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今年の恋

木下恵介監督が脚本も兼ねたラブコメ

冒頭から出て来る高校生役の田村正和さんのあどけない顔が衝撃。

劇中で、すかしやがってとか色男とからかわれているが、正直この頃の正和さんは坊や顔で、言う程イケメンと言う感じではないような気がする。

その正和さんが、アメリカとソ連の冷戦や原爆の灰などと劇中で発言しているのも、当時の世相を想像させ興味深い。

岡田茉莉子さんもきれいだが、20前後の頃に比べるとさすがに大人びて来ていると言うか、顔に若干生活疲れのようなものが出始めているようにも見え、70年代頃の岡田さんのイメージに近づいて来ている。

お相手役の吉田輝雄さんは、これが入社第一回作品とキャストロールに出て来るが、もちろん新東宝からの移籍後の話だし、既に「ママおうちが燃えてるの」(1961)と言う松竹作品に出ておられるのが気になるが、松竹での主演は初めてと言う意味かもしれない。

何と言う事はない日常ドラマなんだけど、岡田茉莉子さんの気の強いヒロイン役のキャラクターが生き生きと描かれており、三遊亭円遊さん演じるその無学な父親などのひょうひょうとした演技などもあり楽しい作品になっている。

浪花千栄子さんが母親役なのだが、この作品ではあまり生彩がない。

出番も少ないが、母親のキャラクターがあまり特長がないせいかもしれない。

むしろ、正和さんの家の婆やや役で出て来る東山千栄子さんの、母親代わりのふてぶてしさの方が愉快。

三木のり平さんも登場しているのだが、ゲスト出演以上の印象はない。

爆笑物と言う感じではなく、正月映画にしてはやや地味な印象ではあるが、肩の凝らない小品と言った所だと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1962年、松竹、木下恵介脚本+監督作品。

学校の裏山に上級生数名から呼び出された高校生の山田光(田村正和)と相川一郎(石川竜二)は、すかしてるんじゃねえ!制帽は持ってないのか?などと因縁をつけられたので、持っていますと言いながら慌てて制帽をかぶるが、脱げ!と言われた後、ぼこぼこに殴られてしまう。

山から下りて駅に向かう途中、手鏡で顔の傷を確認してみた一郎は、こんな顔じゃ電車にも乗れない、ハイヤーで帰ると言い出したので、光はハイヤーを呼んで来てやる事にする。

その後、1人電車に乗り込んだ光に、電話くれなかったじゃない?と同級生の女の子小池が馴れ馴れしく話しかけて来て、トン子、かっちゃんと喧嘩したんだって、あんたのせいよなどとつまらない事を話しかけて来たので、次、降りるんだろう?と光が聞くと、横浜まで行くわなどと女の子は言い出したので、俺は憂鬱だって言ってるじゃないか!と光は迷惑がる。

横浜で電車を降りた光るに小池は、さよなら!今晩電話をかけるわね!などと一方的に言って別れる。

渋谷行きの各駅電車を待っていた光は、すかしてるじゃないか?お坊ちゃんだろう?電車賃貸してくれよなどと2人の不良に絡まれたので、帰りだから持ってないよ、100円しかないよと言い、100円硬貨を差し出すと不良はしけてやんのなどと文句を言いながらもそれを取って去って行く。

しかし、乗り込んだ各駅の中でもさっきの小池が乗り込んで来て、トン子ったらかっちゃんと喧嘩したんだって!原因はあなたのせいよ!と又同じことを言うので、少し黙ってろよ!と光は怒る。

自宅のある駅に降りた光だったが、駅前にたむろしていた不良たちから色男!などとからかわれたので無視して立ち去ろうとすると、いきなり殴られて倒れてしまう。

帰宅すると鍵がかかっているのでチャイムを鳴らし、女中の葉子(堀真奈美)がドアを開けると、帰る頃になったら開けとけよ!と光は文句を言いながら台所に入って来る。

兄さんは?と聞くと、婆やのもと子(東山千栄子)はまだですと言い、パパは?と聞くと今夜は遅いですなどと言うので、この家は化け物屋敷だ!などと光は悪態をつく。

そこに電話がかかって来て、それに出たもと子が小池さんですと言いながら光に受話器を渡すと、うるさいよ、お前は!さっき別れたばっかりじゃないか!と苛立たしそうに電話を切り、こんな電話に出るな!ともと子に文句を言う。

