、日記を預けていただけませんか?懸念を解くことが出来るかもしれませんと頼む。

30年が過ぎましたが、冒頭の1句だけは今でも覚えています…と答えた白玲は哀しげだったが、日記を空海に托す。

それを読み始めた空海は、阿部仲麻呂が楊貴妃を深く愛していたことが書かれていることを知る。

(回想)30年前 あの方の誕生日に皆涌いていた。 楊貴妃はその美貌で民からも慕われていた。

そのお姿を遠くから眺めてるだけではいられない、大勢の民の1人としてではなく唯一無二の存在になりたいのだ…

阿部仲麻呂は「極楽の宴」に参加したときそう期待していた。

楊貴妃は大勢の民の前でブランコに乗ってその姿を披露していた。

「極楽の宴」はサーカスや幻術に満ちあふれたこの世の物とも思えないほど幻想的な空間だった。

阿部仲麻呂は、あまりの壮大な夢の世界に陶酔する。

この空間を操るのは黄鶴(リウ・ペイチー)と言う幻術師で、彼には丹龍(オウ・ハオ)、白龍(リウ・ハオラン)と言う2人の若き弟子がいた。 丹龍、白龍は2羽の鶴に変身して空間を飛び回ったりする。

そんな中、人工池の縁で酔いつぶれていたのが希代の詩人李白(シン・バイチン)だった。

そんな李白の側にやって来た高力士(ティアン・ユー)は、皇帝が詩をご所望だ、大唐で一番美しいお方のことを詠めと仰せだと依頼するが、李白は詩は詠めと言われて詠める物ではないと文句を言いが、俺の靴を脱がせたら詠んでやるなどと言い、目転がったまま片足を突き出したので高力士は怒り出す。

しかし李白は、妃様は客に尊卑の別はないと言っていたぞ!と言うので、やむを得ず靴を脱がしてやる。 その頃、白龍は、床に落ちていた簪を拾い喜んでいたが、そこに楊貴妃が通りかかり、あなた方、白鶴の少年ね?と話しかけて来る。

あなた方は黄鶴の子供?と聞かれると、丹龍はこいつは父が拾って来た者で、白龍と言う名は父が付けたんですが、借金のカタに売られたんですとバカにしたように教える。

すると楊貴妃は、私も両親を亡くし、叔父の家で育ったの、ずっと恩を返したいと思っていて…、あなたもそうでしょう?と白龍に話しかける。

李白は高力士を後ろに向かせ、その背中に詩を書いていた。

そして、出来た!と言うなり、筆を池に投げ捨ててしまう。

出来はどんなだ?と高力士が聞くと、自分で見ろ!俺はもう寝ると李白は答え本当に眠り始める。

(回想明け)今ではすっかり枯れ果てた池の跡を探してみた白楽天は、古びた筆を見つけ、本当だった!と感激する。

(回想)起きろ、貴妃様が会いに来られたのだ!と高力士が李白を起こす。

李白は脱いでいた片方の靴を背中に隠しながら楊貴妃に会うが、その絶世の美貌に圧倒される。

楊貴妃が、詩の礼を言いますと話しかけると、どんな?と李白はとぼけ、貴妃様の為に書いたのではないのだ、貴妃様を欺く訳にはいかんと正直に打ち明けるが、靴をお履きなさいと楊貴妃は優しく言い聞かせ、李白、あなたがいることは大唐の誇りですと言って立ち去る。