しかしもと子は、ステーキで元気出して下さい、松坂牛を頂きましたからなどと言い、又電話がかかって来たので、いませんよと言って切ってしまう。

誰だった?と光が聞くと、相川さんですともと子が言うので、バカ!切る奴があるか!ともと子を叱り、自分で冴川の家に電話をかけ直している所へ、光の兄で大学院生の正(吉田輝雄)が帰って来る。

光は電話に出た一郎に、今日は散々だったよ、上級生の奴らそろそろ卒業だろう?それまで後4ヶ月あるだろう?その間に腕を上げてやっつけるんだ!お前、バスケットなんか女の子みたいなのを辞めろ、俺もゴルフ部辞めるから…と伝える。

翌日から光ると一郎は、ボクシングジムで練習を始める。

しかし、それを知った上級生たちから又裏山に呼び出された光ると一郎は、何、ボクシングなんか習ってるんだ?腕を上げて俺たちに仕返ししようと言うのか?とからかわれたので、2人の大勢じゃ卑怯じゃないか、1対1で来い!と光が抗議すると、上級生のリーダーが光の相手をする事になり、一平の相手も指命する。

結果、またもや光と一郎はこてんぱんにやられてしまう。

またもやハイヤーで帰宅した一郎だったが、さっさと自分の部屋に上がって行ったので、その音に気付いた相川美加子(岡田茉莉子)は、一郎ちゃん?一郎ちゃんは?と台所に探しに来た姉の女中の茂子(若水ヤエ子)に聞くが、まだお帰りになりませんなどと言うので、ぼんやりしないでよと美加子は注意する。

一郎の部屋に入ると一郎の顔の傷に気付いた美加子は、どうしたの?喧嘩したの?殴られたんでしょう?ボクシングなんかするからよ、バスケットを辞めて…、あんたなんてボクシングって柄じゃないのよと言いながら、下に降ろして、傷の手当をしようと薬箱を開けるが赤チンが見当たらない。

赤チンは?と繁子に聞くと、もう全部使ってしまいました、水虫に…などと言いながら、自分の足を見せながら、私、胸にジーンと来たいわなどと意味不明なことを言うので、赤チン買って来て!と美加子は頼む。

繁子が出かけると、あんた、友達が悪いのよと説教すると、山田なんか一番良い方だよなどと一郎が言い返して来たので、ボクシングなんて与太者や愚連隊がやる事じゃない!と美加子は言う。

すると、イギリス発祥だぜと又しても一郎が反論するので、海賊なんかもイギリスよ!と美加子は言い返す。

同じ頃、光も正から、友達って料理屋の息子だろう?何だってボクシングなんかやってるんだ?と説教されていたので、アメリカとソ連だってやってるじゃない!力には力さ!と光は反論していた。

そんな話を横で聞いていたもと子は、正さんも大学までは良かったんですけど、大学院になったらガタが来て大ガタですよ、お父さんは社長さんなんですから…と口を挟んで来る。

そこに又電話がかかって来たので、苛立たしそうに電話に出たもと子は、彼女からですよ!と言いながら受話器を正に向ける。

正が電話に出ると、背後で、うるさいよ!と言う光に対して、うるさいですよ、お母さんの代わりなんですから!あんたたちを赤ん坊の頃から育てたんだから!ともと子が言い返すので、正は電話が聞き取れないので、うるさいよ!と怒鳴りつける。

正は広瀬道子(峯京子)を連れ、料亭「愛川」にやって来る。

周囲の客の目を気にし、二階へ行かない?と誘う道子に、二階に行くと深刻になる、ここで良いと一階のテーブル席に陣取った正は、私が縁談を断ったらどうしてくれる?私にとっては真剣よ!などと詰め寄って来る道子を受け流しながら、厨房の方をちらちら見て、一郎の姉の美加子、父親で店の主人一作(三遊亭円遊)、母で女将のお絞(浪花千栄子)の姿を、応対した女店員の菊ちゃん(町田祥子)に聞きながら確認する。

一作が、最近の客は酒ばかり飲んで料理なんか味も分かりゃしないなどと文句を言っているのが聞こえたので、おっかなくて飲んでられないよととぼけた正は二階の座敷に道子を誘う。

道子は、あの人の顔を見たくて二階にしたんでしょう!と下で正が見とれていた美加子の事を当てこするが、はたして正は、きれいな人がいるな…と感心したように言う。

道子はそんな正に苛立ったように、私がこんな事を聞くのもあなたが好きだからよと言いながらウィンクして来るが、そこへビールを持って美加子が入って来たので、つい正は正座してしまう。 その態度の変化に気付いた道子は面白くなさそうにタバコを吸い始める。

美加子が正にビールを注いでいる時、菊ちゃんがやって来て、今一郎さんから電話がありまして、今夜はお友達の家に泊まるんだとかと美加子に伝えて行く。

それを聞いた美加子は、又あんな不良みたいな家に!と機嫌を悪くし、困るんですよ、近頃の高校生と来たら…と、目の前にいる正がその悪友の兄とも知らず話しかける。

そんな美加子に道子は、ビールをじゃんじゃん持って来て!料理の味なんかどうでも良いから!などと嫌みを言って部屋から追出すと、君、あんな事言っちゃ失礼じゃないか!と怒る正に、きれいな人だとすぐ脂下がっちゃうんだから!と睨みつける。

そんな道子の態度に飽きた正が、お別れの乾杯だ!とコップを持ち上げると、いきなり道子は正の顔にビールを浴びせかけ、手を握ったじゃない!軽井沢の林の中で!などと過去の話を恨みがましく始めたので、握って来たのは君の方だと正が反論すると、あなたって、私たちの思い出まで!と怒り出し、美加子がビールを持って来て、びしょぬれになった正を見て驚くと、この人の顔を見るためここに来ただけなんでしょう!私、帰ります!どうぞこの方とごゆっくり!と言い残しさっさと帰ってしまう。

2人の会話を聞いていた美加子は、山田さんとおっしゃるんですか?弟の悪友も山田って言うんです、困りますわよね…などと言うので、困っているのはお互い様だよと正はぼやく。

料亭の住居部屋に戻って来た美加子は光の家にいた一郎に電話を入れ、姉さん、又父兄会に呼ばれるの嫌だからねと説教をして居間に戻って来ると、父親の一作が一郎を庇うので、お父さんは中学も出てないんだから!と馬鹿にし、母親のお紋も、女と見たらあっちへふらふらっ!こっちへふらふらっ!と文句を言って来る。

すると一作は、だからお前みたいなのをもらったんだと言い返して来たので、どうせ私も無学文盲、ラブレターも書けなかったとお紋は平然と答える。

そんな「愛川」に横浜食料の常務山田良平(野々村潔)を連れて来た林(菅原通済)と言う客は、菊ちゃんだってなかなか良いなどとお世辞を言っていたが、そこに美加子が挨拶に来ると、良平はその美しさに驚く。

美加子の方は、良平の名が山田と聞くと、さっき帰ったお客さんも山田さんでしたよ、女の人とご一緒だったんですけどビールをかけられたんです、横浜方面の山田さんは油断できませんわ、不良が多くて…などと冗談半分に話してしまう。

光の部屋でジャズを聴きながら勉強している振りをしていた一郎は、正が帰宅して来た気配に気付き、光と一緒に挨拶に行く事にする。

食堂に座った正がもと子に、何か食べさせてよ、食べ損なったんだ…とぼやいている所に光と一緒に顔を出した一郎だったが、兄弟何人?と正が聞くと、姉さん1人ですと一郎は答え、うちの兄さんも1人だよと光が教える。