何と美しい!李白は楊貴妃の優しさも含め一目惚れする。

高力士の服の背中に書かれた詩を見た玄宗は、何故背中に書いた?と聞く。

褒美はいかほど?と高力士が聞くと、存分に与えよ、ただし長安からは追出せ、二度と呼ぶな!と玄宗は不機嫌そうに命じる。

そのよる、阿倍仲麻呂は、今宵想いを打ち明けようと決意し、楊貴妃の部屋を訪ねるが、そこには玄宗もいて、安倍、何しに来た?と聞かれる。

貴妃は決して1人にならん、1人で生まれ変わったとしても共に生きようぞと玄宗は言う。

宴の最後は安禄山(ワン・デイ)だった。

安禄山が謀反を起こすことを知っていながら、自ら太鼓を打って、安禄山の池の中の舞に合わせもてなした。

皇帝は自らを凌駕する者と考えていた。

(回想明け)白楽天と空海は小船に乗って目指す場所へ向かっていた。

(回想)安禄山は宴の10日後、蜂起した。

玄宗は長安を逃げ出し、そして10万人が逃げ出した。

お付きの者に囲まれ逃げる途中の玄宗は、突然立ち止まると手を引いていたお付きの者の頬を叩き、私はまだ皇帝だぞ!と言うなり長安へ戻ろうとする。

安禄山に対し金吾衛は馬嵬駅(ばかいえき)で叛乱した。

楊貴妃のせいだと高力士は迫った。

戸を全て開けるのだ!と玄宗は命じる。

楊国忠の首ですと盆に乗せてもって来た家臣は、陳玄礼は貴妃様の首もこの盆に乗せて差し出せと言っております、侍と金吾衛が何をするか分からないと…と玄宗に伝える。

そこにやって来た阿倍仲麻呂は、陛下!と呼びかけたので、どうした?と玄宗が聞くと、聞いて見るが良い、ムダだと思うがな…と言いながら黄鶴と共に座を外す。

仲麻呂は楊貴妃に、2人だけで話したいのですが?と話しかけると、もしや私を倭国へ連れて行きたいと言うのではあるまいな?と貴妃は見抜く。

私が逃げれば次は皇帝が殺されます、安倍、大唐の暮らしも良い、そろそろ帰国する時では?と楊貴妃が言うので、私は残ります!と応え仲麻呂は立ち去ろうとするが、待って!先日、話したいことがあると言ってましたね?まだ聞いてません、宴がお開きになるとき楊貴妃は予感していたのです。

国難を迎え見捨てられようとしていた。それで全ての愛を受け入れようとしていた。

愛の言葉を聞くことは二度と敵わないと分かりました。 それで十分…と楊貴妃は答える。

(回想明け)楊貴妃の一族は殺され、楊貴妃は寂しかった。

皇帝はそうするしかなかった、皇帝の対面を守るために… 楊貴妃は生きることも死ぬことも選ぶことが出来なかった…と空海は言う。

(回想)再び楊貴妃の前に姿を現した黄鶴は、陛下の命により貴妃様の命をお救いすることにしましたと言うと、丹龍、寝よと息子に命じる。

その部屋の寝台に丹龍が横になると、黄鶴はその首筋に鍼を打ち込み、これは脱出の法「尸解(しかい)の法」と言い、心の臓の鼓動も呼吸も全て止まります。

身体が老いることもない…と黄鶴が説明すると、玉環(楊貴妃の本名)、お前にだけはこのようなことはさせんと玄宗は楊貴妃に言い聞かせる。

そして、黄鶴が鍼を抜くと、死んだようだった丹龍が起き上がり、少しふらつきながらも立ち上がる。

目覚めたのか?と玄宗が驚くと、黄鶴は、止まっていた気脈が流れたせいですと丹龍がふらついていることの説明をし、これこそが貴妃様をお救いする唯一の方法…、世が平安になりましたら鍼を抜いてお迎えするのですと言う。

苦しまぬか?と玄宗が案じると、もちろんですと黄鶴は答える。

玉環、本当はこの国を差し出しても良い、しかしそれではお前と添い遂げることが出来ない…、生き埋めにはさせない、玉環、やってくれるか?と玄宗は楊貴妃に聞く。

(回想明け)やはり生き埋めにされたのか!と白楽天は悲しむ。

(回想)楊貴妃は黙って頷くと、玄宗が注いでやった酒をその場で飲み干し、自分の髪が入った小袋を玄宗に手渡す。

黄鶴は楊貴妃の首に針を刺し、貴妃の呼吸も鼓動も止まった。 まるで死んだように…と、その場で一部始終を見ていた阿倍仲麻呂は考えていた。

婆やに白綾を編ませろと玄宗は命じ、黄鶴は高力士様お願いしますと頼む。 玄宗は、最初から楊貴妃が生き返らないことを知ってやらせたのだった。

(回想明け)玄宗こそ真の幻想使いですと空海は指摘する。

「尸解(しかい)の法」とは楊貴妃を騙して殺す方法だったのか…と白楽天も気付くと、それしかなかった…、希望を抱かせて…、皇帝は貴妃を古い墓に埋めることにした、そして真実を知る者は全て殺された…と空海は答える。