そんな正を見た一郎は、兄さん、ショーパンじゃないか、背が高くてハンサムだって言う事と光に話しかける。

バヤリースオレンジを飲み始めた光たちが勉強してるよと言うと、ジャズを聴きながらですからねともと子が嫌みを言って来たので、勉強部屋に2人は退散するが、光が飲み残したバヤリースを飲みながら、とにかくあの子の姉さんはきれいだ…と1人思い出したようにうっとりする。

その様子を見とがめたもと子は、何です?舌なんか出して!と正を注意する。

ある日、美加子は恐れていた通り、担任の杉本先生(三木のり平)から呼び出され一郎の事を注意される。

よりによって殴り合いをするなんて!とボクシングの事を当てこすった美加子が光の事を聞くと、山田さんの成績もあんまり良くないんですと、風邪気味だと言う杉本先生はハンカチ片手に教える。

どうして頭の良い子と友達にならないんでしょうか?とズバリ美加子が斬り込むと、私もこれ以上、どう指導したら良いのか…、教師としてもとっても辛いんです、鼻風邪は…などと杉本先生は弱気発言をする。

そこにやって来たのが、同じく杉本先生から呼び出された正で、正に気付いた美加子は、やっぱりあなたが!どうしてあの時おっしゃらなかったんです!弟の友達がどう言う学生か分かりましたわと怒ると、あんまりぼろくそに言われたんで言い出しにくかったんです…と正は答え、弟がどう言う学生か分かったってどう言う事です?と逆に聞くと、あなたの弟さんですもの!と吐き捨てて、美加子は不機嫌そうに教室を出て行ってしまう。

その後、帰宅した美加子は一郎相手に、1番になれとは言ってない、びりでも良いから付いて行きなさいと言っているだけなんだから…と説教していたが、聞いた一郎は、ありがたいとは思うけど、幸せかどうか分からないじゃないかと反論するので、ボクシングなんか辞めなさい!山田さんと付き合うのも止めなさい!と言い聞かせる。

そこへ一作がやって来て、富士屋の若旦那が嫁に欲しいと言って来たぞと美加子に教えると、何よ、この間駆け落ちしたばかりのくせに!と美加子は膨れる。

同じ頃、光の方も、学校から戻って来た正ともと子から説教をくらっていた。

兄さんはどうするの?と光が聞くと、社長が重役になるんですよと横からもと子が口を挟むので、意味ないよと光が反論すると、意味があるかどうかはどう生きたかって事です!婆やは自分で苦労して分かったんです!ともと子は言い聞かせようとするが、その時又電話がかかって来たので、それに出たもと子は、お留守です!と言って切ると、全くこう云うのってどう言う女の子かしらとぼやく。

正は、相川君の事だけど、しばらく付き合わない方が良いよと光に助言する。 そこへ又電話がかかって来たので、もと子は舌を出して無視するが、一旦切れた電話が又鳴り出したので、仕方なく出ると、旦那様ですか!ともと子は驚く。

町はクリスマスのデコレーションで溢れ、客がクラッカーなど鳴らし浮かれている喫茶店で紙の帽子をかぶって一郎とテーブルに座っていた光は、何がクリスマスだ!原爆の灰が降って来ると言うのに!などとつまらなそうに呟く。

その夜、ベッドで寝ていた正の部屋に入り込んで来た光は、兄さん一緒に寝かせてよ!お化けが出るかも!雨の音が聞こえるんだよ!などと子供のように言って正の布団の中に潜り込むが、その時、ドアが開いたので、2人とも驚くと、そこにいたのは髪も寝乱れたもと子で、2人とも何ふざけているの!と睨みつける。

ある日、「愛川」の「月の間」にやって来た良平は、京都の旅館のお嬢さんだと言う清子(高森和子)同伴だった。

美加子が挨拶すると、又菊ちゃんがやって来て、美加子さん、いつかの山田さんがお話があるんですってと伝えに来たので、それを聞いた良平は、不思議なえんだね、僕が来るとその山田さんと云う人が来るんだからと苦笑する。

正の部屋の前に来た美加子がコンパクトを出して化粧を確認していると、部屋から突然出て来た正は、目の前に美加子がいたのでのけぞり、後頭部を入り口にぶつけてしまうが、お手洗いはどこですか?と聞き、美加子が教える。

部屋に入った美加子は、そこのテーブルの置いてあったライターが女性物である事に気付き、こんな物持って!と眉をひそめる。

そこにトイレから正が戻って来たので、弟が大変お世話様になりまして…と美加子はわざとらしく礼を言う。

正は、弟は子供ですけど、不良ではありません、お宅だって、ご立派なご商売をやってらっしゃるとお世辞を言うと、弟は家に1人ですから、ボクシングに誘われては困るんです。

鼻ペシャになるじゃないですか!あなただってこの前は…とと美加子が言うので、君!僕が恋人と来て痴話げんかしてたとでも?と正がむっとすると、してたじゃないですか!それに、君、君って来やすく呼ばないで下さい、女中じゃないんですから!と美加子は怒る。

じゃあ、姉さんですか?と正が聞くと、もっと嫌です!と立ち上がった美加子はおビールですね?と確認し部屋を出ると、そこにビールを運んで来た菊ちゃんと鉢合わせになったので、月の間におビールね?と聞き、良平の部屋に持って行く。

ふすまを開けると、慌てて清子の手を握っていた手を引っ込めた良平の姿が見える。

良平が、菊ちゃんの話だと怪しい友達と弟さんが付き合っているんだって?と聞いて来たので、怪しいのはあちらの家庭なんですと美加子は答える。

良平は自分の名刺を取り出し、家に電話をかけて、今夜は泊まると伝えてくれと美加子に言うが、その名刺の電話番号を見た美加子は、あら?この電話番号…、なるほど…と思ったんですと良平にはごまかす。

正の部屋に戻って来た美加子は、この際だからはっきり話しますけど、今後家の弟とは付き合って欲しくありませんと申し出る。

自分の弟だけ良い子みたいに言うのはどうでしょうか?と正がやんわり抗議すると、お父さんとお兄さんにも呆れたんです、向こうの部屋にこんな方が来られていますと言い、美加子は今良平から受け取った名刺を差し出す。

それを見た正は驚き、向かいの「月の間」に入ると、良平の方も驚いたようで、何だ、お前か…と良平は唖然とする。

お父さん、やっぱり…と正も驚くと、これは不思議な縁どころじゃない、お前、ビールぶっかけられたそうじゃないか?と聞いた良平は、これ、家の長男と清子に紹介する。

清子は、初めましてと挨拶する。

帰宅した美加子は、一郎いないの?と呼びかけるが返事はなく、茂子も、どうでしょう?と相変わらず頼りないので、山田の家に電話をかけると、もと子が出て、お見えになっておりませんと言うので、ご主人様かは、東京にお泊まりになるそうですと伝言すると電話を切り、又2人で遊んでいるんだわ!と呟く。

その頃、光と一郎は、ボクシングの試合を見に来ていた。

美加子は、茂ちゃん!何か食べたくなったから、お茶漬け用意して、ノリ茶食べたいのと台所に声を掛けるが、毒ですよ、食べない方が良いですよ、そこにミカンがありますからなどと茂子は答え、ああ、眠かった!などと言うので、暇さえあれば居眠りして!これじゃ、泥棒入っても分からないじゃない!と美加子が叱ると、だから私も怖くて…などと茂子は答える。

テレビ見たら?と美加子が勧めると、目が悪くなるから見ないんですよと茂子は言う。

しかし美加子は、1人じゃつまらないわねなどと良いながらテレビのスイッチを入れると、ちょうどボクシング中継をやっていたので、興味がなくすぐにスイッチを切ってしまう。

すると茂子が、それは見たかった、男のモリモリしてるの好きなんです、お嬢さんも好きでしょう?どうして結婚なさらないんです?などと聞いて来たので、ろくなのいないのよと答えた美加子は、茂子の水虫が治ったと言うので、あんた、赤チン買いに言って水虫の薬くれたのねと察する。

一方、山田家では、泊まると連絡があった良平が正と一緒に帰ってきたのでもと子が驚くと、清子が急に熱海がよ言って良い出したので、水口園に行ってもらったんだと良平は説明する。