阿倍仲麻呂の日記には、この日記を読む者よ、水を讃えた林を抜けると墓の入り口があると書かれてあった。

楊貴妃は最後まで茶番だとは気付いていなかった…と哀しげに白楽天が言うと、気付いていた…、茶番を最後まで演じたのだろうと空海は訂正する。

何故髪を遺したのだ?と白楽天が聞くと、それが貴妃の愛の証だったのでしょう。

貴妃の墓に聞くしかありません、本当の所どうなったのか知りたければ…と空海は良い、2人は目指す楊貴妃の墓にたどり着く。

墓の中に入る2人は何故門が開いている?誰か入ったんだ!と気付く。

石棺の所へ来た白楽天は、空海、動かしたようだ!と蓋がずれている!叫ぶ。 手伝え!押せ!と空海は白楽天に頼み、一緒に蓋をずらすが、中は空だった。

もしや誤解していたか?と空海は驚き、「尸解(しかい)の法」は本当だったのかも…と白楽天も疑問を抱き始める。

灯りをくれと頼んだ空海はそれを持って棺の中に自ら入り身を横たえると、蓋を閉めろ!と白楽天に命じる。

空海は棺の中、灯りで蓋の裏側を照らす。 中からの呼びかけを聞いた白楽天が懸命に蓋をずらし、空海は出て来るが、その目は涙に濡れていた。

空海は棺の蓋を地面に裏返しに落す。

そこには血の痕がついていた。

これは!と白楽天が驚くと、指先の血だよ、死んでなかった…逃げ出そうとして必死に蓋を…と空海が言うと、そうとも…と声がする。

黒猫だった。

棺の中で目覚めたのだよと猫が言うので、白龍だ!と空海は気付き、楊貴妃はどこにいる?と問いかける。

良く見抜いたな空海!あの方は茶番に気付いていた。しかし棺の中で目覚めた…、そして何時死ねるのか知らなかった…と黒猫は言う。

今、幻術を見せたのは白龍と丹龍か?と聞くと、事件の翌日、金吾衛たちは俺たちを追い払った。

(回想)白龍と丹龍は棺の中から楊貴妃の身体を抱き上げて外に出す。

(回想明け)まだ生きているのか?と白楽天が聞くと、亡くなった…、生きているかのように安らかなお顔のまま…と猫は言う。

(回想)師匠は言った、鍼を抜いたら生き返るって!と白龍が言うと、だから父さんは申し出た、皇帝と父さんの話を聞いたんだと丹龍は言う。

でもお前はあの時息してなかった!と白龍が、最初に丹龍に「尸解(しかい)の法」をかけられたときのことを言うと、2日ほどしか死は封じられない。

あの時、貴妃様は酒を飲んでいたから、俺が言われて酒に蠱毒を入れた…、父さんを裏切ることは出来ない!と丹龍は言う。

見殺しにするなんて!と白龍が怒ると、白龍、俺以外の誰がお前を理解できるんだ?と丹龍は聞く。

しかし白龍は、貴妃様はきっと目覚める!と言い張る。

(回想明け)丹龍は戻って来ることはなかったと空海は言う。

(回想)俺だって絶望していた、だから探し回った、二度と苦痛を学ばない術を…と言い、白龍も洞窟から立ち去る。

(回想明け)黒猫は空海の指に噛み付くが、それからどうなったのですか?肉を必要としていた…と空海は聞く。

そうだと黒猫は答える。

(回想)楊貴妃の右手に噛み付いた白龍は貴妃の蠱毒が乗り移り、白龍の身体も腐り始める。

俺が死んだら、楊貴妃様をお守りする者がいなくなる…と白龍は嘆いていたが、そこに黒猫が近づいて来る。

次の瞬間、白龍の魂が黒猫に乗り移り、白龍の肉体の方は倒れる。