そこへ電話がかかって来たのでもと子が出ると、光さんですと言って良平に受話器を渡す。

どこで遊んでいるんだ?と良平が聞くと、止めてもらって良い?相川君の家…などと光が聞いて来たので、受話器を代わった正が、お前、絶対行くんじゃない!相川君の家なんか行っちゃ!と叱るが、光はすぐに電話を切ってしまう。

もと子がすぐに相川の家に電話をし、美加子が出ると、電話を代わった正が、今、弟から電話があって、お宅に止めてもらっても良いかと言って来ましたので、来たら追い返して下さって結構ですと伝える。

深夜0時、リビングに降りて来た良平は、まだ帰ってないのか?と光の事を案じるので、深夜にも関わらずもと子が美加子の家に電話を入れて確認するが、いいえ、家にはお見えになっていませんと言う。

一郎に代わると美加子が言うので、恐れ入りますともと子が礼を言い、受話器を正に渡すと、一郎は、お宅へ電話をした後むちゃくちゃだって怒ってました。

そして、急に帰ると言い出し、お金を貸してくれって…と言うので、幾ら貸したんです?と聞くと、300円ですと一郎は答える。

美加子の方も一郎に電話を代わらせると、光と一郎君の仲を引き裂いたのはあなたですからね、もしもの事があったらあなたのせいですよ!と正は強い口調で言って電話を切る。

もしもの事って何よ?と美加子は憮然とし、一郎に勉強しなさいと叱るが、この家で勉強できないよ、山田だってそうだよ、死にたくなったって仕方ないよなどと一郎は言い出す。

翌日、美加子は一郎と一緒に電車で横浜に向かう。

山田家では、電話に出たもと子が、旦那様、熱海からお電話ですと良平を呼ぶ。

電話に出た良平は、清ちゃんか?夕べは酷い目にあったよなどと話すが、そこへ玄関チャイムが鳴る。

もと子はベッドで寝ていた正に、相川さんが来られたと言って起こしに行くと、電話をしている良平の所へ戻り、光さんいるんですか?と聞く。 正はうれしそうに目覚める。

光は清子と一緒に水口園にいると言うので、夕べは眠れなかったんだぞと良平は優しく叱る。

ガウンを羽織った正は応接間で待っていた美加子と一郎に、一郎君分かったよ、今電話があったんだ、湯に入って悠々たるもんですよと教えると、お陰で頭くらくらしたんです、眠れなくて…と美加子も安堵する。

一郎が電話に出ると、パパが車で迎えに来るって言ったから、お前も一緒に来いよと光は誘う。

その後、正は自分の車で美加子を横浜駅まで送る事にするが、助手席に載った美加子は、一郎を熱海に行かせたのは良くなかったような気がします。

京都の方、いらっしゃるでしょう?などと清子の事を言うので、言えば良かったんですと答えた正は、横浜の駅に到着すると、そのまま方向転換して別方向へ走り出す。

どこへ行くんです?と美加子が慌てると、かーっとしたから、僕だってすっ飛ばしてどこへ行くか分かりませんよなどと正は答える。

不良!ごろつき!などと美加子は悪態を突き出すが、光の兄ですからと正は開き直り、工場の中に入り込み車を停める。

あなたと話すのにきれいな景色はいりませんと言い車を降りた正を、和服姿の美加子が追いかけて来て、大きな声を出すわよ!と脅すと、助けて!誰か来て!と大声を出したのは正の方だった。

驚いた美加子は、草履の片方が脱げてしまうが、又車に乗り込み、正も運転席に戻って、驚いて集まって来た工員の前から走り出す。

恥知らず!おっちょこちょい!と又美加子の悪態が始まるが、行き先は東京じゃありませんよ、熱海です、弟さんが心配なんでしょう?心配じゃないんですか?と正は言う。

お宅のお父さんは女の人の手を握っていましたから!と美加子は憮然とした表情で訴えるので、弟を縛っていれば良いんだ!愛情は原爆の灰と同じだ!などと正は言い出す。

やがて富士山が見えて来たので、一服しましょうか?と正が声を掛けると、お疲れならどうぞ!と後部座席の美加子は無関心そうに答える。

車を路肩に停め、運転席を降りた正がバルボーロを吸い出すと、私にも煙草下さい、滅多に吸わないんですと美加子が後部座席から声をかけて来たので煙草を渡し、女の人はやるせない時吸うんだそうですね?つまらないでしょう?毎日酔っぱらいばかり見てと正が言うと、儲かりますから良いんですなどと美加子はタバコを吸いながら答える。

すると正は、月は東に日は西にだな…、あなたは弟さん以外はみんな不良にしてしまうんですよとからかう。

再び車を走らせ、海が見えて来たので、良い海だな…、きれいな色をしている…と正が言うと、ちょっと止めて下さいと美加子が声をかけ、一緒に又外に降りる。

正は又タバコを吸い、美加子にも勧めるが、美加子はそれを断り、熱海が近づいて来たら、私、行かない方が良いような気がするんです。

可哀想になったんです。今日だけは目をつぶる事にしたのと言い出す。

今日まで弟ばかり見て何の為に騒いでいたのか分からないらしい…、そんな性格になって…、僕はその…、つまり…と美加子に何か告白しようとするが言葉が続かない。

美加子は帰りましょうと言い、車は横浜に戻る事にする。 途中、あんな所にお城が!と美加子が驚いたので、小田原城です、食事でもして行きますか?ウナギはどうです?と正が聞くと、私、ウナギはあんまり…と美加子は言うので、色っぽくないですねと正が言うと、あなたって、案外面白い方ねと美加子は笑う。

正の方は、弟のお陰で良いドライブが出来たと言い、やがて車を停めると、美加子は後部座席から助手席の方へ席を代わる。

2人はすっかり笑顔になり、楽しく会話をしながら、美加子の自宅まで帰って来る。

一作が小唄を歌っている所へ、お客様ですよ!と玄関から美加子の声が聞こえて来る。

弟がちょいちょいお世話になってるのと、挨拶に来たお紋に正を紹介した美加子は、何か取りましょう?何が食べたい?ウナギ?もっと色っぽいものにしましょうなどとうきうきしながら正に話しかける。

一作の所へ戻って来たお紋は、問題の一郎のお兄さん!と教えるが、脈はありそうか?と一作が聞くと、ダメよ、問題児の兄さんだものなどとお紋が茶を煎れながら言うので、兄さんなら良いじゃないか、お前は女心って物が分かっちゃいねえなと一作は言う。

自分の部屋に戻って来た美加子は三面鏡の前で化粧の確認をする。

一作が茶を持って居間に行くと、ちょうど寝っ転がった正が足をサイクリングのように漕いでいる所だったので互いに驚くが、慌てて正座した正が弟の評判が悪い物で…と恐縮すると、姉はやる事なす事おふくろそっくりだ!などと一作は美加子の事をからかい、美加子が部屋に戻って来ると、寝転んでごゆっくり!若い男と女は良いな〜などと言いながらうらやましそうに部屋を出て行ったので、パアなんですと美加子は正に言う。

お紋の元へ戻って来た一作は、一目惚れだよと笑顔で報告する。 私って取り越し苦労なんですと美加子が言うと、母が亡くなった時、僕は高1だったんですけど弟はまだ小学生で…、婆やが戻ってくれたんで助かったんです。弟の事を許して下さいと正は詫び、美加子と仲直りの印に握手をする。

そこに、今一郎から電話があって、京都へ行くって…と言いに来たので、お父さんどう言ったの?と美加子が聞くと、京都は良い所だから行けば良いと…と、そしたら電話が切れちゃった一作が言うので、そんなこと言ったら切っちゃうに決まってるでしょう、あの人たち手なんか握ってたのよ!と不潔そうに美加子が言うので、僕たちだって握手したじゃないですか!と正が憮然として言い返すと、取り消します!などと美加子は言い出す。