猫になればもう二度と人間には戻れない。それも良かろう…、白龍の身体は洞窟の切っ先から滝壺に落下する。

(回想明け)黒猫は洞窟内の石のベッドの上に横たわっていた楊貴妃の死体の側に寄りそう。

俺に魂が猫の中に宿る、猫の記憶が俺の耳に聞こえて来た…、どこからともなく貴妃様が泣いている声が聞こえて来た…と言う。

(回想)黒猫は一旦洞窟から去る。

(回想明け)何故戻って来た?と聞くと、楊貴妃を守る為に戻って来たんだろう?と空海が聞くと、守っていたさ、だが腹が減った…、山には魚の目玉がないからな…と黒猫は答える。

(回想)玄宗に会いに言った黒猫はその顔に飛びかかり、両目を食らう。

奴はおのれは騙さない、長恨歌を同書くか分かったろう?と黒猫は言うので、もう十分復讐しただろう?と空海が問うと、足りんな、このくらいでは足りん…と黒猫は答える。

殺した最後は丹龍か?と空海が指摘すると、貴妃はどこにいる?、まだ生きているのか?と白楽天は聞く。

まだおのれを騙し続けるのですか?と空海は問う。

(回想)楊貴妃に黒猫が近づくと、楊貴妃の姿は消える。

(回想明け)石の台の上に横たわっていた楊貴妃も姿を消し、そこには楊貴妃の簪だけが残っていた。

黒猫は血を吐く。 そこに現れたのは、あのスイカの幻術をやっていた大道芸人瓜翁だった。

お前達だけか?と黒猫が聞くので、いや、もう1人来ると言うと、やがて天女姿の女人達が集まって来る。

「極楽の宴」の再現が始まる。

白龍が鶴に変化するのを阿倍仲麻呂が見ていた。

李白もいた。

白龍は、今夜、貴妃様とお話が出来るとうれしそうに言っていると、通路に落ちていた貴妃の簪を見つけ拾う。

そこに楊貴妃が近づいて来て、白鶴の少年ね?と話しかける。

丹龍、まだ幻術など…、この幻術を見せているのはお前だな?と黒猫が指摘する。

石の台の上に横たわる楊貴妃の姿を白楽天も猫は目撃する。 まだ生きている?と空海も驚く。

30年守って来た、誰にも触れさせん!ずっと側にいたんだ… 願いが叶った…と黒猫は言う。

空海は、白龍、貴妃はずっと前から抜け殻なんですと言い聞かす。

俺を殺す気かい、白龍? 黒猫は楊貴妃が横たわる石の第二昇ろうとあがき力つきる。

分かっていたよ、諦めきれなかっただけだ… 上空には鶴が舞っていた。

黒猫は絶命していた。

光の中に鶴の姿も掻き消える。

空海は黒猫の屍骸を楊貴妃の死体の横に置いてやる。

国へ帰るとその後言い出した空海に、密教の教えはどうする?と白楽天が聞くと、貴妃の生と死に密はある…と空海は答える。

長恨歌のことを空海が聞くと、あの詩を書いたのは白龍だ、僕じゃないと白楽天は言う。

それを聞いた空海は、凄いぞ君は!李白を超えた!と感心する。

大青龍寺の前に立つ空海 再び門を叩こうとしたとき、思いがけずあちらから門が開いた。

空海を迎えた僧が、恵果和尚がお待ちです、あなたはご存知だと…と言い、奥へ案内する。

そこに待っていた恵果大師は、空海かと声をかけて来る。

それはあの大道芸人の瓜翁だった。

丹龍、又会いましたね、苦痛を覚えない教えは見つかりましたか?と空海は微笑みかける。

白龍の魂が乗り移った黒猫を抱く楊貴妃の姿
 


 

 

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