正が熱海の水口園に電話を入れてみると、既に出て行った後だと言うので、それを聞いた美加子は、人の承諾もなく!と怒り出す。

正は帰ると言い出し、車で帰るのなら銀座まで乗せて行って下さいなどと一作がのんきなことを言うので、美加子はくやしい!とヒステリー状態になる。

大晦日の「愛川」、美加子は日本髪姿で店に出ていたが、京都の一郎が送った速達の絵はがきを両親と見ていた。

一郎は字を書けるじゃねえか、字も書けねえ最低の俺だってこんな店出せたんだと一作が威張ると、1人でやったつもりかい?とお紋がからかうので、お前がいなけりゃとっくにビルヂング建ってるよ!暮の31日は忙しいよ!と一作は言い返す。

縁談だって降るようにあるんだ、色キ○ガイ、チンピラ、極道息子…と一作は、不機嫌な美加子もからかう。

その時、お紋が、美加子、京都から電話だよと言うので、美加子が電話に出る。

一郎ちゃん?絵はがき?届いたわよ、速達だもの…、除夜の鐘聞いて元旦に帰るの?と不機嫌そうだった美加子の声が、正に電話が代わると急によそ行きに変わったので、それを厨房で聞いていた一作が、声、変わったろう?とお紋に目配せする。

ライター?ございました…、そうだったんですか!大事にお預かりしますと美加子の表情が晴れやかになる。 今からですか?今夜忙しい物ですから…と美加子がもじもじし出したので、想いは内に、色外にってね…とお紋も一作に笑いかける。

そこへ、電話を終えた美加子が、このライター、お母さんの形見なんだって…と、正が美加子の家に忘れていたライターを手に報告する。

京都に行って考えてみなと一作が勧め、108つの鐘が煩悩を消してくれるよとお紋も言う。

そんなに邪魔なら行ってあげます!と怒ったように美加子が店を出て行ったので、行ってあげますだって…と一作は呆れ、好きな男の所へ行くのに…とお紋も苦笑する。

自宅に戻った美加子は、京都へ行くから支度して!と声を掛けるが、女中の茂子は返事もせず泣いているではないか。

どうしたの?と美加子が聞くと、私、もうダメなんです…などと座っている茂子のテーブルには茶菓子が置いてあったので、あの人来たのね?薬屋の…と美加子は察する。

私、もう哀しくて…、そのものズバリ言います、失恋したんですと茂子が言うので、本気だったの!と美加子が驚くと、ヨシオさん…、その人、ヨシオさんって言うんですけど、私もう胸がドキドキしちゃって、生まれて初めてのランデブーですから…と茂子は打ち明ける。

あんた、騙されたんでしょう!と美加子が指摘すると、ヨシオさん、結婚してくれって…、親父と結婚してくれれば助かるって…と茂子が言うので、ヨシオさんいくつ?と美加子が聞くと、20なんです、私姉さん女房型なんですなどと茂子はしれっと言う。

そんな茂子に、今年は今日1日よ!時間ないんだから!と美加子が急かすと、私もどっか行っちゃいたいですよと茂子が嘆くので、そんなにヨシオさんの事が好きだったの?と美加子は呆れる。

すると茂子は、新しい年になったら新しい人を探します、京都に良い人いませんか?などと言うので、いるわよと美加子が言うと、新しい年ですから、私にも1人連れて来て下さいなどと茂子は頼む。

電車で富士山の麓を走る電車の中の食堂車で美加子は持って来た正のライターを灯してみて微笑む。

京都の智恩院の境内では、年の瀬の人ごみの中、光と一郎は、はぐれちゃったよ!と戸惑っていた。

鐘撞き堂へ行ってみましょうと清子が勧める。

美加子と合流した正は、父は僕たちの為に女を家に入れませんでしたと明かすと、私たち日自由があるように、お父さんにも自由があるんですね、握手しましょうと美加子は吹っ切れたような表情になる。

その時、除夜の鐘が聞こえて来たので、鳴りましたわと美加子が言うと、新しい年だ!と正も微笑む。

金閣寺

三条河原

除夜の鐘から伸びた紐を一郎と引いていた光は、今年こそ上級生の奴らガーンだ!と息巻いていた。

清子が、そこにやって来た正と美加子に気付く。

2人も又、除夜の鐘から伸びた紐を仲良く引っ張る。

夜明けの情景
 


 

 

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